(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】衝撃エネルギ吸収部材
(51)【国際特許分類】
B60R 19/34 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
B60R19/34
(21)【出願番号】P 2019072963
(22)【出願日】2019-04-05
【審査請求日】2020-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】井上 太久真
(72)【発明者】
【氏名】寺田 真
(72)【発明者】
【氏名】緒方 和良
(72)【発明者】
【氏名】安江 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】森 康平
(72)【発明者】
【氏名】中山 真広
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆太
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-100055(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0099027(US,A1)
【文献】特開2015-196463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延びるバンパリインフォースメントに対する荷重の入力側とは反対側に配置され、
繊維構造体にマトリックス材料を複合化して構成される衝撃エネルギ吸収部材であって、
車両前後方向に軸線が延びる筒状であり、前記荷重を受けて破壊されることによって前記荷重の入力に伴って発生する衝撃エネルギを吸収するエネルギ吸収部と、
前記エネルギ吸収部の軸方向における前記バンパリインフォースメント側に一体に設けられる取付部と、を備え、
前記取付部及び前記バンパリインフォースメントの壁を貫通し、かつ前記エネルギ吸収部の軸方向に交差する方向に軸線が延びる締結部材によって前記取付部が前記バンパリインフォースメントに締結され、
前記取付部と前記エネルギ吸収部とは、前記車両前後方向における前記バンパリインフォースメント側から見て前記締結部材に前記エネルギ吸収部が重ならない位置関係にあり、
前記取付部は、前記バンパリインフォースメントの前記壁としての上壁に締結される上部取付部と、前記バンパリインフォースメントの前記壁としての下壁に締結される下部取付部とで構成され、
前記上部取付部は、当該上部取付部と前記上壁を上下方向に貫通する前記締結部材によって前記バンパリインフォースメントに締結され、前記下部取付部は、当該下部取付部と前記下壁を上下方向に貫通する前記締結部材によって前記バンパリインフォースメントに締結され、
前記エネルギ吸収部は、上下方向に対向する天板及び底板を有し、
前記上部取付部は前記天板より下方に位置し、前記下部取付部は、前記底板より上方に位置することを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項2】
車幅方向に延びるバンパリインフォースメントに対する荷重の入力側とは反対側に配置され、
繊維構造体にマトリックス材料を複合化して構成される衝撃エネルギ吸収部材であって、
車両前後方向に軸線が延びる筒状であり、前記荷重を受けて破壊されることによって前記荷重の入力に伴って発生する衝撃エネルギを吸収するエネルギ吸収部と、
前記エネルギ吸収部の軸方向における前記バンパリインフォースメント側に一体に設けられる取付部と、を備え、
前記取付部及び前記バンパリインフォースメントの壁を貫通し、かつ前記エネルギ吸収部の軸方向に交差する方向に軸線が延びる締結部材によって前記取付部が前記バンパリインフォースメントに締結され、
前記取付部と前記エネルギ吸収部とは、前記車両前後方向における前記バンパリインフォースメント側から見て前記締結部材に前記エネルギ吸収部が重ならない位置関係にあり、
前記取付部は、前記バンパリインフォースメントの前記壁としての上壁に締結される上部取付部と、前記バンパリインフォースメントの前記壁としての下壁に締結される下部取付部とで構成され、
前記エネルギ吸収部は、上下方向に対向する天板及び底板を有し、
前記上部取付部は、前記天板における前記バンパリインフォースメント寄りの端から下方に延出する上部連結部の下端から前記バンパリインフォースメントに向けて延出し、前記下部取付部は、前記底板における前記バンパリインフォースメント寄りの端から下方に延出する下部連結部の下端から前記バンパリインフォースメントに向けて延出していることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷重を受けた際の衝撃エネルギを吸収する衝撃エネルギ吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車は、衝突時における車体及び搭乗者の保護のため、車体の前後にバンパリインフォースメントを備える。バンパリインフォースメントは自動車が障害物と衝突した際に加わる過大な荷重に対して非可逆的に衝撃エネルギを吸収する必要がある。このようなバンパリインフォースメントの支持構造としては、バンパリインフォースメントを、衝撃エネルギ吸収部材を介してフロントサイドメンバに支持する構成がある。この衝撃エネルギ吸収部材は、車両がパンパリインフォースメント側から過大な荷重を受けた場合に、破砕を伴う破壊により衝撃エネルギの一部を吸収する。
【0003】
このような衝撃エネルギ吸収部材としては、例えば特許文献1に開示のクラッシュボックスが挙げられる。
図11に示すように、特許文献1に開示されたクラッシュボックス90は、エネルギ吸収体91と、エネルギ吸収体91に一体の前フランジ92と、図示しない後フランジとを備える。クラッシュボックス90は、繊維強化複合材によって構成されている。エネルギ吸収体91は、車両前後方向を軸方向とする矩形筒状であり、閉断面構造を有する。エネルギ吸収体91は、天壁91aと、底壁91bと、天壁91a及び底壁91bの車幅方向の同じ側の端部を繋ぐ左右一対の側壁91cとを有し、軸方向に直交する断面視が略矩形状である。
【0004】
クラッシュボックス90の前フランジ92は、エネルギ吸収体91の前端から上下左右に張り出した前壁92aと、前壁92aの上端から前方に延出された上壁92bと、前壁92aの下端から前方に延出された下壁92cとを有する。
【0005】
エネルギ吸収体91の前壁92aは、エネルギ吸収体91の前端と共にバンパリインフォースメント94の後壁94aに突き当てられている。クラッシュボックス90の上壁92bは、バンパリインフォースメント94の上壁94bに接着等によって接合され、クラッシュボックス90の下壁92cは、バンパリインフォースメント94の下壁94cに接着等により接合されている。
【0006】
また、バンパリインフォースメント94の後壁94aには矩形筒状のリミッタ部材95が設けられている。クラッシュボックス90は、エネルギ吸収体91の内側にリミッタ部材95が入り込んだ状態でバンパリインフォースメント94の後壁94aに固定されている。このリミッタ部材95は、前フランジ92によるエネルギ吸収体91のバンパリインフォースメント94に対する接合が解除(分離)された場合に、該バンパリインフォースメント94に対するエネルギ吸収体91の位置ずれを制限する構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に開示のクラッシュボックス90において、前面衝突時、クラッシュボックス90とバンパリインフォースメント94との接合部が破壊されてクラッシュボックス90とバンパリインフォースメント94とが分離される虞がある。そこで、接合強度を上げるため、クラッシュボックス90の上壁92b及び下壁92cとバンパリインフォースメントの上壁94b及び下壁94cとをボルトとナットによって締結することが考えられる。しかし、このような構造では、前面衝突時、バンパリインフォースメント94がエネルギ吸収体91に向けて変形したとき、ボルトがエネルギ吸収体91の天壁91aや底壁91bに衝突して天壁91aや底壁91bが割れてしまい、エネルギ吸収体91の破壊によるエネルギ吸収が発揮できない虞がある。
【0009】
本発明の目的は、締結部材によってバンパリインフォースメントに締結されながらも好適にエネルギ吸収できる衝撃エネルギ吸収部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するための衝撃エネルギ吸収部材は、車幅方向に延びるバンパリインフォースメントに対する荷重の入力側とは反対側に配置され、繊維構造体にマトリックス材料を複合化して構成される衝撃エネルギ吸収部材であって、車両前後方向に軸線が延びる筒状であり、前記荷重を受けて破壊されることによって前記荷重の入力に伴って発生する衝撃エネルギを吸収するエネルギ吸収部と、前記エネルギ吸収部の軸方向における前記バンパリインフォースメント側に一体に設けられる取付部と、を備え、前記取付部及び前記バンパリインフォースメントの壁を貫通し、かつ前記エネルギ吸収部の軸方向に交差する方向に軸線が延びる締結部材によって前記取付部が前記バンパリインフォースメントに締結され、前記取付部と前記エネルギ吸収部とは、前記車両前後方向における前記バンパリインフォースメント側から見て前記締結部材に前記エネルギ吸収部が重ならない位置関係にあることを要旨とする。
【0011】
これによれば、衝突時、バンパリインフォースメントから衝撃エネルギ吸収部材に荷重が入力される。荷重を受けてバンパリインフォースメント及びエネルギ吸収部が圧縮変形しつつ締結部材が荷重の入力方向の下流側へ移動していく。締結部材が移動しても、締結部材の移動先にはエネルギ吸収部が存在せず、締結部材がエネルギ吸収部に衝突することが回避される。その結果、衝突時、締結部材によってエネルギ吸収部が破壊されることが回避され、エネルギ吸収部は、荷重の入力によって粉砕破壊されることで衝突エネルギを好適に吸収する。
【0012】
また、衝撃エネルギ吸収部材について、前記取付部は、前記バンパリインフォースメントの前記壁としての上壁に締結される上部取付部と、前記バンパリインフォースメントの前記壁としての下壁に締結される下部取付部とで構成され、前記上部取付部は、当該上部取付部と前記上壁を上下方向に貫通する前記締結部材によって前記バンパリインフォースメントに締結され、前記下部取付部は、当該下部取付部と前記下壁を上下方向に貫通する前記締結部材によって前記バンパリインフォースメントに締結されていてもよい。
【0013】
これによれば、スモールオーバーラップ衝突時や斜め衝突時、上部取付部及び下部取付部とバンパリインフォースメントとの締結部を中心として、バンパリインフォースメントの回動が許容される。このため、スモールオーバーラップ衝突時や斜め衝突時、エネルギ吸収部が屈曲してしまうことを抑制でき、衝撃エネルギ吸収部材によるエネルギ吸収効率の低下を抑制できる。
【0014】
また、衝撃エネルギ吸収部材について、前記エネルギ吸収部は、上下方向に対向する天板及び底板を有し、前記上部取付部は、前記天板における前記バンパリインフォースメント寄りの端から下方に延出する上部連結部の下端から前記バンパリインフォースメントに向けて延出し、前記下部取付部は、前記底板における前記バンパリインフォースメント寄りの端から下方に延出する下部連結部の下端から前記バンパリインフォースメントに向けて延出していてもよい。
【0015】
これによれば、バンパリインフォースメントの上壁に上部取付部が締結されるため、エネルギ吸収部の天板は、バンパリインフォースメントよりも上方に位置する。このため、衝突時、バンパリインフォースメントより上方の部品が荷重の入力方向の下流側に移動した場合でも、その部品が天板に衝突し、衝突エネルギを天板で吸収できる。
【0016】
また、バンパリインフォースメントの下壁に下部取付部が締結されるため、エネルギ吸収部の底板は、バンパリインフォースメントの下壁よりも上方に位置し、バンパリインフォースメントにオーバーラップしている。このため、エネルギ吸収部の下方に車両部品の配置スペースを確保できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、締結部材によってバンパリインフォースメントに締結されながらも好適にエネルギ吸収できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図4】衝撃エネルギ吸収部材をバンパリインフォースメント側から見た図。
【
図10】別例の衝撃エネルギ吸収部材を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、車両が備える衝撃エネルギ吸収部材を具体化した一実施形態を
図1~
図6にしたがって説明する。なお、以下の説明において、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」とは、車両の運転者が車両前方(前進方向)を向いた状態を基準とした場合の「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」のことをいう。左右方向は車幅方向と一致する。また、前後方向を車両前後方向と記載する。
【0020】
図1に示すように、車両としての自動車の車体前部構造10は、車幅方向の両側に位置するフロントサイドメンバ11を備える。一対のフロントサイドメンバ11は、それぞれ車両前後方向に長手が延びる。一対のフロントサイドメンバ11の前端には、衝撃エネルギ吸収部材20が取り付けられている。また、車体前部構造10は、左右の衝撃エネルギ吸収部材20の前端に架け渡されたバンパリインフォースメント12を備える。バンパリインフォースメント12は、車幅方向に長手が延びる。車体前部構造10において、左右のフロントサイドメンバ11は、それぞれ衝撃エネルギ吸収部材20を介してバンパリインフォースメント12に接合されている。
【0021】
図3に示すように、バンパリインフォースメント12は、長手方向に直交する断面視で閉断面を有する閉断面構造とされている。また、バンパリインフォースメント12は、例えば、アルミ等の金属材又はCFRP等の繊維強化複合材によって形成されている。バンパリインフォースメント12は、上壁12aと、下壁12bと、上壁12a及び下壁12bの車両前後方向の前側の端部を繋ぐ前壁12cと、上壁12a及び下壁12bの車両前後方向の後側の端部を繋ぐ後壁12dとを有する。上壁12aと下壁12bは左右方向に対向し、前壁12cと後壁12dは車両前後方向に対向する。
【0022】
次に、衝撃エネルギ吸収部材20について説明する。
衝撃エネルギ吸収部材20は、エネルギ吸収部21と、エネルギ吸収部21におけるバンパリインフォースメント12側に設けられた取付部としての上部取付部22及び下部取付部23とを備える。また、衝撃エネルギ吸収部材20は、エネルギ吸収部21の後端に一体の取付フランジ24を備える。取付フランジ24がフロントサイドメンバ11の前端に締結されることで、衝撃エネルギ吸収部材20がフロントサイドメンバ11に接合されている。そして、衝撃エネルギ吸収部材20は、バンパリインフォースメント12に対する荷重の入力側とは反対側に配置されている。
【0023】
衝撃エネルギ吸収部材20は、強化基材としての繊維構造体にマトリックス材料の一例であるマトリックス樹脂を含浸させて構成されたものである。なお、マトリックス材料は、マトリックス樹脂以外にもセラミックスであってもよい。マトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂が使用される。繊維構造体は、強化繊維によって製造されている。強化繊維としては、有機繊維又は無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。有機繊維としては、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等が挙げられ、無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。本実施形態では、炭素繊維によって繊維構造体が形成されている。
【0024】
図2又は
図3に示すように、エネルギ吸収部21は、車両前後方向に軸線Nが延びる矩形筒状である。以下の説明において、軸線Nが延びる方向をエネルギ吸収部21の軸方向とする。また、エネルギ吸収部21は閉断面構造を有する。エネルギ吸収部21は、上下方向に対向する天板21a及び底板21bと、天板21a及び底板21bの車幅方向の同じ側の端部を繋ぐ左右一対の側板21cと、を有する。衝撃エネルギ吸収部材20のうち、エネルギ吸収部21は、軸方向に長手が延びる部分を有する部位であり、天板21aと、底板21bと、一対の側板21cとから構成される部位である。そして、エネルギ吸収部21は、衝突によって加わる荷重を受けて破壊されることによって、荷重の入力に伴って発生する衝撃エネルギを吸収する。
【0025】
衝撃エネルギ吸収部材20は、エネルギ吸収部21と上部取付部22の連結部となる上部連結部26を備える。上部連結部26は、天板21aにおけるバンパリインフォースメント12寄りの端となる前端から下方へ延設されるとともに、一対の側板21cにおける天板21a寄りの前端部同士を車幅方向に繋ぐように設けられている。
【0026】
上部取付部22は、上部連結部26の下端から、エネルギ吸収部21の軸方向に沿ってバンパリインフォースメント12に向けて延出されている。つまり、上部取付部22は、上部連結部26の下端から前方へ延出されている。上部取付部22は矩形状である。上部取付部22には一対の貫通孔22aが形成されている。一対の貫通孔22aは、車幅方向における上部取付部22の両端より内側に形成されている。また、上部取付部22は、エネルギ吸収部21の天板21aよりも下方に位置する。
【0027】
上部取付部22は、バンパリインフォースメント12の上壁12aに締結されている。上部取付部22の貫通孔22aを貫通したボルト30の軸部30bは、バンパリインフォースメント12の上壁12aを貫通し、バンパリインフォースメント12の内部でナット31に螺合している。したがって、ボルト30の軸部30bの軸線は、エネルギ吸収部21の軸方向に対して直交する方向に延びている。ボルト30及びナット31は、上部取付部22をバンパリインフォースメント12に締結するための締結部材を構成する。
【0028】
天板21aの内面21fを通過し、かつエネルギ吸収部21の軸方向に延びる面を上部仮想面M1とする。上下方向に沿った上部取付部22の上面22bから上部仮想面M1までの距離を上側離間距離K1とする。また、上下方向に沿った上部取付部22の上面22bからボルト30の頭部30aまでの距離を上側突出長さL1とする。上側離間距離K1は上側突出長さL1より長く、天板21aは、ボルト30の頭部30aよりも上方に位置している。したがって、上下方向への上部連結部26の寸法を調節することにより、天板21aがボルト30の頭部30aよりも上方に位置するようになっている。
【0029】
衝撃エネルギ吸収部材20は、エネルギ吸収部21と下部取付部23の連結部となる下部連結部27を備える。下部連結部27は、底板21bにおけるバンパリインフォースメント12寄りの端となる前端から下方へ延設されている。下部取付部23は、下部連結部27の下端から、エネルギ吸収部21の軸方向に沿って、バンパリインフォースメント12に向けて延出されている。つまり、下部取付部23は、下部連結部27の下端から前方へ延出されている。下部取付部23は矩形状である。下部取付部23には一対の貫通孔23aが形成されている。下部取付部23は、エネルギ吸収部21の底板21bよりも下方に位置する。
【0030】
下部取付部23は、バンパリインフォースメント12の下壁12bに締結されている。下部取付部23の貫通孔23aを貫通したボルト30の軸部30bは、バンパリインフォースメント12の下壁12bを貫通し、バンパリインフォースメント12の内部でナット31に螺合している。したがって、ボルト30の軸部30bの軸線は、エネルギ吸収部21の軸方向に対して直交する方向に延びている。ボルト30及びナット31は、下部取付部23をバンパリインフォースメント12に締結するための締結部材を構成する。
【0031】
底板21bの外面21gを通過し、かつエネルギ吸収部21の軸方向に延びる面を下部仮想面M2とする。上下方向に沿った下壁12bの上面12eから下部仮想面M2までの距離を下側離間距離K2とする。また、上下方向に沿った下壁12bの上面12eからボルト30の軸部30bまでの距離を下側突出長さL2とする。下側離間距離K2は下側突出長さL2より長く、底板21bは、ボルト30の軸部30bよりも上方に位置している。したがって、上下方向への下部連結部27の寸法を調節することにより、底板21bがボルト30の軸部30bよりも上方に位置するようになっている。
【0032】
図4に示すように、車両前後方向におけるバンパリインフォースメント12側から衝撃エネルギ吸収部材20を見た場合、上部取付部22及び下部取付部23とエネルギ吸収部21とは、各ボルト30にエネルギ吸収部21が重ならない位置関係にある。本実施形態では、上部取付部22を締結しているボルト30が、天板21aより下側で、かつ一対の側板21cより内側に位置するように、上部取付部22とエネルギ吸収部21の位置が設定されるとともに、貫通孔22aの位置も設定されている。
【0033】
同様に、下部取付部23を締結しているボルト30が、底板21bより下側に位置するように、下部取付部23とエネルギ吸収部21の位置が設定されている。言い換えると、
図3の2点鎖線に示すように、上部取付部22及び下部取付部23を締結するボルト30の位置を荷重の入力方向に沿って移動させたと仮定したとき、その移動させたボルト30がエネルギ吸収部21に接触しないようにエネルギ吸収部21の天板21a、底板21b、及び側板21cの位置が設定されている。
【0034】
次に、衝撃エネルギ吸収部材20の作用を説明する。
車体前部構造10が適用された自動車に対し前面衝突が生じると、バンパリインフォースメント12から衝撃エネルギ吸収部材20に荷重が入力される。前面衝突の場合、荷重の入力方向は車両前後方向における前から後への方向となる。すると、バンパリインフォースメント12及びエネルギ吸収部21が前方から圧縮変形(粉砕破壊)され、この圧縮変形に伴い衝突エネルギの一部が吸収される。
【0035】
図6に示すように、車両前後方向におけるバンパリインフォースメント12側から衝撃エネルギ吸収部材20を見た場合、ボルト30の軸部30bがエネルギ吸収部21に重なる位置にある例を比較例とする。この比較例では、前面衝突が生じた際、入力方向に沿って下流側に移動するボルト30がエネルギ吸収部21の天板21a及び底板21bに接触する虞がある。
【0036】
しかし、
図5に示すように、車両前後方向におけるバンパリインフォースメント12側、つまり、荷重の入力方向の上流側から衝撃エネルギ吸収部材20を見た場合、ボルト30がエネルギ吸収部21と重ならない位置にある。このため、エネルギ吸収部21の天板21a、底板21b及び側板21cが圧縮変形していくとともに、ボルト30がエネルギ吸収部21に向けて移動する過程で、ボルト30が天板21a、底板21b及び側板21cに衝突することが回避される。このため、天板21a、底板21b及び側板21cはそれぞれ荷重が入力されることによって粉砕破壊される。
【0037】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)衝撃エネルギ吸収部材20において、上部取付部22及び下部取付部23とエネルギ吸収部21とは、衝撃エネルギ吸収部材20を車両前後方向におけるバンパリインフォースメント12側から見たとき、ボルト30とエネルギ吸収部21とが重ならない位置関係にある。このため、前面衝突時、ボルト30の移動先にはエネルギ吸収部21が存在せず、ボルト30がエネルギ吸収部21に衝突することが回避される。その結果、エネルギ吸収部21は、荷重が入力されることによって粉砕破壊され、エネルギ吸収部21によって衝突エネルギを好適に吸収できる。
【0038】
(2)上部取付部22は、ボルト30及びナット31によってバンパリインフォースメント12の上壁12aに締結され、下部取付部23は、ボルト30及びナット31によってバンパリインフォースメント12の下壁12bに締結されている。このため、スモールオーバーラップ前面衝突時や斜め衝突時、上部取付部22及び下部取付部23の締結部を中心としたバンパリインフォースメント12の回動が許容され、衝撃エネルギ吸収部材20が屈曲することを抑制でき、衝撃エネルギ吸収部材20によるエネルギ吸収効率の低下を抑制できる。
【0039】
(3)エネルギ吸収部21は、閉断面構造を有しており、エネルギ吸収部21の軸線周りには繋ぎ目がない。このため、エネルギ吸収部21に衝撃荷重が入力されたときにエネルギ吸収部21が繋ぎ目から割れることが無く、エネルギ吸収部21の割れに伴うエネルギ吸収効率の低下を無くすことができる。
【0040】
(4)エネルギ吸収部21の天板21aは、上部取付部22より上方に位置し、バンパリインフォースメント12の上壁12aよりも上方に位置している。このため、前面衝突時には、バンパリインフォースメント12より上方の部品が天板21aに衝突しやすく、その衝突の際の衝撃エネルギを天板21aによって吸収できる。
【0041】
(5)エネルギ吸収部21の底板21bは、下部取付部23より上方に位置し、バンパリインフォースメント12の下壁12bよりも上方に位置している。つまり、底板21bは、エネルギ吸収部21の軸方向において、バンパリインフォースメント12にオーバーラップしている。このため、エネルギ吸収部21の下方に車両部品の配置スペースを確保できる。
【0042】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○
図7に示すように、衝撃エネルギ吸収部材20において、上部連結部26がエネルギ吸収部21の天板21aの前端から上方に延出し、その上部連結部26の上端から上部取付部22が前方に延出していてもよい。また、衝撃エネルギ吸収部材20において、下部連結部27がエネルギ吸収部21の底板21bの前端から上方に延出し、その下部連結部27の上端から下部取付部23が前方に延出していてもよい。上部取付部22は、バンパリインフォースメント12の上壁12aに締結され、下部取付部23は、バンパリインフォースメント12の下壁12bに締結される。そして、上部取付部22は、天板21aより上方に位置するとともに、下部取付部23は、底板21bより上方に位置する。
【0043】
○
図8に示すように、上部取付部22及び下部取付部23の車幅方向の両端部がエネルギ吸収部21よりも車幅方向の外側に位置するまで上部取付部22及び下部取付部23を車幅方向に延長する。また、エネルギ吸収部21の軸方向において各側板21cと重ならない位置に貫通孔22a,23aを形成する。そして、車両前後方向におけるバンパリインフォースメント12側から見て各ボルト30にエネルギ吸収部21の側板21cが重ならないようにする。
【0044】
○
図9に示すように、衝撃エネルギ吸収部材20において、上部連結部26がエネルギ吸収部21の天板21aの前端から上方に延出し、その上部連結部26の上端から上部取付部22が前方に延出していてもよい。また、衝撃エネルギ吸収部材20において、下部連結部27がエネルギ吸収部21の底板21bの前端から下方に延出し、その下部連結部27の下端から下部取付部23が前方に延出していてもよい。そして、上部取付部22は、バンパリインフォースメント12の上壁12aに締結され、下部取付部23は、バンパリインフォースメント12の下壁12bに締結される。この場合、上部取付部22は、天板21aより上方に位置し、下部取付部23は、底板21bより下方に位置する。
【0045】
○
図10に示すように、衝撃エネルギ吸収部材20において、上部連結部26がエネルギ吸収部21の天板21aの前端から下方に延出し、その上部連結部26の下端から上部取付部22が前方に延出していてもよい。また、衝撃エネルギ吸収部材20において、下部連結部27がエネルギ吸収部21の底板21bの前端から上方に延出し、その下部連結部27の上端から下部取付部23が前方に延出していてもよい。そして、上部取付部22は、バンパリインフォースメント12の上壁12aに締結され、下部取付部23は、バンパリインフォースメント12の下壁12bに締結される。この場合、上部取付部22は天板21aより下方に位置し、下部取付部23は、底板21bより上方に位置する。
【0046】
○ 衝撃エネルギ吸収部材20は、車幅方向の端寄りに位置する一方の側板21cの前端から車幅方向の端に向けて延出する連結部を有し、その連結部の延出端から前方に延出する取付部を備える構成であってもよい。この取付部は、バンパリインフォースメント12の車幅方向の端にボルト30及びナット31によって締結される。この場合、ボルト30の軸部30bの軸線は、車幅方向に延び、エネルギ吸収部21の軸方向に交差することになる。そして、車両前後方向におけるバンパリインフォースメント12側から見て、取付部に締結されたボルト30にエネルギ吸収部21の側板21cが重ならないようにする。なお、エネルギ吸収部21の他方の側板21cは、前端から車幅方向の内側に向けて延出する前板を有し、その前板がバンパリインフォースメント12の後壁12dにボルト30及びナット31によって締結される。
【0047】
○ 衝撃エネルギ吸収部材20は、車幅方向の両側に設けたが、車幅方向の中央部に一つだけ設けてもよいし、車幅方向の両側以外にも設けてもよい。
○ エネルギ吸収部21は矩形筒以外でもよく、五角筒状や、六角筒状、八角筒状等であってもよい。
【0048】
○ 衝撃エネルギ吸収部材20は、車体後部構造において、バンパリインフォースメントとリアサイドメンバとの間に設けられていてもよい。
○ 車両は自動車以外でもよく、例えば、産業車両であってもよい。
【0049】
○ 荷重の入力方向は、車両前後方向だけでなく、斜め衝突時のような斜めの場合もあるが、この場合であっても、ボルト30とエネルギ吸収部21とが重ならない位置関係にあるため、ボルト30の移動先にはエネルギ吸収部21が存在せず、ボルト30がエネルギ吸収部21に衝突することが回避される。その結果、エネルギ吸収部21は、荷重が入力されることによって粉砕破壊され、エネルギ吸収部21によって衝突エネルギを好適に吸収できる。
【符号の説明】
【0050】
12…バンパリインフォースメント、12a…上壁、12b…下壁、20…衝撃エネルギ吸収部材、21…エネルギ吸収部、21a…天板、21b…底板、22…上部取付部、23…下部取付部、26…上部連結部、27…下部連結部、30…締結部材としてのボルト、31…締結部材としてのナット。