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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】類型判別装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
A61B5/1455
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018075034
(22)【出願日】2018-04-09
(65)【公開番号】P2019180800
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】西村 善博
(72)【発明者】
【氏名】永野 達也
(72)【発明者】
【氏名】和泉 慎太郎
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-190281(JP,A)
【文献】特開2013-208225(JP,A)
【文献】特開2017-205147(JP,A)
【文献】特開昭63-005729(JP,A)
【文献】特開2007-319247(JP,A)
【文献】米国特許第06223064(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0149144(US,A1)
【文献】陳 和夫,睡眠障害における睡眠時無呼吸と全身疾患,日本内科学会誌,105巻9号,日本,2016年,p.1688-p.1693
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06- 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者の睡眠時における動脈血酸素飽和度の経時的変化に関する情報である酸素飽和度情報を取得する酸素飽和度情報取得部と、
所定の第一期間内の酸素飽和度情報を周波数変換する変換部と、
前記変換部により変換されたデータに基づき所定の周波数範囲内におけるパワーを抽出するパワー抽出部と、
前記第一期間の移動算出により前記パワー抽出部が逐次抽出したパワーの第一閾値を超える時間を計測し、 前記第一期間より長く前記第一期間を含む所定の第二期間において計測された前記時間の合計である超過期間を算出する時間算出部と、
時間算出部により算出された超過期間が第二閾値以上の場合、間欠型の類型であると判定する判定部と、
前記判定部による結果を報知する報知部と
を備える類型判別装置。
【請求項2】
前記酸素飽和度情報取得部が取得した酸素飽和度情報から酸素飽和度のベースラインを算出するベースライン算出部と、
算出された前記ベースラインに対し、酸素飽和度が第三閾値以下になったことを検出する検出部と、
前記検出部により検出された期間である持続期間を計測する期間計測部とを備え、
前記判定部は、
持続期間が第五閾値以上の場合、持続型の類型であると判定する
請求項1に記載の類型判別装置。
【請求項3】
前記酸素飽和度情報取得部が取得した酸素飽和度情報から酸素飽和度のベースラインを算出するベースライン算出部と、
算出された前記ベースラインに対し、酸素飽和度が第四閾値以下になったことを検出する検出部と、
前記検出部により検出された期間である持続期間を計測する期間計測部とを備え、
前記判定部は、
第六閾値以上、第七閾値未満の前記持続期間が、第八閾値以上の時間をあけて第九閾値以上の回数発生している場合、不規則型の類型であると判定する
請求項1に記載の類型判別装置。
【請求項4】
前記酸素飽和度情報取得部が取得した酸素飽和度情報から酸素飽和度のベースラインを算出するベースライン算出部と、
算出された前記ベースラインに対し、酸素飽和度が第三閾値以下になったことを検出する検出部と、
前記検出部により検出された期間である持続期間を計測する期間計測部とを備え、
前記判定部は、
持続期間が第五閾値以上の場合、持続型の類型であると判定し、
第六閾値以上、第七閾値未満の前記持続期間が、第八閾値以上の時間をあけて第九閾値以上の回数発生している場合、不規則型の類型であると判定する
請求項1に記載の類型判別装置。
【請求項5】
前記酸素飽和度情報取得部が取得した酸素飽和度情報から酸素飽和度のベースラインを算出するベースライン算出部と、
算出された前記ベースラインに対し、酸素飽和度が第三閾値以下になったことを検出する検出部と、
前記検出部により検出された期間である持続期間を計測する期間計測部とを備え、
前記判定部は、前記間欠型の類型ではないと判定した場合において
持続期間が第五閾値以上の場合、持続型の類型であると判定し、
第六閾値以上、第七閾値未満の前記持続期間が、第八閾値以上の時間をあけて第九閾値以上の回数発生している場合、不規則型の類型であると判定する
請求項1に記載の類型判別装置。
【請求項6】
前記酸素飽和度情報取得部は、被測定者に取り付けたパルスオキシメータから酸素飽和度情報を取得する
請求項1から5のいずれか一項に記載の類型判別装置。
【請求項7】
前記判定部は、所定の期間前から現在までの酸素飽和度情報に基づき類型を判定し、
前記報知部は、前記判定部の結果を即座に報知する
請求項1から6のいずれか一項に記載の類型判別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、夜間低酸素血症の類型を判別する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
在宅で酸素吸入をする治療法である在宅酸素療法(HOT)を受ける施行者は、年々増加している。例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)と呼ばれる患者、肺結核後遺症、間質性肺炎、心疾患、胸郭・脊柱疾患、神経筋疾患等がこの在宅酸素療法を受ける場合がある。
【0003】
在宅酸素療法を受ける施行者は、夜間等の睡眠時に動脈血中の酸素が不足する状態である低酸素血症を引き起こす場合がある。睡眠時における対応は、酸素療法が用いられることが多い。具体的には、パルスオキシメータを指先や耳などに付けて、脈拍数と経皮的動脈血酸素飽和度(SpO)を測定する。得られた経皮的動脈血酸素飽和度の値に応じて、供給する酸素量や濃度を決定し、酸素濃縮装置や酸素ボンベを使って、患者に決定された値の濃縮酸素を供給する治療が施されている。
【0004】
なお、関連する公知文献は存在しないと考えているが、呼吸信号から呼吸パターンを検出し、周波数スペクトルを計算してチェーンストークス呼吸の発生を検出する装置を特許文献1として挙示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2008-525060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、患者の症状に適切に対応した治療が行われていない場合もある。具体的には、日中に一定の酸素流量を流す酸素療法が必要な患者に対して、夜間も同様の酸素流量を流し続ける酸素療法がおこなわれている場合などである。
【0007】
これは夜間低酸素血症の類型は複数存在するが、一人の患者が複数の類型を含んでいる場合もあり複雑である。従って、検査施行医による所見の肉眼的評価だけで夜間低酸素血症の類型を判別することには限界がある。また、低酸素血症の状態によって臨機応変に治療方法を変更させることも望まれるが、医師や看護師が測定結果を常に監視することは非常に困難である。
【0008】
また、夜間低酸素血症の類型を装置により判別しようとする場合、酸素飽和度ばかりでなく、脳波や眼球の動きなどをセンシングして総合的に判断させる場合が考えられるが、これでは、測定時の患者に負担が発生し、正確なデータが得られないことも懸念される。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、酸素飽和度のみの情報に基づき、夜間低酸素血症の類型を判別することができる類型判別装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の1つである類型判別装置は、被測定者の睡眠時における動脈血酸素飽和度の経時的変化に関する情報である酸素飽和度情報を取得する酸素飽和度情報取得部と、所定の第一期間内の酸素飽和度情報を周波数変換する変換部と、前記変換部により変換されたデータに基づき所定の周波数範囲内におけるパワーを抽出するパワー抽出部と、前記第一期間より長い所定の第二期間において前記パワー抽出部によって抽出されたパワーが第一閾値を超える時間の合計である超過期間を算出する時間算出部と、時間算出部により算出された超過期間が第二閾値以上の場合、間欠型の類型であると判定する判定部と、前記判定部による結果を報知する報知部とを備える。
【0011】
これによれば、動脈血酸素飽和度の経時的変化を取得するだけで、被測定者の夜間低酸素血症の類型が間欠型か間欠型でないかを判定することができる。
【0012】
また、前記酸素飽和度情報取得部が取得した酸素飽和度情報から酸素飽和度のベースラインを抽出するベースライン抽出部と、抽出された前記ベースラインに対し、酸素飽和度が第三閾値以下になったことを検出する検出部と、前記検出部により検出された期間である持続期間を計測する期間計測部とを備え、前記判定部は、持続期間が第五閾値以上の場合、持続型の類型であると判定してもよい。
【0013】
これによれば、被測定者の夜間低酸素血症の類型が持続型か持続型でないかを判定することができる。
【0014】
また、前記酸素飽和度情報取得部が取得した酸素飽和度情報から酸素飽和度のベースラインを抽出するベースライン抽出部と、抽出された前記ベースラインに対し、酸素飽和度が第三閾値以下になったことを検出する検出部と、前記検出部により検出された期間である持続期間を計測する期間計測部とを備え、前記判定部は、第六閾値以上、第七閾値未満の前記持続期間が、第八閾値以上の時間をあけて第九閾値以上の回数発生している場合、不規則型の類型であると判定してもよい。
【0015】
これによれば、被測定者の夜間低酸素血症の類型が不規則型か不規則型でないかを判定することができる。
【0016】
また、前記酸素飽和度情報取得部は、被測定者に取り付けたパルスオキシメータから酸素飽和度情報を取得してもよい。
【0017】
これによれば、指先や耳に軽量な装置を取り付けるだけで、酸素飽和度情報を取得することができ被験者の負担を軽減することができる。
【0018】
前記判定部は、所定の期間前から現在までの酸素飽和度情報に基づき類型を判定し、前記報知部は、前記判定部の結果を即座に報知してもよい。
【0019】
これによれば、リアルタイムで判定結果を報知することができ、症状の発生に即座に対応して治療方針の変更などをすることができる。
【0020】
なお、前記類型判別装置が実行する各処理をコンピュータに実現させるためのプログラムを実施することも本発明の実施に該当する。無論、そのプログラムが記録された記録媒体を実施することも本発明の実施に該当する。
【発明の効果】
【0021】
被測定者の睡眠時における動脈血酸素飽和度の経時的変化に関する情報である酸素飽和度情報を取得するだけで、夜間低酸素血症の類型を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】類型判別装置の機能構成を機構構成と共に示すブロック図である。
図2】類型判別装置の動作を示すフローチャートである。
図3】酸素飽和度のデータ、およびデータの解析状態を複数段階で示すグラフである。
図4】酸素飽和度のデータの他の解析状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明者は、発明者が勤務する病院や関連施設において、対象患者に関して、経皮的動脈血酸素飽和度の波形データを取得し、そのデータを分析し、対象患者のN数を増やすことで、実際に医師が判断した治療と分析結果との因果関係を見付けるに到った。
【0024】
これにより、従来は、対象患者に対して、夜間等の睡眠時の治療を画一的に行って、患者に対する治療効果が出ない場合があったようなケースに対して、簡単な経皮的動脈血酸素飽和度のデータ取得と機械的な分析により、患者毎によりよい治療を施せることを見出した。
【0025】
更に、対象患者は、経皮的動脈血酸素飽和度の波形データを長時間取得し、それらを一定時間毎で分析した場合には、正確で再現性の高い夜間低酸素血症の類型の判定が出来ることを見出した。
【0026】
次に、本発明に係る類型判別装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0027】
また、図面は、本発明を示すために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0028】
図1は、類型判別装置の機能構成を機構構成と共に示すブロック図である。同図に示すように、類型判別装置100は、被測定者の睡眠時における動脈血酸素飽和度の経時的変化から夜間低酸素血症の類型を判定する装置であって、プロセッサにプログラムを実行させることにより実現する複数の処理部を備えている。類型判別装置100は、処理部として酸素飽和度情報取得部110と、変換部120と、パワー抽出部130と、時間算出部140と、判定部150と、報知部160とを備えている。また本実施の形態の場合、類型判別装置100はさらに、ベースライン算出部170と、検出部180と、期間計測部190とを備えている。また類型判別装置100には、パルスオキシメータ200と、表示装置210と、記憶装置220とが接続されている。
【0029】
酸素飽和度情報取得部110は、被測定者の睡眠時における動脈血酸素飽和度の経時的変化に関する情報である酸素飽和度情報を取得する処理部である。酸素飽和度情報取得部110の情報取得方法は、特に限定されるものではなく、例えば、インターネットやLANなどのネットワーク経由で情報を取得する方法、記録媒体に記録された情報を読み取ることにより取得する方法などを例示することができる。本実施の形態の場合、酸素飽和度情報取得部110は、パルスオキシメータ200と通信可能に接続されており、パルスオキシメータ200から取得した酸素飽和度を経時情報とともに酸素飽和度情報としてリアルタイムで記憶装置220に記憶する。
【0030】
ここで、パルスオキシメータ200で測定した酸素飽和度情報は、経皮的動脈血酸素飽和度の情報であり、動脈血酸素飽和度とほぼ一致するため、酸素飽和度情報取得部110は、パルスオキシメータ200から出力されるデータを動脈血酸素飽和度として処理している。パルスオキシメータ200は、動脈血酸素飽和度の近似値をリアルタイムで測定することができるため好ましい。
【0031】
変換部120は、所定の第一期間内の酸素飽和度情報を周波数変換する処理部である。周波数変換の手法は特に限定されるものではなく、ARモデルを使うパラメトリック手法などによる周波数領域情報への変換を例示することができる。本実施の形態の場合、変換部120は、第一期間内の酸素飽和度情報を高速フーリエ変換によりフーリエ変換を行い周波数領域情報に変換している。
【0032】
第一期間は、特に限定されるものではないが、人の睡眠時間を考慮して有意な結果を導出できる期間に設定することが好ましい。また、高速フーリエ変換を行うためある程度まとまったデータも必要であることから、例えば第一期間は600秒程度が好ましい。なお、第一期間は、高速フーリエ変換する際のウィンドウ幅に相当する。
【0033】
パワー抽出部130は、変換部120により変換されたデータに基づき所定の周波数範囲内におけるパワーを抽出する処理部である。
【0034】
周波数範囲は、特に限定されるものではないが、人の呼吸を考慮して有意な結果を導出できる周波数の範囲のパワーを抽出することが好ましい。本実施の形態の場合、周波数範囲ΔFは、0.7/60Hz以上、1.5/60Hz以下の範囲とし、当該範囲における最大パワーをパワーとして抽出している。
【0035】
時間算出部140は、第一期間より長い所定の第二期間においてパワー抽出部130によって算出されたパワーが第一閾値を超える時間の合計である超過期間を算出する処理部である。第二期間は、特に限定されるものではないが、人の症状の変化時間を考慮して有意な結果を導出できる期間に設定することが好ましい。例えば第二期間は3600秒程度が好ましい。なお、本実施の形態の場合、第一期間と第二期間の終わりの時刻は同一であり、第一期間は第二期間に含まれる。また、第一期間と第二期間の終わりの時刻はパルスオキシメータ200から酸素飽和度を取得した時刻である。これにより、リアルタイムに夜間低酸素血症の累計を判定することができる。
【0036】
第一閾値は、特に限定されるものではないが、夜間低酸素血症における間欠型の類型を有意に判断できる値に設定することが好ましい。本実施の形態の場合、第一閾値はPth(2.0)に設定されている。
【0037】
判定部150は、時間算出部140により算出された時間が第二閾値以上の場合、間欠型の類型であると判定する処理部である。
【0038】
第二閾値は、特に限定されるものではないが、夜間低酸素血症における間欠型の類型を有意に判断できる値に設定することが好ましい。本実施の形態の場合、第二閾値は1300秒に設定されている。
【0039】
従って、本実施の形態の場合、判定部150は、時間算出部140が算出した時間が1300秒を越えた場合、間欠型であると判定する。
【0040】
報知部160は、判定部による結果を報知する処理部である。報知部160による判定結果の報知方法は特に限定されるものではなく、音、光、画像、振動などにより間欠型の類型が発生したことを人に対して報知してもよい。また、情報として他のコンピュータや端末などに送信することで報知してもかまわない。さらにメールなどのメッセージとして送信してもかまわない。
【0041】
本実施の形態の場合、報知部160は、液晶ディスプレイなどの表示装置210と通信可能に接続されており、判定部150が判定した結果に基づき人の認知できる文字、記号、画像などにより間欠型の類型が存在していることを表示装置210に表示させることで報知している。
【0042】
ベースライン算出部170は、酸素飽和度情報取得部110が取得した酸素飽和度情報から酸素飽和度のベースラインを算出する処理部である。
【0043】
ベースラインとは、酸素飽和度情報の波形において、波形がベースラインに対して第三閾値以下に低下する前の所定期間において有意な変化のない略一定状態が続いていた時の酸素飽和度の値の移動平均である。
【0044】
検出部180は、算出されたベースラインに対し、酸素飽和度が第三閾値以下になったことを検出し、また酸素飽和度が第四閾値以下になったことを検出する処理部である。
【0045】
第三閾値は、特に限定されるものではないが、夜間低酸素血症における持続型の類型を有意に判断できる値に設定することが好ましい。本実施の形態の場合、第三閾値は、検出時刻におけるベースラインの値から-3%として設定されている。従って、ベースラインは、緩やかに変動するものであるため、第三閾値も同様に変動する。
【0046】
例えば、検出時刻におけるベースラインの値が97%であった場合、第三閾値は94.1%であり、検出部180は、酸素飽和度が94.1%以下になったことを検出する。
【0047】
第三閾値と第四閾値は必ずしも同じ値である必要はないが、本実施の形態の場合、第三閾値と第四閾値は同じ値である。
【0048】
期間計測部190は、検出部180により検出された期間である持続期間を計測する処理部である。具体的には、ベースラインが97%で有意には変動しなかった場合、第三閾値は94%で一定ある。この場合、検出部180は、酸素飽和度が94%以下になったことを検出し、期間計測部190は、検出部180が検出し続けている時間を持続期間として計測する。
【0049】
判定部150は、期間計測部190から取得した持続期間が第五閾値以上の場合、持続型の類型であると判定し、報知部160はその旨を報知する。また、判定部150は、第六閾値以上、第七閾値未満の持続期間が、第八閾値以上の時間をあけて第九閾値以上の回数発生している場合、不規則型の類型であると判定し、報知部160はその旨を報知する。
【0050】
第五閾値は、特に限定されるものではないが、夜間低酸素血症における持続型の類型を有意に判断できる値に設定することが好ましい。本実施の形態の場合、第五閾値は、655秒として設定されている。
【0051】
例えば、期間計測部190が、655秒(第五閾値)以上の持続期間を計測した場合、判定部150は、持続型の類型が存在するとしてその旨を報知する。
【0052】
第六閾値、および第七閾値は、特に限定されるものではないが、第六閾値は第七閾値未満であり、夜間低酸素血症における不規則型の類型を有意に判断できる値に設定することが好ましい。また、第七閾値は、第五閾値以下が好ましく、本実施の形態の場合第五閾値と第七閾値は一致している。具体的に例示すると、第六閾値は30秒、第七閾値は655秒である。
【0053】
第八閾値は、特に限定されるものではないが、夜間低酸素血症における不規則型の類型を有意に判断できる値に設定することが好ましい。また、第八閾値は第六閾値以上であることが好ましい。具体的に例示すると、第八閾値は90秒である。
【0054】
第九閾値は、特に限定されるものではないが、夜間低酸素血症における不規則型の類型を有意に判断できる値に設定することが好ましい。第九閾値は2以上の整数である。本実施の形態の場合、第九閾値は2回に設定されている。
【0055】
本実施の形態の場合、判定部150は、期間計測部190が、30秒(第六閾値)以上、655秒(第七閾値)未満の持続期間を計測し、90秒(第八閾値)以上の間隔をあけて再度期間計測部190が30秒(第六閾値)以上、655秒(第七閾値)未満の持続期間を計測した場合、判定部150は不規則型の類型であると判定し、報知部160はその旨を報知する。
【0056】
次に、類型判別装置100の動作を説明する。図2は、類型判別装置の動作を示すフローチャートである。類型判別装置100の酸素飽和度情報取得部110は、経時的に変化する酸素飽和度のデータ(例えば図3の(a)の段参照)を取得する(S101)。データの取得方法は、既にロギングされた酸素飽和度のデータをまとめて取得してもよいが、本実施の形態の場合は、パルスオキシメータ200から逐次送信されるデータを酸素飽和度情報取得部110が取得し、酸素飽和度情報取得部110が取得した酸素飽和度と時刻情報とを紐付けて記憶装置220に登録している。
【0057】
次に、変換部120は、第一期間の過去から現在までのデータに対し高速フーリエ変換を実行し周波数変換を行う(S102)。本実施の形態の場合、第一期間301(図3のグラフ(a)参照)、具体的に例えば現時点300から600秒遡る間のウィンドウ内のデータに対し高速フーリエ変換を実行する。周波数変換の結果、図3のグラフ(b)に示すようなグラフが得られる。次にフーリエ変換の結果に基づき所定の周波数範囲(図3のグラフ(b)およびグラフ(c)に共通に記載される横方向の破線の範囲)の最大パワーをパワー抽出部130が抽出する(S103)。フーリエ変換と最大パワーの抽出は第一期間301の移動算出により行われる。図3のグラフ(c)は、現時点300における周波数毎のパワーを示している。図3のグラフ(d)は、最大パワーを時系列に並べたグラフである。
【0058】
時間算出部140は、図3のグラフ(d)に示すように、算出される最大パワーを逐次取得し、第一閾値311(本実施の形態の場合、第一閾値311は2)を超える最大パワーを取得してから、第一閾値を下回る最大パワーを取得するまでの時間を計測し、第二期間302(本実施の形態の場合、第二期間302は3600秒)内において計測された時間の合計を超過期間として算出する(S104)。図3のグラフ(e)は、超過時間を時系列に並べたグラフである。
【0059】
判定部150は、算出された超過期間と第二閾値312(本実施の形態の場合、第二閾値312は、1300秒)とを比較する(S105)。超過期間が第二閾値302を超えた場合、判定部150は間欠型の類型が存在すると判定する(S105:Yes)。一方、判定部150は、酸素飽和度情報取得部110がデータを取得してからデータの取得が終了するまでの間、つまり被測定者の1回の睡眠における全データの処理が終了するまでの間において超過期間が第二閾値を超える場合がない場合は、「正常」のフラグを立てる。
【0060】
一方、ベースライン算出部170は、酸素飽和度情報取得部110が取得したデータ(図3のグラフ(a))に基づきベースライン303(図4のグラフ(f)参照)を算出する(S106)。ベースライン303の算出は、原則所定期間(例えば3600秒)の移動平均により行われるが、データの取得開始から所定期間経過していない場合は、取得しているデータに基づき算出される。
【0061】
検出部180は、酸素飽和度情報取得部110が取得したデータが、算出されたベースライン303に対し第三閾値313(第四閾値も同じ)以下の場合を検出する(S107)。本実施の形態の場合第三閾値313は、ベースラインの-3%の値である。
【0062】
期間計測部190は、酸素飽和度情報取得部110が取得したデータがベースラインに対し検出部180が第三閾値313以下であることを検出してから、第三閾値以上になるまでの時間である持続期間を計測する(S108)。図4のグラフ(f)において持続時間はハッチングの帯で示している。
【0063】
判定部150は、計測された結果、つまり図4のグラフ(f)におけるハッチングの帯の幅に対し、第六閾値(本実施の形態の場合、30秒)を超えたか否かを判定し(S109)、越えなかった場合は、「正常」のフラグを立てる。また、第五閾値(本実施の形態の場合、655秒)を超えた場合(図4のグラフ(f)において最も濃いハッチングの帯の部分)(S110:Yes)、判定部150は、持続型と判定する。一方、第五閾値を超えなかった場合(S110、No)、判定部150は、次に第六閾値以上、第七閾値(第五閾値と同じ)未満の持続期間が計測されるまでの時間(例えば図4に示す期間304)を計測し、当該時間が第八閾値(本実施の形態の場合90秒)以上で、かつ第十閾値(本実施の形態の場合、3600秒)の期間の間に第九閾値(本実施の形態の場合、2)回、第六閾値以上、第七閾値未満の持続期間が計測された場合、不規則型と判定する。なお、第十閾値は特に限定されるものではないが、例えばベースラインを算出する期間と同じ期間を例示することができる。
【0064】
報知部160は、判定部150が、間欠型、不規則型、および持続型のいずれかの判定をした場合、その旨を表示装置210等により報知してもかまわない。この場合、報知された情報を認識した医師や看護師などが判定された類型に基づき適切な処置を実施することが可能となる。
【0065】
以上の処理は、被測定者が覚醒するまで(S112:Yes)まで実施される。または、被測定者の入眠から覚醒するまでのデータに基づき実施される。
【0066】
次に、報知部160は、被測定者の入眠から覚醒するまでのデータに基づいて判定された内容を集計し、正常、間欠型、持続型、不規則型、混合型1(持続型+不規則型+間欠型)、混合型2(持続型+不規則型)、混合型3(持続型+間欠型)、および混合型4(不規則型+間欠型)のいずれに被測定者が該当するかの情報を報知してもかまわない。
【0067】
以上説明した夜間低酸素血症の類型判別装置100を用いることにより、医師の治療方針決定に寄与する精度の高い情報を高い再現性で提供することができ、医師による治療法の意思決定に重要な役割を果たすことができる。特に、専門医でも見落とす可能性のある複合型の症状についても正確に情報を提供することができる。なお、48名の被測定者から取得した睡眠時における酸素飽和度のデータを10名の医師が解析して得られた判定のうち最も多い判定結果と、本実施の形態に示した第一閾値~第十閾値の具体的数値に基づき、類型判別装置100が判定した結果の一致率は66.7%であった。当該データは、閾値の一例に基づき類型判別装置100が判別した結果の有用性を具体的に示したものに過ぎず、本発明の各閾値を上記具体的数値に限定する意図を示すものではない。
【0068】
また、一般の治療者又は治療者を補助する補助者が、類型判別装置100を使用することで、その治療者の状態に則した治療方法を実施できる。
【0069】
さらに、報知部160が報知した情報に基づき治療装置が、例えば酸素濃度、酸素流量、空気圧などの治療状態を適切に変更することも可能となる。具体的に例えば、間欠型と判定された場合は、治療方法として経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)を選択することができる。不規則型と判定された場合は、酸素飽和度に対応した酸素量、および酸素濃度の少なくとも一方を調整する両方を選択することができる。また、持続型と判定された場合は、一定の酸素流量を流す治療を選択することができる。また、複合型と報知された場合には、これらの療法を組み合わせることも可能である。
【0070】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0071】
例えば、上記実施の形態では、パルスオキシメータによるの経皮的動脈血酸素飽和度に関する測定データを用いて、夜間低酸素血症の類型の判断を行う場合を説明したが、他の方法による動脈血酸素飽和度に関する測定データを用いて、夜間低酸素血症の類型の判断を行ってもかまわない。
【0072】
また、リアルタイムで判定部が判定した情報を報知する場合を説明したが、リアルタイムには報知することなく、被測定者の1回、または複数回の睡眠において蓄積したデータに基づいて判定した結果を報知してもかまわない。
【0073】
また、類型判別装置と、パルスオキシメータ、表示装置、および記憶装置とは別体として説明したが、これらのいくつかが組み合わされて一体になっていてもかまわない。
【0074】
また、類型判別装置は、スマートフォンやタブレット端末、コンピュータなど汎用的な装置を用い、ソフトウエアを実行させることにより実現してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
夜間の低酸素血症の類型の判別に利用可能である。具体的に例えると、慢性閉塞性肺疾患を中心として、肺結核後遺症、肺線維症、膠原病性間質性肺炎、心疾患、胸郭・脊柱疾患、神経筋疾患などの患者に対するスクリーニング検査などに利用可能である。
【符号の説明】
【0076】
100 類型判別装置
110 酸素飽和度情報取得部
120 変換部
130 パワー抽出部
140 時間算出部
150 判定部
160 報知部
170 ベースライン算出部
180 検出部
190 期間計測部
200 パルスオキシメータ
210 表示装置
220 記憶装置
図1
図2
図3
図4