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特許7130296バックラッシ除去機構および回転角検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】バックラッシ除去機構および回転角検出装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/18 20060101AFI20220829BHJP
   F16H 1/20 20060101ALI20220829BHJP
   F16H 57/12 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
F16H55/18
F16H1/20
F16H57/12 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022517942
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2021034005
【審査請求日】2022-03-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】713000294
【氏名又は名称】村北ロボテクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138519
【弁理士】
【氏名又は名称】奥谷 雅子
(74)【代理人】
【識別番号】100210675
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 潤
(72)【発明者】
【氏名】村北 卓也
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-53173(JP,U)
【文献】米国特許第3889549(US,A)
【文献】特開2012-154417(JP,A)
【文献】特表2002-500330(JP,A)
【文献】特開2007-155698(JP,A)
【文献】特開2015-190842(JP,A)
【文献】特開昭60-139945(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0295136(US,A1)
【文献】登録実用新案第3025990(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/18
F16H 1/20
F16H 57/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、大歯車と、第1の小歯車と、第2の小歯車と、第1の段付歯車と、第2の段付歯車と、段付遊星歯車と、付勢機構とを備えるバックラッシ除去機構であって
大歯車は回転自在に基材に保持され、
第1の段付歯車の下段は、大歯車と噛み合いながら回転自在に基材に保持され、
第2の段付歯車の下段は、大歯車と噛み合いながら回転自在に基材に保持され、
第1の小歯車は、第1の段付歯車の上段と噛み合いながら回転自在に基材に保持され、
第2の小歯車は、第2の段付歯車の上段と噛み合いながら回転自在に基材に保持され、
第1の段付歯車の上段の歯数と、第2の段付歯車の上段の歯数とが同じであって、段付遊星歯車の上段の歯数に対する下段の歯数の比が、第1の段付歯車の下段の歯数に対する第2の段付歯車の下段の歯数の比と等しく、
段付 遊星歯車は、その下段が第1の小歯車に噛み合いながら且つその上段が第2の小歯車の両方に噛み合いながら、第1の小歯車第2の小歯車および段付遊星歯車のそれぞれの回転軸がおおよそ同一平面上に並ぶ位置で、回転自在に付勢機構に保持され、
付勢機構は第1の小歯車または第2の小歯車の回転面と平行な面上を運動する1自由度の機構であって、該運動は復元力を備え、段付遊星歯車を付勢してバックラッシを除去する、バックラッシ除去機構
【請求項2】
1の段付歯車が、前記大歯車と第1の小歯車とを連結する第1の段付歯車列であ、第2の段付歯車が、前記大歯車と第2の小歯車とを連結する第2の段付歯車列であ、これらの歯車列内のすべての歯車は、それぞれが基材に回転自在に保持され、前記段付遊星歯車を付勢して歯車列間の全てのバックラッシを除去する、請求項1に記載のバックラッシ除去機構。
【請求項3】
第1の小歯車と、第2の小歯車とが、それぞれアブソリュートエンコーダを備える、請求項1または2に記載のバックラッシ除去機構。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載のバックラッシ除去機構を備える回転角検出装置。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のバックラッシ除去機構を備える減速機。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の第1の小歯車の回転数ならびに回転角度を、次の手順1~4に基づいて求める方法。
(1)第1の小歯車(歯数をZとする)、第2の小歯車(歯数をYとする)の歯角をそれぞれ0とする初期状態を適当に定める。
(2)任意の回転状態において、第1の小歯車の歯角Aと第2の小歯車の歯角Bをそれぞれ計測する。
(3)第2の小歯車の歯角Bから第1の小歯車の歯角Aを減算し、参照歯角Cを求める。
(4)C=Z×N mod Yの関係から、参照歯角Cに対する第1の小歯車の回転数Nを求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
バックラッシ除去機構および、それを応用した回転角検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転運動の回転角を検出する装置は広く公知であり、例えば文献1の磁気式、文献2の静電容量式、その他、光学式などが知られている。
【0003】
いずれの方式も1回転を越える多回転を計測するためには、角度に加えて回転数も計測する必要がある。通常、回転数のデータは装置の電源が切れると失われるため、それを記憶保持するための補助電源が必要となる。
【0004】
補助電源の維持管理は容易ではないため、いわゆるバッテリレスの装置も発明されている。例えば文献3~5は、歯数の異なる2つの歯車を利用し、いわゆるバーニアの原理に基づいて多回転計測を可能としている。
【0005】
しかし、歯車のバックラッシは検出精度を悪化させるため、これを除去することは長年の課題となっている(例えば文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6626476号
【文献】米国特許出願公開第2002/000129号
【文献】特開2000-283704
【文献】特開2004-354075
【文献】特開2007-155698
【文献】特許第3882167号
【文献】特開2004-044620
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、バックラッシ除去機構および、それを応用した回転角検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって、本発明は、要旨、以下のものを提供する。
〔1〕 基材と、大歯車と、第1の小歯車と、第2の小歯車と、遊星歯車と、付勢機構とを備え、大歯車は回転自在に基材に保持され、第1の小歯車は大歯車と噛み合いながら回転自在に基材に保持され、第2の小歯車は大歯車と噛み合いながら回転自在に基材に保持され、遊星歯車は、第1の小歯車および第2の小歯車の両方に噛み合いながら、第1の小歯車および第2の小歯車および遊星歯車のそれぞれの回転軸がおおよそ同一平面上に並ぶ位置で、回転自在に付勢機構に保持され、付勢機構は大歯車の回転面と平行な面上を運動する1自由度の機構であって、該運動は復元力を備え、遊星歯車を付勢してバックラッシを除去する、バックラッシ除去機構。
〔2〕 前記遊星歯車が段付遊星歯車であって、第1の段付歯車と第2の段付歯車とをさらに備え、前記大歯車は回転自在に基材に保持され、第1の段付歯車の下段は前記大歯車と噛み合いながら回転自在に基材に保持され、第2の段付歯車の下段は前記大歯車と噛み合いながら回転自在に基材に保持され、第1の小歯車は第1の段付歯車の上段と噛み合いながら回転自在に基材に保持され、第2の小歯車は第2の段付歯車の上段と噛み合いながら回転自在に基材に保持され、第1の段付歯車の上段の歯数と、第2の段付歯車の上段の歯数とが同じであって、前記段付遊星歯車の上段の歯数に対する下段の歯数の比が、第1の段付歯車の下段の歯数に対する第2の段付歯車の下段の歯数の比と等しく、前記段付遊星歯車は、その下段が第1の小歯車にかみ合いながら且つその上段が第2の小歯車に噛み合いながら、第1の小歯車および第2の小歯車および前記段付遊星歯車のそれぞれの回転軸がおおよそ同一平面上に並ぶ位置で、回転自在に付勢機構に保持される、〔1〕に記載のバックラッシ除去機構。
〔3〕 第1の段付歯車が、前記大歯車と第1の小歯車とを連結する第1の段付歯車列であって、第2の段付歯車が、前記大歯車と第2の小歯車とを連結する第2の段付歯車列であって、これらの歯車列内のすべての歯車は、それぞれが基材に回転自在に保持され、前記段付遊星歯車を付勢して歯車列間の全てのバックラッシを除去する、〔1〕または〔2〕に記載のバックラッシ除去機構。
〔4〕 第1の小歯車と、第2の小歯車とが、それぞれアブソリュートエンコーダを備えることを特徴とする、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のバックラッシ除去機構。
〔5〕 〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のバックラッシ除去機構を備える回転角検出装置。
〔6〕 〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のバックラッシ除去機構を備える減速機。
〔7〕 本明細書中に記載の第1の小歯車の回転数ならびに回転角度を、次の手順1~4に基づいて求める方法。
(1)第1の小歯車(歯数をZとする)、第2の小歯車(歯数をYとする)の歯角をそれぞれ0とする初期状態を適当に定める。
(2)任意の回転状態において、第1の小歯車の歯角Aと第2の小歯車の歯角Bをそれぞれ計測する。
(3)第2の小歯車の歯角Bから第1の小歯車の歯角Aを減算し、参照歯角Cを求める。
(4)C=Z×N mod Yの関係から、参照歯角Cに対する第1の小歯車の回転数Nを求める。
【0009】
図1は本発明の原理を示しており、基材1と、大歯車2と、第1の小歯車3と、第2の小歯車4と、遊星歯車5と、付勢機構6とを備え、大歯車2は回転自在に基材1に保持され、第1の小歯車3は大歯車2と噛み合いながら回転自在に基材1に保持され、第2の小歯車4は大歯車2と噛み合いながら回転自在に基材1に保持され、遊星歯車5は、第1の小歯車3および第2の小歯車4の両方に噛み合いながら、第1の小歯車3および第2の小歯車4および遊星歯車5のそれぞれの回転軸がおおよそ同一平面上に並ぶ位置で回転自在に付勢機構6に保持され、付勢機構6は大歯車2の回転面と平行な面上を運動する1自由度の機構であって、該運動は復元力を備え、遊星歯車5を付勢してバックラッシを除去することを特徴とするバックラッシ除去機構である。
【0010】
付勢機構6は、例えば、ばねで付勢したスイングアーム(文献7)などの公知発明を用いればよく、図1に示したように、ブロック6aと、案内6bと、圧縮ばね6cと、アンカー6dとを備え、ブロック6aは遊星歯車5を回転自在に保持し、基材1に固定された案内6bが定める経路を摺動し、圧縮ばね6cはブロック6aを押して付勢し、アンカー6dは基材1に固定され、圧縮ばね6cの反力を支承することを特徴とする付勢機構を用いてもよい。
【0011】
この構成によれば、遊星歯車5が、大歯車2の回転軸に向かう方向に付勢されたとき、第1の小歯車3は反時計回りのトルクを、第2の小歯車4は時計まわりのトルクが与えられる。小歯車3および小歯車4は互いに反対方向のトルクが与えられるため、大歯車2を回転させることなく力が釣り合う。このとき、第1の小歯車3は大歯車2を時計回りに回転させるときに接する歯面にしか接せず、逆に第2の小歯車4は大歯車2を反時計回りに回転させるときに接する歯面にしか接しない。この作用によってバックラッシが解消される。なお、付勢機構は押すだけではなく引いてもよく、この場合は上記の接する歯面は逆向きになる。
【0012】
歯車列は互いに噛み合っているため、遊星歯車5あるいは付勢機構6は、ごくわずかな範囲でしか変位しないが、その範囲において、小歯車3および小歯車4と遊星歯車5とは差動機構を構成し、歯車の製造時の静的誤差や、摩耗や熱膨張などによる動的誤差に起因するバックラッシを除去する。
【0013】
小歯車3および小歯車4と遊星歯車5とが差動機構を構成するためには、それぞれの回転軸がおおよそ同一平面上に並ぶ位置で遊星歯車5の回転を保持する必要がある。遊星歯車5の回転軸の位置をおおよそとしたのは、平歯車がある程度の軸間距離の変動に対して頑健なためである。したがって、付勢機構6は必ずしも直動機構でなくてもよく、前述したようにスイングアームなどの回転機構で近似的に直線運動をさせてもよい。また、本明細書において、歯車とは、歯の噛み合いで動力を伝達する機構のことを言い、バックラッシを内包する歯車である限り、平歯車のほかに、はすば歯車、やまば歯車などを用いてもよく、その歯形もインボリュートのほか、サイクロイドやトロコイドなどであってもよい。
【0014】
図2に示すように、バックラッシ除去機構は、大歯車2が内歯車である場合も含み、大歯車2の歯数を無限大とした特殊な場合としてラックである場合も含む。大歯車2をラックとみなした場合、その運動は回転運動ではなく直線運動とみなすことができる。また、小歯車3および小歯車4との適切な噛み合いが得られる条件であれば、大歯車2は必ずしも円形である必要はなく、自由曲線に歯を設けたものであってもよい。
【0015】
図3に示すように、遊星歯車5の歯数や径を大きくしたい場合は、小歯車3および小歯車4の歯幅を大きくし、小歯車3および小歯車4と遊星歯車5との噛み合い位置を歯筋方向にずらすことで干渉を避けてもよい。
【0016】
小歯車3および小歯車4は必ずしも同じ歯数である必要はなく、むしろ異なる歯数を選び、それぞれにアブソリュートエンコーダを備えれば、多回転の回転角検出装置として利用することができる。アブソリュートエンコーダとは、1回転の範囲内で回転角の絶対値計測が可能な装置を意味する。
【0017】
第1の小歯車3の回転角と、第2の小歯車4の回転角は、それぞれの歯数の最小公倍数の範囲で固有の組み合わせを示すため、その範囲内で多回転の計測が可能となる。例えば第1の小歯車の歯数が19、第2の小歯車の歯数が17の場合は、323の歯数まで計測することができる。その際、大歯車の歯数を323とした場合、第2の小歯車は19倍の分解能で大歯車の回転角を計測することができる。
【0018】
さらに小歯車の歯数を適当な素数の積とすると、大歯車に種々の寸法を選択することができる。例えば第1の小歯車の歯数が2×7=14、第2の小歯車の歯数が3×5=15の場合は、210の歯数まで計測することができる。その際、大歯車の歯数を210(=2×3×5×7)とした場合は1回転、105(=3×5×7)とした場合は2回転、70(=2×5×7)とした場合は3回転、42(2×3×7)とした場合は5回転、35(=5×7)とした場合は6回転、30(=2×3×5)とした場合は7回転、21(=3×7)とした場合は10回転まで大歯車の回転数を計測することができる。
【0019】
ここで、小歯車の歯数が14および15の場合、素因数は最小の素数から順に選んだ素数列2,3,5,7から重複しないように選んでおり、上記最小公倍数の意味で歯数が最小になる点と、おおよそ歯数が等しくなる点とにおいて設計上の特段の意味をもつ。歯数が小さすぎる場合は任意の共通の自然数をそれぞれに乗じてもよく、すなわち歯数の比が14:15となるようにすればよい。
【0020】
図4に示すように、バックラッシ除去機構は、基材1と、大歯車2と、第1の小歯車3と、第2の小歯車4と、段付遊星歯車5と、付勢機構6と、第1の段付歯車7と、第2の段付歯車8とを備え、大歯車2は回転自在に基材1に保持され、第1の段付歯車7の下段は大歯車2と噛み合いながら回転自在に基材1に保持され、第2の段付歯車8の下段は大歯車2と噛み合いながら回転自在に基材1に保持され、第1の小歯車3は第1の段付歯車7の上段と噛み合いながら回転自在に基材1に保持され、第2の小歯車4は第2の段付歯車8の上段と噛み合いながら回転自在に基材1に保持され、段付遊星歯車5の下段は、第1の小歯車3、上段は第2の小歯車4に噛み合いながら、第1の小歯車3および第2の小歯車4および段付遊星歯車5のそれぞれの回転軸がおおよそ同一平面上に並ぶ位置で回転自在に付勢機構6に保持され、付勢機構6は大歯車2の回転面と平行な面上を運動する1自由度の機構であって、該運動は復元力を備え、段付遊星歯車5を付勢してバックラッシを除去することを特徴とするバックラッシ除去機構であってもよい。ここで、紙面の奥側に位置する歯車を下段、紙面の手前側にある歯車を上段としているが、全ての歯車で上下の方向を統一していれば、上下段は入れ替えても良い。
【0021】
この構成によれば、図1の構成における小歯車3および小歯車4の歯数を素数倍にする効果があるため、装置の寸法を小さく保ちつつ、計測可能な回転数の範囲を大きく増すことができる。ただし、遊星歯車5から大歯車2に至る歯車列の減速比は、第1および第2の系列で一致するように選ばなければならない。そのため遊星歯車は、一般的に、段付歯車(上下段の歯数が一致して普通の平歯車になる特殊な場合も含む)とする必要がある。
【0022】
段付遊星歯車5の上下段の歯数は減速比の簡単な計算から導くことができ、段付遊星歯車5の下段の歯数と、第1の段付歯車7の下段の歯数と、第2の段付歯車8の上段の歯数との積が、段付遊星歯車5の上段の歯数と、第2の段付歯車7の下段の歯数と、第1の段付歯車8の上段の歯数との積と一致するようにすればよい。この条件下では、段付歯車7の上段の歯数と、段付歯車8の上段の歯数とを任意の歯数に一致させたとき、段付遊星歯車5の上段の歯数に対する段付遊星歯車5の下段の歯数の比は、段付歯車7の下段の歯数に対する段付歯車8の下段の歯数の比と一致する。
【0023】
例えば、第1の段付歯車7の下段の歯数を15、第1の小歯車3の歯数を11、第2の段付歯車8の下段の歯数を14、第2の小歯車4の歯数を13、段付歯車7および段付歯車8の上段の歯数を同一の任意の歯数(例えば、歯数をそれぞれ10としたとき)としたとき、段付遊星歯車5の上下段の歯数はそれぞれ15,14とすればよい。この場合、第1の小歯車の回転数と第2の小歯車の回転数との比率は、図1の構成において第1の小歯車の歯数を(15×11=165)、第2の小歯車の歯数を(14×13=182)とした場合の比率と等しくなり、両歯数の最小公倍数30030までの歯数を計測することができる。
【0024】
例示した歯数11,13,14,15の素因数は、最小の素数から順に選んだ素数列2,3,5,7,11,13から重複しないように選んでおり、上記最小公倍数の意味で歯数が最小になる点と、おおよそ歯数が等しくなる点とにおいて設計上の特段の意味をもつ。歯数が小さすぎる場合は任意の共通の自然数をそれぞれに乗じてもよく、すなわち歯数の比が順番を問わず11:13:14:15となるようにすればよい。同様に好適な組み合わせとして、13:14:15:17、14:15:17:19、17:19:21:22、19:21:22:23などがある。
【0025】
上記いずれの構成においても、いずれの歯車も駆動してもよく、その際は回転角を計測しながら減速機として使用することができる。例えば図4に示した構成では、基材に回転自在に固定された第2の小歯車4が駆動しやすい。
【0026】
第1のバックラッシ除去機構のいずれかの歯車と第2のバックラッシ除去機構のいずれかの歯車とを同一回転軸上で適当に結合すれば多段の減速機とすることができるが、図5に示すように、上記図4に示したバックラッシ除去機構の段付歯車が、大歯車2と小歯車3および小歯車4とをそれぞれ連結する段付歯車列10および段付歯車列11であって、歯車列内の歯車は、それぞれ基材1に回転自在に保持されることを特徴とするバックラッシ除去機構を用いても減速比の大きな減速機を得ることができる。この構成であれば、ひとつの付勢機構で全ての歯車のバックラッシを除去できるため効果的である。段付歯車列は、減速比の点において、減速比が等しい仮想の段付歯車に置き換えることができるため、図4の構成と同じ原理で多回転計測が可能である。
【0027】
本明細書において、歯車の回転角度を、進んだ歯の数で表した値を歯角とする。例えば歯数182の歯車が90度回転したときの歯角は182×90/360=45.5、180度回転したときの歯角は182×180/360=91である。
【0028】
前述の例示と同様に、第1の小歯車および第2の小歯車の歯数をそれぞれ165、182とした場合、第1の小歯車がN回転(Nは負でない整数)したときの第2の小歯車の歯角Cは、除算の余りから容易に計算することができ、C=165×N mod 182となる。このように、第1の歯車の歯角を0に整列したときの第2の歯車の歯角を、特別に、参照歯角と呼ぶことにする。参照歯角Cは回転数Nに対して重複しない182通りの固有の数値を示すため、これらの組み合わせを読み取ることで第1の歯車の回転数と回転角をそれぞれ知ることができる。その際、参照歯角Cから回転数Nを逆引きするために、例えば図9のようなルックアップテーブルを事前に作成しておくことが望ましい。
【0029】
以上の方法によれば、次の手順に基づいて、第1の小歯車の回転数と回転角度とを計算することができる。ただし、前述の例示のように、第1および第2の歯車の回転数の比を、段付歯車の作用によって、11:13から165:182に変更し、あたかも第1および第2の歯車の歯数がそれぞれ165、182になったかのような効果が得られることもあることから、段付歯車または段付歯車列を用いる場合は、下記第1および第2の歯車は、これら仮想の歯車を指すものとする。
(1)第1の小歯車(歯数をZとする)、第2の小歯車(歯数をYとする)の歯角をそれぞれ0とする初期状態を適当に定める。
(2)任意の回転状態において、第1の小歯車の歯角Aと第2の小歯車の歯角Bをそれぞれ計測する。
(3)第2の小歯車の歯角Bから第1の小歯車の歯角Aを減算し、参照歯角Cを求める。
(4)C=Z×N mod Yの関係から、参照歯角Cに対する第1の小歯車の回転数Nを求める。
【0030】
例えば、Z=165、Y=182とし、10ビット(0~1023の整数値を示す)の絶対値エンコーダを用い、第1の小歯車の読取値が99、第2の小歯車の読取値が298であったとすると、上記(2)の歯角はそれぞれ、A=165×99/1024=15.
95、B=182×298/1024=52.96である。ルックアップテーブルを読み取るには、第1の小歯車の歯角を0に整列する必要があるから、上記(3)に記載したように参照歯角Cを求めると、C=52.96-15.96=37となる。図9で、一の位7、十の位30の参照歯角に対応する回転数を読み取ると、N=137を示すことがわかる。よって、第1の歯車はN=137回転後、歯数A=15.95だけ進んだ状態であることがわかる。検算すると、第1の歯車が進めた歯数は、137×165+15.95=22620.95、両者は大歯車で連結されていて同じ歯数だけ進むから、第2の歯車の歯角は、22620.95 mod 182=52.95となり、エンコーダの誤差を考慮すると上記の計算と一致していると言える。なお、回転数が負になる場合は回転数に182を加えればよく、例えばN=-3の状態は、N=182-3=179の状態と等しく扱うことができる。
【0031】
大歯車の回転数は第1の歯車との減速比に応じて容易に計算することができるが、大歯車にも第3のエンコーダを設ければ、計測可能な回転数をさらに増す事ができる。第1、第2の小歯車は30030の歯数まで計測することができるため、歯数30030の歯車とみなすことができる。その仮想の歯車と大歯車との関係は前記第1、第2の小歯車の関係と同じであるから、前記の手順に基づいて、大歯車の歯数と30030の最小公倍数の歯数までを計測することができる。例えば大歯車の歯数を30030の素因数と重複しない17、19、23などの素数とすると、30030回転まで計測することができる。
【発明の効果】
【0032】
歯車のバックラッシを除去する一般的な方法には、いわゆるシザーズギヤがあるが、全ての歯車段にそれを用いなければならない点と、付勢機構自体が回転するため、その調整や組み付けが容易でない点が課題であった。本バックラッシ除去機構によれば、歯車列のバックラッシを一元的に除去することができ、付勢力も必要に応じて可変とすることができる点で効果が大きい。
【0033】
本バックラッシ除去機構は、その構成要素を用いて多回転角度計を構成することもでき、減速機として使用することもできる。実用的な実施においては、角度計と減速機は併用されることが多いため、バックラッシ除去機構の構成要素を用いてそれらが実現できる点において効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】バックラッシ除去機構の原理を示した図である。
図2】大歯車が内歯車である場合のバックラッシ除去機構を示した図である。
図3】大歯車と遊星歯車とが干渉しない状態を示した図である。
図4】大歯車と小歯車との間に段付歯車を設けた例を示した図である。
図5図4の段付歯車を段付歯車列とした例を示した図である。
図6】バックラッシ除去機構を応用した回転角検出装置の実施例を示した図である。
図7図6の検出部分の展開図である。
図8図7の付勢機構を抜き出して示した図である。
図9】ルックアップテーブルの例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図6は本発明を回転角検出装置として実施した例であって、図7は大歯車を除いた検出部分の展開図を示し、基材1と、大歯車2と、第1の小歯車3と、第2の小歯車4と、遊星歯車5と、付勢機構6とを備え、大歯車2は回転自在に基材(図示していないが基材1aと結合している)に保持され、第1の小歯車3は大歯車2と噛み合いながら回転自在に基材1に保持され、第2の小歯車4は大歯車2と噛み合いながら回転自在に基材1に保持され、遊星歯車5は、第1の小歯車3および第2の小歯車4の両方に噛み合いながら、第1の小歯車3および第2の小歯車4および遊星歯車5のそれぞれの回転軸がおおよそ同一平面上に並ぶ位置で、回転自在に付勢機構6に保持され、付勢機構6は大歯車2の回転面と平行な面上を運動する1自由度の機構であって、該運動は復元力を備え、遊星歯車5を付勢してバックラッシを除去することを特徴とする回転角検出装置を示したものである。
【0036】
基材1は、下ケース1aと、上ケース1bと、止めねじ1cと、軸受1fとを含み、上ケース1bは歯車窓1dを備え、止めねじ1cはネジ穴1eを介して下ケース1aと上ケース1bとを結合する。
【0037】
第1の小歯車3は本体3aと永久磁石3bとを備え、第2の小歯車4も本体4aと永久磁石4bとを備え、それぞれ軸受1fを介して回転自在に基材1に保持される。
【0038】
回路基板9はネジ穴1eに固定され、裏面に磁気式エンコーダ9aを備え、永久磁石3b、4bの回転角を読み取る。
【0039】
図8は付勢機構を抜き出して示したものであり、凸型のブロック6aは回転軸6fを備え、回転軸6fは遊星歯車5を回転自在に保持し、基材1の同形のスロットに案内されて摺動し、「ひ」形の板ばね6cの頂点に当接し、板ばね6cの端部は滑らかな弧状で、基材1に当接して滑り、そのたわみによる復元力でブロック6aを付勢することを特徴とする付勢機構である。
【要約】
【課題】バックラッシ除去機構、および、それを応用した回転角検出装置を提供する。
【解決手段】
基材1と、大歯車2と、第1の小歯車3と、第2の小歯車4と、遊星歯車5と、付勢機構6とを備え、付勢機構6は大歯車2の回転面と平行な面上を運動する1自由度の機構であって、該運動は復元力を備え、遊星歯車5を付勢してバックラッシを除去することを特徴とするバックラッシ除去機構を提供する。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9