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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】接合方法および接合装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/16 20060101AFI20220829BHJP
   F16L 13/02 20060101ALI20220829BHJP
   B23K 9/028 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
B23K9/16 M
F16L13/02
B23K9/16 J
B23K9/028 B
B23K9/028 D
B23K9/028 J
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019203727
(22)【出願日】2019-11-11
(65)【公開番号】P2021074751
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】519049558
【氏名又は名称】株式会社ダイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100201341
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 順一
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(74)【代理人】
【識別番号】230116296
【弁護士】
【氏名又は名称】薄葉 健司
(72)【発明者】
【氏名】清水 大吾
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-177388(JP,A)
【文献】特開2005-144533(JP,A)
【文献】特開平09-155589(JP,A)
【文献】特開平08-309529(JP,A)
【文献】特開2014-079772(JP,A)
【文献】特開昭63-192563(JP,A)
【文献】特開平10-156577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00、9/007 - 9/013、9/04、 9/14 - 10/02
B23K 9/02 - 9/038
F16L 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管Aと管Bとの接合方法であって、
前記管Aと前記管Bとの突合部の近傍において前記管Aと前記管Bとが上下に沿った方向であるように 前記管Aと前記管Bとが突き合わされて立状態の管内に ガスの密度よりも大きな密度の不活性ガスが前記突合部の下方から供給され突合部において溶接が行われる
接合方法。
【請求項2】
前記管Aと前記管Bとの突合部の近傍において前記管Aと前記管Bとが上下に沿った方向であるように前記管Aと前記管Bとが突き合わされO ガスの密度よりも大きな密度の不活性ガスが前記管A,Bの中の下方側に位置する管B内に供給されて前記突き合わされた前記管A,B内を前記不活性ガスが前記突合部の下方から上方向けて流れ前記管A,B内の前記突合部周辺に存していたO ガスが前記突合部上方の前記管Aから押し出され前記突合部の溶接が行われる
請求項1の接合方法。
【請求項3】
前記不活性ガスがArである
請求項1又は請求項2の接合方法。
【請求項4】
前記不活性ガスが供給される前記不活性ガスの供給手段は少なくとも一部に フレキシブルチューブを具備する輸送路を備えてなり、
前記フレキシブルチューブは、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリ乳酸、高密度ポリエチレン、ブチルゴム、ポリプロピレン、及びテフロンの群の中から選ばれる一種または二種以上が少なくとも用いられて構成されてなる
請求項1~請求項3いずれかの接合方法。
【請求項5】
前記管がTi製である
請求項1~請求項4いずれかの接合方法。
【請求項6】
前記管がステンレス製である
請求項1~請求項4いずれかの接合方法。
【請求項7】
管Aと管Bとの接合装置であって、
前記管Aと前記管Bとの突合部の近傍において前記管Aと前記管Bとが上下に沿った方向であるように 前記管A前記管Bとを保持する保持手段と、
前記保持手段で保持されている突合状態の管A,Bの中の下方側に位置する管B内にO ガスの密度よりも大きな密度の不活性ガスが供給される不活性ガス供給手段と、
前記管Aと前記管Bとの突合位置に対向配置される溶接手段
とを具備する接合装置。
【請求項8】
前記不活性ガス供給手段は、
前記保持手段で前記管Aと前記管Bとが突き合わされて保持されている前記管A,Bの中の下方側に位置する管B内にOガスの密度よりも大きな密度の不活性ガスを供給し前記突き合わされた前記管A,B内を前記不活性ガスが前記突合部の下方から上方向けて流れ前記管A,B内の前記突合部周辺に存していたOガスを前記突合部上方の前記管Aから押し出す
請求項7の接合装置。
【請求項9】
前記不活性ガス供給手段は少なくとも一部にフレキシブルチューブを具備する輸送路を備えてなり、
前記フレキシブルチューブは、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリ乳酸、高密度ポリエチレン、ブチルゴム、ポリプロピレン、及びテフロンの群の中から選ばれる一種または二種以上が少なくとも用いられて構成されてなる
請求項7又は請求項8の接合装置。
【請求項10】
移動手段を更に具備してなり、
前記移動手段の作用によって前記溶接手段が前記保持手段で保持されている管の回りを移動する
請求項7~請求項9いずれかの接合装置。
【請求項11】
前記不活性ガスがArである
請求項7~請求項10いずれかの接合装置。
【請求項12】
前記管がTi製である
請求項7~請求項11いずれかの接合装置。
【請求項13】
前記管がステンレス製である
請求項7~請求項11いずれかの接合装置。
【請求項14】
請求項1~請求項6いずれかの接合方法に用いられる
請求項7~請求項13いずれかの接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接合技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の溶接装置が提案されている。例えば、複数の伝熱管が設置された複数の管寄の間の狭隘部に挿入され前記伝熱管のうち切断された伝熱管の管開先部に閉止プラグをTIG溶接する溶接ヘッドと、操作部からの操作により移動旋回機構部を介して前記溶接ヘッドを移動旋回し前記管開先部に前記閉止プラグを配置するとともにTIG溶接の際にワイヤ供給先端保持部からワイヤが供給される状態でトーチを前記閉止プラグの溶接位置に設定する溶接ヘッド設定機構部と、前記ワイヤ供給先端保持部にワイヤを供給するワイヤ供給装置と、前記溶接ヘッドのトーチに溶接用の電力を給電する電源装置と、TIG溶接の際に前記管開先部及び前記閉止プラグを大気から遮断して保護する不活性ガスを前記管開先部及び前記閉止プラグに供給する不活性ガス供給装置と、リモコンからの指令により前記ワイヤ供給装置から供給されるワイヤや前記電源装置から供給される溶接用電力及び前記不活性ガス供給装置から供給される不活性ガスの流量を制御するとともに前記トーチを駆動するトーチ回転用モータを制御し前記トーチを前記閉止プラグの溶接位置に位置決めする制御装置とを備えた溶接装置が提案(特開2018-202462号公報)されている。この提案の溶接装置の概略が図2に示される。図2中、11は伝熱管、14は管開先部、15は閉止プラグ、17は溶接ヘッド、18は閉止プラグ保持部、19はトーチ、20はワイヤ、21はワイヤ供給先端保持部、22はトーチ回転用モータ、23は溶接ヘッド設定機構部、24は移動旋回機構部、25は操作部、26はワイヤ供給装置、27は制御装置、28はリモコン、29は電源装置、30は不活性ガス供給装置、31はガス供給管、32は電線である。溶接ヘッド17により伝熱管11のうち切断された伝熱管11の管開先部14に閉止プラグ15をTIG溶接し、溶接ヘッド設定機構部23は操作部25からの操作により溶接ヘッド17を移動旋回し管開先部14に閉止プラグ15を配置すると共にTIG溶接の際にワイヤ供給先端保持部21からワイヤ20が供給される状態でトーチ19を閉止プラグ15の溶接位置に設定し、作業員が進入できない狭隘部であっても、伝熱管11の管開先部14に閉止プラグ15をTIG溶接できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-202462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばTi製管AとTi製管Bとが溶接される場合、前記管A,B同士は水平方向に配置されていた。すなわち、前記管Aと前記管Bとの突き合せ面(接合面)が垂直方向に在った。溶接トーチ(TIGトーチ)は前記接合面の外側に配置されている。溶接に際しては、前記管が固定されており、前記管の周に沿って前記溶接トーチが回動して溶接が行われる。
【0005】
前記溶接に際して、不活性ガス(例えば、Arガス)が供給されている。不活性ガスの供給は前記管A,B内に供給されている。不活性ガス(Arガス)の供給は酸化膜が出来るのを防止する為である。
【0006】
Ti製管AとTi製管Bとが上記の如くにして溶接された場合の溶接部の品質が劣っていた。例えば、管内面側の溶接部が変色・酸化皮膜が出来ると、溶接部の強度は低下し、場合によっては、前記酸化皮膜が剥がれる事も有った。特に、溶接部は表面平滑性に劣り、粗面(凹凸が有る)である。従って、溶接部表面の酸化皮膜は剥がれ易い。前記剥離膜の組成物が前記管中を輸送される物質中に混じってしまう恐れが有った。前記管の中を輸送される物質が薬剤と言った場合において、薬剤中に薬剤とは異なる物質が混じってしまうと大変である。このような観点から、管内面(溶接部内面)への酸化膜形成の抑制の要求が極めて厳しかった。
【0007】
しかし、前記品質向上(溶接部位における管内面に酸化皮膜が形成されない品質向上)には、これまでは、限度が有った。
【0008】
従って、本発明が解決しようとする第1の課題は、管と管との接合に際して、接合部内面に形成される酸化皮膜を出来るだけ抑制(接合部の管内面に酸化皮膜の形成を出来るだけ抑制)できる技術を提案する事である。
【0009】
本発明が解決しようとする第2の課題は、前記第1の課題を解決する為の技術を安価に実施でき、かつ、簡単に実施できる技術を提案する事である。
【0010】
本発明が解決しようとする第3の課題は、前記第1の課題を解決する為の技術が実施されても、溶接強度に問題が起きない技術を提案する事である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決する為の検討が、本発明者によって、鋭意、推し進められて行った。何度も何度も実験が繰り返された。しかし、顧客の要求品質(接合部の管内面に酸化皮膜の形成を抑制)には届かなかった。管内部に供給される不活性ガス(Arガス)の品質が劣るのであろうかと思われた。しかし、手に入る最高品質のArガスでも同じ結果であった。これ以上の接合品質のものは無理なのであろうかと思われた。
【0012】
試行錯誤を繰り返している中で、ひょっとして、Arガスが管内に流されても、管内に元々存在していた酸素ガスが十分には排出されて(押し出されて)無いのだろうかとの啓示を得るに至った。調べてみると、Arガスの密度は1.784g/L(標準状態)であり、酸素(O)ガスの密度は1.429g/L(標準状態)であった。因みに、窒素(N)ガスの密度は1.250g/L、Neガスの密度は0.900g/L、水素(H)ガスの密度は0.0899g/Lである。従って、水平に配置された管内にArガスが流し込まれても、大きな密度のArは水平管内の下方側を主に流れて行き、小さな密度の酸素(O)が水平管内の上方に漂い、結果的に管内の酸素(O)が残っていたのであろうと考えるに至った。
【0013】
このような知見を基にして、それならば、管を立設し、管内の下から上に向ってArガスを供給したならば、管内の酸素ガスが効果的に排出されるであろうと考えたのである。
【0014】
尚、Arガスの代わりに、Neガスが用いられたとしても、酸素(O)ガスの密度は1.429g/L、Neガスの密度は0.900g/Lであり、Arガスの場合とは逆に水平管内の下方側を酸素ガスが漂う事になり、やはり、酸素ガスの排出が不十分であろうと考えられた。
【0015】
上記知見を基にして本発明が達成されるに至った。
【0016】
本発明は、
管Aと管Bとの接合方法であって、
前記管Aと前記管Bとが突き合わされて立状態の管内に不活性ガスが供給され突合部において溶接が行われる
接合方法を提案する。
【0017】
本発明は、上記接合方法であって、好ましくは、酸素ガスより密度が大きな気体の不活性ガスが前記管内を下方から上方に向けて供給される接合方法を提案する。
【0018】
本発明は、上記接合方法であって、好ましくは、前記不活性ガスがArである接合方法を提案する。
【0019】
本発明は、上記接合方法であって、好ましくは、酸素ガスより密度が小さな気体の不活性ガスが前記管内を上方から下方に向けて供給される接合方法を提案する。
【0020】
本発明は、上記接合方法であって、好ましくは、フレキシブルチューブを具備する輸送経路を介して前記不活性ガスが前記管内に供給され、前記フレキシブルチューブは、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリ乳酸、高密度ポリエチレン、ブチルゴム、ポリプロピレン、及びテフロンの群の中から選ばれる一種または二種以上が少なくとも用いられて構成されている接合方法を提案する。
【0021】
本発明は、上記接合方法であって、好ましくは、前記管がTi製である接合方法を提案する。
【0022】
本発明は、上記接合方法であって、好ましくは、前記管がステンレス製である接合方法を提案する。
【0023】
本発明は、
管Aと管Bとの接合装置であって、
前記管A,Bを立状態で保持する保持手段と、
前記保持手段で保持されている突合状態の管A,B内に不活性ガスが供給される不活性ガス供給手段と、
前記管Aと前記管Bとの突合位置に対向配置される溶接手段
とを具備する接合装置を提案する。
【0024】
本発明は、上記接合装置であって、好ましくは、前記不活性ガス供給手段は、酸素ガスより密度が大きな不活性ガスを前記管内の下方から上方に向けて供給する接合装置を提案する。
【0025】
本発明は、上記接合装置であって、好ましくは、前記不活性ガス供給手段は、酸素ガスより密度が小さな不活性ガスを前記管内の上方から下方に向けて供給する接合装置を提案する。
【0026】
本発明は、上記接合装置であって、好ましくは、前記不活性ガス供給手段は、少なくとも一部にフレキシブルチューブを具備する輸送路を備えてなり、前記フレキシブルチューブは、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリ乳酸、高密度ポリエチレン、ブチルゴム、ポリプロピレン、及びテフロンの群の中から選ばれる一種または二種以上が少なくとも用いられて構成されてなる接合装置を提案する。
【0027】
本発明は、上記接合装置であって、好ましくは、移動手段を更に具備してなり、前記移動手段の作用によって前記溶接手段が前記保持手段で保持されている立状態の管の回りを移動する接合装置を提案する。
【0028】
本発明は、上記接合装置であって、好ましくは、前記管がTi製である接合装置を提案する。
【0029】
本発明は、上記接合装置であって、好ましくは、前記管がステンレス製である接合装置を提案する。
【0030】
本発明は、上記接合装置であって、好ましくは、本発明は、上記接合方法に用いられる接合装置を提案する。
【発明の効果】
【0031】
溶接個所における管内部の酸化皮膜の形成が非常に抑制できていた。従って、管内部を輸送される物質に酸化皮膜の粉末が混じり難いものであった。薬剤などの如く目的物以外の物質の混入が厳しく問われる物の輸送管の接合には極めて好ましい。
【0032】
本発明の技術は格別なコストアップが引き起こされず、安価に、かつ、簡単に実施できる。
【0033】
溶接も綺麗に出来ていた。例えば、溶接時に溶接部への重力が均等に掛かり、配管内部への溶接部の突出が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の溶接装置の基本概略図
図2】従来の溶接装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態が説明される。
【0036】
第1の本発明は方法である。前記方法は管Aと管Bとの接合方法である。前記管A,Bは丸管である。円管でも良い。楕円形状管でも良い。角管でも良い。前記管の断面形状は如何なる形状でも良い。管Aと管Bとが接合されるから、管Aと管Bとの突合部にあっては、その内形は同じであることが好ましい。勿論、外形も同じであることが好ましい。但し、この要件は必須ではない。突合部に突合面が有れば良い。前記管A,Bは、例えば純チタン又はチタン合金(単に、Tiと略される。)製である。例えば、ステンレス製である。勿論、Tiやステンレスに限られない。Tiは活性な金属である。従って、溶接に際して、酸化皮膜が形成され易い。このような事から、Ti材の溶接に際して、酸化皮膜の形成防止を目的として、不活性ガスで対象部位(酸化皮膜が形成されては困る部位)を覆う事が提案される。従って、活性な金属で、溶接時に酸化皮膜が出来易い金属ならば、本発明が適用される。前記接合方法は、接合時に、前記管Aと前記管Bとが突き合わされている。前記管Aと前記管Bとは、作業の都合上、例えば仮止めされている。しかし、仮止めは必須ではない。前記管Aと前記管Bとは立状態である。前記立状態は、最も好ましくは、垂直(鉛直)に立っている状態である。しかし、垂直方向(鉛直方向)に対して±30°程度の傾斜は許されるであろう。より好ましくは、垂直方向に対して±15°程度の傾斜は許されるであろう。更に好ましくは、垂直方向に対して±5°程度の傾斜は許されるであろう。前記立状態は管A,Bの全長に亘って立状態である必要はない。接合状態の管A,Bが、一本の直線状である場合の外、例えば略コ字形状、略L形状、略「形状、略」形状であっても良い。接合部(溶接部)の近傍(例えば、突合面から上下方向に±2.5cm(合計5cm)程度の長さ)が立状態であれば良い。前記立状態の管A,B内に不活性ガスが供給される。前記管Aと前記管Bとの突合部位において溶接が行われる。
【0037】
前記不活性ガスは、好ましくは、Arガスであった。不活性ガスとしてはHeやNeも考えられる。しかし、Arに比べてHe,Neは密度(比重)が小さい。酸素ガスを排出する能力を考えると、本発明で用いる不活性ガスはArガスが好ましかった。すなわち、酸素ガスに比べて重い気体(Ar)の方が酸素ガスを押し出す能力が高い事は理解されるであろう。ArはN,Oに次いで大気中に多く存在している。ArはHe,Neに比べて安価でもある。不活性ガスとしては窒素ガスも知られている。しかし、管(パイプ)がTi製の場合には、不活性ガスとしてはArガスが好ましかった。
【0038】
前記不活性ガスがO,Nより密度が大きなArの場合、前記不活性ガスは、好ましくは、下方から上方に向けて、管内を輸送(供給)される(流される)。下方から上方に向けて流される方が、管内の酸素ガス排出能力(能率)が高かった。Arガスが上方から下方に向けて流されると、Arガスは酸素ガスよりも密度(比重)が大きい事から、酸素ガスが上方に逃げ易く、それだけ酸素ガスの排出能力(能率)が劣ってしまう。逆に、前記不活性ガスがO,Nより密度が小さなHe,Neの場合、前記不活性ガスは、好ましくは、上方から下方に向けて、管内を輸送(供給)される(流される)。上方から下方に向けて流される方が、管内の酸素ガス排出能力(能率)が高かった。He,Neガスが下方から上方に向けて流されると、He,Neガスは酸素ガスよりも密度(比重)が小さな事から、酸素ガスが上方に押し上げられ難く、即ち、He,Neガスの方がOガスよりも上方に移動し易く、それだけ酸素ガスの排出能力(能率)が劣ってしまう。
【0039】
不活性ガスの輸送路(一部または全部)には、好ましくは、フレキシブルチューブが用いられる。金属製管(パイプ)のみで不活性ガスの輸送路を構成する事は現実的ではない。勿論、一部に金属製管が用いられても良い。この時、管の上方から下方向けて不活性ガスを流し込むようにしていると、前記フレキシブルチューブは高い位置にも配置されなければならない。これは非常に邪魔になる。斯かる観点からも、不活性ガスは、下方から上方に向けて、管内を輸送(供給)される(流される)事が好ましかった。
【0040】
前記フレキシブルチューブは、例えばポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリ乳酸、高密度ポリエチレン、ブチルゴム、ポリプロピレン、及びテフロンの群の中から選ばれる一種または二種以上が少なくとも用いられて構成される。より好ましくは、ポリビニルアルコール(O透過係数が0.00006。HO透過係数が19。)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(O透過係数が0.0001。)、ポリ塩化ビニリデン(O透過係数が0.0053。HO透過係数が1。)、高密度ポリエチレン(O透過係数が0.4。HO透過係数が12。)、ポリプロピレン(O透過係数が2.2。HO透過係数が65。)、及びテフロン(O透過係数が4.9。HO透過係数が33。)の群の中から選ばれる一種または二種以上が少なくとも用いられて構成される。好ましくは、O透過係数が10以下(更には、5以下)の素材である。好ましくは、HO透過係数が300以下(更には、100以下、より更には50以下)の素材である。前記透過係数の単位は(×10-10cm(STP)/(cm・s・cmHg))である。前記素材が用いられる事によって、前記フレキシブルチューブ内を輸送される不活性ガス中にOやHOガスが入り込み難い。
【0041】
第2の本発明は装置である。前記装置は管Aと管Bとの接合装置である。前記管A,Bは丸管である。円管でも良い。楕円形状管でも良い。角管でも良い。前記管の断面形状は如何なる形状でも良い。管Aと管Bとが接合されるから、管Aと管Bとの突合部にあっては、その内形は同じであることが好ましい。勿論、外形も同じであることが好ましい。但し、この要件は必須ではない。突合部に突合面が有れば良い。前記管A,Bは、例えばTi製である。例えば、ステンレス製である。勿論、Tiやステンレスに限られない。Tiは活性な金属である。従って、溶接に際して、酸化皮膜が形成され易い。このような事から、Ti材の溶接に際して、酸化皮膜の形成防止を目的として、不活性ガスで対象部位(酸化皮膜が形成されては困る部位)を覆う事が提案されている。従って、活性な金属で、溶接時に酸化皮膜が出来易い金属ならば、本発明が適用される。本発明の装置がTi製管の接合に適している事は上述した事から理解できるであろう。前記装置は保持手段を具備する。前記保持手段は前記管A,Bを立状態で保持する。前記管Aと前記管Bとが仮止めされておれば、前記保持手段は前記管A,Bの中の一方を保持するのみでも良い。前記保持手段は、例えばクランプである。如何なる構造のものでも良い。前記装置は溶接手段を具備する。前記溶接手段は、前記管Aと前記管Bとの突合位置に対応して設けられる。前記溶接手段は、例えばティグ溶接(TIG welding)装置である。例えば、ミグ溶接(MIG welding)装置である。例えば、イナートガスアーク溶接装置である。例えば、プラズマ溶接(Plasma
arc welding)装置である。例えば、電子ビーム溶接(Electron beam welding)装置である。例えば、レーザビーム溶接(Laser beam welding)装置である。例えば、抵抗溶接(Resistance welding)装置である。如何なるタイプの溶接装置でも良い。前記装置は不活性ガス供給手段を具備する。前記不活性ガス供給手段は、前記保持手段で保持されている突合状態の管A,B内に不活性ガスを供給する。
【0042】
前記装置は、好ましくは、移動手段を具備する。前記移動手段の作用によって、前記溶接手段が、前記保持手段で保持されている立状態の管の回りを、移動(回動:回転)する。これによって、管A,Bの一周全域に亘っての溶接が行われる。
【0043】
前記装置は、好ましくは、不活性ガス回収手段を具備する。前記不活性ガス回収手段は前記管A,Bの中の上方または下方に位置する管の先端から排出される気体(不活性ガスと空気との混合気体)を回収する。回収された気体中には酸素が含まれているから、回収気体をそのまま本発明には利用できない。しかし、不活性ガスとしてArが用いられた場合には、回収気体中のAr濃度が大気中のAr濃度より遥かに高い。回収気体からのAr回収コストは、大気中からのAr精製コストよりも、安価である。
【0044】
前記不活性ガス供給手段は、前記不活性ガスがO,Nより密度が大きなArの場合、前記不活性ガスを、突合状態の管A,B内に、好ましくは、下から上に向けて供給するよう構成されている。その理由は上述した通りである。管Bの上に管Aが配置されているとすると、管Bの一端側の孔から不活性ガスが管内に流し込まれる。管内を通って、管Aの他端側の孔から気体(酸素などの大気や不活性ガス)が排出される。
【0045】
前記不活性ガスは、好ましくは、Arである。その理由は上述した通りである。
【0046】
前記不活性ガス供給手段(不活性ガス輸送路)は、少なくとも一部に、フレキシブルチューブを有する。フレキシブルチューブが無い場合は、装置の自由度が極めて乏しい。前記フレキシブルチューブの構成素材として、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリ乳酸、高密度ポリエチレン、ブチルゴム、ポリプロピレン、及びテフロンの群の中から選ばれる一種または二種以上が用いられる。より好ましくは、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、及びテフロンの群の中から選ばれる一種または二種以上が少なくとも用いられて構成される。
【0047】
上記装置が用いられて上記方法(溶接)が行われる。
【0048】
以下、具体的な実施形態が説明される。但し、本発明は以下の実施形態にのみ限定されない。本発明の特長が大きく損なわれない限り、各種の変形例や応用例も本発明に含まれる。
【0049】
図1は本発明の溶接装置の基本概略図(一部が断面)である。
【0050】
本発明の溶接装置は市販の溶接装置(商品名:POLYSOUDE)に工夫が施されて組み立てられた。
【0051】
図1中、1は管Aである。2は管Bである。管2は、図1では、一部が切り欠かれている(一部が断面である)。管1は直線状の管に描かれている。管2は略L形状の管に描かれている。管1,2は、上述した通り、管1と管2との突合面3から2~3cm程度に亘って直線であれば良い。
【0052】
管1と管2とは、突合面3において、仮止め(図示せず)が行われている。
【0053】
4はクランプである。クランプ4は管1(及び/又は管2)を保持する。管1はクランプ4によって垂直(鉛直)方向の姿勢を保っている。クランプ4によって管1が垂直方向に立っている事から、管2の上方側(一端側)2aも垂直方向の姿勢を保っている。
【0054】
5はテフロン製のフレキシブルチューブである。このフレキシブルチューブ5の一端側が管2の他端側2bに接続されている。Arタンク6には不活性ガス流路が接続されている。前記流路の少なくとも一部はフレキシブル樹脂製である。前記流路全部がフレキシブル樹脂製でも良いが、一部に金属製や無機材料製のものがあっても良い。フレキシブルチューブ5の他端側が前記Arタンク6に接続されている流路に接続されている。Arタンク6内のArガスがフレキシブルチューブ5を介して管2内に供給(輸送)される。管1の出口側は包装チューブ(図示せず)で絞られている。管2,1内を流れて来た不活性ガスは前記包装チューブから吹き出す。従って、管2と管1との突き合せ部分には不活性ガスが効果的に充満する。
【0055】
7は溶接トーチである。溶接トーチ7は管1と管2との突合面3に対向配置されている。溶接トーチ7は、移動手段(回動手段:回転手段:図示されていない)によって、管1,2の周囲を回転可能である。
【0056】
上記構成の溶接装置による溶接作業が説明される。先ず、Arタンク6内のArガスがフレキシブルチューブ5を介して管2内に供給(輸送)された。供給されたArガスは管1に接続された前記包装チューブの絞り口から排出された。これに伴って、管2,1内に存在していた大気成分(O,N等)のガスが管1内から排出された。管1,2内のガスは略100%がArガスになった。この後、溶接トーチ7が用いられ、溶接が行われた。溶接トーチ7が管1,2の周囲を回転した。これに伴って、突合面3が全周に亘って溶接された。この溶接に際して、溶接部における管1,2の内面側はArガスで覆われている。溶接部(突合面3近傍)にはO,Nガスが存在していない。従って、溶接に起因した酸化皮膜が、管1,2の内面側の突合面3近傍には、出来てなかった。溶接が綺麗に出来ていた。例えば、溶接時に溶接部への重力が均等に掛かり、配管内部への溶接部の突出が少なかった。
【符号の説明】
【0057】
1 管A
2 管B
3 管1と管2との突合面(溶接部)
4 クランプ(保持手段)
5 フレキシブルチューブ(不活性ガス供給手段における不活性ガス輸送路)
6 Arタンク
7 溶接トーチ(溶接手段)

図1
図2