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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】水硬性組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/10 20060101AFI20220829BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20220829BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20220829BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20220829BHJP
   C04B 14/04 20060101ALI20220829BHJP
   C04B 14/10 20060101ALI20220829BHJP
   C04B 14/30 20060101ALI20220829BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20220829BHJP
   E04F 15/12 20060101ALI20220829BHJP
   E04F 13/02 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
C04B28/10
C04B22/10
C04B22/14 B
C04B22/06 A
C04B14/04 Z
C04B14/10 A
C04B14/30
C04B24/26 B
E04F15/12 D
E04F13/02 A
C04B22/06 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022045067
(22)【出願日】2022-03-22
【審査請求日】2022-04-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和4年3月1日東京国際展示場で開催された第28回建築・建材展2022で公開
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000127639
【氏名又は名称】株式会社エービーシー商会
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郷 博之
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-014795(JP,A)
【文献】特表2011-525885(JP,A)
【文献】特開2005-238572(JP,A)
【文献】特開昭53-003419(JP,A)
【文献】特開2010-201320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、半水石膏、ケイ酸塩化合物を含有する水硬性組成物であって、
酸化マグネシウムを30~60質量%含有し、
酸化マグネシウムの平均BET比表面積が5~25m/gであり、
酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムの質量比が3~10:1であり、
半水石膏が、酸化マグネシウムの質量に対して、6~25質量%である、
ことを特徴とする水硬性組成物(ただし、塩化マグネシウムを含有するものを除く)
【請求項2】
炭酸マグネシウムが、塩基性炭酸マグネシウムである請求項記載の水硬性組成物。
【請求項3】
ケイ酸塩化合物が、ウォラストナイト、メタカオリン、ジルコン、乾式シリカからなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1または2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
ケイ酸塩化合物が酸化マグネシウムの質量に対して、0.1~30質量%である請求項1~の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
更に、充填剤、顔料、減水剤、消泡剤、湿潤分散剤、粘性調整剤、ダレ防止剤、水性樹脂、骨材からなる群から選ばれる配合剤の1種または2種以上を含有するものである請求項1~の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載の水硬性組成物と水を混練した混練物を硬化させて得られる硬化体。
【請求項7】
請求項1~の何れか1項に記載の水硬性組成物と水を混練した混練物を型枠に流し込んだ後、硬化させて得られる成形体。
【請求項8】
請求項1~の何れか1項に記載の水硬性組成物と水を混練した混練物を床面に塗布した後、硬化させることを特徴とする床の施工方法。
【請求項9】
請求項1~の何れか1項に記載の水硬性組成物と水を混練した混練物を壁面に塗布した後、硬化させることを特徴とする壁の施工方法。
【請求項10】
請求項1~の何れか1項に記載の水硬性組成物と水を混練した混練物を型枠に流し込んだ後、硬化させることを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項11】
請求項記載の成形体を床面に貼り付けることを特徴とする床の施工方法。
【請求項12】
請求項記載の成形体を壁面に貼り付けることを特徴とする壁の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床面や壁面に使用する水硬性組成物およびその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機質系の床仕上げや壁仕上げの材料としては、ポルトランド系セメントを主原料としたものが一般的に使用されているが(特許文献1)、これらは物理的強度面には優れているが以下のような欠点があることが知られている。
・白色やパステル色系の明度の高い仕上げは難しい。
・硬化収縮によるひび割れしやすい。
・施工後炭酸ガスの接触により白華現象を生じやすい。
【0003】
また、マグネシウム化合物を使用した建築材料としては、1970~1980年代に塩基性炭酸マグネシウムを利用したものが知られているが(特許文献2)、以下のような欠点がある。
・加熱工程が必要であり、建築現場で硬化前の材料を塗布して硬化させることは出来ない。
・強度も乏しく、床面への適用は困難。
【0004】
更に、マグネシアを使用したマグネシアセメント系材料が古くから在り、昨今の特許技術で床材として使用されているが(特許文献3)、以下のような欠点がある。
・含有する塩化マグネシウムの影響により、金属製の建築資材を酸化腐食させることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭63-11306号公報
【文献】特開昭53-143627号公報
【文献】特許第6389312号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、従来のポルトランド系セメント、マグネシウム化合物またはマグネシア系セメントを用いた建築材料の問題点を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、半水石膏、ケイ酸塩化合物を組み合わせることにより、上記問題点が生じないことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りにものである。
(1)酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、半水石膏、ケイ酸塩化合物を含有することを特徴とする水硬性組成物。
(2)上記水硬性組成物と水を混練した混練物を硬化させて得られる硬化体。
(3)上記水硬性組成物と水を混練した混練物を型枠に流し込んだ後、硬化させて得られる成形体。
(4)上記水硬性組成物と水を混練した混練物を床面に塗布した後、硬化させることを特徴とする床の施工方法。
(5)上記水硬性組成物と水を混練した混練物を壁面に塗布した後、硬化させることを特徴とする壁の施工方法。
(6)上記水硬性組成物と水を混練した混練物を型枠に流し込んだ後、硬化させることを特徴とする成形体の製造方法。
(7)上記成形体を床面に貼り付けることを特徴とする床の施工方法。
(8)上記成形体を壁面に貼り付けることを特徴とする壁の施工方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水硬性組成物は、反応性に優れており、雰囲気温度5℃~35℃において、適当な可使時間が確保出来ると同時に硬化速度も速いことから、翌日の硬度も高く床仕上げ材として適性がある。
【0010】
また、本発明の水硬性組成物は、従来のポルトランドセメントおよびアルミナセメントを硬化ベースとしている材料における下記の課題(問題点)が解決できる。
・白色やパステル色系の明度の高い仕上げが出来る。
従来のポルトランドセメントやアルミナセメントを使用した材料は、それ自体が灰色を呈していることから、この配合物に白顔料を混合しても純白色や明度の高いパステル色にすることは出来ない。一方、本発明品は、主原料である酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、半水石膏は、全て明度の高い白色物である。実際に床仕上げ材などの製品にする際に、これら主原料に珪砂等の骨材が配合された場合にも白色度が大きく損なわれることは無く、白色やパステル系色の硬化物を容易に得ることができる。
【0011】
・硬化収縮によるひび割れを生じにくい。
主原料である酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、半水石膏、水からなる組成物は速やかに水硬反応が進行すると共に、半水石膏の結晶成長が同時に進行し硬化に伴う体積収縮を抑制する作用があり、硬化物にひび割れを生じにくい性質が得られる。
【0012】
・施工後、炭酸ガスの接触により白華現象を生じない。
従来のポルトランドセメントやアルミナセメントを使用した材料は、その硬化物中に多量の水酸化カルシウムが生成され、それが硬化物内部から表面に移行してくると、大気中の二酸化炭酸との反応により炭酸カルシウムを生成して白華現象が生じる。一方、本発明品はマグネシウム系原料であるためにこのような白華する物質を生成しない。
【0013】
・アンモニアの発生がない。
従来のコンクリートやモルタルは、その配合物中の窒化物に由来してアンモニアが発生することが知られており、アンモニアが美術館や博物館の所蔵品の劣化を促進させるため、アンモニア対策が必要な施設においては、コンクリート表面をコーティング処理する等の対策が求められる。本発明品は窒化物は配合されず、アンモニア発生は起こらないため、コンクリート表面の仕上げ材としての適性がある。
【0014】
更に、本発明の水硬性組成物は、マグネシアセメントセメント系床仕上げ材においては、その一主成分である塩化マグネシウムの影響により、表面に水を呼ぶことによる汗かき現象の発生、また金属面の腐食に対する保護プライマーなどの対処が必要になるが、本開発材料においてはこれらの現象は生じないため、面倒な対処が不要である。
【0015】
従って、本発明の水硬性組成物は、床面や壁面の仕上げや、タイル等の成形体の製造等に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の水硬性組成物は、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、半水石膏、ケイ酸塩化合物を含有するものである。
【0017】
上記酸化マグネシウムは、特に限定されないが、得られる水硬性組成物の可使時間や硬化物の強度等の物性の点から平均BET比表面積が5~25m/gのものが好ましく、10~20m/gのものがより好ましい。前記平均BET比表面積の酸化マグネシウムを用いる場合、この範囲の平均BET比表面積のものを単独で用いてもよいし、複数の平均BET比表面積のものを組み合わせてこの範囲にしたものを用いてもよい。また、酸化マグネシウムの平均粒子径は特に限定されないが、例えば、1.0~6.0μm、好ましくは3.0~4.5μmである。なお、このような酸化マグネシウムは、市販されている酸化マグネシウムのBET比表面積や平均粒子径を実際に測定し、そこから上記条件にあう酸化マグネシウムを選択し、適宜組み合わせて用いればよい。具体的にこのような酸化マグネシウムは、神島化学工業(株)、赤穂化成工業(株)、タテホ化学工業(株)、協和化学工業(株)等から入手することができる。
【0018】
なお、酸化マグネシウムのBET比表面積は、JIS R1626(ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法)に準じ、流動式比表面積自動測定装置(フローソーブ2300型:(株)島津製作所製)を用いて測定される値である。また、酸化マグネシウムの平均BET比表面積は、BET比表面積の異なる酸化マグネシウムの2種以上を混合した後、この混合物のBET比表面積を上記気体吸着BET法で測定した値のことをいう。更に、酸化マグネシウムの平均粒子径は、予め分散媒(変性アルコール)に試料を入れて、超音波分散装置(UD-201:(株)日本精機製作所製)を用いて試料を3分間分散後に、マイクロトラック粒度分布計(model HRA型:日機装(株)製)で測定される値の平均値である。
【0019】
本発明の水硬性組成物における酸化マグネシウムの含有量は、特に限定されないが、例えば、30~60質量%(以下、単位「%」という)、好ましくは35~50%である。
【0020】
上記炭酸マグネシウムは、特に限定されないが、塩基性炭酸マグネシウムであることが好ましい。塩基性炭酸マグネシウムは一般的に下記式
<式>
mMgCO・Mg(OH)・nH
(ここで、m=3~5、n=3~7)
で表されるが、好ましくは4MgCO・Mg(OH)・4HOが主成分のものである。また、塩基性炭酸マグネシウムの平均BET比表面積は、特に限定されないが、例えば、10~60m/g、好ましくは20~50m/gである。なお、上記平均BET比表面積の塩基性炭酸マグネシウムとしては、この範囲の平均BET比表面積のものを用いてもよいし、複数の平均BET比表面積のものを組み合わせてこの範囲にしたものを用いてもよい。また、塩基性炭酸マグネシウムの平均粒子径は、特に限定されないが、0.5~100μm、好ましくは5~20μmである。塩基性炭酸マグネシウムの平均BET比表面積や、平均粒子径は酸化マグネシウムと同様にして測定することができる。
【0021】
本発明の水硬性組成物における酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムの質量比は、特に限定されないが、例えば、3~10:1、好ましくは5~9:1である。
【0022】
上記半水石膏は、焼石膏ともよばれるものであり、CaSO・1/2HOで表されるものである。この半水石膏にはα型とβ型が知られているが、どちらか一方または両方の型を用いてもよい。
【0023】
本発明の水硬性組成物における半水石膏の含有量は、特に限定されないが、得られる水硬性組成物の可使時間や硬化物の強度等の物性の点から、例えば、酸化マグネシウムの質量に対して、6~25%、好ましくは8~20%である。
【0024】
上記ケイ酸塩化合物は、特に限定されないが、例えば、ウォラストナイト、カオリナイト、メタカオリン、ジルコン、タルク、マイカ、乾式シリカなどが挙げられる。これらケイ酸塩化合物の中でも、ウォラストナイトと、ウォラストナイト以外のケイ酸塩化合物の1種または2種以上の組み合わせが好ましく、ウォラストナイトと、メタカオリン、ジルコン、乾式シリカからなる群から選ばれる1種または2種以上の組み合わせがより好ましい。ウォラストナイトは、天然の無機鉱物である珪灰石を微粉化したもので、CaSiOで表される。このウォラストナイトは、ケイ酸成分を保有し、結晶構造が針状であるため、硬化物組織の寸法安定性効果も期待できるためこれを必須とすることが好ましい。カオリナイトは、天然の高陵石を微粉化したもので、Al4Si410(OH)で表される。メタカオリンは、半焼成カオリンとも呼ばれ、無水ケイ酸アルミニウム、Al・2SiOで表される。このメタカオリンは、カオリナイトを700~900℃で加熱焼成して製造される。ジルコン(ケイ酸ジルコニウム)は、ジルコニウムのケイ酸塩鉱物であり、ZrSiOで表される。このジルコンとしては、粉砕して粒子径50μm以下のものを使用することが好ましく、例えばジルコン、ジルコンフラワーの商品名で市販されている。タルクは、水酸化マグネシウムとケイ酸塩から成る鉱物で滑石とも呼ばれ、MgSi10(OH)で表される。マイカは、和名は雲母と呼ばれ、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カリウムなどから成り、結晶構造が鱗片状をなしているのが特徴であるケイ酸塩鉱物である。乾式シリカは、フュームドシリカとも呼ばれ、SiOで表される。この乾式シリカは、一次粒子径は50nm以下と小さく、複数の粒子が数珠状に繋がり非常に嵩高い凝集体を形成しており、配合量は極少量で効果が期待できる。
【0025】
本発明の水硬性組成物におけるケイ酸塩化合物の含有量は、特に限定されないが、得られる水硬性組成物の可使時間や硬化物の強度等の物性の点から、例えば、酸化マグネシウムの質量に対して、0.1~30%、好ましくは0.2~25%である。特にケイ酸塩化合物が乾式シリカを含む場合、乾式シリカは嵩高く、含有量が多くなると材料の粘性が高くなり過ぎるため、乾式シリカの含有量は酸化マグネシウムの質量に対して3%以下と低くすることが好ましい。ウォラストナイトは、針状形状ではあるが材料の粘性に与える影響は少なく、酸化マグネシウムの質量に対して30%程度まで配合することが可能であり、寸法安定性を高めるのに有効である。なお、ケイ酸塩化合物として、ウォラストナイトと、ウォラストナイト以外のケイ酸塩化合物の1種または2種以上の組み合わせて用いる場合、ウォラストナイトとウォラストナイト以外のケイ酸塩化合物の質量比は1:0.01~1、好ましくは1:0.01~0.8である。
【0026】
本発明の水硬性組成物には、上記必須成分の他に、更に、充填剤、顔料、減水剤、消泡剤、湿潤分散剤、粘性調整剤、ダレ防止剤、水性樹脂、骨材からなる群から選ばれる配合剤の1種または2種以上を含有させてもよい。これらの配合剤は、基本的には本発明の水硬性組成物の用途に合わせた量で適宜配合すればよい。
【0027】
上記充填剤としては、作業性における粘性の調整、硬化物の強度物性、増量材としての役割があり、例えば、炭酸カルシウム、シリカ粉、硅砂、バライト紛等が挙げられる。また、本発明の水硬性組成物における充填剤の含有量は特に限定されないが、例えば、10%以上、好ましくは20~70%、より好ましくは30~60%である。
【0028】
上記顔料としては、例えば、無機顔料、有機顔料、特殊顔料等が挙げられる。具体的な無機顔料としては、赤土、黄土、緑土、孔雀石、胡粉、黒鉛等の天然鉱物顔料、紺青、亜鉛華、コバルト青、エメラルド緑、ビリジャン、チタン白、酸化鉄等の合成無機顔料が挙げられる。具体的な有機顔料としては、アルカリブルー、リゾールレッド、カーミン6B、ジスアゾエロー、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド、イソインドリノンエロー等が挙げられる。具体的な特殊顔料としては、蛍光顔料、金属粉顔料、パール顔料、示温顔料、窯業用顔料等が挙げられる。また、本発明の水硬性組成物における顔料の含有量は特に限定されないが、例えば、0.1%以上、好ましくは0.2~2.0%、より好ましくは0.4~1.5%である。
【0029】
上記減水剤としては、例えば、AE剤、減水剤・AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤等が挙げられる。また、本発明の水硬性組成物における減水剤の含有量は特に限定されないが、例えば、0.05%以上、好ましくは0.1~1.5%、より好ましくは0.2~1.0%である。
【0030】
上記消泡剤としては、例えば、鉱物油系化合物、ポリエーテル系化合物、シリコーン系化合物等が挙げられる。また、これら消泡剤は粉体であってもよい。更に、本発明の水硬性組成物における消泡剤の含有量は特に限定されないが、例えば、0.01%以上、好ましくは0.05~2.0%、より好ましくは0.1~1.5%である。
【0031】
上記湿潤分散剤であれば、例えば、アニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物等が挙げられる。具体的な湿潤分散剤としては、脂肪族多価カルボン酸系化合物、アミノアマイド系化合物、リン酸エステル系化合物、非イオン系化合物、アクリル系重合物、ポリエーテル燐酸エステル系化合物等が挙げられる。また、本発明の水硬性組成物における湿潤分散剤の含有量は特に限定されないが、例えば、0.01%以上、好ましくは0.02~1.0%、より好ましくは0.03~0.5%である。
【0032】
粘性調整剤としては、例えば、ウレタン変性ポリエーテル系化合物、アクリル系重合物、アマイド系化合物、ポリエーテル燐酸エステル系化合物、水添ひまし油系化合物、フュームドシリカ系化合物、ベントナイト系化合物、層状ケイ酸塩系化合物等が挙げられる。また、本発明の水硬性組成物における粘性調整剤の含有量は特に限定されないが、例えば、0.01%以上、好ましくは0.02~1.0%、より好ましくは0.03~0.5%である。
【0033】
ダレ防止剤としては、例えば、セルロース系化合物、スターチエステル系化合物、ポリアクリルアミド系化合物、合成ポリマー系化合物等が挙げられる。また、本発明の水硬性組成物におけるダレ防止剤の含有量は特に限定されないが、例えば、0.01%以上、好ましくは0.02~1.0%、より好ましくは0.03~0.5%である。
【0034】
水性樹脂としては、例えば、再乳化形粉末樹脂、ポリマーディスパージョン等が挙げられる。再乳化形粉末樹脂としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂等が挙げられる。また、ポリマーディスパージョンとしては、スチレンブタジエンゴム系ラテックス、アクリル酸エステル系エマルション、エチレン-酢酸ビニル系エマルション等が挙げられる。なお、ポリマーディスパージョンは水性樹脂を水に分散させたものであるため、配合する場合には、別途後記した水と共に含有させればよい。更に、本発明の水硬性組成物における水性樹脂の含有量は特に限定されないが、例えば、0.5%以上、好ましくは1.0~10.0%、より好ましくは2.0~6.0%である。
【0035】
骨材としては、例えば、砂利、砕石、人工骨材、磁鉄鉱、重晶石、鉄片、膨張スラグ、パーライト等が挙げられる。また、本発明の水硬性組成物における骨材の含有量は特に限定されないが、例えば、本発明の水硬性組成物100質量部に対して5質量部以上、好ましくは10~100質量部、より好ましくは20~80質量部である。
【0036】
本発明の水硬性組成物のより好ましい態様として、以下の成分を含有するもの、特に好ましい態様としては以下の成分からなるものが挙げられる。
(組成1)
酸化マグネシウム 30~55質量部
炭酸マグネシウム 3~15質量部
半水石膏 3~10質量部
ケイ酸塩化合物 0.1~30質量部
充填材 20~50質量部
充填剤以外の配合剤 0.5~ 5質量部
(組成2)
酸化マグネシウム 30~55質量部
炭酸マグネシウム 3~15質量部
半水石膏 3~10質量部
ケイ酸塩化合物 0.1~30質量部
ウォラストナイトとウォラストナイト以外のケイ酸塩化合物の質量比
=1:0.01~1
充填材 20~50質量部
充填剤以外の配合剤 0.5~ 5質量部
【0037】
以上説明した本発明の水硬性組成物は、これと水を混練して混練物とすることができる。混練物を調製する方法は特に限定されないが、例えば、本発明の水硬性成物に水を添加して混練して混練物を調製する方法等が挙げられる。また、混練物における水の含有量は、硬化反応が十分に起きる量であれば特に限定されないが、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、半水石膏、ケイ酸塩化合物の合計質量:水の質量比が1:0.5~1.0、好ましくは1:0.6~0.9となる量である。
【0038】
上記混練物は、床面、壁面等に塗布して硬化させて硬化体とすることができ、また、型枠中で硬化させれば成形体とすることができる。硬化は常温(5~35℃)で行うことができる。また、この混練物は、適度な硬化反応時間、例えば、15~30分程度の可使時間と、15~30時間程度の硬化時間を有するものである。なお、可使時間は、実施例に記載の方法で測定されるものであり、硬化時間は施工された混錬物の上に人が乗れる時間の目安である。
【0039】
斯くして得られる硬化体や成形体は、次のような性質を有することが好ましい。寸法が70mm×20mm×厚み6.5mmの試験体(成形体)の3点曲げ試験が、気乾養生日数30日後で15MPa以上である。また、気乾養生30日後に7日間水中浸漬直後の3点曲げ強度が9MPa以上である。更に、寸法が12.5mm×12.5mm×高さ25.0mmの試験体(成形体)の圧縮強度が、気乾養生日数30日後で30MPa以上である。更に、コンクリート板状に3mmの厚みで塗布し、20℃で30日養生した試験体(硬化体)の接着性が2.0N/mm以上、耐衝撃性が5回以上である。なお、3点曲げ試験、曲げ強度、圧縮強度、接着性、耐衝撃性は、実施例に記載の方法で行われるものである。また、上記硬化体や成形体は本発明の効果に記載した物性も有する。
【0040】
上記硬化体は、従来のセメント組成物の硬化物と同様に塗り床材、着色骨材やガラス片を混入させ、硬化後に研ぎ出しを行うテラゾー工法、塗り床用の下地処理材、防水材用の下地処理材、コンクリート構造物の補修材、内外装壁用塗材等の用途に用いることができる。また、成形体は内外装用タイル、建材用ボード等の用途に用いることができる。
【0041】
本発明においては、これら用途の中でも従来のマグネシアセメント系硬化物の湿気および水分との接触による強度低下や、表面に水分を呼ぶことによる汗かき現象の発生、また、長時間にわたる経時的な膨張性等の問題を解決し、速硬性や施工性にも優れるため塗り床材に用いることが好ましい。
【0042】
上記硬化体を塗り床材に用いる場合、その施工方法は、特に限定されず、本発明の水硬性組成物を含有する混練物を床面に塗布し、硬化させるだけでよい。上記混練物を床面に塗布する方法は特に限定されず、例えば、金鏝やレーキ等でよい。また、上記混練物を床面に塗布する前には、下地面の研磨による目粗し処理、下地に凹凸がある場合の平滑化処理、下地との接着性向上のためにプライマー塗布等を行ってもよい。また、上記混練物を下地の状況に応じて1回または複数回塗布して硬化させた後は、トップコート処理、シーラー処理等を行ってもよい。
【0043】
上記硬化体を塗り床材に用いた場合には、耐荷重性(普通ポルトランドセメント系や早強セメント系の床材と同等以上の圧縮強度を有しているため、フォークリフトや無人搬送車(AGV)等の重車両の走行に対しても耐久性に優れる)、耐衝撃性(重量物や金属工具等の落下衝撃にも耐久できる)、耐摩耗性(表面硬度が高いため、重車両の頻繁な走行や、パレットの引き擦り等に対する耐摩耗性に優れる)、クラック抑制(一般的なセメント系硬化体においては硬化収縮によるひび割れが生じるが、本発明では硬化反応の過程で収縮が抑制されており、ひび割れが起こりがたい)、白色度が高い(主原料であるマグネシアは白色度が高いものであり、体質顔料として、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等の色調に影響を与えないものを用いれば、普通ポルトランドセメントを硬化主成分とした硬化物よりも白色度が高い硬化物となる)等の効果を得ることが出来る。標準厚み3mmであるが、粒径の大きな骨材を配合することで一度に20mm以上の厚塗りも可能である。
【0044】
更に、上記硬化体は、店舗、大型商業施設、工場等の塗り床材としての適用だけでなく、損傷、欠損、不陸がある床面の下地処理材、擁壁、橋脚、トンネル等のコンクリート構造物の補修材、内装壁面の仕上げ材、外壁用仕上げ材等の施工現場で硬化させて使用する用途や、内外装用の壁材、床材用途向けの成形タイル等の成形体として使用するのに好適である。
【実施例
【0045】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例の各組成において同じ成分名のものは同じものを使用している。
【0046】
実 施 例 1
水硬性組成物、成形体および硬化体の物性:
表1に記載の成分を含有する水硬性組成物と水とを混合して混練物を調製した。これらの混練物について以下に基づいて可使時間判定、混練物を型枠に入れて硬化させて得られる成形体の強度判定測定および混練物を硬化させて得られる硬化体のひび割れ性判定を行った。それらの結果も表1に記載した。
【0047】
表1に記載の成分のうち、酸化マグネシウムは、まず、市販の酸化マグネシウムの3種類(神島化学工業(株)製 スターマグP:BET比表面積1~5m/g、同社製 スターマグU:同90~110m/g、赤穂化成工業(株)製 AM-2:同5~10m/g)の平均BET比表面積を以下の方法で測定した。その後、それらを適宜混合して各平均BET比表面積の酸化マグネシウムを調整した。
【0048】
【表1】
【0049】
<平均BET比表面積測定方法>
平均BET比表面積は、JIS R 1626(ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法)に準じ、流動式比表面積自動測定装置(フローソーブ2300型:(株)島津製作所製)を用いて測定した。
【0050】
<可使時間判定方法>
温度20℃の室内で、水硬性組成物に水を加えて2分間撹拌混合した直後を起点として、粘度が20,000mPa・sを超えるまでの時間を測定した。なお、粘度の測定は、JIS Z 8803 (液体の粘度測定方法)に準じ、BH型回転粘度計 モデルBHII(東機産業(株)製)を使用して、回転数20rpmで行った。
【0051】
<硬化物強度定方法>
温度20℃の室内で、水硬性組成物に規定量の水を加えて2分間撹拌混合した混練物をシリコーンゴム製の型枠に、混練物の厚みが約7mmなるように流し込み平坦な場所に静置した。養生5日後に型枠から硬化した成形体を脱型し、寸法が70mm×20mm×厚み6.5mmになるように成形した成形体を得た。更に成形体を気中で25日間静置して気乾養生日数が合計30日後に水中に浸漬し、7日間経過後に水中から取出しその直後に3点曲げ試験を行い3点曲げ強度を求めた。
【0052】
(試験条件)
試験機:株式会社島津製作所製 オートグラフ 型式AG-50kNXplus
試験速度:1mm/min
支点間距離L:50mm
圧子の半径:5mm
支持台の半径:5mm
【0053】
(計算式)
σ=(3FL)/(2bh
σ:曲げ強度(MPa)
F:破壊時荷重(N)
L:支点間距離(mm)
b:試験片幅(mm)
h:試験片厚さ(mm)
【0054】
<ひび割れ性判定>
寸法が450mm×450mmのフレキシブルボードにサイデン化学(株)製の水性樹脂AD-8521(アクリル・スチレンエマルション)をプライマーとして塗布し乾燥させたものを下地板とした。温度20℃の室内で、この下地板の上に水硬性組成物に規定量の水を加えて2分間撹拌混合した混練物を全面が厚み3mmになるように均一に塗布して硬化体を得た。これをそのまま静置して30日経過後に目視観察を行い、硬化体のひび割れの有無を判定した。
【0055】
組成9は、半水石膏が酸化マグネシウムの質量に対して5.0%であり、ひび割れの発生が確認されたが、組成1~8および組成10は半水石膏が酸化マグネシウムの質量に対して12.5~30.0%であり、ひび割れの発生は確認されなかった。特に組成2、3、6、7は、酸化マグネシウムの平均BET比表面積が5~25m/gの範囲にあり、更に酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムに質量比が3~10:1の範囲にあり、可使時間と硬化物強度のバランスがとれていた。
【0056】
実 施 例 2
水硬性組成物および成形体の物性:
表2に記載の成分を含有する水硬性組成物と水とを混合して混練物を調製した。これらの混練物について実施例1と同様に可使時間判定、成形体の強度判定測定および硬化体のひび割れ性判定を行った。それらの結果も表2に記載した。
【0057】
【表2】
【0058】
組成11はケイ酸塩化合物の配合が無く硬化物強度が低いのに対し、組成12~17はケイ酸塩化合物が1種または2種以上を酸化マグネシウムの質量に対して、0.75~25.0%配合されており、硬化物強度が9MPa以上を示した。
【0059】
実 施 例 3
成形体の物性:
表3に記載の成分を含有する水硬性組成物と水とを混合して混練物を調製した後、実施例1に示した同様の方法で成形体を作製した。これを温度20℃の環境で、気乾養生日数10日、20日、30日、50日、100日後における3点曲げ強度試験を実施例1と同様に行い、曲げ強度を測定した。その結果を表4に示した。
【0060】
【表3】
【0061】
また、上記混練物をシリコーン製型枠に注型した後硬化させ、寸法12.5mm×12.5mm×高さ25.0mmの成形体を作製した。気乾養生日数10日、20日、30日、50日、100日後における圧縮試験を以下の方法で行い、圧縮強度を測定した。その結果を表4に示した。
【0062】
<圧縮試験>
(圧縮試験条件)
試験機:株式会社島津製作所製 オートグラフ 型式AG-50kNXplus
試験速度:1mm/min
【0063】
(計算式)
σ=F/A
σ:圧縮強度(MPa)
F:降伏点荷重(N)
A:応力をかける前の試験片の断面積
【0064】
【表4】
【0065】
成形体の曲げ強度、圧縮強度共に養生日数の経過に伴い強度が緩やかに向上していることが確認できた。
【0066】
実 施 例 4
水硬性組成物の硬化体の物性:
縦300mm×横300mm×厚み50mmのコンクリート板を水平に設置し、その表面をサンドペーパーを使用して脆弱な表層を除去した後に、サイデン化学(株)製の水性樹脂AD-8521(アクリル・スチレンエマルション)をプライマーとして塗布し乾燥させた。乾燥後その上に3mmの厚さになるように実施例3と同様の混練物を塗布し、硬化体とした。これについて20℃・30日間の養生を行った後、これを試験体(下地がコンクリート、上面が硬化体)として、表5に記載の試験を行った。その結果も表5に示した。
【0067】
【表5】
【0068】
硬化体の接着性は良好であった。また、硬化体の耐衝撃性も、良好な結果を示した。
【0069】
実 施 例 5
水硬性組成物の鉄材への影響:
実施例3と同様の混練物を作製し、これを縦100mm×横50mmのプラスチック製容器の中に、約5mmの深さになるように流し込み、その中にサイズ20mm×50mm×厚み2mmの鉄板を垂直になるように設置した。その状態で7日間静置した後の状態を目視観察したところ変色等の変化は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の水硬性組成物は、従来のセメント組成物と同様に各種の用途に用いることができる。
以 上
【要約】
【課題】従来のポルトランド系セメント、マグネシウム化合物またはマグネシア系セメントを用いた建築材料の問題点を解決する。
【解決手段】酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、半水石膏、ケイ酸塩化合物を含有することを特徴とする水硬性組成物、これと水を混練した混練物を硬化させて得られる硬化体。
【選択図】なし