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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】マッサージ機
(51)【国際特許分類】
   A61H 15/00 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
A61H15/00 340C
A61H15/00 340B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018032610
(22)【出願日】2018-02-26
(65)【公開番号】P2019025299
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2017148707
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】317000429
【氏名又は名称】勝又 明敏
(73)【特許権者】
【識別番号】317000418
【氏名又は名称】大坪 義一
(73)【特許権者】
【識別番号】500104624
【氏名又は名称】藤井 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100119585
【弁理士】
【氏名又は名称】東田 潔
(72)【発明者】
【氏名】勝又 明敏
(72)【発明者】
【氏名】大坪 義一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康夫
【審査官】今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2010-0002567(KR,A)
【文献】特開2017-080341(JP,A)
【文献】実開平02-013552(JP,U)
【文献】特開2011-115378(JP,A)
【文献】特表2013-520221(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0272814(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 7/00
A61H 15/00
A61H 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施療時に被施療者(P)の施療部位の互いに相対する又は略相対する体表両面にそれぞれの側に位置させる1対の支持部(22C)を、それぞれ、当該体表に第1の弾性力(F1)を以って押圧する第1の弾性部材(21)を備えた押圧手段(12(21,22))と、
前記押圧手段の前記1対の部位それぞれの前記被施療者の施療部位に対向する側に設けられた1対の回転駆動部(24)と、
前記1対の回転駆動部(24)それぞれの回転軸(24A)に連結し、かつ、前記体表に当接して当該回転軸の回転により当該体表上で回転するとともに当該体表上で転動可能なマッサージ用の複数の接触子(40)をそれぞれ備えた1対のマッサージヘッド(23)と、
この1対のマッサージヘッド(23)それぞれに前記複数の接触子(40)を囲繞し且つ前記回転軸の回転を許容するように設けられるとともに、前記体表に当接しながら、当該接触子(40)が回転するときの当該体表上での位置ずれを防止又は抑制する1対の位置ずれ防止部(36)と、を備え、
前記1対の位置ずれ防止部(36)は、前記押圧手段(12(21,22))の前記1対の支持部(22C)の各支持部に支持される底部(36BT)を有し、前記複数の接触子(40)を転動自在に内包し、かつ、前記体表側の面を開放した片側開放のカップ(36)として構成され、
前記押圧手段(12(21,22))と前記位置ずれ防止部(36)の前記底部(36BT)との間に、前記1対の支持部(22C)の各支持部に取り付けられたボルト(31)と、当該ボルト(31)に併設され、前記施療時に前記第1の弾性力に合成されるように第2の弾性力(F2)を前記カップ(36)に与える第2の弾性部材(34)とを備え、
前記カップ(36)は、当該カップの前記体表面に当接する縁部(36OT)の形状を、前記施療部位の違いに応じて変更するため、予め形成した複数種の当該縁部(36OT)の形状を持つ複数のカップから選択して前記1対の支持部(22C)に着脱自在に取り付け可能に構成した
ことを特徴とするマッサージ機。
【請求項2】
前記カップ(36)の深さは、外力の掛からない自然状態で前記接触子(40)が前記片側開放の面よりも突出させるように設定される、ことを特徴とする請求項1に記載のマッサージ機。
【請求項3】
前記押圧手段(12(21,22))は、前記第1の弾性部材(21)として、前記施療時に前記第1の弾性力を発生する1つの略U字状のアーム部(21)を備える
ことを特徴とする請求項2に記載のマッサージ機。
【請求項4】
前記1対のマッサージヘッド(23)は、前記第1の弾性力と前記第2の弾性力(F2)の合成力を以って前記体表に当接して当該回転軸の回転により当該体表上で回転する前記複数の接触子(40)をそれぞれ備えたことを特徴とする請求項1に記載のマッサージ機。
【請求項5】
前記カップ(36)は、
前記支持部に着脱自在に支持される底部(36BT)と、この底部(36BT)の周辺部から起立する壁部(36W)と、その壁部(36W)の前記体表面に当接させられる縁部(36OT)とが一体に形成された、樹脂製の素材で形成されたカップ構造を有するカップ基体と、
このカップ基体に支持され、少なくとも前記体表面に当接する前記縁部(36OT)を有する樹脂製の当接体(114)と、を
備えたことを特徴とする請求項1に記載のマッサージ機。
【請求項6】
前記カップ(36)の前記開放面を覆って前記接触子(40)が前記体表に直接接触することを防止する抗菌性の部材(49)を着脱自在に備えることを特徴とする請求項1に記載のマッサージ機。
【請求項7】
前記1対の回転駆動部(24)の回転駆動を制御するコントローラ(55)を備え、
このコントローラ(55)は、前記マッサージ機と一体に又は別体に設けられたケース部(11,111)と、このケース部(11,111)に収納され、且つ前記1対の回転駆動部(24)の回転駆動を制御する電気的な機構(61~68)とを備えたことを特徴とする請求項3に記載のマッサージ機。
【請求項8】
前記ケース部(11,111)が前記略U字状のアーム部(21)のほぼ中心部分に係止し、これにより、前記押圧手段(12(21,22))、前記1対の回転駆動部(24)、前記ケース部(11,111)、前記1対のマッサージヘッド(23)、及び前記1対の位置ずれ防止部(36)が全体として一体化され、前記被施療者の施療部位が顔面の場合に、その一体化されたマッサージ機は当該被施療者の顔から胸元に収まり、当該被施療者が手で前記ケース部(11,111)を保持することでマッサージ機全体を保持できるように構成したことを特徴とする請求項7に記載のマッサージ機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の顔面等の一部をマッサージすることができるマッサージ機に係り、特に、容易に可搬でき、咀嚼筋理学療法等の施術を行うことができるマッサージ機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、口腔の病気や機能低下が全身の病気の発生や長寿社会の弊害になることが頻繁に指摘されている。
【0003】
口腔は、飲食物の咀嚼と嚥下という消化器としての役割、呼吸と発声という呼吸器としての役割、および飲食物の味覚、温度や感触(食感)を受容する感覚器としての役割を持っている。この大切な役割を果たす口腔だが、大小幾つもの筋肉やその他の構造が様々な機能を分担している。なかでも、食物の咀嚼や会話で口の開閉をおこなう顎運動の機能は、顎関節を動かす咀嚼(そしゃく)筋が担っている。口腔の機能はさまざまな要因で低下する。要因のひとつである顎関節症は数百万人の患者がいる代表的な歯科疾患であるが、口が開かない、口を開けると耳の前にある顎関節が痛んだり、口がまっすぐに開かずに顔が歪んだり、関節から雑音が出たりして生活に大きな支障をきたす。
【0004】
口腔機能の低下を完全に止める治療法は、未だ確立されていないのが実情である。しかし、マッサージやトレーニングを適切に応用することにより、口腔機能を賦活(活性化)して機能低下を食い止める事は可能である。
【0005】
例えば、下顎を動かして口の開閉運動をおこなう咀嚼筋(そしゃくきん)のマッサージは顎関節症にともなう筋痛や口が開きづらくなる開口障害を治療する効果があることが判っている(非特許文献参照)。また,咀嚼運動の賦活(活性化)により,口腔乾燥や嚥下障害にも良い効果をもたらすことも判っている。
【0006】
従来、咀嚼筋のマッサージ治療をおこなう装置としては、特許文献1,2、及び3等に記載の装置が知られている。これらの特許文献に記載の装置は、美顔ローラーなどの美容機器類とは全く異なる施療用の装置である。具体的には、本格的な揉捏法(じゅうねつほう)と軽擦法(けいさつほう)によるマッサージを咀嚼筋に施し、顎関節症を治療する医療用マッサージロボットである。このロボットによる施術は医療行為に一環であるため、医師が操作するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO/2008/041457
【文献】特開2010-75571
【文献】特開2009-240353
【非特許文献】
【0008】
【文献】勝又明敏,飯田幸弘,藤下昌巳,泉雅浩,有地淑子,小木信美,五十嵐千浪,小佐野貴識,小林馨,石井裕之,古賀裕樹,小保川祐一,高西淳夫.ロボットによる咀嚼筋マッサージの臨床応用、日本顎関節学会雑誌、21(2):110-115.2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した医療用ロボットは、治療椅子に取り付けられ、先端に接触子(揉み玉)を保持したアームを備え、コンピュータからの指令で稼働するものである。このため、装置としては大形・重量化し、コンピュータ操作も伴う。つまり、15分程度の咀嚼筋のマッサージを週に数回、行って治療効果を上げようとした場合、手軽にマッサージ機をセットしてという訳にもいかず、医師の操作上の手間や労力の負担増は回避できない。
【0010】
また、患者が座る椅子を備える必要があるので、これは重量物となり、医師等が医療施設において容易に運べるものではなく、施術を行う医師の運用上の負担になっていた。
【0011】
また、かかる医療用マッサージロボットの場合、その接触子(揉み玉)を医師が患者顔面の咀嚼筋付近にセットする。ロボットは、所定のアルゴリズムに従って、その接触子を回転させるのであるが、その回転中に、患者体表の状態(骨格、体表摩擦など)に因っては、接触子が最初のセット位置からずれることが多い。勿論、ずれた状態でのマッサージは施術的に良くないので、医師は施術中も目を離すことができず、この点でも医師の操作上の負担増になっていた。
【0012】
そこで、本発明は、従来の顔面等をマッサージする医療用マッサージ機が抱える問題を解決しようとするもので、小形軽量で可搬性であり、施術中のマッサージ位置のずれを防止でき、施術者(歯科医師等)による施術又は指示の下で、被施療者(患者)の体の一部(顔、脚部の筋肉など)に的確にマッサージを施すことができるマッサージ機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係るマッサージ機(1)は、
施療時に被施療者(P)の施療部位の互いに相対する又は略相対する体表両面にそれぞれの側に位置させる1対の支持部(22C)を、それぞれ、当該体表に第1の弾性力(F1)を以って押圧する第1の弾性部材(21)を備えた押圧手段(12(21,22))と、
前記押圧手段の前記1対の部位それぞれの前記被施療者の施療部位に対向する側に設けられた1対の回転駆動部(24)と、
前記1対の回転駆動部(24)それぞれの回転軸(24A)に連結し、かつ、前記体表に当接して当該回転軸の回転により当該体表上で回転するとともに当該体表上で転動可能なマッサージ用の複数の接触子(40)をそれぞれ備えた1対のマッサージヘッド(23)と、
この1対のマッサージヘッド(23)それぞれに前記複数の接触子(40)を囲繞し且つ前記回転軸の回転を許容するように設けられるとともに、前記体表に当接しながら、当該接触子(40)が回転するときの当該体表上での位置ずれを防止又は抑制する1対の位置ずれ防止部(36)と、を備え、
前記1対の位置ずれ防止部(36)は、前記押圧手段(12(21,22))の前記1対の支持部(22C)の各支持部に固定的に支持される底部(36BT)を有し、前記複数の接触子(40)を転動自在に内包し、かつ、前記体表側の面を開放した片側開放のカップ(36)として構成され、
前記押圧手段(12(21,22))と前記位置ずれ防止部(36)との間に、前記1対の支持部(22C)の各支持部に取り付けられたボルト(31)と、このボルト(31)に併設され、前記施療時に前記第1の弾性力に合成されるように第2の弾性力(F2)を前記カップ(36)に与える第2の弾性部材(34)とを備え、
前記カップ(36)は、当該カップの前記体表面に当接する縁部(36OT)の形状を前記施療部位の違いに応じて変更するため、予め形成した複数種の縁部(114OT)の形状を持つ複数のパッド(114)から選択して当該カップ(36)に着脱自在に取り付け可能に構成した
ことを特徴とする。
【0014】
これにより、1対のマッサージヘッドを例えば施療部位としての顔面(例えば咀嚼筋や側頭筋の部位)の表面や太腿を挟むように当接させることで、押圧手段が発生する第1の弾性力に基づいて、当該施療部位がその両側から押圧される。このため、複数の接触子が施療部位の表面で回転(公転)することで、その複数の接触子が同じポイントを波状的に交互に通過する。これにより、そのポイントは揉捏機能や軽擦機能によりマッサージされる。
【0015】
このときに、1対の位置ずれ防止部がそれぞれ複数の接触子を囲繞し、かつそれらの周囲において施療部位を押圧している。この押圧により、施療部位の表面を相対的に少しだけ膨張させるとともに、固くさせ且つ平坦化させる。このため、複数の接触子が、その回転(公転)に伴って施療部位の凹凸や軟性による余分な反力や引っ張り力を受けるという状況が殆ど確実に排除されるので、回転(公転)による運動が容易になる。これと共に、複数の接触子には、位置ずれ防止部の押圧による押え機能が与えられるので、複数の接触子の回転(公転)による位置ずれは確実に防止される。
【0016】
一方で、本発明に係るマッサージ機は、押圧手段の施療部位に相対する1対の支持部それぞれに回転駆動部、マッサージヘッド、及び位置ずれ防止部を取り付けるだけの比較的簡素な構成を持つ。このため、マッサージ機としては、小形かつ軽量であり、医師や被施療者自身が可搬できる。さらに、位置ずれ防止部としてのカップの、施療部位の体表面に当接させられる縁部の形状を、その体表面の形状に合わせて様々に容易に変更できる。
【0017】
上記主構成において、好適な一例として、前記カップの深さは、外力の掛からない自然状態で前記接触子が当該開放面よりも突出させるように設定される。
【0018】
さらに好適には、前記押圧手段は、前記第1の弾性部材として、前記施療時に前記第1の弾性力を発生する1つの略U字状のアーム部を備える。
【0020】
さらに、好適には、前記1対の回転駆動部の回転駆動を制御するコントローラを備え、このコントローラは、前記マッサージ機と一体に又は別体に設けられたケース部と、このケース部に収納され、且つ前記1対の回転駆動部の回転駆動を制御する電気的な機構とを備えた。
【0021】
これらの構成の作用効果は、以下の図面と共に説明される様々な実施形態及びその変形例によって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
添付図面において、
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係るマッサージ機の装着状態を示す斜視図である。
図2図2は、上記実施形態に係るマッサージ機のコントロールボックスを除く部分の斜視図(同図(A))、正面図(同図(B))、及び側面図(同図C))である。
図3図3は、上記実施形態に係るマッサージ機のマッサージヘッド及び電動モータの一部破断した斜視図(同図(A))、側面図(同図(B))、及び同図(B)のA-A線に沿った断面図(同図C))である。
図4図4は、上記実施形態に係るマッサージ機の揉み玉保持部の側面図(同図(A))、及び、同図(A)のA-A線に沿った一部破断した側面図(同図(B)である。
図5図5は、上記実施形態に係るマッサージ機のコントロールボックスに収容されている制御要素の構成を例示する概略ブロック図である。
図6図6は、制御回路により実行されるマッサージのための電動モータ制御を例示する概略フローチャートである。
図7図7は、上記実施形態に係るマッサージ機において被施療者の施療部位を押圧する力学系を概略的に説明するモデル図である。
図8図8は、被施療者の施療部位をマッサージするときのカップの押圧による位置ずれ防止を説明する図である。
図9図9は、被施療者の施療部位(咀嚼筋)の位置と揉み玉の運動との関係を説明する図である。
図10図10は、前述した実施形態におけるカップ及び揉み玉の保持機構の別の例を示す、図3(C)に対応する断面図である。
図11図11は、本発明のマッサージ機の変形例を説明する図である。
図12図12は、別の変形例を説明する図である。
図13図13は、本発明に係るマッサージ機の第2の実施形態を説明する側面図(同図(A))及び正面図(同図(B))である。
図14図14は、本発明のマッサージ機の別の使用例を説明する、人体の大腿部を施療位置としたときの例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面に従って、本発明に係るマッサージ機の好適な第1の実施形態を説明する。
【0024】
図1に、本実施形態に係る携帯型のマッサージ機1(以下、携帯型マッサージ機又は単にマッサージ機と呼ぶ)の施療時の外観及びそれを被施療者(患者)Pに装着した様子を併せて示す。
【0025】
図1に示すように、このマッサージ機1は、被施療者Pがその一部、具体的には、後述するコントロールボックス11(ケース部)を両手で胸元に保持し、かつそのコントロールボックス11から略U字状に延出するアーム部12の両先端部を顔面の施療部位に当接させた状態で使用される。このため、アーム部12を被施療者Pから外すことで容易に着脱でき、したがって、このマッサージ機1は可搬される携帯型装置として構成されている。このマッサージ機1の被施療者Pへのセットは医師又はその指示を受けたもの(以下、医師等)が行う。
【0026】
まず、アーム部12の構成及び機能から説明する。図2(A)、(B)、及び(C)にアーム部12の斜視図、正面図、及び側面図をそれぞれ示す。ここで、アーム部12が被施療者Pに施療のために装着されたときに、被施療者Pをその前後から見た方向を前後方向と呼び、その顔面側方を横方向と呼ぶ。
【0027】
図2に示すように、アーム部12は、前後方向から見たときに略U字状を成し、かつ横方向からみたときに矩形状を成す板バネ21(第1の弾性部材として機能する)と、この板バネ21の両先端部それぞれに固着され且つその板バネ21を更に延長させる2つアーム延長部22と、その両アーム延長部22それぞれの先端に取り付けられた2つのマッサージヘッド23と、2つの回転駆動部としての電動モータ24とを備える。この板バネ21と2つのアーム延長部22とにより、その全体として、前述した略U字状の形状を維持している。
【0028】
板バネ21は、例えば鋼部材を用いて、その内側、即ち横方向に所定の張力が与えられている。つまり、板バネ21をその自然状態にあるU字状角度から横方向外側に広げようとすると、その張力により横方向内側に引っ張る張力(第1の弾性力)F1が働く。両アーム延長部22はそれぞれ、前後方向FRからみて(装着時)段違い形状を持つように形成され、横方向LTの外側に広がっている。このアーム延長部22のそれぞれはバネ性を持たない例えば金属又はプラスチック製の板材である。
【0029】
このアーム延長部22のそれぞれは、下側の直線板部22Aと、この直線板部22Aの端からその延長方向に延びて横方向外側に広がる傾斜板部22Bと、この傾斜板部22Bの端から前記下側直線板部22Aと平行にその延長方向に延びる上側の直線板部22Cとから成る一体の板部材である。下側直線板部22Aがネジ等の固定部材を介して板バネ21の両方の上側端部それぞれに固定されている。このため、ベースとなる板バネ21の張力(第1の弾性力)F1はそのまま両アーム延長部22それぞれの先端部に伝えられ、板バネ21が横方向外側に広げられるときには、その反力としての張力F1が横方向内側に作用する。
【0030】
また、2つのマッサージヘッド23及び2つの電動モータ24は、それぞれ、各アーム延長部22の上側直線板部22Cの側面にその横方向LTの内外に渡って設けられている。この取付状態を図3に示す。同図(A),(B),(C)に示すように、電動モータ24は、下側直線板部22Aの横方向外側に固設された回転駆動源として機能する。この電動モータ24は例えばバイポーラ型のステッピングモータであり、その回転軸24Aは上側直線板部22Cに設けられた孔HL(図3(C)参照)に遊挿されて、その上側直線板部22Cの横方向内側に延びている。電動モータ24の回転駆動は、後述するコントロールボックス11に設けたコントローラによって制御される。
【0031】
さらに、2つのマッサージヘッド23のそれぞれには、上記電動モータ24の回転軸24Aの回転駆動力が伝えられる。さらに、各バッド23は、その回転軸24Aの回転を受ける部分を第2及び第3の弾性力F2,F3によって保持するように構成されている。具体的には、各マッサージヘッド23は、図3(A),(B)、及び(C)から判るように、上側直線板部22Cに、同板部の横方向内側面上に取り付けらえた4本のコイルスプリング付(サスペンション付)のボルト31と、前記回転軸24Aの先端側の一部を挿入させ且つネジ32により当該回転軸24Aに一定化させる継手33と、を備える。コイルスプリング付のボルト31は、第2の弾性部材としてのコイルスプリング34を備え、ボルト31の頭部方向から下方に圧縮されると、反発して延びようとする第2の弾性力F2が発生する(図3(C)参照)。
【0032】
これら4本のボルト31(及びコイルスプリング34)は、上側直線板部22Cから、後述するカップ36の底部36BTを、カップの所定範囲で上下動可能に支持するように構成されている。しかも、4本のボルト31(及びコイルスプリング34)は、後述するカップ36の上下動に関して、互いに独立している。
【0033】
上記継手33は例えばアルミ製の円筒状に形成されており、上述したように電動モータ24の回転軸24Aの一部を挿入させる穴部を有する。この継手33は、その回転軸24Aが回転すると一体に回転する(図3(C)の矢印R1を参照)。継手33には、その外周面の長手方向の中央付近に段差部33Aが形成されている。
【0034】
この段差部33Aを利用して、各マッサージヘッド23の施療用の揉み玉(接触子)40(後述する)を回転保持する機構が構成されている。つまり、この揉み玉回転保持機構は、各マッサージヘッド23は前述した電動モータ側の機構に加え、樹脂製のカップ36と、このカップ側と電動モータ側とを繋ぐ継手33と、このカップ36の底部36BTを貫通し且つ電動モータの回転軸24Aに結合された継手33の先端側に摺動可能に取り付けられた揉み玉保持部37とを備える(図3(C)参照)。このカップ36の底部36BTの中心部には、所定径の孔36HLが空けられている。この孔36HLを介して継手33が遊挿されており、電動モータ24の回転をカップ36とは独立して揉み玉回転保持機構へ伝えることができる。
【0035】
さらに、この揉み玉保持部37は、図4(A),(B)に示すように、ベース部38と、このベース部38と前記継手33の段差部33Aとの間に配置される第3の弾性部材としての1つのコイルスプリング39(図3(C)を参照)と、ベース部38に保持された3つの樹脂製で且つ球状の揉み玉40(アーム部12の各先端において3個の揉み玉)とを備える。このため、コイルスプリング39と前述した4個のコイルスプリング34は、上側直線板部22Cに支持される点では同じであるが、同板部22Cに並列に力学的に結合される、互いに独立した力学系モデルを構成している(図7参照)。
【0036】
ベース部38は、金属又はプラスチックで形成されており、円板上のディスク38Aと、その表裏それぞれの面に一体に突設された2種類の筒体38B,38Cとを備える。このうち、裏面の中心部分には、一方の筒体38Bが突設されている。この筒体38Bは、図3(C)に示すように、その端部側に開口した孔NAを有し、この孔NAに前述した継手33の先端側の部分が挿入され、スプリングピン41により相互に一体に固定されている。このため、継手33、即ち、電動モータ24の回転軸24Aが回転すると、その回転力はディスク38Aに伝えられてそのディスク38Aが回転するようになっている。
【0037】
更に、上記コイルスプリング39は、継手33の周囲に巻装され、上記筒体38Bの下端とカップ36の底面との間に介挿されている。この筒体38Bの側面には、挿入されたスプリングピン41が上下に移動できる長穴NAが形成されている(図4(A)参照)。
【0038】
このため、ディスク38Aからコイルスプリング39に圧縮力が加わると、コイルスプリング39は、これに反発する反発力(第3の弾性力)F3を発生させる(図3(C)参照)。圧縮力がコイルスプリング39のバネ定数を超えると、コイルスプリング39は縮み始めるが、この縮みは一定長さの長穴NAをスプリングピン41が表側(横方向の内側:(図4(A)参照)へ移動することで、その移動分だけ吸収される。
【0039】
なお、本実施形態において、板バネ21の張力(第1の弾性力)F1、第2の弾性部材としてのコイルスプリング34の第2の弾性力F2,及び第3の弾性部材としてのコイルスプリング39の第3の弾性力F3の関係は、F1>F2=F3の関係に設定されている。また、コイルスプリング34、39に力が作用していない自然状態のときには、揉み玉40の頂点は、図3(B)に示すように、カップ36の端部から所定高さHだけ突出するように形成されている。
【0040】
ディスク38Aの表面には、図3,4から判るように、もう1種類の筒体38Cが円周方向に等間隔で3個、突設されている。この突設位置は、図3(A)に示すように、ディスク38Aの表面において中心軸Oの周りに、その円周方向に等角度で配置されている。なお、中心軸Oの位置には、裏面において継手33と固定・連結される一方の筒体38Bが位置している。
【0041】
上記3個の筒体38Cにはそれぞれ、ディスク38Aを底部に台座42が設置されている。筒体38Cの内側の高さHc(台座42の厚さを除く)は、揉み玉40の直径D/2よりも所定分だけ高くなるようにサイズが設定されている。また、筒体38Cの直径Dは揉み玉40の直径Dよりも所定長さだけ大きく形成されている。このため、台座42の面上で揉み玉40が転動自在に載置されている。つまり、揉み玉保持部37は電動モータ24の回転駆動によって、矢印R1(図3(C)参照)に示す如く、円周方向の何れかに回転させられるが、このとき、各揉み玉40自体はそれぞれの筒体28Cに保持されつつも、顔面との接触摩擦に応じつつ自在に転動(自転)できるようになっている。この転動により、揉み玉40が顔面に押圧されながら、顔面上を回転(公転)することで顔面下の咀嚼筋(咬筋、側頭筋など)を揉むことができる。
【0042】
さらに、各筒体38Cの内側の開放側端部の一部に突起部(図示せず)が形成されている。このため、各揉み玉40はそれぞれの筒体38Cの内側ボアで自由に転動しながらも、外部の飛び出ないように形成されている。
【0043】
カップ36は、被施療者Pの顔面上で揉み玉40を回転させるときに、当該揉み玉40の回転中の位置ずれ(回転に伴って揉み玉40の顔面への当接位置が変化すること)を防止する機能を有する。このため、カップ36はこの位置ずれを防止しつつ、かつ良好な被施療感を維持するため、シリコン製の有底状のカップとして形成されている。カップ36の底部36BTが前述したように継手33に、コイルスプリング39により所定範囲で上下動可能に保持されている。
【0044】
このカップ36の開放端部36OTは、被施療者Pの顔面に当接される部位であり、例えば咀嚼筋の周囲をその顔面上から囲繞する大きさに形成されている。この開放端部36OTは、カップ36の壁部36Wから一体に形成され、かつ、その端部位置で外側に折り返して形成される。これにより、カップ36自体の弾力とも相まって、その開放端部36OTが第4の弾性力を発揮できるようになっている(図3(C)参照)。この第4の弾性力は主に、被施療者Pの顔面への接触面積を広げて密着力を強めること、及び、良好な被施療感(痛くない)を維持することを意図している。
【0045】
勿論、この開放端部36OTではなく、端部になるほど肉厚に形成してもよい。また、折り返し構造でなく、単に壁部36Wからストレートに伸びる一重の端部であってもよい。この場合、第4の弾性力は殆ど零である。
【0046】
さらに、このカップ36の形状は、本実施形態では有底状の円柱形としているが、必ずしも円柱形である必要なく、揉み玉保持部37を内包できるのであれば、その形状は自在である。つまり、本実施形態のように、開放端部36OTの形状が、開放方向から見た場合に、図3(A)に示すように円形である必要はなく、施療部位の形状に合わせて形成してもよい。例えば、開放端部36OTは、開放方向からみた場合に、楕円形であっても、略三角形であってもよい。
【0047】
なお、その施療時には、図3(B)に示すように、揉み玉40を含めて、カップ36の開放端部36OTの全体を覆う抗菌性のカバー49が取り付けられる。このカバー49には、その周囲にゴムを入れており、簡単に着脱自在に形成されている。勿論、その係止部材としてはゴムに限らず、面ファスナなどを用いてもよい。
【0048】
一方、前述したコントロールボックス11は、図1,2に示すように、本実施では、被施療者Pが両手で胸元の保持できるボックス状のサイズに形成されている。このコントロールボックス11の内部には、図2に示すように、前述した板バネ21の長手方向の中心位置、即ち、U字状の底部の中心部に固定された支持棒51と、この支持棒51に支持された平たい箱状の基板ケース52とを備える。基板ケース52の両端部52Aには、図2(A)に示すように、板バネ21に遊挿可能な隙間KHが設けられている。このため、板バネ21はこの両サイドの隙間KHに挿入・係止されつつ、支持棒51、即ち、コントロールボックス11に支持されている。
【0049】
施療時に、医師又は医師の指示を受けたもの(被施療者P自身を含む)はアーム部12を手で少し広げながら、そのアーム部12の先端部分を被施療者Pの顔面にセットするが、このときのアーム部12の広がりによる板バネ21のU字状角度の変化は、隙間KHの遊びにより吸収される。
【0050】
基板ケース52の内部には、電動モータ24を回転させるとともに、その回転駆動を制御する制御基板55が内蔵されている。この制御基板55には、図5に示すように、各種のスイッチや指示器からの指令を受けるインターフェース回路61、制御回路62、ドライバ63等の制御要素を備える。本実施形態では、図5に示すように、制御回路62はCPU62A,ROM62B,RAM62Cなどの演算処理要素を備え、ソフトウェア処理の下で電動モータ24の回転を制御するように構成されている。勿論、この制御回路は論理回路等のデジタル回路で構成してもよい。
【0051】
ROM62Bには、施療者からの指示に応じて起動させるマッサージ機の動作プログラムが予め格納されている。CPU62Aは、施療者からの指示に応じてROM62Bの動作プログラムを読み出し、その手順を順次実行する。RAM62Cは、CPU62Aがその動作中のデータの一時記憶領域として用いる。
【0052】
一方、各種のスイッチ及び指示器としては、電源のオン・オフスイッチ64、マッサージ開始を指示するスタートスイッチ65、電動モータ24の回転(正転/逆転)を指示する正/逆スイッチ66、マッサージ時間を指示するタイマ67、及び各種の表示用LED68を含む。
【0053】
図6には、このマッサージ機の動作プログラムの代表例を示す。マッサージ動作が指令されると、CPU62Aはマッサージ条件(モータ回転方向(正転/逆転)、マッサージ時間)を指示するスイッチ66やタイマ67から読み込む(ステップS1)。次いで、CPU62Aは、マッサージ開始準備が整い、スタートスイッチ65が押されたか否かをチェックし(ステップS2)、YESであればドライバ63に指令された方向の回転を指示する(ステップS3)。これにより、電動モータ24は指示された方向に回転を開始して、マッサージ施術が開示される。さらに、CPU62Aは、マッサージ開始とともに、指定されたマッサージ時間(例えば15分)の残り時間を計測し(タイマ)、その計測時間を表示させる(ステップS4)。
【0054】
また、CPU62Aは、被施術者又は施術者からの停止ボタンの指示を読み込み、何等かの都合により、マッサージ時間の終了を待たずにマッサージを停止するか否かを判断する(ステップS5)。この判断でNOの場合、マッサージを続けられるので、次いで、指定されたマッサージ時間が経過したか否かをタイマから判断する(ステップS6)。この判断でYESの場合には、マッサージ時間が終了したとして、ドライバ63に電動モータ24の停止を指示させる(ステップS7)。一方、ステップS6の判断でNOとなる場合、処理をステップS5に戻して上述した処理をマッサージ時間のタイムアップまで繰り返す。
【0055】
一方、上述したステップS5の判断においてYESとなる場合、マッサージを途中で中止したい場合である。この場合は、CPU62Aはその処理をステップS7に進めて、途中で電動モータ25の回転を停止させる。
【0056】
以上の構成から、左右の両マッサージヘッド23が被施療者Pの咀嚼筋(咬筋、側頭筋など)MAが在る部位の表面(顔面)にそれぞれ装着されたときに、その顔面に横方向LTに作用する弾性力は、図1に示すように、張力F1(第1の弾性力)、第2の弾性力F2、及び/又は、第3の弾性力F3が合成した値になる。このときの力学系モデルは図7に示すように表される。
【0057】
つまり、図8に模式的に示すように、これらの弾性力F1,F2,及びF3のうち、2つの第1、第3の弾性力F1、F3が合成された押圧力を以って、カップ36の縁部が被施療者Pに顔両面の施療部位に当接される。また、第1及び第2の弾性力F1、F2が合成された押圧力(この力は例えば10N程度に設定される)を以って、揉み玉40が被施療者Pに顔両面の施療部位に当接される。第2及び第3の押圧力は、施療時には、即ち、カップ36の開放端部36OTが施療部位に押圧・当接されたときには、第2及び第3の弾性力F2,F3はほぼバランスし、マッサージ力(押圧力)は第1の弾性力F1によってほぼ決まるように設定されている。
【0058】
このため、この装着状態においてコントロールボックス11から施療開始の指示を受けると、両側の電動モータ24が例えば横方向LTの一方の側から見た場合に同一方向に回転する。この回転により、図9に模式的に示すように、それぞれの揉み玉40も顔面(咀嚼筋の位置の顔面)の表面を例えば矢印R1で示すように一円周方向に回転しながら移動する。つまり、咀嚼筋MAを線で表すとすると、この線MA(咀嚼筋の筋)には、それに交差する方向R2に次々に各揉み玉40による押圧力が掛かる。つまり、この時間と共に波動的に印加される押圧力により、顔面、即ち、その内部の咀嚼筋MAへの揉捏法と軽擦法によるマッサージ効果をもたらす。
【0059】
このときに、揉み玉40は、その回転(公転)に伴う転動(自転)も許容される。このため、揉み玉40はスムーズに顔面上の移動でき、被施術感(揉み玉の押圧に拠る圧迫感など)の悪化防止と確実なマッサージ効果の確保とを両立できる。
【0060】
さらに、本実施形態であっても、例えばカップ36の顔面押圧が無い状態で複数の揉み玉40は顔面への当接された状態で回転(公転)すると、その顔面との摩擦や凹凸具合と回転との関わりによって、複数の揉み玉40がその全体として、顔面上の移動してしまう、所謂、位置ずれが発生し易い。通常、施療部位(顔面や脚部)は平坦ではないし、その内部の例えば咀嚼筋の弾力もポイント毎に異なるので、回転しようとする揉み玉40が受ける抵抗力は施療部位であっても、そのポイント毎に異なる。しかも、複数個の揉み玉が同一時間に受ける抵抗力は揉み玉毎に異なることになる。このため、そのような状態では、一方の揉み玉を梃にして他方の1つまたは複数の揉み玉にベクトル的に作用する力が働く。したがって、実際問題として、本実施例に係るカップ36が無い状態で複数の揉み玉40が回転した場合、複数の揉み玉40が回転と伴に位置ずれを起こして、確実なマッサージ効果どころか、マッサージしてはいけない部位をマッサージすることになりかねない。
【0061】
しかしながら、本実施形態によれば、装着状態において顔面に当接された3つの揉み玉40を囲むように略円筒状のカップ36の開放端部(縁部)36OTも顔面に押圧力(F1+F3)を以って当接される。この当接により、図8に示すように、その開放端部36OTは顔面表面をその内部側に少し押圧するので、当然、その内側、即ち咀嚼筋の部位の表面は平坦化・硬化され且つその周囲よりも少し盛り上がるようになる(図8の記号Mを参照)。このため、盛り上がった部分、即ち、咀嚼筋の部位の表面の転がり抵抗は一様化される。さらに、開放端部36OTの顔面内側への押圧により、カップ36自体の顔面上での位置が固定化される。したがって、3つの揉み玉40がそれぞれ同一方向に回転(公転)した場合であっても、顔表面から受ける転がり抵抗は一様化される。しかも、それら3つの揉み玉40の位置が回転と伴に変化しようと力が揉み玉保持部37に加わっても、その反力は、カップ36の底部36BTの孔36HLにより規制される。即ち、継手33、つまり電動モータ24の回転軸24Aの顔面上の位置が移動しないように規制される。本実施形態においては、かかる両方の作用が相まって、複数の揉み玉40がその全体として、顔面上の移動してしまう、所謂、位置ずれを確実に防止できる。
【0062】
さらに、本実施形態においては、カップ36の底部36BTの孔36HLを継手33及びスプリング38が遊挿している。つまり、カップ36を保持する機構と3つの揉み玉40を保持する機構とが、上側の直線板部22C上で、互いに力学的に独立している。さらに、カップ36は、4本のコイルスプリング付きのボルト31で、その底部36BTが傾動可能に支持されている。このため、カップ36を被施療者Pの顔面に当接させた場合、カップ36の開放端部36OTが成す面の角度を図8の仮想線IM、IMで示す如く傾けられる。顔面の咀嚼筋MAの表面は丸みを帯びていたり傾斜したりしているなど、その形状に個人差があるが、このような個人差を一定範囲で吸収でき、カップ36を施療部位に確実に当接・密着でき、揉捏作用と軽擦作用に拠るマッサージ効果をより高めることに寄与する。
【0063】
以上のことから、本実施形態似係るマッサージ機1は以下のような作用効果を発揮する。
【0064】
まず、小形に且つ可搬型に構成される。このため、施療者は、このマッサージ機1を患者の居る場所まで運んで、その場で、施療することができる。患者は、施療者又は自らアーム部12を所望の施療位置に設定した後、マッサージが施療されている時間(例えば15分程度)、自分でコントロールボックス11の部分を保持していればよく、簡単に施療される。このため、施療者の操作上の負担も少ない。なお、このときの施療者Pは座位の姿勢で、又はリクライニングシートに斜め座わる姿勢で、ベッドに横臥した姿勢で施術される。
【0065】
さらに、施療中、即ち、マッサージ治療を行っている間に、揉み玉40がその回転(公転)に伴って位置ずれを生じることもない。これは、左右それぞれの3個の揉み玉40の周囲を、カップ36の円状の開放端部36OTによって第1及び第2の弾性力F1+F2を以って押圧しているからである。3個の揉み玉40をモータ回転に伴って公転させる軸、即ち、回転軸24Aに繋がる継手33の軸ブレがカップ36により規制されるからである。したがって、揉み玉40の顔面上での位置ずれが無い分、施療者がその位置ずれを修正する手間も殆どなくなり、その点でも施療者の施療上の負担を軽減できるとともに、マッサージ時間が短時間化される。
【0066】
<変形例>
上述した実施形態に係るマッサージ機は更に様々な態様に変形できる。
【0067】
<変形例1>
さらに、各マッサージヘッド23の施療用の揉み玉(接触子)40を回転保持する機構は、図10に示すように構成してもよい。この変形例では、段差部33Aを利用して、各マッサージヘッド23の施療用の揉み玉40を回転保持する機構が搭載されている。つまり、この揉み玉回転保持機構は、各マッサージヘッド23は前述した電動モータ側の機構に加え、樹脂製のカップ36と、このカップ側と電動モータ側とを繋ぐ継手33と、この継手33の先端側に摺動可能に取り付けられた揉み玉保持部37とを備える。このカップ36の底部36BTの中心部には、所定径の孔36HLが空けられている。この孔36HLを介して継手33が遊挿されており、電動モータ24の回転をカップ36とは独立して揉み玉回転保持機構へ伝えることができる。これによっても、所定径の孔36HLに所定のクリアランスが設けられるため、力学的にカップ36を介して、カップ自身と揉み玉40とを上側直線板部22C上に保持することができる。したがって、カップ36と揉み玉40とが顔面に当接させたときに、カップ36の傾動の自由度も前述した実施懈怠のものとほぼ同等に確保できるので、良好なマッサージ効果を得ることができる。さらに、かかる回転保持機構の設計上の自由度も上げることができる。
【0068】
<変形例2>
また、前述したマッサージ機1は、そのコントロールボックス11を略U字状のアーム部12の下端側に一体に設け、コントロールボックス11の制御機構と電動モータ24と有線で接続していたが、必ずしもそのような形態に限定されない。
【0069】
被施療者Pは、例えばアーム部12自体を保持し、コントロールボックス11は別体で設けてもよい。その場合、アーム部12には、板バネ21又はアーム延長部22の一部に被施療者Pが保持する支持棒又は握り棒91を設けてもよい。
【0070】
図11には、握り棒91を設けた例を示す。被施療者Pは、マッサージ機2を装着した状態で、この握り棒91を胸元で握って保持する。
【0071】
<変形例3>
また、アーム部12を保持するには、必ずしも人手でなくてもよい。例えば図12に示すように、アーム部12を保持する台座101を設けてもよい。この台座101は例えば机の上に置かれ、これに保持されたマッサージ機2の2つのマッサージヘッド23の間に、被施療者Pが頭部を入れて保持させる姿勢を採る。この場合、コントロールボックス11はアーム部12とは別体で形成される。
【0072】
なお、台座101の代わりに、フロア上を可搬できるスタンドにマッサージ機2を保持させる構造を採用してもよい。
【0073】
<変形例4>
さらに、前述した実施形態又は上述の各種の変形例に係るマッサージ機において、アーム部12を保持する保持手段を設ける場合に、コントロールボックス11の制御機構から無線で電動モータ24の回転駆動を制御してもよい。この無線による通信手段を使用することで、コードを引き回す煩わしさから解消される。
【0074】
[第2の実施形態]
さらに、図13に、本発明の第2の実施形態に係るマッサージ機2を示す。ここで、前述した実施形態と同一又は同等の構成要素には同一符号を付して、その説明を省略又は簡略化する。
【0075】
このマッサージ機2は、前述したマッサージ機1に比べて、コントロールボックス111のアーム部12への取付位置を前後方向の前側にオフセットさせている点、及び、顔面への当接による揉み玉40の位置ずれ防止機能を発揮させるマッサージヘッド112の形状が異なる。
【0076】
まず、コントロールボックス111は、アーム部12の前側に取り付けられているため、シフト量Hsが発生する。このシフト量Hsの分だけ、コントロールボックス111が前側にずれるため、被施療者Pは、このコントロールボックス111を支持棒やハンドルの代わりに持ちやすくなる。また、例えば変形例2で説明したように、台座101にアーム部12を支持させた場合、被施療者Pの施療時の姿勢がより直立に近くなり、より楽な姿勢になる。
【0077】
一方、マッサージヘッド112は、そのカップとして、壁面且つ遊底構造であって、その開放端側の形状が楕円形(径D1と径D2が異なる)に形成されたカップ(カップ本体)113と、このカップ113の内側に装着した樹脂製のパッド114とを備える。
【0078】
このパッド114は、開口形状が楕円状の円筒状に形成され、その開放端部はその壁部よりも分厚い鍔部114OT(開放端をなす)を有している。そのため、このパッド114をカップ113に差し込んだときに、鍔部114OTはカップ113の開放端側の周縁を覆うことになる。
【0079】
これにより、マッサージ機2の装着時には、顔面両側面にパッド114の楕円状の鍔部114OTが前述の如く押圧・当接されることになる。さらに、カップ113の外側面は、そのモータ側から顔面側に掛けて縮径するようにテーパ面になっている。このテーパ面構造によって、パッド114を押圧する力が強まる。
【0080】
カップ本体113の内側には前述した実施例と同様に揉み玉40が回転する構造が設置さている。
【0081】
なお、コントロールボックス111は、無線によって電動モータ24の回転駆動を制御するように、アーム部12とは別体で設けてもよい。
【0082】
このため、本変形例のマッサージ機2においても、前述した実施例及び変形例と同様の作用効果を得る。とくに、カップ113及びパッド114の開放端部の形状を楕円状に設定しているので、施療部位の形状やマッサージを施したい筋肉等の形状により容易に合わせることができる。
【0083】
とくに、この変形例の場合、カップ113の形状はそのままにしておいて、開放端の形状を様々に形成してパッド114を予め用意しておくことができる。つまり、図13に示すように、パッド114の壁部111Wの形状は中空の楕円柱状であって、その開放端の114OTの形状を円形、略三角形、略四角形等に形成しておく。これにより、施療部位の体表面の形状の合った開放端形状を着脱自在に交換できる。
【0084】
<その他の変形例>
なお、揉み玉の数は、必ずしも、片方ずつ3個を持つ構成に限定されるものではない。揉み玉の数は2個で当ても、4個であってもよい。
【0085】
さらに、施療部位は、被施療者Pの必ずしも顔面(咀嚼筋等)に限られない。例えば、被施療者Pの上腕部、下肢の大腿部、下腿部等であってもよい。また、動物の体の一部であってもよい。
【0086】
図14には、被施療者Pの大腿部を施療するマッサージ機3とその使用法を示す。このマッサージ機3は、図13に記載したマッサージ機2と同様に可搬可能に構成されているが、マッサージ機3が床面等に置かれている点、及び、コントロールボックス111による揉み玉の駆動モードを選択できる点が異なる。椅子に座った被施療者Pは、その大腿部PSを左右両方のカップ113で挟んで、前述した実施形態及び変形例と同様にマッサージ機3を駆動させる。これにより、大腿部PSの筋肉を前述したと同様にマッサージできる。
【0087】
このときに、コントロールボックス111への操作によって、左右両方の揉み玉を同時に駆動させる同時モード、左右何れかの揉み玉を選択する選択モード、又はそれらを連続させるシーケンスモードなどを適宜選択できる。なお、選択モードで駆動させるときには、左右の揉み玉の回転数をそれぞれ変更可能にしてもよい。これにより、大腿部PSの内側及び外側の筋肉を互いに違う力でマッサージできる。これにより、スポーツ競技者や高齢者の筋力マッサージや筋力保全に貢献できる。
【符号の説明】
【0088】
1、2、3 マッサージ機
11,111 コントロールボックス(ケース部)
12 アーム部(押圧手段)
21 板バネ(押圧手段)
22 アーム延長部(押圧手段)
23,112 マッサージヘッド
24 電動モータ(回転駆動部)
24A 回転軸
34 コイルスプリング(第2の弾性部材)
36,113 カップ(位置ずれ防止部)
114 パッド(位置ずれ防止部)
37 揉み玉保持部
38 ベース部
40 揉み玉(接触子)
39 コイルスプリング(第3の弾性部材)
91 握り棒
101 台座
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14