(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】管制装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/06 20120101AFI20220829BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20220829BHJP
G08B 25/04 20060101ALI20220829BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20220829BHJP
【FI】
G06Q10/06
G06Q50/10
G08B25/04 E
G05D1/02 P
(21)【出願番号】P 2018070287
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000108085
【氏名又は名称】セコム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 利彦
【審査官】岸 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-130027(JP,A)
【文献】特開2014-199540(JP,A)
【文献】特開2017-033232(JP,A)
【文献】特開2017-068639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G08B 25/04
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
障害物を含む監視エリアにおける複数の移動体の現在位置が入力され、前記複数の移動体の中から選択される対象移動体の前記現在位置から目標位置に至る移動経路を算出する管制装置であって、
前記監視エリアを3次元の仮想空間として表現した空間モデル、及び、前記複数の移動体のそれぞれが飛行可能か否かを示した属性情報を予め記憶した記憶部と、
前記監視エリア内の所定の位置が入力されると、前記対象移動体が飛行可能ならば、前記空間モデルにおける前記所定の位置から所定範囲内の上空の位置に前記目標位置を設定し、前記対象移動体が飛行不可能ならば、前記空間モデルにおける前記所定の位置から所定範囲内の地表面の位置に前記目標位置を設定する
目標位置設定手段と、
前記複数の移動体の中から前記移動経路の算出対象とする前記対象移動体を選択する選択手段と、
前記対象移動体が飛行可能である場合、前記空間モデルにおける前記障害物が存在しない空間から前記移動経路の構成要素となる局所経路が連結されたグラフ構造を求め、前記対象移動体が飛行不可能である場合、前記空間モデルにおける走行可能空間から前記移動経路の構成要素となる局所経路が連結されたグラフ構造を求めるグラフ構造算出手段と、
前記グラフ構造算出手段が求めたグラフ構造を用いて前記対象移動体の前記移動経路を探索する経路探索手段と、
を備えることを特徴とする管制装置。
【請求項2】
前記目標位置設定手段は、異常が発生した前記監視エリア内の位置である現発生位置が入力されると、前記対象移動体が飛行可能ならば、前記空間モデルにおける前記現発生位置から所定範囲内の上空の位置に当該対象移動体の前記目標位置を設定し、前記対象移動体が飛行不可能ならば、前記空間モデルにおける前記現発生位置から所定範囲内の地表面の位置に当該対象移動体の前記目標位置を設定する請求項1に記載の管制装置。
【請求項3】
前記記憶部は、更に、前記複数の移動体のそれぞれについて適性があるとして予め定められた異常の
種別との関係を記した適性情報を記憶し、
前記選択手段は、前記適性情報を参照し、前記複数の移動体の中から前記現発生位置にて発生した異常の種別との関係が記された前記対象移動体を選択する請求項2に記載の管制装置。
【請求項4】
前記選択手段は、前記複数の移動体のうちの前記現在位置が前記現発生位置から所定範囲内にある移動体を前記対象移動体として選択する請求項2又は請求項3に記載の管制装置。
【請求項5】
前記記憶部は、仮想カメラのカメラパラメータを表す仮想カメラ情報を更に記憶し、
前記管制装置は、更に、表示部と、前記経路探索手段にて算出した前記移動経路を3次元データとして表現したオブジェクトを前記空間モデル上に配置し、当該オブジェクトが配置された空間モデルを前記仮想カメラにより撮影した仮想カメラ画像を前記表示部に表示出力する表示出力手段と、を備える請求項1から請求項4の何れか一項に記載の管制装置。
【請求項6】
前記選択手段は、前記複数の移動体の中から前記仮想カメラの視野内に前記現在位置が含まれる移動体を前記対象移動体として選択する請求項5に記載の管制装置。
【請求項7】
前記記憶部は、前記複数の移動体それぞれの平均移動速度を更に記憶し、
前記選択手段は、複数の前記対象移動体を選択し、
前記表示出力手段は、前記対象移動体ごとに前記移動経路と前記平均移動速度とを用いて移動時間を求め、当該移動時間が予め定めた時間閾値以下となる対象移動体の前記オブジェクトのみを前記空間モデル上に配置する請求項5又は請求項6に記載の管制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視エリアを監視する警備員、ドローン、飛行船などの複数の移動体の中から選択された移動体に適した移動経路を求める管制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、顧客の物件における火災や不正侵入などの異常を検知した際、当該異常の発生位置(異常が検出された位置)に警備員を効率よく急行させるための警備システムが利用されている。例えば、特許文献1には、警備員や警備車両などの移動体の位置を定期的に検出し、異常を検知したとき当該異常の発生位置に最も近い移動体を選定し、当該移動体の現在位置から異常の発生位置に至る移動経路を移動体に送信して、移動体の端末に表示させる警備システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、最近では、発生した異常を確認させる移動体として、警備員や警備車両などの走行型の移動体に限らず、カメラを搭載した無人の飛行船やドローン(自律飛行ロボット)などといった飛行型の移動体を利用する警備が行われつつある。このように、地表面を移動する走行型の移動体に限らず、飛行型の移動体に対しても異常の確認を行わせることを想定した場合、従来技術のように異常の発生位置に最も近い移動体を選定することだけでは、必ずしも効率よく移動体を誘導することができるとは限らない。例えば、異常の発生位置に最も近い移動体を選定しても、飛行型の移動体では到着させることが物理的に不可能であったり、かなり遠回りさせなければ到着できなかったりする場合も想定できる。また、走行型の移動体の場合は、移動経路が走行可能な経路に制限されるため移動の自由度が低く、比較的小さい計算負荷で短時間に移動経路を求めることができる一方、飛行型の移動体の場合は、上空を自由に移動でき自由度が高いため計算負荷も大きく、移動経路を求めるにも時間を要する。したがって、飛行型と走行型との違いを考慮して、より効率的に移動体を誘導する必要があった。
【0005】
そこで本発明は、移動体が飛行するか否かに応じて効率的に移動経路を算出する管制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、障害物を含む監視エリアにおける複数の移動体の現在位置が入力され、前記複数の移動体の中から選択される対象移動体の前記現在位置から目標位置に至る移動経路を算出する管制装置であって、前記監視エリアを3次元の仮想空間として表現した空間モデル、及び、前記複数の移動体のそれぞれが飛行可能か否かを示した属性情報を予め記憶した記憶部と、前記目標位置を設定する目標位置設定手段と、前記複数の移動体の中から前記移動経路の算出対象とする前記対象移動体を選択する選択手段と、前記対象移動体が飛行可能である場合、前記空間モデルにおける前記障害物が存在しない空間から前記移動経路の構成要素となる局所経路が連結されたグラフ構造を求め、前記対象移動体が飛行不可能である場合、前記空間モデルにおける走行可能空間から前記移動経路の構成要素となる局所経路が連結されたグラフ構造を求めるグラフ構造算出手段と、前記グラフ構造算出手段が求めたグラフ構造を用いて前記対象移動体の前記移動経路を探索する経路探索手段と、を備えることを特徴とする管制装置を提供する。
【0007】
また、本発明の好ましい態様として、前記目標位置設定手段は、異常が発生した前記監視エリア内の位置である現発生位置が入力されると、前記対象移動体が飛行可能ならば、前記空間モデルにおける前記現発生位置から所定範囲内の上空の位置に当該移動体の前記目標位置を設定し、前記対象移動体が飛行不可能ならば、前記空間モデルにおける前記現発生位置から所定範囲内の地表面の位置に当該移動体の前記目標位置を設定するものとする。
【0008】
また、本発明の好ましい態様として、前記記憶部は、更に、前記複数の移動体のそれぞれについて適性があるとして予め定められた異常の種類との関係を記した適性情報を記憶し、前記選択手段は、前記適性情報を参照し、前記複数の移動体の中から前記現発生位置にて発生した異常の種別との関係が記された前記対象移動体を選択するものとする。
【0009】
また、本発明の好ましい態様として、前記選択手段は、前記複数の移動体のうちの前記現在位置が前記現発生位置から所定範囲内にある移動体を前記対象移動体として選択するものとする。
【0010】
また、本発明の好ましい態様として、前記記憶部は、仮想カメラのカメラパラメータを表す仮想カメラ情報を更に記憶し、前記管制装置は、更に、表示部と、前記経路探索手段にて算出した前記移動経路を3次元データとして表現したオブジェクトを前記空間モデル上に配置し、当該オブジェクトが配置された空間モデルを前記仮想カメラにより撮影した仮想カメラ画像を前記表示部に表示出力する表示出力手段と、を備えるものとする。
【0011】
また、本発明の好ましい態様として、前記選択手段は、前記複数の移動体の中から前記仮想カメラの視野内に前記現在位置が含まれる移動体を前記対象移動体として選択するものとする。
【0012】
また、本発明の好ましい態様として、前記記憶部は、前記複数の移動体それぞれの平均移動速度を更に記憶し、前記選択手段は、複数の前記対象移動体を選択し、前記表示出力手段は、前記対象移動体ごとに前記移動経路と前記平均移動速度とを用いて移動時間を求め、当該移動時間が予め定めた時間閾値以下となる対象移動体の前記オブジェクトのみを前記空間モデル上に配置するものとする。
【発明の効果】
【0013】
上記のように、本発明によれば、移動体が飛行するか否かに応じた移動経路を効率的に算出できる管制装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】管制システム5の全体システム構成を示す図である。
【
図6】制御部12の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した管制システム5の概略構成を示した
図1を参照し、本発明の実施形態の構成を説明する。管制システム5は、屋外の所定範囲の空間(以下、「監視エリア」という)にて発生した異常を検知する警備装置2と、発生した異常を検出した位置の近くに急行して異常を撮影することで異常の状態を確認するための飛行船3a、ドローン3b、警備員3cなどの移動体3と、インターネットや公衆電話回線などの通信網4を介して各移動体3及び警備装置2と接続される管制装置1とにより構成される。
【0016】
移動体3は、図示しない撮影部を備え、監視エリアにて発生した異常を撮影するよう移動する。撮影部は、CCD素子やC-MOS素子等の撮像素子、光学系部品等を含んで構成されるいわゆるカメラである。撮影部は、移動体3がドローン3bや飛行船3aならばこれらの本体部分に設置される固定カメラであり、移動体3が警備員3cならば胸部や頭部等に装備されるウェアブルカメラである。また、移動体3は、無線LANやLTE(Long Term Evolution)等の無線通信などによって、通信網4を介して管制装置1と情報伝達可能に接続される。また、移動体3は、汎地球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)における航法衛星からの信号や、複数のビーコン等の電波発信機からの受信電波強度などに基づいて自らの現在位置を推定し、当該現在位置を自らの識別子に対応付けて管制装置1に送信する。
【0017】
警備装置2は、監視エリア内の一又は複数の警備対象物件に設置されたいわゆる警備コントローラであり、警備対象物件に設置された図示しないセンサや監視カメラなどが異常を検出した際、これらのセンサや監視カメラなどから検出信号を受信する。警備装置2は、受信した検出信号に基づいて異常の種別(侵入、火災など)と、異常の発生位置(異常が検出された位置)などを通信網4を介して管制装置1に通報する。なお、本発明における「現発生位置」は当該異常の発生位置に相当する。
【0018】
管制装置1は、遠隔地にある警備センタに設置されるいわゆるコンピュータであり、通信網4を介して警備装置2からの通報に基づいて、監視エリア内を監視する複数の移動体3の中から、発生した異常に対処させるための一又は複数の移動体3を選択し、当該移動体3の移動経路を表示出力する。特に、本発明の管制装置1は、選択された移動体3が飛行可能か否かに応じた方法を用いて当該移動体3の移動経路を算出することを特徴としており、当該特徴により、少ない計算負荷で効率的に移動経路を算出することが可能となる。なお、本実施形態において「飛行不可能」とは、構造的に飛行することができない移動体だけでなく、構造的に飛行することができても運用的に飛行が禁止された移動体についても含む。
【0019】
図2に管制装置1のブロック図を示す。
図2に示すように、管制装置1は、記憶部11、制御部12、表示部13、入力部14及び通信部15を含んで概略構成される。表示部13は、ディスプレイ等の情報表示デバイスである。管制装置1を利用する管制員は、表示部13を用いて、表示部13に表示出力された移動体3の移動経路が示された画像(経路画像)を確認する。入力部14は、キーボードやマウス、タッチパネル、可搬記憶媒体の読み取り装置等の情報入力デバイスである。管制装置1の管理者は、入力部14を用いて、例えば、後述する空間モデル111の3次元形状データなどを記憶部11に記憶させたり、様々な設定情報を設定することができる。また、管制員は、表示部13に表示出力された経路画像に示された複数の移動体の移動経路を参照した上で、通報された異常の対処に適した移動体3を選定し、当該移動体3に対して、異常の状態を確認するよう入力部14を用いて指示する。通信部15は、通信網4を介して移動体3や警備装置2と通信するための通信インタフェースである。
【0020】
記憶部11は、ROM、RAM、HDD等の情報記憶装置である。記憶部11は、各種プログラムや各種データを記憶し、制御部12との間でこれらの情報を入出力する。各種データには、空間モデル111、移動体情報112、異常情報113、その他、制御部12の処理に使用される各種情報(例えば、後述する処理にて求めたグラフ構造、移動経路データ、経路画像等)などがある。
【0021】
空間モデル111は、監視エリアに存在する現実世界の建造物・地面・樹木等の物体(障害物)をモデル化することにより作成された3次元形状データを含む3次元の仮想空間を表した座標情報である。本実施形態では、空間モデル111における3次元形状データを、監視エリアの形状情報に基づいて3次元CADにより作成する。しかし、これに限らず3次元レーザースキャナー等により監視エリアの3次元形状を取り込んだデータを利用してもよいし、航空機からステレオ撮影やレーザ測距を行うことによって作成された高さ情報も含む立体形状をポリゴンデータによって表したデータであってもよい。このようにして作成された空間モデル111は、管理者により入力部14から設定登録されることにより記憶部11に記憶される。
図3の符号111で示した3次元形状は、3次元の仮想空間を表す座標系(以下、「モデル座標系」という)における空間モデルを表現したものである。
【0022】
移動体情報112は、監視エリアを監視する各移動体3に関する情報である。移動体情報112は、
図4に示したように、移動体3の識別子である移動体IDと、移動体3が飛行可能か否かを示した飛行属性と、移動体3の現在位置と、移動体3の目標位置と、移動体3に対処させるべき異常の種別(例えば、火災、侵入、暴動など)を記した適性情報とを対応付けたテーブル情報である。ここで、飛行属性及び適性情報は、管理者により予め設定されるものとし、目標位置は、警備装置2から通報を受信する都度、後述する目標位置設定手段121にて適宜更新されるものとする。また、各移動体3から通信網4を介して現在位置を受信したとき、制御部12により移動体情報112の現在位置が更新されるものとする。
【0023】
異常情報113は、監視エリアにて検知された一又は複数の異常に関する情報であり、警備装置2からの通報を受信したときに制御部12により更新される。異常情報113は、
図5に示したように、異常の識別子である異常IDと、異常の種別(例えば、侵入、火災、暴動など)と、異常の発生位置とを対応付けたテーブル情報である。ここで異常の発生位置は、警備装置2から通報された異常の発生位置(例えば、緯度・経度・高度からなる異常が検知された位置情報)を、モデル座標系における座標情報(x,y,z)に変換した情報である。
【0024】
仮想カメラ情報114は、空間モデル111に仮想的に配置されるカメラである仮想カメラの視野を定義するカメラパラメータであり、後述する表示出力手段125にて経路画像を生成する際に利用される情報である。管制装置1は、経路探索手段124にて求めた移動経路に基づいて生成された移動経路オブジェクトを空間モデル111上に配置し、それを仮想カメラ情報114にて設定される仮想カメラにより撮影したときの画像を経路画像として生成する。具体的には仮想カメラ情報114は視野変換、投影変換及び生成する画像のサイズに関する情報が含まれる。視野変換に関する情報は、仮想カメラの位置(レンズの中心座標、又は視点)及び姿勢(レンズ光軸の方向、又は視線方向)を含み、管制員による入力部14の操作によって随時更新できる。投影変換に関する情報はレンズの投影特性をモデル化するためのパラメータ群、例えば焦点距離、歪収差係数などを含み、画像のサイズに関する情報は画像を構成する画素数などを含み、本実施形態では投影変換及び画像のサイズに関する情報は予め与えられた所定値とする。
【0025】
制御部12は、CPU等のマイクロプロセッサユニットと、ROM、RAMなどのメモリと、その周辺回路とを有し、各種信号処理を実行する。制御部12は、マイクロプロセッサユニット上で動作するプログラムの機能モジュールとして実装される選択手段121、目標位置設定手段122、グラフ構造算出手段123、経路探索手段124及び表示出力手段125を有する。これらの機能モジュールは、制御部12が記憶部11に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
【0026】
選択手段121は、移動体情報112に記された複数の移動体3の中から、移動経路の算出対象とする移動体3を選択する処理を行う。本実施形態では、選択手段121は、移動体情報112の適性情報を参照し、複数の移動体3の中から通報された異常の種別が適性情報に記された移動体3を、移動経路の算出対象の移動体3として選択する。
【0027】
目標位置設定手段122は、記憶部11の空間モデル111と移動体情報112と異常情報113とを用いて、選択手段121にて選択された各移動体3について、移動先となる目標位置を設定するための目標位置設定処理を行う。本実施形態では、目標位置設定手段122は、空間モデル111における異常の発生位置から所定の範囲内の位置であって、障害物に干渉しない位置に目標位置を設定し、移動体情報112に記憶する。特に、移動体3の飛行属性に応じて、設定する目標位置を異ならせる。目標位置設定処理の詳細については後述する。
【0028】
グラフ構造算出手段123は、選択手段122にて選択された各移動体3について、移動経路を算出する基となるグラフ構造を求めるグラフ構造算出処理を行う。グラフ構造算出処理では、移動体情報112の飛行属性を参照し、選択された移動体3が飛行可能な移動体3ならば空間モデル111における障害物が存在しない空間からグラフ構造を求める処理を行い、選択された移動体3が飛行不可能な移動体3ならば空間モデル111における道路などの走行路に相当する走行可能な空間(以下、「走行可能空間」という)からグラフ構造を求める処理を行う。グラフ構造算出処理の詳細については後述する。
【0029】
経路探索手段124は、グラフ構造算出手段123にて算出したグラフ構造を用いて、選択手段122にて選択された各移動体3の移動経路を生成する経路探索処理を行う。移動経路の生成方法については、さまざまな経路生成方法が適用可能であるが、本実施形態ではA*(エースター)経路探索法を用いて移動経路の経由点を探索する。すなわち、グラフ構造において、移動体3の現在位置から最も近いノードから経路探索を開始し、目標位置設定手段121にて設定した目標位置に最も近いノードに至る経路を求める。そして、経路探索手段124は、移動体3の現在位置から開始し、経路探索処理にて求めた経路の各ノードを経由点とし、目標位置に至る各地点の座標データの集合を移動経路データとして求め、対応する移動体3の移動体IDと対応付けて記憶部11に記憶する。
【0030】
表示出力手段125は、経路探索手段124にて算出した移動経路データの座標値を線で結んだ移動経路オブジェクトを空間モデル111上に配置し、仮想カメラ情報114にて設定された仮想カメラにより撮影したときの画像に相当する仮想カメラ画像を経路画像として求める。この際、経路画像を、既知のコンピュータグラフィックス技術によるレンダリング処理にて求める。なお、レンダリング処理については、例えば、「コンピュータグラフィックス」(コンピュータグラフィックス編集委員会 編集・出版、平成18年刊)に詳細に記述されているため、詳細な説明を省略する。また、表示出力手段125は、生成した経路画像を表示部13に表示出力する。
【0031】
図6は、制御部12における各機能モジュールが行う各種処理のフローチャートである。以下、
図6~
図9を用いて制御部12の処理を詳細に説明する。なお、本実施形態では、警備装置2が送信した通報に基づいて異常情報113が更新される度に、当該異常に対して
図6の処理が実行されるものとする。以下、処理対象となっている異常を「対象異常」という。また、
図6におけるループ1は、移動体情報112の移動体3ごとに処理を行うことを意味し、移動体3の数だけループ1内の処理が実行されることを意味する。以降の説明において、ループ1にて処理対象となっている移動体3を「対象移動体」という。
【0032】
まず、選択手段121は、移動体情報112及び異常情報113を参照し、対象移動体の適性情報に、対象異常の種別が示されているか否かにより、当該対象移動体が当該対象異常に適合するか否かを判定する(ST1)。対象移動体が対象異常に適合していない場合、すなわち対象移動体の適性情報に対象異常の種別が示されていない場合(ST1-No)、当該対象移動体に対するループ1の処理を終了し、移動体情報112における次の移動体3を対象移動体として選定してから、ループ1の処理を開始する。
【0033】
一方、対象移動体が対象異常に適合している場合、すなわち対象移動体の適性情報に対象異常の種別が示されている場合(ST1-Yes)、目標位置設定手段122は、目標位置設定処理を行う(ST2)。
図7は、目標位置設定処理を説明するために空間モデル111の一部を切り出した図である。目標位置設定処理では、まず、異常情報113を参照し、対象異常の発生位置Oを読み出す。そして、空間モデル111における発生位置Oを求め、当該発生位置Oから所定の範囲内の位置であって、障害物に干渉しない位置に目標位置を設定する。本実施形態では、発生位置Oから半径Kの位置に目標位置を設定するものとする。
図7では、符号111a及び111bはそれぞれ監視エリアに存在する建物及び樹木に相当し、発生位置Oから半径K内の空間には建物111aが存在するため、当該建物111aに干渉しない空間内の位置に目標位置が設定される。具体的には、対象移動体の飛行属性を参照し、対象移動体が飛行不可能な移動体3ならば目標位置を発生位置Oから半径Kの地表面の位置に目標位置Pを設定する。また、対象移動体が飛行可能な移動体3ならば、発生位置Oから半径K、仰角θの位置、すなわち上空の位置に目標位置P’を設定する。なお、本実施形態では、目標位置P及びP’の水平角は対象移動体の現在位置の方向を向くよう設定されるものとする。これにより、移動体3が飛行可能か否かに応じて適切な3次元位置に目標位置を設定することが可能となる。目標位置設定手段121は、求めた目標位置の3次元座標を移動体情報112に記憶する。
【0034】
次に、グラフ構造算出手段123は、グラフ構造算出処理を行う。グラフ構造算出処理では、まず、対象移動体の飛行属性を参照し、対象移動体が飛行可能か否かを判定する(ST3)。ST3にて対象移動体が飛行可能な移動体であると判定したとき(ST3-Yes)、グラフ構造算出手段123は、空間モデル111を所定の大きさ(例えば50cm×50cm×50cm)のボクセルに分割し、各ボクセルの識別子であるボクセルIDと、モデル座標系におけるボクセルの重心位置(3次元座標)と、ボクセル属性とを対応付けてボクセル空間を求める(ST4)。
図8は、グラフ構造算出処理を説明する図であり、
図8(a)は、空間モデル111をボクセルによって分割したボクセル空間の一部分を切り出した図である。同図において、黒色で示したボクセルは建物等の障害物が存在する空間に相当するボクセルであり、白色で示したボクセルは障害物が存在しない空間に相当するボクセルである。グラフ構造算出手段123は、各ボクセルに対して、障害物が存在するボクセルか否かを判定し、判定結果をボクセル属性として付与する。なお、グラフ構造算出手段123は、移動体情報112を参照し、他の移動体3の現在位置及び大きさに基づいて、他の移動体3が存在する空間に相当するボクセルを障害物が存在する空間に相当するボクセルとして判定し、ボクセル属性を付与してもよい。また、警備装置2のカメラによって、人や車両などの障害物を検出したとき、警備装置2が当該カメラ画像を管制装置1に送信し、管制装置1は、警備装置2から受信したカメラ画像における障害物の位置及び大きさからこれらの障害物の空間モデル111上の位置及び大きさを求め、当該障害物に相当するボクセルに対して、障害物を示すボクセル属性を付与してもよい。また、本実施形態では、グラフ構造算出手段123にてボクセル空間を求めたが、予め空間モデル111に基づいてボクセル空間を求めておき、予め記憶部11に記憶させておいてもよい。
【0035】
次に、グラフ構造算出手段123は、ST4にて求めたボクセル空間において、障害物が存在しないボクセルの中心をノードとし、当該ノードに隣接するノード間を連結した線分をエッジとするグラフ構造を生成する(ST5)。この際、エッジの重みとして、隣接するノード間の距離に基づいて求められるコストを設定する。
図8(b)は、
図8(a)の符号Gで示した3×3×3個からなる障害物が存在しない空間に相当するボクセルについてのグラフ構造を例示した図であり、ノードを丸、エッジを点線にて示している。
【0036】
ST3にて対象移動体が飛行可能な移動体3ではない、すなわち飛行不可能な移動体3と判定したとき(ST3-No)、グラフ構造算出手段123は、空間モデル111を用いて飛行不可能な移動体3の走行可能空間を求める(ST6)。本実施形態では、空間モデル111と移動体情報112の現在位置とを用いて走行可能空間を求める。具体的には、移動体情報112から飛行不可能な移動体3の情報を抽出し、当該移動体3の現在位置における高さ方向の座標値の直下にある空間モデル111の障害物(地面)の空間を走行可能空間の部分空間として求める。そして、求めた部分空間と連続性を有する空間モデル111の他の空間を統合していくことにより、走行可能空間を求める。例えば、求めた走行可能空間の部分空間と隣接する障害物の空間が、当該部分空間の高さと略等しく、当該部分空間の法線方向の角度が略等しい(大きく変化しない)空間を走行可能空間として統合していく。なお、本実施形態では移動体情報112を用いて空間モデル111における走行可能空間を求めたが、これに限らず、予め監視エリアの走行可能空間の高度を記憶しておき、当該高度に略等しい障害物の空間であって、当該空間の傾斜が走行可能な角度範囲内となる空間を走行可能空間として求めてもよい。また、空間モデル111として、障害物の3次元の幾何形状だけでなく、走行可能空間に相当する障害物の空間であることを示す属性情報を予め記憶し、当該属性情報に基づいて走行可能空間を算出してもよい。
【0037】
次に、グラフ構造算出手段123は、求めた走行可能空間を走行経路したとき、走行経路が分岐する地点(分岐点)を求め、当該分岐点にノードを配置し、走行可能空間に沿って隣接するノード間を連結した線分をエッジとするグラフ構造を生成する(ST7)。この際、エッジの重みとして、隣接するノード間の距離に基づいて求められるコストが設定されているものとする。
図8(c)は、走行可能空間からグラフ構造を求めた場合の例を示す図であり、同図で符号111cのハッチングにて示した部分は空間モデル111における走行可能空間に相当する障害物の空間を示しており、またノードを丸、エッジを点線にて示している。
【0038】
次に、経路探索手段124は、グラフ構造算出手段123にて算出したグラフ構造を用いて前述した経路探索処理を行い、移動経路データを求める(ST8)。次に、表示出力手段125は、移動経路の算出対象として選択された全ての移動体3の移動経路オブジェクトを空間モデル111上に配置し、当該移動経路オブジェクトが配置された空間モデル111を仮想カメラ情報114によって規定される仮想カメラにより撮影し、得られた仮想カメラ画像を経路画像として表示部13に表示出力する表示出力処理を行う(ST9)。
図9は、表示出力処理を説明する図であり、
図9(a)は、警備員に相当する移動体3の現在位置Sから目的位置Pに至る移動経路のオブジェクトr(実線矢印)と、ドローンに相当する移動体3の現在位置S’から目的位置P’に至る移動経路のオブジェクトr’(点線矢印)と、を空間モデル111上に配置した場合の一例を表している。続いて、表示出力処理では、移動経路のオブジェクトを空間モデル111上に配置した後、表示出力手段125は、仮想カメラ情報114にて設定された仮想カメラにより撮影したときの画像に相当する仮想カメラ画像を求め、当該仮想カメラ画像を経路画像として表示部13に表示出力する。
図9(b)は、経路画像Xの例を表す図である。
【0039】
以上のように、本実施形態の管制システム5では、管制装置1の表示部13に表示出力された経路画像Xを管制員が確認することにより、当該管制員は、移動体3が飛行可能か否かといった特性を考慮して算出された移動経路を把握することができる。したがって、管制員は、移動体3にとってより現実に即した移動経路を把握することができ、ひいては確実な対処指示を行うことが可能となる。特に、本実施形態の管制システム5は、移動体3が飛行可能か否かに応じて、異なる方法により移動経路を算出している。すなわち、飛行可能な移動体3ならば、空間モデル111における上空部分の広いエリアから移動経路を算出する必要があるのに対し、飛行不可能な移動体3ならば、空間モデル111の走行可能空間に係る限られた狭い空間から移動経路を算出しているため、飛行不可能な移動体3の移動経路の算出に必要な計算負荷を大幅に軽減させることができる。したがって、管制員は、より迅速に移動体3の移動経路を把握することができ、より確実な対処指示を行うことが可能となる。
【0040】
また、本実施形態の管制システム5は、移動体3が飛行可能か否かに応じて目標位置を上空又は地表面のいずれの位置にするかを決定しているため、各移動体3におってより適切な移動経路を算出することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態の管制システム5は、移動体情報112の適性情報を参照し、対象異常の種別に対応する移動体3を選択し、当該選択された移動体3に対してのみ移動経路が算出される。したがって、発生した異常に対して対処に適しない移動体3については移動経路を算出しないため、計算負荷をより軽減でき、より迅速に移動経路を算出することが可能となる。
【0042】
ところで、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内で、更に種々の異なる実施形態で実施されてもよいものである。また、実施形態に記載した効果は、これに限定されるものではない。
【0043】
上記実施形態では、ST2にて目標位置設定手段122により目標位置が設定されたが、これに限らず、管制員が入力部14を用いて各移動体3の目標位置を設定してもよい。また、簡易的に異常の発生位置Oを目標位置として設定してもよい。
【0044】
上記実施形態では、ST1にて選択手段121が、異常の種別が適性情報に適合する移動体3を移動経路の算出対象の移動体3として選択している。しかし、上記条件に加えて、または上記条件に代わって、選択手段121は、移動体情報112の現在位置を参照し、異常の発生位置Oから所定の範囲内(例えば、50mの範囲内)に存在する移動体3を選択してもよい。これにより、異常の発生位置Oから遠く離れた移動体3は、異常の確認に時間を要するため当該移動体3を移動経路の算出対象から外すことにより、計算負荷をより軽減させることができる。更に、これらの条件に加えて、またはこれらの条件に代わって、選択手段121は、仮想カメラ情報114にて規定される仮想カメラの視野内に現在位置が含まれる移動体3を選択してもよい。これにより、表示部13に表示出力される経路画像内に移動体3の現在位置が表示されないほど遠く離れた位置に現在位置がある移動体3については、移動経路の算出対象から外すことができ、計算負荷をより軽減させることができる。更に、これらの条件に加えて、またはこれらの条件に代わって、選択手段121は、管制員などにより入力部14を用いて指定された移動体3を移動経路の算出対象とする移動体3として選択してもよい。例えば、管制員がマウスなどの入力部14によって、表示部13に表示された空間モデル111上をドラッグしたとき、選択手段121は、当該ドラッグした範囲内に現在位置が含まれる移動体3を選択してもよい。
【0045】
上記実施形態では、表示出力手段125は、ST1にて選択された全ての移動体3の移動経路オブジェクトをST9にて空間モデル111に配置し、仮想カメラ情報114に基づいて得られた経路画像を表示部13に表示出力している。しかし、これに限らず、移動体情報112として各移動体3の平均移動速度を予め記憶しておき、経路探索手段124にて求めた移動経路から総移動距離を求め、当該総移動距離と平均移動速度とを用いて移動時間を推測し、当該移動時間が予め記憶した制限時間内となる移動体3の移動経路オブジェクトのみを空間モデル111上に配置し、仮想カメラ情報114に基づいて得られた経路画像を表示部13に表示出力してもよい。これにより、移動時間が制限時間を超える移動体3の移動経路は表示されないため、管制員は、制限時間内に異常の発生位置に到達できる移動体3の移動経路のみを迅速に把握することができ、より適切な対処指示を行うことが可能となる。
【0046】
上記実施形態では、グラフ構造算出手段123は、ST6で求めた走行可能空間を用いて、ST7にて当該走行可能空間の分岐点にノード配置することによってグラフ構造を求めた。しかし、これに限らず、グラフ構造算出手段123は、走行可能空間を所定のサイズと形状(例えば、正方形や三角形)の空間に分割し、当該分割した空間の重心位置にノードを配置し、隣接するノード間を連結した線分をエッジとするグラフ構造を生成してもよい。
【0047】
上記実施形態では、ST9の表示出力処理にて表示出力手段125は、経路画像Xを表示出力している。しかしこれに限らず、ST8にて算出した移動経路を通信部15を介して他のサーバ(図示なし)に送信してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1・・・管制装置
2・・・警備装置
3・・・移動体
4・・・通信網
5・・・管制システム
11・・・記憶部
12・・・制御部
13・・・表示部
14・・・入力部
15・・・通信部
111・・・空間モデル
112・・・移動体情報
113・・・異常情報
114・・・仮想カメラ情報
121・・・選択手段
122・・・目標位置設定手段
123・・・グラフ構造算出手段
124・・・経路探索手段
125・・・表示出力手段