IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本光電工業株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人東京女子医科大学の特許一覧

特許7130200心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキット
<>
  • 特許-心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキット 図1-1
  • 特許-心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキット 図1-2
  • 特許-心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキット 図2
  • 特許-心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキット 図3
  • 特許-心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキット 図4
  • 特許-心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキット 図5
  • 特許-心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキット 図6
  • 特許-心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキット 図7
  • 特許-心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキット 図8
  • 特許-心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキット 図9
  • 特許-心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキット 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20220829BHJP
   G01L 5/10 20200101ALN20220829BHJP
【FI】
C12M1/34 A
G01L5/10 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2017206587
(22)【出願日】2017-10-25
(65)【公開番号】P2019076046
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-10-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 医療分野研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 研究課題名:「積層化細胞シートを用いた創薬試験用立体組織モデル」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】久保 寛嗣
(72)【発明者】
【氏名】塩山 高広
(72)【発明者】
【氏名】加川 友己
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大輔
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103756898(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-42
G01L 5/00-28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイスであって、
枠部材と、膜状のゲルの一端を固定するために前記枠部材の内側面の一部に突出して設けられた第1ゲル保持部とを有する第1ゲルアダプタホルダ;
前記ゲルの他端を固定するための第2ゲル保持部と、前記第2ゲル保持部と繋がった接続部とを有する第2ゲルアダプタホルダ;
前記第1ゲル保持部と前記第2ゲル保持部との間に、前記心筋細胞を含むシート状組織を接着させるための膜状のゲル;及び
前記第2ゲルアダプタホルダの前記接続部に接続された張力検出手段
を備え、
ここで前記第2ゲルアダプタホルダは、前記第2ゲル保持部が、前記枠部材の内側において前記第1ゲル保持部と対向するように前記第1ゲルアダプタホルダに取り付けられ、
前記第1ゲル保持部が1つ以上の第1ゲル保持口を有し、前記第2ゲル保持部が1つ以上の第2ゲル保持口を有し、
ここで前記第2ゲルアダプタホルダは、前記第1ゲル保持部と前記第2ゲル保持部とが対向する軸方向にスライドする機構を有
ここで前記膜状のゲルは、固まる前の前記ゲルが前記第1ゲル保持口及び前記第2ゲル保持口に流し込まれて固まった後に、前記膜状のゲルの一端が前記第1ゲル保持部に、他端が第2ゲル保持部に固定されており、
前記第2ゲルアダプタホルダの前記接続部に接続された張力検出手段により、前記心筋細胞を含むシート状組織が拍動して収縮する力を検出する、デバイス。
【請求項2】
前記接続部は、第2ゲルアダプタホルダを、第1ゲルアダプタホルダに着脱可能に取り付けるためのL字部材が設けられている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記第1ゲル保持口及び前記第2ゲル保持口が、それぞれ2~5個設けられた、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記第1ゲル保持部及び前記第2ゲル保持部の厚さが、前記枠部材の厚さよりも薄い、請求項1~3のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記枠部材の厚さが、0.5mm~3.0mmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記第1ゲルアダプタホルダに、前記第2ゲルアダプタホルダがスライド可能な範囲を制限するためのストッパを備える、請求項1~5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記ゲルが、ハイドロゲルである、請求項1~6のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記ゲルが、フィブリンゲルである、請求項1~7のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記膜状のゲルに接着させた心筋細胞を含むシート状組織を備えた、請求項のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記シート状組織が、細胞シートである、請求項に記載のデバイス。
【請求項11】
請求項又は10に記載のデバイス;
前記デバイスを浸漬する培地槽;
前記張力検出手段に接続され、前記張力検出手段で検出した信号を演算し、張力を算出する演算器;及び、
前記演算器により算出された結果を表示する出力手段、を備えた、
心筋細胞を含むシート状組織の張力測定システム。
【請求項12】
前記張力検出手段が、ロードセルである、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
枠部材と、膜状のゲルの一端を固定するために前記枠部材の内側面の一部に突出して設けられた第1ゲル保持部とを有する第1ゲルアダプタホルダ;
前記ゲルの他端を固定するための第2ゲル保持部と、前記第2ゲル保持部と連結された又は一体となった接続部とを有する第2ゲルアダプタホルダ;
前記枠部材の内側面に沿って嵌まる1対のゲル成形凸部を有する基板;及び
前記ゲルの上面を形成するために前記基板のゲル接触面に対して平行な面を有するゲル形成蓋体、を備え、
ここで前記第2ゲルアダプタホルダは、前記第2ゲル保持部が、前記枠部材の内側において前記第1ゲル保持部と対向するように前記第1ゲルアダプタホルダに取り付けられ、
前記第1ゲル保持部が1つ以上の第1ゲル保持口を有し、前記第2ゲル保持部が1つ以上の第2ゲル保持口を有し、
ここで前記第2ゲルアダプタホルダは、前記第1ゲル保持部と前記第2ゲル保持部とが対向する軸方向にスライドする機構を有する、
請求項1~のいずれか1項に記載のデバイスを作製するためのキット。
【請求項14】
前記接続部は、第2ゲルアダプタホルダを、第1ゲルアダプタホルダに着脱可能に取り付けるためのL字部材が設けられている、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記第1ゲル保持部及び前記第2ゲル保持部の厚さが、前記枠部材の厚さよりも薄い、請求項13又は14に記載のキット。
【請求項16】
さらに、前記ゲルを作製するためのゲルを備えた、請求項15に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
創薬研究においては、開発された薬の安全性・有効性を評価するために培養細胞を用いたインビトロ試験や、実験動物を用いたインビボ試験が行われている。前者に関しては、動物細胞のインビトロ培養系が用いられている。後者は、げっ歯類の動物を中心とした実験動物を用いた系により評価が行われている。
【0003】
一般に、創薬の成功率は、約6000分の1ともいわれており、数多くの候補薬の開発失敗により、製薬会社等の研究開発コストは増大する傾向にある。一般に、1種類の新薬を開発するのに数百億円の投資が必要ともいわれる。新薬開発の失敗の主な要因は、(1)細胞単体を用いる評価スクリーニング系と実際のヒト生体組織との差異、(2)実験動物とヒトとの差異、に起因しているといわれる。これらの差異を解消し、創薬の成功率を向上させ、研究開発コストを低減することが創薬開発現場で求められている。
【0004】
近年、様々な機能細胞へ分化する能力を有するiPS細胞などの多能性幹細胞を利用した創薬スクリーニング方法が開発されている。しかしながら、従来用いられている評価系は、細胞単体を用いるものであり、生体組織の状態を反映していない。そのため、多能性幹細胞から分化誘導した体細胞から、生体組織を模倣する評価系を開発することが求められている。
【0005】
細胞を三次元的に構築する試みとしては、例えば、細胞をスキャフォールドと呼ばれる三次元構造体に播種する方法や、臓器・組織を脱細胞化し、残存したマトリックスに細胞を播種して三次元化する方法、シート状に剥離された細胞シートを三次元的に積層する方法などが開発されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
細胞シートを作製する方法の1つとして、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)が被覆された細胞培養皿(温度応答性培養皿)を用いる方法がある(特許文献1)。PIPAAmが被覆された温度応答性培養皿上で任意の細胞培養し、細胞がコンフルエントになった後に、PIPAAmの下限臨界溶液温度(LCST)である32℃未満である20℃にすると、非侵襲的にシート状の細胞(細胞シート)が得られる。
【0007】
こうした技術を駆使し、創薬スクリーニングに利用するための評価系の研究開発が行われている。評価系の1つとして、候補薬の心毒性を評価するための心筋組織を構築する試みが行われている(例えば、特許文献2及び3)。しかしながら、これらの方法による評価系の構築は、非常に煩雑であり、量産には向かない。また、筋収縮を、定量的に測定することができない。
【0008】
創薬スクリーニング系、特に、心毒性スクリーニング試験に利用可能で、かつ、量産可能で簡便な手順による新たな評価系の開発が希求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平02-211865号公報
【文献】国際公開第2012/036224号
【文献】国際公開第2012/036225号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Haraguchi Y.,et al.,Scaffold-free tissue engineering using cell sheet technology.RSC Adv.,2012;2:2184-2190
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、筋収縮を定量的に測定することを可能とし、量産可能な、心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて研究開発を行ってきた。その結果、心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイスの形態を工夫することにより、筋収縮を定量的に測定することを可能とし、量産可能な心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム及びキットを提供する本発明に至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0013】
[1] 心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイスであって、
枠部材と、膜状のゲルの一端を固定するために前記枠部材の内側面の一部に突出して設けられた第1ゲル保持部とを有する第1ゲルアダプタホルダ;
前記ゲルの他端を固定するための第2ゲル保持部と、前記第2ゲル保持部と繋がった接続部とを有する第2ゲルアダプタホルダ;を備え、
ここで前記第2ゲルアダプタホルダは、前記第2ゲル保持部が、前記枠部材の内側において前記第1ゲル保持部と対向するように前記第1ゲルアダプタホルダに取り付けられ、
ここで前記第2ゲルアダプタホルダは、前記第1ゲル保持部と前記第2ゲル保持部とが対向する軸方向にスライドする機構を有する、
デバイス。
[2] 前記第1ゲル保持部が1つ以上の第1ゲル保持口を有し、前記第2ゲル保持部が1つ以上の第2ゲル保持口を有する、[1]に記載のデバイス。
[3]
前記第1ゲル保持口及び前記第2ゲル保持口が、それぞれ2~5個設けられた、[2]に記載のデバイス。
[4]
前記第1ゲル保持部及び前記第2ゲル保持部の厚さが、前記枠部材の厚さよりも薄い、[1]~[3]のいずれか1項に記載のデバイス。
[5]
前記枠部材の厚さが、0.5mm~3.0mmである、[1]~[4]のいずれか1項に記載のデバイス。
[6] 前記第1ゲルアダプタホルダに、前記第2ゲルアダプタホルダがスライド可能な範囲を制限するためのストッパを備える、[1]~[5]のいずれか1項に記載のデバイス。
[7] 前記第1ゲル保持部と前記第2ゲル保持部との間に、膜状のゲルを備えた、[1]~[6]のいずれか1項に記載のデバイス。
[8] 前記ゲルが、ハイドロゲルである、[7]に記載のデバイス。
[9] 前記ゲルが、フィブリンゲルである、[7]又は[8]に記載のデバイス。
[10] 前記膜状のゲルに接着させた心筋細胞を含むシート状組織を備えた、[7]~[9]のいずれか1項に記載のデバイス。
【0014】
[11] 前記シート状組織が、細胞シートである、[10]に記載のデバイス。
[12] [10]又は[11]に記載のデバイス;
前記デバイスを浸漬する培地槽;
前記第2ゲルアダプタホルダの前記接続部に接続された張力検出手段;
前記張力検出手段に接続され、前記張力検出手段で検出した信号を演算し、張力を算出する演算器;及び、
前記演算器により算出された結果を表示する出力手段、を備えた、
心筋細胞を含むシート状組織の張力測定システム。
[13] 前記張力検出手段が、ロードセルである、[12]に記載のシステム。
【0015】
[14] 枠部材と、膜状のゲルの一端を固定するために前記枠部材の内側面の一部に突出して設けられた第1ゲル保持部とを有する第1ゲルアダプタホルダ;
前記ゲルの他端を固定するための第2ゲル保持部と、前記第2ゲル保持部と連結された又は一体となった接続部とを有する第2ゲルアダプタホルダ;
前記枠部材の内側面に沿って嵌まる1対のゲル成形凸部を有する基板;及び
前記ゲルの上面を形成するために前記基板のゲル接触面に対して平行な面を有するゲル形成蓋体、を備え、
ここで前記第2ゲルアダプタホルダは、前記第2ゲル保持部が、前記枠部材の内側において前記第1ゲル保持部と対向するように前記第1ゲルアダプタホルダに取り付けられ、
ここで前記第2ゲルアダプタホルダは、前記第1ゲル保持部と前記第2ゲル保持部とが対向する軸方向にスライドする機構を有する、[1]~[9]のいずれか1項に記載のデバイスを作製するためのキット。
[15] 前記第1ゲル保持部が1つ以上の第1ゲル保持口を有し、前記第2ゲル保持部が1つ以上の第2ゲル保持口を有する、[14]に記載のキット。
[16] 前記第1ゲル保持部及び前記第2ゲル保持部の厚さが、前記枠部材の厚さよりも薄い、[14]又は[15]に記載のキット。
[17] さらに、前記ゲルを作製するためのゲルを備えた、[16]に記載のキット。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、その薄さのために取り扱いが困難であった、心筋細胞を含むシート状組織の張力を簡便に測定することができるデバイスを提供する。また、当該デバイスは、心筋細胞を含むシート状組織の張力を測定するシステムに容易に組み込むことができ、再現性良く、安定的にデータを取得することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1-1】図1は、本発明の一実施形態の張力測定デバイス、基板及びゲル形成蓋体を示す図である。(A):張力測定デバイスの正面図、(B):(A)の背面図、(C):第2ゲルアダプタホルダの斜視図。
図1-2】(D):第1ゲルアダプタホルダの平面図、(E):張力測定デバイスの平面図、(F):第2ゲルアダプタホルダを上方にスライドさせた張力測定デバイスの背面図、(G):基板の正面図、(H):ゲル形成蓋体の正面図。
図2図2は、図1の各部材を組み合わせた図である。(A):図1の各部材を組み合わせる前の図、(B):図1の各部材を組み合わせた後の図である。
図3図3は、本発明の一実施形態の張力測定デバイス、基板及びゲル形成蓋体を示す図である。(A):張力測定デバイスの正面図、(B):(A)の背面図、(C):(A)の斜視図、(D):第2ゲルアダプタホルダの斜視図、(E):第1ゲルアダプタホルダの平面図、(F):張力測定デバイスの平面図、(G):基板の正面図、(H):ゲル形成蓋体の正面図。
図4図4は、図3の各部材を組み合わせた図である。(A):ゲル形成蓋体以外の図3の各部材を組み合わせる前の図、(B):(A)にゲル形成蓋体を組み合わせた後の図を示す。
図5図5は、本発明の一実施形態の張力測定デバイス、基板及びゲル形成蓋体を示す図である。(A):第1ゲルアダプタホルダの斜視図、(B):第2ゲルアダプタホルダの斜視図、(C):基板の斜視図、(D):ゲル形成蓋体の斜視図。
図6図6は、図5の各部材を組み合わせた図である。(A):ゲル形成蓋体以外の図5の各部材を組み合わせる前の図、(B):(A)にゲル形成蓋体を組み合わせた後の図を示す。
図7図7は、本発明の一実施形態の張力測定デバイスを作製するためのキットを用いた、張力測定デバイスの作製工程を示す図である。(A)~(D):張力測定デバイスの作製工程、(E):(D)で得られた張力測定デバイスの断面図。
図8図8は、本発明の一実施形態の張力測定デバイスを作製する工程を示す図である。
図9図9は、本発明の一実施形態の張力測定システムを示す図である。(A):培地槽、(B):張力測定デバイスをセットした培地槽、(C):張力検出手段コネクタに接続した張力測定デバイス、(D):張力測定システムの一部、(E):収縮した心筋細胞シートが聴力測定手段コネクタを引っ張る様子を示す図。
図10図10は、本発明の一実施形態の張力測定システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、必要に応じて図面を参照にしながら説明する。実施形態の構成は例示であり、本発明の構成は、実施形態の具体的構成に限定されない。
【0019】
<細胞を含むシート状組織>
本明細書において、「細胞を含むシート状組織」とは、生体から採取した生体組織や、細胞を含む薄膜状の組織をいう。細胞を含むシート状組織は、生体から採取した組織そのものや、生体から採取した組織をシート状に加工した生体組織であってもよい。また、細胞を含むシート状組織は、細胞を含む懸濁液とゲルとを混合させて形成したシート状組織であってもよく、細胞シートであってもよい。さらにまた、細胞を含むシート状組織とは、膜状のゲルの上面に、細胞群を直接播種し、培養することにより形成されるものであってもよい。
【0020】
本明細書において、「細胞シート」とは、複数の任意の細胞を含む細胞群を細胞培養基材上で培養し、細胞培養基材上から剥離することで得られる1層又は複数層のシート状の細胞群をいう。細胞シートを得る方法としては、例えば、温度、pH、光等の刺激によって分子構造が変化する高分子を被覆した刺激応答性培養基材上で細胞を培養し、温度、pH、光等の刺激の条件を変えて刺激応答性培養基材表面を変化させることで、細胞同士の接着状態は維持しつつ、刺激応答性培養基材から細胞をシート状に剥離する方法や、任意の培養基材上で細胞培養し、物理的にピンセット等により剥離して得る方法等が挙げられる。細胞シートを得るための刺激応答性培養基材としては、0~80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した温度応答性培養基材が知られている。温度応答性培養基材上で、ポリマーの水和力が弱い温度域で細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力が強い状態となる温度に変化させることで細胞をシート状の細胞群として剥離させることができる。
【0021】
細胞シートを得るために用いられる温度応答性培養基材は、細胞が培養可能な温度域でその表面の水和力を変化させる基材であることが好ましい。その温度域は、一般に細胞を培養する温度、例えば33℃~40℃であることが好ましい。細胞シートを得るために用いられる培養基材に被覆される温度応答性高分子は、ホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このような高分子としては、例えば、特開平2-211865号公報に記載されているポリマーが挙げられる。
【0022】
刺激応答性高分子、特に温度応答性高分子としてポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を用いた場合を例(温度応答性培養皿)に説明する。ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)は31℃に下限臨界溶解温度を有するポリマーとして知られ、遊離状態であれば、水中で31℃以上の温度で脱水和を起こしポリマー鎖が凝集して白濁する。逆に31℃未満の温度ではポリマー鎖は水和し、水に溶解した状態となる。本発明では、このポリマーがシャーレなどの基材表面に被覆されて固定されたものである。したがって、31℃以上の温度であれば、培養基材表面のポリマーも同じように脱水和するが、ポリマー鎖が培養基材表面に固定されているため、培養基材表面が疎水性を示すようになる。逆に、31℃未満の温度では、培養基材表面のポリマーは水和するが、ポリマー鎖が培養基材表面に被覆されているため、培養基材表面が親水性を示すようになる。このときの疎水的な表面は細胞が付着し、増殖できる適度な表面であり、また、親水的な表面は細胞が付着できない表面となる。そのため、該基材を31℃未満に冷却すると、細胞が基材表面から剥離する。細胞が培養面一面にコンフルエントになるまで培養されていれば、該基材を31℃未満に冷却することによって細胞シートを回収できる。温度応答性培養基材は、同一の効果を有するものであれば限定されるものではないが、例えば、セルシード社(東京、日本)が市販するUpCell(登録商標)などが挙げられる。
【0023】
<心筋細胞を含むシート状組織>
本明細書において、「心筋細胞を含むシート状組織」とは、上述の細胞を含むシート状組織に含まれる細胞数のうち、少なくとも心筋細胞が10%以上含まれるものをいい、例えば、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、99%以上含まれる。本発明において用いられる「心筋細胞を含むシート状組織」は、好ましくは拍動する心筋細胞である。本発明に用いることができる心筋細胞は動物由来のものであればよく、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類の心筋細胞を用いることができる。好ましくは、哺乳動物由来の心筋細胞であり、例えば、マウス、ラット、ヒト、サル、ブタ、イヌ、ヒツジ、ネコ、ヤギなどの哺乳動物由来の心筋細胞を用いることができる。
【0024】
本発明に利用可能な細胞は、生体組織から採取された初代細胞であってもよく、株化された細胞であってもよく、多能性幹細胞若しくは組織幹細胞から分化誘導された細胞であってもよい。
【0025】
本明細書において「多能性幹細胞」とは、あらゆる組織の細胞へと分化する能力(分化多能性)を有する幹細胞の総称することを意図する。限定されるわけではないが、多能性幹細胞は胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、胚性癌腫細胞(embryonic carcinoma cell:EC細胞)、栄養芽幹細胞(trophoblast stem cell:TS細胞)、エビブラスト幹細胞(epiblast stem cell:EpiS細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cell:EG細胞)、多能性生殖細胞(multipotent germline stem cell:mGS細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)、Muse細胞等を含む。好ましくは、ES細胞又はiPS細胞である。多能性幹細胞としては公知の任意のものを使用可能であるが、例えば、国際公開第2009/123349号(PCT/JP2009/057041)に記載の多能性幹細胞を使用することができる。
【0026】
本発明に用いることができる心筋細胞は、多能性幹細胞から分化誘導された細胞であってもよい。多能性細胞から心筋細胞へ分化させる方法は、公知の方法を用いることができる(例えば、Matsuura K.,et al.Creation of human cardiac cell sheets using pluripotent stem cells.Biochem.Biophys.Res.Commun.2012 Aug 24;425(2):321-327等を参照のこと)。
【0027】
心筋細胞を含むシート状組織には、心筋細胞以外の細胞が含まれていてもよい。例えば、心筋芽細胞、筋芽細胞、間葉系幹細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、線維芽細胞等が含まれていてもよい。
【0028】
<張力測定デバイス(第1実施形態)>
本発明は、
枠部材と、膜状のゲルの一端を固定するために前記枠部材の内側面の一部に突出して設けられた第1ゲル保持部とを有する第1ゲルアダプタホルダ;
前記ゲルの他端を固定するための第2ゲル保持部と、前記第2ゲル保持部と繋がった接続部とを有する第2ゲルアダプタホルダ;を備え、
ここで前記第2ゲルアダプタホルダは、前記第2ゲル保持部が、前記枠部材の内側において前記第1ゲル保持部と対向するように前記第1ゲルアダプタホルダに取り付けられ、
ここで前記第2ゲルアダプタホルダは、前記第1ゲル保持部と前記第2ゲル保持部とが対向する軸方向にスライドする機構を有する、心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイスを提供する。
【0029】
図1は、本発明の一実施態様の張力測定デバイス1、並びに、張力測定デバイス1と共に使用される基板13及びゲル形成蓋体14を示す。張力測定デバイス1は、第1ゲルアダプタホルダ11と、第2ゲルアダプタホルダ12とを備えている。第1ゲルアダプタホルダ11は、図1(A)及び(B)のように内側が四角形に貫通している枠部材110と、膜状のゲルG(後述する)の一端を固定するために前記枠部材110の内側面(図1の枠内側底面119)の一部に突出して設けられた第1ゲル保持部111を備えている。第1ゲル保持部111の両側は、枠内側側部面118との間に空間が設けられており、この空間に後述する基板13のゲル成形凸部131が嵌まる。枠部材110は、ゲルGを形成する際の型枠の一部となる役割を果たすと同時に、ゲルG及びシート状組織STに側方から任意の物体が接触することを防止する役割も果たす。また、枠部材110の存在により、ゲルG及びシート状組織STの形状を維持したまま、張力測定デバイス1を容易に培地槽2の培地槽蓋体21(後述)に取り付けることができる。
【0030】
第1ゲル保持部111は、形成されるゲルGの薄膜と平行になるように設けられている。第1ゲル保持部111には、1つ以上の第1ゲル保持口112が設けられている。第1ゲル保持部111の両端には、さらに第1ゲル保持凹部113が設けられている。
【0031】
枠部材110の厚さを変更することにより、ゲルGの厚さを適宜変更することができる。枠部材110の厚さは限定されないが、心筋細胞を含むシート状組織を接着させ、安定的に保持することが可能であり、かつ、心筋細胞を含むシート状組織が拍動して収縮する作用を妨げない厚さであればよく、例えば、0.5mm~3.0mm、0.5mm~2.5mm、0.5mm~2.0mm、0.5mm~1.5mm、1.0mm~3.0mm、1.0mm~2.5mm、1.0mm~2.0mm、1.0mm~1.5mmの厚さであり、好ましくは0.5mm~2.5mmであり、より好ましくは0.5mm~1.5mmである。
【0032】
第1ゲル保持部111の厚さは、枠部材110の厚さよりも薄く構成されている。また、第1ゲル保持部111は、枠内側底面119において、枠部材110の厚さ方向の中間の位置に設けられる。これにより、ゲルGが第1ゲル保持部111の上面及び下面の両面を覆い、ゲルGが確実に保持される。
【0033】
第2ゲルアダプタホルダ12は、ゲルGの他端を固定するための第2ゲル保持部121と、第2ゲル保持部121と繋がった接続部120とを有する。図1(C)に示されるように、接続部120と第2ゲル保持部121は、T字部124により繋がっている。第2ゲル保持部121は、形成されるゲルGと平行になるように設けられている。第2ゲル保持部121には、1つ以上の第2ゲル保持口122が設けられている。第2ゲル保持部121の両端には、さらに第2ゲル保持凹部123が設けられている。第2ゲル保持部121の厚さは、T字部124の厚さよりも薄く構成されており、好ましくは、第1ゲル保持部111と同じ厚さを有する。また、第2ゲル保持部121は、T字部124において、厚さ方向の中間の位置に設けられる。これにより、ゲルGが第2ゲル保持部121の上面及び下面の両面を覆い、ゲルGが確実に保持される。
【0034】
接続部120には、張力検出手段コネクタ3と連結するための接続口126が設けられている。また、接続部120には、第2ゲルアダプタホルダ12を、第1ゲルアダプタホルダ11に着脱可能に取り付けるための1つ以上のL字部材125が設けられている(本実施態様では2つ)。L字部材125は、第1ゲルアダプタホルダ11の枠上部114の一部に設けられている第1ガイド溝1110に嵌め込まれる。また、枠部材110の背面の上部には、第2ゲルアダプタホルダ12のT字部124の一部を嵌め込むための第2ガイド溝1111が設けられている。第2ガイド溝1111の幅は、T字部124の一部が嵌め込まれ、第2ゲルアダプタホルダ12が第1ゲル保持部と前記第2ゲル保持部とが対向する軸方向にスライドすることを妨げない程度の幅で設計されている。また、第2ガイド溝1111の深さは、T字部124の厚さとほぼ同一であればよい。これにより、第2ガイド溝1111に、T字部124の一部が嵌め込まれた場合、第2ゲルアダプタホルダ12の背面と第1ゲルアダプタホルダ11の背面とがほぼ同一平面上に位置するようになる(図1(E)参照)。第1ゲルアダプタホルダ11の枠上部背面1112は、枠部材110より一段凹んでおり、第2ガイド溝1111と平面を共有している。これにより、T字部124が枠部材110にひっかかることなく、第2ゲルアダプタホルダ12を上下にスライドすることができる(図1(F)参照)。本実施態様において、第2ゲルアダプタホルダ12を上方にスライドした場合、枠部材110の上部(ストッパ115)が、T字部124に接触して、第2ゲルアダプタホルダ12がスライド可能な範囲を制限する。これにより、ゲルG及び心筋細胞を含むシート状組織STの破損が防止される。
【0035】
第1ゲル保持口112及び第2ゲル保持口122に流し込まれたゲルは、固まった後に、膜状のゲルGの一端を第1ゲル保持部111に、他端を第2ゲル保持部121に固定する役割を担う。第1ゲル保持凹部113及び第2ゲル保持凹部123もまた、ゲルが固化した後にゲルGを固定する効果を果たす。第1ゲル保持口112及び第2ゲル保持口122の数、形状、大きさは、作製するゲルGの大きさや、ゲルの粘性、強度、重合度などによって適宜決定される。第1ゲル保持口112及び第2ゲル保持口122は、例えば1~10個、1~5個、2~5個、2~4個設けられても良い。第1ゲル保持部111と第2ゲル保持部121の形状は、対称であることが好ましい。
【0036】
張力測定デバイス1にゲルGを形成するために、図1(G)~(H)に示される基板13及びゲル形成蓋体14が用いられる。基板13の平面部130には、第1ゲル保持部111及び第2ゲル保持部121と、枠内側側部面118との間に嵌まる1対のゲル成形凸部131が設けられている。また、基板13には、枠部材110の枠上部背面1112に嵌まるゲル形成凸部上部132が設けられている。さらに、基板13には、1対のゲル形成凸部上部132の間にL字部嵌合溝133が設けられている。L字部嵌合溝133には、第2ゲルアダプタホルダ12のT字部124が嵌まる。
【0037】
ゲル形成蓋体14の幅は、基板13に設けられた1対のゲル成形凸部131の内面の幅とほぼ一致する。これにより、ゲル形成蓋体14は1対のゲル成形凸部131の間に嵌まりこむ。本実施形態のゲル形成蓋体14の長さは、ゲルGが形成される空間を覆う長さであればよい。
【0038】
図2は、第1ゲルアダプタホルダ11、第2ゲルアダプタホルダ12、基板13及びゲル形成蓋体14を、組み合わせる前(図2(A))及び組み合わせた後(図(B))の図を示している。
【0039】
<張力測定デバイス(第2実施形態)>
図3及び4は、他の実施形態における張力測定デバイス1a(第1ゲルアダプタホルダ11a、第2ゲルアダプタホルダ12a)、基板13a及びゲル形成蓋体14aを示す図である。基本的な構成、発明の概念は第1実施形態の張力測定デバイス1(第1ゲルアダプタホルダ11、第2ゲルアダプタホルダ12)、基板13及びゲル形成蓋体14並びにそれらに設けられた各部材と同一である。各部材の符号の番号に「a」が付加されていること以外、第1実施形態の張力測定デバイス1(第1ゲルアダプタホルダ11、第2ゲルアダプタホルダ12)、基板13及びゲル形成蓋体14並びにそれらに設けられた各部材と同一の符号番号が付与されている第2実施形態の張力測定デバイス1a(第1ゲルアダプタホルダ11a、第2ゲルアダプタホルダ12a)、基板13a及びゲル形成蓋体14a並びにそれらに設けられた各部材についての説明は、第1実施形態の対応する各部材についての上述の説明が適用される。ここでは、第1実施形態の各部材の説明が適用されない部材についてのみ説明する。
【0040】
第2ゲルアダプタホルダ12aは、図3(D)に示されるように、接続部120aと第2ゲル保持部121aとが、第2ゲルアダプタホルダ本体127aにより繋がっている。第2ゲルアダプタホルダ本体127aには、ストッパ口128aが設けられている。
【0041】
枠部材110のa背面の上部には、第2ゲルアダプタホルダ本体127aを嵌め込むための第2ガイド溝1111aが設けられている。第2ガイド溝1111aには、さらに、ストッパ115aが設けられている(図3(E)参照)。第2ゲルアダプタホルダ12aが第1ゲルアダプタホルダ11aに取り付けられた場合、ストッパ115aがストッパ口128aの上辺又は下辺に接触するので、第2ゲルアダプタホルダ12aの上下のスライド幅を制限することができる。これにより、ゲルG及び心筋細胞を含むシート状組織STの破損が防止される。
【0042】
基板13aの平面部130aには、第1ゲル保持部111a及び第2ゲル保持部121aと、枠内側側部面118aとの間に嵌まる1対のゲル成形凸部131aが設けられている。ゲル成形凸部131aの幅は第1ゲル保持部111a及び第2ゲル保持部121aと、枠内側側部面118aとの間に形成される空間を埋める幅で設計されている。ゲル成形凸部131aの高さは、枠部材110aの厚さと同一となるように設計されている。さらに、ゲル成形凸部131aの長さは、枠内側側部面118aと同一となるように設計されている。基板13aの上部には、基板上部134aとなる凸型部材が設けられている。基板上部134aにより、ゲルGを形成する際に第2ゲルアダプタホルダ12aが上方にスライドすることを防止することができる。
【0043】
本実施形態における第1ゲルアダプタホルダ11aには、枠部材110aの外周に垂直に設けられた囲み部116aを備えている。囲み部116aに嵌まるように、ゲル形成蓋体14aが設計されている(図3(H)参照)。ゲル形成蓋体14aには、ゲルGが形成された後に、密着したゲルGの表面からゲル形成蓋体14aを取り外しやすいように、把持部140aが設けられている。
【0044】
図4(A)は、第1ゲルアダプタホルダ11aと、第2ゲルアダプタホルダ12aと基板13aとの組み合わせた状態を示しており、図4(B)は、図4(A)にさらにゲル形成蓋体14aを組み合わせた状態を示している。
【0045】
<張力測定デバイス(第3実施形態)>
図5及び6は、他の実施形態における張力測定デバイス1b(第1ゲルアダプタホルダ11b、第2ゲルアダプタホルダ12b)、基板13b及びゲル形成蓋体14bを示す図である。基本的な構成、発明の概念は第1実施形態及び第2実施形態の張力測定デバイス(1、1a)(第1ゲルアダプタホルダ(11、11a)、第2ゲルアダプタホルダ(12、12a)、基板(13、13a)及びゲル形成蓋体(14、14a)並びにそれらに設けられた各部材と同一である。各部材の符号の番号に「b」が付加されていること以外、第1実施形態又は第2実施形態の張力測定デバイス(1、1a)(第1ゲルアダプタホルダ(11、11a)、第2ゲルアダプタホルダ(12、12a)、基板(13、13a)及びゲル形成蓋体(14、14a)並びにそれらに設けられた各部材と同一の符号番号が付与されている第3実施形態の張力測定デバイス1b(第1ゲルアダプタホルダ11b、第2ゲルアダプタホルダ12b)、基板13b及びゲル形成蓋体14b並びにそれらに設けられた各部材についての説明は、第1実施形態又は第2実施形態の対応する各部材についての上述の説明が適用される。ここでは、第1実施形態又は第2実施形態の各部材の説明が適用されない部材についてのみ説明する。
【0046】
第1ゲルアダプタホルダ11bの第1ゲル保持口112bは、図5(A)に示されるように、枠内側底面119bと一体となって形成されている。また、枠部材110bは、図5(A)に示されるように、囲み部116bと一体となって形成されている。第1ゲルアダプタホルダ11bの枠上部114bには、後述の培地槽蓋体21のデバイス設置口24に、張力測定デバイス1bを脱着するための一対の脱着用凸部117bが設けられている。脱着用凸部117bは、凸部上部1170bと凸部下部1171bから形成される。デバイス設置口24に挿入するために凸部上部1170bは、内側方向に傾斜して設けられている。また、一対の脱着用凸部117bは、枠上部114bに左右対称に設けられている。一対の脱着用凸部117bは、デバイス設置口24に脱着可能な間隔でもうけられている。一対の脱着用凸部117bは、その弾性によって内側に変形することでデバイス設置口24へと挿入され、一対の脱着用凸部117bの復元力によって元の形に戻ることにより、デバイス設置口24へと固定される。
【0047】
第2ゲルアダプタホルダ12bの第2ゲル保持口122bは、図5(B)に示されるように、第2ゲルアダプタホルダ本体127bと一体となって形成されている。
【0048】
図6(A)は、第1ゲルアダプタホルダ11bと、第2ゲルアダプタホルダ12bと基板13bとの組み合わせた状態を示しており、図6(B)は、図6(A)にさらにゲル形成蓋体14bを組み合わせた状態を示している。
【0049】
張力測定デバイス(1、1a、1b)(第1ゲルアダプタホルダ(11、11a、11b)、第2ゲルアダプタホルダ(12、12a、12b))、基板(13、13a、13b)及びゲル形成蓋体(14、14a、14b)の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリスルホン、ポリカーボネート、セルロース、セルロース誘導体、ポリシリコーン、ガラス、セラミック、金属などが挙げられる。
【0050】
<心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイスを作製するためのキット>
本発明は、
枠部材と、膜状のゲルの一端を固定するために前記枠部材の内側面の一部に突出して設けられた第1ゲル保持部とを有する第1ゲルアダプタホルダ;
前記ゲルの他端を固定するための第2ゲル保持部と、前記第2ゲル保持部と連結された又は一体となった接続部とを有する第2ゲルアダプタホルダ;
前記枠部材の内側面に沿って嵌まる1対のゲル成形凸部を有する基板;及び
前記ゲルの上面を形成するために前記基板のゲル接触面に対して平行な面を有するゲル形成蓋体、を備え、
ここで前記第2ゲルアダプタホルダは、前記第2ゲル保持部が、前記枠部材の内側において前記第1ゲル保持部と対向するように前記第1ゲルアダプタホルダに取り付けられ、
ここで前記第2ゲルアダプタホルダは、前記第1ゲル保持部と前記第2ゲル保持部とが対向する軸方向にスライドする機構を有する、心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイスを作製するためのキットを提供する。
【0051】
また、該キットには、第1ゲル保持部と前記第2ゲル保持部との間に形成するためのゲルを備えたキットであってもよい。
【0052】
本発明において、膜状のゲルを形成するために用いられるゲルとは、(1)心筋細胞を含むシート状組織が接着可能であり、(2)シート形状を維持できる強度を有し、(3)細胞の生育、機能発現等に悪影響を与えない、すなわち生体適合性のものであれば利用することができる。本発明に用いることができるゲルは、例えば、ハイドロゲルである。本発明に用いることができるハイドロゲルとしては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などの水溶性、水親和性、若しくは水吸収性合成高分子、多糖、タンパク質、核酸などを化学架橋したハイドロゲルが挙げられる。多糖としては、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカン、デンプン、グリコーゲン、アガロース、ペクチン、セルロース等が挙げられる。また、タンパク質としては、コラーゲン及びその加水分解物であるゼラチン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、エンタクチン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン(例えば、フィブリノーゲンとトロンビンを反応させたフィブリンゲル)等が挙げられる。これらのハイドロゲルに対し、公知の方法を用いて架橋処理を行い、強度を上げて使用してもよい。本発明に用いるゲルとしては、好ましくは、フィブリンゲルである。本発明の一実施形態において、膜状のゲルは、予め細胞と混合させて形成させたものであってもよい。
【0053】
<心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイスを作製するためのキットの使用方法>
図7及び図8を参照しながら、心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイスを作製するためのキットの使用方法について説明する。
【0054】
(i)張力測定デバイス1(第1ゲルアダプタホルダ11及び第2ゲルアダプタホルダ12)に基板13をセットし、膜状ゲル形成部Sへ、ピペットPを用いて、硬化前のゲル(例えば、フィブリノーゲン(SIGMA ウシ血漿由来 Type I-S)、トロンビン(SIGMA ウシ血漿由来 T4648)、CaCl溶液(8mM)、およびFactor XIII(CSL Behring フィブロガミンP静注用)の混合液)を注入する(図7(A))。この時、第1ゲル保持口112及び第2ゲル保持口122に空気が混入しないように注意しながら硬化前のゲルを注入する。
【0055】
(ii)注入後、ゲル形成蓋体14で膜状ゲル形成部Sに蓋をする(図7(B))。
(iii)ゲルが硬化後、張力測定デバイス1からゲル形成蓋体14及び基板13を取り外す(図7(C))。
【0056】
(iv)上記とは別に、温度応答性培養皿D1(例えば、UpCell(登録商標)(セルシード社、東京、日本)上に心筋細胞を含む細胞群を播種してコンフルエントになるまで37℃で予め培養しておく。
(v)温度応答性培養皿D1の心筋細胞を含むシート状組織STの上に、上記で得られた膜状のゲルを備えた張力測定デバイス1を載せる(図7(D))。
(vi)その後、温度応答性培養皿D1の下限臨界溶液温度以下、例えば20℃に保ち、温度応答性培養皿D1から心筋細胞を含むシート状組織STを剥離させると同時に、ゲルGの下面に心筋細胞を含むシート状組織STを接着させる(図7(E))。
【0057】
心筋細胞を含むシート状組織STは、ゲルGに単層で接着させてもよく、複数層で接着させてもよい。複数層の心筋細胞を含むシート状組織STを接着させるには、上記(v)及び(vi)を任意の回数繰り返すことで得られる。
【0058】
心筋細胞を含むシート状組織STは、ゲルGと接着させる前に、予めゲルGの形状と同一の形成であることが好ましい。ゲルGの形状と同一に成形する方法としては、例えば、培養したシート状の細胞群を、メス等を用いてカットする方法、細胞が接着する領域を予めゲルGの形状に制限するモールドMを利用して、細胞を播種する方法が挙げられる(例えば、図8(A)参照)。ゲルGの形状に形成された心筋細胞を含むシート状組織ST上にゲルGの下面を接着させることにより、心筋細胞を含むシート状組織STが収縮することなく、簡便にゲルGへと接着させることができる(図8(B)参照)。
【0059】
他の実施形態において、上記(iii)工程によって形成された膜状のゲルGの上面に、心筋細胞を含む細胞群を直接播種し、37℃にてコンフルエント又はサブコンフルエントになるまで培養することにより心筋細胞を含むシート状組織STを形成させてもよい。これにより、心筋細胞を含むシート状組織STを接着させた膜状のゲルGを得ることができる。
【0060】
本発明の張力測定デバイス1は、上記の使用方法によって、第1ゲル保持部111及び第2ゲル保持部121の間に膜状のゲルGを予め形成させたものとして提供されてもよく、また、さらに心筋細胞を含むシート状組織STを膜状のゲルGに接着させたものが提供されてもよい。
【0061】
<心筋細胞を含むシート状組織の張力測定システム>
本発明は、心筋細胞を含むシート状組織の張力測定システムも提供する。心筋細胞を含むシート状組織の張力測定システムは、例えば、以下を含む:
(1)枠部材と、膜状のゲルの一端を固定するために前記枠部材の内側面の一部に突出して設けられた第1ゲル保持部とを有する第1ゲルアダプタホルダ;
前記ゲルの他端を固定するための第2ゲル保持部と、前記第2ゲル保持部と繋がった接続部とを有する第2ゲルアダプタホルダ;を備え、
ここで前記第2ゲルアダプタホルダは、前記第2ゲル保持部が、前記枠部材の内側において前記第1ゲル保持部と対向するように前記第1ゲルアダプタホルダに取り付けられ、
ここで前記第2ゲルアダプタホルダは、前記第1ゲル保持部と前記第2ゲル保持部とが対向する軸方向にスライドする機構を有する、シート状組織の張力測定デバイスであって、前記第1ゲル保持部と前記第2ゲル保持部との間に、膜状のゲルを備え、
前記膜状のゲルの下面に接着させた心筋細胞を含むシート状組織を備えた、デバイス;
【0062】
(2)(1)のデバイスを浸漬する培地槽;
(3)前記第2ゲルアダプタホルダの前記接続部に接続された張力検出手段;
(4)前記張力検出手段に接続され、前記張力検出手段で検出した信号を演算し、張力を算出する演算器;及び、
(5)前記演算器により算出された結果を表示する出力手段。
【0063】
膜状のゲルと、前記膜状のゲルに接着させた心筋細胞を含むシート状組織を備えた、張力測定デバイスは、培地槽2に浸漬される。培地槽2は、培地槽本体20と培地槽蓋体21から構成される。培地槽蓋体21には、培地供給ラインコネクタ22と、培地排出ラインコネクタ23とを備えており、それぞれ培地供給ライン42及び培地排出ライン43に接続される。これにより、培地槽2内の培地を交換することができる。培地槽蓋体21には、デバイス設置口24が設けられている。図9(B)に示されるように、ゲルGと心筋細胞を含むシート状組織SCを備えた張力測定デバイス(1、1a、1b)は、デバイス設置口24に嵌めこまれる。張力測定デバイス(1、1a、1b)の枠部材(110、110a)には、デバイス設置口24から張力測定デバイス(1、1a、1b)から落下しないように、凸部材が設けられてもよい。例えば、上述のように、脱着用凸部117bによって固定されてもよい。
【0064】
張力検出手段コネクタ3のフック31を、第2ゲルアダプタホルダ(12、12a、12b)の接続口(126、126a)に通し、培地槽2を培養システム4に設置する。培養システムには、張力検出手段40が設けられている。張力検出手段コネクタ3の張力検出手段接続部32は張力検出手段40へ接続される。心筋細胞を含むシート状組織SCが収縮すると、第2ゲルアダプタホルダ(12、12a、12b)が下方へ引っ張られ、張力検出手段コネクタ3を介して張力検出手段40により加重が検出される(図9(E))。張力検出手段40は、例えば、公知のロードセルを用いることができる。これにより、心筋細胞を含むシート状組織SCが拍動することにより生じる収縮する力(張力)を測定することができる。張力検出手段コネクタ3は、第2ゲルアダプタホルダ(12、12a、12b)と張力検出手段40とを連結する機能を有していればよく、フック31の他、挟持する手段(図示しない)であってもよい。
【0065】
培地槽蓋体21には、図示されないが、さらに試薬供給口が設けられてもよい。試薬供給口より、任意の薬剤を添加することにより、薬剤による心筋細胞への影響を調べることができる。薬剤は、培地供給ライン42に接続された培地貯留槽(図示しない)に添加することにより、培地槽2内へ供給されてもよい。ここでは図示しないが、培地は、例えばチューブポンプにより培地槽2へ供給され、同じチューブポンプにより、培地が排出される。培地槽2には、さらに、公知のpHセンサー、溶存酸素センサー、温度センサー等が設けられてもよい。
【0066】
培養システム4の培養制御部41は、培地の温度を一定に保つようにヒーターを備えている。また、マグネチックスターラー機能を有していてもよい。これにより、培地槽2内の培地を攪拌することができる。培養システム4には、培地槽2へ異物が混入しないようするために、フード44が設けられている。
【0067】
図8は、本発明の一実施態様の張力測定システム5を示す。張力測定デバイス(1、1a、1b)をセットした培養システム4の張力検出手段40は、ケーブル52を介して電気的に演算器51と接続されている。張力検出手段40で検出した信号が、ケーブル52を介して演算器51に入力され、演算器51によりその信号を演算することにより、張力が算出される。算出された結果は、演算器51に電気的に接続された出力手段、例えばモニタ等によって表示される。
【符号の説明】
【0068】
1、1a、1b 張力測定デバイス
11、11a、11b 第1ゲルアダプタホルダ
110、110a、110b 枠部材
111、111a、111b 第1ゲル保持部
112、112a、112b 第1ゲル保持口
113、113a、113b 第1ゲル保持凹部
114、114a、114b 枠上部
115、115a、115b ストッパ
116a、116b 囲み部
1160b 傾斜部
117b 脱着用凸部
1170b 凸部上部
1171b 凸部下部
118、118a、118b 枠内側側部面
119、119a、119b 枠内側底面
1110、1110a、1110b 第1ガイド溝
1111、1111a、1111b 第2ガイド溝
1112 枠上部背面
12、12a、12b 第2ゲルアダプタホルダ
120、120a、120b 接続部
121、121a、121b 第2ゲル保持部
122、122a、122b 第2ゲル保持口
123、123a、123b 第2ゲル保持凹部
124 T字部
125、125a、125b L字部材
126、126a、126b 接続口
127a、127b 第2ゲルアダプタホルダ本体
128a、128b ストッパ口
13、13a、13b 基板
130、130a、130b 平面部
131、131a、131b ゲル成形凸部
132 ゲル形成凸部上部
133 L字部嵌合溝
134a、134b 基板上部
14、14a、14b ゲル形成蓋体
140a、140b 把持部
141a 凹部
2 培地槽
20 培地槽本体
21 培地槽蓋体
22 培地供給ラインコネクタ
23 培地排出ラインコネクタ
24 デバイス設置口
3 張力検出手段コネクタ
31 フック
32 張力検出手段接続部
4 培養システム
40 張力検出手段
41 培養制御部
42 培地供給ライン
43 培地排出ライン
44 フード
5 張力測定システム
51 演算器
52 ケーブル
S 膜状ゲル形成部
C 細胞
ST シート状組織
P ピペット
G シート状ゲル
D1、D2 培養皿
M モールド
MS 細胞導入口
G+ST ゲル+シート状組織
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10