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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】上着用型紙パターン補正方法
(51)【国際特許分類】
   A41H 3/06 20060101AFI20220829BHJP
   A41H 3/00 20060101ALI20220829BHJP
   A41H 3/04 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
A41H3/06
A41H3/00 C
A41H3/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022081263
(22)【出願日】2022-05-18
【審査請求日】2022-05-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514125422
【氏名又は名称】株式会社イプシロン・ジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100209129
【弁理士】
【氏名又は名称】山城 正機
(72)【発明者】
【氏名】船橋 幸彦
【審査官】原田 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-154956(JP,A)
【文献】特開平08-302513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41H 3/06
A41H 3/00
A41H 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃部と後身頃部との境界となる肩前基点を頂点として、頸回りの前側ラインである前頚線、身体の中心側端縁を画定する前中心線、胸囲を画定するバストライン、アームホールの前側縁を画定するアーム前縁線及び前肩稜線によって画定される上部前身頃部と、前身頃部と後身頃部との境界となる肩後基点を頂点として、頸回りの後側ラインである後頚線、身体の背側端縁を画定する背中心線、胸囲を画定するバストライン、アームホールの後側縁を画定するアーム後縁線及び後肩稜線によって画定される上部後身頃部とによって構成される型紙原型であって、前記上部前身頃部は前記肩前基点から鉛直下方に垂下される肩前垂線を境に前中心部と前脇部とに区画されるとともに、前記上部後身頃部は前記肩後基点から鉛直下方に垂下される肩後垂線を境に背中心部と背脇部とに区画される型紙原型を用意するステップ、
着用者の身体寸法を計測するステップ、
前記計測するステップにおいて計測された寸法に基づいて、身体の前額面と頸回りのラインとが交差する点から下方に延伸した線を境界として、バストライン上方の胸部を胸部中心部と胸部側方部とに分けたときの当該胸部中心部と当該胸部側方部の面積比率を算出するステップ、
前記面積比率に基づいて、前記前中心部と前記前脇部の面積比率である前側面積比率、及び、前記背中心部と前記背脇部の面積比率である後側面積比率を調整するステップ、
を有する上着用型紙パターン補正方法。
【請求項2】
前記前側面積比率が、前記胸部中心部と前記胸部側方部の面積比率と略等しくなるように、前記前中心部と前記前脇部との面積の調整を行う、
請求項1に記載の上着用型紙パターン補正方法。
【請求項3】
前記前側面積比率を調整するステップにおいて、
前記バストラインを前側中心端部から所定の距離隔てた点まで切り込みを入れ、前記所定の距離隔てた点を中心として前記上部前身頃部を回転するステップ、
回転前の前中心線、回転前のバストライン、回転後の肩前垂線及び回転後の前頚腺によって新たな前中心部を得るステップ、及び、
回転前のバストライン、回転後の肩前垂線、回転後の前肩稜線及び回転後のアーム前縁線によって新たな前脇部を得るステップ、を有するとともに、
前記後側面積比率を調整するステップにおいて、
前記バストラインを背側中心部から背側端部まで切り込みを入れ、前記背側端部を中心として前記上部後身頃部を回転するステップ、
回転前のバストライン、回転後の肩後垂線、回転後の後頚腺及び回転後の背中心線によって新たな背中心部を得るステップ、及び、
回転前のバストライン、回転後のアーム後縁線、回転後の後肩稜線及び回転後の肩後垂線によって新たな背脇部を得るステップ、を有する、
請求項に記載の上着用型紙パターン補正方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の上着用型紙パターン補正方法によって得た上着用型紙パターン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背広やコートなど上着用型紙パターン補正方法に関するものであり、特に、仮縫いをせずとも着用者の個々の体型にあった型紙を作成するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、着用者の体型に応じた型紙パターンを作成するにあたっては、着用者がメーカーの店舗に出向き、テクニシャンによる採寸を経たうえで、型紙パターンが作成される。すなわち、それぞれのメーカーや店舗においては、それぞれ特有の型紙原型があり、型紙原型を着用者の体の大きさに合わせてグレーディング、つまり拡大縮小をすることで、大まかな大きさの適合を行う。
【0003】
ところで、人体の胴部の形状は人によって様々である。例えば胸部が発達して厚みがある人、猫背の人、人それぞれ異なる体型を有する。そのような個々の体型に適合したパターンを作るためには、テクニシャンがメジャーを用いて着用者の身体の細部寸法を計測し、計測された寸法値を元に、メーカーや店舗が有する型紙原型を補正することで、着用者の体型に応じた型紙パターンを作成している。
【0004】
このような型紙パターンの作成手順においては、着用者が店舗に出向くこととテクニシャンが店舗に在籍していことが必要である。しかしながら、ネットワーク技術が発達した現代において、二者が同時に同じ場所にいることを必要とする方法は非効率的であり、より使い勝手の良いサービスが望まれる。
【0005】
また、型紙原型に基づく体型に応じた型紙パターンへの補正は、職人の勘と経験に依存する部分が多く、特定の理論や方法論に基づく方法があるとは言えなかった。
【0006】
着用者の身体の各種寸法を型紙の補正に適用する方法の一例として、例えば、身体の特定の部位の寸法に基づいて行うものがある(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5403724号
【文献】特開2000-265313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や特許文献2に開示された技術によると、着用者の実際の身体の特定部位の寸法に基づき型紙を作成することで、ある程度、着用者の身体の特徴を考慮に入れた型紙パターンを生成することができる。
【0009】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された技術は、身体の特定部位の寸法すなわち長さに基づいた補正であるため、生地の重量のバランスを考慮したものではない。つまり、背広、ジャケットやコート等の上着は前身頃部や後身頃部などそれぞれの部位が独立して存在するものではなく、それぞれの部位がつながって一つの上着として成立している。そのため、特定の部位の寸法を身体の形状に合わせて補正したとしても、実際に着用した際には生地のバランスが確保されないことが多く、身体に吸い付くようにフィットさせることは難しい。
【0010】
本発明は、これらの課題に鑑み、採寸する人がいなくても、また、来店しなくても、着用者の体型にあった型紙パターンを作成することが可能な上着用型紙パターン補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究の結果、生地の各パーツの面積とその重量が比例関係にあることに着目し、特定のポイントを基点とする生地の面積のバランスを考慮することによって、生地の重量配分を最適なものとすることができ、着用者の体型にフィットするパターンを作成できることを見出した。つまり、衣服が胴部に吸い付くようにフィットするためには、衣服を構成する各パーツにおける重量の配分が重要であることを見出し、衣服全体の重量を支える点となる肩前基点及び肩後基点を中心とした生地の回転運動と、回転運動によって適切なフィットが発生することに着目することで本発明に至った。
【0012】
本発明では、以下のような解決手段を提供する。
【0013】
第1の特徴に係る上着用型紙パターン補正方法は、前身頃部と後身頃部との境界となる肩前基点を頂点として、頸回りの前側ラインである前頚線、身体の中心側端縁を画定する前中心線、胸囲を画定するバストライン、アームホールの前側縁を画定するアーム前縁線及び前肩稜線によって画定される上部前身頃部と、前身頃部と後身頃部との境界となる肩後基点を頂点として、頸回りの後側ラインである後頚線、身体の背側端縁を画定する背中心線、胸囲を画定するバストライン、アームホールの後側縁を画定するアーム後縁線及び後肩稜線によって画定される上部後身頃部とによって構成され、上部前身頃部は肩前基点から鉛直下方に垂下される肩前垂線を境に前中心部と前脇部とに区画されるとともに、上部後身頃部は肩後基点から鉛直下方に垂下される肩後垂線を境に背中心部と背脇部とに区画される型紙原型を用意するステップ、着用者の身体寸法を計測するステップ、計測するステップにおいて計測された寸法に基づいて、身体の前額面と頸回りのラインとが交差する点から下方に延伸した線を境界として、バストライン上方の胸部を胸部中心部と胸部側方部とに分けたときの当該胸部中心部と当該胸部側方部の面積比率を算出するステップ、面積比率に基づいて、前中心部と前脇部の面積比率である前側面積比率、及び、背中心部と背脇部の面積比率である後側面積比率を調整するステップ、を有する。
【0014】
第1の特徴に係る発明によれば、着用者の胸部中心部と胸部側方部の面積比率に基づいて、型紙原型の前側面積比率及び後側面積比率を調整するため、肩前基点及び肩後基点を中心とした生地の回転運動を着用者の体型にフィットするよう適正に引き起こすことができる。そのため、着用者の身体寸法を得るだけで、着用者の身体に吸い付くようにフィットすることが可能な型紙パターンの補正を行うことができる。
【0015】
第2の特徴に係る上着用型紙パターン補正方法は、第1の特徴に係る発明であって、前側面積比率が、胸部中心部と胸部側方部の面積比率と略等しくなるように、前中心部と前脇部の面積の調整を行う。
【0016】
第2の特徴に係る発明によれば、前側面積比率が胸部中心部と胸部側方部の面積比率と略等しくなるように前中心部と前脇部の面積の調整を行うため、着用者の体型バランスを完全に考慮した補正を行うことができる。
【0017】
第3の特徴に係る上着用型紙パターン補正方法は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、前側面積比率を調整するステップにおいて、バストラインを前側中心端部から所定の距離隔てた点まで切り込みを入れ、所定の距離隔てた点を中心として上部前身頃部を回転するステップ、回転前の前中心線、回転前のバストライン、回転後の肩前垂線及び回転後の前頚腺によって新たな前中心部を得るステップ、及び、回転前のバストライン、回転後の肩前垂線、回転後の前肩稜線及び回転後のアーム前縁線によって新たな前脇部を得るステップ、を有するとともに、後側面積比率を調整するステップにおいて、バストラインを背側中心部から背側端部まで切り込みを入れ、背側端部を中心として上部後身頃部を回転するステップ、回転前のバストライン、回転後の肩後垂線、回転後の後頚腺及び回転後の背中心線によって新たな背中心部を得るステップ、及び、回転前のバストライン、回転後のアーム後縁線、回転後の後肩稜線及び回転後の肩後垂線によって新たな背脇部を得るステップ、を有する。
【0018】
第3の特徴に係る発明によれば、バストラインを境界として型紙を回転させ、回転前の前中心線、回転前のバストライン、回転後の肩前垂線及び回転後の前頚腺によって新たな前中心部を得るとともに、回転前のバストライン、回転後の肩前垂線、回転後の前肩稜線及び回転後のアーム前縁線によって新たな前脇部を得るため、型紙原型の形状を保持しつつ、新たな前中心部と新たな前脇部の面積比率を調整することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、採寸する人がいなくても、また、来店しなくても、着用者の体型にあった型紙パターンを作成することが可能な上着用型紙パターン補正方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本実施形態を適用するための型紙原型の左半身パーツを示す展開図である。
図2図2は、スキャンデータに基づき作成された着用者の左上半身の形状を表す模式図である。
図3図3は、本実施形態に係る上着用型紙パターン補正方法の面積調整ステップを反身体型に適用した場合を示す模式図である。
図4図4は、本実施形態に係る上着用型紙パターン補正方法の面積調整ステップを屈身体型に適用した場合を示す模式図である。
図5図5は、本実施形態に係る上着用型紙パターン補正方法を反身体型に適用した場合の重量配分変化を示す模式図である。
図6図6は、本実施形態に係る上着用型紙パターン補正方法を屈身体型に適用した場合の重量配分変化を示す模式図である。
図7図7は、本実施形態に係る上着用型紙パターン補正方法の応用例を示す模式図である。
図8図8は、変形例1に係る上着用型紙パターン補正方法の面積調整ステップを反身体型に適用した場合を示す模式図である。
図9図9は、変形例2に係る上着用型紙パターン補正方法の面積調整ステップを反身体型に適用した場合を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。なお、これはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
【0022】
なお、本発明において中心側とは身体を正面又は背面から見たときに身体の正中線側のことを指し、脇側とは身体の体側部側のことを指す。また、本発明において上着とは、男性用女性用問わず、スーツやジャケット、コートやワイシャツなどを含む上半身に着用する衣類全体を指すものとする。
【0023】
[型紙原型]
図1を用いて、本実施形態に係る上着用型紙パターン補正方法を適用するためのベースとなる型紙原型について説明する。図1は、左半身における型紙原型の模式図を示す。右半身の型紙原型については左右を反転させた構成であるため説明を省略する。なお、型紙原型とは、スーツやジャケット、コートなどについて、それぞれのブランドやメーカが固有に保有するパターンの大元となるものであり、型紙原型に基づいて、後述する着用者の体型に応じた補正が行われる。
【0024】
本発明の上着用型紙パターン補正方法が適用される型紙原型Xは、上部前身頃部FBと上部後身頃部BBとを有する。
【0025】
<上部前身頃部>
上部前身頃部FBにおいては、頸回りの前側ラインである前頚線NL1と前肩稜線HL1とが交差する位置に肩前基点Nが形成されている。肩前基点Nは上着を着用した際に上着全体の重量のバランスを取るための基点となる点であり、前身頃部FBと後身頃部BBとの境界となる点である。また、肩前基点Nは人体の胸鎖乳突筋のくぼみ付近に位置する。
【0026】
上部前身頃部FB及び上部後身頃部BBにおいて脇側の上部にアームホールAHが形成されている。アームホールAHは前身頃部FBにおけるアーム前縁線AL1によって、また、後身頃部BBにおけるアーム後縁線AL2によって画定される。
【0027】
バストラインBLは、胸囲CCを画定するラインであり、上部前身頃部FBと上部後身頃部BBを通して水平に形成される。上部前身頃部FBにおけるバストラインBLの前側中心端部を点F、側方端部を点Gとする。
【0028】
バストラインBL上における点Hは、バストラインBLの前端点である点Fから所定の距離隔てた点であり、本実施形態においては胸囲CCに6cmを足した寸法に0.37をかけた距離(つまり(CC+6cm)×0.37)だけ脇側に距離を隔てた点である。バストラインBLの前端点である点Fから鉛直上方に伸長する前中心線CLと前頚線NL1とが交差する点が点Eである。
【0029】
また、バストラインBL上における点Pは、前身頃部FBにおいて肩前基点Nから鉛直下方に垂下させた肩前垂線PLとバストラインBLとが交差する点である。
【0030】
点Iは前肩稜線HL1の後端の点であり、前肩稜線HL1とアームホールAHを画定するアーム前縁線AL1が交差する点である。
【0031】
このように、前身頃部FBにおけるバストラインBL上方の生地が、肩前基点Nを頂点として、頸回りの前側ラインである前頚線N1、身体の中心側端縁を画定する前中心線CL、胸囲を画定するバストラインBL、アームホールの前側縁を画定するアーム前縁線AL1及び前肩稜線HL1によって、つまり、点E-線CL-点F-点P-点H-点G-線AL1-点I-線HL1-点N-線NL1-点Eによって画定される。
【0032】
このとき、前身頃部FBにおける前中心部FB1が点N-線NL1-点E-線CL-点F-点P-線PL-点Nによって画定され、前脇部FB2が点N-線PL-点P-点H-点G-線AL1-点I-線HL1-点Nによって画定される。
【0033】
<後身頃部>
上部後身頃部BBにおいては、頸回りの後側ラインである後頚腺NL2と後肩稜線HL2とが交差する位置に肩後基点Mが形成されている。肩後基点Mは衣服を着用した際に衣服全体の重量のバランスを取るための基点となる点であり、前身頃部FBと後身頃部BBとの境界となる点である。
【0034】
上部後身頃部BBにおいては、前身頃部FBのバストラインBLの延長線上にバストラインBLが形成され、バストラインBLの脇側端部にあたる点を点Kとしている。
【0035】
また、バストラインBL上における点Qは、上部後身頃部BBにおいて肩後基点Mから鉛直下方に垂下させた肩後垂線QLとバストラインBLとが交差する点である。
【0036】
また、ウエストラインWLは、腹囲WCを画定するラインであり、上部後身頃部BBにおけるウエストラインWLの背側中心端部の点、つまり左右の境目となる点を点Sとする。
【0037】
そして、点Sから鉛直上方に延びる線を仮背中心線SL1とし、仮背中心線SL1と後頚線NL2とが交差する点を仮背基点O1とする。
【0038】
ここで、人体の実際の背部は直線状ではなく湾曲した形状を有するため、そのためのゆとり部分を考慮して定めた本来の背基点を本背基点O2とする。本来の本背基点O2は、仮背基点O1から所定の距離だけ後頚腺NL2をさらに延伸させた位置に形成されるが、その距離は、仮背基点O1から肩後垂線QLまで引いた垂線の長さをL1とすると、L1×0.1と定義される。また、本来の本背基点O2とウエストラインWLの背側中心端部である点Sとを緩やかにカーブを描くように接続する線を、本来の本背中心線SL2とする。
【0039】
また、本来の本背中心線SL2とバストラインBLとが交差する点を点Lとする。点LはバストラインBLの背側中心部にあたる点である。
【0040】
このように、上部後身頃部BBにおけるバストラインBL上方の生地が、前身頃部FBと後身頃部BBとの境界となる肩後基点Mを頂点として、頸回りの後側ラインである後頚線NL2、身体の背側端縁を画定する本背中心線SL2、胸囲を画定するバストラインBL、アームホールの後側縁を画定するアーム後縁線AL2及び後肩稜線HL2によって、つまり、点O2-線SL2-点L-点Q-点K-線AL2-点J-線HL2-点M-線NL2-点O1-点O2によって画定される。
【0041】
このとき、上部後身頃部BBにおける背中心部BB1が点M-線NL2-点O1-点O2-線SL2-点L-点Q-線QL-点Mによって画定され、背脇部BB2が点M-線QL-点Q-点K-線AL2-点J-線HL2-点Mによって画定される。
【0042】
以上のようにして、本実施形態に係る型紙補正方法を適用する元となる型紙原型が形成される。
【0043】
原型における各パーツの面積は、予め定められており、例えば本実施形態においては、前中心部FB1の前中心部面積Aは21224.5mm2、前脇部FB2の前脇部面積Bは22869.0mm2、背中心部BB1の背中心部面積Cは23457.0mm2、背脇部BB2の背脇部面積Dは33781.9mm2である。
【0044】
[本実施形態に係る型紙補正方法]
図2~6を使用して、本実施形態に係る上着用型紙パターン補正方法について説明する。
【0045】
図2はスキャンデータに基づき作成された着用者の左上半身の形状を表す模式図、図3は本実施形態に係る上着用型紙パターン補正方法の面積調整ステップを反身体型に適用した場合を示す模式図、図4は本実施形態に係る上着用型紙パターン補正方法の面積調整ステップを屈身体型に適用した場合を示す模式図、図5は本実施形態に係る上着用型紙パターン補正方法を反身体型に適用した場合の重量配分変化を示す模式図、図6は本実施形態に係る上着用型紙パターン補正方法を屈身体型に適用した場合の重量配分変化を示す模式図である。
【0046】
<ステップS1:型紙原型の準備>
まず、上記で作成した型紙原型を用意する(ステップS1)。
【0047】
ステップS1で用意する型紙原型は、各メーカーやブランドによって各ラインの長さや角度は異なるものであるが、前身頃部と後身頃部との境界となる肩前基点Nを頂点として、頸回りの前側ラインである前頚線NL1、身体の中心側端縁を画定する前中心線CL、胸囲を画定するバストラインBL、アームホールの前側縁を画定するアーム前縁線AL1及び前肩稜線HL1によって画定される上部前身頃部FBと、前身頃部と後身頃部との境界となる肩後基点Mを頂点として、頸回りの後側ラインである後頚線NL1、身体の背側端縁を画定する本背中心線SL2、胸囲を画定するバストラインBL、アームホールの後側縁を画定するアーム後縁線AL2及び後肩稜線HL2によって画定される上部後身頃部BBとによって構成され、前記上部前身頃部FBは前記肩前基点Nから鉛直下方に垂下される肩前垂線PLを境に前中心部FB1と前脇部FB2とに区画されるとともに、前記上部後身頃部BBは前記肩後基点Mから鉛直下方に垂下される肩後垂線QLを境に背中心部BB1と背脇部BB2とに区画される。
【0048】
なお、型紙原型は、あらかじめ定められた寸法に形成されたものに限ったものではなく、後述するステップS2において計測された着用者の身体の各部位の寸法に応じて調整済みのものを使用しても構わない(その場合、ステップS1とステップS2の順序は入れ替えられる)。
【0049】
<ステップS2:身体各部寸法の計測>
次に、着用者の身体の各部寸法を計測する(ステップS2)。
【0050】
ステップS2においては、人体を三次元で計測することができる3Dボディスキャナを用いて、身長、バスト高、ウエスト高、股突高、股下高、頚囲、胸囲、アンダーバスト囲、ウエスト囲を取得する。また、取得した各データに基づき、水平方向に頚囲、胸囲、アンダーバスト囲、ウエスト囲を分割、垂直方向に臍を通る身体の中心線、及び、肩線によって合計12パーツに分割する。このようにして得られた身体の左上半身の形状を表す模式図を図2に示す。
【0051】
ここで、身体を前後に分ける前額面と、身体の頸回りのラインとが交差する点Yを画定する。この点Yは、胸鎖乳突筋のわきにあるくぼみの位置に該当する点であり、前述の型紙原型における肩前基点N及び肩後基点Mに相当する点である。そして、点Yから下方に延伸した線XLを境界として、バストライン上方の胸部を胸部中心部CH1と胸部側方部CH2とに分ける。
【0052】
<ステップS3:面積の算出>
ステップS2で計測された各部寸法に基づき、型紙の各パーツに対応する着用者の身体の面積を算出する(ステップS3)。特に、上述した胸部中心部CH1の面積と、胸部側方部CH2の面積とを算出する。それにより、着用者の胸部中心部面積と胸部側方部面積の面積比率が算出される。面積比率の算出は、左右別々に算出されるようにして構わない。人間の体は必ずしも左右対称に出来ているわけではないため、右側パーツと左側パーツとで異なる補正をすることもあるからである。
【0053】
<ステップS4:型紙原型の面積の調整>
ステップS3で算出された着用者の胸部中心部面積と胸部側方部面積の面積比率に基づいて、前中心部FB1と前脇部FB2の面積比率である前側面積比率、及び、背中心部BB1と背脇部BB2の面積比率である後側面積比率を調整する。
【0054】
ステップS4における面積比率の調整の仕方について、図3を用いて詳細に説明する。
【0055】
図3は、本実施形態に係る型紙補正方法の面積調整ステップを反身体型に適用した場合の上部前身頃部FB及び上部後身頃部BBの模式図である。反身体型とは、上体が後方にのけ反ったような体型である。
【0056】
図3に示すように、上部前身頃部FBの下端を画定するバストラインBLの前側中心端部にあたる点FからバストラインBLに沿って点Hまで切り込みを入れ、点Hを支点として上部前身頃部FBを回転させることにより、上部前身頃部FBにおける胸部の寸法を変化させることができる。また、上部後身頃部BBにおけるバストラインBLの背側中心端部にあたる点LからバストラインBLに沿って脇側端部にあたる点Kまで切り込みを入れ、点Kを支点として上部後身頃部BBを回転させることにより、上部後身頃部BBにおける背部の寸法を変化させることができる。なお、図3においては、補正前の元の形状を破線で示し、補正した後の状態である回転後の形状を実線で示す。
【0057】
例えば、図3に示す反身体型のように、後方にのけ反ったような体型の場合、型紙原型通りの拡大縮小によって生地を形成すると、胸部の生地が足りなくなり胸部が突っ張るような着こなしになってしまう。そこで、図3に示すように、点Hを中心としてバストラインBLを上方に開くように上部前身頃部FBを回転させる。また、上部後身頃部BBにおいては逆に点Kを中心としてバストラインを下方に閉じるように上部後身頃部BBを回転させる。
【0058】
<上部前身頃部FBの面積比率の変化>
点Hを中心とした回転に伴い、肩前基点Nは肩前基点N’に、点Iは点I’に移動する。また、バストラインBL自体は不変であり、肩前垂線は肩前基点N’から鉛直下方に延伸する垂線であるので、肩前垂線PLは肩前垂線PL’に移動する。さらに、点Pは肩前垂線PL’とバストラインBLとが交差する点P’に移動する。
【0059】
さらに、上部前身頃部FBの前端縁を画定する垂線である前中心線CLは不変であるので、型紙の回転に伴い点Fは点F’に、点Eは前中心線CLの延長線上の点E’に、それぞれ鉛直上方に移動する。その結果、前頸線NL1は前頸線NL1’に、前肩稜線HL1は前肩稜線HL1’に、アーム前縁部AL1はアーム前縁部AL1’に移動する。
【0060】
前中心線CLとバストラインBLは不変であるので、回転補正後の前中心部FB1’については、点N’ -線NL1’-点E’-線CL-点F-点P’-線PL’-点N’によって画定される。
【0061】
回転補正後の前脇部FB2’についても同様に、点N’-線PL’-点P’-点H-点G-線AL1’-点I’-線HL1’ -点N’によって画定される。
【0062】
つまり、バストラインBLを前端点Fから所定の距離隔てた点Hまで切り込みを入れ、所定の距離隔てた点Hを中心として上部前身頃部FBを回転することによって得られる回転補正後の新たな前中心部FB1’は、回転前の前中心線CL、回転前のバストラインBL、回転後の肩前垂線PL’及び回転後の前頚腺NL1’によって得られる。
【0063】
また、回転補正後の新たな前脇部FB2’は、回転前のバストラインBL、回転後の肩前垂線PL’、回転後の前肩稜線NL1’及び回転後のアーム前縁線AL1’によって得られる。
【0064】
このように上部前身頃部FBにおけるバストラインBLを上方に開くように回転補正することで、補正前の前中心部FB1の面積Aは拡大し、補正前の前脇部FB2の面積Bは縮小する。前中心部FB1の面積Aが拡大するのは、前中心線CLが不変であるにもかかわらず、肩前垂線PL’が脇側に移動するからである。また、開いた分の点F’-点F-点P’を接続する略三角形状の部位が増加したことにも起因する。
【0065】
また、バストラインBLを上方に開くように回転補正することで前脇部FB2の面積Bが縮小するのは、アーム前縁部AL1は回転中心となる点Hに近いため線の移動量が小さくその分の面積増加が少ないことと、肩前垂線PL’が脇側に移動したことに起因する。
【0066】
つまり、バストラインBLを上方に開くように回転補正することで、上部前身頃部FBにおいて、前中心部FB1の面積を拡大し、前脇部FB2の面積を縮小して前中心部面積A:前脇部面積Bの面積比率である前側面積比率を変化させることができる。
【0067】
そして、本実施形態に係る型紙補正方法を使用して型紙のバランスを調整する際には、回転補正後の前中心部FB1’における新たな前中心部面積A’と前脇部FB2’の新たな前脇部面積FB2’の前側面積比率が、着用者の計測結果に基づいて上記ステップS3で算出された胸部中心部面積と胸部側方部面積の比率に略等しくなるよう、点Fから点F’への移動量を決定する。
【0068】
例えば、型紙原型において前中心部FB1の面積Aが21,224.5mm2であり、前脇部FB2の面積Bが22,869.0mm2であったが、着用者の計測結果に基づいて算出された胸部中心部CH1の面積と胸部側方部CH2の面積の比率がCH1:CH2=1.145:1であった場合、点Fを上方に1cm移動させた。その結果、新たな前中心部FB1’の面積A’は24,474.1mm2、新たな前脇部FB2’の面積B’は21,376.2mm2となった。その結果、新たな前中心部FB1’の面積A’と新たな前脇部FB2’の面積B’の比率はA’:B’=1.145:1となり、計測結果に基づき算出された面積比率と一致する。
【0069】
<上部後身頃部BBの面積比率の変化>
一方、上部後身頃部BBにおいては、上部前身頃部FBの回転方向とは逆に、点Kを中心としてバストラインBLを下方に閉じるように上部後身頃部BBを回転させる。
【0070】
このとき、図3において、点Kを中心とした回転に伴い、肩後基点Mは肩後基点M’に、点O2は点O2’に、点Jは点J’に移動する。また、バストラインBLは不変であり肩後垂線QLは肩後基点M’から鉛直下方に延伸する垂線であるので、肩後垂線QLは肩後垂線QL’に移動する。さらに、点Qは肩後垂線QL’とバストラインBLとが交差する点Q’に移動する。
【0071】
その結果、アーム後縁部AL2はアーム前縁部AL2’に、後肩稜線HL2は後肩稜線HL2’に、後頸線NL2は後頸線NL2’に移動する。また、点O2は点O2’に移動するもののウエストラインWLの中心側端部の点Sは不変であるため、本背中心線SL2は本背中心線SL2’に移動する。
【0072】
そして、バストラインBLは不変であるので、バストラインBLと本背中心線SL2’が交差する点は点Lから点L’に水平移動する。
【0073】
バストラインBLは不変であるので、回転補正後の新たな背中心部BB1’については、点M’-線NL2’-点O2’-線SL2’-点L’-点Q’-線QL’-点M’によって画定される。
【0074】
回転補正後の新たな背脇部BB2’についても同様に、点M’-線QL’-点Q’-点K-線AL2’-点J’-線HL2’-点M’によって画定される。
【0075】
つまり、バストラインBLに切り込みを入れ、バストラインBLの背側中心端部における点Kを中心として上部後身頃部BBを回転することによって得られる新たな背中心部BB1’は、回転前のバストラインBL、回転後の肩後垂線QL’、回転後の後頚腺NL2’及び回転後の本背中心線SL2’によって得られる。
【0076】
また、回転後の新たな背脇部BB2’は、回転前のバストラインBL、回転後のアーム後縁線AL2’、回転後の後肩稜線HL2’及び回転後の肩後垂線QL’によって得られる。
【0077】
このように、上部後身頃部BBにおけるバストラインBLより上方の部位を下方に閉じるように上部後身頃部BBを回転補正することで、補正前の背中心部BB1の背中心部面積Cは縮小し、補正前の背脇部BB2の背脇部面積Dは拡大する。背中心部BB1の背中心部面積Cが縮小するのは、本背中心線SL2’の移動量に比して肩後垂線QL’の中心側への移動量が大きいからである。それはつまり、肩後垂線QL’は垂線である一方で本背中心線SL2’は点Sへ延伸させる緩やかな曲線であることに起因する。また、閉じた分の略三角形状の部位の面積が減少したことにも起因する。
【0078】
また、バストラインBL上方の部位を下方に閉じるように回転補正をすることで、後肩稜線HL2の位置が下方に下がるにもかかわらず背脇部BB2の背脇部面積Dが拡大するのは、アーム後縁線AL2の移動量に比して肩後垂線QL’の中心側への移動量が大きいからである。
【0079】
ここで、後身頃部BBの補正量は、前身頃部FBの補正量と同じ量とする。つまり、仮に点Fから点F’への上方への移動量を1cmとすると、点Lの点L’への下方への移動量も1cmとする。
【0080】
例えば、型紙原型において背中心部BB1の背中心部面積Cが23,457.0mm2であり、背脇部BB2の背脇部面積Dが33,781.9mm2であったが、前身頃部FBにおける点Fの上方への1cmの移動に対して、後身頃部BBにおける点L2を下方へ1cm移動させた。その結果、新たな背中心部BB1’の背中心部面積C’は21,528.4mm2、新たな背脇部BB2’の背脇部面積D’は36,375.1mm2となった。
【0081】
このようにして、バストラインBLを境に回転補正を行うことにより、前中心部FB1と前脇部FB2の面積比率である前側面積比率、及び、背中心部BB1と背脇部BB2の面積比率である後側面積比率を調整することができる。
【0082】
なお、図4に反身体型とは逆の屈伸体型であった場合の回転補正の例を図示するが、回転の方向が図3の例と逆になるだけであるので、説明を省略する。
【0083】
<実施例1>
次に、回転補正に伴う生地の運動の変化について説明する。実施例1として、反身体型の場合について図5を用いて説明する。反身体型とは、上述の通り、胸部がのけ反った形状の体型であり、型紙原型通りの面積比率でパターンを作成すると、胸部(つまり上部前身頃部FBの前中心部FB1)が突っ張って持ち上がろうとする力が働くとともに背部の生地が余り下方に下がろうとする力が働く。このように窮屈な部位と余裕のある部位とが混在すると、体型にフィットした着こなしをするのは難しい。
【0084】
そのため、図5に示すように、上部前身頃部FBにおいては点Hを中心にバストラインBLより上方の部位を上方に開くように回転補正し、上部後身頃部BBにおいては点Kを中心にバストラインBLより上方の部位を下方に閉じるように回転補正する。
【0085】
すると、図3で説明したように、上部前身頃部FBにおいては前中心部FB1’の前中心部面積A’が大きくなり、前脇部FB2’の前脇部面積B’が小さくなる。逆に、上部後身頃部BBにおいては背中心部BB1’の背中心部面積C’が小さくなり、背脇部BB2’の背脇部面積D’が大きくなる。
【0086】
その結果、上部前身頃部FBにおいては前中心部FB1’の重量が重くなり、前脇部FB2’の重量が軽くなるため、肩前基点N’を中心として前中心部FB1’が下方に下がり前脇部FB2’が上方に上がろうとする回転運動が生じる(図中矢印AR1)。
【0087】
一方、上部後身頃部BBにおいては背中心部BB1’の重量が軽くなり、背脇部BB2’の重量が重くなるが、背中心部BB1’は右半身と左半身とが縫合して接続されるため、片側の重量ではなく右半身と左半身とを合算した重量として考慮される。そのため、背中心部BB1’の重量が軽くなったとしても、背中心部BB1’が下方に下がり背脇部BB2’が上方に上がろうとする回転運動の方向自体は補正前と変わらず、回転する力が弱くなるだけである(図中矢印AR2)。
【0088】
このように、反身体型の場合には、バストラインBLより上方の上部前身頃部FBを開き前中心部FB1の重量を増加させることで、突っ張りがちだった前中心部FB’1を下方に下げるとともに、バストラインBLより上方の上部後身頃部BBを閉じ背中心部BB1の重量を減少させることで、余りがちだった背中心部BB1’が下方に下がらないようにフィットさせることが出来る。また、仮背中心線SL1と本背中心線SL2とバストラインBLとの間に囲まれた部位の面積Rは増加する。
【0089】
このように、肩前基点N’を中心として、前中心部FB1’と前脇部FB2’とがやじろべいのようにバランスを取ろうとする回転運動が生じ、着用者の体にフィットするパターンを形成することができる。同様に、肩後基点M、M’ を中心として、背中心部BB1’と背脇部BB2’とがやじろべいのようにバランスを取ろうとする回転運動が生じ、着用者の体にフィットするパターンを形成することができる。
【0090】
<実施例2>
次に、実施例2として、屈身体型の場合の生地の運動の変化について図6を用いて説明する。屈伸体型とは、反身体型とは反対に、背が丸まった猫背の形状の体型であり、型紙原型通りの面積比率でパターンを作成すると、背部(つまり上部後身頃部BBの背中心部BB1)が突っ張って持ち上がろうとする力が働くとともに、胸部の生地が下方に下がろうとする力が働く。
【0091】
そのため、図6に示すように、上部前身頃部FBにおいては点Hを中心にバストラインBLより上方の部位を下方に閉じるように回転補正し、上部後身頃部BBにおいては点Kを中心にバストラインBLより上方の部位を上方に開くように回転補正する。
【0092】
すると、図5で説明したのとは逆に、上部前身頃部FBにおいては前中心部FB1’の前中心部面積A’が小さくなり、前脇部FB2’の前脇部面積B’が大きくなる。逆に、上部後身頃部BBにおいては背中心部BB1’の背中心部面積C’が大きくなり、背脇部BB2’の背脇部面積D’が小さくなる。
【0093】
その結果、上部前身頃部FBにおいては前中心部FB1’の重量が軽くなり、前脇部FB2’の重量が重くなるため、肩前基点N’を中心として前中心部FB1’が上方に上がり前脇部FB2’が下方に下がろうとする回転運動が生じる(図中矢印AR3)。
【0094】
一方、上部後身頃部BBにおいては背中心部BB1’の重量が重くなり、背脇部BB2’の重量が軽くなるが、上述の通り背中心部BB1’は右半身と左半身とを合算した重量として考慮されるため、背中心部BB1’の重量はさらに重くなり、背中心部BB’1が下方に下がり背脇部BB2’が上方に上がろうとする回転運動の方向自体は変わらず、しかも回転しようとする力が強くなる(図中矢印AR4)。
【0095】
このように、屈身体型の場合には、バストラインBLより上方の上部前身頃部FBを閉じて前中心部FB1の重量を減少させることで、余りがちだった前中心部FB1’を上方に持ち上げるとともに、バストラインBLより上方の上部後身頃部BBを開き背中心部BB1の重量を増加させることで、突っ張って持ち上がっていた背中心部BB1’を下方に押下げるようにフィットさせることが出来る。また、仮背中心線SL1と本背中心線SL2とバストラインBLとの間に囲まれた部位の面積Rは減少する。
【0096】
このように、肩前基点N’を中心として、前中心部FB1’と前脇部FB2’とがやじろべいのようにバランスを取ろうとする回転運動が生じ、着用者の体にフィットするパターンを形成することができる。同様に、肩後基点M、M’ を中心として、背中心部BB1’と背脇部BB2’とがやじろべいのようにバランスを取ろうとする回転運動が生じ、着用者の体にフィットするパターンを形成することができる。
【0097】
上記の方法を用いることにより、着用者の体型に関わらず、着用者の身体の寸法を計測したデータと型紙原型さえあれば、着用者の体型に吸い付くようにフィットする上着を作成するための型紙を製作することができる。
【0098】
また、図7に示すように、本発明の考え方は様々な形状の型紙原型に応用することができる。そのため、着用者の身体の寸法を計測したデータがあれば、パターンAの型紙原型を有するA社のジャケットや、パターンBの型紙原型を有するB社のジャケットを、その人にあった形状に作成することができる。
【0099】
<変形例1>
次に、変形例1として、図8を用いて、回転補正の起点となる点を変形させた例について説明する。図8は、変形例1に係る型紙補正方法の面積調整ステップを反身体型に適用した場合の上部前身頃部FB及び上部後身頃部BBの模式図である。
【0100】
変形例1については、図3に示す実施形態1の場合とは異なり、上部前身頃部FBについては点Hよりも上方に位置する点を回転補正の中心としている。また、上部後身頃部BBについては点Kよりも上方に位置する点を回転補正の中心としている。
【0101】
回転補正の起点となる点をバストラインBLよりも上方に位置させることにより、特に胸部の上部における面積比率を調整することができる。このように、体型に応じて、回転補正の起点となる点の位置を変化させることも可能である。その際、前中心部FB1と前脇部FB2の面積比率である前側面積比率、及び、背中心部BB1と背脇部BB2の面積比率である後側面積比率を調整する点については、実施形態1及び2と同様である。
【0102】
<変形例2>
次に、変形例2として、図9を用いて、回転補正の起点となる点を変形させた例について説明する。図9は、変形例2に係る型紙補正方法の面積調整ステップを反身体型に適用した場合の上部前身頃部FB及び上部後身頃部BBの模式図である。
【0103】
変形例2については、上部前身頃部FBについては、図3に示す実施形態1の場合と同様に点Hを回転補正の中心とするものの、上部後身頃部BBについては、図3に示す実施形態1の場合とは異なり、背中心部に位置する点Lを回転補正の中心としている。その場合、反身体型であっても、図3に示す実施形態1とは回転の方向が異なる。つまり、上部前身頃部FBは前中心部を開きつつ、上部後身頃部BBについては背脇部を開くという調整を行う。
【0104】
このような調整を行うことで、実施形態1に示すのと同様の効果を得ることができる。すなわち、背中心部BB1’の面積を減少させ、背脇部BB2’の面積を増加させて、後側面積比率を調整することができる。
【0105】
このように、上部前身頃部FBと上部後身頃部BBの回転補正の中心となる点は、個々の体型に応じて位置を変化させることができる。
【0106】
以上、本発明をまとめると以下のようになる。
【0107】
本発明に係る上着用型紙パターン補正方法は、前身頃部と後身頃部との境界となる肩前基点を頂点として、頸回りの前側ラインである前頚線、身体の中心側端縁を画定する前中心線、胸囲を画定するバストライン、アームホールの前側縁を画定するアーム前縁線及び前肩稜線によって画定される上部前身頃部と、前身頃部と後身頃部との境界となる肩後基点を頂点として、頸回りの後側ラインである後頚線、身体の背側端縁を画定する背中心線、胸囲を画定するバストライン、アームホールの後側縁を画定するアーム後縁線及び後肩稜線によって画定される上部後身頃部とによって構成され、上部前身頃部は肩前基点から鉛直下方に垂下される肩前垂線を境に前中心部と前脇部とに区画されるとともに、上部後身頃部は肩後基点から鉛直下方に垂下される肩後垂線を境に背中心部と背脇部とに区画される型紙原型を用意するステップ、着用者の身体寸法を計測するステップ、計測するステップにおいて計測された寸法に基づいて、身体の前額面と頸回りのラインとが交差する点から下方に延伸した線を境界として、バストライン上方の胸部を胸部中心部と胸部側方部とに分けたときの当該胸部中心部と当該胸部側方部の面積比率を算出するステップ、面積比率に基づいて、前中心部と前脇部の面積比率である前側面積比率、及び、背中心部と背脇部の面積比率である後側面積比率を調整するステップ、を有する。
【0108】
それによれば、着用者の胸部中心部と胸部側方部の面積比率に基づいて、型紙原型の前側面積比率及び後側面積比率を調整するため、肩前基点及び肩後基点を中心とした生地の回転運動を着用者の体型にフィットするよう適正に引き起こすことができる。そのため、着用者の身体寸法を得るだけで、着用者の身体に吸い付くようにフィットすることが可能な型紙パターンの補正を行うことができる。
【0109】
また、前側面積比率が、胸部中心部と胸部側方部の面積比率と略等しくなるように、前中心部と前脇部との面積の調整を行う。
【0110】
それによれば、前側面積比率が胸部中心部と胸部側方部の面積比率と略等しくなるように前中心部と前脇部との面積の調整を行うため、着用者の体型バランスを完全に考慮した補正を行うことができる。
【0111】
また、前側面積比率を調整するステップにおいて、バストラインを前側中心端部から所定の距離隔てた点まで切り込みを入れ、所定の距離隔てた点を中心として型紙を回転するステップ、回転前の前中心線、回転前のバストライン、回転後の肩前垂線及び回転後の前頚腺によって新たな前中心部を得るステップ、及び、回転前のバストライン、回転後の肩前垂線、回転後の前肩稜線及び回転後のアーム前縁線によって新たな前脇部を得るステップ、を有するとともに、後側面積比率を調整するステップにおいて、バストラインに切り込みを入れ、側方端における点を中心として回転するステップ、回転前のバストライン、回転後の肩後垂線、回転後の後頚腺及び回転後の背中心線によって新たな背中心部を得るステップ、及び、回転前のバストライン、回転後のアーム後縁線、回転後の後肩稜線及び回転後の肩後垂線によって新たな背脇部を得るステップ、を有する。
【0112】
それによれば、バストラインを境界として型紙を回転させ、回転前の前中心線、回転前のバストライン、回転後の肩前垂線及び回転後の前頚腺によって新たな前中心部を得るとともに、回転前のバストライン、回転後の肩前垂線、回転後の前肩稜線及び回転後のアーム前縁線によって新たな前脇部を得るため、型紙原型の形状を保持しつつ、新たな前中心部と新たな前脇部の面積比率を調整することができる。
【0113】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述したこれらの実施形態に限るものではない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0114】
例えば、本発明における各パーツの生地の重量配分を考慮して型紙パターンを形成するという考え方は、ジャケットなどの上衣だけでなく、パンツやスラックスにも応用して理論化することが可能である。
【0115】
また、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0116】
この発明の上着用型紙パターン補正方法は、スーツのジャケットのみならず、コートやワイシャツなどの上半身に着衣する衣類全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0117】
N 肩前基点
M 肩後基点
BL バストライン
CL 前中心線
FB1 前中心部
FB2 前脇部
BB1 背中心部
BB2 背脇部
PL 肩前垂線
QL 肩後垂線

【要約】
【課題】採寸する人がいなくても、また、来店しなくても、着用者の体型にあった型紙パターンを作成することが可能な上着用型紙パターン補正方法する。
【解決手段】本発明の上着用型紙パターン補正方法は、上部前身頃部と上部後身頃部とによって構成され、上部前身頃部は肩前垂線を境に前中心部と前脇部とに区画されるとともに、上部後身頃部は肩後垂線を境に背中心部と背脇部とに区画される型紙原型を用意するステップ、着用者の身体寸法を計測するステップ、計測するステップにおいて計測された寸法に基づいて、バストライン上方の胸部を胸部中心部と胸部側方部とに分けたときの胸部中心部と胸部側方部の面積比率を算出するステップ、面積比率に基づいて前側面積比率及び後側面積比率を調整するステップ、を有する。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9