(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】樹脂成形金型
(51)【国際特許分類】
B29C 45/33 20060101AFI20220829BHJP
B29C 33/44 20060101ALI20220829BHJP
B29C 45/40 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
B29C45/33
B29C33/44
B29C45/40
(21)【出願番号】P 2018157036
(22)【出願日】2018-08-24
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508296738
【氏名又は名称】富士電機機器制御株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120444
【氏名又は名称】北川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】横森 則晴
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 あす香
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-013716(JP,U)
【文献】特開昭63-281813(JP,A)
【文献】特開昭63-281817(JP,A)
【文献】特開昭63-041118(JP,A)
【文献】特開2012-224055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂が充填されるキャビティ空間を形成するキャビティ形成体と、
前記キャビティ空間に充填された溶融樹脂に押込力を加える押込部と、
前記押込部とは離れた位置に別個に設けられ、前記キャビティ空間内で成形された樹脂成形品を離型するためのエジェクタピンと、
駆動機構によって変位して前記押込部および前記エジェクタピンを変位させる移動体とを備え、
前記押込部は、前記移動体が充填位置から押込位置に変位することで前記押込力を発揮し、
前記エジェクタピンの一端は、前記移動体が前記押込位置から離型位置に変位することで前記キャビティ空間の第1形成面から
前記移動体の変位方向と平行に突出可能に設けられ、
前記押込力の作用方向を前記移動体の変位方向とは異なる方向に変換する変換部をさらに有することを特徴とする樹脂成形金型。
【請求項2】
前記変換部は、一対のカム面を備え、該一対のカム面が前記移動体の変位で相互に摺動することで前記押込力の作用方向を変換することを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形金型。
【請求項3】
前記移動体が前記充填位置から前記押込位置に変位する間に、前記エジェクタピンの先端面と前記キャビティ空間の前記第1形成面とを同一平面上に維持する面維持部を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂成型金型。
【請求項4】
前記移動体が前記押込位置に位置する場合、前記押込部における前記溶融樹脂と接触する先端面と前記キャビティ空間の第2形成面とが同一平面上に位置することを特徴とする請求項3に記載の樹脂成型金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビティ空間内に充填した樹脂を固化して樹脂成形品を成形することができる樹脂成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形金型としては、特許文献1に開示されるように、キャビティ空間内の溶融樹脂を流動させる押込部を備えたものが知られている。押込部は、キャビティ空間に連通する樹脂溜まりと、樹脂溜まりの容積を変化させる可動コアとを有している。特許文献1では、押込部の可動コアを移動させ、押込部の樹脂溜まりの容積を圧縮し、キャビティ空間にて樹脂流動を生じさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1にあっては、キャビティ空間に充填した樹脂を流動させるべく可動コアを移動させるため、圧縮機構を設けている。かかる圧縮機構にあっては、型締め機構によって可動コアを移動させるため、油圧シリンダに加え、スペーサやそれらを連結する種々の部品が必要になる。これらの駆動機構は、大掛かりになるばかりでなく、樹脂流動を生じさせる可動コアの移動だけに設置されるものとなる。従って、金型や成形装置の部品点数が増えたり構造が複雑したりし、製造コストが上昇してしまう、という問題があった。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、押込部によって充填した樹脂に押込力を加えることができ、構造の簡略化を図ることができる樹脂成形金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の樹脂成形金型は、溶融樹脂が充填されるキャビティ空間を形成するキャビティ形成体と、前記キャビティ空間に充填された溶融樹脂に押込力を加える押込部と、前記押込部とは離れた位置に別個に設けられ、前記キャビティ空間内で成形された樹脂成形品を離型するためのエジェクタピンと、駆動機構によって変位して前記押込部および前記エジェクタピンを変位させる移動体とを備え、前記押込部は、前記移動体が充填位置から押込位置に変位することで前記押込力を発揮し、前記エジェクタピンの一端は、前記移動体が前記押込位置から離型位置に変位することで前記キャビティ空間の第1形成面から前記移動体の変位方向と平行に突出可能に設けられ、前記押込力の作用方向を前記移動体の変位方向とは異なる方向に変換する変換部をさらに有することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、エジェクタピンを駆動する駆動機構によって押込部で溶融樹脂を押し込むことができ、押込部を駆動するためだけの機構を不要とすることができる。これにより、成形金型や成形装置の構造の簡略化を図ることができ、ひいては、成形金型等の製造コスト削減を図ることができる。また、変換部によって押込部による押込力を移動体の変位方向とは異なる方向に変換できるので、立体的な形状の樹脂成形品であっても、様々な位置及び向きにて樹脂流動を生じさせることに対応可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、押込部によって充填した樹脂に押込力を加えることができ、成形金型等の構造の簡略化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る樹脂成形金型の概略構成図である。
【
図2】実施の形態における樹脂成形金型のキャビティ空間を立体的に表した説明図である。
【
図3】実施の形態におけるキャビティ空間に溶融樹脂を充填した状態の説明図である。
【
図4】実施の形態におけるウェルド部の溶融樹脂を流動させた状態の説明図である。
【
図5】実施の形態における型開きした状態の説明図である。
【
図6】実施の形態における樹脂成形品を離型中とした状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。また、以下の説明において、特に明示しない限り、「上」、「下」、「左」、「右」は、
図1を基準として用いる。
図2では、「上」、「下」、「左」、「右」を矢印にて図示する。
【0011】
図1は、実施の形態に係る樹脂成形金型の概略構成図である。
図2は、上記樹脂成形金型のキャビティ空間を立体的に表した説明図である。
図1に示すように、樹脂成形金型(以下、単に「金型」とする)10は、固定型11と、この固定型11との間にキャビティ空間12を形成する可動型13とを備えている。従って、固定型11及び可動型13によってキャビティ形成体が構成され、それらの相対面によってキャビティ空間12の形成面が形成される。固定型11及び可動型13は、射出成形機(図示省略)に搭載され、当該射出成形機から熱可塑性の溶融樹脂がゲート14(
図2も参照)を通じてキャビティ空間12内に充填される。
【0012】
本実施の形態の金型10では、一例として、
図2に示すキャビティ空間12によって、相互に直交する3枚の矩形状板体を組み合わせた形状の樹脂成形品を成形する。また、該樹脂成形品にて、ゲート14と連通しない矩形状板体の面内に1つの開口を有するものとする。キャビティ空間12は、樹脂成形品に応じた形状に形成されるが、ここでは、一部の構造について簡略的に図示して説明し、それ以外の構成についての図示、説明を省略する。
【0013】
図1に戻り、本実施の形態のキャビティ空間12は、上下方向に延出する第1領域12aと、第1領域12aの下端に連なって右方向に延出する第2領域12bとを備えている。第2領域12bには、樹脂成形品の開口に対応する部分に開口形成部16(
図1参照)が突出して形成される。従って、ゲート14から充填された溶融樹脂は、キャビティ空間12内を流れる過程で開口形成部16に当たって左右に分流された後、点線で示す箇所にて合流される。言い換えるとは、キャビティ空間12における開口形成部16のゲート14とは反対側の領域の左右方向中間部で合流し、この合流した部分が成形品においてウェルド部Bとなる。
【0014】
成形用に充填する樹脂には、成形品の強度等の物性を向上するために繊維状の含有物が配合され、含有物としては、カーボンやガラス繊維等を例示することができる。含有物の重量平均繊維長は、好ましくは0.1mm以上15mm以下、より好ましくは1mm以上5mm以下に設定される。
【0015】
可動型13は、キャビティ空間12を形成する型板部18と、型板部18から見て固定型11と反対側(右側)に設けられた取付板部19と、これら型板部18及び取付板部19の間に配置された第1エジェクタプレート(移動体)21及び第2エジェクタプレート(移動体)22と、各エジェクタプレート21、22に支持される複数のエジェクタピン24(
図1では1本のみ図示)とを備えている。型板部18と取付板部19との間には、スペーサブロック(図示省略)が設けられ、それらの間に各エジェクタプレート21、22が左右に移動するための空間S1が確保される。
【0016】
型板部18及び固定型11は、キャビティ空間12の第1領域12aを挟んで左右方向に対向し、第2領域12bを挟んで上下方向に対向する形状を備えている。
【0017】
可動型13は、押込部25及び引込部26を1体ずつ備えている。なお、押込部25及び引込部26は、それぞれ複数設けてもよい。押込部25及び引込部26は、ウェルド部Bの形成位置を挟んで配置されている。具体的には、それぞれの押込部25からウェルド部Bに交差する方向に延びる延長線上に引込部26が設けられる。かかる延長線は直線に限定されず樹脂の流動方向に沿って曲線状にもなり得る。
【0018】
押込部25は、キャビティ空間12の第2領域12bの下方から所定距離離れた位置に設けられて左右方向に延びる長尺状の可動ピン25aと、可動ピン25aの先端側に設けられた可動コア25bとを備えている。可動ピン25aは、固定型11に対する可動型13の移動方向すなわち
図1中左右方向に変位可能に設けられている。可動ピン25aは、固定型11及び型板部18に形成された可動ピン穴11a、18aに挿通されている。各可動ピン穴11a、18aは、左右方向に連通するように形成されている。
【0019】
可動コア25bは、固定型11に形成された可動コア穴11cに挿入されている。可動コア穴11cは、可動ピン穴11aの左右方向中間部から上方に延出して固定型11におけるキャビティ空間12の第2形成面11bに連通される。可動コア25bの一端面(上端面)が、キャビティ空間12の第2形成面11bより退行した(凹んだ)位置に配置されたときに、その一端側には、第2形成面11bより凹んだ空間となる圧縮用樹脂溜まり25cが形成される。
【0020】
可動ピン25aの先端面(左端面)及び可動コア25bの他端面(下端面)は、一対のカム面25d、25eとして形成され相互に面接触するように設けられている。各カム面25d、25eは、
図1で右上方向に傾斜する方向に向けられている。従って、
図1に示す状態から、可動ピン25aを左方向に動作させると、各カム面25d、25eが相互に摺動するようになる。この摺動時に、可動ピン25aのカム面25dが可動コア25bのカム面25eを上方に押し出すようになり、可動コア25bが上方となるキャビティ空間12側に押し込まれる(
図1中白矢印参照)。言い換えると、可動ピン25aの動作による左方向の押込力に対し、可動コア25bの押込力の作用方向が上方向に変換される。ここにおいて、一対のカム面25d、25eによって押込部25における押込力の作用方向を変換する変換部が構成される。
【0021】
可動コア25bは、固定型11内にて可動コア25bに隣接して設けられるスプリング(変位手段)25fに接続されている。スプリング25fは、可動コア25bを下方に付勢し、そのカム面25eを可動ピン25aのカム面25dに押し付ける弾性力を発揮する。この押し付けで各カム面25d、25eが相互に接触した状態が維持される。
【0022】
引込部26は、キャビティ空間12から所定間隔を隔てて配置された引込用樹脂溜まり26aと、キャビティ空間12と引込用樹脂溜まり26aとを連通する連通路26bとを備えている。
【0023】
型板部18には、エジェクタピン24が挿入されるエジェクタ穴28が形成されている。エジェクタ穴28は、型板部18におけるキャビティ空間12の第1形成面18bに連通される。従って、エジェクタピン24の先端(一端)がキャビティ空間12の第1形成面18bから突出可能となる。
【0024】
取付板部19には、穴19aが形成され、この穴19a内にはロッドRが貫通している。ロッドRは、シリンダやサーボモータ等を含んで構成される駆動機構(図示省略)の一部となり、左右方向で往復移動可能となっている。これにより、ロッドRから駆動機構によって押し込む力が各エジェクタプレート21、22に加わり、各エジェクタプレート21、22を左側に変位させることができる。一方、各エジェクタプレート21、22は、型板部18と第2エジェクタプレート22との間に設けられたスプリング(図示省略)の弾性力によって右側に戻る力を受けている。従って、ロッドRを右側に変位すると、スプリングの力を受けて各エジェクタプレート21、22が右側に変位する。なお、ロッドRの先端に第1エジェクタプレート21を固定し、左側に押し込んだ各エジェクタプレート21、22を駆動機構の駆動力によって右側に変位させてもよく、この場合スプリングを省略できる。
【0025】
取付板部19は、上述の射出成形機(図示省略)に固定され、この射出成形機の駆動によって可動型13が固定型11に対して離反及び接近する方向(左右方向)に往復移動可能となる。これにより、キャビティ空間12の内部で成形された樹脂成形品W(
図5参照)を金型10の外部に取り出すことができる。
【0026】
第1エジェクタプレート21及び第2エジェクタプレート22には、エジェクタピン24が摺動自在に挿入される挿入穴21a、22aが形成されている。そして、挿入穴21a、22aの形成位置を含む領域であって、各エジェクタプレート21、22の合わせ面それぞれに凹部21b、22bが形成されている。これら凹部21b、22bで囲まれる空間には、エジェクタピン24に形成されるストッパ32が収容される。ストッパ32は、エジェクタピン24及び挿入穴21a、22aより大径に形成され、挿入穴21a、22aに対して挿抜不能となっている。また、ストッパ32の左右幅(エジェクタピン24の延出方向の幅)は、凹部21b、22bの底面21c、22c間の距離より短く設定されている。つまり、凹部21b、22bの底面21c、22c両方からストッパ32が離れた場合には、各エジェクタプレート21、22が左右に移動しても、エジェクタピン24が左右に移動しない、いわゆる遊びがある状態となる。
【0027】
第2エジェクタプレート22には、可動ピン25aが挿入される段付き穴22dが形成されている。また、可動ピン25aの右端(他端)側は段付き穴22dに嵌り合う段付き形状に形成されている。段付き穴22dに可動ピン25aが嵌り合った状態で各エジェクタプレート21、22を重ねると、第1エジェクタプレート21が可動ピン25aの右端に接触する。これにより、可動ピン25aは、各エジェクタプレート21、22に対し軸方向(左右方向)の移動が規制された状態で支持される。
【0028】
エジェクタピン24は、その先端面(左端面)が型板部18におけるキャビティ12の第1形成面18bと同一平面上に位置するときに、その基端面(右端面)が取付板部19の内面(位置決め部)19bに接触する長さに設定されている。そして、エジェクタピン24の先端面がキャビティ12の第1形成面18bと同一平面上に位置する状態で、各エジェクタプレート21、22では、凹部21bの底面21cからストッパ32が離れて隙間33が形成されることとなる。このとき、底面21cとストッパ32との距離Lは、後述のように圧縮用樹脂溜まり25cの上下方向(可動コア25bの変位方向)の寸法に応じて設定される。
【0029】
固定型11及び可動型13には、冷却用の媒体流路(不図示)が形成され、媒体流路には、冷媒を通す回路が接続されている。冷媒は、液体であればよく金型10に応じて水、油等が用いられ、冷媒が媒体流路内に流れることで、キャビティ空間12の第1形成面18bを含む固定型11及び可動型13全体が温度調整される。
【0030】
次に、本実施の形態に係る金型10を用いた樹脂成形品の成形方法について説明する。
【0031】
図3は、キャビティ空間に溶融樹脂を充填した状態の説明図である。先ず、
図3に示すように、固定型11と可動型13とを型締めした状態としてキャビティ空間12を形成する。この状態で、空間S1において、スプリング(図示省略)の力によって各エジェクタプレート21、22が右方向に付勢されつつ、その力をストッパ(図示省略)が受け止めて各エジェクタプレート21、22が位置決めされる。このように各エジェクタプレート21、22が位置決めされた初期位置において、可動コア25bの先端面が固定型11におけるキャビティ空間12の第2形成面11bより凹んだ位置に配置されて圧縮用樹脂溜まり25cが形成される。
【0032】
このとき、エジェクタピン24は、各エジェクタプレート21、22とは別にスプリング(図示省略)の力が作用して右方向に付勢されつつ、取付板部19の内面19bにエジェクタピン24の右端面が接触して位置決めされる。これにより、エジェクタピン24の先端面とキャビティ空間12の第1形成面18bとが同一平面上に維持される。この状態において、所定の射出圧力によって溶融樹脂Mを金型10内に充填する。キャビティ空間12内に充填された溶融樹脂Mは開口形成部16に当たって分流された後に合流してウェルド部Bを形成する。このとき、溶融樹脂Mは圧縮用樹脂溜まり25cにも充填される。
【0033】
このように溶融樹脂Mをキャビティ12に注入し、注入による圧力がエジェクタピン24に加わっても、取付板部19の内面19bにエジェクタピン24の右端面が接触するので、エジェクタピン24の変位を規制することができる。従って、溶融樹脂Mの充填後においてもエジェクタピン24の先端面とキャビティ12の第1形成面18bとが同一平面上に維持される。また、溶融樹脂Mの注入によって可動コア25bの先端面に溶融樹脂Mが接触する。ここで、
図3に示す各エジェクタプレート21、22の位置を、「充填位置」とする。
【0034】
図4は、ウェルド部の溶融樹脂を流動させた状態の説明図である。溶融樹脂Mの充填後、溶融樹脂Mが固化する前において、
図4に示すように、駆動機構(図示省略)のロッドRを作動(変位)することで、各エジェクタプレート21、22を充填位置から左方の
図4に示す押込位置に押し込む。この押し込みによって可動ピン25aが左方に変位し、カム面25d、25e同士が摺動することで、可動コア25bが上方に押圧されて変位する。かかる変位によって、可動コア25bは、圧縮用樹脂溜まり25cの内部の溶融樹脂Mを上側(キャビティ空間12側)に押し出し、キャビティ空間12内の溶融樹脂Mに押込力を加える。このとき、駆動機構がエジェクタプレート21、22を動作させる動作方向(左方向)に対し、押込部25による溶融樹脂Mへの押込力の作用方向を上方向として変換している。
【0035】
溶融樹脂Mに押込力を加えると、キャビティ空間12にて溶融樹脂Mの圧力が上昇し、かかる圧力上昇によって連通路26bに溶融樹脂Mが流れ込み、引込用樹脂溜まり26aの内部に溶融樹脂Mが引き込まれる。これにより、溶融樹脂Mのウェルド部Bでは
図4中右から左に向かう移動が生じ、ウェルド部Bを挟む一方の溶融樹脂Mが他方の溶融樹脂Mに圧入するよう流動される。この圧入によって、溶融樹脂M中の繊維状の含有物がウェルド部Bで
図4中上下方向に配向される状態を崩すことができ、ウェルド部Bでの強度低下、外観不良の発生を防止することができる。
【0036】
ところで、可動コア25bが上方へ変位して圧縮用樹脂溜まり25cの溶融樹脂Mを押し出す間に、ストッパ32と底面21cとが非接触となるように設定される。この設定は、隙間33における距離L(
図3参照)に加え、該距離Lに対する圧縮用樹脂溜まり25cの上下幅、可動ピン25aの移動量に対するカム面25d、25eの傾斜角度や大きさ等を調整することによって行われる。かかる設定によって、駆動機構によって可動コア25bが変位して溶融樹脂Mに押込力を加えている間、底面21cによってエジェクタピン24が押し込まれない。ここにおいて、各エジェクタプレート21、22が充填位置から押込位置に変位することで押込部25による溶融樹脂Mの押込中に、エジェクタピン24の先端とキャビティ12の第1形成面18bとを同一平面上に維持する面維持部が隙間33及びカム面25d、25eを含んで構成される。充填された溶融樹脂Mに押込力を加えるべく可動コア25bを変位する間、面維持部によってエジェクタピン24の位置が維持される。また、面維持部33は、
図4に示す位置において、エジェクタピン24の先端面とキャビティ12の第1形成面18bとを同一平面上に位置させつつ、可動コア25bの先端面とキャビティ12の第2形成面11bとを同一平面上に位置させる。
【0037】
図5は、型開きした状態の説明図である。所定時間経過して金型10内に充填した溶融樹脂Mが固化した後、
図5に示すように、可動型13を固定型11から離れる方向に駆動して型開きする。これにより、キャビティ空間12内で成形された樹脂成形品Wが露出した状態となる。また、型開き後において、樹脂成形品Wは、可動型13の型板部18に付着した状態となり、可動ピン25aの先端側が可動ピン穴11aから抜け出て露出した状態となる。
【0038】
図6は、樹脂成形品を離型中とした状態の説明図である。型開き後、
図6に示すように、駆動機構(図示省略)のロッドRを作動(変位)し、各エジェクタプレート21、22を押込位置から更に左方の
図6に示す離型位置に押し込む。この押し込みにより、先ず、第1エジェクタプレート21における凹部21bの底面21cがストッパ32に接触する。そして、更に、ロッドRを作動し、各エジェクタプレート21、22を更に左方向に押し込むことで、底面21cが押圧面となってストッパ32を含むエジェクタピン24を左方向に変位させる。これにより、エジェクタピン24の先端が型板部18におけるキャビティ空間12の第1形成面18bから突出し、樹脂成形品Wが第1形成面18bから押し出されて離型される。なお、
図6に示す離型前に、型板部18に開口形成部16(
図5参照、
図6では不図示)を埋没させたり、型板部18から開口形成部16を離脱させたりし、開口部分の離型を行えるようにしておく。
【0039】
樹脂成形品Wには、連通路26b及び引込用樹脂溜まり26a内で固化した部分が一体となるので、この部分を切り離す。なお、連通路26b及び引込用樹脂溜まり26aに流入、固化した溶融樹脂Mで樹脂成形品Wの一部を形成する場合、切り離す作業は不要となる。この場合、連通路26b及び引込用樹脂溜まり26aがキャビティ空間12の一部を形成する。
【0040】
以上のように、上記実施の形態によれば、単一の駆動機構によって、押込部25における可動コア25bの変位により溶融樹脂Mを押し込む押込力の発揮と、エジェクタピン24の変位による樹脂成形品Wの離型との両方を行うことができる。これにより、それらに対して別々に駆動機構を設ける場合に比べ、部品点数の削減、構造の簡略化を図ることができ、金型10の製造コストを安価にすることができる。
【0041】
また、押込部25にカム面25d、25eを設け、可動ピン25aの左方向の動作方向を可動コア25bの上方向の動作方向に変換可能としたので、ロッドRの動作方向(変位方向)と異なる方向に可動コア25bを動作させることができる。これにより、樹脂成形品Wが立体的な形状であってウェルド部Bが種々の位置に形成される場合であっても、これに応じた位置及び向きにて樹脂流動を生じさせる金型10の設計を容易に行うことができる。
【0042】
また、底面21cとストッパ32との間に距離Lとなる隙間33が形成されるので、樹脂Mが固化する前に、可動コア25bを変位すべく各エジェクタプレート21、22を変位しても、エジェクタピン24を変位させずに位置決めされた状態に保つことができる。これにより、成形が完了する前に、キャビティ12の第1形成面18bからエジェクタピン24の先端面が突出せず、樹脂成形品Wに意図しない凹凸が形成されることを防止することができる。
【0043】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状、向きなどについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0044】
可動コア25bによる溶融樹脂Mの押込方向は、上方向に限定されるものでなく、カム面25d、25eの向き等を変えることで、下方向や
図1の紙面に直交する方向、或いは、これらの方向に対して傾斜する方向に変更してもよい。
【0045】
また、変換部をカム面25d、25eによって構成したが、上記実施の形態と同様の作用を得られる限りにおいて、複数のギアを組み合わせた動作方向の変換構造にする等、種々の変更が可能である。
【0046】
また、上記実施の形態では変位手段としてスプリング25fを採用したが、エアシリンダやリニアモータ、スプリング等を含む駆動機構に変更する等、可動コア25bを変位できる限りにおいて種々の構成が採用される。
【0047】
また、各エジェクタプレート21、22の合わせ面それぞれに凹部21b、22bを形成したが、上述のようにエジェクタピン24の変位及び変位の規制を行える限りにおいて、何れか一方の凹部21b、22bを省略してもよい。
【0048】
また、樹脂成形品Wの形状は、板状やシート状にする等の二次元的な形状とすることを妨げるものでなく、これに応じてキャビティ空間12等が形成されていればよい。
【符号の説明】
【0049】
10 金型(樹脂成形金型)
11 固定型(キャビティ形成体)
12 キャビティ空間
13 可動型(キャビティ形成体)
21 第1エジェクタプレート(移動体)
22 第2エジェクタプレート(移動体)
24 エジェクタピン
25 押込部
25d カム面(変換部、面維持部)
25e カム面(変換部、面維持部)
33 隙間(面維持部)
M 溶融樹脂
R ロッド(駆動機構)
W 樹脂成形品