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  • 特許-デファレンシャルギヤ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】デファレンシャルギヤ
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/02 20120101AFI20220829BHJP
   F16H 57/037 20120101ALI20220829BHJP
   F16H 48/40 20120101ALI20220829BHJP
【FI】
F16H57/02
F16H57/037
F16H48/40
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018171765
(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公開番号】P2020041677
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】山本 大貴
(72)【発明者】
【氏名】松田 太
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-102146(JP,A)
【文献】特開平05-010420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/00
F16H 48/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1分割体と第2分割体とを接合することにより外殻が構成されるデファレンシャルギヤであって、
前記第1分割体には、板状の第1突起が前記第2分割体との接合面に沿って形成され、
前記第2分割体には板状の第2突起が前記第1分割体との接合面に沿って形成され、
前記第2突起は、前記第1突起に対して前記第1分割体と前記第2分割体との並び方向に対向し、前記第1突起よりもサイズが大きく、前記第1分割体側から見たときに前記第1突起に隠れずに露出する部分を有している、デファレンシャルギヤ。
【請求項2】
前記第1分割体には、前記第2分割体側に開放される半円筒状の第1壁部が形成され、
前記第2分割体には、前記第1分割体側に開放される半円筒状の第2壁部が形成され、
前記第1壁部および前記第2壁部は、前記第1壁部の端部と前記第2壁部の端部とが突き合わされることにより、ドライブシャフトが挿通される円筒状の挿通部を構成し、
前記第1突起は、前記第1壁部に設けられ、
前記第2突起は、前記第2壁部に設けられている、請求項1に記載のデファレンシャルギヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デファレンシャルギヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両では、駆動源からの動力がトランスミッション(変速機)を介してデファレンシャルギヤ(差動装置)に伝達され、その動力がデファレンシャルギヤで左右のドライブシャフトの回転に変換されて、各ドライブシャフトの回転が駆動輪に伝達される。
【0003】
デファレンシャルギヤの外殻は、デフキャリアとデフカバーとにより構成されている。たとえば、左右の後輪に動力を伝達するためのデファレンシャルギヤでは、デフキャリアが前後両側に開放されており、その後側の開口がデフカバーにより閉塞される。デファレンシャルギヤの外殻の内部には、リングギヤ、ピニオンシャフト、2個のピニオンギヤおよび2個のサイドギヤなどが収容されるとともに、それらを潤滑するための潤滑油が貯留されている。そのため、デフキャリアとデフカバーとの間は、ガスケットでシールされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-123911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガスケットには、たとえば、液状ガスケットを用いることができる。液状ガスケットは、粘着性の薄層となり、デフキャリアとデフカバーとを互いに接着させる。そのため、デフキャリアからデフカバーが取り外されるときには、デフキャリアとデフカバーとの間にへらなどの薄板状の工具が差し込まれて、その工具でデフカバーがこじ開けられる。この作業は、大きい力および手間を要するため、作業者からは、作業性の向上が望まれている。
【0006】
本発明の目的は、外殻を構成する第1分割体と第2分割体とを容易に分割できる、デファレンシャルギヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明に係るデファレンシャルギヤは、第1分割体と第2分割体とを接合することにより外殻が構成されるデファレンシャルギヤであって、第1分割体または第2分割体の一方に、その他方の側から見たときに隠れずに露出する突起が形成されている。
【0008】
この構成によれば、第1分割体と第2分割体とを分割するときに、第1分割体または第2分割体の一方に形成されている突起をその他方の側からハンマなどの工具で叩くことができる。突起が叩かれることにより、応力波が発生し、その応力波が第1分割体と第2分割体との接合面に伝播する。そのため、第1分割体と第2分割体とが粘着性を有するガスケットを介して接合されていても、第1分割体と第2分割体とを容易に分離することができる。その結果、第1分割体と第2分割体とを分割する際の作業性を向上させることができる。
【0009】
突起は、第1分割体または第2分割体の一方において、その他方と接合される接合面を有する部分の周囲に形成されていてもよい。この構成により、突起が叩かれたときに発生する応力波を第1分割体と第2分割体との接合面に効率よく伝播させることができ、第1分割体と第2分割体とを分割する際の作業性を一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第1分割体と第2分割体とを容易に分割することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るデファレンシャルギヤが含まれる動力伝達機構の側面図である。
図2】動力伝達機構の後面図である。
図3】デファレンシャルギヤの挿通部の下側付近を前側から見た図である。
図4A】デファレンシャルギヤとドライブシャフトとの連結部分を後側から見た図であり、ドライブシャフトの抜き取り作業の開始前の状態を示す。
図4B】デファレンシャルギヤとドライブシャフトとの連結部分を後側から見た図であり、ドライブシャフトの抜き取り作業の途中の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0013】
<動力伝達機構の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係るデファレンシャルギヤ2が含まれる動力伝達機構1の側面図である。図2は、動力伝達機構1の後面図(車両の後方から見た図)である。
【0014】
動力伝達機構1は、車両の後部に配置されて、エンジンなどの駆動源からの動力を左右の後輪に伝達する機構である。動力伝達機構1は、図2に示されるように、デファレンシャルギヤ2と、デファレンシャルギヤ2から左方および右方にそれぞれ延出するドライブシャフト3L,3Rとを含む。
【0015】
デファレンシャルギヤ2は、図1および図2に示されるように、デフキャリア11およびデフカバー12を備えている。デフキャリア11およびデフカバー12により、デファレンシャルギヤ2の外殻が構成されている。
【0016】
デフキャリア11は、前後方向に延び、前後両側に開放されている。デフキャリア11内の前部には、ドライブピニオンシャフトが収容されている。ドライブピニオンシャフトは、前後方向に延び、デフキャリア11により、その中心線まわりに回転可能に保持されている。ドライブピニオンシャフトの前端部には、前後方向に延びるプロペラシャフトが等速自在継手13を介して連結される。ドライブピニオンシャフトの後端部には、かさ歯車からなるドライブピニオンギヤが相対回転不能に取り付けられている。デフキャリア11内の後部には、デフケースが収容されている。デフケースは、デフキャリア11により、左右方向に延びる回転軸線を中心に回転可能に保持されている。デフケースには、デフケースの回転軸線を中心とする円環状のリングギヤが固定されている。リングギヤには、ドライブピニオンギヤが噛合している。デフケース内には、左右方向と直交する方向に延びるデフピニオンシャフトが支持され、そのデフピニオンシャフトの両端に回転可能に保持された2個のデフピニオンギヤと、左右両側に分かれて配置された2個のサイドギヤとが収容されている。各サイドギヤは、2個のデフピニオンギヤの両方と噛合している。
【0017】
デフカバー12は、デフキャリア11の後端に複数のボルト14で固定され、デフキャリア11の後端の開口を後方から閉塞している。デフキャリア11の後端面とデフカバー12との間は、ガスケット15によってシールされている。ガスケット15は、たとえば、デフキャリア11の後端面に塗布された液状ガスケットが硬化したものであってもよい。
【0018】
デフキャリア11の右端部には、図2に示されるように、後方に開放される半円筒状の壁部16が形成されている。また、デフカバー12の右端部には、前方に開放される半円筒状の壁部17が形成されている。壁部16,17は、同一の曲率を有し、互いの端部が突き合わされることにより、扁平な円筒状の挿通部18Rを構成している。これと同様に、デフキャリア11およびデフカバー12の左端部には、図1に示されるように、扁平な円筒状の挿通部18Lが形成されている。
【0019】
図3は、挿通部18Rの下側付近を前側から見た図である。
【0020】
挿通部18Rを構成する壁部16,17の下側には、それぞれ突起21,22が前後に並べて設けられている。前側の突起21は、壁部16の下端から下方に延びる辺23および辺23の下端から左方に延びる辺24を有する板状に形成されている。後側の突起22は、壁部17の下端から下方に延びる辺25、辺25の下端から後下方に延びる辺26および辺26の下端から前方に延びる辺27を有する板状に形成されている。突起22は、突起21よりもサイズが大きく、図3に示されるように前側から見て、辺25,26,27は、突起21の陰に隠れずに露出している。
【0021】
左側のドライブシャフト3Lは、図2に示されるように、軸部31および等速自在継手32を備えている。軸部31は、等速自在継手32から右方に延びて、挿通部18Lに挿通され、デフケース内でサイドギヤに相対回転不能に連結されている。等速自在継手32は、360°回転対称な外形を有し、軸部31の外周面に対してその周囲に張り出している。挿通部18Lと等速自在継手32との間には、左右方向に間隔が設けられている。
【0022】
右側のドライブシャフト3Rは、軸部33および等速自在継手34を備えている。軸部33は、等速自在継手34から左方に延びて、挿通部18Rに挿通され、デフケース内でサイドギヤに相対回転不能に連結されている。等速自在継手34は、360°回転対称な外形を有し、軸部33の外周面に対してその周囲に張り出している。挿通部18Rと等速自在継手34との間には、左右方向に間隔が設けられている。
【0023】
デフキャリア11に収容されるドライブピニオンシャフトには、エンジンなどの駆動源からの動力がプロペラシャフトを介して伝達される。ドライブピニオンシャフトに伝達される動力は、ドライブピニオンギヤからリングギヤに伝達されて、デフケースを回転させる。デフケースの回転は、デフピニオンシャフト、デフピニオンギヤおよびサイドギヤを経由して、ドライブシャフト3L,3Rに伝達される。これにより、ドライブシャフト3L,3Rが回転し、左右の後輪が回転することにより、車両が前進または後進する。
【0024】
<突起の利用>
図4Aおよび図4Bは、突起22の近傍を後側から見た図である。
【0025】
突起22は、デファレンシャルギヤ2からドライブシャフト3Rが抜き取られる際に、バール41の支点として利用される。具体的には、デファレンシャルギヤ2の挿通部18Rとドライブシャフト3Rの等速自在継手34との間にバール41の先端が差し込まれて、バール41の先端が等速自在継手34における挿通部18Rと左右方向に対向する面42に当接される。そして、バール41の中間部が突起22の先端、つまり辺26と辺27とがなす角に当接され、その当接点を始点としてバール41が回動され、てこの原理によりバール41の先端で等速自在継手34に力が加えられる。
【0026】
等速自在継手34は、挿通部18Rに対して左右方向に対向する面42を有しており、その面42上の点43と挿通部18Rの先端面44の周縁部とを最短で結ぶ第1線分45と比較して、その点43と突起22の先端とを最短で結ぶ第2線分46の長さが大きく、かつ、左右方向に対する第2線分46の傾きが大きい。そのため、突起22がバール41の支点にされる場合、挿通部18Rの先端面44の周縁部がバール41の支点にされる場合と比較して、左右方向に対するバール41の傾斜角度が大きく、かつ、バール41の先端と支点との間の距離が長くなるので、バール41の先端が等速自在継手34から外れにくい。
【0027】
また、突起22は、デフキャリア11からデフカバー12を取り外す際に、叩き面として利用される。具体的には、突起22は、突起21よりもサイズが大きく、前側から見たときに辺25~27が突起21の陰に隠れずに露出しているので、その露出する部分の前側の面がハンマなどで叩かれる。突起22が叩かれると、応力波が発生し、その応力波がデフキャリア11とデフカバー12との接合面に伝播する。
【0028】
<作用効果>
以上のように、デフカバー12には、突起22が設けられている。そのため、デフキャリア11からデフカバー12を取り外す作業において、その作業者は、突起22を前側からハンマで叩くことができる。突起22が叩かれることにより、応力波が発生し、その応力波がデフキャリア11とデフカバー12との接合面に伝播する。そのため、デフキャリア11とデフカバー12とが液状ガスケットからなるガスケット15を介して接合されていても、デフカバー12をデフキャリア11から容易に取り外すことができる。
【0029】
また、デファレンシャルギヤ2からドライブシャフト3Rを抜き取る作業において、その作業者は、デファレンシャルギヤ2の挿通部18Rとドライブシャフト3Rの等速自在継手34との間にバール41の先端を差し込み、バール41を突起22に当接させて、その当接点を支点として、てこの原理によりバール41の先端で等速自在継手34に力を加えることができる。このとき、バール41が挿通部18Rの先端面44の周縁部に当接されてその当接点が支点とされる場合と比較して、挿通部18Rの中心線の方向に対するバール41の傾斜角度が大きく、かつ、バール41の先端と支点との間の距離が長いので、バール41の先端がドライブシャフト3Rから外れにくく、デファレンシャルギヤ2からドライブシャフト3Rを抜き取りやすい。
【0030】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0031】
たとえば、前述の実施形態では、デフカバー12に突起22が形成され、その突起22がドライブシャフト3Rの抜き取りおよびデフカバー12の取り外しに利用される場合を例にとった。しかしながら、それに限らず、デフキャリア11の突起21がデフカバー12の突起22よりも大きく形成されて、突起21がドライブシャフト3Rの抜き取りおよびデフカバー12の取り外しに利用されてもよい。
【0032】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0033】
2:デファレンシャルギヤ
11:デフキャリア(第1分割体/第2分割体)
12:デフカバー(第2分割体/第1分割体)
22:突起
図1
図2
図3
図4A
図4B