(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】重金属含有排ガスの処理方法
(51)【国際特許分類】
F23G 7/06 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
F23G7/06 101A
F23G7/06 ZAB
(21)【出願番号】P 2018243590
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】阿部 拓平
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 宏満
(72)【発明者】
【氏名】福田 慎二郎
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-311589(JP,A)
【文献】特開平9-108537(JP,A)
【文献】特開昭56-53730(JP,A)
【文献】特開昭52-91774(JP,A)
【文献】特開昭54-38268(JP,A)
【文献】特開2016-87577(JP,A)
【文献】特開昭54-46172(JP,A)
【文献】特開平10-57755(JP,A)
【文献】特開昭52-33879(JP,A)
【文献】特開2010-189700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23G 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属含有原料を燃焼することにより生じる重金属含有排ガスであって窒素酸化物を含有し且つ前記重金属含有排ガス中の銅の重量が0.07g/m
3以上である重金属含有排ガスに対し、還元剤により脱硝処理を行う重金属含有排ガスの処理方法であって、
前記重金属含有原料を燃焼させる燃焼工程と、
300~700℃の前記重金属含有排ガスに対し、前記還元剤としてアルコールを添加する脱硝工程と、
を有する、重金属含有排ガスの処理方法。
【請求項2】
700~1000℃の前記重金属含有排ガスに対し、前記還元剤として液体アンモニア、アンモニア水および尿素水の少なくともいずれかを添加する第1脱硝工程と、
前記第1脱硝工程後、300~700℃の前記重金属含有排ガスに対し、前記アルコールを添加する第2脱硝工程と、
を有する、請求項1に記載の重金属含有排ガスの処理方法。
【請求項3】
前記重金属含有排ガスの処理方法は、前記重金属含有原料を燃焼するための炉と、前記炉と連通する煙道とを備えた装置により行い、
前記煙道は、前記炉と連通して上方に向けて延在する第1煙道部と、前記第1煙道部と連通して下方に向けて延在する第2煙道部とを備え、
前記第1脱硝工程は前記第1煙道部内にて行い、前記第2脱硝工程は前記第2煙道部内にて行う、請求項2に記載の重金属含有排ガスの処理方法。
【請求項4】
前記アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、またはそれらの誘導体であるアルデヒドもしくはカルボン酸の少なくともいずれかである、請求項1~3のいずれかに記載の重金属含有排ガスの処理方法。
【請求項5】
前記重金属含有排ガス中の銅の濃度が3.0g/m
3以上である、請求項1~4のいずれかに記載の重金属含有排ガスの処理方法。
【請求項6】
前記重金属含有原料は廃電子機器を含み、
前記燃焼工程は金属製錬炉にて行われる、請求項1~5のいずれかに記載の重金属含有排ガスの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属含有排ガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼により生じる燃焼排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOまたはNO2、以降NOxと称する。)を分解する際に触媒を使用しない無触媒脱硝法が知られている。無触媒脱硝法とは、燃焼排ガスに対して還元剤(例えばアンモニア水や尿素水)を添加する(更に具体的には吹き込む)ことにより、窒素酸化物を還元して分解し、脱硝するという方法である(例えば特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-74515号公報
【文献】特開2006-289326号公報
【文献】特開2013-94765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記無触媒脱硝法に際し、Cu、Pb、Zn、Feといった重金属またはその化合物(特にCuを例示、Cu単体もその化合物もまとめて“Cuを含有”と称する。)が、燃焼排ガス中における粉塵および煙の少なくともいずれかとして共存していると、燃焼排ガスに対する脱硝率すなわちNOx除去率が著しく低下することを、本発明者らは知見した。以降、粉塵のことをダストとも称し、煙のことをヒュームとも称する。両者における固形分のことを単に“固形分”と称する。
【0005】
本発明の目的は、銅を含有する重金属含有排ガスに対して脱硝処理を効果的に行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、
重金属含有原料を燃焼することにより生じる重金属含有排ガスであって窒素酸化物を含有し且つ前記重金属含有排ガス中の銅の濃度が0.07g/m3以上である重金属含有排ガスに対し、還元剤により脱硝処理を行う重金属含有排ガスの処理方法であって、
前記重金属含有原料を燃焼させる燃焼工程と、
300~700℃の前記重金属含有排ガスに対し、前記還元剤としてアルコールを添加する脱硝工程と、
を有する、重金属含有排ガスの処理方法である。
【0007】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
700~1000℃の前記重金属含有排ガスに対し、前記還元剤として液体アンモニア、アンモニア水および尿素水の少なくともいずれかを添加する第1脱硝工程と、
前記第1脱硝工程後、300~700℃の前記重金属含有排ガスに対し、前記アルコールを添加する第2脱硝工程と、
を有する。
【0008】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の発明において、
前記重金属含有排ガスの処理方法は、前記重金属含有原料を燃焼するための炉と、前記炉と連通する煙道とを備えた装置により行い、
前記煙道は、前記炉と連通して上方に向けて延在する第1煙道部と、前記第1煙道部と連通して下方に向けて延在する第2煙道部とを備え、
前記第1脱硝工程は前記第1煙道部内にて行い、前記第2脱硝工程は前記第2煙道部内にて行う。
【0009】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様に記載の発明において、 前記アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、またはそれらの誘導体であるアルデヒドもしくはカルボン酸の少なくともいずれかである。
【0010】
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれかの態様に記載の発明において、
前記重金属含有排ガス中の銅の濃度が3.0g/m3以上である。
【0011】
本発明の第6の態様は、第1~第5のいずれかの態様に記載の発明において、
前記重金属含有原料は廃電子機器を含み、
前記燃焼工程は金属製錬炉にて行われる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、銅を含有する重金属含有排ガスに対して脱硝処理を効果的に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る重金属含有排ガスの処理方法を行う装置の概略図である。
【
図2】
図2は、各実施例および各比較例の試験装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態について説明する。本明細書における「~」は所定の数値以上かつ所定の数値以下を指す。また、天地の天の方向を上方、天地の地の方向を下方とする。
【0015】
本実施形態に係る重金属含有排ガスの処理方法は、重金属含有原料を燃焼することにより生じる重金属含有排ガスであって窒素酸化物を含有し且つ重金属含有排ガスにおける銅の濃度が0.07g/m3以上である重金属含有排ガスに対し、還元剤により脱硝処理を行うものである。そのうえで少なくとも以下の工程を有する。
・前記重金属含有原料を燃焼させる燃焼工程
・300~700℃(好ましくは400~600℃)の前記重金属含有排ガスに対し、前記還元剤としてアルコールを添加する脱硝工程
【0016】
前記各工程を行えるのならば、本実施形態に係る重金属含有排ガスの処理方法を行う装置には特に限定は無い。例えば金属製錬炉または金属や化学プラントの加熱炉等を用いてもよい。
【0017】
また、前記装置の用途に応じて重金属含有原料の種類も変わるが、重金属含有原料の種類には特に限定は無い。例えば、重金属含有原料として、既に廃棄された電子機器を採用してもよい。電子機器には、通常、重金属が使用された電子部品が搭載された配線基板が備わっている。本実施形態の一例では、金属製錬炉にて廃電子機器を燃焼させて熔融金属(後に回収)とし、それと共に重金属含有排ガスが発生する。ただその場合、燃焼ではなく溶錬と称することが多い。本実施形態における燃焼工程には、非鉄製錬の溶錬工程における、1000℃以上における原料の酸化加熱処理も含む。
【0018】
本明細書における重金属とは、鉄以上の比重を有する金属のことを指し、例えば、Cu、Pb、Zn、Feが挙げられる。本明細書における重金属含有原料とは、重金属単体またはその化合物(本実施形態においては銅(Cu)含有の場合を例示)を含有する原料のことを指す。また、重金属含有排ガスも、重金属単体またはその化合物を(例えばダストやヒューム中の微粒子すなわち固形分として)含有する原料のことを指す。
【0019】
本実施形態においては、重金属含有原料は廃電子機器を含むものを採用し、且つ、前記燃焼工程は金属製錬炉にて行い、前記脱硝工程は金属製錬炉と連通するボイラーにて行う場合を例示する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る重金属含有排ガスの処理方法を行う装置1の概略図である。
【0021】
前記装置1には、重金属含有原料を燃焼するための炉2と、炉2と連通するボイラー3とが備わっている。
【0022】
前記炉2には、重金属含有原料を炉2内に投入するための原料投入口21と、燃焼のための酸素、空気、燃料等を炉2内に添加するためのガス等添加口22とが備わっている。
【0023】
また、前記ボイラー3は、炉2と連通して上方に向けて延在する第1ボイラー部31と、第1ボイラー部31と連通して下方に向けて延在する第2ボイラー部32とを備える。ボイラー3により、重金属含有排ガスの熱を回収する。
【0024】
なお、前記ボイラー3のようにボイラーとしての機能を備えたものではなく、それ以外の機能を備えた煙道または単なる煙道としても構わないが、重金属含有排ガスの熱を回収してそれを他工程に利用することが効率的である。ただ、前記第1ボイラー部31は第1煙道部としてボイラーの機能を備えさせつつ、前記第2ボイラー部32の代わりに、ダクトまたはダストチャンバー部を設け、第2煙道部としても構わない。つまり、前記ボイラー3の一部を、ボイラーとしての機能以外の機能を備えた煙道としてもよい。本明細書においてはボイラー、ダクト、ダストチャンバー部等を含めて「煙道」と称する。本実施形態においては前記ボイラー3を例示する。
【0025】
重金属含有原料を燃焼することにより生じた重金属含有排ガスは、前記炉2と連通する第1ボイラー部31を下方から上方に向けて進む(
図1中の白抜き矢印)。第1ボイラー部31の長尺方向の途中に、第1還元剤噴霧機構4を設ける。また、第1ボイラー部31の長尺方向の端すなわち天板近傍に、重金属含有排ガスの温度を調整するための水噴霧機構(不図示)を設けてもよい。
【0026】
そして、第1ボイラー部31を通過した重金属含有排ガスは、第1ボイラー部31と連通する第2ボイラー部32を上方から下方に向けて進む(
図1中の白抜き矢印)。第2ボイラー部32の長尺方向の途中に、第2還元剤噴霧機構5を設ける。
【0027】
第1還元剤噴霧機構4は、第1還元剤貯留部41と、第1還元剤を移送する第1ポンプ42と、雰囲気を取り込む第1エアー取込部43と、第1ボイラー部31の内部を通過する重金属含有排ガスに第1還元剤を吹き付ける第1ノズル44と、を備える。第1ノズル44は単数でもよいし複数でもよい。なお、
図1中では、第1ボイラー部31の長尺方向に沿って複数設けているが、それと共にまたはそれに代えて、第1ボイラー部31の内周に沿って第1ノズル44を複数設けてもよい。
【0028】
第2還元剤噴霧機構5は、第2還元剤貯留部51と、第2還元剤を移送する第2ポンプ52と、雰囲気を取り込む第2エアー取込部53と、第1ボイラー部31を通過した後に第2ボイラー部32の内部を通過する重金属含有排ガスに第2還元剤を吹き付ける第2ノズル54と、を備える。第2ノズル54は単数でもよいし複数でもよい。なお、
図1中では、第2ボイラー部32の長尺方向に沿って複数設けているが、それと共にまたはそれに代えて、第2ボイラー部32の内周に沿って第2ノズル54を複数設けてもよい。
【0029】
なお、本実施形態のボイラー3は、炉2と連通して上方に向けて延在する第1ボイラー部31と、第1ボイラー部31と連通して下方に向けて延在する第2ボイラー部32とを備える場合を例示したが、そうでなくともよい。
例えば、炉2と連通して水平方向(例えば
図1の右方)に向けて延在する第1ボイラー部と、逆の水平方向(例えば
図1の左方)に向けて延在する第2ボイラー部を備えてもよい。
また、ボイラーを、炉2と連通して下方に向けて延在した後に上方に向けて延在させてもよい。
【0030】
第1ボイラー部31を通過した重金属含有排ガスは、第2ボイラー部32に沿って下方へとUターンする。このUターンをスムーズに行うべく、第1ボイラー部31から第2ボイラー部32へとに移行する部分には、内径が徐々に大きくなるテーパー33を設ける。
【0031】
第2ボイラー部32から先は、公知の排ガス処理機構を設け、公知の排ガス処理に係る工程を行っても構わない。最終的には煙突(不図示)から外界に排ガスが排出される。
【0032】
以下、燃焼工程および脱硝工程について詳述する。
【0033】
燃焼工程においては重金属含有原料を燃焼する。燃焼工程を行うことにより重金属含有排ガスが生じ、第1ボイラー部31内を上昇し、その後、第2ボイラー部32内を下降する。重金属含有排ガス温度は、第2ボイラー部32の側壁に設けられた温度計にて計測する。この計測結果を基に、第2ボイラー部32の長尺方向(上下方向)に沿って設けた複数のノズル54のうち、重金属含有排ガスが、無触媒脱硝法において最適な温度域である300~700℃となっている部分のノズルを稼働させる。これにより、重金属含有排ガスに対して還元剤であるアルコールを添加する脱硝工程を行う。
【0034】
脱硝工程においては、無触媒にて還元剤であるアルコールにより脱硝処理を行う。この「無触媒」とは、脱硝の際に(更に具体的に言うとアルコールが重金属含有排ガスと接触してNOxが分解する際に)別途触媒は存在させないことを指す。言い方を変えると、アルコールが重金属含有排ガスと接触するタイミングの前後において、脱硝以外の用途として触媒含有フィルター等を第1ボイラー部31および第2ボイラー部32の少なくともいずれかに設けることは妨げない。
【0035】
脱硝工程の一具体例としては、第1脱硝工程と第2脱硝工程を設けることが挙げられる。
【0036】
第1脱硝工程としては、700~1000℃の温度域の重金属含有排ガスに対する、第1還元剤噴霧機構4におけるノズル44による第1還元剤の吹き付けが挙げられる(
図1中の第1ボイラー部31内の黒矢印)。
【0037】
先に述べた脱硝工程(後掲の第2脱硝工程に該当)と同様に、第1脱硝工程においても、重金属含有排ガス温度は、第1ボイラー部31の側壁に設けられた温度計にて計測する。この計測結果を基に、第1ボイラー部31の長尺方向(上下方向)に沿って設けた複数のノズル44のうち、重金属含有排ガスが、無触媒脱硝法において最適な温度域である700~1000℃となっている部分のノズルを稼働させる。これにより、重金属含有排ガスに対して第1還元剤を添加する第1脱硝工程を行う。
【0038】
第1還元剤の種類には特に限定は無いが、液体アンモニア、アンモニア水および尿素水の少なくともいずれか(特に尿素水)が挙げられる。これらの化合物は、700~1000℃の温度域の重金属含有排ガスに対して脱硝効果が高い。
【0039】
第2脱硝工程としては、本実施形態の大きな特徴の一つであるところの、300~700℃(好ましくは400~600℃)の温度域の重金属含有排ガスに対する、第2還元剤噴霧機構5におけるノズル54による第2還元剤の吹き付けが挙げられる(
図1中の第2ボイラー部32内の黒矢印)。
【0040】
第2還元剤は、本実施形態においてはアルコールとする。このアルコールの種類には特に限定は無いが、メタノール、エタノール、プロパノール、またはそれらの誘導体であるアルデヒドもしくはカルボン酸の少なくともいずれかが挙げられる。これらの化合物は、300~700℃(好ましくは400~600℃)の温度域の重金属含有排ガスに対して脱硝効果が高い。
【0041】
なお、本実施形態のボイラー3を採用することにより、以下の有利な効果がある。すなわち、炉2から生じたばかりであって第1ボイラー部31を通過する温度の高い重金属含有排ガスは、前記第1還元剤(例えば尿素水)による脱硝にとって最適な温度すなわち700~1000℃となりやすい。
しかも、第1ボイラー部31を通過した重金属含有排ガスは、炉2から離れるため、第2ボイラー部32にて幾ばくか冷却され、前記第2還元剤であるアルコールによる脱硝にとって最適な温度すなわち300~700℃(好ましくは400~600℃)となりやすい。
以上の通り、本実施形態のボイラー3を採用することにより、各還元剤における最適な温度の重金属含有排ガスに対し、2段階にわたり脱硝処理を行うことが可能となる。
もちろん、第1還元剤噴霧機構4のノズル44を第2ボイラー部32に取り付けたり、逆に、第2還元剤噴霧機構5のノズル54を第1ボイラー部31に取り付けたり、両噴霧機構を一方のボイラー部にまとめて取り付けることも可能ではあるが、前記理由により、
図1にて図示する本実施形態の態様が好ましい。また、前記第2還元剤噴霧機構5のみすなわち前記第2脱硝工程のみを設けても構わないが、2段階にわたり脱硝処理を行う方が脱硝率向上という点では好ましい。
【0042】
本実施形態での例示すなわち重金属含有原料は廃電子機器を含み且つ前記燃焼工程は金属製錬炉で行う場合、重金属含有排ガスにおけるNOx濃度は50~400ppmである。そして、各還元剤の添加量は、NOxの1.0倍モル以上としてもよい。いずれにせよ、本実施形態の手法ならば、該手法を適用しない場合に比べ、重金属含有排ガスに対してであっても有効に各脱硝工程を行える。
【0043】
また、後述の実施例の項目にて示すように、前記燃焼工程にて生じた前記重金属含有排ガスにおける銅の濃度が0.07g/m3以上(特に3.0g/m3以上)である場合、本実施形態がもたらす効果すなわち重金属含有排ガスに対する無触媒での脱硝処理を顕著に効果的に行える。なお、重金属含有排ガスにおける銅の濃度(g/m3)の求め方としては、例えば、燃焼工程開始から終了まで(または一定時間内)の全ガス量と、燃焼工程開始から終了まで(または一定時間内)において外界に排ガスを排出する煙突(不図示)に至る途中に設けられたバグフィルター(不図示)にて捕集された固形分中の銅の重量と、から銅の濃度(g/m3)を得ることが挙げられる。
【0044】
また、重金属含有排ガス中の固形分における銅品位(重量%、以降同様)が高いほど脱硝率が低下する。つまり、前記燃焼工程にて生じた前記重金属含有排ガス中の銅品位が0.1%以上(特に4%以上)である場合、本実施形態がもたらす効果すなわち重金属含有排ガスに対する無触媒での脱硝処理を顕著に効果的に行うことが可能となる。
【0045】
なお、重金属含有排ガス中の銅品位は、例えばICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析装置にて求めればよい。
【0046】
以上の各工程により、銅を含有する重金属含有排ガスに対して脱硝処理を効果的に行うことが可能となる。
【0047】
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0048】
例えば、前記燃焼工程において、重金属含有原料とは別の炭化水素をガス等添加口22から添加しつつ前記重金属含有原料を燃焼させてもよい。つまり、該炭化水素は、重金属含有原料の燃焼の際に、重金属含有原料とは別に添加される。前記炭化水素の種類には特に限定は無いが、LNG、重油、メタンおよびプロパンの少なくともいずれか(特にLNG)が挙げられる。この炭化水素は燃料を兼ねてもよい。なお、本明細書におけるLNGとは、メタン(CH4)を最も多く(主成分として)含有しつつ、エタン(C2H5)、プロパン(C3H7)、n-ブタン(n-C4H10)、イソブタン(i-C4H10)、2-メチルブタン(i-C5H12)などのその他飽和炭化水素成分も含有する液化天然ガスのことを指す。また、LNGのことを、メタンを主成分とする炭化水素ガスと呼んでも差し支えない。
【実施例】
【0049】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載のない内容は、前記本実施形態で述べた内容と同様とする。
【0050】
<実施例1~7、比較例1~2>
各実施例および各比較例は、実際の炉2ではなく、炉2内およびボイラー3内を模した装置にて試験を行った。
図2は、各実施例および各比較例の試験装置の概略図である。
図2に示すように、まず、石英管内に、実際の重金属含有排ガスに含有される固形物(ダスト)を配置した。該ダストの組成を以下に示す。以下の結果は、ICP発光分光分析装置(型番SPS5100、SIIナノテクノロジー株式会社社製、以降同様)による測定を行った結果であり、単位は重量%である。
【表1】
【0051】
その際、セラミックハニカムをくり抜いて耐熱綿を敷いた容器内に該ダストを充填し、この容器ごと石英管内に収めた。この石英管内に、N2-NOの混合ガスと酸素ガスとを流入させ、試験用ガスとした。つまり今回の試験では、石英管を部分的に覆うシリコニットヒーターの稼働により高温となった試験用ガス中に配置されたダストが、後述の第2還元剤により脱硝されるかどうかを試験した。なお、セラミックハニカムを使用した理由は、この試験用ガスに対するダストの接触面積を大きくするためである。
【0052】
試験用ガス流量は一律に2.2L/minとした。この流量の試験用ガスに対してダストの量を十分とすべく、ダストの量は5.0gとした。ガス流量、ダストの量、Cu品位から、重金属含有排ガスにおける銅の濃度(g/m3)を求めた。その結果、重金属含有排ガスにおける銅の濃度は42g/m3であった。
【0053】
そして、各実施例および各比較例においては、シリコニットヒーターを稼働させた後、還元剤の流動性を高めて十分にダストに還元剤が届くようにすべく還元剤を水で希釈した脱硝用水溶液を、チューブポンプを用い、ムライト管を介して石英管内に送り込み、脱硝を行った。
【0054】
なお、各実施例においては、本実施形態で言うところの第2還元剤である各種アルコールの希釈液を使用し、試験用ガスの温度を本実施形態にて規定した300~700℃の範囲内とした。
その一方、各比較例においては、本実施形態で言うところの第1還元剤である尿素水を使用し、試験用ガスの温度を300~700℃から外れた範囲とした。
そして、各種アルコールおよび尿素水の添加量は、試験用ガス内のNOxの1.0倍モル以上とした。
脱硝率の算出に関しては、反応管からの流出ガスに対し、赤外線式ガス分析計(ホダカ株式会社製HT-2300)を用いてNOx濃度を連続測定し、還元剤添加前と添加後の窒素酸化物の濃度差から脱硝率を算出した。NOxの測定方式には非分散型赤外吸収法を採用した。また、酸素についても連続測定し、その測定方式には磁気風式を採用した。なお、本来ならば、NOx濃度は酸素濃度への依存性があるため、NOx濃度を酸素濃度にて除したうえでNOx濃度の減少度合いを百分率にて示すべきところであるが、今回の試験はラボスケールであることから前記ガス分析計の値をそのまま採用した。
【0055】
実施例1では、試験用ガスの一酸化窒素濃度を919ppm、酸素濃度(重量%、以降同様)を4.5%、試験用ガス温度を403℃、還元剤として2-プロパノールを水で5倍希釈したものを使用し、還元剤の供給量は9ml/hとした。脱硝率は32.2%だった。
実施例2では、試験用ガスの一酸化窒素濃度を837ppm、酸素濃度を4.7%、試験用ガス温度を503℃、還元剤として2-プロパノールを水で5倍希釈したものを使用し、還元剤の供給量は9ml/hとした。脱硝率は25.4%だった。
実施例3では、試験用ガスの一酸化窒素濃度を831ppm、酸素濃度を4.9%、試験用ガス温度を599℃、還元剤として2-プロパノールを水で5倍希釈したものを使用し、還元剤の供給量は9ml/hとした。脱硝率は12.9%だった。
実施例4では、試験用ガスの一酸化窒素濃度を912ppm、酸素濃度を4.7%、試験用ガス温度を500℃、還元剤として2-プロパノールを水で10倍希釈したものを使用し、還元剤の供給量は9ml/hとした。脱硝率は10.5%だった。
実施例5では、試験用ガスの一酸化窒素濃度を922ppm、酸素濃度を4.6%、試験用ガス温度を488℃、還元剤として2-プロパノールを水で10倍希釈したものを使用し、還元剤の供給量は18ml/hとした。脱硝率は25.0%だった。
実施例6では、試験用ガスの一酸化窒素濃度を952ppm、酸素濃度を4.4%、試験用ガス温度を500℃、還元剤として2-プロパノールを水で20倍希釈したものを使用し、還元剤の供給量は36ml/hとした。脱硝率は18.7%だった。
実施例7では、試験用ガスの一酸化窒素濃度を918ppm、酸素濃度を5.0%、試験用ガス温度を500℃、還元剤としてエタノールを20倍希釈したものを使用し、還元剤の供給量は5ml/hとした。脱硝率は31.5%だった。
【0056】
比較例1では、試験用ガスの一酸化窒素濃度を918ppm、酸素濃度を5.8%、試験用ガス温度を900℃、還元剤として尿素水(濃度304g/l)を使用し、還元剤の供給量は15ml/hとした。脱硝率は-47.7%だった。
比較例2では、試験用ガスの一酸化窒素濃度を911ppm、酸素濃度を4.1%、試験用ガス温度を900℃、還元剤として尿素水(濃度304g/l)を使用し、還元剤の供給量は35ml/hとした。脱硝率は-75.1%だった。
【0057】
各実施例および各比較例における試験条件および脱硝率をまとめたものが以下の表2である。
【表2】
【0058】
<結果>
各実施例では、Cu品位が高いにもかかわらず、各比較例に比べ、良好な脱硝率を実現できた。
各比較例では、良好な脱硝率を実現できないどころか、尿素水のアンモニアがリークしてしまい脱硝率がマイナスとなった。つまり、比較例1~2では、尿素水を噴霧しても窒素酸化物が除去されず、逆に上昇した。この理由は、尿素中のアンモニアが酸化されて窒素酸化物が生成されたためである。
【符号の説明】
【0059】
1…装置
2…炉
21…原料投入口
22…ガス等添加口
3…ボイラー
31…第1ボイラー部
32…第2ボイラー部
33…テーパー
4…第1還元剤噴霧機構
41…第1還元剤貯留部
42…第1ポンプ
43…第1エアー取込部
44…第1ノズル
5…第2還元剤噴霧機構
51…第2還元剤貯留部
52…第2ポンプ
53…第2エアー取込部
54…第2ノズル