(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】接触検知装置及び放射線照射装置
(51)【国際特許分類】
A61B 6/10 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
A61B6/10 353
A61B6/10 351
(21)【出願番号】P 2017194606
(22)【出願日】2017-10-04
【審査請求日】2020-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501352549
【氏名又は名称】有限会社コスモテック
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】特許業務法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】盛武 敬
(72)【発明者】
【氏名】小野 洋彰
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-061754(JP,U)
【文献】特開2008-029595(JP,A)
【文献】特開2014-155599(JP,A)
【文献】実開平03-016652(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0166325(US,A1)
【文献】特開平09-238931(JP,A)
【文献】特開2015-016156(JP,A)
【文献】特開昭50-115076(JP,A)
【文献】特開2013-158532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に放射線を照射する線源と、被検体に対する前記線源の相対角度を変更するための可動体とを備え、被検体の診断又は治療に使用される装置に用いられる接触検知装置であって、
前記可動体に固定された支持部材と、
前記支持部材に支持され、前記可動体の一部を覆うカバー部材と、
前記支持部材と前記カバー部材との間に介在し、前記カバー部材に作用する力のうち、前記カバー部材を並進運動させようとする力を検知する検知機構と、を備え
、
前記検知機構は、
前記支持部材に支持されるスイッチと、
前記カバー部材と一体的に移動し、前記スイッチを作動させる移動部材と、
前記支持部材と前記カバー部材との間に介在し、前記カバー部材に外力が作用していない場合は前記移動部材が前記スイッチから離間するように、前記カバー部材を付勢する付勢部材と、
前記支持部材と前記カバー部材との間に介在し、前記支持部材に対する前記カバー部材の並進運動を許容し、前記支持部材に対する前記カバー部材の回転運動を規制する規制部と、を有する、
ことを特徴とする接触検知装置。
【請求項2】
前記移動部材は、第1方向に移動することで前記スイッチを作動させ、
前記規制部は、前記支持部材により前記第1方向に直交する第2方向に移動可能に支持される第1部材と、前記第1部材により前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向に移動可能に支持されることで、前記支持部材に対して前記第2方向及び前記第3方向に相対移動可能な第2部材と、を有し、
前記第2部材と前記移動部材とが、前記第1方向に相対移動可能に係合している、
ことを特徴とする、請求項
1に記載の接触検知装置。
【請求項3】
前記検知機構は、前記移動部材に摺接する摺接部を有し、
前記カバー部材が前記第1方向に直交する方向に移動する場合、前記移動部材は前記摺接部に摺接することで前記第1方向に変位し、前記スイッチを作動させる、
ことを特徴とする、請求項
2に記載の接触検知装置。
【請求項4】
被検体に放射線を照射する線源と、被検体に対する前記線源の相対角度を変更するための可動体とを備え、被検体の診断又は治療に使用される装置に用いられる接触検知装置であって、
前記可動体に固定された支持部材と、
前記支持部材に支持され、前記可動体の一部を覆うカバー部材と、
前記支持部材と前記カバー部材との間に介在し、前記カバー部材に作用する力のうち、前記カバー部材を並進運動させようとする力を検知する検知機構と、を備え、
前記検知機構は、
前記支持部材と前記カバー部材とを連結する連結部と、
前記連結部の弾性変形を検出する複数の検出素子を含
む検知回路であって、前記カバー部材に力のモーメントが作用する場合の前記複数の検出素子の出力が互いに相殺され
、且つ、前記カバー部材に軸力が作用する場合の前記複数の検出素子の出力は互いに相殺されないように構成された検知回路と、を有する、
ことを特徴とす
る接触検知装置。
【請求項5】
第1方向から視て、前記カバー部材が前記支持部材の外周を囲むように配置され、
前記連結部は、前記第1方向に直交する第2方向に沿って延びる第1ビーム及び第2ビームと、前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向に沿って延びる第3ビーム及び第4ビームとを含み、前記第1方向から視て前記第1乃至第4ビームが前記支持部材から十字状に広がって前記カバー部材に向かって延びるように配置され、
前記複数の検出素子が前記第1乃至第4ビームの各側面に装着された歪みゲージであり、
前記検知回路は、
前記第1乃至第4ビームの、前記第1方向における各側面に貼り付けられた歪みゲージにより構成される第1のブリッジ回路と、
前記第1ビーム及び前記第2ビームの、前記第2方向における各側面に貼り付けられた歪みゲージにより構成される第2のブリッジ回路と、
前記第3ビーム及び前記第4ビームの、前記第3方向における各側面に貼り付けられた歪みゲージにより構成される第3のブリッジ回路と、を含む、
ことを特徴とする、請求項
4に記載の接触検知装置。
【請求項6】
前記検知機構は、前記カバー部材と前記連結部との間に介在し、前記カバー部材に外力が加わった場合に前記連結部と共に弾性変形する板バネを有する、
ことを特徴とする、請求項
4又は
5に記載の接触検知装置。
【請求項7】
被検体へ向けて放射線を照射する線源と、
前記線源を支持した状態で回動し、被検体に対する放射線の照射角度を変更可能なアームと、
前記アームに固定された支持部材及び前記線源を覆うカバー部材を有し、前記カバー部材に対する物体の接触を検知可能な、請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の接触検知装置と、を備える、
ことを特徴とする放射線照射装置。
【請求項8】
前記線源が放出する放射線から、前記アームの位置に追従して被検体の特定部位を遮蔽する遮蔽装置を備え、
前記遮蔽装置が前記カバー部材に取付けられている、
ことを特徴とする請求項
7に記載の放射線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を用いて診断又は治療を行うための装置に用いられる接触検知装置、及び接触検知装置を備えた放射線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線を用いて患者の体内を診断するX線診断装置や、高エネルギー線を病変部に照射することで治療を行う放射線治療装置等の、放射線を用いる医療用の装置には、装置の可動部と患者、術者、及び設備等との衝突を防止するために、障害物との接触を検知する接触検知装置が設けられている。例えば特許文献1には、C型アームの両端部にX線管とX線受像機とが配置されたX線撮影装置において、機械式スイッチによって物体の接触を検知する接触式センサと、静電容量方式の非接触式センサとを併用して、X線管及びX線受像機に対する物体の接触又は接近を検知することが記載されている。
【0003】
また、放射線を用いて治療又は診断を行う装置には、可動部に付属機器を搭載した状態で使用されるものがある。特許文献2には、頭部インターベンショナルラジオロジー(IVR)に用いられる血管造影装置のX線管保護カバーに装着され、C型アームの偏角に追従して患者の水晶体を遮蔽し、水晶体被ばくを低減するための遮蔽装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4840011号公報
【文献】特許第5013373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のC型アームのような角度を変更可能な可動体に接触検知装置を設ける場合において、可動体の角度によっては接触検知装置の検知精度が低下することがあった。即ち、可動体の一部を覆うカバー部材に加わる外力を機械式スイッチ又は電気的センサによって検知する構成において、可動体の角度が変化すると、カバー部材自身の重量や、カバー部材に付属する物体の重量により、カバー部材を回転運動させようとする力のモーメントが発生する。カバー部材に付属する物体としては、特許文献2に記載の遮蔽装置の他、装置の汚染を防ぐためのビニールシート等が挙げられる。そして、このような力のモーメントに起因して、実際には物体と接触していない状態で接触が検知される場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、可動体の角度によらず高い検知精度を確保することのできる接触検知装置、及びこの接触検知装置を備えた放射線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る接触検知装置(10)は、
被検体に放射線を照射する線源(3)と、被検体に対する前記線源(3)の相対角度を変更するための可動体(7)とを備え、被検体の診断又は治療に使用される装置(1)に用いられる接触検知装置であって、
前記可動体(7)に固定された支持部材(12,13)と、
前記支持部材(12,13)に支持され、前記可動体(7)の一部を覆うカバー部材(3c)と、
前記支持部材(12,13)と前記カバー部材(3c)との間に介在し、前記カバー部材(3c)に作用する力のうち、前記カバー部材(3c)を並進運動させようとする力を検知する検知機構(10)と、を備え、
前記検知機構(10)は、
前記支持部材(12,13)に支持されるスイッチ(15)と、
前記カバー部材(3c)と一体的に移動し、前記スイッチ(15)を作動させる移動部材(16)と、
前記支持部材(12,13)と前記カバー部材(3c)との間に介在し、前記カバー部材(3c)に外力が作用していない場合は前記移動部材(16)が前記スイッチ(15)から離間するように、前記カバー部材(3c)を付勢する付勢部材(19)と、
前記支持部材(12,13)と前記カバー部材(3c)との間に介在し、前記支持部材(12,13)に対する前記カバー部材(3c)の並進運動を許容し、前記支持部材(12,13)に対する前記カバー部材(3c)の回転運動を規制する規制部(20)と、を有する、
ことを特徴とする。
本発明の他の一態様に係る接触検知装置(30)は、
被検体に放射線を照射する線源(3)と、被検体に対する前記線源(3)の相対角度を変更するための可動体(7)とを備え、被検体の診断又は治療に使用される装置(1)に用いられる接触検知装置であって、
前記可動体(7)に固定された支持部材(3f)と、
前記支持部材(3f)に支持され、前記可動体(7)の一部を覆うカバー部材(3c)と、
前記支持部材(3f)と前記カバー部材(3c)との間に介在し、前記カバー部材(3c)に作用する力のうち、前記カバー部材(3c)を並進運動させようとする力を検知する検知機構(30)と、を備え、
前記検知機構(30)は、
前記支持部材(3f)と前記カバー部材(3c)とを連結する連結部(b1~b4)と、
前記連結部(b1~b4)の弾性変形を検出する複数の検出素子(G11~G14,G21~G24,G31~G34,G41~G44)を含む検知回路(X,Y,Z)であって、前記カバー部材(3c)に力のモーメントが作用する場合の前記複数の検出素子(G11~G14,G21~G24,G31~G34,G41~G44)の出力が互いに相殺され、且つ、前記カバー部材(3c)に軸力が作用する場合の前記複数の検出素子(G11~G14,G21~G24,G31~G34,G41~G44)の出力は互いに相殺されないように構成された検知回路(X,Y,Z)と、を有する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る接触検知装置によれば、可動体の角度が変化する際に、カバー部材自身の重量やカバー部材に付属する物体の重量等によってカバー部材を回転運動させようとする力が生じる場合であっても、検知機構により、カバー部材に作用する力のうち、カバー部材を並進運動させようとする力が検知される。従って、可動体の角度によらず、高い精度で物体との接触を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】照射部に取付けられた状態(a)及び取外された状態(b)の保護カバーを示す斜視図。
【
図5】検知ユニットの従来構成を示す概略図(a)及び回転力の影響を説明するための概略図(b)。
【
図6】実施例1に係る検知ユニットの構成及び作用を説明するための概略図(a~d)。
【
図7】実施例2に係る接触検知部の斜視図(a)及び平面図(b)。
【
図8】実施例2に係る検知ユニットの平面図(a)及び斜視図(b)。
【
図9】実施例2に係る検知ユニットの断面図(a)、平面図(c)及び側面図(b,d)。
【
図10】実施例2に係る検知ユニットについて行った構造解析について説明するための図。
【
図11】実施例2に係るブリッジ回路の構成を示す回路図(a~c)。
【
図12】実施例2に係る接触検知部において、外力に対する歪みゲージの変形と各ブリッジ回路の出力との関係を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る接触検知装置及び放射線照射装置について説明する。本接触検知機構は、放射線を用いて患者の診断又は治療を行う医療用装置において、装置と被検体との衝突を防止する衝突防止機構として好適に用いることができる。
【0011】
図1は、放射線を用いて診断又は治療を行う装置の一例として、IVRに用いられる血管造影装置1を示している。血管造影装置1は、X線を用いて被検者の体内を透視するX線撮影装置であり、被検体へ向けてX線を照射する線源としての照射部3と、X線を検出する検出部としての検出器5と、を備えている。撮像系を構成する照射部3及び検出器5は、互いに対向する位置関係にあり、C字状のC型アーム7によって支持されている。
【0012】
可動体の一例であるC型アーム7は支持部8によってR2方向に回動可能に支持され、支持部8は床面に支持された基台9によってR1方向に回動可能に支持されている。従って、血管造影装置1は、C型アーム7をR1方向及びR2方向に旋回させることで、被検体に対する撮像系の相対角度を変更し、任意の角度から被検体を撮影することができる。
【0013】
図2に示すように、照射部3にはX線源であるX線管3aが内蔵されている。X線管3aから放出されるX線は、コリメータ3bによって適切な照射範囲に絞られた状態で、撮影台6の上の被検体に向けて照射される。また、X線管3a及びコリメータ3bを保護する保護カバー3cには、後述の遮蔽装置4が取り付けられる場合がある。被検体を透過したX線は、例えばフラットパネル型検出器(FPD)のような検出器5によって電気信号に変換される。
【0014】
血管造影装置1と共に用いられるコンピュータには、撮影システムの全体を統括制御する主制御部101が設けられている。主制御部101は、中央演算装置(CPU)を含む制御回路によって構成され、記憶部114に記憶されたプログラムを読出して実行する。そして、キーボート又はタッチパネル等の入力部112を介して入力される術者の指示に基づいて、血管造影装置1の動作を制御する。即ち、主制御部101は、指定された撮影角度に従ってC型アーム7を移動させると共に、X線管制御部103によるX線管3aへの電圧出力を指示してX線照射の有無及び線量を制御する。検出器5から出力されたX線検出信号は、画像生成部105によって画像データに変換されて主制御部101に入力され、X線透視画像(医用画像)として液晶モニタ等の表示部113に表示される。
【0015】
(接触検知部)
図2に示すように、血管造影装置1には、保護カバー3cが障害物に接触したこと検知可能な接触検知部10が設けられている。主制御部101は、接触検知部10が物体の接触を検知した場合、C型アーム7の移動を緊急停止させ、さらに表示部113に警告メッセージを表示させる等、安全性を確保するために必要な処理を実行する。これにより、装置と、障害物となる患者、術者又は設備との衝突が防止される。
【0016】
図3に示すように、保護カバー3cは、コリメータ3bが取り付けられているC型アーム7のフレームに装着され、X線の照射方向に向かって(図中上方に向かって)取外し可能である。接触検知部10は、装着状態の保護カバー3cの内側に配置される。
図4に示すように、接触検知部10は、撮像軸P(X線管3aと検出器5の中心位置とを結ぶ軸線)の方向をZ軸方向とした場合に、撮像軸Pに対して周方向の4カ所に配置された検知ユニット11を備えている。各検知ユニット11は90度間隔で均等に配置され、C型アームに固定されたリング状の支持リング12,13の間に設けられている。
【0017】
図5(a)は従来の検知ユニット110の構成を示す概略図である。この検知ユニット110は、保護カバー3cに連動するドグ16が機械式のリミットスイッチであるスイッチ15を作動させることで、保護カバー3cに対する物体の接触を検知するように構成されている。ドグ16は、支持リング12に固定されたガイド体18にバネ19,19を介して懸下され、連結部16b,16bにおいて保護カバー3cに連結されている。従って、保護カバー3cが物体に接触していない非接触状態において、保護カバー3cの重量は各検知ユニット110のバネ19によって支持される。これにより、カバー部材である保護カバー3cは、可動体(C型アーム7)に固定された支持部材である支持リング12,13に対して任意の方向に揺動可能である。
【0018】
物体との接触により保護カバー3cがZ軸の負の方向に押し込まれた場合、ドグ16が板バネの端部15aを押圧して接点15bが接触することで、スイッチ15がON信号を発する。言い換えると、バネ19のバネ定数は、保護カバー3cに対して閾値以上の外力が加わった場合に検知ユニット110が作動するように設定されている。また、ガイド体18には、ドグ16の凸部16aに対向する位置に凹状のガイド面18aが設けられている。ドグ16の凸部16a及びガイド面18aの形状は、ドグ16がZ軸に垂直な方向に移動する場合に凸部16aに摺接することで、ドグ16をZ軸の負の方向に変位させてスイッチ15を作動させるための摺接部として機能する。
【0019】
ところが、このような検知ユニット110を用いて接触検知部10を構成し、C型アーム7を回動させた場合に、誤って物体との接触が検知される場合があった。即ち、C型アーム7がホームポジションにある状態(撮像軸Pが重力方向に平行となる状態)では予期された通りの検知結果が得られる場合であっても、C型アーム7を傾けた状態では保護カバー3cに対してわずかな荷重が作用したときに、何らかの物体と接触したと判定されてしまうことがあった。
【0020】
特に、血管造影装置1は保護カバー3cに他の物体が付属した状態で使用される場合があり、このような物体の重量をも考慮して検知精度を確保することが求められていた。例えば、IVRにおいて、患者の血液や薬品による汚染を避けるため、保護カバー3cをビニールシート等で覆った状態で施術することが行われている。また、保護カバー3cに付属機器を取付ける場合もある。
【0021】
図2には、保護カバー3cに装着される付属機器の例として、患者の特定部位(例えば、X線に対する感受性が高い水晶体)の被ばくを低減するための遮蔽装置4を図示している。遮蔽装置4は、鉛等の遮蔽効果の高い材料からなる遮蔽板4a,4aと、各遮蔽板4aを移動させるための駆動機構とを備えている。遮蔽装置4を制御する遮蔽装置制御部104は、主制御部101からもたらされるC型アーム7の位置情報に応じて駆動機構を制御することで、C型アーム7の位置に追従して、X線管3aと患者の特定部位とを結ぶ経路上に遮蔽板4a,4aを移動させる。
【0022】
このように保護カバー3cに他の物体が載置された状態では、当該物体の重量により、非載置状態に比べて保護カバー3cの見かけ上の重心位置が
図5(b)における上方にずれた状態となる。この場合、C型アーム7がホームポジションから移動した状態では、偏角の大きさに応じて、保護カバー3cを回転させようとする力のモーメント(回転力)が発生する。すると、
図5(b)に示すように、一方のバネ19に荷重が集中し、このバネ19についてはあたかもバネ定数が2分の1になったかのような振る舞いを見せる。また、4カ所に配置された検知ユニット11のうち、一部の検知ユニット11に荷重が集中するため、各検知ユニット11の出力信号が外力の大きさに応じて切換わらない状況が生じてしまう。その結果、保護カバー3cに対してわずかな外力が作用する場合、又は外力が作用していない場合であっても、スイッチ15が作動してしまい、誤って物体の接触が検知されてしまう。
【0023】
上述の遮蔽装置4の構成例では、各遮蔽板4aを移動するためのモータ及びレール、並びに遮蔽板4aの位置制御のためのセンサ及び電子回路等により、2kg程度の重量がある。これを従来の検知ユニット110を備えた血管造影装置1に搭載して検討した結果、15度程度の偏角で物体との接触が誤検知され得る状態となった。
【0024】
そこで、本発明は、保護カバー3cに作用する回転力の影響を取除いて、保護カバー3cを並進運動させようとする力を検知可能な検知機構を配置することで、接触検知部の検知精度を向上させている。以下、接触検知部の構成例について、順に説明する。
【実施例1】
【0025】
第1の構成例(実施例1)に係る接触検知部10は、機械式の検知機構である検知ユニット11を備えた接触検知装置である。
図6(a)に示すように、検知ユニット11は、
図5を用いて説明したものと同様のスイッチ15、ドグ16、ガイド体18及びバネ19,19を備えている。4つの検知ユニット11のドグ16は、例えば撮像軸Pを中心とするリング状の部材(ドグリング)として構成され、保護カバー3cを照射部3に装着した状態では保護カバー3cと一体的に移動する。
【0026】
これらに加えて、各検知ユニット11は、ドグ16の移動モードを規制する規制部としての規制機構20を備えている。規制機構20は、保護カバー3cを剛体として考えた場合に、保護カバー3cの並進運動を許容する一方でその回転運動を規制することで、保護カバー3cに作用する回転力の影響を取除く。
【0027】
ドグ16はカバー部材(保護カバー3c)と一体的に移動してスイッチ15を作動させる移動部材に相当し、バネ19は、カバー部材に外力が作用していない場合に移動部材がスイッチから離間するようにカバー部材を付勢する付勢部材に相当する。なお、バネ19がドグ16に連結される構成に代えて、カバー部材に連結される構成としてもよく、コイルスプリング以外の付勢部材(例えば、板バネやウレタンゴム等の弾性体)を用いてもよい。
【0028】
以下、規制機構20の構成及び作用について説明するが、
図6の各図(a)~(d)は、
図4における右上の検知ユニット11を示しており、座標軸の方向は
図4と対応している。この検知ユニット11を構成する部材間の位置関係を説明するため、撮像軸Pの方向をZ軸方向とし、撮像軸Pに垂直な平面において互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向とする座標系を用いる。なお、上述した通り、検知ユニット11は撮像軸Pの周囲の4カ所にそれぞれ設けられており、各検知ユニット11は撮像軸Pを回転中心として回転対称な構成を有する。従って、以下の説明は、撮像軸Pを中心として90度ずつ回転させることにより、他の3つの検知ユニット11に対してそのまま当てはまる。
【0029】
図6の各図に示すように、規制機構20は、ドグ16の凸部16aを挟んだX軸方向の両側に設けられている。各規制機構20は、上側の支持リング12から吊下げられた平行バー21と、平行バー21に支持されるシリンダ22と、ドグ16に設けられ、シリンダ22に係合するピン23とによって構成される。
【0030】
平行バー21はY軸方向に沿って延びる棒状の部材であり、平行バー21の長手方向の両端部は、ワイヤー21a,21aによって上側の支持リング12から吊下げられている(
図6(c)参照)。従って、ドグ16がスイッチ15を作動させる移動方向(Z軸方向)を第1方向とした場合、平行バー21は、第1方向に直交する第2方向(
図6の検知ユニットではX軸方向)に沿って移動可能(揺動可能)な第1部材として機能する。
【0031】
シリンダ22は、上部に形成された嵌合穴において平行バー21に嵌合し、平行バー21に対して第1方向及び第2方向に直交する第3方向(
図6の検知ユニットではY軸方向)に摺動可能である。従って、支持リング12,13との関係で考えた場合、シリンダ22はXY平面における任意の方向に移動可能であり、第2方向及び第3方向に相対移動可能な第2部材として機能する。
【0032】
シリンダ22の内側には、Z軸方向に延びる円筒面22aが形成されており、ドグ16からZ軸方向に突出する円柱状のピン23に係合している。ドグ16がZ軸方向に移動する場合、ピン23がシリンダ22の円筒面22aに対して摺動する。つまり、移動部材であるドグ16は、第2部材であるシリンダ22に対して第1方向(Z軸方向)に相対移動可能に係合している。
【0033】
このような構成を備えた規制機構20,20は、以下のようにして保護カバー3cが並進運動することを許容する。
(1)保護カバー3cがZ軸方向に押圧された場合(
図6(a))、ピン23,23をシリンダ22,22に摺動させながらドグ16がバネ19,19の付勢力に抗してZ軸方向に移動し、スイッチ15を作動させる。
(2)保護カバー3cがX軸方向に押圧された場合(
図6(b))、平行バー21,21が平行性を保ったままX軸方向に揺動することで、ドグ16がX軸方向に移動する。そして、ドグ16の凸部16aがガイド面18aに摺接することにより、X軸方向の移動に伴ってドグ16がZ軸方向に変位し、スイッチ15を作動させる。
(3)保護カバー3cがY軸方向に押圧された場合(
図6(d))、シリンダ22が平行バー21に対してY軸方向に摺動することで、ドグ16がY軸方向に移動する。そして、隣接する検知ユニット11においてドグ16の凸部16aがガイド面18aに摺接することにより、Y軸方向の移動に伴ってドグ16がZ軸方向に変位し、スイッチ15を作動させる。
【0034】
なお、上記(3)について、本実施例では検知ユニット11の小型化を図るため、各検知ユニット11の凸部16a及びガイド面18aが、保護カバー3cの1方向のみ(
図6の例ではX軸方向)の移動をZ軸方向の変位に変換する構成としたが、凸部16a及びガイド面18aを円錐状又は角錐状とすることでXY平面上の任意の方向への移動をZ軸方向の変位に変換する構成としてもよい。
【0035】
外力が座標系の軸方向に対して傾斜した向きに作用する場合、上記(1)~(3)が合成された動きにより、結果として保護カバー3cがZ軸方向に変位し、スイッチ15を作動させる。即ち、外力の向きに依らず、保護カバー3cを並進運動させようとする所定値以上の力(バネ19,19の付勢力に抗してドグ16がスイッチ15に接触する大きさの力)が作用すると、スイッチ15が作動し、保護カバー3cに何らかの物体が接触したことが検知される。
【0036】
一方、規制機構20,20は、保護カバー3cが支持リング12,13に対して回転運動することを規制する。即ち、ドグ16が回転しようとするとピン23がシリンダ22の円筒面22aに干渉するため、ドグ16の回転変位が規制され、ドグ16は座標系に対する姿勢を保ったまま移動する。そして、保護カバー3cに作用する力のモーメントによらず、保護カバー3cを並進運動させようとする力の大きさが所定値以上である場合にスイッチ15が作動することになる。
【0037】
即ち、本実施例の規制機構20は、保護カバー3cの並進運動は許容する一方で、保護カバー3cの回転運動を規制する。これにより、スイッチ15の押圧方向(Z軸方向)以外の外力に対しても反応するという検知機構の特性を損なうことなく、保護カバー3cに作用する回転力による検知精度の低下を抑制する。従って、C型アームの偏角が大きい場合であっても接触検知部の検知精度を確保することができる。
【0038】
(変形例)
以上の実施例1では、同等の構成を備えた検知ユニット11が撮像軸Pの周囲の4カ所に配置される構成としたが、本発明はこれ以外の形態で実施してもよい。例えば、撮像軸Pを中心とする正N角形(N≠4)の頂点に検知ユニット11を配置する代替構成が考えられる。また、実施例1では規制機構20がスイッチ15を作動させる移動部材(ドグ16)に係合してその回転変位を規制する構成としたが、保護カバー3cに直接的に係合して保護カバー3cの回転変位を規制する構成としてもよい。また、部材間の回転変位を規制する機構は、ピンとシリンダの係合によるものに限らず、例えば平行リンクやレールを用いてもよい。
【0039】
また、実施例1における保護カバー3cは3軸方向のいずれの方向にも移動可能であるが、カバー部材が装着される可動体の移動方向が制限される場合等、物体の接触を検知すべき方向が先験的に定まっている場合もある。そのような場合には、検知すべき方向にカバー部材の移動方向を制限すると共に、カバー部材の移動可能な方向について並進運動を許容する規制部を設けてもよい。(例えば、
図6に示す規制機構20の平行バー21を支持リング12に固定すれば、Z軸方向及びY軸方向の移動を許容しつつ回転運動を規制する構成となる。)
【実施例2】
【0040】
次に、第2の構成例(実施例2)に係る接触検知部の構成について、
図7~
図12を用いて説明する。本実施例に係る接触検知部30は、実施例1と同様に、照射部3をカバーする保護カバー3c(
図1、
図2参照)に対する物体の接触を検知するための接触検知装置である。この接触検知部30は、歪みゲージを用いて保護カバー3cを並進運動させようとする力を電気的に検知する点で実施例1と異なっている。以下、実施例1と共通する要素には実施例1と同じ参照符号を付して説明を省略する。
【0041】
図7(a)、(b)に示すように、本実施例の接触検知部30は、C型アーム7のフレームに固定された支持部材である内側リング3fと、保護カバー3cが取り付けられる外側リング3gと、4つの検知ユニットG1,G2,G3,G4を含む検知機構31とによって構成さる。各検知ユニットG1~G4は、内側リング3f及び外側リング3gを連結する連結部としてのビームb1,b2,b3,b4をそれぞれ備えている。また、検知機構31には、各ビームb1~b4に装着された歪みゲージによって構成される後述のブリッジ回路が含まれる。
【0042】
保護カバー3cが照射部3に装着された状態で、外側リング3gは撮像軸Pを中心として内側リング3fの外側を囲むように配置される。検知ユニットG1~G4は、撮像軸Pの方向であるZ軸方向から視て、90度ずつ離れた4カ所に配置されており、4本のビームb1~b4は撮像軸Pから十字状に延びて内側リング3fと外側リング3gを連結している。つまり、撮像軸Pの方向を第1方向とした場合、4つのビームb1~b4は、第1方向に直交する第2方向(X軸方向)と、第1方向及び第2方向に直交する第3方向(Y軸方向)とに沿って十字状に配置されている。
【0043】
代表例として検知ユニットG1を
図8(a)、(b)に示すように、各検知ユニットG1~G4は、内側リング3fにビス等で固定される第1ブロック35と、外側リング3gにビス等で固定される第2ブロック36と、第2ブロック36に取付けられた板バネ33と、第1ブロック35と板バネ33とを連結するビームb1と、を備える。
【0044】
図9(a)~(d)に示すように、角柱状のビームb1の各側面には、グリッドの方向がビームb1の長手方向と平行となる向きで4つの歪みゲージG11,G12,G13,G14が貼り付けられている。他の検知ユニットG2,G3,G4についても、ビームb2~b4の各側面に4つの歪みゲージが装着されている。保護カバー3cに伴って外側リング3gが内側リング3fに対して変位すると、各検知ユニットG1~G4のビームb1に弾性変形が生じる。これらの歪みゲージは、起歪体であるビームb1~b4の歪みに応じて抵抗値が変化し、後述の検知回路の出力を変化させる。
【0045】
図10は保護カバー3cにX軸方向の外力が加えられた場合に検知ユニットG1に生じる歪みについて、コンピュータ上でシミュレートした結果を表している。この場合、第1ブロック35に対して第2ブロック36がX軸の正方向に変位し、ビームb1のX軸の負方向の側面b11が引伸ばされ、X軸の正方向の側面b13が圧縮される。従って、これらの側面b11,b13に貼り付けられる歪みゲージG11,G13の抵抗値が変化する。一方、Z軸方向の側面b12,b14に貼り付けられるG12,G14の抵抗値はほとんど変化しない。
【0046】
板バネ33は、ビームb1の長手方向に関する保護カバー3cの変位を吸収する機能を有する。即ち、保護カバー3cに対してY軸の正方向又は負方向の外力が作用する場合、
図10の検知ユニットG1において、第1ブロック35に対する第2ブロック36の変位は主に板バネ33の弾性変形によって吸収され、ビームb1の各側面b11~b14の変形量は無視できる程度に小さく抑えられる。なお、この場合、隣接する検知ユニットG2,G4に設けられたビームb2,b4が弾性変形することになる。
【0047】
各検知ユニットG1~G4に配置される歪みゲージを用いて構成される、保護カバー3cを並進運動させようとする力の大きさを検知するための検知回路について、
図11及び
図12を用いて詳しく説明する。
【0048】
以下の説明において、歪みゲージの位置を「Gmn」(m=1,2,3,4、n=1,2,3,4)の形の参照符号で特定する。ただし、mは当該歪みゲージが装着されたビームb1~b4を表し、nは当該歪みゲージが装着されているビームの側面を表す。以下、
図7の配置に従って、4本のビームを第1ビームb1、第2ビームb2、第3ビームb3、第4ビームb4と区別する。
【0049】
歪みゲージGm2(G12,G22,G32,G42)は各ビームb1~b4のZ軸の負方向の側面に装着され、歪みゲージGm4(G14,G24,G34,G44)は各ビームb1~b4のZ軸の正方向の側面に装着される。言い換えると、歪みゲージGm2はビームb1~b4がZ軸の正方向に向かって撓む場合に伸びる側面に貼付され、歪みゲージGm4はビームb1~b4がZ軸の正方向に向かって撓む場合に圧縮される側面に貼付されている。
【0050】
歪みゲージG11,G13,G31,G33は、第1ビームb1及び第3ビームb3におけるX軸方向のいずれかの側面に配置される。このとき、第1ビームb1及び第3ビームb3がX軸の正方向に向かって撓む場合に伸びる側面に貼付された歪みゲージがn=1となり、同様の場合に圧縮される側面に貼付された歪みゲージがn=3となるような配置が選択される。即ち、
図12を参照して、保護カバー3cにX軸の正方向の外力+Fxが加わる場合、G11,G31が伸び(+)、G13,G33が圧縮される(-)ような配置が選択される。
【0051】
同様に、歪みゲージG21,G23,G41,G43は、第2ビームb2及び第4ビームb4におけるY軸方向のいずれかの側面に配置される。このとき、第2ビームb2及び第4ビームb4がY軸の正方向に向かって撓む場合に伸びる側面に貼付された歪みゲージがn=1となり、同様の場合に圧縮される側面に貼付された歪みゲージがn=3となるような配置が選択される。
【0052】
このような歪みゲージの配置の下で、保護カバー3cに作用する3軸方向の力を検出するためのブリッジ回路を
図11(a)~(c)のように構成する。X軸方向の力を検出するブリッジ回路(ブリッジX)は、第1ビームb1及び第3ビームb3のX軸方向における各側面に配置された歪みゲージG11,G13,G31,G33によって構成される。Y軸方向の力を検出するブリッジ回路(ブリッジY)は、第2ビームb2及び第4ビームb4のY軸方向における各側面に配置された歪みゲージG21,G23,G41,G43によって構成される。Z軸方向の力を検出するブリッジ回路(ブリッジZ)は、各ビームb1~b4のZ軸方向における各側面に配置された歪みゲージGm2,Gm4によって構成される。なお、
図11(c)に図示された4つの歪みゲージは、それぞれ2つの歪みゲージを直列につないだ構成を表している。また、各ブリッジ回路が出力する出力電圧e0は、差動増幅回路等の増幅回路によって増幅されて主制御部101(
図2参照)に伝達される。主制御部101は、ブリッジ回路から入力される電圧値に基づいて、保護カバー3cに所定値以上の外力が加わっていると判断した場合に、保護カバー3cに物体が接触したと判定する。
【0053】
図12は、これら3つのブリッジ回路に対してE[V]の電圧を印加した状態で、保護カバー3cに対して軸方向の力(軸力)又はモーメントを作用させた場合の、各ブリッジ回路の出力電圧e0を表す表である。表中、「+」は歪みゲージが伸びた状態であることを表し、「-」は歪みゲージが圧縮された状態であることを表し、「N」は無視できる程度の伸び量又は圧縮量であることを表す。
【0054】
(X軸方向の軸力に対する応答)
保護カバー3cにX軸の正方向の力(+Fx)が作用する場合、歪みゲージG11,G31は伸び、歪みゲージG13,G33は圧縮される。このとき、
図11(a)に示す回路構成により、ブリッジXの出力電圧e0は正の値となる。逆に、保護カバー3cにX軸の負方向の力(-Fx)が作用する場合、歪みゲージG11,G31が圧縮され、歪みゲージG13,G33が伸びることから、ブリッジXの出力電圧e0は負の値となる。
【0055】
これ以外の、ブリッジY,Zを構成する歪みゲージは、X軸方向の力(±Fx)によってはほとんど抵抗値が変化しない。これは、第2ビームb2及び第4ビームb4の歪みゲージG2n,G4nについては、板バネ33の弾性変形によってX軸方向における保護カバー3cの変位が吸収され、第2ビームb2及び第4ビームb4の伸張又は圧縮がほとんど起こらないためである。また、歪みゲージG12,G32,G14,G34については、第1ビームb1及び第3ビームb3がX軸のいずれかの方向に向かって撓んだとしても、これらのビームb1,b3の変形方向が、歪みゲージG12,G32,G14,G34の抵抗変化を引き起こさない方向であるためである。即ち、例えば
図10において、側面b12,b14に装着される歪みゲージG12,G14の抵抗変化は微小である。
【0056】
(Y軸方向の軸力に対する応答)
保護カバー3cにY軸の正方向の力(+Fy)が作用する場合、歪みゲージG21,G41は伸び、歪みゲージG23,G43は圧縮される。このとき、
図11(b)に示す回路構成により、ブリッジYの出力電圧e0は正の値となる。逆に、保護カバー3cにY軸の負方向の力(-Fy)が作用する場合、歪みゲージG21,G41が圧縮され、歪みゲージG23,G43が伸びることから、ブリッジYの出力電圧e0は負の値となる。
【0057】
これ以外の、ブリッジX,Zを構成する歪みゲージは、Y軸方向の力(±Fy)によってはほとんど抵抗値が変化しない。これは、第1ビームb1及び第3ビームb3の歪みゲージG1n,G3nについては、板バネ33の弾性変形によってY軸方向における保護カバー3cの変位が吸収され、第1ビームb1及び第3ビームb3の伸張又は圧縮がほとんど起こらないためである。また、歪みゲージG22,G42,G24,G44については、第2ビームb2及び第4ビームb4がY軸のいずれかの方向に向かって撓んだとしても、各歪みゲージの抵抗値がほとんど変化しないためである。
【0058】
(Z軸方向の軸力に対する応答)
保護カバー3cにZ軸の正方向の力(+Fz)が作用する場合、歪みゲージGm2は伸び、歪みゲージGm4は圧縮される。このとき、
図11(c)に示す回路構成により、ブリッジZの出力電圧e0は正の値となる。逆に、保護カバー3cにZ軸の負方向の力(-Fz)が作用する場合、歪みゲージGm2が圧縮され、歪みゲージGm4が伸びることから、ブリッジZの出力電圧e0は負の値となる。
【0059】
これ以外の、ブリッジX,Yを構成する歪みゲージGm1,Gm3は、Z軸方向の力(±Fz)によってはほとんど抵抗値が変化しない。これは、各ビームb1~b4の変形方向が、これらの歪みゲージGm1,Gm3の抵抗変化を引き起こさない方向であるためである。
【0060】
(力のモーメントに対する応答)
ここで、保護カバー3cに力のモーメントが作用する場合について考える。
図7(b)に示すようなX軸回りのモーメントMxが作用する場合、第1ビームb1はZ軸の負方向に向かって撓み、第3ビームb3はZ軸の正方向に向かって撓み、第2ビームb2及び第4ビームb4はほとんど変形しない。このとき、第1ビームb1及び第3ビームb3の歪みゲージG12,G32,G14,G34は
図12のモーメントMxの欄に示すように変形する。
図11(c)に示す回路構成の下では、モーメントMxによって伸びる歪みゲージG32,G14と圧縮される歪みゲージG12,G34とがペア(G12+G32,G14+G34)になっているため、個々の歪みゲージの抵抗変化は相殺される。結果として、モーメントMxが保護カバー3cに作用する場合のブリッジZの出力電圧e0の値はほぼゼロとなる。
【0061】
同様に、Y軸回りのモーメントMyが作用する場合、第2ビームb2はZ軸の負方向に向かって撓み、第4ビームb4はZ軸の正方向に向かって撓み、第1ビームb1及び第3ビームb3はほとんど変形しない。このとき、第2ビームb2及び第4ビームb4の歪みゲージG22,G42,G24,G44は
図12のモーメントMyの欄に示すように変形する。
図11(c)に示す回路構成の下では、モーメントMyによって伸びる歪みゲージG24,G42と圧縮される歪みゲージG22,G44とがペア(G22+G42,G24+G44)になっているため、個々の歪みゲージの抵抗変化は相殺される。結果として、モーメントMyが保護カバー3cに作用する場合のブリッジZの出力電圧e0の値はほぼゼロとなる。
【0062】
さらに、Z軸回りのモーメントMzが作用する場合、各ビームb1~b4は一定の回転方向(
図7(b)における時計回り方向)に向かって撓む。このとき、各ビームb1~b4の歪みゲージGm1,Gm3は、
図12のモーメントMzの欄に示すように変形する。
図11(a)に示す回路構成の下では、モーメントMzによって歪みゲージG11,G13が伸び、歪みゲージG31,G33が圧縮されたとしても、出力電圧e0はほぼ0となる。同様に、
図11(b)に示す回路構成の下では、モーメントMzによって歪みゲージG21,G23が伸び、歪みゲージG41,G43が圧縮されたとしても、出力電圧e0はほぼ0となる。つまり、モーメントMzに起因する個々の歪みゲージの抵抗変化は、ブリッジX,Yの回路内で相殺される。
【0063】
まとめると、
図12に示すように、ブリッジX,Y,Zは、保護カバー3cに作用している力のうち、軸回りの分力であるモーメントMx,My,Mzの大きさに関わらず、対応する軸方向の分力である軸力Fx,Fy,Fzの大きさに応じた電圧を出力する。つまり、第1方向(Z軸方向)の軸力は第1のブリッジ回路(ブリッジZ)によって検知され、第2方向(X軸方向)の軸力は第2のブリッジ回路(ブリッジX)によって検知され、第3方向(Y軸方向)の軸力は第3のブリッジ回路(ブリッジY)によって検知される。従って、接触検知部30は、C型アーム7の偏角に応じて保護カバー3cに作用する力のモーメントが変化する場合であっても、ブリッジX,Y,Zの出力電圧の変化を監視することで、保護カバー3cに対する物体の接触を高い精度で検知することができる。
【0064】
また、各ブリッジX,Y,Zの出力電圧を増幅する増幅回路の利得を調節するための構成を設けることで、物体の接触が検知される荷重の最小値(検出閾値)を容易に変更することができる。従って、例えば、
図2に示す遮蔽装置4のように保護カバー3cに付属物が着脱される構成において、付属物の有無に応じて検出閾値を切換えることで、付属物の装着状態と取外し状態のそれぞれにおける検知精度を確保することができる。
【0065】
また、本実施例における検知回路であるブリッジX~Zは、保護カバー3cの変位量が一定の閾値を超えた際に初めて機械的スイッチのON,OFF信号が切換わる実施例1の構成とは異なり、保護カバー3cに加わる外力の大きさに応じたアナログの出力値である電圧値を出力する。従って、保護カバー3cに加わる外力の大きさの絶対値だけではなく、外力の大きさの変化の度合いを監視することで、保護カバー3cが物体に強く接触した状態に到る前の段階で物体との衝突の可能性を予測し、予測結果に基づいて装置の動作を制御することが可能となる。例えば、保護カバー3cに加わっている外力が、物体との接触が判定される閾値以下の範囲で徐々に大きくなる状況において、C型アーム7の旋回速度を段階的に減速することが可能である。なお、このような制御は、実施例1の構成において機械的スイッチを複数個配置すると共に、スイッチを作動させる外力の閾値がそれぞれ異なるように設定する方法でも実現可能であるが、複数個のスイッチを配置する空間を確保する必要が無い分、本実施例の構成を用いて実装するとより好適である。
【0066】
また、本実施例では、十字状に配置される4本のビームb1~b4が、互いに独立した4つの検知ユニットG1~G4に設けられる構成とした。従って、検知ユニットG1~G4の内側に広い空間を確保することが可能であり、本実施例では、検知ユニットG1~G4が取付けられる内側リング3fの内側にコリメータ3bが収容される構成とした。なお、本実施例に係る血管造影装置1以外の放射線照射装置に接触検知装置を設ける場合においても、物体との接触を検知すべき装置の構成要素の周辺部に上述の検知ユニットG1~G4を配置することにより、物体の接触を高い精度で検知することが可能となる。従って、装置の本来的な機能に必要とされる大きな構成要素(例えば、X線診断装置におけるFPD)や複雑な形状を有する構成要素に対しても、後付け的に検知ユニットG1~G4を装着することができる、汎用性の高い接触検知装置を提供することができる。
【0067】
また、金属箔がパターン配置されることで構成される歪みゲージは、半導体素子に比べて放射線に対する耐久性が高いという利点を有する。従って、本実施例の構成によれば、保護カバー3cに作用する外力を検知する目的で半導体素子を含む検知回路を用いる場合(例えば、レーザー光を用いて物体の変位を検知するレーザー変位計は測定対象物からの反射光を検知する光電変換素子を備える)に比べて、耐久性の高い接触検知装置を提供することができる。
【0068】
(変形例)
上記実施例2では、カバー部材に向かって十字状に広がるビームb1~b4に歪みゲージを装着したが、各軸方向の分力を直接的に検知し、又は演算により間接的に算出可能な構成であれば、連結部及び検出素子の配置は任意に変更してよい。
【0069】
(その他の実施形態)
以上の実施の形態では、血管造影装置1の照射部3に装着される保護カバー3cに対する物体の接触を検知する接触検知装置について説明したが、放射線を用いて診断又は治療を行うための放射線照射装置であって、被検体に対する相対角度を変更可能な可動体を有する構成であれば、任意の装置に本発明を適用可能である。言い換えると、本発明における放射線照射装置は、放射線を診断に用いるか治療に用いるかを問わず、被検者に対して放射線を照射する機能を搭載した医療用の装置一般を指す。例えば、回診用のX線診断装置においてアームの先端に接触検知装置を配置してもよい。また、線源及び検出器の位置が固定され、寝台を旋回させることで被検体と撮像系の相対角度を変更可能なX線診断装置において、寝台に対する物体の接触を検知するための接触検知装置として用いてもよい。さらに、ガンマ線等の高エネルギー線を病変部に照射することで治療を行う放射線治療装置において、照射位置を確認するための撮像系や高エネルギー線の照射装置に対する物体の接触を検知するための接触検知装置として用いてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…放射線照射装置(血管造影装置)/3…線源(照射部)/3c…カバー部材(保護カバー)/3f,12,13…支持部材(内側リング、支持リング)/4…遮蔽装置/5…検出部(検出器)/7…可動体、アーム(C型アーム)/10,30…接触検知装置(接触検知部)/11,31…検知機構(検知ユニット)/15…スイッチ/16…移動部材(ドグ)/18a…摺接部(ガイド面)/19…付勢部材(バネ)/20…規制部(規制機構)/21…第1部材(平行バー)/22…第2部材(シリンダ)/33…板バネ/b1,b2,b3,b4…連結部、第1~第4ビーム/G11~G14,G21~G24,G31~G34,G41~G44…検出素子(歪みゲージ)