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特許7130458スライドファスナー用の下止、及び、スライドファスナー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】スライドファスナー用の下止、及び、スライドファスナー
(51)【国際特許分類】
   A44B 19/36 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
A44B19/36
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018117100
(22)【出願日】2018-06-20
(65)【公開番号】P2019217040
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119220
【氏名又は名称】片寄 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100088041
【氏名又は名称】阿部 龍吉
(72)【発明者】
【氏名】小島 昌芳
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 孝幸
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/104008(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3213897(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B19/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のファスナーテープ(2L、2R)が対向する側の縁部(20L、20R)にそれぞれ設けられた一対のファスナーエレメント列(3L、3R)に沿って、スライダー(4)が、前記スライダー(4)に設けられた引手(42)に対する操作に応じて前方向又は後方向に移動することにより、前記一対のファスナーエレメント列(3L、3R)を噛合又は分離させるスライドファスナー(1)用の下止(6)であって、
前記一対のファスナーエレメント列(3L、3R)の後端(32L、32R)側で前記一対のファスナーテープ(2L、2R)の前記縁部(20L、20R)を挟持する基部(60)を備え、
前記引手(42)が設けられた側のファスナーテープ(2L、2R)の面を上面(22U)とし、前記引手(42)が設けられていない側の前記ファスナーテープ(2L、2R)の面を下面(22D)としたとき、前記一対のファスナーテープ(2L、2R)の下面(22D)側に配置された前記基部(60)の上下方向の厚み(T2)は、前記一対のファスナーテープ(2L、2R)の上面(22U)側に配置された前記基部(60)の上下方向の厚み(T1)よりも厚いものであり
前記基部(60)の下側のうち前記スライダー(4)に対向する側の下側基部対向面(608)は、前記基部(60)の上側のうち前記スライダー(4)に対向する側の上側基部対向面(607)よりも前記前方向に配置されている、
ことを特徴とするスライドファスナー(1)用の下止(6)。
【請求項2】
前記スライダー(4)が、前記後方向に移動し、前記基部(60)に当接するとき、
前記基部(60)の上側が前記スライダー(4)に当接するよりも先に前記基部(60)の下側が前記スライダー(4)に当接する、
ことを特徴とする請求項1に記載のスライドファスナー(1)用の下止(6)。
【請求項3】
前記下側基部対向面(608)は、前記スライダー(4)が有する下翼板対向面(406)に対向し、前記下翼板対向面(406)に当接する、
前記上側基部対向面(607)は、前記スライダー(4)が有する上翼板対向面(405)に対向し、前記上翼板対向面(405)に当接する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスライドファスナー(1)用の下止(6)。
【請求項4】
記上側基部対向面(607)と、前記下側基部対向面(608)との間に配置され、前記一対のファスナーテープ(2L、2R)のいずれか一方のファスナーテープ(2L、2R)の前記縁部(20L、20R)を挟持した状態で、前記一方のファスナーテープ(2L、2R)の前記縁部(20L、20R)に設けられた一方のファスナーエレメント列(3L、3R)の前記後端(32L、32R)側に向けて突出する突出部(61)と、
前記突出部(61)が前記一方のファスナーテープ(2L、2R)の前記縁部(20L、20R)を挟持する部分から、前記基部(60)が他方のファスナーテープ(2L、2R)の前記縁部(20L、20R)を挟持する部分に向けて傾斜する傾斜部(62)とを備える、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のスライドファスナー(1)用の下止(6)。
【請求項5】
一対のファスナーテープ(2L、2R)と、
前記一対のファスナーテープ(2L、2R)が対向する側の縁部(20L、20R)にそれぞれ設けられた一対のファスナーエレメント列(3L、3R)と、
引手(42)が設けられ、前記一対のファスナーエレメント列(3L、3R)に沿って、前記引手(42)に対する操作に応じて前方向又は後方向に移動することにより、前記一対のファスナーエレメント列(3L、3R)を噛合又は分離させるスライダー(4)と、
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のスライドファスナー(1)用の下止(6)とを備える、
ことを特徴とするスライドファスナー(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドファスナー用の下止、及び、スライドファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スライドファスナー用の下止として、エレメント幅と同程度の幅を有し、下止全体がスライダーの内部に挿入されることなく、スライダーに対向する制止面でスライダーの移動を制止する下止が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、下止の上面と下面に、制止面に向かって下止の厚みが増加するように隆起した上部隆起部及び下部隆起部を備える下止が開示されている。特許文献1に開示された下止は、上部隆起部及び下部隆起部を備えることにより、上部の厚みと下部の厚みを同じような肉厚にすることで、スライダーの移動を制止する制止力を確保しつつ、下止全体の厚みを抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/104008号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スライドファスナーの強度を示す特性の1つとして、スライダーを下止まで移動させた状態で、左右のファスナーテープが左右方向に引っ張られることにより下止が左右方向に引き裂かれるような破損に対する強度を示す下止部引裂強度が知られている。この下止部引裂強度を向上させる手法の1つとして、下止の厚みを増加させることが考えられる。
【0006】
しかし、特許文献1に開示された下止では、上部の厚みと下部の厚みを同じような肉厚にしていることから、下止の厚みを増加させるためには、上部の厚みと下部の厚みを同じように厚くすることになるが、上部の厚みを厚くすると、ファスナーテープの上面に対して上部隆起部が高く隆起することになるので、上部隆起部に、指、生地、ミシン等が引っ掛かりやすくなり、スライドファスナーの使い勝手や縫製の作業効率が悪化してしまう。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、スライドファスナーの使い勝手や縫製の作業効率を悪化させることなく、下止部引裂強度を向上させることができるスライドファスナー用の下止、及び、スライドファスナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係るスライドファスナー(1)用の下止(6)は、
一対のファスナーテープ(2L、2R)が対向する側の縁部(20L、20R)にそれぞれ設けられた一対のファスナーエレメント列(3L、3R)に沿って、スライダー(4)が、前記スライダー(4)に設けられた引手(42)に対する操作に応じて前方向又は後方向に移動することにより、前記一対のファスナーエレメント列(3L、3R)を噛合又は分離させるスライドファスナー(1)用の下止(6)であって、
前記一対のファスナーエレメント列(3L、3R)の後端(32L、32R)側で前記一対のファスナーテープ(2L、2R)の前記縁部(20L、20R)を挟持する基部(60)を備え、
前記引手(42)が設けられた側のファスナーテープ(2L、2R)の面を上面(22U)とし、前記引手(42)が設けられていない側の前記ファスナーテープ(2L、2R)の面を下面(22D)としたとき、前記一対のファスナーテープ(2L、2R)の下面(22D)側に配置された前記基部(60)の上下方向の厚み(T2)は、前記一対のファスナーテープ(2L、2R)の上面(22U)側に配置された前記基部(60)の上下方向の厚み(T1)よりも厚い、
ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一実施形態に係るスライドファスナー(1)用の下止(6)は、
前記スライダー(4)が、前記後方向に移動し、前記基部(60)に当接するとき、
前記基部(60)の上側が前記スライダー(4)に当接するよりも先に前記基部(60)の下側が前記スライダー(4)に当接する、
ことを特徴とする請求項1に記載のスライドファスナー(1)用の下止(6)。
【0010】
また、本発明の一実施形態に係るスライドファスナー(1)用の下止(6)は、
前記基部(60)の下側のうち前記スライダー(4)に対向する側の下側基部対向面(608)は、前記基部(60)の上側のうち前記スライダー(4)に対向する側の上側基部対向面(607)よりも前記前方向に配置されている、
ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一実施形態に係るスライドファスナー(1)用の下止(6)は、
前記基部(60)の上側のうち前記スライダー(4)に対向する側の上側基部対向面(607)と、前記基部(60)の下側のうち前記スライダー(4)に対向する側の下側基部対向面(608)との間に配置され、前記一対のファスナーテープ(2L、2R)のいずれか一方のファスナーテープ(2L、2R)の前記縁部(20L、20R)を挟持した状態で、前記一方のファスナーテープ(2L、2R)の前記縁部(20L、20R)に設けられた一方のファスナーエレメント列(3L、3R)の前記後端(32L、32R)側に向けて突出する突出部(61)と、
前記突出部(61)が前記一方のファスナーテープ(2L、2R)の前記縁部(20L、20R)を挟持する部分から、前記基部(60)が他方のファスナーテープ(2L、2R)の前記縁部(20L、20R)を挟持する部分に向けて傾斜する傾斜部(62)とを備える、
ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一実施形態に係るスライドファスナー(1)は、
一対のファスナーテープ(2L、2R)と、
前記一対のファスナーテープ(2L、2R)が対向する側の縁部(20L、20R)にそれぞれ設けられた一対のファスナーエレメント列(3L、3R)と、
引手(42)が設けられ、前記一対のファスナーエレメント列(3L、3R)に沿って、前記引手(42)に対する操作に応じて前方向又は後方向に移動することにより、前記一対のファスナーエレメント列(3L、3R)を噛合又は分離させるスライダー(4)と、
前記スライドファスナー(1)用の下止(6)とを備える、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態に係るスライドファスナー(1)用の下止(6)、及び、スライドファスナー(1)によれば、ファスナーテープ(2L、2R)の下面(22D)側に配置された基部(60)の上下方向の厚み(T2)は、ファスナーテープ(2L、2R)の上面(22U)側に配置された基部(60)の上下方向の厚み(T1)よりも厚いため、ファスナーテープ(2L、2R)の上面に対して基部(60)の上側を高く隆起させることなく、基部(60)全体の厚みを増加させることができるので、スライドファスナー(1)の使い勝手や縫製の作業効率を悪化させることなく、下止部引裂強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るスライドファスナー1を示す概略正面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るスライドファスナー1を示し、(a)はスライダー4が下止6に当接する直前の状態を示す概略正面図、(b)はスライダー4が下止6に当接した状態を示す概略正面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るスライドファスナー1において、スライダー4が下止6に当接した状態を示すA-A線断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るスライドファスナー1において、スライダー4が下止6に当接した状態を示す右側面図である。
図5】本発明の一実施形態に係る下止6を示し、(a)は、ファスナーテープ2L、2Rを挟持した状態の下止6を示す斜視図、(b)は、単体での下止6を示す斜視図である。
図6】本発明の一実施形態に係る下止6を示し、(a)は正面図、(b)は左側面図、(c)は右側面、(d)は上面図、(e)は底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るスライドファスナー1について、添付図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係るスライドファスナー1を示す概略正面図である。図2は、本発明の一実施形態に係るスライドファスナー1を示し、(a)はスライダー4が下止6に当接する直前の状態を示す概略正面図、(b)はスライダー4が下止6に当接した状態を示す概略正面図である。
【0017】
スライドファスナー1は、図1に示すように、左右一対のファスナーテープ2L、2Rと、左右一対のファスナーテープ2L、2Rが対向する側の縁部20L、20Rにそれぞれ設けられた左右一対のファスナーエレメント列3L、3Rと、引手42に対する操作に応じて、左右一対のファスナーエレメント列3L、3Rに沿って前方向又は後方向に移動することにより、左右一対のファスナーエレメント列3L、3Rを噛合又は分離させるスライダー4と、左右一対のファスナーエレメント列3L、3Rの前端31L、31R側にそれぞれ設けられた左右一対の上止5L、5Rと、左右一対のファスナーエレメント列3L、3Rの後端32L、32R側に設けられた下止6とを備える。
【0018】
なお、本発明の一実施形態に係るスライドファスナー1において、スライダー4が移動する方向(図1の紙面における上下方向)を「前後方向」(F-B方向)とし、矢印F、Bで示す。特に、スライダー4がファスナーエレメント列3L、3Rの前端31L、31R側に向かって移動する方向(図1の紙面における上方向)を「前方向」とし、その反対方向として、スライダー4がファスナーエレメント列3L、3Rの後端32L、32R側に向かって移動する方向(図1の紙面における下方向)を「後方向」とする。
【0019】
また、ファスナーテープ2L、2Rの面に水平な方向であって、前後方向(F-B方向)に直交する方向(図1の紙面における左右方向)を「左右方向」(L-R方向)とし、矢印L、Rで示す。さらに、ファスナーテープ2L、2Rの表裏方向(図1の紙面における表裏方向)を「上下方向」(U-D方向)とし、矢印U、Dで示す。特に、引手42が設けられた側のファスナーテープ2L、2Rの面(図1の紙面における表面)を「上面22U」とし、その反対側として、引手42が設けられていない側のファスナーテープ2L、2Rの面(図1の紙面における裏側を「下面22D」とする。
【0020】
左右一対のファスナーテープ2L、2Rの各々は、可撓性を有する帯状物であり、帯状物の長手方向が前後方向に延びるように配置されており、左右一対のファスナーテープ2L、2Rが左右方向に対向する側に、前後方向に延びる縁部20L、20Rを有する。縁部20L、20Rには、上下方向に膨らんだ状態の芯紐21L、21Rが、縁部20L、20Rの延長方向に沿って形成されている。ファスナーテープ2L、2Rは、例えば、繊維糸で織製または編製されており、スライドファスナー1を取り付ける生地に対して縫い付けられる。
【0021】
左右一対のファスナーエレメント列3L、3Rの各々は、縁部20L、20Rに形成された芯紐21L、21Rに沿って、所定のピッチで配置された複数のエレメント30L、30Rを有する。エレメント30L、30Rは、合成樹脂材料を射出成型することにより、芯紐21L、21Rを上下方向から挟み込むようにして芯紐21L、21Rに固着されている。図1において、スライダー4よりも後方向に配置されたファスナーエレメント列3L、3Rは、噛合状態となっており、スライダー4よりも前方向に配置されたファスナーエレメント列3L、3Rは、分離状態となっている。なお、エレメント30L、30Rは、合成樹脂材料の他に、例えば、金属材料等で形成してもよい。
【0022】
図3は、本発明の一実施形態に係るスライドファスナー1において、スライダー4が下止6に当接した状態を示すA-A線断面図である。図4は、本発明の一実施形態に係るスライドファスナー1において、スライダー4が下止6に当接した状態を示す右側面図である。
【0023】
スライダー4は、図1図3及び図4に示すように、左右一対のファスナーエレメント列3L、3Rを内部に挿通する胴体40と、胴体40の上面に設けられた引手取付部41と、引手取付部41に対して揺動可能に取り付けられた引手42(図2(a)、(b)、図3及び図4では不図示)とを備える。スライダー4は、例えば、合成樹脂材料や金属材料等で形成されている。
【0024】
胴体40は、図3及び図4に示すように、上翼板400と、上翼板400と上下方向に対向して配置された下翼板401と、上翼板400と下翼板401とを連結する連結柱402と、上翼板400の左右周縁部から下方向に立設した上フランジ部403と、下翼板401の左右周縁部から上方向に立設した下フランジ部404とを備える。
【0025】
胴体40は、上翼板400の後端側の側面であって、下止6に対向する上翼板対向面405と、下翼板401の後端側の側面であって、下止6に対向する下翼板対向面406と、上翼板400の下面である上翼板下面407と、下翼板401の上面である下翼板上面408とを備える。上翼板対向面405と下翼板対向面406との間の前後方向の配置関係として、下翼板対向面406は、上翼板対向面405と前後方向において同程度の位置に配置されている。
【0026】
また、スライダー4は、上翼板400と下翼板401との間の空間に、連結柱402、上フランジ部403及び下フランジ部404により規定されるY字状のエレメント通路43を備える。すなわち、スライダー4の前端側には、上フランジ部403と下フランジ部404との間を連結柱402により左右に区切られることで左右一対の前側開口部44L、44Rが形成され、スライダー4の後端側には、上フランジ部403と下フランジ部404との間に後側開口部45が形成されることで、左右一対の前側開口部44L、44Rと後側開口部45との間を連通する空間として、Y字状のエレメント通路43が規定される。
【0027】
スライダー4は、左右一対のファスナーエレメント列3L、3Rに沿って前方向に移動することで、分離状態のファスナーエレメント列3L、3Rを左右一対の前側開口部44L、44Rからエレメント通路43に進入させ、分離状態のファスナーエレメント列3L、3Rを噛合させる。
【0028】
一方、スライダー4は、左右一対のファスナーエレメント列3L、3Rに沿って後方向に移動することで、噛合状態のファスナーエレメント列3L、3Rを後側開口部45から進入させ、噛合状態のファスナーエレメント列3L、3Rを分離させる。そして、スライダー4が、図2(a)に示すように、下止6に当接する直前の状態から後方向にさらに移動することで、図2(b)、図3及び図4に示すように、下止6に当接した状態となる。
【0029】
このように、スライダー4が、左右一対のファスナーエレメント列3L、3Rに沿って前後方向に移動することで、左右一対のファスナーテープ2L、2Rが開閉される。
【0030】
左右一対の上止5L、5Rの各々は、図1に示すように、左右一対のファスナーエレメント列3L、3Rの前端31L、31R側に位置する芯紐21L、21Rをそれぞれ挟持した状態で、ファスナーテープ2L、2Rの縁部20L、20Rにそれぞれ固着されている。上止5L、5Rは、例えば、合成樹脂材料で形成されている。
【0031】
上止5L、5Rは、スライダー4が前方向に移動し、ファスナーエレメント列3L、3Rの前端31L、31R側まで到達したときに、スライダー4の胴体40に当接することにより、スライダー4がファスナーエレメント列3L、3Rから抜脱することを防止するものである。
【0032】
図5は、本発明の一実施形態に係る下止6を示し、(a)は、ファスナーテープ2L、2Rを挟持した状態の下止6を示す斜視図、(b)は、単体での下止6を示す斜視図である。図6は、本発明の一実施形態に係る下止6を示し、(a)は正面図、(b)は左側面図、(c)は右側面、(d)は上面図、(e)は底面図である。
【0033】
下止6は、図5(a)に示すように、ファスナーエレメント列3L、3Rの後端32L、32R側に位置する芯紐21L、21Rを挟持するとともに、ファスナーテープ2L、2Rに跨った状態でファスナーテープ2L、2Rの縁部20L、20Rに固着されていることで、左右一対のファスナーエレメント列3L、3Rを連結している。下止6は、例えば、合成樹脂材料で形成されており、左右方向の全幅は、左右のエレメント幅と同等、すなわち、左側のエレメント30Lの左側端部と、右側のエレメント30Rの右側端部との間の間隔と同等となっている。
【0034】
下止6は、図5及び図6に示すように、左右一対のファスナーエレメント列3L、3Rの後端32L、32R側で、左右一対のファスナーテープ2L、2Rの縁部20L、20Rに形成された芯紐21L、21Rを挟持する基部60と、基部60の前側に配置された突出部61と、突出部61が配置されていない部分の基部60の前側と突出部61との間に配置された傾斜部62とを備える。
【0035】
下止6は、図2(b)、図3及び図4に示すように、スライダー4が後方向に移動し、ファスナーエレメント列3L、3Rの後端32L、32R側まで到達したときに、基部60が、スライダー4の胴体40に当接することにより、スライダー4がファスナーエレメント列3L、3Rから抜脱することを防止するものである。このとき、突出部61及び傾斜部62は、スライダー4の胴体40に当接することなく、上下方向に配置された上翼板400及び下翼板401と、左右方向に配置された上フランジ部403及び下フランジ部404とにより囲まれた空間である後側開口部45に収容される。
【0036】
基部60は、基部60の上側を構成する上側基部600と、基部60の下側を構成する下側基部601と、上側基部600と下側基部601との間を連結する連結部602とを備える。
【0037】
ファスナーテープ2L、2Rの上面22Uと下面22Dとの間の中心線L1に対して、ファスナーテープ2L、2Rの下面22D側に配置された下側基部601の上下方向の厚みT2は、ファスナーテープ2L、2Rの上面22U側に配置された上側基部600の上下方向の厚みT1よりも厚くなっている。基部60の上下方向の寸法を厚みT0としたとき、基部60の厚みT0に対する下側基部601の厚みT2の比率(=(T2/T0)×100)は、例えば、51%~75%となるように、基部60の厚みT0に対する上側基部600の厚みT1の比率(=(T1/T0)×100)は、例えば、25%~49%となるように、上側基部600の厚みT1及び下側基部601の厚みT2(T2>T1)が決められている。
【0038】
基部60は、上側基部600の下面に、左右方向に対称的な位置に形成された半円形状の2つの上側芯紐挟持面603と、2つの上側芯紐挟持面603の左右方向外側にそれぞれ形成された2つの上側ファスナーテープ挟持面604とを備える。また、基部60は、下側基部601の上面に、左右方向に対称的な位置に形成された半円形状の2つの下側芯紐挟持面605と、2つの下側芯紐挟持面605の左右方向外側にそれぞれ形成された2つの下側ファスナーテープ挟持面606とを備える。
【0039】
上側基部600の下面と、下側基部601の上面とが、連結部602を介して対向する位置に配置されることで、基部60は、2つの上側芯紐挟持面603と2つの下側芯紐挟持面605との間に芯紐21L、21Rを挟持し、2つの上側ファスナーテープ挟持面604と2つの下側ファスナーテープ挟持面606との間にファスナーテープ2L、2Rを挟持する。
【0040】
基部60は、上側基部600の前面に、スライダー4の上翼板対向面405に対向する側の上側基部対向面607を備える。また、基部60は、下側基部601の前面に、スライダー4の下翼板対向面406に対向する側の下側基部対向面608を備える。
【0041】
上側基部対向面607と下側基部対向面608との間の前後方向の配置関係として、下側基部対向面608は、上側基部対向面607よりも前方向に配置されている。下止6の前後方向の寸法を長さD2とし、上側基部対向面607と下側基部対向面608との間の前後方向の間隔を距離D3としたとき、長さD2に対する距離D3の比率(=(D3/D2)×100)が、例えば、1%~20%となるように、より好ましくは、1.7~8.7%となるように、下側基部対向面608は、上側基部対向面607よりも前方向に配置されている。
【0042】
突出部61は、上側基部対向面607と下側基部対向面608との間に配置されており、突出部61の上側を構成する上側突出部610と、突出部61の下側を構成する下側突出部611とを備える。
【0043】
突出部61は、上側突出部610及び下側突出部611の前面に、左右一対のいずれか一方のファスナーテープとして、左側のファスナーテープ2Lの縁部20Lに形成された芯紐21Lを挟持した状態で、左側のファスナーテープ2Lの縁部20Lに設けられた左側のファスナーエレメント列3Lの後端32L側に向けて突出する上側突出面612及び下側突出面613を備える。また、突出部61は、上側突出部610の上面である突出部上面614と、下側突出部611の下面である突出部下面615とを備える。
【0044】
スライダー4の後側開口部45の上下方向の寸法を長さD1としたとき、長さD1に対する突出部61の上下方向の厚みT3の比率(=(T3/D1)×100)は、例えば、60%~99%となるように、突出部61の厚みT3が決められている。長さD1に対する突出部61の厚みT3の比率(=(T3/D1)×100)が大きいほど、突出部61が後側開口部45に収容されたときの隙間が小さくなる、すなわち、突出部上面614と上翼板下面407との間の間隔、及び、突出部下面615と下翼板上面408との間の間隔が狭くなるため、スライダー4が下止6に当接したときのがたつきを低減することができる。
【0045】
傾斜部62は、上側基部対向面607と下側基部対向面608との間に配置されており、傾斜部62の上側を構成する上側傾斜部620と、傾斜部62の下側を構成する下側傾斜部621とを備える。
【0046】
傾斜部62は、上側傾斜部620及び下側傾斜部621の前面に、上側突出部610及び下側突出部611が左側のファスナーテープ2Lの縁部20Lに形成された芯紐21Lを挟持する部分から、上側基部600及び下側基部601が右側のファスナーテープ2Rの縁部20Rに形成された芯紐21Rを挟持する部分に向けて傾斜する上部傾斜面622及び下部傾斜面623を備える。
【0047】
本発明の一実施形態に係る下止6を備えるスライドファスナー1によれば、左右一対のファスナーテープ2L、2Rの下面22D側に配置された下側基部601の上下方向の厚みT2を、左右一対のファスナーテープ2L、2Rの上面22U側に配置された上側基部600の上下方向の厚みT1よりも厚くしているため、ファスナーテープ2L、2Rの上面22Uに対して上側基部600を高く隆起させることなく、基部60全体の厚みを増加させることができるので、スライドファスナー1の使い勝手や縫製の作業効率を悪化させることなく、下止部引裂強度を向上させることができる。
【0048】
また、本発明の一実施形態に係る下止6を備えるスライドファスナー1によれば、下側基部601のうちスライダー4に対向する側の下側基部対向面608を、上側基部600のうちスライダー4に対向する側の上側基部対向面607よりも前方向に配置しているため、引手42を後方向に操作するような後方向の操作力が引手42に加えられたことに応じて、スライダー4が後方向に移動し、基部60に当接するとき、上側基部対向面607が上翼板対向面405に当接するよりも先に下側基部対向面608が下翼板対向面406に当接する。さらに、大きな後方向の操作力が引手42に加えられると、スライダー4が、下翼板対向面406と下側基部対向面608とが当接した部分を回転軸にして、上翼板400が上側基部対向面607に近づく方向に回転移動することにより、上側基部対向面607が上翼板対向面405に当接する。このとき、突出部上面614と上翼板下面407との間の間隔が狭い場合には、突出部上面614が、上翼板下面407に当接することもあり得る。
【0049】
このようにスライダー4が基部60に当接した状態で、引手42に加えられた後方向の操作力が、スライダー4を介して下止6に作用することにより、引手42に加えられた後方向の操作力は、芯紐21L、21Rの延長方向(図3に示す力F1の方向)に沿って作用するのではなく、芯紐21L、21Rの延長方向に対して下側基部601側に傾いた方向(図3に示す力F2の方向)に沿って作用するため、芯紐21L、21Rの延長方向に沿って作用する力を低減することができ、下止6が芯紐21L、21Rを挟持した部分が下方向にずれることを抑制することができる。そして、引手42に加えられた後方向の操作力がスライダー4を介して下止6に作用するときの力は、図3に示す力F2のように、上下方向の厚みが上側基部660よりも厚い下側基部601側に作用するため、後方向の操作力により下止6が左右方向に引き裂かれるような破損に対する強度を向上させることができる。
【0050】
また、本発明の一実施形態に係る下止6を備えるスライドファスナー1によれば、突出部61が、左側のファスナーテープ2Lの縁部20Lに形成された芯紐21Lを挟持した状態で、左側のファスナーテープ2Lの縁部20Lに設けられた左側のファスナーエレメント列3Lの後端32L側に向けて突出しているため、下止6が芯紐21Lを挟持する部分の面積が、突出部61が左側のファスナーエレメント列3Lの後端32L側に向けて突出している分だけ増加するので、下止6がファスナーテープ2Lの芯紐21Lを挟持する際の強度を向上させることができる。
【0051】
また、本発明の一実施形態に係る下止6を備えるスライドファスナー1によれば、傾斜部62が、突出部61が左側のファスナーテープ2Lの縁部20Lに形成された芯紐21Lを挟持する部分から、基部60が右側のファスナーテープ2Rの縁部20Rに形成された芯紐21Rを挟持する部分に向けて傾斜しているため、傾斜部62が、基部60と、突出部61と、右側のファスナーエレメント列3Rの後端32Rとにより囲まれた部分に配置されているので、傾斜部62と、右側のファスナーエレメント列3Rの後端32Rとの間に生じる隙間(図2(a)に示す空間S)を小さくすることができる。さらに、傾斜部62が、ファスナーテープ2L、2Rが左右方向に引っ張られた際に下止6が左右方向に引き裂かれるような力が掛かる部分に配置されているので、下止部引裂強度を向上させることができる。
【0052】
(他の実施形態)
上記実施形態では、図6に示すように、下側基部601の上下方向の厚みT2は、前後方向にわたって、上側基部600の上下方向の厚みT1よりも一様に厚くなっているが、下側基部601の上下方向の厚みを前後方向において変化させてもよいし、上側基部600の上下方向の厚みを前後方向において変化させてもよい。その際、左右のファスナーテープ2L、2Rが左右方向に引っ張られた際に下止6が左右方向に引き裂かれるような力が掛かる部分の下側基部601の上下方向の厚みを他の部分に比べて厚くするようにしてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、図3に示すように、下止6における上側基部対向面607と下側基部対向面608との間の前後方向の配置関係として、下側基部対向面608が、上側基部対向面607よりも前方向に配置されており、スライダー4における上翼板対向面405と下翼板対向面406との間の前後方向の配置関係として、下翼板対向面406が、上翼板対向面405と前後方向において同程度の位置に配置されているが、スライダー4が後方向に移動し、基部60に当接するとき、上側基部対向面607が上翼板対向面405に当接するよりも先に下側基部対向面608が下翼板対向面406に当接するものであれば、上記の配置関係に限定されるものでない。例えば、下翼板対向面406が、上翼板対向面405よりも前方向に配置されている場合には、下側基部対向面608は、上側基部対向面607と前後方向において同程度の位置に配置されていてもよい。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0055】
1・・・スライドファスナー
2L、2R・・・ファスナーテープ
3L、3R・・・ファスナーエレメント列
4・・・スライダー
5L、5R・・・上止
6・・・下止
20L、20R・・・縁部、21L、21R・・・芯紐、22U・・・上面、22D・・・下面
30L、30R・・・エレメント、31L、31R・・・前端、32L、32R・・・後端
40・・・胴体、41・・・引手取付部、42・・・引手
43・・・エレメント通路、44L、44R・・・前側開口部、45・・・後側開口部
60・・・基部、61・・・突出部、62・・・傾斜部
400・・・上翼板、401・・・下翼板、402・・・連結柱
403・・・上フランジ部、404・・・下フランジ部
405・・・上翼板対向面、406・・・下翼板対向面
407・・・上翼板下面、408・・・下翼板上面
600・・・上側基部、601・・・下側基部、602・・・連結部
603・・・上側芯紐挟持面、604・・・上側ファスナーテープ挟持面
605・・・下側芯紐挟持面、606・・・下側ファスナーテープ挟持面
607・・・上側基部対向面、608・・・下側基部対向面
610・・・上側突出部、611・・・下側突出部
612・・・上側突出面、613・・・下側突出面
614・・・突出部上面、615・・・突出部下面
620・・・上側傾斜部、621・・・下側傾斜部
622・・・上部傾斜面、623・・・下部傾斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6