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特許7130571HLAクラスIIタンパク質の発現能を有するHLAクラスII欠損細胞、HLAクラスI欠損細胞、及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】HLAクラスIIタンパク質の発現能を有するHLAクラスII欠損細胞、HLAクラスI欠損細胞、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20220829BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220829BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/12 ZNA
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2019019289
(22)【出願日】2019-02-06
(62)【分割の表示】P 2015507006の分割
【原出願日】2013-03-15
(65)【公開番号】P2019068856
(43)【公開日】2019-05-09
【審査請求日】2019-02-06
(31)【優先権主張番号】61/625,314
(32)【優先日】2012-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512272959
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ワシントン スルー イッツ センター フォー コマーシャライゼーション
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF WASHINGTON THROUGH ITS CENTER FOR COMMERCIALIZATION
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ラッセル、デイビッド ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】ヒラタ、ロリ ケイ.
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/012667(WO,A2)
【文献】特表2000-515363(JP,A)
【文献】Journal of Immunology,2008年,Vol. 181,p. 6635-6643
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C12N 5/00-28
A23L 1/27-308
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内因性のヒト白血球抗原(HLA)クラスII関連遺伝子の全てのコピーに遺伝子操作による破壊を含む単離細胞であって、ヒト細胞であり、
a)前記HLAクラスII関連遺伝子が、調節性第X因子関連アンキリン含有タンパク質(RFXANK)、調節性第5因子(RFX5)、調節性第X因子関連タンパク質(RFXAP)、およびクラスIIトランス活性化因子(CIITA)からなる群から選択されるHLAクラスII関連タンパク質をコードする遺伝子から選択され、
b)前記細胞はさらに、外因性の1つ以上のポリヌクレオチドを含み、前記1つ以上のポリヌクレオチドが、一本鎖融合非古典的HLAクラスIタンパク質をコードるポリヌクレオチドであり、前記一本鎖融合非古典的HLAクラスIタンパク質が、HLA-E、HLA-F、およびHLA-Gからなる群から選択されるHLAクラスIα鎖の少なくとも一部分に共有結合された外因性のB2Mの少なくとも一部分を含んでおり、
c)前記細胞が、内因性のβ2ミクログロブリン(B2M)遺伝子の全てのコピーに遺伝子操作による破壊をさらに含み、
d)前記一本鎖融合非古典的HLAクラスIタンパク質が、NK細胞の表面上の抑制性受容体との結合について正常な機能を有することができる、細胞。
【請求項2】
前記HLAクラスII関連遺伝子が、調節性第X因子関連アンキリン含有タンパク質(RFXANK)のためにコードしている、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記細胞が、1つ以上の組換え免疫修飾遺伝子をさらに含み、各々が前記ヒト細胞内に免疫修飾ポリペプチドを発現させる、請求項1または2に記載の細胞。
【請求項4】
前記免疫修飾ポリペプチドが、一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質、またはHLAクラスIIタンパク質である、請求項3に記載の細胞。
【請求項5】
前記免疫修飾ポリペプチドが、1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を含み、前記1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質が、HLAクラスII遺伝子β鎖の少なくとも一部分に共有結合したHLAクラスII遺伝子α鎖の一部分を含み、前記HLAクラスII遺伝子が、HLA-DP、HLA-DQ、HLA-DR、HLA-DM、およびHLA-DOからなる群から選択される、請求項3または4に記載の細胞。
【請求項6】
前記免疫修飾ポリペプチドが、複数の異なる一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を含む、請求項5に記載の細胞。
【請求項7】
前記一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質が、
a.HLA-DQα鎖の少なくとも一部分、およびHLA-DQβ鎖の少なくとも一部分;並びに、
b.HLA-DQα鎖対立遺伝子HLA-DQA101の少なくとも一部分、およびHLA-DQβ鎖対立遺伝子HLA-DQB102の少なくとも一部分、
の1つまたは複数を含む、請求項5に記載の細胞。
【請求項8】
前記一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質が、細胞表面上にペプチドを提示する、請求項5に記載の細胞。
【請求項9】
前記ペプチドが、前記一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質に共有結合されている、請求項8に記載の細胞。
【請求項10】
前記免疫修飾ポリペプチドが、HLA-DMα鎖、HLA-DMβ鎖、HLA-DOα鎖、HLA-DOβ鎖、HLA-DPα鎖、HLA-DPβ鎖、HLA-DQα鎖、HLA-DQβ鎖、HLA-DRα鎖、およびHLA-DRβ鎖からなる群から選択されるHLAクラスIIタンパク質である、請求項3に記載の細胞。
【請求項11】
記一本鎖融合非古典的HLAクラスIタンパク質が、ペプチドを細胞表面上に提示する機能を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項12】
前記ペプチドが、前記一本鎖融合非古典的HLAクラスIタンパク質に共有結合されている、請求項11に記載の細胞。
【請求項13】
前記細胞が、チミジンキナーゼおよびアポトーシスシグナル伝達タンパク質からなる群から選択される自殺遺伝子産物をコードする組換え遺伝子をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項14】
前記細胞が、正常核型を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項15】
前記細胞が、非形質転換細胞である、請求項1~14のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項16】
前記細胞が、多能性幹細胞、造血幹細胞、胚性幹細胞、成体幹細胞、人工多能性幹細胞、肝幹細胞、神経幹細胞、膵幹細胞、および間葉系幹細胞からなる群から選択される、幹細胞である、請求項1~15のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項17】
前記細胞が、樹状細胞、膵島細胞、肝細胞、筋細胞、ケラチノサイト、神経細胞、造血細胞、リンパ球、赤血球、血小板,骨格筋細胞、眼細胞、間葉系細胞、線維芽細胞、肺細胞、GI管細胞、血管細胞、内分泌細胞、脂肪細胞、骨髄間質細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、および心筋細胞からなる群から選択される、分化型細胞である、請求項1~16のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項18】
複数の異なる一本鎖融合非古典的HLAクラスIタンパク質を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項19】
前記非古典的HLAクラスIタンパク質がHLA-Eである、請求項1~18のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項20】
前記非古典的HLAクラスIタンパク質がHLA-Fである、請求項1~18のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項21】
前記非古典的HLAクラスIタンパク質がHLA-Gである、請求項1~18のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載の細胞と、生理学的に適合性のある緩衝液とを含む、医薬組成物。
【請求項23】
移植を必要とする対象における移植または投与に使用するための医薬組成物であって、前記細胞の有効量が前記対象に移植または投与される、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記対象が、免疫適格性を有する、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記細胞が、分化型細胞である、請求項23または24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記対象がヒトである、請求項23~25のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HLAクラスIIタンパク質の発現能を有するHLAクラスII欠損細胞、HLAクラスI欠損細胞、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト多能性幹細胞は、ほぼどの器官系が罹患する疾患も治療し得る潜在能力を有する。しかしながら、ヒト多能性幹細胞及びその誘導体の臨床使用には重大な制約があり、それは即ち、主要組織適合遺伝子複合体が異なることに起因するレシピエントによる移植細胞の拒絶反応である。
【0003】
主要組織適合遺伝子複合体(MHC:major histocompatibility complex)は、あらゆる脊椎動物に見られる細胞表面の多成分分子であり、白血球と他の白血球又は他の細胞との相互作用を仲介する。MHC遺伝子ファミリーは3種類、即ちクラスI、クラスII及びクラスIIIに分けられる。ヒトでは、MHCはヒト白血球抗原(HLA:human leukocyte antigen)と称される。HLAクラスII分子(HLA-II)は、マクロファージ、樹状細胞及びB細胞を含むプロフェッショナル抗原提示細胞(APC:antigen-presenting cell)上のみに見られる膜貫通タンパク質である。加えて、時に実質臓器が、免疫拒絶反応に関与するHLAクラスII遺伝子を発現し得る。HLAクラスI(HLA-I)タンパク質はあらゆる有核細胞で発現し、HLAクラスI重鎖(又はα鎖)及びβ2ミクログロブリン(B2M:β-2 microglobulin)からなる。HLAクラスIタンパク質は細胞表面上でCD8+細胞傷害性T細胞にペプチドを提示する。現在までに、3つの古典的α鎖(HLA-A、HLA-B及びHLA-C)及び3つの非古典的α鎖(HLA-E、HLA-F及びHLA-G)を含む6つのHLAクラスIα鎖が同定されている。HLAクラスI分子ペプチド結合溝上のペプチド結合特異性は、α鎖によって決まる。HLAクラスI分子により提示されたペプチドをCD8+T細胞が認識することにより、細胞性免疫が仲介される。
【0004】
HLAクラスII分子及びクラスI分子は、いずれもヘテロ二量体である。クラスI分子はα鎖(又は重鎖)とβ2ミクログロブリン(microglobuin)(B2M)とからなり、一方クラスII分子は、2つの相同のサブユニットであるαサブユニットとβサブユニットとからなる。
【0005】
HLAクラスII(HLA-II)分子又はタンパク質は細胞表面上に、細胞外病原体のタンパク質を含めた細胞外タンパク質由来のペプチド抗原を提示し、一方、HLAクラスIタンパク質は、細胞内のタンパク質又は病原体由来のペプチドを提示する。細胞表面に負荷されたHLAクラスIIタンパク質は、CD4+ヘルパーT細胞と相互作用する。この相互作用によりB細胞が活性化されることを介して食細胞の動員、局所炎症、及び/又は体液性応答が引き起こされる。現在までに、HLA-DM(それぞれHLA-DMα鎖及びHLA-DMβ鎖をコードするHLA-DMA及びHLA-DMB)、HLA-DO(それぞれHLA-DOα鎖及びHLA-DOβ鎖をコードするHLA-DOA及びHLA-DOB)、HLA-DP(それぞれHLA-DPα鎖及びHLA-DPβ鎖をコードするHLA-DPA及びHLA-DPB)、HLA-DQ(それぞれHLA-DQα鎖及びHLA-DQβ鎖をコードするHLA-DQA及びHLA-DQB)、及びHLA-DR(それぞれHLA-DRα鎖及びHLA-DRβ鎖をコードするHLA-DRA及びHLA-DRB)を含めた、いくつかのHLAクラスII遺伝子座が同定されている。
【0006】
移植との関連において、同種異系供給源由来のHLAクラスI及び/又はクラスIIタンパク質は外来抗原となる。非自己HLAクラスI及び/又はクラスIIタンパク質の認識は、移植又は補充療法に向けた多能性細胞の使用における重大な障害である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、個々に合わせて調製される幹細胞製剤又はHLAが多様な幹細胞バンクが現在の移植に関する課題に対処し得るものの、これらは複数の細胞株を特徴付け、治療用細胞産物に分化させ、及びヒト投与の承認を得ることが必要である。この時間のかかる、技術的に困難で且つ高価なプロセスが大きな要因となって、幹細胞ベースの治療法は臨床試験への移行が阻まれている。従って、拒絶反応が妨げとなることのない、より効果的で安価な細胞ベースの治療法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様において、本発明は、ヒト白血球抗原(HLA)クラスII関連遺伝子に遺伝子操作による破壊を含む単離細胞を提供し、ここで細胞は霊長類細胞である。一実施形態において、HLAクラスII関連遺伝子は、調節性第X因子関連アンキリン含有タンパク質(RFXANK:regulatory factor X-associated
ankyrin-containing protein)、調節性第5因子(RFX5:regulatory factor 5)、調節性第X因子関連タンパク質(RFXAP:regulatory factor X-associated protein)、クラスIIトランス活性化因子(CIITA:class II transactivator)、HLA-DPA(α鎖)、HLA-DPB(β鎖)、HLA-DQA、HLA-DQB、HLA-DRA、HLA-DRB、HLA-DMA、HLA-DMB、HLA-DOA及びHLA-DOBからなる群から選択される。別の実施形態において、細胞は、HLAクラスII関連遺伝子の少なくとも2つ、少なくとも3つに、又は4つ全てに遺伝子操作による破壊を含む。さらなる実施形態において、HLAクラスII関連遺伝子は、調節性第X因子関連アンキリン含有タンパク質(RFXANK)である。さらに別の実施形態において、細胞は、HLAクラスII関連遺伝子の全てのコピーに遺伝子操作による破壊を含む。別の実施形態において、細胞は、ヒト細胞における免疫修飾ポリペプチドの発現能を各々有する1つ以上の組換え免疫修飾遺伝子をさらに含む。さらなる実施形態において、1つ以上の免疫修飾遺伝子は、HLA IIタンパク質をコードし得るポリヌクレオチドを含む。別の実施形態において、1つ以上の免疫修飾遺伝子は、一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質をコードし得るポリヌクレオチドを含む。さらなる実施形態において、細胞は、β2ミクログロブリン(B2M:β2-microglobulin)遺伝子に遺伝子操作による破壊をさらに含む。
【0009】
別の態様において、本発明は、(a)β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子における遺伝子操作による破壊と;(b)HLAクラスIIタンパク質、又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質をコードし得る1つ以上のポリヌクレオチドとを含む単離細胞を提供し;ここで細胞は霊長類細胞である。
【0010】
これらの態様のいずれかの一実施形態において、細胞は、B2M遺伝子の全てのコピーの遺伝子操作による破壊を含む。さらなる実施形態において、HLA II遺伝子は、HLA-DMα鎖、HLA-DMβ鎖、HLA-DOα鎖、HLA-DOβ鎖、HLA-DPα鎖、HLA-DPβ鎖、HLA-DQα鎖、HLA-DQβ鎖、HLA-DRα鎖及びHLA-DRβ鎖からなる群から選択されるHLAタンパク質をコードする。
【0011】
別の実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質は、HLAクラスII遺伝子β鎖の少なくとも一部分に共有結合したHLAクラスII遺伝子α鎖の少なくとも一部分を含み、ここでHLAクラスII遺伝子は、HLA-DP、HLA-DQ、HLA-DR、HLA-DM、及びHLA-DOからなる群から選択される。さらなる実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質は、複数の異なる一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を含む。別の実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質は、HLA-DQα鎖の少なくとも一部分と、HLA-DQβ鎖の少なくとも一部分とを含む。さらに別の実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質は、HLA-DQα鎖対立遺伝子HLA-DQA101の少なくとも一部分と、HLA-DQβ鎖対立遺伝子HLA-DQB102の少なくとも一部分とを含む。
【0012】
本発明の細胞のいずれかの態様のさらなる実施形態において、HLAタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質は、細胞表面上に第1の標的ペプチド抗原を提示する。一つのかかる実施形態において、第1の標的ペプチド抗原は、一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質に共有結合されている。
【0013】
別の実施形態において、細胞は、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質をコードし得るポリヌクレオチドをさらに含む。一つのかかる実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F及びHLA-Gからなる群から選択されるHLAクラスIα鎖の少なくとも一部分に共有結合したB2Mの少なくとも一部分を含む。別のかかる実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、HLA-Aの少なくとも一部分に共有結合したB2Mの少なくとも一部分を含む。さらなる実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、HLA-A0201の少なくとも一部分に共有結合したB2Mの少なくとも一部分を含む。別の実施形態において、細胞は、細胞表面上に一本鎖融合HLAクラスIタンパク質により提示される第2の標的ペプチド抗原をさらに発現する。例えば、第2の標的ペプチド抗原は、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質に共有結合されていてもよい。
【0014】
本発明の細胞のいずれかの態様の別の実施形態において、細胞は、自殺遺伝子産物をコードし得る1つ以上の組換え遺伝子をさらに含む。例えば、自殺遺伝子産物は、チミジンキナーゼ及びアポトーシスシグナル伝達タンパク質からなる群から選択されるタンパク質を含み得る。
【0015】
いずれかの態様の細胞は、正常核型を有してもよく、及び非形質転換細胞であってもよい。細胞は、幹細胞、例えば、造血幹細胞、胚性幹細胞、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞、肝幹細胞、神経幹細胞、膵幹細胞又は間葉系幹細胞であってもよい。幹細胞は、樹状細胞、膵島細胞、肝細胞、筋細胞、ケラチノサイト、神経細胞、造血細胞、リンパ球、赤血球、血小板、骨格筋細胞、眼細胞、間葉系細胞、線維芽細胞、肺細胞、胃腸(GI:gastrointestinal)管細胞、血管細胞、内分泌細胞、脂肪細胞又は心筋細胞など、分化型であってもよい。細胞はヒト細胞であってもよい。
【0016】
別の態様において、本発明は、本発明の細胞のいずれか一つの実施形態又は実施形態の組み合わせの細胞を含むワクチンであって、細胞表面上に少なくとも1つの標的ペプチド抗原を含むワクチンを提供し、ここでワクチンは、霊長類において、その標的ペプチド抗原に特異的な免疫応答を誘導し得る。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、その必要がある患者における移植方法を提供し、この方法は、本発明の細胞の任意の実施形態又は実施形態の組み合わせの細胞又はワクチンの有効量を患者に投与する工程を含む。一つのかかる実施形態において、患者は免疫適格性を有し得る。別の実施形態において、細胞又はワクチンは分化型細胞を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】例示的な2つのアデノ随伴ウイルス(AAV:adeno-associated virus)遺伝子ターゲティングベクターの構造を示す図であって、該ベクターは、EF1αプロモーター(EF)により制御されるTKNeo遺伝子(AAV-RFXANK-ETKNpA)又はHyTK遺伝子(AAV-RFXANK-HyTK)のいずれかをRFXANK遺伝子(これもまた、それらのベクターの下に示される)のエクソン3に挿入するために設計されたベクターである。ベクター感染細胞をG418又はハイグロマイシン(Hygro)で選択することにより、それぞれTKNeo又はHyTKベクターにより標的化された細胞を単離することが可能である。その後、続くCreリコンビナーゼの発現及びガンシクロビル(GCV)による選択により、TKNeo遺伝子又はHyTK遺伝子が取り除かれたクローンを単離することが可能であり、3つ全てのリーディングフレームにおける終止コドン、loxP部位、及びポリアデニル化部位(StopX3-loxP-pA)を有する2つの不活性化RFXANK対立遺伝子が後に残る。loxPは、Creリコンビナーゼ用の組換え部位である。ITRは、ベクター逆方向末端反復である。他の遺伝子を標的として同様のベクターを設計し得る。
図2】(A)は、ヒト胚性幹細胞を構築物AAV-RFXANK-ETKNpAに感染させるターゲティング戦略の概略図である。(B)は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物を示す染色したゲルの写真であって、該PCR産物は、AAV-RFXANK-ETKNpAでのヒト胚性幹細胞の感染及びPCRの後に得られた産物であり、該PCRでは、上記矢印により示されるとおり、選択カセットのネオマイシン配列と相同なフォワードプライマー、及び、標的相同アームの外側にあるRFXANK遺伝子と相同なリバースプライマーが使用された。
【発明を実施するための形態】
【0019】
引用される参考文献は全て、本明細書において全体として参照により援用される。本願の中で、特に指定されない限り、利用される技術はいくつかの周知の参考文献、例えば、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」(サンブルック(Sambrook)ら著、1989年、コールド・スプリング・ハーバー研究所出版会(Cold Spring Harbor Laboratory Press))、「遺伝子発現技術(Gene Expression Technology)」(メソッド・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)、第185巻、D.ゲーデル(D.Goeddel)編、1991年、アカデミックプレス(Academic Press)、カリフォルニア州サンディエゴ)、「タンパク質精製ガイド(Guide to Protein Purification)」、メソッド・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)(M.P.ドイッチャー(M.P.Deutshcer)編(1990年)アカデミックプレス社(Academic Press,Inc.));「PCRプロトコル:方法及び応用ガイド(PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications)」(イニス(Innis)ら著、1990年、アカデミックプレス(Academic Press)、カリフォルニア州サンディエゴ)、「動物細胞の培養:基本技術マニュアル(Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique)」、第2版(R.I.フレッシュニー(R.I.Freshney)、1987年、リス社(Liss,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク)、「遺伝子導入及び発現プロトコル(Gene Transfer and Expression
Protocols)」、p.109~128、E.J.マレー(E.J.Murray)編、ヒューマナ・プレス社(Humana Press Inc.)、ニュージャージー州クリフトン)、及びアンビオン(the Ambion)1998年カタログ(アンビオン(Ambion)、テキサス州オースティン)のいずれかを参照することができる。
【0020】
本明細書で使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上特に明確に指示されない限り複数の指示対象を含む。「及び」は、本明細書で使用されるとき、特に明記しない限り「又は」と同義的に使用される。
【0021】
本発明の任意の態様の実施形態は全て、文脈上特に明確に指示されない限り、組み合わせて用いることができる。
第1の態様において、本発明は、ヒト白血球抗原(HLA)クラスII関連遺伝子に遺伝子操作による破壊を含む単離細胞を提供し、ここで細胞は霊長類細胞である。HLAクラスII関連遺伝子とは、本願で使用されるとき、広義に、HLAクラスII媒介性免疫応答に関与するタンパク質をコードする遺伝子を指す。従って、HLAクラスII関連遺伝子は、HLA-DM(配列番号48、50)、HLA-DO(配列番号52、54)、HLA-DP(配列番号36、38)、HLA-DQ(配列番号40、42)、及びHLA-DR(配列番号44、46)などのHLAクラスII分子をコードする遺伝子を包含する。例示的HLAクラスII遺伝子/タンパク質の配列は、公的に利用可能なデータベースにおいて、HLA-DPAについてはNM_033554.3(配列番号36、37)、HLA-DPBについてはHLA00514(配列番号38、39)、HLA-DQAについてはHLA00601(配列番号40、41)、HLA-DQBについてはHLA00622(配列番号42、43)、HLA-DRAについてはNM_019111(配列番号44、45)、HLA-DRBについてはHLA00664(配列番号46、47)、HLA-DMAについてはNM_006120(配列番号48、49)、HLA-DMBについてはNM_002118(配列番号50、51)、HLA-DOAについてはNM_002119(配列番号52、53)、及びHLA-DOBについてはNM_002120(配列番号54、55)のGenBank又はIMGT/HLAデータベース番号に基づき参照することができる。
【0022】
加えて、HLAクラスII関連遺伝子には、限定なしに、調節性第X因子関連アンキリン含有タンパク質(RFXANK)、調節性第5因子(RFX5)、調節性第X因子関連タンパク質(RFXAP)、及びクラスIIトランス活性化因子(CIITA)を含めた、HLAクラスII分子の発現を調節するHLAクラスII調節タンパク質をコードする遺伝子も含まれる。例えば、調節性第X因子関連アンキリン含有タンパク質(RFXANK)は、調節性第X因子関連タンパク質及び調節性第5因子と一緒になって、HLAクラスII遺伝子プロモーターのXボックスモチーフに結合してHLAクラスII遺伝子の転写を活性化する複合体を形成する。HLAクラスII分子の発現を調節する例示的なHLAクラスII関連遺伝子の配列は、公的に利用可能なデータベースにおいて、RFXANKについてはNM_134440.1(配列番号24、25)及びNM_003721.2(配列番号26、27)、RFX5についてはNM_000449.3(配列番号28、29)及びNM_001025603.1(配列番号30、31)、RFXAPについてはNM_000538.3(配列番号32、33)及びCIITAについてはNM_000246.3(配列番号34、35)のGenBank受託番号に基づきに参照することができる。これらのGenBank受託番号に基づき開示される配列は全て、参照により本明細書に援用される。
【0023】
特定の実施形態において、本発明は、本明細書に定義するとおりの少なくとも1つのHLAクラスII関連遺伝子に遺伝子操作による破壊を含む単離された霊長類細胞、好ましくはヒト細胞を提供する。特定の詳細な実施形態において、細胞は、少なくとも1つのHLAクラスII関連遺伝子の全てのコピーの遺伝子操作による破壊を含む。特定の他の実施形態において、細胞は、複数のHLAクラスII関連遺伝子に複数の遺伝子操作による破壊を含む。
【0024】
特定の実施形態において、HLAクラスII関連遺伝子は、調節性第X因子関連アンキリン含有タンパク質(RFXANK)、調節性第5因子(RFX5)、調節性第X因子関連タンパク質(RFXAP)、及びクラスIIトランス活性化因子(CIITA)からなる群から選択される。特定の詳細な実施形態において、細胞は、調節性第X因子関連アンキリン含有タンパク質(RFXANK)、調節性第5因子(RFX5)、調節性第X因子関連タンパク質(RFXAP)、及びクラスIIトランス活性化因子(CIITA)からなる群から選択されるHLAクラスII関連遺伝子の少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は全てに少なくとも1つの遺伝子操作による破壊を含む。HLAクラスII欠損細胞を作成するための遺伝子破壊標的として、これら4つのHLAクラスII関連遺伝子の任意の組み合わせが、本発明の範囲内に含まれる。
【0025】
特定の他の実施形態において、細胞は、調節性第X因子関連アンキリン含有タンパク質(RFXANK)(配列番号24~27)、調節性第5因子(RFX5)(配列番号28~31)、調節性第X因子関連タンパク質(RFXAP)(配列番号32、33)、クラスIIトランス活性化因子(CIITA)(配列番号34、35)、HLA-DPA(α鎖)(配列番号36、37)、HLA-DPB(β鎖)(配列番号38、39)、HLA-DQA(配列番号40、41)、HLA-DQB(配列番号42、43)、HLA-DRA(配列番号44、45)、HLA-DRB(配列番号46~47)、HLA-DMA(配列番号48、49)、HLA-DMB(配列番号50、51)、HLA-DOA(配列番号52、53)及びHLA-DOB(配列番号54、55)からなる群から選択されるHLAクラスII関連遺伝子の少なくとも1つの遺伝子操作による破壊を含む。
【0026】
遺伝子操作による破壊には、限定なしに、標的HLAクラスII関連遺伝子の欠失、挿入、置換及びトランケーションであって、その標的遺伝子の発現をもたらさないか、又は野生型タンパク質と比較して全く機能を有しない若しくは機能が大幅に低下したトランケート型若しくは変異型タンパク質の発現をもたらすものが含まれる。特定の実施形態において、HLAクラスII関連遺伝子の遺伝子操作による破壊により、トランケート型HLAクラスII関連タンパク質の発現が引き起こされる。特定の詳細な実施形態において、HLAクラスII関連遺伝子はRFXANK(配列番号24~27)である。特定の他の詳細な実施形態において、HLA関連遺伝子は、HLA-DPA(α鎖)(配列番号36、37)、HLA-DPB(β鎖)(配列番号38、39)、HLA-DQA(配列番号40、41)、HLA-DQB(配列番号42、43)、HLA-DRA(配列番号44、45)、HLA-DRB(配列番号46~47)、HLA-DMA(配列番号48、49)、HLA-DMB(配列番号50、51)、HLA-DOA(配列番号52、53)及びHLA-DOB(配列番号54、55)からなる群から選択される。特定のさらなる実施形態において、細胞は、HLAクラスII関連遺伝子の全てのコピーに遺伝子操作による破壊を含む。
【0027】
別の態様において、本発明は、HLAクラスI及びHLAクラスII欠損細胞を提供する。特定の実施形態において、本発明は、HLAクラスII関連遺伝子に遺伝子操作による破壊を含み、さらにβ2ミクログロブリン(B2M)遺伝子(配列番号1)にも遺伝子操作による破壊を含む霊長類細胞、好ましくはヒト細胞を提供する。他の詳細な実施形態において、細胞はさらに、B2M遺伝子(配列番号1)の全てのコピーの遺伝子操作による破壊を含む。特定の実施形態において、B2M(配列番号1)遺伝子における遺伝子破壊は、B2Mタンパク質(配列番号2)の発現欠損又は無発現をもたらす。他の詳細な実施形態において、細胞はさらに、B2M遺伝子の全てのコピーの遺伝子操作による破壊を含む。特定の実施形態において、B2M遺伝子における遺伝子破壊は、B2Mタンパク質の発現欠損又は無発現をもたらす。B2MはあらゆるHLAクラスIタンパク質の共通の成分であるため、この破壊は細胞表面上における全ての天然HLAクラスIタンパク質の発現を妨げる。従って、本発明のこの態様では、HLAクラスI/クラスII欠損細胞が提供される。B2Mコード配列を配列番号1に示し(GenBank受託番号NM_004048)、B2Mタンパク質配列を配列番号2に示す。遺伝子には多くの一塩基変異多型(SNP:single nucleotide polymorphism)があり得る;当業者は理解するであろうとおり、本発明のヒト細胞及び方法は、任意のかかるB2M遺伝子及びSNPに適用可能である。
【0028】
遺伝子操作による破壊の(HLAクラスII関連遺伝子、B2M遺伝子又は任意の他の好適な遺伝子における)導入には、任意の好適な技法を用いることができる;例示的な遺伝子破壊技法が本願全体にわたり開示され、本明細書の教示及び当該技術分野において公知の教示に基づけば、それらは当業者の技術水準の範囲内である。他の例示的な技法は、例えば、2008年9月11日に公開された、全体として参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2008/0219956号明細書を参照することができる。これらの技法は、場合により、HLAクラスII関連遺伝子の破壊及び場合によりB2M遺伝子の破壊後に、細胞から非ヒトDNA配列を除去する工程を含み得る。
【0029】
一つのかかる技法は、アデノ随伴ウイルス遺伝子ターゲティングベクターを利用するものであり、これは場合により以下に記載するような技法を用いて標的化に使用した導入遺伝子を除去することを含み、又はCre媒介性loxP組換え技法若しくは他の好適な組換え技法によって標的化に使用した導入遺伝子を除去することによる。カーン(Khan)ら著、2011年、プロトコル(Protocol)、第6巻、p.482~501(これは全体として参照により援用される)を参照。例示的なターゲティングベクター及び例示的なベクター図もまた本明細書に開示される。本発明のHLAクラスII細胞、好ましくはヒト細胞の作製に種々の技法を利用することは、本明細書における及び当該技術分野において公知の教示に基づけば、当業者の技術水準の範囲内である。
【0030】
特定の実施形態において、HLAクラスII欠損細胞の細胞ゲノムは、100個以下、50個以下又は30個以下の非ヒトDNA配列ヌクレオチドを含み得る。特定の他の実施形態において、細胞ゲノムは、6、5、4、3、2、1、又は0個の非ヒトDNA配列ヌクレオチドを含み得る。RFXANK遺伝子の例示的な遺伝子破壊戦略を図1に示す。最初のベクター中のHyTK又はTKNeo導入遺伝子を欠失させる2回目のターゲッティングラウンドによるか、又はCre媒介性loxP組換えにより、非ヒトDNA配列を除去することができる。
【0031】
特定の他の実施形態において、HLAクラスII又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞は、1つ以上の組換え免疫修飾遺伝子をさらに含む。好適な免疫修飾遺伝子としては、限定なしに、抗原提示を阻害するウイルスタンパク質をコードする遺伝子、マイクロRNA遺伝子、HLAクラスIIタンパク質をコードする遺伝子、又は一本鎖(SC:single chain)融合HLAクラスIIタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。用語「一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質」、「一本鎖融合HLAクラスII分子」又は「一本鎖融合HLAクラスII抗原」は、HLAクラスIIβ鎖の少なくとも一部分に直接、又はリンカー配列を介して共有結合したHLAクラスIIα鎖の少なくとも一部分又はペプチド抗原に結合したクラスIIα鎖又はβ鎖、或いはペプチド抗原にもまた結合している結合したクラスIIα鎖及びβ鎖を含む融合タンパク質を指す。他方で、用語「HLAクラスIIタンパク質」、「HLAクラスII分子」又は「HLAクラスII抗原」は、野生型細胞の表面上に発現するHLAクラスIIα鎖及びHLAβ鎖の非共有結合的に会合したヘテロ二量体を指す。遺伝子がHLAクラスIIタンパク質を(一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質とは対照的に)コードする実施形態では、遺伝子は、細胞における通常のクラスII発現に関与しないプロモーターの制御下にある。一実施形態において、遺伝子はエピソームとして発現される;別の実施形態において、遺伝子は細胞のゲノムに組み込まれる。いずれの実施形態においても、遺伝子は、細胞における通常のクラスII発現に関与しないプロモーターと作動可能に結合している(即ち:転写制御下にある)。構築物及び細胞の具体的に意図された設計及び使用に基づき当業者により判断され得るとおり、任意の好適なプロモーターを使用することができる。
【0032】
別の態様において、本発明は、(a)β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子における遺伝子操作による破壊と;(b)HLA IIタンパク質(α鎖又はβ鎖)又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質をコードし得る1つ以上のポリヌクレオチドとを含む単離細胞を提供し;ここで細胞は霊長類細胞である。この発明の態様に係る細胞は、HLAクラスI欠損細胞である。
【0033】
HLAクラスII欠損細胞、HLAクラスI欠損細胞、又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞は、万能ドナー細胞として使用することができる。特定の詳細な実施形態において、HLAクラスII欠損細胞、HLAクラスI欠損細胞、又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞は、移植で使用される造血細胞又は樹状細胞である。加えて、実質臓器細胞が、免疫拒絶反応に関与するHLAクラスII遺伝子を時に発現し得る。従って、特定の有利な実施形態において、本発明は、実質臓器に関連する疾患又は傷害を治療するため移植されるHLAクラスII、HLAクラスI欠損細胞、又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞を提供する。
【0034】
本発明の細胞のいずれかの特定の詳細な実施形態において、HLAα鎖及びβ鎖は、HLA-DM、HLA-DR、HLA-DP、HLA-DQ、及びHLA-DOのα鎖及びβ鎖からなる群から選択される。α鎖及びβ鎖は同じHLAクラスII遺伝子由来であってもよく、但し必ずしもそうである必要はない。例えば、HLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質は、HLA-DQα鎖の少なくとも一部分と、HLA-DQβ鎖の少なくとも一部分とを含み得る(二量体構築物とも称される)。ミスマッチなHLAクラスII対立遺伝子を含むHLAクラスIIタンパク質及び一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質もまた企図される。特定の詳細な実施形態において、HLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質は、HLA-DQα鎖対立遺伝子HLA-DQA101(配列番号41)の少なくとも一部分と、HLA-DQβ鎖対立遺伝子HLA-DQB102(配列番号43)の少なくとも一部分とを含み得る。特定の好ましい実施形態では、融合構築物において、融合タンパク質の第2の部分のリーダ配列(又はシグナルペプチド)が除去される。例えば、C末端でHLA-DQB102(配列番号43)の少なくとも一部分に共有結合したN末端のHLA-DQA101(配列番号41)の少なくとも一部分を含む一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質では、HLA-DQA101(配列番号41)リーダ配列が構築物に残され、HLA-DQB102(配列番号43)リーダ配列が構築物から除去される。特定の他の実施形態において、細胞は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は少なくとも4つ又はそれ以上の異なる一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質をさらに発現する。特定の詳細な実施形態において、HLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質はまた、HLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質のペプチド結合部位を占有する第1の標的ペプチド抗原も含み、ここでこのペプチド抗原は、HLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質に共有結合されている(三量体構築物とも称される)。特定の他の実施形態において、共有結合されたペプチド抗原は組み込まれたプロテアーゼ切断部位で切断され、切断されたペプチド抗原は、提示のため一本鎖融合HLA-IIタンパク質のペプチド結合部位に結合し得る。
【0035】
従って、HLAクラスII、HLAクラスI欠損細胞、又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞はまた、HLAクラスII遺伝子の全てのコピーに遺伝子操作による破壊(例えば、HLA-DQα鎖及び/又はβ鎖の全てのコピーにおける破壊)を有する細胞も包含し、ここで1つのHLAクラスII対立遺伝子は、野生型HLAクラスIIタンパク質の代わりに、目的のHLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を発現するように遺伝子操作される(即ち、1つのHLA-II対立遺伝子における遺伝子標的化ノックイン)。HLA-DQを例にとると、特定の実施形態において、HLA-DQ-/-細胞は、HLA-DQ遺伝子座から一本鎖融合HLA-DQタンパク質のコンテクストにおいてのみHLA-DQタンパク質を発現する。特定の有利な実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質の発現は、HLA-DQ遺伝子座に位置する内因性HLA-DQ調節配列により調節される。
【0036】
関連する実施形態では、HLAクラスII、HLAクラスI欠損細胞、又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞は、特定のHLA-II遺伝子の全てのコピーに遺伝子操作による破壊を有する細胞をさらに包含し、ここではその特異的なHLA-II遺伝子の全ての対立遺伝子が、野生型HLA-IIタンパク質の代わりに、一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を発現するように遺伝子操作される(即ち、全てのHLA-II対立遺伝子における遺伝子標的化ノックイン)。かかる遺伝子破壊を有するHLAクラスII、HLAクラスI欠損細胞、又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞は、特定のHLA-IIタンパク質を、その特定のHLA-II遺伝子の全ての対立遺伝子の遺伝子座から一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質のコンテクストにおいてのみ発現する。
【0037】
HLAクラスIIα鎖及びβ鎖の配列変異体及び断片を含むHLAクラスIIタンパク質及び一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質が本発明により企図され、ここでかかるHLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合構築物は、それでもなお、例えば細胞表面上にヘテロ二量体の適切な二次構造を形成する、ペプチド結合部位においてペプチドを提示する、CD4+ヘルパーT細胞と相互作用する、及びHLAクラスII媒介性免疫応答を惹起するなど、正常なHLAクラスII機能を有する。特定の実施形態において、変異体は、天然に存在するHLAクラスIIα鎖又はβ鎖配列と少なくとも75%、78%、80%、81%、85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は完全な配列相同性を共有し、ここで変異体は正常なHLAクラスII機能を有する。特定の他の実施形態において、変異体は、配列番号37、39、41、43、45、47、49、51、53及び55に示されるとおりのHLAクラスIIα鎖又はβ鎖の配列と少なくとも75%、80%、81%、85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は完全な配列相同性を共有する。
【0038】
さらに、HLAクラスII、HLAクラスI欠損細胞、又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞は、B2M-/-遺伝的背景で一本鎖融合HLAクラスIタンパク質を組換え発現するように操作することができる。一本鎖融合HLAクラスIタンパク質を組換え発現するHLAクラスI欠損細胞又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞は、それでもなお、細胞表面上の任意のHLAクラスIα鎖と非共有結合的に会合したヘテロ二量体を形成し得る野生型B2Mタンパク質(配列番号2)がその細胞により発現されない点で、正常なB2M機能が欠損している。
【0039】
用語「一本鎖融合HLAクラスIタンパク質」、「一本鎖融合HLAクラスI分子」又は「一本鎖融合HLAクラスI抗原」は、HLA-Iα鎖の少なくとも一部分と直接、或いはリンカー配列を介して共有結合したB2Mタンパク質の少なくとも一部分を含む融合タンパク質を指す。他方で、用語「HLAクラスIタンパク質」、「HLAクラスI分子」又は「HLAクラスI抗原」は、野生型細胞の表面上に発現したB2M及びHLAα鎖の非共有結合的に会合したヘテロ二量体を指す。
【0040】
本明細書で使用されるとき、用語「HLAクラスIα鎖」又は「HLA-I重鎖」は、HLAクラスIヘテロ二量体のα鎖を指す。HLAクラスI重鎖には、限定なしに、HLAクラスIα鎖HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、及びHLA-Gが含まれる。代表的なDNA及びタンパク質配列が、HLA-A(GenBank番号K02883.1、配列番号3;UniProt番号P01892、配列番号4)、HLA-B(NM_005514、配列番号5;NP_005505;配列番号6)、HLA-C(NM_002117、配列番号7;NP_002108、配列番号8)、HLA-E(NM_005516、配列番号9;NP_005507、配列番号10)、HLA-F(NM_018950、配列番号11;NP_061823、配列番号12)、及びHLA-G(NM_002127、配列番号13;NP_002118、配列番号14)について提供される。
【0041】
加えて、用語「HLAクラスI又はIIタンパク質/分子」は、ヒトにおけるMHCクラスI又はIIタンパク質/分子を指すことが知られているが、用語HLAとMHCとは、本願全体を通じて時に同義的に使用されることもある:例えば、用語HLAクラスI又はHLAクラスIIタンパク質はまた、霊長類ではそれぞれHLAクラスIタンパク質又はHLAクラスIIタンパク質の霊長類相当物を指して使用することもできる。当業者は、文脈に基づきこの用語の意味を読み取ることができるであろう。
【0042】
従って、HLAクラスI欠損細胞又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞はまた、B2M遺伝子の全てのコピーに遺伝子操作による破壊を有する細胞も包含し、ここでは1つのB2M対立遺伝子が、野生型B2Mタンパク質の代わりに、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質を発現するように遺伝子操作される(即ち、1つのB2M対立遺伝子における遺伝子標的化ノックイン)。かかる遺伝的背景を有するB2M-/-細胞は、B2M遺伝子座から一本鎖融合HLAクラスIタンパク質のコンテクストにおいてのみB2Mを発現する。特定の有利な実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質の発現は、B2M遺伝子座に位置する内因性B2M調節配列により調節される。
【0043】
関連する実施形態では、HLAクラスI欠損細胞又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞は、B2M遺伝子の全てのコピーに遺伝子操作による破壊を有する細胞をさらに包含し、ここでは全てのB2M対立遺伝子が、野生型B2Mタンパク質の代わりに、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質を発現するように遺伝子操作される(即ち、全てのB2M対立遺伝子における遺伝子標的化ノックイン)。かかる遺伝子破壊を有するHLAクラスI欠損細胞又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞は、B2M遺伝子の全ての対立遺伝子の遺伝子座から一本鎖融合HLAクラスIタンパク質のコンテクストにおいてのみB2Mを発現する。特定の実施形態において、細胞は、B2M遺伝子の全ての対立遺伝子の遺伝子座から同種の一本鎖融合HLAクラスIタンパク質を発現するように遺伝子操作される;一方、他の実施形態において、細胞は、B2M遺伝子の異なる遺伝子座から異種の一本鎖融合HLAクラスIタンパク質を発現するように遺伝子操作される。
【0044】
特定の実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、B2M(配列番号2)の少なくとも一部分と、HLA-A(配列番号4)、HLA-B(配列番号6)、HLA-C(配列番号8)、HLA-E(配列番号10)、HLA-F(配列番号12)又はHLA-G(配列番号14)の少なくとも一部分とを含む(二量体構築物とも称される)。特定の好ましい実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質に含まれるHLAα鎖は、HLAクラスIα鎖のリーダ配列(又はシグナル配列)を含まない(リーダレスHLAα鎖)。特定の他の実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、B2M(配列番号2)の少なくとも一部分と、HLA-C(配列番号8)、HLA-E(配列番号10)又はHLA-G(配列番号14)の少なくとも一部分とを含む。特定のさらなる実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、B2M(配列番号2)の少なくとも一部分と、HLA-A(配列番号4)、HLA-E(配列番号10)又はHLA-G(配列番号14)の少なくとも一部分とを含む。特定の好ましい実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、B2Mの少なくとも一部分及びHLAα鎖の少なくとも一部分に共有結合したリーダ配列(又はシグナルペプチド)を含むことで、細胞表面上での一本鎖融合体の適切な折り畳みを確実にする。リーダ配列は、B2Mタンパク質のリーダ配列、HLAα鎖タンパク質のリーダ配列又は他の分泌タンパク質(secretary protein)のリーダ配列であってもよい。特定の詳細な実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、そのリーダ配列が除去されたB2Mタンパク質を含む。特定の他の詳細な実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、そのリーダ配列が除去されたHLAα鎖タンパク質を含む。特定のHLAクラスIα鎖は高度に多型である。当業者は理解するであろうとおり、本発明のヒト細胞及び方法は、任意のかかるHLAα鎖及びその多型に適用可能である。
【0045】
B2M及び/又はHLAα鎖の配列変異体及び断片を含む一本鎖融合HLAクラスIタンパク質が本発明により企図され、ここでかかる一本鎖融合構築物は、それでもなお、例えば細胞表面上にヘテロ二量体の適切な二次構造を形成する、ペプチド結合溝にペプチドを提示する、及びNK細胞の表面上の抑制性受容体と結合するなど、正常なHLAクラスI機能を有する。特定の実施形態において、変異体は、天然に存在するHLA重鎖及びB2M配列と少なくとも75%、80%、81%、85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は完全な配列相同性を共有し、ここで変異体は正常なHLAクラスI機能を有する。特定の他の実施形態において、変異体は、配列番号2、4、6、8、10、12又は14に示されるとおりのB2M又はHLA重鎖の配列と少なくとも75%、80%、81%、85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は完全な配列相同性を共有する。
【0046】
特定の詳細な実施形態において、HLA-A変異体は、配列番号4と少なくとも85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は完全な配列相同性を共有する。特定の他の詳細な実施形態において、HLA-B変異体は、配列番号6と少なくとも81%、83%、85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は完全な配列相同性を共有する。特定のさらなる実施形態において、HLA-C変異体は、配列番号8と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は完全な配列相同性を共有する。さらに他の実施形態において、HLA-E変異体は、配列番号10と少なくとも97%、98%、99%、又は完全な配列相同性を共有する。特定の詳細な実施形態において、HLA-F変異体は、配列番号12と少なくとも99%、又は完全な配列相同性を共有する。特定の他の実施形態において、HLA-G変異体は、配列番号14と少なくとも98%、99%、又は完全な配列相同性を共有する。
【0047】
特定の他の実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、完全長B2M(配列番号2)(そのリーダ配列を含む)と、リーダ配列を含まないHLAα鎖(リーダレスHLAα鎖)とを含み;一方、特定の他の実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、リーダ配列を含まないB2M(配列番号2)タンパク質を含む。例えば、HLA-A(配列番号4)(又はリーダレスHLA-A)を含むSC融合物とHLA-C(配列番号8)(又はリーダレスHLA-C)を含むSC融合物とを発現するか、HLA-A(配列番号4)(又はリーダレスHLA-A)を含むSC融合物とHLA-E(配列番号10)(又はリーダレスHLA-E)を含むSC融合物とを発現するか、又はHLA-B(配列番号6)(又はリーダレスHLA-B)を含むSC融合物とHLA-E(配列番号10)(又はリーダレスHLA-E)を含むSC融合物とHLA-G(配列番号14)(又はリーダレスHLA-G)を含むSC融合物とを発現する等、任意の組み合わせの2つ、3つ又はそれ以上の異種の一本鎖融合HLAクラスIタンパク質を発現するB2M-/-細胞が全て本発明により企図され、本発明の範囲内に含まれることが理解される。
【0048】
ナチュラルキラー(NK)細胞は、自然免疫応答の一部である。いくつかの病原体が、感染細胞においてHLAクラスIタンパク質発現を下方制御し得る。NK細胞は、HLAクラスIタンパク質を発現しない細胞のアポトーシスを認識及び誘導することにより感染をモニタする。NK細胞表面上の抑制性受容体がHLAクラスIα鎖対立遺伝子を認識し、それにより非感染正常細胞におけるNK媒介性アポトーシスが防がれる。従って、特定の詳細な実施形態において、一本鎖融合HLA-Iタンパク質は、NK細胞上の抑制性受容体に結合することにより、内因性HLAクラスIタンパク質を発現しない細胞のNK媒介性の死滅を阻害する。例えば、HLA-Eは、NK細胞媒介性アポトーシスを阻害するNK細胞のCD94/NKG2受容体のリガンドである。従って、特定の詳細な実施形態において、B2M-/-細胞は、B2Mの少なくとも一部分とHLA-Eの少なくとも一部分とを含む一本鎖融合HLAクラスIタンパク質を発現する。加えて、HLA-Gは、通常、HLA-A、B又はCを発現しない胎盤細胞栄養芽層の表面上に発現し、NK細胞上の抑制性ILT2(LIR1)受容体と相互作用することにより、それらの細胞をNK細胞媒介性溶解から保護する(パズマニー(Pazmany)ら著、1996年、サイエンス(Science)、第274巻、p.792~795)。従って、特定の他の好ましい実施形態において、B2M-/-細胞は、B2Mの少なくとも一部分とHLA-Gの少なくとも一部分とを含む一本鎖融合HLAクラスIタンパク質を発現する。
【0049】
特定の詳細な実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質は、B2Mの少なくとも一部分とHLA-A0201の少なくとも一部分とを含む。HLA-A0201(配列番号4)は、米国人口の大きな割合に見られる共通のHLAクラスI対立遺伝子である。従って、特定の有利な実施形態において、単離細胞は、B2M-/-遺伝的背景でB2Mの少なくとも一部分とHLA-A0201の少なくとも一部分とを含む一本鎖融合HLAクラスIタンパク質を発現し、ここで単離細胞は、米国人口集団の大きな割合と免疫適合性を示す。使用することのできる他の好適な共通対立遺伝子としては、限定なしに、HLA-A0101、HLA-A0301、HLA-B0702、HLA-B0801、HLA-C0401、HLA-C0701、及びHLA-C0702が挙げられる。特定の好ましい実施形態において、HLA対立遺伝子は、HLA-A0201(配列番号4)、HLA-B0702(配列番号6)又はHLA-C0401(配列番号8)の少なくとも一部分を含む。
【0050】
特定のさらなる実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質はまた、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質のペプチド結合溝を占有する第2の標的ペプチド抗原も含み、ここでこのペプチド抗原は一本鎖融合HLAクラスIタンパク質に共有結合されている(三量体構築物とも称される)。三量体構築物の例を図2に示す。図2のHLA-bGBE構築物は、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質のペプチド結合溝を占有するように設計されたペプチド抗原(限定はされないが、図に説明されるとおりHLA-Gシグナルペプチドなど)(配列番号23)に共有結合されたB2M及びHLA-Eを含む。特定の他の実施形態において、共有結合したペプチド抗原が、組み込まれたプロテアーゼ切断部位で切断され、その切断されたペプチド抗原が、提示のため一本鎖融合HLA-Iタンパク質のペプチド結合溝に結合することができる。
【0051】
特定の代替的実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質のペプチド結合溝を占有するペプチド抗原は、細胞内抗原処理経路によって産生され、ここではペプチド抗原がプロテアソームにより産生され、小胞体にある一本鎖融合HLAクラスIタンパク質に輸送され、そこに負荷される。特定の詳細な実施形態において、ペプチド抗原は腫瘍抗原のペプチドを含む。特定の他の実施形態において、ペプチド抗原は、限定なしに細菌、ウイルス、真菌及び寄生体を含めた病原体由来のタンパク質のペプチドを含む。さらなる実施形態において、ペプチド抗原は腫瘍抗原のペプチドを含む。特定の詳細な実施形態において、HLAクラスI欠損細胞又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞は、患者にとっての自己抗原又は新生抗原を含まないペプチドに共有結合された一本鎖融合HLAクラスIタンパク質を発現する。レシピエントにおいて誘導され得る免疫応答を調整するように一本鎖融合HLAクラスIタンパク質及びその上に提示されるペプチド抗原を設計することは、当業者の能力の範囲内である。
【0052】
一本鎖融合タンパク質と共有結合的に、或いは非共有結合的に結合した特異的なペプチド抗原を含むHLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質、場合により一本鎖融合HLAクラスIタンパク質を発現する単離されたHLAクラスII欠損細胞、HLAクラスI欠損細胞、又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞を、例えば、レシピエントに投与して免疫応答を誘導するために使用することができる。従って、関連する態様において、本発明は、本発明の単離細胞を含むワクチンを提供し、ここでワクチンは、レシピエントにおいて標的ペプチド抗原に特異的な免疫応答を誘導する能力を有する。免疫応答には、限定なしに、細胞性免疫応答及び/又は体液性免疫応答が含まれる。ワクチンは幹細胞又は分化型細胞を含み得る;特定の詳細な実施形態において、細胞は分化した樹状細胞である。特定の他の実施形態において、細胞はサイトカインをさらに発現する。任意の好適なサイトカインを使用することができる;特定の詳細な実施形態において、サイトカインはIL2又はIFN-γである。特定の好ましい実施形態において、細胞はヒト細胞であり、レシピエントはヒトである。従って、さらなる態様において、本発明は、本発明のワクチンと、場合により免疫アジュバントとを含むキットを提供する。
【0053】
一本鎖融合HLAクラスIタンパク質、HLAクラスIIタンパク質、又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質は、細胞においてタンパク質を一過性発現させるか、或いはより好ましくは安定発現させることが可能な発現ベクターから発現させることができる。例示的な適した発現ベクターは、当該技術分野において公知である。一つのかかる例はレトロウイルスベクターであり、これは細胞ゲノムへの組込み能を有し、外因性遺伝子の長期安定発現を提供する。特定の詳細な実施形態において、ウイルスベクターは、レトロウイルスの一種であるヒト泡沫状ウイルスに由来する。他の好適なウイルスベクターには、限定なしに、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルス、ワクチニアウイルス、及びポックスウイルスに由来するベクターが含まれる。
【0054】
特定の好ましい実施形態において、一本鎖融合HLAクラスI若しくはクラスIIタンパク質又はHLAクラスIIタンパク質をコードし得るポリヌクレオチドは、安定発現のため、細胞の染色体、好ましくはB2M又はHLAクラスII遺伝子座に組み込まれる。従って、特定の好ましい実施形態において、一本鎖融合HLAクラスIタンパク質をコードし得るポリヌクレオチドをB2M遺伝子座に挿入して内因性野生型B2Mタンパク質の発現を置き換えることにより、B2M遺伝子座が破壊される。従って、特定の他の好ましい実施形態において、HLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質をコードし得るポリヌクレオチドをHLA-II遺伝子座に挿入して内因性野生型HLA-IIタンパク質の発現を置き換えることにより、特定のHLA-II遺伝子座が破壊される。かかる遺伝子ターゲッティングの結果、野生型HLAクラスIタンパク質及び特異的なHLAクラスIIタンパク質の形成が不可能となり、しかし選択された所定のHLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスI若しくはクラスIIタンパク質が、本来HLAクラスII欠損である細胞の表面上で発現することは可能である。他の発現ベクターもまた企図され、好適な発現ベクターの選択は当業者の能力の範囲内である。
【0055】
「単離細胞」は、所与の目的の任意の好適な細胞型であってよい。例えば、細胞は多能性幹細胞又は分化型細胞であり得る。「幹細胞」は、広義に、さらなる分化能を有する任意の細胞を包含する。「多能性幹細胞」は、3つの胚葉、即ち内胚葉、中胚葉又は外胚葉のいずれかに分化する潜在的な能力を有する幹細胞を指す。他方で「成体幹細胞」は、それが限られた数の細胞型のみを産生し得る点で多分化能を有する。「胚性幹(ES:embryonic stem)細胞」は、初期胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する多能性幹細胞を指す。「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」は、非多能性細胞、典型的には成体体細胞から特定の遺伝子を人工的に誘導して発現させることにより人工的に得られた多能性幹細胞である。
【0056】
別の態様において、本発明は、その必要がある患者における移植方法を提供し、この方法は、移植のため本発明の細胞の有効量を患者に投与する工程を含む。HLAクラスII欠損細胞及び/又はHLAクラスI欠損細胞は細胞表面上に野生型HLAクラスIIタンパク質を(及び場合によりHLAクラスIタンパク質もまた)発現しないため、細胞は、患者に投与されたとき、患者の免疫応答を最小限しか又は全く誘導しない。従って、HLAクラスII欠損細胞及び/又はHLAクラスI欠損細胞を使用した移植は、免疫抑制薬療法を受ける必要性を抑える。従って、特定の好ましい実施形態において、患者は免疫適格性を有する。特定の他の実施形態において、細胞は同系細胞である;一方、他の実施形態において、細胞は同種異系細胞である。
【0057】
特定のさらなる実施形態において、本発明の細胞は多能性幹細胞である;一方、他の実施形態において、本発明の細胞は分化型細胞である。特定の好ましい実施形態において、細胞はヒト細胞であり、患者はヒト患者である。特定の詳細な実施形態において、本移植方法は、多能性幹細胞又は分化型細胞の有効量をヒトに投与する工程を含む。特定の好ましい実施形態において、本発明の細胞はさらに、1つ以上の操作された一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を発現し、場合によりまた一本鎖融合HLAクラスIタンパク質も発現する。特定の他の実施形態において、細胞はNK細胞媒介性死滅を回避し、且つ移植後のレシピエントの免疫応答を最小限しか又は全く誘導しないことが可能である。
【0058】
移植療法、補充療法又は再生療法は、標的器官において欠損した細胞機能を補い又は置き換えるため患者に細胞又は組織を投与することによる疾患病態の治療法を指す。特定の詳細な実施形態では、組織又は器官に対する身体的又は病理学的傷害の結果として移植の必要性が生じる。特定の他の詳細な実施形態では、患者における1つ以上の遺伝子異常又は突然変異の結果として移植の必要性が生じ、本発明の細胞の移植は、遺伝子治療によって患者の根底にある遺伝子突然変異を修正する必要なしに、患者の欠損した細胞機能を補い又は置き換える。特定のさらなる実施形態において、移植には、限定なしに、造血幹細胞移植、又は肝臓、腎臓、膵臓、肺、脳、筋肉、心臓、胃腸管、神経系、皮膚、骨、骨髄、脂肪、結合組織、免疫系、若しくは血管などの器官に取り込まれる細胞の移植が含まれる。特定の詳細な実施形態において、標的器官は実質臓器である。
【0059】
特定の詳細な実施形態において、レシピエントに投与される細胞は、かかる治療法の必要がある器官に取り込まれても、又は取り込まれなくてもよい。特定の実施形態において、本発明の細胞は移植前に、或いは移植後に、所望の細胞型に分化し、それ自体が移植部位の組織に取り込まれることなく必要な細胞機能を提供する。例えば、糖尿病を治療する特定の実施形態において、本発明の細胞は、多能性幹細胞又は分化した膵β島細胞のいずれかとして糖尿病患者に移植される。移植細胞が機能性の膵臓を再構成する必要はない:単にグルコース値に応じてインスリンを分泌しさえすればよい。特定の詳細な実施形態において、細胞は異所性の部位に移植され、膵臓に完全には取り込まれない。本発明の多能性細胞、本発明の分化型細胞、又は本発明の細胞からエキソビボで分化及び成長させた組織の移植は全て、本発明により企図される。特定の好ましい実施形態において、細胞はヒト細胞であり、患者はヒト患者である。特定の他の好ましい実施形態において、本発明の細胞は1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を発現し、場合によりまた一本鎖融合HLAクラスIタンパク質も発現する。
【0060】
さらなる態様において、本発明は、その必要がある患者における疾患病態の治療方法を提供し、この方法は、本発明の細胞の有効量を患者に投与する工程であって、それによりその疾患病態を治療する工程を含み、ここで疾患病態は、糖尿病、自己免疫疾患、癌、感染症、貧血症、血球減少症、心筋梗塞、心不全、骨格又は関節病態、骨形成不全症又は熱傷である。特定の詳細な実施形態において、疾患病態は、組織又は器官の病理学的又は身体的傷害により生じる。特定の実施形態において、本発明の細胞は幹細胞である;一方、他の実施形態において、本発明の細胞は分化型細胞である。特定の好ましい実施形態において、細胞はヒト細胞であり、患者はヒト患者である。特定の詳細な実施形態において、ヒト細胞は分化型細胞である。本発明の細胞からエキソビボで成長させた組織の移植もまた、本発明により企図される。特定の好ましい実施形態において、本発明の細胞はさらに、1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を発現し、場合によりまた1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIタンパク質も発現する。特定の実施形態において、細胞は同系細胞である;一方、他の実施形態において、細胞は同種異系細胞である。
【0061】
特定の詳細な実施形態において、細胞は、限定なしに、樹状細胞、リンパ球、赤血球、血小板、造血細胞、膵島細胞、肝細胞、筋細胞、ケラチノサイト、心筋細胞、神経細胞、骨格筋細胞、眼細胞、間葉系細胞、線維芽細胞、肺細胞、GI管細胞、血管細胞、内分泌細胞及び脂肪細胞を含む分化型細胞である。特定の他の詳細な実施形態において、本発明は、実質臓器における疾患病態の治療方法を提供する。特定の実施形態において、疾患病態の治療に使用される本発明の細胞は、1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIタンパク質を発現し、場合によりまた1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIタンパク質も発現する。
【0062】
疾患又は障害を有する患者を「治療する」とは、以下の1つ以上を達成することを意味する:(a)疾患の重症度を低減すること;(b)疾患又は障害の進行を阻止すること;(c)疾患又は障害の悪化を妨げること;(d)過去に疾患又は障害を有したことのある患者における疾患又は障害の再発を抑制又は予防すること;(e)疾患又は障害の退縮を生じさせること;(f)疾患又は障害の症状を改善し又は消失させること;及び(f)生存を改善すること。特定の好ましい実施形態において、疾患又は障害は、組織又は細胞の移植により治療することのできる疾患又は障害である。
【0063】
移植に対する、又は疾患病態の治療に対する本発明の単離細胞の有効量は、組織の種類、疾患病態の重症度、移植反応、移植理由、並びに患者の年齢及び全般的な健康などの数多くの要因に依存する。有効量は、熟練した研究者又は臨床医によって通常の診療により決定され得る。移植細胞の免疫原性が低下しているため、所望の治療効果を実現するために比較的多量の細胞が患者に耐容され得る。或いは、所望の治療効果が実現されるまで、細胞を間隔を置いて繰り返し移植することができる。
【0064】
本発明の細胞の投与経路は、いかなる特定の方法にも限定されない。例示的な送達経路としては、限定なしに、静脈内、筋肉内、真皮下、腹腔内、経皮、皮内、及び皮下経路が挙げられる。本発明の細胞はまた、注射により局所投与されてもよい。例えば、細胞は、傷害を受けた関節、折れた骨、梗塞部位、虚血部位又はそれらの周辺部に注入することができる。
【0065】
特定の詳細な実施形態において、細胞は、限定なしにシリンジを含む送達装置を用いて投与される。例えば、細胞を、かかる送達装置に入った溶液又は医薬組成物中に懸濁することができる。「溶液」又は「医薬組成物」は、生理学的に適合性のある緩衝液と、場合により、本発明の細胞の生存が保たれる薬学的に許容可能な担体又は希釈剤とを含む。かかる担体及び希釈剤の使用は、当該技術分野において周知されている。溶液としては、限定なしに、ハンクス液、リンガー液、又は緩衝生理食塩水などの生理学的に適合性のある緩衝液が挙げられる。細胞は、生存能損失のない短期間貯蔵のために、溶液又は医薬組成物中に保管され得る。特定の詳細な実施形態において、細胞は、生存能損失のない長期間貯蔵のために、当該技術分野において周知されている凍結保存法に従い凍結される。
【0066】
水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、又はデキストランなどの、懸濁液の粘度を増加させる物質を含有し得るが、それでもなお、シリンジ注入によって容易に送達し得る点で流体である。溶液は好ましくは無菌であり、製造及び貯蔵条件下で安定しており、且つ、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどの使用により微生物汚染がない。溶液中に含まれる細胞は、薬学的に許容可能な担体又は希釈剤中、及び必要に応じて、上記に指摘した他の成分中にある本明細書に記載されるとおりの幹細胞又は分化型細胞であり得る。
【0067】
細胞は、全身(例えば静脈内)投与されてもよく、又は局所(例えば、心エコー図の案内下で異常心筋に直接、又は直視下手術(open surgery)の間にアクセス可能な損傷組織若しくは器官に直接加えることにより)投与されてもよい。注射用に、細胞は注射用懸濁液製剤中にあっても、又は液体形態の注射用の、損傷組織部位で半固体になる生体適合性媒体中にあってもよい。送達中の細胞に対する物理的損傷を回避するのに十分な直径(例えば少なくとも30ゲージ又はそれ以上)の針ルーメンである限り、シリンジ、制御可能な内視鏡的送達装置又は他の同様の装置を使用することができる。
【0068】
特定の他の実施形態において、細胞は、固体支持体、例えば平面又は三次元マトリックスを用いて移植され得る。マトリックス又は平面は、患者の適切な部位に外科的に植え込まれる。例えば、膵グラフトが必要な患者が、膵組織に外科的に植え込まれた固体支持体上に分化型細胞を有し得る。例示的な固体支持体としては、限定なしに、パッチ、ゲルマトリックス(ファルマシア・アップジョン(Pharmacia-Upjohn)のゼルフォーム(GELFOAM)(登録商標)など)、ポリビニルアルコールスポンジ(PVA)-コラーゲンゲルインプラント(イバロン(IVALON)、ユニポイント・インダストリーズ(Unipoint Industries)、ノースカロライナ州ハイポイント(High Point)など)及び他の同様の又は等価な装置が挙げられる。本発明の細胞と共に様々な他の封入技術を使用することができる(例えば、国際公開第91/10470号;国際公開第91/10425号;米国特許第5,837,234号明細書;米国特許第5,011,472号明細書;米国特許第4,892,538号明細書)。
【0069】
本発明の細胞は、限定なしに、造血細胞、間葉系細胞、膵臓内胚葉細胞、心臓細胞及び角化細胞を含め、全3つの系統の種々の細胞型に分化し得る。特定の実施形態において、分化型細胞はさらに、HLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を発現し、場合によりまた一本鎖融合HLAクラスIタンパク質も発現する。一般に、各細胞型は、HLAクラスII、場合によりまたクラスIタンパク質発現、ヒトT細胞及びNK細胞との反応性、適切な分化マーカ、及び免疫不全マウスにおける異種移植について分析し、生体内発生能を調べることができる。以下は、各分化細胞型の簡単な考察である。
【0070】
特定の実施形態において、本発明の細胞は、現在骨髄移植により治療されている様々な造血疾患の治療用造血細胞に分化し得る。輸血の投与を受けている患者は、HLAの不適合に起因して血小板輸血に不応性となり得る。貧血患者又は血球減少症患者は、本発明の細胞由来の赤血球、血小板又は好中球を送達して出血又は感染を治療することにより治療され得る。
【0071】
さらに、本発明の幹細胞由来の樹状細胞は、適切に操作されるとき細胞性ワクチンとして使用することのできる抗原提示細胞である。特定の実施形態では、HLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を発現し、場合によりまた一本鎖融合HLAクラスIタンパク質及びユニークなペプチド抗原も発現するように操作された本発明の細胞が、特異的な病原体又は腫瘍抗原に対するワクチン接種に使用される。特定の他の実施形態では、特異的抗原に対し限定的なHLA反応性を有する分化したHLAクラスII欠損、HLAクラスI欠損、又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞傷害性リンパ球が、感染細胞又は腫瘍細胞の排除に使用される。
【0072】
造血細胞を得るため、初めに多能性細胞が胚様体を形成可能にされ、その後、造血サイトカインの存在下で非付着性細胞が培養されて特異的な細胞系統に成長した。HLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を発現し、場合によりまた一本鎖融合HLAクラスIタンパク質も発現する本発明の細胞からの造血細胞の分化は、フローサイトメトリー及びコロニーアッセイによって分析され得る。種々の細胞集団がその表面マーカに基づき選別され、それらを用いてHLA遺伝子の発現並びにヒトNK細胞及びT細胞との反応性が、Elispot、混合リンパ球反応、及び細胞傷害性アッセイによる計測でモニタされる。NK細胞媒介性死滅の抑制に対する一本鎖融合HLA構築物の有効性を、種々の分化及び移植段階で調べることができる。ビックス(Bix)ら著、1991年、ネイチャー(Nature)、第349巻、p.329~331を参照のこと。造血幹細胞はまた、異種移植モデル、例えば免疫不全マウス(SCID再増殖細胞即ちSRC)を使用してもアッセイされ得る。
【0073】
本発明の細胞は、患者への細胞の投与前又は投与後のいずれにも造血細胞に分化し得る。特定の好ましい実施形態において、細胞はヒト細胞であり、患者はヒトである。インビトロ造血分化は、確立されたプロトコルに従い実施することができる。例えば、スラクビン(Slukvin)ら著、2006年、ジャーナル・オブ・イムノロジー(J Immunol)、第176巻、p.2924~32、及びチャン(Chang)ら著、2006年、ブラッド(Blood)、第108巻、p.1515~23を参照のこと。
【0074】
特定の他の実施形態において、本発明の細胞は間葉系幹細胞(mesenchymal
stem cell)に分化し得る。特定の実施形態において、本発明の細胞は、1つ以上のHLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を発現し、場合によりまた1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIタンパク質も発現する。MSCは、骨髄間質細胞、脂肪細胞、骨芽細胞、及び軟骨細胞を含むいくつかの分化細胞型を形成する潜在能力を有する。従って、MSC(iMSC)を形成するように多能性幹細胞を誘導することは、骨格及び関節病態の治療において有用である。iMSCは骨芽細胞にさらに分化し、生体内で骨を形成し得る。デイル(Deyle)ら著、2012年、モレキュラー・セラピー(Mol Ther.)、第20(1)巻、p.204~13。ESC、iMSC、及び骨芽細胞などのそれらのより最終分化した誘導体に対するT細胞及びNK細胞の細胞応答を調べることができる。
【0075】
特定の詳細な実施形態において、間葉系幹細胞は、骨髄間質細胞、脂肪細胞、骨芽細胞、骨細胞及び軟骨細胞などの非限定的な例示的細胞型への分化能を有する。本発明の細胞は、患者への細胞の投与前又は投与後のいずれにも間葉系幹細胞に分化する。特定の好ましい実施形態において、細胞はヒト細胞であり、患者はヒトである。インビトロ間葉系分化は、確立されたプロトコルに従い実施することができる。例えば、デイル(Deyle)ら著、前掲を参照のこと。
【0076】
さらに他の詳細な実施形態において、本発明の細胞はインスリン産生膵島細胞に分化し得る。特定の実施形態において、本発明の細胞は、1つ以上のHLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を発現し、場合によりまた1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIタンパク質も発現する。本発明の細胞は、インスリン依存性真性糖尿病の治療に使用することができる。有利には、移植細胞が機能性の膵臓を再構成する必要はない:単にグルコース値に応じてインスリンを分泌しさえすればよい。従ってこの治療は、種々の細胞用量で、成体細胞型に完全には分化していない細胞により、且つ細胞が異所性部位に移植されたときにも奏功し得る。GAD65又はインスリンに由来するものなどの特定の自己抗原は、糖尿病においてβ細胞の自己免疫性破壊を引き起こし得る(ディ・ロレンツォ(Di Lorenzo)ら著、2007年、クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・イムノロジー(Clin Exp Immunol)、第148巻、p.1~16)。従って、所定のペプチド抗原を提示する一本鎖融合HLAタンパク質を発現するHLAクラスII欠損、HLAクラスI欠損、又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞は、これらの自己抗原を提示せず、且つ移植後の自己免疫性拒絶反応を回避して糖尿病の再発を予防し得る点で、さらなる利点を提供する。
【0077】
本発明の細胞は、先述のとおり膵細胞に分化することができ、これは、細胞を種々のサイトカイン及び薬物に曝露して中内胚葉、最終的な内胚葉、及び膵前駆細胞の逐次形成を促進することを用いる(クルーン(Kroon)ら著、2008年、ネイチャー・バイオテクノロジー(Nat Biotechnol)、第26巻、p.443~452)。これらの細胞は、免疫不全マウスにおける移植片でさらに培養することができる。野生型細胞並びに1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質又は1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質及び場合によりまた1つ以上の一本鎖HLAクラスIタンパク質の両方を発現する又は発現しない本発明の細胞は、種々の発生段階でT細胞及びNK細胞とのその反応性を分析することができる。
【0078】
本発明の細胞は、患者投与前又は投与後のいずれにも膵島細胞に分化する。特定の好ましい実施形態において、細胞はヒト細胞であり、患者はヒトである。インビトロ造血分化は、確立されたプロトコルに従い実施することができる。例えば、クルーン(Kroon)ら著、2008年、ネイチャー・バイオテクノロジー(Nat Biotechnol)、第26巻、p.443~452を参照のこと。
【0079】
特定の他の詳細な実施形態において、本発明の細胞は心筋細胞に分化し得る。特定の実施形態において、本発明の細胞はさらに、1つ以上のHLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を発現し、場合によりまた1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIタンパク質も発現する。心筋梗塞及びうっ血性心不全によく見られる臨床的問題は、健常な幹細胞由来の心筋細胞を移植し、それを生着させて機能性の心筋層を再建することにより治療され得る。本発明の細胞由来の心筋細胞は、これらの治療を予めパッケージ化された細胞で進めて、現在の同種異系心臓移植に必要な免疫抑制を回避することが可能である。本発明の細胞に由来する心筋細胞に対し、電気伝導試験及び収縮試験など、生理学的に関連性のある検査を実施することができる。一本鎖融合HLAクラスIタンパク質を発現する又は発現しないHLAクラスII欠損、HLAクラスI欠損、又はHLAクラスI/クラスII欠損幹細胞又は分化した心筋細胞を試験して、心筋細胞遺伝子を発現するときのその免疫学的反応性を決定し、どのHLA修飾がそうした免疫応答を最小限に抑えるかを確立することができる。
【0080】
本発明の細胞は、患者への細胞の投与前又は投与後のいずれにも心筋細胞に分化し得る。特定の好ましい実施形態において、細胞はヒト細胞であり、患者はヒトである。特定の実施形態において、本発明の細胞は、限定なしに心筋梗塞及びうっ血性心不全を含む疾患の治療用心筋細胞に分化する。インビトロ心筋細胞分化は、確立されたプロトコルに従い実施することができる。例えば、ラフランム(Laflamme)ら著、2007年、ネイチャー・バイオテクノロジー(Nat Biotechnol)、第25巻、p.1015~1024を参照のこと。
【0081】
さらに他の詳細な実施形態において、本発明の細胞はケラチノサイトに分化し得る。特定の実施形態において、ケラチノサイトへの分化に使用される本発明の細胞は、1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を発現し、場合によりまた1つ以上のHLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIタンパク質も発現する。重度の熱傷及び遺伝的皮膚病態は皮膚移植による治療を必要とし、これは現在、ブタ皮膚移植及び培養自己ヒトケラチノサイトなど様々な細胞供給源で行われている。本発明の細胞に由来するケラチノサイトは、熱傷を予めパッケージ化された細胞で応急処置し得るため、及び表皮水疱症などの遺伝性疾患を、原因となっている遺伝子突然変異を修正する必要のない、他の点では正常なHLAクラスII欠損、HLAクラスI欠損、又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞で治療することができるため、大幅な臨床的進歩を提供することができる。多くの場合に、細胞は、隣接する宿主細胞が罹患範囲に再増殖するのに十分な時間生着しているだけでよい。本発明の細胞は、生体内で分化させるため、レシピエントへの移植用のポリビニルアルコールスポンジ(PVA)-コラーゲンゲルインプラントに埋め込まれてもよい。本発明の細胞は、移植前又は移植後のいずれにもケラチノサイトに分化し得る。特定の好ましい実施形態において、細胞はヒト細胞であり、患者はヒトである。
【0082】
さらに別の態様において、本発明は、移植用薬剤を調製するための本発明の細胞の使用を提供する。関連する態様において、本発明は、疾患病態の治療用薬剤を調製するための本発明の細胞の使用を提供する。
【0083】
さらに、本発明の細胞は、HLAクラスII欠損、HLAクラスI欠損、又はHLAクラスI/クラスII欠損の遺伝的背景における免疫調節タンパク質の機能を研究するためのシステムを提供する研究ツールとして働き得る。特定の実施形態において、本発明の細胞はさらに、1つ以上のHLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を発現し、場合によりまた1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIタンパク質も発現する。従って、関連する態様において、本発明は、免疫調節タンパク質の機能を決定する方法を提供し、この方法は、本発明の細胞に1つ以上の免疫調節遺伝子を導入する工程と、免疫調節遺伝子の活性をアッセイする工程と含む。特定の好ましい実施形態において、細胞はヒト細胞である。例えば、本発明の細胞を使用して、望ましくないHLAクラスII抗原又はHLAクラスI/クラスII抗原の非存在下で免疫調節遺伝子の機能を研究し、又は免疫応答を研究することができる。さらなる関連する態様において、本発明は、免疫調節タンパク質の機能を修飾する化合物又は分子の同定方法を提供し、この方法は、1つ以上の免疫調節遺伝子を含むHLAクラスII欠損細胞、HLAクラスI欠損細胞、又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞を、目的の化合物又は分子と接触させる工程と、免疫調節遺伝子の活性をアッセイする工程とを含む。特定の好ましい実施形態において、細胞はヒト細胞である。
【0084】
関連する態様において、本発明は、本発明のHLAクラスII欠損、HLAクラスI欠損、又はHLAクラスI/クラスII欠損細胞と、インプラントと含むキットを提供し、ここでインプラントは本発明の細胞を含む。
【0085】
さらに別の態様において、本発明は、HLAクラスII欠損、HLAクラスI欠損、又はHLAクラスI/クラスII欠損の遺伝的背景において免疫調節遺伝子の機能を研究するため、又は投与された細胞の免疫調節遺伝子の機能を修飾する化合物を同定するための、本発明の細胞が投与される哺乳類、特に非ヒト霊長類におけるインビボ研究ツールを提供する。特定の実施形態において、本発明の細胞はさらに、1つ以上のHLAクラスIIタンパク質又は一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を発現し、場合によりまた1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIタンパク質も発現する。
【0086】
マウス、特に免疫不全マウスは、ヒト細胞のインビボ研究用モデル系として使用されている。ヒト幹細胞は、マウスでは異なる挙動を示し得る。加えて、マウス免疫系とヒト免疫系とでは、HLAクラスII遺伝子、NK細胞受容体及び非古典的MHCクラスI遺伝子(例えばHLA-E、F及びG)が異なる。従って、本発明の細胞の研究にはマカカ・ネメストリナ(Macaca nemestrina)(Mn、ブタオザル)モデルを開発し得る。マカカ・ムラタ(Macaca mulatta)ゲノムは配列決定されており、これはネメストリナ(nemestrina)のゲノムと高度な相同性を有する。さらに、マカクMHC遺伝子座の構成は、非古典的遺伝子を含めてヒトHLAと類似している。ヒトHLA-E及びHLA-G遺伝子の相同体がマカクで同定されている。マカクMHC遺伝子座はまた、多くのヒトNK細胞受容体の相同体も含む。ヒト及びMn HLAクラスII欠損、HLAクラスI欠損、又はHLAクラスI/クラスII欠損ESCは、マカクにおける移植に使用することができる。
【0087】
ヒト細胞について記載されるものと同じAAV媒介性遺伝子ターゲティング戦略を使用して、MHCクラスI/クラスII欠損マカクESCのMHCクラスII欠損を開発することができる。一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質及び場合により一本鎖融合HLAクラスIタンパク質のMnバージョンは、上記に記載したものと類似のウイルスベクターを使用してHLAクラスII又はHLAクラスII/クラスI欠損マカクESCにおいて発現される。
【0088】
細胞はインビトロで増殖されて、続く移植細胞の同定のためGFPを発現するベクターで標識され得る。細胞は、ポリビニルアルコールスポンジ(PVA)-コラーゲンゲルインプラントに埋め込まれ、マカクに皮下留置されてもよい。このインプラントを回収し、切片化して染色することにより、存在する細胞型を決定することができる。特異的抗体を使用して、移植細胞によって形成された分化細胞型を同定することができる。
【0089】
上記に記載されるどの実施形態も、文脈上特に明確に指摘されない限り、本発明のどの態様にも適用される。種々の態様の範囲内及びそれらの間にある全ての実施形態は、文脈上特に明確に指示されない限り、組み合わせることができる。
【0090】
(実施例)
実施例1 RFXANK遺伝子にノックアウト突然変異を有するヒト胚性幹細胞の構築
図1は、例示的な2つのアデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子ターゲティングベクターの構造を示しており、該ベクターは、EF1αプロモーター(EF)により制御されるTKNeo遺伝子(AAV-RFXANK-ETKNpA)又はHyTK遺伝子(AAV-RFXANK-HyTK)のいずれかをRFXANK遺伝子(これもまた、それらのベクターの下に示される)のエクソン3に挿入するために設計されたベクターである。ベクター感染細胞をG418又はハイグロマイシン(Hygro)で選択することにより、それぞれTKNeo又はHyTKベクターにより標的化された細胞を単離することが可能である。その後、続くCreリコンビナーゼの発現及びガンシクロビル(GCV)による選択により、TKNeo遺伝子又はHyTK遺伝子が取り除かれたクローンを単離することが可能であり、3つ全てのリーディングフレームにおける終止コドン、loxP部位、及びポリアデニル化部位(StopX3-loxP-pA)を有する2つの不活性化RFXANK対立遺伝子が後に残る。loxPは、Creリコンビナーゼ用の組換え部位である。ITRは、ベクター逆方向末端反復である。他の遺伝子を標的として同様のベクターを設計し得る。
【0091】
AAV-RFXANK-ETKNpAベクター(配列番号56)を使用して、RFXANK遺伝子の第1の対立遺伝子にノックアウト突然変異を作成した。ヒト胚性幹細胞をAAV-RFXANK-ETKNpAに感染させて、ターゲッティングのためPCRによってスクリーニングした。該PCRでは、上記矢印により示されるとおり、選択カセットのネオマイシン配列と相同なフォワードプライマー、及び、標的相同アームの外側にあるRFXANK遺伝子と相同なリバースプライマーを使用した。図2に示すとおり、スクリーニングした40個のクローンのうちで正しいサイズの5つの陽性クローンが上に示され、12.5%のターゲッティング頻度が得られた。
(付記)
好ましい実施形態として、上記実施形態から把握できる技術的思想について、記載する。
[項目1]
ヒト白血球抗原(HLA)クラスII関連遺伝子に遺伝子操作による破壊を含む単離細胞であって、霊長類細胞である細胞。
[項目2]
前記HLAクラスII関連遺伝子が、調節性第X因子関連アンキリン含有タンパク質(RFXANK)(配列番号24~27)、調節性第5因子(RFX5)(配列番号28~31)、調節性第X因子関連タンパク質(RFXAP)(配列番号32~33)、クラスIIトランス活性化因子(CIITA)(配列番号34~35)、HLA-DPA(α鎖)(配列番号36~37)、HLA-DPB(β鎖)(配列番号38~39)、HLA-DQA(配列番号40~41)、HLA-DQB(配列番号42~43)、HLA-DRA(配列番号44~45)、HLA-DRB(配列番号46~47)、HLA-DMA(配列番号48~49)、HLA-DMB(配列番号50~51)、HLA-DOA(配列番号52~53)及びHLA-DOB(配列番号54~55)からなる群から選択される、項目1に記載の細胞。
[項目3]
HLAクラスII関連遺伝子の少なくとも2つ、少なくとも3つに、又は4つ全てに遺伝子操作による破壊を含む、項目2に記載の細胞。
[項目4]
前記HLAクラスII関連遺伝子が、調節性第X因子関連アンキリン含有タンパク質(RFXANK)(配列番号24~27)である、項目1~3のいずれか一項に記載の細胞。
[項目5]
前記HLAクラスII関連遺伝子の全てのコピーに遺伝子操作による破壊を含む、項目1~4のいずれか一項に記載の細胞。
[項目6]
ヒト細胞における免疫修飾ポリペプチドの発現能を各々有する1つ以上の組換え免疫修飾遺伝子をさらに含む、項目1~5のいずれか一項に記載の細胞。
[項目7]
1つ以上の免疫修飾遺伝子が、一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質、又はHLAクラスIIタンパク質をコードし得るポリヌクレオチドを含む、項目1~6のいずれか一項に記載の細胞。
[項目8]
β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子(配列番号1)に遺伝子操作による破壊をさらに含む、項目1~7のいずれか一項に記載の細胞。
[項目9]
(a)β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子(配列番号1)における遺伝子操作による破壊と;
(b)一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質又はHLAクラスIIタンパク質をコードし得る1つ以上のポリヌクレオチドと;
含む単離細胞であって、
霊長類細胞である細胞。
[項目10]
B2M遺伝子の全てのコピーの遺伝子操作による破壊を含む、項目1~9のいずれか一項に記載の細胞。
[項目11]
1つ以上の免疫修飾遺伝子が1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を含み、前記1つ以上の一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質が、HLAクラスII遺伝子β鎖の少なくとも一部分に共有結合したHLAクラスII遺伝子α鎖の少なくとも一部分を含み、前記HLAクラスII遺伝子が、HLA-DP(配列番号36~39)、HLA-DQ(配列番号40~43)、HLA-DR(配列番号44~47)、HLA-DM(配列番号48~51)、及びHLA-DO(配列番号52~55)からなる群から選択される、項目7~10のいずれか一項に記載の細胞。
[項目12]
前記一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質が、複数の異なる一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質を含む、項目11に記載の細胞。
[項目13]
前記一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質が、HLA-DQα鎖(配列番号41)の少なくとも一部分と、HLA-DQβ鎖(配列番号43)の少なくとも一部分とを含む、項目11又は12に記載の細胞。
[項目14]
前記一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質が、HLA-DQα鎖対立遺伝子HLA-DQA101(配列番号41)の少なくとも一部分と、HLA-DQβ鎖対立遺伝子HLA-DQB102(配列番号43)の少なくとも一部分とを含む、項目11~13のいずれか一項に記載の細胞。
[項目15]
前記一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質が、前記細胞表面上に第1の標的ペプチド抗原を提示する、項目11~14のいずれか一項に記載の細胞。
[項目16]
前記第1の標的ペプチド抗原が、前記一本鎖融合HLAクラスIIタンパク質に共有結合されている、項目15に記載の細胞。
[項目17]
1つ以上の免疫修飾遺伝子が1つ以上のHLAクラスIIタンパク質を含み、前記1つ以上のHLAクラスIIタンパク質が、HLA-DMα鎖、HLA-DMβ鎖、HLA-DOα鎖、HLA-DOβ鎖、HLA-DPα鎖、HLA-DPβ鎖、HLA-DQα鎖、HLA-DQβ鎖、HLA-DRα鎖及びHLA-DRβ鎖からなる群から選択される、項目1~10のいずれか一項に記載の細胞。
[項目18]
一本鎖融合HLAクラスIタンパク質をコードし得るポリヌクレオチドをさらに含む、項目8~16のいずれか一項に記載の細胞。
[項目19]
前記一本鎖融合HLAクラスIタンパク質が、HLAクラスIα鎖の少なくとも一部分に共有結合したB2M(配列番号2)の少なくとも一部分を含み、該HLAクラスIα鎖は、HLA-A(配列番号4)、HLA-B(配列番号6)、HLA-C(配列番号8)、HLA-E(配列番号10)、HLA-F(配列番号12)及びHLA-G(配列番号14)からなる群から選択される、項目18に記載の細胞。
[項目20]
前記一本鎖融合HLAクラスIタンパク質が、HLA-A(配列番号3)の少なくとも一部分に共有結合したB2M(配列番号2)の少なくとも一部分を含む、項目18又は19に記載の細胞。
[項目21]
前記一本鎖融合HLAクラスIタンパク質が、HLA-A0201(配列番号4)の少なくとも一部分に共有結合したB2Mの少なくとも一部分を含む、項目18~20のいずれか一項に記載の細胞。
[項目22]
前記細胞表面上に前記一本鎖融合HLAクラスIタンパク質により提示される第2の標的ペプチド抗原をさらに発現する、項目18~21のいずれか一項に記載の細胞。
[項目23]
前記第2の標的ペプチド抗原が前記一本鎖融合HLAクラスIタンパク質に共有結合されている、項目22に記載の細胞。
[項目24]
自殺遺伝子産物をコードし得る1つ以上の組換え遺伝子をさらに含む、項目1~23のいずれか一項に記載の細胞。
[項目25]
前記自殺遺伝子産物が、チミジンキナーゼ及びアポトーシスシグナル伝達タンパク質からなる群から選択されるタンパク質を含む、項目24に記載の細胞。
[項目26]
正常核型を有する、項目1~25のいずれか一項に記載の細胞。
[項目27]
非形質転換細胞である、項目1~26のいずれか一項に記載の細胞。
[項目28]
幹細胞である、項目1~27のいずれか一項に記載の細胞。
[項目29]
前記幹細胞が、造血幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、肝幹細胞、神経幹細胞、膵幹細胞及び間葉系幹細胞からなる群から選択される、項目28に記載の細胞。
[項目30]
前記幹細胞が多能性幹細胞である、項目28又は29に記載の細胞。
[項目31]
前記幹細胞が分化型である、項目28~30のいずれか一項に記載の細胞。
[項目32]
前記分化型細胞が、樹状細胞、膵島細胞、肝細胞、筋細胞、ケラチノサイト、神経細胞、造血細胞、リンパ球、赤血球、血小板,骨格筋細胞、眼細胞、間葉系細胞、線維芽細胞、肺細胞、GI管細胞、血管細胞、内分泌細胞、脂肪細胞及び心筋細胞からなる群から選択される、項目31に記載の細胞。
[項目33]
ヒト細胞である、項目1~31のいずれか一項に記載の細胞。
[項目34]
項目16~33のいずれか一項に記載の細胞を含むワクチンであって、
第1の標的ペプチド抗原及び第2の標的ペプチド抗原の少なくとも一方に特異的な免疫応答を霊長類において誘導し得るワクチン。
[項目35]
前記霊長類がヒトであり、前記細胞がヒト細胞である、項目34に記載のワクチン。
[項目36]
その必要がある患者における移植方法であって、
項目1~35のいずれか一項に記載の細胞又はワクチンの有効量を前記患者に投与する工程を含む方法。
[項目37]
前記患者が免疫適格性を有する、項目36に記載の方法。
[項目38]
前記細胞又はワクチンが分化型細胞を含む、項目36又は37に記載の方法。
[項目39]
前記患者がヒトであり、前記細胞がヒト細胞である、項目36~38のいずれか一項に記載の方法。
図1
図2
【配列表】
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