(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】有機樹脂溶液と紡糸液、および、該紡糸液を用いた繊維集合体の製造方法と該有機樹脂溶液を用いたフィルムならびに複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/74 20060101AFI20220829BHJP
D01F 6/94 20060101ALI20220829BHJP
D04H 1/4326 20120101ALI20220829BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20220829BHJP
D04H 3/005 20120101ALI20220829BHJP
【FI】
D01F6/74 Z
D01F6/94 Z
D04H1/4326
D04H1/728
D04H3/005
(21)【出願番号】P 2017233282
(22)【出願日】2017-12-05
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉持 政宏
(72)【発明者】
【氏名】角前 洋介
(72)【発明者】
【氏名】若元 佑太
(72)【発明者】
【氏名】小坂 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108360(JP,A)
【文献】特開昭61-091240(JP,A)
【文献】特表平08-503718(JP,A)
【文献】特開平02-140266(JP,A)
【文献】特表2007-525582(JP,A)
【文献】特開2007-217455(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104448364(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103450478(CN,A)
【文献】特開2014-234581(JP,A)
【文献】特開2018-035482(JP,A)
【文献】Macromolecules,2007年,Vol.40,No.8,p.2844-2851
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C09D 1/00-201/10
C08J 3/00- 7/18
D01F 1/00- 13/04
D04H 1/00- 18/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素と
有機樹脂としてのポリベンゾイミダゾールを含有する有機樹脂溶液からなる、紡糸液であって、静電気力の作用により細径化させると共に繊維化し、捕集体上に捕集することで前記捕集体上に繊維ウェブを形成するために使用する、紡糸液。
【請求項2】
請求項1に記載の紡糸液を静電気力の作用により細径化させると共に繊維化して、捕集体上に捕集することで前記捕集体上に繊維ウェブを形成する工程を備えた、繊維集合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機樹脂溶液と該有機樹脂溶液からなる紡糸液、および、該紡糸液を用いた繊維集合体の製造方法と該有機樹脂溶液を用いたフィルムならびに複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機樹脂を溶媒に溶解してなる有機樹脂溶液は、様々な産業用途に有用な材料を調製可能な溶液である。例えば、有機樹脂溶液を紡糸液として用いて紡糸することで有機樹脂繊維からなる繊維集合体を調製でき、有機樹脂溶液をシート状に展開した後、溶媒を除去することで有機樹脂フィルムを調製でき、有機樹脂溶液を被覆対象物に付与した後、溶媒を除去することで被覆対象物の表面に有機樹脂被膜を備えた複合体を調製できるなど、有機樹脂溶液を用いて様々な産業用途に有用な材料を調製できる。
しかしながら、本願出願人が検討を続けたところ、次の問題があることを見出した。つまり、化学構造に窒素原子を含む有機樹脂を採用して有機樹脂溶液を調製した場合、該有機樹脂溶液は、時間の経過と共に溶液中に該有機樹脂が析出するなど変性し、安定性に劣るという問題を有していた。そして、安定性に劣る有機樹脂溶液を用いた場合には、様々な産業用途に有用な材料を調製するのが困難であった。
【0003】
特に、該有機樹脂溶液からなる紡糸液において、次の問題が生じることを見出した。
平均繊維径や繊維径のCV値が小さい繊維からなる繊維集合体(例えば、不織布など)は、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れることが知られている。
このような繊維集合体の製造方法として、繊維を構成する有機樹脂を溶媒に溶解してなる紡糸液を用いる方法、例えば、静電気力を作用させて紡糸液を細径化させると共に繊維化し、紡糸された繊維を捕集して繊維集合体を製造する静電紡糸法や、随伴気流を作用させて紡糸液を細径化させると共に繊維化し、紡糸された繊維を捕集して繊維集合体を製造する方法(例えば、特開2011-012372号公報など)などが知られている。
【0004】
本願出願人は、化学構造に窒素原子を含む有機樹脂で構成された繊維からなる繊維集合体を、平均繊維径や繊維径のCV値が小さい繊維からなる態様で提供するため、該有機樹脂を溶媒に溶解してなる紡糸液を調製し、該紡糸液を用いて繊維集合体を製造することを試みた。
しかし、調製した紡糸液は時間の経過と共に紡糸液中に該有機樹脂が析出するなど変性し、安定性に劣るという問題を有していた。
そして、このように変性した紡糸液を用いて繊維集合体を製造しようとしても、紡糸時にノズル先からの紡糸液の吐出が安定せず、繊維化がなされず繊維集合体が製造できないことがあった。あるいは、繊維集合体を製造できたとしても、製造した繊維集合体にショットなどの非繊維物が多く存在する、および/または、製造した繊維集合体における平均繊維径や繊維径のCV値が意図せず大きくなり、望む態様の繊維集合体を提供できないものであった。
【0005】
また、安定性に劣る有機樹脂溶液を用いて、有機樹脂フィルムや被覆対象物の表面に有機樹脂被膜を備えた複合体を製造した場合、製造したフィルムや複合体に、該有機溶液中に析出した該有機樹脂の存在に由来して、凹凸のある部分や剛性などの各種物性が局所的に異なる部分などの不均一な部分が存在しており、望む態様のフィルムや複合体を提供できないものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、化学構造に窒素原子を含む有機樹脂を含有する安定性に優れた有機樹脂溶液と該有機樹脂溶液からなる紡糸液、および、望む態様の繊維集合体やフィルムあるいは複合体を製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
「〔1〕尿素と有機樹脂としてのポリベンゾイミダゾールを含有する有機樹脂溶液からなる、紡糸液であって、静電気力の作用により細径化させると共に繊維化し、捕集体上に捕集することで前記捕集体上に繊維ウェブを形成するために使用する、紡糸液。
〔2〕請求項1に記載の紡糸液を静電気力の作用により細径化させると共に繊維化して、捕集体上に捕集することで前記捕集体上に繊維ウェブを形成する工程を備えた、繊維集合体の製造方法。」
である。
【発明の効果】
【0008】
本願出願人は検討を続けた結果、化学構造に窒素原子を含む有機樹脂を含有する有機樹脂溶液に尿素系化合物を配合することによって、有機樹脂溶液の安定性を向上できることを見出した。
そのため、本発明にかかる有機樹脂溶液ならびに該有機樹脂溶液からなる紡糸液は安定性に優れる。
そして、紡糸液を静電気力の作用により細径化させると共に繊維化し、捕集体上に捕集することで前記捕集体上に繊維ウェブを形成する工程を備えた繊維集合体の製造方法において、本発明にかかる安定性に優れた紡糸液を用いることで、ノズル先からの紡糸液の吐出が安定した状態で紡糸を行うことができるため、ショットなどの非繊維物が多く存在するのを防止して、および/または、平均繊維径や繊維径のCV値が意図せず大きくなるのを防止して、望む態様の繊維集合体を製造することができる。
また、本発明にかかる有機樹脂溶液を用いることで、凹凸のある部分や剛性などの各種物性が局所的に異なる部分などの不均一な部分が存在するのを防止して、望む態様のフィルムや複合体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、尿素系化合物と化学構造に窒素原子を含む有機樹脂を含有する有機樹脂溶液ならびに該有機樹脂溶液からなる紡糸液(以降、有機樹脂溶液や紡糸液と称することがある)にかかるものであり、例えば以下の構成など各種構成を適宜選択できる。
【0010】
本発明でいう尿素系化合物とは、その化学構造に尿素骨格(N-C(O)-N又はN-C(S)-N)を有する化合物であり、例えば、尿素、チオ尿素、ヒドロキシ尿素、ジメチロール尿素、ジアセチル尿素、エチレン尿素、フェニル尿素、トリフェニル尿素、テトラフェニル尿素、N-ベンゾイル尿素、N,N′-ジベンゾイル尿素、リン酸グアニル尿素、N,N′-ジメチルアセチル尿素、ベンゼンスルホニル尿素、p-トルエンスルホニル尿素、炭素数1~6のアルキル基を有するアルキル尿素(例えば、メチル尿素、ジメチル尿素、トリメチル尿素、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、エチル尿素、ジエチル尿素など)、ホルミル尿素などを、単体あるいは複数種類の混合物として使用できる。なお、これら尿素の塩(例えば、硝酸塩、塩酸塩など)であっても良い。
【0011】
特に、後述するように有機樹脂溶液や細径化した紡糸液から、溶媒を除去する工程(例えば、加熱工程や、水などに浸漬することで溶媒を除去する工程)において、溶媒と共に除去可能な尿素系化合物を使用するのが好ましい。このような尿素系化合物を含有する有機樹脂溶液や紡糸液を用いることで、最終的に尿素系化合物が存在していない材料(尿素系化合物が存在していない構成繊維からなる繊維集合体、あるいは、尿素系化合物が存在していないフィルムや複合体など)、あるいは、尿素系化合物の存在量の少ない材料(尿素系化合物の存在量の少ない構成繊維からなる繊維集合体、あるいは、尿素系化合物の存在量の少ないフィルムや複合体など)を提供することができる。このような除去可能な尿素系化合物として、尿素、ジメチル尿素、フェニル尿素などを使用することができる。
【0012】
また、尿素、ジメチル尿素、フェニル尿素などの分子量が少ない(低分子化合物あるいはモノマーの)尿素系化合物を使用するのが好ましい。このような尿素系化合物を含有する有機樹脂溶液や紡糸液を用いることで、より有機樹脂溶液や紡糸液に含有させる尿素系化合物の質量を少なくでき、最終的に尿素系化合物が存在していない材料(尿素系化合物が存在していない構成繊維からなる繊維集合体、あるいは、尿素系化合物が存在していないフィルムや複合体など)、あるいは、尿素系化合物の存在量の少ない材料(尿素系化合物の存在量の少ない構成繊維からなる繊維集合体、あるいは、尿素系化合物の存在量の少ないフィルムや複合体など)を提供することができる。
【0013】
本発明でいう化学構造に窒素原子を含む有機樹脂とは、その化学構造に窒素原子を備える化合物を指すものであり、特に耐熱性に優れることから複素環構造を有する樹脂が好ましい。例えば、ポリアゾール系樹脂(例えば、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリピロール、ポリカルバゾールなど)、ポリイミド系樹脂(例えば、脂肪族ポリイミド、芳香族ポリイミド、ポリマレイミドなど)、ポリアミド酸、ポリピリジン、ポリキノキサリンなどを、単体あるいは複数種類の混合物として使用できる。
【0014】
化学構造に窒素原子を含む有機樹脂の種類は、提供しようとする材料(例えば、繊維集合体あるいはフィルムや複合体など、以降、材料と総称することがある)に求められる物性などにより適宜選択するものであるが、耐熱性に優れる材料を提供可能であることからポリベンゾイミダゾールを採用するのが好ましい。
なお、ポリベンゾイミダゾールは特に限定するものではないが、例えば、下記式(I)または(II)で表される繰り返し単位を有する有機樹脂であることができる。
【0015】
【0016】
【0017】
式(II)において、YはO及びSから選択される置換元素、又は炭素間結合(例えば、-O-、-CO-、-SO2-などの二価の基)である。また、Y部分は上述した式(I)で表される繰り返し単位同士を結合するσ結合であってもよい。
また、Zは二価C1-C10アルカンジイル、二価C2-C10アルケンジイル、二価C6-C15アリール、二価C5-C15ヘテロアリール、二価C5-C15ヘテロシクリル、二価C6-C19アリールスルホン、及び二価C6-C19アリールエーテルからなる群より選択され、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基が好ましい。例えば、下記式に記載のような基を持つ官能基が好ましい。
【0018】
【0019】
本発明にかかる有機樹脂溶液や紡糸液を構成する溶媒の種類は、少なくとも尿素系化合物と化学構造に窒素原子を含む有機樹脂を共に溶解可能な溶媒であるならば、適宜選択できるものであるが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、エチルメチルケトン、エタノール、硫酸、ポリリン酸、アルカリ溶液などを、単体あるいは複数種類の混合溶媒として使用できる。
【0020】
有機樹脂溶液や紡糸液に含まれる尿素系化合物の質量は、有機樹脂溶液や紡糸液に含まれる化学構造に窒素原子を含む有機樹脂の質量に合わせ、求める材料を提供できるよう適宜選択するものである。しかし、有機樹脂溶液や紡糸液に含まれる尿素系化合物の質量があまりにも少ない場合には、有機樹脂溶液や紡糸液の安定性を向上する効果が十分発揮されない恐れがあり、有機樹脂溶液や紡糸液に含まれる尿素系化合物の質量があまりにも多い場合には、材料を製造することが困難となる恐れがある。
【0021】
そのため、有機樹脂溶液や紡糸液に含まれる尿素系化合物の質量は、有機樹脂溶液や紡糸液に含まれる化学構造に窒素原子を含む有機樹脂の質量を100部としたときに、0.01~100質量部であるのが好ましく、0.1~50質量部であるのがより好ましく、1~20質量部であるのが最も好ましい。
【0022】
有機樹脂溶液や紡糸液に含まれる化学構造に窒素原子を含む有機樹脂の質量は、求める材料を提供できるよう有機樹脂溶液の使用条件などに合わせ適宜選択するものである。具体的には、溶媒の質量を100部としたときに、0.001~100質量部であるのが好ましく、0.01~75質量部であるのがより好ましく、0.1~50質量部であるのが最も好ましい。
【0023】
本発明の有機樹脂溶液や紡糸液が安定性に優れている理由は完全に明らかになっていないが、有機樹脂における反応性に富む窒素原子が存在する化学構造部分に対し、尿素系化合物のアミド構造部分が親和性を有していることで、溶媒中で該有機樹脂の自己架橋などの安定性の低下をもたらす望まない反応(溶媒への不溶化など)が進行し難くなるためだと考えられる。
【0024】
特に、この効果は化学構造内に窒素原子を多く備える(化学構造内に窒素原子を多く備えるため、自己架橋などの安定性の低下をもたらす望まない反応が進行し易いと考えられる)ポリベンゾイミダゾールなどの有機樹脂を含有する有機樹脂溶液や紡糸液において、効果的に発揮される。また、この効果は分子量の少ない(分子構造が小さいことで該有機樹脂の窒素原子を備える化学構造部分とより親和性が高いと考えられる)尿素などの尿素系化合物を含有する有機樹脂溶液や紡糸液において、効果的に発揮される。
【0025】
本発明にかかる有機樹脂溶液や紡糸液は、必要に応じて、他の有機樹脂や各種添加剤を含有していても良い。
他の有機樹脂の種類は適宜選択できるが、例えば、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機樹脂を単体あるいは複数種類の混合物として使用できる。
有機樹脂溶液や紡糸液に含有されている他の有機樹脂の質量は、求める材料を提供できるよう紡糸条件など材料の調製条件などに合わせ適宜選択できる。
【0026】
また、各種添加剤の種類は適宜選択できるが、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、例えばアルミナやシリカなどの無機粒子や無機フィラー、活性炭やチャコールブラック、紡糸安定化剤などを添加できる。紡糸安定化剤の種類は適宜選択できるが、例えば、塩化カルシウムや塩化リチウムなどの金属塩や、特開2012―46844号公報に開示されているような有機酸と窒素化合物からなる塩などを、単体あるいは複数種類の混合物として使用できる。
【0027】
また、有機樹脂溶液や紡糸液に含有されている各種添加剤の質量は、求める材料を提供できるよう紡糸条件など材料の調製条件などに合わせ適宜選択するものである。具体的には、有機樹脂溶液や紡糸液の質量を100部としたときに、0.01~30質量部存在することができ、0.1~20質量部存在することができ、1~10質量部存在することができる。
【0028】
有機樹脂溶液や紡糸液の温度や粘度は、求める材料を提供できるよう紡糸条件など材料の調製条件に合わせ適宜選択するものである。具体的には、有機樹脂溶液や紡糸液の温度は0~165℃であることができ、10~160℃であることができ、20~150℃であることができる。また、有機樹脂溶液や紡糸液の粘度は25℃において10~30000mPa・sであることができ、100~20000mPa・sであることができ、1000~10000mPa・sであることができる。
【0029】
次いで、本発明にかかる紡糸液を用いた、繊維集合体の製造方法について例示し説明する。なお、すでに説明した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
【0030】
繊維集合体の製造方法は適宜選択できるが、例えば、静電紡糸法、特開2009-287138号公報に開示されているようなガスの作用により紡糸する方法、特開2011-32593号公報に開示されているような電界の作用に加えてガスの剪断力を作用させて紡糸する方法、遠心紡糸法などを用いることができる。そして、これらの製造方法を用いて紡糸液を細径化させるとともに繊維化して、ドラムやネットなどの捕集体上に捕集する工程を備える繊維集合体の製造方法を用いることできる。
これらの中でも静電紡糸法や、特開2009-287138号公報に開示されているようなガスの剪断作用により紡糸する方法を用いることで、平均繊維径が2μm以下の極細繊維を紡糸しやすく、繊維径が揃っており、しかも連続した極細繊維からなる繊維集合体を製造しやすいため好適である。
【0031】
紡糸液を細径化させる方法は適宜選択できるが、例えば、ノズルやスリットから吐出された紡糸液へ静電紡糸法に基づき電気の力を作用させることで、吐出した紡糸液を対抗電極へ向い飛翔させて細径化する方法、ノズルやスリットから吐出された紡糸液へガスの力を作用させることで、吐出した紡糸液をメッシュなどの捕集体へ向い飛翔させて細径化する方法などを採用できる。
そして、上述のようにして細径化(繊維化)した紡糸液を、例えばメッシュやベルトコンベアなどの捕集体上に捕集することで、捕集体上に繊維ウェブを形成する。
【0032】
このようにして製造した繊維ウェブは、そのまま繊維集合体として使用することもできるが、繊維ウェブから溶媒や尿素系化合物を除去するため加熱装置へ供してもよい。加熱装置の種類は適宜選択でき、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する装置、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機、赤外線を照射し加熱できる装置などを用いることができる。加熱装置による繊維ウェブの加熱温度は適宜選択するが、溶媒や尿素系化合物を揮発あるいは分解し揮発させ除去可能であると共に、構成繊維などの構成成分が意図せず分解や変性しない温度であるように適宜調整する。
なお、必要であれば加熱装置の加熱によって、構成繊維に含まれている有機樹脂を自己架橋や架橋しても良い。具体的には、ポリベンゾイミダゾールを含有する構成繊維を備えた繊維ウェブを350℃以上の温度で加熱することによって、耐溶剤性に優れた繊維集合体を提供することができる。
【0033】
また、上述のようにして製造した繊維ウェブあるいは繊維集合体を、水などに浸漬することで、構成繊維中に残留している溶媒や尿素系化合物を溶出させることで除去してもよい。
更に、上述のようにして製造した繊維ウェブあるいは繊維集合体を、リライアントプレス処理などの、表面を平滑とするために加圧処理する工程へ供してもよい。
【0034】
このようにして製造した繊維集合体は、そのまま各種用途に使用してもよいが、樹脂膜と複合化する工程、あるいは、別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を積層して積層体を製造する工程、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工する工程などの各種二次工程を経て、様々な産業用資材として使用可能な繊維集合体を備えた材料を調製してもよい。
【0035】
また、化学構造に窒素原子を含む有機樹脂を備えるフィルムや複合体は、有機樹脂溶液を従来知られているフィルムや複合体の製造方法へ供することによって製造できる。
【0036】
具体的には、本発明にかかる有機樹脂溶液をシート状に展開した後、前記シート状に展開した有機樹脂溶液から溶媒を除去する工程を備えた、フィルムの製造方法を採用できる。製造するフィルムの厚さは要望に合わせ適宜選択でき、通気性を有していないフィルムであっても通気性を有するフィルムであってもよい。あるいは、発泡フィルムであってもよい。
【0037】
また、本発明にかかる有機樹脂溶液を被覆対象物に付与した後、前記被覆対象物に付与した有機樹脂溶液から溶媒を除去する工程を備えた、被覆対象物の表面に有機樹脂被膜を備えた複合体の製造方法を採用できる。被覆対象物の種類や、複合体における有機樹脂被膜の厚さは要望に合わせ適宜選択できる。
なお、上述した繊維集合体から残留している溶媒や尿素系化合物を除去する方法と同様にして、フィルムや複合体から残留している溶媒や尿素系化合物を除去することができる。
【0038】
製造したフィルムや複合体も同様に、そのまま各種用途に使用してもよいが、樹脂膜と複合化する工程、あるいは、別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を積層して積層体を製造する工程、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工する工程などの各種二次工程を経て、様々な産業用資材として使用可能なフィルムや複合体を備えた材料を調製してもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、実施例7~10が本願発明の実施例であり、実施例1~6、11は参考例である。
【0040】
(比較例1)
ジメチルアセトアミド75質量部とポリベンゾイミダゾール(Perfomance Products社製、型番:CELAZOLE(登録商標)、PBI 100Mesh Polymer)25質量部を混合した後、混合液を150℃まで加熱することで、ジメチルアセトアミドにポリベンゾイミダゾールを溶解させ溶液を調製した。
調製した溶液を25℃まで冷却し、孔径1μmのガラスフィルター(アドバンテック社製、型番:GA-100)へ透過させ濾過することで、有機樹脂溶液を調製した。
【0041】
(実施例1)
ジメチルアセトアミド75質量部とポリベンゾイミダゾール(Perfomance Products社製、型番:CELAZOLE(登録商標)、PBI 100Mesh Polymer)25質量部を混合した後、混合液を150℃まで加熱することで、ジメチルアセトアミドにポリベンゾイミダゾールを溶解させ溶液を調製した。
調製した溶液を80℃まで冷却してから、尿素(東京化成化学工業株式会社製)0.25質量部を混合して溶解させた後、溶液を25℃まで冷却し、孔径1μmのガラスフィルター(アドバンテック社製、型番:GA-100)へ透過させ濾過することで、有機樹脂溶液を調製した。
【0042】
(実施例2)
溶解させる尿素の質量を0.5質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして有機樹脂溶液を調製した。
【0043】
(実施例3)
溶解させる尿素の質量を0.75質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして有機樹脂溶液を調製した。
【0044】
(実施例4)
溶解させる尿素の質量を1.25質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして有機樹脂溶液を調製した。
【0045】
(実施例5)
溶解させる尿素系化合物を、ジメチル尿素0.75質量部に変更したこと以外は、実施例3と同様にして有機樹脂溶液を調製した。
【0046】
(実施例6)
溶解させる尿素系化合物を、フェニル尿素0.75質量部に変更したこと以外は、実施例3と同様にして有機樹脂溶液を調製した。
【0047】
上述のようにして調製した各有機樹脂溶液を以下の測定方法へ供することで、各有機樹脂溶液の安定性を評価した。
【0048】
(有機樹脂溶液の安定性の確認)
上述のようにして調製した各有機樹脂溶液を25℃環境下に7日間静置した。そして、目視により有機樹脂溶液中にポリベンゾイミダゾールが析出するまでの日数を確認した。
確認の結果、比較例1の有機樹脂溶液は2日間静置した時点で有機樹脂溶液中にポリベンゾイミダゾールの析出が認められた。一方、実施例1の有機樹脂溶液は2日間静置した時点では有機樹脂溶液中にポリベンゾイミダゾールの析出は認められず、4日間静置した後に有機樹脂溶液中にポリベンゾイミダゾールの析出が認められた。また、実施例2-6の有機樹脂溶液は2日間静置した時点では有機樹脂溶液中にポリベンゾイミダゾールの析出は認められず、7日間静置した後であっても有機樹脂溶液中にポリベンゾイミダゾールの析出は認められなかった。
【0049】
(紡糸液、および、該紡糸液を用いた不織布の製造方法)
比較例1と実施例1-4の各有機樹脂溶液を25℃環境下に2日間静置した後、各有機樹脂溶液(比較例1の有機樹脂溶液のみ、有機樹脂溶液中にポリベンゾイミダゾールの析出が認められた)を紡糸液として、以下条件の静電紡糸装置へ供することで紡糸して、繊維集合体である不織布の製造を試みた。
内径が0.44mmの金属製のノズルに、アース処理されたパワーサプライを接続した。ノズル先端部の開口と対面するように、アース処理された捕集体(ガラスクロスにポリテトラフルオロエチレンおよび導電性粒子を含浸し、焼成したもの)を設けた。この時、ノズル先端部と捕集体との最短距離が、7cmとなるように調整した。ノズルをパワーサプライにより5-15kVで印加して、ノズルと捕集体の間に電界を形成した。
ノズルの開口から紡糸液を吐出量が1cc/時間となるようにして吐出させ、紡糸液を電界に導いて、紡糸液をノズル先端部の開口から捕集体へと飛翔させると共に細径化させ、繊維化して捕集体上に捕集し繊維ウェブを調製した。なお、本工程における紡糸環境は、温度25℃、湿度40%RHであった。
このようにして得られた繊維ウェブを、電気炉(TABAI社製PHH200)を用いて180℃で30分間加熱処理することで、繊維ウェブを構成する繊維中に残留しているジメチルアセトアミドを揮発させて(ならびに、繊維ウェブに尿素系化合物が残留している場合には、該尿素系化合物も揮発させて)除去し、不織布を製造した。
【0050】
(比較例2)
25℃環境下に2日間静置した後の、比較例1の有機樹脂溶液を紡糸液として用いて製造したポリベンゾイミダゾール不織布には、ショットなどの非繊維物が多く存在しており、平均繊維径(500nm)および繊維径のCV値(0.5)が意図せず大きいものであった。また、紡糸時にノズル先からの紡糸液の吐出が安定せず不織布の製造が困難であった。
【0051】
(実施例7―10)
25℃環境下に2日間静置した後の、実施例1-4の各有機樹脂溶液を紡糸液として用いて製造したポリベンゾイミダゾール不織布には、いずれも、ショットなどの非繊維物の存在が少なく、平均繊維径(400nm)および繊維径のCV値(0.2)が小さいものであった。また、ノズル先からの紡糸液の吐出が安定した状態で紡糸できた。
【0052】
以上から、本発明にかかる有機樹脂溶液ならびに該有機樹脂溶液からなる紡糸液は安定性に優れているものであり、該紡糸液を用いることで望む態様の繊維集合体を製造できる。
【0053】
(比較例3)
25℃環境下に2日間静置した後の、比較例1の有機樹脂溶液(有機樹脂溶液中にポリベンゾイミダゾールの析出が認められた)をガラス板上にコーター(スリット幅:200μm)を用いてシート状に展開することで付与した。その後、ガラス板上に展開された有機樹脂溶液をガラス板ごとオーブン(加熱温度:140℃)へ供することで、シート状に展開した有機樹脂溶液からジメチルアセトアミドを除去することで、ガラス板表面にポリベンゾイミダゾール被膜を備えた複合体(ポリベンゾイミダゾール被膜の厚さ:20μm)を製造した。そして、ガラス板からポリベンゾイミダゾール被膜を剥離することで、ポリベンゾイミダゾールフィルム(厚さ:20μm)を製造した。
このようにして製造した複合体におけるポリベンゾイミダゾール被膜の主面、および、フィルムの主面を目視で確認したところ、凹凸のある部分が生じており外観の悪いものであった。
【0054】
(実施例11)
25℃環境下に2日間静置した後の、実施例1の有機樹脂溶液(有機樹脂溶液中にポリベンゾイミダゾールの析出が認められなかった)をガラス板上にコーター(スリット幅:200μm)を用いてシート状に展開することで付与した。その後、ガラス板上に展開された有機樹脂溶液をガラス板ごとオーブン(加熱温度:140℃)へ供することで、シート状に展開した有機樹脂溶液からジメチルアセトアミドおよび尿素を除去することで、ガラス板表面にポリベンゾイミダゾール被膜を備えた複合体(ポリベンゾイミダゾール被膜の厚さ:20μm)を製造した。そして、ガラス板からポリベンゾイミダゾール被膜を剥離することで、ポリベンゾイミダゾールフィルム(厚さ:20μm)を製造した。
このようにして製造した複合体におけるポリベンゾイミダゾール被膜の主面、および、フィルムの主面を目視で確認したところ、凹凸は見当たらず外観のよいものであった。
【0055】
以上から、本発明にかかる有機樹脂溶液を用いることで、凹凸のある部分や剛性などの各種物性が局所的に異なる部分などの不均一な部分が存在するのを防止して、望む態様のフィルムや複合体を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の有機樹脂溶液と紡糸液、および、該紡糸液を用いた繊維集合体の製造方法と該有機樹脂溶液を用いたフィルムならびに複合体の製造方法によって、例えば、エアフィルタや液体フィルタ、アルカリ電池用やリチウム電池用あるいはキャパシタ用などの電気化学素子用セパレータ、水処理膜、気体分離膜、電解質膜、前述した膜など各種膜の支持体、ガス拡散体、マスクや貼付薬用基材などの衛生材料、吸音材などの様々な産業用資材として使用可能な材料を提供できる。