IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-シート 図1
  • 特許-シート 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/42 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
B60N2/42
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019180166
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021054291
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】平塚 雅人
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-202553(JP,U)
【文献】特開2015-223897(JP,A)
【文献】特開2011-178288(JP,A)
【文献】特開2014-210540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/42
B60N 2/90
B60R 22/18
B60R 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の通常使用時に車両の後方に傾くシートバックを有するシートであって、
前記シートバックの上端部は、
シートベルトが掛け渡される一端部と、
前記シートベルトが架け渡されない他端部と、
前記一端部に設けられる傾斜面とを有し、
前記傾斜面は、前記一端部側から前記他端部側に向かって下方に下がる面であり、
前記傾斜面の形成箇所は、使用時の前記シートベルトと常に当接する位置であり、
前記傾斜面の下端は、前記シートバックの上面につながっている、
シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着座する乗員がシートベルトにより拘束される車両のシートに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、後席シートと、シートベルトとを備える車両が開示されている。後席シートは、シートクッションと、シートバックとを有する。シートベルトは、後席シートに着座した乗員を拘束する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-132314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シートベルトは、シートバックの上方の後方から延び、シートバックの上端部の一端部に掛け渡されると共に、乗員の肩から腰にわたって斜めに掛け渡されるショルダーベルトを有する。シートバックの上端部の一端部は、一般的にフラットに構成されている。そのため、車両の衝突時、乗員のショルダーベルトに拘束されていない側の肩が前方へ変位して、乗員のショルダーベルトに拘束されている側の鎖骨や肩がショルダーベルトから抜けるおそれがある。例えば、車両の右前面が衝突する車両のオフセット前面衝突時などの場合、車両に時計回りの回転力が作用する。その際、左側の後部座席では、シートバックに対して、ショルダーベルトによって拘束されていない右肩が、ショルダーベルトが掛けられた左肩よりもシートバックから離れる方向に変位するため、乗員の左側の鎖骨や左肩がショルダーベルトから抜け易い。加速度センサなどで衝突を検知し、電動でシートベルトの位置をずらして乗員の肩がショルダーベルトから抜け難くすることが考えられるが、コストの増加、重量の増加、及び生産性の低下などを招く。
【0005】
本発明の目的の一つは、簡易かつ安価な構成で、乗員の肩がシートベルトから抜けることを抑制できるシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るシートは、
車両の通常使用時に車両の後方に傾くシートバックを有するシートであって、
前記シートバックの上端部は、
シートベルトが掛け渡される一端部と、
前記シートベルトが架け渡されない他端部と、
前記一端部に設けられる傾斜面とを有し、
前記傾斜面は、前記一端部側から前記他端部側に向かって下方に下がる面である。
【発明の効果】
【0007】
上記シートは、車両の衝突時、特にオフセット前面衝突時、慣性によって多少なりともシートバックが直立するように車両の前方側へ回動することがある。上記シートは、車両の衝突前の通常使用時にシートバックが車両の後方に傾いていることで、車両の衝突時に回動すれば、その回動の過程で、シートバックの上端部は、高さが高くなるように変位する。上記シートは、上端部の一端部に上記傾斜面を有することで、上記変位によって傾斜面にシートベルトが圧接される。そのため、シートベルトを傾斜面上の一端部側から他端部側に向かって滑らせることができる。即ち、傾斜面によってシートベルトを乗員側に近づくようにずらすことができる。よって、上記シートは、車両の衝突時、特にオフセット前面衝突時、乗員の肩がシートベルトから抜けることを抑制できる。また、上述のように、上記シートは、通常使用時に後方に傾くシートバックに傾斜面を有するという簡易かつ安価な構成で乗員の肩がシートベルトから抜けることを抑制できるため、例えば加速度センサなどで衝突を検知して、電動でシートベルトの位置をずらす装置などが不要にできる。そのため、上記シートは、コストの増加、重量の増加、及び生産性の低下が生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係るシートを示す正面図である。
図2図2は、実施形態に係るシートを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1図2を参照して、本発明のシートの実施形態を説明する。図中の「LH」は実施形態に係るシート1を備える車両の左方、「RH」は右方、「UP」は上方、「LWR」は下方、「FR」は前方、「RR」は後方を示す。また、「OUT」は車両の外方、「IN」は内方を示す。
【0010】
《実施形態》
〔シート〕
実施形態に係るシート1は、車両の乗員100が着座する。図1は、説明の便宜上、乗員100をダミーで示している。シート1は、乗員100の背中を支えるシートバック3を有する。シートバック3は、車両の後方に傾いている。シート1は、更にヘッドレスト4を有していてもよい。本形態におけるシート1の特徴の一つは、シートバック3の上端部30の特定の箇所に特定の傾斜面351を有する点にある。以下の説明は、シートベルト10、シートバック3の順に行う。本形態では、シート1は、右ハンドル車両の左側の後部座席とする場合を例に説明する。即ち、シート1の左側が車幅方向の外方側であり、右側が車幅方向の内方側である。図1図2は、説明の便宜上、車両の衝突前におけるシート1、シートベルト10、及び乗員100を実線で示し、車両の衝突時におけるシート1(図2のみ)、シートベルト10、及び乗員100を二点鎖線で示している。
【0011】
[シートベルト]
シートベルト10は、連続3点式シートベルトである。シートベルト10は、公知の構成が利用できる。シートベルト10は、ショルダーベルト11と、ラップベルト、スリップガイドと、タングプレートと、アンカーバックルと、リトラクタとを有する。シートベルト10のうちショルダーベルト11以外の上記部材の図示は省略する。ショルダーベルト11は、シートバック3の上方の左側後方から延びて、シート1に着座する乗員100の左肩から右腰にわたって斜めに架け渡される。ラップベルトは、乗員100の腹部周辺を右から左に横切る。スリップガイドは、ショルダーベルト11とラップベルトとの境界位置を規定する。タングプレートは、スリップガイドに一体に設けられ、アンカーバックルに着脱自在に嵌合する。アンカーバックルは、本例では、シート1の右側に設けられている。リトラクタは、シートベルト10を巻き取る。リトラクタは、例えば、Cピラー内に設けられている。
【0012】
[シートバック]
(上端部)
シートバック3の上端部30は、シートベルト10のショルダーベルト11が掛け渡される一端部31と、ショルダーベルト11が架け渡されない他端部32とを有する。一端部31は、本形態では車幅方向の外方側、即ちシートバック3の左側である。他端部32は、本形態では車幅方向の内方側、即ちシートバック3の右側である。一端部31及び他端部32は、ヘッドレスト4よりも車幅方向の外方側及び内方側に位置する。上端部30は、一端部31に設けられる傾斜面351を有する。
【0013】
〈傾斜面〉
傾斜面351は、詳しくは後述するように、車両の衝突時、特に車両のオフセット前面衝突時、乗員100の鎖骨や肩がショルダーベルト11から抜けることを防止する。傾斜面351は、一端部31において、一端部31側から他端部32側、即ち車幅方向の外方側から内方側、シートバック3の左側から右側に向かって下方に下がるように傾斜する。傾斜面351は、本形態では一端部31にのみ設けられている。なお、傾斜面351は、後述するように一端部31以外にも設けられていてもよい。
【0014】
傾斜面351の形成箇所は、車両の衝突前におけるシート1の通常使用時にシートバック3が車両の後方に傾いている状態において、シートバック3を上方視したとき、傾斜面351とショルダーベルト11とが重複する箇所とする。具体的には、車両の衝突時に傾斜面351に対してショルダーベルト11を圧接させられるように、傾斜面351とショルダーベルト11とが重複していることが挙げられる。このように重複していれば、通常使用時において、傾斜面351とショルダーベルト11とは、互いに接していてもよいし、接していなくてもよい。通常使用時において、傾斜面351とショルダーベルト11とは、圧接されていてもよい。車両の衝突時に傾斜面351に対してショルダーベルト11を圧接させられることで、乗員100の鎖骨や肩がショルダーベルト11から抜けることを防止できる。特に、通常使用時において、ショルダーベルト11は、傾斜面351の上方に位置することが好ましい。本形態では傾斜面351は、上端部30から上方に向かって突出する凸部35の他端部32側の面に形成されている。傾斜面351の傾斜角度及び長さは、車両の衝突時にショルダーベルト11が傾斜面351上を上らず滑って下るような傾斜角度及び長さとすることが挙げられる。
【0015】
傾斜面351は、シートバック3に一連に形成されていてもよいし、傾斜面351を有する独立部材をシートバック3に対して別途取り付けることでシートバック3の上端部30に設けてもよい。いずれの場合であっても、傾斜面351を構成する箇所の素材は、シートバック3の他の箇所の素材よりも硬質な素材とすることが好ましい。例えば、傾斜面351がシートバック3に一連に形成される場合、シートバック3のうち傾斜面351を構成する箇所の素材をその他の箇所の素材よりも硬質とする。傾斜面351を有する独立部材を設ける場合、独立部材自体の素材をシートバック3よりも硬質な素材とする。そうすれば、車両の衝突時にシートベルト10との接触により独立部材が変形し難く、シートベルト10が傾斜面351上を滑り易い。
【0016】
(その他)
シートバック3は、リクライニング機構によりシートバック3の傾斜角度が可変であってもよい。リクライニング機構を備える場合、車両の衝突時に所定の荷重が車両に作用した際、シートバック3を車両の前方に向かって所定の角度の分だけ傾ける機構をシートクッションに対するシートバック3の回転軸に設けても良い。そうすれば、車両の衝突時にショルダーベルト11を傾斜面351の下方に向かって滑らせることができ、乗員100の鎖骨や肩がショルダーベルト11から抜けることを効果的に防止できる。
【0017】
[車両の衝突時の動作説明]
車両の衝突時のシートベルト10の動作を説明する。ここでは、車両の右前面が衝突するオフセット前面衝突を例に説明する。オフセット前面衝突前のシート1の通常使用時、シートバック3は、実線で示すように、車両の後方に傾いている(図2)。ショルダーベルト11は、実線で示すように、傾斜面351に重なるように掛け渡されている(図1)。オフセット前面衝突時、シートバック3は、図2の二点鎖線で示すように、慣性により直立するように車両の前方側へ回動すれば、その回動の過程で、シートバック3の上端部30は、高さが高くなるように変位する。この変位により、ショルダーベルト11は傾斜面351に圧接される。そのため、相対的にショルダーベルト11が傾斜面351の下方に変位しようとする。その際、ショルダーベルト11は、図1の二点鎖線で示すように、傾斜面351上を一端部31側から他端部32側に向かって滑る。図1の実線矢印は、ショルダーベルト11の滑り方向を示す。そのため、乗員100の鎖骨や肩がショルダーベルト11から抜けず、ショルダーベルト11により乗員100の鎖骨や肩を適切に拘束した状態が維持される。
【0018】
〔作用効果〕
本形態のシート1は、上述のように、車両の衝突時、特にオフセット前面衝突時、ショルダーベルト11を傾斜面351上の一端部31側から他端部32側に向かって滑らせることができる。即ち、傾斜面351によってショルダーベルト11を乗員100側に近づくようにずらすことができる。よって、乗員100の鎖骨や肩がショルダーベルト11から抜けることを抑制できる。また、本形態のシート1は、上述のように、通常使用時に後方に傾くシートバック3に傾斜面351を有するという簡易かつ安価な構成で乗員100の鎖骨や肩がショルダーベルト11から抜けることを抑制できるため、コストの増加、重量の増加、及び生産性の低下が生じ難い。
【0019】
本発明は、これらの例示に限定されず、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0020】
傾斜面は、上端部のうち一端部以外にも設けられていてもよい。例えば、傾斜面が他端部にも設けられていてもよい。他端部の傾斜面は、他端部から一端部に向かって下方に下がるように傾斜する。そうすれば、シートバックの上端部が左右対称になるため、シートバックのデザイン性が損なわれない。また、傾斜面は、上端部の一端部から中央にわたって連続して設けられていてもよいし、上端部の一端部から他端部にわたって連続して設けられていてもよい。
【0021】
シートは、例えば、右ハンドル車両の運転席、助手席、或いは右側の後部座席でもよい。助手席の場合、傾斜面が設けられるシートバックの上端部の一端部は、上述の実施形態と同様、車幅方向の外方側、即ちシートバックの左側である。運転席や右側の後部座席の場合、傾斜面が設けられるシートバックの上端部の一端部は、車幅方向の外方側、即ちシートバックの右側である。勿論、車両は、右ハンドルの車両に限らず、左ハンドルの車両であってもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 シート
3 シートバック
30 上端部
31 一端部
32 他端部
35 凸部
351 傾斜面
4 ヘッドレスト
10 シートベルト
11 ショルダーベルト
100 乗員
図1
図2