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特許7130272単独型の単結晶機械および光学構成要素の生成のための単結晶ダイヤモンド部材の生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】単独型の単結晶機械および光学構成要素の生成のための単結晶ダイヤモンド部材の生成方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
C30B29/04 V
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020512445
(86)(22)【出願日】2017-08-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 IB2017055200
(87)【国際公開番号】W WO2019043432
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】512022631
【氏名又は名称】エコール・ポリテクニーク・フェデラル・ドゥ・ローザンヌ (ウ・ペ・エフ・エル)
【氏名又は名称原語表記】ECOLE POLYTECHNIQUE FEDERALE DE LAUSANNE (EPFL)
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ニールス・クアック
(72)【発明者】
【氏名】アドリアン・トロ
(72)【発明者】
【氏名】マルセル・キス
(72)【発明者】
【氏名】テオドロ・グラッツィオジ
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・ギャロ
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0129202(US,A1)
【文献】特開2003-207332(JP,A)
【文献】特表2007-519029(JP,A)
【文献】特開2013-091586(JP,A)
【文献】Fabrication of Diamond Microstructures by Using Dry and Wet Etching Methods,Plasma Science and Technology,2013年06月
【文献】The Study on mask technology of CVD diamond thin films by RIE etching,Micromachining and Microfabrication,2000年10月20日
【文献】ダイヤモンド薄膜の微細加工技術,Vol. 55 No. 1,R&D神戸製鋼技報,2005年04月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶ダイヤモンド部材の生成方法であって:
単結晶ダイヤモンド基板または層を設ける工程と;
単結晶ダイヤモンド基板または層上に第1の接着層を設ける工程と;
該第1の接着層上に第2の接着層を設ける工程と;
該第2の接着層上にマスク層を設ける工程と;
該マスク層ならびに第1および第2の接着層を通って少なくとも1つのくぼみまたは複数のくぼみを形成して、単結晶ダイヤモンド基板または層の1つまたはそれ以上の部分を露出させる工程と;
単結晶ダイヤモンド基板または層の露出された1つまたはそれ以上の部分をエッチングし、単結晶ダイヤモンド基板または層を全体にわたってエッチングする工程とを含み、
支持基板に単結晶ダイヤモンド基板または層を取付ける取付け層または犠牲層を設ける工程をさらに含み、
単結晶ダイヤモンド基板または層を全体にわたってエッチングして、そして、犠牲層の除去により、または、支持基板に対する単結晶ダイヤモンド基板または層の取付け層の除去により、該単結晶ダイヤモンド部材が解放され、自立型単結晶ダイヤモンド部材を形成する、前記方法。
【請求項2】
第1の接着層は、単結晶ダイヤモンド基板または層の表面上に直接設けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の接着層は、第1の接着層上に直接設けられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1および第2の接着層は、異なる材料を含み、または異なる材料からなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
マスク層および/または第1の接着層および/または第2の接着層は、単結晶ダイヤモンドよりゆっくりとエッチングされる材料を含み、または該材料のみからなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
マスク層および/または第1の接着層および/または第2の接着層は、酸素プラズマエッチングに露出された単結晶ダイヤモンドよりゆっくりとエッチングされる材料を含み、または該材料のみからなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
単結晶ダイヤモンド基板または層は、1μm~1mmの厚さの全体にわたってエッチングされる、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
生成された単結晶ダイヤモンド部材は、1μm~1mmの厚さを有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
単結晶ダイヤモンド基板または層の露出された1つまたはそれ以上の部分のエッチングは、酸素プラズマエッチングを使用して実施される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
単結晶ダイヤモンド基板または層の露出された1つまたはそれ以上の部分のエッチングは、酸素プラズマエッチングと、単結晶ダイヤモンド基板または層の露出された1つまたはそれ以上の部分に対するプラズマによって生じたイオンの加速を介した物理的エッチングとを使用して実施される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つのくぼみまたは複数のくぼみは、単結晶ダイヤモンド基板または層へ転写予定の単結晶ダイヤモンド部材のプロファイルをマスク層内に画成する、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
牲層は、第1の接着層と同じ材料を含み、または該材料のみからなる、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
法は、少なくとも1つのくぼみもしくは複数のくぼみを形成する前に単結晶ダイヤモンド基板もしくは層を支持基板に取り付ける工程をさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
マスク層上にプロファイル形成層を設けて、少なくとも1つのくぼみまたは複数のくぼみをマスク層内に形成する工程をさらに含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
プロファイル形成層の外側セクションを除去する工程をさらに含み、したがってプロファイル形成層の中心セクションがマスク層上に残り、マスク層の内側区域内に少なくとも1つのくぼみまたは複数のくぼみを形成する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
単結晶ダイヤモンド基板または層の露出された1つまたはそれ以上の部分をエッチングする前に、マスク層の側壁を湿式エッチングして、少なくとも1つのくぼみまたは複数のくぼみを画成し、側壁を平滑にする工程をさらに含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
自立型単結晶ダイヤモンド部材を解放する工程をさらに含む、請求項1~16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶またはモノ結晶ダイヤモンド内の単独型の解放構成要素または部材を製造する方法、およびこの方法によって生成された単結晶またはモノ結晶ダイヤモンド部材または生成物に関する。本発明はさらに、反応性イオンエッチングされた単結晶ダイヤモンド部材または生成物のみからなる切断または分離されたダイヤモンド部材または生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用の高純度化学気相成長(CVD)単結晶ダイヤモンドの近年の利用可能性に伴い、その固有の光学的および機械的特性を利用する適用分野が広く報告されている。
【0003】
ナノ機械共振器、ナノワイア先端部、およびカンチレバーなどの機械構造が実証されている。
【0004】
光学分野では、マイクロレンズ、格子、およびマイクロキャビティは、単結晶ダイヤモンドが理想的な材料であるとされる適用分野である。
【0005】
しかし、適用分野は、わずか数百ナノメートルから数十ミクロンの範囲の比較的小さい厚さを有する構造に制限されている。
【0006】
しかし、レーザアブレーションによって厚さ1.2mmまでの単結晶ダイヤモンド解放部材が得られており、粗い側壁(実効値で約1μm)を示す。対照的に、反応性イオンエッチング(RIE)の使用は、数ナノメートルのrms粗さ(実効値で約3nm)の平滑なエッチング構造をもたらしている。加えて、レーザアブレーションは逐次プロセスであるが、プラズマに基づく方法は、複数および任意の数の部材を同時に製造することを可能にし、唯一の制限は、ダイヤモンド基板または複数の個々のダイヤモンド基板からなる複合基板のサイズである。
【0007】
酸素プラズマを用いた単結晶ダイヤモンドに対するエッチングプロセスが実証されており、多くの場合、アルゴンまたは過フッ化炭化水素(たとえば、CF)などの他のガスとの併用で見受けられる。
【0008】
40μm/時間までのエッチング速度および50:1より大きいハードマスク材料の選択性に到達したが、約55μmより大きいエッチング深さは依然として実証されておらず、これにはハードマスクとして作用する外部の高級鋼材構造の使用を必要とした。
【0009】
この制限は、小さいダイヤモンド基板上でのフォトレジストのスピンコーティング中のエッジビードの形成などのディープエッチングプロセスで使用される厚いハードマスクの構築中に遭遇する問題に起因する。加えて、マイクロマスキング作用が表面を粗くし、エッチングプロセスをほぼ停止させる可能性があり、したがって大きいエッチング深さに到達することが困難になる。
【0010】
加えて、シリコンなどの他の材料上のCVDダイヤモンドコーティングに対して様々な供給業者が存在し、すべて多結晶のダイヤモンド部材が市販されている。しかし、多結晶ダイヤモンドには、単結晶ダイヤモンドと比較して材料特性上いくつかの制限がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本開示の1つの態様は、上記の難題を克服する単結晶ダイヤモンド部材の製造方法を提供することである。したがって本発明は、請求項1に記載の方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この方法は、好ましくは:
- 単結晶ダイヤモンド基板または層を設ける工程と;
- 基板または層上に第1の接着層を設ける工程と;
- 第1の接着層上に第2の接着層を設ける工程と;
- 第2の接着層上にマスク層を設ける工程と;
- マスク層ならびに第1および第2の接着層を通って少なくとも1つのくぼみまたは複数のくぼみを形成して、単結晶ダイヤモンド基板または層の1つまたはそれ以上の部分を露出させる工程と;
- 単結晶ダイヤモンド基板または層の露出された1つまたはそれ以上の部分をエッチングし、単結晶ダイヤモンド基板または層を全体にわたってエッチングする工程とを含む。
【0013】
この方法は、有利には、より大きい寸法を有する自立型の単結晶ダイヤモンド部材を生成することを可能にする。さらに、単独型の単結晶ダイヤモンド部材は、低い表面粗さを有する。これはたとえば、合成単結晶ダイヤモンド機械加工部材、たとえば時計部材を生成することを可能にする。
【0014】
本開示の別の態様は、この方法によって生成される単結晶またはモノ結晶ダイヤモンド部材または生成物を提供することである。
【0015】
本開示のさらに別の態様は、反応性イオンエッチングされた合成単結晶ダイヤモンドのみからなり、またはそのような材料を含む、自立型のダイヤモンド部材または生成物を提供することである。
【0016】
他の有利な構成は、従属請求項に見ることができる。
【0017】
本発明のいくつかの好ましい実施形態を示す添付の図面を参照する以下の説明を読めば、本発明の上記その他の目的、構成、および利点、ならびにそれらを実現する方法がより明らかになり、本発明自体が最善に理解されよう。
【0018】
本発明の上記の目的、構成、および他の利点は、添付の図面に関連する以下の詳細な説明から最善に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示の方法によって得られる単結晶ダイヤモンド内の解放部材または生成物の一例を示し、解放構成要素が(約)3mmの直径および(約)0.15mmの厚さtを有する図である。
図2】例示的な単結晶ダイヤモンド部材の製造方法、ならびにこの方法で使用することができる例示的な材料を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書では、これらの図に共通する同一の要素を指すために、可能な場合、同一の参照番号を使用する。
【0021】
図2は、例示的な単結晶ダイヤモンド部材の製造方法を示し、図1は、この方法によって生成された例示的なダイヤモンド生成物Pを示す。本開示の方法は、たとえば単結晶ダイヤモンド内にマイクロ機械およびマイクロ光学構成要素または部材を製造するためのものである。
【0022】
このプロセスは、単結晶またはモノ結晶のダイヤモンド基板または層1を使用する。単結晶ダイヤモンド基板または層は、たとえば寸法5mm(長さ(x方向))×5mm(幅(y方向))×0.15mm(厚さt(z方向))とすることができる。しかし、本開示の方法はそのような寸法に限定されるものではなく、単結晶ダイヤモンド基板または層1は、長さおよび幅がより大きくてもより短くてもよく、より大きい厚さまたはより小さい厚さを有することもできる。たとえば、厚さ1μm~1mmのダイヤモンド構成要素を生成することができ、したがって単結晶ダイヤモンド基板または層1もまた、厚さ1μm~1mmを有する。単結晶ダイヤモンド基板または層1は、別法として、厚さ1μm~500μm、または50μm~500μm、または50μm~250μmを有することができる。
【0023】
単結晶ダイヤモンド基板または層1は、好ましくは、非天然または合成の単結晶ダイヤモンド、たとえば化学気相成長CVD単結晶ダイヤモンド、またはHPHT(高温高圧)合成による合成ダイヤモンドである。
【0024】
任意の形状の解放部材を得るために、基板または層1上でディープ反応性イオンエッチングプロセス(deep reactive ion etch process)が実行される(これらの部材はディープエッチングによってダイヤモンド基板内の2Dパターンを転写することによって得られるため、得られる部材は3Dではなく「2.5D」である)。
【0025】
知られている方法とは異なり、このプロセスは、知られている問題を克服し、ダイヤモンド基板を全体にわたってエッチングして解放部材を得ることを可能にする。このプロセスは、厚いハードマスク堆積およびパターニングを使用し、それに続いて、たとえばOプラズマエッチングを使用して、自立型のダイヤモンド部材Pを生成する(たとえば、図1参照)。
【0026】
単結晶ダイヤモンド基板または層1に、第1の接着層3が堆積される、または加えられる。次いで、第1の接着層3に第2の接着層5が堆積される、または加えられる。第1の接着層3は、好ましくは、ダイヤモンド基板または層1に直接加えられ、第2の接着層5は、好ましくは、第1の接着層3に直接加えられる。
【0027】
第1の接着層3および第2の接着層5は、異なる材料を含み、または異なる材料からなる。第1の接着層3は、たとえば、アルミニウム、クロム、もしくはチタン、もしくはこれらの組合せを含むことができ、またはそのような材料のみからなることができる。第2の接着層5は、たとえば、酸化ケイ素を含むことができ、または酸化ケイ素のみからなることができる。
【0028】
第2の接着層5は、たとえば、酸化ケイ素、Al、Al、Si、SiN、Au、Ti、Si、Ni、Ni-Ti合金、もしくはWを含むことができ、またはそのような材料のみからなることができる。第2の接着層5はまた、たとえば、Ag、Cu、Fe、Cr、Co、Ga、Ge、In、Mo、NiFe、NiCr、Nb、Pd、Pt、Si、Sn、Ta、もしくはYを含むことができ、またはそのような材料のみからなることができる。第2の接着層5はまた、たとえば、MgO、ITO(インジウムスズ酸化物、In-SnO)、酸化チタン(TiO、Ti、Ti)、ZrO、HfO、La、Y、もしくはSiCを含むことができ、またはそのような材料のみからなることができる。
【0029】
第1の接着層3は、たとえば、5nm~250nmの厚さを有することができる。第2の接着層5は、たとえば、5nm~100nmの厚さを有することができる。
【0030】
次いで、第2の接着層5に(ハード)マスク層9が堆積される、または加えられる。マスク層9は、たとえば、1μm~150μmの厚さを有する。第1の接着層3および第2の接着層5の存在は、ダイヤモンド基板または層1のディープ反応性イオンエッチング中に構造上に非常に厚いマスク層9を堆積させて保持することができ、ダイヤモンド基板または層1全体にわたってエッチングを実施することができることを保証する。応力による剥離および亀裂が防止される。
【0031】
好ましくは、マスク層9は、単結晶ダイヤモンド基板もしくは層1よりゆっくりとエッチング(たとえば、酸素プラズマエッチング)される材料を含み、またはそのような材料のみからなる。反応性イオンエッチングは、ダイヤモンド基板または層1を優先的に選択し、好ましくはダイヤモンド基板または層1をエッチングする。
【0032】
マスク層9は、たとえば、酸化ケイ素を含むことができ、または酸化ケイ素のみからなることができる。
【0033】
マスク層9は、たとえば、酸化ケイ素、Al、Al、Si、SiN、Au、Ti、Si、Ni、Ni-Ti合金、もしくはWを含むことができ、またはそのような材料のみからなることができる。マスク層9はまた、たとえば、Ag、Cu、Fe、Cr、Co、Ga、Ge、In、Mo、NiFe、NiCr、Nb、Pd、Pt、Si、Sn、Ta、もしくはYを含むことができ、またはそのような材料のみからなることができる。
【0034】
マスク層9はまた、たとえば、MgO、ITO(インジウムスズ酸化物、In-SnO)、酸化チタン(TiO、Ti、Ti)、ZrO、HfO、La、Y、もしくはSiCを含むことができ、またはそのような材料のみからなることができる。
【0035】
第2の接着層5およびマスク層9は、同じもしくは異なる材料を含むことができ、またはそのような材料のみからなることができる。
【0036】
第1の接着層3および第2の接着層5はまた、単結晶ダイヤモンド基板もしくは層1よりゆっくりとエッチングされる材料を含むことができ、またはそのような材料のみからなることができる。第1の接着層3および第2の接着層5はまた、マスク層9よりゆっくりとエッチングされる材料を含むことができ、またはそのような材料のみからなることができる。
【0037】
たとえばエッチングによって、マスク層9ならびに第1の接着層3および第2の接着層5を通って少なくとも1つのくぼみもしくは凹部10または複数のくぼみもしくは凹部10を形成して、単結晶ダイヤモンド基板または層1の1つまたはそれ以上の部分10Aを露出させる(たとえば、図2(j)参照)。
【0038】
少なくとも1つのくぼみまたは複数のくぼみ10は、マスク層(9)ならびに第1の接着層3および第2の接着層5内にプロファイルを画成し、このプロファイルが単結晶ダイヤモンド基板または層1へ転写され、その結果得られる単結晶ダイヤモンド部材または生成物Pの形態または形状を画成する。
【0039】
たとえば、マスク層9上にプロファイル形成層(profile forming layer)15を直接堆積する、または加えることによって、くぼみ10を形成することができ、マスク層9ならびに第1の接着層3および第2の接着層5内に1つまたは複数のくぼみ10を形成することを可能にすることができる。プロファイル形成層15は、たとえば、フォトレジストを含むことができ、またはフォトレジストのみからなることができる。
【0040】
プロファイル形成層15の堆積の結果、プロファイル形成層15の1つまたはそれ以上の外側セクション17Aに蓄積区間(またはエッジビード)を形成することができる(たとえば、図2(e)参照)。そのような区間17Bは、プロファイル形成層15内に実現可能な最小機能サイズ、および/またはプロファイル形成層15内に含まれるパターンの精度を制限することができる。まず、プロファイル形成層15のこれらの外側セクション17Aが除去され、したがってプロファイル形成層15の中心セクション17Bのみがマスク層9上に残る。次いで、中心セクション17B内に凹部形成構造18を形成し(たとえばエッチング、または標準的なフォトリソグラフィ技法により、すなわちプロファイル形成層15がフォトレジストからなるときは露出および現像による)、それを使用して、マスク層9の内側中心区域内に少なくとも1つのくぼみまたは複数のくぼみ10を形成する。
【0041】
くぼみ10を画成するマスク層9の側壁SWの湿式エッチングは、側壁SWを平滑にするように実施することができる。これは、好ましくは、単結晶ダイヤモンド基板または層1の露出された1つまたはそれ以上の部分10Aをエッチングする前に実施される。第2の接着層5の側壁も同様に処理することができる。これは、有利には、単結晶ダイヤモンド基板または層1内により平滑な側壁SW1を得ることを可能にする。
【0042】
単結晶ダイヤモンド基板または層1の露出された1つまたはそれ以上の部分10Aは、反応性イオンエッチングされ、単結晶ダイヤモンド基板または層1の全体にわたってエッチングされる。少なくとも1つのくぼみまたは複数のくぼみ10のプロファイルは、単結晶ダイヤモンド基板または層1へ転写される。
【0043】
エッチングは、たとえば、酸素プラズマエッチングを使用して実施される。酸素プラズマエッチングに加えて、印加電界を使用してプラズマによって生じたイオンを加速させ、単結晶ダイヤモンド基板または層1の露出された1つまたはそれ以上の部分10Aに対してイオンを加速させることによって、物理的エッチングを同時に実施することができる。これは、有利には、より速いエッチング速度を実現することを可能にする。
【0044】
酸素プラズマエッチングは、酸素プラズマのみからなることができる。別法として、プラズマエッチングは、酸素および不活性ガス(たとえば、アルゴン)、またはたとえばOならびにArおよびSF;OおよびSF;OおよびCF;OおよびCHF;またはOおよびHなどの混合ガスを含むことができる。別法として、ArおよびClの混合ガスを使用することもできる。
【0045】
単結晶ダイヤモンド基板または層1は、より容易な取扱いを可能にするために、支持基板11に取り付けることができる。これは、たとえば、少なくとも1つのくぼみまたは複数のくぼみ10Aを形成する前に行うことができる。
【0046】
単結晶ダイヤモンド基板または層1は、犠牲層7を介して支持基板11に取り付けることができる。支持基板11は、中間取付け層11Aによって犠牲層7に取り付けることができる。別法として、単結晶ダイヤモンド基板または層1は、取付け層11Aのみを介して支持基板11に取り付けることができる。取付け層11Aは、たとえば、接着剤、絶縁体、または半導体、または金属の層を含むことができる。
【0047】
犠牲層7は、第1の接着層3とは異なる材料もしくは同じ材料を含むことができ、またはそのような材料のみからなることができる。
【0048】
犠牲層7の除去によって、または別法として取付け層11Aの除去、もしくは取付け層11Aにおける分離によって、1つまたはそれ以上の単結晶ダイヤモンド部材Pを解放することができる。
【0049】
より特有の例示的な実施形態について、図2(a)~図2(m)に関連して次に説明する。
【0050】
まず、たとえばピラニア溶液(HSO(96%):H(30%)(3:1))を使用して、寸法(約)5mm×5mm×0.15mmを有する単結晶ダイヤモンド基板または層1を洗浄することによって、洗浄工程を実施することができる(図2(a))。
【0051】
次いで場合により、Oプラズマ(600W、400sccmのO流、0.8ミリバール)内に2分間にわたって基板1を配置して、第1の接着層3および犠牲層7の接着性を改善することができ、これはたとえば、直後に基板または層1の両側に堆積される厚さ200nmのスパッタリングアルミニウム層である(200W、15sccmのAr流)(図2(b))。
【0052】
基板1の前面FSのアルミニウム接着層3は、次の酸化ケイ素マスク層9の堆積のための接着性促進剤として働き、後面BSの犠牲アルミニウム層7は、製造された部材Pの解放のためのエッチング停止および犠牲層として働く。
【0053】
厚さ65nmの酸化ケイ素の第2の接着層5が、基板1の前面FSにおいてO流下でスパッタリングされ(1000W、98sccmのAr流、13sccmのO流)、第1の接着アルミニウム層3と、厚さ7μmの酸化ケイ素のマスク層9との間の追加の接着層として働き、マスク層9は、速い堆積速度を実現するために、次にO流なしでスパッタリングされる(1000W、15sccmのAr流)(図2(c))。
【0054】
基板1は、たとえばQuickstick135(図2(d))によって、シリコンハンドリングウェーハ11上に接着することができ、それに続いて、たとえば130℃のヘキサメチルジシラザン(HMDS)気相成長を行い、次に堆積されるフォトレジスト15の接着性を改善することができる。
【0055】
たとえば、ECI3027フォトレジストの厚さ(約)2.5μmの層を1750rpmでスピンコーティングし、それに続いて100℃で5分間のソフトベークを行う(図1(e))。基板1の矩形の形状、およびハンドリング基板11とダイヤモンド基板または層1の前面FSとの間のステップのため、実質的なエッジビード17Aを形成することができる。エッジビードはまた、円形の形状などの他の形状の基板上にも形成され、より大きい基板上にも形成される。良好なリソグラフィ分解能を得る(マスクからフォトレジストまでの距離を最小にする)ために、エッジビードは除去されることが好ましい。
【0056】
このエッジビード17Aを除去するために、エッジビード17Aの影響を受けた領域(たとえば、基板の縁部から基板1の内側(約)0.5mm)上で、フォトレジスト15の第1の(光または電子ビーム)露出(600mJ/cm)を行い、それに続いて137秒にわたってAZ726MIF現像液における標準的な現像を行う(図2(f))。
【0057】
製造予定の1つまたはそれ以上の部材Pのパターン18によって、基板または層1の中心領域17B上で第2の露出(225mJ/cm)を実行し、それに続いて108秒にわたってAZ726MIFにおける現像を行う(図2(g))。
【0058】
30分20秒の総時間中、4分未満の工程において、He/H/Cプラズマ内で酸化ケイ素の第2の接着層5およびマスク層9をエッチングする(図2(h))。
【0059】
これに続いて、2分間にわたってOプラズマ(600W、400sccmのO流、0.8ミリバール)を使用してフォトレジスト15を剥離し、75℃に加熱されたマイクロポジットリムーバ(microposit remover)1165溶液中に5分間にわたって浸漬し、それに続いて脱イオン(DI)水によるすすぎおよびN流下の乾燥を行い、2分間にわたって第2のOプラズマ(600W、400sccmのO流、0.8ミリバール)にかける。
【0060】
第2の接着層およびマスク層の側壁、すなわち酸化ケイ素5、9の側壁を平滑にするために、基板1を緩衝フッ化水素酸溶液(NHF(40%):HF(50%)(7:1))中に15秒間にわたって浸漬する(図2(i))。
【0061】
Cl/BClプラズマ内で(約)1分間にわたって第1の接着アルミニウム層3をエッチングし、その直後に、DI水によるすすぎおよびN流下の乾燥を行って、あらゆる塩素残留物を除去する(図2(j))。
【0062】
プラズマ(2000WのICP電力、200Wのバイアス電力、100sccmのO流、15ミリトルのチャンバ圧力)内で(約)5時間にわたって、アルミニウムの後面犠牲層7に到達するまで、単結晶ダイヤモンド基板1をエッチングする(図2(k))。プラズマによって生じたイオンをバイアス電力の印加によって加速させることで、物理的エッチングを同時に実施する。エッチング速度は、(約)30μm/時間である。ダイヤモンドエッチングに使用したRIE機械は、SPTS APS Dielectricエッチャであった。
【0063】
HF(50%)槽内で接着酸化ケイ素層5およびマスク酸化ケイ素層9を剥離し(図2(l))、35℃のHPO(85%):CHCOOH(100%):HNO(70%)(83:5.5:5.5)槽内で、第1の接着アルミニウム層3および(アルミニウム)犠牲層を完全に剥がれるまでエッチングし、部材Pをハンドリングシリコンウェーハ11から解放する(図2(m))。
【0064】
図1は、この方法によって生成される生成物Pの代表的な例を示す。
【0065】
この例示的な方法によって得られる部材Pは、84.6°±0.5°の側壁角度を有し、最小(約)3μmの構造が分解される。原子間力顕微鏡(AFM)によって測定される側壁SW1の粗さは、側壁の領域に応じて、(約)15nm(rms)~(約)200nm(rms)の範囲である(たとえば、側壁の上部(約)30μmは、下の残り部分(約)120μmよりはるかに平滑な表面を示す)。
【0066】
本発明者らの知る限り、プラズマに基づく方法を使用する単結晶ダイヤモンド内でそのようなディープエッチングが生成されるのはこれが初めてである。
【0067】
さらに、本発明者らが知る限り、単結晶ダイヤモンド分離片が生成されるのもこれが初めてである。
【0068】
この方法は、たとえば、マイクロ機械構成要素(たとえば、時計業界向け)またはマイクロ光学部材(たとえば、X線回折格子、レンズ)を生成することを可能にする。図1は、本開示の方法によって生成される時計業界向けの例示的なマイクロ機械構成要素を示す。
【0069】
生成することができる機械構成要素には、たとえば、ナノインデンタ、機械テスタ、切断刃、共振器が含まれる。生成することができる光学構成要素には、たとえば、レンズ、フィルタ、ビームスプリッタ、窓、拡散器、プリズムが含まれる。
【0070】
ダイヤモンド部材または生成物Pは、自立型の反応性イオンエッチングされた合成単結晶ダイヤモンド部材であり、少なくとも1つまたは複数の反応性イオンエッチングされた側壁SW1を含む。合成単結晶ダイヤモンド基板または層は、たとえば、化学気相成長(CVD)単結晶ダイヤモンド基板または層とすることができる。
【0071】
ダイヤモンド部材もしくは生成物Pは、1μm~1mmの厚さtを有し、かつ/または少なくとも1つもしくは複数の反応性イオンエッチングされた側壁SW1は、1μm~1mmの厚さtを有する。
【0072】
ダイヤモンド部材または生成物Pは、自立型の反応性イオンエッチングされた合成単結晶ダイヤモンド基板または層(または本体)1、ならびに基板もしくは層1内の少なくとも1つのアパーチャAP、および/または基板もしくは層1内の少なくとも1つの合成単結晶ダイヤモンド機械素子ME、および/または少なくとも1つの合成単結晶ダイヤモンド突起PRを画成するための、少なくとも1つまたは複数の反応性イオンエッチングされた側壁SW1のみからなることができ、またはそれらを含むことができる。
【0073】
合成単結晶ダイヤモンド突起PRは、たとえば、横方向の突起PRとすることができる。合成単結晶ダイヤモンド機械素子MEは、たとえば基板または層1の平面方向に横へ延びる。
【0074】
少なくとも1つまたは複数の反応性イオンエッチングされた側壁SW1は、ダイヤモンド部材もしくは生成物Pの外側境界を画成する少なくとも1つもしくは複数の外部側壁ESW1、および/またはダイヤモンド部材もしくは生成物Pの内部素子を画成する少なくとも1つもしくは複数の内部側壁ISW1を含むことができる。
【0075】
少なくとも1つまたは複数の反応性イオンエッチングされた側壁SW1は、酸素プラズマエッチングされた側壁SW1とすることができ、または酸素プラズマエッチングおよび物理的エッチングされた側壁SW1とすることができ、物理的エッチングは、プラズマによって生じたイオンの加速を介して行われる。
【0076】
少なくとも1つまたは複数の反応性イオンエッチングされた側壁SW1は、1nm~1μmのRMS粗さ、または15nm~200nmのRMS粗さを有することができる。側壁SW1は、1μm~1mm、または60μm~1mm、または150μm~1mm、または50μm~250μmの高さまたは厚さtを有することができる。
【0077】
複数の反応性イオンエッチングされた側壁は、ダイヤモンド部材または生成物の平面PSに対して84~90度または84~88度の角度を画成することができる。
【0078】
本発明について特定の好ましい実施形態を参照して開示したが、本発明の領域および範囲から逸脱することなく、記載する実施形態およびその均等物に対する多数の修正、改変、および変更が可能である。したがって、本発明は記載する実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲の語句に応じて合理的に最も広い解釈が与えられることが意図される。
【0079】
参照
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図1
図2