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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】排水処理装置及び排水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/28 20060101AFI20220829BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20220829BHJP
   C02F 3/10 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
C02F3/28 B
C02F3/28 Z
C02F1/28 D
C02F3/10 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018244876
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020104057
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】長田 啓司
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-169086(JP,A)
【文献】特開昭61-249598(JP,A)
【文献】特開平04-180896(JP,A)
【文献】特開昭62-004498(JP,A)
【文献】特開2013-208563(JP,A)
【文献】特開2003-071453(JP,A)
【文献】特開2012-110821(JP,A)
【文献】特開2017-127827(JP,A)
【文献】米国特許第04735724(US,A)
【文献】特開2018-083139(JP,A)
【文献】特開2000-237785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28- 3/34
C02F 3/02- 3/10
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水を嫌気処理する排水処理装置において、
気性微生物と互いに比重の異なる複数種類の多孔質体が積層されている処理槽を備え
前記多孔質体は、嫌気処理の阻害物質を吸着する吸着材であり、
前記嫌気性微生物と前記複数種類の多孔質体の積層状態は、前記嫌気性微生物と前記複数種類の多孔質体の比重差により形成することを特徴とする、排水処理装置。
【請求項2】
前記複数種類の多孔質体のいずれの比重に対して、前記嫌気性微生物の比重が小さいことを特徴とする、請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記複数種類の多孔質体のうち、少なくとも1種類の多孔質体は、活性炭であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記複数種類の多孔質体により形成された領域は、酸生成領域であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の排水処理装置。
【請求項5】
排水を嫌気処理する排水処理方法において、
嫌気性微生物と互いに比重の異なる複数種類の多孔質体が積層されている処理槽内に酸生成工程を行う領域と嫌気処理工程を行う領域が積層された状態で処理を行い、
前記多孔質体により、嫌気処理の阻害物質を吸着し、
前記嫌気性微生物と前記複数種類の多孔質体の積層状態は、前記嫌気性微生物と前記複数種類の多孔質体の比重差により形成することを特徴とする、排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気処理を行う排水処理装置及び排水処理方法に関するものである。特に、一槽式で嫌気処理を行う排水処理装置及び排水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機物を含む排水を処理する方法として、種々の微生物を利用した生物処理が知られている。特に、嫌気的な環境下での生物処理(以下、「嫌気処理」と呼ぶ)は、曝気動力が不要で、余剰汚泥がほとんど発生しないことなど、導入に係るメリットが高いことが挙げられる。
【0003】
このような嫌気処理としては、メタン発酵処理が知られている。メタン発酵処理は、嫌気的な環境下における嫌気性微生物の働きにより、排水中の有機物をメタンと二酸化炭素に分解する嫌気処理であり、処理コストや生成ガスの有用性の観点から、嫌気処理として広く用いられている。
【0004】
特許文献1には、有機性排水の処理方法として、有機性排水を有機酸発酵する酸発酵(酸生成)工程と、酸発酵工程により得られた酸発酵液に対して、希釈及び固液分離を行った後、分離液をメタン発酵するメタン発酵工程を有する処理方法が記載されている。また、特許文献1には、酸発酵工程後の酸発酵液に対して希釈及び固液分離を行うことで、アンモニア性窒素(NH-N)濃度を下げ、メタン発酵に対する阻害を防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-152721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているように、メタン発酵を伴う嫌気処理は、排水中の有機物を低分子化する酸生成工程と、低分子化された有機物を分解してメタンガスを生成するメタン生成工程が含まれており、それぞれの工程を行うために生物処理槽を酸生成槽及びメタン生成槽の2つに分け、二槽式の排水処理装置とすることが一般的である。また、特許文献1に記載された排水処理においては、メタン発酵工程の阻害を防止するために、希釈に係る設備及び固液分離に係る設備を備えるとともに、pH調整のための設備やガス回収に係る設備等の付帯設備が必要となる。したがって、生物処理槽を複数設けることは排水処理装置としての規模が大きくなるという問題がある。
【0007】
一方、装置の省スペース化のために、嫌気処理を一槽式の排水処理装置で行おうとする場合、特に酸生成工程とメタン生成工程からなるメタン発酵処理では、原排水や酸生成処理が十分に行われていない排水がメタン生成菌に対して直接接触することになる。しかし、このような排水にはアンモニアのようにメタン発酵を阻害する物質が含まれるため、メタン生成菌によるメタン発酵処理が進まないという問題がある。
【0008】
本発明の課題は、嫌気処理を行う排水処理装置において、省スペース化を可能とするとともに、阻害物質による嫌気処理の阻害を軽減し、処理効率を向上させることができる排水処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、嫌気処理を行う排水処理装置において、多孔質体と嫌気性微生物を積層することで、一槽内で嫌気処理を効率的に行うことができることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の排水処理装置及び排水処理方法である。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の排水処理装置は、排水を嫌気処理する排水処理装置において、多孔質体と嫌気性微生物が積層されている処理槽を備えるという特徴を有する。
本発明の排水処理装置によれば、処理槽内に多孔質体と嫌気性微生物を積層することで、多孔質体により形成された領域では、嫌気処理の阻害物質を除去するとともに、一部の嫌気性微生物を付着させる担体として機能させることが可能となる。また、多孔質体により形成された領域を通過した排水が嫌気性微生物により形成された領域に供給されることで、阻害物質が低減するとともに、嫌気処理が一部進行した排水に対して嫌気処理を行うことができる。これにより、一つの処理槽内で嫌気処理を進行させ、かつ阻害物質による嫌気処理の阻害を軽減することができるため、排水処理装置としての省スペース化と嫌気処理の効率向上が可能となる。
【0011】
また、本発明の排水処理装置の一実施態様としては、多孔質体の比重に対して、嫌気性微生物の比重が小さいという特徴を有する。
この特徴によれば、処理槽内に多孔質体及び嫌気性微生物を供給した際に、特段の操作を必要とせず、多孔質体の層の上に嫌気性微生物の層が形成された積層状態とすることが可能となる。
【0012】
また、本発明の排水処理装置の一実施態様としては、多孔質体は、活性炭であるという特徴を有する。
この特徴によれば、嫌気処理の阻害物質を除去する吸着剤としての機能及び一部の嫌気性微生物を付着・担持させる担体としての機能に優れた多孔質体を用いることができる。これにより、排水処理装置全体としての処理効率を向上させることが可能となる。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の排水処理装置は、排水を嫌気処理する排水処理装置において、酸生成領域と嫌気処理領域が積層されている処理槽を備えるという特徴を有する。
本発明の排水処理装置によれば、処理槽内に酸生成領域と嫌気処理領域を積層することで、一つの処理槽内で嫌気処理を進行させることができる。また、排水中の成分のうち、嫌気処理を阻害する高分子有機物は酸生成領域における酸生成処理により低減する。したがって、排水処理装置としての省スペース化を可能とするとともに、阻害物質による嫌気処理の阻害を軽減し、嫌気処理の効率向上が可能となる。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の排水処理方法は、排水を嫌気処理する排水処理方法において、酸生成工程を行う領域と嫌気処理工程を行う領域が積層された状態で処理を行うという特徴を有する。
本発明の排水処理方法によれば、酸生成工程を行う領域と嫌気処理工程を行う領域が積層された状態で嫌気処理を行うことで、処理槽が一つであっても嫌気処理を進行させることができる。また、排水中の成分のうち、嫌気処理を阻害する高分子有機物は、酸生成領域における酸生成処理により低減する。したがって、排水処理における省スペース化を可能とするとともに、阻害物質による嫌気処理の阻害を軽減し、嫌気処理の効率向上が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、嫌気処理を行う排水処理装置において、省スペース化を可能とするとともに、阻害物質による嫌気処理の阻害を軽減し、処理効率を向上させることができる排水処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施態様に係る排水処理装置の概略説明図である。
図2】本発明の第2の実施態様に係る排水処理装置の概略説明図である。
図3】本発明の第2の実施態様に係る排水処理装置における仕切り板の拡大説明図 である。
図4】本発明の第3の実施態様に係る排水処理装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の排水処理装置は、有機物を含む排水の嫌気処理において好適に利用されるものである。
【0018】
処理対象である有機物を含む排水とは、食品工場、化学工場、紙パルプ工場等の各種工場から排出される工業排水や下水などの生活排水が挙げられる。なお、有機物を含む排水はこれに限定されるものではなく、嫌気性下で生物処理が可能な有機物を含む排水であれば、本発明の処理対象となる。このような排水としては、例えば、家畜糞尿、汚泥(余剰汚泥)を含む有機性排水などが挙げられる。
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る排水処理装置及び排水処理方法の実施態様を詳細に説明する。なお、実施態様に記載する排水処理装置については、本発明に係る排水処理装置を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。また、本実施態様に記載する排水処理方法についても、本発明に係る排水処理装置を用いた排水処理方法を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0020】
[第1の実施態様]
図1は、本発明の第1の実施態様の排水処理装置の概略説明図である。
本発明に係る排水処理装置1aは、図1に示すように、排水WOを導入して嫌気処理を行う処理槽2を備えるものである。また、処理槽2に対して排水WOを導入するための導入配管であるラインL1と、処理槽2から排出される処理水W1を系外に排出するための排出配管であるラインL2を有している。ここで、処理槽2内には、多孔質体Pと嫌気性微生物Mが積層されている。なお、図1の矢印は水の流れを示すものである。
【0021】
処理槽2は、排水WOを嫌気処理するための反応槽である。図1に示すように、処理槽2の下部に設けられたラインL1を介して排水WOが処理槽2に供給される。処理槽2では、内部に収容する嫌気性微生物Mにより、排水WO中に含まれる成分の分解が行われる。嫌気処理後の処理水W1は、処理槽2の上部に設けられたラインL2を介して処理槽2から排出される。なお、処理槽2は、密閉系とし、嫌気的環境を維持することが好ましい。
【0022】
処理槽2には、多孔質体Pと嫌気性微生物Mが積層されている。図1に示すように、処理槽2の底部から見て、多孔質体P、嫌気性微生物Mの順に積層されており、排水WOはラインL1から処理槽2内に供給された後、多孔質体P、嫌気性微生物Mの順に通過し、処理水W1としてラインL2から処理槽2外に排出される。なお、排水WOが処理槽2内で安定した上向流を形成するように、ラインL1又はラインL2にポンプを設けるものとしてもよい(不図示)。
【0023】
多孔質体Pは、多数の細孔を有する材料であればよく、例えば、活性炭、ゼオライト、シリカ、珪藻土、カオリンなどの無機吸着剤や、ゲル状吸着剤、PVAなどの有機吸着剤が挙げられる。特に、多孔質体Pとしては、嫌気性微生物Mによる嫌気処理を阻害する阻害物質を吸着する能力に加えて、嫌気性微生物Mを保持する能力が高いものを用いることが好ましい。このような多孔質体Pとしては、活性炭が挙げられる。
【0024】
また、多孔質体Pの形態(形状、サイズ等)としては、特に限定されない。例えば、微粒子として用いるものであってもよく、成形体として用いるものであってもよい。成形体の形状としては、例えば、球状、ペレット状、ハニカム状、小円筒状、チューブ状、立方体状、直方体状等が挙げられる。また、複数の形状を組み合わせるものであってもよい。
【0025】
嫌気性微生物Mは、有機物を嫌気処理することができる微生物であればよく、微生物の具体的な種類については特に限定されない。例えば、嫌気処理としてメタン発酵処理を行う場合、嫌気性微生物Mとしては酸生成菌及びメタン生成菌を用いるものとする。その他の嫌気性微生物Mとしては、硝酸・亜硝酸の還元を行う脱窒処理に用いられる脱窒菌や、硫酸の還元を行う硫酸還元処理に用いられる硫酸還元菌等が挙げられる。
【0026】
本実施態様の嫌気性微生物Mとしては、単離された微生物を用いるものであってもよく、他の排水処理設備等からの種汚泥を用いるものであってもよい。また、排水WO中に含まれる嫌気性微生物Mを活用するものであってもよい。
【0027】
また、嫌気性微生物Mの形態としては、特に限定されないが、例えばグラニュールと呼ばれる直径0.3~3mm程度の微生物の造粒物を用いるものとすることが挙げられる。グラニュールは、自己固定化作用(Self-immobilization)を利用した微生物塊であり、高い菌体濃度を維持することが可能である。したがって、嫌気性微生物Mとしてグラニュールを用いることで、嫌気性微生物Mを高濃度に維持した層が処理槽2内に形成される。
【0028】
本実施態様における多孔質体Pと嫌気性微生物Mは、それぞれの比重が異なるものを用いる。これにより、多孔質体Pと嫌気性微生物Mを処理槽2に導入することで、特段の操作を必要とせず、処理槽2内において多孔質体Pの層と嫌気性微生物Mの層が自然に積層状態を形成する。本実施態様における排水処理装置1aのように、処理槽2において排水WOが上向流で通過する場合、多孔質体Pの比重に対して、嫌気性微生物Mの比重が小さくなるような組み合わせのものを用いる。これにより、処理槽2内で、多孔質体Pの層の上に嫌気性微生物Mの層が形成された積層状態とすることが可能となる。
【0029】
多孔質体Pと嫌気性微生物Mの組み合わせを選択する手段については、特に限定されない。例えば、それぞれの比重を直接測定あるいは算出することが可能な場合においては、得られた比重の値に基づき、多孔質体Pと嫌気性微生物Mの組み合わせを選択するものとしてもよい。また、それぞれの比重が直接測定あるいは算出できない場合においては、試験的に多孔質体Pと嫌気性微生物Mを混合し、二層に分離する組み合わせを選択し、処理槽2に投入するようにしてもよい。
【0030】
また、本実施態様における排水処理装置においては、多孔質体Pと嫌気性微生物Mの比重の差により積層状態を形成するため、排水WOの上向流の速度を通常処理時における速度よりも大きくすることにより、多孔質体Pと嫌気性微生物Mを一時的に撹拌して多孔質体Pへの嫌気性微生物Mの付着を促した後、通常処理時の速度に戻すことで多孔質体Pと嫌気性微生物Mが積層した状態へ容易に戻すことが可能である。これにより、多孔質体P周辺における嫌気性微生物Mによる嫌気処理効率を向上させ、処理槽2全体における処理効率を向上させることが可能となる。
【0031】
処理槽2内に投入する多孔質体Pの使用量と嫌気性微生物Mの使用量の比率は、特に限定されない。例えば、排水WO中に含有される成分の種類や有機物濃度に応じて決定するものとしてもよく、嫌気処理効率と投入する多孔質体P及び嫌気性微生物Mの使用量に係る処理コストとのバランスに応じて決定するものであってもよい。
【0032】
本実施態様における排水処理装置を用いた排水処理方法として、メタン発酵処理を行う場合について説明する。
処理槽2でメタン発酵処理を行う場合、処理槽2内部に収容する酸生成菌により、排水WO中の糖、蛋白質及び油分などの固体や高分子有機物を分解して、単糖類、アミノ酸、低級脂肪酸及び酢酸を生成する酸生成工程と、処理槽2内部に収容するメタン生成菌により、排水WO中の単糖類、アミノ酸、低級脂肪酸及び酢酸等の炭素源からメタンを生成するメタン生成工程により、メタン発酵が進行する。
【0033】
処理槽2内に供給された排水WOは、まず多孔質体Pと接触することで、排水WO中に含まれる嫌気性微生物Mの働きを阻害する阻害物質が除去される。なお、除去対象となる阻害物質は特に限定されないが、具体的な例としては、硫黄、アンモニア、油脂(脂肪酸)などが挙げられる。また、排水WO中の成分によっては、高濃度の有機酸が存在(あるいは発生)することで、嫌気性微生物Mの働きを阻害することも考えられる。このような場合においても、多孔質体Pによって有機酸を吸着し、排水WO中の有機酸濃度を低減させることで、嫌気性微生物Mの働きを阻害する阻害物質を除去することが可能となる。
【0034】
また、多孔質体Pに対して嫌気性微生物M(特に酸生成菌)が付着し、保持されることで、多孔質体Pは嫌気性微生物Mの担体としても機能する。これにより、多孔質体P周辺において排水WO中の有機物の分解が起こり、酸生成工程が進行する。つまり、多孔質体Pにより形成された領域は、酸生成領域となり、従来のメタン発酵処理における酸生成槽と同様の機能を有するものになる。
【0035】
多孔質体Pと接触した排水WOは、その後、嫌気性微生物Mと接触する。ここで、嫌気性微生物Mとして、酸生成菌及びメタン生成菌が含まれる。したがって、排水WO中の有機物に対して、酸生成工程及びメタン生成工程が進行し、メタン発酵処理が行われる。つまり、嫌気性微生物Mにより形成された領域は、嫌気処理領域として機能する。
【0036】
このように、一つの処理槽内に多孔質体Pと嫌気性微生物Mの積層状態を形成し、排水WOをまず多孔質体Pに接触させることで、嫌気性微生物Mの働きを阻害する阻害物質を除去することが可能となる。また、多孔質体Pが嫌気性微生物Mを保持する担体としても機能することで、多孔質体Pにより形成された領域は酸生成菌を高濃度に保持した酸生成領域となり、排水WO中の有機物の分解及び酸生成が行われる。その後、酸生成処理された排水WOは、嫌気性微生物Mにより形成された領域からなる嫌気処理領域に導入され、酸生成処理により生成した生成物等を炭素源として、メタン発酵処理が進行する。
【0037】
以上のように、有機物を含む排水のメタン発酵処理において本実施態様の排水処理装置及び排水処理方法を用いることで、一槽式の処理槽内で、メタン発酵処理における阻害物質を除去し、かつ酸生成工程を介してメタン生成工程に供給される炭素源を増やすことができる。これにより、嫌気処理を行う排水処理装置及び排水処理方法において、省スペース化を可能とするとともに、嫌気処理全体の効率を向上させることが可能となる。
【0038】
なお、本実施態様における処理槽2は、さらに付帯する各種設備を設けることができる。例えば、処理槽2に、内部の水温調整手段、pH調整剤の投入手段、微生物が必要とする栄養源である窒素、リン、コバルト及びニッケル等の金属類を添加する手段を備えたものとしてもよい。特に、嫌気処理として酸生成菌及びメタン生成菌によるメタン発酵を行う場合、処理槽2に付帯する設備として、メタンガスの回収、精製及び貯留を行う手段を備えるものとすることが好ましい。また、処理槽2内の上部に、メタンガス、処理水及び固体(多孔質体Pや嫌気性微生物Mの凝集体等)を分離する分離装置を備えることが好ましい。
また、本実施態様において、嫌気処理として酸生成菌及びメタン生成菌によるメタン発酵について説明したが、これに限定されるものではなく、他の微生物による嫌気処理を行うものとしてもよい。
【0039】
[第2の実施態様]
図2は、本発明の第2の実施態様の排水処理装置1bの概略説明図である。
本実施態様に係る排水処理装置1bは、図2に示すように、第1の実施態様の排水処理装置1aにおいて、処理槽2内に仕切り板3を設けるものである。また、仕切り板3は、多孔質体Pと嫌気性微生物Mの間に設けられるものである。
なお、本実施態様における排水処理装置1bの構成のうち、第1の実施態様の排水処理装置1aの構成と同じものについては、説明を省略する。
【0040】
仕切り板3は、多孔質体Pで形成される領域と嫌気性微生物Mで形成される領域を区画するためのものである。これにより、多孔質体Pにより形成される酸生成領域と、嫌気性微生物Mにより形成される嫌気処理領域の境界をより明確化し、それぞれの領域における処理効果を向上させることが可能となる。
なお、本実施態様における嫌気性微生物Mとしては、グラニュールなどの凝集体を形成しているものが好ましい。また、多孔質体Pとしては、嫌気性微生物M(グラニュールなどの凝集体)よりも大きいサイズの成形体を用いることが好ましい。これにより、仕切り板3による多孔質体Pと嫌気性微生物Mの区画がより容易となる。
【0041】
仕切り板3としては、多孔質体Pと嫌気性微生物Mを区画し、かつ排水WOが通過できるものであればよく、材質や形状などの具体的な構造については特に限定されない。
以下、本実施態様の排水処理装置1bにおける仕切り板3について例示する。なお、以下の例示は、本実施態様における仕切り板3の一実施態様を示すものにすぎず、これに限定されるものではない。
【0042】
図3は、本実施態様の排水処理装置1bにおける仕切り板3近傍の拡大説明図である。
例えば、図3(A)に示すように、仕切り板3として、多孔質体P及び嫌気性微生物Mの両方とも通過できず、液体(排水WO)のみ通過可能な材質又は形状からなるものが挙げられる。このような仕切り板3としては、多孔質体P及び嫌気性微生物Mの大きさよりも小さい孔を有する通水性材料を用いることが挙げられる。具体的には、例えば、樹脂フィルム、多孔質セラミック、不織布などが挙げられる。
ここで、処理槽2に設けた仕切り板3によって上下方向に形成された区画に対し、多孔質体Pと嫌気性微生物Mをそれぞれ別々のライン(ラインL3、ラインL4)から処理槽2に導入することで、多孔質体Pと嫌気性微生物Mからなる領域を完全に区画することが可能となる。なお、ラインL3又はラインL4は、本実施態様の排水処理装置1bにおけるラインL1と兼用するものであってもよい。
【0043】
また、仕切り板3の別の態様としては、図3(B)に示すように、多孔質体Pは通過できないが、嫌気性微生物M及び液体(排水WO)は通過可能な材質又は形状からなるものが挙げられる。このような仕切り板3としては、多孔質体Pの成形体の大きさよりも小さい孔あるいはメッシュを有する網目構造からなる材料を用いることが挙げられる。具体的には、例えば、金属又は非金属からなるネットや、スポンジ状物質が挙げられる。
ここで、多孔質体P及び嫌気性微生物MをラインL1から処理槽2に導入した際に、多孔質体Pは仕切り板3の下部側に蓄積し、仕切り板3の網目構造を透過した嫌気性微生物Mは、多孔質体Pの上部に積層する。これにより、仕切り板3により多孔質体Pからなる領域と嫌気性微生物Mからなる領域を区画することが可能となる。
【0044】
本実施態様における排水処理装置1bにより、多孔質体Pにより形成される酸生成領域と、嫌気性微生物Mにより形成される嫌気処理領域を区画することで、それぞれの領域における処理効率を向上させ、嫌気処理全体としての処理効率を向上させることが可能となる。また、本実施態様の排水処理装置1bを用い、第1の実施態様において記載した排水処理方法と同様の工程に基づき、排水処理を行うことができる。
【0045】
[第3の実施態様]
図4は、本発明の第3の実施態様の排水処理装置1cの概略説明図である。
本実施態様に係る排水処理装置1cは、図4に示すように、第1の実施態様の排水処理装置1aにおいて、複数の多孔質体P1及びP2を用いるものである。
なお、本実施態様における排水処理装置1cの構成のうち、第1の実施態様の排水処理装置1aの構成と同じものについては、説明を省略する。
【0046】
本実施態様における多孔質体P1及びP2は、互いの性質が異なるものであればよく、性質としては、材質の種類、サイズ、比重などが挙げられる。例えば、多孔質体P1の比重よりも多孔質体P2の比重が小さいものを用い、処理槽2の底部から、多孔質体P1、多孔質体P2、嫌気性微生物Mの順に積層するように形成することで、多孔質体P1及びP2により形成される酸生成領域と、嫌気性微生物Mによる形成される嫌気処理領域を区画することが可能となる。また、このような多孔質体P1及びP2の比重の差を生じさせる手段としては、多孔質体P1及びP2として異なる材質のものを用いることや、同一材質を用いて成型時の充填率を変化させることによるもの等が挙げられる。
【0047】
本実施態様における排水処理装置1cにより、多孔質体Pにより形成される酸生成領域と、嫌気性微生物Mにより形成される嫌気処理領域を区画することで、それぞれの領域における処理効率を向上させ、嫌気処理全体としての処理効率を向上させることが可能となる。また、本実施態様の排水処理装置1cを用い、第1の実施態様において記載した排水処理方法と同様の工程に基づき、排水処理を行うことができる。
【0048】
なお、上述した実施態様は排水処理装置及び排水処理方法の一例を示すものである。本発明に係る排水処理装置及び排水処理方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る排水処理装置及び排水処理方法を変形してもよい。
【0049】
例えば、本実施態様の排水処理装置及び排水処理方法においては、処理槽の下部から上部に向けて排水を通過させる上向流式を示しているが、処理槽の上部から下部に向けて排水を通過させる下向流式としてもよい。
このとき、多孔質体と嫌気性微生物の積層については、多孔質体の比重に対して嫌気性微生物の比重を大きくすることによるものとしてもよい。この場合、嫌気性微生物の比重を多孔質体の比重よりも大きくするため、処理槽内には嫌気性微生物が高濃度に維持された層が形成される。これにより、排水の嫌気処理の効率を向上させることが可能となる。
また、多孔質体と嫌気性微生物の積層に係る別の態様としては、処理槽内の中段に多孔質体を固定する固定部を設け、固定部の下側に嫌気性微生物の層が形成されるようにするものとしてもよい。これにより、層を形成する嫌気性微生物の一部が水中を浮遊しても、多孔質体及び固定部により処理槽内に留められるため、嫌気処理時における嫌気性微生物の流出を抑制することが可能となる。
【0050】
また、本実施態様の排水処理装置において、嫌気性微生物の流出を抑制するために、嫌気性微生物により形成された領域の上方に流出抑制機構を設けるものとしてもよい。このような流出抑制機構として、例えば、第2の実施態様における仕切り板の構成を用いることが挙げられる。これにより、処理槽内での多孔質体と嫌気性微生物の積層状態を保ち、かつ嫌気性微生物が処理槽外に流出することを抑制することが可能となる。
【0051】
また、本実施態様の排水処理装置における嫌気性微生物の態様として、嫌気性微生物をポリビニルアルコールのゲル等に固定した担体を、本実施態様の嫌気性微生物として用いてもよい。これにより、用いた担体の比重から、本実施態様の嫌気性微生物の比重を推計することができ、比重の測定又は算出が容易となる。また、用いた担体のサイズを本実施態様の嫌気性微生物のサイズとして扱うことができ、仕切り板を介した多孔質体との積層に係る区画が容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の排水処理装置及び排水処理方法は、有機物を含む排水の嫌気処理に利用される。特に、本発明の排水処理装置及び排水処理方法は、有機物を含む排水のメタン発酵処理に対して好適に利用される。
【符号の説明】
【0053】
1a,1b,1c 排水処理装置、2 処理槽、3 仕切り板、L1~L4 ライン、M 嫌気性微生物、P,P1,P2 多孔質体、WO 排水、W1 処理水
図1
図2
図3
図4