(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】全反射蛍光X線分析装置及び推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20220829BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20220829BHJP
【FI】
G01N23/223
G06N20/00 130
(21)【出願番号】P 2020148517
(22)【出願日】2020-09-03
【審査請求日】2022-02-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊田 真也
(72)【発明者】
【氏名】堂井 真
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/121918(WO,A1)
【文献】特開2010-054334(JP,A)
【文献】特開平07-146259(JP,A)
【文献】国際公開第2006/013728(WO,A1)
【文献】特開2003-270177(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103792246(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
教師データ取得用の基板の表面に対して1次X線を全反射臨界角度以下で照射し、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表す第1の学習用のスペクトル及び第2の学習用のスペクトルを取得し、分析用の基板の表面に対して1次X線を全反射臨界角度以下で照射し、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表す分析用のスペクトルを取得するスペクトル取得部と、
前記第2の学習用のスペクトルに基づき、ファンダメンタルパラメータ法または検量線法によって汚染に含まれる元素を分析する分析部と、
前記第1の学習用のスペクトル
または前記分析用のスペクトルが入力
されると、前記教師データ取得用の基板
または前記分析用の基板の表面における汚染に含まれる元素に関する推定データを生成する推定部を含み
、教師データと、前記第1の学習用のスペクトルを前記推定部に入力した際に生成される前記推定データと、に基づいて前記推定部の学習が実行済である学習部と、
を含み、
前記第1の学習用スペクトルと前記第2の学習用のスペクトルが取得される際に1次X線が照射される前記教師データ取得用の基板上の位置は同一であり、
前記第1の学習用のスペクトル及び前記分析用のスペクトルを取得する時間は、前記第2の学習用のスペクトルを取得する時間よりも短
く、
前記教師データは、前記第1の学習用のスペクトルと、前記第2の学習用のスペクトルに基づいた分析結果と、が組み合わせられたデータである、
ことを特徴とする全反射蛍光X線分析装置。
【請求項2】
前記推定データは、汚染に含まれる元素が存在するか否かを表すデータである、ことを特徴とする請求項1に記載の全反射蛍光X線分析装置。
【請求項3】
前記推定データは、汚染に含まれる元素の定量値を表すデータである、ことを特徴とする請求項1に記載の全反射蛍光X線分析装置。
【請求項4】
前記教師データ取得用の基板及び前記分析用の基板は、シリコン基板であって、
汚染に含まれる前記元素は、予め定められた複数の元素である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の全反射蛍光X線分析装置。
【請求項5】
教師データ取得用の基板の表面に対して1次X線を全反射臨界角度以下で照射し、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表す第1の学習用のスペクトル及び第2の学習用のスペクトルを取得する学習用スペクトル取得ステップと、
教師データと、前記第1の学習用のスペクトルを推定部に入力した際に生成される推定データと、に基づい
て推定部の学習を実行する学習ステップと、
汚染に含まれる元素が表面に存在するか不明である分析用の基板の表面に対して1次X線を全反射臨界角度以下で照射し、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表す分析用のスペクトルを取得する分析用スペクトル取得ステップと、
前記推定部が、前記分析用のスペクトルの入力に応じて、前記推定データを生成する推定データ生成ステップと、
を含み、
前記第1の学習用スペクトルと前記第2の学習用のスペクトルが取得される際に1次X線が照射される前記教師データ取得用の基板上の位置は同一であり、
前記第1の学習用のスペクトル及び前記分析用のスペクトルを取得する時間は、前記第2の学習用のスペクトルを取得する時間よりも短
く、
前記教師データは、前記第1の学習用のスペクトルと、前記第2の学習用のスペクトルに基づいた分析結果と、が組み合わせられたデータである、
ことを特徴とする推定方法。
【請求項6】
前記教師データは、1枚の前記教師データ取得用の基板の同一測定点に基づいて複数取得される、ことを特徴とする請求項5に記載の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全反射蛍光X線分析装置及び推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、機械学習装置を用いて、スペクトルを分析する手法が知られている。例えば、下記特許文献1には、赤外分光測定装置を用いて縦軸を吸光度とし横軸を波数とする分光スペクトルを取得した上で、分光スペクトルに基づいて対象試料に含まれる異物等の化合物を分析する畳み込みニューラルネットワークを有するスペクトル解析装置が開示されている。
【0003】
また、下記特許文献2は、スペクトルに含まれるピーク高さやピーク面積値を取得するようにピーク検出処理部を学習させる点や、該ピーク検出処理部を有する波形解析装置を開示している。
【0004】
また、下記特許文献3は、被検物質と夾雑物とを含む試料のスペクトル情報を学習モデルに入力することにより、被検物質の定量的な情報を推定する情報処理装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/039313号
【文献】国際公開第2019/092836号
【文献】特開2020-101524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、試料に含まれる元素を分析する装置として、蛍光X線分析装置が知られている。蛍光X線分析装置は、試料に1次X線を照射し、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを取得する。当該スペクトルに含まれるピーク毎にピークフィッティングを行うことで、試料に含まれる元素の分析が行われる。
【0007】
蛍光X線分析装置は、例えば、半導体の製造ラインにおいて、基板の表面に汚染が存在するか否かの検査に用いられている。特に、微少な汚染が存在するか否か判定するためには、検出感度が高い全反射蛍光X線分析装置が用いられる。
【0008】
しかしながら、全反射蛍光X線分析装置を用いたとしても、汚染の付着量が非常に小さい場合、スペクトルに含まれるピークとノイズの比(SN比)が小さく、上記判定が困難な場合がある。特に、同じ時間で多くの検査を行うために測定時間を短くすると、スペクトルのSN比が低下し、高精度な判定を行うことができない。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、機械学習装置を用いることにより、基板に汚染が存在するか否かを容易にかつ迅速に判断できる全反射蛍光X線分析装置及び判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の全反射蛍光X線分析装置は、基板の表面に対して1次X線を全反射臨界角度以下で照射し、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを取得するスペクトル取得部と、前記スペクトルの入力に応じて、前記基板の表面における汚染に含まれる元素に関する推定データを生成する推定部を含み、学習用の前記スペクトルと、前記学習用のスペクトルを取得する際に用いた前記基板の表面における汚染に含まれる元素に関するデータと、を含む教師データと、前記学習用のスペクトルを前記推定部に入力した際に生成される前記推定データと、に基づいて前記推定部の学習が実行済である学習部と、を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の全反射蛍光X線分析装置は、請求項1に記載の全反射蛍光X線分析装置において、さらに、前記スペクトルに基づき、ファンダメンタルパラメータ法または検量線法によって汚染に含まれる元素を分析する分析部を含み、教師データに含まれる前記基板の表面における汚染に含まれる元素に関するデータは、前記分析部による分析結果である、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の全反射蛍光X線分析装置は、請求項1または2に記載の全反射蛍光X線分析装置において、前記推定データは、汚染に含まれる元素が存在するか否かを表すデータである、ことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の全反射蛍光X線分析装置は、請求項1または2に記載の全反射蛍光X線分析装置において、前記推定データは、汚染に含まれる元素の定量値を表すデータである、ことを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の全反射蛍光X線分析装置は、請求項1乃至4のいずれかに記載の全反射蛍光X線分析装置において、前記基板は、シリコン基板であって、汚染に含まれる前記元素は、予め定められた複数の元素である、ことを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の推定方法は、基板の表面に対して1次X線を全反射臨界角度以下で照射し、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表す学習用のスペクトルを取得する学習用スペクトル取得ステップと、前記学習用のスペクトルと、前記学習用のスペクトルを取得する際に用いた前記基板の表面における汚染に含まれる元素に関するデータと、を含む教師データと、前記学習用のスペクトルを推定部に入力した際に生成される推定データと、に基づいて前記推定部の学習を実行する学習ステップと、汚染に含まれる元素が表面に存在するか不明である基板の表面に対して1次X線を全反射臨界角度以下で照射し、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表す分析用のスペクトルを取得する分析用スペクトル取得ステップと、前記推定部が、前記分析用のスペクトルの入力に応じて、前記推定データを生成する推定データ生成ステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の推定方法は、請求項6に記載の推定方法において、前記学習用スペクトル取得ステップにおいて、第1の学習用のスペクトルと、第2の学習用のスペクトルが取得され、前記学習ステップにおける教師データは、前記第1の学習用のスペクトルと、前記第2の学習用のスペクトルに基づいた、ファンダメンタルパラメータ法または検量線法による汚染に含まれる元素の分析結果と、を含み、前記第1の学習用のスペクトルを取得する時間は、前記第2の学習用のスペクトルを取得する時間よりも短い、ことを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の推定方法は、請求項6または7に記載の推定方法において、教師データは、1枚の前記基板の同一測定点に基づいて複数取得される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1乃至8に記載の発明によれば、基板に汚染が存在するか否かを容易にかつ迅速に判断できる。
【0019】
請求項8に記載の発明によれば、機械学習に必要な教師データを容易に収集できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】全反射蛍光X線分析装置のハードウェア構成を概略的に示す図である。
【
図2】全反射蛍光X線分析装置の機能的構成を概略的に示すブロック図である。
【
図4】学習部が行う処理について説明するための図である。
【
図6】教師データを生成する方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】教師データを生成する方法の他の一例を示すフローチャートである。
【
図8】教師データを生成する方法の他の一例を示すフローチャートである。
【
図9】学習部に含まれる推定部の学習を行う方法を示すフローチャートである。
【
図11】実施例で用いた機械学習モデルを示す図である。
【
図12】学習の進行に伴う平均二乗誤差の推移を示す図である。
【
図13】推定した定量値と、真の定量値と、の関係を表す図である。
【
図14】従来技術と本発明の比較結果を示す図である。
【
図15】ピークが存在するか否かの判定について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態(以下、実施形態という)を説明する。
図1は、全反射蛍光X線分析装置100のハードウェア構成の概略の一例を示す図である。
【0022】
図1に示すように、全反射蛍光X線分析装置100は、基板の表面に対して1次X線を全反射臨界角度以下で照射し、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを取得する。具体的には、例えば、全反射蛍光X線分析装置100は、試料台104と、X線源106と、モノクロメータ108と、検出部110と、を含む。
【0023】
試料台104は、分析対象となる試料116が載置される。以下、試料116が基板である場合について説明する。基板は、例えば半導体製品を製造するために用いられるシリコン基板である。汚染に含まれる元素は、予め定められた複数の元素である。例えば、汚染に含まれる元素は、Si,P,S,Cl,Ar,K,Ca,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn等のシリコン基板を製造、または加工処理する半導体工場で混入する可能性がある元素である。汚染に含まれる元素は、後述する学習の実行時に予め設定されていれば他の元素であってもよい。基板は、GaAs,GaN,SiC,石英などシリコン以外の元素で形成される基板でも良い。
【0024】
X線源106は、1次X線を発生させる。X線源106が発生させた1次X線は、種々のエネルギーを有する。
【0025】
モノクロメータ108は、X線源106から発せられる種々のエネルギーを有する1次X線からの特定のエネルギーを有する1次X線を取り出す。モノクロメータ108は、X線源106と基板の間に配置される。特定のエネルギーを有する1次X線は、基板の表面に対して、α度以下の入射角で照射される。α度は、全反射臨界角度である。1次X線が照射された基板から、蛍光X線が出射される。
【0026】
検出部110は、検出器と、計数器と、を含む。検出器は、例えば、SDD(Silicon Drift Detector)検出器等の半導体検出器である。検出器は、蛍光X線(蛍光X線や散乱線)の強度を測定し、測定した蛍光X線のエネルギーに応じた波高値を有するパルス信号を出力する。
【0027】
計数器は、検出器から出力されるパルス信号を、波高値に応じて計数する。具体的には、例えば、計数器は、マルチチャンネルアナライザであって、検出器の出力パルス信号を、エネルギーに対応したチャンネル毎に計数し、蛍光X線の強度として出力する。検出部110は、計数器の出力をスペクトルとして取得する。
【0028】
試料台104、X線源106、モノクロメータ108、検出部110の動作は、制御部(図示なし)によって制御される。具体的には、例えば、制御部は、パーソナルコンピュータである。制御部は、各構成との間で指示コマンドの送受信を行うことにより、試料台104、X線源106、検出部110、モノクロメータ108の動作を制御する。
【0029】
続いて、全反射蛍光X線分析装置100の機能的構成について説明する。
図2は、全反射蛍光X線分析装置100の機能的構成を概略的に示すブロック図である。
図2に示すように、全反射蛍光X線分析装置100は、学習用スペクトル取得部202と、分析用スペクトル取得部204と、分析部206と、学習部208と、を含む。
【0030】
学習用スペクトル取得部202は、学習用のスペクトルを取得する。学習用のスペクトルは、基板の表面に対して1次X線が全反射臨界角度以下で照射されたときに、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表す学習用のスペクトルであって、学習部208の学習に用いられる。
【0031】
具体的には、例えば、学習用スペクトル取得部202は、
図3に示すエネルギーと蛍光X線の強度との関係を表す1次元のデータ構造を有する学習用のスペクトルを取得する。
図3に示すデータは、上から下に向かって順に、計数器のチャネル1からチャネル2000の出力に対応している。後述するように、学習用のスペクトルは、検出部110が取得した測定データであってもよいし、演算によって得られた理論データであってもよい。
【0032】
分析用スペクトル取得部204は、分析用のスペクトルを取得する。分析用のスペクトルは、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表す分析用のスペクトルであって、基板の分析に用いられる。具体的には、例えば、分析用スペクトル取得部204は、学習用スペクトル取得部202と同様に、
図3に示すエネルギーと蛍光X線の強度との関係を表す1次元のデータ構造を有する分析用のスペクトルを取得する。すなわち、分析用のスペクトルは、検出部110が取得した測定データである。
【0033】
分析部206は、スペクトルに基づき、ファンダメンタルパラメータ法または検量線法によって汚染に含まれる元素を分析する。具体的には、例えば、分析部206は、検出部110により取得されたスペクトルに含まれるピークごとにフィッティングを行い、近似関数を取得する。各ピークの近似関数は、各元素の定量値と物理定数と装置定数等を用いて計算される理論強度、及び、ピークの形状を表すガウス関数等の適切な関数を用いて表される。分析部206は、スペクトルに対してピークフィッティングを行うことにより、汚染に含まれる元素が存在するか否かを分析する。
【0034】
また、分析部206は、設定されたエネルギー範囲におけるスペクトルに基づいてピーク強度を算出し、算出されたピーク強度に基づいて当該元素の定量分析を行う。
【0035】
学習部208は、推定部210と、パラメータ記憶部212とを含む。推定部210は、スペクトルの入力に応じて、基板の表面における汚染に含まれる元素に関する推定データを生成する。推定データは、汚染に含まれる元素が存在するか否かを表すデータである。また、推定データは、汚染に含まれる元素の定量値を表すデータであってもよい。
【0036】
また、推定部210は、学習用のスペクトルと、学習用のスペクトルを取得する際に用いた基板の表面における汚染に含まれる元素に関するデータと、を含む教師データと、学習用のスペクトルを推定部に入力した際に生成される推定データと、に基づいて学習が実行済である。
【0037】
具体的には、例えば、推定部210は、
図4に示すように、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により実装された機械学習モデルである。なお、推定部210は、単に、ニューラルネットワーク(NN)により実装された機械学習モデルであってもよい。推定部210には、
図3に示すような、1次元のデータ構造を有し、エネルギーと蛍光X線の強度との関係を表すデータが入力される。なお、
図4において、当該データはスペクトルとして表記されている。
【0038】
そして、推定部210は、スペクトルの入力に応じて、推定データを生成する。
図5(a)に示す例では、推定データは、汚染に含まれる各元素と、当該各元素が存在するか否かを表すデータであって、1次元のデータ構造を有する。汚染に含まれる元素が存在するか否かを表すデータとは、例えば、汚染に含まれる元素が存在していることを表す情報は1で表され、汚染に含まれる元素が存在していないことを表す情報は0で表される。
【0039】
図5(b)に示す例では、推定データは、汚染に含まれる元素の定量値を表すデータであって、1次元のデータ構造を有する。汚染に含まれる元素の定量値を表すデータは、例えば汚染に含まれる各元素の強度を表す情報である。各元素の強度に基づいて各元素の付着量を算出することができるため、
図5(b)に示す各元素の強度は、定量値に相当する。
【0040】
続いて、学習部208の行う学習について
図6乃至
図9に示すフローチャートを用いて説明する。
図6は、教師データを生成する方法の一例を示すフローチャートである。
【0041】
まず、基板が試料台104に配置される(S602)。具体的には、基板表面の所定位置に汚染が付着しているか否かが既知である基板が試料台104に配置される。この際、基板は、基板表面の所定位置が1次X線の照射される位置となるように配置される。また、汚染に含まれる元素の定量値が既知であってもよい。
【0042】
次に、学習用スペクトル取得部202は、学習用のスペクトルを取得する(S604)。具体的には、基板の表面に対して1次X線が全反射臨界角度以下で照射され、学習用スペクトル取得部202は、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表す学習用のスペクトルを取得する。ここで、1次X線は、基板表面の所定位置に例えば5秒間照射される。
【0043】
次に、教師データを生成する(S606)。具体的には、S602において、既知である汚染に含まれる元素が存在するか否かを表すデータと、S604で取得した学習用のスペクトルを組み合せて1個の教師データが生成される。なお、S602において、汚染に含まれる元素の定量値が既知である場合、当該定量値と、S604で取得した学習用のスペクトルを組み合せて1個の教師データが生成されてもよい。
【0044】
S602乃至S606のステップは、学習に必要な数の教師データが収集されるまで、数複数回繰り返し実行される。なお、教師データは、1枚の基板の同一測定点に基づいて複数取得されてもよい。すなわち、1回のS602に対して、S604は複数回実行されてもよい。この場合、S604で取得された複数のスペクトルのそれぞれに対して、S602で既知である汚染に含まれる元素に関するデータが組み合わせられることにより、複数の教師データが生成される。
【0045】
図7は教師データを生成する方法の他の一例を示すフローチャートである。まず、基板が試料台104に配置される(S702)。具体的には、基板表面の所定位置に汚染に含まれる元素が存在しているか否かが未知である基板が試料台104に配置される。この際、基板は、基板表面の所定位置が1次X線の照射される位置となるように配置される。また、汚染に含まれる元素の定量値も未知である。
【0046】
次に、学習用スペクトル取得部202は、第1の学習用のスペクトルを取得する(S704)。具体的には、X線源106は、モノクロメータ108を介して基板の表面に対して1次X線を全反射臨界角度以下で照射し、学習用スペクトル取得部202は、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを取得する。ここで、1次X線は、基板表面の所定位置に例えば5秒間照射される。
【0047】
次に、学習用スペクトル取得部202は、第2の学習用のスペクトルを取得する(S706)。具体的には、X線源106は、モノクロメータ108を介して基板の表面に対して1次X線を全反射臨界角度以下で照射し、学習用スペクトル取得部202は、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表すスペクトルを取得する。ここで、第1の学習用のスペクトルを取得する時間は、第2の学習用のスペクトルを取得する時間よりも短い。例えば、S706において、1次X線は、基板表面の所定位置に60秒間照射される。
【0048】
次に、分析部206は、分析を行う(S708)。具体的には、分析部206は、S706で取得した第2の学習用のスペクトルを用いて、ファンダメンタルパラメータ法または検量線法によって汚染に含まれる元素が存在するか否かを分析する。また、分析部206は、汚染に含まれる元素が存在するか否かを分析するとともに、汚染に含まれる元素の定量値を分析してもよい。
【0049】
次に、教師データを生成する(S710)。具体的には、S708で分析した結果と、S704で取得した学習用のスペクトルを組み合せて1個の教師データが生成される。すなわち、教師データは、第1の学習用のスペクトルと、第2の学習用のスペクトルに基づいた、ファンダメンタルパラメータ法または検量線法による汚染に含まれる元素の分析結果と、を含む。教師データに含まれる元素が存在するか否かを表すデータは、分析部206による分析結果である。なお、S708において、汚染に含まれる元素の定量値を分析する場合、当該定量値と、S704で取得した第1の学習用のスペクトルを組み合せて1個の教師データが生成されてもよい。
【0050】
上記と同様、S702乃至S710のステップは、学習に必要な数の教師データが収集されるまで、数複数回繰り返し実行される。また、1セットのS706及びS708に対して、S704は複数回実行されてもよい。この場合、S704で取得された複数の第1の学習用のスペクトルのそれぞれに対して、S708の分析結果が組み合わせられることにより、複数の教師データが生成される。
【0051】
図7に示す方法では、第1の学習用のスペクトルを取得する時間は、第2の学習用のスペクトルを取得する時間よりも短い。そのため、第1の学習用のスペクトルを分析した結果よりも、第2の学習用のスペクトルを分析した結果の方が分析の精度が高い。従って、短時間で取得される第1の学習用のスペクトルに対して、該第1の学習用のスペクトルを分析する結果よりも精度の高い分析結果が組み合わされて教師データが生成される。
【0052】
なお、
図6及び
図7の説明で記載した所定の位置とは、測定位置であって、基板上の予め定められた一定の位置であればどこでもよく、例えば基板の中心である。
【0053】
図8は、教師データを生成する方法の他の一例を示すフローチャートである。まず、所定の汚染の有無を表す情報が生成される(S802)。具体的には、例えば、制御部は、乱数を用いて、基板の表面に付着する可能性のある各元素が存在するか否かを表すデータを生成する。また、制御部は、各元素が存在するか否かを表すデータとともに、乱数を用いて、各元素の定量値を生成する。
【0054】
次に、学習用のスペクトルが生成される(S804)。具体的には、制御部は、S802で生成された各元素の定量値と、物理定数と、装置定数とを用いて、エネルギー毎の理論強度を演算する。ここで、物理定数及び装置定数は、本発明が実施される環境に応じて適宜設定される。学習用スペクトル取得部202は、当該演算によって得られた理論プロファイルを学習用のスペクトルとして取得する。演算は、ファンダメンタルパラメータ法等の従来技術を用いて行われる。
【0055】
次に、教師データを生成する(S806)。具体的には、S802で生成された汚染に含まれる元素が存在するか否かを表すデータと、S804で生成された学習用のスペクトルを組み合せて1個の教師データが生成される。上記と同様、S802乃至S806のステップは、学習に必要な数の教師データが収集されるまで、数複数回繰り返し実行される。
【0056】
なお、
図6乃至
図8に示すフローチャートのうちいずれか1個のフローチャートを用いて教師データが生成されてもよいし、2個または3個のフローチャートを用いて教師データが生成されてもよい。
【0057】
図9は、学習部208に含まれる推定部210の学習を行う方法を示すフローチャートである。なお、推定部210は、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により実装された機械学習モデルであるとする。また、事前に、汚染に含まれる元素が存在するか否かを表すデータを出力するニューラルネットワークモデル(以下、第1CNNとする)、及び、汚染に含まれる元素の定量値を出力するニューラルネットワークモデル(以下、第2CNNとする)が個別に構築されているものとして説明する。まず、内部変数であるiが1に設定される(S902)。
【0058】
次に、教師データが推定部210に入力される(S904)。具体的には、iが1である場合、第1CNNに対して、学習用のスペクトルと、汚染に含まれる元素が存在するか否かを表すデータが入力される。汚染に含まれる元素が存在するか否かを表すデータは、
図5(a)に示すように、汚染に含まれる各元素が存在する場合に1で表され、各元素が存在しない場合に0で表される。第1CNNは、当該学習用のスペクトルが入力されると、汚染に含まれる各元素の存在する確率を0から1までの間の数値として出力する。
【0059】
また、第2CNNに対して、学習用のスペクトルと、
図5(b)に示すような汚染に含まれる各元素の定量値が入力される。第2CNNは、当該学習用のスペクトルが入力されると、汚染に含まれる各元素の定量値を出力する。
【0060】
そして、平均二乗誤差が算出される(S906)。具体的には、学習部208は、推定部210が出力した汚染に含まれる各元素の存在する確率を表す値と、S904で入力された各元素が存在するか否かを表すデータと、の差分の平均二乗誤差を算出する。また、学習部208は、推定部210が出力した各元素の定量値と、S904で入力された各元素の定量値と、の差分の平均二乗誤差を算出する。
【0061】
次に、パラメータが更新される(S908)。具体的には、学習部208は、誤差逆伝播法によって、上記平均二乗誤差が小さくなるように第1CNN及び第2CNNのパラメータを更新する。パラメータは、第1CNN及び第2CNNの内部定数であって、例えば、各ノードの重み付に用いられる値である。更新されたパラメータは、パラメータ記憶部212に記憶される。
【0062】
次に、iが5000であるか否か判定され(S910)、Noと判定された場合iはインクリメントされ(S912)、S906へ戻る。この場合、さらに第1CNN及び第2CNNに対して、学習が行われ、パラメータが再度更新される。一方、S910においてYesと判定された場合学習を終了する。
【0063】
以上のように、パラメータの更新を繰り返すことによって学習が実行される。なお、
図9においてはパラメータの更新が5000回行われる場合について説明したがこれに限られない。例えば、S906において、平均二乗誤差が所定の値を下回ったときに学習を終了してもよい。
【0064】
また、第1CNNとともに第2CNNを学習させる場合について説明したが、元素の定量分析を行わない場合には第1CNNの学習のみを行ってもよい。また、定量分析の結果に基づいて汚染に含まれる元素が存在するか否か判定を行う場合には、第2CNNの学習のみを行ってもよい。
【0065】
また、推定部210が第1CNNと第2CNNが個別に実装された機械学習モデルである場合について説明したが、機械学習モデルは適宜設計可能である。例えば、推定部210は、元素が存在するか否かを表すデータとともに定量値を出力する単一の畳み込みニューラルネットワークにより実装された機械学習モデルであってもよい。
【0066】
続いて、学習済の推定部210を用いて、基板の表面に汚染に含まれる元素が存在するか、及び、当該元素の定量値を推定する方法について説明する。
図10は、当該推定方法を示すフローチャートである。なお、
図6乃至
図9に示すフローチャートが実行されることにより、既に学習用スペクトル取得ステップと、学習ステップは完了しているものとする。
【0067】
まず、基板が試料台104に配置される(S1002)。具体的には、基板表面に汚染に含まれる元素が存在しているか否かが不明である基板が試料台104に配置される。当該基板は、汚染に含まれる元素が存在するか否か、及び、当該元素の定量値を分析する対象である。
【0068】
次に、内部変数であるiが1に設定される(S1004)。
【0069】
次に、試料台104は、基板の分析対象となる位置が、内部変数iに対応する位置となるように基板を移動する(S1006)。基板の分析対象となる位置は、内部変数iごとに固有である。
【0070】
次に、分析用のスペクトルを取得する(S1008)。具体的には、分析用スペクトル取得部204は、上記基板の表面に対して1次X線が全反射臨界角度以下で照射され、出射される蛍光X線の強度とエネルギーの関係を表す分析用のスペクトルを取得する。ここで、1次X線は、内部変数iに対応する位置であって、基板の分析対象となる位置に5秒間照射される。
【0071】
次に、推定部210は、推定データを生成する(S1010)。具体的には、推定部210は、S1008で取得された分析用のスペクトルの入力に応じて、汚染に含まれる元素が基板の表面に存在するか否かを表す推定データを生成する。また、推定部210は、S1008で取得された分析用のスペクトルの入力に応じて、汚染に含まれる元素の定量値を表す推定データを生成する。
【0072】
次に、iが50であるか否か判定され(S1012)、Noと判定された場合iはインクリメントされ(S1014)、S1006へ戻る。この場合、さらに基板の異なる位置に1次X線が照射され、再度分析用のスペクトルが取得される。一方、S1012においてYesと判定された場合S1014へ進む。
【0073】
基板上の50か所の位置における推定データが生成されると(S1012のYes)、全ての推定データが出力される(S1014)。具体的には、基板の表面の各位置において、汚染に含まれる元素が存在するか否か、及び、当該元素の定量値の推定結果が表示部(図示なし)に表示される。
【0074】
以上のステップにより、
図10に示す推定方法によれば、分析用のスペクトルを短時間で取得し、分析部206によるパラメータフィッティング等を行うことなく学習済の推定部210を用いて推定を行うことができる。従って、基板上の多数の箇所において汚染に含まれる元素が存在しているか否か、及び、存在する場合には当該元素の定量値を迅速かつ簡便に分析することができる。
【0075】
なお、
図10では、基板上の異なる50か所において蛍光X線の強度を測定する場合について説明したが、測定箇所は50か所より少なくても多くてもよい。
【0076】
続いて、本発明の実施例について説明する。
【0077】
[教師データの取得条件]
教師データに含まれるスペクトルは、株式会社リガク(登録商標)製の全反射蛍光X線分析装置であるTXRF-V310及びTXRF 3760を用いて実測されたデータである。測定に用いられるX線源106の管球に含まれるターゲットは、タングステンターゲットである。X線源106の管電圧は35kV、管電流は255mAである。基板に照射される1次X線は、モノクロメータ108で単色化されたW-Lb線である。
【0078】
試料116は、それぞれ複数枚の12インチシリコン基板と8インチシリコン基板である。測定点の数は、12インチの基板全面(基板のエッジを含む)の297点と、8インチの基板全面(基板のエッジを含む)の113点である。測定時間は、5秒、10秒、30秒の3種類である。スペクトルと定量値の組み合わせ(すなわち教師データ)の数は、8896個である。分析結果である定量値は、スペクトル取得部が取得したスペクトルに対して分析部がピークフィッティングを行うことによって分析した結果である。教師データ8896個中の9割を学習に使用し、残りの1割は学習結果の確認用(テストデータ)として使用した。
【0079】
[機械学習モデル]
機械学習モデルを構築する際に、機械学習ライブラリとしてTensorFlowを用いた。機械学習モデルは、
図11に示すように、1次元畳み込み層と、平坦化層と、それぞれノード数が300である4層の全層結合層と、出力層と、を含む。機械学習モデルが出力する推定データは、P, S, Cl, Ar, K, Ca, Sc, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, In, Sn, I, Baの20種の元素の定量値を含む。Siは、基板を構成する主な元素であるため、推定データに含まれない。なお、本実施例では、定量値のみを含み汚染に含まれる元素が存在するか否かを表すデータを含まない推定データを出力するように、機械学習モデルを構築した。すなわち、推定部210は、上述の第2CNNにより実装された機械学習モデルである。
【0080】
[学習の推移]
図12は、学習の進行に伴う平均二乗誤差の推移を示す図である。
図12の縦軸は平均二乗誤差であり、横軸はパラメータが更新された回数である。また、
図12では、学習に使用したデータ(教師データのうちの9割)の平均二乗誤差と、テストデータ(教師データのうちの1割)の平均二乗誤差と、を個別に記載している。
図12に示すように、学習が進む毎に最小二乗誤差が小さくなっている。5000回の学習が実行された後、平均二乗誤差が十分に小さくなっていることが分かる。
【0081】
[学習の結果]
図13は、推定した定量値と、真の定量値と、の関係を表す図である。具体的には、
図13の縦軸は、テストデータに含まれるスペクトルを推定部210に入力し、推定部210が出力した推定データに含まれる各元素の定量値(推定した定量値)である。
図13の横軸は、テストデータに含まれる定量値(真の定量値)である。また、
図13は、上記20種の元素それぞれにおける関係図を含む。
図13に示すように、推定した定量値と、真の定量値と、の関係は、リニアな関係である。すなわち、推定した定量値と真の定量値が良く一致しており、推定結果が正しいと判断できる。
【0082】
[比較のための測定条件]
上記学習済の機会学習モデルによる推定結果の精度を検証するため、同一の基板の同一の箇所に5秒間または60秒間1次X線を照射し、2種のスペクトルを取得した。当該2種のスペクトルを、同一基板の117か所において取得した。測定装置は、株式会社リガク(登録商標)製の全反射蛍光X線分析装置であるTXRF 3760である。その他の測定条件は、教師データの取得条件で示した条件と同一である。
【0083】
[比較結果]
図14の左側のスペクトルは、上記測定条件で取得され、測定時間が5秒であるスペクトルである。
図14の右側のスペクトルは、上記測定条件で取得され、測定時間が60秒であるスペクトルである。
【0084】
図14下側の表は、各元素に固有の蛍光X線の強度を比較した表である。表の1番上は、測定時間が5秒であるスペクトルに対して分析部206がピークフィッティングを行うことにより取得した強度(分析結果)である。表の真ん中は、測定時間が5秒であるスペクトルの入力に応じて、学習済の推定部210が出力した推定データに含まれる強度(推定結果)である。表の1番下は、測定時間が60秒であるスペクトルに対して分析部206がピークフィッティングを行うことにより取得した強度(分析結果)である。以下、測定時間が60秒であるスペクトルに対して分析部206がピークフィッティングを行うことにより取得した強度が真の値であると仮定する。
【0085】
測定時間が5秒であるスペクトルに基づく分析結果において、Ca, Ti, Fe, Cuは検出されていない。一方、測定時間が5秒であるスペクトルに基づく推定結果において、Ca, Ti, Fe, Cuは検出されている。さらに、測定時間が60秒であるスペクトルに基づく分析結果において、Ca, Ti, Fe, Cuは検出されている(図中矢印参照)。従って、測定時間を60秒から5秒に短縮したとしてもCa, Ti, Fe, Cuを検出することができるようになっている。すなわち、機械学習により、検出感度が向上したと言える。
【0086】
一方、測定時間が5秒であるスペクトルに基づく分析結果において、Vは検出されている。測定時間が5秒であるスペクトルに基づく推定結果において、Vは検出されていない(図中矢印参照)。さらに、測定時間が60秒であるスペクトルに基づく分析結果において、Vは検出されている。従って、学習済の推定部は、Vの存在を見落としたと言える。
【0087】
表1は、117か所の測定位置で取得したスペクトルに基づいて、上記20種の元素が存在するか否かを集計した結果を示す表である。ここでは、定量値が1 cps以上である場合に、当該元素が存在すると判定した。表1では、測定時間が60秒であるスペクトルに基づく分析結果に対して、測定時間が5秒であるスペクトルに基づく分析結果及び推定結果を比較している。
【0088】
表1に示すように、測定時間が5秒であるスペクトルに基づく分析結果及び推定結果を比較すると、推定結果は分析結果よりも13か所で感度が高く、13か所で見落としが少ない。また、推定結果は分析結果よりも40か所で誤定性が少ない。
【0089】
【0090】
以上のように、基板上に汚染が存在するか否かの判定を行うためには、分析部206によるピークフィッティングが必要であった。しかしながら、発明者らは、所定の環境下で取得したスペクトルを用いて学習を行うことにより、当該所定の環境下で取得したスペクトルに対してフィッティングを行うことなく、基板上に汚染が存在するか否かの判定が可能であることを見出した。
【0091】
すなわち、分析対象がシリコン基板等の表面が平坦な基板であって、全反射蛍光X線分析により当該基板の表面に付着した汚染に含まれる元素に起因するピークを含むスペクトルを取得する場合には、蛍光X線の著しい散乱が起きない。このような場合、スペクトルに含まれるピークが汚染に含まれる元素に起因するピークであるかノイズであるかの判定は、従来のフィッティングを用いた方法を行うまでもなく、学習済の推定部210によって可能であることが見いだされた。
【0092】
具体的には、例えば、ピーク位置の前後の強度とノイズによる強度のばらつきに基づいてピーク位置におけるバックグラウンド強度を推定することができる。
図15(a)に示すように、ピーク位置における強度がバックグラウンド強度より高ければ(すなわちスペクトルが盛り上がっていれば)、ピークが存在すると判定できる。
【0093】
また、
図15(b)に示すように、ピーク位置の強度がバックグラウンド強度より高いか容易に判定できない場合がある。この場合であっても、ピーク位置におけるノイズによる強度のばらつきが、ピーク前後の位置におけるノイズによる強度のばらつきが大きいと、ピークが存在すると判定できる。
【0094】
また、特定の元素が含まれる場合、当該特定の元素と共存する可能性の高い元素が存在する。例えば、ステンレス鋼は、Fe、Ni及びCrの合金であり、シリコン基板の製造や処理工程において基板表面に付着する可能性の高い汚染である。スペクトルにFeに起因するピークが含まれると判定された場合、共存するNi及びCrが存在する可能性が高いことから、Ni及びCrに起因するピークが存在する可能性が高いと判定できる。
【0095】
また、1種の元素から発生する蛍光X線は、複数存在する。例えば、Feから発生する蛍光X線として、Fe-Kα線とFe-Kβ線が存在する。そのため、スペクトルにFe-Kα線のピークが含まれると判定された場合、Fe-Kβ線のピークが含まれると判定できる。
【0096】
以上のように、上記環境で取得されたスペクトルには、ピークが含まれるか否か一定の法則が存在することから、多くの教師データを用いて学習部208の学習を行うことにより、学習部208による判定が可能となる。
【0097】
従って、本発明は、特に、全反射蛍光X線分析装置100がクリーンルームに設置された環境、X線源106の出力が一定となるように制御された環境、測定環境の温度及び湿度が一定に制御されている環境、において有効である。
【0098】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上記全反射蛍光X線分析装置100の構成は一例であって、これに限定されるものではない。上記の実施例で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成する構成で置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0099】
100 全反射蛍光X線分析装置、104 試料台、106 X線源、108 モノクロメータ、110 検出部、116 試料、202 学習用スペクトル取得部、204 分析用スペクトル取得部、206 分析部、208 学習部、210 推定部、212 パラメータ記憶部。