(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】分割補助デバイスおよびこれを用いた組織切片の作製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/06 20060101AFI20220829BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
G01N1/06 H
G01N1/28 G
G01N1/28 J
(21)【出願番号】P 2018117228
(22)【出願日】2018-06-20
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2017121315
(32)【優先日】2017-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135162
【氏名又は名称】株式会社ニッポンジーン
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】大上 光明
(72)【発明者】
【氏名】安ヵ川 英吏子
(72)【発明者】
【氏名】山守 漠
(72)【発明者】
【氏名】永安 武
(72)【発明者】
【氏名】大坪 竜太
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/088668(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/053916(WO,A1)
【文献】米国特許第05568534(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0076473(US,A1)
【文献】特開2015-072147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/06
G01N 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織塊を病理学用ナイフによって薄く切断して、所望の厚さを有する組織切片に分割するための分割補助デバイスであって、
組織塊を載置する載置台と、この載置台の上部に着脱自在に取り付けられる蓋体とを備え、
前記載置台は、
上面部と下面部と側面部とを備えた本体部と、
前記本体部の前記上面部から下方に向かって凹む組織塊保持部と、
前記組織塊保持部の水平方向の端部から前記本体部の前記上面部側に向かって立ち上がる起立部と、
前記本体部の上面部側から縦方向に溝状に切り込まれており、かつ、水平方向に向かって直線状に延びる複数の第1スリットと、
を備え、
前記組織塊保持部は、前記起立部側に向かって斜め下方に傾斜して凹んでおり、
前記第1スリットは、少なくとも前記組織塊保持部と前記起立部とに亘って形成されているとともに、隣接する前記第1スリット同士は、互いに等間隔かつ平行であり、
前記蓋体は、
前記載置台の前記本体部の上面部側に嵌合可能な外形を有する外装部と、
前記外装部を貫通し、かつ、前記第1スリットと等しい幅で水平方向に向かって直線状に延びる複数の第2スリットと、
を備え、隣接する前記第2スリット同士は、互いに、隣接する前記第1スリット同士の間隔と等しい間隔であり、かつ平行に形成されており、
前記載置台の前記本体部の上面部側に前記蓋体の前記外装部を嵌合させると、前記第1スリットと前記第2スリットの位置が垂直方向に一致し、前記第2スリットおよび前記第1スリットを通じて前記病理学用ナイフを挿入可能であることを特徴とする分割補助デバイス。
【請求項2】
組織塊を病理学用ナイフによって薄く切断して、所望の厚さを有する組織切片に分割するための分割補助デバイスであって、
組織塊を載置する載置台と、この載置台の上部に着脱自在に取り付けられる蓋体とを備え、
前記載置台は、
上面部と下面部と側面部とを備えた本体部と、
前記本体部の前記上面部から下方に向かって凹む組織塊保持部と、
前記組織塊保持部の水平方向の端部から前記本体部の前記上面部側に向かって立ち上がる起立部と、
前記本体部の上面部側から縦方向に溝状に切り込まれており、かつ、水平方向に向かって直線状に延びる複数の第1スリットと、
を備え、
前記組織塊保持部は、前記起立部から離れる方向に向かって幅が小さくなっており、
前記第1スリットは、少なくとも前記組織塊保持部と前記起立部とに亘って形成されているとともに、隣接する前記第1スリット同士は、互いに等間隔かつ平行であり、
前記蓋体は、
前記載置台の前記本体部の上面部側に嵌合可能な外形を有する外装部と、
前記外装部を貫通し、かつ、前記第1スリットと等しい幅で水平方向に向かって直線状に延びる複数の第2スリットと、
を備え、隣接する前記第2スリット同士は、互いに、隣接する前記第1スリット同士の間隔と等しい間隔であり、かつ平行に形成されており、
前記載置台の前記本体部の上面部側に前記蓋体の前記外装部を嵌合させると、前記第1スリットと前記第2スリットの位置が垂直方向に一致し、前記第2スリットおよび前記第1スリットを通じて前記病理学用ナイフを挿入可能であることを特徴とする分割補助デバイス。
【請求項3】
組織塊を病理学用ナイフによって薄く切断して、所望の厚さを有する組織切片に分割するための分割補助デバイスであって、
組織塊を載置する載置台と、この載置台の上部に着脱自在に取り付けられる蓋体とを備え、
前記載置台は、
上面部と下面部と側面部とを備えた本体部と、
前記本体部の前記上面部から下方に向かって凹む組織塊保持部と、
前記組織塊保持部の水平方向の端部から前記本体部の前記上面部側に向かって立ち上がる起立部と、
前記本体部の上面部側から縦方向に溝状に切り込まれており、かつ、水平方向に向かって直線状に延びる複数の第1スリットと、
を備え、
前記組織塊保持部は、前記第1スリットの長さ方向に沿って連続する凹凸部が形成されている凹底部を備え、
前記第1スリットは、少なくとも前記組織塊保持部と前記起立部とに亘って形成されているとともに、隣接する前記第1スリット同士は、互いに等間隔かつ平行であり、
前記蓋体は、
前記載置台の前記本体部の上面部側に嵌合可能な外形を有する外装部と、
前記外装部を貫通し、かつ、前記第1スリットと等しい幅で水平方向に向かって直線状に延びる複数の第2スリットと、
を備え、隣接する前記第2スリット同士は、互いに、隣接する前記第1スリット同士の間隔と等しい間隔であり、かつ平行に形成されており、
前記載置台の前記本体部の上面部側に前記蓋体の前記外装部を嵌合させると、前記第1スリットと前記第2スリットの位置が垂直方向に一致し、前記第2スリットおよび前記第1スリットを通じて前記病理学用ナイフを挿入可能であることを特徴とする分割補助デバイス。
【請求項4】
組織塊を病理学用ナイフによって薄く切断して、所望の厚さを有する組織切片に分割するための分割補助デバイスであって、
組織塊を載置する載置台と、この載置台の上部に着脱自在に取り付けられる蓋体とを備え、
前記載置台は、
上面部と下面部と側面部とを備えた本体部と、
前記本体部の前記上面部から下方に向かって凹む組織塊保持部と、
前記組織塊保持部の水平方向の端部から前記本体部の前記上面部側に向かって立ち上がる起立部と、
前記本体部の上面部側から縦方向に溝状に切り込まれており、かつ、水平方向に向かって直線状に延びる複数の第1スリットと、
を備え、
前記組織塊保持部は、傾斜角度が互いに異なる第1組織塊保持部と第2組織塊保持部とを備え、前記第1組織塊保持部と前記第2組織塊保持部とは、前記起立部を介して水平方向に対向しており、
前記第1スリットは、少なくとも前記組織塊保持部と前記起立部とに亘って形成されているとともに、隣接する前記第1スリット同士は、互いに等間隔かつ平行であり、
前記蓋体は、
前記載置台の前記本体部の上面部側に嵌合可能な外形を有する外装部と、
前記外装部を貫通し、かつ、前記第1スリットと等しい幅で水平方向に向かって直線状に延びる複数の第2スリットと、
を備え、隣接する前記第2スリット同士は、互いに、隣接する前記第1スリット同士の間隔と等しい間隔であり、かつ平行に形成されており、
前記載置台の前記本体部の上面部側に前記蓋体の前記外装部を嵌合させると、前記第1スリットと前記第2スリットの位置が垂直方向に一致し、前記第2スリットおよび前記第1スリットを通じて前記病理学用ナイフを挿入可能であることを特徴とする分割補助デバイス。
【請求項5】
組織塊を病理学用ナイフによって薄く切断して、所望の厚さを有する組織切片に分割するための分割補助デバイスであって、
組織塊を載置する載置台と、この載置台の上部に着脱自在に取り付けられる蓋体とを備え、
前記載置台は、
上面部と下面部と側面部とを備えた本体部と、
前記本体部の前記上面部から下方に向かって凹む組織塊保持部と、
前記組織塊保持部の水平方向の端部から前記本体部の前記上面部側に向かって立ち上がる起立部と、
前記本体部の上面部側から縦方向に溝状に切り込まれており、かつ、水平方向に向かって直線状に延びる複数の第1スリットと、
を備え、
前記起立部の上端には平坦部が形成されており、
前記第1スリットは、少なくとも前記組織塊保持部と前記起立部とに亘って形成されているとともに、隣接する前記第1スリット同士は、互いに等間隔かつ平行であり、
前記蓋体は、
前記載置台の前記本体部の上面部側に嵌合可能な外形を有する外装部と、
前記外装部を貫通し、かつ、前記第1スリットと等しい幅で水平方向に向かって直線状に延びる複数の第2スリットと、
を備え、隣接する前記第2スリット同士は、互いに、隣接する前記第1スリット同士の間隔と等しい間隔であり、かつ平行に形成されており、
前記載置台の前記本体部の上面部側に前記蓋体の前記外装部を嵌合させると、
前記平坦部が、前記第2スリットが形成されている前記蓋体の裏面側と当接または近接し、前記第1スリットと前記第2スリットの位置が垂直方向に一致し、前記第2スリットおよび前記第1スリットを通じて前記病理学用ナイフを挿入可能であることを特徴とする分割補助デバイス。
【請求項6】
組織塊を病理学用ナイフによって薄く切断して、所望の厚さを有する組織切片に分割するための分割補助デバイスであって、
組織塊を載置する載置台と、この載置台の上部に着脱自在に取り付けられる蓋体とを備え、
前記載置台は、
上面部と下面部と側面部とを備えた本体部と、
前記本体部の前記上面部から下方に向かって凹む組織塊保持部と、
前記組織塊保持部の水平方向の端部から前記本体部の前記上面部側に向かって立ち上がる起立部と、
前記本体部の上面部側から縦方向に溝状に切り込まれており、かつ、水平方向に向かって直線状に延びる複数の第1スリットと、
を備え、
前記第1スリットは、少なくとも前記組織塊保持部と前記起立部とに亘って形成されているとともに、隣接する前記第1スリット同士は、互いに等間隔かつ平行であり、
前記蓋体は、
前記載置台の前記本体部の上面部側に嵌合可能な外形を有する外装部と、
前記外装部を貫通し、かつ、前記第1スリットと等しい幅で水平方向に向かって直線状に延びる複数の第2スリットと、
を備え、隣接する前記第2スリット同士は、互いに、隣接する前記第1スリット同士の間隔と等しい間隔であり、かつ平行に形成されており、
前記第2スリット同士の間に位置する前記外装部には前記第2スリットと等しい長さの格子部が複数形成されており、それぞれの前記格子部の裏面側には、長手方向に沿って延びるリブが形成されており、
前記載置台の前記本体部の上面部側に前記蓋体の前記外装部を嵌合させると、前記第1スリットと前記第2スリットの位置が垂直方向に一致し、前記第2スリットおよび前記第1スリットを通じて前記病理学用ナイフを挿入可能であることを特徴とする分割補助デバイス。
【請求項7】
前記起立部の平坦部には、前記第1スリットと直交する方向に延びる直線状の嵌合溝が形成されており、
前記外装部の裏面側には、前記第2スリットと直交する方向に延びる凸条部が設けられており、
前記載置台に前記蓋体が取り付けられた状態では、前記凸条部が前記嵌合溝に嵌合することを特徴とする請求項
5の分割補助デバイス。
【請求項8】
組織塊を病理学用ナイフによって薄く切断して、所望の厚さを有する組織切片に分割するための分割補助デバイスであって、
組織塊を載置する載置台と、この載置台の上部に着脱自在に取り付けられる蓋体とを備え、
前記載置台は、
上面部と下面部と側面部とを備えた本体部と、
前記本体部の前記上面部から下方に向かって凹む組織塊保持部と、
前記組織塊保持部の水平方向の端部から前記本体部の前記上面部側に向かって立ち上がる起立部と、
前記本体部の上面部側から縦方向に溝状に切り込まれており、かつ、水平方向に向かって直線状に延びる複数の第1スリットと、
を備え、
前記第1スリットは、少なくとも前記組織塊保持部と前記起立部とに亘って形成されているとともに、隣接する前記第1スリット同士は、互いに等間隔かつ平行であり、
前記本体部の前記上面部には、周囲よりも一段低く、かつ、前記蓋体が嵌め込まれる収納部が形成されているとともに、この収納部には、前記第1スリットと直交する方向の端部に、垂直方向に開口した溝状の差込部が複数形成されており、
前記蓋体は、
前記載置台の前記本体部の上面部側に嵌合可能な外形を有する外装部と、
前記外装部を貫通し、かつ、前記第1スリットと等しい幅で水平方向に向かって直線状に延びる複数の第2スリットと、
を備え、隣接する前記第2スリット同士は、互いに、隣接する前記第1スリット同士の間隔と等しい間隔であり、かつ平行に形成されており、
前記蓋体の外装部の裏面側の外縁には、下向きに突出する複数の爪部が形成されており、
前記載置台の前記本体部の上面部側に前記蓋体の前記外装部を嵌合させると、
前記収納部に前記蓋体が嵌め込まれることで前記載置台に前記蓋体が取り付けられるとともに、前記差込部に前記爪部が挿入され、前記第1スリットと前記第2スリットの位置が垂直方向に一致し、前記第2スリットおよび前記第1スリットを通じて前記病理学用ナイフを挿入可能であることを特徴とする分割補助デバイス。
【請求項9】
組織塊を病理学用ナイフによって薄く切断して、所望の厚さを有する組織切片に分割するための分割補助デバイスであって、
組織塊を載置する載置台と、この載置台の上部に着脱自在に取り付けられる蓋体とを備え、
前記載置台は、
上面部と下面部と側面部とを備えた本体部と、
前記本体部の前記上面部から下方に向かって凹む組織塊保持部と、
前記組織塊保持部の水平方向の端部から前記本体部の前記上面部側に向かって立ち上がる起立部と、
前記本体部の上面部側から縦方向に溝状に切り込まれており、かつ、水平方向に向かって直線状に延びる複数の第1スリットと、
を備え、
前記第1スリットは、少なくとも前記組織塊保持部と前記起立部とに亘って形成されているとともに、隣接する前記第1スリット同士は、互いに等間隔かつ平行であり、
前記本体部には、前記第1スリットの長さ方向の両端部に、対向する端部側に向かって内側に凹む凹部が形成されており、
前記蓋体は、
前記載置台の前記本体部の上面部側に嵌合可能な外形を有する外装部と、
前記外装部を貫通し、かつ、前記第1スリットと等しい幅で水平方向に向かって直線状に延びる複数の第2スリットと、
を備え、隣接する前記第2スリット同士は、互いに、隣接する前記第1スリット同士の間隔と等しい間隔であり、かつ平行に形成されており、
前記載置台の前記本体部の上面部側に前記蓋体の前記外装部を嵌合させると、
前記蓋体と前記載置台との間に前記凹部による隙間が形成され、前記第1スリットと前記第2スリットの位置が垂直方向に一致し、前記第2スリットおよび前記第1スリットを通じて前記病理学用ナイフを挿入可能であることを特徴とする分割補助デバイス。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれかの分割補助デバイスを用いた組織切片の作製方法であって、
前記載置台の前記組織塊保持部に組織塊を保持して、前記載置台に前記蓋体を嵌合させる工程、および、
病理学用ナイフの先端を前記蓋体の前記第2スリットから差し込んで、前記起立部に形成されている前記第1スリット内に垂直に挿入し、前記第1スリットおよび前記第2スリットの長さ方向に沿って前記起立部から離れる方向に病理学用ナイフをスライドさせることで組織塊を切断して、所望の厚さを有する組織切片に分割する工程、
を含むことを特徴とする組織切片の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織塊を薄く分割して組織切片を作製するための分割補助デバイスと、これを用いた組織切片の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、病理学検査では、被験者から採取した組織塊を薄く分割して組織切片を作製し、この組織切片を顕微鏡で観察等することで詳細な検査が行われている。
【0003】
そして、組織塊を薄く分割して組織切片を作製する場合、一般的には、メスなどの病理学用ナイフを用いて手作業で組織塊を1mm~5mm程度の範囲で均等な厚さに分割している。
【0004】
具体的には、例えば、乳癌の転移を診断するセンチネルリンパ節診断では、リンパ節に割を入れて作製した組織切片を顕微鏡にて観察し、乳癌由来と思われる上皮細胞を見つける方法が知られている。この場合、2mmより大きな癌の転移が存在する場合にリンパ節郭清を行うことが一般的であるため、組織塊を正確に2mmの厚さに分割することが求められている。
【0005】
また、組織塊を迅速かつ正確に分割することができれば、例えば、臨床医が手術中に採取した組織塊から組織切片を作製して、直ちに検査、診断を行うことも可能になると考えられる。
【0006】
しかしながら、組織塊は、一般に可塑性や弾性に富み、柔らかく、変形しやすい。このため、たとえ熟練した者であっても、病理学用ナイフを用いた手作業によって所定の厚さで均一に分割して、切断面が滑らかな組織切片を作製することは容易ではない。
【0007】
このような状況にあって、例えば、特許文献1、2には、所定の厚さの組織切片を作製するための装置が提案されている。
【0008】
具体的には、特許文献1の装置は、複数設けられた円盤状の刃物と、載置台と、載置台の上に配置された切り込み溝が設けられた上蓋と、載置台と上蓋との間に同様の切り込み溝を設けられた中子を備えている。この器具では、円盤状の刃物が上蓋と中子の切り込み溝に差し込まれることで、中子の試料支持板に保持された組織塊が分割される構造になっている。
【0009】
また、特許文献2の装置は、組織塊が載置される載置基台と、載置基台に載置された組織塊を上から押えることにより、組織塊が動くことを防止する切断ガイドカバーを有している。切断ガイドカバーの少なくとも組織塊を押える箇所には、組織塊の切断に使用する病理学用ナイフを差し入れることができる複数のスリットが形成してあり、スリットは所望する組織切片の厚みに合わせて間隔が設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】WO2002/088668号公報
【文献】WO2008/053916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の装置の場合、回転する円盤状の刃物が上蓋と中子の切り込み溝に差し込まれる構造であるため、装置が大がかりなものになることが避けられない。他検体の混入を防ぎ、正確な病理学検査を行うためには、組織切片を作製する装置はディスポーザブルであることが望ましいため、特許文献1のような大がかりな装置を使用することは実際的でないという問題がある。また、特許文献1の装置の場合、分割する組織塊の厚さを変更する場合、所望の間隔の切り込み溝を有する上蓋と中子に変更するとともに、円盤状の刃物も切り込み溝の間隔に対応したものに変更する必要がある。このため、特許文献1の装置の場合、分割する組織塊の厚さを変更する場合にも大がかりな装置の変更が必要になるという問題がある。
【0012】
一方、特許文献2の装置の場合、切断ガイドカバーに設けられたスリットから病理学用ナイフを差し入れると、下方(載置台側)に向かって挿入されるにしたがって病理学用ナイフが左右に傾いてしまう場合があり、組織塊を垂直に切断することが容易でないという問題がある。この場合、組織切片の切断面に凹凸が生じたり、所定の厚さに切断されないことが懸念される。また、特許文献2の装置では、包埋剤によって組織塊を包んだ上で組織塊を切断することが想定されており、装置自体によって切断時の組織塊の位置ずれを抑制することは難しい。包埋剤を使用せず、組織塊を安定に保持することができれば、組織切片を作製するための作業がより効率的になる。
【0013】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、大がかりな装置を必要とせず、病理学用ナイフを用いた手作業によって、組織塊を安定かつ迅速に所定の厚さで均一に分割することができる分割補助デバイスと、これを用いた組織切片の作製方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、組織塊を病理学用ナイフによって薄く切断して、所望の厚さを有する組織切片に分割するための分割補助デバイスであって、
組織塊を載置する載置台と、この載置台の上部に着脱自在に取り付けられる蓋体とを備え、
前記載置台は、
上面部と下面部と側面部とを備えた本体部と、
前記本体部の前記上面部から下方に向かって凹む組織塊保持部と、
前記組織塊保持部の水平方向の端部から前記本体部の前記上面部側に向かって立ち上がる起立部と、
前記本体部の上面部側から縦方向に溝状に切り込まれており、かつ、水平方向に向かって直線状に延びる複数の第1スリットと、
を備え、
前記第1スリットは、少なくとも前記組織塊保持部と前記起立部とに亘って形成されているとともに、隣接する前記第1スリット同士は、互いに等間隔かつ平行であり、
前記蓋体は、
前記載置台の前記本体部の上面部側に嵌合可能な外形を有する外装部と、
前記外装部を貫通し、かつ、前記第1スリットと等しい幅で水平方向に向かって直線状に延びる複数の第2スリットと、
を備え、隣接する前記第2スリット同士は、互いに、隣接する前記第1スリット同士の間隔と等しい間隔であり、かつ平行に形成されており、
前記載置台の前記本体部の上面部側に前記蓋体の前記外装部を嵌合させると、前記第1スリットと前記第2スリットの位置が垂直方向に一致し、前記第2スリットおよび前記第1スリットを通じて前記病理学用ナイフを挿入可能であることを特徴としている。
【0015】
この分割補助デバイスでは、前記組織塊保持部は、前記起立部側に向かって斜め下方に傾斜して凹んでいることが好ましい。
【0016】
この分割補助デバイスでは、前記組織塊保持部は、前記起立部から離れる方向に向かって幅が小さくなっていることが好ましい。
【0017】
この分割補助デバイスでは、前記組織塊保持部は、前記第1スリットの長さ方向に沿って連続する凹凸部が形成されている凹底部を備えることが好ましい。
【0018】
この分割補助デバイスでは、組織塊保持部は、傾斜角度が互いに異なる第1組織塊保持部と第2組織塊保持部とを備え、前記第1組織塊保持部と前記第2組織塊保持部とは、前記起立部を介して水平方向に対向していることが好ましい。
【0019】
この分割補助デバイスでは、前記起立部の上端には平坦部が形成されており、前記載置台に前記蓋体が取り付けられた状態では、前記平坦部が、前記第2スリットが形成されている前記蓋体の裏面側と当接または近接することが好ましい。
【0020】
この分割補助デバイスでは、前記第2スリット同士の間に位置する前記外装部には前記第2スリットと等しい長さの格子部が複数形成されており、それぞれの前記格子部の裏面側には、長手方向に沿って延びるリブが形成されていることが好ましい。
【0021】
この分割補助デバイスでは、前記起立部の平坦部には、前記第1スリットと直交する方向に延びる直線状の嵌合溝が形成されており、
前記外装部の裏面側には、前記第2スリットと直交する方向に延びる凸条部が設けられており、
前記載置台に前記蓋体が取り付けられた状態では、前記凸条部が前記嵌合溝に嵌合することが好ましい。
【0022】
この分割補助デバイスでは、前記本体部の前記上面部には、周囲よりも一段低く、かつ、前記蓋体が嵌め込まれる収納部が形成されているとともに、この収納部には、前記第1スリットと直交する方向の端部に、垂直方向に開口した溝状の差込部が複数形成されており、
前記蓋体の外装部の裏面側の外縁には、下向きに突出する複数の爪部が形成されており、
前記収納部に前記蓋体が嵌め込まれることで前記載置台に前記蓋体が取り付けられるとともに、前記差込部に前記爪部が挿入されることが好ましい。
【0023】
この分割補助デバイスでは、前記本体部には、前記第1スリットの長さ方向の両端部に、対向する端部側に向かって内側に凹む凹部が形成されており、
前記載置台に前記蓋体が取り付けられた状態では、前記蓋体と前記載置台との間に前記凹部による隙間が形成されることが好ましい。
【0024】
本発明の組織切片の作製方法は、前記いずれかの分割補助デバイスを用いた組織切片の作製方法であって、
前記載置台の前記組織塊保持部に組織塊を保持して、前記載置台に前記蓋体を嵌合させる工程、および、
病理学用ナイフの先端を前記蓋体の前記第2スリットから差し込んで、前記起立部に形成されている前記第1スリット内に垂直に挿入し、前記第1スリットおよび前記第2スリットの長さ方向に沿って前記起立部から離れる方向に病理学用ナイフをスライドさせることで組織塊を切断して、所望の厚さを有する組織切片に分割する工程、
を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明の分割補助デバイスによれば、大がかりな装置を必要とせず、病理学用ナイフを用いた手作業によって、組織塊を安定かつ迅速に所定の厚さで均一に分割することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の分割補助デバイスの第1実施形態を例示した斜視図である。
【
図2】
図1に示した分割補助デバイスの載置台の斜視図である。
【
図3】
図2に示した載置台の長手方向の断面図である。
【
図4】
図1に示した分割補助デバイスの蓋体の斜視図である。
【
図5】
図4に示した蓋体の裏面側を示したB-B’矢視断面図である。
【
図6】
図1に示した分割補助デバイスのA-A’矢視断面を示した概要図である。
【
図7】本発明の分割補助デバイスの第2実施形態を例示した斜視図である。
【
図8】
図7に示した分割補助デバイスの載置台の斜視図である。
【
図9】
図8に示した載置台のC-C’矢視断面図である。
【
図10】
図7に示した分割補助デバイスの蓋体の斜視図である。
【
図12】
図10に示した蓋体の裏面側を示したF-F’矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の分割補助デバイスの第1実施形態を例示した斜視図である。
【0028】
この実施形態の分割補助デバイスDは、組織塊を病理学用ナイフによって薄く切断して、所望の厚さを有する組織切片に分割するためデバイスである。
【0029】
この分割補助デバイスDを利用して切断される組織塊は特に限定されないが、例えばヒトまたは非ヒト動物の臓器などであってよく、具体的には、前立腺、乳腺、肺、肝臓、心臓、膵臓、脾臓、脳、甲状腺、卵巣、精巣、リンパ節などを例示することができる。
【0030】
病理学用ナイフは、組織塊を薄切りするのに適した鋭利なナイフ全般を含み、具体的な形状などは特に限定されない。例えば、病理学用ナイフは、1以上の刃を備えたものであってよく、複数の刃を備える場合は、刃が等間隔(例えば2mm間隔)に並設されたものを例示することができる。
【0031】
図1に例示したように、この実施形態の分割補助デバイスDは、組織塊(図示していない)を載置する載置台1と、この載置台1の上部に着脱自在に取り付けられる蓋体2とを備えている。
【0032】
図2は、
図1に示した分割補助デバイスの載置台の斜視図である。
図3は、
図2に示した載置台の長手方向の断面図である。
【0033】
載置台1は、本体部11と、組織塊保持部12と、起立部13と、第1スリット14とを備えている。
【0034】
本体部11は、上面部111と、下面部112と、上面部111と下面部112を垂直方向に接続する側面部113とを備えた略直方体状であり、対向する一対の長辺11Aと一対の短辺11Bとが形成されている。また、上面部111、下面部112および側面部113の四隅には面取り部114が形成されている。
【0035】
組織塊保持部12は、本体部11の上面部111から下方に向かって凹んでいる。具体的には、この実施形態の分割補助デバイスDでは、組織塊保持部12は、本体部11の長手方向に沿って、第1組織塊保持部121と第2組織塊保持部122とを有している。
【0036】
第1組織塊保持部121は、第1凹底部121aと、本体部11の短手方向に位置する第1凹底部121aの両端部から垂直に起立する一対の第1壁部121bとを備えている。
【0037】
第1凹底部121aには、本体部11の長手方向に沿って連続する凹凸部Sが形成されている。隣接する凹凸部Sの間隔や突出高さなどは適宜設計することができる。例えば、凹凸部Sの凸部の高さの範囲は、0.5mm~2.0mm、好ましくは、0.8mm~1.2mm程度の範囲を例示することができる。
【0038】
第2組織塊保持部122は、第2凹底部122aと、本体部11の短手方向に位置する第2凹底部122aの両端部から垂直に起立する一対の第2壁部122bとを備えている。
【0039】
第1凹底部121aと同様に、第2凹底部122aにも、本体部11の長手方向に沿って連続する凹凸部Sが形成されている。
【0040】
起立部13は、組織塊保持部12(第1組織塊保持部121、第2組織塊保持部122)の水平方向の端部から本体部11の上面部111側に向かって立ち上がって形成されている。
【0041】
具体的には、起立部13は、傾斜部(第1傾斜部131、第2傾斜部132)と、平坦部133とを備えている。
【0042】
第1傾斜部131は、第1組織塊保持部121側から上方に立ち上がっており、隣接する第2組織塊保持部122側へ向かって斜めに傾斜している。第2傾斜部132は、第2組織塊保持部122側から上方に立ち上がっており、隣接する第1組織塊保持部121側へ向かって斜めに傾斜している。
【0043】
第1傾斜部131と第2傾斜部132は、互いに傾斜角度が異なっており、この実施形態では、第1傾斜部131の方が第2傾斜部132よりも急勾配になるように形成されている。
【0044】
また、第1傾斜部131の上端と第2傾斜部132の上端は互いに平坦部133を介して接続しており、平坦部133は、本体部11の上面部111と略面一に形成されている。
【0045】
この実施形態では、第1組織塊保持部121は、本体部11の長手方向の中央側に位置する第1凹底部121aの端部が起立部13の第1傾斜部131の下端部131aと接続しており、第1凹底部121aは、隣接する本体部11の短辺11B側から起立部13側に向かって斜め下方に傾斜している。
【0046】
また、第2組織塊保持部122は、本体部11の長さ方向の中央側に位置する第2凹底部122aの端部が起立部13の第2傾斜部132の下端部132aと接続しており、第2凹底部122aは、隣接する本体部11の短辺11B側から起立部13側に向かって斜め下方に傾斜している。
【0047】
したがって、第1組織塊保持部121と第2組織塊保持部122とは、起立部13を介して本体部11の長手方向に対向している。
【0048】
第1組織塊保持部121は、起立部13から離れる方向(本体部11の短辺11B側)に向かって幅(本体部11の短手方向長さ)が小さくなっている。具体的には、第1組織塊保持部121は、本体部11の短手方向側に位置する起立部13(第1傾斜部131)の両端と、本体部11の長手方向の中央側に位置する一対の第1壁部121bの端部が接続している。一対の第1壁部121bは、起立部13から本体部11の短辺11B側に向かって離れるにしたがって本体部11の短手方向の中央側に向かって互いが接近し、本体部11の短辺11B側において互いに接続している。
【0049】
また、第1凹底部121aは、起立部13側から本体部11の短辺11B側に向かって本体部11の上面部111に接近しているため、第1壁部121bの高さは、起立部13側が大きく、本体部11の短辺11B側に向かって小さくなっている。
【0050】
このように、第1組織塊保持部121は、正面視略二等辺三角形状であり、本体部11の短辺11B側から起立部13の第1傾斜部131側に向かって深さが深く形成されている。第1組織塊保持部121の最大深さは特に限定されず、切断する組織塊の大きさに応じて適宜設定することができるが、例えば、6mm~10mmの範囲を例示することができる。
【0051】
同様に、第2組織塊保持部122は、起立部13から離れる方向(本体部11の短辺11B側)に向かって幅(本体部11の短手方向長さ)が小さくなっている。具体的には、第2組織塊保持部122は、本体部11の短手方向側に位置する起立部13(第2傾斜部132)の両端部と、本体部11の長手方向の中央側に位置する一対の第2壁部122bの端部が接続している。また、一対の第2壁部122bは、起立部13から本体部11の短辺11B側に向かって離れるにしたがって本体部11の短手方向の中央側に向かって互いが接近し、一対の第2壁部122bは、本体部11の短辺11B側において互いに接続している。
【0052】
また、第2凹底部122aは、本体部11の短辺11B側に向かって本体部11の上面部111に接近しているため、第2壁部122bの高さは、起立部13側が大きく、本体部11の短辺11B側に向かって小さくなっている。
【0053】
このように、第2組織塊保持部122は、正面視略二等辺三角形状であり、本体部11の短辺11B側から起立部13側の第2傾斜部132側に向かって深さが深くなっているが、その深さは、第1組織塊保持部121よりも小さく形成されている。
【0054】
第2組織塊保持部122の最大深さは特に限定されず、切断する組織塊の大きさに応じて適宜設定することができるが、例えば、2mm~5mmの範囲を例示することができる。
【0055】
第1スリット14は、本体部11の上面部111から縦方向に溝状に切り込まれており、かつ、水平方向に向かって直線状に延びている。この実施形態では、第1スリット14は、本体部11の長手方向に沿って7本形成されている。
【0056】
第1スリット14は、本体部11の上面部111、組織塊保持部12(第1組織塊保持部121、第2組織塊保持部122)および起立部13を水平方向に横断して形成されており、隣接する第1スリット14同士は、互いに等間隔かつ平行である。したがって、この実施形態では、第1組織塊保持部121の第1凹底部121a、第2組織塊保持部121の第2凹底部122aおよび起立部13は、7本の第1スリット14によって本体部11の短手方向に均等に分割されている。
【0057】
第1スリット14は、切断すべき組織切片の所望の厚さに合わせて、隣接する第1スリット14同士の間隔が設定されている。例えば、1~3mmの厚さの組織切片が得られるように、この範囲で隣接する第1スリット14同士の間隔を適宜設定することができる。
【0058】
また、第1スリット14の幅は、病理学用ナイフを安定的に挿入可能であれば特に限定されないが、例えば、0.4mm~0.8mmの範囲で適宜設定することができる。さらに、第1スリット14の最大深さなども特に限定されず、適宜設定することができる。
【0059】
図4は、
図1に示した分割補助デバイスの蓋体の斜視図である。
図5は、
図4に示した蓋体の裏面側を示したB-B’矢視断面図である。
【0060】
蓋体2は、外装部21と、第2スリット22とを備えている。
【0061】
外装部21は、載置台1の本体部11の上面部111側に嵌合可能な外形を有している。具体的には、外装部21は、長辺21Aと短辺21Bを有する略矩形状の平面部211と、平面部211の外周縁から下方に向かって突出する嵌合片212とを有している。
【0062】
第2スリット22は、外装部21の平面部211の短手方向の中央付近に設けられている。具体的には、第2スリット22は、外装部21の平面部211を貫通しており、第1スリット14と等しい幅で蓋体2の長手方向に向かって直線状に7本延びている。隣接する第2スリット22同士は、互いに第1スリット14と等しい間隔で配置されており、かつ互いに平行である。
【0063】
隣接する第2スリット22同士の間には、第2スリット22と等しい長さの長尺な格子部23が6本形成されている。それぞれの格子部23の裏面側(載置台1と対向する側)には、短手方向の両端に下方へ向かって突出するリブ231が設けられており、対向する一対のリブ231同士の間には凹面部232が形成されている。
【0064】
図6は、
図1に示した分割補助デバイスのA-A’矢視断面図である。
【0065】
図1、
図6に例示したように、載置台1の組織塊保持部12(第1組織塊保持部121、第2組織塊保持部122)に所望の組織塊(図示していない)を保持して、載置台1の本体部11の上面部111側に蓋体2の外装部21を嵌合させることができる。
【0066】
載置台1の本体部11の上面部111側に、蓋体2の外装部21の嵌合片212を外側から嵌合させると、載置台1の起立部13の平坦部133と、蓋体2の格子部23の裏面側とが上下に当接または近接する。そして、第1スリット14と第2スリット22は、互いに等しい幅、間隔で配置され、配設位置が対応しているため、第1スリット14と第2スリット22の位置が垂直方向に一致する。したがって、第2スリット22および第1スリット14を通じて病理学用ナイフを略垂直に挿入して、組織塊を安定に所定の厚さで均一に分割することができる。
【0067】
この実施形態では、載置台1の組織塊保持部12は、異なる深さ、傾斜を有する第1組織塊保持部121と第2組織塊保持部122とによって形成されている。このため、切断する組織塊の大きさや種類などに応じて、組織塊を保持する組織塊保持部12を選択することができ、組織塊を安定に分割することができる。
【0068】
この実施形態では、第1組織塊保持部121の第1凹底部121aおよび第2組織塊保持部122の第2凹底部122aには、第1スリット14の長さ方向(本体部11の長手方向)に沿って連続する凹凸部Sが形成されている。また、蓋体2の格子部23の裏面側には、短手方向の両端に下方へ向かって突出するリブ231が設けられており、対向する一対のリブ231同士の間には凹面部232が形成されている。このため、組織塊保持部12と蓋体2によって挟み込まれた組織塊は安定に保持され、病理学用ナイフによって組織塊を切断する際に、組織塊の位置がずれることが抑制されるため、組織塊を安定に所定の厚さで均一に分割することができる。
【0069】
この実施形態では、第1組織塊保持部121および第2組織塊保持部122は、第1凹底部121a、第2凹底部122aが起立部13側に向かって斜め下方に傾斜しているとともに、起立部13から離れる方向(本体部11の短辺11B側)に向かって幅(本体部11の短手方向長さ)が小さくなっている。このため、第2スリット22および第1スリット14を通じて挿入された病理学用ナイフを長さ方向に沿って起立部13から離れる方向(本体部11の短辺11B側)にスライドさせて組織塊を切断しても、組織塊の位置がずれることが抑制されるため、組織塊を安定に所定の厚さで均一に分割することができる。
【0070】
この実施形態では、載置台1の起立部13が、第1組織塊保持部121および第2組織塊保持部122の間から本体部11の上面部111側に向かって立ち上がって形成されており、起立部13の平坦部133と、蓋体2の格子部23の裏面側とが上下に当接または近接している。したがって、格子部23が起立部13によって下方から支持され、第1スリット14および第2スリット22を通じて病理学用ナイフを挿入しても、蓋体2の格子部23が下方に湾曲することが抑制されるため、組織塊を安定に所定の厚さで均一に分割することができる。
【0071】
この実施形態では、載置台1が起立部13を備えていることで、第2スリット22から差し込んだ病理学用ナイフの先端を、起立部13に形成されている第1スリット14内に挿入し、この部分の第1スリット14にガイドさせながら下端まで垂直に押し込むことができる。このため、病理学用ナイフが第2スリット22の通過後に左右に傾いて挿入されることが抑制され、起立部13の第1スリット14内で垂直に保持された病理学用ナイフを第1スリット14および第2スリット22に沿って起立部13から離れる方向(本体部11の短辺11B側)にスライドさせることで、組織塊を安定に所定の厚さで均一に分割することができる。
【0072】
以上の通り、この実施形態の分割補助デバイスDによれば、大がかりな装置を必要とせず、病理学用ナイフを用いた手作業によって、組織塊を安定に所定の厚さで均一に分割することができる。
【0073】
さらに、本発明の分割補助デバイスの第2実施形態について、
図7~
図12とともに説明する。
【0074】
図7は、本発明の分割補助デバイスの第2実施形態を例示した斜視図である。
図8は、
図7に示した分割補助デバイスの載置台の斜視図である。
図9は、
図8に示した載置台のC-C’矢視断面図である。
図10は、
図7に示した分割補助デバイスの蓋体の斜視図である。
図11は、
図10に示した蓋体のE-E’矢視断面図である。
図12は、
図10に示した蓋体の裏面側を示したF-F’矢視断面図である。第1実施形態と共通する部分には同一の符号を付し、以下では説明を一部省略する。
【0075】
この実施形態の分割補助デバイスDは、載置台1と、この載置台1の上部に着脱自在に取り付けられる蓋体2とを備えている。
【0076】
図8および
図9に示したように、載置台1は、本体部11と、組織塊保持部12と、起立部13と、第1スリット14とを備えている。
【0077】
本体部11は横長であり、上面部111と、下面部112と、上面部111と下面部112を垂直方向に接続する側面部113とを備えている。側面部113の長手方向の中央付近には、内側に湾曲する保持部113aが形成されており、使用者が手指で保持部113aを保持しやすい形状に設計されている。
【0078】
また、本体部11には、長手方向(第1スリット14の長さ方向)の両端部に、対向する端部側に向かって内側に凹む凹部15が形成されている。
図7に示したように、載置台1に蓋体2が取り付けられた状態では、蓋体2と載置台1との間には、凹部15による隙間が形成されている。このため、例えば、分割補助デバイスD内で組織塊を分割した後、一方の手で載置台1の保持部113aを保持し、他方の手で凹部15による隙間に指を掛けることで、蓋体2を容易に取り外すことができる。
【0079】
さらに、本体部11の上面部111には、周囲よりも一段低く、かつ、蓋体2が嵌め込まれる収納部16が形成されている。この収納部16には、短手方向(第1スリット14と直交する方向)の両端部に、互いに対向し、かつ、長手方向に沿って延びる溝部17が形成されている。溝部17の長さ方向の両端は固定部17aによって閉鎖されているとともに、溝部17の長さ方向の中央付近には、溝部17よりも一段深く、垂直方向に開口した差込部17bが2つずつ形成されている。
【0080】
組織塊保持部12は、本体部11の長手方向に沿って、第1組織塊保持部121と第2組織塊保持部122で構成されている。第1凹底部121aには、本体部11の長手方向に沿って連続する凹凸部Sが形成されている。この実施形態では、第1凹底部121aと第2凹底部122aに形成されている凹凸部Sは、下方に湾曲する湾曲部s1と頂部s2によって構成されている。具体的には、湾曲部s1は、長手方向に連続して形成されており、隣接する湾曲部s1同士の間には、上方に向かって突出する頂部s2が形成されている。このため、この実施形態では、第1実施形態に示した凹凸部Sと比較して、より安定に組織を保持することができる。
【0081】
起立部13は、第1傾斜部131と、第2傾斜部132と、平坦部133とを備えている。
【0082】
第1傾斜部131は、第1組織塊保持部121側から上方に立ち上がっており、隣接する第2組織塊保持部122側へ向かって斜めに傾斜している。この実施形態では、第1傾斜部131は、下方に向かうにしたがって肉厚に形成されており、その下端側には、滑らかに湾曲する曲面部134を備えている。
【0083】
第2傾斜部132は、第2組織塊保持部122側から上方に立ち上がっており、隣接する第1組織塊保持部121側へ向かって斜めに傾斜している。
【0084】
また、この実施形態では、平坦部133の中央には、第1スリット14と直交する方向(本体部11の短手方向)に延びる直線状の嵌合溝135が形成されている。
【0085】
第1スリット14は、組織塊保持部12と起立部13とに亘って形成されている。具体的には、第1スリット14は、第1組織塊保持部121から起立部13の第1傾斜部131に亘って形成されているとともに、第2組織塊保持部122から起立部13の第2傾斜部132に亘って形成されている。すなわち、この実施形態では、第1スリット14は起立部13の平坦部133の中央付近で分断されている。
【0086】
図10~
図12に示したように、蓋体2は、外装部21と、第2スリット22とを備えている。
【0087】
外装部21は、載置台1の本体部11の上面部111の収納部16に嵌合可能な外形を有している。具体的には、外装部21は、外縁としての長辺21Aと短辺21Bを有する略矩形状の平面部211と、平面部211の長辺21Aの裏面側から下方に向かって突出する嵌合片212とを有している。
【0088】
一対の嵌合片212は、第1爪部213と第2爪部214とからなる爪部Nを備えている。具体的には、嵌合片212の長さ方向の両端には第1爪部213が設けられており、嵌合片212の長さ方向の中央付近には第2爪部214が設けられている。第1爪部213および第2爪部214は、嵌合片212よりも下方に突出しており、他方の嵌合片212に設けられた第1爪部213および第2爪部214と互いに対向している。また、嵌合片212の第1爪部213に隣接する部分には、切欠部215が設けられている。さらに、第2爪部214の先端には、内側(対向する嵌合片212側)に向かって曲がる屈曲部214aが形成されている。
【0089】
第2スリット22は、外装部21の平面部211の短手方向の中央付近に設けられている。具体的には、第2スリット22は、外装部21の平面部211を貫通しており、第1スリット14と等しい幅で蓋体2の長手方向に向かって直線状に7本延びている。隣接する第2スリット22同士は、互いに第1スリット14と等しい間隔で配置されており、かつ互いに平行である。
【0090】
隣接する第2スリット22同士の間には、第2スリット22と等しい長さの長尺な格子部23が6本形成されている。それぞれの格子部23の裏面側(載置台1と対向する側)には、幅方向の中央付近において鋭角に突出するリブ231が長手方向に沿って設けられている。
【0091】
この実施形態のリブ231によっても、組織塊保持部12と蓋体2によって挟み込まれた組織塊は安定に保持され、病理学用ナイフによって組織塊を切断する際に、組織塊の位置がずれることが抑制されるため、組織塊を安定に所定の厚さで均一に分割することができる。
【0092】
外装部21の平面部211の裏面側には、長手方向の中央付近に、第2スリット22と直交する方向に延びる凸条部24が設けられている。凸条部24は、下方(裏面側から離れる方向)に向かって突出し、かつ、第2スリット22および格子部23を含む平面部211の裏面側を横断しており、凸条部24の両端は、対向する嵌合片212と接続している。
【0093】
この実施形態の分割補助デバイスDは、載置台1の組織塊保持部12(第1組織塊保持部121、第2組織塊保持部122)に所望の組織塊(図示していない)を保持した後、
図7に例示したように、載置台1の本体部11に設けられた収納部16に蓋体2を嵌め込むことができる。
【0094】
具体的には、収納部16の短手方向の両端に設けられた溝部17に蓋体2の嵌合片212を挿入することができ、これによって、収納部16の差込部17bに蓋体2の第2爪部214が挿入されて係合する。さらに、溝部17の長さ方向の両端に設けられた固定部17aが蓋体2の嵌合片212の切欠部215内に配置されるとともに、蓋体2の第1爪部213が固定部17aの外側(本体部11の長手方向の端部側)に係合する。
【0095】
そして、第1スリット14と第2スリット22は、互いに等しい幅、間隔で配置され、配設位置が対応しているため、第1実施形態と同様に、載置台1の収納部16に蓋体2が嵌め込まれた状態では、第1スリット14と第2スリット22の位置が垂直方向に一致する。したがって、第2スリット22および第1スリット14を通じて病理学用ナイフを略垂直に挿入して、組織塊を安定に所定の厚さで均一に分割することができる。
【0096】
この実施形態では、起立部13の第1傾斜部131は、下方に向かうにしたがって肉厚に形成されており、その下端側には、滑らかに湾曲する曲面部134を備えている。このため、第2スリット22から差し込んだ病理学用ナイフの先端を、起立部13に形成されている第1スリット14内に挿入し、この部分の第1スリット14にガイドさせながら下端まで垂直に押し込むことで、病理学用ナイフが第2スリット22の通過後に左右に傾いて挿入されることが抑制されるとともに、病理学用ナイフを第1スリット14および第2スリット22に沿って起立部13から離れる方向(本体部11の短辺11B側)にスライドさせる際に、曲面部134によって病理学用ナイフの動きがガイドされるため、よりスムーズに病理学用ナイフをスライドさせることができる。
【0097】
また、この実施形態では、上述した構造によって載置台1の収納部16に蓋体2が嵌め込まれているため、組織塊保持部12に保持された組織塊を分割する際に、蓋体がズレてしまうことが抑制される。このため、より安定に組織塊を所定の厚さで均一に分割することができる。
【0098】
さらに、この実施形態では、載置台1の収納部16に蓋体2が嵌め込まれた状態では、載置台1の起立部13の平坦部133に設けられた嵌合溝135に、蓋体2の裏面側に設けられた凸条部24が嵌合する。このため、第2スリット22および第1スリット14を通じて病理学用ナイフを挿入、操作する際の蓋体2の撓みや位置ズレが抑制され、より安定に組織塊を安定に所定の厚さで均一に分割することができる。
【0099】
以上の通り、この実施形態の分割補助デバイスDによれば、大がかりな装置を必要とせず、病理学用ナイフを用いた手作業によって、組織塊を安定に所定の厚さで均一に分割することができる。
【0100】
また、本発明の組織切片の作製方法は、例えば
図1~
図12に例示した分割補助デバイスを用いるものであり、以下の工程を含む。
【0101】
(1)載置台1の組織塊保持部12に組織塊を保持して、載置台1に蓋体2を嵌合させる工程。
【0102】
(2)病理学用ナイフの先端を蓋体2の第2スリット22から差し込んで、起立部13の第1スリット14内に垂直に挿入し、第1スリット14および第2スリット22の長さ方向に沿って起立部13から離れる方向に病理学用ナイフをスライドさせることで組織塊を切断して、所望の厚さを有する組織切片に分割する工程。
【0103】
この組織切片の作製方法では、第2スリット22から差し込んだ病理学用ナイフの先端を第1スリット14にガイドさせながら下端まで垂直に押し込むことができる。このため、病理学用ナイフが第2スリット22の通過後に左右に傾いて挿入されることが抑制され、垂直に保持された病理学用ナイフを第1スリット14と第2スリット22に沿って起立部13から離れる方向(本体部11の短辺11B側)にスライドさせることで、組織塊を安定かつ迅速に所定の厚さで均一に分割することができる。
【0104】
本発明の分割補助デバイスおよびこれを用いた組織切片の作製方法は、以上の実施形態に限定されるものではない。本発明の分割補助デバイスは、例えば、第1スリットは下方に向かって先細る鋭角な溝形状に形成することもできる。また、第1スリットおよび第2スリットの配設数なども適宜設定することができ、組織塊保持部の配設数も1または2以上であればよい。さらに、本発明の組織切片の作製方法は、工程(1)(2)以外にも様々な処理工程などを含むことができる。また、本発明の組織切片の作製方法では、1つの刃を備えた病理学用ナイフを使用して、第1スリットおよび第2スリットを通じて組織塊を一列ずつスライスして分割もよいし、複数の刃が等間隔(例えば2mm間隔)に並設された病理学用ナイフを使用して、複数列を同時にスライスして分割してもよい。
【符号の説明】
【0105】
1 載置台
11 本体部
111 上面部
112 下面部
113 側面部
12 組織塊保持部
13 起立部
133 平坦部
135 嵌合溝
14 第1スリット
15 凹部
16 収納部
17 溝部
17b 差込部
2 蓋体
21 外装部
22 第2スリット
23 格子部
231 リブ
232 凹面部
24 凸条部
D 分割補助デバイス
S 凹凸部