(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20220829BHJP
C23C 14/54 20060101ALI20220829BHJP
F02F 5/00 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
C23C14/50 H
C23C14/54 A
F02F5/00 F
F02F5/00 N
(21)【出願番号】P 2019084235
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2018086197
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 博文
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特許第4680380(JP,B2)
【文献】実開平6-82465(JP,U)
【文献】特表2016-520779(JP,A)
【文献】特開平11-200017(JP,A)
【文献】国際公開第2018/147122(WO,A1)
【文献】特開2018-135558(JP,A)
【文献】特開2018-127679(JP,A)
【文献】特開2014-181385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/54
C23C 14/50
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを所定の公転中心軸線周りに公転させながら前記ワークのうち前記公転中心軸線と直交する方向を向く側面に皮膜を形成する成膜装置であって、
前記皮膜を形成するための材料となる粒子が飛び出す出射面を有する少なくとも1つの第1蒸発源であって、当該第1蒸発源は基準線に対して対称に配置され、当該基準線は前記公転中心軸線が延びる方向に沿って見たときに前記公転中心軸線を通過し且つ境界線に直交し、前記境界線は前記公転中心軸線周りに公転する前記ワークが描く軌道円の径方向に延びる、少なくとも1つの第1蒸発源と、前記境界線を挟んで前記第1蒸発源と反対の側に位置するとともに前記基準線に対して対称となるように配置される少なくとも1つの第2蒸発源と、
前記第1蒸発源の出射面から前記皮膜を形成するための粒子を飛び出させるための電気エネルギーを前記第1蒸発源に与える第1電源と、
前記第2蒸発源の出射面から前記皮膜を形成するための粒子を飛び出させるための電気エネルギーを前記第2蒸発源に与える第2電源と、
前記ワークの側面のうち他の領域よりも前記皮膜が厚く形成されるべき特定領域が前記軌道円の径方向の中から選ばれる特定径方向を向く姿勢を前記ワークが保つように前記ワークを支持しながら、前記ワークを前記公転中心軸線周りに公転させるワーク回転装置と、
前記ワークに形成される皮膜のうち前記第1蒸発源の出射面から飛び出す粒子によって形成される部分である第1皮膜部分が前記第2蒸発源の出射面から飛び出す粒子によって形成される部分である第2皮膜部分よりも厚くなるように、前記第1電源から前記第1蒸発源への電気エネルギーの付与及び前記第2電源から前記第2蒸発源への電気エネルギーの付与を制御する制御装置と、を備える、成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記制御装置は、前記皮膜を形成する期間において前記第1蒸発源に与えられる電気エネルギーの総量を前記第2蒸発源に与えられる電気エネルギーの総量よりも大きくする、成膜装置。
【請求項3】
請求項2に記載の成膜装置であって、
前記制御装置は、単位時間当たりに前記第1蒸発源に与えられる電気エネルギーの量を単位時間当たりに前記第2蒸発源に与えられる電気エネルギーの量よりも大きくする、成膜装置。
【請求項4】
請求項2に記載の成膜装置であって、
前記制御装置は、前記皮膜を形成する期間において前記第1蒸発源に与えられる電気エネルギーの総量が前記第2蒸発源に与えられる電気エネルギーの総量よりも大きくなるように、前記第1電源が前記第1蒸発源に対して電気エネルギーを与える期間である第1電源運転期間を前記第2電源が前記第2蒸発源に対して電気エネルギーを与える期間である第2電源運転期間よりも長くする、成膜装置。
【請求項5】
請求項4に記載の成膜装置であって、
前記制御装置は、前記第2電源運転期間の少なくとも一部を前記第1電源運転期間の一部に重複させるように、前記第1電源運転期間及び前記第2電源運転期間の開始及び終了を制御する、成膜装置。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の成膜装置であって、
前記ワーク回転装置は、
前記公転中心軸線周りに旋回可能な公転テーブルと、
前記公転中心軸線から前記公転テーブルの径方向に離れて配置され、前記公転テーブルに対して前記公転中心軸線と平行な自転中心軸線周りに回転可能に配置された少なくとも1つの自転テーブルと、
前記公転中心軸線が延びる方向に沿って見たときに前記軌道円から前記境界線が延びる方向にずれた位置で環状をなすガイド溝が形成されたガイド部材と、
前記自転テーブルに当該自転テーブルと一体に前記自転中心軸線周りに回転するように当該自転テーブルに連結され、前記公転テーブルの公転に伴って前記ガイド溝内を移動することにより前記ワークの前記側面の前記特定領域が前記特定径方向を向く姿勢を維持するように前記ガイド溝に係合される被ガイド部材と、をさらに備える、成膜装置。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の成膜装置であって、
前記第2蒸発源は、前記第1蒸発源を構成する材料とは異なる材料によって形成されている、成膜装置。
【請求項8】
ワークの被成膜面に皮膜を形成する成膜方法であって、
前記ワークの前記被成膜面のうち他の領域よりも前記皮膜が厚く形成されるべき特定領域が特定方向を向くように前記ワークを配置する工程であって、前記特定方向は第1配置領域と第2配置領域との境界を規定する境界線に対して交差する方向であり、前記第1配置領域は当該第1配置領域内に前記皮膜を形成するための材料となる粒子が飛び出す出射面を有する少なくとも1つの第1蒸発源が配置される領域であり、前記第2配置領域は当該第2配置領域内に前記皮膜を形成するための材料となる粒子が飛び出す出射面を有する少なくとも1つの第2蒸発源が配置される領域である、ワーク配置工程と、
前記皮膜のうち前記第1蒸発源の出射面から飛び出す粒子によって形成される部分である第1皮膜部分が前記第2蒸発源の出射面から飛び出す粒子によって形成される部分である第2皮膜部分よりも厚くなるように、前記皮膜を形成する期間において前記第1蒸発源の出射面から前記皮膜を形成するための粒子を飛び出させるために前記第1蒸発源に与える電気エネルギーの総量を前記第2蒸発源の出射面から前記皮膜を形成するための粒子を飛び出させるために前記第2蒸発源に与える電気エネルギーの総量よりも大きくするとともに前記ワークの被成膜面のうち前記特定領域が前記特定方向を向くようにして、前記ワークの被成膜面に前記皮膜を形成する成膜工程と、を備える、成膜方法。
【請求項9】
請求項8に記載の成膜方法であって、
前記成膜工程は、単位時間当たりに前記第1蒸発源に与えられる電気エネルギーの量を単位時間当たりに前記第2蒸発源に与えられる電気エネルギーの量よりも大きくする、成膜方法。
【請求項10】
請求項8に記載の成膜方法であって、
前記成膜工程は、前記第1蒸発源に電気エネルギーが与えられる期間である第1電源運転期間を前記第2蒸発源に電気エネルギーが与えられる期間である第2電源運転期間よりも長くする、成膜方法。
【請求項11】
請求項10に記載の成膜方法であって、
前記成膜工程は、前記第2電源運転期間の少なくとも一部を前記第1電源運転期間の一部に重複させるように、前記第1電源運転期間を前記第2電源運転期間よりも長くする、成膜方法。
【請求項12】
請求項8~11の何れか1項に記載の成膜方法であって、
前記成膜工程は、前記ワークの前記被成膜面に前記皮膜を形成するときに、前記第1蒸発源の出射面に平行な方向に延びる公転中心軸線周りに前記ワークを公転させながら前記ワークの前記被成膜面の前記特定領域が前記特定方向を向くように前記ワークを前記公転中心軸線と平行な自転中心軸線周りに自転させることを含む、成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの被成膜面に皮膜を形成するための成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのピストンリングなどのワークの耐摩耗性を向上するために、当該ワークの被成膜面、例えば外周面、に窒化クロムなどの硬質皮膜をPVDなどの成膜方法によって形成することが行われている。
【0003】
例えば、前記ピストンリングは、円環の一部が途切れた形状を有する金属製の部材であり、その途切れた部分である空間を挟んで互いに向かい合う一対の対向端部を有している。前記ピストンリングは、当該ピストンリングの外径を小さくする方向、すなわち前記一対の対向端部が互いに近づく方向、に変形しながらエンジンのシリンダに挿入されて使用される。この使用状態では、前記一対の対向端部に、外側に開こうとする力が最も大きくかかる。すなわち、当該一対の対向端部は、シリンダ内壁に最も強く押し付けられるので、エンジンの使用時に最も摩耗しやすい。
【0004】
そこで、前記一対の対向端部の摩耗を防止するために、前記ピストンリングの外周面に硬質皮膜を形成するとともに当該硬質皮膜の厚みを前記対向端部において部分的に厚くすることが考えられる。
【0005】
従来、ピストンリングの一対の対向端部での硬質皮膜の膜厚を他の部位の硬質皮膜の膜厚よりも大きくする成膜方法として、特許文献1に記載の成膜方法が知られている。
【0006】
この成膜方法は、ピストンリングを回転テーブルに載せることと、当該回転テーブルをモータにより駆動して前記ピストンリングを自転及び公転させることと、前記モータに対して速度指令を与えることにより、前記ピストンリングの一対の対向端部が蒸発源にほぼ正対するときに当該ピストンリングの自転速度が遅くなるように前記モータを制御することと、を含む。このモータの制御は、前記一対の対向端部における硬質皮膜の厚みを他の部位における硬質皮膜の厚みよりも大きくすることを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記のようにモータを制御してピストンリングの自転速度を変える成膜方法では、モータに対して速度指令を与えてから回転テーブル上のピストンリングの実際の自転速度が目標自転速度に達するまでにタイムラグがある。そのタイムラグは、ピストンリングなどのワークの重量、または回転テーブルの状態や温度などにより成膜処理中に変化するので、ピストンリングの自転速度の制御の再現性が低い。すなわち、ピストンリングの対向端部が蒸発源に向いているときに当該ピストンリングの自転速度を遅くする速度制御を確実に行うことが難しい。このことは、当該対向端部における膜厚を精度良く制御することを困難にする。この課題は、ピストンリング以外のワークの表面に形成される膜の厚みをその周方向について異ならせるような成膜についても同様に生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、ワークの被成膜面に形成される皮膜の周方向の膜厚分布を精度良く制御することが可能な成膜装置及び成膜方法を提供することである。
【0010】
提供されるのは、ワークを所定の公転中心軸線周りに公転させながら前記ワークのうち前記公転中心軸線と直交する方向を向く側面に皮膜を形成する成膜装置である。当該成膜装置は、前記皮膜を形成するための材料となる粒子が飛び出す出射面を有する少なくとも1つの第1蒸発源であって、当該第1蒸発源は基準線に対して対称に配置され、前記基準線は前記公転中心軸線が延びる方向に沿って見たときに前記公転中心軸線を通過し且つ境界線に直交し、前記境界線は前記公転中心軸線周りに公転する前記ワークが描く軌道円の径方向に延びる、少なくとも1つの第1蒸発源と、前記境界線を挟んで前記第1蒸発源と反対の側に位置するとともに前記基準線に対して対称となるように配置される少なくとも1つの第2蒸発源と、前記第1蒸発源の出射面から前記皮膜を形成するための粒子を飛び出させるための電気エネルギーを前記第1蒸発源に与える第1電源と、前記第2蒸発源の出射面から前記皮膜を形成するための粒子を飛び出させるための電気エネルギーを前記第2蒸発源に与える第2電源と、前記ワークの側面のうち他の領域よりも前記皮膜が厚く形成されるべき特定領域が前記軌道円の径方向の中から選ばれる特定径方向を向く姿勢を前記ワークが保つように前記ワークを支持しながら、前記ワークを前記公転中心軸線周りに公転させるワーク回転装置と、前記ワークに形成される皮膜のうち前記第1蒸発源の出射面から飛び出す粒子によって形成される部分が前記第2蒸発源の出射面から飛び出す粒子によって形成される部分よりも厚くなるように、前記第1電源から前記第1蒸発源への電気エネルギーの付与及び前記第2電源から前記第2蒸発源への電気エネルギーの付与を制御する制御装置と、を備える。
【0011】
前記成膜装置においては、第1蒸発源及び第2蒸発源に与える電気エネルギーの制御により、も高い精度で、前記第1皮膜部分を前記第2皮膜部分よりも厚くすることができる。前記皮膜の厚さの制御は、ワークの自転速度を調整することによっても可能であるが、このような機械的な動きの制御では応答遅れが生じ易い。これに対し、前記第1蒸発源及び前記第2蒸発源にそれぞれ付与される電気エネルギーの制御では応答遅れが生じ難い。このことはワークの側面に形成される皮膜を部分的に厚くする制御を再現性良く行うことを可能にする。その結果、ワークの側面に形成される皮膜の周方向の膜厚分布を精度良く制御することができる。
【0012】
前記制御装置は、好ましくは、前記皮膜を形成する期間において前記第1蒸発源に与えられる電気エネルギーの総量を前記第2蒸発源に与えられる電気エネルギーの総量よりも大きくする。
【0013】
前記制御装置は、例えば、単位時間当たりに前記第1蒸発源に与えられる電気エネルギーの量を単位時間当たりに前記第2蒸発源に与えられる電気エネルギーの量よりも大きくする。
【0014】
前記制御装置は、あるいは、前記第1電源から前記第1蒸発源に対して電気エネルギーが与えられる期間である第1電源運転期間を前記第2電源から前記第2蒸発源に対して電気エネルギーが与えられる第2電源運転期間よりも長くする。
【0015】
前記制御装置は、より好ましくは、前記第2電源運転期間の少なくとも一部を前記第1電源運転期間の一部に重複させるように、前記第1電源運転期間及び前記第2電源運転期間の開始及び終了を制御する。
【0016】
このような第1及び第2電源運転期間の部分的な重複は、前記第1及び第2電源運転期間の一方が終了した後に他方が開始する場合と比べて、全皮膜を形成するのに要する総成膜期間を短くすることができる。
【0017】
前記ワーク回転装置は、好ましくは、前記公転中心軸線周りに旋回可能な公転テーブルと、前記公転中心軸線から前記公転テーブルの径方向に離れた位置において前記公転テーブルに対して前記公転中心軸線と平行な自転中心軸線周りに回転可能に配置された少なくとも1つの自転テーブルと、前記公転中心軸線が延びる方向に沿って見たときに前記軌道円から前記境界線が延びる方向にずれた位置で環状をなすガイド溝が形成されたガイド部材と、前記自転テーブルに当該自転テーブルと一体に前記自転中心軸線周りに回転するように当該自転テーブルに連結され、前記公転テーブルの公転に伴って前記ガイド溝内を移動することにより前記ワークの前記側面の前記特定領域が前記特定径方向を向く姿勢を維持するように前記ガイド溝に係合される被ガイド部材と、をさらに備える。
【0018】
このような態様においては、前記ワークの前記側面の前記特定領域が特定径方向を向くような姿勢を維持しながら前記ワークを前記公転中心軸線周りに公転させることにより、小さいスペース内で少なくとも1つのワークに対して当該ワークの側面に形成される皮膜を部分的に厚くする成膜を施すことができる。
【0019】
前記第2蒸発源は、前記第1蒸発源を構成する材料と異なる材料によって形成されていてもよい。
【0020】
このことは、前記第1蒸発源の出射面から飛び出す粒子によって形成される前記第1皮膜部分の特性と前記第2蒸発源の出射面から飛び出す粒子によって形成される前記第2皮膜部分の特性とを互いに異ならせることができる。
【0021】
また、提供されるのは、ワークの被成膜面に皮膜を形成する成膜方法である。当該成膜方法は、前記ワークの前記被成膜面のうち他の領域よりも前記皮膜が厚く形成されるべき特定領域が特定方向を向くように前記ワークを配置する工程であって、前記特定方向は第1配置領域と第2配置領域との境界を規定する境界線に対して交差する方向であり、前記第1配置領域は当該第1配置領域内に前記皮膜を形成するための材料となる粒子が飛び出す出射面を有する少なくとも1つの第1蒸発源が配置される領域であり前記第2配置領域は当該第2配置領域内に前記皮膜を形成するための材料となる粒子が飛び出す出射面を有する少なくとも1つの第2蒸発源が配置される領域である、ワーク配置工程と、前記皮膜のうち前記第1蒸発源の出射面から飛び出す粒子によって形成される部分である第1皮膜部分が前記第2蒸発源の出射面から飛び出す粒子によって形成される部分である第2皮膜部分よりも厚くなるように、前記皮膜を形成する期間において前記第1蒸発源の出射面から前記皮膜を形成するための粒子を飛び出させるために前記第1蒸発源に与える電気エネルギーの総量を前記第2蒸発源の出射面から前記皮膜を形成するための粒子を飛び出させるために前記第2蒸発源に与える電気エネルギーの総量よりも大きくするとともに前記ワークの被成膜面のうち前記特定領域が前記特定方向を向くようにして、前記ワークの前記被成膜面に前記皮膜を形成する成膜工程とを備える。
【0022】
前記成膜方法においては、前記第1蒸発源及び第2蒸発源にそれぞれ与えられる電気エネルギーを制御することにより、高い精度で前記第1皮膜部分を前記第2皮膜部分よりも厚くすることができる。前記皮膜の厚さの制御は、ワークの自転速度を調整することによっても可能であるが、このような機械的な動きの制御では応答遅れが生じ易い。これに対し、前記第1蒸発源及び前記第2蒸発源にそれぞれ付与される電気エネルギーの制御では応答遅れが生じ難く、このことはワークの被成膜面に形成される皮膜を部分的に厚くする制御を再現性良く行うことを可能にする。その結果、ワークの側面に形成される皮膜の周方向の膜厚分布を精度良く制御することができる。
【0023】
前記成膜工程は、例えば、単位時間当たりに前記第1蒸発源に与えられる電気エネルギーの量を単位時間当たりに前記第2蒸発源に与えられる電気エネルギーの量よりも大きくすることを、含む。
【0024】
前記成膜工程は、あるいは、前記第1蒸発源に電気エネルギーが与えられる期間である第1電源運転期間を前記第2蒸発源に電気エネルギーが与えられる期間である第2電源運転期間よりも長くすることを、含む。
【0025】
前記成膜工程は、より好ましくは、前記第2電源運転期間の少なくとも一部を前記第1電源運転期間の一部に重複させるように前記第1電源運転期間を前記第2電源運転期間よりも長くすることを含む。
【0026】
前記第1及び第2電源運転期間の重複は、第1電源運転期間及び第2電源運転期間の一方が終了した後に他方を開始する態様と比べて、全皮膜を形成するのに要する総成膜期間を短くすることができる。
【0027】
前記成膜工程は、好ましくは、前記ワークの被成膜面に前記皮膜を形成するときに、前記第1蒸発源の出射面に平行な方向に延びる公転中心軸線周りに前記ワークを公転させながら前記ワークの前記被成膜面の前記特定領域が前記特定方向を向くように前記ワークを前記公転中心軸線と平行な自転中心軸線周りに自転させることを、含む。
【0028】
このような成膜工程では、前記ワークの前記被成膜面の特定領域が特定方向を向くような姿勢を維持しながら前記ワークを前記公転中心軸線周りに公転させることにより、小さいスペース内で前記ワークに対して当該ワークの前記被成膜面に形成される皮膜を部分的に厚くする成膜を施すことを、可能にする。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、ワークの側面に形成される皮膜の周方向の膜厚分布を精度良く制御することが可能な成膜装置及び成膜方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施の形態による成膜装置の平面図である。
【
図2】前記成膜装置により成膜が施されるワークであるピストンリングを示す平面図である。
【
図3】前記成膜装置における公転テーブルの回転に伴って複数の自転テーブルをそれぞれ回転させるワーク操作機構を示す平面図である。
【
図5】
図1に示す成膜装置を用いて行われる成膜方法を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施の形態の変形例3による成膜装置の平面図である。
【
図7】本発明の実施の形態の変形例4による成膜装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳述する。
【0032】
図1は、本発明の実施の形態による成膜装置10を示す平面図である。
【0033】
前記成膜装置10は、それぞれがワークである複数のピストンリング100を所定の公転中心軸線CL1周りに公転させながら前記複数のピストンリング100の各々の側面に物理蒸着法、例えば、アークイオンプレーティングやスパッタリング、によって
図2に示される皮膜90を形成するための装置である。前記複数のピストンリング100のそれぞれの側面は、前記公転中心軸線CL1と直交する方向(この実施の形態では水平方向)を向く当該ピストンリング100の外周面110であって、その上に成膜が施される被成膜面である。前記外周面110は、この実施の形態では略円筒状をなす。
【0034】
前記成膜装置10は、チャンバ20と、第1ターゲット30(第1蒸発源)と、第2ターゲット40(第2蒸発源)と、第1ターゲット30にアーク電流を供給する第1アーク電源50(第1電源)と、第2ターゲット40にアーク電流を供給する第2アーク電源60(第2電源)と、前記複数のピストンリング100の各々を公転させるワーク回転装置70と、第1アーク電源50及び第2アーク電源60の電流制御を行う制御装置80とを備える。
【0035】
以下の説明では、第1ターゲット30と第2ターゲット40とが互いに対向する方向であるターゲット対向方向(この実施の形態では水平方向であって
図1の紙面上における上下方向)をY方向とし、前記Y方向と直交する水平方向(
図1の紙面上における左右方向)をX方向とし、これらX方向及びY方向の各々に垂直な方向(この実施の形態では上下方向であって
図1の紙面に対して垂直な方向)をZ方向とする。
【0036】
前記チャンバ20は、それぞれが成膜対象すなわちワークである前記複数のピストンリング100と、前記第1ターゲット30と、前記第2ターゲット40とを収容する筐体である。前記チャンバ20は、複数の側壁と、複数の側壁22の各々の上縁に連結された天壁と、複数の側壁の各々の下縁に連結された底壁とを有する。前記複数の側壁は、この実施の形態では、互いに前記Y方向に対向する一対の側壁22A,22Bと、互いに前記X方向に対向する一対の側壁22C,22Dと、を含む。当該複数の側壁22A~22D、当該天壁及び当該底壁は内部空間24を囲む。前記複数のピストンリング100と、前記第1ターゲット30と、前記第2ターゲット40とは、前記内部空間24内に位置する。
【0037】
前記第1蒸発源である前記第1ターゲット30及び前記第2蒸発源である前記第2ターゲット40は、それぞれ、前記ピストンリング100の前記外周面110に
図2に示すような皮膜90を形成するための成膜材料を含む。当該成膜材料は、この実施の形態では硬質皮膜を形成するための材料、例えば、窒化クロムや窒化チタンのような硬質皮膜を形成する場合にはクロムやチタン、である。本実施の形態に係る前記第1ターゲット30及び前記第2ターゲット40は、互いに同じ材料で形成されている。つまり、前記第1ターゲット30及び前記第2ターゲット40によって前記ピストンリング100の前記外周面110に形成される皮膜90を構成する材料は互いに同じである。
【0038】
前記第1ターゲット30は第1出射面32を有し、当該第1出射面32から前記皮膜材料、つまり、前記外周面110に形成されるべき前記皮膜90の材料、となる粒子が飛び出す。第2ターゲット40は第2出射面42を有し、当該第2出射面42から前記皮膜材料、つまり、前記外周面110に形成されるべき前記皮膜90を構成する材料、となる粒子が飛び出す。前記第1ターゲット30は、前記複数の側壁22A~22Dのうち前記Y方向に互いに対向する一対の側壁22A,22Bの一方の側壁22Aに取り付けられる。前記第2ターゲット40は、前記Y方向に対向する一対の側壁22A,22Bの他方の側壁(つまり、第1ターゲット30が取り付けられた側壁22Aとは反対側に位置する側壁)22Bに取り付けられる。前記第2ターゲット40の前記第2出射面42は、前記第1ターゲット30の前記第1出射面32と前記Y方向に対向している。換言すれば、前記第2出射面42は、前記チャンバ20の高さ方向(
図1における紙面に垂直な方向、つまり、Z方向)に対して直交する方向において前記第1出射面32と対向している。前記第1及び第2出射面32,42は、それぞれ、後述する公転テーブル74の旋回中心である前記公転中心軸線CL1に平行である。
【0039】
前記第1ターゲット30は、前記境界線BLを挟んで前記第2ターゲット40と反対の側に配置されている。前記境界線BLは、
図1において、すなわち前記チャンバ20の上方から見て(つまり、後述する公転テーブル74の公転中心軸線CL1が延びる方向に沿って見て)前記チャンバ20の前記内部空間24における第1配置領域と第2配置領域との境界を規定する。前記第1配置領域は、当該第1配置領域内に前記第1ターゲット30が配置される領域であり、前記第2配置領域は当該第2配置領域内に前記第2ターゲット40が配置される領域である。前記境界線BLは、前記チャンバ20の上方から見て前記公転テーブル74の旋回中心である前記公転中心軸線CL1を通過している。つまり、前記境界線BLは前記公転テーブル74の旋回径方向に延びている。
【0040】
前記第1ターゲット30及び前記第2ターゲット40は、当該第1及び第2ターゲット30,40のそれぞれの中心を基準線SLが通過するように配置されている。つまり、前記第1ターゲット30及び前記第2ターゲット40は、それぞれ、前記基準線SLを中心として対称(前記X方向に対称)となるように配置されている。前記基準線SLは、
図1において、すなわち前記チャンバ20の上方から見て(つまり、前記公転中心軸線CL1が延びる方向から見て)前記境界線BLと直交している。前記基準線SLは、前記公転中心軸線CL1を通過している。
【0041】
前記第1電源としての前記第1アーク電源50は、前記第1出射面32から粒子が飛び出すための電気エネルギーを前記第1ターゲット30に与える。具体的に、この実施の形態に係る前記第1アーク電源50は、前記第1ターゲット30に前記電気エネルギーに相当するアーク電流を流す。前記第2電源としての前記第2アーク電源60は、第2出射面42から粒子が飛び出すための電気エネルギーを前記第2ターゲット40に与える。具体的に、この実施の形態に係る前記第2アーク電源60は、前記第2ターゲット40に前記電気エネルギーに相当するアーク電流を流す。前記第1アーク電源50及び前記第2アーク電源60は、それぞれ、陰極及び陽極を有する。前記第1アーク電源50の前記陰極は前記第1ターゲット30に接続され、前記第1アーク電源50の前記陽極は前記チャンバ20に接続される。前記第2アーク電源60の前記陰極は前記第2ターゲット40に接続され、前記第2アーク電源60の前記陽極は前記チャンバ20に接続される。
【0042】
前記ワークである前記複数のピストンリング100のそれぞれについて、
図2を参照しながら説明する。
図2は、前記ピストンリング100を示す平面図である。
【0043】
前記ピストンリング100は、円環の一部が途切れた形状、つまり、周方向に略360°に亘って延びる形状、を有する部材である。すなわち、ピストンリング100は、円環の一部が途切れた部分である空間101を挟んで互いに対向する一対の対向端部102,102を有する。従って、当該ピストンリング100の前記外周面110は平面視で略円弧状をなす。
【0044】
前記外周面110には、当該外周面110の摩耗防止のために上記の成膜装置10によって皮膜90が形成される。前記皮膜90は、前記第1ターゲット30からの粒子によって形成される第1皮膜部分92と、前記第2ターゲット40からの粒子によって形成される第2皮膜部分94と、を含む。前記第2皮膜部分94は、前記ピストンリング100の前記外周面110のうち少なくとも前記第1皮膜部分92によって覆われていない領域を覆う。前記皮膜90のうち前記第1ターゲット30からの粒子によって形成される前記第1皮膜部分92の少なくとも一部は、前記第2ターゲット40からの粒子によって形成される前記第2皮膜部分94の厚みよりも大きな厚みを有する。
【0045】
前記ピストンリング100の外周面110は、その周方向についての一部の領域である特定領域を含む。当該特定領域は、当該特定領域以外の他の領域に形成される皮膜よりも厚い皮膜が形成されるべき領域である。当該特定領域は、前記ピストンリング100がエンジンに使用される時に当該エンジンのシリンダの内部で最も激しく磨耗する部分に相当する領域、一般には、前記一対の対向端部102、102の各々の外周面110に相当する領域、である。
【0046】
前記外周面110に形成される前記皮膜90のうち前記第1ターゲット30からの粒子によって形成される部分、すなわち前記第1皮膜部分92、の少なくとも一部は、ピストンリング100の外周面110のうち前記一対の対向端部102、102にそれぞれ相当する領域(つまり前記特定領域)を覆う。すなわち、前記第1皮膜部分92は、前記外周面110に形成される前記皮膜90の一部であって前記第1ターゲット30からの粒子によって形成される部分であり、且つ、前記第2ターゲット40からの粒子によって形成される前記第2皮膜部分94の厚みよりも大きな厚みを有し、前記外周面110のうち前記一対の対向端部102、102の各々の外周面を覆う。
【0047】
図1に示される前記ワーク回転装置70は、前記複数のピストンリング100の各々が前記第1出射面32と第2出射面42とを結ぶ前記基準線SLを順次通過するように、前記複数のピストンリング100を前記公転中心軸線CL1周りに公転させる。当該複数のピストンリング100の公転中、前記ワーク回転装置70は、
図2に示されるように前記複数のピストンリング100のそれぞれの外周面110のうちの特定領域、すなわち、当該特定領域以外の領域よりも厚い皮膜90(
図2参照)が厚く形成されるべき領域であって前記一対の対向端部102、102にそれぞれ対応する領域、が常に前記Y方向、すなわち前記第1ターゲット30と前記第2ターゲット40とが互いに対向する方向である前記ターゲット対向方向(
図1の紙面における上下方向)に沿って前記第1ターゲット30の前記第1出射面32が存在する側(
図1の紙面における上側;以下、「第1ターゲット側」と称する。)を向くように、前記複数のピストンリング100の各々を支持している。つまり、前記ワーク回転装置70は、チャンバ20の上方から見て(つまり前記公転中心軸線CL1が延びる方向から見て)ピストンリング100の外周面110のうち前記一対の対向端部102、102の各々の外周面が前記境界線BLに対して交差する方向(
図1に示す例では、直交する方向)である前記Y方向において前記第1ターゲット側(前記第1出射面32が存在する側;
図1の紙面における上側)を向くように、前記複数のピストンリング100の各々を支持している。要するに、前記ピストンリング100の外周面110のうち前記一対の対向端部102、102の各々の外周面は、前記公転テーブル74の径方向の中から選ばれる特定径方向を向いている。
【0048】
前記一対の対向端部102、102の各々の外周面が前記ターゲット対向方向すなわち前記Y方向において前記第1ターゲット側を向く状態は、前記ピストンリング100における一対の対向端部102、102が当該ピストンリング100の中心(例えば、当該ピストンリング100が完全な円環形状であると仮定した場合の中心)よりも前記ターゲット対向方向すなわちY方向において前記第1ターゲット側に位置する状態である。当該状態は、より好ましくは、前記ピストンリング100の中心を通過して前記Y方向に延びる直線が前記一対の対向端部102、102の間を通過するような位置に当該一対の対向端部102、102が存在する状態である。
【0049】
前記ワーク回転装置70は、回転テーブル72と、図示されない駆動源と、を含む。前記回転テーブル72は、前記公転中心軸線CL1周りに旋回可能となるように配置され、その旋回に伴って前記複数のピストンリング100の各々が前記公転中心軸線CL1周りに公転するように当該複数のピストンリング100を支持する。前記公転中心軸線CL1は、前記第1ターゲット30と前記第2ターゲット40との間の位置で前記Z方向に延びる。
【0050】
前記回転テーブル72は、前記公転テーブル74と、複数の自転テーブル76と、を含む。前記公転テーブル74は、前記Z方向に延びる前記公転中心軸線CL1周りに、
図1に矢印AR1で示される公転方向に旋回可能となるように、配置される。前記複数の自転テーブル76は、前記公転テーブル74の周方向に並ぶように配置され、当該複数の自転テーブル76の各々はその上に前記ピストンリング100を支持しながら前記公転テーブル74に対して当該自転テーブル76の中心を通る前記Z方向の自転中心軸線CL2周りに、
図1に矢印AR2で示される自転方向に回転可能である。
【0051】
前記公転テーブル74は、前記駆動源からの駆動力の供給を受けて前記公転中心軸線CL1周りに回転する。前記公転中心軸線CL1は、前記チャンバ20の高さ方向すなわち前記Z方向に延び、かつ、当該チャンバ20の高さ方向に沿って見たときの前記公転テーブル74の中心を通る。前記公転テーブル74は、円板形状を有する。前記公転テーブル74は、前記第1出射面32と前記第2出射面42との間に配置されている。
【0052】
前記複数の自転テーブル76のそれぞれは、当該自転テーブル76の上に前記ピストンリング100を支持しながら前記自転中心軸線CL2周りに自転するとともに、前記公転テーブル74の前記公転中心軸線CL1周りの旋回に伴って当該公転中心軸線CL周りに公転する。つまり、前記自転中心軸線CL2は前記複数の自転テーブル76のそれぞれについて設定された回転中心軸線であり、前記公転中心軸線CL1は前記公転テーブル74の旋回中心軸線であると同時に前記複数の自転テーブル76のそれぞれの公転中心軸線である。前記複数の自転テーブル76のそれぞれについて設定された前記自転中心軸線CL2は、前記チャンバ20の高さ方向すなわち前記Z方向に延び、かつ、前記チャンバ20の高さ方向から見たときの前記自転テーブル76の中心を通る。従って、前記自転中心軸線CL2は前記公転中心軸線CL1に平行である。
【0053】
前記複数の自転テーブル76のそれぞれには、前記公転テーブル74の旋回に伴って回転駆動力が与えられ、当該回転駆動力により、前記複数の自転テーブル76のそれぞれは、前記公転中心軸線CL1周りに公転しながら前記自転中心軸線CL2周りに自転する。このことは、前記公転テーブル74の旋回に伴って前記複数の自転テーブル76の上の前記複数のピストンリング100を当該ピストンリング100の対向端部102,102が前記第1ターゲット側を向く姿勢を常に維持したまま公転させることを可能にする。
【0054】
このような前記複数のピストンリング100の動きを実現するための機構であるワーク操作機構について
図3及び
図4を参照しながら説明する。
【0055】
前記ワーク操作機構は、
図4に示されるような複数の被ガイド部材77とガイド部材78とを有する。前記複数の被ガイド部材77は、前記複数の自転テーブル76のそれぞれに設けられ、前記ガイド部材78は前記複数の被ガイド部材77のそれぞれを一括してガイドするように配置される。
【0056】
前記複数の被ガイド部材77のそれぞれは、回転シャフト771と、連結片773と、被ガイド突起772と、を有する。前記回転シャフト771は、前記Z方向に延び、前記自転テーブル76と一体に回転するように当該自転テーブル76の中心部分に連結されるとともに前記公転テーブル74に支持される。前記回転シャフト771は、例えば、前記公転テーブル74を厚さ方向すなわち前記Z方向に貫通するように形成された貫通孔741に挿通され、これにより、前記公転テーブル74の上側で前記自転テーブル76につながる上側連結部分と前記公転テーブル74よりも下側に突出する下側突出部分とを有する。前記連結片773は前記回転シャフト771の前記下側突出部分から前記自転テーブル76の回転半径方向(この実施の形態では水平方向)に延びる。前記連結片773は、前記公転テーブル74の裏側、つまり、前記公転テーブル74の厚さ方向すなわち前記Z方向において前記公転テーブル74を挟んで前記自転テーブル76と反対の側(この実施の形態では下側)に位置している。前記被ガイド突起772は、前記連結片773の両端部のうち前記回転シャフト771と反対側の端部である先端部から下方に突出する。すなわち、当該被ガイド突起772は、前記回転シャフト771と平行に且つ前記公転テーブル74とは反対の側に延びている。
【0057】
前記ガイド部材78は、前記チャンバ20の底壁の上に固定されている。前記ガイド部材78には、前記複数の被ガイド部材77の前記被ガイド突起772と係合可能なガイド溝781が形成されている。当該ガイド溝781は上向きに開口し、当該ガイド溝781内に前記被ガイド突起772が嵌入される。
図3に示すように、当該ガイド溝781は、前記自転テーブル76の公転軌道円C1の直径と略同等の直径を有する円環状をなし、その中心は、前記公転中心軸線CL1が延びる方向(前記Z方向)から見て前記公転軌道円C1の中心から前記境界線BLが延びる方向(前記X方向)にオフセットされている。前記公転軌道円C1は、前記自転テーブル76の公転に伴って当該自転テーブル76の中心(前記自転中心軸線CL2)が描く軌跡である。前記ガイド溝781の直径は、当該ガイド溝781の幅方向の中央位置を通る円であるガイド基礎円の直径である。
【0058】
前記複数の自転テーブル76の各々は、前記回転シャフト771が前記貫通孔741に挿通された状態で当該回転シャフト771の中心軸に相当する前記自転中心軸線CL2周りに回転可能となるように前記公転テーブル74に支持されながら、前記公転テーブル74の前記公転中心軸線CL1周りの回転に伴って当該公転中心軸線CL1周りに公転する。このとき、前記回転シャフト771に前記連結片773を介して連結される前記被ガイド突起772が前記ガイド溝781に沿って移動する、すなわち、前記ガイド基礎円に沿ってガイドされる、ことにより、前記複数の自転テーブル76の公転にかかわらず前記連結片773の先端部(被ガイド突起772とつながる端部)のいずれもが前記X方向の一方(
図4では左方向)を向く状態が維持される。このことは、前記複数の自転テーブル76のそれぞれが当該複数の自転テーブル76の前記公転中心軸線CL1周りの公転に伴って前記自転中心軸線CL2周りに自転し、これにより、当該複数の自転テーブル76の公転中に前記複数のピストンリング100の前記一対の対向端部102、102のそれぞれが前記ターゲット対向方向すなわち前記Y方向において前記第1ターゲット側(
図1では上側)を向いた状態を維持することを可能にする。つまり、複数の自転テーブル76の各々は、前記公転テーブル74の前記公転中心軸線CL2周りの旋回に伴って、当該公転テーブル74に対してそれぞれの前記自転中心軸線CL2周りに自転し、これにより、当該複数の自転テーブル76のそれぞれに支持される前記複数のピストンリング100の前記一対の対向端部102,102が常に前記第1ターゲット側を向いた状態を維持することができる。
【0059】
図3に示す例では、前記複数のピストンリング100のそれぞれの対向端部102,102が前記被ガイド突起772よりも前記第1ターゲット側に位置している。しかし、当該対向端部102,102と当該被ガイド突起772との位置関係は限定されない。前記被ガイド突起772に対する対向端部102の相対位置は、前記第1及び第2ターゲット30,40の位置に応じて適宜変更可能である。
【0060】
前記複数の自転テーブル76は、前記公転テーブル74の周方向、つまり前記公転テーブル74の旋回方向、に並ぶように配置される。前記複数の自転テーブル76のそれぞれは円板形状を有する。前記複数の自転テーブル76は前記第1出射面32と前記第2出射面42との間に配置される。
【0061】
前記複数の自転テーブル76のそれぞれは上を向くワーク載置面を有し、当該ワーク載置面上に前記複数のピストンリング100のそれぞれが載置される。前記ワーク載置面には、単一のピストンリング100であってもよいし、前記自転テーブル76の厚さ方向すなわち前記自転中心軸線CL2と平行な前記Z方向に積層された複数のピストンリング100であってもよい。
【0062】
前記複数の自転テーブル76の各々には、当該自転テーブル76の上に載置される前記ピストンリング100を保持するためのワーク保持部材が設けられている。当該ワーク保持部材は、支柱762とリブ763とを有する。前記支柱762は、前記ワーク載置面から前記公転中心軸線CL2に沿って上向きに延び、前記ピストンリング100の内側に挿入された状態で当該ピストンリング100を支持する。前記リブ763は、前記自転テーブル76の自転方向について当該自転テーブル76に対する前記一対の対向端部102,102の位置を決めるための位置決め部材である。当該リブ763は、前記支柱762の外周面における周方向の特定位置から前記自転テーブル76の自転半径方向に突出し、かつ上下方向(前記Z方向)に延びる。当該リブ763は、前記支柱762が前記ピストンリング100の内側に位置する状態で当該ピストンリング100における前記一対の対向端部102、102の間に介在することにより、当該一対の対向端部102、102の各々が前記ターゲット対向方向(
図1の紙面における上下方向)において前記第1ターゲット側(
図1の紙面における上側)を向く状態が前記自転テーブル76の自転によって維持されるように、当該自転テーブル76に対して相対的に当該ピストンリング100を位置決めする。
【0063】
前記制御装置80は、前記ピストンリング100の前記外周面110に形成される皮膜90のうち第1ターゲット30の前記第1出射面32から飛び出す粒子によって形成される前記第1皮膜部分92が前記第2ターゲット40の前記第2出射面42から飛び出す粒子によって形成される前記第2皮膜部分94よりも厚くなるように、第1アーク電源50及び第2アーク電源60の駆動を制御する。より具体的に、前記制御装置80は、前記第1出射面32から飛び出して前記複数のピストンリング100の各々の外周面に付着する粒子の総量が前記第2出射面42から飛び出して前記複数のピストンリング100の各々の外周面に付着する粒子の総量よりも多くなるように、前記第1アーク電源50が前記第1ターゲット30に流すアーク電流を前記第2アーク電源60が前記第2ターゲット40に流すアーク電流よりも大きくする。このことは、前記外周面110に形成される前記皮膜90のうち前記一対の対向端部102、102の各々の外周面を覆う部分(つまり、前記第1皮膜部分92の少なくとも一部)が前記第2皮膜部分94の厚みよりも大きな厚みを有することを可能にする。
【0064】
前記第1皮膜部分92に前記第2皮膜部分94の厚みよりも大きな厚みを与えることが可能であれば、前記第1アーク電源50が前記第1ターゲット30に前記アーク電流を与える第1電源運転期間は、前記第2アーク電源60が前記第2ターゲット40にアーク電流を与える第2電源運転期間と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0065】
前記制御装置80は、具体的には、
図1に示すような第1電流制御部82と前記第2電流制御部84とを有する。前記第1電流制御部82は、前記第1アーク電源50の電流制御を行う。前記第2電流制御部84は、前記第2アーク電源60の電流制御を行う。
【0066】
このような成膜装置10を用いた成膜方法について、
図5を参照しながら説明する。この成膜方法ではアークイオンプレーティング(AIP)が採用される。
【0067】
前記成膜方法は、準備工程S11と、ワーク配置工程S12と、成膜工程S13とを備える。以下、これらの工程について説明する。
【0068】
前記準備工程S11は、前記成膜装置10を準備する工程である。
【0069】
前記ワーク配置工程S12は、前記複数のピストンリング100を前記複数の自転テーブル76の前記ワーク載置面の上に配置する工程である。前記複数の自転テーブル76の各々に支持される前記ピストンリング100は、
図1に示すように、当該ピストンリング100における前記一対の対向端部102、102が前記第1ターゲット30と前記第2ターゲット40とが互いに対向する方向である前記ターゲット対向方向(
図1の紙面における上下方向)において前記第1ターゲット側(
図1の紙面における上側)を向くように、前記自転テーブル76上のリブ763によって周方向について位置決めされる。
【0070】
前記成膜工程S13は、
図2に示されるように前記複数のピストンリング100の各々の外周面110に皮膜90を形成する工程である。当該皮膜90の形成すなわち成膜は、前記複数のピストンリング100の各々を前記公転中心軸線CL1周りに公転させるとともに、当該公転にかかわらず各ピストンリング100の一対の対向端部102、102が常に前記ターゲット対向方向において前記第1ターゲット側を向くように前記自転中心軸線CL2周りに自転させながら、行われる。当該成膜工程S13は、チャンバ20内において減圧された環境下で行われる。
【0071】
前記複数のピストンリング100の各々には、図示されないバイアス電位印加装置から前記ワーク回転装置70を通じてバイアス電位が印加される。このようにバイアス電位が前記複数のピストンリング100のそれぞれに印加された状態で、第1アーク電源50が第1ターゲット30にアーク電流を流すとともに、第2アーク電源60が第2ターゲット40にアーク電流を流す。これにより、前記第1ターゲット30と前記チャンバ20の内面との間でアーク放電が発生し、前記第1ターゲット30の第1出射面32から当該第1ターゲット30の材料が蒸発して高エネルギーの粒子が飛び出す。当該粒子は前記ピストンリング100の外周面110に衝突する。また、前記第2ターゲット40と前記チャンバ20の内面との間でアーク放電が発生し、前記第2ターゲット40の前記第2出射面42から当該第2ターゲット40の材料が蒸発して高エネルギーの粒子が飛び出す。当該粒子も前記ピストンリング100の外周面110に衝突する。このようにして当該ピストンリング100の外周面110に
図2に示されるような前記皮膜90が形成される。従って、当該皮膜90は、前記第1ターゲット30からの粒子によって形成される前記第1皮膜部分92と、前記第2ターゲット40からの粒子によって形成される前記第2皮膜部分94と、を含む。
【0072】
前記成膜工程S13において、前記複数のピストンリング100の各々は、当該ピストンリング100の前記一対の対向端部102、102が前記ターゲット対向方向において前記第1ターゲット側を向いた状態で、前記第1出射面32の前方及び前記第2出射面42の前方を交互に通過する。このようにして前記複数のピストンリング100の各々の外周面110にその全周に亘って
図2に示されるような前記皮膜90が形成される。
【0073】
前記制御装置80は、前記第1アーク電源50が前記第1ターゲット30に与えるアーク電流が、前記第2アーク電源60が前記第2ターゲット40に与えるアーク電流よりも大きくなるように、当該第1及び第2アーク電源50,60の作動を制御する。このことは、
図2に示されるように、前記第1ターゲット30からの粒子によって単位時間当たりに形成される前記第1皮膜部分92の厚みを、前記第2ターゲット40からの粒子によって単位時間当たりに形成される前記第2皮膜部分94の厚みよりも大きくする。従って、最終的に前記ピストンリング100の外周面に形成される皮膜90の前記第1皮膜部分92が前記第2皮膜部分94よりも厚くなる。前記第1皮膜部分92は、前記ピストンリング100の外周面110のうち前記一対の対向端部102、102の各々の外周面を覆い、前記第2皮膜部分94は、前記外周面110のうち前記ピストンリング100の径方向について当該ピストンリング100の中心を挟んで前記一対の対向端部102、102と反対の側に位置する部分の外周面を覆う。
【0074】
前記第1アーク電源50が前記第1ターゲット30に与えるアーク電流を前記第2アーク電源60が前記第2ターゲット40に与えるアーク電流よりも大きくする期間(以下「電流差付与期間」と称する。)は、前記皮膜90を形成するための期間である総成膜期間と同等であってもよいし、当該総成膜期間の一部であってもよい。前記電流差付与期間が前記総成膜期間の一部である態様は、例えば、当該総成膜期間が複数の電流差付与期間を含む態様である。要するに、前記第1ターゲット30からの粒子によって単位時間当たりに形成される皮膜の厚みを前記第2ターゲット40からの粒子によって単位時間当たりに形成される皮膜の厚みよりも大きくするという条件を満たす範囲で、前記電流差付与期間の長さは任意に設定されることが可能である。
【0075】
以上説明した成膜装置10及びこれを用いた成膜方法においては、従来のようなピストンリング100の公転速度の調整を要することなく、前記第1及び第2アーク電源50,60の駆動の制御により、前記皮膜90のうち前記第1出射面32から飛び出す粒子によって形成される前記第1皮膜部分92の厚みを前記第2出射面42から飛び出す粒子によって形成される前記第2皮膜部分94の厚みよりも大きくすることができる。前記制御、すなわち、前記ピストンリング100の外周面110に形成される皮膜90を部分的に厚くするための電源制御、は、前記公転速度の制御に比べて再現性が高い。このことは、前記外周面110に形成される前記皮膜90の周方向の膜厚分布を精度良く制御することを可能にする。
【0076】
前記成膜装置10において、前記ワーク回転装置70の前記回転テーブル72は、前記第1ターゲット30と前記第2ターゲット40との間においてZ方向に延びる前記公転中心軸線CL1周りに旋回可能に配置され、その旋回に伴って前記複数のピストンリング100の各々が前記公転中心軸線CL1周りに公転するように複数のピストンリング100を支持する。つまり、前記成膜装置10を用いた前記成膜方法は、前記第1ターゲット30と前記第2ターゲット40との間において前記Z方向に延びる前記公転中心軸線CL1周りに前記複数のピストンリング100の各々を公転させること、すなわち、前記複数のピストンリング100を前記第1ターゲット30と前記第2ターゲット40との間に位置する所定の前記公転軌跡円上に沿って移動させること、を含む。換言すれば、前記複数のピストンリング100の移動範囲は前記公転軌跡円上に限定される。このことは、前記成膜を目的として前記複数のピストンリング100を移動させるために必要な空間を小さくすることを可能にする。
【0077】
前記成膜装置10及びこれを用いた前記成膜方法において、前記第2ターゲット40を用いた前記皮膜90の形成、すなわち前記第2皮膜部分94の形成、は前記第1ターゲット30を用いた前記皮膜90の形成、すなわち前記第1皮膜部分92の形成、が終了した後に行われてもよい。或いは、前記第2皮膜部分94の形成が前記第1皮膜部分92の形成中に、つまり当該形成の終了前に、開始されてもよい。
【0078】
[実施の形態の変形例1]
前記実施の形態に係る成膜装置10の前記第1ターゲット30及び前記第2ターゲット40は互いに同じ材料で形成されているが、本発明は、第1ターゲット30と第2ターゲット40とが異なる材料で形成された変形例1も包含する。
【0079】
前記変形例1においては、ピストンリング100の外周面に形成される皮膜90のうち前記第1ターゲット30の第1出射面32から飛び出す粒子によって形成される第1皮膜部分92と、前記第2ターゲット40の第2出射面42から飛び出す粒子によって形成される第2皮膜部分94と、の特性を異ならせることができる。例えば、前記第2ターゲット40を構成する材料よりも硬質な材料によって前記第1ターゲット30を形成することにより、前記第1皮膜部分92の硬度を前記第2皮膜部分94の硬度よりも高くすることができる。このことは、前記皮膜90のうち前記ピストンリング100における一対の対向端部102、102の各々の外周面を覆う部分(つまり、前記第1皮膜部分92)の摩耗を抑制することを可能にする。
【0080】
[実施の形態の変形例2]
前記実施の形態に係る成膜装置10の制御装置80は、前記第1皮膜部分92が前記第2皮膜部分94よりも厚くなるように、前記第1アーク電源50が前記第1ターゲット30に与えるアーク電流を前記第2アーク電源60が前記第2ターゲット40に与えるアーク電流よりも大きくしているが、前記第1皮膜部分92を前記第2皮膜部分94よりも厚くするための方策は、これに限定されない。本発明は、第1アーク電源50が第1ターゲット30にアーク電流を与える期間である第1電源運転期間を、第2アーク電源60が第2ターゲット40にアーク電流を与える期間である第2電源運転期間よりも長くする変形例2も包含する。この変形例2によれば、皮膜90を形成する全期間すなわち総成膜期間内に前記第1ターゲット30のみを用いて当該皮膜90を形成する期間が存在する。このことは、前記第1ターゲット30の第1出射面32から飛び出す粒子によって形成される前記第1皮膜部分92を、前記第2ターゲット40の第2出射面42から飛び出す粒子によって形成される第2皮膜部分94よりも厚くすることを可能にする。
【0081】
前記第1電源運転期間すなわち前記第1ターゲット30を用いた成膜期間を前記第2電源運転期間すなわち前記第2ターゲット40を用いた成膜期間よりも長くする場合、好ましくは、前記第2電源運転期間の少なくとも一部が前記第1電源運転期間の一部に重複する。つまり、前記皮膜90を形成するための全期間である総成膜期間において前記第1ターゲット30及び第2ターゲット40を同時に使用する期間が存在することが、好ましい。このことは、前記総成膜期間を短くすることを可能にする。
【0082】
前記第2電源運転期間は前記第1電源運転期間の終了後に開始してもよい。或いは、前記第1電源運転期間が前記第2電源運転期間の終了後に開始してもよい。
【0083】
前記第1電源運転期間は、前記総成膜期間内に存在していればよい。例えば、前記第1電源運転期間と前記第2電源運転期間とが同時に開始して前記総成膜期間の最後に前記第1ターゲット30のみを用いて皮膜90を形成する期間が存在してもよい。つまり、総成膜期間の最後に前記第1電源運転期間のみが存在してもよい。あるいは、前記第1電源運転期間が前記第2電源運転期間よりも先に開始することにより、前記総成膜期間の最初に前記第1ターゲット30のみを用いて皮膜90を形成する期間が存在してもよい。つまり、総成膜期間の最初に前記第1電源運転期間のみが存在してもよい。あるいは、前記第1電源運転期間と前記第2電源運転期間が同時に開始しかつ終了するが、その途中で前記第2電源運転期間が中断すること、すなわち、前記総成膜期間の途中に前記第1ターゲット30のみを用いて皮膜90を形成する期間が存在すること、によっても前記第1電源運転期間を前記第2電源運転期間より長くすることができる。
【0084】
上記変形例1または2に係る成膜装置及びこれを用いた成膜方法においても、前記第1アーク電源50及び前記第2アーク電源60の駆動の制御により、前記実施の形態と同様に、ピストンリング100の外周面に形成される皮膜90の周方向の膜厚分布を精度良く制御することができる。
【0085】
つまり、前記第1皮膜部分92が前記第2皮膜部分94よりも厚くなるのであれば、前記第1アーク電源50が前記第1ターゲット30に与えるアーク電流は、前記第2アーク電源60が前記第2ターゲット40に与えるアーク電流と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0086】
[実施の形態の変形例3]
図1に示す前記成膜装置10は、単一の第1ターゲット30を備えるが、
図6に示される変形例3に係る成膜装置10は2つの第1ターゲット30を備える。当該2つの第1ターゲット30は、基準線SLに対して互いに対称となるように配置される。前記2つの第1ターゲット30には、それぞれ、互いに独立した2つの第1アーク電源50が接続されている。当該2つの第1アーク電源50は共通の第1電流制御部82に接続され、当該第1電流制御部82は、前記2つの第1アーク電源50が前記2つの第1ターゲット30にそれぞれ与えるアーク電流を制御する。
【0087】
[実施の形態の変形例4]
図1に示す前記成膜装置10は、単一の第2ターゲット40を備えるが、
図7に示される変形例4に係る成膜装置10は、2つの第2ターゲット40を備える。前記2つの第2ターゲット40は、基準線SLに対して互いに対称となるように配置される。前記2つの第2ターゲット400には、それぞれ、互いに独立した2つの第2アーク電源60が接続されている。当該2つの第2アーク電源60は共通の第2電流制御部84に接続され、当該第2電流制御部84は、前記2つの第2アーク電源60が前記2つの第2ターゲット40にそれぞれ与えるアーク電流を制御する。
【0088】
以上説明した実施の形態及びその変形例はあくまでも例示である。本発明は、上述の実施の形態等の記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0089】
前記実施の形態では、蒸発源に与えられる電気エネルギーが、AIP用の蒸発源であるターゲットに与えられるアーク電流であるが、本発明において蒸発源に与えられる電気エネルギーは前記アーク電流に限定されない。蒸発源に与えられる電気エネルギーは、例えば、スパッタリング用の蒸発源に供給されるスパッタ電力などでもよい。
【0090】
前記実施の形態では、成膜されるワークがピストンリングであるが、本発明に係るワークはピストンリングに限定されない。被膜を厚く形成すべき特定領域が設定された外周面を有するワークであれば、本発明に係る成膜装置によって当該特定領域における皮膜を部分的に厚くする成膜を行うことが可能である。例えば、ワークは切削加工に用いられるバイトでもよい。このようなバイトでは、例えば、当該バイトの外周面のうち高速回転する切削対象に接触する部分(すなわち、すくい面)が皮膜を厚く形成すべき特定領域として設定される。
【0091】
前記実施の形態に係る成膜装置10は、第1ターゲット30及び第2ターゲット40を備えるが、本発明に係る成膜装置は、第1及び第2ターゲットを用いた成膜の形成を補助するためのさらなるターゲットを含んでもよい。
【符号の説明】
【0092】
10 成膜装置
30 第1ターゲット
32 出射面
40 第2ターゲット
42 出射面
50 第1アーク電源
60 第2アーク電源
70 ワーク回転装置
72 回転テーブル
80 制御装置
100 ピストンリング
102 対向端部