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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   A01B 63/10 20060101AFI20220829BHJP
   A01B 63/00 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
A01B63/10 Z
A01B63/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019109101
(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公開番号】P2020198832
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】黒下 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】河野 通太
(72)【発明者】
【氏名】東 人司
(72)【発明者】
【氏名】大原 慎司
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-132703(JP,A)
【文献】特開2018-192971(JP,A)
【文献】特開2009-261304(JP,A)
【文献】実開平03-048404(JP,U)
【文献】特開2004-350565(JP,A)
【文献】特開2006-340619(JP,A)
【文献】特開2011-167140(JP,A)
【文献】特開2005-219666(JP,A)
【文献】特開2014-023491(JP,A)
【文献】特開平08-261206(JP,A)
【文献】特開2008-278840(JP,A)
【文献】特開2015-033354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 63/10
A01B 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体に設けられ且つ作業装置を装着可能な昇降装置と、
前記昇降装置を昇降させる昇降操作具と、
前記昇降操作具を操作したときの前記昇降装置の上昇速度を設定可能な上昇速度設定具と、
前記昇降操作具を操作したときの前記昇降装置の下降速度を設定可能な下降速度設定具と、
運転席と、
前記運転席の前方又は側方に設けられ、且つ、前記上昇速度設定具と前記下降速度設定具とを並べて支持する操作台と、
原動機と、
前記原動機の回転数を変更する制御装置と、を備え
前記昇降装置は、前記車体に上下に揺動自在に支持されたリフトアームと、前記リフトアームを揺動させるリフトシリンダと、前記リフトシリンダを作動させる制御弁と、前記制御弁に作動油を供給する油圧ポンプとを備え、
前記制御弁は、前記上昇速度設定具によって設定された設定上昇速度及び前記下降速度設定具によって設定された設定下降速度のそれぞれに基づいて、開度速度が変化し、
前記油圧ポンプは、前記原動機の動力によって駆動するポンプであって、前記原動機の回転数の増減に応じて作動油の吐出量が増減するポンプであり、
前記制御装置は、前記上昇速度設定具で設定された設定上昇速度が予め定められた値よりも大きい場合、前記原動機の回転数をアイドリング回転数よりも大きな回転数に上昇させる作業車両。
【請求項2】
前記上昇速度設定具は、摘み部が回動する回動スイッチであり、前記摘み部を一方向に回動させると、前記設定上昇速度が小さくなり、前記摘み部を他方向に回動させると、前記設定上昇速度が大きくなり、
前記下降速度設定具は、摘み部が回動する回動スイッチであり、前記摘み部を一方向に回動させると、前記設定下降速度が小さくなり、前記摘み部を他方向に回動させると、前記設定下降速度が大きくなる請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記昇降装置の高さ上限値を設定する上限設定ダイヤルと、
前記昇降装置によって前記作業装置を上昇させる場合に、前記リフトアームの角度が前記上限設定ダイヤルで設定された高さ上限値に達すると、前記昇降装置における上昇動作を停止する昇降制御装置と、を備える請求項1又は2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記制御装置は、前記下降速度設定具で設定された設定下降速度が予め定められた値よりも大きい場合、前記原動機の回転数をアイドリング回転数よりも大きな回転数に上昇させる請求項1~3の何れか1項に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタ等の作業車両に関する設定を行うことができる技術として、特許文献1に示すものが知られている。特許文献1に開示された作業車両は、作業装置を昇降駆動するリフトアームの設定位置より下方への揺動変位に基づいて、リフトアーム駆動用油圧シリンダからの排油量を調節するための油量調節部材を減量側に向けて機械的に連係操作してリフトアームの下降速度を減速させる連係部材が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-179601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の作業車両では、リフトアームの下降速度を減速させることができるものの、上昇速度を変更することができないのが実情である。
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、昇降装置の上昇速度を簡単に設定することができる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この技術的課題を解決するための本発明の技術的手段は、以下に示す点を特徴とする。
作業車両は、車体と、前記車体に設けられ且つ作業装置を装着可能な昇降装置と、前記昇降装置を昇降させる昇降操作具と、前記昇降操作具を操作したときの前記昇降装置の上昇速度を設定可能な上昇速度設定具と、前記昇降操作具を操作したときの前記昇降装置の下降速度を設定可能な下降速度設定具と、運転席と、前記運転席の前方又は側方に設けられ、且つ、前記上昇速度設定具と前記下降速度設定具とを並べて支持する操作台と、原動機と、前記原動機の回転数を変更する制御装置と、を備え、前記昇降装置は、前記車体に上下に揺動自在に支持されたリフトアームと、前記リフトアームを揺動させるリフトシリンダと、前記リフトシリンダを作動させる制御弁と、前記制御弁に作動油を供給する油圧ポンプとを備え、前記制御弁は、前記上昇速度設定具によって設定された設定上昇速度及び前記下降速度設定具によって設定された設定下降速度のそれぞれに基づいて、開度速度が変化し、前記油圧ポンプは、前記原動機の動力によって駆動するポンプであって、前記原動機の回転数の増減に応じて作動油の吐出量が増減するポンプであり、前記制御装置は、前記上昇速度設定具で設定された設定上昇速度が予め定められた値よりも大きい場合、前記原動機の回転数をアイドリング回転数よりも大きな回転数に上昇させる。
【0006】
前記上昇速度設定具は、摘み部が回動する回動スイッチであり、前記摘み部を一方向に回動させると、前記設定上昇速度が小さくなり、前記摘み部を他方向に回動させると、前記設定上昇速度が大きくなり、前記下降速度設定具は、摘み部が回動する回動スイッチであり、前記摘み部を一方向に回動させると、前記設定下降速度が小さくなり、前記摘み部を他方向に回動させると、前記設定下降速度が大きくなる。
作業車両は、前記昇降装置の高さ上限値を設定する上限設定ダイヤルと、前記昇降装置によって前記作業装置を上昇させる場合に、前記リフトアームの角度が前記上限設定ダイヤルで設定された高さ上限値に達すると、前記昇降装置における上昇動作を停止する昇降制御装置と、を備える。
【0007】
前記制御装置は、前記下降速度設定具で設定された設定下降速度が予め定められた値よりも大きい場合、前記原動機の回転数をアイドリング回転数よりも大きな回転数に上昇させる。
前記上昇速度設定具における上昇速度の設定と、前記下降速度設定具における下降速度の設定とを個別に設定を行うか、共通に行うかを切り換える設定切換具を備えている。
前記設定切換具は、ON/OFFに切換可能なスイッチであり、前記設定切換具がOFFである場合は、前記上昇速度設定具と前記下降速度設定具とは個別に速度を設定とし、前記設定切換具がONである場合は、前記上昇速度設定具及び前記下降速度設定具のいずれかを操作した場合に、前記操作に応じて前記上昇速度及び下降速度の両方が設定される。
【0008】
前記上昇速度設定具における上昇速度の設定を、前記下降速度設定具における下降速度の比例倍に設定する連動設定具を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、昇降装置の上昇速度を簡単に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】変速装置の構成図である。
図1B】昇降装置の斜視図である。
図1C】作業機の制御ブロック図を示す図である。
図2】上昇速度設定具、下降速度設定具及び設定切換具の配置図である。
図3A】設定上昇速度と電流との関係を示す図である。
図3B】設定下降速度と電流との関係を示す図である。
図4A】設定画面M10の一例を示す図である。
図4B】設定画面M10において、設定切換具をONにした状態を示す図である。
図4C】設定画面M10の他の例を示す図である。
図5】トラクタの全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図5は作業車両1の実施形態を示す側面図であり、図5は作業車両1の実施形態を示す平面図である。本実施形態の場合、作業車両1はトラクタである。但し、作業車両1は、トラクタに限定されず、コンバインや移植機等の農業機械(農業車両)であってもよい。
以下、トラクタ(作業車両)1の運転席10に着座した運転者の前側を前方、運転者の後側を後方、運転者の左側を左方、運転者の右側を右方として説明する。また、作業車両1の前後方向に直交する方向である水平方向を車体幅方向として説明する。
【0012】
図5に示すように、トラクタ1は、走行装置7を有する車体3と、原動機4と、変速装置5とを備えている。走行装置7は、前輪7F及び後輪7Rを有する装置である。前輪7Fは、タイヤ型であってもクローラ型であってもよい。また、後輪7Rも、タイヤ型であってもクローラ型であってもよい。原動機4は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどの内燃機関、電動モータ等である。この実施形態では、原動機4は、ディーゼルエンジンである。
【0013】
変速装置5は、変速によって走行装置7の推進力を切換可能であると共に、走行装置7の前進、後進の切換が可能である。車体3にはキャビン9が設けられ、当該キャビン9内には運転席10が設けられている。
また、車体3の後部には、昇降装置8が設けられている。昇降装置8には、作業装置2が着脱可能である。また、昇降装置8は、装着された作業装置2を昇降可能である。作業装置2は、耕耘する耕耘装置、肥料を散布する肥料散布装置、農薬を散布する農薬散布装置、収穫を行う収穫装置、牧草等の刈取を行う刈取装置、牧草等の拡散を行う拡散装置、牧草等の集草を行う集草装置、牧草等の成形を行う成形装置等である。なお、図5では、作業装置2として耕耘装置を取り付けた例を示している。
【0014】
図1Aに示すように、変速装置5は、主軸(推進軸)5aと、シャトル部5bと、主変速部5cと、副変速部5dと、PTO動力伝達部5eと、前変速部5fと、を備えている。推進軸5aは、変速装置5のハウジングケースに回転自在に支持され、当該推進軸5aには、原動機4のクランク軸からの動力が伝達される。
シャトル部5bは、シャトル軸5b1と、前後進切換部5b2とを有している。シャトル軸5b1には、推進軸5aからの動力が伝達される。前後切換部5b2は、例えば、油圧クラッチ等で構成され、油圧クラッチの入切によってシャトル軸5b1の回転方向、即ち、トラクタ1の前進及び後進を切り換える。
【0015】
主変速部5cは、入力された動力を無段に変更する無段変速機構である。無段変速機構は、油圧ポンプ5c1と、油圧モータ5c2と、遊星歯車機構5c3とを有している。油圧ポンプ5c1は、シャトル部5bの出力軸5b3からの動力により回転する。油圧ポンプ5c1は、例えば、斜板12を有する可変容量ポンプであって、斜板12の角度(斜板角)を変更することにより、当該油圧ポンプ5c1から吐出する作動油の流量を変更することができる。油圧モータ5c2は、配管等の油路回路を介して油圧ポンプ5c1から吐出された作動油によって回転するモータである。油圧ポンプ5c1の斜板角を変更したり、油圧ポンプ5c1へ入力する動力を変更することによって、油圧モータ5c2の回転数を変更することができる。
【0016】
遊星歯車機構5c3は、複数のギア(歯車)と、入力軸及び出力軸等の動力伝達軸とで構成された機構であって、油圧ポンプ5c1の動力が入力される入力軸13と、油圧モータ5c2の動力が入力される入力軸14と、動力を出力する出力軸15とを含んでいる。遊星歯車機構5c3は、油圧ポンプ5c1の動力と、油圧モータ5c2の動力とを合成して合成した動力を出力軸15に伝達する。
【0017】
したがって、主変速部5cによれば、油圧ポンプ5c1の斜板12の斜板角、原動機4の回転数等を変更することによって、副変速部5dに出力する動力を変更することができる。なお、主変速部5cは、無段変速機構で構成しているが、ギアによって変速を行う有段変速機構であってもよい。
副変速部5dは、動力を変速する有段の複数のギア(歯車)を有する変速機構であって、複数のギアの接続(噛合)を適宜変更することによって、遊星歯車機構5c3の出力軸15から当該副変速部5dに入力された動力を変更して出力する(変速する)。副変速部5dは、入力軸5d1と、第1変速クラッチ5d2と、第2変速クラッチ5d3と、出力軸5d4とを含んでいる。入力軸5d1は、遊星歯車機構5c3の出力軸15の動力が入力される軸であり、入力された動力を、ギア等を介して第1変速クラッチ5d2及び第2変速クラッチ5d3に入力する。第1変速クラッチ5d2及び第2変速クラッチ5d3のそれぞれの接合及び切断を切り換えることにより、入力された動力は変更され、出力軸5d4に出力される。出力軸5d4に出力された動力は、後輪デフ装置20Rに伝達される。後輪デフ装置20Rは、後輪7Rが取り付けられた後車軸21Rを回転自在に支持している。
【0018】
PTO動力伝達部5eは、PTOクラッチ5e1と、PTO推進軸5e2と、PTO変速部5e3とを有している。PTOクラッチ5e1は、例えば、油圧クラッチ等で構成され、油圧クラッチの入切によって、推進軸5aの動力をPTO推進軸5e2に伝達する状態と、推進軸5aの動力をPTO推進軸5e2に伝達しない状態とに切り換わる。PTO変速部5e3は、変速クラッチと複数のギア等を含んでいて、PTO推進軸5e2からPTO変速部5e3へ入力された動力(回転数)を変更して出力する。
PTO変速部5e3の動力は、ギア等を介してPTO軸16に伝達される。
【0019】
前変速部5fは、第1前変速クラッチ5f1と、第2前変速クラッチ5f2とを有している。第1前変速クラッチ5f1及び第2前変速クラッチ5f2は、副変速部5dからの動力が伝達可能であって、例えば、出力軸5d4の動力が、ギア及び伝動軸を介して伝達される。第1前変速クラッチ5f1及び第2前変速クラッチ5f2からの動力は、前伝動軸22を介して前車軸21Fに伝達可能である。具体的には、前伝動軸22は、前輪デフ装置20Fに接続され、前輪デフ装置20Fは、前輪7Fが取り付けられた前車軸21Fを回転自在に支持している。
【0020】
第1前変速クラッチ5f1及び第2前変速クラッチ5f2は、油圧クラッチ等で構成されている。第1前変速クラッチ5f1には油路が接続され、当該油路には油圧ポンプから吐出した作動油が供給される制御弁23に接続されている。第1前変速クラッチ5f1は、制御弁23の開度によって接続状態と切断状態とに切り換わる。第2前変速クラッチ5f2には油路が接続され、当該油路には制御弁24に接続されている。第2前変速クラッチ5f2は、制御弁24の開度によって接続状態と切断状態とに切り換わる。制御弁23及び制御弁24は、例えば、電磁弁付き二位置切換弁であって、電磁弁のソレノイドを励磁又は消磁することにより、接続状態又は切断状態に切り換わる。
【0021】
第1前変速クラッチ5f1が切断状態で且つ第2前変速クラッチ5f2が接続状態である場合、第2前変速クラッチ5f2を通じて副変速部5dの動力が前輪7Fに伝達される。これにより、前輪及び後輪が動力によって駆動する四輪駆動(4WD)で且つ前輪と後輪との回転速度が略同じとなる(4WD等速状態)。一方、第1前変速クラッチ5f1が接続状態で且つ第2前変速クラッチ5f2が切断状態である場合、四輪駆動になり且つ前輪の回転速度が後輪の回転速度に比べて速くなる(4WD増速状態)。また、第1前変速クラッチ5f1及び第2前変速クラッチ5f2が接続状態である場合、副変速部5dの動力が前輪7Fされないため、後輪が動力によって駆動する二輪駆動(2WD)となる。
【0022】
図1Bに示すように、昇降装置8は、リフトアーム8a、ロアリンク8b、トップリンク8c、リフトロッド8d、リフトシリンダ8eを有している。リフトアーム8aの前端部は、変速装置5を収容するケース(ミッションケース)の後上部に上方又は下方に揺動可能に支持されている。リフトアーム8aは、リフトシリンダ8eの駆動によって揺動(昇降)する。リフトシリンダ8eは、油圧シリンダから構成されている。
【0023】
図1Cに示すように、リフトシリンダ8eは、制御弁34を介して油圧ポンプ65と接続されている。油圧ポンプ65は、原動機4の動力によって駆動するポンプであって、例えば、定容量ポンプである。原動機4の回転数が高いと、油圧ポンプ65の出力が高く(作動油の吐出量が多く)、原動機4の回転数が低いと、油圧ポンプ65の出力が低く(作動油の吐出量が少なく)なる。制御弁34は、例えば、上昇位置34A、中立位置34B、下降位置34Cに切換可能な3位置の電磁切換弁であって、開度が任意に変更可能である。制御弁34が上昇位置34Aである場合には、リフトシリンダ8eは伸長し、リフトアーム8aは上昇する。制御弁34が下降位置34Cである場合には、リフトシリンダ8eは収縮し、リフトアーム8aは下降する。
【0024】
ロアリンク8bの前端部は、変速装置5の後下部に上方又は下方に揺動可能に支持されている。トップリンク8cの前端部は、ロアリンク8bよりも上方において、変速装置5の後部に上方又は下方に揺動可能に支持されている。リフトロッド8dは、リフトアーム8aとロアリンク8bとを連結している。ロアリンク8bの後部及びトップリンク8cの後部には、作業装置2が連結される。リフトシリンダ8eが駆動(伸縮)すると、リフトアーム8aが昇降するとともに、リフトロッド8dを介してリフトアーム8aと連結されたロアリンク8bが昇降する。これにより、作業装置2がロアリンク8bの前部を支点として、上方又は下方に揺動(昇降)する。
【0025】
図1Cに示すように、トラクタ1は、複数の検出装置41を備えている。複数の検出装置41は、トラクタ1の状態を検出する装置であり、例えば、水温を検出する水温センサ41a、燃料の残量を検出する燃料センサ41b、原動機4の回転数を検出する原動機回転センサ(回転センサ)41c、アクセルペダルの操作量を検出するアクセルペダルセンサ41d、操舵機構の操舵角を検出する操舵角センサ41e、リフトアーム8aの角度を検出する角度センサ41f、車体3の幅方向(右方向又は左方向)の傾きを検出する傾き検出センサ41g、車体3の車速(速度)を検出する速度センサ41h、PTO軸の回転数を検出するPTO回転センサ(回転センサ)41i等である。なお、速度センサ41hは、例えば、前車軸21Fの回転数、後車軸21Rの回転数、前輪7Fの回転数、後輪7Rの回転数等を車速に変換することにより車速を検出する。また、速度センサ41hは、前車軸21F、後車軸21R、前輪7F及び後輪7Rのいずれかの回転方向も検出することができ、トラクタ1(車体3)が前進しているか、後進しているかも検出することができる。上述した検出装置41は一例であり、上述したセンサに限定されない。
【0026】
トラクタ1は、複数の操作部材(操作装置)42を備えている。複数の操作部材42は、車体3の前進又は後進を切り換えるシャトルレバー42a、原動機4の始動等を行うイグニッションスイッチ42b、PTO軸の回転数を設定するPTO変速レバー42c、自動変速及び手動変速のいずれかを切り換える変速切換スイッチ42d、変速装置5の変速段(変速レベル)を手動で切り換える変速レバー42e、車速を増減させるアクセル42f、昇降装置8の昇降を操作する昇降操作具(ポンパスイッチ)42g、昇降装置8の上限を設定する上限設定ダイヤル42h、車速を設定する車速レバー42i等である。昇降操作具(ポンパスイッチ)42gは、例えば、揺動自在なスイッチであって、揺動中心を起点として一方向に揺動させた場合に上昇を指令し、他方向に揺動させた場合に下降を指令することができる。昇降操作具42gは、押圧することができる一対のスイッチであってもよく、一方のスイッチを押圧した場合には上昇を指令し、他方のスイッチを押圧した場合には下降を指令する。なお、上述した操作装置42は一例であり、上述したセンサに限定されない。
【0027】
トラクタ1は、複数の表示装置50を備えている。
複数の表示装置50は、トラクタ1に関する様々な情報を表示する装置である。複数の表示装置50は、運転席10の周囲に設定されていて、当該運転席10に着座した作業者(オペレータ)が表示した情報を確認することが可能である。複数の表示装置50は、メータ表示装置50Aと、ターミナル表示装置50Bとである。メータ表示装置50Aは、運転席10の前方で且つハンドルの前方に配置された表示装置であって、少なくとも運転に関する運転(運転情報)を表示する。ターミナル表示装置50Bは、メータ表示装置50Aとは異なる表示装置であって、例えば、運転席10の前方又は側方に配置されている。ターミナル表示装置50Bは、少なくともトラクタ1の設定に関する情報を表示する。なお、説明の便宜上、メータ表示装置50Aを「表示装置50A」、ターミナル表示装置50Bを「表示装置50B」ということがある。トラクタ1は、表示装置50A、表示装置50Bの全ての表示装置を有する必要はなく、表示装置の台数は任意に変更が可能である。
【0028】
複数の制御装置40を備えている。複数の制御装置40は、トラクタ1の様々な制御を行う装置である。複数の制御装置40は、複数の検出装置41が検出した検出情報、複数の操作部材(操作装置)42の操舵に基づいて制御を行う。なお、複数の制御装置40、複数の検出装置41等は、CANなどの車載ネットワークN1により接続されている。
複数の制御装置40は、原動機制御装置40Aと、変速制御装置40Bと、昇降制御装置40Cと、表示制御装置40Dとを含んでいる。
【0029】
原動機制御装置40Aは、イグニッションスイッチ42bがONに操作された場合、所定の処理を経て原動機4の始動を行い、イグニッションスイッチ42bがOFFに操作された場合、原動機4の駆動を停止させる。また、制御装置40は、アクセル42fが操作された場合、当該アクセル42fの操作量に応じて原動機4の回転数(原動機回転数という)を変更する。
【0030】
変速制御装置40Bは、シャトルレバー42aが前進に操作された場合、シャトル部5bの前後進切換部5b2を前進に切り換えることで、車体3を前進させる。また、変速制御装置40Bは、シャトルレバー42aが後進に操作された場合、シャトル部5bの前後進切換部5b2を後進に切り換えることで、車体3を後進させる。変速制御装置40Bは、変速切換スイッチ42dを手動変速に切り換えた場合、変速レバー42eで設定された変速段(変速レベル)に応じて主変速部5c及び副変速部5dのいずれかを自動的に切り換え、変速装置5の変速段を変更する。
【0031】
昇降制御装置40Cは、ポンパスイッチ42gの操作によって上昇の指令が行われた場合、制御弁34のソレノイド34Uを励磁することによって、当該制御弁34を上昇位置34Aに切り換える。これにより、リフトシリンダ8eは伸長し、リフトアーム8aの後端部(作業装置2側の端部)が上昇する。昇降制御装置40Cは、ポンパスイッチ42gが下降させる方向(下降側)に操作された場合、制御弁34のソレノイド34Dを励磁することによって、当該制御弁34を下降位置34Cに切り換える。これにより、リフトシリンダ8eは収縮し、リフトアーム8aの後端部(作業装置2側の端部)が下降する。
【0032】
なお、昇降制御装置40Cは、昇降装置8によって作業装置2を上昇させている場合に、当該作業装置2の位置、即ち、リフトアーム8aの角度が上限設定ダイヤル42hで設定された上限(高さ上限値)に達すると、昇降装置8における上昇動作を停止する。
表示制御装置40Dは、メータ表示装置50A及びターミナル表示装置50Bにおいて、表示に関する様々な制御を行う。表示制御装置40Dは、例えば、水温センサ41aが検出した水温、燃料センサ41bが検出した燃料の残量、回転センサ41cが検出した原動機4の回転数などを、少なくともメータ表示装置50A及びターミナル表示装置50Bのいずれかに表示させる。原動機制御装置40A、変速制御装置40B、昇降制御装置40C及び表示制御装置40Dの制御は一例であり、上述した実施形態に限定されない。
【0033】
図1図2に示すように、トラクタ1は、上昇速度設定具91を備えている。上昇速度設定具91は、ポンパスイッチ42gを操作したときの昇降装置8の上昇速度、即ち、リフトシリンダ8eの伸長速度を設定可能である。上昇速度設定具91は、ハードウェアスイッチであって、円筒状の摘み部91aが縦軸91bに回動するボリュームスイッチ(回動スイッチ)である。摘み部91aを一方向に回動させると、設定される上昇速度(設定上昇速度)は小さくなり、他方向に回動させると、設定上昇速度は大きくなる。
【0034】
図3Aに示すように、昇降制御装置40Cは、上昇速度設定具91で設定された設定上昇速度が大きい場合、制御弁34のソレノイドUを励磁する電流値を大きくし、上昇速度設定具91で設定された設定上昇速度が小さい場合、制御弁34のソレノイドUを励磁する電流値を小さくする。即ち、制御弁34のソレノイドUに励磁された電流が大きい場合は、当該制御弁34の開度速度が速くなるため、リフトシリンダ8eは素早く上昇し、電流が小さい場合は、当該制御弁34の開度速度が遅くなるため、リフトシリンダ8eはゆっくりと上昇する。
【0035】
トラクタ1は、下降速度設定具92を備えている。下降速度設定具92は、ポンパスイッチ42gを操作したときの昇降装置8の下降速度、即ち、リフトシリンダ8eの収縮速度を設定可能である。下降速度設定具92は、ハードウェアスイッチであって、円筒状の摘み部92aが縦軸92bに回動するボリュームスイッチ(回動スイッチ)である。摘み部92aを一方向に回動させると、設定される下降速度(設定下降速度)は小さくなり、他方向に回動させると、設定下降速度は大きくなる。
【0036】
図3Bに示すように、昇降制御装置40Cは、下降速度設定具92で設定された設定下降速度が大きい場合、制御弁34のソレノイドDを励磁する電流値を大きくし、下降速度設定具92で設定された設定下降速度が小さい場合、制御弁34のソレノイドDを励磁する電流値を小さくする。即ち、制御弁34のソレノイドDに励磁された電流が大きい場合は、当該制御弁34の開度速度が速くなるため、リフトシリンダ8eは素早く下降し、電流が小さい場合は、当該制御弁34の開度速度が遅くなるため、リフトシリンダ8eはゆっくりと下降する。
【0037】
図2に示すように、上昇速度設定具91と、下降速度設定具92とは運転席10の側方、例えば、右側方に設けられた操作台93の上部(上面)に取り付けられている。操作台93の上面において、上昇速度設定具91と下降速度設定具92とは、機体幅方向又は前後方向に並べられている。したがって、運転者(オペレータ)は、上昇速度設定具91及び下降速度設定具92のそれぞれの設定速度(設定上昇速度、設定下降速度)を簡単に手動で設定することができる。
【0038】
トラクタ1は、設定切換具94を備えている。設定切換具94は、上昇速度設定具91における上昇速度の設定と、下降速度設定具92における下降速度の設定とを個別に設定を行うか、共通に行うかを切り換えることができるスイッチである。設定切換具94は、昇速度設定具91及び下降速度設定具92と同様に操作台93に設けられている。
設定切換具94は、ON/OFFに切換可能なハードウェアスイッチであり、設定切換具94がOFFである場合は、上昇速度設定具91と下降速度設定具92とは個別に速度を設定とする。即ち、設定切換具94がOFFである場合、上昇速度設定具91を操作すると設定上昇速度が設定され、下降速度設定具92を操作すると設定下降速度が設定される。
【0039】
設定切換具94がONである場合は、上昇速度設定具91及び前記下降速度設定具92のいずれかを操作した場合に、操作に応じて設定上昇速度及び設定下降速度の両方が設定される。例えば、設定切換具94がONである場合、上昇速度設定具91を操作すると、当該上昇速度設定具91によって設定した値(設定値)が、設定上昇速度及び設定下降速度の値となる。或いは、設定切換具94がONである場合、下降速度設定具92を操作すると、当該下降速度設定具92によって設定した値(設定値)が、設定上昇速度及び設定下降速度の値となる。
【0040】
上述した実施形態では、上昇速度設定具91、下降速度設定具92及び設定切換具94は、ハードウェアスイッチであったが、ソフトウェアスイッチであってもよい。
図4Aに示すように、表示装置50Bにおいて所定の動作を行うと、設定画面M10に上昇速度設定具91が表示される。上昇速度設定具91は、スライドの操作によって設定上昇速度が入力できる部分であり、目盛部91cと、指標部91dとを含んでいる。
【0041】
目盛部91cは、設定上昇速度の大きさを示す目盛であって、例えば、横棒(ゲージ)を縦方向に複数並べることにより構成されている。目盛部91cにおいて、縦棒の並列方向の一方側、例えば、下側が最小値であり、並列方向の他方、例えば、上側が最大値である。指標部91dは、設定上昇速度を目盛部91cに対して指し示す部分であって、縦棒の並列方向に沿って移動可能である。指標部91dは、タッチ操作等によって目盛部91cに沿って移動させることができる。
【0042】
下降速度設定具92も設定画面M10に表示される。下降速度設定具92は、スライド
の操作によって設定上昇速度が入力できる部分であり、目盛部92cと、指標部92dとを含んでいる。
目盛部92cは、設定下降速度の大きさを示す目盛であって、例えば、横棒(ゲージ)を縦方向に複数並べることにより構成されている。目盛部92cにおいて、縦棒の並列方向の一方側、例えば、下側が最小値であり、並列方向の他方、例えば、上側が最大値である。指標部92dは、設定下降速度を目盛部92cに対して指し示す部分であって、縦棒の並列方向に沿って移動可能である。指標部92dは、タッチ操作等によって目盛部92cに沿って移動させることができる。
【0043】
設定切換具94も設定画面M10に表示される。設定切換具94は、設定画面M10において縦方向又は横方向に移動可能であって、ON/OFFに切換可能なスイッチである。設定切換具94をOFF側に移動した場合、設定画面M10に表示された上昇速度設定具91の指標部91d及び下降速度設定具92の指標部92dはそれぞれ個別に、目盛部91c、92cのそれぞれに沿って移動させることができる。
【0044】
図4Bに示すように、設定切換具94をON側に移動した場合、設定画面M10に表示された上昇速度設定具91の指標部91d及び下降速度設定具92の指標部92dは、それぞれ目盛部91c、92cにおいて、同じ値(同値)に移動する。上昇速度設定具91及び下降速度設定具92のいずれかを操作した場合、指標部91d及び指標部92dは、同時に目盛部91c、92cに沿って移動し、目盛部91c、92cに示した値が、設定上昇速度及び設定下降速度となる。つまり、設定切換具94をON側に移動させることによって、設定上昇速度及び設定下降速度を同時に同一の値に設定することができる。
【0045】
上述した実施形態において、設定速度(上昇設定速度、下降設定速度)が予め定められた値よりも大きい場合(閾値以上の場合)、原動機4の回転数をアイドリング回転数よりも大きな回転数に自動的に上昇させてもよい。この場合、上昇設定速度及び下降設定速度にて昇降装置8を操作するための駆動力を自動的に得ることができる。
また、トラクタ1は、上昇速度設定具91における上昇速度の設定を、下降速度設定具92における下降速度の比例倍に設定する連動設定具95を備えてもよい。図4Cは、設定画面M10の変形例である。
【0046】
図4Cに示すように、設定画面M10は、連動設定具95を表示する。連動設定具95は、目盛部95aと、指標部95bとを含んでいる。目盛部95aは、設定下降速度に対する設定上昇速度の倍数(設定倍数)を表示する部分である。設定倍数は、整数値であっても小数点を含んでいてもよいし、1.0倍超であっても、1.0倍未満であってもよい。
【0047】
指標部95bは、目盛部95aに対して移動可能であって、設定倍数を選択する部分である。連動設定具95によれば、設定上昇速度=設定下降速度×設定倍数によって、設定上昇速度を設定することができる。なお、設定画面M10において、連動設定具95によって設定された設定上昇速度を表示することが好ましい。
作業車両1は、車体3と、車体3に設けられ且つ作業装置2を装着可能な昇降装置8と、昇降装置8を昇降させる昇降操作具42gと、昇降操作具42gを操作したときの昇降装置8の上昇速度を設定可能な上昇速度設定具91と、を備えている。これによれば、上昇速度設定具91によって上昇速度を設定することによって、作業装置2を上昇させる速度を変更することができる。
【0048】
作業車両1は、昇降操作具42gを操作したときの昇降装置8の下降速度を設定可能な下降速度設定具92を備えている。これによれば、下降速度設定具92によって下降速度を設定することによって、作業装置2を下降させる速度を変更することができる。即ち、作業装置2を上昇させる上昇速度と、下降させる下降速度とを個別に設定することができる。
【0049】
作業車両1は、運転席10と、運転席10の前方又は側方に設けられ且つ上昇速度設定具91と下降速度設定具92とを並べて支持する操作台93と、を備えている。これによれば、運転席10に着座した運転者が操作台93に設けた上昇速度設定具91及び下降速度設定具92のそれぞれの操作を簡単に行うことができる。
昇降装置8は、車体3に上下に揺動自在に支持されたリフトアーム8aと、リフトアーム8aを揺動させるリフトシリンダ8eと、リフトシリンダ8eを作動させる制御弁34と、制御弁34に作動油を供給する油圧ポンプ65とを備えている。これによれば、リフトシリンダ8e、制御弁34及び油圧ポンプ65によって、作業装置2の上昇速度、下降速度などを簡単に変更することができる。
【0050】
制御弁34は、上昇速度設定具91によって設定された上昇速度及び下降速度設定具92によって設定された下降速度のそれぞれに基づいて、開度速度が変化する。これによれば、制御弁34の開度速度を変更させることができるため、素早く作業装置2の上昇、下降を行うことができる。
上昇速度設定具91における上昇速度の設定と、下降速度設定具92における下降速度の設定とを個別に設定を行うか、共通に行うかを切り換える設定切換具94を備えている。これによれば、上昇速度設定具91と下降速度設定具92のそれぞれを個別に操作することによって上昇速度及び下降速度のそれぞれを設定したり、上昇速度設定具91及び下降速度設定具92のいずれかを操作することによって、上昇速度及び下降速度を同時に同じ値に設定することができる。
【0051】
設定切換具94は、ON/OFFに切換可能なスイッチであり、設定切換具94がOFFである場合は、上昇速度設定具91と下降速度設定具92とは個別に速度を設定とし、設定切換具94がONである場合は、上昇速度設定具91及び下降速度設定具92のいずれかを操作した場合に、操作に応じて上昇速度及び下降速度の両方が設定される。これによれば、設定切換具94のON/OFFの切換によって、上昇速度及び下降速度の設定方法を簡単に切り換えることができる。
【0052】
作業車両1は、上昇速度設定具91における上昇速度の設定を、下降速度設定具92における下降速度の比例倍に設定する連動設定具95を備えている。これによれば、下降速度設定具92によって下降速度を設定するだけで、簡単に下降速度とは異なる上昇速度を設定することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
1 :作業車両(トラクタ)
2 :作業装置
3 :車体
8 :昇降装置
8a :リフトアーム
8e :リフトシリンダ
10 :運転席
34 :制御弁
42g:昇降操作具
65 :油圧ポンプ
91 :上昇速度設定具
92 :下降速度設定具
94 :設定切換具
95 :連動設定具
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5