(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】チロソール及びヒドロキシチロソールを生産する酵母及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220829BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220829BHJP
C12P 7/22 20060101ALI20220829BHJP
C12N 9/02 20060101ALN20220829BHJP
C12N 9/04 20060101ALN20220829BHJP
C12N 9/88 20060101ALN20220829BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20220829BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20220829BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20220829BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
C12N1/19 ZNA
C12P7/22
C12N9/02
C12N9/04 E
C12N9/88
C12N15/53
C12N15/60
C12N15/63 Z
(21)【出願番号】P 2021506025
(86)(22)【出願日】2019-04-16
(86)【国際出願番号】 CN2019082883
(87)【国際公開番号】W WO2019237824
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-10-21
(31)【優先権主張番号】201810601213.8
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520411375
【氏名又は名称】山東恒魯生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG HENGLU BIOTECH. CO., LTD
【住所又は居所原語表記】Room 101, Building 1, New Technology Demonstration Garden, 1277 Xinyuan Avenue, Tianqiao District Jinan, Shandong 250000, China
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】方 ▲シュー▼
(72)【発明者】
【氏名】郭 偉
(72)【発明者】
【氏名】韓 麗娟
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0143990(US,A1)
【文献】Jiang J et al.,Metabolic Engineering of Saccharomyces cerevisiae for High-Level Production of Salidroside from Glucose,J Agric Food Chem.,66(17),2018年05月02日,pp.4431-4438,doi:10.1021/acs.jafc.8b01272. Epub 2018 Apr 24. PMID: 29671328.
【文献】Li X. et al.,Establishing an Artificial Pathway for Efficient Biosynthesis of Hydroxytyrosol,ACS Synth Biol. ,7(2),2018年02月16日,pp.647-654,doi:10.1021/acssynbio.7b00385. Epub 2018 Jan 10. PMID: 29281883.
【文献】Ishida N. et al.,The effect of pyruvate decarboxylase gene knockout in Saccharomyces cerevisiae on L-lactic acid production,Biosci Biotechnol Biochem.,70(5),2006年05月,pp.1148-53,doi: 10.1271/bbb.70.1148. PMID: 16717415.
【文献】Database GenBank[online], Accession No.AAA33860.1,1993年04月27日,〈https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/AAA33860.1/〉,Definition: tyrosine decarboxylase[Petroselinum crispum]
【文献】Database Genpept[online], Accession No.WP_015958513.1 ,2018年01月12日,〈https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/506438796?sat=48&satkey=41716886〉,Definition: MULTISPECIES: NAD(P)-dependentalcohol dehyfrogenase
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12N 1/19
C12P 7/02
C12N 9/02
C12N 9/04
C12N 9/88
C12N 15/53
C12N 15/60
C12N 15/63
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA組換え酵母であって、
PcAASは、パセリ由来のチロシンデカルボキシラーゼのDNA配列であり、
ADHは、エンテロバクター属由来のアルコールデヒドロゲナーゼのDNA配列であり、
Δpdc1は、pdc1遺伝子ノックアウトカセットであり、
tyrAは、tyrA発現カセットであり、
前記酵母は、BY4741株である、ことを特徴とするチロソールを生産する酵母。
【請求項2】
チロシンデカルボキシラーゼのアミノ酸配列がSEQ ID NO.1であり、SEQ ID NO.2に示すチロシンデカルボキシラーゼのDNA配列が、SEQ ID NO.1に示すアミノ酸配列をコードし、アルコールデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列がSEQ ID NO.3であり、SEQ ID NO.4に示すアルコールデヒドロゲナーゼのDNA配列が、SEQ ID NO.3に示すアミノ酸配列をコードする、ことを特徴とする請求項1に記載のチロソールを生産する酵母。
【請求項3】
(1)PcAASとADHのDNA配列を発現ベクターに挿入して、ベクター-PcAAS-ADH組換え発現プラスミドを作製する
工程と、
(2)酵母BY4741のゲノムをテンプレートとし、プライマーを用いてpdc1断片の上流及び下流500bpのホモロジーアームをそれぞれ増幅し、プライマーを用いてG418耐性遺伝子断片を増幅し、前記上流及び下流500bpのホモロジーアームと前記G418耐性遺伝子断片とを融合させてpdc1ノックアウトカセットを得る工程と、
(3)酵母BY4741のゲノムをテンプレートとし、プライマーを用いて上流500bpのホモロジーアームを増幅し、前記pdc1ノックアウトカセットをテンプレートとし、プライマーを用いてtyrA断片を増幅し、上流500bpのホモロジーアームとtyrA断片を融合させてtyrA発現カセットを作製する工程と、
(4)前記工程(2)で得られたpdc1ノックアウトカセット及び前記工程(3)で得られたtyrA発現カセットを、工程(1)で得られたベクター-PcAAS-ADHプラスミドに挿入して、PcAAS-ADH-Δpdc1-tyrAプラスミドを得て、それを酵母BY4741に導入してPcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA
組換え酵母株を得る
工程と、を備える、ことを特徴とするチロソールを生産する酵母の
作製方法。
【請求項4】
前記工程(1)の発現ベクターは、pJFE3、pUC19、pΔBLE2.0、pGK系ベクター、又はpXP318である、ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(1)の発現ベクターは、pJFE3である、ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(1)HpaBとHpaCの遺伝子を合成してHpaBC発現カセットを作製する
工程と、
(2)HpaBC発現カセットを組換えPcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA酵母に導入して組換えPcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA-HpaBC酵母を得る工程と、を備える、ことを特徴とするヒドロキシチロソールを生産する酵母の
作製方法。
【請求項7】
PcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA組換え酵母を発酵培養する発酵培養工程と、
前記発酵培養工程で得られた培養液からチロソールを精製する精製工程と、を含み、
前記発酵培養の培養液には、2%グルコース、又は2%グルコースと1%チロシンを含む、ことを特徴とするチロソールの生産方法。
【請求項8】
PcAAS-ADH-HpaBC-Δpdc1-tyrA組換え酵母を発酵培養する発酵培養工程と、
前記発酵培養工程で得られた培養液からヒドロキシチロソールを精製する精製工程と、を含み、
前記発酵培養の培養液は、グルコース、フラクトース、スクロース又はグルコースとチロシンの混合物の中の少なくとも一つを含む、ことを特徴とするヒドロキシチロソールの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物工学技術分野に属し、チロソールを高収率で生産する遺伝子組換え酵母、ヒドロキシチロソールを異種合成する出芽酵母及びそれら酵母の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チロソールは天然抗酸化剤であり、オリーブ油由来のフェニルエタノールの誘導体の一つである。別名で紅景天アグリコンとも呼び、紅景天の主な薬学的活性成分であって、サリドロシド、ヒドロキシチロソールの前駆体物質である。細胞が酸化の損害を受けないように保護することができ、重要な工業価値を有するフェノール系化合物の一つである。チロソール及びその誘導体は、複数種類の有機化合物の合成前駆体であり、チロソールは医薬薬剤に用いられる。チロソールの誘導体であるヒドロキシチロソールは、非常に強い抗酸化作用及びいろいろの生理学的医薬機能を有し、ヒドロキシチロソールの抗酸化性はチロソールより強く、且つ数多くの重合体が合成でき、知られている毒性もないので、バイオ医薬品、機能性食品等の業界において応用が広く、心血管、骨減少などの疾患の発生が予防できる。現在、主にオリーブ葉からの抽出によりヒドロキシチロソールを獲得しているが、植物から抽出するということは、コストが高く、大量の耕地を必要とする。
【0003】
化学方法としてフェニルエタノール合成法が用いられるが、多くの場合、ヒドロキシ基を先に保護し、その後、硝化、還元、ジアゾ化及び加水分解を経てパラヒドロキシフェニルエタノールを取得しており、その収率は70%である。フェニルエタノールは価格が高く、供給が制限された。ニトロトルエンを用いて合成する場合に、原料のコストが低いのにプロセスが複雑であり、収率が低い。パラヒドロキシスチレンを利用する合成は、収率が96%、純度が99%に達し、収率と純度の何れも非常に高いので一定の価値があるが、原料のコストが高い欠点がある。化学法によるチロソールの製造は、原料のコストが高く且つ環境にやさしくない等の欠点があり、それらは何れもチロソールの工業化生産を直接に制限している。従って、生物法によるチロソール及びヒドロキシチロソールの合成は既に研究のホットスポットとなっている。
【0004】
チロソール(Tyrosol)の化学名は4-(2-Hydroxyethyl)phenolであり、分子式はC8H10O2であり、分子量は138.164であり、CAS番号は501-94-0であり、構造式は式(1)で表される。
【0005】
【0006】
複数の特許文献において、チロソールを生産する遺伝子組換え大腸菌が開示されている。具体的に、発明の名称が「大腸菌を用いるチロソールの生合成方法及びその使用」である中国特許文献(出願番号:201310133238.7)、発明の名称が「チロソール及び/又はサリドロシド及びイカリサイドD2(Icariside D(2)を高収率で生産する大腸菌発現株及びその使用」である中国特許文献(出願番号:201410115011.(4)、発明の名称が「グルコースを利用してヒドロキシチロソールを生産する組換え大腸菌及びその組換え法と使用」である中国特許文献(出願番号:201510242626.8)、発明の名称が「チロソールを生産する組換え株及びその作製方法」である中国特許文献(出願番号:201710091999.9)、発明の名称が「異種代謝経路によりチロソール及びヒドロキシチロソールを生産する方法」である中国特許文献(出願番号:201711054680.(5)等が挙げられる。
【0007】
しかしながら、大腸菌を用いて製造プロセスには、内毒素の除去には、工業化応用における大腸菌内毒素を完全的に除きは不可能である。内毒素はグラム陰性細菌の細胞壁中の成分の一つであり、リポポリサッカライドとも呼ぶ。リポポリサッカライドは人体に毒性を与えられることができる。
【0008】
タイトルが「Methods for the improvement of product yield and production in a microorganism thtough the addition of alternate electron acceptors」である文献において、組換え酵母、及び酵素転化を利用して代謝経路を調節することによりグリセリンを生産する方法が開示されている。
【0009】
タイトルが「Breeding of a high tyrosol-producing sake yeast by isolation of an ethanol-resistant mutant from a trp3 mutant」である文献において、出芽酵母のトリプトファン栄養変異体からアルコール耐性変異体を分離し、さらに新型高カゼイン酵母株育種の開発における策略が開示されている。
【0010】
また、酵母を利用して、具体的には出芽酵母を利用してチロソール及びヒドロキシチロソールを生合成する技術は未だに報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、その第1の課題はチロソールを生産する酵母を提供することにある。組換え酵母を開発し、即ち酵母BY4741においてのチロソールの生合成経路を構築し、酵母BY4741の遺伝子テンプレート中のpdc1の遺伝子断片をノックアウトすることで、酵母株におけるアルコールの合成経路を減弱させ、チロソールの生産量を増加させ、且つチロソールを生産できる遺伝子を導入し、更にヒドロキシチロソールのヒドロキシラーゼ遺伝子に転化させることにより、ヒドロキシチロソールを異種合成する酵母株を作製した。
【0012】
本発明の第2の課題は、ヒドロキシチロソールを生産する酵母を提供することにある。
本発明の第3の課題は、チロソールを生産する酵母の作製方法を提供することにある。
本発明の第4の課題は、ヒドロキシチロソールを生産する酵母の作製方法を提供することにある。
【0013】
本発明の第5の課題は、前記チロソールを生産する酵母又はその作製方法の、チロソールの生産における使用を提供することにある。
本発明の第6の課題は、前記ヒドロキシチロソールを生産する酵母又はその作製方法の、ヒドロキシチロソールの生産における使用を提供することにある。
【発明を解決するための手段】
【0014】
以上の技術的課題を解決するために、本発明は以下のような技術的手段を提供する。
【0015】
チロソールを生産する酵母であって、パセリ(Petroselinum crispum)由来のチロシンデカルボキシラーゼPcAAS(TryDC, Tyrosine decarboxylase)とエンテロバクター属(Enterobacteriaceae)由来のアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH,Alcohol dehydrogenase)のDNA配列を酵母BY4741に導入してPcAAS-ADH組換え酵母を得る。
【0016】
好ましくは、チロシンデカルボキシラーゼのアミノ酸配列がSEQ ID NO.1であり、SEQ ID NO.2に示すチロシンデカルボキシラーゼのDNA配列がSEQ ID NO.1に示すアミノ酸配列をコードすることができる。
【0017】
好ましくは、アルコールデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列がSEQ ID NO.3であり、SEQ ID NO.4に示すアルコールデヒドロゲナーゼのDNA配列がSEQ ID NO.3に示すアミノ酸配列をコードすることができる。
好ましくは、前記PcAAS-ADH組換え酵母にpdc1遺伝子ノックアウトカセットを導入してPcAAS-ADH-Δpdc1組換え酵母を得る。
【0018】
さらに、好ましくは、前記pdc1遺伝子ノックアウトカセットの作製方法が、酵母BY4741のゲノムをテンプレートとし、プライマーを用いてpdc1断片の上流及び下流の500bpホモロジーアームをそれぞれ増幅し、プライマーを用いてG418耐性遺伝子断片を増幅し、前記上流及び下流500bpのホモロジーアームと前記G418耐性遺伝子断片を融合させてpdc1ノックアウトカセットを得る工程を備える。
【0019】
好ましくは、前記PcAAS-ADH-Δpdc1組換え酵母にtyrA発現カセットを導入してPcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA組換え酵母を得る。
【0020】
さらに、好ましくは、前記tyrA発現カセットの作製方法が、酵母BY4741のゲノムをテンプレートとし、プライマー用いて上流500bpのホモロジーアームを増幅し、前記pdc1ノックアウトカセットをテンプレートとし、プライマーを用いてtyrA断片を増幅し、上流500bpのホモロジーアームとtyrA断片とを融合させてtyrA発現カセットを作製する工程を備える。
【0021】
ヒドロキシチロソールを生産する酵母であって、大腸菌(Escherichia coli)由来の4-ハイドロキシフェニルアセテートハイドロキシラーゼ(HpaBC,4-hydroxyphenylacetic hydroxylase)のDNA配列遺伝子クラスターを前記チロソールを生産するPcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA組換え酵母に導入してヒドロキシチロソールを生産するPcAAS-ADH-HpaBC-Δpdc1-tyrA組換え酵母を得る。
【0022】
好ましくは、前記4-ハイドロキシフェニルアセテートハイドロキシラーゼのアミノ酸配列遺伝子クラスターが、アミノ酸配列がSEQ ID NO.5である4-ハイドロキシフェニルアセテートハイドロキシラーゼ(HpaB)と、アミノ酸配列がSEQ ID NO.7である4-ハイドロキシフェニルアセテートハイドロキシラーゼ(HpaC)を含む。
【0023】
好ましくは、SEQ ID NO.6に示す4-ハイドロキシフェニルアセテートハイドロキシラーゼ(HpaB)のDNA配列がSEQ ID NO.5に示すアミノ酸配列をコードすることができ、SEQ ID NO.8に示す4-ハイドロキシフェニルアセテートハイドロキシラーゼ(HpaC)のDNA配列がSEQ ID NO.7に示すアミノ酸配列をコードすることができる。
チロソールを生産する酵母の作製方法であって、具体的に、
(1)PcAASとADHのDNA配列を発現ベクターに挿入して、ベクター-PcAAS-ADH組換え発現プラスミドを作製する工程と、
【0024】
(2)酵母BY4741のゲノムをテンプレートとし、プライマーを用いてpdc1断片の上流及び下流500bpのホモロジーアームを増幅し、プライマーを用いてG418耐性遺伝子断片を増幅し、得られた断片を融合させてpdc1ノックアウトカセットを作製する工程と、
【0025】
(3)酵母BY4741のゲノムをテンプレートとし、プライマーを用いて上流500bpのホモロジーアームを増幅し、pdc1ノックアウトカセットをテンプレートとし、プライマーを用いてtyrA断片を増幅し、得られた断片を融合させてtyrA発現カセットを作製する工程と、
【0026】
(4)工程(2)で得られたpdc1ノックアウトカセットと工程(3)で得られたtyrA発現カセットを工程(1)で得られたベクター-PcAAS-ADHプラスミドに挿入してPcAAS-ADH-Δpdc1-tyrAプラスミドを得、それを酵母BY4741に導入して組換えPcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA酵母株を得る工程と、を備える。
【0027】
好ましくは、工程(1)における発現ベクターが、pJFE3、pUC19、pΔBLE2.0、pGK系ベクター、pXP318である。
さらに、好ましくは、ベクターがpJFE3である。
ヒドロキシチロソールを生産する酵母の作製方法であって、具体的に、
(1)HpaBとHpaCの遺伝子を合成してHpaBC発現カセットを作製する工程と、
【0028】
(2)HpaBC発現カセットを組換えPcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA酵母に導入して組換えPcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA-HpaBC酵母を得る工程と、を備える。
また、前記チロソールを生産する酵母とチロソールを生産する酵母の作製方法の、チロソールの生産における使用を提供する。
【0029】
好ましくは、前記使用の具体的形態が、前記チロソールを生産する酵母の発酵培養を行うことでチロソールを得、前記発酵培養の培養液がグルコース、フラクトース、スクロース又はグルコースとチロシンの混合物の中の一つ又はそれらの混合物である。
【0030】
また、前記ヒドロキシチロソールを生産する酵母及びヒドロキシチロソールを生産する酵母の作製方法の、ヒドロキシチロソールの生産における使用を提供する。
【0031】
好ましくは、前記使用の具体的形態が、前記ヒドロキシチロソールを生産する酵母の発酵培養を行うことでヒドロキシチロソールを得、前記発酵培養の培養液がグルコース、フラクトース、スクロース又はグルコースとチロシンの混合物の中の一つ又はそれらの混合物である。
【発明の効果】
【0032】
(1)本発明において、PcAAS-ADH組換え酵母にpdc1ノックアウトカセットを導入することで、酵母におけるアルコール合成経路を遮断させ、PEPを介してチロソールを合成する代謝経路を通じて、チロソールの生産量を上向させた。
【0033】
(2)本発明において、PcAAS-ADH-Δpdc1組換え酵母にtyrA発現カセットを導入することで、PREPが4HPPに転化する代謝工程が両方向から一方向へなるようにさせ、チロソールの生産量を上向させた。
【0034】
(3)本発明は、1種類の酵母を開発して、チロソールの生合成経路を作製し、チロソールの生産量を上向させ、且つチロソールをさらにヒドロキシチロソールに転化させることができるヒドロキシラーゼ遺伝子を導入することにより、ヒドロキシチロソールを異種合成する酵母株を作製した。出芽酵母は大腸菌と比べて、安全性が良く、生産量が安定で、抗感染性能が強い等の利点を有するので、工業化生産に適合する。
【0035】
(4)本発明は、新型の環境にやさしいチロソール及びヒドロキシチロソールの生物学的製造技術を提供することで、チロソール及びヒドロキシチロソールの工業化生産のために基礎付けの役割を果たしており、重要な経済的価値及び社会的価値がある。
【図面の簡単な説明】
【0036】
本発明の一部を構成する図面は、本発明を更に理解させるために提供するものであり、本発明の例示的実施例及びその説明は、本発明を解釈するために用いるものであって、本発明に対する不当な限定となるものではない。
【
図1】グルコース又はチロシンを基質としてチロソール及びヒドロキシチロソールを合成する経路を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
指摘すべきは、以下の詳細説明は例示的であり、その要旨は本発明に対しての更なに説明を提供するためである。特別の指定がない限り、本文で用いる技術用語及び化学用語は、当業者が通常に理解しうるものと同じ意味を有する。
【0038】
注意すべきは、本文で用いる用語はただ具体的な実施形態を説明するためであり、本発明の例示的実施形態を制限するとのことが意図されるのではない。明確な指定がない限り、本文で用いる単数形式も複数形式を含むことを意図するものである。また、理解すべきは、本文において用語「含む」及び/又は「備える」用いる時は、特徴、工程、操作、機器、セット及び/又はそれらの組合わせが存在することを明示する。
【0039】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0040】
実施例1
pJFE3-PcAAS-ADH組換え発現プラスミドの作製
SEQ ID NO.1及びSEQ ID NO.2に示すアミノ酸配列をホストの出芽酵母コドン選択性によってコドン最適化を行い、SEQ ID NO.1及びSEQ ID NO.2に対応する最適化後のヌクレオチド配列を取得した後、遺伝子合成を行った。プライマーを選択し、TOYOBO社のKOD FXDNAポリメラーゼを用いて増幅し、目的遺伝子を得た。アガロースゲル電気泳動にてバンドの大きさが正確であるのを検証した後、バンドを切取り、OMEGAゲル抽出キットで遺伝子断片を回収した。PCR増幅用プライマーは以下の通りである。
【0041】
PcAAS-Fの配列はSEQ ID NO.9であり、PcAAS-Rの配列はSEQ ID NO.10であり、adh-Fの配列はSEQ ID NO.11であり、adh-Rの配列はSEQ ID NO.12である。
【0042】
GBdir+pSC101-BAD-ETgA-tetプラスミドを備えるE.coli株を、テトラサイクリン耐性を備えるプレート上でそのシングルコロニーを取って1mLのLB液体培地(滅菌、4ug/mLテトラサイクリンを含む)が入れているEPチューブに入れ、30oC、200rpm下で一晩培養した。東洋紡株式会社のKOD FX DNAポリメラーゼを用いて目的遺伝子断片を増幅するとともに、毎断片がいずれも隣接する断片と50bpの相同配列があるように保証した。PCR産物は、ゲル電気泳動にて分離した後、DNA断片ゲル回収キットを用いて回収し、DNA濃度を測定した。その後、融合断片を用いてRED/ETプラスミド組換えを行った。具体的に、
【0043】
(1)一晩培養した菌液から40μLを吸込み、4μg/mLのテトラサイクリンを含む1mLの新しいLB培地に添加し、30oC、200rpm下で2h振とうした。
(2)T4 DNAポリメラーゼを用いて断片の接合を行った。反応系は表2に示した。
【0044】
上記試薬をPCRチューブに入れ、反応条件は表3に示す。
【0045】
【0046】
(3)工程(1)の前記菌液に40μLの 10 % L-アラビノース溶液を添加し、37oC、200rpm下で40min振とうした。
【0047】
(4)VSWP01300 MF-Millipore表面ろ過膜(白色、MCE、親水、0.025μm、光沢面13mm)で工程(2)から得られた反応系に対して塩除去を40min行った。
【0048】
(5)工程3の菌液を9000rpm下で1min間遠心分離を行って上清液を除去し、500μLの無菌のddH2Oを添加して菌液を再懸濁し、9000rpm下で1min遠心分離を行って上清液を除去した。2回繰返した後、上清液を除去し、50μLの無菌のddH2Oを入れて菌液を再懸濁して氷上に置いた。
(6)塩を除去した後の工程(4)における溶液と工程(5)にて処理した菌液を均一に混合して氷上に1min間放置した。
(7)全部の混合物を吸込みエレクトロポレーション(エレクトロポレーションパラメータ:1350V、200Ω、25mA、1μF)を行った。
【0049】
(8)1mLの新しいLB液体培地(滅菌、耐性なし)をエレクトロポレーションキュベットに添加し、均一に吹き出した後、EPチューブに吸込み、37oC、200rpm下で1h培養した。
【0050】
(9)50μLの菌液を50-100μg/mLのAmpを含むLBプレート上に塗布し、37oCで一晩培養した。
(10)単クローンを選抜し、PCR及びシーケンシングを行って検証した。
実施例2
pdc1ノックアウトカセットの作製
【0051】
出芽酵母のゲノムをテンプレートとし、プライマーのPDC1UF/PDC1UR及びPDC1DF/PDC1DRを用いてpdc1断片遺伝子の上流及び下流500bpのホモロジーアームを増幅し、プライマーのG418F/G418Rを用いて、G418耐性遺伝子断片を増幅し、融合PCR法を採用してpdc1ノックアウトカセットを作製し、シーケンシングを行って検証した。
プライマーの配列:
【0052】
PDC1UFの配列はSEQ ID NO.13であり、PDC1URの配列はSEQ ID NO.14であり、G418Fの配列はSEQ ID NO.15であり、G418Rの配列はSEQ ID NO.16であり、PDC1DFの配列はEQ ID NO.17であり、PDC1DRの配列はSEQ ID NO.18である。
【0053】
実施例3
tyrA発現カセットの作製
出芽酵母のゲノムをテンプレートとし、プライマーのPDC1F-YZ/PDC1UF1及び上流500bpのホモロジーアームを用い、実施例2で作製したpdc1ノックアウトカセットをテンプレートとし、プライマーG418F1/PDCIR-YZを用いてtyrA及びpdc1下流500bpの断片を増幅し、大腸菌BL-21(DE(3)ゲノムをテンプレートとし、プライマーtyrAF1/tyrAR1を用いて遺伝子tyrA断片を増幅し、融合PCR法を採用して、tyrA発現カセットを作製し、シーケンシングを行って検証した。
【0054】
プライマーの配列:
PDC1F-YZの配列はSEQ ID NO.19であり、PDC1UF1の配列はSEQ ID NO.20であり、TYRAF1の配列はSEQ ID NO.21であり、TYRAR1の配列はSEQ ID NO.22であり、G418F1の配列はSEQ ID NO.23であり、PDCIR-YZの配列はSEQ ID NO.24である。
実施例4
HpaBC発現カセットの作製
【0055】
SEQ ID NO.5及びSEQ ID NO.7に示すアミノ酸配列をホストの出芽酵母コドン選択性によってコドン最適化を行い、SEQ ID NO.5及びSEQ ID NO.7に対応するSEQ ID NO.6及びSEQ ID NO.8に示す最適化後のヌクレオチド配列を得た後、遺伝子合成を行った。実施例1の方法に従ってHpaBC発現カセットを作製した。
実施例5
出芽酵母を例としてのチロソールを微生物異種合成する菌株の作製方法:
【0056】
実施例1から得られた菌株をLB培地に播種し、37oC、200rpmの条件下で14h培養し、OMEGAプラスミド抽出キットD6943-01を用いてpJFE3-PcAAS-ADH組換え発現プラスミドを取得した。PEG/LiAc法を採用して出芽酵母BY4741に形質転換させ、URA選択培地を利用してスクリーニングを行って単クローンを取り、プラスミドを抽出してプライマーのYZ1F及びYZ1Rを用いてPCRを行って検証し、PcAAS-ADH菌株を得た。さらに、実施例2のpdc1ノックアウトカセット及び実施例3のtyrA発現カセットをPcAAS-ADH菌株に導入することにより、PcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA菌株を得た。PcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA菌株に基づき、PEG/LiAc法を採用して実施例5で作製したHpaBC発現カセットをdpdc1-tyrA菌株に導入して、PcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA-HpaBC菌株を得た。
YZ1Fの配列はSEQ ID NO.25であり、YZ1Rの配列はSEQ ID NO.26である。
実施例6
出芽酵母を例としてのチロソールを合成する微生物の発酵:
チロソールを生産するPcAAS-ADH菌株及びPcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA菌株のプレート上でその単クローンを取り、5mLの酵母選択栄養欠陥型培地(SD培地、Synthetic Dropout Media)に播種し、30-32 oC、200rpm条件下で24h培養した後、50mLのSD培地に最初播種のOD600が0.2になるように再播種し、30oC、200rpm条件下で12h培養した後、100mLのSD培地に最初播種のOD600が0.2になるように再播種し、グルコース、フラクトース、スクロース又はグルコースとチロシン等をそれぞれ添加して72時間発酵実験を行った。文献(Satoh, Tajima et al.201(2)に報告されたHPLC法により発酵液中のチロソールの濃度を測定した。異なる炭素源の培養条件下でのチロソール生産量は表4に示した。
【0057】
実施例7
出芽酵母を例としてのヒドロキシチロソールを合成する微生物の発酵:
ヒドロキシチロソールを生産するPcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA-HpaBC菌株のプレート上でその単クローンを取って5mLの酵母選択栄養欠陥型培地(SD培地、Synthetic Dropout Media)に播種し、30-32
oC、200rpm条件下で24h培養した後、50mLのSD培地に最初播種のOD600が0.2になるように再播種し、30
oC、200rpmの条件下で12h培養した後、100mLのSD培地に最初播種のOD600が0.2になるように再播種し、発酵実験を行った。文献(Satoh, Tajima et al.201(2)に報告されたHPLC法により発酵液中のヒドロキシチロソールの濃度を測定した。発酵72h後、得られたヒドロキシチロソールの生産量は978mg/Lであった。
【0058】
上記は本発明の好適な実施例だけであり、本発明を制限することに用いるものではなく、当業者にとって、本発明はいろんな変更及び変化がなし得ることは理解するであろう。本発明の主旨及び原則の範囲内において行われた何らかの修正、均等置換、改良などはいずれも本発明の保護範囲に含まれる。
【配列表】