(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】原子燃料棒の事故耐性二重被膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
G21C 3/06 20060101AFI20220829BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20220829BHJP
C23C 24/04 20060101ALI20220829BHJP
C23C 28/02 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
G21C3/06 200
C23C14/14 G
C23C14/14 D
C23C24/04
C23C28/02
G21C3/06 210
(21)【出願番号】P 2019515637
(86)(22)【出願日】2017-10-02
(86)【国際出願番号】 US2017054697
(87)【国際公開番号】W WO2018067425
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-09-04
(32)【優先日】2016-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】390023641
【氏名又は名称】ウイスコンシン アラムナイ リサーチ ファウンデーシヨン
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ラホーダ、エドワード、ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】シュウ、ペン
(72)【発明者】
【氏名】エルリッチ、ロバート
(72)【発明者】
【氏名】スリドハラン、クマー
(72)【発明者】
【氏名】マイアー、ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン、グレッグ
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-130143(JP,A)
【文献】特表2016-504565(JP,A)
【文献】特開2012-219304(JP,A)
【文献】特表2009-520876(JP,A)
【文献】国際公開第2016/042262(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0254740(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 3/06
C23C 14/00-14/58
C23C 24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水冷式原子炉で使用される構成機器の、ジルコニウム合金製である基材上に耐腐食性境界を形成する方法であって、
当該基材(22)を提供するステップと、
当該基材(22)の外面に、Mo、Ta、WおよびNbから成る群より選択した粒径100ミクロン以下の粒子(24)を有する中間層(30)を形成するステップと、
当該中間層(30)の上に、Cr、Cr合金およびそれらの組み合わせから成る群より選択した粒径100ミクロン以下の粒子(36)を有する耐腐食層を形成するステップと
から成り、
前記中間層(30)および前記耐腐食層のうちの一方がコールドスプレー法である熱的付着法によって形成される、方法。
【請求項2】
前記耐腐食層および前記中間層(30)のうちのもう一方は陰極アーク蒸着、マグネトロンスパッタリング蒸着、およびパルスレーザー蒸着
の何れかである物理蒸着法によって形成される、請求項1の方法。
【請求項3】
前記コールドスプレー法は、
加圧されたキャリアガスを100℃~1200℃の温度に加熱するステップと、
当該加熱されたキャリアガスに前記粒子を添加するステップと、
当該キャリアガスおよび同伴粒子を800~4000フィート/秒(約243.84~1219.20メートル/秒)の速度でスプレーするステップと
から成る請求項1の方法。
【請求項4】
前記キャリアガスは、窒素(N2)、水素(H2)、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO2)、ヘリウム(He)およびそれらの組み合わせから成る群より選択される、請求項3の方法。
【請求項5】
前記中間層(30)および前記耐腐食層のうちの一方が熱的付着法によって形成され、前記中間層(30)および前記耐腐食層のうちのもう一方が物理蒸着法によって形成される、請求項1の方法。
【請求項6】
前記中間層(30)または前記耐腐食層の厚さが5~100ミクロンの範囲内である、請求項1の方法。
【請求項7】
前記中間層(30)および前記耐腐食層の前記粒子(24/36)の平均粒径は20ミクロン以下である、請求項1の方法。
【請求項8】
前記耐腐食層を形成する前記粒子(36)は純粋なクロム粒子である、請求項1の方法。
【請求項9】
前記耐腐食層を形成する前記粒子(36)はCr合金粒子である、請求項1の方法。
【請求項10】
前記耐腐食層を形成する前記粒子(36)はFeCrAlおよびFeCrAlYから成る群より選択した粒子である、請求項1の方法。
【請求項11】
前記中間層(30)を形成する前記粒子(24)はMo粒子である、請求項1の方法。
【請求項12】
前記中間層(30)は物理蒸着法によって付着させ、前記耐腐食層はコールドスプレー法によって付着させる、請求項10の方法。
【請求項13】
前記中間層(30)は前記耐腐食層と前記基材(22)との間に共晶が形成されるのを防ぐ、請求項1の方法。
【請求項14】
前記構成機器は燃料棒向けの被覆管であ
る、請求項1~13の何れかの方法
。
【請求項15】
前記耐腐食性境界の前記中間層(30)および前記耐腐食層の厚さは20~50ミクロンである、請求項
14の
方法。
【請求項16】
前記中間層(30)の厚さが少なくとも100ミクロンであり、且つ前記耐腐食層の厚さが少なくとも100ミクロンである、請求項1の方法。
【請求項17】
前記中間層(30)の厚さが100~300ミクロンであり、且つ前記耐腐食層の厚さが100~300ミクロンである、請求項16の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利に関する陳述
本発明は、エネルギー省との契約第DE-NE0008222号に基づく政府支援の下でなされたものである。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有している。
【0002】
本発明は原子燃料棒被覆管の被膜に関し、具体的には、ジルコニウム合金基材に保護層を二重に付着させる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ジルコニウム合金は、1100℃以上の温度で蒸気と急速に反応して酸化ジルコニウムと水素を発生させる。原子炉の環境では、この反応により発生した水素が原子炉を劇的に加圧し、最終的に格納容器または原子炉建屋内へ漏洩して爆発性雰囲気を形成するようになると、水素爆発により核分裂生成物が格納容器建屋の外へ撒き散らされるおそれがある。核分裂生成物を封じ込める境界を維持することは非常に重要である。米国特許出願第US2014/0254740号は、被覆材料の粉末を相当な速度で基材に吹き付けることにより、粉末粒子を塑性変形させて、粉末粒子が絡み合った平らな被膜が形成されるようにするコールドスプレー法のような溶射法により、クロムを含有する金属酸化物、セラミック材料または金属合金をジルコニウム合金被覆管に塗布する方法を開示している。
【0004】
金属クロムは優れた耐腐食性を有することが知られているが、硬くて脆く、コールドスプレー法で吹き付ける材料としては延性に乏しく融点が高いため有望な候補とは考えられていなかった。それでも、クロムとクロム合金は、その耐腐食性のゆえに、腐食を防ぐために使用することが提案されてきた。しかし、共融点に達する温度では、これらの耐腐食性被膜の性能は限定的である。
【発明の概要】
【0005】
本願で説明する方法は、原子炉内で蒸気とジルコニウムが反応する可能性に付随する問題、および温度が使用する合金の共融点を超えたときに遭遇する可能性のある問題点に対処するものである。この方法は、クロムまたはクロム合金の耐腐食層と基材との間に当該耐腐食層と当該基材との間に共晶が形成されないようにする層を提供する。
【0006】
本発明は、水冷式原子炉で使用される構成機器の基材上に耐腐食層を形成する方法を提供する。さまざまな局面において、この方法は基材を提供するステップと、当該基材の外面に、粒径100ミクロン以下の、好ましくはモリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)および他の遷移金属粒子などの粒子を有する中間層を形成するステップと、当該中間層の上に、Cr、Cr合金およびそれらの組み合わせから成る群より選択した粒子を有する耐腐食層を形成するステップとから成る。耐腐食層粒子の粒径は100ミクロン以下でよい。
【0007】
基材はジルコニウム合金が好ましく、構成機器は、さまざまな局面において原子燃料棒被覆管である。基材は、被膜を施される構成機器に応じた任意の形状でよい。基材は例えば、円筒形、曲面状、または平板状でよい。原子燃料棒の場合、基材は円筒形が好ましい。
【0008】
耐腐食層の粒子がクロム系合金の場合、当該粒子は原子濃度80~99%のクロムから成ることがある。さまざまな局面において、このクロム系合金は、ケイ素、イットリウム、アルミニウム、チタン、ニオブ、ジルコニウムおよび遷移金属元素から成る群より選択した少なくとも1つの元素を合計原子濃度で0.1~20%含むことがある。さまざまな局面において、Cr合金はFeCrAlYまたはFeCrAlのいずれかでよい。
【0009】
中間層および耐腐食層は、任意の適切な方法で形成すればよい。さまざまな局面において、これらの層は、コールドスプレー法のような熱的付着法によって形成される。中間層の付着法がコールドスプレー法の場合、本願の方法は、加圧されたキャリアガスを200℃~1000℃の温度に加熱するステップと、当該加熱されたキャリアガスに中間層粒子を添加するステップと、当該キャリアガスおよび同伴粒子を800~4000フィート/秒(約243.84~1219.20メートル/秒)の速度で基材にスプレーするステップとをさらに含んでもよい。
【0010】
耐腐食層の付着法がコールドスプレー法の場合、本願の方法は、加圧されたキャリアガスを200℃~1000℃の温度に加熱するステップと、当該加熱されたキャリアガスにCrまたはCr合金粒子を添加するステップと、当該キャリアガスおよび同伴するCrまたはCr合金粒子を800~4000フィート/秒(約243.84~1219.20メートル/秒)の速度で中間層にスプレーするステップとをさらに含んでもよい。
【0011】
キャリアガスは、不活性ガスおよび非反応性ガスから選択するのが有利である。さまざまな局面において、キャリアガスは、窒素、水素、アルゴン、二酸化炭素、ヘリウムおよびそれらの組み合わせから成る群より選択することができる。キャリアガスは、最大5.0MPaの圧力下で加熱してもよい。
【0012】
キャリアガスおよび粒子は、被膜が所望の厚さに達するまできわめて高速で連続的にスプレーするのが好ましい。付着させる被膜の厚さは、例えば5~100ミクロンの範囲とすることができるが、例えば数百ミクロンのようなより大きな厚さにしてもよい。
【0013】
さまざまな局面において、中間層および耐腐食層は物理蒸着法によって形成される。物理蒸着法は、陰極アーク蒸着、マグネトロンスパッタリング蒸着、パルスレーザー蒸着などの適切な既知のプロセスでよい。
【0014】
本願の方法のさまざまな局面において、中間層および耐腐食層のうちの一方は熱的付着法によって形成され、中間層および耐腐食層のうちのもう一方は物理蒸着法によって形成される。
【0015】
本願の方法は、中間層および耐腐食層を形成した後に、被膜を焼鈍するステップをさらに含んでもよい。焼鈍により延性が付与され、サブミクロンサイズの粒子が形成されることがあるが、種々の性質の等方性と耐放射線損傷性が得られる利点があると考えられる。
【0016】
本願で説明する方法は、さまざまな局面において、クロムまたはクロム合金の中間層被膜と外部被膜とを有するジルコニウム合金の被覆管を提供する。一般的に、中間層材料は、ジルコニウムまたはジルコニウム合金との共晶融点がさまざまな局面において1400℃、或る特定の局面では好ましくは1500℃を超え、さらには、熱膨張係数および弾性係数が、中間層が被覆される下層のジルコニウムまたはジルコニウム合金だけでなく中間層の上層の被膜とも調和的である材料から選択することができる。例示すると、Moのような遷移金属やNb、Ta、Wのような他の金属であって、融点が高く(1700℃を超える)、共晶を形成しない金属や、ジルコニウム合金管とクロムまたはクロム合金製の外部被膜との間で共晶が形成される温度(約1333℃)よりも高い温度(1400℃を超える)にならない限り共晶を形成しない金属が挙げられる。さまざまな局面において、耐腐食層は基材の耐腐食バリアとして機能する。基材がジルコニウム合金被覆管の場合、クロム被膜は、通常運転条件下で、すなわち例えば加圧水型原子炉では270℃~350℃の範囲、沸騰水型原子炉では200℃~300℃の範囲で、耐腐食バリアを提供する。被膜は、1100℃を超える高温において、蒸気とジルコニウムの反応および空気とジルコニウムの反応を低減し、水素の発生を抑える。
【0017】
中間層は、耐腐食層と基材との間に、耐腐食層の性能を制限する共晶が形成されるのを抑えるために導入される。例えば、基材がZrまたはZr合金で、耐腐食層がCrまたはCr合金材料(例えばFeCrAlまたはFeCrAlY)の場合、900℃より高い温度で共晶の形成が抑えられる。したがって、当該中間層は、900℃より高い温度における本実施態様の耐腐食層の事故耐性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
添付の図面を参照することにより、本発明の特徴と利点の理解が深まるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願で使用する「a」、「an」および「the」に先導される単数形は、文脈からそうでないことが明らかでない限り、複数形をも包含する。したがって、本願で使用する冠詞「a」および「an」は、冠詞の文法上の、1つまたは複数の(すなわち、少なくとも1つの)対象物を表す。例として、「an element」は1つの要素または複数の要素を意味する。
【0020】
非限定的な例として、本願で使用する最上部、最下部、左、右、下方、上方、前、後ろ、およびそれらの変形例などの方向性を示唆する語句は、添付の図面に示す要素の方位に関連し、特段の記載がない限り、本願の特許請求の範囲を限定するものではない。
【0021】
特許請求の範囲を含み、本願では、特段の指示がない限り、量、値または特性を表すあらゆる数字は、すべての場合において「約」という用語により修飾されると理解されたい。したがって、数字と一緒に「約」という用語が明示されていない場合でも、数字の前に「約」という語があるものと読み替えることができる。したがって、別段の指示がない限り、以下の説明で記載されるすべての数値パラメータは、本発明に基づく組成物および方法が指向する所望の特性に応じて変わる可能性がある。最低限のこととして、また均等論の適用を特許請求の範囲に限定する意図はないが、本願に記載された各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の数を勘案し、通常の丸め手法を適用して解釈するべきである。
【0022】
また、本願で述べるあらゆる数値範囲は、そこに内包されるすべての断片的部分を含むことを意図している。例えば、「1~10」という範囲は、記述された最小値1と最大値10との間(最小値と最大値を含む)のすべての断片的部分を含むことを意図している。すなわち、最小値は1以上、最大値は10以下である。
【0023】
本願で使用する「純粋なCr」または「純粋なクロム」は、100%の金属クロムを意味し、冶金学的機能を果たさない極微量の意図しない不純物を含むことがある。例えば、純粋なCrは数ppmの酸素を含むことがある。本願で使用する「Cr合金」、「クロム合金」、「Cr系合金」または「クロム系合金」は、Crを優勢元素または主要元素とする合金を指し、特定の機能を果たす他の元素を少量かつ合理的な量だけ含む。Cr合金は、原子濃度80%~99%のクロムから成ることがある。Cr合金中の他の元素は、ケイ素、イットリウム、アルミニウム、チタン、ニオブ、ジルコニウムおよび他の遷移金属元素から選択した少なくとも1つの化学元素を含むことがある。そのような元素は、例えば0.1%~20%の原子濃度で存在することがある。
【0024】
本願では、耐腐食層と基材との間に、両者の共融点より高い温度における共晶の形成を抑える材料の層を追加することによって、基材の耐腐食性を高める方法を説明する。例えば、基材がZrまたはZr合金で、耐腐食層がCrまたはCr合金若しくはCr系合金(例えばFeCrAl)の場合、中間層は、900℃より高い温度での共晶の形成を抑える。基材と耐腐食層との間に中間層を追加した本願で説明する被覆管の二重構造は、例えば、被膜を施したジルコニウム合金被覆管の高温での事故耐性を、耐腐食層とジルコニウム合金基材との間に共晶が形成されないようにして、改善することができる。
【0025】
本願では、水冷式原子炉用として基材に少なくとも2層の被膜を施す方法と、基材およびその外面に施された少なくとも2層(耐腐食性を有する外層と高温での共晶の形成を防ぐ内層)とから成る被覆管について説明する。さまざまな局面において、当該外層はCrまたはCr合金(例えばFeCrAlY)から成り、当該内層は遷移金属(例えばMo、Nb、TaまたはW)から成る。両層とも、熱的付着法(例えばコールドスプレー法)によって施すことができる。別法として、両層とも物理蒸着(PVD)法によって施すことができる。例えば、陰極アーク物理蒸着、マグネトロンスパッタリング、またはパルスレーザー蒸着(PLD)が挙げられる。最初に内層を付着させ、研削および研磨してから外層を付着させ、当該外層を研削および研磨することができる。
【0026】
本願で説明する改良された成膜方法は、高温事故条件下と、それと同様に重要な通常運転条件下での被覆管の被膜の健全性を高める。通常運転条件下でも、Zrの酸化によって水素が発生する可能性があり、水中に水素が存在する可能性もある。そのような水素はZr被覆管の中に拡散し(水素化と呼ばれる)、被覆管の脆化をもたらす。二重被膜を施された改良型被覆管は、Zr被覆管の水素化が起きにくいため、運転サイクルの長期化に寄与し、したがって原子炉運転の経済性を高める。二重被膜を施された被覆管はまた、遅れ水素化割れに対する耐久性が見込まれるので、後で乾式キャスクに貯蔵される間に良好な性能を発揮すると思われる。
【0027】
さまざまな局面において、本願で説明する方法によって提供されるCrまたはCr系合金の被膜は、酸化を減らし、水中の水素が被覆管内へ侵入するのを防ぐ拡散バリアとして機能することにより、水素化を減少させる。そのようなCr被膜の存在は通常条件下でも重要な利点を提供するが、Cr被膜またはCr系被膜の役割は高温事故条件下では不可欠となる。
【0028】
Crは通常運転条件下で下層のZrへ熱拡散するが、拡散は650℃の温度までは無視できる程度である。コールドスプレーによって被膜と基材が密着するにもかかわらず、1200℃における純粋なCr被膜と基材との間の相互拡散はごくわずかである。実際、事故時の温度で起こる若干の熱拡散は、被膜と基材の固着を維持する上で有益であると考えられる。
【0029】
耐腐食層である被膜と基材との間に中間層を追加すると、耐腐食層の耐腐食効果がさらに高まる。前述したように、中間層は、共融温度において耐腐食層とジルコニウム合金基材との間に共晶が形成されないようにして、被膜を施されたジルコニウム合金被覆管の事故耐性をさらに高める。厳密な温度は、基材および耐腐食層に使用される材料によって変わる。共融点を求めるための共晶状態図は、文献から容易に入手できる。
【0030】
本願の方法は、さまざまな実施態様において、まずキャリアガスを加熱器に供給して、ガス送出ノズル内での膨張後のガス温度が合理的な値(例えば100℃~500℃)に保たれるよう十分な温度に加熱する。ガスの膨張は粒子に推進力を与える。さまざまな局面において、キャリアガスは、例えば5.0MPaの圧力で100℃~1200℃の温度に加熱される。或る特定の局面において、キャリアガスは200℃~800℃の温度に加熱されることがある。キャリアガスは、或る特定の局面で300℃~800℃の温度に加熱され、別の局面では500℃~800℃の温度に加熱されることがある。ガスを何度まで予熱するかは、キャリアとして使用するガスの種類と、個別のガスのジュールトムソン冷却係数による。ガスの圧力が変化して膨張または収縮する際にガスが冷却するかどうかは、ジュールトムソン係数の値による。ジュールトムソン係数が正の値の場合、キャリアガスは冷却するので、コールドスプレー法の性能に影響を及ぼす可能性のある過度な冷却を防ぐために、キャリアガスを予熱する必要がある。当業者は、過度な冷却を防ぐために、周知の計算法を用いて加熱の程度を決めることができる。例えば、キャリアガスがN2の場合、流入口温度が130℃であれば、ジュールトムソン係数は0.1℃/バールである。初期圧力が10バール(約146.9psia)、最終圧力が1バール(約14.69psia)のガスを130℃で管体に衝突させる場合は、約9バール×0.1℃/バール(すなわち約0.9℃)高い約130.9℃にガスを予熱する必要がある。
【0031】
例えば、キャリアガスとしてヘリウムを用いる場合のガスの温度は、圧力3.0~4.0MPaにおいて450℃であるのが好ましい。また、キャリアガスとしての窒素の温度は、圧力5.0MPaで1100℃であるが、圧力が3.0~4.0MPaであれば600℃~800℃でもよい。当業者であれば、使用する機器の種類によって温度および圧力の変数が変わり、機器を改造することによって温度、圧力および体積のパラメータを調節できることが分かるであろう。
【0032】
キャリアガスに適しているのは不活性ガスまたは非反応性ガスであり、特に、中間層粒子、CrもしくはCr系合金の耐腐食層粒子、または基材と反応しないガスである。キャリアガスの例として、窒素(N2)、水素(H2)、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO2)、ヘリウム(He)が挙げられる。キャリアガスの選択にはかなりの自由度がある。混合ガスを使用してもよい。ガスの選択は物理特性と経済性の双方による制約を受ける。例えば、分子量の小さいガスは速度を大きくできるが、速度を最大にすると、粒子の跳ね返りによって付着する粒子数が少なくなるので、或る局面においては、速度の最大化を避けるべきである。
【0033】
さまざまな局面において、一方の層または両方の層を熱的付着法によって施すことができる。例えば、
図1に示すようなアセンブリを用いてプロセスを実施できる。
図1は、コールドスプレーアセンブリ10を示す。アセンブリ10は、加熱器12、粉末または粒子ホッパー14、ガン16、ノズル18および送出導管34、26、32、28を含む。導管34により加熱器12へ送り込まれる高圧ガスは、そこで実質的に瞬時に急速加熱される。所望の温度に加熱されたガスは、導管26を介してガン16へ差し向けられる。ホッパー14に保持された粒子が放出され、導管28を介してガン16へ送られると、加圧ガス噴流20がノズル18を介して粒子を基材22へ差し向ける。スプレーされた粒子24は基材22に付着するため、粒子24から成る中間層30が形成される。
【0034】
一般的に、中間層の材料は、ジルコニウムまたはジルコニウム合金との共晶融点が1400℃を超え、熱膨張係数および弾性係数が、中間層が被覆される下層のジルコニウムまたはジルコニウム合金だけでなく中間層の上層の被膜とも調和的である材料から選択することができる。中間層の形成に用いる粒子はMoであるが、Ta、WまたはNbの粒子でもよく、これらはいずれも、1400℃を超える温度、さまざまな局面では1500℃を超える温度において、ZrまたはZr合金と共晶を形成する。
【0035】
ある特定の局面において、中間層の形成に用いる粒子はMo粒子である。Mo粒子(または他の適切な中間層粒子)は、ホッパー14に供給される。中間層粒子24は、ガン16においてキャリアガスに合流し同伴状態になる。ノズル18は、ガスと粒子とを強制的に混合して、ノズル18から出るガス噴流20の速度を増加させるための狭隘部を有する。粒子は、緻密で不浸透性または実質的に不浸透性の層を形成するのに十分な速度で基材にスプレーされる。さまざまな局面において、噴射スプレーの速度は800~4000フィート/秒(約243.84~1219.20メートル/秒)でよい。
【0036】
中間層を研削および研磨してから耐腐食性の外層を付着させたあと、当該外層を研削および研磨することができる。
【0037】
コールドスプレー法は、加熱されたキャリアガスの膨張を制御することにより粒子を推進して基材上に付着させる原理を利用する。粒子は、基材または付着済みの層に衝突し、断熱せん断による塑性変形を受ける。後続の粒子の衝突が積み重なって被膜が形成される。変形を促進するには、粒子を、キャリアガスへ流入させる前に、ケルビン絶対温度スケールで粉末の融点の3分の1から2分の1の温度に温めるとよい。被膜を施す領域または材料の付着が必要な領域全体をノズルによって走査する(すなわち、ある領域の端から端まで、最上部から最下部まで線状にスプレーする)。
【0038】
平面状ではない管体に被膜を施すのは、これまで難題であった。平面に被膜を施すのは容易だが、管体の表面や他の曲面に低コストで被膜を施すのは容易でなかった。管体または円筒体に被膜を施すには、ノズルを管体または円筒体の長さ方向に移動させながら、管体を回転させる必要がある。領域を均質にカバーするように、ノズルの移動速度と管体の回転を同期させる。領域を均質にカバーするように移動と回転を同期させさえすれば、回転速度と移動速度を実質的に変えることができる。管体表面の汚染物を除去するために、表面の研削や化学洗浄などの前処理が必要なことがある。
【0039】
本願の方法のさまざまな局面において、耐腐食層の形成に用いる粒子は、平均粒径が20ミクロン未満の純粋な金属クロム粒子である。本願で使用する「平均粒径」という用語に関して、当業者であれば次のことを理解するであろう。粒子は球体のことも非球体のこともあるので、「粒径」は、規則的な形状または不規則な形状の粒子の最長寸法であり、平均粒径20ミクロン未満の意味するところは、所与の粒子の最長寸法にはバラツキがあるため、20ミクロンを上回ったり下回ったりするが、被膜に使用されるすべての粒子の最長寸法の平均は20ミクロン以下ということである。
【0040】
クロムまたはクロム系合金粒子は、中実の粒子である。中間層30を施した後に耐腐食層を施す。この外側の層をコールドスプレー法によって施す場合、例えばMo粒子の代わりにクロムもしくはクロム合金粒子36またはそれらの組み合わせたものをホッパー14に供給するか、または独自のチェンバを有する別個のアセンブリおよび別個のホッパーを用いて耐腐食層を施す。クロムまたはクロム合金粒子36は、ガン16においてキャリアガスに合流して同伴状態になる。ノズル18は、ガスと粒子とを強制的に混合して、ノズル18から出るガス噴流20の速度を増加させるための狭隘部を有する。粒子36は、緻密で不浸透性または実質的に不浸透性のCrおよび/またはCr系合金層を形成するのに十分な速度でスプレーされる。さまざまな局面において、噴射スプレーの速度は800~4000フィート/秒(約243.84~1219.20メートル/秒)でよい。粒子36は、商業または研究レベルにおいて、被膜を施された管体を所望の速度で製造するのに十分な速度で中間層30の表面に付着される。
【0041】
いずれかの層への粒子の付着速度は、粉末の見かけ密度(すなわち、比容積における空気または空隙に対する粉末の量)と、粉末粒子のガス流への注入に用いる機械式粉末供給装置またはホッパーとに依存する。当業者は、このプロセスに使用する機器に基づいて付着速度を容易に計算可能であり、付着速度の決定因子である構成機器を変更することによって付着速度を調節できる。この方法の或る特定の局面において、粒子の付着速度は最大1000kg/時間でよい。許容できる付着速度は1~100kg/時間の範囲であり、さまざまな局面において10~100kg/時間の範囲であるが、これより高い速度や低い速度(例えば1.5kg/時間)も問題なく使用されている。
【0042】
付着速度が大きいと、単位時間当たりにスプレー処理できる管体の数が増えるので、付着速度は経済性の観点で重要である。粒子を次々に繰り返し衝突させると、過渡加熱の時間が長くなるので、粒子間の結合(および粒子と基材の結合)が改善される利点がある。過渡加熱は、マイクロ秒やときにはナノ秒の時間スケールで、ナノメートルの長さスケールにわたって起きる。その結果、すべての粉末および基材の表面にもともと存在する厚さがナノメートルスケールの酸化物層が破砕され除去される。基材表面上の中間層または中間層上の耐腐食層が所望の厚さに達するまで、スプレーを継続する。さまざまな局面において、耐腐食層の所望の厚さは数百ミクロンであり(例えば100~300ミクロン)、それより薄いこともある(例えば5~100ミクロン)。耐腐食層の被膜は、耐腐食性バリアを形成するのに十分な厚さである必要がある。被膜バリアは、約1000℃以上の温度において、蒸気とジルコニウムの反応および空気とジルコニウムの反応、さらには水素化ジルコニウムの形成を減少させ、さまざまな局面において水素化ジルコニウムの形成を完全に阻止することもある。
【0043】
さまざまな局面において、中間層の上に耐腐食層を形成する方法は、ジルコニウム合金基材を提供するステップと、当該基材にMo、Ta、WまたはNb粒子から選択した粒子を所望の厚さに被覆するステップと、そのあと、中間層にCrおよびCr合金(例えばFeCrAlまたはFeCrAlY)から成る群より選択した粒子を被覆するステップとから成る。各層の粒子の平均粒径は20ミクロン未満であり、最大粒径は100ミクロンである。
【0044】
さまざまな局面において、事故耐性二重被膜は、外層としてのCrまたはCr合金の耐腐食層と、Mo、Ta、WまたはNbから選択した粒子の内層とから成る。これらの層をジルコニウム合金管に施すことにより、通常運転条件および事故条件下の両方におけるジルコニウムと蒸気または空気との反応が減少する。この2層の被膜は、前述のようにコールドスプレー法によって逐次的に施すことができる。キャリアガスを用いて、好ましくは平均粒径が約20ミクロン未満で最大粒径が100ミクロンの粒子を付着させて厚さ5~100ミクロンの被膜を形成するためのパラメータを設定する。
【0045】
前述のように、熱的付着法によって粒子を付着できる。熱蒸着は、真空中で適切な方法により原料物質を加熱して蒸発させるのを基本とする付着手法である。本願で説明するコールドスプレー法はその一例である。
【0046】
別のさまざまな局面において、この2層の被膜は、陰極アーク物理蒸着、マグネトロンスパッタリング、パルスレーザー蒸着などの物理蒸着法によって施すことができる。
【0047】
粒子のような材料を基材に付着させて薄い層を形成するための当技術分野で公知の物理蒸着(PVD)法がいくつかあるが、それらを用いて、中間層および耐腐食層のうちの一方または両方を施すことができる。PVDは、次の3つの基本ステップから成る真空蒸着法を組み合わせたものとして特徴付けられる。(1)高温真空またはガスプラズマによって促進される固体原料からの材料物質の蒸発、(2)真空中または不完全真空中での蒸気の基材表面への輸送、および(3)基材上での凝縮による薄膜の形成。
【0048】
最も一般的なPVD成膜法は、蒸着(典型的には陰極アークまたは電子ビーム源を使用)と、スパッタリング(「マグネトロン」により磁界で増強された、円筒形または中空の陰極源を使用)である。これらのプロセスはいずれも真空中において使用圧力(典型的には10-2~10-4mbar)で進行し、一般的には、成膜プロセス時に高エネルギー正電荷イオンを成膜対象基材へ打ち込むことにより高密度を実現する。さらに、さまざまな化合物の成膜組成物を生成するために、金属の付着時に真空チェンバ内に反応性ガスを導入してもよい。その結果、被膜と基材の結合が非常に強くなり、付着層の物理特性を調整することができる。
【0049】
陰極アーク蒸着では、原料物質と成膜対象基材を、比較的少量のガスのみが入っている真空付着チェンバ内に置く。直流(DC)電源の負のリード線を原料物質(「陰極」)に、正のリード線を陽極に接続する。多くの場合、正のリード線を付着チェンバに接続するので、当該チェンバは陽極となる。電気アークにより、陰極標的から材料物質を気化させる。気化した材料物質がその後基材の上で凝縮し、所望の層が形成される。
【0050】
プラズマ蒸着法の一種であるマグネトロンスパッタリングでは、プラズマを形成し、負に帯電した電極または「標的」に重なる電場によってプラズマからの正電荷イオンを加速する。陽イオンは、数百電子ボルトから数千電子ボルトの範囲の電位差によって加速され、負電極に標的から原子をはじき出すのに十分な力で衝突する。これらの原子は、典型的な視線方向余弦分布に従って標的面から放出され、マグネトロンスパッタリング陰極の近傍に置かれた表面で凝縮する。
【0051】
物理蒸着法の一種であるパルスレーザー蒸着(PLD)は、高出力パルスレーザービームを真空チェンバ内で集束させて、標的である付着対象材料物質に衝突させる。この材料物質は標的から(プラズマプルーム状に)気化し、基材に付着して薄膜を形成する。PLDのプロセスは、一般的に次の5段階に分けられる。(1)標的表面のレーザー吸収、(2)標的材料物質のレーザーアブレーションとプラズマの形成、(3)プラズマの動作、(4)アブレーション材料物質の基材への付着、および(5)基材表面における核生成と薄膜の成長。
【0052】
本方法は、中間層への耐腐食層の付着後に、耐腐食層の焼鈍をさらに含んでもよい。焼鈍によって、被膜を施された管体の機械的性質と微細構造が改変される。焼鈍では、被膜を200℃~800℃、好ましくは350℃~550℃の範囲で加熱する。焼鈍することによって被膜中の応力が解放され、被覆管の内圧に耐えるために必要とされる延性が被膜に付与される。管体が膨張すると、それに合わせて被膜も膨張できる必要がある。焼鈍による別の重要な効果は、例えばコールドスプレー過程で生じた変形した粒子を再結晶させることにより、等方性および耐放射線損傷性という利点をもたらす、サブミクロンサイズで等軸の細粒粒子が形成されることである。
【0053】
例えばコールドスプレーによって耐腐食層を付着させた後に焼鈍を行うと、コールドスプレー被膜に特有の構造が形成される。これは、試験で示されたように、高い延性を実現して管体の耐破裂性を高める上で非常に有利であり、耐放射線損傷性をもたらす点でも有利であると考えられる。本願で説明する方法によって提供される被膜は、等軸の細粒粒子を形成するための初期構造を生成する。
【0054】
二重被膜を施された基材は、より平滑な表面に仕上げるために、研削、バフ仕上げ、研磨、または他の公知の手法で処理してもよい。
【0055】
本願で説明する方法は、二重被覆を施された基材を製造するものである。例示的な実施態様において、この方法は、水冷式原子炉に用いる被覆管を製造する。被覆管は、ジルコニウム合金製のことがある。本願で説明する被覆管は、ジルコニウム合金基材に、さまざまな局面において、Moまたはその代用としてのTa、WもしくはNbから成る内部被膜と、クロムまたはクロム合金から成る外部被膜とを形成したものである。
【0056】
内部および外部被膜は、所望の厚さにしてよい。さまざまな局面において、被膜の厚さは約100~300ミクロンまたはそれ以上である。それより薄い、厚さが約50~100ミクロンの被膜を施すこともできる。さまざまな局面において、被膜を最大100ミクロンの厚さにしてもよい。さまざまな局面において、各被膜の厚さを20~50ミクロンにしてもよい。Cr合金は、例えばFeCrAlまたはFeCrAlYでもよい。
【0057】
本願で言及したすべての特許、特許出願、刊行物または他の開示資料は、その全体が参照により本願に組み込まれる。ただし、本願で参照により組み込まれると言及されたすべての文献および資料またはそれらの一部分は、本願で明示的に記載された既存の定義、言明または他の開示資料と矛盾しない範囲でのみ本願に組み込まれる。したがって、本願に記載の開示事項は、必要な範囲において、それと矛盾する、参照により本願に組み込まれた資料に取って代わり、本願に明示的に記載された開示事項が決定権をもつ。
【0058】
本発明を、さまざまな例示的な実施態様を参照して説明してきた。本願に記載の実施態様は、開示された発明のさまざまな実施態様のさまざまな詳細度の例示的な特徴を示すものとして理解されたい。したがって、特段の指示がない限り、可能な範囲において、開示した実施態様における1つ以上の特徴、要素、構成部品、成分、構造物、モジュールおよび/または局面は、本発明の範囲から逸脱することなく、当該開示した実施態様における他の1つ以上の特徴、要素、構成部品、成分、構造物、モジュールおよび/または局面との間で、複合、分割、置換えおよび/または再構成が可能であることを理解されたい。したがって、通常の技量を有する当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、例示的な実施態様のいずれにおいてもさまざまな置換え、変更または組み合わせが可能であることを理解するであろう。当業者はさらに、本願を検討すれば、本願に記載された本発明のさまざまな実施態様に対する多くの均等物に気付くか、あるいは単に定常的な実験を用いてかかる均等物を確認できるであろう。したがって、本発明は、さまざまな実施態様の説明によってではなく、特許請求の範囲によって限定される。