(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用樹脂組成物およびそのフィラメント状成形体
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20220829BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220829BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20220829BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
B29C64/118
B33Y70/00
C08L77/00
C08L1/02
(21)【出願番号】P 2019550369
(86)(22)【出願日】2018-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2018040079
(87)【国際公開番号】W WO2019088014
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2017210874
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】中井 美穂
(72)【発明者】
【氏名】臼井 あづさ
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 頌平
(72)【発明者】
【氏名】野口 彰太
(72)【発明者】
【氏名】松岡 文夫
(72)【発明者】
【氏名】上川 泰生
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-028887(JP,A)
【文献】特開2017-128072(JP,A)
【文献】特開2017-170881(JP,A)
【文献】特表2017-502852(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003379(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/40
C08L 77/00
C08L 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用樹脂組成物であって、ポリアミド中にセルロース繊維を含有
し、前記樹脂組成物中のセルロース繊維の平均繊維径が10μm以下であり、前記ポリアミドが、ポリカプロアミド(ポリアミド6)であるか、またはポリカプロアミド(ポリアミド6)と、ポリアミド66、ポリアミド11もしくはポリアミド12との混合物であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
分散剤を含有しないことを特徴とする請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記分散剤は、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、
アニオン性界面活性剤またはカチオン性界面活性剤に属する化合物であることを特徴とする請求項
2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用成形体であって、請求項1~
3のいずれかに記載の樹脂組成物で構成されていることを特徴とするフィラメント状成形体。
【請求項5】
前記フィラメント状成形体
を用いた3Dプリンターによる造形物における前記セルロース繊維の平均繊維径が100nm以下であることを特徴とする請求項
4に記載のフィラメント状成形体。
【請求項6】
熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用樹脂組成物の製造方法であって、
ポリアミドの重合時にセルロース繊維を添加することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用樹脂組成物およびそのフィラメント状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
3DCADや3次元コンピューターグラフィックスのデータを元に、立体造形物(3次元のオブジェクト)を作製する3Dプリンターは、近年、産業向けを中心に急速に普及している。3Dプリンターの造形方法には、光造形、インクジェット、粉末石膏造形、粉末焼結造形、熱溶解積層造形等の方法がある。
【0003】
近年、個人向け等の低価格の3Dプリンターの多くは、熱溶解積層法を採用している。この熱溶解積層法3Dプリンターにおいては、造形材料として、フィラメント状成形体が用いられ、造形材料を構成する樹脂として、ポリ乳酸(PLA)やアクリロニトリル ブタジエン スチレン共重合樹脂(ABS)が用いられることが多い。しかしながら、PLA、ABSはいずれも、得られる造形物の反りが大きいという問題があり、さらにPLAは、融点が約170℃であるため、耐熱性が低いという問題があった。
【0004】
一方、特許文献1には、熱可塑性樹脂とセルロースナノファイバーと分散剤とからなる3Dプリンター用の造形材料が開示されている。しかしながら、特許文献1の樹脂組成物は、耐熱性は高いものの、分散剤が入っているため、得られる造形物から分散剤がブリードアウトするという問題があった。また、造形中に造形物のダレ(垂れ)により形状が歪み、目的とする造形物が造形できないことがあった。さらには、造形物中に気泡が発生し、変形の原因となるため、設計通りに造形できないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、特許文献1において、熱可塑性樹脂としてポリアミドを用いた場合、均一にセルロース繊維が分散されていないためか、設計通りに造形物が得られなかったり、得られた造形物が吸水により寸法が変化したりするという問題があった。
【0007】
本発明は、前記の問題点を解決しようとするものであり、耐熱性が高く、熱溶解積層法3Dプリンターで設計通りの寸法で造形が可能であり、成形後の反りが小さく、吸水による寸法変化が小さい造形物を得ることができる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリアミド中にセルロース繊維が含有する樹脂組成物を用いることにより上記目的が達成されことを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1) 熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用樹脂組成物であって、ポリアミド中にセルロース繊維を含有することを特徴とする樹脂組成物。
(2) 樹脂組成物中のセルロース繊維の平均繊維径が10μm以下であることを特徴とする(1)に記載の樹脂組成物。
(3) ポリアミドが、ポリカプロアミド(ポリアミド6)であることを特徴とする(1)または(2)に記載の樹脂組成物。
(4) ポリアミドが、ポリカプロアミド(ポリアミド6)と、ポリアミド66、ポリアミド11もしくはポリアミド12との混合物、または共重合体であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(5) 分散剤を含有しないことを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(6) 前記分散剤は、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤またはカチオン性界面活性剤に属する化合物であることを特徴とする(5)に記載の樹脂組成物。
(7) 熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用成形体であって、(1)~(6)のいずれかに記載の樹脂組成物で構成されていることを特徴とするフィラメント状成形体。
(8) 前記フィラメント状成形体の3Dプリンターによる造形物における前記セルロース繊維の平均繊維径が100nm以下であることを特徴とする(7)に記載のフィラメント状成形体。
(9) (7)または(8)に記載のフィラメント状成形体を造形してなることを特徴とする造形物。
(10) 熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用樹脂組成物の製造方法であって、
ポリアミドの重合時にセルロース繊維を添加することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性が高く、熱溶解積層法3Dプリンターで設計通りの寸法で造形が可能であり、反りが小さく、水分による寸法変化が小さい造形物を得ることができる樹脂組成物を提供することができる。また、本発明の樹脂組成物を用いて得られた造形物は、熱溶解積層法3Dプリンターにより積層した樹脂層の間の密着性にも優れている。
さらに、本発明の樹脂組成物は、重合時にセルロース繊維を添加するため、セルロース繊維が均一に分散され、分散剤を含有する必要がない。そのため、分散剤を含有しないこととすることができるので、得られる造形物からはブリードアウトが発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】造形性を評価するために作製した「ルーク」の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用樹脂組成物であって、ポリアミド中にセルロース繊維が含有する。本発明の樹脂組成物は、いわゆるペレットの形態を有していてもよい。
【0013】
本発明で用いるポリアミドは、アミノ酸、ラクタムまたはジアミンとジカルボン酸とから形成されるアミド結合を有する重合体である。
【0014】
アミノ酸としては、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸が挙げられる。
【0015】
ラクタムとしては、例えば、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムが挙げられる。
【0016】
ジアミンとしては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジンが挙げられる。
【0017】
ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸が挙げられる。
【0018】
本発明で用いるポリアミドの具体例としては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミドTMHT)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンテレフタル/イソフタルアミド(ポリアミド6T/6I)、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド11T(H))が挙げられ、これらの共重合体や混合物であってもよい。中でも、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、およびこれらの共重合体や混合物が好ましく、セルロース繊維と併用した場合に水分による寸法変化が小さいので、ポリアミド6がより好ましい。造形物における造形性および吸水時の寸法変化率のさらなる向上の観点から、ポリアミド6を単独で用いることが好ましい。
【0019】
上記ポリアミドは、後述する重合法で、またはさらに固相重合法を併用して製造される。ポリアミドの分子量は特に限定されず、例えば、本発明の樹脂組成物が後述の相対粘度および/または融点を有するような分子量であってよい。
【0020】
本発明で用いるセルロース繊維としては、木材、稲、綿、麻、ケナフ等の植物に由来するものが挙げられる。なお、セルロース繊維には、バクテリアセルロース、バロニアセルロース、ホヤセルロース等生物由来のものや、再生セルロース、セルロース誘導体等も含まれる。植物由来のセルロース繊維の市販品として、例えば、ダイセルファインケム社製の「セリッシュ」が挙げられる。
【0021】
本発明において、寸法安定性、造形性および吸水時の寸法変化率の良好な造形物とするにはセルロース繊維を凝集させることなく、樹脂中に均一に分散していることが好ましい。樹脂中に均一に分散させるためには、できるだけ微細化されたセルロース繊維を用いることが好ましい。したがって、本発明の造形物中に含有されるセルロース繊維は、平均繊維径が10μm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、200nmであることがさらに好ましい。造形物中におけるセルロース繊維の平均繊維径は、フィラメントへの加工容易性、造形物における造形性、設計寸法に関する寸法安定性、吸水時の寸法変化率および層間の密着性のさらなる向上ならびに反りおよびブリードアウトのさらなる低減の観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは80m以下、さらに好ましくは50nm以下である。造形物中におけるセルロース繊維の平均繊維径の下限値は特に限定されず、当該平均繊維径は通常、2nm以上であり、造形性のさらなる向上の観点から好ましくは40nm超である。
【0022】
樹脂組成物中のセルロース繊維の平均繊維径を10μm以下とするには、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維を用いることが好ましい。このようなセルロース繊維としては、セルロース繊維を引き裂くことによってミクロフィブリル化したものが好ましい。ミクロフィブリル化する手段としては、ボールミル、石臼粉砕機、高圧ホモジナイザー、ミキサー等各種粉砕装置を用いることができる。このようなセルロース繊維として市販されているものとしては、例えば、ダイセルファインケム社製の「セリッシュ」が挙げられる。
【0023】
また、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維としては、セルロース繊維を用いた繊維製品の製造工程において、屑糸として出されたセルロース繊維の集合体を用いることもできる。繊維製品の製造工程とは紡績時、織布時、不織布製造時、そのほか繊維製品の加工時等が挙げられる。これらのセルロース繊維の集合体は、セルロース繊維がこれらの工程を経た後に屑糸となったものであるため、セルロース繊維が微細化したものとなっている。
【0024】
また、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維としては、バクテリアが産出するバクテリアセルロースを用いることもでき、例えば、アセトバクター族の酢酸菌を生産菌として産出されたものを用いることができる。植物のセルロース繊維は、セルロース繊維の分子鎖が収束したもので、非常に細いミクロフィブリルが束になって形成されているものであるのに対し、酢酸菌より産出されたセルロース繊維はもともと幅20~50nmのリボン状であり、植物のセルロース繊維と比較すると極めて細い網目状を形成している。
【0025】
また、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維としては、N-オキシル化合物の存在下にセルロース繊維を酸化させた後に、水洗、物理的解繊工程を経ることにより得られる、微細化されたセルロース繊維を用いてもよい。N-オキシル化合物としては各種あるが、例えば、Cellulose(1998)5,153-164に記載されているような2,2,6,6-Tetramethylpiperidine-1-oxyl radical等が好ましい。N-オキシル化合物は触媒量の範囲で反応水溶液に添加する。この水溶液に共酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムや亜塩素酸ナトリウムを加え、臭化アルカリ金属を加えることにより反応を進行させる。水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性の化合物を添加してpHを10付近に保持し、pHの変化が見られなくなるまで反応を継続する。反応温度は室温で構わない。反応後、系内に残存するN-オキシル化合物を除去することが好ましい。洗浄はろ過、遠心分離等各種方法を採用することができる。その後、上記したような各種粉砕装置を用い、物理的な解繊工程を経ることで微細化されたセルロース繊維を得ることができる。
【0026】
本発明の樹脂組成物中のセルロース繊維は、平均繊維径と平均繊維長との比であるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が10以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましい。アスペクト比が10以上であることにより、得られる造形物の寸法安定性が向上しやすくなる。
【0027】
本発明の樹脂組成物を構成するセルロース繊維の含有量は、特に限定されず、フィラメントへの加工容易性、造形物における造形性、設計寸法に関する寸法安定性、吸水時の寸法変化率および層間の密着性のさらなる向上ならびに反りおよびブリードアウトのさらなる低減の観点から、ポリアミド100質量部に対して、0.1~50質量部であることが好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましく、1~12質量部であることがさらに好ましく、0.5~10質量部であることが特に好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、後述するような製造法で得ることにより、セルロース繊維がポリアミド中に均一に分散された樹脂組成物となるので、熱溶解積層法3Dプリンターで設計通りの寸法で造形が可能であり、反りが小さく、水分による寸法変化が小さい造形物を得ることが可能となる。
【0029】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物は、ポリアミドの重合時にセルロース繊維を添加することにより製造することができる。詳しくは、ポリアミドを構成するモノマーと、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維の水分散液とを混合し、重合反応をおこなうことによりセルロース繊維を含有する本発明のポリアミド組成物を製造することができる。なお、重合反応時に、後述する樹脂組成物中に添加することができる添加剤を加えた場合は、樹脂組成物は該添加剤も含むものをいう。ポリアミドの重合時とは、ポリアミドを構成するモノマーを用いた重合時だけでなく、ポリアミドを構成し得るプレポリマーを用いた重合時も包含する。
【0030】
セルロース繊維は水との親和性が非常に高く、平均繊維径が小さいほど水に対して良好な分散状態を保つことができる。また、水を失うと水素結合により強固にセルロース繊維同士が凝集し、一旦凝集すると凝集前と同様の分散状態をとることが困難となる。特にセルロース繊維の平均繊維径が小さくなるほどこの傾向が顕著となる。したがって、セルロース繊維は水を含んだ状態でポリアミドと複合化することが好ましい。そこで、本発明においては、ポリアミドの重合時に、水を含んだ状態のセルロース繊維の存在下に、ポリアミドを構成するモノマーの重合反応をおこなうことにより、セルロース繊維を含有するポリアミド樹脂組成物を得る方法を採ることが好ましい。このような製造法により、ポリアミド中にセルロース繊維を凝集させずに均一に分散させることが可能となる。
【0031】
セルロース繊維の水分散液は、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維を水に分散させたものであり、水分散液中のセルロース繊維の含有量は0.01~100質量%、特に0.1~10質量%とすることが好ましい。セルロース繊維の水分散液は、精製水とセルロース繊維とをミキサー等で攪拌することにより得ることができる。そして、セルロース繊維の水分散液と、ポリアミドを構成するモノマーとを混合し、ミキサー等で攪拌することにより均一な分散液とする。その後、分散液を加熱し、150~270℃まで昇温させて攪拌することにより重合反応させる。このとき、分散液を加熱する際に徐々に水蒸気を排出することにより、セルロース繊維の水分散液中の水分を排出することができる。なお、上記ポリアミド重合時においては、必要に応じてリン酸や亜リン酸等の触媒を添加してもよい。そして、重合反応終了後は、得られた樹脂組成物を払い出した後、切断してペレットとすることが好ましい。
【0032】
セルロース繊維としてバクテリアセルロースを用いる場合においては、セルロース繊維の水分散液として、バクテリアセルロースを精製水に浸して溶媒置換したものを用いてもよい。バクテリアセルロースの溶媒置換したものを用いる際には、溶媒置換後、所定の濃度に調整した後、ポリアミドを構成するモノマーと混合し、上記と同様に重合反応を進行させることが好ましい。
【0033】
上記方法においては、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維を用い、かつセルロース繊維を水分散液のまま重合反応に供することで、セルロース繊維は、分散性が良好な状態で重合反応に供されることとなる。さらに、重合反応に供されたセルロース繊維は、重合反応中のモノマーや水との相互作用により、また上記のような温度条件で攪拌することにより、分散性が向上し、繊維同士が凝集することがなく、平均繊維径が小さいセルロース繊維が良好に分散した樹脂組成物を得ることが可能となる。なお、上記方法によれば、重合反応前に添加したセルロース繊維の平均繊維径よりも、重合反応終了後に樹脂組成物中に含有されているセルロース繊維のほうが、平均繊維径や繊維長が小さいものとなることがある。
【0034】
上記方法においては、セルロース繊維を乾燥させる工程が不要となり、微細なセルロース繊維の飛散が生じる工程を経ずに製造が可能であるため、操業性よく樹脂組成物を得ることが可能となる。またモノマーとセルロース繊維を均一に分散させる目的として水を有機溶媒に置換する必要がないため、ハンドリングに優れるとともに製造工程中において化学物質の排出を抑制することが可能となる。
【0035】
本発明の樹脂組成物の相対粘度は、溶媒として96%硫酸を用いて、温度25℃、濃度1g/100mLで測定した場合において、造形性の点から、1.5~5.0であることが好ましく、1.7~4.0であることがより好ましい。
【0036】
本発明の樹脂組成物の融点は、180℃以上であることが好ましい。融点が180℃未満である場合、得られる造形物の耐熱性が低くなるため、用途が制限される。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、充填剤(ガラスビーズ、ガラス繊維粉、ワラストナイト、マイカ、合成マイカ、セリサイト、タルク、クレー、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、カオリナイト、ドロナイト、シリカ、チタン酸カリウム、微粉ケイ酸、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化ケイ素、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、石膏、グラファイト、モンモリロナイト、カーボンブラック、硫化カルシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素等)、染料および顔料を含む着色剤、帯電防止剤、末端封鎖剤、紫外線防止剤、光安定剤、防曇剤、防霧剤、可塑剤、難燃剤、着色防止剤、メヤニ防止剤 、酸化防止剤、離型剤、防湿剤、酸素バリア剤、結晶核剤等の添加剤を含有することができる。またこれらを2種以上併用してもよい。これらの添加剤の粒径は、製糸性よくフィラメント状成形体を得るために、60μm以下であることが好ましい。本発明の樹脂組成物が上記した添加剤を含有する場合、添加剤は、セルロース繊維と同様にポリアミドの重合時に添加してもよいし、またはセルロース繊維を含有する樹脂組成物ペレットに対して添加してドライブレンドしてもよい。
【0038】
ただし、本発明の樹脂組成物には、ブリードアウトの低減の観点だけでなく、造形物における造形性のさらなる向上、設計寸法に関する寸法安定性、吸水時の寸法変化率および層間の密着性の向上ならびに反りの低減の観点から、分散剤を含有させないことが好ましい。すなわち、本発明の樹脂組成物は上記観点から分散剤を含有しないことが好ましく、詳しくは、分散剤の含有量が、樹脂組成物全量に対して、0.5質量%以下、特に0.1質量%以下であることが好ましい。
【0039】
樹脂組成物における分散剤の含有量は、以下の方法により測定された値を用いている。
組成物をTFA-d(トリフルオロ酢酸)に溶解した後、溶液を1H-NMRに供することにより、含有量を測定する。
【0040】
分散剤は、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、アニオン性界面活性剤またはカチオン性界面活性剤に属する化合物である。
【0041】
非イオン性界面活性剤として、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
グリセリン脂肪酸エステルとして、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノ12-ヒヒドロキシステアレート、グリセリンモノオレエート、グリセリンモノカプリレート、コハク酸脂肪酸モノグリセライド、クエン酸脂肪酸モノググリセライド等が挙げられる。
ポリオキシアルキレングリコールとして、例えば、ポリエチレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール200)、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピルグリコール、ポリグリセリン、ポリオキシエチレングリセリン、エチレンオキシド-プロピレンオキシドブロック共重合体等が挙げられる。
ソルビタン脂肪酸エステルとして、例えば、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンラウレート、ソルビタンオレート、ソルビタントリオレート等が挙げられる。
【0042】
両性界面活性剤として、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体が挙げられる。(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体は、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンをモノマー成分として含有する単独重合体または共重合体のことである。(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンは、アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンおよびメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを包含する。(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合成分としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと共重合可能なモノマー成分であれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタクリル酸を包含する。(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン共重合体における(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの含有割合は通常、全構成モノマー成分に対して、0.0005質量%以上であり、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上である。
【0043】
(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体は、例えば、リピジュアHM(メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単独重合体、日油社製)として、入手可能である。
【0044】
アニオン性界面活性剤として、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられる。
【0045】
カチオン性界面活性剤として、例えば、ステアリルアミンアセテート、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0046】
[フィラメント状成形体およびその製造方法]
本発明のフィラメント状成形体は、本発明の樹脂組成物を公知の方法によりフィラメントの形状とすることで、熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料として好適に用いることができる。フィラメント状成形体は、モノフィラメントでも、マルチフィラメントでもよいが、モノフィラメントが好ましい。またこれらは未延伸のものであっても延伸したものであってもよい。
【0047】
フィラメント状成形体は、直径が1.5~3.2mmであることが好ましく、中でも1.6~3.1mmであることが好ましい。フィラメント状成形体の直径とは、フィラメント状成形体の長手方向に対して垂直に切断した断面における、最大長径と最小短径の平均である。フィラメント状成形体は、直径が1.5mm未満であると、細くなりすぎて、汎用の熱溶解積層法3Dプリンターに適さないことがある。なお、汎用の熱溶解積層法3Dプリンターに適したフィラメント状成形体の直径の上限は、3.2mm程度である。
【0048】
モノフィラメントからなるフィラメント状成形体を作製する方法としては、本発明の樹脂組成物を、220~290℃で溶融し、定量供給装置でノズル孔(直径5mm)から押出し、これを20~80℃の液浴中で冷却固化後、紡糸速度1~50m/分で引き取り、ボビン等に巻き取る方法等が挙げられる。なお、モノフィラメントの形状にする際、ある程度の範囲内の倍率で延伸を施してもよい。
【0049】
[造形物およびその製造方法]
本発明の造形物は、前記フィラメント成形体(素材)を、熱溶解積層法3Dプリンターを用いて造形することにより得ることができる。
【0050】
最近では、複数の材料・素材を同時に供給して、複合造形するタイプの3Dプリンターが市販されている。本発明においては、当該複合材料対応型3Dプリンターを用いて、本発明の樹脂組成物のフィラメント成形体と、別の樹脂組成物のフィラメント成形体や別の素材とを同時に供給して造形して、複合材料からなる造形物を得てもよい。別の素材としては、炭素繊維、アラミド繊維またはガラス繊維などの連続繊維または不連続繊維が挙げられ、また当該繊維が樹脂に内包された繊維強化樹脂フィラメントも挙げられる。
【0051】
本発明の造形物は、セルロース繊維とポリアミドを含有する樹脂組成物を用いたものであるため、後述する評価方法で測定した寸法安定性を0.5%以下とすることができ、好ましくは0.3%以下とすることができ、より好ましくは0.2%以下とすることができ、さらに好ましくは0.1%以下とすることができる。また、得られた造形物は、後述する評価方法で測定した23℃での水への浸漬処理前後の寸法変化率を2.0%以下とすることができ、好ましくは1.5%以下とすることができ、より好ましくは1.2%以下とすることができる。
【0052】
また、本発明の造形物は、セルロース繊維とポリアミドを含有する樹脂組成物を用いたものであるため、反りが少ないものとすることができる。また、熱溶解積層法により積層した樹脂層の間の密着性にも優れている。
【0053】
また、本発明の造形物は、分散剤を含有しないものとすることにより、得られる造形物は、ブリードアウトを発生しないものとすることができる。造形物において、ブリードアウトが生じると、外観が悪くなったり、化学物質の付着の問題が生じる。また、分散剤を含有しないことにより、得られる造形物の反りもさらに少ないものとすることができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、樹脂組成物、得られたモノフィラメント、得られた造形物の評価は、以下の方法によりおこなった。
【0055】
A.評価方法
(1)造形物中のセルロース繊維の平均繊維径
凍結ウルトラミクロトームを用いて造形物から厚さ100nmの切片を採取し、切片染色を実施後、透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM-1230)を用いて観察をおこなった。電子顕微鏡画像からセルロース繊維(単繊維)の長手方向に対する垂直方向の長さを測定した。このとき、垂直方向の長さのうち最大のものを繊維径とした。同様にして任意の10本のセルロース繊維(単繊維)の繊維径を測定し、10本の平均値を算出したものを平均繊維径とした。
なお、セルロース繊維の繊維径が大きいものについては、ミクロトームにて10μmの切片を切り出したものか、造形物をそのままの状態で、実体顕微鏡(OLYMPUS SZ-40)を用いて観察をおこない、得られた画像から上記と同様にして繊維径を測定し、平均繊維径を求めた。
造形物は、モノフィラメント(すなわちフィラメント状成形体)を用いて3Dプリンターにより製造した。3Dプリンターによる製造条件は以下の通りであった。
3Dプリンター:NJB-200HT(ニンジャボット社製)
ノズル温度:Mp+30~Mp+50(℃)(Mpは樹脂組成物の融点(℃)である)
テーブル温度:Tg-20~Tg(℃)(Tgは樹脂組成物のガラス転移温度(℃)である)
印刷速度:50mm/秒
ノズル径:0.4mm
1層の厚み:0.2mm
造形物形状(設定値):縦25mm×横25mm×高さ2mmの板形状。
【0056】
(2)樹脂組成物の融点
測定試料を、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製;DSC-7)により、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持した。その後、降温速度20℃/分で25℃まで降温した。次いで、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温測定した際の吸熱ピークのトップを与える温度を、融点として測定した。
【0057】
(3)製糸性
紡糸速度10m/分にて24時間、直径1.75mmのモノフィラメントを採取した際の糸切れ回数により、以下の基準により評価した。
〇:糸切れが0回であった。
△:糸切れ回数が1~3回であった。
×:糸切れ回数が4回以上、またはフィラメントが引き取れなかった。
【0058】
(4)モノフィラメントの直径
得られたモノフィラメントを、20cm毎に、モノフィラメントの長手方向に対して垂直に切断し、測定サンプルを30個得た。各サンプルの断面における最大長径と最小短径を、マイクロメーターを用いて測定し、その平均を算出し、これを平均径とした。全30サンプルの平均径を平均して、モノフィラメントの直径とした。
【0059】
(5)3Dプリンターにおける造形性
モノフィラメントを用いて、3Dプリンター(ニンジャボット社製、NJB-200HT)を用いて、ノズル温度:Mp+30~Mp+50(℃)(Mpは樹脂組成物の融点(℃)である)、テーブル温度:Tg-20~Tg(℃)(Tgは樹脂組成物のガラス転移温度(℃)である)、印刷速度:50mm/秒、ノズル径:0.4mm、1層の厚み:0.2mmの条件で、
図1の「ルーク」を造形した。樹脂が均一に吐出されなかったり、粘着性によりフィラメントのボビン解舒がスムーズにできずに樹脂が安定供給されなかったり、反りが大きすぎて造形台から剥がれて、造形することができなかったりした場合、「×」と評価した。造形することができた場合、
図1中の符号1の部分(オーバーハング部分)の外観を、以下の基準で評価した。
◎:気泡の発生が認められず、しかもオーバーハング部分にダレ(垂れ)は生じなかった。
○:気泡の発生が認められたが、オーバーハング部分にダレ(垂れ)は生じなかった。
△:オーバーハング部分にダレ(垂れ)が生じた。
本発明においては、「△」以上を合格とした。
【0060】
(6)寸法安定性
モノフィラメントを用いて、3Dプリンター(ニンジャボット社製、NJB-200HT)を用いて、ノズル温度:Mp+30~Mp+50(℃)(Mpは樹脂組成物の融点(℃)である)、テーブル温度:Tg-20~Tg(℃)(Tgは樹脂組成物のガラス転移温度(℃)である)、印刷速度:50mm/秒、ノズル径:0.4mm、1層の厚み:0.2mmの条件で、寸法(設定値)を縦25mm×横25mm×高さ2mmになるように設定し、板を造形した。
上記の方法で10枚の板を造形し、KEYENCE社製2次元寸法測定器を用いて、縦および横の長さをそれぞれ測定した。20個の値[2(縦、横)×10枚分]の平均寸法を求め、下記の式を用いて寸法安定性を評価した。
寸法安定性=[得られた造形物の平均寸法-設定した寸法(25mm)]/[設定した寸法(25mm)]×100
実用上、寸法安定性は、絶対値が0.5%以下(△)であることが必要であり、0.2%以下(○)であることが好ましく、0.1%以下(◎)であることがより好ましい。
【0061】
(7)水分による寸法変化率
(6)と同様の方法で10枚の板を造形し、それぞれの板を、23℃で水中に1000時間浸漬した。1000時間後、浸漬処理した板について、KEYENCE社製2次元寸法測定器を用いて縦および横の長さをそれぞれ測定した。20個の値[2(縦、横)×10枚分]の平均寸法を求め、下記の式を用いて水分による寸法変化率を評価した。
水分による寸法変化率=(浸漬処理後の平均寸法-浸漬処理前の平均寸法)/浸漬処理前の平均寸法×100
実用上、水分による寸法変化率は、絶対値が2.0%以下(△)であることが必要であり、1.5%以下(○)であることが好ましく、1.2%以下(◎)であることがより好ましい。
【0062】
(8)反り
(6)と同様の方法で板を造形し、その板を水平面に置いた。水平面から最も浮いている部分の浮きを測定し、以下の基準により評価した。
○:0.1mm未満。
△:0 .1mm以上0.2mm未満。
×:0.2mm以上。
【0063】
(9)ブリードアウトの有無
(6)と同様の方法で板を造形し、60℃の恒温槽で72時間静置した。72時間後、以下の基準により、板の表面を目視で評価した。ブリードアウトは表面の光沢により、その存在を判断した。
○:ブリードアウトが見られた。
×:ブリードアウトが見られなかった。
【0064】
(10)熱溶解積層法3Dプリンターにより積層した樹脂層の間の密着性
(6)と同様の方法で板を造形し、手で湾曲させ、以下の基準により、積層した樹脂層の間の様子を目視で評価した。
○:割れや隙間が生じなかった。
×:割れまたは隙間が生じた。
【0065】
(11)造形物の総合評価
造形物の全ての評価結果について、総合的に評価した。
◎:造形物の全ての評価結果が○以上であり、かつそのうち評価結果◎の数は3つであった。
○:造形物の全ての評価結果が○以上であり、かつそのうち評価結果◎の数は0~2つであった。
△:造形物の全ての評価結果うち最低の評価結果が△であった。
×:造形物の全ての評価結果うち最低の評価結果が×であった。
【0066】
(12)樹脂組成物のガラス転移温度
ガラス転移温度は、昇温速度20℃/分の条件で昇温し、昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値を求める方法で測定した。
【0067】
B.原料
(1)樹脂
・PLA:ポリ乳酸、NatureWorks社製 3001D
・ABS:アクリロニトリル ブタジエン スチレン共重合樹脂、テクノポリマー社製 テクノABS130
・ポリアミド6:ユニチカ社製 A1030BRL
・PA66:ポリアミド66、ASCEND社製 VYDYNE 50BWFS
・PA11:ポリアミド11、アルケマ社RILSAN BMN
・PA12:ポリアミド12、宇部興産社製 3024U
【0068】
(2)セルロース繊維
・セリッシュKY100G:ダイセルファインケム社製、平均繊維径が125nmのセルロース繊維が水に10質量%含有されたもの。
・セリッシュKY100S:ダイセルファインケム社製、平均繊維径が140nmのセルロース繊維が水に25質量%含有されたもの。
【0069】
・バクテリアセルロース:
0.5質量%グルコース、0.5質量%ポリペプトン、0.5質量%酵母エキス、0.1質量%硫酸マグネシウム7水和物からなる組成の培地50mlを、200ml容三角フラスコに分注し、オートクレーブで120℃、20分間蒸気滅菌した。これに試験管斜面寒天培地で生育させたGluconacetobacter xylinus(NBRC 16670)を1白金耳接種し、30℃で7日間静置培養した。7日後、培養液の上層に白色のゲル膜状のバクテリアセルロースが生成した。
得られたバクテリアセルロースをミキサーで破砕後、水で浸漬、洗浄を繰り返すことにより、水置換をおこない、平均繊維径が60nmのバクテリアセルロースが4.1質量%含有された水分散液を調製した。
【0070】
・屑糸:
不織布の製造工程において屑糸として出されたセルロース繊維の集合体に、精製水を加えてミキサーで攪拌し、平均繊維径が3240nmのセルロース繊維が6質量%含有された水分散液を調製した。
【0071】
(3)分散剤
・分散剤a:ステアリン酸グリセリル、関東化学株式会社製
・分散剤b:ポリエチレングリコール200、東京化成工業社製
・分散剤c:ソルビタンモノステアレート、関東化学株式会社製
・分散剤d:メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単独重合体、日油社製 リピジュアHM
【0072】
実施例1
セリッシュKY100Gに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製した。
上記セルロース繊維の水分散液100質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な溶液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合溶液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0kgf/cm2から7kgf/cm2の圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこなった。重合が終了した時点で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練をおこない、乾燥させた。
次に、得られた乾燥樹脂組成物ペレットを、スピニングテスター(富士フィルター工業社製、スクリュー径30mm、溶融押出しゾーン1000mm)を用い、紡糸温度250℃、吐出量39g/分の条件で、孔径5mmで1孔有する丸断面の紡糸口金から押出した。引き続き、押出されたモノフィラメントを、紡糸口金より20cm下の冷却温水50℃に浸漬し、冷却時間1分、引き取り速度16.5m/分で調整しながら引き取り、フィラメント状成形体として、平均繊維径が1.74mmのモノフィラメントを得た。
【0073】
実施例2
実施例1で得られたセルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液100質量部と、プレポリマーとしてナイロン66塩100質量部とを、均一な溶液となるまでミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合溶液を230℃で攪拌しながら、内圧が15kgf/cm2になるまで加熱した。その圧力に到達後、徐々に水蒸気を放出しつつ、加熱を続けてその圧力を保持した。280℃に達した時点で、常圧まで放圧し、さらに1時間重合をおこなった。重合が終了した時点で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練をおこない、乾燥させた。次に、得られた乾燥樹脂組成物のペレットを用いて、実施例1と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.75mmのモノフィラメントを得た。
【0074】
実施例3~5
セルロース繊維の含有量を表1に示す値になるように、セリッシュKY100Gの配合量を変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこない、乾燥樹脂組成物のペレットを得た。
次に、得られた乾燥樹脂組成物のペレットを用いて、実施例1と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.73~1.76mmのモノフィラメントを得た。
【0075】
実施例6
セリッシュKY100GをセリッシュKY100Sに変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこない、乾燥樹脂組成物のペレットを得た。
次に、得られた乾燥樹脂組成物のペレットを用いて、実施例1と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.74mmのモノフィラメントを得た。
【0076】
実施例7、8
セルロース繊維の種類と含有量が表1に示す値になるように、用いるセルロース繊維の水分散液の種類と配合量を変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこない、乾燥樹脂組成物のペレットを得た。
次に、得られた乾燥樹脂組成物のペレットを用いて、実施例1と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.75~1.76mmのモノフィラメントを得た。
【0077】
実施例9~11
実施例3で得られた樹脂組成物ペレット105質量部および、表1に記載の重合に用いたものとは異なる他のポリアミド樹脂(すなわちポリアミド66、ポリアミド11またはポリアミド12)18質量部をドライブレンドし、二軸押出機の主ホッパーに供給した。260℃で十分に溶融混練し、ストランド状に払い出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。
次に、得られた乾燥樹脂組成物のペレットを用いて、実施例1と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.73~1.74mmのモノフィラメントを得た。
【0078】
比較例1
セルロース繊維を用いない以外は、実施例1と同様の操作をおこない、乾燥樹脂組成物のペレットを得た。
次に、得られた乾燥樹脂組成物のペレットを用いて、実施例1と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.75mmのモノフィラメントを得た。
【0079】
比較例2
プライミクス社のフィルミックス56-50型に対して、セリッシュKY100G 0.1質量%およびメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合体0.1質量%を精製水に分散したスラリー状物を投入して、回転周速25m/sで5分間、循環させて、セルロース繊維の分散体を得た。
得られたセルロース繊維の分散体を、東京理化器械社製FD550を用いて-45℃にて凍結乾燥し、粉砕機を用いて粉末状にした。
ポリアミド6 100質量部に対して、得られたセルロース繊維の粉末を3質量部配合し、2軸の混練押出装置(池貝社製PCM-30型二軸押出機、スクリュー径30mmφ)を用いて混練し、払い出し、これを切断してペレットとした。
次に、得られた乾燥樹脂組成物のペレットを用いて、実施例1と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.75mmのモノフィラメントを得た。
【0080】
比較例3~5
分散剤の種類を表に記載のように変更したこと以外は、比較例2と同様の操作をおこない、乾燥樹脂組成物のペレットを得た。
次に、得られた乾燥樹脂組成物のペレットを用いて、実施例1と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.74~1.75mmのモノフィラメントを得た。
【0081】
比較例6~8
表1に記載のポリアミド樹脂をドライブレンドし、二軸押出機の主ホッパーに供給した。260℃で十分に溶融混練し、ストランド状に払い出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。
次に、得られた乾燥樹脂組成物のペレットを用いて、実施例1と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.74~1.75mmのモノフィラメントを得た。
【0082】
比較例9
用いる樹脂をPLA、紡糸温度を200℃、吐出量を31g/分に変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.75mmのモノフィラメントを得た。
【0083】
比較例10
用いる樹脂をABS、紡糸温度を220℃、吐出量を31g/分に変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.76mmのモノフィラメントを得た。
【0084】
比較例11
分散剤の含有量を表に示すように変更したこと以外は、比較例5と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.74mmのモノフィラメントを得た。
【0085】
比較例12
回転周速25m/sで10分間の循環を行ったこと以外は、比較例5と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.74mmのモノフィラメントを得た。
【0086】
比較例13
回転周速50m/sで5分間の循環を行ったこと以外は、比較例5と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.74mmのモノフィラメントを得た。
【0087】
比較例14
2軸の混練押出装置を用いた混練を2回行ったこと以外は、比較例5と同様の操作をおこなって、平均繊維径が1.74mmのモノフィラメントを得た。
【0088】
実施例1~11および比較例1~13で得られた樹脂組成物の組成、モノフィラメントおよびそれから得られた造形物の評価結果を表1および表2に示す。
【0089】
【0090】
【0091】
実施例1~11の樹脂組成物は、融点が高く、それから得られたモノフィラメントは、製糸性に優れ、熱溶解積層法3Dプリンターで設計通りの寸法で造形が可能であった。また、得られた造形物は、反りが小さく、水分による寸法変化が小さく、熱溶解積層法3Dプリンターにより積層した樹脂層の間の密着性が高かった。このため、これらの樹脂組成物は、熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料として、好適に用いることができるものであった。
【0092】
比較例1および6~8は、セルロース繊維を含有していないポリアミドを用いたため、熱溶解積層法3Dプリンターで設計通りの寸法で造形ができなかった。また、積層した樹脂層の間の密着性が悪かった。
比較例2~5は、セルロース繊維をポリアミドの重合時に添加せず、セルロース繊維を、分散剤を用いて混練により含有させた樹脂組成物を用いたため、熱溶解積層法3Dプリンターで設計通りの寸法で造形ができなかった。また、得られた造形物は、水分による寸法変化が小さく、反りが大きく、ブリードアウトが生じた。また、積層した樹脂層の間の密着性が悪かった。
比較例9は、PLAを用いたため、得られた造形物は耐熱性に劣るものであり、水に1000時間浸漬すると、劣化し、水分による寸法変化率を測定することすらできなった。
比較例10は、ABSを用いたため、水分による寸法変化が大きく、反りが大きかった。また、積層した樹脂層の間の密着性が悪かった。
比較例11~14は、セルロース繊維をポリアミドの重合時に添加せず、セルロース繊維を、分散剤を用いて混練により含有させた樹脂組成物を用いたが、分散または混練をより一層、十分に行った。しかしながら、熱溶解積層法3Dプリンターで設計通りの寸法で造形ができなかった。また、得られた造形物は、水分による寸法変化が小さく、反りが大きく、ブリードアウトが生じた。また、積層した樹脂層の間の密着性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の樹脂組成物は、3Dプリンターに供給される、いわゆるフィラメントの製造に有用である。
本発明のフィラメント状成形体は、3Dプリンターに供給される、いわゆるフィラメントとして有用である。