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特許7130198積層化細胞シートの製造方法、及びそれにより作製される積層化細胞シート
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  • 特許-積層化細胞シートの製造方法、及びそれにより作製される積層化細胞シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】積層化細胞シートの製造方法、及びそれにより作製される積層化細胞シート
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20220829BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20220829BHJP
   A61L 27/40 20060101ALN20220829BHJP
   A61L 27/38 20060101ALN20220829BHJP
【FI】
C12N5/077
C12M3/00 A
A61L27/40
A61L27/38 300
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017127873
(22)【出願日】2017-06-29
(65)【公開番号】P2019010030
(43)【公開日】2019-01-24
【審査請求日】2020-06-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構、[医療分野研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム]「積層化細胞シートを用いた創薬試験用立体組織モデル」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】加川 友己
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
(72)【発明者】
【氏名】原口 裕次
(72)【発明者】
【氏名】久保 寛嗣
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/036224(WO,A1)
【文献】遠心力を利用した細胞シート積層法,第15回 日本再生医療学会総会 プログラム・抄録,2016年03月18日,Vol. 15, Suppl. 2016,p. 252, O-36-4
【文献】関谷佐智子, 他,細胞シート工学研究の基礎と医療への発展,インターネット, URL<https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/backno8_pdf23.pdf>,2016年07月,検索日: 2021/06/23
【文献】JOURNAL OF BIOMEDICAL MATERIALS RESEARCH A ,2015年12月,Vol. 103A, Issue 12,pp. 3825-3833
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層化細胞シートを製造する方法であって、前記方法は:
(1)温度応答性培養表面の上の第1細胞シートを、34℃~39℃の温度範囲にて、所定時間、遠心力を印加する工程、
(2)前記第1細胞シートの上に、さらに、第2細胞シートを載置する工程、
(3)前記温度応答性培養表面の上の、前記第1細胞シート及び前記第2細胞シートを、34℃~39℃の温度範囲にて、前記所定時間、前記遠心力を印加する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
さらに、
(4)前記工程(2)~(3)を任意の回数繰り返す工程、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記温度応答性培養表面は、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)が少なくともその培養面の一部に被覆された培養表面である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記所定時間が、1分~10分である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記遠心力が、25×g~150×gである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記遠心力に到達するまでの時間が、15秒~60秒である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記遠心力を停止させるまでの時間が、15秒~60秒である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1細胞シート及び/又は前記第2細胞シートが、心筋細胞、肝細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、膵細胞、腎細胞、血管内皮細胞、上皮細胞からなる群から選択される1又は2以上の細胞を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
さらに、
(5)前記温度応答性培養表面を下限臨界溶液温度未満に供し、前記温度応答性培養表面から積層化細胞シートを剥離する工程、
を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記(3)の工程における所定時間は、前記(1)の工程における所定時間よりも短い、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層化細胞シートの製造方法に関する。また、本発明は、積層化細胞シートの製造方法により製造される積層化細胞シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療や薬物応答組織モデルへ利用することを目的として、細胞を用いた三次元的な組織、臓器を作製する技術が開発されている。従来、接着性細胞の多くは生体外では二次元的にしか培養することができなかった。しかし、生体の多く組織は、細胞が三次元的に配置されて構築されたものであり、より生体内の状態に近い組織を作製するために、細胞を三次元的に構築する技術が求められていた。
【0003】
細胞を三次元的に構築する試みとしては、例えば、細胞をスキャフォールドと呼ばれる三次元構造体に播種する方法や、臓器・組織を脱細胞化し、残存したマトリックスに播種して三次元化する方法、シート状に剥離された細胞シートを三次元的に積層する方法などが開発されている。
【0004】
細胞シートを作製する方法の1つとして、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)が被覆された細胞培養皿(温度応答性培養皿)を用いる方法がある(特許文献1)。PIPAAmが被覆された温度応答性培養皿上で任意の細胞培養し、細胞がコンフルエントになった後に、PIPAAmの下限臨界溶液温度(LCST)である32℃未満である20℃にすると、非侵襲的にシート状の細胞(細胞シート)が得られる。
【0005】
細胞シートは、細胞同士の接着性や、細胞外マトリックス(ECM)が維持されており、複数の細胞シートを積層することによって3次元組織を作製することができる(非特許文献1)。温度応答性培養皿上で積層し作製した複数の細胞シートからなる立体組織は、温度低下のみで非侵襲的に回収できるので、細胞同士の接着性やECMを保持しているため、移植時に効率的に目的の障害組織に生着し、効果的な治療をもたらす。しかしながら、1回の細胞シートの積層操作には、30~60分間もの時間が必要であり、積層時間を短縮する技術が求められていた。
【0006】
上記課題に対し、近年、プレート用の遠心機を用い、積層した細胞シートに遠心力を印加することにより、積層時間を短縮する技術が開発されている(非特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平02-211865号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Haraguchi Y.,et al.,Scaffold-free tissue engineering using cell sheet technology.RSC Adv.,2012;2:2184-2190
【文献】Hasegawa A.,et al.,Rapid fabrication system for three-dimensional tissues using cell sheet engineering and centrifugation. J.Biomed.Mater Res.A 2015;103:3825-3833
【文献】Haraguchi Y.,et al.,Three-dimensional human cardiac tissue engineered by centrifugation of stacked cell sheets and cross-sectional observation of its synchronous beatings by optical coherence tomography.Biomed.Res.Int.2017;2017:5341702
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
遠心力を印加することにより細胞シートを積層する方法が開発されているが、室温(20~23℃)の遠心処理となるために、細胞シートの積層化には通常の細胞培養皿しか使用できず、得られた積層化細胞シートを非侵襲的に回収し、移送することが困難であった。従って、本発明は、所望の形状を維持しながら、回収が容易な積層化細胞シートの迅速な製造方法を提供することを目的とする。また、当該方法により得られる積層化細胞シートを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて研究開発を行ってきた。その結果、驚くべきことに、ある一定の温度範囲にて最適な遠心力を印加すると、温度応答性培養皿上で迅速に複数の細胞シートを積層することで立体組織の作製が可能となり、さらにその立体組織は温度低下のみで、非侵襲的に回収できることを見出した。さらに回収した作製組織は容易に目的表面に移動することができた。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0011】
[1] 積層化細胞シートを製造する方法であって、前記方法は:
(1)温度応答性培養表面の上の第1細胞シートを、前記温度応答性培養表面の下限臨界溶液温度~45℃の温度範囲にて、所定時間、遠心力を印加する工程、
(2)前記第1細胞シートの上に、さらに、第2細胞シートを載置する工程、
(3)前記温度応答性培養表面の上の、前記第1細胞シート及び前記第2細胞シートを、前記下限臨界溶液温度~45℃の温度範囲にて、前記所定時間、前記遠心力を印加する工程、
を含む、方法。
[2] さらに、
(4)前記工程(2)~(3)を任意の回数繰り返す工程、
を含む、[1]に記載の方法。
[3] 前記温度応答性培養表面は、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)が少なくともその培養面の一部に被覆された培養表面である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記下限臨界溶液温度が、32℃である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5] 前記温度範囲が、34℃~39℃である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6] 前記所定時間が、1分~10分である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7] 前記遠心力が、25×g~150×gである、[1]~[6]のいずれか1項に記載の方法。
[8] 前記遠心力に到達するまでの時間が、15秒~60秒である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の方法。
[9] 前記遠心力を停止させるまでの時間が、15秒~60秒である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の方法。
[10] 前記第1細胞シート及び/又は前記第2細胞シートが、心筋細胞、肝細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、膵細胞、腎細胞、血管内皮細胞、上皮細胞からなる群から選択される1又は2以上の細胞を含む、[1]~[9]のいずれか1項に記載の方法。
[11] さらに、
(5)前記温度応答性培養表面を下限臨界溶液温度未満に供し、前記温度応答性培養表面から積層化細胞シートを剥離する工程、
を含む、[1]~[10]のいずれか1項に記載の方法。
【0012】
[12] [1]~[11]のいずれか1項に記載の方法により得られる、積層化細胞シート。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、細胞シートを積層する工程が簡便化され、積層化細胞シートの作製時間を短縮させることが可能となる。また、本発明によれば、従来方法では温度応答性培養皿への接着性を維持することが難しかった単層あるいは積層化細胞シートが、再現良く、形態を保持したままで積層化細胞シートが得られる。さらにまた、本発明は、作製した積層化細胞シートを、簡便かつ非侵襲的に回収することを可能とする。回収した積層化細胞シート組織は、市販の細胞シート移送デバイス(Tadakuma K.,et al.,Biomaterials 2013;34:9018-9025)(古川機工社、新潟、日本)を用いて速やかに目的表面に移動することも可能にする。これは非侵襲的に回収した細胞シート組織を目的組織表面に移植できることを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に用いられる加温遠心機を示す図である。
図2図2は、加温機能を有しない遠心機内の温度変化及びそれによる積層化したC2C12筋芽細胞シートへの影響を示す図である。(A)6ウェル培養プレート中に設置した4つの温度センサーにより検出された温度変化を平均±SDで示したグラフである。ヒーターを有さない遠心機を、室温にて使用した場合、予め36~37℃で温められた6ウェル培養プレートの温度は急速に下がった。破線はPIPAAmのLCSTを示す。(B)室温(22~23℃)にて遠心力(55×g、5分)を印加した後の、温度応答性培養皿上の二層細胞シートを示す写真である。
図3図3は、温度応答性培養皿上の単層C2C12筋芽細胞シートを示す図である。(A)及び(B):室温(22~23℃)における急な加速/減速(目的の速度に到達するまでに4秒)による遠心処理後(55×g、5分)(A)、又は室温(22~23℃)における高速遠心処理(221×g、5分)後(B)の温度応答性培養皿上の単層C2C12筋芽細胞シートを示す写真である。
図4図4は、加温機能を有する遠心機内の温度変化及びそれによる積層化したC2C12筋芽細胞シートへの影響を示す図である。(A)6ウェル培養プレート中に設置した4つの温度センサーにより検出された温度変化を平均±SDで示したグラフである。ヒーターを有する遠心機において、ヒーターの電源を入れるとローター周囲の温度が急速に上がり、ヒーターの電源を消すとローター周囲の温度が急速に下がった。破線はPIPAAmのLCSTを示す。(B):36~37℃にて遠心力を印加(55×g、5分)した後の、温度応答性培養皿上の単層C2C12筋芽細胞シート(B-1)又は二層C2C12筋芽細胞シート(B-1)を示す写真である。
図5図5は、遠心力の印加操作によるC2C12細胞シートの活性に与える影響を示す図である。遠心法(36~37℃、55×g、5分)、及び従来法(37℃、45分インキュベーション)にてC2C12細胞シートを処理し、16時間後の(A)グルコース消費量、(B)乳酸産生量、(C)乳酸脱水素酵素(LDH)放出量及び(D)血管内皮増殖因子(VEGF)産生量を示す。凍結-融解は、C2C12細胞シートを2回凍結-融解した後の細胞シートから放出されたLDH量である(ポジティブコントロール)。n.s.:有意差無し。
図6図6は、温度応答性培養表面上におけるC2C12筋芽細胞シートの断面を光干渉断層撮影(OCT)により観察した図を示す。(A)及び(B):36~37℃にて遠心力(55×g、5分)を印加する前(A)及び後(B)の単層細胞シートを示す。(C)及び(D):36~37℃にて遠心力(55×g、5分)を印加する前(C)及び後(D)の二層細胞シートを示す。(E)細胞培養表面から剥離した後の二層細胞シートを示す。
図7図7は、温度応答性培養表面上における多層C2C12筋芽細胞シートの断面を光干渉断層撮影(OCT)により観察した図を示す。(A)~(C):36~37℃にて遠心力(55×g、5分)印加後の、三層細胞シート(A)、四層細胞シート(B)及び五層細胞シート(C)を示す。(D)細胞培養表面から剥離した後の五層細胞シートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
加温機能を持たない通常の遠心機と、室温(20~23℃)では細胞非接着性表面となる温度応答性培養皿(例えば、UpCell(登録商標)(セルシード社、東京、日本))を用いて細胞シートを積層すると、室温(20~23℃)での遠心処理となるため、温度応答性培養皿上に細胞シートが接着せず、細胞シートの積層化や立体組織化を行うことができない。そこで、加温機構を有する遠心機を開発し、これを用いて、温度応答性培養皿上で複数の細胞シートを積層化した。その結果、積層時間が顕著に短縮するのみならず、得られた積層化細胞シート(立体組織)を、温度低下処理だけで非侵襲的に回収することに成功した。
【0016】
すなわち、本発明は、
積層化細胞シートを製造する方法であって、前記方法は:
(1)温度応答性培養表面の上の第1細胞シートを、前記温度応答性培養表面の下限臨界溶液温度~45℃の温度範囲にて、所定時間、遠心力を印加する工程、
(2)前記第1細胞シートの上に、さらに、第2細胞シートを載置する工程、
(3)前記温度応答性培養表面の上の、前記第1細胞シート及び前記第2細胞シートを、前記下限臨界溶液温度~45℃の温度範囲にて、前記所定時間、前記遠心力を印加する工程、
を含む、方法、を提供する。
【0017】
本明細書において、「細胞シート」とは、細胞培養表面上で少なくとも一層で形成されたシート状の細胞群が、細胞培養表面から剥離したものを指す。
【0018】
細胞シートを得る方法としては、例えば、温度、pH、光、電気等の刺激によって分子構造を変化させる高分子が被覆された刺激応答性培養表面上で細胞を培養し、温度、pH、光、電気等の刺激の条件を変えて刺激応答性培養表面を変化させることで、細胞同士の接着状態は維持しつつ、刺激応答性培養表面から細胞をシート状に剥離する方法、任意の培養表面にて細胞を培養し、細胞培養表面上のシート状の細胞群を端部から物理的にピンセット等により剥離する方法、ハイドロゲル等と共に細胞を培養表面上に播種し、形成されたシート状の細胞群を剥離する方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
本明細書において、刺激応答性培養表面に被覆されている「刺激応答性高分子」としては、例えば、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-アクリル酸)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-アクリル酸ナトリウム)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-ビニルフェロセン)共重合体、γ線照射したポリ(ビニルメチルエーテル)(PVME)、ポリ(オキシエチレン)、核酸などの生体物質を高分子に組み込んだ樹脂、及び上記高分子に対して架橋剤によって架橋し作製したゲルなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0020】
本明細書において「温度応答性高分子」は、刺激応答性高分子の1つであり、温度に応答して、その形状及び/又は性質を変化させる高分子をいう。温度応答性高分子としては、例えば、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-アクリル酸)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-アクリル酸ナトリウム)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-ビニルフェロセン)共重合体、γ線照射したポリ(ビニルメチルエーテル)及び上記高分子に対して架橋剤によって架橋し作製したゲルなどが挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、例えば、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-アクリル酸ナトリウム)共重合体及び上記高分子に対して架橋剤によって架橋し作製したゲルなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0021】
本明細書において、培養表面に被覆されている温度応答性高分子としては、例えば、水に対する上限臨界溶液温度(UCST:Upper Critical Solution Temperature)又は下限臨界溶液温度(LCST:Lower Critical Solution Temperature)が0~80℃であるものが挙げられるがそれらに限定されない。臨界溶液温度とは、高分子の形状及び/又は性質を変化させる閾値の温度をいう。本発明では、好ましくは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)が、少なくともその培養面の一部に被覆された細胞培養表面が使用され得る。
【0022】
ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)は32℃に下限臨界溶液温度(LCST)を有する高分子として知られ、遊離状態であれば、水中で32℃以上の温度で脱水和を起こしPIPAAmが凝集して白濁する。逆に32℃未満の温度ではPIPAAmは水和し、水に溶解した状態となる。本発明の一実施態様で用いられる温度応答性培養表面は、PIPAAmがシャーレなどの培養表面に被覆されて固定されたものである。したがって、32℃以上の温度であれば、培養表面のPIPAAmも同じように脱水和するが、PIPAAmが培養表面に固定されているために培養表面が疎水性を示す。逆に、32℃未満の温度では、培養表面のPIPAAmは水和するが、PIPAAmが培養表面に被覆されているため、培養表面が親水性を示す。疎水性の培養表面は細胞が付着し、増殖することができる表面であり、また、親水性の培養表面は細胞が付着しにくい表面である。そのため、温度応答性培養表面を32℃未満に冷却すると、細胞が培養表面から剥離する。細胞が培養表面全体にコンフルエントになるまで培養されていれば、培養表面を32℃未満に冷却することによって細胞シートを回収することができる。
【0023】
本発明の一実施態様において用いられる、刺激応答性培養表面を使用することにより得られる細胞シートは、従来、細胞回収に用いられるディスパーゼ、トリプシンなどのタンパク質分解酵素を使用しないため、細胞シートの下面(培養表面と接触していた側の面)は、接着性タンパク質を豊富に維持しており、また、細胞-細胞間のデスモゾーム構造も保持しており、生体患部への貼付や、複数の細胞シートの積層化に適している。
【0024】
本発明の一実施態様において、積層化細胞シートの最下層を形成する第1細胞シートは:(i)遠心力を印加する工程で用いられる温度応答性培養表面に予め細胞を播種して培養し、下限臨界溶液温度未満にすることにより得られる細胞シート;(ii)遠心力を印加する工程で用いられる温度応答性培養表面とは別の刺激応答性培養表面を用いて得られる細胞シート;(iii)細胞培養表面上のシート状の細胞群を端部から物理的にピンセット等により剥離して得られる細胞シート;(iv)ハイドロゲル等と共に細胞を播種し、形成されたシート状の細胞群を剥離して得られる細胞シート、であってもよい。好ましくは、(i)遠心力を印加する工程で用いられる温度応答性培養表面に予め細胞を播種して培養し、下限臨界溶液温度未満にすることにより得られる細胞シート;(ii)遠心力を印加する工程で用いられる温度応答性培養表面とは別の刺激応答性培養表面を用いて得られる細胞シート、である。本発明の一実施形態において、(ii)の細胞シートを第1細胞シートとして用いる場合、公知の移送方法によって、遠心力を印加する工程で用いられる温度応答性培養表面へと移送することができる。
【0025】
本発明において、細胞シートを任意の場所へ移動する方法としては、例えば、培地に浮かんでいる細胞シートをピペット等によって培地ごと吸い取り、別の場所で培地ごと細胞シートを排出して移動させる方法(例えば、Haraguchi Y.,et al.,Nat.Protoc.2012;7:850-858);細胞シート移送デバイスを用いて移動させる方法(例えば、Tadakuma K.,et al.,Biomaterials 2013;34:9018-9025)などが挙げられるが、これに限定されない。
【0026】
本発明において、遠心力を印加するために用いられる遠心機は、培養容器に遠心力を印加できる遠心機であればよく、好ましくは、スイング式のプレート遠心機(例えば、ローツェライフサイエンス社(茨城、日本)製のiSPIN-04-28)であるが、これに限定されない。本発明において用いられる遠心機のローターは、好ましくは、スイング式ローターである。スイング式ローターを用いることにより、培養表面に垂直方向の遠心力を印加することが可能となり、細胞シートの接着を促進することができる。
【0027】
本発明において、遠心力を印加する際に、温度応答性培養表面の下限臨界溶液温度~45℃の温度範囲に保つために、例えば、遠心機のローター周辺に加温装置を配置してもよく、遠心機自体を温度応答性培養表面の下限臨界溶液温度~45℃の温度範囲の場所に設置して使用してもよい。好ましくは、遠心機のローター周辺に加温装置を配置することである。加温装置は、特に限定されないが、例えばシリコーンゴムヒーターなどを用いることができる。ローター周囲の温度は、公知の温度測定デバイスを用いることにより測定することができる。測定された温度は、リアルタイムでモニターされ、温度応答性培養表面が過熱又は過冷却を防止することが好ましい。加熱装置は手動でオン/オフを調節してもよく、温度測定デバイスで測定された温度がリアルタイムにモニターされ、その結果に基づいて自動フィードバックする機構を備えていてもよい。
【0028】
本発明において、遠心力を印加する際の温度は、温度応答性培養表面の下限臨界溶液温度~45℃の温度範囲であり、例えば、32℃~45℃、32℃~44℃、32℃~43℃、32℃~42℃、32℃~41℃、32℃~40℃、32℃~39℃、32℃~38℃、33℃~45℃、33℃~44℃、33℃~43℃、33℃~42℃、33℃~41℃、33℃~40℃、33℃~39℃、33℃~38℃、34℃~45℃、34℃~44℃、34℃~43℃、34℃~42℃、34℃~41℃、34℃~40℃、34℃~39℃、34℃~38℃、35℃~45℃、35℃~44℃、35℃~43℃、35℃~42℃、35℃~41℃、35℃~40℃、35℃~39℃、35℃~38℃の温度範囲であってもよい。好ましくは32℃~42℃であり、より好ましくは33℃~41℃であり、さらに好ましくは34℃~39℃であり、最も好ましくは35℃~38℃である。上記温度範囲にて、細胞シートに遠心力を印加すると、温度応答性培養表面が疎水性を維持したたま、細胞自身による能動的な接着活性が促進され、培養表面又は他の細胞シートへの接着性がより向上する。また、従来の方法では遠心力によって水平方向に引き延ばされ、変形していた細胞シートが、本発明を適用することにより、形態を崩さずに培養表面又は他の細胞シート上に接着する効果も発揮する。さらに、細胞シートの積層に要する時間も短縮される効果をもたらす。特に、従来の方法では、遠心力を印加した後に別途インキュベーションする工程を要していたが、この工程を省略することができ、その結果、コンタミネーションリスクを低減することができる。
【0029】
本明細書において、遠心力は、「n×g」(nは任意の数)で表すことができ、これは、地球の重力加速度のn倍の力であることを意味する。本発明において、温度応答性培養表面に印加される遠心力は、25×g~150×gであればよく、例えば、25×g~130×g、25×g~100×g、25×g~80×g、25×g~60×g、30×g~150×g、30×g~130×g、30×g~100×g、30×g~80×g、30×g~60×g、35×g~150×g、35×g~130×g、35×g~100×g、35×g~80×g、35×g~60×g、40×g~150×g、40×g~130×g、40×g~100×g、40×g~80×g、40×g~60×gであってもよい。本発明において、遠心力は、好ましくは25×g~150×g、より好ましくは30×g~130×g、さらに好ましくは35×g~100×g、さらに好ましくは35×g~80×g、最も好ましくは40×g~60×gである。上記遠心力を細胞シートに印加すると、培養表面又は他の細胞シートへの接着性が向上し、積層時間を短縮することができる。
【0030】
本発明において、遠心力を印加するための遠心機の回転数(rpm)は、使用する機器、ローターの種類、ローターの半径などによって適宜決定される。上記遠心力を印加するために必要とされる遠心機の回転数(rpm)は、当業者に周知の方法によって、遠心力の値から換算することが可能である。
【0031】
本発明において、遠心力を印加する際の所定時間とは、目的の遠心力を維持している持続時間のことであり、目的の遠心力に到達するまでの時間、および遠心力を停止させるまでの時間を含まない。本発明において、所定時間は、1~10分であればよく、例えば、1~9分、1~8分、1~7分、1~6分、1~5分、2~10分、2~9分、2~8分、2~7分、2~6分、2~5分、3~10分、3~9分、3~8分、3~7分、3~6分、3~5分であってもよい。所定時間は、好ましくは1~8分、より好ましくは2~7分、さらに好ましくは2~6分、最も好ましくは3~5分である。
【0032】
本明細書において、遠心力に到達するまでの時間とは、遠心機のローターが回転し始めた時点から、目的の遠心力に到達した時点までに要する時間をいう。本発明において、遠心力に到達するまでの時間は、15秒~60秒であればよく、例えば、15秒~55秒、15秒~50秒、15秒~45秒、15秒~40秒、20秒~60秒、20秒~55秒、20秒~50秒、20秒~45秒、20秒~40秒、25秒~60秒、25秒~55秒、25秒~50秒、25秒~45秒、25秒~40秒、30秒~60秒、30秒~55秒、30秒~50秒、30秒~45秒、30秒~40秒、35秒~60秒、35秒~55秒、35秒~50秒、35秒~45秒、35秒~40秒であってもよい。遠心力に到達するまでの時間は、好ましくは15秒~55秒、より好ましくは20秒~50秒、さらに好ましくは25秒~45秒、最も好ましくは35秒~40秒である。遠心力に到達するまでの時間が、上記の時間であれば、遠心機の加速によって生じる細胞シートの滑り及び/又は顕著な変形を防止することが可能となる。
【0033】
本明細書において、遠心力を停止させるまでの時間とは、目的の遠心力を生じている遠心機のローターの回転が減速し始めた時点から、遠心機のローターの回転が停止した時点までに要する時間をいう。本発明において、遠心力を停止させるまでの時間とは、15秒~60秒であればよく、例えば、15秒~55秒、15秒~50秒、15秒~45秒、15秒~40秒、20秒~60秒、20秒~55秒、20秒~50秒、20秒~45秒、20秒~40秒、25秒~60秒、25秒~55秒、25秒~50秒、25秒~45秒、25秒~40秒、30秒~60秒、30秒~55秒、30秒~50秒、30秒~45秒、30秒~40秒、35秒~60秒、35秒~55秒、35秒~50秒、35秒~45秒、35秒~40秒であってもよい。遠心力を停止させるまでの時間は、好ましくは15秒~55秒、より好ましくは20秒~50秒、さらに好ましくは25秒~45秒、最も好ましくは35秒~40秒である遠心力を停止させるまでの時間が、上記の時間であれば、遠心機の減速によって生じる細胞シートの滑り及び/又は顕著な変形を防止することが可能となる。
【0034】
本発明において、第1細胞シートの上に、さらに第2細胞シートを載置する工程において、第2細胞シートを載置する方法は、例えば、培地に浮かんでいる細胞シートをピペット等によって培地ごと吸い取り、別の場所で培地ごと細胞シートを排出して移動させる方法(例えば、Haraguchi Y.,et al.,Nat.Protoc.2012;7:850-858);などが挙げられるが、これに限定されない。
【0035】
細胞の種類によっては、細胞培養表面上に接着しにくい細胞があり、そのような場合は、例えば、コラーゲン、ラミニン、ラミニン5、フィブロネクチン、マトリゲル等の細胞接着性タンパク質を単独又は2種以上の混合物を、さらに細胞培養表面上に塗布してもよい。
【0036】
本発明において、第1細胞シート及び/又は第2細胞シートを作製するために播種される細胞数は、動物種や細胞種によって異なるが、例えば、0.3×104~10×106個/cm2であってもよく、0.5×104~8×106個/cm2であってもよく、0.7×104~5×106個/cm2であってもよい。本発明においては、細胞シートを温度応答性培養表面から剥離して回収するためには、細胞が付着し、コンフルエント又はサブコンフルエント状態となった培養表面の温度を、被覆ポリマーの上限臨界溶液温度以上若しくは下限臨界溶液温度以下にすることによって剥離させることで得られる。その際、細胞シートの作製は、培養液中において行うことも、その他の等張液中において行うことも可能であり、目的に合わせて選択することができる。細胞シートをより早く、高効率に剥離、回収するために、培養表面を軽くたたいたり揺らしたりする方法、ピペットを用いて培地を撹拌する方法、ピンセットを用いる方法等を単独又は併用して用いてもよい。温度以外の培養条件は常法に従えばよい。例えば、使用する培地については公知のウシ胎児血清(FBS)等の血清が添加されている培地でもよく、無血清培地を用いてもよい。
【0037】
本発明において、刺激応答性培養表面及び/又は温度応答性培養表面は、例えば、ディッシュ、マルチプレート、フラスコ、又は平膜の培養表面であってもよい。刺激応答性培養表面及び/又は温度応答性培養表面は、通常、細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等の化合物や、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス類などによって形成されたものであってもよい。
【0038】
本発明において、第1細胞シート及びは第2細胞シートに含まれる細胞種、細胞数、それらの割合などについては、用途に応じて適宜選択、又は調整すればよい。例えば、心筋組織の再生、又は心筋機能を評価する方法を目的とした場合、使用する細胞としては心筋細胞、心筋芽細胞、筋芽細胞、間葉系幹細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、線維芽細胞、骨髄由来細胞、脂肪由来細胞のいずれか1種、又は2種以上の細胞が混合したもの等が挙げられる。
【0039】
肝組織の再生、肝組織を模擬した人工肝臓の作製、又は肝組織の機能を評価する方法等を目的とした場合、例えば、使用する細胞としては、肝実質細胞(肝細胞ともいう)、類洞内皮細胞、クッパー細胞、星細胞、ピット細胞、胆管上皮細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、線維芽細胞、骨髄由来細胞、脂肪由来細胞、間葉系幹細胞のいずれか1種、又は2種以上の細胞が混合したもの等が挙げられる。
【0040】
腎組織の再生、腎組織を模擬した人工腎臓の作製、又は腎機能を評価する方法を目的とした場合、例えば、使用する細胞としては、腎細胞、顆粒細胞、集合管上皮細胞、壁側上皮細胞、足細胞、メサンギウム細胞、平滑筋細胞、尿細管細胞、間在細胞、糸球体細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、線維芽細胞、骨髄由来細胞、脂肪由来細胞、間葉系幹細胞のいずれか1種、又は2種以上の細胞が混合したもの等が挙げられる。
【0041】
副腎組織の再生、副腎を模擬した人工副腎の作製、又は副腎機能を評価する方法を目的とした場合、例えば、使用する細胞としては、副腎髄質細胞、副腎皮質細胞、球状層細胞、束状層細胞、網上層細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、線維芽細胞、骨髄由来細胞、脂肪由来細胞、間葉系幹細胞のいずれか1種、又は2種以上の細胞が混合したもの等が挙げられる。
【0042】
皮膚の再生、又は皮膚機能を評価する方法を目的とした場合、例えば、使用する細胞としては、表皮角化細胞、メラノサイト、立毛筋細胞、毛包細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、線維芽細胞、骨髄由来細胞、脂肪由来細胞、間葉系幹細胞のいずれか1種、又は2種以上の細胞が混合したもの等が挙げられる。
【0043】
粘膜組織の再生、又は粘膜組織の機能を評価する方法を目的とした場合、例えば、使用する細胞としては、粘膜を構成する組織から採取される細胞を使用すればよい。粘膜の種類としては、頬側粘膜、胃粘膜、腸管粘膜、嗅上皮、口腔粘膜、子宮粘膜などが挙げられる。粘膜組織から採取される細胞のうち、いずれか1種、又は2種以上の細胞が混合したもの等が挙げられ、その種類については何ら制約されるものではない。
【0044】
膵臓の再生、膵臓を模擬した人工膵臓の作製、糖尿病の治療又は膵臓の機能を評価する方法等を目的とした場合、使用する細胞としては、例えば、膵臓を構成するα細胞、β細胞、δ細胞、PP細胞、膵腺房細胞(総称して、膵細胞という)を使用すればよい。
【0045】
また、これらの細胞はES細胞、iPS細胞、Muse細胞、間葉系幹細胞などから分化誘導された細胞であってもよい。
【0046】
本発明において用いられる細胞は、生体組織を細かく切り刻むことにより得られる細胞を用いてもよい。この場合、生体組織由来の細胞には、多種類の細胞が混在することになる。例えば、後述する本発明の実施例では、ラットの心臓組織をミンスし、そこに含まれる心筋細胞を用いて細胞シートを作製するが、当該細胞シートには、心筋細胞以外に心臓組織由来の線維芽細胞、壁細胞、血管内皮細胞等を含んでいる。そのため、目的に応じて不要な細胞を除くためにセルソーターや抗体を用いたり、逆に必要な細胞を加えることができる。
【0047】
本発明の他の態様において、上記の
(2)前記第1細胞シートの上に、さらに、第2細胞シートを載置する工程、
(3)前記温度応答性培養表面の上の、前記第1細胞シート及び前記第2細胞シートを、前記下限臨界溶液温度~45℃の温度範囲にて、前記所定時間、前記遠心力を印加する工程
は、さらに、任意の回数繰り返すことができる。前記工程(2)~(3)を任意の回数繰り返すことにより、所望の厚さを有する積層化細胞シート組成物を得ることが可能となる。特に、本発明は従来の細胞シート積層化法と比較して、積層化時間を短縮することが可能であり、積層化する回数が増加すれば短縮効果がより顕著になる。積層化する回数は、目的に応じ適宜変更することができ、例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、15回、20回、25回、30回、35回、40回、45回、50回、60回、70回、80回、90回、100回、又はそれ以上の回数を繰り返すことができる。また、1回の積層につき1層ずつ細胞シートを積層してもよく、1回につき2層以上積層してもよい。1回につき2層以上の細胞シートを積層することにより、さらに積層する時間を短縮することが可能となる。
【0048】
本発明の方法によって得られる積層化細胞シートは、
さらに、
前記温度応答性培養表面を下限臨界溶液温度未満に供し、前記温度応答性培養表面から積層化細胞シートを剥離する工程、
を実施することにより、温度応答性培養表面から、損傷を与えることなく、剥離させることができる。剥離させた積層化細胞シートは、例えば、上記同様、細胞シート移送デバイスにより、任意の場所へ移送することが可能である。
【実施例
【0049】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0050】
1.材料及び方法
1-1.細胞培養及び細胞シートの調製
C2C12マウス筋芽細胞(大日本住友製薬社、大阪、日本)は、10%ウシ胎児血清(FBS)(ジャパン・バイオシーラム社、名古屋、日本)を補充し、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO、USA)中で、を37℃に設定したCO2インキュベーター(パナソニックヘルスケア社、東京、日本)で培養した。
【0051】
C2C12筋芽細胞シートは、以前報告された方法に従い(Haraguchi Y.,et al.,Nat.Protoc.2012;7:850-858;Haraguchi Y.,et al.,Methods Mol.Biol.2014;1181:139-155)、直径35mmの温度応答性培養皿(UpCell(登録商標))(セルシード社、東京、日本)を用い、20℃に設定した他のCO2インキュベーター(和研薬社、京都、日本)を使用して調製した。積層操作を含む、温度応答性培養皿上での細胞シートの取り扱いは、37℃に設定したヒートプレート(東海ヒット社、静岡、日本)上にて行った。
【0052】
温度応答性培養皿上の5層の積層化C2C12筋芽細胞立体組織は、20℃に設定したCO2インキュベーターで表面から剥離させ、剥離した細胞シート立体組織は移送デバイス(古川工機社、新潟、日本)を用いて容易に培養皿表面から目的の箇所に移すことができた。これは加温機能付き遠心機を用いて速やかに温度応答性培養表面で作製した細胞シート立体組織が温度低下のみで非侵襲的に回収でき、また回収した立体組織は移植可能であることを示唆している点で重要である。
【0053】
細胞シートの写真撮影又はビデオ撮影は、デジタルカメラ(GR DIGITAL III)(リコー社、東京、日本)又はデジタルビデオカメラ(Xacti)(パナソニック社、大阪、日本)で行った。培養面上の細胞シートの断面観察は、光干渉断層撮影(OCT)(IVS-2000)(Santec社、愛知、日本)により行った。心筋細胞シート組織の動画は、OCTを用いて、35フレーム/秒で記録した。
【0054】
1-2.加温遠心機による遠心力の印加
Hasegawaらの方法に従い(Hasegawa A.,et al.,J.Biomed.Mater Res.A.2015;103:3825-3833)、6穴培養プレート(Corning、NY、USA)の蓋及びポリジメチルシロキサン(PDMS)(東レ・ダウコーニング社、東京、日本)を用いて、直径35mmの温度応答性培養皿を固定するデバイスを作製し、当該デバイスをスイング式プレート遠心機(iSPIN-04-28)(ローツェライフサイエンス社、茨城、日本)のローターにセットした(図1)。ヒーター(シリコーンゴムヒーター)(スリーハイ社、神奈川、日本)を遠心機の周囲にセットし(図1)、温度センサー(タイプK熱電対)(TH-8296-2、スリーハイ社)を備えた温度コントローラ(monoone-120)(スリーハイ社)を遠心機へ導入し、ヒーターに連結した。遠心力追加を行う間、2つの6ウェルプレートにセットした4個のボタン型温度データロガー(スーパーサーモクロン)(KNラボラトリーズ社、大阪、日本)により、時系列で温度をモニターした(図1)。過熱又は過冷却を避けるために、35~37℃の間でコントローラの温度設定を適切に調整した。
【0055】
1-3.温度応答性培養表面上のC2C12筋芽細胞シート又は二層細胞シート間の接着を定量的に評価するための機械的回転試験
【0056】
(i)温度応答性培養表面とC2C12筋芽細胞シートの間、又は(ii)二層細胞シート間の接着性を、Hasegawaらの方法(Hasegawa A.,et al.,J.Biomed.Mater Res.A.2015;103:3825-3833)を改変した方法(機械回転試験)によって定量的に評価した。
【0057】
細胞シートを培養面から剥離した後、冷えた培地を別に準備した加温培地(37℃)に交換した。細胞シートと培養表面との接着性を評価するために、細胞シートを広げた後、マイクロピペット(P-1000)(エムエス機器社、大阪、日本)を用いて培地を除去した。次に、(i)遠心力印加(遠心法)又は(ii)37℃でのインキュベーション(従来法)を実施した。
【0058】
二層細胞シート間の接着性を評価するために、第2の細胞シートを、ポリスチレン培養皿(Corning、NY、USA)上の第1の細胞シート上に上記と同様に広げ、培地をマイクロピペットで除去した。その後、(i)室温(22~23℃)又は(ii)36~37℃で遠心力を印加した。これらの操作後、10%FBSと1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含む加温DMEM培地(37℃)2mLを、細胞シートを有する培養皿に注ぎ、培養皿をヒートプレート(37℃)にセットし、これをロータリーシェーカー(タイテック社、埼玉、日本)にセットした。ロータリーシェーカーを90rpmで2分間回転させた。細胞シートと培養面との接着性がその間に維持された場合は接着していると評価し、剥がれた場合は接着していないと評価した。
【0059】
1-4.C2C12筋芽細胞シートのグルコース消費量、乳酸及び血管内皮増殖因子(VEGF)の産生量、並びに、乳酸脱水素酵素(LDH)放出量の測定
【0060】
直径35mmの温度応答性培養表面上の一層のC2C12筋芽細胞シートで使用した馴化培地、及び細胞シートを含まない培地を、培養16時間後に回収した。細胞シートのグルコース消費量、乳酸及びVEGFの産生量、並びにLDH放出量を、Tadakumaらの方法(Tadakuma K.,et al.,Biomaterials 2013;34:9018-9025)により測定した。
【0061】
グルコース消費量は、細胞シートを含まない培養後の培地のグルコース濃度から、細胞シートを含む培養後の培地のグルコース濃度を差し引いて算出した。乳酸産生量、VEGF産生量及びLDH放出量の値は、細胞シートを含まない培養後の培地のそれぞれの濃度のバックグラウンドを、細胞シートを含む培養後の培地のそれぞれの濃度から差し引くことによって計算した。細胞シートの凍結-融解(-80℃→37℃)を2回行い、当該細胞シートサンプルをLDH放出アッセイにおける細胞死のポジティブコントロールとして用いた。凍結解凍実験では、2回凍結融解した後の、細胞シートを含まない培地をバックグラウンドとして使用した。
【0062】
1-5.データ分析
全てのデータは平均±SDとして示した。不対スチューデントt検定を行って2つの群を比較し、0.05を超えるp値は有意でないとみなした。チューキー・クレーマー検定を複数の群の比較に使用した。
【0063】
2.結果
比較例1:室温での遠心力印加
【0064】
室温(22~23℃)において遠心力を印加している最中の遠心処理機のローター周辺の温度を測定した。37℃CO2インキュベーターで予め温めた6ウェルプレートの温度は、室温で遠心力を印加することにより、急速に低下した(図2A)。その結果、培養皿表面の温度は、培養皿が予め温められていたとしても、室温で遠心力を印加することによってPIPAAmのLCSTより下に急速に低下することが示された。
【0065】
温度応答性培養皿上にコンフルエントに培養したC2C12筋芽細胞を、20℃に設定したCO2インキュベーター内で、細胞シートとして自発的に剥離させ、剥離した細胞シートを培地中に浮遊させた。Haraguchiらの方法(Haraguchi Y.,et al.,Nat.Protoc.2012;7:850-858)に従って、冷えた培地を新しい加温培地(37℃)に交換した後、(i)培養皿の回転、(ii)緩やかな培地の滴下、及び/又は(iii)穏やかな培地の吸引、によって、剥離した細胞シートを広げた。これらの操作は37℃のヒートプレート上で行った。剥離したC2C12筋芽細胞シートを温度応答性培養表面に接着させるために、遠心力を印加した。温めた培地を除去した後、細胞シートを有する培養皿を3つの条件(20×g、55×g、221×g)にて、室温で遠心力を印加した。いくつかのケースにて、急速な加速及び/又は減速(目的の遠心力に到達するまでの時間、及び/又は遠心力を停止させるまでの時間が4~12秒の場合)が、細胞シートの横滑り又は顕著な変形などの悪影響をもたらした(図3(A))。従って、緩速な加減速(目的の遠心力に到達するまでの時間、および遠心力を停止させるまでの時間が40秒の場合)条件を用いた。
【0066】
最も弱い遠心力(20×g、6分)を印加した場合、細胞シートの横滑りは3つ全ての試験で検出されなかった。遠心力印加の直後に、別に作製し剥離させた第2の細胞シートを加温培地(37℃)とともに回収し、第1の細胞シートを有する培養皿に移動させた。2枚の細胞シートを重ねるために、前述のように第2の細胞シートを第1の細胞シート上に広げた(Haraguchi Y.,et al.,Nat.Protoc.2012;7:850-858)。操作はヒートプレート(37℃)上で行った。これらの操作を実施中、3つ全ての試験において、第1の細胞シートは、表面から殆ど又は完全に剥離してしまい、第2の細胞シートを第1の細胞シート上に積層することは出来なかった。
【0067】
そこで次に、より強い遠心力(55×g、5分)を印加した。8回の試行のうち6回において、細胞シートの積層化操作を実施中、第1の細胞シートが培養皿表面から部分的又は完全に剥離してしまった。さらに、いくつかのケースでは、細胞シートに顕著な変形が認められた。遠心力の印加を同じ遠心処理条件で行った場合、8回の試行のうち4回において、細胞シートを積層することが可能だった。そのうち1回の試行では、外側方向への積層細胞シートの横滑りが観察された(図2(B))。
【0068】
次に、最も強い遠心力(221×g、1分)を印加した。その遠心処理条件の2回の試行において、細胞シートは、培養皿の端まで横滑りした(図3(B))。スライドの方向は、培養皿をローターにセットしたときの外側方向であった。ヒーター無しの条件での遠心力印加中の温度低下は、細胞シートと培養表面との間の弱い接着をもたらし、細胞シートの横滑り、変形、又は剥離を引き起こすと考えられる。
【0069】
これらの結果は、加減速や回転速度を変え最適化を試みたにもかかわらず、加温せずに室温での遠心力の印加では温度応答性培養表面に細胞シートを安定して接着させること、また積層化することは困難であることを示しており、脱着可能な迅速な立体組織を製造することは困難であることを示している。
【0070】
実施例1:加温機能を有する遠心処理機による遠心力印加
【0071】
C2C12筋芽細胞シートをPIPPAmのLCST(32℃)より高い温度で温度応答性培養表面に接着させるために、加熱機能を有する遠心処理機を使用した。遠心力印加中の遠心処理機のローター周囲の温度は、ヒーターを入れることによって急速に上昇し、ヒーターを切ることによって急速に低下した(図4(A))。この実験では、(i)細胞シートサンプルをセットするための遠心機のドアの開閉、及び(ii)遠心力印加の開始及び停止、を3回行った。これらの操作は温度変化に大きな影響を与えず、LCSTを超える温度を維持することができた。温度が36~37℃付近で安定した後、細胞シートを有する温度応答性培養皿をセットし、遠心力を印加した。遠心力は室温での実験と同じ条件(20×g、55×g、221×g)にて、36~37℃の温度範囲で実施した。加熱遠心力印加は、急速な加速及び/又は減速(目的の遠心力に到達するまでの時間、及び/又は遠心力を停止させるまでの時間が4~12秒の場合)によって、細胞シートのスリップ又は顕著な変形などの負の効果をもたらすことが観察された。したがって、軽度の加減速(目的の速度に到達するまでの時間、および遠心力を停止させるまでの時間が40秒の場合)を本実験においても使用した。
【0072】
最も弱い遠心力(20×g、6分)を印加したところ、細胞シートは、横滑りを伴わずに培養表面に付着した。遠心力印加の直後、細胞シート積層の操作は、上記と同様にヒートプレート上で行った。3回の試行において、第1の細胞シートと培養表面との間の接着は維持されていたが、その内1回の試行では、細胞シートは表面から部分的に剥離しており、遠心力による付着がわずかに弱いことを示している。
【0073】
次に、より強い遠心力(55×g、5分)を印加した。細胞シートは、横滑りすることなく、培養表面に付着していた(図4(B-1))。細胞シートの積層操作中、第1の細胞シートと培養表面との間の接着は、5つ全ての試行において維持されていた。二層の細胞シートを同じ条件で遠心力印加を行った場合、5回全ての試験で積層細胞シートの横滑りは検出されなかった(図4(B-2))。
【0074】
次に、遠心力の印加時間を短縮するために、最も強い遠心力(221×g、1分)を印加した。3回の試行において、細胞シートは、室温での遠心力印加時と同様、培養皿の端まで横滑りしていた。
【0075】
これらの結果から、加温し36~37℃の温度で遠心処理をすること、また最適な加減速や遠心速度を用いることで温度応答性培養表面に細胞シートを迅速に接着させることができることが示された。
【0076】
実施例2:C2C12筋芽細胞シートと温度応答性培養表面間又は当該細胞シート間の接着性の定量的評価(機械的回転試験)
【0077】
C2C12筋芽細胞シートと温度応答性培養皿表面との接着性を、機械的回転試験法(遠心法及び従来方法との比較)によって定量的に評価した。従来の方法では、培地を除去した後、細胞シートと培養面との接着を促進するために37℃CO2インキュベーター内で培養した。インキュベーションの15分後、20分後、又は25分後、細胞シートを有する培養皿に、温めた培養培地(37℃)を注ぎ、培養皿をヒートプレート(37℃)にセットし、ロータリーシェーカーで90rpmにて回転させた。25分間インキュベーションしたものは、3回の試行全てにおいて、2分間、細胞シートの接着性を維持したが、15分間及び20分間のインキュベーションは、接着を維持できなかった(表1)。
【0078】
36~37℃にて遠心力(55×g)を3分間印加した場合、2回の試行で細胞シートは表面への接着を維持したが、1回の試行では回転後2分で細胞シートが表面から部分的に剥離した(表1)。一方、遠心力を5分間印加した場合、3回の試行全てにおいて、細胞シートは2分間の接着性を維持し(表1)、5分間の遠心力印加後に細胞シートが培養表面にしっかりと接着することを示した。遠心力印加により、細胞シートを接着させることができ、接着時間を、遠心処理を行わない従来法に比べ劇的に[1/5(25分→5分)]にまで短縮させることを可能にした。
【0079】
【表1】
【0080】
次に、二層のC2C12筋芽細胞シート間の接着性を、機械的回転試験によって定量的に評価した(室温での遠心力印加 対 36~37℃での遠心力印加)。室温での遠心力印加による積層細胞シートの剥離及び横滑りを回避するために、ポリスチレン製の培養皿上に2枚の細胞シートを積層し、積層細胞シートを室温又は36~37℃にて遠心力(55×g)を印加した。2~4分間の遠心力印加においては、36~37℃での細胞シート間の接着は、室温の接着よりも強くなる傾向が示され(表2)、加熱遠心力印加は、加温処理を行わない室温での遠心処理に比べて積層した細胞シート同士間の迅速かつ強力な接着をもたらすことが示された(表2)。
【0081】
【表2】
【0082】
実施例3:グルコース消費、乳酸塩及びVEGF産生、並びにLDH放出の定量的評価
【0083】
C2C12筋芽細胞シートに対する遠心力印加の影響を、(i)細胞代謝、(ii)LDH放出、及び(iii)サイトカイン産生のアッセイによって定量的に評価した。温度応答性培養表面上に迅速に接着した細胞シートは、従来法(非遠心法)と同様、活発にグルコースを消費し、乳酸を産生することを示した(図5(A)、5(B))。
【0084】
細胞シートの凍結融解処理により、大量のLDHの放出が検出された。一方、遠心法と従来法のいずれにおいても非常に少量しか検出されなかった(図5(C))。遠心法で得られた細胞シートは、従来の方法で得られた細胞シートと同様にVEGF産生を生じた(図5(D))。これらの結果は、加温遠心操作により速やかに培養表面に接薬させることができた細胞シートは、時間のかかる従来法と同様な機能を持っていることを示している。図5(C)に示す細胞障害性を解析した実験において、遠心法と従来法を比較した場合、両者ともLDH放出量、すなわち組織障害性は非常に微量であり、また統計学的な差は認められなかったが、遠心力印加で速やかに接着した細胞シートは、従来法に比べて、組織障害性は、より少ない傾向が認められ、またその変動係数も顕著に低いものであった(遠心法:従来法=18:104)。これは、従来法に比べ、遠心法はサンプル間での差が少なく、均質な組織作製に適している可能性を示唆している。従来法は培地を除き、接着までの時間、37℃のCOインキュベーターで培養するため、サンプルによってはわずかではあるが細胞障害を起こす可能性があるのかもしれない。
【0085】
実施例4:温度応答性培養表面上の積層C2C12筋芽細胞シートの断面観察と細胞シートの回収及び移動
【0086】
(i)C2C12筋芽細胞シートと温度応答性培養表面、及び(ii)積層細胞シート間の接着の様子を、OCTによって断面から観察した。培地を除去しても、C2C12筋芽細胞シートと温度応答性の培養皿表面との間には、多くの空間が観察されたが、遠心力印加後は、空間がほとんど検出されなかった(図6(A)、6(B))。
【0087】
細胞シートを積層し、培地を除去後、積層細胞シート間には多くの空間が観察された(図6(C))。この空間は遠心力印加後、ほとんど検出されなかった(図6(D))。同様の操作を繰り返すことで、3層~5層の細胞シートの積層化に成功した。細胞シートの積層数に応じて、組織の厚さが増加することも確認できた(図7(A)~(C))。OCTにより、遠心力印加後の積層化した細胞シート間の密着性が断面から観察された。
【0088】
その後、積層化細胞シートを剥離するために、細胞シートを有する培養皿を20℃のCO2インキュベーターに静置した。剥離後、積層化細胞シート間の密着性は維持されていた(図6(E)(2層積層化細胞シート)及び図7(D)(5層積層化細胞シート))。
【0089】
さらに、細胞シート移送デバイスにより、ダメージを与えることなく積層化細胞シートを回収することができ、目的の場所へ容易かつ完全に移送することができた。これは、本発明により得られた積層化細胞シートが、標的組織上に容易に移植可能であることを示している。
【0090】
本発明の方法を用いると、温度低下のみで、非侵襲的かつ短時間で、作製した積層化細胞シート(立体組織)を回収することができることを見出した。一方で、加温することなく遠心を行うと、最適な遠心条件においても、75%もの高頻度で細胞シート積層時に細胞シートが温度応答性培養皿から剥離し、温度応答性培養皿上での立体組織の作製を困難にした。また積層に成功した場合であっても、一部のサンプルで2度目の遠心を行うと、積層化した細胞シートがスリップすることを認めた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7