(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/00 20060101AFI20220829BHJP
C22B 3/18 20060101ALI20220829BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/18
C22B3/24
(21)【出願番号】P 2021074760
(22)【出願日】2021-04-27
【審査請求日】2022-07-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515356410
【氏名又は名称】株式会社ガルデリア
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】アダムス 英里
(72)【発明者】
【氏名】前田 和輝
(72)【発明者】
【氏名】所 千晴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 達也
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/111092(WO,A1)
【文献】特開2013-067826(JP,A)
【文献】米国特許第5055402(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金(Au)及びパラジウム(Pd)からなる群より選択される少なくとも1種の金属の回収方法であって、
前記金属を含む溶液に金属吸着剤を添加する添加工程と、
前記金属吸着剤に前記金属を吸着させる吸着工程と、を備え、
前記金属吸着剤が、シアニディウム目(Cyanidiales)に属する微生物の細胞及び細胞由来物、及びこれらの加工物、並びにこれらを模した人工物からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記溶液が、硝酸溶液又は硫酸溶液である、方法。
【請求項2】
前記加工物が、シアニディウム目(Cyanidiales)に属する微生物の細胞及び細胞由来物の乾燥物、粉砕物及び乾燥粉末である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の回収方法に関する。より具体的には、金(Au)及びパラジウム(Pd)をより効率よく回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金やパラジウム等の貴金属は、各種の電子製品、自動車触媒等の製造等に欠かせないものとなっている。電子製品、自動車触媒等の製造量が増加を続ける一方で、これらの貴金属は、その産出量が限られている。今後も安定した電子製品、自動車触媒等の製造を続けるためには、廃棄された製品から得られる金属廃液等から貴金属を回収し、貴金属をリサイクルしていくことが重要である。
【0003】
微生物を利用した金属の回収方法として、例えば、特許文献1には、シアニディウム目の紅藻の細胞の乾燥物、シアニディウム目の紅藻の細胞由来物の乾燥物、又は前記細胞の乾燥物もしくは前記細胞由来物の乾燥物を模した人工物を金属溶液中に添加する添加工程と、乾燥物由来の細胞、乾燥物由来の細胞由来物、又は前記人工物に、金属溶液中に含まれる金属または金属化合物を吸着させる吸着工程と、を含む、金属又は金属化合物の回収方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるようにシアニディウム目の紅藻は、塩酸(HCl)や王水を含む酸溶液から貴金属を選択的に回収することができる。
【0006】
本発明者らは、シアニディウム目の紅藻による貴金属の吸着機構を明らかにする研究の過程で、金及びパラジウムの吸着機構が金属を含む溶液の溶媒によって異なること、更には硝酸(HNO3)又は硫酸(H2SO4)を含む溶液中における金及びパラジウムの吸着効率が特に優れていることを見出した。
【0007】
本発明はこの新規な知見に基づくものであり、従来と比べて、金及びパラジウムの回収効率が向上した金属の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金及びパラジウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属の回収方法であって、上記金属を含む溶液に金属吸着剤を添加する添加工程と、上記金属吸着剤に上記金属を吸着させる吸着工程と、を備え、上記金属吸着剤が、シアニディウム目(Cyanidiales)に属する微生物の細胞及び細胞由来物、及びこれらの加工物、並びにこれらを模した人工物からなる群より選択される少なくとも1種を含み、上記溶液が、硝酸溶液又は硫酸溶液である、方法に関する。
【0009】
本発明に係る金属の回収方法は、シアニディウム目に属する微生物の細胞等を含む金属吸着剤を使用した金属の回収方法において、当該金属吸着剤を添加する溶液(金及びパラジウムから選択される少なくとも1種を含む溶液)が硝酸溶液又は硫酸溶液であることにより、従来と比べて、金及びパラジウムを高い効率で回収することができる。
【0010】
上記方法において、上記加工物は、シアニディウム目に属する微生物の細胞及び細胞由来物の乾燥物、粉砕物及び乾燥粉末であってよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来と比べて、金及びパラジウムの回収効率が向上した金属の回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】金属吸着剤(G.sulphurariaの乾燥粉末)へのAu及びPdの吸着率(%adsorption)を解析した結果を示す図である。
【
図3】X線吸収微細構造(XAFS)分析の結果を示す図である。
【
図4】X線光電子分光(XPS)分析の結果を示す図である。
【
図5】X線光電子分光(XPS)分析の結果を示す図である。
【
図6】金属吸着剤(G.sulphurariaの乾燥粉末)へのAu及びPdの吸着機構を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本実施形態に係る金属の回収方法は、金及びパラジウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属の回収方法に関するものである。本実施形態に係る回収方法は、金属を含む溶液に金属吸着剤を添加する添加工程と、金属吸着剤に前記金属を吸着させる吸着工程とを備えるものであり、金属吸着剤が、シアニディウム目に属する微生物の細胞及び細胞由来物、及びこれらの加工物、及びこれらを模した人工物からなる群より選択される少なくとも1種を含むこと、並びに溶液が、硝酸溶液又は硫酸溶液であることを特徴とする。
【0015】
(金属を含む溶液)
本実施形態に係る回収方法において、金属を含む溶液(以下、単に「溶液」ともいう。)は、金又はパラジウムのいずれか一方又は両方を含むものである。溶液は、金及びパラジウム以外の金属を含むものであってもよい。金及びパラジウム以外の金属としては、例えば、プラチナ、ルテニウム、ロジウム、オスミウム及びイリジウム等の貴金属、銅及び鉄等の卑金属が挙げられる。金又はパラジウムは、溶液中に、金属塩、金属イオン、又は金属錯体の形態で含まれていればよい。
【0016】
溶液は、硝酸溶液又は硫酸溶液である。これにより、金属吸着剤による金及びパラジウムの吸着効率が優れるため、金及びパラジウムの回収効率を向上させることができる。
【0017】
硝酸溶液は、硝酸を含む水溶液であってよい。硝酸溶液中の硝酸濃度は、特に制限されるものではないが、例えば、0.1M(mol/L)以上であってよく、0.2M以上であってよく、0.3M以上であってよく、0.4M以上であってよく、0.5M以上であってよい。硝酸溶液中の硝酸濃度の上限も特に制限はないが、例えば、6M以下であってよく、5M以下であってよく、4M以下であってよく、3M以下であってよく、2.5M以下であってよく、2M以下であってよく、1.5M以下であってよい。
【0018】
硫酸溶液は、硫酸を含む水溶液であってよい。硫酸溶液中の硫酸濃度は、特に制限されるものではないが、例えば、0.1M(mol/L)以上であってよく、0.2M以上であってよく、0.3M以上であってよく、0.4M以上であってよく、0.5M以上であってよい。硫酸溶液中の硫酸濃度の上限も特に制限はないが、例えば、6M以下であってよく、5M以下であってよく、4M以下であってよく、3M以下であってよく、2.5M以下であってよく、2M以下であってよく、1.5M以下であってよい。
【0019】
金属を含む溶液中の金濃度は、特に制限はないが、例えば、0.001g/L以上であってよく、0.005g/L以上であってよく、0.01g/L以上であってよく、0.05g/L以上であってよい。金属を含む溶液中の金濃度の上限も特に制限はないが、例えば、10g/L以下であってよく、7.5g/L以下であってよく、5g/L以下であってよく、2.5g/L以下であってよい。
【0020】
金属を含む溶液中のパラジウム濃度は、特に制限はないが、例えば、0.001g/L以上であってよく、0.005g/L以上であってよく、0.01g/L以上であってよく、0.05g/L以上であってよい。金属を含む溶液中のパラジウム濃度の上限も特に制限はないが、例えば、10g/L以下であってよく、7.5g/L以下であってよく、5g/L以下であってよく、2.5g/L以下であってよい。
【0021】
(金属吸着剤)
本実施形態に係る金属吸着剤は、シアニディウム目に属する微生物の細胞及び細胞由来物、及びこれらの加工物、及びこれらを模した人工物からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0022】
シアニディウム目に属する微生物としては、例えば、ガルディエリア属(Galdieria)、シアニジウム属(Cyanidium)、及びシアニディオシゾン属(Cyanidioshyzon)に属する微生物を挙げることができる。シアニディウム目に属する微生物は、細胞表層が正に帯電していることにより、金属溶液中から金及びパラジウムを選択的に吸着して回収することができるという特徴を有する。シアニディウム目に属する微生物の中でも、金及びパラジウムの吸着効率がより高いことから、ガルディエリア属に属する微生物が好ましく、Galdieria sulphurariaがより好ましい。本発明者らは、G.sulphurariaの吸着効率がより高いのは、細胞表層が正に帯電していることに加え、金及びパラジウムの最初の吸着位置である窒素原子(N)のアベイラビリティが高いこと、及び金の還元能が高いことがその理由であると推察している。
【0023】
シアニディウム目に属する微生物の細胞は、生細胞(増殖可能な細胞)であってもよく、死細胞(増殖不能な細胞)であってもよい。
【0024】
また、シアニディウム目に属する微生物は、上述した特徴を失わない限りにおいて、遺伝子組換え技術により、遺伝的改変を加えた組換え微生物であってもよい。
【0025】
シアニディウム目に属する微生物の細胞由来物とは、シアニディウム目に属する微生物の細胞の一部を意味する。上述のとおり、シアニディウム目に属する微生物は、細胞表層において、金属溶液中から金及びパラジウムを選択的に吸着して回収することができるため、細胞由来物は、細胞表層由来物(例えば、細胞壁、細胞膜)であってもよい。
【0026】
シアニディウム目に属する微生物の細胞又は細胞由来物の加工物とは、シアニディウム目に属する微生物の細胞の一部又は全部を物理的又は化学的に加工したものを意味する。加工物の具体例としては、例えば、シアニディウム目に属する微生物の細胞又は細胞由来物の乾燥物、粉砕物及び乾燥粉末、並びにシアニディウム目に属する微生物の細胞又は細胞由来物を酸に接触させて表面状態を改変した改変体が挙げられる。
【0027】
乾燥物は、シアニディウム目に属する微生物の細胞又は細胞由来物に乾燥処理を施すことによって得ることができる。乾燥処理の方法としては、特に制限されず、例えば、スプレードライ処理、凍結乾燥処理、高温乾燥処理又は減圧乾燥処理等の公知の方法を用いることができる。
【0028】
粉砕物は、シアニディウム目に属する微生物の細胞又は細胞由来物に粉砕処理を施すことによって得ることができる。粉砕処理の方法としては、特に制限されず、例えば、ボールミル処理等の公知の方法を用いることができる。
【0029】
乾燥粉末は、シアニディウム目に属する微生物の細胞又は細胞由来物に上述の乾燥処理を施した後、粉末化処理を行うことで得ることができる。粉末化処理の方法としては、例えば、乾燥物に対して、上述の粉砕処理を行う方法を用いることができる。
【0030】
改変体は、シアニディウム目に属する微生物の細胞又は細胞由来物を酸に接触させて表面状態を改変することで得ることができる。接触させる酸は、強酸であってもよく、弱酸であってもよい。酸の種類に特に制限はなく、任意の酸を使用することができるが、例えば、硫酸、硝酸、塩酸等であってよい。酸に接触させることで、シアニディウム目に属する微生物の細胞又は細胞由来物の表面状態が金及びパラジウムの吸着に最適化され、これにより吸着効率の向上が期待される。
【0031】
シアニディウム目に属する微生物の細胞、細胞由来物、又はこれらの加工物を模した人工物としては、例えば、これらを模して有機合成、3Dプリンティング等により作製された人工物等が挙げられる。
【0032】
本実施形態に係る金属吸着剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
(添加工程)
添加工程は、金属を含む溶液に金属吸着剤を添加する工程である。金属吸着剤の添加量としては、特に制限されず、金属を含む溶液の量、硝酸若しくは硫酸濃度、又は回収対象である金属の種類若しくは濃度に応じて、適宜調整することができる。金属吸着剤の添加量の具体例としては、例えば、回収対象である金属の濃度1g/Lの溶液1mLに対して、1mg以上であってよく、5mg以上であってよく、10mg以上であってよく、15mg以上であってよく、また例えば、100mg以下であってよく、75mg以下であってよく、50mg以下であってよい。
【0034】
(吸着工程)
吸着工程は、金属吸着剤に金属(金又はパラジウム)を吸着させる工程である。吸着工程は、例えば、金属吸着剤を添加した金属を含む溶液を、所定の時間撹拌すること等により実施することができる。吸着工程を行う時間としては、溶液の種類、回収対象である金属の種類及び濃度に応じて適宜調整することができるが、例えば、金属吸着剤を添加した金属を含む溶液が均一になるまで撹拌することで、金及びパラジウムを金属吸着剤に充分に吸着させることができることから、例えば、1秒以上であってよく、1分以上であってよく、2分以上であってよく、3分以上であってよく、また時間の上限は特にないが、例えば、24時間以下であってよい。吸着工程を行う際の温度としては、溶液の種類、回収対象である金属の種類及び濃度に応じて適宜調整することができるが、例えば、0℃以上であってよく、4℃以上であってよく、15℃以上であってよく、また例えば、100℃以下であってよく、80℃以下であってよく、60℃以下であってよく、40℃以下であってよい。
【0035】
本実施形態に係る回収方法は、吸着工程の後に、金属吸着剤に吸着した金属(金又はパラジウム)を精製する精製工程を更に含んでいてもよい。金属吸着剤に吸着した金属を精製する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、回収した金属吸着剤を燃焼させて残渣として金属を得る方法、回収した金属回収剤に含まれる細胞等を溶解させて金属を溶出する方法、酸性のチオウレア溶液、アンモニア及びアンモニウム塩を含む混合溶液、酸溶液(例えば、塩酸溶液、王水)、アルカリ溶液(例えば、KOH溶液)、又は金属キレート溶液(例えば、EDTA溶液)等の所定の金属溶出用溶液を用いて金属等を溶出させる方法等を挙げることができる。これらの方法の中でも、精製の効率を高められるという観点から、金属溶出用溶液として、酸性のチオウレア溶液、又はアンモニア及びアンモニウム塩を含む混合溶液を用いて、金属等を溶出させる方法が好ましい。また、コスト及び環境への負担を軽減しつつ、精製の効率を高められるという観点から、金属溶出用溶液として、アンモニア及びアンモニウム塩を含む混合溶液を用いて、金属等を溶出させる方法が好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例:金及びパラジウムの回収試験]
<方法>
〔金属吸着剤の調製方法〕
G.sulphurariaを、培養温度42℃で常時通気しながら従属栄養培養して増殖させた。使用した培地は、1L中に、280mgのCaCl2・2H2O、540mgのKH2PO4、500mgのMgSO4・7H2O、8mgのFeSO4・7H2O、2.62gの(NH4)2SO4を含む培地に2mL/Lの微量元素溶液(1L中に、5.4gのMnCl2・4H2O、315mgのZnCl2、1.17gのNa2MoO4・2H2O、120mgのCoCl2・6H2O、129mgのCuCl2・2H2Oを含む)を補充し、更に50mMスクロースを炭素源として補充し、pHを濃硫酸で2.5に調整したものである。定常期(OD750が約20)に達した細胞を回収し、中性pH近くになるまで洗浄を繰り返し、次いで80℃のオーブンで乾燥させた。乾燥した細胞を、乳鉢及び乳棒で粉砕して、G.sulphurariaの乾燥粉末(金属吸着剤)を得た。
【0038】
〔金及びパラジウムの回収試験方法〕
金属吸着剤を金溶液又はパラジウム溶液に20mg/mLの用量で添加し、激しくボルテックスして均一な懸濁液を得ることで吸着反応を行った。次いで、速やかに遠心分離(10,000×g、3分間、室温)を行った。遠心分離後、得られた上清を金又はパラジウムの定量に使用した。
【0039】
また、得られたペレットは、凍結乾燥機(FDU-1200,東京理化器械株式会社製)を使用して13.4Pa、-48℃の条件で凍結乾燥した後、乳鉢及び乳棒で粉砕して、更なる解析に使用した。
【0040】
王水は、36%(w/v)HCl及び61%(w/v)HNO3を3:1のモル比で混合し、蒸留水で3倍希釈して調製した(4M)。
【0041】
〔金及びパラジウムの吸着率の測定方法〕
溶液中の金及びパラジウム濃度は、エシェルポリクロメーター及び電荷結合素子(CCD)検出器を備えた誘導結合プラズマ発光分光計(ICP-OES)(Agilent5100,アジレント・テクノロジー社製)を使用して、定量した。溶液中の金及びパラジウム濃度は、それぞれの標準曲線から計算した。
【0042】
金及びパラジウムの吸着率(%)は、金属吸着剤を添加する前の金溶液又はパラジウム溶液中の金濃度又はパラジウム濃度(初期濃度)と、吸着反応後の上清中の金濃度又はパラジウム濃度との差を、初期濃度で除して算出した。いずれの分析においても3又は4のバイオロジカルレプリケートを測定した。統計的差異は、Prism(グラフパッドソフトウェア)を用いたTukeyの多重比較事後検定による一方向ANOVA検定によって決定した。
【0043】
<結果>
表1は、各種溶液(1M HCl水溶液、1M HNO3水溶液、1M H2SO4水溶液、又は4M 王水)に各種金属(Au又はPd)塩(HAuCl4、Auアセテート、AuCl、Pd(NO3)2、PdCl2又はPdアセテート)を0.1g/Lとなるように溶解させたときの溶解率と、得られた金溶液又はパラジウム溶液を使用した回収試験の結果(吸着率)である。
【0044】
【0045】
HAuCl4(0.1g/L)は試験した全ての酸溶媒に溶解し、いずれも王水を溶媒とした場合よりもAuの吸着率が高かった(表1)。一方、Auアセテート(0.1g/L)は、硝酸及び硫酸を含む溶媒(いずれも溶媒からの塩素(Cl)の供給がない)には溶解しなかった(表1)。一価の金を含むAuCl(0.1g/L)は王水以外の酸溶媒で溶解率が低かったものの、溶解した金の吸着率は王水を溶媒とした場合よりも高かった(表1)。
【0046】
一方、パラジウムはいずれの塩(0.1g/L)も試験した全ての酸溶媒に溶解し、またPdの吸着率も非常に高かった(表1)。いずれも王水を溶媒とした場合よりも吸着率が高かった(表1)。
【0047】
図1は、金属吸着剤(G.sulphurariaの乾燥粉末)へのAu及びPdの吸着率(%adsorption)を解析した結果を示すグラフである。
図1(A)は、各種溶液(4M王水、1M HCl水溶液、1M HNO
3水溶液、又は1M H
2SO
4水溶液)にHAuCl
4を1g/Lとなるように溶解させた金溶液を使用した回収試験の結果を示す。
図1(B)は、各種溶液(4M王水、1M HCl水溶液、1M HNO
3水溶液、又は1M H
2SO
4水溶液)にPd(NO
3)
2を1g/Lとなるように溶解させたパラジウム溶液を使用した回収試験の結果を示す。
図1中、エラーバーは標準誤差(n>3)を示し、a、b及びc等のアルファベットは統計的差異(P<0.01)を示す(異なるアルファベット間のデータには統計的差異があることを示す。)。
【0048】
初期濃度を1g/Lとして更に解析した結果、Au及びPdの吸着率は酸溶媒の種類により差があった。Auの吸着率は、高い方から、硫酸、硝酸、塩酸、王水の順であった(
図1(A))。また、Pdの吸着率は、硝酸でより高く、硫酸でも高かった(
図1(B))。これらの結果は、溶媒によって、金属吸着剤への金又はパラジウムの吸着機構が異なることを示唆している。
【0049】
[参考例:金及びパラジウムの吸着機構の解析]
<方法>
〔透過電子顕微鏡(TEM)分析〕
吸着反応前後の金属吸着剤を水に懸濁し、銅グリッド上に置き風乾させた後、EDS(JED-2300T,JEOL製)を備えた透過電子顕微鏡(JEM-2100F,JEOL製)を使用し、加速電圧200kVで、TEM分析を実施した。
【0050】
〔X線吸収微細構造(XAFS)解析〕
Au-L3端(11613.0-13013.0eV)及びPd-K端(24058.4-25458.4eV)のXAFS解析を、あいちシンクロトロン光センターのBL11S2ビームラインを用いて行った。全てのスペクトルは室温で取得した。電子蓄積リングを1.2GeVで動作させた。シンクロトロン放射からの連続X線をシリコン(111)二重結晶モノクロメーターを用いて単色化した。全ての標準試薬とAu-L3端からの実試料のXAFSスペクトルは全て透過モードで得た。Pd-K端からの実試料のXAFSスペクトルは7元素シリコンドリフト検出器を用いた蛍光モードで得た。XAFSの生スペクトルから前縁と後縁の線形背景差分によりEXAFS特徴を抽出し、エッジジャンプに関して正規化した。k3加重(kは光電子波数)EXAFSデータを、Au-L3端及びPd-K端について、それぞれ1-16Å-1及び1-14Å-1の範囲で、ハニング窓関数を用いてフーリエ変換し、FT EXAFSスペクトルを得た。中央のAu及びPd原子を囲む異なる配位殻の構造パラメータを,k3加重EXAFSデータ及びFT EXAFSスペクトルを用いたカーブフィッティングにより1-4Åの範囲で得た。Au(III)-N、Au-Cl、Au(I)-H、Au(0)-Au(0)、Au(I)-Au(I)、Au(III)-Au(III)、Pd(II)-N、Pd(II)-Cl及びPd(II)-Pd(II)の理論的原子ペア相関及び振幅関数は、FEFF6.0ソフトウェアを用いて計算し、EXAFS分析は、Athena及びArtemisソフトウェアを用いて実施した。
【0051】
S-K端(2440.0-2550.0eV)とCl-K端(2750.0-3150.0eV)のXAFS解析を、あいちシンクロトロン光センターのBL5S1ビームラインを用いて行った。シンクロトロン放射からの連続X線をゲルマニウム(111)二重結晶モノクロメーターを用いて単色化した。Cl-K端のXAFSスペクトルは転換電子収量モードで得た。S-K端のXAFSスペクトルは7元素シリコンドリフト検出器を用いた蛍光モードで得た。
【0052】
〔X線光電子分光(XPS)分析〕
酸浸潤前後又は吸着反応前後の金属吸着剤を、電子スペクトロメータ-(JPS-9010,JEOL社製)を使用し、X線源としてマグネシウムKαを用い、加速電圧10kVで分析した。Pd(II)の参照スペクトルは、PdCl2粉末を同様に分析して得た。
【0053】
〔Auナノ粒子の分光測定〕
4M王水又は1M H2SO4水溶液に溶解したAuCl(50mg/L)1mLを20mgの金属吸着剤の存在下又は非存在下で、42℃の暗所で0分間、2時間又は72時間インキュベートした。次いで、それぞれの上清について、UV-Vis分光光度計(DS-11FX+,DeNovix製)を使用して、250~600nmの吸収スペクトルを得た。
【0054】
<結果>
〔Au又はPdを吸着した金属吸着剤表面のTEM分析〕
図2は、TEM分析の結果を示す図である。
図2中、(A)~(G)は、下記サンプルのTEM像である。
(A)未処理の金属吸着剤
(B)Au塩(HAuCl
4)を5g/Lとなるように4M王水に溶解させた酸溶液から金属吸着後の金属吸着剤
(C)Au塩(HAuCl
4)を5g/Lとなるように1M硝酸に溶解させた酸溶液から金属吸着後の金属吸着剤
(D)Au塩(HAuCl
4)を5g/Lとなるように1M硫酸に溶解させた酸溶液から金属吸着後の金属吸着剤
(E)Pd塩(Pd(NO
3)
2)を1g/Lとなるように4M王水に溶解させた酸溶液から金属吸着後の金属吸着剤
(F)Pd塩(Pd(NO
3)
2)を1g/Lとなるように1M硝酸に溶解させた酸溶液から金属吸着後の金属吸着剤
(G)Pd塩(Pdアセテート)を1g/Lとなるように1M硫酸に溶解させた酸溶液から金属吸着後の金属吸着剤
【0055】
TEMによる分析の結果、未処理対照の表面とは対照的に、試験した全ての条件下でナノ粒子(NP)が可視化された(
図2)。H
2SO
4中のAuナノ粒子の平均粒子経は、447.6nm(n=21)であり、王水(平均粒子径12.3nm,n=27)及びHNO
3(平均粒子径1.9nm,n=19)中のAuナノ粒子に比べて特に大きかった。TEMによる分析の結果、Au及びPdシグナルは、平滑な細胞表面と比較して、ナノ粒子が見えるところにより集中していた。
【0056】
〔Au及びPdを吸着した金属吸着剤のXAFS分析〕
図3は、XAFS分析の結果を示す図である。
図3(A)は、Au塩(HAuCl
4)を5g/Lとなるように4M王水に溶解させた酸溶液、又は1g/Lとなるように1M硝酸若しくは1M硫酸に溶解させた酸溶液から金属吸着後の金属吸着剤、及び標準試薬のAu-L
3端XANESスペクトルである。
図3(B)は、Pd塩(Pd(NO
3)
2)を1g/Lとなるように4M王水若しくは1M硝酸に溶解させた酸溶液、又はPd塩(Pdアセテート又はPdCl
2)を1g/Lとなるように1M硫酸に溶解させた酸溶液から金属吸着後の金属吸着剤、及び標準試薬のPd-K端XANESスペクトルである。
図3(C)は、未処理若しくは4M王水に浸潤させた金属吸着剤、又はAu塩(HAuCl
4)を5g/Lとなるように4M王水に溶解させた酸溶液、若しくは1g/Lとなるように1M硝酸若しくは1M硫酸に溶解させた酸溶液から金属吸着後の金属吸着剤、及び標準試薬のCl-K端XANESスペクトルである。
図3(D)は、未処理若しくは4M王水に浸潤させた金属吸着剤、又はPd塩(Pd(NO
3)
2)を1g/Lとなるように4M王水若しくは1M硝酸に溶解させた酸溶液、若しくはPd塩(PdCl
2)を1g/Lとなるように1M硫酸に溶解させた酸溶液から金属吸着後の金属吸着剤、及び標準試薬のCl-K端XANESスペクトルである。
図3(E)は、未処理若しくは4M王水に浸潤させた金属吸着剤、又はAu塩(HAuCl
4)を5g/Lとなるように4M王水に溶解させた酸溶液、若しくは1g/Lとなるように1M硝酸若しくは1M硫酸に溶解させた酸溶液から金属吸着後の金属吸着剤、及び標準試薬のS-K端XANESスペクトルである。
図3(F)は、未処理若しくは4M王水に浸潤させた金属吸着剤、又はPd塩(Pd(NO
3)
2)を1g/Lとなるように4M王水若しくは1M硝酸に溶解させた酸溶液、若しくはPd塩(PdCl
2)を1g/Lとなるように1M硫酸に溶解させた酸溶液から金属吸着後の金属吸着剤、及び標準試薬のS-K端XANESスペクトルである。
【0057】
Au-L
3端解析において、占有されていない5dの状態に関する情報は、2p→5d遷移に帰属するピーク(“white line”としても知られる。)から得られる。王水、HNO
3及びH
2SO
4中に溶解したHAuCl
4で処理した金属吸着剤は、それぞれ11920.5、11921.2及び11923.4eVに“white line”位置を示した(
図3(A))。標準試薬であるAuCl
3及びHAuCl
4と類似した“white line”の特徴から、王水中のAuの大部分はAu(III)として存在すると考えられる。
【0058】
広域X線吸収微細構造(EXAFS)分析(表2)の結果、金属吸着剤上のAu(III)は、塩化物の形態で、原子間距離(R)2.02Å、及び配位数1.0で窒素原子(N)と結合していると予測された。Au(III)-Au(III)もR=4.09Å,配位数1.0と示唆された。また、塩化物の形態でAu(I)としても少量存在し、Au(I)-水素(H)は、R=2.66Å、配位数2.0、Au(I)-Au(I)は、R=3.38Å、配位数2.0であった。
【0059】
【0060】
HNO
3中ではより高いエネルギーへの“white line”シフトが観測され、Au(I)存在比の増加が示された。王水中に比してHNO
3中における吸着率の向上(
図1(A))は、Au(III)-N及びAu(III)-Au(III)の配位数が2.0に増加したこととよく呼応する。一方、H
2SO
4中では、Au(I)と、Au同士のRが2.85Å、配位数が12.0の結晶構造を形成する金属Au(0)が混在する。
【0061】
Pd-K端のX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルは、王水中に溶解したPd(NO
3)
2及びH
2SO
4中に溶解したPdCl
2で処理された金属吸着剤は、標準試薬であるPdCl
2及び(NH
4)
2PdCl
4と同様の特徴を有することを示した。また、HNO
3中に溶解したPd(NO
3)
2及びH
2SO
4中に溶解したPdアセテートで処理された金属吸着剤は、標準試薬であるPdSO
4及びPd(OH)
2と同様の特徴を有することを示した(
図3(B))。
【0062】
王水中に溶解したPdは2価の陽イオンの状態で存在し、塩素原子(Cl)との結合はR=2.32Å、配位数2.0であり、窒素原子(N)との結合はR=2.10Å、配位数2.0であった。Pd(II)-Pd(II)結合は観測されなかった。
【0063】
Cl-K端のXANESスペクトルは、Au又はPdで処理された全ての金属吸着剤について、金属塩化物のピークを示した(
図3(C)及び(D))。吸着前の金属吸着剤は、C-ClとKCl及びCaCl
2のような無機塩との混合物に由来すると推定される約2825.1eVに頂点を有する幅広いピークを示した。王水の浸潤により塩が洗い流され、C-Cl結合のみが残った結果、2823.4eVに頂点がシフトした。Auの吸着後、2820.0eVにAu(III)とClの間の結合を示す新しいピークが現れた。HNO
3中のAuの吸着は、Au(III)-Clピークに加え、Au(I)-Cl結合に特徴的な2823.1eVのピークを生成した。この傾向はH
2SO
4中のAuの吸着においてさらに顕著になり、より大きなAu(I)-Clピークが観察された。Pdについては、約2820.5eVのPd(II)-Clピークが、試験した全ての試料で観察された。
【0064】
S-K端のXANES解析は、2473.0eVのS(0)と2481.4eVのS(VI)が未処理の金属吸着剤中のSの主要な形であることを示した(
図3(E)及び(F))。これらの大部分は、王水処理後2480.0eVのS(IV)にシフトした一方、H
2SO
4処理後にはS(VI)に酸化された。HNO
3処理後には、S(IV)と2474.0eV付近にピークを持つより原子価の低い状態のSとの混合物として存在し、Pd存在下では、Pd(II)-S結合に由来すると予想される2471.0eVの新たなピークを生成した。Au-S結合の存在は示唆されなかった。
【0065】
〔Au及びPdを吸着した金属吸着剤のXPS分析〕
図4及び
図5は、XPS分析の結果を示す図である。
図4は、Pd塩(Pd(NO
3)
2又はPdアセテート)を1g/Lとなるように王水、硝酸又は硫酸に溶解させた酸溶液から金属吸着後の金属吸着剤のPd 3dのXPSスペクトルである。
図5は、未処理の金属吸着剤、1M硫酸に浸潤させた金属吸着剤、及びAu塩(HAuCl
4)を5g/Lとなるように硫酸に溶解させた酸溶液から金属吸着後の金属吸着剤のC 1s、O 1s及びN 1sのXPSスペクトルである。
【0066】
HNO
3中のPd(NO
3)
2又はH
2SO
4中のPdアセテート、王水中のPd(NO
3)
2いずれを吸着させた場合もPd(II)に特徴的な342-343及び337-338eV付近にピークを示した(
図4)。
【0067】
H
2SO
4中に溶解したAuで処理した金属吸着剤のXPSスペクトルから(
図5)、Au吸着時にC-Oのピークが増加し、CH/C-Cのピークが減少することがわかった。プロトン化されたアミン(H
+-アミン)のピークは、H
2SO
4中に含浸後シフトして増大するが、Au(Pdも)との結合時に元のレベルまで減少した。
【0068】
<考察>
Au吸着パターンの解析結果は、強酸中でのAu塩の溶解には、Clが存在すること、及びAuが3価の状態であることが好ましいが、金属吸着剤への吸着はAuの形態にかかわらず起こることを示している(表1)。Auの吸着効率は、H
2SO
4で最も高く、HNO
3、HCl、王水の順に低下することから(
図1(A))、溶媒毎に異なる吸着機構を呈することが示唆された。Pdの吸着効率は、王水と比べて、HNO
3及びH
2SO
4で向上した(
図1(B))。
【0069】
G.sulphurariaの乾燥粉末からなる金属吸着剤により回収されたAu及びPdは、金属吸着剤の表面に遍く吸着され、顆粒状のナノ粒子(NP)が頻繁に生成されることがわかった(
図2)。これらのNPは、金属吸着剤表面上の他の位置よりも高濃度のAu及びPdを含有しており、Au及びPdの分布パターンは、外因的に供給されたClの分布パターンと良好に相関した。
【0070】
XAFS及びXPS分析を用いて、金属吸着剤表面上に形成されたNPの性質及び結合機構を解析した。標準試薬のAu-L3端のXANESスペクトルから原子価に対する“white line”ピーク位置(eV)をプロットした結果、y=-1.3786x+11924(R2=0.998)の相関式が導かれた。ここで、xは原子価であり、yは“white line”ピーク位置(eV)である。
【0071】
AuClは周囲条件下でAu(0)とAu(III)に部分的に不均化することが知られており、標準試薬AuClはこれらの3つの原子価の混合物として存在すると予測されるが、理論的平均原子価は常に1である。したがって、Au(III)、Au(I)及びAu(0)の標準試薬として、それぞれAuCl3、AuCl及びAu箔を使用した。
【0072】
上記関係式によれば、Auは、王水中で78.5%がAu(III)及び21.5%がAu(I)で存在すること、HNO3中で51.4%がAu(III)及び48.6%がAu(I)で存在すること、H2SO4中で46.3%がAu(I)及び53.7%がAu(0)で存在することがそれぞれ予測される(王水又はHNO3中のAu(0)及びH2SO4中のAu(III)を0%と仮定する)。
【0073】
しかし、Cl-K端のXANESスペクトルは、H
2SO
4中のAu(III)-Clのピークを明確に示し、少量のAu(III)の存在を示している(
図3(C))。
【0074】
Au-L3端のEXAFS解析により、Au(III)は塩化物の形で金属吸着剤上のN原子と結合することが見出され、一方、同じく塩化物の形であるAu(I)は、約2.65Åの大きなRであることを考慮すると、水素結合を介して金属吸着剤表面に吸着することが予測された。
【0075】
Au(III)-Cl及びAu(I)-ClのRは互いに区別できないので、配位数は混合物として計算されたが、Au(III)及びAu(I)はそれぞれ3個及び1個のCl原子と結合すると予測される。
【0076】
王水、HNO3及びH2SO4中におけるAu-Clの配位数は3.0、2.0、1.0と減少するが、これはそれぞれの溶媒中において予想されるAuの原子価によく対応している。
【0077】
このAuの還元は、S(0)のS(VI)への酸化(
図3(E))やC-H/C-CのC-Oへの酸化(
図5)によって均衡を取り、持続的に進行するものと考えられる。硫酸中では、プロトンによる酸-塩基反応(
図5)もAu還元に関与する可能性が示唆される。
【0078】
溶媒が王水からHNO
3又はH
2SO
4に切り替えられたときのAu(III)からAu(0)への累進的な還元は、Au吸着率の増加と非常によく相関する(
図1(A))。これは、Auの結合元素が窒素原子(N)から水素原子(H)へ変化し、次いでAu同士の結合によるクラスターが形成される結果、新たなAu(III)の吸着事象へ結合部位を提供するためと考えられる。
【0079】
H
2SO
4中でAuの吸着効率が高いもうひとつの要因としては、H
2SO
4中のSO
4
2-の供給により、金属吸着剤上のS(VI)が増加し(
図3(E))、Au還元の方向に酸化還元反応が促進されるためと考えられる。H
2SO
4中のAu(0)-Au(0)での配位数12.0は、金属Auに特徴的な面心立方格子構造(fcc)結晶の形成を示唆し、これが大きなNP形成の理由であろう(
図2)。H
2SO
4中のAuのNP平均粒子径は、447.6nmであり、一般に10-20nm付近であるバイオミネラリゼーションを介して形成されるNPのサイズと比較して特に大きい。
【0080】
対照的に、金属吸着剤に吸着されたPdは、試験された全ての溶媒中でPd(II)のまま存在する(
図3(B)及び
図4)。Clが金属塩又は溶媒から供給されるClリッチな条件下では、Pd(II)は金属吸着剤表面上の2個の窒素原子(N)と二塩化物の形で結合することがわかった。Clの少ない条件では、Pd(II)は金属吸着剤上のClと結合し(
図3(D))、金属吸着剤上のS(
図3(F))や溶媒中のO(
図3(B))とも結合すると考えられる。金属吸着剤表面上のCl量は限定的ではあるが、一定量存在する(
図3(F))。
【0081】
HNO3中のPd(II)は、[Pd(NO3)4]2-として存在することが知られているので、例えば、Pd-O結合は、硝酸塩、硫酸塩、ヒドロキシル、カルボキシル又は水和物形態に由来し得るが、これらに限定されない。
【0082】
S-K端のXANESスペクトルにおいて、Pdは2471.0eVにピーク位置を有することから、Oと結合していないSと結合すると予測された(
図3(F)。Clが少ない条件(
図1(B))でのわずかに良好な吸着率は、2つの理由、すなわち、Pd吸着の既知の競合物である外因性Cl-アニオンの欠如、及び柔軟な結合形態の存在に起因し得る。
【0083】
金属吸着剤のAu及びPdに対する吸着特異性は、金属吸着剤表面が正に帯電していること、酸性条件下でAu及びPdがアニオン錯体を形成する傾向があり、他の卑金属がカチオン形態であることにより説明することができる。
【0084】
以上をまとめて、
図6に吸着機構の模式図を示す。
図6は、金属吸着剤(G.sulphurariaの乾燥粉末)へのAu及びPdの吸着機構を説明する模式図である。
図6(A)、(B)及び(C)は、それぞれAu(III)、Au(I)及びAu(0)の結合機構を示す。
図6(D)及び(E)は、それぞれClリッチな条件下、及びClが少ない条件下でのPdの結合機構を示す。
【0085】
AuCl
4
-の最初の吸着位置は金属吸着剤上のN原子である。Au(III)はより安定なAu(I)へ還元される過程でAu-Cl結合が切れるとAu-Au結合を形成し、N原子から脱離し、代わりに水素結合を形成することにより、Au(III)の更なる吸着が促進される。Auの還元はSとCの酸化還元反応、及びアミンのプロトン化/脱プロトン化の酸塩基反応によって促進される。Au(0)まで還元された金属Auは金属吸着剤に強く吸着し、fcc構造を持つ大きな微粒子を形成する(
図6(A)~(C))。このAuの累進的還元が吸着効率向上の鍵である。
【0086】
一方,Pd(II)は金属吸着剤上で還元されない。これが、溶媒間で吸着効率の差が比較的小さいことを説明する。Clのリッチな条件下ではPdは主に金属吸着剤上のN原子に結合し、Clの少ない条件下ではCl、S及びOとの結合を示す(
図6(D)及び(E))。
【要約】
【課題】金(Au)及びパラジウム(Pd)の回収効率が向上した金属の回収方法を提供すること。
【解決手段】金(Au)及びパラジウム(Pd)からなる群より選択される少なくとも1種の金属の回収方法であって、金属を含む溶液に金属吸着剤を添加する添加工程と、金属吸着剤に金属を吸着させる吸着工程と、を備え、金属吸着剤が、シアニディウム目(Cyanidiales)に属する微生物の細胞及び細胞由来物、及びこれらの加工物、並びにこれらを模した人工物からなる群より選択される少なくとも1種を含み、溶液が、硝酸溶液又は硫酸溶液である、方法。
【選択図】なし