(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】トレーリングコーンシステム
(51)【国際特許分類】
B64D 3/00 20060101AFI20220829BHJP
B64F 5/60 20170101ALI20220829BHJP
B64D 45/00 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
B64D3/00
B64F5/60
B64D45/00 A
(21)【出願番号】P 2018050977
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】508208007
【氏名又は名称】三菱航空機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【氏名又は名称】河合 利恵
(74)【代理人】
【識別番号】100191961
【氏名又は名称】藤澤 厚太郎
(72)【発明者】
【氏名】森崎 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 猛
(72)【発明者】
【氏名】齋木 康寛
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 雄一
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0048782(US,A1)
【文献】特開2017-027355(JP,A)
【文献】米国特許第02432278(US,A)
【文献】特開2012-242087(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102853961(CN,A)
【文献】特開平09-020296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 3/00- 3/02
B64D 39/00-39/06
B64D 45/00-45/08
B64F 5/60
F41J 9/10
G01L 7/00
G01P 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の垂直尾翼からケーブルにより曳航されるコーンと、前記ケーブルに設けられた圧力検知部とを有するトレーリングコーンシステムにおいて、
長さが変化する伸縮部を前記圧力検知部と前記コーンとの間に設け
、
前記垂直尾翼に設けられ、前記ケーブルが内部を通るケーブルガイドを有し
、
前記ケーブルガイドの後端に、前記圧力検知部の前端を保持する保持部を設けるか、又は、前記圧力検知部を内部に収納する収納部を設ける
ことを特徴とするトレーリングコーンシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のトレーリングコーンシステムにおいて、
前記伸縮部は、互いが移動可能に接続された複数の継手を有し、
前記複数の継手同士は、互いに弾性部材で接続される
ことを特徴とするトレーリングコーンシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のトレーリングコーンシステムにおいて、
前記複数の継手の少なくとも1つが風圧を受ける風受けを有する
ことを特徴とするトレーリングコーンシステム。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のトレーリングコーンシステムにおいて、
前記複数の継手の1つが前記圧力検知部の端部に固定されると共に、前記複数の継手同士は、収縮時に互いに嵌合する嵌合部を有する
ことを特徴とするトレーリングコーンシステム。
【請求項5】
請求項1に記載のトレーリングコーンシステムにおいて、
前記伸縮部は、人工筋肉を有する
ことを特徴とするトレーリングコーンシステム。
【請求項6】
請求項5に記載のトレーリングコーンシステムにおいて、
前記人工筋肉の外周側にベローズ又は多重管を設けた
ことを特徴とするトレーリングコーンシステム。
【請求項7】
航空機の垂直尾翼からケーブルにより曳航されるコーンと、前記ケーブルに設けられた圧力検知部とを有するトレーリングコーンシステムにおいて、
長さが変化する伸縮部を前記圧力検知部と前記コーンとの間に設け、
前記伸縮部は、互いが移動可能に接続された複数の継手を有し、
前記複数の継手同士は、互いに弾性部材で接続される
ことを特徴とするトレーリングコーンシステム。
【請求項8】
航空機の垂直尾翼からケーブルにより曳航されるコーンと、前記ケーブルに設けられた圧力検知部とを有するトレーリングコーンシステムにおいて、
長さが変化する伸縮部を前記圧力検知部と前記コーンとの間に設け、
前記伸縮部は、人工筋肉を有する
ことを特徴とするトレーリングコーンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の飛行試験の計測で使用されるトレーリングコーンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
正確な飛行速度の取得を目的として、航空機の機体後部にトレーリングコーンシステム(以降、TCSと呼ぶ。)を装備して、飛行試験が行われている。
図10を参照して、このTCSを説明する。なお、
図10は、航空機が停止している状態を示している。また、TCSのケーブル巻取機側を前側とし、TCSのコーン側を後側として説明する。
【0003】
TCSは、航空機10の機体後部に装備されており、ケーブル巻取機21、圧力センサ22、ケーブル23a、23b、圧力孔金具と呼ばれる圧力検知部24、コーン25、ケーブルガイド26を有している。
【0004】
コーン25は、飛行試験時に垂直尾翼11からケーブル23a、23bにより曳航されるものである。ケーブル23aは、その一端が機内に配置されたケーブル巻取機21と接続され、垂直尾翼11の頂部に設けられたケーブルガイド26の内部を通って機外に出されて、その他端が圧力孔金具24の前端側に接続されている。このケーブル23aは、ケーブル巻取機21により、その長さ(機外での長さ)を調整することができる。また、ケーブル23bは、その一端が圧力孔金具24の後端側に接続され、その他端がコーン25に接続されており、このケーブル23bの長さにより、圧力孔金具24とコーン25との間が所定の長さ離れた位置となるようにしている。このように、ケーブル23a、23bの途中に圧力孔金具24が設けられ、ケーブル23a、23bの先端にコーン25が設けられている。
【0005】
ケーブル巻取機21と圧力孔金具24との間のケーブル23aの内部には、圧力センサ22と圧力孔金具24とを接続するチューブ(図示省略)が設けられている。また、圧力孔金具24には静圧検知用の孔が多数設けられている。そして、圧力孔金具24の孔、チューブを介して、圧力孔金具24の周囲の大気を圧力センサ22に導いて、圧力を検出している。
【0006】
飛行試験時には、コーン25が風圧(空気力)を受けることで、ケーブル23a、23bを展張させて、機体後方の一様流に近い大気中に圧力孔金具24を配置させる。そして、一様流に近い大気中に配置した圧力孔金具24から導かれた大気の圧力を圧力センサ22で検出し、検出した圧力から高度、流速、つまり、飛行速度を取得している。このときには、圧力孔金具24は機体から100m程度離れた位置まで繰り出されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ケーブル23aは、地上及び低速飛行のときは、ケーブル巻取機21によって巻き取られて、その一部がケーブル巻取機21の内部に収納されるが、圧力孔金具24がケーブルガイド26に干渉するため、全てを収納することはできず、一定の長さは常に機外に残っている。そして、地上又は低速飛行のときには、コーン25が受ける風圧がない又は不十分であるため、機外のケーブル23b、圧力孔金具24及びコーン25は、垂れ下がった状態となる。この場合、風等によって圧力孔金具24やコーン25が垂直尾翼11に衝突し、圧力孔金具24やコーン25だけでなく、垂直尾翼11も破損する危険性がある。垂直尾翼11、圧力孔金具24、コーン25が破損した場合には、修理が必要となり、時間的、コスト的なデメリットとなる。
【0009】
このような危険性を防止するため、
図11に示すように、ケーブルガイド26の後端側に拡径したゴムチューブ27を設け、ゴムチューブ27の内部に圧力孔金具24を収納することにより、圧力孔金具24の衝突による損傷を防止する構造が知られている。しかしながら、このような構造でも、圧力孔金具24より後方のケーブル23bやコーン25は依然として垂れ下がったままであり、垂直尾翼11に衝突する危険性は残っている。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、垂直尾翼への衝突を回避して、飛行試験における危険性を低減することができるトレーリングコーンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する第1の発明に係るトレーリングコーンシステムは、
航空機の垂直尾翼からケーブルにより曳航されるコーンと、前記ケーブルに設けられた圧力検知部とを有するトレーリングコーンシステムにおいて、
長さが変化する伸縮部を前記圧力検知部と前記コーンとの間に設けた
ことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第2の発明に係るトレーリングコーンシステムは、
上記第1の発明に記載のトレーリングコーンシステムにおいて、
前記伸縮部は、互いが移動可能に接続された複数の継手を有し、
前記複数の継手同士は、互いに弾性部材で接続される
ことを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第3の発明に係るトレーリングコーンシステムは、
上記第2の発明に記載のトレーリングコーンシステムにおいて、
前記複数の継手の少なくとも1つが風圧を受ける風受けを有する
ことを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する第4の発明に係るトレーリングコーンシステムは、
上記第2又は第3の発明に記載のトレーリングコーンシステムにおいて、
前記複数の継手の1つが前記圧力検知部の端部に固定されると共に、前記複数の継手同士は、収縮時に互いに嵌合する嵌合部を有する
ことを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する第5の発明に係るトレーリングコーンシステムは、
上記第1の発明に記載のトレーリングコーンシステムにおいて、
前記伸縮部は、人工筋肉を有する
ことを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決する第6の発明に係るトレーリングコーンシステムは、
上記第5の発明に記載のトレーリングコーンシステムにおいて、
前記人工筋肉の外周側にベローズ又は多重管を設けた
ことを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決する第7の発明に係るトレーリングコーンシステムは、
上記第1~第6のいずれか1つの発明に記載のトレーリングコーンシステムにおいて、
前記垂直尾翼に設けられ、前記ケーブルが内部を通るケーブルガイドを有し、
前記ケーブルガイドの後端に、前記圧力検知部の前端を保持する保持部を設けるか、又は、前記圧力検知部を内部に収納する収納部を設ける
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、圧力検知部とコーンとの間に伸縮部を設けたので、垂直尾翼等の機体への衝突を回避して、飛行試験における危険性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るトレーリングコーンシステムの実施形態の一例を説明する図であって、ケーブルガイド後端及びケーブルガイドより後方側の構成を説明する概略図である。
【
図2】
図1に示したトレーリングコーンシステムの伸縮部を拡大して説明する概略図である。
【
図3】
図1に示したトレーリングコーンシステムの飛行時の状態を説明する概略図である。
【
図4】
図1に示したトレーリングコーンシステムの停止時の状態を説明する概略図である。
【
図5】本発明に係るトレーリングコーンシステムの実施形態の他の一例を説明する図であって、ケーブルガイド後端及びケーブルガイドより後方側の構成を説明する概略図である。
【
図6】
図5に示したトレーリングコーンシステムのA-A線矢視断面図である。
【
図7】
図5に示したトレーリングコーンシステムの伸縮部が縮んでいる状態を説明する概略図である。
【
図8】
図5に示したトレーリングコーンシステムの伸縮部が伸びていく状態を説明する概略図である。
【
図9】
図5に示したトレーリングコーンシステムの伸縮部が伸びきった状態を説明する概略図である。
【
図10】従来のトレーリングコーンシステムを説明する概略図である。
【
図11】従来のトレーリングコーンシステムの他の一例を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係るトレーリングコーンシステム(TCS)の実施形態を説明する。なお、以下では、一例として、
図10に示したTCSをベースに説明を行うが、例えば、特許文献1の
図1~
図3に示すように、圧力センサ自体をケーブルに取り付けた構成のTCSにも、本発明は適用可能である。
【0021】
[実施例1]
本実施例のTCSについて、
図1~
図4を参照して説明を行う。ここで、
図1は、本実施例のTCSを説明する図であって、ケーブルガイド後端及びケーブルガイドより後方側の構成を説明する概略図である。また、
図2は、
図1に示したTCSの伸縮部を拡大して説明する概略図である。また、
図3は、
図1に示したTCSの飛行時の状態を説明する概略図であり、
図4は、
図1に示したTCSの停止時の状態を説明する概略図である。なお、ここでは、TCSのケーブル巻取機側を前側とし、TCSのコーン側を後側とし、図の上下方向を鉛直方向とし、図の上下方向に垂直な方向を水平方向として説明する。
【0022】
本実施例のTCSは、
図4に示すように、航空機10の機体後部、例えば、垂直尾翼11の後縁に近い上端部等に装備されており、ケーブル巻取機21、圧力センサ22、ケーブル23a、23b、圧力孔金具24(圧力検知部)、コーン25、ケーブルガイド26を有しており、これらは、
図10で説明した従来のTCSと同様の構成である。そのため、ここでは、
図10で説明した従来のTCSと同等の構成には同じ符号を使用し、重複する説明は省略する。
【0023】
このように、本実施例のTCSは、基本的には、従来のTCSと同様の構成であるが、圧力孔金具24とコーン25との間に、自身の長さが変化する伸縮部30を設けている点、そして、圧力孔金具24の前端側に半球状の凸部のフェアリング41を設けると共に、ケーブルガイド26の後端側にフェアリング41が嵌合する半球状の凹部の受部28(保持部)を設けている点に違いがある。なお、フェアリング41及び受部28の形状は、互いに嵌合する形状であれば、他の形状でもよく、例えば、フェアリング41を円錐状の凸部とし、受部28を円錐状の凹部として、互いに嵌合するようにしてもよい。また、フェアリング41は、圧力孔金具24に設けられる静圧検知用の孔と干渉しない形状に形成することが望ましい。また、受部28としては、ゴム等の材料が好適である。
【0024】
伸縮部30は、互いが移動可能に接続された前側継手31、中間継手32及び後側継手33から構成されている。なお、
図1及び
図2では、図を簡単にするため、1つの中間継手32しか図示していないが、実際には、
図3及び
図4に示すように、複数の中間継手32を接続しており、収縮時及び伸張時の伸縮部30の長さを後述する所望の長さL1及びL2になるようにしている。
【0025】
ここで、
図2を参照して、前側継手31、中間継手32及び後側継手33について説明を行う。
【0026】
前側継手31は、圧力孔金具24の後端側に固定された継手本体31aと、継手本体31aの後端側に形成された凸部31b(嵌合部)と、凸部31bに形成された長丸長方形の長穴部31cと、継手本体31aの内部に設けられたバネ31d(弾性部材)とを有している。なお、ここでは、弾性部材として、バネ31dを使用しているが、例えば、ゴム等の弾性部材でもよい。
【0027】
前側継手31において、凸部31bは、継手本体31aの水平方向両側に設けられると共に、後述する中間継手32の凹部32i(嵌合部)と嵌合する形状に形成されている。そのため、バネ31dによる引張力により前側継手31と中間継手32の間の隙間が収縮して無くなったときには、凸部31bが凹部32iに嵌合するので、前側継手31により中間継手32の移動の自由度が制限され、特に、鉛直方向への移動を制限することになる。
【0028】
前側継手31と中間継手32において、それらの水平方向両側だけでなく、鉛直方向両側にも上記と同様の嵌合構造を設けることにより、水平方向への移動を制限することもできる。このような嵌合構造の配置によって、鉛直方向のみの移動を制限したり、水平方向のみの移動を制限したり、鉛直及び水平方向の移動を制限したりすることができる。
【0029】
また、長穴部31cは、後述する中間継手32の移動軸32hを内部に保持しており、そして、形状を長丸長方形とすることにより、長穴部31cの長手方向の範囲内において、移動軸32hを移動可能に保持している。このような長穴部31cを設け、前側継手31に対する中間継手32の位置を変更することで、前側継手31と中間継手32との間の隙間の大きさを変更すると共に、前側継手31により中間継手32の移動の自由度を変更することができる。
【0030】
例えば、上述したように、バネ31dによる引張力により前側継手31と中間継手32の間の隙間が収縮して無くなったときには、移動軸32hは長穴部31cの前側(
図2における左側)に移動し、凸部31bが凹部32iに嵌合するので、前側継手31により中間継手32の自由度が制限される。
【0031】
一方、後述するように、風受け32eが受ける風圧による伸張力により、前側継手31と中間継手32の間の隙間が広がったときには、移動軸32hは長穴部31cの後側(
図2における右側)に移動し、凸部31bが凹部32iに嵌合しない状態になるので、前側継手31による制限が小さくなり、中間継手32に移動の自由度が生まれる。
【0032】
また、バネ31dは、一端が前側継手31の前端側に固定され、他端が後述する中間継手32の接続部32gの前端側に固定されている。詳細は後述するが、所定の飛行速度未満のときには、このバネ31dの引張力により、中間継手32をケーブルガイド26側に引きつけることになる。
【0033】
中間継手32は、継手本体32aと、継手本体32aの後端側に形成された凸部32b(嵌合部)と、凸部32bに形成された長丸長方形の長穴部32cと、継手本体32aの内部に設けられたバネ32d(弾性部材)とを有している。なお、ここでも、弾性部材として、バネ32dを使用しているが、例えば、ゴム等の弾性部材でもよい。
【0034】
更に、中間継手32は、継手本体32aの外周に設けられた複数の風受け32eと、継手本体32aの内部の鉛直方向に設けられた支持軸32fと、支持軸32fの中央部に設けられた接続部32gと、接続部32gに設けられた移動軸32hと、継手本体32aの前端側に形成された凹部32iとを有している。なお、
図2では、支持軸32fを鉛直方向に設け、移動軸32hを水平方向に設けているが、支持軸32fと移動軸32hを設ける方向は適宜に変更可能である。例えば、支持軸32fを水平方向に設け、移動軸32hを鉛直方向に設けてもよく、その場合には、移動軸32hを設ける方向に合わせて、前側継手31の凸部31b及び長穴部31cと中間継手32の凹部32iを設ける方向も変更すればよい。
【0035】
中間継手32において、凸部32bは、継手本体32aの水平方向両側に設けられると共に、後述する後側継手33の凹部33i(嵌合部)及び当該中間継手32の次に接続される他の中間継手32(以降、次の中間継手32)の凹部32iと嵌合する形状に形成されている。そのため、バネ32dによる引張力により中間継手32と後側継手33の間又は隣接する中間継手32同士の間の隙間が収縮して無くなったときには、凸部32bが凹部33i又は次の中間継手32の凹部32iに嵌合するので、中間継手32により後側継手33や次の中間継手32の移動の自由度が制限され、特に、鉛直方向への移動を制限することになる。
【0036】
中間継手32と後側継手33又は隣接する中間継手32同士において、それらの水平方向両側だけでなく、鉛直方向両側にも上記と同様の嵌合構造を設けることにより、水平方向への移動を制限することもできる。このような嵌合構造の配置によって、鉛直方向のみの移動を制限したり、水平方向のみの移動を制限したり、鉛直及び水平方向の移動を制限したりすることができる。つまり、伸縮部30においては、上述した前側継手31、そして、中間継手32及び後側継手33の組み方により、一方向の動きを制限したり、二方向の動きを制限したりすることができる。
【0037】
また、長穴部32cは、後述する後側継手33の移動軸33h又は次の中間継手32の移動軸32hを内部に保持しており、そして、形状を長丸長方形とすることにより、長穴部32cの長手方向の範囲内において、移動軸33h又は移動軸32hを移動可能に保持している。このような長穴部32cを設け、中間継手32に対する後側継手33又は次の中間継手32の位置を変更することで、中間継手32と後側継手33との間又は隣接する中間継手32同士の間の隙間の大きさを変更すると共に、中間継手32により後側継手33又は次の中間継手32の移動の自由度を変更することができる。
【0038】
例えば、上述したように、バネ32dによる引張力により中間継手32と後側継手33の間又は隣接する中間継手32同士の間の隙間が収縮して無くなったときには、移動軸33h又は次の中間継手32の移動軸32hは長穴部32cの前側(
図2における左側)に移動し、凸部32bが凹部33i又は次の中間継手32の凹部32iに嵌合するので、中間継手32により後側継手33又は次の中間継手32の自由度が制限される。
【0039】
一方、後述するように、風受け33e又は次の中間継手32の風受け32eが受ける風圧による伸張力により、中間継手32と後側継手33の間又は隣接する中間継手32同士の間の隙間が広がったときには、移動軸33h又は次の中間継手32の移動軸32hは長穴部32cの後側(
図2における右側)に移動し、凸部32bが凹部33i又は次の中間継手32の凹部32iに嵌合しない状態になるので、中間継手32による制限が小さくなり、後側継手33又は次の中間継手32に移動の自由度が生まれる。
【0040】
また、バネ32dは、一端が接続部32gの後端側に固定され、他端が後述する後側継手33の接続部33g又は次の中間継手32の接続部32gの前端側に固定されている。詳細は以下に説明するが、所定の飛行速度未満のときには、このバネ32dの引張力により、後側継手33又は次の中間継手32をケーブルガイド26側に引きつけることになる。
【0041】
また、風受け32eは、継手本体32aの外周面に対して前側に向かって開く角度で配置されており、飛行時の風圧により中間継手32を後側に引っ張るようにしている。そして、所定の飛行速度以上のときに風受け32eが受ける風圧による伸張力がバネ31dの引張力より大きくなるように、バネ31dの強さや風受け32eの大きさ、角度等を設定している。従って、所定の飛行速度以上のときには、風受け32eが受ける風圧による伸張力により、前側継手31と中間継手32の間の隙間が広がり、移動軸32hが長穴部31cの後側(
図2における右側)に移動し、凸部31bが凹部32iに嵌合しない状態になる。なお、
図2では、一例として、図中の上下に合計2つの風受け32eを設けているが、更に多くの風受け32eを設けてもよいし、継手本体32aの外周全周に風受け32eを設けてもよい。
【0042】
また、支持軸32fは、継手本体32aに回転可能に支持されており、接続部32gが支持軸32fに固定されている。言い換えると、継手本体32aが支持軸32fに対して回転可能となっている。そのため、前側継手31と中間継手32の間の隙間が広がったときには、中間継手32が支持軸32f回りに揺動(回転)可能となる。
【0043】
また、移動軸32hは、上述したように、長穴部31cを長手方向に移動可能である。また、移動軸32h自体は、長穴部31cにおいて回転可能となっている。言い換えると、継手本体32aが移動軸32hと共に回転可能となっている。そのため、前側継手31と中間継手32の間の隙間が広がったときには、中間継手32が移動軸32h回りに揺動(回転)可能となる。
【0044】
従って、前側継手31と中間継手32の間の隙間が広がったとき、中間継手32は、支持軸32f回りと移動軸32h回りの2方向に揺動可能となる。上述したように、支持軸32fと移動軸32hを設ける方向は適宜に変更可能であるので、中間継手32の揺動方向も適宜に変更可能となる。
【0045】
なお、支持軸32fを継手本体32aに固定して設けたり、移動軸32h自体を回転しない形状(例えば、長穴部31cを移動可能な長丸長方形等の形状)に変更したりして、中間継手32が揺動しないような構成に変更してもよい。このような構成に変更した場合、前側継手31と中間継手32の間の隙間が広がったときに中間継手32が揺動可能な方向を、支持軸32f回り及び移動軸32h回りのいずれか1方向に制限したり、両方向とも制限したりすることができる。
【0046】
特に、全ての中間継手32において、支持軸32f回り及び移動軸32h回りの両方向への揺動を制限すると共に、後述の後側継手33において、支持軸33f回り及び移動軸33h回りの両方向への揺動を制限する場合には、前側継手31と中間継手32の間、隣接する中間継手32同士の間、そして、中間継手32と後側継手33の間の隙間が広がる際に、中間継手32及び後側継手33が揺動せずに真っ直ぐ後方側に移動することになり、伸縮部30全体の伸張時に、風等によってケーブル23bやコーン25が暴れるように揺れても、ケーブル23bやコーン25が垂直尾翼11に接触することを抑制することができる。
【0047】
後側継手33は、後端側にケーブル23bが接続された継手本体33aを有し、更に、継手本体33aの外周側に設けられた複数の風受け33eと、継手本体33aの内部の径方向に設けられた支持軸33fと、支持軸33fの中央部に設けられた接続部33gと、接続部33gに設けられた移動軸33hと、継手本体33aの前端側に形成された凹部33iとを有している。なお、後側継手33には、中間継手32の凸部32b、長穴部32c、バネ32dに該当する構成は設けられていない。
【0048】
後側継手33において、風受け33e、支持軸33f、移動軸33hは、中間継手32の風受け32e、支持軸32f、移動軸32hと同等の構成であるので、それらの説明は省略する。また、接続部33gは、その前端側にバネ32dが接続されているだけである。また、凹部33iは、凸部32bと嵌合する形状となっている。
【0049】
以上説明したように、前側継手31、中間継手32及び後側継手33は、互いが移動可能に接続されると共に、互いがバネ31d、32dで接続されている。このような前側継手31、中間継手32及び後側継手33で伸縮部30を構成することにより、所定の飛行速度以上のときには、中間継手32及び後側継手33は自在又は略自在に動き、逆に、所定の飛行速度未満のときには、中間継手32及び後側継手33の移動の自由度が制限されて、前側継手31、中間継手32及び後側継手33は、即ち、伸縮部30は、一体の棒状の状態となる。
【0050】
以上説明した構成を有する本実施例のTCSの飛行時及び停止時の状態を
図3及び
図4を参照して説明する。
【0051】
飛行試験時には、コーン25が風圧を受けることで、ケーブル23a、23bを展張させ、後側継手33を後側へ引っ張ると共に、更に、伸縮部30の中間継手32の風受け32e及び後側継手33の風受け33eも風圧を受け、前側継手31のバネ31d及び中間継手32のバネ32dが伸びて、継手間に隙間ができ、これにより、伸縮部30が伸張することになる。伸縮部30の後端からコーン25の後端までの長さをL1とすると、収縮時の伸縮部30の長さをL1としており、この伸張時の伸縮部30の長さL2は、L2>L1となり、L3=L1+L2>2×L1が飛行時における圧力孔金具24の後端からコーン25の後端までの長さとなる。この長さL3は、飛行試験時にケーブル23a、23bを展張させて、機体後方の一様流に近い大気中に圧力孔金具24を配置させた際に、コーン25から圧力孔金具24に設けられた静圧検知用の孔への空力干渉量が無い長さである。
【0052】
これにより、機体後方の一様流に近い大気中に圧力孔金具24を配置させ、一様流に近い大気中に配置した圧力孔金具24から導かれた大気の圧力を圧力センサ22で検出し、検出した圧力から流速、つまり、飛行速度を取得することになる。
【0053】
一方、停止時や低速飛行時には、ケーブル23aがケーブル巻取機21によって巻き取られるので、フェアリング41が受部28に嵌合して、ケーブルガイド26の後方に真っ直ぐ伸びるように、圧力孔金具24が配置されることになる。これに加えて、圧力孔金具24の後端側の伸縮部30も、一体の棒状の状態となって、圧力孔金具24の後方に真っ直ぐ伸びるように配置されることになる。つまり、ケーブルガイド26の後方に真っ直ぐ伸びるように、圧力孔金具24及び伸縮部30が配置される。このように、伸縮部30自身は、自身の長さを収縮するだけでなく、自身の下方への垂れも防止している。
【0054】
そして、収縮時の伸縮部30の長さがL1であり、伸縮部30の後端からコーン25の後端までの長さがL1であることから、風等によってコーン25が揺れても、ケーブル23bやコーン25が垂直尾翼11に接触することもなく、垂直尾翼11やコーン25が破損することもなくなる。
【0055】
このような本実施例のTCSを用いて飛行試験を行うことにより、飛行速度の計測を安全に行うことができ、また、垂直尾翼11やコーン25が破損することもなくなるので、計測作業の迅速化を図ることもでき、コスト的にも有利となる。
【0056】
なお、ここでは、伸縮部30に風受け32e、風受け33eを設けているが、コーン25が受ける風圧による伸張力が、バネ31d、32dの引張力より大きくなるようであれば、風受け32e、風受け33eは設けなくでもよい。また、例えば、少なくとも1つの風受け32e(又は、風受け33e)を設け、コーン25を含む全体の風圧による伸張力が、バネ31d、32dの引張力より大きくなるようであれば、全ての中間継手32及び後側継手33に風受け32e及び風受け33eを設けなくてもよい。
【0057】
また、ここでは、ケーブルガイド26の後端側に受部28を設けているが、この受部28に代えて、後述する収納部70を設け、圧力孔金具24を内部に収納するようにしてもよい。
【0058】
[実施例2]
本実施例のTCSについて、
図5~
図9を参照して説明を行う。ここで、
図5は、本実施例のTCSを説明する図であって、ケーブルガイド後端及びケーブルガイドより後方側の構成を説明する概略図である。また、
図6は、
図5に示したTCSのA-A線矢視断面図である。
図7は、
図5に示したTCSの伸縮部が縮んでいる状態を説明する概略図であり、
図8は、
図5に示したTCSの伸縮部が伸びていく状態を説明する概略図であり、
図9は、
図5に示したTCSの伸縮部が伸びきった状態を説明する概略図である。なお、ここでも、TCSのケーブル巻取機側を前側とし、TCSのコーン側を後側とし、図の上下方向を鉛直方向とし、図の上下方向に垂直な方向を水平方向としてとして説明する。
【0059】
本実施例のTCSも、図示は省略しているが、航空機10の機体後部に装備されており、ケーブル巻取機21、圧力センサ22、ケーブル23a、圧力孔金具24、コーン25、ケーブルガイド26を有しており、これらは、
図10で説明した従来のTCSと略同様の構成である。そのため、ここでも、
図10で説明した従来のTCSと同等の構成には同じ符号を使用し、重複する説明は省略する。
【0060】
このように、本実施例のTCSも、基本的には、従来のTCSと同様の構成であるが、ケーブル23bに代えて、圧力孔金具24とコーン25との間に、自身の長さが変化する伸縮部50を設けている点、圧力孔金具24の前端側に円錐状の凸部のフェアリング61を設ける点、そして、ケーブルガイド26の後端側に圧力孔金具24を収納する収納部70を設けている点に違いがある。
【0061】
伸縮部50は、ケーブル23bに代えて設けられたものであり、人工筋肉51とベローズ52とを有している。人工筋肉51は、図示しない通電制御部及び通電線で通電することにより収縮するものであり、通電を停止すると、元の長さに戻る(伸張する)。この人工筋肉51の伸縮のため、ケーブル23a及び圧力孔金具24の内部には、伸縮を制御するための通電線(不図示)が設けられている。このような人工筋肉51としては、電圧、電場、磁場の印加により伸縮する高分子材料からなるもの等が適用可能であるが、電気的に伸縮状態を変更できるものであれば、どのようなものでも適用可能である。また、空気圧を使ったゴム系の人工筋肉を適用することも可能である。
【0062】
但し、人工筋肉は、材料や状況によっては、圧力孔金具24とコーン25との間の長さが変動するおそれがあり、コーン25から圧力孔金具24への空力干渉量も変動するおそれがある。
【0063】
このようなことを考慮して、人工筋肉51の外周側には伸縮可能なベローズ52が設けられている。このベローズ52は、伸張時の伸縮部50の長さの再現性を確保する機能を果たしている。また、収縮時には、人工筋肉51と共に、ベローズ52の材料的、構造的剛性により、伸縮部50を真下には垂れ下がらないようにする機能も果たしている。つまり、伸縮部50は、収縮時には、下方側に湾曲はするが、真下には垂れ下がらない。更に、ベローズ52は、人工筋肉51を保護する機能も果たしている。従って、ベローズ52は、上述した機能を果たすものであれば、どのようなものでもよい。また、上述した機能を考慮すると、ベローズ52に代えて、伸縮可能な多重管構造も適用可能である。
【0064】
また、収納部70は、ケーブルガイド26の円筒状の外周を後側に拡径した拡径部71と、拡径部71の内側に設けた1つのローラ72を有している。この場合、ローラ72は、拡径部71の下方側内側に配置する。そして、ケーブル巻取機21でケーブル23aを巻き取るときには、収納部70の拡径部71とローラ72により、ケーブルガイド26の後部の収納部70の内部に圧力孔金具24を導いており、これにより、圧力孔金具24が円滑に収納されることになる。また、圧力孔金具24の前端側にフェアリング61を設けているので、ケーブルガイド26や拡径部71との干渉を抑制することもできる。なお、フェアリング61の形状は、収納部70などと干渉せずに円滑に収納可能な形状であって、圧力孔金具24に設けられる静圧検知用の孔と干渉しない形状であれば、他の形状でもよく、例えば、フェアリング61を半球状の凸部としてもよい。
【0065】
なお、風等により圧力孔金具24が揺れる場合を想定すると、例えば、
図6に示すように、下方側内側のローラ72に加えて、側方側内側に対となるローラ72を配置し、複数のローラ72により、収納した圧力孔金具24を支持するようにすればよい。
【0066】
以上説明した構成を有する本実施例のTCSの停止時及び飛行時の状態を
図5と共に、
図7~
図9を参照して説明する。
【0067】
停止時や低速飛行時には、ケーブル23aがケーブル巻取機21によって巻き取られるが、ケーブルガイド26の後部には、拡径部71とローラ72を有する収納部70が設けられており、圧力孔金具24の前端側にはフェアリング61が設けられているので、ケーブルガイド26の後部に圧力孔金具24が円滑に収納されることになる。このとき、圧力孔金具24は、ケーブルガイド26の後部の収納部70に収納されて、ケーブルガイド26の後方に真っ直ぐ伸びるように配置されることになる。
【0068】
これに加えて、停止時や低速飛行時には、通電により人工筋肉51が収縮し、これに伴い、ベローズ52も収縮しているので、伸縮部50は、人工筋肉51やベローズ52の材料的、構造的剛性により、伸縮部50が真下には垂れ下がらず、ケーブルガイド26の斜め後方に湾曲することになる。このように、ケーブルガイド26の後部の収納部70に圧力孔金具24を収納し、伸縮部50が真下には垂れ下がらないので、風等によってコーン25が揺れても、コーン25が垂直尾翼11に衝突することはなく、垂直尾翼11、コーン25が破損することもなくなる。
【0069】
一方、飛行時には、人工筋肉51への通電を停止する。すると、人工筋肉51は、元の長さに戻ろうとすると共に、コーン25が受ける風圧により引っ張られて、
図8に示すように、伸張していき、最終的には、
図9に示すように、伸縮部50の人工筋肉51やベローズ52が伸びきった状態となる。この伸びきった状態における圧力孔金具24の後端からコーン25の後端までの長さL3を、コーン25からの空力干渉量が無い長さとすれば良い。
【0070】
これにより、機体後方の一様流に近い大気中に圧力孔金具24を配置させ、一様流に近い大気中に配置した圧力孔金具24から導かれた大気の圧力を圧力センサ22で検出し、検出した圧力から流速、つまり、飛行速度を取得することになる。
【0071】
このような本実施例のTCSを用いて飛行試験を行うことにより、飛行速度の計測を安全に行うことができ、また、垂直尾翼11やコーン25が破損することもなくなるので、計測作業の迅速化を図ることもでき、コスト的にも有利となる。
【0072】
なお、ここでは、ケーブルガイド26の後端側に収納部70を設けているが、この収納部70に代えて、上述した受部28を設け、圧力孔金具24を保持するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、航空機の飛行試験の計測で使用されるトレーリングコーンシステムに好適なものである。
【符号の説明】
【0074】
10 航空機
11 垂直尾翼
21 ケーブル巻取機
22 圧力センサ
23a、23b ケーブル
24 圧力孔金具
25 コーン
26 ケーブルガイド
28 受部
30 伸縮部
31 前側継手
32 中間継手
33 後側継手
41 フェアリング
50 伸縮部
51 人工筋肉
52 ベローズ
61 フェアリング
70 収納部
71 拡径部
72 ローラ