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特許7130541リチウムイオン電池用負極及びリチウムイオン電池
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  • 特許-リチウムイオン電池用負極及びリチウムイオン電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用負極及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220829BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220829BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220829BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220829BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220829BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220829BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20220829BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/36 A
H01M4/587
H01M4/36 E
H01M4/66 A
H01M4/134
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018232577
(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公開番号】P2019106375
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2017238948
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】南 和也
(72)【発明者】
【氏名】草地 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】秋月 健
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一
(72)【発明者】
【氏名】赤間 弘
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-188451(JP,A)
【文献】特開2017-160294(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126682(WO,A1)
【文献】特開2016-046151(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145874(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 4/36
H01M 4/587
H01M 4/66
H01M 4/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素及び/又は珪素化合物からなる一次粒子が凝集し結着してなる凝集粒子を含む負極活物質層が負極集電体上に配置されてなるリチウムイオン電池用負極であって、
前記一次粒子の体積平均粒子径は0.1~20μmであり、
前記凝集粒子の体積平均粒子径は前記一次粒子の体積平均粒子径の200%以上、前記負極活物質層の厚さの50%以下であり、
前記凝集粒子は、前記一次粒子が凝集粒子造粒用結着樹脂により互いに結着されてなり、
前記負極活物質層は、前記凝集粒子同士が互いに結着していない非結着体であることを特徴とするリチウムイオン電池用負極。
【請求項2】
前記凝集粒子の体積基準における粒子径累積分布曲線における累積10%粒子径が1μm以上である請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極。
【請求項3】
前記凝集粒子造粒用結着樹脂が、酸価が500~800の(メタ)アクリル酸(共)重合体である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用負極。
【請求項4】
前記凝集粒子の重量に対する前記凝集粒子造粒用結着樹脂の重量の割合が10~30重量%である請求項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用負極。
【請求項5】
前記凝集粒子は、前記一次粒子及び前記凝集粒子造粒用結着樹脂に加えてさらに導電助剤を有し、
前記凝集粒子の重量に対する前記導電助剤の重量の割合が10~50重量%である請求項1~4のいずれかに記載のリチウムイオン電池用負極。
【請求項6】
前記導電助剤の体積平均粒子径が、前記凝集粒子を構成する一次粒子の体積平均粒子径の0.001~0.4倍である請求項5に記載のリチウムイオン電池用負極。
【請求項7】
前記負極活物質層は、さらに、体積平均粒子径が1~40μmの炭素系負極活物質粒子を含む請求項1~6のいずれかに記載のリチウムイオン電池用負極。
【請求項8】
前記凝集粒子と前記炭素系負極活物質粒子との合計重量に基づく前記凝集粒子の重量の割合が2~50重量%である請求項7に記載のリチウムイオン電池用負極。
【請求項9】
前記負極集電体は、樹脂集電体である請求項1~8のいずれかに記載のリチウムイオン電池用負極。
【請求項10】
前記負極活物質層の厚さは、200~600μmである請求項1~9のいずれかに記載のリチウムイオン電池用負極。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のリチウムイオン電池用負極を備えることを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用負極及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できるリチウムイオン電池(リチウムイオン二次電池ともいう)に注目が集まっている。
【0003】
リチウムイオン電池の高エネルギー密度化のためには、より理論容量の大きい活物質、すなわち単位体積あたりにより多くのリチウムイオンを吸蔵できる材料が注目されている。しかしながら、単位体積あたりに吸蔵可能なリチウムイオン量が多くなると、リチウムイオンの挿入・脱離に伴う体積変化も大きくなる。そのため、体積変化によって材料の自壊が発生する場合があり、活物質層が集電体表面から剥離しやすくなるため、サイクル特性を向上させることが困難であった。
【0004】
例えば、特許文献1には、珪素及び珪素化合物のうち少なくとも1つと炭素との混合比率、及び、これらの粒子径を所定の範囲に調整することで負極の膨張を抑制したリチウムイオン電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-103337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された負極は、負極活物質層を構成する負極活物質同士が結着剤で一様に固められているため、負極活物質層中で各負極活物質は移動できない。そして、このような負極活物質層では、電極厚さを厚くしすぎると負極集電体表面から負極活物質が剥離してしまうという問題があった。また、結着剤によって珪素及び珪素化合物の膨張・収縮が制限されて自壊しやすくなることがあった。そして自壊して微細化した珪素及び珪素化合物は、導電助剤との接触が維持されずに電気的に孤立してしまい、充放電容量に寄与しない部分となってしまうことがあった。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、エネルギー密度及びサイクル特性に優れたリチウムイオン電池用負極及びこれを用いたリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、珪素及び/又は珪素化合物からなる一次粒子が凝集し結着してなる凝集粒子を含む負極活物質層が負極集電体上に配置されてなるリチウムイオン電池用負極であって、上記一次粒子の体積平均粒子径は0.1~20μmであり、上記凝集粒子の体積平均粒子径は上記一次粒子の体積平均粒子径の200%以上、上記負極活物質層の厚さの50%以下であり、上記凝集粒子は、上記一次粒子が凝集粒子造粒用結着樹脂により互いに結着されてなり、上記負極活物質層は、上記凝集粒子同士が互いに結着していない非結着体であることを特徴とするリチウムイオン電池用負極;これを備えたリチウムイオン電池に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウムイオン電池用負極は、エネルギー密度及びサイクル特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明のリチウムイオン電池用負極の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、リチウムイオン電池と記載する場合、リチウムイオン二次電池も含む概念とする。
【0012】
本発明のリチウムイオン電池用負極は、珪素及び/又は珪素化合物からなる一次粒子が凝集し結着してなる凝集粒子を含む負極活物質層が負極集電体上に配置されてなるリチウムイオン電池用負極であって、上記一次粒子の体積平均粒子径は0.1~20μmであり、上記凝集粒子の体積平均粒子径は上記一次粒子の体積平均粒子径の200%以上、上記負極活物質層の厚さの50%以下であり、上記凝集粒子は、上記一次粒子が凝集粒子造粒用結着樹脂により互いに結着されてなり、上記負極活物質層は、上記凝集粒子同士が互いに結着していない非結着体であることを特徴とする。
【0013】
本発明のリチウムイオン電池用負極では、珪素及び/又は珪素化合物からなる一次粒子が凝集し結着して凝集粒子が形成されている。一次粒子が凝集粒子造粒用結着樹脂によって互いに凝集し結着されて凝集粒子が形成されているため、一次粒子の膨張・収縮にあわせて凝集粒子が膨張・収縮する。
凝集粒子はその中に一次粒子の増加した体積を吸収できる空隙を有していることによって、珪素及び/又は珪素化合物からなる一次粒子の自壊を抑制しやすくなると考えられる。
【0014】
さらに、本発明のリチウムイオン電池用負極では、負極活物質層は、凝集粒子同士が互いに結着していない非結着体である。
負極活物質層が、凝集粒子同士が互いに結着していない非結着体であると、負極活物質層中の凝集粒子が隣接する凝集粒子に拘束されることなく、ある程度自由に移動することができる。そのため、凝集粒子の膨張・収縮が発生したとしても、凝集粒子が負極活物質層中を移動することによってその体積変化を吸収することができるため、負極活物質層が集電体上から剥離することを抑制することができる。
さらに、一次粒子同士は凝集粒子造粒用結着樹脂により互いに結着されているため、一次粒子が膨張・収縮によって自壊したとしても電気的に孤立しにくい。
なお、凝集粒子同士が互いに結着していない非結着体とは、凝集粒子造粒用結着樹脂によっても、公知の結着剤によっても互いに結着していない。ここで、公知の結着剤とは活物質粒子同士及び活物質粒子と集電体とを結着固定するために用いられる公知の溶剤乾燥型のリチウムイオン電池用結着剤(デンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、スチレン-ブタジエンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン及びスチレン-ブタジエン共重合体等)であり、溶媒成分を揮発させることで乾燥、固体化して活物質粒子同士及び活物質粒子と集電体とを強固に固定するものを意味する。
【0015】
本発明のリチウムイオン電池用負極において、負極活物質層を構成する凝集粒子は、一次粒子が凝集粒子造粒用結着樹脂により互いに凝集し結着されてなる。
しかしながら、上記負極活物質層は凝集粒子同士が互いに結着していない非結着体である。
すなわち、凝集粒子同士は互いに結着されていないので負極活物質層中を移動することができるが、凝集粒子を構成する一次粒子は凝集粒子造粒用結着樹脂により互いに結着されているため、一次粒子は凝集粒子中を移動することができない。
【0016】
本発明のリチウムイオン電池用負極において、凝集粒子が存在するかどうかは、リチウムイオン電池用負極の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認することができる。
なお、負極活物質と結着剤と溶媒との混合物に必要に応じて導電助剤を添加したスラリーを基材上に塗布して乾燥させるという公知の方法で作製した電極(以下、キャスト電極ともいう)では、負極活物質粒子がバラバラに分散した状態で結着剤により全体が固められており、凝集粒子を確認することができない。また、キャスト電極では負極活物質を均一に分散したスラリーを作製し、均一に塗布することがよいとされており、負極活物質を凝集粒子とする本願発明とはその態様が異なる。また、キャスト電極において、仮に複数個の負極活物質粒子が局所的に集合している部分があったとしても、負極活物質層全体が結着剤により固められ、負極活物質が集合してできる粒子としての境界が存在しないため、本願明細書における凝集粒子とは異なる。
【0017】
本発明のリチウムイオン電池用負極において、凝集粒子の体積平均粒子径は、負極活物質層を凝集粒子造粒用結着樹脂が溶解しない分散媒に分散させて凝集粒子を分離した後、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)で測定することにより確認できる。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。
【0018】
本発明のリチウムイオン電池用負極の構成の例を、図1を用いて説明する。
図1は、本発明のリチウムイオン電池用負極の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すリチウムイオン電池用負極1は、負極集電体10上に負極活物質層20が配置されてなる。
負極活物質層20は、一次粒子30が凝集してなる凝集粒子60を含み、さらに非水電解液70及び導電材80を含んでいる。
凝集粒子60は、一次粒子30が凝集粒子造粒用結着樹脂40により互いに結着されてなる。さらに、負極活物質層20は、凝集粒子60同士が凝集粒子造粒用結着樹脂40により互いに結着していない非結着体である。また、図1に示すように、凝集粒子60の少なくとも一部は空隙50を有していてもよい。
図1に示すリチウムイオン電池用負極1では、一次粒子30の体積が変化したとしても、凝集粒子60中の空隙50によって凝集粒子60の体積変化を抑制することができる。さらに、凝集粒子60の体積が変化した場合であっても、凝集粒子60同士は凝集粒子造粒用結着樹脂40により互いに結着されていないため、負極活物質層20中をある程度自由に移動することができ、負極活物質20全体としての体積変化を抑制することができる。なお空隙50は非水電解液70で満たされていてもよい。
また、図1に示すリチウムイオン電池用負極1では、例えば、図1中、破線bで囲った領域のように凝集粒子60同士が接触することによって、及び、図1中、破線aで囲った領域のように凝集粒子60同士が導電材80を介して接触することによって負極活物質層20内の導電パスが構築されている。
【0019】
本発明のリチウムイオン電池用負極において、珪素及び/又は珪素化合物は、珪素及び珪素化合物を指しており、珪素及び珪素化合物の混合物であってもよい。
【0020】
[一次粒子]
一次粒子は、珪素及び/又は珪素化合物からなる。
珪素化合物としては、酸化珪素(SiOx)、珪素-炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素-アルミニウム合金、珪素-リチウム合金、珪素-ニッケル合金、珪素-鉄合金、珪素-チタン合金、珪素-マンガン合金、珪素-銅合金及び珪素-スズ合金等)等]等が挙げられる。
これらの中では酸化珪素が望ましい。
【0021】
上記の珪素としてはアルドリッチ社及び信越化学工業(株)等から入手できるものを用いることができ、珪素化合物としては(株)大阪チタニウムテクノロジーズ及び信越化学工業(株)等から入手できる一酸化珪素、信越化学工業(株)から入手できる酸化珪素粒子の表面を炭素で被覆したもの[KSC-1064(体積平均粒子径5μm)]等を用いることができる。
また、特開2017-191771号公報及び特開2017-191707号公報等に記載の珪素及び珪素化合物を用いることができる。
【0022】
一次粒子の体積平均粒子径は0.1~20μmであり、0.1~10μmであることが望ましい。
一次粒子の体積平均粒子径が0.1μm未満であると、凝集粒子における一次粒子同士の接触抵抗が増加してしまう。一方、一次粒子の体積平均粒子径が20μmを超えると、凝集粒子の体積平均粒子径が大きくなりすぎてしまい好ましくない。
なお、一次粒子の体積平均粒子径は、凝集粒子造粒用結着樹脂が溶解する溶媒中に凝集粒子を分散させて凝集粒子から一次粒子を分離した後、マイクロトラック法により測定することができる。
【0023】
一次粒子は、その表面の少なくとも一部が被覆用樹脂を含む被覆層によって被覆された被覆一次粒子であってもよい。
一次粒子の周囲が被覆層により被覆されていると、珪素及び/又は珪素化合物の体積膨脹によって凝集粒子が膨脹することを抑制することができ、電極の膨脹抑制に寄与する。なお、一次粒子は負極活物質として機能するため、被覆一次粒子は被覆負極活物質粒子ともいう。
【0024】
被覆層を構成する被覆用樹脂としては、特開2017-054703号公報に非水系二次電池活物質被覆用樹脂として記載されたものを好適に用いることができ、被覆用樹脂及び一次粒子を混合すること等によって被覆一次粒子が得られる。なお、被覆層には必要に応じてさらに導電材料を含んでもよく、後述する樹脂集電体で用いる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0025】
[凝集粒子]
凝集粒子は、一次粒子が凝集粒子造粒用結着樹脂により互いに結着されてなる。
凝集粒子の体積平均粒子径は、一次粒子の体積平均粒子径の200%以上、負極活物質層の厚さの50%以下である。
凝集粒子の体積平均粒子径が一次粒子の体積平均粒子径の200%未満であると、凝集粒子を構成する一次粒子の数が少なすぎて、凝集粒子として充分な機能を発揮しない。一方、凝集粒子の体積平均粒子径が負極活物質層の厚さの50%を超えると、負極活物質層の表面に凝集粒子の形状が反映されてしまい、負極活物質層表面の平滑性が失われる。
【0026】
凝集粒子の粒子分布は特に限定されないが、体積基準における粒子径累積分布曲線における累積10%粒子径(d10ともいう)が1μm以上であることが望ましい。
凝集粒子のd10が1μm以上であるとは、全凝集粒子のうち、粒子径が1μm未満の凝集粒子の個数の割合が10%以上であることを意味する。
粒子径が1μm未満の凝集粒子の割合が10%以上であると、相対的に粒子径の大きい凝集粒子同士の隙間に粒子径1μm未満の凝集粒子が配置されることによって、凝集粒子同士の接触性が良好となる。
一方、凝集粒子のd10が1μm未満である、すなわち粒子径が1μm未満の凝集粒子の割合が10%未満であると、相対的に粒子径の大きい凝集粒子同士に隙間が形成されやすくなり凝集粒子同士の接触性が低下し、内部抵抗が増加してしまうことがある。
なお、凝集粒子の粒子径累積分布曲線はマイクロトラック法によって求めることができる。
【0027】
本発明のリチウムイオン電池用負極において、凝集粒子に占める凝集粒子造粒用結着樹脂の割合は特に限定されないが、凝集粒子の重量に対する凝集粒子造粒用結着樹脂の重量の割合は10~30重量%であることが望ましい。
凝集粒子の重量に対する凝集粒子造粒用結着樹脂の割合が上記範囲であると、凝集粒子の強度が良好となり、凝集粒子の電気抵抗値を低くすることができる。
凝集粒子の重量に対する凝集粒子造粒用結着樹脂の重量の割合が10重量%未満であると、凝集粒子に占める凝集粒子造粒用結着樹脂の重量割合が少なすぎて、一次粒子の体積膨脹による電極の体積変化を抑制しにくくなる。また凝集粒子の重量に対する凝集粒子造粒用結着樹脂の重量の割合が30重量%を超えると、凝集粒子に占める凝集粒子造粒用結着樹脂の重量割合が多すぎて、エネルギー密度が低下してしまう。
【0028】
本発明のリチウムイオン電池用負極において、凝集粒子は、一次粒子及び凝集粒子造粒用結着樹脂に加えてさらに導電助剤を有することが好ましい。
凝集粒子の重量に対する導電助剤の重量の割合は10~50重量%であることがより好ましい。
凝集粒子が導電助剤を有し、導電助剤の重量の割合が上記範囲であると、充分なエネルギー密度を維持しつつ、凝集粒子に優れた導電性を付与することができる。
導電助剤の重量の割合が10重量%未満であると、凝集粒子に充分な導電性を付与できず、内部抵抗が増加してしまうことがある。また導電助剤の重量の割合が50重量%を超えると、凝集粒子に占める一次粒子の割合が相対的に減少し、エネルギー密度が低下してしまう。
【0029】
導電助剤は、導電性を有する材料から選択される。
具体的には、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの導電助剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電助剤の材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0030】
導電助剤の形状及び大きさは特に限定されないが、導電助剤の体積平均粒子径が、凝集粒子を構成する一次粒子の体積平均粒子径の0.001~0.4倍であることが望ましい。
なお、導電助剤の体積平均粒子径は、マイクロトラック法により測定することができる。
【0031】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されている形態であってもよい。
【0032】
導電助剤は、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電助剤が導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0033】
凝集粒子中には、一次粒子及び凝集粒子造粒用結着樹脂、並びに、上述した他の任意の構成のいずれもが配置されていない空隙が存在していてもよい。
凝集粒子中に空隙が存在していると、凝集粒子の体積膨張を抑制しやすくなる。
【0034】
[凝集粒子造粒用結着樹脂]
本発明のリチウムイオン電池用負極において、凝集粒子造粒用結着樹脂は、凝集粒子を構成する一次粒子同士を結着している。
【0035】
凝集粒子造粒用結着樹脂を構成する樹脂のうち好ましいものとしては、(メタ)アクリル酸(共)重合体等が挙げられ、(メタ)アクリル酸(共)重合体を2種以上を併用してもよい。
凝集粒子造粒用結着樹脂が(メタ)アクリル酸(共)重合体であると、凝集粒子の強度に優れるため好ましい。
なお本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を示しており、(共)重合体とは、重合体又は共重合体を示している。
【0036】
(メタ)アクリル酸(共)重合体は、アクリル酸及びメタクリル酸の他に、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチル等を単量体として含んだ共重合体であってもよい。
【0037】
Si系活物質への密着性の観点から、(メタ)アクリル酸(共)重合体におけるアクリル酸及びメタクリル酸の合計重量は、(メタ)アクリル酸共重合体全体の70~100重量%であることが好ましい。
【0038】
凝集粒子造粒用結着樹脂としては、酸価が500~800である(メタ)アクリル酸(共)重合体であることが望ましい。
酸価が上記範囲にある(メタ)アクリル酸(共)重合体を凝集粒子造粒用結着樹脂として用いると、負極活物質粒子及び導電助剤に対する密着性が良好であり、体積変化時に凝集体から負極活物質粒子が欠落することを抑制できる。
【0039】
凝集粒子造粒用結着樹脂として(メタ)アクリル酸(共)重合体を用いる場合、上記の単量体を公知の方法で重合して得られたものを用いてもよく、市場から入手可能な(メタ)アクリル酸(共)重合体を用いてもよい。
市場から入手可能な(メタ)アクリル酸(共)重合体としては、東亜合成(株)製のポリアクリル酸等の他に和光純薬工業(株)製の試薬等を用いることができる。なお、使用できる(メタ)アクリル酸(共)重合体としては、結着剤として販売されているものだけでなく、分散剤として販売しているものも同じように用いることができる。
【0040】
上記の凝集粒子は、凝集粒子の表面の少なくとも一部が被覆層によって被覆された被覆凝集粒子であってもよい。
被覆凝集粒子を構成する被覆層としては、被覆一次粒子を構成する被覆層と同様のものを好適に用いることができ、例えば一次粒子から被覆一次粒子を作成する方法と同様の方法で、凝集粒子から被覆凝集粒子を作成することができる。
【0041】
本発明のリチウムイオン電池用負極において、負極活物質層は上記の凝集粒子を含んでなり、凝集粒子は互いに結着していない非結着体である。
【0042】
負極活物質層の厚さは特に限定されないが、200~600μmであることが望ましい。
【0043】
負極活物質層には、凝集粒子の他に導電材、炭素系負極活物質粒子及び非水電解液等を含んでいてもよい。
導電材としては、凝集粒子の任意成分である導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。なお、導電助剤は上記の凝集粒子を構成する成分であり、凝集粒子に一体に含まれているのに対し、導電材は負極活物質層中に凝集粒子とは別に存在している点で区別することができる。
【0044】
[炭素系負極活物質粒子]
本発明のリチウムイオン電池用負極は、さらに炭素系負極活物質粒子を含んでもよい。
炭素系負極活物質粒子としては、炭素系材料[例えば黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)等が挙げられる。
【0045】
炭素系負極活物質粒子の体積平均粒子径は特に限定されないが、1~40μmであることが望ましい。
また、炭素系負極活物質粒子は、その表面の少なくとも一部が被覆層によって被覆された炭素系被覆負極活物質粒子であってもよい。
炭素系被覆負極活物質粒子を構成する被覆層としては、被覆一次粒子を構成する被覆層と同様のものを好適に用いることができる。
【0046】
炭素系負極活物質粒子及び炭素系被覆負極活物質粒子は、凝集粒子を構成する材料としては用いず、凝集粒子とは別に負極活物質層中に含まれていることが望ましい。
凝集粒子と炭素系負極活物質粒子との合計重量に基づく凝集粒子の重量の割合は特に限定されないが、2~50重量%であることが望ましい。
【0047】
炭素系被覆負極活物質粒子は、上記の被覆一次粒子と同様の方法により得ることができる。被覆層には導電材料を含んでもよく、後述する樹脂集電体を構成する導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0048】
[非水電解液]
非水電解液としては、リチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する非水電解液を使用することができる。
【0049】
電解質としては、公知の非水電解液に用いられているもの等が使用でき、好ましいものとしては、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF及びLiClO等の無機酸のリチウム塩系電解質、LiN(FSO、LiN(CFSO及びLiN(CSO等のフッ素原子を有するスルホニルイミド系電解質、LiC(CFSO等のフッ素原子を有するスルホニルメチド系電解質等が挙げられる。これらの内、高濃度時のイオン伝導性及び熱分解温度の観点から好ましいのはフッ素原子を有するスルホニルイミド系電解質であり、LiN(FSOがより好ましい。LiN(FSOは、他の電解質と併用してもよいが、単独で使用することがより好ましい。
【0050】
非水電解液の電解質濃度は、特に限定されないが、非水電解液の取り扱い性及び電池容量等の観点から1~5mol/Lであることが好ましく、1.5~4mol/Lであることがより好ましく、2~3mol/Lであることがさらに好ましい。
【0051】
非水溶媒としては、公知の非水電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【0052】
ラクトン化合物としては、5員環(γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトン等)及び6員環のラクトン化合物(δ-バレロラクトン等)等を挙げることができる。
【0053】
環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート及びブチレンカーボネート等が挙げられる。
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート及びジ-n-プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0054】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及びプロピオン酸メチル等が挙げられる。
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン及び1,4-ジオキサン等が挙げられる。
鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン及び1,2-ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0055】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)、2-エトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン、2-トリフルオロエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン及び2-メトキシエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記載する)等が挙げられる。
スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等の鎖状スルホン及びスルホラン等の環状スルホン等が挙げられる。
非水溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
非水溶媒の内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのは、ラクトン化合物、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル及びリン酸エステルであり、ニトリル化合物を含まないことが好ましい。更に好ましいのはラクトン化合物、環状炭酸エステル及び鎖状炭酸エステルであり、特に好ましいのは環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合液である。最も好ましいのはエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合液、又は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液である。
【0057】
[負極集電体]
負極集電体としては特に限定されないが、公知の金属集電体及び導電材料と樹脂とから構成されてなる樹脂集電体(特開2012-150905号公報等に記載されている)等を好適に用いることができる。
金属集電体としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン及びこれらの一種以上を含む合金、ならびにステンレス合金からなる群から選択される一種以上の金属材料が挙げられ、これらの金属材料を薄板や金属箔等の形態で用いてもよく、基材表面にスパッタリング、電着、塗布等の手法により上記金属材料を形成したものであってもよい。
【0058】
樹脂集電体を構成する導電材料は、導電性を有する材料から選択される。
具体的には、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの導電材料は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電材料としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電材料の材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0059】
導電材料の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。なお、「導電材料の粒子径」とは、導電材料の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0060】
導電材料の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノフィラー、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されている形態であってもよい。
【0061】
導電材料は、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電材料が導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0062】
樹脂集電体を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0063】
[リチウムイオン電池]
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用負極を用いた電池であり、本発明のリチウムイオン電池用負極の対極となる電極を組み合わせて、セパレータと共にセル容器に収容し、非水電解液を注入し、セル容器を密封する方法等により製造することができる。
また、負極集電体の一方の面だけに負極活物質層を形成した本発明のリチウムイオン電池用負極の、負極集電体の他方の面に正極活物質からなる正極活物質層を形成して双極型電極を作製し、双極型電極をセパレータと積層してセル容器に収容し、非水電解液を注入し、セル容器を密閉することでも得られる。
【0064】
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の微多孔フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
非水電解液としては、本発明のリチウムイオン電池用負極において説明したものを好適に用いることができる。
【0065】
上記のリチウムイオン電池用負極の対極となる電極(正極)は、公知のリチウムイオン電池に用いられる正極を用いることができる。
【0066】
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用負極を備えることを特徴とする。本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用負極を備えているため、エネルギー密度及びサイクル特性に優れる。
【0067】
[リチウムイオン電池用負極の製造方法]
続いて、本発明のリチウムイオン電池用負極を製造する方法について説明する。
本発明のリチウムイオン電池用負極を製造する方法としては、例えば、凝集粒子及び必要により用いる導電材を、水又は溶媒(非水電解液又は非水電解液に用いる非水溶媒等)の重量に基づいて30~60重量%の濃度で分散してスラリー化した分散液を、負極集電体にバーコーター等の塗工装置で塗布後、必要に応じて乾燥して水又は溶媒を除去して得られた負極活物質層を必要によりプレス機でプレスし、必要に応じて得られた負極活物質層に所定量の非水電解液を含浸させる方法が挙げられる。
なお、上記分散液から得られる負極活物質層は、負極集電体上に直接形成する必要はなく、例えば、アラミドセパレータ等の表面に上記分散液を塗布して得られる負極活物質層を、負極集電体と接触するように配置してよい。
また、上記分散液を塗布した後に必要により行う乾燥は、順風式乾燥機等の公知の乾燥機を用いて行うことができ、その乾燥温度は分散液に含まれる分散媒(水又は溶媒)の種類に応じて調整することができる。
上記分散液には、公知のリチウムイオン電池に含まれるポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のバインダを添加しない。上記分散液に公知のリチウムイオン電池用の負極に含まれるバインダを添加してしまうと、負極活物質層において凝集粒子同士が互いに結着されてしまい、非結着体が得られなくなるためである。
従来のリチウムイオン電池用の負極においては、バインダで負極活物質を負極内に固定することで導電経路を維持する必要がある。しかし、凝集粒子を用いた本発明のリチウムイオン電池用負極の場合は、凝集粒子を負極活物質層内に固定することなく導電経路を維持することができるため、バインダを添加する必要がない。バインダを添加しないことによって、凝集粒子が負極内に固定化されないため、一次粒子の体積変化に対する緩和能力が更に良好となる。
【0068】
なお、公知のリチウムイオン電池用バインダとしてはデンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、スチレン-ブタジエンゴム、ポリエチレン及びポリプロピレン等が挙げられるが、これらのリチウムイオン電池用バインダは、本発明のリチウムイオン電池用負極を製造する際の上記分散液を調整する段階で添加しない。
ただし、凝集粒子造粒用結着樹脂を構成する成分としては上記のリチウムイオン電池用バインダを含んでいてもよい。この場合、上記のリチウムイオン電池用バインダは凝集粒子を構成する凝集粒子造粒用結着樹脂となるため、上記分散液を調整する際に添加されるバインダとは明確に区別できる。
【0069】
上記の方法において、乾燥させたスラリーをプレスする際の圧力は、特に限定されないが、圧力が高すぎると負極活物質層に充分な量の空隙を形成することができず、圧力が低すぎると、プレスによる効果がみられないことから、1~200MPaでプレスすることが好ましい。
【0070】
本発明のリチウムイオン電池用負極は、上記分散液が水又は非水溶媒であり、塗布した分散液を乾燥した場合、乾燥後に得られた上記負極活物質層に上記非水電解液を含浸することで得られ、負極活物質層に含浸する非水電解液の重量は、負極活物質層の空隙量と非水電解液の電解質濃度とに応じて調整することができる。
【0071】
上記負極活物質層に対する上記非水電解液の含浸は、上記の方法で形成した負極活物質層の表面にスポイト等を用いて非水電解液を滴下して含浸させる方法等により行うことができる。
【0072】
[凝集粒子の製造方法]
凝集粒子を製造する方法は特に限定されないが、凝集粒子造粒用結着樹脂と一次粒子及び必要により用いる導電助剤とを公知の造粒機(撹拌式造粒機及び圧縮式造粒機等)で混合し、さらに減圧乾燥等により脱溶媒することによって得られた混合物を必要に応じて解砕し、所望の粒子径のものが得られるよう、必要に応じてふるい等で分級すればよい。
【0073】
凝集粒子造粒用結着樹脂と一次粒子と必要により用いる導電助剤との混合においては、溶媒(水及び有機溶剤等)を併用してもよい。
溶媒を併用する場合には、溶媒を凝集粒子造粒用結着樹脂を溶解した樹脂溶液の溶媒として用いて、樹脂溶液と一次粒子と必要により用いる導電助剤とを混合してもよいし、凝集粒子造粒用結着樹脂と一次粒子と必要により用いる導電助剤とを混合するときに溶媒をそのまま添加してよい。
また、併用される溶媒はその全量を樹脂溶液の溶媒としてもよく、樹脂溶液の一部として用いる溶媒とそのまま添加混合する溶媒とに分けて用いてもよい。
【0074】
凝集粒子造粒用結着樹脂と一次粒子と必要により用いる導電助剤・溶媒との混合の方法(順序)は特に制限されず、例えば、下記の(方法1)~(方法6)に記載の方法が挙げられる。
(方法1)それぞれが粉体状態である凝集粒子造粒用結着樹脂と一次粒子と導電助剤とを一括に投入して混合する方法。
(方法2)それぞれが粉体状態である凝集粒子造粒用結着樹脂と一次粒子と導電助剤とを一括に投入して混合した後、さらに撹拌下に溶媒を加えてさらに混合する方法。
(方法3)粉体状態である凝集粒子造粒用結着樹脂を溶媒中に分散させた樹脂溶液中に、粉体状態の一次粒子と導電助剤とを一括に投入して混合する方法。
(方法4)粉体状態である凝集粒子造粒用結着樹脂を溶媒中に分散させた樹脂溶液を撹拌しながら、まず粉体状態の一次粒子を添加混合し、さらに撹拌した後に導電助剤を投入して混合する方法。
(方法5)粉体状態である凝集粒子造粒用結着樹脂を溶媒中に分散させた樹脂溶液を撹拌しながら、まず導電助剤を添加混合し、さらに撹拌した後に粉体状態の一次粒子を投入して混合する方法。
(方法6)粉体状態である凝集粒子造粒用結着樹脂を溶媒中に分散させた樹脂溶液を撹拌しながら、まず粉体状態の一次粒子を添加混合して一次粒子スラリーを得て、その後導電助剤を撹拌しながら上記一次粒子スラリーを滴下又は分割投入して混合する方法。
【0075】
なお上述したように、導電助剤は必要に応じて用いてもよい任意成分であるから、上記(方法1)~(方法6)に記載した方法から導電助剤を添加する工程を除いた方法であっても、本発明のリチウムイオン電池用負極を構成する凝集粒子を得ることができる。なお、導電助剤を添加する工程を除いた(方法4)~(方法6)は実質的に同じものである。
【0076】
上記の(方法3)~(方法4)においては、樹脂溶液と一次粒子と導電助剤との混合物に対してさらに溶媒を添加してもよい。
【0077】
上記の(方法2)~(方法6)において用いる溶媒としては、凝集粒子造粒用結着樹脂を溶解し、かつ使用している負極活物質に対する樹脂溶液の濡れ性が良好であれば特に限定されない。なお、(方法2)~(方法6)において用いる溶媒には、樹脂溶液を構成する溶媒と樹脂溶液とは別に添加する溶媒の両方を含める。
【0078】
上記の樹脂溶液を用いる場合には、樹脂溶液に含まれる凝集粒子造粒用結着樹脂の含有率は、負極活物質粒子、導電助剤への濡れ性の観点から、樹脂溶液の重量に基づいて0.1~60重量%が好ましく、1~40重量%がさらに好ましい。
【0079】
上記の(方法2)において、溶媒と凝集粒子造粒用結着樹脂と一次粒子と導電助剤とを混合する際の固形分濃度は、負極活物質粒子、導電助剤への濡れ性の観点から、溶媒と凝集粒子造粒用結着樹脂と一次粒子と導電助剤との合計重量に基づいて10~90重量%であることが好ましく、30~90重量%がさらに好ましい。
【0080】
上記の(方法2)~(方法6)において、樹脂溶液、一次粒子、導電助剤及び溶剤とを混合する際の固形分濃度は、一次粒子、導電助剤に対する樹脂溶液の濡れ性の観点から、溶媒と凝集粒子造粒用結着樹脂と一次粒子と導電助剤との合計重量に基づいて0.1~90重量%であることが好ましく、0.5~60重量%がさらに好ましい。
【0081】
上記の(方法6)において用いる一次粒子スラリーの固形分濃度は、一次粒子、導電助剤に対する樹脂溶液の濡れ性の観点から、一次粒子スラリーの合計重量に基づいて20~90重量%であることが好ましく、40~80重量%がさらに好ましい。
【0082】
凝集粒子造粒用結着樹脂と一次粒子と導電助剤と溶媒との混合は、公知の混合撹拌装置を用いて行うことができ、撹拌羽根を使用しない容器回転型混合装置であっても撹拌羽根を使用する撹拌型混合装置であってもよい。なかでも撹拌型混合装置が好ましく、二軸撹拌式造粒機等がさらに好ましい。
【0083】
凝集粒子造粒用結着樹脂と一次粒子と導電助剤と溶媒とを混合する工程は、その内容物をサンプリングし、凝集粒子の体積平均粒子径が目的の体積平均粒径となるまで行うことが好ましい。
【0084】
溶媒と凝集粒子造粒用結着樹脂と一次粒子と必要により用いる導電助剤とを混合して凝集粒子を得る場合、混合中、又は混合した後に、必要によりさらに溶媒の留去を行ってよい。混合中に溶媒の留去を行う場合は、混合装置で混合しながら混合装置の内部を減圧及び/又は加熱することで行うことができ、混合後に行う場合には混合後に混合装置の内部を減圧及び/又は加熱すること、又は混合した後の内容物を別の乾燥機に移して減圧及び/又は加熱することによって行うことが出来る。
溶媒を留去する時の混合装置及び乾燥機の圧力及び温度は、使用する溶媒の沸点及び蒸気圧に応じて調整すればよい。
【0085】
混合装置で混合しながら混合装置の内部を減圧及び/又は加熱することで溶媒の留去を行う場合、含まれる溶媒を一気に連続的に留去してもよく、溶媒の一部を留去した時点で溶媒の留去を中断し、所定時間(目的の溶媒が完全に留去されたことを重量変化で確認したのち)の混合を行った後に溶媒の留去を再開することが好ましい。溶媒の一部を留去した時点で溶媒の留去を中断し、所定時間の混合を行った後に溶媒の留去を再開する方法で溶媒の留去を行う場合、溶媒として沸点の異なる溶媒を併用することが好ましい。
【0086】
凝集粒子は、凝集粒子造粒用結着樹脂と一次粒子と必要により用いる導電助剤と必要により用いる溶媒との混合、及び必要により用いる溶媒を必要により留去することで得られるが、得られたものを必要に応じてさらに解砕及び/又は分級を行ってもよい。
【0087】
解砕は、公知の解砕機又は公知の粉体混合機等を用いて行うことができる。
【0088】
分級は、ふるい分け等によって行うことができ、ふるい分けを行う場合には、用いるふるいはその目開きが、凝集粒子の体積平均粒子径が一次粒子の体積平均粒子径の200%以上となり、下記の負極活物質層の厚さの50%以下になる大きさになるように選択される。
【0089】
凝集粒子の体積平均粒子径は、上記解砕の条件及び、ふるい等による分級条件を変更することにより、適宜変更することができる。
また、電極内部での電気的孤立の抑制及び耐久性を向上させる等の観点から、得られた凝集粒子の体積基準における粒子径累積分布曲線における累積10%粒子径は1μm以上であることが好ましい。
【実施例
【0090】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0091】
[樹脂集電体の作製]
2軸押出機にて、ポリプロピレン[商品名「サンアロマーPL500A」、サンアロマー(株)製]70部、カーボンナノチューブ[商品名:「FloTube9000」、CNano社製]25部及び分散剤[商品名「ユーメックス1001」、三洋化成工業(株)製]5部を200℃、200rpmの条件で溶融混練して樹脂混合物を得た。
得られた樹脂混合物を、Tダイ押出しフィルム成形機に通して、それを延伸圧延することで、膜厚100μmの樹脂集電体用導電性フィルムを得た。次いで、得られた樹脂集電体用導電性フィルムを3cm×3cmに切断し、片面にニッケル蒸着を施した後、電流取り出し用の端子(5mm×3cm)を接続した樹脂集電体を得た。
【0092】
[一次粒子の作製]
リチウムイオン電池負極用酸化珪素粒子[信越化学工業(株)製、一次粒子の体積平均粒子径:5μm]を横型加熱炉中に入れ、横型加熱炉内にメタンガスを通気しながら1100℃/1000Pa、平均滞留時間約2時間の化学蒸着操作を行い、炭素含有量が2重量%で、表面が炭素で被覆された酸化珪素粒子(体積平均粒子径6μm)(N-1)を得た。
得られた(N-1)を顕微鏡により拡大観察して凝集体を形成していないことを確認し、これを下記の凝集粒子を得るための一次粒子として用いた。
【0093】
[被覆用樹脂溶液の作製]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF407.9部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸242.8部、メチルメタクリレート97.1部、2-エチルヘキシルメタクリレート242.8部及びDMF116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)4.7部をDMF58.3部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し反応を3時間継続し樹脂固形分濃度50重量%の共重合体溶液を得た。これにDMFを789.8部加えて、樹脂固形濃度30重量%である被覆用樹脂溶液を得た。
【0094】
[炭素系被覆負極活物質粒子の作製]
リチウムイオン電負極用ハードカーボン[JFEケミカル(株)製、体積平均粒子径20μm](N-2)68.2部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、上記被覆用樹脂溶液33.3部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去し、炭素系被覆負極活物質粒子(N-3)を得た。
【0095】
[凝集粒子造粒用結着樹脂(Poly.A~Poly.C)の作製]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF70部を仕込み75℃に昇温した。次いで、アクリル酸90部、メタクリル酸メチル10部及びDMF20部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.26部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.74部をDMF10部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し反応を3時間継続し樹脂固形分濃度50重量%の凝集粒子造粒用結着樹脂Poly.Aの樹脂溶液を得た。
同様に、表3の記載の組成に変更した他はPoly.Aと同じ方法でPoly.B及びPoly.Cの樹脂溶液を得た。
【0096】
<実施例1>
[凝集粒子の作製]
一次粒子である酸化珪素粒子(N-1)60部と凝集粒子造粒用結着樹脂であるポリアクリル酸[和光純薬工業(株)製 PHA(非架橋タイプ)酸価780]の25重量%水分散液80部と、導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラックLi-400:体積平均粒子径48nm]20部を二軸撹拌式造粒機[アキラ機工(株)製 バランスグラン]を用いて2000rpmで10分間混合し、続いて100℃にセットした減圧乾燥機内で3時間加熱することにより溶媒を除去した。
得られた混合物を乳鉢により解砕し、235メッシュ(目開き63μm)のふるいを通過し、635メッシュ(目開き20μm)のふるい上に残ったものを凝集粒子とした。
一次粒子が凝集粒子を形成していることを顕微鏡による拡大観察で確認し、得られた凝集粒子をマイクロトラック法で測定したところ、凝集粒子の体積平均粒子径は45μm(一次粒子の体積平均粒子径の750%)であり、凝集粒子の体積基準における粒子径累積分布曲線における累積10%粒子径(d10)は22μmであった。
【0097】
[負極活物質スラリーの作製]
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSOを2mol/Lの割合で溶解させて作製した非水電解液3000部に上記凝集粒子100部、導電材であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラックLi-400]15部を添加した後、遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて1000rpmで5分間混合して、負極活物質スラリーを作製した。
【0098】
[負極活物質層の作製]
得られた負極活物質スラリーをφ15mmのマスクを装着したφ23mmのアラミド不織布(日本バイリーン製、2415R)上に目付量が20mg/cmとなるように滴下し、裏面から吸引濾過(減圧)することでアラミド不織布上に積層し、さらに5MPaの圧力で約10秒プレスすることで負極活物質層を作製した。
接触式膜厚計で測定した負極活物質層の厚さは225μmであった。
【0099】
[外装材の作製]
端子(5mm×3cm)付き銅箔(3cm×3cm、厚さ17μm)と端子(5mm×3cm)付きカーボンコートアルミ箔(3cm×3cm、厚さ21μm)を、同じ方向に2つの端子が出る向きで順に積層し、それを2枚の市販の熱融着型アルミラミネートフィルム(10cm×8cm)に挟み、端子の出ている1辺を熱融着し、電池外装材を作製した。
【0100】
[電池の作製]
外装材の銅箔上に上記樹脂集電体を配置し、その上にアラミド不織布を剥がした負極活物質層を配置し、非水電解液を100μL添加した。セパレータ(5cm×5cm、厚さ23μm、セルガード2500 ポリプロピレン製)を負極活物質層上に配置し、非水電解液を100μL添加した。リチウム箔と負極活物質層とをセパレータを介して積層し、非水電解液を100μL添加した。さらにリチウム箔上に樹脂集電体を積層し、その上に外装材のカーボンコートアルミ箔が重なるように外装材を被せた。外装材の外周のうち、先に熱融着した1辺に直交する2辺をヒートシールし、さらに真空シーラーを用いてセル内を真空にしながら残る開口部をヒートシールすることでラミネートセルを密封し、本発明のリチウムイオン電池用負極を有する実施例1に係る評価用ハーフセル(以下、評価用電池ともいう)を得た。
【0101】
[電池特性の測定]
作製した評価用電池について、充放電測定装置「HJ0501SM」[北斗電工(株)製]を用いて以下の方法で充放電試験を行い、1回目放電時において1gあたりの珪素及び珪素化合物(以下、まとめて珪素系活物質ともいう)が担った放電容量(珪素系活物質の初回放電容量)及び1回目放電時のハーフセルの放電容量に対する10回目の放電時のハーフセルの放電容量の比率(10サイクル目容量維持率ともいう)を、下記の方法で求めた。結果を表1に示す。
【0102】
(充放電試験の測定条件)
本充放電試験においては、負極にリチウムイオンが挿入されてハーフセルである評価用電池の電位が下がる方向[すなわち、正極に金属リチウムではなく正極活物質を用いた通常のリチウムイオン電池(ハーフセルに対してフルセルともいう)の場合に充電となる電流の方向]を充電とした。試験は下記の通り45℃で行い、充電と放電との間には10分間の休止時間を設けた。
作製した評価用電池を充放電測定装置[北斗電工(株)製 HJ0501SM]にセットし、45℃の条件下で定電流定電圧充電方式により、まず0.05Cの電流で0Vまで充電して10分間の休止を行った。その後0.05Cの電流で1.5Vまで放電して10分間の休止の後に再び0.05Cの電流で0Vまで充電した。その後、前記の10分間の休止時間を挟んで行う0.05Cでの0Vまで充電と0.05Cでの1.5Vまで放電とを繰り返し、合計10回の充放電を行った。
【0103】
(珪素系活物質の初回放電容量)
上述の通り、珪素系活物質の初回放電容量は、1gの珪素系活物質が有する容量を意味し、下記の方法で得られた評価用電池の放電容量から、電極に用いた原料のうちリチウムイオンが挿入反応できる原料である導電助剤が担った放電容量を除した値を電池作製に用いた珪素系活物質の重量で割ることで得た。
なお、評価用電池において導電助剤が担った放電容量は、実施例1において凝集粒子に代えて導電助剤を用いて容量計算用ハーフセルを作製し、評価用電池と同様にして充放電試験を行い、導電助剤1gあたりの容量を求め、その値と評価用電池の作製に用いた導電助剤の評価用電池における重量割合とをかけ算することで算出した。
【0104】
(10サイクル目容量維持率)
下記の計算式で算出した。
10サイクル目容量維持率(%)=[(評価用電池の10回目の放電容量)÷(評価用電池の1回目の放電容量)×100]
【0105】
<実施例2~14及び比較例1~3>
凝集粒子の作製における一次粒子の種類及び添加量、導電助剤の種類及び添加量、凝集粒子造粒用結着樹脂の種類及び添加量、並びに、炭素系負極活物質粒子と併用している場合は炭素系負極活物質粒子の種類及び添加量を表1及び2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の手順で実施例2~14に係るリチウムイオン電池及び比較例1~3に係るリチウムイオン電池を得た。比較例1では、目開き10μmのメッシュを通過した凝集粒子だけを用いたが、得られた凝集粒子の体積平均粒子径は、一次粒子の体積平均粒子径と同一の6μmであった。これは、一次粒子のなかでも粒子径の小さいものが複数個凝集して形成された凝集粒子がメッシュを通過した結果であると考えられる。比較例2では、凝集粒子を形成せず、一次粒子(N-1)をそのまま負極活物質を構成する材料として用いた。比較例3では、目開き20μmのメッシュを通過した凝集粒子だけを用いたが、得られた凝集粒子の体積平均粒子径は10μmであり、一次粒子の体積平均粒子径の200%未満であった。これは、凝集粒子造粒用結着樹脂の添加量が少なく、充分な大きさの凝集粒子がほとんど形成されなかったためと推測される。
実施例2~14及び比較例1~3に係るリチウムイオン電池についても、実施例1と同様に電池特性の測定を行い、珪素系活物質の初回放電容量及び10サイクル目容量維持率を測定した。
ただし、炭素系負極活物質粒子を併用している実施例5~8における珪素系活物質の初回放電容量は、評価用電池の1回目の放電容量から、電極に用いた原料のうちリチウムイオンが挿入反応できる原料である導電助剤と炭素系負極活物質粒子が担った容量をそれぞれ除した値を電池作製に用いた珪素系活物質の重量で割ることで得た。
なお、評価用電池における導電助剤が担った容量は、実施例1における珪素系活物質の初回放電容量の計算と同様に算出し、炭素系負極活物質粒子が担った容量は導電助剤を炭素系負極活物質粒子に代え、導電助剤が担った容量と同様に算出した。
表1及び2における化合物名及び条件等の記載は以下のように対応している。
AB:デンカ製 デンカブラック Li-400
KB:ライオン製 ケッチェンブラック EC300J
PAA:和光純薬工業(株)製 PHA(非架橋タイプ) 酸価780 数平均分子量:約100万
PAA10%架橋体:和光純薬工業(株)製 10CLPAH 酸価740 数平均分子量:約100万
Poly.A:[凝集粒子造粒用結着樹脂の作製]により得られた凝集粒子造粒用結着樹脂
Poly.B:[凝集粒子造粒用結着樹脂の作製]により得られた凝集粒子造粒用結着樹脂
Poly.C:[凝集粒子造粒用結着樹脂の作製]により得られた凝集粒子造粒用結着樹脂
分級条件:[A<X<B]で表す場合、目開き[B]μmのメッシュを通過し、かつ、目開き[A]μmのメッシュを通過しないものであることを意味する。
(N-1):[一次粒子の作製]により得られた一次粒子である酸化珪素粒子(体積平均粒子径:6μm)
(N-2):リチウムイオン電池負極用ハードカーボン[JFEケミカル(株)製、 体積平均粒子径:20μm]
(N-3):(N-2)を用いて作製した炭素系被覆負極活物質粒子(体積平均粒子径:20μm)
(N-4):リチウムイオン電池負極用黒鉛[日立化成(株)製MAGD-20、体積平均粒子径20μm]
(N-5):一次粒子である酸化珪素粒子[Elkem製Silgrain e-Si、体積平均粒子径:2.1μm]
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
表1~3の結果より、体積平均粒子径が、一次粒子の体積平均粒子径の200%以上である凝集粒子を用いた本発明のリチウムイオン電池用負極を用いたリチウムイオン電池は、初回放電特性及び10サイクル目容量維持率に優れることがわかった。このことから、本発明のリチウムイオン電池用負極はエネルギー密度及びサイクル特性に優れることがわかる。さらに実施例5~8の結果から、凝集粒子を炭素系負極活物質と併用した場合であっても、凝集粒子の電池特性の劣化はみられないことがわかった。
また表2~3の結果より、凝集粒子造粒用結着樹脂としてポリアクリル酸やポリアクリル酸以外の重合体を用いることができることもわかった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のリチウムイオン電池用負極は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車及び電気自動車用に用いられる双極型二次電池用及びリチウムイオン二次電池用等の電極として有用である。
【符号の説明】
【0111】
1 リチウムイオン電池用負極
10 負極集電体
20 負極活物質層
30 一次粒子
40 凝集粒子造粒用結着樹脂
50 空隙
60 凝集粒子
70 非水電解液
80 導電材
図1