(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】光学顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G02B 21/06 20060101AFI20220829BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
G02B21/06
G01N21/64 E
(21)【出願番号】P 2019514751
(86)(22)【出願日】2017-09-18
(86)【国際出願番号】 EP2017073455
(87)【国際公開番号】W WO2018050888
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】102016117522.6
(32)【優先日】2016-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】511079735
【氏名又は名称】ライカ マイクロシステムズ シーエムエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leica Microsystems CMS GmbH
【住所又は居所原語表記】Ernst-Leitz-Strasse 17-37, D-35578 Wetzlar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100165940
【氏名又は名称】大谷 令子
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン ファールバッハ
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/109323(WO,A2)
【文献】特開2012-3196(JP,A)
【文献】特開2009-244156(JP,A)
【文献】特開2003-185582(JP,A)
【文献】特表2006-510926(JP,A)
【文献】国際公開第2017/015077(WO,A1)
【文献】Rolf T. Borlinghaus,"Spectral Imaging",[online],Leica Microsystems,2011年12月09日,[retrieved on 2021-09-21]: Retrieved from the Internet: <URL: https://www.leica-microsystems.com/science-lab/spectral-imaging/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - 21/74
G02B 21/00 - 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学顕微鏡(10)であって、前記光学顕微鏡(10)は、
照明光ビーム(16)により形成され光伝搬方向を横切る方向で移動させられる線状焦点(A)によって、試料(30)を照明するように構成されたスキャン照明ユニット(48)と、
移動させられる前記線状焦点(A)によって照明される前記試料(30)のターゲット領域から発せられる検出光(32)により、前記ターゲット領域の静止した第1の線状像(42)を形成するように構成されたデスキャン検出ユニット(50)と、
を含み、
前記スキャン照明ユニット(48)および前記デスキャン検出ユニット(50)は、前記照明光ビーム(16)も前記検出光(32)も受光するように構成された1つの共通の対物レンズ(28)を有する光学顕微鏡(10)において、
前記デスキャン検出ユニット(50)は、分散素子(60)を含み、前記分散素子(60)は、前記検出光(32)をスペクトル分解して、前記第1の線状像(42)に対応し異なるスペクトル組成を有する複数の第2の線状像(42r、42g、42b)を形成するように構成されており、
前記デスキャン検出ユニット(50)は、前記第2の線状像(42r、42g、42b)を捕捉するために少なくとも1つのセンサを含み、
前記デスキャン検出ユニット(50)は、少なくとも1つのアナモフィック光学系(74r、74g、74b)を含み、前記アナモフィック光学系(74r、74g、74b)は、前記センサ(68、70r、70g、70b)の前方に配置されている、
光学顕微鏡(10)。
【請求項2】
前記分散素子(60)の分解方向は、前記第1の線状像(42)の長手延在部分に対し垂直に位置する、
請求項1記載の光学顕微鏡(10)。
【請求項3】
前記デスキャン検出ユニット(50)は、前記第1の線状像(42)の光を前記分散素子(60)に向けて案内するように構成された光学素子(62)を含む、
請求項1または2記載の光学顕微鏡(10)。
【請求項4】
前記デスキャン検出ユニット(50)は、前記第1の線状像(42)の位置に配置されたスリット絞り(58)を有する、
請求項3記載の光学顕微鏡(10)。
【請求項5】
前記少なくとも1つのセンサは、面状検出器(68)として構成されており、前記センサにおいて前記第2の線状像(42r、42g、42b)が互いに平行に形成される、
請求項1から4までのいずれか1項記載の光学顕微鏡(10)。
【請求項6】
前記少なくとも1つのセンサは、複数のセンサであり、
前記複数のセンサは、それぞれ線状検出器(70r、70g、70b)として構成されており、前記複数のセンサにおいて前記第2の線状像(42r、42g、42b)のうちの1つがそれぞれ形成される、
請求項1から5までのいずれか1項記載の光学顕微鏡(10)。
【請求項7】
前記分散素子(60)の分解方向における前記アナモフィック光学系(74r、74g、74b)の光学作用が、分解方向における前記センサ(68、70r、70g、70b)の拡がりに整合されている、
請求項5または6記載の光学顕微鏡(10)。
【請求項8】
前記線状検出器(70r、70g、70b)は、1つの平面内に互いに平行に配置されている、
請求項6記載の光学顕微鏡(10)。
【請求項9】
前記センサ(68、70r、70g、70b)のうちの少なくとも1つは、前記分散素子(60)の分解方向に対応する方向で摺動可能である、
請求項5から8までのいずれか1項記載の光学顕微鏡(10)。
【請求項10】
前記デスキャン検出ユニット(50)は、少なくとも1つの光偏向素子(72r、72g、72b)を含み、前記光偏向素子(72r、72g、72b)は、前記分散素子(60)により分解された検出光(32)の一部分を、前記センサ(68、70r、70g、70b)のうちの1つに向けて偏向し、前記分散素子(60)の分解方向に対応する方向で摺動可能である、
請求項5から9までのいずれか1項記載の光学顕微鏡(10)。
【請求項11】
複数の光偏向素子(72r、72g、72b)が設けられており、前記複数の光偏向素子(72r、72g、72b)は、分解された前記検出光(32)を一方の側から逐次、または互いに反対に位置する2つの側から交互に、前記センサ(68、70r、70g、70b)のうちの1つに向けてそれぞれ偏向する、
請求項10記載の光学顕微鏡(10)。
【請求項12】
前記デスキャン検出ユニット(50)は、少なくとも1つの光阻止部材(64、80、82、84)を含み、前記光阻止部材(64、80、82、84)は、前記照明光ビーム(16)の波長領域内にある前記検出光(32)のスペクトル成分を阻止する、
請求項1から11までのいずれか1項記載の光学顕微鏡(10)。
【請求項13】
前記光阻止部材(80、82、84)は、前記分散素子(60)の後方に配置されており、前記分散素子(60)の分解方向で摺動可能である、
請求項12記載の光学顕微鏡(10)。
【請求項14】
前記スキャン照明ユニット(48)および前記デスキャン検出ユニット(50)は、1つの共通の光偏向素子(20)を有しており、前記光偏向素子(20)は、前記照明光ビーム(16)をスキャンするために、かつ、前記検出光(32)をデスキャンするために、少なくとも1つの軸(y)を中心に旋回可能である、
請求項13記載の光学顕微鏡(10)。
【請求項15】
試料を光学顕微鏡により結像する方法であって、
スキャン照明ユニット(48)を用いて、照明光ビーム(16)により形成され光伝搬方向に対し垂直に移動させられる線状焦点(A)によって、前記試料を照明し、
デスキャン検出ユニット(50)を用いて、移動させられる前記線状焦点(A)によって照明される前記試料(30)のターゲット領域から発せられる検出光(32)により、前記ターゲット領域の静止した第1の線状像(42)を形成し、
前記スキャン照明ユニット(48)および前記デスキャン検出ユニット(50)のために、1つの共通の対物レンズ(28)を使用し、前記対物レンズ(28)を通して、前記照明光ビーム(16)も前記検出光(32)も受光する方法において、
前記デスキャン検出ユニット(50)内に含まれる分散素子(60)を用いて、前記検出光(32)をスペクトル分解して、前記第1の線状像(42)に対応し異なるスペクトル組成を有する複数の第2の線状像(42r、42g、42b)を形成し、
前記デスキャン検出ユニット(50)は、前記第2の線状像(42r、42g、42b)を捕捉するために少なくとも1つのセンサを含み、
前記デスキャン検出ユニット(50)は、少なくとも1つのアナモフィック光学系(74r、74g、74b)を含み、前記アナモフィック光学系(74r、74g、74b)は、前記センサ(68、70r、70g、70b)の前方に配置されている、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキャン照明ユニットとデスキャン検出ユニットとを含む光学顕微鏡に関する。スキャン照明ユニットは、照明光ビームにより形成され光伝搬方向を横切る方向で移動させられる線状焦点によって、試料を照明するように構成されており、デスキャン検出ユニットは、移動させられる線状焦点によって照明される試料のターゲット領域から発せられる検出光により、ターゲット領域の静止した第1の線状像を形成するように構成されており、この場合、スキャン照明ユニットおよびデスキャン検出ユニットは、照明光ビームも検出光も受光するように構成された1つの共通の対物レンズを有する。
【背景技術】
【0002】
特に蛍光顕微鏡法の場合には最近、面状または線状に拡げられた光分布によって試料が照明される顕微鏡法が適用されるようになってきている。その例として挙げられるのは、SPIM(Single Plane Illumination Microscopy)、OPM(Oblique Plane Microscopy)およびSCAPE(Swept Confocally-Aligned Planar Excitation)の名称で知られる顕微鏡法である。つまり例えばSPIM顕微鏡の場合、照明光束が例えばシリンダレンズを用いることで第1の方向のみで集束され、したがって照明光束はこの第1の方向に対し垂直に拡げられており、これによって試料は、その試料内で1つの試料平面だけを照らすライトシートまたはライトプレーンによって照明される。SPIM顕微鏡は、照明および検出のために試料側に2つの別個の対物レンズを有しており、それらの対物レンズの光軸は互いに垂直に延びている。結像すべき試料平面は、検出対物レンズの光軸に対し垂直に位置している。この試料平面の照明はライトシートによって行われ、照明対物レンズはこのライトシートを、検出対物レンズの光軸に対し垂直に試料中に入射させる。
【0003】
これに対しSCAPE法の場合、ただ1つの試料側の対物レンズが、照明のためにも検出のためにも用いられる。照明は、対物レンズの光軸に対し斜めに位置するライトシートによって行われる。ライトシートのこのような傾斜姿勢ゆえにSCAPE顕微鏡は通常、対物レンズと共働する正立光学系を有しており、この光学系は互いに傾斜姿勢に置かれた部分光学系を有しており、それらの部分光学系は中間結像を介して、傾斜姿勢に置かれたライトシートにより照明される試料領域が正しい姿勢で検出器に結像されるように働く。
【0004】
上述のSPIM法、OPM法およびSCAPE法の詳しい説明については例えば、以下の刊行物すなわちKumar, S.等著のHigh-speed 2D and 3D fluorescence microscopy of cardiac myocytes. Opt. Express 19, 13839 (2011)、Dunsby, C著のOptically sectioned imaging by oblique plane microscopy, Opt. Express 16, 20306-20316 (2008)、および Bouchard, M.B.等著のSwept confocally-aligned planar excitation (SCAPE) microscopy for high speed Volumetric imaging of behaving organisms, Nat. Photonics 9, 113-119 (2015)、ならびに以下の特許文献すなわち米国特許第8582203号明細書(US 8582203 B2)および米国特許第8619237号明細書(US 8619237 B2)を参照されたい。
【0005】
これと類似しているが正立光学系がなくても動作する顕微鏡法は、いわゆるHILO法(Highly Inclined And Laminated Optical Sheet)である。これについては、Tokunaga, M., Imamoto, N.およびSakata-Sogawa, K.著のHighly inclined thin Illumination enables clear single-molecule imaging in cells., Nat. Methods 5, 159-161 (2008)を参照されたい。
【0006】
独国特許発明第102011000835号明細書(DE 10 2011 000 835 B4)の場合、試料の傾斜照明のために設けられたライトシートが、照明対物レンズの後方焦点平面に対し共役の平面内に位置するスキャンユニットにより形成される。検出すべき蛍光は、対物レンズとスキャンユニットとの間において取り出される。
【0007】
さらに従来技術として、特に以下のような顕微鏡構造を示す国際公開第2015/109323号(WO 2015/109323 A2)を参照されたい。すなわちこの顕微鏡構造によれば、検出すべき蛍光を分離するためのダイクロイックミラーが、光の方向でスキャンミラーの後方に配置されており、これによって蛍光がスキャンミラーによって直接、デスキャンされる。この構造は、大部分は点走査型共焦点顕微鏡の構造に相応する。ただし上記文献の構造がこのような点走査型共焦点顕微鏡の構造とは異なる点は一方では、照明ビームが弱く集束され傾斜して試料に向かって配向される、ということである。他方、傾斜し対物レンズの焦点平面に対向して延在している線状焦点によって集められた蛍光は、正立光学系によって正立させられる。このようにすれば、像情報を照明された線に沿って線状センサを用いて取得することができる。スキャンミラーは、照明ビームによる試料のスキャンのためにも、検出される蛍光のデスキャンのためにも用いられるので、静止型の検出器を適用することができる。
【0008】
ライトシート顕微鏡法において課される1つの特別な要求は、種々の波長領域において複数の像を同時に撮像することである。照明および検出のために別個の対物レンズを設けるライトシート顕微鏡に関して、Jahr等著のHyperspectral light sheet microscopy; Nat. Commun. 6, 7990 (2015)において、この要求について1つの解決手段が提案された。ただしこの場合、試料全体にわたり照明ビームをスキャンするために用いられる照明ビーム路中の第1のスキャンミラーに加えて、構造的に別個の検出ビーム路中にさらなるスキャンミラーが必要とされ、このミラーは、1つの静止線上に蛍光が結像されて、最終的にスペクトル分解できるようにする目的で、照明された領域から発せられる蛍光をデスキャンするために必要である。これら両方の別個のスキャンミラーを同期合わせさせなければならず、このことは技術的に複雑であり、障害を受けやすい。
【0009】
照明および検出のために試料に向けられたただ1つの対物レンズが設けられているOPMおよびSCAPEの用途についても、種々の波長領域において同時に撮像するための解決手段が存在する。つまり国際公開第2015/109323号(WO 2015/109323 A2)および複数の色素を結像するためのDunsbyによる上述の刊行物において提案されるのは、試料から発せられる検出光を、ダイクロイックビームスプリッタを介して分解して、それぞれ異なる検出器に向けて案内することである。しかしながらこの提案はそもそも、2つの色および決められた波長領域でしか役に立たない。なぜならば1つには、波長領域を変更するにはダイクロイックビームスプリッタおよび必要に応じて設けられるフィルタを交換しなければならないので、フレキシビリティが制約されているからである。特にダイクロイックビームスプリッタの交換は、その配向が検出器における像のポジションに影響を及ぼすことから厄介である。この場合、同時に捕捉可能な波長領域の個数は、ダイクロイックビームスプリッタの個数もしくは検出器の個数によって制限されている。
【0010】
しかもここで留意されたいのは、従来適用されていたダイクロイックおよびフィルタの最小帯域幅は目下のところ約20nm付近にある、ということであり、これは実質的に、一般的なダイオードおよび固体レーザの発光スペクトル幅を超えている。特にフィルタの幅は、特別な用途のためにはすでに大きすぎる可能性がある。例えば2つの蛍光体を用いて撮像が行われるときに問題となるのは、これらの蛍光体の一方のための励起光源が他方の蛍光体の発光範囲にある場合である。このケースでは、20nmの帯域幅であるとするならば、ダイクロイックを用いた蛍光の分離によって、もしくは阻止フィルタによる励起光のブロックによって、20nmの波長領域が検出光からカットされ、これによって測定可能な信号が著しく低減する。この問題は、Jahr等著の上述の刊行物に記載されているように、面状検出器を用いた検出についても生じる。その場合にも励起光を、これが検出器に当射しないようにする目的で、検出ビーム路においてブロックしなければならない。そのためには、発光スペクトルの広い範囲もブロックするマルチバンド阻止フィルタを、製造に左右される最小幅で適用しなければならない。
【0011】
つまり従来技術において提案されている解決手段の場合には、ダイクロイックもしくはバンドパスフィルタの最小帯域幅によって、スペクトル分解能が大きく制限されている。しかも、検出されるスペクトル領域の整合のためには、上述の光学部品の機械的な交換を行わなければならず、このことは時間がかかるし、多数の部品を必要とする。試料に含まれる種々の色素の発光スペクトルがオーバラップしている場合には、測定される信号に対する種々の色素の関与を分離して適正に割り当てるために、スペクトル分解が必要とされる。このような分解に対応するデコンボリューションは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、照明および検出のために1つの共通の対物レンズが用いられる光学顕微鏡による結像において、比較的僅かな技術的煩雑さで、複数の試料像を好ましくはフレキシブルに設定可能な種々の波長領域において同時に撮像できるようにした、光学顕微鏡および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によればこの課題は、独立請求項の構成要件によって解決される。従属請求項ならびに以下の説明には、有利な発展形態が記載されている。
【0014】
本発明による光学顕微鏡は、スキャン照明ユニットとデスキャン検出ユニットとを含み、スキャン照明ユニットは、照明光ビームにより形成され光伝搬方向を横切る方向で移動させられる線状焦点によって、試料を照明するように構成されており、デスキャン検出ユニットは、移動させられる線状焦点によって照明される試料のターゲット領域から発せられる検出光により、ターゲット領域の静止した第1の線状像を形成するように構成されており、この場合、スキャン照明ユニットおよびデスキャン検出ユニットは、照明光ビームも検出光も受光するように構成された1つの共通の対物レンズを有する。デスキャン検出ユニットは分散素子を含み、この分散素子は、検出光をスペクトル分解して、第1の線状像に対応し異なるスペクトル組成を有する複数の第2の線状像を形成する。
【0015】
光学顕微鏡は、照明および検出のために試料に向けられたただ1つの対物レンズが用いられる用途において特に、利点をもたらすように適用することができ、これは例えばSCAPEの用途の場合に該当する。本発明によれば、そこにおいてハイパースペクトル撮像を行うことができ、すなわち密に並置された色チャネルすなわち波長領域において多数の像を同時に撮像することができる。その際にこれらの波長領域を、可視光スペクトルを超えて赤外線領域および/または紫外線領域まで及ぶものとすることができる。
【0016】
本発明による線状焦点とは、試料において照明光が加えられる直線状のターゲット領域を規定する線状の照明光分布のことであると理解されたい。したがってここでは、検出ユニットが線状焦点により照明されるターゲット領域から形成する像のことを、線状像と称する。自明のとおり、ここで「線」という概念は、長手延在部分だけにより特徴づけられた、つまり長手延在部分に対し垂直な拡がりがまったくない一次元の物体として、数学的な意味で捉えられるべきものではない。そうではなく「線」という概念によって表そうとしているのは、ここで言及している照明光分布が、さらにこれに応じてそれらの照明光分布から結果として生じる像が、長手方向におけるそれらの拡がりが横断方向における拡がりを著しく上回っているという意味で、縦長であるまたは長く延在している、ということである。よって、線状焦点および対応する線状像を、特に点状または面状の結像と明確に区別するために、縞状と捉えることができる。
【0017】
本発明によるスキャン照明ユニットは、このユニットが光伝搬方向を横切る方向で、好ましくは光伝搬方向に対し垂直に線状焦点を移動させ、そのようにして試料を線状焦点によってスキャンすなわち走査できるように構成されている。これに応じて検出ユニットは、いわゆるデスキャンユニットとして構成されており、すなわち、スキャンを行う線状焦点による照明の結果として得られた検出光をデスキャンすることができるユニットとして構成されている。つまりこのことは、デスキャン検出ユニットが検出光に対し以下のように作用を及ぼすことを意味しており、すなわち、スキャン照明ユニットにより照明光ビームに伝えられるスキャン運動が、検出光に関しては反作用を及ぼすようにして相殺され、その結果、スキャンを行う線状焦点により照明されるターゲット領域を静止した線状像として結像できるように、作用を及ぼすことを意味する。
【0018】
この目的で、スキャン照明ユニットおよびデスキャン検出ユニットは、好ましくは1つの共通の光偏向素子を有しており、この光偏向素子は、照明光ビームをスキャンするために、かつ検出光をデスキャンするために、少なくとも1つの軸を中心に、好ましくは互いに垂直に位置する2つの軸を中心に旋回可能である。後者の構成の場合、偏向素子は2Dスキャンミラー例えばガルバノミラーまたはマイクロメカニカルミラー(MEMS)であり、このミラーは対物レンズの後方焦点面に対し共役の平面内に配置されている。上述の2つの軸のうち第1の軸を中心に偏向素子を旋回させることにより、偏向素子のところで反射させられた照明光ビームつまりは線状焦点がスキャン運動を実施し、この運動の結果、試料においてライトシートが形成されることになる。次いで、スキャンを行う線状焦点により形成されたライトシート全体をいわば試料を通り抜けるように摺動させることができ、その際に光偏向素子が上述の2つの軸のうち他方の軸を中心に傾けられる。照明光ビームによる試料のスキャンおよび試料から放出された検出光のデスキャンは、上述の実施形態の場合には慣用の共焦点顕微鏡のようにして行われ、ただし相違点として、共焦点顕微鏡の場合には試料が点状に照明されて検出されるのに対し、本発明によれば線状の照明および検出が行われる。
【0019】
移動させられる線状焦点によって照明されるターゲット領域を、本発明のように静止した線状像の形態で結像することによって、この線状像に対し垂直に位置する方向を、検出光のスペクトル分解のための自由度として使用することができる。この目的で本発明によるデスキャン検出ユニットは分散素子を有しており、この分散素子は検出光を種々のスペクトル成分に分解し、次いでそれらのスペクトル成分が第2の複数の線状像を形成するために使用され、それら第2の線状像は、それらに含まれているスペクトル情報を除けば、第1の線状像に相応する。このようにすれば、目下着目しているターゲット領域を、同時に複数の色チャネルにおいて撮像することができる。
【0020】
分散素子は例えば、検出光のビーム路中に配置されたプリズムまたは回折格子である。ただし本発明は、かかる構成に限定されるものではない。したがって例えば、分散素子を空間光変調器略してSLM(Spatial Light Modulator)として構成することも可能であり、これは例えば、一方の側が複屈折を示し他方の側が強い分散を示す、シリコン基板上の液晶(LCoS, Liquid Crystal on Silicon)をベースとしたものである。かかる光変調器は、液晶の配向を点ごとに制御することによって、偏光された検出光の位相を位置に依存して遅延させることができる。これによって、種々の分散を実現する目的で、屈折を行うそれらの両方のエッジ間において、それぞれ異なる格子周期を有する回折格子またはそれぞれ異なる角度を有するプリズムを、シミュレートすることができる。このようにすれば、撮像速度および感度のようにそれぞれ着目すべき要求に対して、スペクトル分解能を整合させることができる。
【0021】
好ましくは分散素子の分解方向は、第1の線状像の長手延在部分に対し垂直に位置している。この場合、上述の分解方向は、分散素子が検出光を空間的に扇状に拡開する際の方向のことを表す。
【0022】
デスキャン検出ユニットは好ましくは、第1の線状像の光を分散素子に向けて案内するように構成された光学素子例えばレンズを含む。好ましくは光がコリメートされる平面内に分散素子が位置することから、この光学素子は好ましくは光をコリメートするように働く。さらに分散素子は好ましくは、所望の用途のために光の十分なスペクトル分解能を得ることができるように、広い面積にわたり照らされる。
【0023】
1つの好ましい構成によれば、デスキャン検出ユニットは、第1の線状像の位置に配置されたスリット絞りを有しており、その際にこのスリット絞りは好ましくは、第1の線状像の長手延在部分に対し平行に配向されている。スリット絞りの幅と、分散素子の波長に応じた分解の強さと、が合わさって、実効スペクトル分解能が予め定められる。
【0024】
1つの特別な構成によれば、デスキャン検出ユニットは、第2の線状像を捕捉するために、面状検出器として構成された少なくとも1つのセンサを含み、このセンサにおいて第2の線状像が互いに平行に形成される。上述の記載において説明したように、分散素子として空間光変調器が適用されるならば、または例えばスライダなどのように、複数の分散素子を交換するための機構内にそれら複数の分散素子を配置することによって、分散素子が交換可能であるならば、検出光のスペクトル分解を面状検出器の寸法にフレキシブルに整合させることができる。例えばこのことを、必要に応じて最大限に可能なスペクトル分解能を得るために利用することができる。ただしかかる整合を、面状検出器における検出光の不必要に大きな扇状の拡開を避けるように行うこともでき、例えばその目的は、読み出すべき検出器領域を狭くすることで読み出し速度を高めるためであり、または面状検出器により捕捉される信号の強度を高めて信号対雑音比を改善するためである。
【0025】
1つの択一的な実施形態によれば、デスキャン検出ユニットは、第2の線状像を捕捉するために、それぞれ線状検出器として構成された複数のセンサを含み、それら複数のセンサにおいて複数の第2の線状像のうちの1つがそれぞれ形成される。このケースでは第2の線状像各々に、1つの固有の線状検出器が割り当てられる。この場合、線状検出器の空間的配置は、分散素子によりもたらされる検出光のスペクトル分解に対応している。
【0026】
しかしながら本発明は、分散素子により空間的に互いに分離される線状像を捕捉するために、もっぱら面状検出器またはもっぱら線状検出器のいずれかを用いることに限定されるものではない。したがって、面状検出器と線状検出器とから成る組み合わせも同様に考えられる。
【0027】
1つの特に好ましい構成によれば、デスキャン検出ユニットは、(例えばシリンダレンズなどのような)少なくとも1つのアナモフィック光学系を含み、このアナモフィック光学系は、複数のセンサのうちの1つの前方に配置されており、分散素子の分解方向におけるこのアナモフィック光学系の光学的作用が、分解方向におけるセンサの拡がりに整合されている。かかるアナモフィック光学系は、線状検出器として構成されたセンサと組み合わせたときに特に有利である。このケースではアナモフィック光学系は例えば、この光学系の倍率が線状検出器の長手延在部分の方向では1と等しくなるように構成されており、したがってこの光学系はこの方向においてニュートラルに作用するのに対し、この光学系は分解方向では縮小作用を有する。このようにすることによって、線状検出器に割り当てられた選択されたスペクトル帯域中に含まれるスペクトル情報が、この線状検出器に合わせて圧縮される。つまり換言すれば、かかるアナモフィック光学系を用いることで、種々の色もしくは波長の線状像を、線状検出器などのような1つの共通のセンサ上に結像することができ、かかるセンサの寸法に合わせて結像の寸法を最適化することができる。この場合、分散素子は検出光をスペクトル分解し、その際に1つのマルチスペクトルの(カラーの)線状像から複数の線状像を形成し、ここで線状像の長手方向に対し垂直な線状像の位置は個々の線状像の色/波長に依存する。アナモフィック光学系を用いることで、線状像のこの集合の一部を1つの線状センサ上に結像させることができ、その際にスペクトル分解の軸に沿って圧縮される一方、上述の記載ですでに説明したように像の軸に沿って1対1の結像が行われる。
【0028】
1つの特別な構成によれば、複数の線状検出器が1つの平面内で互いに平行に配置されている。しかしながら所望の検出器配置を得る目的で、分散素子により扇状に拡開される検出光のスペクトル成分を相応に偏向させることによって、複数の線状検出器を空間内に任意に分布させることもできる。
【0029】
好ましくは、上述の複数のセンサのうちの少なくとも1つは、分散素子の分解方向に対応する方向で摺動可能である。これにより特に簡単な手法で、個々のセンサにより捕捉されるべき検出光のスペクトル成分を、そのポジションを介して設定することができる。
【0030】
1つの特に好ましい構成によれば、デスキャン検出ユニットは、分散素子により分解された検出光の一部分を複数のセンサのうちの1つに向けて偏向する少なくとも1つの光偏向素子を含む。好ましくはこの光偏向素子は、分散素子の分解方向に対応する方向で摺動可能である。
【0031】
好ましくは、複数の光偏向素子が設けられており、これら複数の光偏向素子は、分解された検出光を一方の側から逐次、または互いに反対に位置する2つの側から交互に、複数のセンサのうちの1つに向けてそれぞれ偏向する。分散素子により扇状に拡開された検出光は、この実施形態の場合には分散素子によりに扇状に拡開された検出光の一方の周縁部から、もしくは択一的に両方の周縁部から、別個のビーム路へと取り出され、そこにおいて個々のセンサへ導かれる。
【0032】
デスキャン検出ユニットは好ましくは、照明光ビームの波長領域内に位置する検出光のスペクトル成分を阻止する少なくとも1つの光阻止部材を含む。蛍光顕微鏡の用途では、照明光ビームが励起光を成し、検出光が励起光により引き起こされた蛍光放射を成すが、上述の光阻止部材は特にこのような用途において、試料のところで反射させられた励起光を捕捉すべき蛍光放射から分離する機能を有する。この場合、反射させられた励起光は通常、測定すべき蛍光放射よりも著しく高い強度を有する。励起光が1つもしくは複数の検出器に当射するのを回避する目的で、光阻止部材は励起光を検出光からフィルタリングして除去する。光阻止部材は例えばバンドパスフィルタとして構成されており、これは検出ビーム路において分散素子の前方に配置されている。
【0033】
1つの特に好ましい構成によれば、光阻止部材を分散素子の後方にも配置することができ、これによって、分散素子によりすでに検出光がその種々のスペクトル成分へと扇状に拡開されている検出ビーム路の領域に配置することができる。このケースでは光阻止部材は好ましくは、分散素子の分解方向で摺動可能である。これによって、光阻止部材により検出光からフィルタリングして除去すべき波長領域を、特に簡単な手法でフレキシブルに設定することができる。
【0034】
光阻止部材は例えば、当射した検出光を吸収または反射させる1つまたは複数の不透明領域を有する薄い透明な基板から形成されている。この場合、反射は理想的には、検出光のビーム路には戻らず、ライトトラップの方向で行われる。
【0035】
1つの特に好ましい構成によれば、スペクトル的に扇状に拡開された検出光において互いに相前後して配置された、上述の形式の複数の光阻止部材を含む装置が設けられている。これらの光阻止部材各々はやはり、光を吸収または反射する1つまたは複数の領域を透明基板上に有する。基板を分散素子の分解方向で互いに摺動させることによって、検出光からフィルタリングされて除去される多数の波長領域を設定することができる。分解方向で互いに摺動可能な光阻止部材の個数を、任意に選定することができる。典型的には、励起波長領域ごとに1つの固有の光阻止部材が設けられる。
【0036】
さらなる可能な構成には、少なくとも1つの光阻止部材および/または光偏向素子が含まれており、これには、分散素子の分解方向に対し部分的に垂直に切り替え可能なミラー素子または反射器から成る装置(特にマイクロミラーアクチュエータ例えばDMD(Digital Mirror Devices)など、ただしLCoS変調器も)が含まれている。これらは少なくとも2つの位置を有しており、この場合、好ましくは少なくとも一方の位置において、当射した検出光が少なくとも1つの検出器の方向に反射させられる。少なくとも他方の位置において、当射した検出光はミラー素子または反射器によって、他方の方向(例えばビームトラップまたはさらなる検出器の方向)に反射させられ、または阻止され、または択一的に透過もさせられる。したがってかかる装置によれば、選択可能な波長領域の検出光を所期のように検出することができる。択一的にまたはこれに加えて、当然ながらこの構成の変形も考えられ、それによればこの装置を透過させられた検出光が1つの検出器に案内される。かかる変形は、装置により反射させられた検出光を検出するための可能な構成を必ずしも含んでいなくてもよい。
【0037】
次に、図面を参照しながら本発明について詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】SCAPE顕微鏡をy-z断面で示す図である。
【
図2】
図1によるSCAPE顕微鏡をx-z断面で示す図である。
【
図3】SCAPE顕微鏡の1つの変形をy-z断面で示す図である。
【
図4】SCAPE顕微鏡の1つの変形をx-z断面で示す図である。
【
図5】SCAPE顕微鏡のさらなる変形をy-z断面で示す図である。
【
図6】SCAPE顕微鏡のさらなる変形をx-z断面で示す図である。
【
図7】本発明によるハイパースペクトル検出器モジュールを示す図であって、このモジュールは
図1~
図6によるSCAPE顕微鏡の検出ユニットの一部分であり、この実施例は面状検出器を有することを示す図である。
【
図8】複数の線状検出器を備えたハイパースペクトル検出器モジュールのさらなる実施例を示す図である。
【
図9】複数の線状検出器を備えたハイパースペクトル検出器モジュールのさらなる実施例を示す図である。
【
図10】複数の線状検出器を備えたハイパースペクトル検出器モジュールのさらなる実施例を示す図である。
【
図11】ハイパースペクトル検出器モジュールのさらなる実施例を示す図であって、バンドパスフィルタの代わりに互いに摺動可能な複数の光阻止部材が設けられていることを示す図である。
【
図12】ハイパースペクトル検出器モジュールを構築するための複数の機能ユニットのうち1つの機能ユニットを示す図であって、この機能ユニットはアナモフィック光学系および線状検出器または面状検出器を有することを示す図である。
【
図13】ハイパースペクトル検出器モジュールを構築するための複数の機能ユニットのうち1つの機能ユニットを示す図であって、この機能ユニットはライトトラップを有することを示す図である。
【
図14】
図12による機能ユニットをアナモフィック光学系の動作がわかるように示す図である。
【
図15】アナモフィック光学系を備えていない機能ユニットを比較例として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1および
図2に基づき、最初にSCAPE顕微鏡10の構造について説明し、あとで本発明による実施例を説明するにあたり、この構造を参照する。
図1および
図2ならびに他のすべての図面は、軸x、yおよびzを有する直交座標系にそれぞれ関連づけられる。
【0040】
図1および
図2に示されているように、SCAPE顕微鏡10は、照明光ビーム16を送出する光源14を含む。照明光ビーム16はミラー18に当射し、ミラー18は照明光ビーム16を2Dスキャンミラー20の方向に反射させる。例えばガルバノミラーまたはMEMSミラーとして構成されたスキャンミラー20を、(
図1において図平面に対し垂直な)x軸を中心に、かつ(
図2において図平面に対し垂直な)y軸を中心に、図面には示されていない駆動装置を用いて傾けることができる。スキャンミラー20のところで反射させられた照明光ビーム16は、スキャンレンズ24、チューブレンズ26および対物レンズ28から成る光学系22に到達する。スキャンミラー20は、対物レンズ28の後方焦点面に対し共役の平面内に位置している。スキャンミラー20と光学系22とによって、テレセントリック系が形成される。
【0041】
図1に示されているように、照明光ビーム16は、このビームがy軸に沿ってずらされてコリメートされたビームとして対物レンズ28に入射するように、スキャンミラー20に当射する。したがって照明光ビーム16は、対物レンズ28の入射瞳の偏心部分領域だけしか照らさず、これによって照明光ビーム16は、試料30内部で対物レンズ28の光軸に対し傾けられて伝搬する。対物レンズ28は、照明光ビーム16を弱く集束させるだけなので、試料30において長く伸びて傾斜姿勢に置かれた照明光分布が形成され、これを以下では線状焦点と称する。線状焦点は、
図1ではごく概略的にしか描かれていない線状もしくは縞状のターゲット領域Aにおいて試料30を照明し、そこにおいて試料30を励起して蛍光放射を放出させる。図面を簡単にするため、試料30は
図1にしか示されていない。
【0042】
y軸を中心としたスキャンミラー20の傾斜により、試料30において線状焦点がx軸の方向に沿って平行移動するようになり、その結果、線状焦点は試料をこの方向でスキャンすなわち走査するようになる。光伝搬方向を横切る方向で、すなわち照明軸を横切る方向で、線状焦点がこのようにスキャン運動することによって、いわばライトシートが構築される。スキャンミラー20を、x軸を中心に傾けることで、このライトシートをy軸の方向で試料30を通して移動させることができる。
【0043】
試料30において線状焦点により引き起こされた蛍光放射は、以下では検出光32と称するが、これは再び対物レンズ28に到達する。よって、対物レンズ28は、照明対物レンズとしても検出対物レンズとしても機能する。検出光32は、チューブレンズ26およびスキャンレンズ24を通り抜けた後、スキャンミラー20に当射し、スキャンミラー20は検出光32を、この光がミラー18の前を通って正立光学系34に到達するように反射させる。正立光学系34は、第2の対物レンズ36、第3の対物レンズ38およびチューブレンズ40を含む。スキャンミラー20に戻されることによって、検出光32は共焦点顕微鏡の場合のようにデスキャンされる。このようにすれば、照明されたターゲット領域Aは、正立光学系34における中間結像の過程で、静止した線状の中間像A’として結像される。中間像A’は、
図1および
図2において参照符号44で表された光学系22の焦点平面に光学的に共役の平面43に対し、傾斜姿勢に置かれている。見やすくするために具体例として、ターゲット領域Aに沿ったただ1つの点に対する検出ビーム路だけを書き込んだ。ただし当然ながら、ターゲット領域Aに沿ったすべての点が、センサ42上で並置されて結像される。
【0044】
図1に示されているように正立光学系34は、対物レンズ36の形態の第1の部分光学系と、この光学系に対し傾斜姿勢に置かれた対物レンズ38およびチューブレンズ40から成る第2の部分光学系と、を含む。互いに傾斜姿勢に置かれたこれら両方の部分光学系36もしくは38、40によって、中間像A’が正しい姿勢で線状像42に変換されるようになる。
【0045】
従来のSCAPE顕微鏡であるならば、このようにして形成された線状像42が線状検出器にそのまま結像されることになる。これに対し本発明によれば、線状像42は、
図1および
図2に描かれたハイパースペクトル検出器モジュールにおいて検出光32がスペクトル分解されることによって、それぞれ異なるスペクトル組成を有する複数の線状像に分解されるようにしている。前述の検出器モジュールについては、あとでさらに詳しく説明する。
【0046】
上述の記載において言及したように、対物レンズ28は、光源14から放出された照明光ビーム16も、試料30から発せられた検出光32も受光する。したがって対物レンズ28は、対物レンズ28のほか部品14、18、20および22を含む、
図1および
図2に共通して参照符号48で表された照明ユニットの一部分であり、かつ対物レンズ28のほか部品22、20、36および34を含む、
図1および
図2に共通して参照符号50で表された検出ユニットの一部分である。よって、2Dスキャンミラー20も、照明ユニット48の一部分でありかつ検出ユニット50の一部分である。上述の記載において説明したように、2Dスキャンミラー20は一方では、試料30を線状焦点Aによってスキャンする機能を有しており、他方では、移動させられた線状焦点Aを静止した線状像42に変換する目的で、試料30から発せられた検出光32をデスキャンする機能を有している。このため、照明ユニット48をスキャンユニットとして捉えることができるし、検出ユニット50をデスキャンユニットとして捉えることができる。
【0047】
なお、ここで述べておくと、
図2では検出ビーム路はごく簡略化して描かれている。実際には、スキャンミラー20と対物レンズ36との間に位置する検出ビーム路の部分は、
図2の図平面に対し垂直に延びている一方、線状検出器42の方向でこの部分に続く検出ビーム路の部分は、
図2の図平面から斜めに出るように延びている。
【0048】
図3および
図4には、y-z断面もしくはx-z断面において1つの変形実施形態が描かれており、この変形実施形態が
図1および
図2による実施形態と異なるのは、ミラー18の代わりにダイクロイックビームスプリッタ52が設けられている点だけである。このダイクロイックビームスプリッタ52は、照明光ビーム16のビーム路中にも検出光32のビーム路中にも配置されている。ダイクロイックビームスプリッタ52は、これが照明光ビーム16を反射させ、かつ検出光32を透過させるように構成されている。よって、ダイクロイックビームスプリッタ52は、照明ユニット48の一部分でもあるし、検出ユニット50の一部分でもある。
【0049】
図5および
図6には、y-z断面もしくはx-z断面においてSCAPE顕微鏡10のさらなる変形が示されている。この実施形態によれば、光源14から放出された照明光ビーム16が、正立光学系34に含まれる対物レンズ36を介して、照明ビーム路に入射される。この目的で光源14の前にレンズ54が配置されており、このレンズは照明光ビーム16を、対物レンズ36の入射瞳の偏心部分領域に向けて配向する。
【0050】
以下では、線状像42から、この線状像42に対応しそれぞれ異なるスペクトル組成を有する複数の線状像を生成する目的で、
図1~
図6によるSCAPE顕微鏡10の検出ユニット50において、検出光32がどのようにしてスペクトル分解されるのかについて説明する。スペクトル分解の目的で検出ユニット50は、
図7に1つの実施例として描かれているハイパースペクトル検出器モジュール56を有する。
【0051】
図7による検出器モジュール56は、線状像42の位置に設けられたスリット絞り58を含む。
図7に示されている図面によれば、線状像42の長手延在部分の方向は図平面に対し垂直に位置する。したがってスリット絞り58は、ハイパースペクトル検出器モジュール56内部で線状像42を光学的に結像させるために、シャープな境界を規定するフィールド絞りとして作用する。
【0052】
検出器モジュール56は、
図7ではごく概略的に破線で描かれている分散素子60を含む。分散素子60は例えば、回折格子、プリズム、または特に好ましい実施形態では空間光変調器である。線状像42を分散素子60に結像させるため、検出器モジュール56はさらに、検出ビーム路においてスリット絞り58の後方に配置されたレンズ62を含む。レンズ62と分散素子60との間にはバンドパスフィルタ64が設けられており、このフィルタは、照明光ビーム16の波長領域における光を阻止するように構成されている。このようにしてバンドパスフィルタ64によれば、照明光ビーム16として表され試料30のところで反射させられた励起光が検出器モジュール56において捕捉されるのが回避される。
【0053】
分散素子60は、バンドパスフィルタ64により分離された検出光32のスペクトル分解を行う。この場合、分散素子60の分解方向は、線状像42の長手延在部分に対し垂直に位置しており、つまり
図7の場合には図平面に位置している。
図7に示されている実施形態の場合には単に具体例として、分散素子60が検出光32を赤色スペクトル成分32r、緑色スペクトル成分32gおよび青色スペクトル成分32bに分解するものとする。これらのスペクトル成分32r、32gおよび32bは、さらなるレンズ66を介して面状検出器68に向かって配向される。
【0054】
つまり
図7による実施例によれば、線状像42から面状検出器68に向かって、それぞれ異なるスペクトル組成を有する3つの線状像が生成され、つまり赤色線状像42r、緑色線状像42gおよび青色線状像42bが生成される。線状像42r、42gおよび42bは、面状検出器68において分散素子60の分解方向で互いに平行にずらされている。
【0055】
上述の記載ですでに言及したように、空間光変調器の形態で分散素子60を形成することは、1つの極めて好ましい実施形態を成すものである。つまりこの実施形態によれば、分散素子60により行われる分解を必要に応じてフレキシブルに設定することができる。例えば特に良好なスペクトル分解能が望まれるならば、分散素子60が面状センサ68全体を活用して検出光32をできるかぎり広く扇状に拡開するように、分散素子60が設定される。これに対して、面状検出器68の特に高い読み取り速度が望まれるならば、分散素子60により行われる扇状の拡開つまりは面状検出器68において読み取られるべき領域を相応に小さくすることができる。このようにすれば、面状検出器68の信号対雑音比を改善することもできる。
【0056】
図8には、検出器モジュール56の1つの変形が示されている。この変形によれば、
図7による面状センサ68の代わりに、3つの線状検出器70r、70gおよび70bが設けられており、これらの検出器において赤色線状像42r、緑色線状像42gもしくは青色線状像42bが生成される。図示されている実施例の場合、線状検出器70r、70gおよび70bは、それらの光感応センサ領域が1つの共通の平面内に位置するように配置されている。線状像42r、42gおよび42bが1つの共通の平面内で形成される
図8による装置は、ここまでは
図7に示した実施形態に相応している。しかしながらこの実施形態に対し、線状検出器70r、70gおよび70bが分散素子60の分解方向で互いに摺動可能であるならば、いっそうフレキシビリティが高まるという利点が得られる。例えば特に高いスペクトル分解能が望まれるならば、線状検出器70r、70gおよび70bがそれ相応に大きな間隔で互いに配置される。これに対し、個々の線状検出器70r、70gおよび70bによって、それぞれ特に強いセンサ信号を達成するのが望ましい場合には、分散素子60により行われる検出光32の拡開ひいては分解方向における線状検出器70r、70gおよび70bの間隔が、それ相応に小さくなるように選定される。
【0057】
図9には、検出器モジュール56の1つの実施形態が示されており、この実施形態によれば、検出光32のなおいっそうフレキシブルなスペクトル分解が実現され、ひいては種々の線状像42r、42gおよび42bのなおいっそうフレキシブルな形成が実現される。
図9による実施形態の場合、線状検出器70r、70gおよび70bを、ほぼ任意に空間内で分散させることができる。このことを実現するために、検出器モジュール56は、線状検出器70bに割り当てられた光偏向素子72bならびに線状検出器70rに割り当てられた光偏向素子72rを有している。光偏向素子72bおよび72rは、例えばそれぞれミラーの形態で構成されている。光偏向素子72rおよび72b各々は、
図9に双方向矢印で示唆されているように、分散素子60の分解方向に対応する方向で摺動可能である。
【0058】
図9の配置構成の場合、分散素子60により形成された赤色スペクトル成分32rが、レンズ66およびさらなるレンズ76を通り抜けた後、光偏向素子72rに当射する。この光偏向素子72rによって赤色スペクトル成分32rが、例えばシリンダレンズとして構成されたアナモフィック光学系74rに向かって反射させられる。アナモフィック光学系74rは線状検出器70rの前方に配置されており、線状検出器70rの長手延在部分の方向で1と等しい倍率を有する。つまりこの方向では、アナモフィック光学系74rはニュートラルに作用する。これに対して分散素子60の分解方向に対応する方向では、アナモフィック光学系74rは縮小作用を有する。これによって保証されるのは、光偏向素子72rを介して反射により取り出されるスペクトル成分32rの空間的な拡がりが比較的大きい場合であっても、たとえ線状検出器70rが分解方向において比較的狭幅であるにせよ、スペクトル成分32r全体が線状検出器70rによって捕捉される、というとである。分散素子60の分解方向において光偏向素子72rを摺動させることによって、スペクトル成分32rのスペクトル幅を要求に応じて設定することができる。
【0059】
青色スペクトル成分32bに関連づけられた、線状検出器70bと摺動可能な光偏向素子72bとから成る装置も、同様に動作する。したがって、分散素子60により分解された青色スペクトル成分32bは、レンズ66を通り抜けた後、光偏向素子72bのところで、やはりシリンダレンズとして構成され線状検出器70bの前方に配置されたアナモフィック光学系74bの方向に反射させられる。アナモフィック光学系74bは、赤色スペクトル成分32rに関連づけられたアナモフィック光学系74rと同じように、青色スペクトル成分32bに関連づけられて動作する。このためアナモフィック光学系74bは、摺動可能な光偏向素子72bにより検出光32から取り出される青色スペクトル成分32bのすべてのスペクトル情報が、線状検出器70bに合わせて圧縮されるように働く。
【0060】
緑色スペクトル成分32gは、レンズ66を通り抜けた後、光偏向素子72bを通過し、さらにレンズ76を通り抜けた後、光偏向素子72rも通過する。次いで緑色スペクトル成分32gは、他の2つのスペクトル成分32rおよび32bについて上述の記載で説明したのと同様に、アナモフィック光学系74gによって線状検出器42gに向かって束ねられる。ここでもアナモフィック光学系74gによって、緑色スペクトル成分32gに含まれるすべてのスペクトル情報が線状検出器42gによって捕捉される、ということが保証される。
【0061】
図9による装置によれば、両方の光偏向素子72bおよび72rは、分散素子60により分解されたスペクトル成分が、検出光32のうち扇状に拡開された光束の両方の対向する周縁領域から取り出されるように働く。つまり、最初に、
図9において扇状に拡開された光束の下方の周縁領域において伝搬する青色スペクトル成分32bが、光偏向素子72bを介して線状検出器70bの方向で取り出され、次いで光束の上方の周縁領域において伝搬する赤色スペクトル成分32rが、光偏向素子72rを介して線状検出器70rの方向で取り出され、その後に初めて、これら両方のスペクトル成分の間に位置する緑色スペクトル成分32gが、偏向されることなく線状検出器70gに当射する。
【0062】
図10には、これに対して、スペクトル成分が検出光32のうち
図10において下方の周縁領域から連続して取り出される装置が示されている。つまりこの場合には最初に、青色スペクトル成分32bが光偏向素子72bを介してアナモフィック光学系74bを通り抜けて、線状検出器70bへと配向される。次いで緑色スペクトル成分32gが光偏向素子72gに当射し、この成分を、アナモフィック光学系74gを通して線状検出器70gに向けて案内する。最後に赤色スペクトル成分32rが、レンズ66、レンズ76およびアナモフィック光学系74rを通り抜けた後、偏向されることなく線状検出器70rに当射する。
【0063】
図7~
図10の場合、試料30において反射させられた励起光は、それぞれバンドパスフィルタ64によって検出光32からフィルタリングされて除去される。ただし、かかるバンドパスフィルタは比較的高価である。また、かかるバンドパスフィルタは、種々の励起波長に対しフレキシブルに適用することもできず、つまり励起波長を変更するときには、かかるバンドパスフィルタを交換しなければならない。さらに最後に述べておくと、かかるバンドパスフィルタは所定の最小帯域幅を有しており、その結果、検出される蛍光放射において光の損失が生じる可能性がある。
【0064】
図11には、バンドパスフィルタを用いなくても動作し、それゆえ上述の問題を回避する装置が示されている。ここではバンドパスフィルタの代わりに、分散素子60の後方に配置された複数の光阻止部材80、82および84が用いられる。光阻止部材80,82および84はそれぞれ、励起光を吸収または反射する領域86、88もしくは90を有する透過性基板の形態で構成されている。
図11に双方向矢印で示唆されているように、光阻止部材80、82および84は、分散素子60の分解方向で互いに摺動可能である。これによって、試料30のところで反射させられた励起光を表すスペクトル成分をフィルタリングして除去する目的で、光吸収領域または光反射領域86、88および90を、扇状に拡開された検出光32内において任意にポジショニングすることができる。
図11による例の場合にはこれらのスペクトル成分は、参照符号32-1、32-3および32-5で表されたスペクトル成分である。これに対し、光阻止部材80、82および84を通って透過させられるスペクトル成分は、
図11において参照符号32-2および32-4で表されている。これらのスペクトル成分は、さらなるレンズ78を通り抜けた後、上述のようにして1つまたは複数の検出器へ導かれる。
【0065】
図7~
図10に示されている実施形態によればそれぞれ、1つの面状検出器もしくは3つの線状検出器が適用される。ただし自明のとおり、検出器モジュール56がこれとは異なる個数の検出器を有することもでき、特にもっと多くの個数の検出器を有することもできる。
図12に示されている図面では、
図9および
図10に示した装置のうち、検出器モジュールを構築するためにいくつも相前後して接続して適用可能な1つの機能ユニットが取り上げられており、このユニットは任意の個数の検出器を有する。
図12による機能ユニットはレンズ92を含み、検出光32の種々の(先行する機能ユニットによってまだ取り出されていない)スペクトル成分がこのレンズ92を通り抜ける。それらのスペクトル成分のうち
図12において参照符号32-nで表されたスペクトル成分が、分散素子60の分解方向で摺動可能な光偏向素子94に当射する。光偏向素子94における反射によって、検出光32のうちスペクトル成分32-nが、アナモフィック光学系96の方向で取り出される。次いでアナモフィック光学系96は、上述のようにしてスペクトル成分32-nを、線状検出器または面状検出器として構成可能な検出器98に合わせて圧縮する。
【0066】
図13には、検出器モジュールをシーケンシャルに構築するために使用可能なさらなる機能ユニットが示されている。この機能ユニットは、アナモフィック光学系96および検出器98の代わりに、参照符号100で表されたライトトラップを含み、これは光偏向素子94により取り出されたスペクトル成分32-nを吸収する。
図13による機能ユニットは典型的には、着目対象ではない波長領域を抑圧する目的で、
図12に示した形式の2つのユニットの間で使用することができる。特に
図13に示した機能ユニットによって、検出光に含まれており試料30のところで反射させられた励起光をフィルタリングして除去することもできる。
【0067】
図14および
図15には、
図12に示した機能ユニットの一部分であるアナモフィック光学系96の動作が改めて示されている。
図14に示されているようにアナモフィック光学系96は、参照符号32-1,32-2および32-3で表され、それら全体として光偏向素子94において分散素子60の分解方向で比較的大きな空間を占めているすべてのスペクトル成分が、検出器に合わせて圧縮されるように働く。これに対し
図15には、アナモフィック光学系96の代わりに通常のレンズ102が用いられた比較例が示されている。
図15による例の場合、レンズ102は、スペクトル成分32-1および32-3を検出器98に向けて配向することができない。