(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】電気活性部品の誘電絶縁化方法
(51)【国際特許分類】
H01B 3/56 20060101AFI20220829BHJP
C07C 205/08 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
H01B3/56
C07C205/08
(21)【出願番号】P 2018557008
(86)(22)【出願日】2017-05-03
(86)【国際出願番号】 EP2017060555
(87)【国際公開番号】W WO2017191198
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-04-03
(32)【優先日】2016-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ファーブル, ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ハルディングハウス, フェルディナント
(72)【発明者】
【氏名】パーニス, ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】ハッセンスタブ-リーデル, ゼバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ベッカーズ, ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】スタインハウアー, ジモン
(72)【発明者】
【氏名】ニッセン, ヤン ヘンドリック
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-113199(JP,A)
【文献】特開昭59-155341(JP,A)
【文献】国際公開第2014/096460(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/56
C07C 205/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気活性部品の誘電絶縁化方法であって、前記電気活性部品が、一般式(I):
R
1R
2R
3C-NO
2(I)
(式中、R
1
がフッ素であり、R
2
が水素、フッ素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールであり、およびR
3が水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールである)の化合物からなる、これから本質的になる、またはこれを含む絶縁媒体を含む気密ハウジング内に配置される、方法。
【請求項2】
R
3がCF
3である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
R
2がCF
3またはFである、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物がCF
3-CF
2-NO
2または(CF
3)
2CF-NO
2である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記絶縁媒体中の前記一般式(I)の化合物の濃度が、少なくとも1体積%である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1種の一般式(I):
R
1R
2R
3C-NO
2(I)
(式中、R
1
がフッ素であり、R
2
が水素、フッ素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールであり、およびR
3が水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールである)の化合物と、不活性ガス、全フッ素化または部分フッ素化ケトン、全フッ素化または部分フッ素化エーテル、全フッ素化または部分フッ素化ジアルキルペルオキシド、全フッ素化または部分フッ素化エステル、全フッ素化または部分フッ素化シアノ化合物および炭化水素化合物からなる群から選択される少なくとも1つのさらに別の化合物とからなる、これらから本質的になる、またはこれらを含む組成物。
【請求項7】
CF
3-CF
2-NO
2および/または(CF
3)
2CF-NO
2と、不活性ガス、全フッ素化または部分フッ素化ケトン、全フッ素化または部分フッ素化エーテル、全フッ素化または部分フッ素化ジアルキルペルオキシド、全フッ素化または部分フッ素化エステル、全フッ素化または部分フッ素化シアノ化合物および炭化水素化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物とからなる、これらから本質的になる、またはこれらを含む、請求項
6に記載の組成物。
【請求項8】
CF
3-CF
2-NO
2および/または(CF
3)
2CF-NO
2と、空気、合成空気、空気成分、N
2、O
2、CO
2、N
2O、He、Ne、Ar、XeまたはSF
6からなる群から選択される少なくとも1つの化合物とからなる、これらから本質的になる、またはこれらを含む請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
電気エネルギーの発生、分配、および/または使用のための装置であって、前記装置が気密ハウジングの中に配置されている電気活性部品を含み、前記気密ハウジングが、少なくとも1種の一般式(I):
R
1R
2R
3C-NO
2(I)
(式中、R
1
がフッ素であり、R
2
が水素、フッ素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールであり、およびR
3が水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールである)の化合物からなるか、これから本質的になるか、もしくはこれを含む絶縁媒体を含有するか;または請求項
6~
8のいずれか1項に記載の組成物からなるか、これから本質的になるか、もしくはこれを含む絶縁媒体を含有する、装置。
【請求項10】
前記絶縁媒体がCF
3-CF
2-NO
2および/または(CF
3)
2CF-NO
2からなるか、これから本質的になるか、またはこれを含む、請求項
9に記載の装置。
【請求項11】
前記絶縁媒体中の前記一般式(I)の化合物の濃度が少なくとも1体積%である、請求項
9または
10に記載の装置。
【請求項12】
一般式(I):
R
1R
2R
3C-NO
2(I)
(式中、R
1
がフッ素であり、R
2
が水素、フッ素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールであり、およびR
3が水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールである)の化合物の使用。
【請求項13】
前記化合物が、CF
3-CF
2-NO
2および/または(CF
3)
2CF-NO
2である、請求項
12に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のフッ化ニトロアルカンを使用する電気活性部品の誘電絶縁化方法、ならびにそのような化合物を含む組成物および装置に関する。
【0002】
液体または気体状態の誘電絶縁媒体は、例えば開閉装置または変圧器などの多種多様な電気装置における電気活性部品の絶縁のために利用されている。
【0003】
誘電絶縁媒体としてはSF6とN2との混合物が広く利用されている。これまでに、代替の誘電絶縁媒体を提供するために努力されてきた。
【0004】
国際公開第2014/096414号明細書は、例えばフッ化エーテルおよび過酸化物などの特定のフッ化化合物を使用する、電気活性部品の誘電絶縁化方法に関する。
【0005】
本発明の目的は、電気活性部品の電気絶縁のための改善された方法および/または組成物を提供することである。
【0006】
有利なことには、本発明の方法および組成物は、改善された絶縁、アーク消滅および/またはスイッチング性能を示す。同様に有利なことには、本発明の方法および組成物は、例えば改善された地球温暖化係数(GWP)および/または改善されたオゾン層破壊によって測定されるように、絶縁媒体が大気中へ放出された場合に有利な環境影響を示す。同様に有利なことには、本発明の方法および組成物は、例えばより高いLC50および/またはより高い職業暴露限度(Occupational Exposure Limit)によって測定される、改善された毒性学的挙動を示す。さらに、この方法および組成物は、有利なことには改善された露点、蒸気圧、沸点、絶縁耐力、および/または絶縁媒体の熱安定性を示す。加えて、本発明による組成物は、有利なことには、例えば電気活性部品のために使用される構成材料に対して改善された化学的不活性および/または改善された伝熱特性を示す。
【0007】
これらのおよび他の目的は、特許請求の範囲に概要が述べられる本発明によって解決される。
【0008】
したがって、本発明の第1の態様は、電気活性部品の誘電絶縁化方法であって、電気活性部品が、一般式(I):R1R2R3C-NO2(式中、R1およびR2が独立に水素、フッ素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールであり、およびR3が水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールである)の化合物からなる、これから本質的になる、またはこれを含む絶縁媒体を含む気密ハウジング内に配置される。好ましくは、R1はフッ素である。同様に好ましくは、R3はCF3である。同様に好ましくは、R2はCF3またはFである。具体的には、化合物は、CF3CF2-NO2または(CF3)2CF-NO2である。
【0009】
「フッ素置換」という用語は、少なくとも1つの水素原子が1つのフッ素原子によって置き換えられた基を意味することが意図されている。
【0010】
「アリール」という用語は、芳香族核、特にはC6~C10の芳香族核、特にはフェニルまたはナフチルなどから誘導される一価のラジカルを意味することが意図されている。アリール基は、任意選択的には置換されていてもよく、例えば少なくとも1つのアルキル基で置換されていてもよい。
【0011】
用語「アルキル」は、特にはC1~C6アルキルなどの、任意選択的に置換されていてもよい飽和の一価炭化水素ラジカルを意味することが意図されている。例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、ペンチル、イソペンチル、およびヘキシルを挙げることができる。アルキルは、例えば、ハロゲン、アリール、またはヘテロアリールによって任意選択的に置換されていてもよい。好ましいアルキル基はメチルである。用語「アルキル」にはシクロアルキル基も包含される。シクロアルキル基は、任意選択的に置換されていてもよい飽和炭化水素を主体とする基の環である。例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルを挙げることができる。
【0012】
用語「アルケニル」は、EまたはZのいずれかの立体化学の(該当する場合)1つ以上の炭素-炭素二重結合を有する、直鎖または分岐の非環状一価炭化水素ラジカルを意味することが意図されている。この用語には、例えばビニル、アリル、1-ブテニル、2-ブテニル、および2-メチル-2-プロペニルが含まれる。
【0013】
用語「アルキニル」は、2~6個の炭素原子と、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合とを有し、任意選択的には1つ以上の炭素-炭素二重結合を有していてもよい、直鎖または分岐鎖の一価炭化水素ラジカルを意味することが意図されている。例としては、エチニル、プロピニル、および3,4-ペンタジエン-1-イニルが挙げられる。
【0014】
本明細書で用いられる用語「から本質的になる」は、明記されるような成分ならびに微量での他の成分を含む組成物であって、他の成分の存在が明記される主題の本質的な特性を変えない組成物を意味することを意図する。
【0015】
好ましくは、フッ素置換アルキルは全フッ素化アルキルである。したがって、フッ素置換アルキル中の全ての水素原子がフッ素原子によって置き換えられている。したがって、フッ素置換アルキルは、全フッ素化メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、イソブチル、n-ブチルまたはtert-ブチル、n-ペンチルまたはイソペンチル基からなる群から選択することができ、最も好ましくは、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、およびへプタフルオロイソプロピル、特にCF3から選択することができる。
【0016】
好ましくは、絶縁媒体中の一般式(I)の化合物の濃度は、少なくとも1体積%、より好ましくは少なくとも2.5体積%、最も好ましくは少なくとも5体積%である。一般式(I)の化合物と他の成分との混合物が使用される場合、有利には、濃度は95体積%以下、より好ましくは85体積%以下、最も好ましくは75体積%以下である。
【0017】
本発明の枠組みの中では、単数形は複数形を含むことが意図されており、逆もまた同様である。
【0018】
したがって、本発明の別の態様は、電気活性部品の誘電絶縁化方法であって、電気活性部品が、一般式(II):R1R2R3C-NO(式中、R1が水素、フッ素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールであり、およびR2およびR3が独立に水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールである)の化合物からなる、これから本質的になる、またはこれを含む絶縁媒体を含む気密ハウジング内に配置される。好ましくは、R1はフッ素である。同様に好ましくは、R2またはR3はCF3である。同様に好ましくは、R2およびR3はCF3である。具体的に、化合物は(CF3)2CF-NOである。
【0019】
本発明による化合物は、商業的に得ることができるかまたはS.Andreades,Journal of Organic Chemistry,1962(27),pp.4157-4162,S.Andreades,Journal of Organic Chemistry,1962(27),pp.4163-4170および/またはドイツ特許出願公開第3305201A1号明細書に記載されるように調製することができる。あるいは、(CF3)2CF-NO2は、ヘキサフルオロプロペンとFNO2との反応で調製することができる。
【0020】
本発明の別の態様は、相当するハロゲン誘導体とNOとの置換反応で本発明のニトロソ化合物を調製する方法である。例えば、(CF3)2CF-NOは、(CF3)2CF-IとNOとの反応によって調製することができる。好ましくは、この反応は、反応体が気体形態で存在している温度で溶媒の非存在下で行われる。同様に好ましくは、反応は照射下で、より好ましくはキセノン高圧紫外線ランプによる照射下で行われる。
【0021】
本発明の別の態様は、相当するハロゲン誘導体とNO2との置換反応で本発明のニトロ化合物を調製する方法である。例えば、(CF3)2CF-NO2は、(CF3)2CF-IとNO2との反応によって調製することができる。好ましくは、この反応は、反応体が気体形態で存在している温度で溶媒の非存在下で行われる。同様に好ましくは、反応は照射下で、より好ましくはキセノン高圧紫外線ランプによる照射下で行われる。
【0022】
さらに、ニトロ化合物は、相当するニトロソ化合物の酸化によって調製することができる。適した酸化剤には、特に過酸化水素:尿素(1:1)付加物の形態の過酸化水素、酸素およびオゾンならびにそれらの混合物が含まれる。例えば、(CF3)2CF-NO2は、(CF3)2CF-NOと、酸素およびオゾンの混合物との反応によって調製することができる。好ましくは、反応は溶媒の非存在下にて実施される。同様に好ましくは、それは溶媒の存在下で行われる。好ましい溶媒はジクロロメタンである。
【0023】
有利には、反応は、反応体および/または試薬の固体吸収剤の存在下で行われる。適した固体吸収剤の例には、シリカゲル、酸化アルミニウム、酸化セリウム、ゼオライトおよびそれらの組合せが含まれる。特に好ましいのはシリカゲルである。
【0024】
好ましくは、本発明の方法で使用される絶縁媒体は、式(I)または(II)の化合物と、不活性ガス、全フッ素化もしくは部分フッ素化されているケトン、全フッ素化もしくは部分フッ素化されているエーテル、全フッ素化もしくは部分フッ素化されているジアルキルペルオキシド、全フッ素化もしくは部分フッ素化されているエステル、全フッ素化もしくは部分フッ素化されているシアノ化合物、および炭化水素化合物からなるリストから選択される少なくとも1種の別の化合物と、を含む。より好ましくは、少なくとも1種の化合物は、空気、合成空気、空気成分、N2、O2、CO2、N2O、He、Ne、Ar、Xe、およびSF6からなる群から選択される不活性ガスであり;好ましくは少なくとも1種の化合物はN2である。
【0025】
好ましくは、組成物中の一般式(I)または(II)の化合物の濃度は、少なくとも1体積%、より好ましくは少なくとも2.5体積%、最も好ましくは少なくとも5体積%である。一般式(I)の化合物と他の成分との混合物が使用される場合、有利には、濃度は95体積%以下、より好ましくは85体積%以下、最も好ましくは75体積%以下である。
【0026】
用語「不活性ガス」は、本発明による化合物と反応しない気体を意味することを意図する。好ましくは、不活性ガスは、空気、合成空気、空気成分、N2、O2、CO2、N2O、He、Ne、Ar、Xe、またはSF6からなるリストから選ばれ;より好ましくは、不活性ガスはN2である。
【0027】
好ましくは、少なくとも1つの化合物は、全フッ素化もしくは部分フッ素化されているケトンである。用語「ケトン」は、2個の炭素原子がカルボニル基の炭素に結合した状態で少なくとも1つのカルボニル基を組み込んでいる化合物を意味することを意図する。それは、飽和化合物ならびに二重結合および/または三重結合を含む不飽和化合物を包含するものとする。ケトンの少なくとも部分的にフッ素化されているアルキル鎖は、直鎖または分岐であってもよい。用語「ケトン」はまた、環状炭素骨格を持った化合物も包含するものとする。用語「ケトン」は、追加の鎖中ヘテロ原子、例えば、炭素骨格の一部であるおよび/または炭素骨格に結合している少なくとも1つのヘテロ原子を含んでもよい。より好ましくは、少なくとも1つの化合物は、全フッ素化ケトンである。好適な全フッ素化ケトンの例としては、1,1,1,3,4,4,4-ヘプタフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-ブタン-2-オン;1,1,1,3,3,4,4,5,5,5-デカフルオロペンタン-2-オン;1,1,1,2,2,4,4,5,5,5-デカフルオロペンタン-3-オン、1,1,1,4,4,5,5,5,-オクタフルオロ-3-ビス-(トリフルオロメチル)-ペンタン-2-オン;最も好ましくはヘプタフルオロイソプロピル-トリフルオロメチル-ケトンが挙げられる。
【0028】
同様に好ましくは、少なくとも1つの化合物は、全フッ素化もしくは部分フッ素化されているエーテルである。用語「エーテル」は、少なくとも1つの「-C-O-C-」部分を組み込んでいる化合物を意味することを意図する。とりわけ好適な例としては、ペンタフルオロ-エチル-メチルエーテルおよび2,2,2-トリフルオロエチル-トリフルオロメチルエーテルが挙げられる。
【0029】
同様に好ましくは、少なくとも1つの化合物は、全フッ素化もしくは部分フッ素化されているジアルキルペルオキシドである。用語「ジアルキルペルオキシド」は、少なくとも1つの「-C-O-C-」部分を組み込んでいる化合物を意味することを意図する。特に適した例には、ペンタフルオロ-エチル-メチルペルオキシドおよびビス-ペンタフルオロ-エチル-ペルオキシドが含まれる。
【0030】
同様に好ましくは、少なくとも1つの化合物は、全フッ素化もしくは部分フッ素化されているエステル、すなわち、少なくとも1つの「-C(O)O-」部分を組み込んでいる化合物である。好適な化合物は、当技術分野で公知であり、とりわけ好適な例としては、トリフルオロ酢酸のメチル、エチル、およびトリフルオロメチルエステルが挙げられる。
【0031】
同様に好ましくは、少なくとも1つの化合物は、全フッ素化もしくは部分フッ素化されているシアノ化合物、すなわち、構造「-C≡N」の少なくとも1つの部分を組み込んでいる化合物である。好ましくは、シアノ化合物は全フッ素化されており、より好ましくは、シアノ化合物は、全フッ素化メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、イソブチルおよびtertブチルニトリルからなるリストから選ばれる。
【0032】
同様に好ましくは、少なくとも1つの化合物は、全フッ素化もしくは部分フッ素化されている炭化水素化合物である。「炭化水素化合物」は、フッ素置換に加えて、他のハロゲン原子、例えばCl、Br、および/またはIでまた置換されていてもよい、飽和または不飽和炭化水素を意味することを意図する。好適な例としては、CHF3、C2F4、CF3CF2CF2CF2I、およびCF2Cl2が挙げられる。
【0033】
用語「電気活性部品」は、非常に幅広く理解されなければならない。好ましくは、これは、それが気密ハウジングを含むという条件で、電気エネルギーの発生、分配、または使用のために使用されるいかなる部品も網羅し、ここで、誘電絶縁媒体は、電圧および/または電流に耐える部品に誘電絶縁を付与する。
【0034】
好ましくは、電気活性部品は、中電圧または高電圧部品である。用語「中電圧」は、1kV~72kVの範囲の電圧に関し;用語「高電圧」は、72kV超の電圧を意味する。これらが本発明の枠組みにおいて好ましい電気活性部品であるが、部品はまた、1kVよりも下の電圧が関係している低電圧部品であってもよい。
【0035】
本発明の電気活性部品は「独立型」部品であってもよく、またはそれらは、部品のアセンブリの、例えば装置の部品であってもよいことに留意しなければならない。これは、以降で詳しく説明する。
【0036】
電気活性部品は、開閉器、例えば、高速作動接地開閉器、断路器、負荷開閉器またはパッファ式回路遮断器、特に中電圧回路遮断器(GIS-MV)、発電機回路遮断器(GIS-HV)、高電圧回路遮断器、バスバー、ブッシング、ガス絶縁ケーブル、ガス絶縁伝送線、ケーブル・ジョイント、変流器、変圧器またはサージ避雷器であってもよい。
【0037】
電気活性部品はまた、電気回転機械、発電機、モーター、駆動部、半導体デバイス、コンピューター、電力工学デバイスまたは高周波部品、例えば、アンテナまたは点火コイルであってもよい。
【0038】
本発明の方法は、中電圧開閉装置および高電圧開閉装置にとりわけ好適である。
【0039】
本発明の方法で使用される絶縁媒体は、好ましくは本発明の方法で使用される際には気体状態である。しかし、例えば温度および圧力などの、方法が行われる条件次第で、絶縁媒体はまた、少なくとも部分的に液体状態または超臨界状態であってもよい。
【0040】
電気活性部品において、絶縁媒体は、好ましくは0.1バール(絶対圧)以上の圧力にある。絶縁媒体は、好ましくは30バール(絶対圧)以下の圧力にある。好ましい圧力範囲は、1~20バール(絶対圧)である。
【0041】
気相の一般構造(I)の化合物の分圧は、特に絶縁媒体中でのその濃度に依存する。誘電絶縁媒体が一般構造(I)または(II)の化合物からなる場合、その分圧は全圧と等しく、上で示した範囲に対応する。媒体が不活性ガスを含む場合、一般構造(I)の化合物の分圧は、それに応じて低い。10バール(絶対圧)以下である一般構造(I)または(II)の化合物の分圧が好ましい。
【0042】
化合物または混合物は、それぞれ、気候条件または電気装置の雰囲気での温度下で、電気部品での圧力下で、本質的に誘電絶縁媒体中で成分の凝縮が起こらないようなものであることも好ましい。用語「本質的に凝縮がない」は、最大で5重量%、好ましくは最大で2重量%の、誘電絶縁媒体しか凝縮しないことを意味する。例えば、式(I)の化合物の量、不活性ガスの種類および量は、式(I)の化合物の分圧が、式(I)の化合物の凝縮が-20℃で観察される圧力よりも低いように選択される。
【0043】
第2の態様においては、本発明は、少なくとも1種の一般式(I)の化合物:R1R2R3C-NO2、(式中、R1およびR2が独立に水素、フッ素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールであり、およびR3は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールである)、または一般構造(II)の化合物と、不活性ガス、全フッ素化または部分フッ素化ケトン、全フッ素化または部分フッ素化エーテル、全フッ素化または部分フッ素化ジアルキルペルオキシド、全フッ素化または部分フッ素化エステル、全フッ素化または部分フッ素化シアノ化合物および炭化水素化合物からなる群から選択される少なくとも1つのさらに別の化合物とからなるか、これらから本質的になるか、またはこれらを含む組成物に関する。
【0044】
好ましくは、組成物中の一般式(I)または(II)の化合物の濃度は、少なくとも1体積%である。
【0045】
好ましくは、組成物は、CF3CF2-NO2、(CF3)2CF-NO2、またはCF3CF2-NOと、不活性ガス、全フッ素化または部分フッ素化ケトン、全フッ素化または部分フッ素化エーテル、全フッ素化または部分フッ素化ジアルキルペルオキシド、全フッ素化または部分フッ素化エステル、全フッ素化または部分フッ素化シアノ化合物および炭化水素化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物とからなるか、これらから本質的になるか、またはこれらを含む。
【0046】
より好ましくは、組成物は、CF3CF2-NO2または(CF3)2CF-NO2と、空気、合成空気、空気成分、N2、O2、CO2、N2O、He、Ne、Ar、XeまたはSF6からなる群から選択される少なくとも1つの化合物とからなるか、これから本質的になるか、またはこれを含み;好ましくは、CF3CF2-NO2または(CF3)2CF-NO2とN2とからなるか、これから本質的になるか、またはこれを含む。
【0047】
第3の目的においては、本発明は、電気エネルギーの発生、分配、および/または使用のための装置であって、装置が気密ハウジングの中に配置されている電気活性部品を含み、前記気密ハウジングが、少なくとも1種の一般式(I)の化合物:R1R2R3C-NO2、(式中、R1およびR2が独立に水素、フッ素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールであり、およびR3は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールである)、もしくは一般構造(II)の化合物を含むか、これから本質的になるか、もしくはこれからなる絶縁媒体を含有するか;または上で定義した本発明の組成物からなるか、これから本質的になるか、もしくはこれを含む絶縁媒体を含有する。好ましくは、絶縁媒体は、CF3CF2-NO2または(CF3)2CF-NO2からなるか、これから本質的になるか、またはこれを含む。同様に好ましくは、装置は、中電圧または高電圧の開閉装置である。
【0048】
本発明の別の目的は、本明細書に記載の本発明の化合物または混合物の、誘電絶縁媒体としての、または誘電絶縁媒体の成分としての使用、ならびに、例えばチャンバー洗浄剤などのドライエッチング剤としての、特にはNF3の代替としてのプラズマ強化チャンバー洗浄のための、使用に関する。
【0049】
本発明の別の目的は、独立気泡ポリウレタン、フェノール系および熱可塑性樹脂フォームの製造における発泡剤としてのフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンの代替品として、エアゾールにおける噴射剤として、伝熱媒体として、消火剤として、ヒートポンプ用などの電力サイクル作動流体として、重合反応用の不活性媒体として、金属表面から微粒子を除去するための流体として、例えば、滑剤の微細フィルムを金属部上に置くために使用され得るキャリア流体として、金属などの研磨面からバフ研磨化合物を除去するためのバフ研磨剤として、宝石類または金属部品からなど、水を除去するための置換乾燥剤として、塩素型現像剤を含む従来型回路製造技術におけるレジスト現像剤として、または、例えば、1,1,1-トリクロロエタンもしくはトリクロロエチレンなどのクロロハイドロカーボンと一緒に使用される場合のフォトレジスト用の剥離液としての一般式(I)の化合物の使用である。
【0050】
本発明の別の目的は、一般式(I)の化合物:R1R2R3C-NO2(式中、R1およびR2が独立に水素、フッ素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールであり、およびR3は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、フッ素置換アルキル、フッ素置換アルケニル、フッ素置換アルキニルまたはフッ素置換アリールである)、または一般構造(II)の化合物の、電気活性部品を絶縁するための誘電媒体としての使用である。好ましい電気活性部品は、開閉器、例えば、高速作動接地開閉器、断路器、負荷開閉器またはパッファ式回路遮断器、特に中電圧回路遮断器(GIS-MV)、発電機回路遮断器(GIS-HV)、高電圧回路遮断器、バスバー、ブッシング、ガス絶縁ケーブル、ガス絶縁伝送線、ケーブル・ジョイント、変流器、変圧器またはサージ避雷器であってもよい。
【0051】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願、および刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0052】
以下の実施例は、本発明を限定する意図なしに本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0053】
実施例1a:(CF3)2CF-NO2の製造
(CF3)2CF-NO2をドイツ特許出願公開第3305201A1号明細書(実施例11)に従って調製する。
【0054】
実施例1b:組成物の製造
国際公開第98/23363号パンフレットに記載の通り、1:4の体積比の(CF3)2CF-NO2とN2とからなる均質な混合物は、スタティックミキサーとコンプレッサーとを含む装置の中で製造する。
【0055】
実施例1c:(CF3)2CF-NOの製造
Young(登録商標)バルブを有する500mlの脱気されたDuran(登録商標)球状容器内で2.96g(10mmol)の(CF3)2CF-Iおよび0.33g(11mmol)のNOを液体窒素による冷却によって凝縮させた。球状容器を20℃に昇温させ、水槽内に置いた。球状容器は、1000Wキセノン高圧紫外線ランプのフィルタ未透過光で上から1時間にわたって照射された。この時間の間冷却水が50℃に達するようにさせた。
【0056】
球状容器の内容物をトラップ・ツー・トラップ蒸留の繰り返しによって精製した。単離された収量は理論収量の87%(1.73g)であった。
【0057】
実施例1c:(CF3)2CF-NO2の製造
バルブおよび頂部の放出バルブを有するディップパイプ(従来の冷却トラップ)を備えたDuran(登録商標)反応器内に、100gのシリカゲル(2mm~5mmの透明なシリカゲル(Merck,CAS:7631-86-9)を置いた。容器を脱気し、乾燥させた。1.18gの(CF3)2CF-NOがディップパイプによって導入され、そしてシリカゲルパール上で吸収され、それらの色をライトブルーに変えた。その後、11mmol%のO3を含有する100ml/分のO2流がディップパイプを通して30分間室温の反応器内に導入された。バイパスおよびFomblin(登録商標)油入り気泡計を有するU形冷却トラップを容器の出口に取り付けた。冷却トラップを-123℃に冷却して、O3/O2混合物がシステムを出るようにさせた。反応器を室温で脱気して、一切の未反応の吸収されたオゾンを除去した。その後で、60℃の温度で反応器を脱気することによって560mgの無色の(CF3)2CF-NO2が放出された。
【0058】
実施例1d:C2F5NOの製造
Young(登録商標)バルブを有する4000mlのDuran(登録商標)球状容器を脱気し、19.7g(80mmol)のC2F5Iおよび2.4g(80mmol)のNOを液体窒素による冷却によって容器内に凝縮させた。容器を20℃に昇温させ、水槽内に置いた。容器は1000Wキセノン高圧紫外線ランプのフィルタ未透過光で6時間にわたって照射された。照射する間水槽を50℃に昇温させた。容器の内容物は、1.12~0.92バール(絶対圧)の圧力範囲で-60℃の等温蒸留によって精製された。単離された収量はブルーガスの形態で理論収量の67%(8.02g)であった。
【0059】
実施例1e:C2F5NO2の製造
Young(登録商標)バルブを有する500mlの脱気されたDuran(登録商標)球状容器内にC2F5IおよびNO2/N2O4の混合物(圧力において1:1、それぞれ266ミリバール~940ミリバールの全圧)×7を導入した。合計で、7.12g(29.43mmol)のC2F5Iを使用した。それぞれの混合物は、水で満たした冷却槽内で1000W高圧Xe紫外線ランプのフィルタ未透過光によって1時間にわたって照射された。この時間の間冷却水を50℃に達するようにさせた。7つの粗生成物画分は組み合わせられ、-196℃、-158℃、および-115℃に維持される一連の冷却トラップを通してトラップ・ツー・トラップ蒸留を繰り返すことによって精製された。-158℃トラップの画分は、さらに別のトラップ・ツー・トラップ蒸留によって精製され、1.27g(7.7mmol)のC2F5NO2(理論収量の26,16%)をもたらした。
【0060】
実施例1f:(CF3)2CF-NO2の製造
Young(登録商標)バルブを有する100mLのDuran(登録商標)球状容器内に0.23g(2.44mmol)のH2O2:尿素(1:1付加物、CAS:124-43-6)と磁気PTFEジャケット付きマグネットとを置き、-196℃に冷却した。次に、容器を脱気した。0.49g(2.44mmol)の(CF3)2CF-NOと0.47g(5.5mmol)ジクロロメタンとを球状容器内に凝縮した。内容物を撹拌しながら球状容器を1時間にわたって60℃に加熱した。IR分光分析法は、(CF3)2CF-NOの57%が(CF3)2CF-NO2に変換されたことを示した。
【0061】
実施例2:実施例1の誘電絶縁媒体を含有するアースケーブルの提供
ケーブルの中の全圧が10バール(絶対圧)に達するまで、実施例1bの組成物を高電圧用アースケーブルに直接供給する。
【0062】
実施例3:体積比1:4の(CF3)2CF-NO2およびN2を含有する開閉装置
気密金属ケースで取り囲まれた開閉器を含む開閉装置が使用される。実施例1bの組成物を、18バール(絶対圧)の圧力に達するまでバルブを通して気密金属ケースに注入する。