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7130413パン類用品質改良剤及びパン類用組成物、並びに前記パン類品質改良剤又はパン類用組成物を用いたパン類用生地及びパン類
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】パン類用品質改良剤及びパン類用組成物、並びに前記パン類品質改良剤又はパン類用組成物を用いたパン類用生地及びパン類
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20220829BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20220829BHJP
   A21D 8/00 20060101ALI20220829BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20220829BHJP
   A23L 29/212 20160101ALI20220829BHJP
   A23L 29/238 20160101ALI20220829BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20220829BHJP
   C12N 9/26 20060101ALN20220829BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D2/36
A21D8/00
A21D13/00
A23L29/212
A23L29/238
A23L29/262
C12N9/26 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018072688
(22)【出願日】2018-04-04
(65)【公開番号】P2019180268
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-01-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】岸野 智
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-158298(JP,A)
【文献】特開2005-245409(JP,A)
【文献】国際公開第2014/128873(WO,A1)
【文献】特開2006-211969(JP,A)
【文献】特開2008-278827(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0015279(US,A1)
【文献】特開2016-119864(JP,A)
【文献】市川朝子,グルテンフリー米粉食パンの物性に及ぼすβ-アミラーゼ添加の影響,日本食品科学工学会誌, 2017, vol.64, no.12, p.584-590
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α化澱粉(α化低蛋白米粉、粳米α粉、及びα化した米粉に含まれるα化澱粉を除く)と、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ガム質から選ばれる一種以上の増粘剤と、
β-アミラーゼ及び/又はマルトース生成α-アミラーゼと、
を含有
前記α化澱粉は、パン類に用いる穀粉100質量部に対して1.0質量部以上となるように、
前記β-アミラーゼ及び/又はマルトース生成α-アミラーゼは、前記パン類への使用量が、β-アミラーゼとして45単位以上、及び/又は、前記マルトース生成α-アミラーゼとして3.0~30.0単位となるように、
含有されるパン類用加水量増加剤。
【請求項2】
前記α化澱粉と前記増粘剤との配合比が、1.0~10:0.1~2.0である、請求項1記載のパン類用加水量増加剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパン類用加水量増加剤を含有するパン類用組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のパン類用加水量増加剤、又は、請求項3に記載のパン類用組成物を用いたパン類用生地。
【請求項5】
冷凍された、請求項4記載のパン類用生地。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のパン類用生地を用いたパン類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン類用品質改良剤に関する。より詳しくは、本来の加水量よりも多くの加水を可能とするパン類用品質改良剤及びパン類用組成物、並びに前記パン類品質改良剤又はパン類用組成物を用いたパン類用生地及びパン類に関する。
【背景技術】
【0002】
パンにしっとりとした食感を付与する目的で、高加水のパン生地が用いられることがある。このような高加水のパンの市販品としては、例えば、「パン・ド・ロデヴ」と呼ばれる比較的リーンな配合のパン(ハード系のパン)が挙げられ、主にリテイルベーカリーにおいて提供され、その特徴的な食感から支持を集めている。
【0003】
高加水のパンを製造する技術として、例えば、特許文献1には、粘度が100~300,000mP・s、好ましくは100,000~250,000mPa・sである超高粘度タイプのヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を製パン用生地改良剤として用いることにより、従来の生地改良剤以上の加水を可能とする技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、穀粉100質量部に対し、水100~200質量部を含む多加水パン類の製造方法であって、(a)前記穀粉100質量部のうちの30~60質量部の穀粉、及び(b)前記(a)の穀粉100質量部に対し、200~250質量部の水を混捏して湯種を作製する工程を経ることで、パン生地の加水量をより高める技術が提案されている。
【0005】
高加水のパンは、しっとりとした食感から需要の高いパンではあるが、高加水であるが故に、機械による製パンが困難であるという問題がある。そこで、高加水のパン類の製造時の作業性を向上させる技術も開発されつつある。
【0006】
例えば、特許文献3には、中種法において、トランスグルタミナーゼを中種生地に小麦粉100g当り0.5~15U添加することで該酵素を十分に働かせ、生地に弾力と保形性を確保した上で、通常は本捏の後半に添加する油脂を中種生地に小麦粉100g当り2~30重量部添加することで、本捏時の中種の分散性を向上させて生地の纏まりを早くし、こんにゃく粉と澱粉と水とをアルカリ性凝固剤でゼリー状固体にし、pHを調整してから本捏時に添加し本捏の混捏時間が極端に長くならないようにすることで、含水量が多く、しっとりとしてモチモチとした弾力性のある食感を有するパンを、機械により大量生産できる製パン技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-215158号公報
【文献】特開2016-77202号公報
【文献】特開2016-174577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の通り、高加水のパンを製造する技術は、様々に開発が進められているが、まだまだ機械による製パンを行うためには、加水量が思うように増やせないのが実情である。また、高加水のパン生地から製造されるパン類は保形性に問題を生じやすく、形状に制約があるため、バラエティ化が難しいといった問題もあった。更に、糖分量が多い等の理由から、もともとの加水量を多くすることが不可能な菓子パン生地等では、そもそも高加水化すること自体が困難であった。
【0009】
そこで、本発明では、どのような種類のパンであっても、通常の加水量よりも多く加水することができ、かつ、本来の製パン方法による製パンを可能とする技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、どのような種類のパンであっても、特に、加水量が比較的少ない菓子パン等においても、加水量を増やすことができる技術について鋭意研究を行った結果、特定の3つの成分を組み合わせることにより、通常の加水量より多く加水しても、本来の製パン方法によって高加水パンを製造することに成功し、本発明完成させるに至った。
【0011】
より具体的には、前述した特許文献1のように、パン類用生地の加水量を増やすために、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等の増粘剤を使用する技術は存在するが、増粘剤によって増量できる加水量は、せいぜい数%である。実際、引用文献1の実施例でも、通常量の加水量より6~7質量%しか増量できていない(引用文献1[0016]参照)。また、増粘剤を使用しても、パン類のしっとりとした食感が出ないといった問題があった。更に、加水量を増やすために、増粘剤を多く配合すると、生地がべたついてしまい、製パン時の作業性が低下し、製パン機等による製パンが難しくなるという問題もあった。しかしながら、特定の増粘剤に、α化澱粉とアミラーゼとを配合することで、どのような種類のパンであっても、通常の加水量よりも10質量%以上多く加水することに成功した。ここで、アミラーゼは、澱粉を分解する性質を有するため、α化澱粉と併用すると、α化澱粉が分解されてしまい、理論的には、α化澱粉による水分の抱き込み効果が低下すると考えられる。そのため、α化澱粉の機能を発揮させたい場合には、それを分解する機能を有するアミラーゼとの併用は、当業者であれば行わないのが技術常識であった。しかしながら、α化澱粉と、特定の増粘剤と、マルトース生成アミラーゼと、を併用することで、意外にも、加水できる量が、相乗的に増加し、かつ、生地の保形性をも向上させることを突き止めた。
【0012】
即ち、本技術では、まず、
α化澱粉と、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ガム質から選ばれる一種以上の増粘剤と、
マルトース生成アミラーゼと、
を含有するパン類用品質改良剤を提供する。
本技術に係るパン類用品質改良剤では、前記α化澱粉と前記増粘剤との配合比を、1.0~10:0.1~2.0とすることができる。
本技術に係るパン類用品質改良剤において、前記マルトース生成アミラーゼとしては、少なくともβ-アミラーゼ及び/又はマルトース生成α-アミラーゼを用いることができる。
【0013】
本技術では、次に、
α化澱粉と、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ガム質から選ばれる一種以上の増粘剤と、
マルトース生成アミラーゼと、
を含有するパン類用組成物を提供する。
本技術に係るパン類組成物において、前記マルトース生成アミラーゼとしては、少なくともβ-アミラーゼ及び/又はマルトース生成α-アミラーゼを用いることができる。
この場合、前記β-アミラーゼとして5.0~100.0単位含有させることができる。
また、前記マルトース生成α-アミラーゼとして3.0~30.0単位含有させることができる。
【0014】
本技術では、更に、本技術に係るパン類用品質改良剤、又は、本技術に係るパン類用組成物を用いたパン類用生地を提供する。
本技術に係るパン類用生地は、冷凍することができる。
【0015】
本技術では、加えて、本技術に係るパン類用生地を用いたパン類を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本技術によれば、どのような種類のパンであっても、通常の加水量よりも多く加水することが可能である。また、本技術によれば、通常より高加水としても、製パン時の作業性が低下しないため、製パン方法を工夫しなくても、そのパン本来の製パン方法によって製造することが可能であり、機械による製パンも可能である。更に、本技術によれば、製パン時における生地の保形性が良好であるため、所望の形状へのバラエティ化も可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0018】
<パン類用品質改良剤>
本技術に係るパン類用品質改良剤は、(1)α化澱粉と、(2)増粘剤と、(3)マルトース生成アミラーゼと、を含有する。また、その他の成分として、パン類に用いることができる成分を用いることもできる。以下、各成分について詳細に説明する。
【0019】
(1)α化澱粉
α化澱粉は、水分とともに加熱することにより糊化した澱粉を、ドラムドライヤーやスプレードライヤー等を用いて急激に脱水乾燥して得られ、加熱を必要とせず、冷水で膨潤糊化するのが特徴である。
【0020】
本技術に係るパン類用品質改良剤に用いるα化澱粉は、好ましくはα化加工澱粉であり、より好ましくは架橋処理を施したα化架橋澱粉である。α化架橋澱粉を用いることで、混捏時の生地のべたつきをより効率よく抑制することができる。
原料澱粉は、植物から抽出した澱粉、及びこれらに化学的加工を施した加工澱粉であれば、特に制限はない。例えば、馬鈴薯澱粉、餅種(以下、糯種またはワキシーともいう)の馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、餅米澱粉等の澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、化学的に加工を施した加工澱粉が挙げられる。加工澱粉としては、どのような種類の加工澱粉でもよく、例えば、酵素処理澱粉;酸化澱粉;酸処理澱粉;酢酸澱粉(アセチル化澱粉)等のエステル化澱粉;リン酸化澱粉;ヒドロキシプロピル化澱粉等のエーテル化澱粉;リン酸架橋澱粉、アジピン酸架橋澱粉等の架橋澱粉;アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉等の複数の加工を組み合わせた加工澱粉等が挙げられる。これらの原料澱粉を常法によってα化処理したものを単独または複数混合して使用することができる。本技術においては、リン酸架橋を有するα化加工澱粉を用いるのが特に好ましい。そして、本技術において、α化澱粉は、粉末状、糊状など任意の状態で用いることができる。
【0021】
本技術に係るパン類用品質改良剤に用いるα化澱粉の含有量は、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができるが、パン類に用いる穀粉(α化澱粉を含む、以下同じ)を100質量部とした場合に、1.0~10.0質量部とすることが好ましく、1.5~8.0質量部とすることがより好ましい。α化澱粉の含有量を1.0質量部以上とすることで、製パン時の作業性及び保形性を確実に向上させ、かつ、パン類のしっとりとした食感を向上させることが可能である。また、10.0質量部以下とすることで、生地のべたつきを防止し、製パン時の作業性及び保形性を向上させることができる。
【0022】
(2)増粘剤
本技術に係るパン類用品質改良剤に用いる増粘剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」ともいう)、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」ともいう)、ガム質から1種又は2種以上選択して用いることができる。ガム質としては、本技術の効果を損なわない限り、公知のガム質を1種又は2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、アラビアガム、グアガム、タラガム等が挙げられる。
【0023】
本技術において、増粘剤としては、パン類のしっとりとした食感を向上させる観点からは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガムから1種又は2種以上選択して用いることが好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースを用いることが、より好ましい。
【0024】
本技術に係るパン類用品質改良剤に用いる増粘剤の含有量は、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができるが、パン類に用いる穀粉100質量部に対して、0.1~2.0質量部とすることが好ましく、0.2~0.7質量部とすることがより好ましい。増粘剤の含有量を0.1質量部以上とすることで、製パン時の作業性及び保形性を確実に向上させ、かつ、パン類のしっとりとした食感を向上させることが可能である。また、2.0質量部以下とすることで、生地のべたつきを防止し、製パン時の作業性及び保形性を向上させることができる。
【0025】
本技術に係るパン類用品質改良剤において、α化澱粉と増粘剤との配合比は、本技術の効果を損なわない限り、自由に設定することができるが、1.0~10:0.1~2.0とすることが好ましく、1.5~8:0.2~0.7とすることがより好ましい。この範囲に設定することで、製パン時の作業性及び保形性を向上させ、かつ、パン類のしっとりとした食感を向上させることが可能である。
【0026】
(3)マルトース生成アミラーゼ
本技術に係るパン類用品質改良剤は、前記α化澱粉及び増粘剤と共に、マルトース生成アミラーゼを用いることで、パン類のしっとりとした食感を向上させることができる。マルトース生成アミラーゼとしては、具体的に、β-アミラーゼ及び/又はマルトース生成α-アミラーゼを用いることができる。ここで、マルトース生成α-アミラーゼとは、一般的なカビ由来のα―アミラーゼと違い、マルトースを主体とするオリゴ糖を生成するα―アミラーゼであり、市販品としてはノボザイム社のノバミルシリーズ(ノバミル3DBG、ノバミル10000BG)などが挙げられる。また、過剰に添加した場合にも、製パン時の作業性、パン類の外観及び食感に悪影響のないことから、β-アミラーゼを選択して用いることがより好ましい。なお、マルトース生成アミラーゼ(β-アミラーゼ、マルトース生成α-アミラーゼ)と共に、本技術の効果を損なわない範囲において、一般的なカビ由来α―アミラーゼとを、併用することも可能である。
【0027】
本技術に係るパン類用品質改良剤にβ-アミラーゼを用いる場合、その含有量は、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができるが、最終製品への使用量が、5.0単位以上となるように含有することが好ましく、6.0単位以上となるように含有することがより好ましく、10.0~150.0単位となるように含有することがさらに好ましい。β-アミラーゼを、最終製品への使用量が5.0単位以上となるように含有させることで、製パン時の作業性及び保形性を確実に向上させ、かつ、パン類のしっとりとした食感を向上させることが可能である。なお、最終製品への使用量が150単位を超えるように添加しても問題ないが、後述する実施例に示す通り、最終製品への使用量が150単位を超えるように添加しても、その効果に変化がなく、また最終製品への使用量が96単位程度となるように添加しても高い効果を発揮するため、コスト削減の観点からは、最終製品への使用量が150単位以下となるように含有させることが好ましく、100単位以下となるように含有させることがより好ましい。
【0028】
また、本技術に係るパン類用品質改良剤にマルトース生成α-アミラーゼを用いる場合、その含有量は、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができるが、最終製品への使用量が、3.0~30.0単位となるように含有することが好ましく、5.0~25.0単位となるように含有することがより好ましい。
【0029】
さらには、本技術に係るパン類用品質改良剤には、マルトース生成α-アミラーゼとβ-アミラーゼを併用して用いることもでき、併用する場合であってもそれぞれ上記の酵素単位の範囲で用いればよい。
【0030】
なお、β―アミラーゼの上記「1単位」とは、第四版既存添加物自主規格(日本食品添加物協会、2008年10月16日発刊)記載のデンプン糖化力測定法に従い測定した、1分間に1mgのブドウ糖に相当する還元力の増加をもたらす酵素量を示す。
【0031】
マルトース生成α-アミラーゼの上記「1単位」とは、マルトトリオースを基質として酵素を作用させ、1分間に1μmolのマルトースを生成する酵素量を示す。マルトースの測定は、還元糖の定量法第2版(福井作蔵著 学会出版センター)を参照して行うことができる。
【0032】
(4)その他
本技術に係るパン類用品質改良剤は、前述した(1)α化澱粉と、(2)増粘剤と、(3)マルトース生成アミラーゼと、を含有していれば、これらの成分のみで構成されていてもよいし、他の成分を1種又は2種以上、自由に選択して含有させることもできる。他の成分としては、例えば、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、乳化剤等の成分を用いることができる。更に、公知の又は将来的に見出される機能を有する成分を、適宜目的に応じて併用することも可能である。
【0033】
<パン類用組成物>
本技術に係るパン類用組成物は、前述した(1)α化澱粉と、(2)増粘剤と、(3)マルトース生成アミラーゼと、を含有することを特徴とする。本技術に係るパン類用組成物は、これらの成分を含有することで、どのような種類のパンに用いても、通常の加水量よりも多く加水することが可能である。特に、加水量が比較的少ない菓子パン等のパン類においても、加水量を増やすことができる。また、通常より高加水としても、製パン時の作業性が低下しないため、製パン方法を工夫しなくても、そのパン本来の製パン方法によって製造することが可能であり、機械による製パンも可能である。更に、本技術によれば、製パン時における生地の保形性、機械耐性が良好であるため、所望の形状への成型が容易であり、バラエティ化も可能である。なお、α化澱粉及び増粘剤の詳細及びマルトース生成アミラーゼの種類は、前述したパン類用品質改良剤と同様であるため、ここでは説明を割愛する。
【0034】
本技術に係るパン類用組成物にβ-アミラーゼを用いる場合、その含有量は、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができるが、5.0単位以上とすることが好ましく、6.0単位以上とすることがより好ましく、10.0~150.0単位とすることがさらに好ましい。β-アミラーゼの含有量を5.0単位以上とすることで、製パン時の作業性及び保形性を確実に向上させ、かつ、パン類のしっとりとした食感を向上させることが可能である。なお、150単位を超えて添加しても問題ないが、後述する実施例に示す通り、150単位を超えて添加しても、その効果に変化がなく、また96単位の添加でも高い効果を発揮するため、コスト削減の観点からは、150単位以下とすることが好ましく、100単位以下とすることがより好ましい。
【0035】
また、本技術に係るパン類用組成物にマルトース生成α-アミラーゼを用いる場合、その含有量は、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができるが、3.0~30.0単位とすることが好ましく、5.0~25.0単位とすることがより好ましい。
【0036】
さらには、本技術に係るパン類用組成物には、マルトース生成α-アミラーゼとβ-アミラーゼを併用して用いることもでき、併用する場合であってもそれぞれ上記の酵素単位の範囲で用いればよい。
【0037】
本技術に係るパン類用組成物は、前述した(1)α化澱粉と、(2)増粘剤と、(3)マルトース生成アミラーゼの他に、従来からのパン類用組成物に用いられている材料や添加物を1種又は2種以上、自由に組み合わせて用いることができる。例えば、小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、米粉、大豆粉、オーツ粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、トウモロコシ粉等の穀粉類;前記α化澱粉以外の澱粉類(加工澱粉類を含む);大豆蛋白質、小麦グルテン、卵粉末、脱脂粉乳などの蛋白素材;植物性油脂、動物性油脂、加工油脂、粉末油脂等の油脂類;食物繊維;澱粉分解物、デキストリン、ぶどう糖、ショ糖、オリゴ糖、マルトース等の糖質類;食塩、炭酸カルシウム等の無機塩類;膨張剤、前記増粘剤以外の増粘剤、乳化剤、前記マルトース生成アミラーゼ以外の酵素製剤、pH調整剤、ビタミン類、イースト、イーストフード、膨張剤、甘味料、香辛料、調味料、ミネラル類、色素、香料などを適宜含有させることができる。なお、本技術における加水量増加の効果を確実にするため、パン類の骨格形成を補助する目的で小麦グルテンを含有させること又は穀粉の一部に超強力粉を用いることがより好ましい。
【0038】
本技術に係るパン類用組成物は、少なくとも前述した(1)α化澱粉と、(2)増粘剤と、(3)マルトース生成アミラーゼと、前記材料や添加物とを混合して得られるパン類用ミックスとして流通させる形態を採用することができる。
【0039】
<パン類用生地>
本技術に係るパン類用生地は、前述したパン類用品質改良剤、又は、前述したパン類用組成物を用いることを特徴とする。本技術に係るパン類用生地は、前述したパン類用品質改良剤、又は、前述したパン類用組成物を用いているため、どのような種類のパンの生地であっても、通常の加水量よりも多く加水することが可能である。特に、加水量が比較的少ない菓子パン等のパン類生地においても、加水量を増やすことができる。また、通常より高加水としても、生地の保形性、機械耐性が良好であるため、製パン時の作業性が低下せず、製パン方法を工夫しなくても、そのパン本来の製パン方法によって製造することが可能であり、機械による製パンも可能であり、更に、所望の形状への成型が容易なためバラエティ化も可能である。
【0040】
加えて、本技術に係るパン類用生地は、高加水であっても生地の保形性が良好であるため、冷蔵、チルド、冷凍等の状態、すなわち、冷蔵生地玉、成形冷蔵生地、冷凍生地玉、成形冷凍生地、ホイロ済み冷凍生地等の形態で流通させることが可能である。
【0041】
<パン類>
本技術に係るパン類は、前述したパン類用生地を用いることを特徴とする。本技術に係るパン類は、前述したパン類用生地を用いているため、どのような種類のパンであっても、通常の加水量よりも多く加水することが可能である。特に、加水量が比較的少ない菓子パン等においても、加水量を増やすことができる。また、通常より高加水としても、生地の保形性、機械耐性が良好であるため、製パン時の作業性が低下せず、製パン方法を工夫しなくても、そのパン本来の製パン方法によって製造することが可能であり、機械による製パンも可能であり、更に、所望の形状への成型が容易なためバラエティ化も可能である。
【0042】
加えて、本技術に係るパン類は、高加水とすることができるため、同じ種類のパン類に比べて、老化が遅く、しっとりとした食感を得ることができる。
【0043】
本技術に係るパン類の製造方法としては、前述した通り、通常より高加水とした場合でも、特に工夫する必要がなく、パンの種類や目的に応じて自由に選択することができる。例えば、ストレート法、中種法、発酵種法、湯種法等、公知の様々な方法を用いることができる。
【0044】
前記の通り、本技術に係るパン類の好適な種類としては、菓子パン類が挙げられるが、菓子パン類は、従来製法では加水量が少ないことでパサつきを生じやすく、また形状のバラエティが豊富であるために生地の保形性や機械耐性に影響する高加水化が困難であった。しかしながら、本技術を用いることで、高加水化しても生地の保形性や機械耐性を従来製法と同等程度に維持することができ、かつしっとりとした食感を付与できるため、リッチな配合のパン類、特に菓子パン類の品質向上に対して顕著な効果を発揮することができる。即ち、従来の高加水化技術で実現が困難であった、ジャムパン、クリームパン、あんぱん等のフィリング類を内包したパン;メロンパン等の表面を別の生地で覆ったパン;バターロール、コロネ等の特殊な形状に成形したパン;チョコチップ、レーズン、ナッツ類等を練り込んだパン;チョコレート等でコーティングしたパン;クロワッサン、デニッシュ等のマーガリン等の油脂やフィリング等で層構造を形成したパン;総菜パン;イーストドーナツなどを、高加水とすることができるため、同じ種類のパン類に比べて、老化が遅く、しっとりとした食感を得ることができる。
またリーンな配合のパン類、例えば、フランスパン等のハード系パン類;山型食パン、角型食パン等の食パン類;ソフトフランスパン等であっても、従来の高加水化技術と異なり、高加水化しても生地の保形性や機械耐性を従来製法(通常の製法)と同等程度に維持することができ、かつ同じ種類のパン類に比べて、老化が遅く、しっとりとした食感を得ることができる。
【実施例
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0046】
なお、特に記載のない限り、本実施例で使用した各材料は、以下の通りである。
強力粉:ハイネオン(昭和産業株式会社製)
α化澱粉A:α化エーテル化リン酸架橋馬鈴薯澱粉
α化澱粉B:α化リン酸架橋タピオカ澱粉
CMC:サンローズF(日本製紙株式会社)
HPMC:メトセルF50(ユニテックフーズ株式会社)
キサンタンガム:ウルトラキサンタン(伊那食品工業株式会社)
グアガム:ネオソフトG(太陽化学株式会社)
【0047】
<実験例1>
実験例1では、高加水パンを製造する場合において、各種成分の配合効果を調べた。なお、本実験例では、パン類の一例として、ロールパンを製造した。
【0048】
(1)パン類の製造
[ストレート法:参考例1及び2、実施例1、比較例1~3]
マーガリン以外の下記表1に記載の配合の材料を、低速で4分、中速で8~9分ミキシングした。次に、下記表1に記載の配合のマーガリンを加え、さらに低速で3分、中速で6~9分ミキシングして、混捏生地を調製した。生地の捏上温度は、26℃とした。なお、参考例2及び比較例2については、生地がドロドロで、ドウを形成することができなかった。参考例1、実施例1、比較例1、3については、調製した混捏生地について、室温で10分間フロアタイムをとった後、70gに分割して丸めた。その後、室温で20分間のベンチタイムをとった後、ロール状に成形して、38℃、湿度85%で60分間のホイロをとった後、200℃で9分間焼成してロールパンを得た。
【0049】
[中種法(加糖中種法):実施例2~4、比較例4~7]
下記表2の「中種」欄に記載の材料を、低速で3分、中速で2分ミキシングして、混捏生地を調製した。生地の捏上温度は、26℃とした。この混捏生地を、28℃で2.5時間発酵させて、中種を調製した。次に、この中種に、下記表2の「本捏」欄に記載のマーガリン以外の材料を加え、低速で4分、中速で5分ミキシングした。次に、下記表2に記載の配合のマーガリンを加え、さらに低速で3分、中速で5分ミキシングして、混捏生地を調製した。生地の捏上温度は、27℃とした。室温で20分間フロアタイムをとった後、70gに分割して丸めた。室温で20分間のベンチタイムをとった後、ロール状に成形して、38℃、湿度85%で60分間のホイロをとった後、200℃で9分間焼成してロールパンを得た。
【0050】
(2)評価
前記で製造した参考例1、実施例1~4、比較例1及び3~7に係るロールパンについて、下記の評価基準に基づいて、成形作業性、外観、及び食感を評価した。
【0051】
[成形作業性]
◎:成形作業性が非常に良い
○:成形作業時に問題となる不具合がなく良好である
△:許容範囲の成形作業性である
×:べたつき等があり、成形作業性が悪い
【0052】
[外観]
◎:ボリューム感、形状ともに非常に良好である
○:ボリューム感、形状ともに良好である
△:品質上の問題なし
×:潰れ・火脹れ等があり劣る
【0053】
[食感]
10名の専門パネルにより、下記の評価基準に基づいて、食感の評価を行った。10名の専門パネルの評価点の平均値を算出した値を評価点とした。
5:非常にしっとりとした食感である
4:しっとりとした食感で好ましい
3:ややしっとりした食感で、パサつきを感じない
2:パサつきを感じる食感である
1:パサつきを強く感じて好ましくない
【0054】
(3)結果
結果を下記表1及び2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
なお、本実験例の酵素は、下記の種類を用いた。
実施例1、比較例1及び2のマルトース生成アミラーゼ:ノバミル(登録商標)10000BG(ノボザイムズジャパン株式会社)
実施例2~4のマルトース生成アミラーゼ:βアミラーゼFアマノ(天野エンザイム株式会社製)
実施例3、4及び比較例5のα-アミラーゼ:ビオザイムA(登録商標、天野エンザイム株式会社製)[但し、酵素単位は、ビオザイムAの規格値から計算した値である]
比較例6及び7のα―アミラーゼ:ファンガミル2500SG(ノボザイムズジャパン株式会社)[但し、酵素単位は、ファンガミル2500SGの規格値から計算した値である]
【0058】
(4)考察
表1に示す通り、通常の水分量でロールパンを製造した参考例1は、成形作業性及び外観の評価は良好であったが、しっとりとした食感がなく、パサつきが強く感じられる食感であった。また、単に、水分量を増やした参考例2では、そもそもドウを形成することができなかった。
【0059】
参考例2に対してα化澱粉とマルトース生成アミラーゼを追加した比較例1は、かろうじてドウは形成できたが、べたつきが強すぎて、成形作業性の評価が劣る結果であった。また、食感についても、水分量が多いにも関わらず、しっとりとした食感が得られなかった。参考例2に対して増粘剤とマルトース生成アミラーゼを追加した比較例2については、そもそもドウを形成することができなかった。参考例2に対してα化澱粉と増粘剤を追加した比較例3は、成形作業性及び外観の評価は悪くなかったが、食感については、水分量が多いにも関わらず、しっとりとした食感が得られなかった。
【0060】
表2に示す通り、マルトース生成アミラーゼを用いずに中種法にて製造した比較例4は、成形作業性及び外観の評価は良好であったが、水分量が多いにも関わらず、しっとりとした食感が得られなかった。また、比較例4に対して、カビ由来のα―アミラーゼを15.0単位用いた比較例5は、成形作業性が悪い結果であった。更に、比較例4に対して、カビ由来のα―アミラーゼを少量用いた比較例6及び7については、比較例5に比べて成形作業性は良好であったが、しっとりとした食感の向上効果は低かった。
【0061】
一方、α化澱粉、増粘剤、及びマルトース生成アミラーゼを用いた実施例1~4は、成形作業性及び外観の評価も良好であり、食感についても、しっとりとした好ましい食感が感じられる結果であった。これらの結果から、α化澱粉、増粘剤、及びマルトース生成アミラーゼを用いることで、製パン時の作業性を向上しつつ、製造されるパンの品質を向上させることができることが分かった。また、一般的なカビ由来のα-アミラーゼのように、澱粉を不規則に切断するタイプの酵素ではなく、澱粉を非還元末端側から切断する性質を有する一般的なβ-アミラーゼや、マルトースを主体とするオリゴ糖を生成する酵素(マルトース生成α-アミラーゼ)等のマルトース生成アミラーゼを用いることで、しっとりとした食感が向上することが分かった。
【0062】
更に、実施例3及び4の結果から、マルトース生成アミラーゼと共に、カビ由来のα-アミラーゼを本技術の効果を損なわない範囲で併用することにより、容積増大等の効果があり、その結果、食感がより向上することも確認できた。
【0063】
<実験例2>
実験例2では、α化澱粉の好ましい配合量について検討を行った。なお、本実験例では、パン類の一例として、ロールパンを製造した。
【0064】
(1)パン類の製造
[実施例5~8]
前記実験例1の実施例1と同様の方法を用いて、下記表3に記載の配合で、ロールパンを製造した。
【0065】
(2)評価
前記で製造した実施例5~8に係るロールパンについて、前記実験例1と同様の評価基準に基づいて、成形作業性、外観、及び食感を評価した。
【0066】
(3)結果
結果を、下記の表3に示す。なお、α化澱粉の配合量による効果の差を検討するため、前記実験例1の実施例1の結果も合わせて示す。
【0067】
【表3】
【0068】
なお、本実験例のマルトース生成アミラーゼは、下記の種類を用いた。
β-アミラーゼ:βアミラーゼFアマノ(天野エンザイム株式会社製)
マルトース生成α-アミラーゼ:ノバミル(登録商標)10000BG(ノボザイムズジャパン株式会社)
【0069】
表3に示す通り、α化澱粉を1.5質量部用いた実施例5に比べ、6.0質量部用いた実施例1、7及び8や10.0質量部用いた実施例6の方が、食感の評価は優れていた。一方で、外観の評価に関しては、α化澱粉を10.0質量部用いた実施例6に比べ、6.0質量部用いた実施例1、7及び8や1.5質量部用いた実施例5の方が優れていた。これらの評価のバランスを考えると、α化澱粉の含有量は、パン類に用いる穀粉を100質量部とした場合に、1.5~8.0質量部とすることがより好ましいと考えられる。
【0070】
<実験例3>
実験例3では、増粘剤の好ましい配合量について検討を行った。なお、本実験例では、パン類の一例として、ロールパンを製造した。
【0071】
(1)パン類の製造
[実施例9及び10]
前記実験例1の実施例1と同様の方法を用いて、下記表4に記載の配合で、ロールパンを製造した。
【0072】
(2)評価
前記で製造した実施例9及び10に係るロールパンについて、前記実験例1と同様の評価基準に基づいて、成形作業性、外観、及び食感を評価した。
【0073】
(3)結果
結果を、下記の表4に示す。なお、増粘剤の配合量による効果の差を検討するため、前記実験例1の実施例1の結果も合わせて示す。
【0074】
【表4】
【0075】
なお、本実験例のマルトース生成アミラーゼは、下記の種類を用いた。
マルトース生成アミラーゼ:ノバミル(登録商標)10000BG(ノボザイムズジャパン株式会社)
【0076】
表4に示す通り、増粘剤を2.0質量部用いた実施例10に比べ、0.5質量部用いた実施例1や0.2質量部用いた実施例9の方が、外観の評価が優れていた。これらの結果から、増粘剤の含有量は、パン類に用いる穀粉を100質量部に対して、0.2~0.7質量部とすることがより好ましいと考えられる。
【0077】
前記実験例2の結果と合わせると、α化澱粉と増粘剤との配合比は、1.5~8:0.2~0.7とすることがより好ましいと考えられる。
【0078】
<実施例4>
実験例4では、マルトース生成アミラーゼの好ましい配合量について検討を行った。なお、本実験例では、パン類の一例として、ロールパンを製造した。
【0079】
(1)パン類の製造
[実施例11~13、参考例14、15、実施例16~21]
前記実験例1の実施例2と同様の方法を用いて、下記表5に記載の配合で、ロールパンを製造した。
【0080】
(2)評価
前記で製造した実施例11~13、参考例14、15、実施例16~21に係るロールパンについて、前記実験例1と同様の評価基準に基づいて、成形作業性、外観、及び食感を評価した。
【0081】
(3)結果
結果を、下記の表5に示す。
【0082】
【表5】

【0083】
なお、各実施例のマルトース生成アミラーゼは、下記の種類を用いた。
β-アミラーゼ:βアミラーゼFアマノ(天野エンザイム株式会社製)
マルトース生成α-アミラーゼ:ノバミル(登録商標)10000BG(ノボザイムズジャパン株式会社)
【0084】
表5に示す通り、β-アミラーゼを用いた実施例11、参考例14、15、実施例16~21の結果から、β-アミラーゼは、100.0単位までは、用量依存的に食感の評価が高くなり、過剰に添加しても、その効果に悪影響を及ぼすことはなかった。一方、マルトース生成α-アミラーゼを用いた実施例12及び13の結果から、マルトース生成α-アミラーゼについては、用量を増やすと、成形作業性や外観の評価が低下することが分かった。
【0085】
<実験例5>
実験例5では、増粘剤の好ましい種類について検討を行った。なお、本実験例では、パン類の一例として、ロールパンを製造した。
【0086】
(1)パン類の製造
[実施例22~24]
前記実験例1の実施例1と同様の方法を用いて、下記表6に記載の配合で、ロールパンを製造した。
【0087】
(2)評価
前記で製造した実施例22~24に係るロールパンについて、前記実験例1と同様の評価基準に基づいて、成形作業性、外観、及び食感を評価した。
【0088】
(3)結果
結果を、下記の表6に示す。なお、増粘剤の種類による効果の差を検討するため、前記実験例1の実施例1の結果も合わせて示す。
【0089】
【表6】
【0090】
表6に示す通り、グアガムを用いた実施例24に比べ、キサンタンガムを用いた実施例23の方が、食感の評価が優れており、更に、CMC、HPMCを用いた実施例1及び22方が、食感の評価が優れていた。この結果から、本発明の効果を発揮するためには、CMC、HPMC、キサンタンガムを選択することが好ましく、CMC、HPMCを選択することがより好ましいことが分かった。
【0091】
<実験例6>
実験例6では、各種バラエティでの効果の確認を行った。
なお、各実施例のマルトース生成アミラーゼは、下記の種類を用いた。
β-アミラーゼ:βアミラーゼFアマノ(天野エンザイム株式会社製)
マルトース生成α-アミラーゼ:ノバミル(登録商標)10000BG(ノボザイムズジャパン株式会社)
【0092】
(1)実施例25:クリームパン
下記表7の配合、工程にて、クリームパンを製造した。なお、成形時に、モルダーを用いて生地を約2mmに圧延したが、不具合を生じることがなく、非常に良好な作業性であった。
製造したクリームパンは、焼成後1日経過後に食味評価を行った。その結果、従来のクリームパン(パサつく食感)と異なり、非常にしっとりとした食感で、美味であった。
【0093】
(2)実施例26:メロンパン
下記表7の配合、工程にて、メロンパンを製造した。なお、ビス生地は、市販ミックス(メロン皮ミックスC28:昭和産業株式会社)100重量部に、全卵10重量部、水10重量部を加えて、低速4分、中速2分の条件で混捏して調製した。
製造したメロンパンは、焼成後1日経過後に食味評価を行った。その結果、従来のメロンパン(パサつく食感)と異なり、非常にしっとりとした食感で、美味であった。
【0094】
(3)実施例27:チョココロネ
下記表7の配合、工程にて、チョココロネを製造した。なお、成形作業におけるコルネ型(円錐形の金属製芯)への生地の巻き付け作業も通常配合の生地と同様に良好な作業性であった。
製造したチョココロネは、焼成後1日経過後に食味評価を行った。その結果、従来のチョココロネ(パサつく食感)と異なり、非常にしっとりとした食感で、美味であった。
【0095】
【表7】
【0096】
(4)実施例28:あんぱん
下記表8の配合、工程にて、あんぱんを製造した。なお、成形作業は手包みで行ったが、作業性は非常に良好であった。
製造したあんぱんは、焼成後1日経過後に食味評価を行った。その結果、従来のあんぱん(パサつく食感)と異なり、非常にしっとりとした食感で、美味であった。
【0097】
(5)実施例29:フランスパン
下記表8の配合、工程にて、フランスパンを製造した。なお、成形作業において、バゲットモルダーを使用したが、作業性は良好であった。
製造したフランスパンは、焼成後4時間経過後に食味評価を行った。その結果、非常にしっとりとした食感で、美味であった。
【0098】
(6)実施例30:ソフトフランスパン
下記表8の配合、工程にて、ソフトフランスパンを製造した。なお、成形作業において、小型モルダーを使用したが、作業性は良好であった。
製造したソフトフランスパンは、焼成後1日経過後に食味評価を行った。その結果、非常にしっとりとした食感で、美味であった。
【0099】
(7)実施例31:山型食パン
下記表8の配合、工程にて、山型食パンを製造した。なお、成形作業において、小型モルダーを使用したが、作業性は良好であった。
製造した山型食パンは、焼成後1日経過後に食味評価を行った。その結果、非常にしっとりとした食感で、美味であった。
【0100】
【表8】
【0101】
(8)実施例32:クリームパン(成形冷凍生地)
下記表9の配合、工程にて、クリームパンの成形冷凍生地を調製した。この成形冷凍生地を冷凍保存2週間経過後に、解凍してホイロ以後の工程を行い、クリームパンを製造した。なお、成形時に、モルダーを用いて生地を約2mmに圧延したが、不具合を生じることがなく、非常に良好な作業性であった。
製造したクリームパンは、焼成後1日経過後に食味評価を行った。その結果、従来のクリームパン(パサつく食感)と異なり、非常にしっとりとした食感で、美味であった。
【0102】
(9)実施例33:イーストドーナツ(成形冷凍生地)
下記表9の配合、工程にて、イーストドーナツの成形冷凍生地を調製した。この成形冷凍生地を冷凍保存2週間経過後に、解凍してホイロ以後の工程を行い、イーストドーナツを製造した。
製造したイーストドーナツは、フライ後1日経過後に食味評価を行った。その結果、従来のイーストドーナツに比べて、しっとりとした食感であり、美味であった。
【0103】
【表9】