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特許7130168耐水紙、及び該耐水紙を用いた包装紙又は容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】耐水紙、及び該耐水紙を用いた包装紙又は容器
(51)【国際特許分類】
   D21H 27/00 20060101AFI20220826BHJP
   D21H 19/18 20060101ALI20220826BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20220826BHJP
   D21H 19/22 20060101ALI20220826BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220826BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220826BHJP
   B32B 29/00 20060101ALI20220826BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
D21H27/00 Z
D21H19/18
D21H19/20 A
D21H19/22
B32B27/00 H
B32B27/30 A
B32B27/30 B
B32B29/00
B65D65/40 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022517435
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2021035495
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2020166851
(32)【優先日】2020-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(72)【発明者】
【氏名】榎本 肇
(72)【発明者】
【氏名】菊池 浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 克則
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-204366(JP,A)
【文献】特開昭62-146139(JP,A)
【文献】特開2007-276194(JP,A)
【文献】実開昭59-160227(JP,U)
【文献】特開2006-045313(JP,A)
【文献】特開2000-073295(JP,A)
【文献】特開2002-275788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-D21J7/00
B32B1/00-43/00
C09D1/00-201/10
B65D65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、
前記紙基材の少なくとも一部に設けられた耐水コート層と、
前記耐水コート層を有する部分と異なる部分に設けられた ヒートシール性のコート層を有し、
前記耐水コート層は、スチレンアクリル系共重合体(A)とワックス(W2)を含有し、
前記スチレンアクリル系共重合体(A)はスチレン類と(メタ)アクリレートの共重合体及びスチレン類と(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体がコアシェル構造を形成し、ガラス転移温度が-30℃~10℃の範囲であることを特徴とする耐水紙。
【請求項2】
前記ヒートシール性のコート層は、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体とワックス(W1)を含有する請求項1に記載の耐水紙。
【請求項3】
前記ワックス(W1)が、脂肪酸アミドワックス及び/又はカルバナワックスである請求項2に記載の耐水紙。
【請求項4】
前記ワックス(W2)が、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、酸化ポリエチレン-ワックス、アマイドワックスから選ばれる少なくとも一つ以上のワックスである請求項1に記載に記載の耐水紙。
【請求項5】
前記耐水コート層は、水滴下後30分後の接触角が70℃以上である請求項1又は4に記載の耐水紙。
【請求項6】
前記スチレンアクリル系共重合体(A)中にワックス(W2)を含む請求項1又は4に記載の耐水紙。
【請求項7】
請求項1に記載の耐水紙を用いた包装体又は容器。
【請求項8】
請求項1に記載の耐水紙を用い、該耐水紙上に設けられたヒートシール性のコート層を貼り合わせて組み立てられた包装体又は容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水紙、及び該耐水紙を用いた包装紙又は容器に関する。
【背景技術】
【0002】
紙袋、紙箱、紙カップ等の紙包装材は、各種の用途・目的に応じて従来より使用されてきた。近年では、マイクロプラスチックを始めとする海洋プラスチックごみ問題がクローズアップされる中で、「再利用可能」「生分解性を有する」などの機能を持つ素材の一つとして、プラスチック材料に代わり、再生可能な資源である「木」を原料とする「紙」を使用する動きが高まってきている。
【0003】
現在広く普及している紙製容器の1つとして、飲料用やアイスクリーム、ヨーグルト等の容器として使用される紙カップ類がある。紙カップ類は、紙であるものの原料の一部にポリエチレンフィルムを使用することにより耐水性が付与されている。このような紙カップ類は、熱で溶かしたポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等をフィルム状に押し出したポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム等を紙基材に貼り合わせて得る。ポリエチレンフィルムが紙カップ成型時には、バーナーや熱風等の間接加熱下による熱溶融で接着剤の役目を果たし、且つ、ポリエチレンフィルムが紙カップ内側に存在するので紙基材が直接内容物と接触する事なく防水性、防湿性や強度が付与される。
【0004】
しかしながら貼り合わされたポリエチレンフィルムは、紙リサイクル時に紙リサイクル処理で使用するアルカリ溶液に溶解しないため物理的に除去する必要があり、リサイクル効率の低下につながる。またプラスチックごみの海洋への流出による海洋汚染が世界的に問題となっている。持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットとして「2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」という目標が掲げられ、サミット(主要国首脳会議)でも取り組み強化が合意されるなど世界的な重要テーマとなっている。従って、これらの用途に適用可能で且つ紙リサイクル効率を低下させない、ポリエチレンフィルム代替品が求められている。
【0005】
一方で、袋、箱、紙カップ等の成型時に接着剤の役目を果たすものとして、水性のヒートシール剤が知られている。例えば、特許文献1ではアンモニアまたはアミンで中和されたオレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体と、これ以外のオレフィン系熱可塑性樹脂とを特定比率で混合分散したエチレン-系樹脂水性分散液がヒートシール剤として適用できる旨の開示がなされている。
【0006】
また特許文献2では、不飽和カルボン酸単位、エチレン-系炭化水素、およびアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルとから構成されるポリオレフィン樹脂と、天然ワックス、および水性媒体を特定比率で含有する水性分散体がヒートシール剤として適用できる旨の開示がなされている。
【0007】
しかしこれらの文献には、ヒートシール強度や耐ブロッキング性といったいわゆるヒートシール剤としての性能しか開示されておらず、ポリエチレンフィルムの代替として所望される耐水性、防湿性、強度、及びリサイクル性については何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-7860号公報
【文献】特開2006-45313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、塗工するだけで紙に対し優れた耐水性及び防湿性を与えることが可能な耐水コート層を有し、プラスチックフィルムをラミネートした紙の代替となることから紙のリサイクル性を向上させることが可能な耐水紙、及び該耐水紙を用いた包装紙又は容器を提供することにある。また、本発明の塗工紙は、ヒートシール性のコート層を有することから、耐水性及び防湿性に加えてヒートシール機能を有する耐水紙、及び該耐水紙を用いた包装紙又は容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち本発明は、紙基材と、
前記紙基材の少なくとも一部に設けられた耐水コート層と、
前記耐水コート層を有する部分と異なる部分に設けられたヒートシール性のコート層を有する耐水紙を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記耐水紙を用いた包装体又は容器を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の耐水紙は、塗工するだけで紙に対し優れた耐水性と防湿性を与えることが可能な耐水コート層を有することから、耐水性と防湿性に優れると共に、リサイクル性を向上することができる。また、本発明の塗工紙は、ヒートシール性のコート層を有することから、耐水性及び防湿性に加えてヒートシール機能を有する耐水紙を実現できる。本発明の耐水紙に設けられた耐水層及びヒートシール性のコート層は、環境や人体への安全性が高い材料により形成できる。本発明の塗工紙は、プラスチックフィルムをラミネートした紙の代替として有用であり、該塗工紙を用いて包装体や容器に使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の塗工紙は、紙基材の少なくとも一部に設けられた耐水コート層と、耐水コート層を有する部分と異なる部分に設けられたヒートシール性のコート層を有するものである。
【0014】
尚、本発明において(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートの総称を表し、(メタ)アクリル酸はアクリル酸とメタクリル酸の総称を表す。
[ヒートシール性のコート層]
耐水紙において、ヒートシール性のコート層は、最終的な包装材や容器の形状及び用途に応じて紙基材上の適切な部分に設けられるが、例えば紙基材において、耐水コート層が設けられた面と反対の面にヒートシール性のコート層を設けることがより好ましい。
【0015】
本発明の耐水紙は、ヒートシール性のコート層を有することにより、ヒートシール機能を有すると共に、耐水性が向上する。また、ヒートシール部分を貼り合わせることにより、袋、箱等の種々の包装材を用途に合わせて作製でき、加工性が向上する。
【0016】
ヒートシール性のコート層は、公知のヒートシール塗工剤を用いることができるが、耐水性を向上させるためには、水性溶剤と、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体とワックス(W1)とを含有する水性ヒートシール剤(HS)を用いることが好ましい。 該水性ヒートシール剤(HS)は、紙容器等を製造する際のヒートシール剤として使用することができるし、シール(接着)部位以外の塗工部分は、紙に防水性を付与するコート剤としても機能する。
<水性ヒートシール剤(HS)>
水性ヒートシール剤(HS)は、水性溶剤と、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体とワックス(W1)を少なくとも含有する。
(水性溶剤)
水性ヒートシール剤HSに用いる水性溶剤としては、水、水に溶解する水溶性有機溶剤等が使用できる。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、前記水としては、紫外線照射または過酸化水素添加等によって滅菌された水を用いることが、水性顔料分散体やそれを使用したインク等を長期保存する場合に、カビまたはバクテリアの発生を防止することができるため好適である。
【0017】
水溶性有機溶剤としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールなどのジオール類;ラウリン酸プロピレングリコールなどのグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシル、カルビトールなどのジエチレングリコールエーテル類;プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、およびトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブなどのグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコールなどのアルコール類;スルホラン、エステル、ケトン、γ-ブチロラクトンなどのラクトン類、N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドンなどのラクタム類、グリセリンおよびそのポリアルキレンオキサイド付加物など、水性有機溶剤として知られる他の各種の溶剤などを挙げることができる。これらの水性有機溶剤は、単独または2種以上組み合わせて使用することができる。中でも水が最も好ましい。
(オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体)
水性ヒートシール剤HSで使用するオレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体としては、オレフィンと、α,β-不飽和カルボン酸、α,β-不飽和カルボン酸の金属塩、及び、α,β-不飽和カルボン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーとの共重合体等が挙げられる。具体的には、α,β-不飽和カルボン酸、α,β-不飽和カルボン酸の金属塩又はα,β-不飽和カルボン酸エステルとオレフィンとの共重合体であり、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、エチレン-アクリル酸-無水マレイン酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-メタクリル酸-無水マレイン酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、及びこれらの金属塩等が挙げられる。これらの共重合体は、単独であっても2種以上の混合物であってもよい。
【0018】
中でも、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体が好ましい。オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体としては、エチレン-とα,β-不飽和カルボン酸のランダム共重合体またはブロック共重合体が挙げられる。
【0019】
前記オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、4-メチル-1-ペンテン、ブタジエン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネンなどが挙げられる。中でもエチレンが好ましい。
前記α,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸が好適に用いられる。これらのα,β-不飽和カルボン酸は、単独あるいは2種以上混合して用いてもよい。
【0020】
前記α,β-不飽和カルボン酸エステルとしては、特に限定なく公知のアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステル、アルコキシアルキルエステル等を使用することができる。例えば具体的にはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸nプロピル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸nオクチル、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-メトキシエチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸nプロピル、メタクリル酸nブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸nへキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸nラウリル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-エトキシエチルなどのメタクリル酸エステルを例示することができる。これらは1種又は2種以上組合せて使用することができる。
【0021】
前記オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体の製造方法としては、公知の方法、例えば高温、高圧下のラジカル共重合により得ることができる。
【0022】
上記オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体中のα,β-不飽和カルボン酸の含有量は、8~24重量%、好ましくは18~23重量%であることが望ましい。α,β-不飽和カルボン酸の含有量が8重量%未満の場合、エチレン-単位に由来する非極性な性質のために水系分散媒に対する分散性に劣り、優れたオレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体樹脂水性分散液を得ることが難しくなるおそれがある。また、α,β-不飽和カルボン酸の含有量が24重量%を超える場合、得られた皮膜の耐ブロッキング性が悪くなるおそれがある。
水性ヒートシール剤HSで使用するオレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体は、水性溶剤に分散させた水分散体として使用する。水性溶剤に分散させる方法としては特に限定されず公知の方法で行えばよい。例えば界面活性剤で乳化し水性溶剤中に分散させる方法や、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体を塩基性化合物で中和したのち水性溶剤中に分散させる方法等が挙げられる。
【0023】
前記乳化させる際に使用する界面活性剤としては、公知の各種アニオン性、カチオン性、ノニオン性界面活性剤、もしくは各種水溶性高分子を適宜併用して使用することができる。
【0024】
また前記中和する際に使用する塩基性化合物としては、例えばアンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられる。これらの塩基性化合物は単独、あるいは2種以上併用して用いてもよい。
塩基性化合物による中和度は、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体が水性溶媒中で安定に存在する中和度であればよい。例えば該共重合体のカルボキシル基の30~100モル%であればよく、より好ましくは40~90モル%であることが望ましい。
【0025】
前記分散方法としては、公知の方法、例えばメディアを用いた分散装置として、ペイントシェーカー、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、アジテーターミル等を使用することができ、メディアを用いないものとして超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機等で分散することができる。
【0026】
本発明で使用するオレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体の水分散体の固形分は特に限定はなく、ヒートシール剤として適用させる際の所望される粘度や、ヒートシール剤適用後の乾燥条件、皮膜の膜厚等により適宜決定すればよい。一般には、固形分濃度が10~40質量%の範囲で適用することが多い。
(水性ヒートシール剤(HS)に用いるワックス(W1))
水性ヒートシール剤(HS)にワックス(W1)を添加することで耐ブロッキング性を保つ事ができる。前記ワックス(W1)としては、脂肪酸アミドワックス、カルバナワックス、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、みつろう、マイクロクリスタリンワックス、酸化ポリエチレン-ワックス、アマイドワックスなどのワックス、ヤシ油脂肪酸や大豆油脂肪酸などを挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし併用してもよい。
【0027】
中でも脂肪酸アミドワックス、カルバナワックス、フィッシャー・トロプシュワックスを使用することが好ましく、特に脂肪酸アミドワックス、カルバナワックスを使用することが好ましい。
【0028】
脂肪酸アミドワックスの具体例としては、例えば、ペラルゴン酸アミド、カプリン酸アミド、ウンデシル酸アミド、ラウリン酸アミド、トリデシル酸アミド、ミリスチン酸アミド、ペンタデシル酸アミド、パルミチン酸アミド、ヘプタデシル酸アミド、ステアリン酸アミド、ノナデカン酸アミド、アラキン酸アミド、ベヘン酸アミド、リグノセリン酸アミド、オレイン酸アミド、セトレイン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、これらの混合物及び動植物油脂脂肪酸アミド等が挙げられる。
前記カルバナワックスの具体例としてはMICROKLEAR 418(Micro Powders,Inc.社製)、精製カルナバワックス1号粉末(日本ワックス株式会社)等が挙げられる。
【0029】
前記ワックス(W1)の配合量は、ワックス(W1)の総量が水性ヒートシール剤(HS)の固形分100質量%全量に対し1.5~20質量%であることが好ましい。ワックス(W1)の総量が水性ヒートシール剤(HS)の固形分100%全量に対し3質量%以上であれば耐ブロッキング性を保持できる傾向にあり、ワックス(W1)の総量が水性ヒートシール剤(HS)の固形分100%全量に対し15質量%以下であればヒートシール性が保持できる傾向にある。
【0030】
前記ワックス(W1)のうち、前記脂肪酸アミドワックスと前記カルバナワックスとを併用すると、耐ブロッキング性が更に向上しより好ましい。併用する場合、その比率には特に限定はないが好ましくは、脂肪酸アミドワックス:前記カルバナワックス=1:1~1:10の範囲が好ましく、1:1~1:5の範囲がなお好ましい。
【0031】
前記ワックス(W1)は、前記オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体の水分散体に直接添加し混合分散させてもよいし、前記オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体を水性溶剤に分散させる際に同時に添加し混合分散させてもよい。分散方法は前述の前記オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体の水性溶剤への分散方法で使用する方法を適宜用いることができる。
【0032】
また複数種のワックス(W1)を併用する際には、複数種のワックス(W1)を同時に添加してもよいし、複数の工程に分けて添加してもよい。例えば第一のワックス(W1)を前記オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体の水性溶剤に分散させる際に加えた後、第二のワックス(W1)を、得られた第一のワックス(W1)と前記オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体との水性分散液に更に追加する方法で、水性ヒートシール剤(HS)を得ることができる。
【0033】
水性ヒートシール剤(HS)は、本発明の目的を阻害しない範囲において前記成分の他に、シリカ、アルミナ、消泡剤、粘度調整剤、レベリング剤、粘着性付与剤、防腐剤、抗菌剤、防錆剤、酸化防止剤、シリコーンオイル等の添加剤が配合されていてもよい。
また、水性ヒートシール剤(HS)では、各種コーターを使用してコーティングする際に泡立つことを防止するため、ポリマー系消泡剤、シリコン系消泡剤、フッ素系消泡剤が好ましく使用される。これら消泡剤としては乳化分散型及び可溶化型などいずれも使用できる。中でもポリマー系消泡剤が好ましい。前記消泡剤の添加量としては、水性ヒートシール剤全量の0.005重量%~0.1重量%が好ましい。
【0034】
水性ヒートシール剤(HS)は、袋、箱等の紙包装材や紙容器を製造する際のヒートシール剤として使用することができるし、シール(接着)部位以外の塗工部分は、紙に防水性を付与するコート剤として機能する。
<ヒートシール性のコート層の製造方法>
ヒートシールのコート層は、公知のヒートシール塗工剤あるいはヒートシール剤(HS)を用いて、例えば、紙基材に塗布することにより設けられる。塗布する場合の塗工方法としては公知の方法が使用できる。例えばロールコーター、グラビアコーター、フレキソコーター、エアドクターコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、トランスファロールコーター、キスコーター、カーテンコーター、キャストコーター、スプレイコーター、ダイコーター、オフセット印刷機、スクリーン印刷機等を使用できる。また塗工後オーブン等で乾燥工程を設けてもよい。
水性ヒートシール剤(HS)を用いる場合、塗工後の固形分の膜厚としては所望の膜厚でよく、例えば食品用の紙容器に使用する場合は、2~12g/mの範囲であれば耐水性とヒートシール性を十分に得ることができる。中でも5~10g/mの範囲であることがより好ましい。
【0035】
水性ヒートシール剤(HS)は、紙基材上に水性ヒートシール剤を塗布した2つの部位を重ね合わせた状態で接着させる接着剤としての機能を有する。具体的には、紙基材の2つの部位のうち、少なくとも片方の部位(両方の部位であってもよい)に、本発明の水性ヒートシール剤を塗工後、加熱により軟化させる。水性ヒートシール剤はバーナーや熱風で加熱することにより容易に軟化し紙同士または紙と他素材とを接着させることができ、その後冷却することで接着部分が固化し紙同士または紙と他素材とを強固にシールすることができる。
【0036】
前記加熱方法としては、バーナー等の熱源、熱風、電熱、赤外線、電子線等の従来公知の手段を用いる事ができるが、具体的にはバーナーや熱風で加熱する方法や、成形の形によっては熱溶着シール法や超音波シール法、あるいは高周波シール法が好ましい。この時の加熱温度は200~500℃、加熱時間は0.1~3秒が好ましい。
【0037】
また、水性ヒートシール剤(HS)は、ヒートシールバー等の直接熱源と接触させて溶融化させる方法以外に、非接触の加熱であっても容易に加熱軟化し、且つ、熱源から離れてもある程度の時間ヒートシール機能が持続する。基材が紙の場合、直接熱源と接触させると紙が焦げる可能性があるが本発明のヒートシール剤は非接触の加熱でヒートシール機能が発現し且つその機能が持続することから、高速のラインスピードが要求される紙容器の工業生産向けヒートシール剤として特に有用である。
【0038】
水性ヒートシール剤(HS)を塗工し該塗工部位を加熱軟化させた後、該塗工部位と、もう1つの部位とを重ね合わせた状態で圧着させることにより、ヒートシール剤として使用できる。圧着方法としては特に限定なく、熱板方式、超音波シール、高周波シールの方法で行うことができる。もちろん、水性ヒートシール剤(HS)をヒートシールせずに紙用コート剤として使用してもよい。その場合は、前述の塗工方法で所望の膜厚となるように塗工した後、加熱乾燥、常温乾燥等の乾燥方法で乾燥させればよい。
[耐水コート層]
本発明の耐水紙は、紙基材上に耐水コート層を有する。該耐水コート層は、最終的な包装材や容器の形状及び用途に応じて紙基材上の適切な部分に設けられるが、前述のように、紙基材においてヒートシール性のコート層が設けられた部分と異なる部分に設けられていることが好ましく、ヒートシール性のコート層が設けられた面と反対の面に耐水コート層を有することがより好ましい。
【0039】
耐水コート層は、水性溶剤と、スチレンアクリル系共重合体(A)とワックス(W2)を含有する紙用の耐水性オーバーコーティング組成物(OCM)により形成されることが好ましい。
<耐水性オーバーコーティング組成物(OCM)>
耐水性オーバーコーティング組成物(OCM)は、水性溶剤と、スチレンアクリル系共重合体(A)とワックス(W2)を少なくとも含有する。
(水性溶剤)
水性溶剤としては、上述の水性ヒートシール剤(HS)に用いられる水性溶剤と同様のものを用いることができる。
(スチレンアクリル系共重合体(A))
スチレンアクリル系共重合体(A)は、スチレン類と(メタ)アクリレートの共重合体がコアシェル構造を形成していることが好ましく、スチレン類と(メタ)アクリレートとの共重合体、及びスチレン類と(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体がコアシェル構造を形成していることがより好ましい。
【0040】
スチレンアクリル共重合体(A)の構成成分として用いられるスチレン類は、スチレン、αメチルスチレン(o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレンのいずれかまたは混合物)、スチレンダイマー、スチレントリマー、スチレン誘導体(p-ジメチルシリルスチキシスチレン、p-tert-ブチルジメチルシロキシスチレン、p-tert-ブチルスチレン)等のスチレン骨格を有する重合性化合物である。スチレン類は、1種類であっても2種類以上であってもよい。中でも、スチレンを用いることが好ましく、2種類以上のスチレン類を用いる場合は、全スチレン類のうちスチレンの質量割合を最も多くする等、スチレンを主成分として用いることが好ましい。
【0041】
スチレンアクリル共重合体(A)の構成成分として用いられる(メタ)アクリレートとしては特に限定はなく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸iso-プロピル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸iso-ブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸iso-アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ラウリル、(メタ)アクリル酸n-トリデシル、(メタ)アクリル酸n-ステアリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4-tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピル、メタクリル酸ペンタフルオロプロピル、メタクリル酸オクタフルオロペンチル、メタクリル酸ペンタデカフルオロオクチル、メタクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリロニトリル、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール-ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリアルキレンオキサイド基含有(メタ)アクリル単量体等、汎用の(メタ)アクリレートを使用することが出来る。
【0042】
中でも、アクリレートを有するホモポリマーがより低いガラス転移温度を呈することから好ましく、炭素原子数1~20のアルキル基を有するアクリレートを主成分とすることが好ましく、炭素原子数1~12のアルキル基を有するアクリレートを主成分とすることが好ましい。このような炭素原子数1~12のアルキル基を有するアクリレートとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸iso-プロピル、アクリル酸アリル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸iso-ブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸n-アミル、アクリル酸iso-アミル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ラウリル等が挙げられる。本発明のスチレンアクリル共重合体(A)の構成成分として用いられる(メタ)アクリレートは、1種類であっても2種類以上であってもよい。
【0043】
スチレンアクリル共重合体(A)の構成成分として、スチレン類、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸以外の他の公知の重合性化合物を含有していてもよい。
【0044】
スチレンアクリル系共重合体(A)のコアシェル構造とは、「スチレン類と(メタ)アクリレートとの共重合体」が多く存在する領域と、「スチレン類と(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体」が多く存在する領域を有することにより、コアシェル構造を形成するものである。該コアシェル構造において、例えば、「スチレン類と(メタ)アクリレートとの共重合体」が多く存在する領域に「スチレン類と(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体」が存在していてもよいし、また、これらの共重合体が互いに重合していてもよい。水媒体中での安定性を高めるためには、酸性基を有する「スチレン類と(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体」がシェル成分となることが好ましいが、「スチレン類と(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体」の一部がコア部に存在していてもよい。
【0045】
スチレンアクリル系共重合体(A)中に後述するワックス(W2)を含有していてもよい。スチレンアクリル系共重合体(A)中にワックス(W2)を含有することにより、耐水性をより向上させることができる。ワックス(W2)は、コア部に存在していてもシェル部に存在していてもよい。スチレンアクリル系共重合体(A)の表面に存在していてもよい。
【0046】
スチレンアクリル系共重合体(A)において、「スチレン類と(メタ)アクリレートとの共重合体」と「スチレン類と(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体」の割合は、質量比で20:80~95:5の範囲が好ましく、30:70~92:8の範囲がより好ましく、40:60~90:10の範囲が最も好ましい。
【0047】
スチレン類と(メタ)アクリレートとの共重合体において、スチレン類と(メタ)アクリレートの割合は、質量比で20:80~80:20の範囲が好ましく、30:70~70:30の範囲がより好ましく、40:60~60:40の範囲が最も好ましい。
【0048】
スチレン類と(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体において、スチレン類の割合は10~90質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがより好ましく、30~70質量%であること最もが好ましい。また、スチレン類と(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体において、(メタ)アクリレートの割合は10~80質量%であることが好ましく、15~70質量%であることがより好ましく、20~60質量%であることが最も好ましい。また、スチレン類と(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体において、(メタ)アクリル酸の割合は10~70質量%であることが好ましく、15~60質量%であることがより好ましく、20~50質量%であることが最も好ましい。
【0049】
スチレンアクリル共重合体(A)において、スチレン類、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸以外の他の公知の重合性化合物を含有する場合は、スチレンアクリル共重合体(A)における他の重合性化合物の割合は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましい。
【0050】
スチレンアクリル共重合体(A)のガラス転移温度(以下Tgと称する場合がある)は、-30℃~10℃の範囲であり、好ましくは-25℃~5℃の範囲であり、より好ましくは-20℃~0℃の範囲である。本発明においてガラス転移温度は、示差走査熱量計による測定により得られるものである。
【0051】
スチレンアクリル共重合体(A)は公知の方法により製造することができる。例えば、シェルポリマーを形成するモノマー混合物を供給して、開始剤の存在下、このモノマー混合物を重合させてシェルポリマーを形成する工程(i)と、コアポリマーを形成するモノマー混合物を工程(i)のシェルポリマーに供給し、開始剤の存在下、このモノマー混合物を重合させてコアポリマーにシェルを形成する工程(ii)により得られる。また、コアポリマーを形成するモノマー混合物を供給して、開始剤の存在下、このモノマー混合物を重合させてコアポリマーを形成する工程(1)と、シェルポリマーを形成するモノマー混合物を工程(1)のコアポリマーに供給し、開始剤の存在下、このモノマー混合物を重合させてコアポリマーにシェルを形成する工程(2)により得られる。
【0052】
開始剤としては特に限定なく、乳化重合法等で使用される過酸化物、過硫酸塩、アゾ化合物、又はレドックス系、或いはこれらの混合物を使用すればよい。過酸化物としては例えば、過酸化水素、過酸化アンモニウム、過酸化ナトリウム、又は過酸化カリウム、t-ブチルペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、及びベンゼンペルオキシドが挙げられる。また過硫酸塩としては例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、又は過硫酸カリウムが挙げられる。またアゾ化合物としては例えば、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、及び4,4’-(4-シアノバレリン酸)が挙げられる。またレドックス系は酸化剤と還元剤とから成り、酸化剤としては例えば先に挙げたうちの1の過酸化物、過硫酸塩、若しくはアゾ化合物、又は塩化ナトリウム若しくは塩化カリウム、又は臭化ナトリウム若しくは臭化カリウムが挙げられる。還元剤としては例えばアスコルビン酸、グルコース、又はアンモニウム、硫酸水素ナトリウム若しくは硫酸水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム若しくは亜硫酸水素カリウム、ナトリウムチオスルフェート若しくはカリウムチオスルフェート、又は硫化ナトリウム若しくは硫化カリウム、又は鉄(II)アンモニウムスルフェートが挙げられる。
【0053】
中でも過硫酸塩、より好ましくは過硫酸アンモニウムが好ましい。
【0054】
前記モノマー混合物の重合は、例えば界面活性剤、連鎖移動剤、キレート剤等の添加剤の存在下で、例えば界面活性剤及び連鎖移動剤の存在下で行うことができる。これらの添加剤は、工程(i)及び/又は工程(ii)、工程(1)及び/又は工程(2)で使用する水性媒体に予め添加させておいてもよいし、工程(i)及び/又は工程(ii)、工程(1)及び/又は工程(2)で供給するモノマー混合物と混合させておいてもよい。
【0055】
中でも、スチレンアクリル共重合体(A)は、モノマー混合物の重合をワックス(W2)の存在下で行うことが好ましい。ワックス(W2)を、工程(i)及び/又は工程(ii)、工程(1)及び/又は工程(2)で使用する水性媒体に予め添加させておいてもよいし、工程(i)及び/又は工程(ii)、工程(1)及び/又は工程(2)で供給するモノマー混合物と混合させておくことにより、スチレンアクリル共重合体(A)中にワックス(W2)がとりこまれた状態のコアシェル構造が形成できる。
【0056】
界面活性剤としては特に限定されないが、例えば二ナトリウムドデシルジフェニルオキシド、ジスルホン酸塩等が挙げられる。また連鎖移動剤としても特に限定されないが、例えばα-メチルスチレン二量体、チオグリコール酸、亜リン酸水素ナトリウム、2-メルカプトエタノール、N-ドデシルメルカプタン、及びt-ドデシルメルカプタン等が挙げられる。キレート剤としては特に限定されないが、例えばエチレンジアミン四酢酸が挙げられる。
【0057】
また中和が必要な場合は、中和剤としてアンモニア、トリエチルアミン、アミノメチルプロパノール、モノエタノールアミン、ジエチルアミノエタノール、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム等の塩基類等を使用することができる。
(ワックス(W2))
耐水性オーバーコーティング組成物(OCM)は、ワックス(W2)を含有することにより、耐水性をより向上させることができる。ワックス(W2)は、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、酸化ポリエチレン-ワックス、アマイドワックスから選ばれる少なくとも一つ以上のワックスが好ましく、パラフィンワックス又はマイクロクリスタリンワックスがより好ましい。これらは単独で使用してもよいし併用してもよい。
ワックス(W2)の融点は、30℃~130℃の範囲であることが好ましく、50℃~100℃の範囲であることがより好ましい。
ワックス(W2)の配合量は、スチレンアクリル共重合体(A)100質量%に対して0.5~20質量%であることが好ましく、1~15質量%であることが好ましい。
【0058】
ワックス(W2)は、耐水コート層中に分散して存在していればよいが、上述のように、スチレンアクリル共重合体(A)のコア部及び/又はシェル部に存在することにより、スチレンアクリル共重合体(A)と一体化して存在することが好ましい。耐水コート層において、ワックス(W2)が、スチレンアクリル共重合体(A)中に含まれる形で存在するものと、スチレンアクリル共重合体(A)中に含まれずに存在するものとが混在していてもよい。
【0059】
ワックス(W2)は、スチレンアクリル共重合体(A)を含むエマルションに直接添加し混合分散させてもよいし、ワックス(W2)の分散体を作製した後、エマルジョンと混合させてもよい。分散方法としては、公知の方法、例えばメディアを用いた分散装置として、ペイントシェーカー、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、アジテーターミル等を使用することができ、メディアを用いないものとして超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機等で分散することができる。
【0060】
粉体のワックスを使用する場合は、ワックスを均一分散させるために、メディアを用いて練肉を行ったり、ワックスの分散体を作製した後配合を行ったりすることが好ましい。練肉方法は公知の方法で行うことができる。
また複数種のワックスを併用する際には、複数種のワックスを同時に添加してもよいし、複数の工程に分けて添加してもよい。
【0061】
スチレンアクリル系共重合体(A)中にワックス(W2)を含ませる場合は、上述のように、スチレンアクリル共重合体(A)を構成するモノマー混合物の重合を、ワックス(W2)の存在下で行うことができる。
(その他の添加剤)
耐水性オーバーコーティング組成物(OCM)は、本発明の目的を阻害しない範囲において前記成分の他に、更に、シリカ、アルミナ、ワックス、消泡剤、レベリング剤、粘着性付与剤、防腐剤、抗菌剤、防錆剤等の添加剤が配合されていてもよい。また、スチレンアクリル系共重合体(A)以外の他の樹脂が配合されていてもよい。
中でも、レベリング剤及び/又はワックスが更に配合されていることが好ましい。
更に配合されるワックスは、上記のワックス(W2)とは別で更に添加されるワックス(W3)である。ワックス(W3)を含有することにより、本発明の耐水性オーバーコーティングを塗布した塗工紙を積層した際の、耐ブロッキング性、スクラッチ性、滑り性を向上することができる。
【0062】
ワックス(W3)としては、脂肪酸アミドワックス、カルナバワックス、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、みつろう、マイクロクリスタリンワックス、酸化ポリエチレン-ワックス、アマイドワックスなどのワックスを挙げることができ、これらは単独で使用してもよいし併用してもよい。
中でも脂肪酸アミドワックス、カルナバワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックスを使用することが好ましく、特にカルナバワックス、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックスを使用することが好ましい。
脂肪酸アミドワックスの具体例としては、例えば、ペラルゴン酸アミド、カプリン酸アミド、ウンデシル酸アミド、ラウリン酸アミド、トリデシル酸アミド、ミリスチン酸アミド、ペンタデシル酸アミド、パルミチン酸アミド、ヘプタデシル酸アミド、ステアリン酸アミド、ノナデカン酸アミド、アラキン酸アミド、ベヘン酸アミド、リグノセリン酸アミド、オレイン酸アミド、セトレイン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、これらの混合物及び動植物油脂脂肪酸アミド等が挙げられる。
前記カルナバワックスの具体例としてはMICROKLEAR 418(Micro Powders,Inc.社製)、精製カルナバワックス1号粉末(日本ワックス株式会社)等が挙げられる。
【0063】
前記オレフィンワックスの具体例としては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスが挙げられ、例えばMPP-635VF(MicroPowders,Inc.)、MP-620VF XF(Micro Powders,Inc)、ケミパール W-400(三井化学(株)製)等が挙げられる。
【0064】
ワックス(W3)の配合量は、ワックス(W3)の総量が本発明の組成物中の固形分100質量%全量に対し0.3~10質量%であることが好ましい。ワックス(W3)の総量が本発明の組成物中の固形分100%全量に対し0.3質量%以上であれば耐ブロッキング性を保持できる傾向にあり、より好ましくは0.5質量%以上である。また、ワックス(W3)の総量が水性ヒートシール剤固形分100%全量に対し10質量%以下であれば滑り角が大きくなりすぎずないことから、作業性を良好に保つことができる傾向にあり、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。
また、ワックス(W3)の融点は、耐油性、耐熱性の観点から、80℃~130℃の範囲であることが好ましい。
【0065】
ワックス(W3)は、スチレンアクリル共重合体(A)を含む樹脂のエマルジョンに直接添加し混合分散させてもよいし、ワックスの分散体を作製した後、エマルジョンと混合させてもよい。耐ブロッキング性を向上させるために、ワックス(W3)はスチレンアクリル共重合体(A)中に取り込まれて存在するものではなく、耐水コート層の表面付近にも存在するように分散していることが好ましい。
【0066】
レベリング剤の種類は特に限定されないが、アセチレン系界面活性剤を用いることが好ましい。アセチレン系界面活性剤として具体的には、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3-ヘキシン-2,5-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール等が挙げられ
る。又、市販品としては、サーフィノール61、82、104(いずれも、エアープロダクツ社製)等のアルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤や、[0037] サーフィノール420、440、465、485、TG、2502、ダイノール604、607(いずれも、エアープロダクツ社製)、サーフィノールSE、MD-20、オルフィンE1004、E1010、PD-004、EXP4300、PD-501、PD-502、SPC(いずれも、日信化学工業(株)製)、アセチレノールEH、E40、E60、E81、E100、E200(いずれも、川研ファインケミカル(株)製)等のアルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤等が挙げられる。
【0067】
レベリング剤の添加量としては、紙用オーバーコーティング組成物全量の0.01重量%~0.1重量%が好ましい。
【0068】
ワックス(W3)とレベリング剤を併用することにより、レベリング性を維持しつつブロッキング性を向上できる。
【0069】
また、本発明の耐水コート層は、耐水性オーバーコーティング組成物(OCM)を使用して紙にコーティングする際に組成物が泡立つことを防止するため、ポリマー系消泡剤、シリコン系消泡剤、フッ素系消泡剤配合されていることが好ましい。これら消泡剤としては乳化分散型及び可溶化型などいずれも使用できる。中でもポリマー系消泡剤が好ましい。前記消泡剤の添加量としては、紙用オーバーコーティング組成物全量の0.005重量%~0.1重量%が好ましい。
<耐水コート層の形成方法>
本発明の耐水コート層は、スチレンアクリル系共重合体(A)とワックス(W2)と水性溶剤を少なくとも含有する耐水性オーバーコーティング組成物を用いて形成されることが好ましい。耐水コート層は、例えば、紙基材にコーティングすることにより紙基材上に設けられる。
【0070】
耐水性オーバーコーティング組成物(OCM)を紙基材上に塗布する場合の方法としては、公知の方法が使用できる。例えばコンマコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、ダイレクトグラビアコーター、リバースグラビアコーター、オフセットグラビアコーター、ロールキスコーター、リバースキスコーター、キスグラビアコーター、リバースキスグラビアコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、リップコーター、ディップコーター、ブレードコーター、ブラシコーター、カーテンコーター、ダイスロットコーター、オフセット印刷機、スクリーン印刷機等のいずれかもしくは二つ以上の塗工方法を組み合わせて用いることができる。
【0071】
また、紙基材を本発明の耐水性オーバーコーティング組成物に含浸させることにより、紙基材上に耐水コート層を設けてもよい。また塗工後オーブン等で乾燥工程を設けてもよい。
【0072】
塗工する際の耐水性オーバーコーティング組成物(OCM)の膜厚は、用途によるが、食品用紙容器に使用する場合は、例えば1~10g/mの範囲であれば、本発明の効果を十分に得ることができる。中でも2~6g/mの範囲であることがより好ましい。
【0073】
上記のようにして形成された耐水コート層は、優れた耐水性を有し、且つ、耐水性を維持することができる。本発明の耐水コート層は、水滴下後30分後の接触角が70度以上を維持しており、好ましくは75度以上であり、より好ましく80度以上であることが好ましい。また、本発明の耐水コート層は、水滴下後40分後の接触角が50度以上を維持しており、好ましくは60度以上であり、好ましくは70度以上であり、より好ましく75度以上であることが好ましい。接触角は、公知の接触角測定装置(例えば、協和界面化学(株)製の自動接触角測定装置等)を用いて容易に測定することが可能である。
【0074】
また、上記のようにして形成された耐水コート層は優れた防湿性を有し、且つ、防湿性を維持することができる。本発明の耐水コート層は、温度25℃、相対湿度50%RHの条件下で7日間保持したときの水蒸気透過量が、500g/m2・day以下であることが好ましく、300g/m2・day以下であることが好ましく、250g/m2・day以下であることが好ましく、200g/m2・day以下であることが好ましい。また、温度40度の条件下で7日間保持したときの水蒸気透過量が、1000g/m2・day以下であることが好ましく、600g/m2・day以下であることが好ましく、500g/m2・day以下であることが好ましく、400g/m2・day以下であることが好ましい。
【0075】
また、本発明の耐水コート層は耐摩擦性に優れる。
【0076】
上述した耐水性オーバーコーティング組成物(OCM)を紙基材に塗布して紙基材上に耐水コート層を設けることにより、耐水性、防湿性、リサイクル性を有する耐水紙を得ることができる。すなわち、本発明の耐水コート層は耐水性、防湿性、リサイクル性に優れていることから、ヒートシール性のコート層を設けずに、紙基材上に耐水性オーバーコーティング組成物を塗布するだけで、耐水紙として利用することができる。紙基材や塗工方法は、後述の耐水紙と同様である。
[耐水紙]
本発明の耐水紙は、紙基材上に上記した耐水コート層及びヒートシール性のコート層を少なくとも有する構成であり、使用後にそのままリサイクル可能である。
【0077】
紙基材としては、木材パルプ等の製紙用天然繊維を用いて公知の抄紙機にて製造されるが、その抄紙条件は特に規定されるものではない。製紙用天然繊維としては、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ等の木材パルプ、マニラ麻パルプ、サイザル麻パルプ、亜麻パルプ等の非木材パルプ、およびそれらのパルプに化学変性を施したパルプ等が挙げられる。パルプの種類としては、硫酸塩蒸解法、酸性・中性・アルカリ性亜硫酸塩蒸解法、ソーダ塩蒸解法等による化学パルプ、グランドパルプ、ケミグランドパルプ、サーモメカニカルパルプ等を使用することができる。また、市販の各種上質紙やコート紙、裏打ち紙、含浸紙、ボール紙や板紙などを用いることもできる。
【0078】
前記紙基材は、目的に応じ紙の種類、厚み等を逐次選択する事ができる。例えばバーガーラップであれば米坪対応20グラム/m程度、紙コップであれば米坪対応200~300グラム/m、紙皿、紙スプーン、紙マドラー等であれば米坪対応50~500グラム/mのカップ原紙等の食品用原紙が好ましい。これらの用紙は、リサイクル効率やコスト低減の観点から、ポリエチレン-フィルムやアルミ等をラミネートされていない事が好ましい。紙基材は、印刷層を有していてもよい。
[包装体又は容器]
本発明の耐水紙は、耐水性、防湿性に優れていることから耐水紙及び/又は防湿紙として利用できる。また、本発明の耐水紙を利用して、各種の包装体又は容器として利用できる。更に、ヒートシール性のコート層部分を利用してヒートシールすることにより、箱、袋、容器に加工することができる。
【0079】
包装体は、例えば、パッケージ用の袋、紙袋、紙箱、段ボール、ラップ紙、封筒、カップスリーブ、蓋等が挙げられる。容器としては、紙容器、紙皿、トレイ、カップホルダー等が挙げられる。本発明の耐水紙は、耐水性・防湿性を必要とする食品、雑貨、生活用品等に利用できるし、また、液体又は水分を含有する食品、雑貨、生活用品を包装するためにも使用することができる。例えば、紙コップ、カップ麺、各種飲料、アイスクリーム、プリン、ゼリー等のデザート用のカップ又は蓋、米菓、ポテトチップス、チョコレート菓子袋又は箱、ビスケット等のスナック菓子袋又は箱、ハンバーガーやホットドックのラップ紙、ピザ等の持ち帰り用容器、から揚げやポテト等のホットスナック用容器、納豆等の総菜を対象とするカップ類、米、雑穀を始めとする袋、等の食品用紙容器又包装材や、洗剤、サニタリー用品をはじめとする衛生品用の袋又は箱等が挙げられる。これらの用途に応じて、包装材又は容器の内側面に耐水コート層を有していてもよく、外側面に有していてもよく、両方に有していてもよい。
【0080】
また、本発明の耐水紙を、瓶や缶のラベル、養生用紙テープや紙ガムテープ等の紙テープ、本・雑誌等の書籍、ポスター、カレンダー等に利用することも好ましい。耐水コート層は、印刷層を有する紙基材のオーバーコート層として機能する。
【0081】
更に、耐水コート層とヒートシール性のコート層の両方を有する耐水紙を利用して、ヒートシール性のコート層部分をシールすることにより、袋・箱・ラッピング紙を成形できる。例えば、菓子等を包装するピロー形状の袋、封筒型の袋、百貨店用の袋、化粧箱、ピザやドーナツ等の持ち帰り用の袋又は箱、ハンバーガーやホットドック等を包装するヒートシール部を部分的に有する開放形のラップ紙、チューブ形の容器等が挙げられる。
【0082】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【実施例
【0083】
以下の実施例中の「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。
<スチレンアクリル系共重合体(A)の合成>
(製造例1)
窒素ガス置換した四つ口フラスコに、イソプロピルアルコールを100部仕込み、温度を80~82℃に上げた後、滴下ロートに仕込んだスチレン30部、2-エチルヘキシルアクリレート15部、(メタ)アクリル酸20部、メチルメタクリレート5部、過酸化ベンゾイル1部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、過酸化ベンゾイル0.5部を追加し、更に2時間反応させた。温度を40℃に下げ、ジメチルエタノールアミン、イオン交換水を添加した。その後、反応フラスコの温度を80~82℃に上げ、ストリッピングを行ない、最終的に固形分30%の水溶性樹脂を得た。
【0084】
上記で得た水溶性樹脂に、ワックス類(W2)としてパラフィンワックス(パラフィンワックス155、日本精蝋株式会社製)を2質量部を仕込み、攪拌してワックス分散体を作製した。続いて、ワックス分散体に、イオン交換水10部を反応フラスコに仕込み、温度を80℃~82℃に上げた後、過硫酸カリウムを2部添加し、スチレン30部、2-エチルヘキシルアクリレート24部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、過硫酸カリウム0.2部を添加し、2時間反応させた。このようにして得られたスチレンアクリル系共重合体の水分散体(A-1)の固形分は35%であり、ガラス転移点は-10℃であった。
【0085】
(製造例2)
スチレンアクリル系共重合体(A-1)の合成において、パラフィンワックスの代わりにマイクロクリスタリンワックス(Hi-Mic-1080、日本精蝋株式会社製)を添加した以外はスチレンアクリル系共重合体(A-1)の合成と同様にして、スチレンアクリル系共重合体の水分散体(A-2)を得た。水分散体(A-2)の固形分は35%であり、ガラス転移点は-10℃であった。
【0086】
<製造例3>
スチレンアクリル系共重合体(A)として、スチレン類と(メタ)アクリレートとの共重合体、及びスチレン類と(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体がコアシェル構造を形成し 、ガラス転移温度が-30℃~10℃の範囲である市販のスチレンアクリル系共重合体の水分散体(A-3)を用いた。水分散体(A-3)の固形分は40%であり、ガラス転移点は-21℃であった。
【0087】
<積層体の作成>
(参考例1~4)
上記の水分散体(A-1)~(A-3)を使用し、表1の組成に従って混合した組成物をディスパーにて十分攪拌し紙用オーバーコーティング組成物を調整した。該オーバーコーティング組成物を、未ざらしクラフト紙(大王製紙社製、坪量70g)に膜厚の厚みが6g/mになるように塗布し、乾燥機を用いて150℃にて20秒乾燥させ、実施例1~4の積層体をそれぞれ作製した。
【0088】
(比較例1)
オーバーコーティング組成物を塗布せず、実施例1~4で用いたクラフト紙をそのまま用いた。
【0089】
(比較例2)
工業用硝化綿13部、イソプロピルアルコール55部、酢酸エチル32部を含有する比較用溶剤系ニスを紙用オーバーコーティング組成物に用いた以外は参考例1~4と同様にして、比較例2の積層体を得た。
【0090】
(比較例3)
スチレンアクリル系樹脂28%、イソプロピルアルコール4部、イオン交換水68部を含有する比較用水性ニスを紙用オーバーコーティング組成物に用いた以外は参考例1~4と同様にして、比較例3の積層体を得た。
【0091】
<評価項目>
(耐水性)
水道水をスポイトに採取し、0.1mlを評価用の塗工紙試験片の耐水コート層を設けた面に滴下する。
水道水を滴下後、25℃にて1時間経過後、4時間経過後、5時間経過後、8時間経過後の各時間において、水道水を拭き取り、表面及び裏面を下記評価基準に従って目視で評価する。
○:表面に滴下の跡や、水による膨れがなく、裏面への浸透もない。
△:表面に滴下の跡があり水の浸透はあるものの、裏面への浸透はない。
×:表面に滴下の跡や、水による膨れがあり、裏面への浸透がある。
【0092】
(接触角)
水道水をスポイトに採取し、0.1mlを評価用の塗工紙試験片に滴下した直後と、3
【0093】
0分後及び40分後の接触角を測定した。接触角の測定には、協和界面化学株式会社製の自動接触角計を用いた。
【0094】
(耐ブロッキング性)
作製した耐水紙の塗工面と塗工面が接触するように重ね合わせ、10kgf/cm2の加重をかけ、40℃の環境下に48時間経時させ、取り出し後、塗工面と非塗工面の接着具合を、次の4段階で目視評価した。
(評価基準)
◎:全くブロッキングが見られない。
〇:部分的に僅かにブロッキングが見られる。
△:部分的にブロッキングが見られる。
×:全面に渡ってブロッキングが見られる。
【0095】
(滑り角)
作製した耐水紙の塗工面と塗工面が接触するように重ね合わせて、傾斜法により、塗工紙が滑り始める傾斜角を滑り角として測定した。滑り角の測定は滑り角傾斜測定装置(HEIDON社製)を用いて行った。なお、滑り角の値が小さすぎると重ねた時に荷崩れを起こしやすい。大きすぎると塗工物がスタックする可能性がある。そのため適度な滑角を有すると積層した状態の塗工紙から1枚ずつ塗工紙を取り出す等の扱いが容易となり、作業性が向上する。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
表中のワックス(W3)は、ケミパール W-400(三井化学(株)製)を使用した。
また、表中のレベリング剤は、サーフィノール420(日信化学工業(株)製)を使用した。
参考例1~4、及び比較例1~3より、耐水性オーバーコーティング組成物(OCM)を設けることにより、耐水性が向上する結果となった。また、参考例4より、ワックス(W3)を更に添加することにより、耐ブロッキング性が向上すると共に、滑り角が低下して作業性が向上した。
【0099】
(水蒸気透過性)
ステンレス製のカップを準備し、カップ中に水7gを入れてる。評価用の耐水紙を蜜蝋にてカップ上部を封印する。続いて、カップからはみ出した部分を切り落とし、サンプル瓶を作製したす。サンプル瓶の初期重量を測定し、表3に記載の温度、湿度下に保存して1日経過ごとにサンプル重量を測定し、蒸発した水分量を算出する。なお、40℃条件下において湿度は調整していない。
【0100】
水蒸気透過性の評価に用いた耐水紙は、参考例1の積層体と、比較例1のクラフト紙と、比較例4の積層体を用いた。比較例4の積層体は、実施例1において、組成物(OC-1)の代わりにコアシェル構造を有する市販のスチレンアクリル系共重合体を含有する水分散体(固形分30%)を用いた以外は参考例1と同様にして作製した積層体である。
【0101】
結果を表3に示す。
【0102】
【表3】
【0103】
参考例1、及び比較例1、2より、耐水性オーバーコーティング組成物(OCM)を設けることにより、水蒸気透過性が大幅に低下する結果となった。耐水性オーバーコーティング組成物(OCM)を設けることにより、防湿性を付与できることを確認した。
【0104】
<ヒートシール剤用のオレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体の製造方法>
(製造例4)
エチレン77.8部、アクリル酸エチル11.1部、アクリル酸11.2部を、定法により合成し、エチレンアクリル酸エチルアクリル酸共重合体を得た。
得られた共重合体の25部と、共重合体の酸価に対し中和率100%となるアンモニア、水性溶剤として水、及びワックスとして脂肪酸アミドワックス1.5部を仕込み、攪拌してオレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体と脂肪酸アミドワックスとの水分散体(H1)を得た。
【0105】
<水性ヒートシール剤の作製>
製造例3または製造例4で得た水分散体(H1)30部に水67部及びイソプロピルアルコール3部混合して、水性ヒートシール剤を調整した。
【0106】
<積層体の作成>
(実施例1~12)
表4~7に記載の紙基材を準備し、紙基材の一方の面に参考例1で用いた耐水性オーバーコーティング組成物を、膜厚の厚みが2g/mになるように塗布し、乾燥機を用いて150℃にて20秒乾燥させた。続いて、紙基材の他方の面に上記水性ヒートシール剤を膜厚の厚みが2g/mになるように塗布し、乾燥機を用いて100℃にて30秒乾燥させ、実施例5~10の積層体を作製した。
【0107】
同様にして、紙用オーバーコーティング組成物及び水性ヒートシール剤の膜厚の厚みが5g/mになるように塗布して実施例11~18の積層体を作製した。
【0108】
(比較例5~18)
実施例1~12において、紙用オーバーコーティング組成物を塗布しなかった以外は実施例1~12と同様にして、比較例5~18の積層体を作製した。
【0109】
<評価>
(ヒートシール性)
実施例5~18の積層体のヒートシール剤の塗工面と塗工面を重ね、温度80℃~140℃の範囲で加熱後、直ちに0.2MPa加圧、1秒密着条件下のヒートシール機を用いることにより、ヒートシール部を設けた。密着状況は、ヒートシール部を剥がすことにより、紙剥け、紙切れの発生状況から密着強度を評価した上で、完全密着するホットプレートの最低温度を調査した。
6:80℃で完全密着する。
5:90℃で完全密着する。
4:100℃で完全密着する。
3:110℃で完全密着する。
2:120℃で完全密着する。
1:130℃以上でも密着しない。
【0110】
(耐水性)
水道水をスポイトに採取し、0.1mlを評価用の塗工紙試験片の耐水コート層を設けた面に滴下する。滴下は、積層体に設けた山折り部、谷折り部、平面部、及びヒートシール性の評価方法でシートシールしたシール部分の各箇所に行った。水道水を滴下後、25℃にて1時間経過後、3時間経過後、5時間経過後、24時間経過後の各時間において、水道水を拭き取り、表面及び裏面を下記評価基準に従って目視で評価する。
○:表面に滴下の跡や、水による膨れがなく、裏面への浸透もない。
△:表面に滴下の跡があり水の浸透はあるものの、裏面への浸透はない。
×:表面に滴下の跡や、水による膨れがあり、裏面への浸透がある。
【0111】
(リサイクル性)
ヒートシール性の評価で作成した実施例1~12の塗工紙を3.0cm×5.0cmに断裁し、水酸化ナトリウム1質量%水溶液に入れ、ペイントシェーカー(浅田鉄工株式会社)で30分攪拌させた後の状態を確認したところ、紙が十分に離解し、フィルム状のものは確認されなかった。
一方、市販の紙コップを3.0cm×5.0cmに断裁し、同様の評価を行ったところ、フィルム状のものが残存していることが確認された。従って、実施例で得たポリエチレンフィルムがシート状に残ることが確認された。
従って実施例1~12の塗工紙は、紙リサイクル効率を低下させないことがわかる。
【0112】
実施例1~12、及び比較例5~18の各積層体の評価結果を以下の表に示す。表4,5は耐水オーバーコーティング組成物 (2g/m)、ヒートシール剤(2g/m)を塗布した結果、表6,7は耐水オーバーコーティング組成物 (5g/m)、ヒートシール剤(5g/m)を塗布した結果である。
【0113】
【表4】
【0114】
【表5】
【0115】
【表6】
【0116】
【表7】
【0117】
表中の紙基材は以下のものを使用した。
銀竹:未晒しの片艶クラフト紙(日本製紙(株)製、坪量50g/m
東海クラフト:未晒しのクラフト紙(新東海製紙(株)製、坪量50g/m
両更クラフト:両更未晒のクラフト紙(日本製紙(株)製、坪量50g/m
白銀(a):片艶クラフト紙(日本製紙(株)製、坪量24g/m
白銀(b):片艶クラフト紙(日本製紙(株)製、50g/m
キャピタルラップ:片艶クラフト紙(日本製紙(株)製、50g/m
【0118】
表4~7より、実施例の積層体は水の浸透が無く、優れた耐水性を有することが確認できた。山折り部、谷折り部、ヒートシール部のいずれにおいても水の浸透はなかった。また、耐水コート層とヒートシール剤の両方を塗工した場合にも、充分なヒートシール性を発現できることを確認できた。用紙によって僅かの差はあるが、ヒートシール剤を2g/m塗工においても110℃~120℃程度で高いシール強度を得られる。ヒートシール剤5g/m塗工においては、90℃の低温においても良好なシール強度を得られた。
【要約】
本発明は、紙基材と、紙基材の少なくとも一部に設けられた耐水コート層と、耐水コート層を有する部分と異なる部分に設けられたヒートシール性のコート層を有する耐水紙である。本発明により、塗工するだけで紙に対し優れた耐水性及び防湿性を与えることが可能な耐水コート層を有し、プラスチックフィルムをラミネートした紙の代替となることから紙のリサイクル性を向上させることが可能な耐水紙、及び該耐水紙を用いた包装紙又は容器を提供することにある。