(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】トリムカバー及び乗物用内装品
(51)【国際特許分類】
B68G 7/05 20060101AFI20220829BHJP
A47C 31/02 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
B68G7/05 B
A47C31/02 A
(21)【出願番号】P 2019035947
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-08-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諸井 康一
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 浩男
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-013610(JP,A)
【文献】特開2018-19893(JP,A)
【文献】特開2017-124668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B68G 7/05
A47C 31/02
B60N 2/00-90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する袋状に形成されたトリムカバーであって、
互いに重ね合されて前記開口部を塞ぐ内側端末部及び外側端末部と、
前記外側端末部に固定されている第1係止部材と、
前記内側端末部に固定されており、前記第1係止部材と係合する第2係止部材と、
を備え、
前記内側端末部は、前記第2係止部材の長手方向両側の端部の端末側に設けられた一対の係止部を有し、
前記係止部は、前記トリムカバーに収納される内蔵物に係止され
、
前記内側端末部は、
前記第2係止部材に沿って延びる縁部と、
前記縁部の長手方向両側の端部から端末側に延設された一対の帯片と、
前記縁部を長手方向に挟むように、前記縁部の前記端部及び前記帯片の基端部に隣設された一対の耳片と、
を有し、
前記係止部は、前記縁部側に折り返された前記帯片の先端部が前記縁部に縫合され、且つ前記縁部及び前記帯片側に折り返された前記耳片が前記帯片の折り返し部に縫合されてなるポケットであるトリムカバー。
【請求項2】
請求項
1記載のトリムカバーであって、
前記縁部の前記端部と前記帯片の前記基端部との接続部には、前記第2係止部材の長手方向の端部が差し込まれる切り込みが設けられており、
前記帯片の先端部は、第1縫合部において前記第2係止部材の前記端部に縫合されており、且つ第2縫合部において前記第2係止部材の前記端部及び前記内側端末部の前記縁部に縫合されているトリムカバー。
【請求項3】
請求項1又は2記載のトリムカバーによって被覆された乗物用内装品。
【請求項4】
請求項
3記載の乗物用内装品であって、
乗物用シートのシートバックである乗物用内装品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリムカバー及び乗物用内装品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される車両用シートのシートバックは、クッションパッドと、クッションパッドを被覆するトリムカバーとを備える。トリムカバーは、開口部を有する袋状に形成されており、トリムカバーの開口部は、典型的には、シートバックの下端部における後面側に配置される。この場合、トリムカバーの前面表皮材の端末部が、シートバックの下端部を回って後面側に引き回される。そして、前面表皮材の端末部の外側に、トリムカバーの後面表皮材の端末部が重ね合される。前面表皮材及び後面表皮材の端末部には、係止部材としての断面J字状のフックが縫合されており、両端末部のJフックが互いに係合することによって両端末部が連結され、トリムカバーの開口部が塞がれる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された係止部材の取付構造では、トリムカバーの前面表皮材の端末部に縫合されるJフックの長手方向両側の端部の角部が、前面表皮材に形成されたスリットに差し込まれ、前面表皮材によって覆われている。スリットが形成される前面表皮材の端末部は、Jフックの端部を長手方向に越えて延びるが、この延在部分は、Jフックに支持されず、垂れる虞がある。前面表皮材の延在部分が垂れると、シートバックの外観品質が損なわれる。
【0005】
また、前面表皮材の延在部分を覆うため、トリムカバーの後面表皮材の端末部にも、Jフックの端部を長手方向に越えて延びる延在部分が設けられるが、後面表皮材の延在部分も、やはりJフックに支持されず、捲れる虞がある。後面表皮材の延在部分が捲れると、クッションパッド等の内蔵物が露呈する虞がある。例えば前面表皮材の延在部分がJフックを端末側に越えて延ばされることにより、内蔵物の露呈を抑制することは可能であるが、前面表皮材の延在部分が垂れる可能性が高まる。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたものであり、乗物用内装品の外観品質を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様のトリムカバーは、開口部を有する袋状に形成されたトリムカバーであって、互いに重ね合されて前記開口部を塞ぐ内側端末部及び外側端末部と、前記外側端末部に固定されている第1係止部材と、前記内側端末部に固定されており、前記第1係止部材と係合する第2係止部材と、を備え、前記内側端末部は、前記第2係止部材の長手方向両側の端部の端末側に設けられた一対の係止部を有し、前記係止部は、前記トリムカバーに収納される内蔵物に係止され、前記内側端末部は、前記第2係止部材に沿って延びる縁部と、前記縁部の長手方向両側の端部から端末側に延設された一対の帯片と、前記縁部を長手方向に挟むように、前記縁部の前記端部及び前記帯片の基端部に隣設された一対の耳片と、を有し、前記係止部は、前記縁部側に折り返された前記帯片の先端部が前記縁部に縫合され、且つ前記縁部及び前記帯片側に折り返された前記耳片が前記帯片の折り返し部に縫合されてなるポケットである。
【0008】
また、本発明の一態様の乗物用内装品は、前記トリムカバーによって被覆されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乗物用内装品の外観品質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態を説明するための、乗物用内装品の一例として乗物用シートの斜視図である。
【
図2】
図1の乗物用シートのシートバックの断面図である。
【
図3】
図2のトリムカバーの内側端末部の模式図である。
【
図5】
図3の内側端末部の端末処理方法の模式図である。
【
図6】
図3の内側端末部の端末処理方法の模式図である。
【
図7】
図3の内側端末部の端末処理方法の模式図である。
【
図8】内側端末部の端末処理方法の参考例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1及び
図2は、本発明の実施形態を説明するための、乗物用内装品の一例としての乗物用シートを示す。
【0012】
乗物用シート1は、自動車等の車両に搭載されるシートである。シート1は、シート1に着座した乗員の臀部及び大腿部を支持するシートクッション2と、着座者の腰部及び背部を支持するシートバック3とを備える。
【0013】
シートバック3は、シートバックの骨格を形成するフレームと、フレームによって支持されるクッションパッド10と、フレーム及びクッションパッド10を被覆するトリムカバー11とを備える。シートクッション2もまた、フレームと、クッションパッドと、トリムカバーとを備える。
【0014】
トリムカバー11は複数の表皮材を袋状に縫製してなり、複数の表皮材には、乗員の腰部及び背部に接するシートバック3の前面を被覆する前面表皮材20と、シートバック3の後面を被覆する後面表皮材21とが含まれる。表皮材としては、例えば皮革(天然皮革、合成皮革)、織布、不織布、編物等が用いられる。袋状に縫製されたトリムカバー11は、前面表皮材20の端末部22と後面表皮材21の端末部23との間でシート幅方向に延びる開口部24を有する。
【0015】
前面表皮材20の端末部22は、シートバック3の下端部を回ってシートバック3の後面側に引き回されており、開口部24は、シートバック3の下端部における後面側に配置されている。後面表皮材21の端末部23は、前面表皮材20の端末部22の外側に重ねられ、開口部24を塞ぐ。シートバック3のフレーム及びクッションパッド10は、開口部24を通して、袋状のトリムカバー11に収納されている。
【0016】
シートバック3の下端部には、シートバック3のフレームの一部を構成するパイプ材12が内蔵されており、パイプ材12はシート幅方向に延びている。クッションパッド10は舌片部13を有し、舌片部13は、シートバック3の前面側からパイプ材12の下側を回ってパイプ材12を包み込んでいる。
【0017】
前面表皮材20の端末部22には、開口部24に沿って延びる係止部材25が固定されており、後面表皮材21の端末部23には、開口部24に沿って延びる係止部材26が固定されている。係止部材25及び係止部材26は、樹脂材料からなる断面J字状のフックであり、係止部材25は、前面表皮材20の端末部22に縫合されることによって端末部22に固定されており、係止部材26は、後面表皮材21の端末部23に縫合されることによって端末部23に固定されている。係止部材25と係止部材26とが互いに係合し、前面表皮材20の端末部22と後面表皮材21の端末部23とが連結されることにより、開口部24が塞がれる。
【0018】
図3及び
図4は、前面表皮材20の端末部22を示す。
【0019】
前面表皮材20の端末部22は、一対の係止部30を有する。一対の係止部30は、端末部22に縫合された係止部材25の長手方向両側の端部25aの端末側に設けられており、トリムカバー11に収納される内蔵物に係止される。
【0020】
断面J字状のフックである係止部材25は、端末部22に縫合される基部31と、湾曲部32を介して基部31に連設されているフック部33とを有する。一方、前面表皮材20の端末部22は、縁部34と、一対の帯片35と、一対の耳片36とを有する。縁部34は、係止部材25の基部31とフック部33との間に差し込まれている。係止部材25の基部31は、縁部34の裏面側に配置され、縁部34に縫合されている。一対の帯片35は、縁部34の長手方向両側の端部34aから端末部22の端末側に延設されている。一対の耳片36は、縁部34を長手方向に挟んで設けられており、各耳片36は、縁部34の端部34a及び帯片35の基端部35aに隣設されている。
【0021】
帯片35は縁部34側に折り返され、折り返された帯片35の先端部35bは、縁部34の端部34aに縫合されている。耳片36は、縁部34及び帯片35側に折り返され、折り返された耳片36は、帯片35の折り返し部35cに縫合されている。端末部22の係止部30は、縁部34、帯片35、及び耳片36によってポケット状に形成されており、クッションパッド10の舌片部13の先端角部14に引っ掛けられることによって先端角部14に係止される。
【0022】
耳片36の折り返し部36aは、係止部材25の端部25aを長手方向に越えた位置にあって、係止部材25に支持されていないが、係止部30がクッションパッド10に係止されることにより、耳片36の垂れが防止される。また、係止部30が係止部材25の端部25aの端末側に設けられており、耳片36が係止部材25の端部25aを端末側に越えて延びているので、後面表皮材21の端末部23が捲れたとしても、クッションパッド10の露呈が抑制される。これにより、シートバック3の外観品質を高めることができる。
【0023】
ここで、縁部34の端部34aと帯片35の基端部35aとの接続部には、切り込み37が形成されており、切り込み37には、係止部材25の端部25aが差し込まれている。したがって、縁部34の端部34aに縫合される帯片35の先端部35bは、同じく縁部34の端部34aに縫合される係止部材25の端部25aと重なる。帯片35の先端部35bは、第1縫合部38によって係止部材25の端部25aに縫合されており、第2縫合部39によって係止部材25の端部25a及び縁部34の端部34aに縫合されている。第2縫合部39は、係止部材25の全長にわたり、係止部材25と縁部34とを縫合している。
【0024】
以上のとおり構成された前面表皮材20の端末部22の端末処理方法を
図5から
図7を参照して説明する。
【0025】
まず、
図5に示すように、縁部34、一対の帯片35、及び一対の耳片36が広げられた状態で、端末部22が裏面を上にして配置される。帯片35には、係止部材25を位置決めするための複数の切り欠き40が形成されており、係止部材25は、一対の帯片35の先端部35bの間に架け渡され、切り欠き40に基づいて位置決めされる。位置決めされた係止部材25の端部25aにおける基部31と、帯片35の先端部35bとが縫合され、第1縫合部38が形成される。
【0026】
次に、
図6に示すように、帯片35が折り返され、縁部34が、係止部材25の基部31とフック部33との間に差し込まれる。基部31が縁部34の上に配置され、フック部33が縁部34の下に配置される。そして、係止部材25の基部31と縁部34とが係止部材25の全長にわたって縫合され、第2縫合部39が形成される。このとき、係止部材25の端部25aにおける基部31と既に縫合されている帯片35の先端部35bは、第2縫合部39によって基部31及び縁部34にさらに縫合される。
【0027】
最後に、
図7に示すように、耳片36が折り返され、折り返された耳片36が、帯片35の折り返し部35cに縫合される。これにより、係止部30が、縁部34、帯片35、及び耳片36によってポケット状に形成される。以上の端末処理方法によれば、係止部30のポケットサイズが安定する。
【0028】
図8は、前面表皮材20の端末部22の端末処理方法の参考例を示し、本参考例において、係止部材25の基部31と端末部22の縁部34とが係止部材25の全長にわたって縫合される際に、帯片35の先端部35bが、係止部材25の端部25aにおける基部31と縫合されていない。この場合、帯片35の先端部35bを押さえるため、端末部22が表面を上にして配置され、係止部材25の基部31及び帯片35の先端部35bは、縁部34の下に配置される。この状態で、係止部材25の基部31と端末部22の縁部34とが係止部材25の全長にわたって縫合され、併せて係止部材25の端部25aにおける基部31と重なる帯片35の先端部35bも共縫いされる。しかし、帯片35の先端部35bは、係止部材25の端部25aにおける基部31と縫合されておらず、縫合の際にズレが生じる場合がある。帯片35の先端部35bにズレが生じると、帯片35の折り返し部35cにもズレが生じ、折り返し部35cに縫合される耳片36が変形する。このため、縁部34、帯片35、及び耳片36によってポケット状に形成される係止部30のポケットサイズが変化する。
【0029】
一方、
図5から
図7に示した端末処理方法によれば、係止部材25の基部31と端末部22の縁部34とが係止部材25の全長にわたって縫合される際に、帯片35の先端部35bが、第1縫合部38によって係止部材25の端部25aにおける基部31と既に縫合されており、帯片35の先端部35bにズレが生じない。したがって、係止部30のポケットサイズが安定する。係止部30のポケットサイズが安定することにより、クッションパッド10の舌片部13の先端角部14を係止部30に確実に収納でき、係止部30をクッションパッド10に確実に係止できる。これにより、シートバック3の外観品質を高めることができる。
【0030】
以上、自動車等の車両に設置されるシート1を例にして本発明を説明したが、本発明は、船舶や航空機といった車両以外の乗物用のシートにも適用可能である。また、本発明は、乗物用シートに限定されず、例えばアームレストやフットレスト等の他の乗物用内装品にも適用可能である。
【0031】
以上、説明したとおり、本明細書に開示されたトリムカバーは、開口部を有する袋状に形成されたトリムカバーであって、互いに重ね合されて前記開口部を塞ぐ内側端末部及び外側端末部と、前記外側端末部に固定されている第1係止部材と、前記内側端末部に固定されており、前記第1係止部材と係合する第2係止部材と、を備え、前記内側端末部は、前記第2係止部材の長手方向両側の端部の端末側に設けられた一対の係止部を有し、前記係止部は、前記トリムカバーに収納される内蔵物に係止される。
【0032】
また、本明細書に開示されたトリムカバーは、前記内側端末部は、前記第2係止部材に沿って延びる縁部と、前記縁部の長手方向両側の端部から端末側に延設された一対の帯片と、前記縁部を長手方向に挟むように、前記縁部の前記端部及び前記帯片の基端部に隣設された一対の耳片と、を有し、前記係止部は、前記縁部側に折り返された前記帯片の先端部が前記縁部に縫合され、且つ前記縁部及び前記帯片側に折り返された前記耳片が前記帯片の折り返し部に縫合されてなるポケットである。
【0033】
また、本明細書に開示されたトリムカバーは、前記縁部の前記端部と前記帯片の前記基端部との接続部には、前記第2係止部材の長手方向の端部が差し込まれる切り込みが設けられており、前記帯片の先端部は、第1縫合部において前記第2係止部材の前記端部に縫合されており、且つ第2縫合部において前記第2係止部材の前記端部及び前記内側端末部の前記縁部に縫合されている。
【0034】
また、本明細書に開示された乗物用内装品は、前記トリムカバーによって被覆されている。
【0035】
また、本明細書に開示された乗物用内装品は、前記トリムカバーによって被覆されるクッションパッドを備え、前記トリムカバーの前記内側端末部は、前記第2係止部材に沿って延びる縁部と、前記縁部の長手方向両側の端部から端末側に延設された一対の帯片と、前記縁部を長手方向に挟むように、前記縁部の前記端部及び前記帯片の基端部に隣設された一対の耳片と、を有し、前記係止部は、前記縁部側に折り返された前記帯片の先端部が前記縁部に縫合され、且つ前記縁部及び前記帯片側に折り返された前記耳片が前記帯片の折り返し部に縫合されてなるポケットであり、前記クッションパッドの角部を収容する。
【0036】
また、本明細書に開示された乗物用内装品は、前記内側端末部における前記縁部の前記端部と前記帯片の前記基端部との接続部には、前記第2係止部材の長手方向の端部が差し込まれる切り込みが設けられており、前記帯片の前記先端部は、第1縫合部において前記第2係止部材の前記端部に縫合されており、且つ第2縫合部において前記第2係止部材の前記端部及び前記縁部に縫合されている。
【0037】
また、本明細書に開示された乗物用内装品は、乗物用シートのシートバックである。
【符号の説明】
【0038】
1 乗物用シート
2 シートクッション
3 シートバック
10 クッションパッド
11 トリムカバー
12 パイプ材
13 舌片部
14 先端角部
20 前面表皮材
21 後面表皮材
22 前面表皮材の端末部(内側端末部)
23 後面表皮材の端末部(外側端末部)
24 開口部
25 係止部材
25a 端部
26 係止部材
30 係止部
31 基部
32 湾曲部
33 フック部
34 縁部
34a 端部
35 帯片
35a 基端部
35b 先端部
35c 折り返し部
36 耳片
36a 折り返し部
37 切り込み
38 第1縫合部
39 第2縫合部