IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製紙株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】カルボキシメチルセルロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 11/12 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
C08B11/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018097180
(22)【出願日】2018-05-21
(65)【公開番号】P2019203041
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】井上 一彦
(72)【発明者】
【氏名】西ヶ谷 霞
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-159620(JP,A)
【文献】国際公開第2012/150701(WO,A1)
【文献】特開平09-176201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 11/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチル置換度が0.50以上のカルボキシメチルセルロースを製造する方法であって、
セルロースをマーセル化剤で処理して、マーセル化セルロースを得る工程、及び
マーセル化セルロースをカルボキシメチル化剤と反応させて、カルボキシメチルセルロースを得る工程、
を含み、
マーセル化セルロースを得る工程を、水を主とする溶媒下で行い、カルボキシメチルセルロースを得る工程を、水と有機溶媒との混合溶媒下で行かつ、
マーセル化セルロースを得る工程における水を主とする溶媒の量が、セルロースに対し、1.5~20質量倍である、上記カルボキシメチルセルロースの製造方法。
【請求項2】
マーセル化セルロースを得る工程における水を主とする溶媒が、水を50質量%より高い割合で含む溶媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
マーセル化セルロースを得る工程における水を主とする溶媒が、水である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
カルボキシメチルセルロースを得る工程における混合溶媒が、水と有機溶媒との総和に対して、有機溶媒を、35~99質量%含む溶媒である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
カルボキシメチルセルロースを得る工程において、マーセル化セルロースにカルボキシメチル化剤を投入した後、温度を10~40℃の範囲で一定に保ったまま15分~4時間撹拌することを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
カルボキシメチル置換度が0.60以上である、請求項1~5のいずれか1に記載の方法。
【請求項7】
カルボキシメチル化剤の有効利用率が、15%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
カルボキシメチル化剤が、モノクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸ナトリウムである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
マーセル化剤が、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、またはこれらの2種以上の組み合せである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
有機溶媒が、イソプロパノール、メタノール、エタノール、アセトン、またはこれらの2種以上の組み合せである、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチルセルロースの新規な製造方法に関する。より詳細には、水中でダマ(塊)を形成しにくいカルボキシメチルセルロースを製造する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボキシメチルセルロース又はその塩(以下、単に「CMC」ということもある。)は、セルロースの誘導体であり、セルロースの骨格を構成するグルコース残基中の水酸基の一部にカルボキシメチル基をエーテル結合させたもの、またはこのカルボキシメチル基が塩になっているものである。CMCの品質(増粘性、吸水性、保水性、保形性等)は、カルボキシメチル基の置換度、セルロース骨格の長さなどにより調整することができ、CMCは化粧品、医薬品、食品、各種工業製品等において増粘剤、粘結剤、バインダー、吸水材、保水材、乳化安定剤などの各種添加剤として使用されている。また、天然セルロース由来であるため、緩やかな生分解性を有するとともに焼却廃棄が可能である環境にやさしい素材であり、CMCの用途は今後拡大すると予測される。
【0003】
CMCを各種添加剤として使用する際、CMCを水に添加すると、表面だけが溶解し、内部は粉末の状態で残る、いわゆる「ダマ」(塊)を形成しやすい傾向があった。CMCを効率的に使用するためには、ダマ(塊)の形成は少ない方が好ましい。
【0004】
CMCのダマの形成を防ぎ、水に効率よく溶解させる方法として、媒体である水に予め低粘度のCMCナトリウム塩を溶解しておき、ここにさらにCMCナトリウム塩を溶解する方法が報告されている(特許文献1)。また、高粘性タイプCMCの粉末表面に低粘性多糖類を結着させたCMCを用いる方法が報告されている(特許文献2)。しかし、特許文献1に記載の方法では、予め低粘度のCMCナトリウム塩を準備し、水に溶解する手間がかかり、実用的ではない。また、特許文献2に記載の方法も、特殊な加工を施したCMCを準備しなくてはならず、実用的ではない。
【0005】
ところで、CMCの製造方法としては、一般に、セルロースをアルカリで処理(マーセル化)した後、エーテル化剤(カルボキシメチル化剤ともいう。)で処理(カルボキシメチル化。エーテル化とも呼ぶ。)する方法が知られており、マーセル化とカルボキシメチル化の両方を水を溶媒として行う方法と、マーセル化とカルボキシメチル化の両方を有機溶媒下または有機溶媒と水との混合溶媒下で行う方法(特許文献3)が知られており、前者は「水媒法」、後者は「溶媒法」と呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-269101号公報
【文献】特開2008-228696号公報
【文献】特開2017-149901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水中でダマ(塊)を形成しにくく、未溶解物が少ないカルボキシメチルセルロースを簡便に製造することができる新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的に対して鋭意検討を行った結果、セルロースのカルボキシメチル化において、マーセル化(セルロースのアルカリ処理)を水を主とする溶媒下で行い、その後、カルボキシメチル化(エーテル化ともいう。)を水と有機溶媒との混合溶媒下で行うことにより、従来の水媒法(マーセル化とカルボキシメチル化の両方を水を溶媒として行う方法)や溶媒法(マーセル化とカルボキシメチル化の両方を有機溶媒を主とする溶媒下で行う方法)で得たカルボキシメチルセルロースに比べて、水中でダマになりにくく、未溶解物が少ないカルボキシメチルセルロースを製造することができることを見出した。
【0009】
本発明としては、以下に限定されないが、次のものが挙げられる。
(1)カルボキシメチル置換度が0.50以上のカルボキシメチルセルロースを製造する方法であって、
セルロースをマーセル化剤で処理して、マーセル化セルロースを得る工程、及び
マーセル化セルロースをカルボキシメチル化剤と反応させて、カルボキシメチルセルロースを得る工程、
を含み、
マーセル化セルロースを得る工程を、水を主とする溶媒下で行い、カルボキシメチルセルロースを得る工程を、水と有機溶媒との混合溶媒下で行う、上記カルボキシメチルセルロースの製造方法。
(2)マーセル化セルロースを得る工程における水を主とする溶媒が、水を50質量%より高い割合で含む溶媒である、(1)に記載の方法。
(3)マーセル化セルロースを得る工程における水を主とする溶媒が、水である、(2)に記載の方法。
(4)カルボキシメチルセルロースを得る工程における混合溶媒が、水と有機溶媒との総和に対して、有機溶媒を、35~99質量%含む溶媒である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の方法。
(5)マーセル化セルロースを得る工程における水を主とする溶媒の量が、セルロースに対し、1.5~20質量倍である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)カルボキシメチル置換度が0.60以上である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の方法。
(7)カルボキシメチル化剤の有効利用率が、15%以上である、(1)~(6)のいずれか1つに記載の方法。
(8)カルボキシメチル化剤が、モノクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸ナトリウムである、(1)~(7)のいずれか1つに記載の方法。
(9)マーセル化剤が、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、またはこれらの2種以上の組み合せである、(1)~(8)のいずれか1つに記載の方法。
(10)有機溶媒が、イソプロパノール、メタノール、エタノール、アセトン、またはこれらの2種以上の組み合せである、(1)~(9)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、水中でダマ(塊)を形成しにくいカルボキシメチルセルロースを簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、カルボキシメチルセルロースの製造方法である。カルボキシメチルセルロースは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基の一部がカルボキシメチル基とエーテル結合した構造を有する。カルボキシメチルセルロースは、塩の形態をとる場合もあり、カルボキシメチルセルロースの塩としては、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム塩などの金属塩などが挙げられる。
【0012】
カルボキシメチルセルロースは、一般に、セルロースをアルカリで処理(マーセル化)した後、得られたマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を、カルボキシメチル化剤(エーテル化剤ともいう。)と反応させることにより製造することができる。
【0013】
<セルロース>
本発明においてセルロースとは、D-グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」ともいう。)がβ-1,4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは、一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。本発明では、これらのセルロースのいずれも、マーセル化セルロースの原料として用いることができる。
【0014】
天然セルロースとしては、晒パルプまたは未晒パルプ(晒木材パルプまたは未晒木材パルプ);リンター、精製リンター;酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等が例示される。晒パルプ又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹、麻、ジュート、ケナフ等が挙げられる。また、晒パルプ又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合せた方法でもよい。製造方法により分類される晒パルプ又は未晒パルプとしては例えば、メカニカルパルプ(サーモメカニカルパルプ(TMP)、砕木パルプ)、ケミカルパルプ(針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)等の亜硫酸パルプ、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)等のクラフトパルプ)等が挙げられる。さらに、製紙用パルプの他に溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとは、化学的に精製されたパルプであり、主として薬品に溶解して使用され、人造繊維、セロハンなどの主原料となる。
【0015】
再生セルロースとしては、セルロースを銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体など何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸されたものが例示される。
微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとする、セルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等)して得られるものや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるものが例示される。
【0016】
<マーセル化>
原料として前述のセルロースを用い、マーセル化剤(アルカリ)を添加することによりマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を得る。本発明では、このマーセル化反応における溶媒に水を主として用い、次のカルボキシメチル化の際に有機溶媒と水との混合溶媒を使用することにより、水中でダマを形成しにくく、未溶解物の少ないカルボキシメチルセルロースを経済的に得ることができる。
【0017】
溶媒に水を主として用いる(水を主とする溶媒)とは、水を50質量%より高い割合で含む溶媒をいう。水を主とする溶媒中の水は、好ましくは55質量%以上あり、より好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。特に好ましくは水を主とする溶媒は、水が100質量%(すなわち、水)である。マーセル化時の水の割合が多いほど、ダマになりにくいCMCが形成される傾向がある。水を主とする溶媒中の水以外の(水と混合して用いられる)溶媒としては、後段のカルボキシメチル化の際の溶媒として用いられる有機溶媒が挙げられる。例えば、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの単独または2種以上の混合物を水に50質量%未満の量で添加してマーセル化の際の溶媒として用いることができる。水を主とする溶媒中の有機溶媒は、50質量%未満であり、好ましくは45質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。
【0018】
マーセル化剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が挙げられ、これらのうちいずれか1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。マーセル化剤は、これに限定されないが、これらのアルカリ金属水酸化物を、例えば、1~60質量%、好ましくは2~45質量%、より好ましくは3~25質量%の水溶液として反応器に添加することができる。マーセル化剤の使用量は、一実施形態において、セルロース100g(絶乾)に対して0.1モル以上3.0モル以下であることが好ましく、0.3モル以上2.5モル以下であることがより好ましく、0.4モル以上2.0モル以下であることがさらに好ましい。
【0019】
マーセル化の際の水を主とする溶媒の量は、原料を容易に撹拌混合することができる量が好ましく、これにより反応を均一に起こさせ、CMCの水への溶解性を高めることができる。溶媒の量は、具体的には、セルロース原料に対し、1.5~20質量倍が好ましく、2~10質量倍であることがより好ましい。
【0020】
マーセル化処理は、発底原料(セルロース)と水を主とする溶媒とを混合し、反応器の温度を0~70℃、好ましくは10~60℃、より好ましくは10~40℃に調整して、マーセル化剤の水溶液を添加し、15分~8時間、好ましくは30分~7時間、より好ましくは30分~3時間撹拌することにより行う。これによりマーセル化セルロース(アルカリセルロース)を得る。
【0021】
マーセル化の際のpHは、9以上が好ましく、これによりマーセル化反応を進めることができる。該pHは、より好ましくは11以上であり、更に好ましくは12以上であり、13以上でもよい。pHの上限は特に限定されない。
【0022】
マーセル化は、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することができる反応機を用いて行うことができ、従来からマーセル化反応に用いられている各種の反応機を用いることができる。例えば、2本の軸が撹拌し、上記各成分を混合するようなバッチ型攪拌装置は、均一混合性と生産性の両観点から好ましい。
【0023】
マーセル化の終了後に、濾過、圧搾等の手段により、水を主とする溶媒の一部または全部を除去してもよい。マーセル化終了時に水を主とする溶媒を一部または全部除去することにより、後のカルボキシメチル化の際の反応溶媒における有機溶媒の濃度を高めることが容易となる。
【0024】
<カルボキシメチル化>
マーセル化セルロースに対し、カルボキシメチル化剤(エーテル化剤ともいう。)を添加することにより、カルボキシメチルセルロースを得る。本発明では、このカルボキシメチル化反応における溶媒として、水と有機溶媒との混合溶媒を用いる。マーセル化の際は水を主とする溶媒として用い、カルボキシメチル化の際には水と有機溶媒との混合溶媒を用いることにより、ダマになりにくいCMCを経済的に得ることができる。
【0025】
カルボキシメチル化剤としては、モノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、モノクロロ酢酸メチル、モノクロロ酢酸エチル、モノクロロ酢酸イソプロピルなどが挙げられる。これらのうち、原料の入手しやすさという点でモノクロロ酢酸、またはモノクロロ酢酸ナトリウムが好ましい。カルボキシメチル化剤は、セルロースの無水グルコース単位当たり、0.5~1.5モルの範囲で添加することが好ましい。上記範囲の下限はより好ましくは0.6モル以上、さらに好ましくは0.7モル以上であり、上限はより好ましくは1.3モル以下、さらに好ましくは1.1モル以下である。カルボキシメチル化剤は、これに限定されないが、例えば、5~80質量%、より好ましくは30~60質量%の水溶液として反応器に添加することができるし、溶解せず、粉末状態で添加することもできる。
【0026】
マーセル化剤とカルボキシメチル化剤のモル比(マーセル化剤/カルボキシメチル化剤)は、カルボキシメチル化剤としてモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムを使用する場合では、0.9~2.45が一般的に採用される。その理由は、0.9未満であるとカルボキシメチル化反応が不十分となる可能性があり、未反応のモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムが残って無駄が生じる可能性があること、及び2.45を超えると過剰のマーセル化剤とモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムによる副反応が進行してグリコール酸アルカリ金属塩が生成する恐れがあるため、不経済となる可能性があることにある。
【0027】
また、本発明では、カルボキシメチル化剤の有効利用率が、15%以上であることが好ましい。より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは40%以上であり、特に好ましくは50%以上である。カルボキシメチル化剤の有効利用率とは、カルボキシメチル化剤におけるカルボキシメチル基のうち、セルロースに導入されたカルボキシメチル基の割合を指す。本発明では、マーセル化の際に水を主とする溶媒を用い、カルボキシメチル化の際に水と有機溶媒との混合溶媒を用いることにより、高いカルボキシメチル化剤の有効利用率で(すなわち、カルボキシメチル化剤の使用量を大きく増やすことなく、経済的に)カルボキシメチルセルロースを製造することができる。カルボキシメチル化剤の有効利用率の上限は特に限定されないが、現実的には80%程度が上限となる。なお、カルボキシメチル化剤の有効利用率は、AMと略すことがある。
【0028】
カルボキシメチル化剤の有効利用率の算出方法は以下の通りである:
AM = (DS ×セルロースのモル数)/ カルボキシメチル化剤のモル数
DS: カルボキシメチル置換度(測定方法は後述する)
セルロースのモル数:パルプ質量(100℃で60分間乾燥した際の乾燥質量)/162
(162はセルロースのグルコース単位当たりの分子量)。
【0029】
カルボキシメチル化反応におけるセルロース原料の濃度は、特に限定されないが、カルボキシメチル化剤の有効利用率を高める観点から、1~40質量%であることが好ましい。
【0030】
カルボキシメチル化剤を添加するのと同時に、あるいはカルボキシメチル化剤の添加の前または直後に、反応器に有機溶媒または有機溶媒の水溶液を適宜添加し、又は減圧などによりマーセル化処理時の水以外の有機溶媒等を適宜削減して、水と有機溶媒との混合溶媒を形成する。本発明では、この水と有機溶媒との混合溶媒下で、カルボキシメチル化反応を進行させる。有機溶媒の添加または削減のタイミングは、マーセル化反応の終了後からカルボキシメチル化剤を添加した直後までの間であればよく、特に限定されないが、例えば、カルボキシメチル化剤を添加する前後30分以内が好ましい。
【0031】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの単独または2種以上の混合物を水に添加してカルボキシメチル化の際の溶媒として用いることができる。これらのうち、水との相溶性が優れることから、炭素数1~4の一価アルコールが好ましく、炭素数1~3の一価アルコールがさらに好ましい。
【0032】
カルボキシメチル化の際の混合溶媒中の有機溶媒の割合は、水と有機溶媒との総和に対して有機溶媒が20~99質量%であることが好ましく、30~99質量%であることがより好ましく、35~99質量%であることがさらに好ましく、40~99質量%であることがさらに好ましく、45~99質量%であることがさらに好ましく、50~99質量%であることが最も好ましい。
【0033】
カルボキシメチル化の際の反応溶媒(セルロースを含まない、水と有機溶媒等との混合溶媒)は、マーセル化の際の反応溶媒よりも、水の割合が少ない(言い換えれば、有機溶媒の割合が多い)ことが好ましい。本範囲を満たすことで、ダマになりにくいカルボキシメチルセルロースを、より効率的に得ることができるようになる。
【0034】
水と有機溶媒との混合溶媒を形成し、マーセル化セルロースにカルボキシメチル化剤を投入した後、温度を好ましくは10~40℃の範囲で一定に保ったまま15分~4時間、好ましくは15分~1時間程度撹拌する。マーセル化セルロースを含む液とカルボキシメチル化剤との混合は、反応混合物が高温になることを防止するために、複数回に分けて、または、滴下により行うことが好ましい。カルボキシメチル化剤を投入して一定時間撹拌した後、必要であれば昇温して、反応温度を30~90℃、好ましくは40~90℃、さらに好ましくは60~80℃として、30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化(カルボキシメチル化)反応を行い、カルボキシメチルセルロースを得る。
【0035】
カルボキシメチル化の際には、マーセル化の際に用いた反応器をそのまま用いてもよく、あるいは、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することが可能な別の反応器を用いてもよい。
【0036】
反応終了後、残存するアルカリ金属塩を鉱酸または有機酸で中和してもよい。また、必要に応じて、副生する無機塩、有機酸塩等を含水メタノールで洗浄して除去し、乾燥、粉砕、分級してカルボキシメチルセルロース又はその塩としてもよい。乾式粉砕で用いる装置としてはハンマーミル、ピンミル等の衝撃式ミル、ボールミル、タワーミル等の媒体ミル、ジェットミル等が例示される。湿式粉砕で用いる装置としてはホモジナイザー、マスコロイダー、パールミル等の装置が例示される。
【0037】
<カルボキシメチル置換度>
本発明で製造されるカルボキシメチルセルロースは、水中に投入した際、ダマを形成しにくく溶けやすいという特徴を有する。そのような水に溶けやすいカルボキシメチルセルロースは、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.50以上である。当該置換度が0.50未満であると水中でも繊維形状を維持し、水に溶解しないことがある。カルボキシメチル置換度の上限は特に限定されないが、現実的には1.50以下程度となる。カルボキシメチル置換度は、好ましくは0.50~1.50であり、さらに好ましくは0.60~1.50であり、更に好ましくは0.60~1.20であり、更に好ましくは0.60~1.00である。カルボキシメチル置換度は、反応させるカルボキシメチル化剤の添加量、マーセル化剤の量、水と有機溶媒の組成比率をコントロールすること等によって調整することができる。
【0038】
本発明において無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味する。また、カルボキシメチル置換度(エーテル化度ともいう。)とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基のうちカルボキシメチルエーテル基に置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシメチルエーテル基の数)を示す。なお、カルボキシメチル置換度はDSと略すことがある。
【0039】
カルボキシメチル置換度の測定方法は以下の通りである:
試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振盪して、カルボキシメチルセルロースの塩(CMC)をH-CMC(水素型カルボキシメチルセルロース)に変換する。その絶乾H-CMCを1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLでH-CMCを湿潤し、0.1N-NaOHを100mL加え、室温で3時間振盪する。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N-HSOで過剰のNaOHを逆滴定し、次式によってカルボキシメチル置換度(DS値)を算出する。
A=[(100×F’-0.1N-HSO(mL)×F)×0.1]/(H-CMCの絶乾質量(g))
カルボキシメチル置換度=0.162×A/(1-0.058×A)
F’:0.1N-HSOのファクター
F:0.1N-NaOHのファクター。
【0040】
<濾過残渣の割合>
本発明の製法により得られたカルボキシメチルセルロースは、水に投入した際に、ダマ(塊)の形成が少ないという特徴を有する。ダマの形成の程度は、例えば、CMCを水に投入し、一定時間撹拌した後に特定のフィルターで濾過した際にフィルター上に残る濾過残渣の量と、元のCMCの乾燥質量とから、濾過残渣の割合を算出することにより、表すことができる。具体的には、例えば、以下の手順(1)~(3)により、濾過残渣の割合を得ることができる:
(1)濾過残渣の量の測定
1Lのビーカーに500gの水を採取する。CMC5gを分取し、質量を記録する(CMCの質量)。撹拌器(IKA(登録商標)EUROSTAR P CV S1(IKA社製))に撹拌羽をセットし、400rpmで水を撹拌しておく。質量を記録しておいたCMCを、撹拌している水中に一気に投入し、投入後3分間撹拌する。撹拌終了後、撹拌器の電源を切る。撹拌終了後、迅速に、あらかじめ質量を測定しておいた20メッシュのフィルターを用いて自然濾過を行う。自然濾過後、フィルターとその上の残渣をともに、バット上で100℃で2時間乾燥させる。フィルターとその上の残渣の質量を測定し、フィルターの質量を差し引くことで残渣の絶乾質量(g)を計算する(絶乾残渣質量)。
(2)CMCの水分量の計算
秤量瓶を100℃で2時間加熱し、シリカゲルの入ったデシケーター内で冷却し、秤量瓶の絶乾質量を精秤する(絶乾秤量瓶質量)。CMCを秤量瓶中に約1.5g量り取り、精秤する(乾燥前CMC質量)。秤量瓶のふたを開け、105℃で2時間加熱乾燥する。秤量瓶のふたを閉め、シリカゲルの入ったデシケーター内で15分間冷却する。乾燥後の秤量瓶質量(乾燥後のCMCを含む)を精秤する(乾燥後CMC入り秤量瓶質量)。以下の式を用いて、CMCの水分量を計算する:
CMCの水分(%)=[{乾燥前CMC質量(g)-(乾燥後CMC入り秤量瓶質量(g)-絶乾秤量瓶質量(g))}/乾燥前CMC質量(g)]×100。
(3)濾過残渣の割合の計算
(1)で測定したCMCの質量(g)及び絶乾残渣質量(g)、ならびに(2)で計算したCMCの水分(%)を用いて、以下の式により、CMCの濾過残渣の割合を計算する:
CMCの濾過残渣の割合(%)=[絶乾残渣質量(g)/{CMCの質量(g)×(100-CMCの水分(%))/100}]×100。
【0041】
本発明の製法により得られるCMCについて、上記の方法で算出した濾過残渣の割合は、好ましくは、0~60%であり、より好ましくは0~50%である。濾過残渣の割合の少ないCMCは、水に均一に溶解させやすく、取扱い性に優れる。
【0042】
<未溶解ゲル>
カルボキシメチルセルロースのダマ(塊)の形成の程度は、上述の濾過残渣の割合を測定する以外にも、例えば、未溶解のゲルを目視で観測することにより確認することができる。未溶解ゲルの測定方法は、例えば、以下の通りである:
1質量%CMC水溶液を作製し、ガラス板にアプリケータ(100μm)で塗布し、塗布直後のガラス板上の未溶解ゲルの有無、塗布面のきれいさなどを目視で観測する。
【0043】
<1%水溶液粘度>
カルボキシメチルセルロースを水に溶解した固形分1質量%の水溶液の粘度は、10~20000mPa・sであることが好ましい。1質量%水溶液の粘度は、以下の手順(1)~(3)により測定することができる:
(1)CMCの水分量の計算
秤量瓶を100℃で2時間加熱し、シリカゲルの入ったデシケーター内で冷却し、秤量瓶の絶乾質量を精秤する(絶乾秤量瓶質量)。CMCを秤量瓶中に約1.5g量り取り、精秤する(乾燥前CMC質量)。秤量瓶のふたを開け、105℃で2時間加熱乾燥する。秤量瓶のふたを閉め、シリカゲルの入ったデシケーター内で15分間冷却する。乾燥後の秤量瓶質量(乾燥後のCMCを含む)を精秤する(乾燥後CMC入り秤量瓶質量)。以下の式を用いて、CMCの水分量を計算する:
CMCの水分(%)=[{乾燥前CMC質量(g)-(乾燥後CMC入り秤量瓶質量(g)-絶乾秤量瓶質量(g))}/乾燥前CMC質量(g)]×100。
(2)水溶液の調整
CMC約10gを上皿天秤で採取する。採取したCMCを純水880ml入りのビーカーに、溶解用攪拌機で攪拌しながら徐々に投入する。(1)で測定したCMC水分量から計算し、固形分1質量%となるように純水を追加する。3時間撹拌して完全に溶解させる。
(3)粘度測定
3時間攪拌し、完全に溶解したのを目視で確認した後、溶液の温度を25±0.2℃に調整する。B型粘度計を用い、30rpmでローターNo.3で粘度を測定する。測定値はローターを始動してから3分後の目盛りを読み取る。
【0044】
<その他>
本発明により製造されたカルボキシメチルセルロースは、反応後に得られる分散体の状態で使用することも可能であるが、必要に応じて乾燥し、また水に再分散して使用することもできる。乾燥方法は何ら限定されないが、例えば凍結乾燥法、噴霧乾燥法、棚段式乾燥法、ドラム乾燥法、ベルト乾燥法、ガラス板等に薄く伸展し乾燥する方法、流動床乾燥法、マイクロウェーブ乾燥法、起熱ファン式減圧乾燥法などの既知の方法を使用できる。乾燥後に必要に応じて、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等で粉砕しても良い。また、水への再分散の方法も特に限定されず、既知の分散装置を使用することができる。
【0045】
カルボキシメチルセルロースが用いられる分野は限定されず、一般的に添加剤が用いられる様々な分野、例えば、食品、飲料、化粧品、医薬、製紙、各種化学用品、塗料、スプレー、農薬、土木、建築、電子材料、難燃剤、家庭雑貨、接着剤、洗浄剤、芳香剤、潤滑用組成物などで、増粘剤、ゲル化剤、糊剤、食品添加剤、賦形剤、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、製紙用添加剤、研磨剤、ゴム・プラスチック用配合材料、保水剤、保形剤、泥水調整剤、ろ過助剤、溢泥防止剤などとして使用することができると考えられる。本発明の製法により得られるCMCは、ダマを形成しにくいことから、添加剤として使用しやすいという利点がある。
【0046】
本発明の製法により、ダマを形成しにくいカルボキシメチルセルロースが得られる理由は明らかではないが、本発明者らは、次のように推測している:
マーセル化反応を水を主とする溶媒を用いて行うことによりマーセル化剤が均一に混ざりやすくなり、マーセル化反応がより均一に生じるようになり、また、カルボキシメチル化において有機溶媒が存在することにより、カルボキシメチル化剤の有効利用率が向上し、その結果余剰のカルボキシメチル化剤による副反応(例えば、グリコール酸アルカリ金属塩の生成等)が生じにくくなり、品質が安定化すると考えられる。これによりセルロースに均一に(局所的ではなく)カルボキシメチル基が導入され、カルボキシメチルセルロースが全体的に溶解しやすくなり、ダマが形成されにくくなったと考えられる。しかし、これに限定されるものではない。
【実施例
【0047】
以下、本発明を実施例及び比較例をあげてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は質量部および質量%を示す。
【0048】
(実施例1)
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、水酸化ナトリウム50部を水100部に溶解したものを加え、市販の広葉樹パルプを100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつイソプロパノール(IPA)670部と、モノクロロ酢酸53部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.61、1%粘度120mPa・sのカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、67.1%であり、濾過残渣の割合は29%であった。なお、カルボキシメチル置換度及び1%粘度の測定方法、ならびにカルボキシメチル化剤の有効利用率及び濾過残渣の割合の算出方法は、上述の通りである。
【0049】
(実施例2)
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、水100部と水酸化ナトリウム60部を水100部に溶解したものとを加え、市販のリンターパルプを100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。得られたマーセル化セルロースを遠心脱水機により脱水し、50質量%のマーセル化セルロースを得た。全量採取し、ニーダー内に仕込んだ後、撹拌しつつイソプロパノール(IPA)750部と、モノクロロ酢酸70部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.80、1%粘度3100mPa・sのカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、66.7%であり、濾過残渣の割合は41%であった。なお、カルボキシメチル置換度及び1%粘度の測定方法、ならびにカルボキシメチル化剤の有効利用率及び濾過残渣の割合の算出方法は、上述の通りである。
【0050】
(比較例1)
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、IPA320部と、水酸化ナトリウム50部を水80部に溶解したものとを加え、市販の広葉樹パルプを100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつイソプロパノール(IPA)60部と水10部、モノクロロ酢酸53部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.60、1%粘度100mPa・sのカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、66.0%であり、濾過残渣の割合は64%であった。なお、カルボキシメチル置換度及び1%粘度の測定方法、ならびにカルボキシメチル化剤の有効利用率及び濾過残渣の割合の算出方法は、上述の通りである。
【0051】
(比較例2)
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、IPA640部と、水酸化ナトリウム60部を水105部に溶解したものとを加え、市販のリンターパルプを100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつイソプロパノール(IPA)80部と水10部、モノクロロ酢酸70部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.81、1%粘度3300mPa・sのカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、67.5%であり、濾過残渣の割合は84%であった。なお、カルボキシメチル置換度及び1%粘度の測定方法、ならびにカルボキシメチル化剤の有効利用率及び濾過残渣の割合の算出方法は、上述の通りである。
【0052】
実施例1、2及び比較例1、2の結果を表1に示す。なお、表1中の未溶解ゲルの評価結果は、上述した未溶解ゲルの測定方法において、ガラス板上の未溶解ゲルが少なく、塗布面がきれいなものを○、未溶解ゲルが多いものを×とした。
【0053】
【表1】
【0054】
表1の結果より、マーセル化を水を主とする溶媒下で行い、カルボキシメチル化を水と有機溶媒との混合溶媒下で行った実施例1及び2では、従来法である、マーセル化とカルボキシメチル化の両方を有機溶媒を主とする溶媒下で行った比較例1及び2(溶媒法)に比べて、濾過残渣の割合が有意に少ない(すなわち、水に分散した際にダマになりにくく、未溶解物が少ない)ことがわかる。