IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フェムトディプロイメンツ株式会社の特許一覧

特許7130289フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置
<>
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図1
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図2
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図3
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図4
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図5
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図6
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図7
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図8
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図9
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図10
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図11
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図12
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図13
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図14
  • 特許-フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3581 20140101AFI20220829BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
G01N21/3581
H01L21/66
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021562470
(86)(22)【出願日】2020-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2020036615
(87)【国際公開番号】W WO2021111713
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2019219479
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515130555
【氏名又は名称】フェムトディプロイメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】渡部 明
(72)【発明者】
【氏名】奥野 雅史
(72)【発明者】
【氏名】上田 剛慈
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-004578(JP,A)
【文献】特開2012-209458(JP,A)
【文献】半導体プロセスにおけるテラヘルツ計測の導入:RIEディープエッチング用厚膜フォトレジストのテラヘルツ,2009年秋期(第145回)大会 日本金属学会講演概要,日本,社団法人日本金属学会,2009年09月15日,S1・18
【文献】RIEディープエッチング用厚膜フォトレジストのテラヘルツ分光測定,第56回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,日本,社団法人応用物理学会,2009年09月15日,30p-P5-8
【文献】Optical properties of photoresist in the terahertz range,Superlattices and Microstructures,Elsevier Ltd.,2013年05月23日,Vol. 60,pp. 606-611,doi: 10.1016/j.spmi.2013.05.018
【文献】The Analysis of Photoresists's Absorption Spectrum by THz-TDS,The International Symposium on Photonics and Optoelectronics (SOPO 2009),IEEE,2009年09月01日,doi: 10.1109/SOPO.2009.5230286
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/958
H01L 21/00-H01L 21/98
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
IEEE Xplore
SPIE Digital Library
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトレジストに対してテラヘルツ波を用いた分光処理を行うことにより、上記フォトレジストの特性値を含む複数要素の関係性を示す相関特性であって、上記フォトレジストに対する処理時間と上記特性値との関係性を示す時間領域相関特性、上記フォトレジストの第1の特性値と第2の特性値との関係性を示す特性値間相関特性の少なくとも1つを上記フォトレジストの特性情報として取得することを特徴とするフォトレジストの特性解析方法。
【請求項2】
上記相関特性として、周波数と上記特性値との関係性を示す周波数領域相関特性を更に取得することを特徴とする請求項1に記載のフォトレジストの特性解析方法。
【請求項3】
周波数と上記特性値との関係性を示す周波数スペクトルを取得する第1ステップと、
上記第1ステップで取得された上記周波数スペクトルをもとに、所定の判定基準に従って単一の周波数を特定する第2ステップと、
上記第2ステップで特定された周波数において上記特性値を取得する第3ステップとを有し、
上記相関特性として、上記第2ステップで特定された周波数と上記第3ステップで取得された特性値との関係性を示す周波数領域相関特性を取得する
ことを特徴とする請求項2に記載のフォトレジストの特性解析方法。
【請求項4】
周波数と上記特性値との関係性を示す周波数スペクトルを取得する第1ステップと、
上記第1ステップで取得された上記周波数スペクトルをもとに、所定の判定基準に従って単一の周波数を特定する第2ステップと、
上記第2ステップで特定された周波数において検出される上記特性値を用いて上記相関特性を取得する第3ステップとを有する
ことを特徴とする請求項1に記載のフォトレジストの特性解析方法。
【請求項5】
上記フォトレジストの製造工程から、上記フォトレジストが施されたウエハの現像工程までの複数工程のうち少なくとも1つの工程の処理の実行中または実行後のフォトレジストに対して上記テラヘルツ波を用いた分光処理を行うことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のフォトレジストの特性解析方法。
【請求項6】
上記複数工程のうち上記ウエハに塗布される前の工程において液体状態の上記フォトレジストに対して上記テラヘルツ波を用いた分光処理を行うことを特徴とする請求項5に記載のフォトレジストの特性解析方法。
【請求項7】
上記複数工程のうち塗布工程において上記ウエハの表面に薄膜状に塗布された状態の上記フォトレジストに対して上記テラヘルツ波を用いた分光処理を行うことを特徴とする請求項5に記載のフォトレジストの特性解析方法。
【請求項8】
上記複数工程のうちベーク工程においてベーク処理が行われた状態の上記フォトレジストに対して上記テラヘルツ波を用いた分光処理を行うことを特徴とする請求項5に記載のフォトレジストの特性解析方法。
【請求項9】
上記複数工程のうち露光工程において露光処理が行われた状態の上記フォトレジストに対して上記テラヘルツ波を用いた分光処理を行うことを特徴とする請求項5に記載のフォトレジストの特性解析方法。
【請求項10】
上記複数工程のうち現像工程において現像処理が行われた状態の上記フォトレジストに対して上記テラヘルツ波を用いた分光処理を行うことを特徴とする請求項5に記載のフォトレジストの特性解析方法。
【請求項11】
フォトレジストに作用させたテラヘルツ波を検出する分光装置からテラヘルツ波信号を入力するテラヘルツ波信号入力部と、
上記テラヘルツ波信号入力部により入力された上記テラヘルツ波信号を解析することにより、上記フォトレジストの特性情報を取得するテラヘルツ波信号解析部とを備え、
上記テラヘルツ波信号解析部は、上記特性情報として、上記フォトレジストの特性値を含む複数要素の関係性を示す相関特性であって、上記フォトレジストに対する処理時間と上記特性値との関係性を示す時間領域相関特性、上記フォトレジストの第1の特性値と第2の特性値との関係性を示す特性値間相関特性の少なくとも1つを取得する
ことを特徴とするフォトレジストの特性解析装置。
【請求項12】
上記テラヘルツ波信号解析部は、上記相関特性として、周波数と上記特性値との関係性を示す周波数領域相関特性を更に取得することを特徴とする請求項11に記載のフォトレジストの特性解析装置。
【請求項13】
上記テラヘルツ波信号解析部は、上記フォトレジストの製造工程から、上記フォトレジストが施されたウエハの現像工程までの複数工程のうち少なくとも1つの工程の処理の実行中または実行後のフォトレジストに対して上記テラヘルツ波を用いた分光処理を行うことによって検出されたテラヘルツ波信号を解析することを特徴とする請求項11または12に記載のフォトレジストの特性解析装置。
【請求項14】
上記特性解析装置は上記分光装置を含み、
上記分光装置は、上記ウエハに塗布されたフォトレジストに上記テラヘルツ波を透過させ、上記フォトレジストを透過したテラヘルツ波を検出する
ことを特徴とする請求項13に記載のフォトレジストの特性解析装置。
【請求項15】
上記特性解析装置は上記分光装置を含み、
上記分光装置は、ウエハに塗布されたフォトレジストにおいて上記テラヘルツ波で反射させ、上記フォトレジストで反射したテラヘルツ波を検出する
ことを特徴とする請求項13に記載のフォトレジストの特性解析装置。
【請求項16】
上記フォトレジストが塗布されたウエハと、上記テラヘルツ波の発信器および受信器の対との位置関係が相対的に変化するように、上記ウエハ、上記発信器および受信器の対、またはその両方を走査して上記分光処理を行うことにより、上記ウエハ上のフォトレジストの各位置における特性情報を取得することを特徴とする請求項14または15に記載のフォトレジストの特性解析装置。
【請求項17】
上記テラヘルツ波信号解析部により上記少なくとも1つの工程の処理の実行中のフォトレジストについて取得された上記特性情報に基づいて、当該処理の実行中におけるフォトレジストの状態変化を監視し、上記フォトレジストが所定の状態になったことを検知したときに所定の処理を実行するモニタリング部を更に備えたことを特徴とする請求項13に記載のフォトレジストの特性解析装置。
【請求項18】
上記テラヘルツ波信号解析部により上記少なくとも1つの工程の処理の実行中または実行後のフォトレジストについて取得された上記特性情報を記憶する特性情報記憶部と、
上記テラヘルツ波信号解析部により今回取得された上記特性情報と、上記特性情報記憶部に記憶されている過去の上記特性情報とを比較して、上記フォトレジストの異常の判定を行う異常判定部とを更に備えた
ことを特徴とする請求項13に記載のフォトレジストの特性解析装置。
【請求項19】
上記テラヘルツ波信号解析部により取得された上記特性情報を判定モデルに入力することにより、上記フォトレジストの異常の有無を判定する異常判定部を更に備え、
上記判定モデルは、上記特性情報が入力されたときに上記フォトレジストの異常の有無に関する値が出力されるように、教師データを用いた機械学習が施されており、
上記教師データは、複数のフォトレジストについて取得された複数の特性情報に対し、上記フォトレジストに異常がないときに取得された特性情報および上記フォトレジストに異常があるときに取得された特性情報についてそれぞれ識別ラベルを付与して成るデータである
ことを特徴とする請求項13に記載のフォトレジストの特性解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトレジストの特性解析方法および特性解析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フォトレジストは、物質の表面に塗布され、後に続くエッチングなどの処理から物質表面を保護する目的などで使用される。フォトレジストは液体として製造され、半導体デバイスやMEMS、液晶モニタ等の製造工程において、基板上に塗布、プリベーク、露光、現像、ポストベーク等を経て保護パターンを形成するのに用いられる。保護パターンから露出した基板表面にエッチングや成膜工程を施した後、フォトレジストは基板上から剥離される。
【0003】
以上のような複数の工程の処理を通してフォトレジストは、ポリマーが分散した液体状態から基板上に塗布された状態、ベークにより溶剤が蒸発した状態、露光による光化学反応が起きた状態、ポストベークによる熱架橋反応が起きた状態など、様々な状態変化を経る。
【0004】
なお、テラヘルツ波を用いてウエハの接合強度を検査する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の検査装置では、接合ウエハを透過または反射したテラヘルツ波を検出するテラヘルツ波検出器と、テラヘルツ波検出器によって検出したテラヘルツ波より接合ウエハのテラヘルツ波特性を演算する演算部とを備える。演算部は、あらかじめ求めた基準試料のテラヘルツ波特性と接合強度との間の関係から、検査対象の接合ウエハのテラヘルツ波特性に対応する接合強度を演算する。
【0005】
【文献】特開2013-4578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、フォトレジストは品質が安定していると考えられてきたが、実際には品質にばらつきが生じ得る。そのため、上記のように各処理工程を通して様々な状態変化を経るフォトレジストにおいて、その様々な状態ごとに特性を観測したいとするニーズがある。しかしながら、熱や光(可視光、紫外線、赤外線)などの計測手段をフォトレジストに作用させると、その影響を受けてフォトレジストの分子構造や厚みや耐化学薬品性などが変わってしまい、フォトレジストの特性をそのまま計測することが難しいという問題があった。
【0007】
例えば、フォトレジストを用いた製品の製造工程においてトラブルが発生したときに、どの段階でフォトレジストに不具合があったのかを調べることは容易ではなかった。すなわち、複数の工程に亘って状態が変わるフォトレジストの特性を一貫して計測する方法がないため、基板上に保護パターンを作り上げるまでフォトレジストの異常を判別することができず、複数の工程のどの段階でフォトレジストに不具合があったのかを判別することができないという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、計測によってフォトレジストの特性を変えることなく、工程中のフォトレジストの特性を適切に評価できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明では、フォトレジストに対してテラヘルツ波を用いた分光処理を行うことにより、フォトレジストの特性情報(特性値または当該特性値を含む複数要素の関係性を示す相関特性)を取得するようにしている。
【発明の効果】
【0010】
フォトレジストは、可視光、紫外線、赤外線に感光して特性が変化するが、テラヘルツ波によっては特性変化の影響を受けない。本発明ではこの性質を利用して、フォトレジストをテラヘルツ波で分光計測することにより、計測手段の作用によってフォトレジストの特性を変えることなく、工程中のフォトレジストの特性情報を取得し、当該特性情報からフォトレジストの特性を適切に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態によるフォトレジストの特性解析装置の機能構成例を示すブロック図である。
図2】フォトレジストの特性をテラヘルツ波で分光計測する工程の一例を示す図である。
図3】シリコンウエハに塗布したままの状態でフォトレジストのテラヘルツ波分光計測を行う様子を示す図である。
図4】フォトレジストの各位置を走査してのテラヘルツ波分光計測を行う様子を示す図である。
図5】フォトレジストの各位置を走査してのテラヘルツ波分光計測を行う様子を示す図である。
図6】第1実施例の実験結果を示す図である。
図7】第2実施例の実験結果を示す図である。
図8】第3実施例の実験結果を示す図である。
図9】第4実施例の実験結果を示す図である。
図10】第4実施例の実験結果を示す図である。
図11】第5実施例の実験結果を示す図である。
図12】第5実施例の実験結果を示す図である。
図13】本実施形態の第1応用例に係る特性解析装置の機能構成例を示すブロック図である。
図14】本実施形態の第2応用例に係る特性解析装置の機能構成例を示すブロック図である。
図15】本実施形態の第3応用例に係る特性解析装置の機能構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態によるフォトレジストの特性解析装置(以下、単に特性解析装置という)の機能構成例を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態の特性解析装置100は、機能構成として、テラヘルツ波信号入力部11およびテラヘルツ波信号解析部12を備えている。
【0013】
本実施形態の特性解析装置100は、フォトレジストに作用させたテラヘルツ波を検出する分光装置200に接続されている。テラヘルツ波による計測方法には、パルスと光伝導アンテナを用いた時間領域分光法や、差周波発生法、カスケードレーザーによる単波長発生法などが知られている。分光装置200にはいずれの技術を適用することも可能である。
【0014】
本実施形態では、分光装置200および特性解析装置100を用いて、フォトレジストに対してテラヘルツ波を用いた分光処理を行うことにより、フォトレジストの特性情報を取得する。ここでは、本実施形態の特性解析装置100が分光装置200とは別に構成される例を示しているが、これに限定されない。例えば、本実施形態の特性解析装置100が分光装置200を含む構成としてもよい。
【0015】
特性解析装置100のテラヘルツ波信号入力部11は、分光装置200により検出されるテラヘルツ波信号を入力する。
【0016】
テラヘルツ波信号解析部12は、テラヘルツ波信号入力部11により分光装置200から入力されたテラヘルツ波信号を解析することにより、フォトレジストの特性情報を取得する。本実施形態では、テラヘルツ波信号解析部12は、フォトレジストの特性情報として、フォトレジストの特性値または当該特性値を含む複数要素の関係性を示す相関特性を取得する。
【0017】
テラヘルツ波信号解析部12は、相関特性として、周波数とフォトレジストの特性値との関係性を示す周波数領域相関特性(周波数スペクトル)、フォトレジストに対する処理時間とフォトレジストの特性値との関係性を示す時間領域相関特性、フォトレジストの第1の特性値と第2の特性値との関係性を示す特性値間相関特性の少なくとも1つを取得する。
【0018】
テラヘルツ波信号解析部12は、フォトレジストの特性値を取得する際、または、時間領域相関特性もしくは特性値間相関特性を取得する際に、次のようにしてもよい。すなわち、まず周波数と特性値との関係性を示す周波数スペクトルを取得し(第1ステップ)、当該取得した周波数スペクトルをもとに、所定の判定基準に従って単一の周波数を特定する(第2ステップ)。そして、当該特定した周波数において特性値を取得し、または、当該特定した周波数において検出される特性値を用いて相関特性を取得する(第3ステップ)。
【0019】
所定の判定基準は、例えば、特定の周波数を抽出して特性情報を取得したときに、それがフォトレジストの特性をよく表現するか否かという判定基準である。フォトレジストの特性をよく表現するとは、第3ステップで取得される相関特性を所定の関数によって精度よくフィッティング可能であることや、相関特性の中で特異的な特性値が見られること、特性値や相関特性に特徴的な傾向が見られることなどの何れかである。また、後述するように、蓄積されたデータをもとに、フォトレジストの異常とフォトレジストの特性情報(特性値または相関特性)との有意な関係性を解析し、異常に起因する特徴が特性情報に現れやすい周波数を特定するようにすることも可能である。
【0020】
また、本実施形態では、図2に示すように、例えば半導体デバイスの製造に用いられるフォトレジストの製造工程から、フォトレジストが施されたウエハの現像工程までの複数工程のうち、少なくとも1つの工程の処理の実行中または実行後のフォトレジストについて、テラヘルツ波で分光計測した特性情報を取得する。なお、図2では、光照射の前にベーキング(ベークともいう)を行っているが、現像後にポストベークによって熱架橋を行うこともある。
【0021】
フォトレジストは、可視光、紫外線、赤外線に感光して特性が変化するが、テラヘルツ波によっては特性変化の影響を受けない。そのため、テラヘルツ波分光計測によってフォトレジストの特性を変えることなく、フォトレジストの製造工程から現像工程までの複数工程において、各工程におけるフォトレジストの特性情報を取得することが可能である。この際、ポリマーの液体溶解状態、固体状態、化学反応進行状態のそれぞれにおけるフォトレジストの特性を同一計測技術で一貫して計測することが可能である。
【0022】
テラヘルツ波信号解析部12は、1つの工程につき、フォトレジストの特性値、周波数領域相関特性、時間領域相関特性情報値間相関特性の少なくとも1つに関する特性情報を取得する。何れかの特性情報を得ることにより、その特性情報からフォトレジストの特性を評価することが可能である。ここでフォトレジストの特性とは、ポリマーの分散状態、溶剤が抜けていく過程でのポリマーの部分結晶化や残留水分による構造化、ポリマーの光化学反応または熱反応による架橋などに起因する特性であり、テラヘルツ波分光計測で検出しうるあらゆる特性を指す。
【0023】
また、フォトレジストの特性評価とは、例えば、フォトレジストの特性の変化を監視して、所定の状態になったか否かを判定することを含む。また、フォトレジストの特性に何らかの異常が発生しているか否かを判定することを含んでもよい。フォトレジストは複雑な組成と部分構造を持つ材料であるため、検出される特性情報から分子状態やその変化を確定的に同定できるとは限らないが、フォトレジストの特性をモニタリングして異常が発生しないように各工程の処理を制御したり、各工程の早期の段階でフォトレジストの異常を発見したりすることが可能である。また、フォトレジストの特性から収率を把握することを評価の一態様として含めることも可能である。
【0024】
図2に示す製造工程で製造されたフォトレジストおよび保管工程で保管されているフォトレジストは、溶剤に分散されたポリマーや感光剤を主成分とする液体状態である。ポリマーや感光剤が溶剤中に溶媒和し均一かつ安定に分散していることや、水などの不純物が混入していないこと、溶剤が蒸発していないことなどがこの段階で求められる評価指標である。本実施形態では、このような評価を行えるようにするために、ウエハに塗布される前の工程(製造工程または保管工程)において液体状態のフォトレジストについて、テラヘルツ波を用いた特性情報を取得する。
【0025】
テラヘルツ波は、その光子エネルギーが4ミリエレクトンボルト程度であり、分子間相互作用のエネルギーに相当するため、分子間相互作用に関わる溶剤中のポリマーの分散状態を反映したスペクトルを生じる。従って、テラヘルツ波信号解析部12により取得する特性情報(具体的な内容は後述する)は、製造時のロットごとの安定性評価に活用できる。また、保管中または輸送中のポリマーの凝集または部分結晶化や水分を含む構造形成などがあれば、フォトレジストの特性情報によってそれを捉えることができるので、出荷前検査や受け入れ検査に対しても有効である。
【0026】
また、テラヘルツ波信号解析部12は、塗布工程(スピンコート)においてウエハの表面に薄膜状に塗布された状態のフォトレジストについても、テラヘルツ波を用いた特性情報を取得することができる。また、テラヘルツ波信号解析部12は、塗布工程の後のベーク工程(ベーキング)の処理が行われた状態のフォトレジストについても、テラヘルツ波を用いた特性情報を取得することができる。これらの工程では、塗布されたフォトレジストから溶剤が抜けて固体化する。固体の振動もテラヘルツ波で検知できる対象のひとつであり、その部分結晶化や架橋構造に異常な変化があれば不具合として判別することが可能となる(詳細は後述する)。
【0027】
また、テラヘルツ波信号解析部12は、ベーク工程の後の露光工程(光照射)において露光処理が行われた状態のフォトレジストについても、テラヘルツ波を用いた特性情報を取得することができる。さらに、テラヘルツ波信号解析部12は、露光工程の後の現像工程において現像処理が行われた状態のフォトレジストについても、テラヘルツ波を用いた特性情報を取得することができる。これらの工程は、光化学反応でフォトレジストの化学構造および現像液への溶解特性が大きく変わる工程であり、保護パターン形成の成否を決める段階である。
【0028】
フォトレジストを形成するウエハの材料として用いられるシリコンは、テラヘルツ波の透過性が高いため、シリコンウエハに塗布したままの状態でフォトレジストのテラヘルツ波分光計測が可能であり、製造工程での常時かつ非破壊観察が可能である。例えば、図3(a)に示すように、シリコンウエハがテラヘルツ波に対して透過性が高いという基本的性質を利用して、シリコンウエハ上に塗布したフォトレジストの特性を透過スペクトルで観察することが可能である。この場合、分光装置200は、シリコンウエハに塗布されたフォトレジストにテラヘルツ波を透過させ、フォトレジストおよびシリコンウエハを透過したテラヘルツ波を検出する。
【0029】
一方、シリコンに様々な材料の添加を施したものもあり、テラヘルツ波が透過しにくいシリコンウエハもある。この場合は、図3(b)に示すように、フォトレジストでの反射波を観測することで、透過スペクトルと同様の特性を得ることが可能である。この場合、分光装置200は、シリコンウエハに塗布されたフォトレジストにおいてテラヘルツ波で反射させ、フォトレジストで反射したテラヘルツ波を検出する。
【0030】
ここで、フォトレジストが塗布されたシリコンウエハと、テラヘルツ波の発信器および受信器の対との位置関係が相対的に変化するように、シリコンウエハ、発信器および受信器の対、またはその両方を走査して分光処理を行うことにより、シリコンウエハ上のフォトレジストの各位置における特性情報を取得するようにすることが可能である。
【0031】
例えば、図4に示すように、回転軸チャックにセットされた円盤状のシリコンウエハ(フォトレジストが塗布されたもの)を回転させながら発信器および受信器の対を半径方向に移動させることにより、フォトレジストの全面を走査して分光処理を行うことが可能である。また、発信器および受信器の対は固定した状態のまま、シリコンウエハを回転させながらフォトレジストの特定の周面を走査して分光処理を行うようにすることも可能である。また、図5に示すように、シリコンウエハは固定した状態のまま、発信器および受信器の対をマトリクス状に移動させることにより、フォトレジストの全面を走査して分光処理を行うようにすることも可能である。
【0032】
以下に、フォトレジストの特性情報の具体的なテラヘルツ波分光計測例について説明する。
【0033】
<第1実施例>
図6は、ウエハに塗布される前の液体状態のフォトレジスト(製造工程または保管工程の処理の実行中または実行後のフォトレジスト)についてテラヘルツ波分光計測を行った第1実施例の実験結果を示す図である。ここでは、フォトレジストの劣化または不具合を促進させるために、水分の添加や加熱を加える実験を行った。
【0034】
(1)水を添加する実験
図6(a)は、フォトレジストに種々の量の水を添加した場合におけるテラヘルツ波の吸光度の変化を示したものであり、第1の特性値を吸光度、第2の特性値を水添加濃度とする特性値間相関特性である。この特性値間相関特性は、上述した第1ステップから第3ステップの処理によって、周波数スペクトルから特定の波長(周波数)を抜き出して生成したものである。具体的には、水の添加量を変えて生成した複数種類のフォトレジストをテラヘルツ波分光計測することによって複数の周波数スペクトルを取得し、特性値間相関特性が図6(a)のように線形となる周波数を特定したものである。
【0035】
図6(a)に示されるように、フォトレジストの劣化または不具合の要因となる水の添加が全くない場合の吸光度は0.16未満であり、水添加濃度が増えるに従って吸光度が大きくなっていく。このように、フォトレジストの吸光度と水添加濃度との間には有意な相関があることが見て取れる。これにより、フォトレジストに含まれる水分が何らかの理由で増えている場合に、水添加量が増えていることを、そのときのフォトレジストの特性(特定周波数の吸光度)から非接触非破壊で確認することが可能である。また、図6(a)のような相関特性の値を保持しておくことにより、水添加量がどの程度増えているのかを特定周波数の吸光度から推定することも可能である。また、特定周波数の吸光度が標準偏差も考慮して0.163程の値を超えているか否かを判定することにより、水添加に起因する不具合がフォトレジストに発生している可能性の有無を判定することも可能である。
【0036】
(2)溶媒を飛ばす実験
一般に、フォトレジストは、溶液の状態では溶媒(溶剤)と混ぜて保管されている。この溶媒が蒸発して飛んでしまうと、フォトレジストの質量が変化する。図6(b)は、フォトレジストの質量減少量とテラヘルツ波の吸光度差との相関を示した特性値間相関特性である。この特性値間相関特性も、上述した第1ステップから第3ステップの処理によって、広帯域の周波数スペクトルの中から特徴ある周波数(図6(b)のような相関の傾向が見られる周波数)を抽出して生成したものである。吸光度差とは、時間差をもってフォトレジストをテラヘルツ波分光計測したときに得られる特定周波数の吸光度の差をいう。
【0037】
図6(b)に示されるように、溶媒の蒸発量が少なく、フォトレジストの質量減少量が3%程度以下の場合は、吸光度差は0に近い値(0.0025未満)であるのに対し、フォトレジストの質量減少量が3%を超えると、吸光度差は急激に大きくなっていく。これにより、溶媒が何らかの理由で減少した場合に、溶媒が減少していることを、そのときのフォトレジストの特性(溶媒が蒸発していないフォトレジストについて測定された特定周波数の吸光度を基準とする吸光度差)から非接触非破壊で確認することが可能である。また、図6(b)のような相関特性の値を保持しておくことにより、溶媒がどの程度蒸発しているのかを特定周波数の吸光度差から推定することも可能である。また、特定周波数の吸光度差が例えば0.0025程の値を超えているか否かを判定することにより、溶媒蒸発に起因する不具合がフォトレジストに発生している可能性の有無を判定することも可能である。
【0038】
以上、図6(a)および図6(b)の実施例で示されるように、テラヘルツ波分光計測を液体状態のフォトレジストに施すことは、出荷前検査や受け入れ検査として有効である。
【0039】
なお、ベーク工程は、フォトレジストの溶剤を意図的に蒸発させる工程である。そこで、図6(b)のような相関特性の値を保持しておき、ベーク処理の実行中にテラヘルツ波分光計測をリアルタイムに実行し、特定周波数における吸光度差を取得することにより、溶剤がどの程度蒸発しているのか、ひいてはベーク処理がどの程度進んでいるのかを推定することが可能である。また、ベーク処理の実行中に一定時間間隔毎に吸光度差を監視して、溶剤の好ましい蒸発量を示す吸光度差になったときにベーク処理を停止するような制御を行うようにすることも可能である。
【0040】
<第2実施例>
図7は、ウエハに塗布される前の液体状態のフォトレジストについてテラヘルツ波分光計測を行った第2実施例の実験結果を示す周波数スペクトルの図である。この図7において、横軸は周波数、縦軸は透過率の標準偏差を示している。ここでは、フォトレジストを容器から複数回採取したときに、透過率についてどれくらいのばらつきが発生しているかを透過率の標準偏差によって評価している。図7(a)は、液体状態で保管されているフォトレジストを容器から採取する際に、撹拌するか否かで違いが出ることを示したものである。
【0041】
図7(a)に示されるように、フォトレジストを撹拌した場合に比べて、フォトレジストを撹拌していない場合における透過率の標準偏差が大きくなっている。一般に、撹拌を行えば、透過率のばらつきが抑えられることが知られている。これは、容器内では、撹拌を何もしなければ、フォトレジストの密度やポリマー構造の分布に偏りが生じてしまっていて、ポリマーや感光剤が溶剤中に均一かつ安定に分散していないことを意味する。図7(a)はこのことを示していると言える。
【0042】
一方、図7(b)は、撹拌時間の長さをパラメータとしたときの透過率の標準偏差を示している。この図7(b)は、撹拌時間が長ければ、透過率の標準偏差が小さくなり、フォトレジストはより均質化していることを示している。この図7(b)は、容器内でフォトレジストを撹拌しない時間が長くなると、フォトレジストの密度やポリマー構造の分布に偏りが生じやすくなることを示していると言える。
【0043】
以上のことから、液体状態のフォトレジストについて連続的または断続的にテラヘルツ波分光計測を行って周波数スペクトルを取得することにより、透過率の標準偏差の大きさからフォトレジストにおけるポリマー等の不均一性を評価することが可能である。
【0044】
<第3実施例>
図8は、ウエハに塗布される前の液体状態のフォトレジストについてテラヘルツ波分光計測を行った第3実施例の実験結果を示す周波数スペクトルの図である。この図8は、フォトレジストを撹拌せずに容器から採取するときに、容器内の上と下から採取した場合の透過率の比率を示している。この図8において、横軸は周波数、縦軸は透過率の比率である。
【0045】
容器内のフォトレジストが完全に均質化されている場合、容器内の上から採取したフォトレジストの周波数スペクトル(周波数ごとの透過率を表した周波数領域相関特性)と、容器内の下から採取したフォトレジストの周波数スペクトル(同上)とは殆ど同じとなり、透過率の比率を特性値とする周波数スペクトルは、全周波数域にわたって透過率が1の値でほぼフラットな特性になる。これに対して、図8に示す周波数スペクトルは、容器内の上から採取したフォトレジストと下から採取したフォトレジストとでテラヘルツ波特性が違っていることを示しており、容器内のフォトレジストが全体で均質化されていないことを意味していると言える。
【0046】
したがって、容器内の異なる場所から採取したフォトレジストについてテラヘルツ波分光計測を行い、透過率の比率を特性値とする周波数スペクトルを取得することにより、その周波数スペクトルからフォトレジストの不均一性を評価することが可能である。
【0047】
<第4実施例>
図9は、塗布工程の後のベーク工程の処理(ベーキング)が行われた状態のフォトレジストについてテラヘルツ波分光計測を行った第4実施例の実験結果を示す周波数スペクトルの図である。上述したように、シリコンはテラヘルツ波の透過率が高いため、図3(a)のようにシリコンウエハ上にフォトレジストを塗布したままの状態でテラヘルツ波の透過計測を行うことが可能である。
【0048】
ここでは、シリコンウエハにフォトレジストを塗布した後、80℃のホットプレート上で15分間のベークを行った。図9は、ベーク時間に依存したテラヘルツ波の吸光度差のスペクトルを示している。ここでは、ベーク時間を1分とした場合の吸光度を基準にして、ベーク時間を変えた場合の吸光度差を縦軸に取っている。横軸は周波数である。パラメータであるベーク時間は1~15分となっており、それぞれの周波数スペクトルが示されている。全体的に、ベーク時間が変わると吸光度差の周波数スペクトルが徐々に変化しているのが見て取れる。
【0049】
この図9に示されるベーク時間に応じた周波数スペクトルの変化は、ベーキングの進行による溶媒の抜け具合、ポリマーの架橋状態の変化、フォトレジストの全体としての厚みの変化に起因して現れているものと考えられる。これにより、ベーキングの実行中または実行後にテラヘルツ波分光計測を行って図9のような周波数スペクトルを取得することにより、シリコンウエハ上にフォトレジストを塗布したままの状態で、溶媒の抜け具合、架橋状態、厚みなどのフォトレジストの状態変化を評価することが可能である。
【0050】
図10は、上述した第1ステップから第3ステップの処理を行うことによって取得した時間領域相関特性であり、図9の周波数スペクトルをもとに抽出した特定の周波数での吸光度差のベーク時間依存を示したものである。図10では一例として、0.9THz、1.4THz、2.4THzでの吸光度差のベーク時間変化を示している。この図10から分かるように、0.9THzと1.4THzでは、吸光度差はベーク時間が約6分で飽和している。これに対し、2.4THzでは、ベーク時間の増加に伴い吸光度差はほぼ単調減少している。
【0051】
これにより、例えば、ベーク処理の実行中に2.4THzにおける吸光度差を一定時間間隔毎に取得することにより、ベーク処理がどの程度進んでいるのかを推定することが可能である。また、ベーク処理の実行中に一定時間間隔毎に吸光度差を監視して、好ましい吸光度差になったときにベーク処理を停止するような制御を行うようにすることも可能である。
【0052】
<第5実施例>
図11は、ベーク工程の後の露光工程の処理(光照射)が行われた状態のフォトレジストについてテラヘルツ波分光計測を行った第5実施例の実験結果を示す周波数スペクトルの図である。ここでは、上述のように80℃のホットプレート上で15分間のベークを行った後のフォトレジストに対して更にUV照射を行った場合におけるスペクトル変化を示している。
【0053】
図11では、照射時間が0秒のときの吸光度と、照射時間が2秒、4秒、6秒、8秒、10秒、70秒、130秒のときのそれぞれの吸光度との差を縦軸に示している。横軸は周波数である。この図11に示されるように、照射時間の違いによって、周波数スペクトルに系統だった変化が見られる。
【0054】
図12は、図11に示す周波数スペクトルの中から抽出した特定の周波数での吸光度差の照射時間依存を示した時間領域相関特性である。ここでは、0.6THzにおける吸光度差の照射時間依存を示している。図12から分かるように、照射時間が10~20秒程度で吸光度差が飽和している。これにより、露光処理の実行中にテラヘルツ波分光計測を一定時間間隔毎に実行して吸光度差を取得することにより、露光処理がどの程度進んでいるのかを推定することが可能である。また、露光処理の実行中に一定時間間隔毎に吸光度差を監視して、必要十分な吸光度差になったときに露光処理を停止するような制御を行うようにすることも可能である。
【0055】
以下に、本実施形態による特性解析装置100の応用例について説明する。以下に示す応用例は、上述した第1実施例から第5実施例を踏まえて構成したものである。
【0056】
<特性解析装置100の第1応用例>
図13は、本実施形態の第1応用例に係る特性解析装置100Aの機能構成例を示すブロック図である。なお、この図13において、図1に示した符号と同一の符号を付したものは同一の機能を有するものであるので、ここでは重複する説明を省略する。
【0057】
図13に示すように、第1応用例に係る特性解析装置100Aは、機能構成して、モニタリング部13を更に備えている。モニタリング部13は、テラヘルツ波信号解析部12により少なくとも1つの工程の処理の実行中のフォトレジストについて取得された特性情報に基づいて、当該処理の実行中におけるフォトレジストの状態変化を監視し、特性情報が所定の条件を満たしてフォトレジストが所定の状態になったことを検知したときに、所定の処理を実行する。
【0058】
例えば、モニタリング部13は、図6(a)のような相関特性の値を保持しておき、容器内に保存されているフォトレジストについて一定時間間隔毎にテラヘルツ波分光計測を行い、特定周波数の吸光度を逐次取得することにより、水添加濃度の状態変化を監視する。そして、特定周波数の吸光度が所定値(図6(a)に示す相関特性上の何れかの値)になったときに、所定の処理を実行する。所定の処理は、例えば警告の報知処理である。また、特定周波数の吸光度が0.163を超えていることを検知したときに、水添加に起因する不具合がフォトレジストに発生している可能性があることを報知するようにしてもよい。
【0059】
また、モニタリング部13は、図6(b)のような相関特性の値を保持しておき、容器内に保存されているフォトレジストについて一定時間間隔毎にテラヘルツ波分光計測を行い、特定周波数の吸光度差を逐次取得することにより、フォトレジストの質量の状態変化(質量減少量)を監視するようにしてもよい。そして、特定周波数の吸光度差が所定値(図6(b)に示す相関特性上の何れかの値)になったときに、所定の処理を実行する。所定の処理は、例えば警告の報知処理である。また、特定周波数の吸光度差が0.0025を超えていることを検知したときに、溶媒蒸発に起因する不具合がフォトレジストに発生している可能性があることを報知するようにしてもよい。
【0060】
また、モニタリング部13は、例えば、図7(b)に示す攪拌時間が長い場合の周波数スペクトルの値を保持しておき、容器内に保存されているフォトレジストについて一定時間間隔毎にテラヘルツ波分光計測を行って透過率の標準偏差に関する周波数スペクトルを逐次取得することにより、フォトレジストの均質化状態の変化を監視するようにしてもよい。そして、測定された周波数スペクトルと、保持しておいた周波数スペクトルとの差分を演算し、その差分値が所定値以上となったときに、所定の処理を実行する。所定の処理は、例えば警告の報知処理である。あるいは、フォトレジストの容器に自動攪拌装置を設定しておいて、自動攪拌処理の実行を自動攪拌装置に対して指示するコマンドの発行処理を行うようにしてもよい。
【0061】
また、容器内の異なる場所から一定時間間隔毎に採取したフォトレジストについてテラヘルツ波分光計測を行い、図8に示したような透過率の比率に関する周波数スペクトルを逐次取得することにより、フォトレジストの均質化状態の変化を監視するようにしてもよい。そして、測定された周波数スペクトルと、全周波数域にわたって透過率が1の値でフラットな周波数スペクトルとの差分を演算し、その差分値が所定値以上となったときに、所定の処理を実行する。所定の処理は、例えば警告の報知処理である。あるいは、フォトレジストの容器に自動攪拌装置を設定しておいて、自動攪拌処理の実行を自動攪拌装置に対して指示するコマンドの発行処理を行うようにしてもよい。
【0062】
また、モニタリング部13は、図6(b)のような相関特性の値を保持しておき、ベーク処理の実行中のフォトレジストについて一定時間間隔毎にテラヘルツ波分光計測を行い、特定周波数の吸光度差を逐次取得することにより、フォトレジストの質量の状態変化(質量減少量)を監視するようにしてもよい。そして、特定周波数の吸光度差が所定値になったときに、所定の処理を実行する。所定の処理は、例えばベーク処理の停止を促す報知処理である。あるいは、ベーク処理の停止をベーク装置(図示せず)に対して指示するコマンドの発行処理を行うようにしてもよい。
【0063】
また、モニタリング部13は、図9のようにベーク時間ごとに測定される周波数スペクトルのうち、所定のベーク時間の周波数スペクトルの値を保持しておき、ベーク処理の実行中のフォトレジストについて一定時間間隔毎にテラヘルツ波分光計測を行い、吸光度差の周波数スペクトルを逐次取得することにより、ベーキングに伴うフォトレジストの状態変化を監視するようにしてもよい。そして、測定された吸光度差の周波数スペクトルと、保持しておいた所定のベーク時間の周波数スペクトルとの差分を演算し、この差分値が所定値になったときに、所定の処理を実行する。所定の処理は、例えばベーク処理の停止を促す報知処理である。あるいは、ベーク処理の停止をベーク装置(図示せず)に対して指示するコマンドの発行処理を行うようにしてもよい。
【0064】
また、モニタリング部13は、ベーク処理の実行中のフォトレジストについて一定時間間隔毎にテラヘルツ波分光計測を行い、ベーク時間が1分の場合の吸光度に対する吸光度差を逐次取得することにより、ベーキングに伴うフォトレジストの状態変化を監視するようにしてもよい。そして、取得された吸光度差が、図10に示す2.4THzでの時間領域相関特性における所定のベーク時間に対応する吸光度差になったときに、所定の処理を実行する。所定の処理は、例えばベーク処理の停止を促す報知処理である。あるいは、ベーク処理の停止をベーク装置(図示せず)に対して指示するコマンドの発行処理を行うようにしてもよい。
【0065】
また、モニタリング部13は、露光処理の実行中のフォトレジストについて一定時間間隔毎にテラヘルツ波分光計測を行い、露光時間が0秒の場合の吸光度に対する吸光度差を逐次取得することにより、露光に伴うフォトレジストの状態変化を監視するようにしてもよい。そして、取得された吸光度差が、図12に示す時間領域相関特性において飽和する吸光度差になったときに、所定の処理を実行する。所定の処理は、例えば露光処理の停止を促す報知処理である。あるいは、露光処理の停止を露光装置(図示せず)に対して指示するコマンドの発行処理を行うようにしてもよい。
【0066】
なお、ここでは、図2に示すフォトレジストの製造工程、保管工程、ベーク工程および露光工程のモニタリングについて説明したが、塗布工程および現像工程についても同様に、処理の実行中にフォトレジストのテラヘルツ波分光計測を行うことによって所定の特性情報を取得し、当該取得した特性情報が所定の条件を満たしたことを検知したときに、所定の処理を実行するようにすることが可能である。
【0067】
<特性解析装置100の第2応用例>
図14は、本実施形態の第2応用例に係る特性解析装置100Bの機能構成例を示すブロック図である。なお、この図14において、図1に示した符号と同一の符号を付したものは同一の機能を有するものであるので、ここでは重複する説明を省略する。
【0068】
図14に示すように、第2応用例に係る特性解析装置100Bは、機能構成して、特性情報記憶部14および異常判定部15を更に備えている。特性情報記憶部14は、テラヘルツ波信号解析部12により少なくとも1つの工程の処理の実行中または実行後のフォトレジストについて取得された特性情報を記憶する。ここでは、異常が生じていないことが判明しているフォトレジストについて取得された特性情報を特性情報記憶部14に記憶させる。
【0069】
異常判定部15は、テラヘルツ波信号解析部12により今回取得された特性情報と、特性情報記憶部14に記憶されている過去の特性情報(異常がないフォトレジストについて取得された特性情報)とを比較して、フォトレジストの異常の判定を行う。例えば、テラヘルツ波信号解析部12により今回取得された特性情報と、特性情報記憶部14に記憶されている過去の特性情報との差分を演算し、その差分値が所定値以上の場合に、フォトレジストに異常が発生している可能性があると判定する。
【0070】
例えば、異常がないフォトレジストについて取得した図6図12のような特性情報を特性情報記憶部14に記憶させておいて、テラヘルツ波信号解析部12により今回取得された特性情報と比較することにより、差分の大きさの程度に応じてフォトレジストの異常の判定を行うようにすることが可能である。なお、異常判定に用いるフォトレジストの特性情報は、図6図12に示すものに限定されない。
【0071】
以上のように構成した第2応用例に係る特性解析装置100Bを用いて、各工程でのテラヘルツ波分光計測で取得した特性情報を記憶しておき、フォトレジストに何らかのトラブルがあったときに、各工程で取得した特性情報を用いて遡って異常判定をすることにより、トラブル発生の原因の発見と対策案の創出を容易に行うことができる。また、各工程の処理の実行中または実行後にテラヘルツ波分光計測を実行して異常判定を行うことにより、各工程の処理が適切に行われているか否かをリアルタイムに確認し、異常を検知した場合にアラートを発するようにすることも可能である。
【0072】
なお、以上のようなフォトレジストの異常判定は、図2に示すフォトレジストの製造工程、保管工程、塗布工程、ベーク工程、露光工程および現像工程の何れについても行うことが可能である。
【0073】
<特性解析装置100の第3応用例>
図15は、本実施形態の第3応用例に係る特性解析装置100Cの機能構成例を示すブロック図である。なお、この図15において、図1に示した符号と同一の符号を付したものは同一の機能を有するものであるので、ここでは重複する説明を省略する。
【0074】
図15に示すように、第3応用例に係る特性解析装置100Cは、機能構成して、判定モデル記憶部16および異常判定部17を備えている。判定モデル記憶部16は、フォトレジストの異常判定のために機械学習された判定モデルを記憶する。判定モデル記憶部16に記憶された判定モデルは、フォトレジストの特性情報が入力されたときに、フォトレジストの異常の有無に関する値が出力されるように、教師データを用いた機械学習が施されている。
【0075】
この機械学習に用いる教師データは、複数のフォトレジストについて取得された複数の特性情報に対し、フォトレジストに異常がないときに取得された特性情報およびフォトレジストに異常があるときに取得された特性情報についてそれぞれ異常あり/なしの識別ラベルを付与して成るデータである。教師データとして用いるフォトレジストの特性情報は、図6図12に示した特性情報であってもよいし、これ以外であってもよい。
【0076】
判定モデルの形態は、線形回帰、ロジスティック回帰、サポートベクターマシーンなどの回帰モデル、決定木、回帰木、ランダムフォレストなどの木モデル、パーセプトロン、畳み込みニューラルネットワークなどのニューラルネットワークモデル、ベイズ推論などをベースとするベイズモデル、k近傍法、階層型/非階層型クラスタリングなどのクラスタリングモデルのうち何れかとすることが可能である。なお、ここに挙げた判定モデルの形態は一例に過ぎず、これに限定されるものではない。
【0077】
異常判定部17は、テラヘルツ波信号解析部12により取得された特性情報を判定モデル記憶部16の判定モデルに入力することにより、フォトレジストの異常の有無を判定する。教師データとして用いる特性情報が多くなると、判定モデルを用いた異常判定部17による異常判定の精度が向上する。これにより、より早い段階の工程でフォトレジストの異常を発見し、トラブルの発生を未然に防ぐことも可能となる。
【0078】
なお、以上のようなフォトレジストの異常判定は、図2に示すフォトレジストの製造工程、保管工程、塗布工程、ベーク工程、露光工程および現像工程の何れについても行うことが可能である。
【0079】
以上詳しく説明したように、本実施形態によれば、フォトレジストをテラヘルツ波で分光計測することにより、計測手段の作用によってフォトレジストの特性を変えることなく、工程中のフォトレジストの特性情報を取得し、当該特性情報からフォトレジストの特性を適切に評価することが可能となる。また、フォトレジストをシリコンウエハに塗布したままの状態でテラヘルツ波分光計測を行うことが可能であり、シリコンウエハ上に形成されたフォトレジストの特性を非接触非破壊で確認することができる。
【0080】
これにより、フォトレジストの製造工程から現像工程までの複数工程において、各工程におけるフォトレジストの特性をモニタリングしたり、その特性からフォトレジストの異常を判定したりすることが可能である。この際、液体状態、固体状態、化学反応進行状態のそれぞれにおけるフォトレジストの特性を同一計測技術で一貫して計測し、不良の原因を調べることが可能である。
【0081】
なお、上記実施形態では、半導体デバイスの製造工程において用いられるフォトレジストをテラヘルツ波分光計測する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、MEMS、液晶ディスプレイその他各種製品の製造工程において用いられるフォトレジストをテラヘルツ波分光計測することも可能である。
【0082】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0083】
11 テラヘルツ波信号入力部
12 テラヘルツ波信号解析部
13 モニタリング部
14 特性情報記憶部
15 異常判定部
16 判定モデル記憶部
17 異常判定部
100,100A~100C 特性解析装置
200 分光装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15