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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20220829BHJP
   B23K 9/028 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
B23K9/095 505C
B23K9/028 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017190484
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2019063821
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】592009281
【氏名又は名称】株式会社IHIプラント
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】喜田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】全 洪秀
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-121077(JP,A)
【文献】特開平09-262668(JP,A)
【文献】特開昭58-128285(JP,A)
【文献】実開昭52-113835(JP,U)
【文献】特開昭59-185577(JP,A)
【文献】実開昭57-3487(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第0566212(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチを移動させるモータと、
前記モータのパルス数に溶接条件が対応付けられた溶接情報を格納する記憶部と、
前記モータのパルス数および前記溶接情報に基づいて前記溶接条件を切り替える制御部と、
を備え
前記制御部は、前記モータのパルス数のカウント値を記憶する記憶領域を備え、溶接開始時に前記記憶領域のカウント値を読み出す溶接装置。
【請求項2】
前記モータは、前記トーチを環状に移動させる請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記モータのパルス数および前記溶接情報に基づいて、前記溶接条件である溶接速度、電流、電圧、溶材送給量、アーク発生用パルスのパルスタイム、ウィービング幅、ウィービング速度、ノンフィラー溶接の有無のうちの少なくともいずれか1の条件を切り替える請求項1または2に記載の溶接装置。
【請求項4】
溶接線が複数の区間に分けられており、
各区間の境界を示すパルス数閾値が予め設定されており、
前記制御部は、前記モータのパルス数のカウント値が前記パルス数閾値以上になると、前記溶接条件を切り替える請求項1から3のいずれか1の請求項に記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、メンブレンに円板状のアンカーを溶接する技術が開示されている。アンカーは、外周に沿って溶接される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭60-83783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メンブレンが円板状のアンカーによって壁の側面に固定される場合がある。この場合、アンカーの平面は、鉛直面に略平行となる。アンカーの外周に沿って溶接する場合、例えば、外周における上側の溶接に比べ、外周における下側の溶接が難しくなる。外周における下側では、溶材が自重で垂れるおそれがあるからである。このため、外周に沿った溶接の過程において、溶接士が溶接条件を調整する操作を行わなければならず、作業が煩雑になるという課題がある。
【0005】
本開示は、作業を簡素化することが可能な溶接装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る溶接装置は、トーチを移動させるモータと、モータのパルス数に溶接条件が対応付けられた溶接情報を格納する記憶部と、モータのパルス数および溶接情報に基づいて溶接条件を切り替える制御部と、を備え、制御部は、モータのパルス数のカウント値を記憶する記憶領域を備え、溶接開始時に記憶領域のカウント値を読み出す
【0007】
また、モータは、トーチを環状に移動させてもよい。
【0008】
また、制御部は、モータのパルス数および溶接情報に基づいて、溶接条件である溶接速度、電流、電圧、溶材送給量、アーク発生用パルスのパルスタイム、ウィービング幅、ウィービング速度、ノンフィラー溶接の有無のうちの少なくともいずれか1の条件を切り替えてもよい。
【0009】
また、溶接線が複数の区間に分けられており、各区間の境界を示すパルス数閾値が予め設定されており、制御部は、モータのパルス数のカウント値がパルス数閾値以上になると、溶接条件を切り替えてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、溶接の作業を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】溶接装置によって溶接されるアンカーの構成を示す断面図である。
図2】アンカーの構成を示す平面図である。
図3】溶接装置の構成を示すブロック図である。
図4】本体部およびトーチの構成を示す斜視図である。
図5図4のV方向から本体部を見たときの本体部およびトーチの構成を示す斜視図である。
図6】本体部およびトーチの構成を示す模式図である。
図7】トーチの構成を示す模式図である。
図8】溶接情報を説明する説明図である。
図9】溶接情報を説明する説明図である。
図10】溶接条件の一例を示す図である。
図11】制御部が行う処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の一実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、一実施形態による溶接装置によって溶接されるアンカー10の構成を示す断面図である。図2は、アンカー10の構成を示す平面図である。アンカー10は、例えば、LNG地下タンク内の側壁2にメンブレン3を固定する。側壁2は、例えば、コンクリートによって構成される。側壁2には、ボス4が設けられている。ボス4には、ねじ穴5が形成されている。
【0015】
メンブレン3は、例えば、ステンレスの板によって構成される。メンブレン3は、側壁2に対向して配置される。メンブレン3と側壁2との間には、保冷剤6が設けられる。メンブレン3には、ボス4に対向する位置に貫通穴7が設けられる。
【0016】
アンカー10は、例えば、ステンレスによって構成される。アンカー10は、アンカー本体部11、ツマミ部12および突起部13を含んで構成される。アンカー本体部11は、円板状に形成される。アンカー本体部11の径は、メンブレン3の貫通穴7の径よりも大きい。
【0017】
アンカー本体部11の表面の中心部分には、ツマミ部12が設けられる。ツマミ部12は、円板状に形成される。ツマミ部12は、裏面の中心部分がアンカー本体部11の表面の中心部分に接続される。ツマミ部12の裏面とアンカー本体部11の表面との間には、ツマミ部12の外周側に開口する空間が形成される。ツマミ部12の表面の中心部分には、裏面側に窪む窪み部14が形成される。窪み部14は、アンカー10の中心軸15上に位置する。アンカー10の中心軸15は、鉛直面に略垂直に延びている。
【0018】
アンカー本体部11の裏面の中心部分には、突起部13が設けられる。突起部13は、側面にねじ溝が形成される。突起部13は、メンブレン3における保冷剤6とは反対側から貫通穴7に挿入される。突起部13は、ボス4のねじ穴5に螺合される。突起部13がねじ穴5に螺合されると、アンカー本体部11の裏面がメンブレン3の表面に近接する。
【0019】
アンカー本体部11の外周には、隅肉溶接が行われ、アンカー10とメンブレン3とが溶接される。すなわち、アンカー本体部11の外周が溶接線16となる。
【0020】
図3は、一実施形態による溶接装置1の構成を示すブロック図である。溶接装置1は、本体部20、トーチ30、制御盤40、溶接電源50およびリモートコントローラ60を含んで構成される。
【0021】
本体部20には、トーチ30が連結される。本体部20は、制御ケーブルを介して制御盤40に接続される。本体部20は、制御盤40の制御に従って、トーチ30を移動させる。トーチ30は、アークを発生させる電極を含んで構成される。トーチ30は、ガス・パワーケーブルを介して制御盤40に接続される。リモートコントローラ60は、リモートコントローラケーブルを介して制御盤40に接続される。なお、リモートコントローラ60は、ワイヤレスで制御盤40に接続されてもよい。
【0022】
溶接電源50は、制御盤40に接続される。溶接電源50は、電源52に接続される。電源52は、例えば、商用電源である。溶接電源50は、電源52から供給される電力に基づいて、アークを発生させる電力を生成する。溶接電源50の電力は、制御盤40を介してトーチ30に供給される。溶接電源50は、ガスボンベ54に接続される。ガスボンベ54には、ガス(例えば、アルゴンガス)が充填される。ガスボンベ54のガスは、溶接電源50および制御盤40を介してトーチ30に供給される。
【0023】
図4は、本体部20およびトーチ30の構成を示す斜視図である。図5は、図4のV方向から本体部20を見たときの本体部20およびトーチ30の構成を示す斜視図である。図5では、アンカー10およびメンブレン3を省略している。図4および図5では、A方向、R方向、θ方向を図示のように定義している。A方向は、アンカー10の中心軸15方向を示す。R方向は、アンカー10の径方向を示す。θ方向は、アンカー10の外周方向を示す。
【0024】
本体部20は、ベース部21とアーム部22とを含んで構成される。ベース部21は、溶接の際にアンカー10に装着される。ベース部21の底部には、位置決め部23および爪部24が設けられる。位置決め部23は、アンカー10の窪み部14に組み合わされる突起部を含んで構成される。位置決め部23の突起部は、ベース部21の中心軸25上に位置する。位置決め部23の突起部がアンカー10の窪み部14に組み合わされると、ベース部21の中心軸25とアンカー10の中心軸15とが重なる。このため、A方向は、ベース部21の中心軸25方向をも示す。
【0025】
爪部24は、位置決め部23の周囲に設けられる。爪部24は、中心軸25周りの3箇所に均等に設けられる。爪部24の先端における中心軸25側の面には、窪み部が形成される。爪部24の窪み部には、アンカー10のツマミ部12の外周部分が収容される。すなわち、3個の爪部24によって、ツマミ部12が挟持される。このようにして、ベース部21がアンカー10に固定される。
【0026】
本体部20のアーム部22は、ベース部21に連結されている。アーム部22は、中心軸25から離れる方向にベース部21から延びている。アーム部22は、中心軸25周りに回転可能となっている。
【0027】
アーム部22には、トーチ30が連結されている。トーチ30は、溶接線16付近にセットされる。トーチ30の電極は、溶接時にアークを発生する。トーチ30の電極とアンカー10との距離は、自動調整が可能となっている。トーチ30は、溶接線16に交差する方向にウィービングが可能となっている。
【0028】
アーム部22には、ワイヤ送給部26が設けられている。ワイヤ送給部26は、溶材であるワイヤをトーチ30に送給する。
【0029】
図6は、本体部20およびトーチ30の構成を示す模式図である。本体部20のベース部21には、旋回モータMtが設けられる。旋回モータMtは、アーム部22をベース部21の中心軸25周りに回転させる。旋回モータMtは、例えば、パルスモータである。旋回モータMtは、制御盤40から与えられるパルス数に応じた角度分だけアーム部22を中心軸25周りに回転させる。
【0030】
アーム部22には、伸縮モータMrが設けられている。伸縮モータMrは、アーム部22の長さを伸縮させる。伸縮モータMrは、例えば、パルスモータである。伸縮モータMrは、制御盤40から与えられるパルス数に応じた長さにアーム部22を伸縮させる。すなわち、伸縮モータMrは、トーチ30をアンカー10の径方向に移動させる。
【0031】
ワイヤ送給部26には、ワイヤ送給モータMfが設けられている。ワイヤ送給モータMfは、ガイドノズル27を介してワイヤをトーチ30の電極の先端に供給する。
【0032】
図7は、トーチ30の構成を示す模式図である。トーチ30には、高さ調整モータMvおよびウィービングモータMoが設けられている。高さ調整モータMvは、トーチ30の高さ方向にトーチ30を移動させる。制御盤40は、高さ調整モータMvの駆動と自動電圧制御(AVC)とによって、トーチ30の電極とアンカー10との距離を調整する。自動電圧制御は、アークの電圧を制御する技術である。
【0033】
ウィービングモータMoは、溶接線16に垂直にトーチ30を移動させる。制御盤40は、ウィービングモータMoの駆動によってビード幅を調整する。
【0034】
図3に戻って、制御盤40は、制御部42および記憶部44を含んで構成される。制御部42は、CPU、ROM、RAM等を含む半導体集積回路で構成される。CPUは、プログラムに従った演算を行う。ROMには、プログラム等が格納される。RAMは、ワークエリアとして使用される。制御部42は、プログラムを実行することで、溶接装置1の各部を制御する。また、制御部42は、リモートコントローラ60から与えられる信号に応じて、各部を制御することもできる。
【0035】
記憶部44は、例えば、不揮発性記憶装置である。記憶部44には、溶接情報が格納される。制御部42は、この溶接情報に従って、アンカー10の溶接を行う。
【0036】
図8および図9は、溶接情報を説明する説明図である。溶接情報には、旋回モータMtのパルス数に溶接条件が対応付けられている。ここで、円状の溶接線16における最上部の角度を0度(360度)とする。最上部が溶接の開始位置および終了位置であるとする。角度は、本体部20から溶接線16を見たときの時計回り方向に進むに従って増加する。角度が増加する時計回りに溶接が行われるとする。
【0037】
溶接情報では、溶接線16が4区間に分けられている。第1区間は、鉛直上方向に位置する区間(上区間)である。第2区間は、第1区間に対して右側に位置する区間(右区間)である。第3区間は、鉛直下方に位置する区間(下区間)である。第4区間は、第1区間に対して左側に位置する区間(左区間)である。具体的には、第1区間は、角度が0度から45度および315度から360度の範囲である。第2区間は、角度が45度から135度の範囲である。第3区間は、角度が135度から225度の範囲である。第4区間は、角度が225度から315度の範囲である。
【0038】
角度が0度のときの旋回モータMtのパルス数を0とする。角度が0度から45度の範囲では、旋回モータMtのパルス数閾値th1が設定されている。パルス数閾値th1は、角度が45度のときの旋回モータMtのパルス数に相当する。角度が45度から135度の範囲では、旋回モータMtのパルス数閾値th2が設定されている。パルス数閾値th2は、角度が135度のときの旋回モータMtのパルス数に相当する。角度が135度から225度の範囲では、旋回モータMtのパルス数閾値th3が設定されている。パルス数閾値th3は、角度が225度のときの旋回モータMtのパルス数に相当する。角度が225度から315度の範囲では、旋回モータMtのパルス数閾値th4が設定されている。パルス数閾値th4は、角度が315度のときの旋回モータMtのパルス数に相当する。このように、パルス数閾値th1、th2、th3、th4は、各区間の境界を示す。
【0039】
また、角度が315度から360度の範囲では、旋回モータMtのパルス数閾値th5が設定されている。パルス数閾値th5は、角度が360度のときの旋回モータMtのパルス数に相当する。パルス数閾値th5は、溶接終了位置を示す。
【0040】
第1区間には、溶接条件W1が対応付けられている。第2区間には、溶接条件W2が対応付けられている。第3区間には、溶接条件W3が対応付けられている。第4区間には、溶接条件W4が対応付けられている。すなわち、0からパルス数閾値th1までのパルス数に、溶接条件W1が対応付けられている。パルス数閾値th1からパルス数閾値th2までのパルス数に、溶接条件W2が対応付けられている。パルス数閾値th2からパルス数閾値th3までのパルス数に、溶接条件W3が対応付けられている。パルス数閾値th3からパルス数閾値th4までのパルス数に、溶接条件W4が対応付けられている。パルス数閾値th4からパルス数閾値th5までのパルス数に、溶接条件W1が対応付けられている。
【0041】
図10は、溶接条件W1~W4の一例を示す図である。図10の例では、溶接条件として、電流、電圧、溶接速度および溶材(ワイヤ)送給量が設定されている。第1区間の溶接条件W1では、これらの条件が標準的な値に設定される。第2区間の溶接条件W2では、溶接条件W1に比べ、電流の値が減少され、溶接速度および溶材送給量が増加される。第3区間の溶接条件W3では、溶接条件W1に比べ、電流の値が増加され、ワイヤ送給量が減少される。第4区間の溶接条件W4では、溶接条件W1に比べ、電流の値が増加され、溶接速度および溶材送給量が減少される。
【0042】
このように、溶接線16が4区間に分かれており、各区間に溶接条件W1~W4が設定されているため、溶接が進むに従って、溶接条件W1~W4が切り替わることとなる。
【0043】
また、図8に示すように、溶接情報には、状態変数kが設定される。状態変数kは、溶接条件に対応付けられている。状態変数kは、溶接条件がどの状態にあるかを示す変数である。状態変数kは、溶接条件の切り替えに合わせて変わる。
【0044】
また、制御部42は、旋回モータMtのパルス数のカウント値を記憶する記憶領域を含んで構成される。この記憶領域は、例えば、レジスタによって構成される。この記憶領域には、状態変数kの値も記憶される。
【0045】
次に、溶接装置1の動作を説明する。図11は、制御部42が行う処理の流れを示すフローチャートである。まず、溶接の開始前には、本体部20がアンカー10に装着される。制御部42は、伸縮モータMrを駆動させ、トーチ30のR方向の位置をアンカー10の半径に合わせる。そして、溶接線16の最上部にトーチ30がセットされる。
【0046】
溶接開始ボタンの押下操作などの溶接開始を示す操作が行われると、制御部42は、溶接情報を読み出す(S100)。次に、制御部42は、旋回モータMtのパルス数のカウント値および状態変数kの値をレジスタから読み出す(S110)。ここで、トーチ30が溶接開始位置である最上部に位置する場合、レジスタには、初期値であるカウント値「0」と状態変数「1」とが記憶されている。このため、カウント値「0」および状態変数「1」が読み出されることとなる。
【0047】
次に、制御部42は、読み出したカウント値および状態変数kに応じた溶接条件の設定を行う(S120)。カウント値「0」および状態変数「1」の場合、溶接条件の設定は、初期設定となる。初期設定では、制御部42は、状態変数kが1であり、溶接条件を溶接条件W1に設定する。
【0048】
次に、制御部42は、旋回モータMtを駆動させる(S130)。具体的には、制御部42は、旋回モータMtにパルスを順次に供給する。これにより、トーチ30が溶接線16に沿って外周方向(θ方向)に移動する。また、旋回モータMtの速度は、旋回モータMtに供給されるパルスのパルス間隔等で調整される。例えば、制御部42は、溶接条件W1の溶接速度に対応するパルス間隔でパルスを旋回モータMtに供給する。
【0049】
また、制御部42は、旋回モータMtの駆動に合わせて、ワイヤ送給モータMfを駆動させて、トーチ30の電極の先端へワイヤを供給する。また、制御部42は、トーチ30への電力およびガスの供給を開始する。これにより、トーチ30の電極とアンカー10との間にアークが発生する。すなわち、溶接条件W1でアンカー10の溶接が開始される。
【0050】
旋回モータMtの駆動が開始されると、制御部42は、旋回モータMtのパルス数をカウントする(S140)。制御部42は、パルスを旋回モータMtに供給するごとに、供給したパルス数をカウントする。制御部42は、旋回モータMtのパルス数のカウント値および現在の状態変数kの値をレジスタに記憶する(S150)。
【0051】
次に、制御部42は、旋回モータMtのパルス数のカウント値が、パルス数閾値th5以上であるか否かを判断する(S160)。すなわち、制御部42は、トーチ30が溶接終了位置に到達したか否かを判断することとなる。
【0052】
カウント値がパルス数閾値th5よりも小さい場合(S160におけるNO)、制御部42は、カウント値がパルス数閾値thk以上であるか否かを判断する(S170)。ここで、パルス数閾値thkは、状態変数kのときのパルス数閾値を示す。例えば、状態変数kが1の場合、パルス数閾値thkは、パルス数閾値th1である。
【0053】
カウント値がパルス数閾値thkよりも小さい場合(S170におけるNO)、制御部42は、ステップS130の処理に戻る。例えば、トーチ30がθ方向に45度まで回転するまでは、カウント値がパルス数閾値th1以上とならない。カウント値がパルス数閾値th1以上となるまでは、溶接条件W1が維持される。このため、第1区間では、溶接条件W1が維持される。
【0054】
カウント値がパルス数閾値thk以上の場合(S170におけるYES)、制御部42は、状態変数kをインクリメントする(S180)。例えば、状態変数kを1から2に変更する。
【0055】
次に、制御部42は、溶接情報に基づいて溶接条件を変更する(S190)。具体的には、制御部42は、インクリメント後の状態変数kを溶接情報の状態変数kに照合させる。制御部42は、照合した状態変数kに対応する溶接条件に変更する。例えば、状態変数kが2に変更された場合、溶接条件W1から溶接条件W2に切り替えられる(図8参照)。すなわち、状態変数kがカウント値によって変わるため、溶接条件は、旋回モータMtのパルス数に基づいて切り替わることとなる。
【0056】
次に、制御部42は、インクリメント後の状態変数kに対応するパルス数閾値thkを、ステップS170における比較対象にセットする(S200)。これにより、ステップS170のパルス数閾値thkが、インクリメント後の状態変数kに対応するパルス数閾値thkに更新される。例えば、状態変数kが2に変更された場合、パルス数閾値th2がセットされる。そして、制御部42は、ステップS130の処理に戻り、旋回モータMtの駆動を継続する。ステップS190において溶接速度に変更があった場合には、制御部42は、変更後の溶接速度で旋回モータMtを駆動させる。例えば、制御部42は、溶接条件W2の溶接速度に対応するパルス間隔のパルスを旋回モータMtへ供給する。
【0057】
ステップS170では、カウント値が、更新されたパルス数閾値thkと比較される。カウント値がパルス数閾値th2よりも小さい場合(S170におけるNO)、第2区間において溶接条件W2が維持される。カウント値がパルス数閾値th2以上の場合(S170におけるYES)、制御部42は、状態変数kを3にインクリメントし、溶接条件を溶接条件W3に変更する。そして、パルス数閾値thkがパルス数閾値th3に更新される。
【0058】
カウント値がパルス数閾値th3よりも小さい場合(S170におけるNO)、第3区間において溶接条件W3が維持される。カウント値がパルス数閾値th3以上の場合(S170におけるYES)、制御部42は、状態変数kを4にインクリメントし、溶接条件を溶接条件W4に変更する。そして、パルス数閾値thkがパルス数閾値th4に更新される。
【0059】
カウント値がパルス数閾値th4よりも小さい場合(S170におけるNO)、第4区間において溶接条件W4が維持される。カウント値がパルス数閾値th4以上の場合(S170におけるYES)、制御部42は、状態変数kを5にインクリメントし、溶接条件を溶接条件W1に変更する。そして、パルス数閾値thkがパルス数閾値th5に更新される。
【0060】
カウント値がパルス数閾値th5よりも小さい場合(S170におけるNO)、第1区間において溶接条件W1が維持される。カウント値がパルス数閾値th5以上の場合(S160におけるYES)、制御部42は、レジスタに記憶されたカウント値および状態変数kの値をリセットする(S210)。なお、カウント値のリセットは、カウント値に0を代入することである。また、状態変数kのリセットは、状態変数kに1を代入することである。そして、制御部42は、旋回モータMtの駆動を停止し、溶接を終了する。これにより、最上部の位置で溶接が終了することとなる。なお、パルス数閾値thkがパルス数閾値th5の場合、ステップS170における比較対象とステップS160における比較対象が同じになる。しかし、カウント値がパルス数閾値th5以上の場合、ステップS170よりもステップS160が先に処理される。このため、カウント値がパルス数閾値th5以上になると、溶接が終了することとなる。
【0061】
次に、溶接が中断された後に再開する場合について説明する。溶接開始(すなわち、再開)を示す操作が行われると、制御部42は、溶接情報を読み出す(S100)。次に、制御部42は、レジスタからカウント値および状態変数kの値を読み出す(S110)。ここで、溶接が中断された際、レジスタには、中断の直前のカウント値および状態変数kの値が記憶されている。このため、制御部42は、中断の直前のカウント値および状態変数kの値を読み出すこととなる。例えば、90度の位置で中断および再開された場合、90度に相当するカウント値および第2区間に相当する状態変数「2」が読み出される。
【0062】
次に、制御部42は、読み出した中断の直前のカウント値および状態変数kに応じた溶接条件の設定を行う(S120)。90度の位置で中断および再開された場合、制御部42は、状態変数kが2であるため、溶接条件W2に設定する。また、パルス数閾値thkをパルス数閾値th2にセットする。
【0063】
制御部42は、旋回モータMtの駆動を開始する(S130)。そして、制御部42は、旋回モータMtのパルス数を、読み出したカウント値の続きからカウントする(S140)。以降、上述と同様な処理が行われる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態の溶接装置1は、旋回モータMtのパルス数および溶接情報に基づいて、溶接条件が切り替わる。このため、溶接士が、溶接の過程において溶接条件を調整する必要がない。したがって、溶接装置1によれば、溶接の作業を簡素化することが可能となる。
【0065】
また、溶接装置1は、旋回モータMtのパルス数のカウント値および状態変数kの値をレジスタに記憶しつつ溶接を行う。このため、溶接が中断された位置から、その位置に対応する溶接条件で、溶接を再開することができる。したがって、溶接装置1によれば、溶接の再開時に溶接条件の再設定などの作業を行う必要がなくなる。
【0066】
また、溶接装置1は、旋回モータMtのパルス数のカウント値が溶接終了位置を示すパルス数閾値以上の場合に旋回モータMtの駆動を停止する。このため、溶接装置1によれば、溶接を正確な位置で自動的に終了することができる。
【0067】
以上、添付図面を参照しながら一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0068】
例えば、上述した実施形態において、溶接条件の切り替えを、リモートコントローラ60によって更に調整可能としてもよい。
【0069】
また、上記の実施形態では、溶接線16が円形状であった。しかし、溶接線16は、円形状に限らない。溶接線16は、溶接開始位置と溶接終了位置とが重なる環状であってもよい。例えば、溶接線16は、多角形の環状であってもよい。また、溶接線16は、環状に限らず、溶接開始位置と溶接終了位置とが重ならない曲線であってもよい。例えば、溶接線16は、渦巻き状や円弧状であってもよい。これらの形状であれば、旋回モータMtのパルス数とトーチ30の中心軸25周りにおける位置とが対応付けられるからである。
【0070】
また、溶接線16は、直線や屈曲した直線であってもよい。この場合、旋回モータMtを、トーチ30を直線的に移動させるモータに代えてもよい。この場合においても、トーチ30を移動させるモータのパルス数および溶接情報に基づいて、溶接条件を切り替えればよい。
【0071】
また、上記の実施形態では、溶接線16が鉛直面に略平行に配されていた。しかし、溶接線16の姿勢は、鉛直面に略平行に配される場合に限らない。例えば、溶接装置1は、水平面に平行に配置された溶接線16や、水平面に対して傾斜する傾斜面に平行に配置された溶接線16に沿って溶接してもよい。
【0072】
また、上記の実施形態では、溶接条件として、電流、電圧、溶接速度および溶材送給量を例示した。しかし、溶接条件は、これに限らない。例えば、溶接条件として、他に、アーク発生用パルスのパルスタイム(パルス間隔)、ウィービング幅、ウィービング速度、ノンフィラー溶接の有無(溶材を用いた溶接にするか、または、溶材を用いない溶接にするかの選択)を設定してもよい。すなわち、制御部42は、旋回モータMtのパルス数および溶接情報に基づいて、溶接速度、電流、電圧、溶材送給量、アーク発生用パルスのパルスタイム、ウィービング幅、ウィービング速度、ノンフィラー溶接の有無のうちの少なくともいずれか1の条件を切り替えてもよい。
【0073】
また、上記の実施形態では、溶接線16が4区間に分けられていた。しかし、溶接線16は、4区間に分けられる態様に限らず、複数の区間に分けられればよい。例えば、溶接線16は、2区間に分けられてもよいし、8区間に分けられてもよい。また、溶接線16が等間隔に分けられる態様に限らず、各区間が不均等に分けられてもよい。
【0074】
また、上記の実施形態では、最上部の位置から溶接を開始していた。しかし、溶接開始位置は、最上部に限らない。例えば、最上部に対して90度回転した位置から溶接を開始してもよい。この場合、溶接情報の溶接条件を90度ずらして設定すればよい。
【0075】
また、上記の実施形態では、制御部42は、旋回モータMtのパルス数のカウント値および状態変数kの値をレジスタに記憶していた。しかし、制御部42は、カウント値および状態変数kの値の記憶を省略してもよい。この場合、制御部42は、溶接開始時に、カウント値および状態変数kの値の読出しを省略してもよい。
【0076】
また、上記の実施形態では、溶接装置1を、アンカー10とメンブレン3との溶接に使用していた。しかし、溶接装置1の溶接対象は、アンカー10およびメンブレン3に限らない。溶接装置1は、その他の溶接対象の溶接に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本開示は、溶接装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 溶接装置
30 トーチ
42 制御部
44 記憶部
Mt 旋回モータ
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