(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】回転機械
(51)【国際特許分類】
F01D 5/16 20060101AFI20220829BHJP
F01D 5/26 20060101ALI20220829BHJP
F01D 9/02 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
F01D5/16
F01D5/26
F01D9/02 101
(21)【出願番号】P 2017254567
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-09-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】深尾 伸次
(72)【発明者】
【氏名】前田 茂稔
(72)【発明者】
【氏名】椙下 秀昭
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0182746(US,A1)
【文献】特開昭53-113903(JP,A)
【文献】特開昭60-036701(JP,A)
【文献】特開2001-355405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 5/14- 5/20
F01D 5/26
F01D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に延びるとともに周方向に間隔をあけて複数が設けられた翼を備え、
前記翼は、径方向における断面視で凹曲面状をなす腹側面及び凸曲面状をなす背側面を有し、
前記背側面の一部であって、互いに隣り合う前記翼の腹側面と背側面とによって形成される流路のうち最も流路断面積が小さくなる位置が一次スロート位置とされ、
前記背側面における前記一次スロート位置に対応する部分に、該背側面に沿う流れを乱す流れ乱し部が設けられ、
前記流れ乱し部は、前記一次スロート位置を基準として、前記翼のコード長の±20%の範囲内のみにあり、
前記流れ乱し部は、コーティングを有することで前記背側面における他の領域よりも粗度が高い粗面である回転機械。
【請求項2】
径方向に延びるとともに周方向に間隔をあけて複数が設けられた翼を備え、
前記翼は、径方向における断面視で凹曲面状をなす腹側面及び凸曲面状をなす背側面を有し、
前記背側面の一部であって、互いに隣り合う前記翼の腹側面と背側面とによって形成される流路のうち最も流路断面積が小さくなる位置が一次スロート位置とされ、
前記背側面における前記一次スロート位置に対応する部分に、該背側面に沿う流れを乱す流れ乱し部が設けられ、
前記流れ乱し部は、前記一次スロート位置を基準として、前記翼のコード長の±20%の範囲内のみにあり、
前記流れ乱し部は、前記背側面から凹むように形成された複数のディンプルである回転機械。
【請求項3】
前記流れ乱し部は、前記一次スロート位置を基準として、前記翼のコード長の±20%の範囲内のみにあり、かつ前記翼の径方向高さHtに対して50~100%Htの領域にのみ設けられている請求項
1又は2に記載の回転機械。
【請求項4】
前記翼は、動翼シュラウドを有しないフリースタンディング翼であって、
前記流れ乱し部は、前記翼の径方向高さHtに対して80~100%Htの領域にのみ設けられている請求項
3に記載の回転機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンは、軸線回りに回転するロータと、ロータに取り付けられた複数の動翼と、ロータ及び動翼を外側から覆うケーシングと、ケーシングの内面に取り付けられた複数の静翼と、を備えている。軸線方向の一方側から高温高圧の蒸気が流入することで、動翼にエネルギーが付加され、回転軸は回転する。この回転エネルギーによって、蒸気タービンに接続された発電機等が駆動される。
【0003】
複数の動翼は、ロータの外周面上で、軸線を中心とする放射状に取り付けられている。それぞれの動翼は、軸線に対する径方向から見て翼型の断面形状を有している。具体的には、動翼は、径方向から見て凹曲面状をなす腹面と、凸曲面状をなす背面と、を有している(例えば下記特許文献1参照)。近年、翼の長径化、軽量化、高出力のための大流量化又は複合材の適用等により、フラッタ発生が懸念される。フラッタ抑制策としては、スタブやシュラウドに摺動部を設け、構造減衰を増加や翼厚を厚くする等により剛性を高くし、無次元振動数を増加させ安定化を図る手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでのフラッタ抑制策としては、翼の体格向上(翼厚増加等)や、スタブ等による構造減衰の付加が主であり、流れ場に対する改善措置は提唱されていなかった。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、フラッタをさらに抑制することが可能な回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第一の態様によれば、回転機械は、径方向に延びるとともに周方向に間隔をあけて複数が設けられた翼を備え、前記翼は、径方向における断面視で凹曲面状をなす腹側面及び凸曲面状をなす背側面を有し、前記背側面の一部であって、互いに隣り合う前記翼の腹側面と背側面とによって形成される流路のうち最も流路断面積が小さくなる位置が一次スロート位置とされ、前記背側面における前記一次スロート位置に対応する部分に、該背側面に沿う流れを乱す流れ乱し部が設けられ、前記流れ乱し部は、前記一次スロート位置を基準として、前記翼のコード長の±20%の範囲内のみにあり、前記流れ乱し部は、コーティングを有することで前記背側面における他の領域よりも粗度が高い粗面である。
【0014】
この構成によれば、流れ乱し部の下流側の領域で、流れの速度分布に乱れが生じる。これにより、当該領域における空力減衰が小さくなり過ぎること(空力負減衰の増加)を抑制することができる。即ち、流れ乱し部がなければ流れが減速される領域で、該流れ乱し部により流れが乱されることで、動翼に作用する周期的な不安定化力を低減させることができる。これにより、動翼にフラッタが生じる可能性を低減することができる。
さらに、この構成によれば、粗面を通過する際の摩擦力によって、流れの速度分布に乱れを生じる。これにより、当該領域における空力減衰が小さくなり過ぎること(空力負減衰の増加)を抑制することができる。これにより、動翼にフラッタが生じる可能性を低減することができる。
【0015】
また、本発明の第二の態様によれば、回転機械は、径方向に延びるとともに周方向に間隔をあけて複数が設けられた翼を備え、前記翼は、径方向における断面視で凹曲面状をなす腹側面及び凸曲面状をなす背側面を有し、前記背側面の一部であって、互いに隣り合う前記翼の腹側面と背側面とによって形成される流路のうち最も流路断面積が小さくなる位置が一次スロート位置とされ、前記背側面における前記一次スロート位置に対応する部分に、該背側面に沿う流れを乱す流れ乱し部が設けられ、前記流れ乱し部は、前記一次スロート位置を基準として、前記翼のコード長の±20%の範囲内のみにあり、前記流れ乱し部は、前記背側面から凹むように形成された複数のディンプルである。
【0016】
この構成によれば、流れ乱し部の下流側の領域で、流れの速度分布に乱れが生じる。これにより、当該領域における空力減衰が小さくなり過ぎること(空力負減衰の増加)を抑制することができる。即ち、流れ乱し部がなければ流れが減速される領域で、該流れ乱し部により流れが乱されることで、動翼に作用する周期的な不安定化力を低減させることができる。これにより、動翼にフラッタが生じる可能性を低減することができる。
さらに、この構成によれば、ディンプルに流れの一部の成分が入り込むことで、流れの速度分布に乱れを生じる。これにより、当該領域における空力減衰が小さくなり過ぎること(空力負減衰の増加)を抑制することができる。これにより、動翼にフラッタが生じる可能性を低減することができる。
【0019】
本発明の第三の態様によれば、前記流れ乱し部は、前記一次スロート位置を基準として、前記翼のコード長の±20%の範囲内のみにあり、かつ前記翼の径方向高さHtに対して50~100%Htの領域にのみ設けられていてもよい。
本発明の第四の態様によれば、前記翼は、動翼シュラウドを有しないフリースタンディング翼であって、前記流れ乱し部は、前記翼の径方向高さHtに対して80~100%Htの領域にのみ設けられていてもよい。
【0020】
ここで、流れの速度が減少する領域(減速流れが発生する領域)は、翼の径方向外側の端部から翼の径方向における長さの50%以下の領域であることが知られている。即ち、この領域では、空力負減衰が増加しやすい。しかしながら、上記の構成によれば、減速流れが発生する領域に流れ乱し部が設けられることで、より効果的にフラッタを抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、フラッタをさらに抑制することが可能な回転機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る回転機械(蒸気タービン)の構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る動翼を径方向から見た断面図である。
【
図3】本発明の第一実施形態に係る動翼を径方向に交差する方向から見た図である。
【
図4】本発明の第一実施形態に係る動翼の特性を示すグラフであって、(a)は翼面速度分布を示し、(b)は翼面における減衰の分布を示す。
【
図5】本発明の第一実施形態の比較例に係る動翼を径方向から見た断面図である。
【
図6】本発明の第一実施形態の比較例に係る動翼の特性を示すグラフであって、(a)は翼面速度分布を示し、(b)は翼面における減衰の分布を示す。
【
図7】本発明の第二実施形態に係る動翼を径方向から見た断面図である。
【
図8】本発明の第三実施形態に係る動翼を径方向から見た断面図である。
【
図9】本発明の第四実施形態に係る動翼を径方向から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、蒸気タービン1(回転機械)は、軸線O方向に沿って延びる蒸気タービンロータ3と、蒸気タービンロータ3を外周側から覆う蒸気タービンケーシング2と、蒸気タービンロータ3の軸端11を軸線O回りに回転可能に支持するジャーナル軸受4、及びスラスト軸受5と、を備えている。
【0024】
蒸気タービンロータ3は複数の動翼30を有している。蒸気タービンロータ3の周方向に一定の間隔をもって複数の動翼30が配列される。軸線O方向においても、一定の間隔を持って複数の動翼30の列が配列される。動翼30は、翼本体31と、動翼シュラウド34(シュラウド)と、を有している。翼本体31は、蒸気タービンロータ3の外周面から径方向外側に向かって突出している。翼本体31は、径方向から見て翼型の断面を有する。翼本体31の先端部(径方向外側の端部)には、動翼シュラウド34が設けられている。
【0025】
蒸気タービンケーシング2は、蒸気タービンロータ3を外周側から覆う略筒状をなしている。蒸気タービンケーシング2の軸線O方向一方側には、蒸気を取り込む蒸気供給管12が設けられている。蒸気タービンケーシング2の軸線O方向他方側には、蒸気を排出する蒸気排出管13が設けられている。以降の説明では、蒸気排出管13から見て蒸気供給管12が位置する側を上流側と呼び、蒸気供給管12から見て蒸気排出管13が位置する側を下流側と呼ぶ。
【0026】
蒸気タービンケーシング2の内周面25に沿って複数の静翼21が設けられている。静翼21は、静翼台座24を介して蒸気タービンケーシング2の内周面25に接続される羽根状の部材である。さらに、静翼21の先端部(径方向内側の端部)には、静翼シュラウド22が設けられている。動翼30と同様に、静翼21は内周面25の周方向及び軸線O方向に沿って複数配列される。動翼30は、隣り合う複数の静翼21の間の領域に入り込むようにして配置される。
【0027】
蒸気タービンケーシング2の内部において、静翼21と動翼30が配列された領域は、作動流体である蒸気Sが流通する主流路20を形成する。蒸気タービンケーシング2の内周面25と動翼シュラウド34との間には、軸線Oに対する径方向外側に向かって凹む凹部50が周方向全域にわたって形成されている。
【0028】
蒸気Sは、上流側の蒸気供給管12を介して、上述のように構成された蒸気タービン1に供給される。その後、蒸気タービンロータ3の回転に伴って静翼21と動翼30の列を通過し、やがて下流側の蒸気排出管13を通じて後続の装置(不図示)に向かって排出される。
【0029】
ジャーナル軸受4は、軸線Oに対する径方向への荷重を支持する。ジャーナル軸受4は、蒸気タービンロータ3の両端に1つずつ設けられている。スラスト軸受5は、軸線O方向への荷重を支持する。スラスト軸受5は、蒸気タービンロータ3の上流側の端部にのみ設けられている。
【0030】
次に、
図2を参照して、動翼30の構成について説明する。同図に示すように、本実施形態に係る動翼30は、径方向から見て翼型の断面を有している。具体的には、動翼30は、凹曲面状をなす腹側面30aと、凸曲面状をなす背側面30bと、を有している。さらに、動翼30の厚さ寸法は、上流側の端部である前縁30Lから、下流側の端部である後縁30Tに向かうにしたがって小さくなっている。
【0031】
複数の動翼30は、軸線Oに対する周方向に間隔をあけて配列されている。即ち、互いに隣り合う一対の動翼30,30の背側面30bと腹側面30a同士は互いに周方向に対向している。互いに対向する背側面30bと腹側面30aとの間の空間は、翼間流路Fとされている。翼間流路Fを作動流体が流通する際に腹側面30aに流れが衝突することで、動翼30に運動エネルギーが付加される。
【0032】
ここで、上述の翼間流路Fの中途で、径方向から見て腹側面30aと背側面30bの離間距離が最も小さくなる位置を一次スロート位置T1と呼ぶ(
図2中の鎖線で図示)。即ち、一次スロート位置T1では、翼間流路Fの流路断面積が最も小さくなっている。この一次スロート位置T1に対応する背側面30b上には、流れ乱し部90としての突起91が設けられている。
【0033】
突起91は、背側面30bに沿う流れを乱すために設けられている。突起91は、背側面30bから腹面側に向かって突出している。径方向から見て、突起91は円弧状の断面を有している。なお、突起91は、背側面30b上で、一次スロート位置T1を基準として、動翼30のコード長の±20%の範囲内にあることが望ましい。突起91は、コード長の±10%の範囲内にあることがさらに望ましく、最も望ましくは、突起91は、コード長の±5%の範囲内に設けられる。なお、ここで言うコード長とは、動翼30の前縁30Lと後縁30Tとを結ぶ直線の長さを指す。
【0034】
突起91が設けられていることにより、動翼30としてのスロート位置(二次スロート位置T2)は上記の一次スロート位置T1から変化する。
図2の例では、一次スロート位置T1と二次スロート位置T2とが一致している場合を示している。突起91が一次スロート位置T1を基準として、コード長の±20%の範囲内であって、一次スロート位置T1とは異なる位置に設けられている場合には、突起91が設けられている位置が二次スロート位置T2となる。
【0035】
さらに、
図3に示すように、突起91は、動翼30の径方向外側の端部30Rから、動翼30の径方向における長さの50%以下の領域に設けられている。即ち、突起91は、動翼30の50~100%Htの領域にのみ設けられている。なお、動翼シュラウドを有しないフリースタンディング翼の場合には、突起91は、動翼30の80~100%Htの領域にのみ設けられることが望ましい。
【0036】
続いて、本実施形態に係る蒸気タービン1の動作について説明する。蒸気タービン1を運転するに当たっては、外部の蒸気供給源(不図示)から、高温高圧の蒸気が蒸気供給管12を通じて蒸気タービンケーシング2の内部(主流路20)に供給される。蒸気は、主流路20に沿って、上流側から下流側に向かって流れる流れ(主蒸気)を形成する。主蒸気は、静翼21と動翼30とに交互に衝突することで、動翼30を介して蒸気タービンロータ3に回転力を与える。蒸気タービンロータ3の回転は軸端から取り出されて、発電機等(不図示)の外部機器を駆動する。
【0037】
蒸気タービン1が稼動している状態において、動翼30の周囲では、腹側面30aに沿う蒸気の流れと、背側面30bに沿う蒸気の流れが生じる。腹側面30a上、背側面30b上ともに、蒸気は上流側から下流側に向かうに従って周方向一方側から他方側に向かって流れる。ここで、
図5に比較例として示すように、背側面30b上に何らの構造物も設けられていない場合、背側面30bに沿う流れでは、当該背側面30b上で速度の減少が生じる(減速流れが形成される。)。より具体的には、
図6(a)のグラフに示すような速度分布を呈する。
図6(a)のグラフでは、横軸は前縁30Lから後縁30Tにかけての位置を示し、縦軸は速度を示している。また、鎖線は背側面30bにおける速度分布を示し、実線は腹側面30aにおける速度分布を示している。同グラフに示すように、背側面30bでは、位置Pよりも後縁30T側の領域において、速度が減少している(減速流れが発生している。)
【0038】
一方で、
図6(b)のグラフは、動翼30における流体に付加される減衰力の分布を示している。
図6(b)のグラフでは、横軸は前縁30Lから後縁30Tにかけての位置を示し、縦軸は減衰力を示している。また、鎖線は背側面30bにおける減衰力分布を示し、実線は腹側面30aにおける減衰力分布を示している。同グラフに示すように、減速流れが発生する位置Pよりも後縁30T側では、減衰力が大きく負の値を取っていることが分かる。この負減衰の増加により、動翼30にフラッタを生じる可能性がある。
【0039】
これに対して、本実施形態に係る蒸気タービン1では、動翼30の背側面30b上に突起91(流れ乱し部90)が設けられている。突起91が設けられている場合、翼表面における速度分布、及び減衰力分布は、
図4(a)、
図4(b)の状態となる。
図4(a)に示すように、背側面30bにおいて減速流れが発生する位置Pよりも下流側の領域では、減速の程度が
図6(a)の場合と比べて緩和されていることが分かる。さらに、
図4(b)に示すように、減速流れが発生する位置Pよりも後縁30T側では、減衰力の減少が小さくなっていることが分かる。即ち、
図6(b)の場合と比べて、負減衰力の増加が減少していることが分かる。これは、突起91がなければ流れが減速される領域で、該突起91により流れが乱されることで、動翼に作用する周期的な不安定化力を低減させることができるためである。これにより、動翼30におけるフラッタの発生を抑制することができる。
【0040】
以上、説明したように、本実施形態に係る蒸気タービン1では、流れ乱し部90としての突起91の下流側の領域で、流れの速度分布に乱れを生じる。これにより、当該領域における空力減衰が小さくなり過ぎること(空力負減衰の増加)を抑制することができる。これにより、動翼30にフラッタが生じる可能性を低減することができる。
【0041】
ここで、流れの速度が減少する領域(減速流れが発生する領域)は、一次スロート位置T1を基準として、翼のコード長の±20%の範囲内であることが知られている。即ち、この領域では、空力負減衰が増加しやすい。しかしながら、上記の構成によれば、減速流れが発生する領域に流れ乱し部90が設けられることで、より効果的にフラッタを抑制することができる。
【0042】
さらに、流れの速度が減少する領域(減速流れが発生する領域)は、翼の径方向外側の端部から翼の径方向における長さの50%以下の領域であることが知られている。即ち、この領域では、空力負減衰が増加しやすい。しかしながら、上記の構成によれば、減速流れが発生する領域に流れ乱し部90が設けられることで、より効果的にフラッタを抑制することができる。
【0043】
以上、本発明の第一実施形態について説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、第一実施形態では、蒸気タービン1の動翼30を例に説明した。しかしながら、本発明の適用対象は蒸気タービン1の動翼30に限定されず、静翼に適用することも可能である。また、軸流圧縮機のブレードに本発明を適用することも可能である。
【0044】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について、
図7を参照して説明する。なお、上記第一実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。同図に示すように、本実施形態では、動翼30の背側面30b上に、流れ乱し部90としての溝92が形成されている。この溝92は、径方向からみて、背側面30bから腹側面30a側に向かって矩形状に凹んでいる。溝92は、背側面30b上で、一次スロート位置T1を基準として、動翼30のコード長の±20%の範囲内にあることが望ましい。溝92は、コード長の±10%の範囲内にあることがさらに望ましく、最も望ましくは、溝92は、コード長の±5%の範囲内に設けられる。なお、ここで言うコード長とは、動翼30の前縁30Lと後縁30Tとを結ぶ直線の長さを指す。
【0045】
溝92が形成されていることにより、動翼30としてのスロート位置(二次スロート位置T2)は上記の一次スロート位置T1から変化する。
図2の例では、一次スロート位置T1と二次スロート位置T2とが一致している場合を示している。
【0046】
さらに、溝92は、動翼30の径方向外側の端部から、動翼30の径方向における長さの50%以下の領域に設けられている。即ち、溝92は、動翼30の50~100%Htの領域にのみ設けられている。なお、動翼シュラウドを有しないフリースタンディング翼の場合には、溝92は、動翼30の80~100%Htの領域にのみ設けられることが望ましい。
【0047】
以上、説明したように、本実施形態に係る蒸気タービン1では、流れ乱し部90としての溝92の下流側の領域で、流れの速度分布に乱れを生じる。これにより、当該領域における空力減衰が小さくなり過ぎること(空力負減衰の増加)を抑制することができる。これにより、動翼30にフラッタが生じる可能性を低減することができる。
【0048】
以上、本発明の第二実施形態について説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、第二実施形態では、蒸気タービン1の動翼30を例に説明した。しかしながら、本発明の適用対象は蒸気タービン1の動翼30に限定されず、静翼に適用することも可能である。また、軸流圧縮機のブレードに本発明を適用することも可能である。
【0049】
[第三実施形態]
続いて、本発明の第三実施形態について、
図8を参照して説明する。なお、上記の各実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
図8に示すように、本実施形態では、動翼30の背側面30b上に、流れ乱し部90としての粗面93が形成されている。粗面93は、背側面30bにおける他の領域よりも粗度が高い。粗面93を構成する手段としては、背側面30b上にコーティングを施す方法や、カーボン粒子を付着させる方法などが考えられる。
【0050】
粗面93は、背側面30b上で、一次スロート位置T1を基準として、動翼30のコード長の±20%の範囲内にあることが望ましい。粗面93は、コード長の±10%の範囲内にあることがさらに望ましく、最も望ましくは、粗面93は、コード長の±5%の範囲内に設けられる。なお、ここで言うコード長とは、動翼30の前縁30Lと後縁30Tとを結ぶ直線の長さを指す。
【0051】
さらに、粗面93は、動翼30の径方向外側の端部から、動翼30の径方向における長さの50%以下の領域に設けられている。即ち、粗面93は、動翼30の50~100%Htの領域にのみ設けられている。なお、動翼シュラウドを有しないフリースタンディング翼の場合には、粗面93は、動翼30の80~100%Htの領域にのみ設けられることが望ましい。
【0052】
以上、説明したように、本実施形態に係る蒸気タービン1では、流れ乱し部90としての粗面93が形成されていることで、粗面93を通過する際に摩擦力が生じ、流れの速度分布に乱れを生じる。これにより、当該領域における空力減衰が小さくなり過ぎること(空力負減衰の増加)を抑制することができる。これにより、動翼30にフラッタが生じる可能性を低減することができる。
【0053】
以上、本発明の第三実施形態について説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、第三実施形態では、蒸気タービン1の動翼30を例に説明した。しかしながら、本発明の適用対象は蒸気タービン1の動翼30に限定されず、静翼に適用することも可能である。また、軸流圧縮機のブレードに本発明を適用することも可能である。
【0054】
[第四実施形態]
続いて、本発明の第四実施形態について、
図9を参照して説明する。なお、上記の各実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
図9に示すように、本実施形態では、動翼30の背側面30b上に、流れ乱し部90としてのディンプル領域94が形成されている。ディンプル領域94には、背側面30b上に形成された複数のディンプル95を有している。各ディンプル95は、背側面30bから腹側面30a側に向かってわずかに凹んでいる。
【0055】
ディンプル領域94は、背側面30b上で、一次スロート位置T1を基準として、動翼30のコード長の±20%の範囲内にあることが望ましい。ディンプル領域94は、コード長の±10%の範囲内にあることがさらに望ましく、最も望ましくは、ディンプル領域94は、コード長の±5%の範囲内に設けられる。なお、ここで言うコード長とは、動翼30の前縁30Lと後縁30Tとを結ぶ直線の長さを指す。
【0056】
さらに、ディンプル領域94は、動翼30の径方向外側の端部から、動翼30の径方向における長さの50%以下の領域に設けられている。即ち、ディンプル領域94は、動翼30の50~100%Htの領域にのみ設けられている。なお、動翼シュラウドを有しないフリースタンディング翼の場合には、ディンプル領域94は、動翼30の80~100%Htの領域にのみ設けられることが望ましい。
【0057】
以上、説明したように、本実施形態に係る蒸気タービン1では、流れ乱し部90としてのディンプル領域94が形成されていることで、ディンプル領域94を通過する際に、流れの速度分布に乱れを生じる。これにより、当該領域における空力減衰が小さくなり過ぎること(空力負減衰の増加)を抑制することができる。これにより、動翼30にフラッタが生じる可能性を低減することができる。
【0058】
以上、本発明の第四実施形態について説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、第四実施形態では、蒸気タービン1の動翼30を例に説明した。しかしながら、本発明の適用対象は蒸気タービン1の動翼30に限定されず、静翼に適用することも可能である。また、軸流圧縮機のブレードに本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…蒸気タービン
2…蒸気タービンケーシング
3…蒸気タービンロータ
4…ジャーナル軸受
5…スラスト軸受
11…軸端
12…蒸気供給管
13…蒸気排出管
20…主流路
24…静翼台座
25…内周面
30…動翼
30a…腹側面
30b…背側面
30L…前縁
30T…後縁
31…翼本体
34…動翼シュラウド
50…凹部
90…流れ乱し部
91…突起
92…溝
93…粗面
94…ディンプル領域
95…ディンプル
F…翼間流路
T1…一次スロート位置
T2…二次スロート位置