(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】金型の補修方法および金型
(51)【国際特許分類】
B29C 33/74 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
B29C33/74
(21)【出願番号】P 2018131751
(22)【出願日】2018-07-11
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】516035471
【氏名又は名称】株式会社IBUKI
(74)【代理人】
【識別番号】100101982
【氏名又は名称】久米川 正光
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 剛
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-237656(JP,A)
【文献】特開2017-047447(JP,A)
【文献】特開2014-071312(JP,A)
【文献】特開2006-272565(JP,A)
【文献】特開2016-221641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の補修方法において、
金型における凹凸状の成形面に生じた損傷部を補修材で埋める第1のステップと、
前記補修材によって隆起した表面を、前記金型を新規に作成する際に用いられた第1のエンドミルよりも径が小さい第2のエンドミルで切削することによって、前記凹凸状の成形面を再生する第2のステップと
を有することを特徴とする金型の補修方法。
【請求項2】
前記第2のステップは、
前記第2のエンドミルが取り付けられる主軸の回転振れを計測するステップと、
前記計測された回転振れに応じて、前記第2のエンドミルの径を選択するステップと
を有することを特徴とする請求項1に記載された金型の補修方法。
【請求項3】
前記第2のステップは、
前記第2のエンドミルが取り付けられる主軸の回転振れを計測するステップと、
前記計測された回転振れが所定のしきい値以下の場合、前記第2のエンドミルの使用を許可するステップと
を有することを特徴とする請求項1に記載された金型の補修方法。
【請求項4】
前記計測された回転振れが所定のしきい値よりも大きい場合、前記第2のエンドミルの使用を許可しないステップと
を有することを特徴とする請求項3に記載された金型の補修方法。
【請求項5】
前記凹凸状の成形面は、成形品の表面を光彩模様で加飾するための凹凸模様を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載された金型の補修方法。
【請求項6】
凹凸状の成形面を有する金型において、
前記成形面の補修が行われていない非補修領域と、
前記成形面上の損傷を補修した部位を含む補修領域とを有し、
前記補修領域の表面におけるカッターパス形状は、前記非補修領域の表面におけるカッターパス形状よりも小さいことを特徴とする金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の補修方法および金型に係り、特に、金型における凹凸を有する成形面の再生に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、金型の平坦面に生じた損傷部位を補修するプレス金型の表面補修方法が開示されている。具体的には、まず、プレス金型の平坦面に存在する凹状の損傷部位に対して、これよりも広い領域で孔開けを行うことによって、平坦面に加工孔が形成される。つぎに、この加工孔に打込み部材を打ち込むことによって、加工孔が塞がれる。そして、平坦面から突出した打ち込み部材(突出部)をグラインダー等で削ることによって、金型の平坦面が再生される。また、金型の補修方法に関するものではないが、特許文献2には、エンドミルの送り方向に対する切削抵抗の向きを一定にし、かつ、エンドミルを往復させる際の切削抵抗を等しくすることによって、高精度な金型を作成する金型の切削加工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-47447号公報
【文献】特開平11-347823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、日本国内で作成された金型は、開発途上国を含む海外の工場で使用されることが多い。現地での使用によって金型の表面に傷などの損傷が生じた場合、コストや迅速性の観点から、補修のために日本に移送することは現実的ではなく、通常、現場にて迅速に補修しなければならない。しかしながら、現地に存在する加工機を用いて補修する場合、この金型の新規作成時のものと同一径のエンドミルを用いているにも関わらず、金型の成形面を精度良く補修できない事態が生じることがあった。この問題は、特に、ダイヤブロック柄やハニカム柄といった光彩模様のパターンで表面が加飾された成形品において顕著であり、補修箇所において、目視できる程の光彩模様の不鮮明さが生じ得る。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、金型における凹凸状の成形面を精度良く補修することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決すべく、第1の発明は、第1および第2のステップを有する金型の補修方法を提供する。第1のステップでは、金型における凹凸状の成形面に生じた損傷部を補修材で埋める。第2のステップでは、補修材によって隆起した表面を、金型を新規に作成する際に用いられた第1のエンドミルよりも径が小さい第2のエンドミルで切削することによって、凹凸状の成形面を再生する。
【0007】
ここで、第1の発明において、上記第2のステップは、第2のエンドミルが取り付けられる主軸の回転振れを検出するステップと、検出された回転振れに応じて、第2のエンドミルの径を選択するステップとを有していてもよい。また、これに代えて、上記第2のステップは、第2のエンドミルが取り付けられる主軸の回転振れを検出するステップと、検出された回転振れが所定のしきい値以下の場合、第2のエンドミルの使用を許可するステップとを有していてもよい。その際、検出された回転振れが所定のしきい値よりも大きい場合、第2のエンドミルの使用を許可しないステップをさらに有していてもよい。また、第1の発明において、上記凹凸状の成形面は、成形品の表面を光彩模様で加飾するための凹凸模様を有することが好ましい。
【0008】
第2の発明は、凹凸状の成形面を有する金型を提供する。この金型は、成形面の補修が行われていない非補修領域と、成形面上の損傷を補修した部位を含む補修領域とを有する。ここで、補修領域の表面におけるカッターパス形状は、非補修領域の表面におけるカッターパス形状よりも小さい。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、金型の補修時には、金型の新規作成時に用いられた第1のエンドミルよりも径が小さい第2のエンドミルが用いられる。一般に、エンドミルが取り付けられる主軸の回転振れが増大するほど、エンドミルの見かけ上の径も大きくなるが、この増大分を見越して径の小さい第2のエンドミルを用いれば、回転振れに起因した切削精度の低下を軽減できる。その結果、補修時において、新規作成時よりも回転振れが大きな加工機を用いたとしても、表面の削り過ぎを抑制できるので、凹凸状の成形面を精度良く補修することが可能になる。
【0011】
また、第2の発明によれば、第1の発明に係る補修方法によって補修された金型であるか否かを検証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図5】金型の新規作成時と同一径のエンドミルを用いて補修する場合の説明図
【
図6】金型の新規作成時よりも小径のエンドミルを用いて補修する場合の説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本実施形態に係る金型の外観図である。この金型1は、ダイヤブロック柄やハニカム柄といった光彩模様で表面が加飾されたプラスチック成形品などを成形するために用いられる。金型1が備える成形面1aには、光彩模様を出現させる成型品側の凹凸を反転させた凹凸模様が形成されている。
【0014】
プレス装置に金型1を取り付けたり、これを取り外したりする際、あるいは、取り外した金型1を搬送する際、誤って金型1に物が当たったりすると、
図2に示すように、凹凸状の成形面1aが傷ついて、部分的に窪んだ損傷部1bが生じてしまうことがある。この場合、工場の生産ラインに遅れが生じないように、現場において、損傷した金型1を速やかに補修する必要がある。
【0015】
金型1の補修作業として、まず、
図3に示すように、成形面1aに生じた損傷部1bを補修材2で埋める。これによって、補修材2が盛られた表面は、周囲から隆起した状態になる。
【0016】
つぎに、
図4に示すように、補修材2によって隆起した表面をエンドミル3で切削し、隆起した表面を周囲と面一化する。これによって、成形面1bが再生される。ここで、金型1の補修時に用いられるエンドミル3の径R1は、この金型1を新規に作成する際に用いられたエンドミルの径R2よりも小さい。
【0017】
図5に示すように、金型1の新規作成時に用いられたエンドミルの径がR2であって、これと同一径のエンドミル3’を用いて補修を行う場合について考える。エンドミル3’が取り付けられる加工機の主軸には回転振れαが存在するため、回転時におけるエンドミル3’の見かけ上の径はR2+αとなる。金型1の新規作成時よりも回転振れが大きな加工機を用いて補修する場合、ワーストケースでは回転振れにαの差が生じる。その結果、ワーストケースでは、新規作成時に径がR2のボールミルで形成された成形面1aのプロファイルを、より大きな径(R2+α)のボールミルで切削することになり、成形面1bの領域Aを過度に切削してしまうことになる。このような過切削は、成形面1bの凹凸模様を転写した成型品の光彩模様にも如実に反映され、見栄えの悪化を招くので好ましくない。
【0018】
これに対して、
図6に示すように、金型1の新規作成時に用いられたエンドミルの径がR2であって、これよりも径が小さいR1のエンドミル3を用いて補修を行う場合について考える。この場合、主軸の回転振れによってエンドミル3の見かけ上の径はR1+αとなるが、これがR2以下であれば、上述した過切削の問題は生じない。すなわち、回転振れαを見越した上で、金型1の新規作成時よりも小径なエンドミル3を用いれば、成形面2の過切削を有効に抑制することができる。
【0019】
金型1の補修時における具体的な対応としては以下の2つが考えられる。第1に、測定器を用いて、エンドミル3が取り付けられる主軸の回転振れαを計測した上で、この回転振れαに応じて、エンドミル3の径を選択する。例えば、回転振れαが大きくなるほど、より小径なエンドミル3を選択するといった如くである。
【0020】
第2に、計測器によって計測された回転振れαが所定のしきい値(R2-R1)以下の場合、径がR1のエンドミル3の使用を許可し、これが所定のしきい値(R2-R1)よりも大きい場合、径がR1のエンドミル3の使用を許可しない(使用を禁止する。)。
【0021】
図7は、金型1における成形面1aの状態を示す拡大写真である。一般に、エンドミルの切削によって成形面1aを加工した場合、カッターパスに由来した螺旋状の切削痕(カッターパス形状)が生じる。この特性として、エンドミルが小径になるほど、カッターパス形状が小さくなって、成形面1aの表面の粗さも細かくなる傾向がある。
【0022】
この特性から、成形面1aにおける非補修領域および補修領域の双方の状態を比較することによって、上述した補修方法によって補修された金型であるか否かを判別することが可能となる。非補修領域は、成形面1aの補修が行われていない領域であり、補修領域は、成形面1a上の損傷を補修した部位を含む領域(損傷部位の周囲を含む。)である。具体的には、補修領域の表面に生じたカッターパス形状は、非補修領域の表面に生じたカッターパス形状よりも小さくなるので、このような状態が出現していることを以て、本補修方法によって補修された金型であると判断できる。また、補修領域における表面の粗さは、非補修領域における表面の粗さよりも細かくなるので、このような状態が出現していることを以て、本補修方法によって補修された金型であると判断できる。
【0023】
このように、本実施形態によれば、金型1の補修時には、金型1の新規作成時に用いられたものよりも径が小さいエンドミル3を用いる。一般に、エンドミル3が取り付けられる主軸の回転振れが増大するほど、エンドミル3の見かけ上の径も大きくなるが、この増大分を見越して小径なのエンドミル3を用いれば、回転振れに起因した切削精度の低下を軽減できる。その結果、補修時において、新規作成時よりも回転振れが大きな加工機を用いたとしても、表面の削り過ぎを抑制できるので、凹凸状の成形面1bを精度良く補修することが可能になる。
【0024】
また、本実施形態によれば、特に、ダイヤブロック柄やハニカム柄といった光彩模様のパターンで表面が加飾された成形品であっても、補修に起因して光彩模様の不鮮明さが生じることを有効に解消できる。
【0025】
さらに、本実施形態によれば、日本国内で作成された金型を海外の現地で補修する際、日本国内ほどの高精度な加工機を備えていなくても、迅速かつ補修精度の高い方法として広く展開することができる。
【0026】
なお、上述した実施形態では、成形品の表面を光彩模様で加飾するための凹凸模様を有する成形面1bの補修を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、凹凸状の成形面を有する金型の補修に対して、広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 金型
1a 成形面
1b 損傷部
2 補修材
3,3’ エンドミル