(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】構造物の立て起こし用治具
(51)【国際特許分類】
E04G 21/16 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
E04G21/16
(21)【出願番号】P 2020079571
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000204000
【氏名又は名称】太平電業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】長井 延光
(72)【発明者】
【氏名】菊池 孝仁
【審査官】荒井 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-50413(JP,A)
【文献】実開平3-91109(JP,U)
【文献】実開平7-21908(JP,U)
【文献】実開平4-37190(JP,U)
【文献】特開2000-247568(JP,A)
【文献】特開2017-190201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/14-21/22
B66C 1/00- 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と前記本体から張り出す2つのフランジ部を有するT形断面の端部を備えた構造物の立て起こし用治具であって、
一方の前記フランジ部に取り付けられる第1の分割体と、他方の前記フランジ部に取り付けられる第2の分割体と、
前記第1の分割体と前記第2の分割体とを接合する接合手段と、を備え、
前記接合手段により接合された立て起こし用治具の外周形状が、第1の曲率を有する第1の曲部と、直線部と、前記第1の曲率と異なる第2の曲率を有する第2の曲部と、を有することを特徴とする立て起こし用治具。
【請求項2】
請求項1に記載の立て起こし用治具であって、
前記第1の曲部と、前記直線部と、前記第2の曲部と、に相当する連続面を有し、
前記連続面における前記直線部に相当する直線面を地面に接地させた際に、前記構造物の重心が、前記直線面の範囲の何れかの点と、前記構造物の吊点の間に位置することを特徴とする立て起こし用治具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の立て起こし用治具であって、
前記第2の曲率が、前記第1の曲率より高いことを特徴とする立て起こし用治具。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の立て起こし用治具であって、
前記第1の分割体は、前記一方の前記フランジ部と嵌合する第1の嵌合溝を有し、前記第2の分割体は、前記他方の前記フランジ部と嵌合する第2の嵌合溝を有することを特徴とする立て起こし用治具。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の立て起こし用治具であって、
前記第1の分割体は、前記本体の一の面に当接する第1の当接板を有し、前記第2の分割体は、前記本体の一の面の裏側の面に当接する第2の当接板を有することを特徴とする立て起こし用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、本体と本体から張り出す2つのフランジ部を有するT形断面の端部を備えた構造物の立て起こし用治具に関するものである、
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、コンクリート構造物を簡単に立て起こすことが可能な立て起こし具が開示されている。この立て起こし具は、コンクリート構造物に開けられた穴にボルト接合されるベース部を有しており、ベース部が有する湾曲面に沿ってコンクリート構造物を立て起こすことにより、コンクリート構造物を滑らかに立て起こすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、
図6に示すような本体2と本体2から張り出す2つのフランジ部3A、3Bを有するT形断面の端部を備えた大型の構造物1が、例えば、ボイラー鉄骨の大梁に用いられている。従来、横倒しにされた構造物1をボイラー鉄骨等における設置位置まで持ち上げる場合、横倒しにされた状態から2基のクレーンで構造物1の両端部を吊り上げつつ、地面から浮かした状態で立て起こし、立った状態のまま構造物1が設置される高さまで持ち上げていた。そのため、2基のクレーンを用意すること、2基のクレーンを配置可能な敷地を用意することが必要となるためコスト高になり、また、2基のクレーンが連携して構造物1を吊り上げる必要があるため作業時間が掛かるといった問題があった。
【0005】
そこで、1基のクレーンで横倒しにされた構造物1を立て起こすために、特許文献1に開示されている立て起こし具を用いる場合、特許文献1の立て起こし具は構造物1に立て起こし具を取り付けるための穴が必要であるという問題がある。
【0006】
本発明は、こうした事情に鑑み、本体と本体から張り出す2つのフランジ部を有するT形断面の端部を備えた構造物を1基のクレーンで立て起こすことができる立て起こし用治具であって、構造物そのものに穴を形成したり、立て起こし用治具を取り付けるためのアタッチメントを必要としたりしない立て起こし用治具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記課題を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0008】
請求項1記載の発明は、本体と前記本体から張り出す2つのフランジ部を有するT形断面の端部を備えた構造物の立て起こし用治具であって、一方の前記フランジ部に取り付けられる第1の分割体と、他方の前記フランジ部に取り付けられる第2の分割体と、前記第1の分割体と前記第2の分割体とを接合する接合手段と、を備え、前記接合手段により接合された立て起こし用治具の外周形状が、第1の曲率を有する第1の曲部と、直線部と、前記第1の曲率と異なる第2の曲率を有する第2の曲部と、を有することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の立て起こし用治具であって、前記第1の曲部と、前記直線部と、前記第2の曲部と、に相当する連続面を有し、前記連続面における前記直線部に相当する直線面を地面に接地させた際に、前記構造物の重心が、前記直線面の範囲の何れかの点と、前記構造物の吊点の間に位置することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の立て起こし用治具であって、前記第2の曲率が、前記第1の曲率より高いことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一項に記載の立て起こし用治具であって、前記第1の分割体は、前記一方の前記フランジ部と嵌合する第1の嵌合溝を有し、前記第2の分割体は、前記他方の前記フランジ部と嵌合する第2の嵌合溝を有することを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一項に記載の立て起こし用治具であって、前記第1の分割体は、前記本体の一の面に当接する第1の当接板を有し、前記第2の分割体は、前記本体の一の面の裏側の面に当接する第2の当接板を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、構造物の一端部に第1の曲部に相当する部分を形成することができることから、構造物の他端部を1基のクレーンで吊り上げつつ、第1の曲部を利用して、容易に構造物を立て起こすことができる。また、立て起こし用治具を取り付けるための穴を構造物に形成する必要や、立て起こし用治具を取り付けるためのアタッチメントを用意する必要もない。さらに、直線部で構造物を安定して静止させて、構造物の確認を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】構造物に立て起こし用治具を取り付けた際の構造物端部の側断面図である。
【
図2】(A)は立て起こし用治具における第1の分割体の平面図であり、(B)は同正面図であり、(C)は同側面図である。
【
図3】(A)は立て起こし用治具における第2の分割体の平面図であり、(B)は同正面図であり、(C)は同側面図である。
【
図5】(A)-(J)は立て起こし用治具を用いて構造物を立て起こす際の工程図である。
【
図6】(A)は構造物の斜視図であり、(B)は同側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
まず、
図1-
図4を用いて、本実施形態に係る構造物1の立て起こし用治具10の構成について説明する。
【0017】
立て起こし用治具10は、第1の分割体20と、第2の分割体30と、を含む。
【0018】
図2に示すように、第1の分割体20は、構造物1への取り付け時に(
図5(A)参照)水平に設置されるフランジ21を有する。フランジ21の左右端部近傍の底面には2つの基板22が立設されている(2つの基板22は同様の構造となっているため、以下では一方の基板22について説明する)。フランジ21には、複数の挿通孔21aが形成されており、その一部は、基板22が設けられている位置よりもフランジ21の端部側に形成されている。
【0019】
基板22は、フランジ21から背面方向(
図2(A)において上方向)に延設されており、その端部上面には、構造物1の本体2に当接する当接板23が固設されている。また、当接板23が荷重に十分耐えられるように、基板22の両側面と当接板23がそれぞれなす直角部に第1リブ24、第2リブ25が設けられている。
【0020】
基板22の底面から正面にかけて、立て起こし用治具10が構造物1を立て起こす際に、地面に接する接地板26が設けられている。
図2(C)に示すように、接地板26は、第1平面部26a、第1曲面部26b及び第2平面部26cを含む。
【0021】
基板22には、フランジ21に接する部分と当接板23に接する部分の間に、嵌合部27が形成されており(
図2(C)参照)、嵌合部27には、構造物1のフランジ部3Bが嵌合するようになっている。
【0022】
図3に示すように、第2の分割体30は、構造物1への取り付け時に(
図5(A)参照)水平に配置されるフランジ31を有する。フランジ31の左右端部近傍の底面には2つの基板32が立設されている(2つの基板32は同様の構造となっているため、以下では一方の基板32について説明する)。フランジ31には、複数の挿通孔31aが形成されており、その一部は、基板32が設けられている位置よりもフランジ31の端部側に形成されている。
【0023】
基板32は、フランジ31から背面方向に延設されており、その端部下面には、構造物1の本体2に当接する当接板33が固設されている。また、当接板33が荷重に十分耐えられるように、基板32の両側面と当接板33がそれぞれなす直角部に第1リブ34、第2リブ35が設けられている。
【0024】
基板32の上面から正面にかけて、立て起こし用治具10が構造物1を立て起こす際に、地面に接する接地板36が設けられている。
図3(C)に示すように、接地板36は、第3平面部36a、第2曲面部36b及び第4平面部36cを含む。
【0025】
基板32には、フランジ31に接する部分と当接板33に接する部分の間に、嵌合部37が形成されており(
図3(C)参照)、嵌合部37には、構造物1のフランジ部3Aが嵌合するようになっている。
【0026】
次に、立て起こし用治具10の構造物1への取り付け方法について説明する。まず、
図1に示すように、第2の分割体30の嵌合部37と構造物1のフランジ部3Aが嵌合するように、第2の分割体30を上方より載置する。
【0027】
次いで、第1の分割体20の嵌合部27と構造物1のフランジ部3Bが嵌合するように下方より第1の分割体20を支持する。そうすると、第1の分割体20のフランジ21と、第2の分割体30のフランジ31とが接するので、それぞれの全ての挿通孔21aと挿通孔31aについて、相互に位置合わせをした上でボルト(図示しない)を挿通しナット(図示しない)と締結する。つまり、第1の分割体20と第2の分割体30をフランジ21、31でボルト接合する。このとき、当接板23及び当接板33がそれぞれ本体2を面で押しつけるため、より確実に立て起こし用治具10が構造物1に取り付けられる。
【0028】
これにより、立て起こし用治具10を取り付けるため穴を構造物1に形成したり、立て起こし用治具10を取り付けるためのアタッチメントを用いたりせずに、構造物1に対して立て起こし用治具10を取り付けることができる。
【0029】
図4に示すように、第1の分割体20と第2の分割体30を接合すると、接地板26と、接地板36とが連接して外周面が形成される。この外周面の側面形状は、第1の曲率を有する第1の曲部(第1曲面部26bに相当)と、直線部(第2平面部26c及び第3平面部36aからなる平面部Fに相当)と、第1の曲率よりも高い曲率である第2の曲率を有する第2の曲部(第2曲面部36bに相当)と、を有する。
【0030】
次に、
図5を用いて、立て起こし用治具10を取り付けた構造物1を立て起こす際の工程について説明する。
図5において符号Gは構造物1の重心を示す。
【0031】
まず、構造物1をクレーン(図示しない)で持ち上げるために、横出しの状態になっている構造物1(
図5(A)参照)における、立て起こし用治具10が取り付けられている一端部とは逆側の他端部に吊点P2を設定し玉掛を行う。
【0032】
次いで、構造物1の他端部をクレーンで吊り上げ、立て起こし用治具10の第1曲面部26bの曲面を利用して支持点P1で構造物1を立て起こしていく(
図5(B)-
図5(D)参照)。このように、第1曲面部26bの曲面を利用して構造物1を立て起こすことにより、立て起こしに掛かる荷重が軽減され、1基のクレーンで構造物1を立て起こすことができ、クレーンを配置するための用地も縮小することができる。
【0033】
次いで、さらに、構造物1の他端部をクレーンで吊り上げ、平面部Fを利用して構造物1を斜めの状態で静止させる(
図5(E)参照)。このとき、
図5(E)において、構造物1の重心Gが平面部F(P1)の範囲の何れかの点と吊点P2の間にあることで安定した状態で構造物1を支持することができる。これにより、構造物1を吊り上げる前に地上付近で構造物1のチェックを行うことができる。なお、構造物1の重心Gの位置は、構造物1の材質や形状等によって異なる。そのため、立て起こす構造物1に応じて、その構造物1の重心Gが平面部F(P1)の範囲の何れかの点と吊点P2の間となるように、立て起こし用治具10の外周面の側面形状を設計することとする。
【0034】
次いで、さらに、構造物1の他端部をクレーンで吊り上げ、立て起こし用治具10の第2曲面部36bの曲面を利用して支持点P1で構造物1を立て起こしていき(
図5(F)参照)、構造物1を鉛直に立たせた状態で静止させる(
図5(G)参照)。この状態で、地面Bと平面部Fの間に楔Kを配置する(
図5(G)、
図5(H)参照)。このように、楔Kを配置することにより、構造物1を安定した状態で構造物1を鉛直姿勢で支持することができるため、別途、構造物1を鉛直姿勢で支持するための仮受け台が不要となる。
【0035】
次いで、第1の分割体20と第2の分割体30を接合しているボルトを取り外し、立て起こし用治具10を分解し、構造物1から第2の分割体30を取り外す(
図5(I)参照)。このとき、第2曲面部36bを利用することにより取り外しが容易になる。次いで、構造物1から第1の分割体20を取り外す(
図5(J)参照)。
【0036】
以上説明した本実施形態に係る立て起こし用治具10は、本体2と本体2から張り出す2つのフランジ部3A、3Bを有するT形断面の端部を備えた構造物1の立て起こし用治具であって、フランジ部3A(「一方のフランジ部」の一例)に取り付けられる第1の分割体20と、フランジ部3B(「他方のフランジ部」の一例)に取り付けられる第2の分割体30と、第1の分割体20と第2の分割体30とを接合するボルト・ナット(「接合手段」の一例)と、ボルト・ナットにより接合された立て起こし用治具10の外周形状が、第1の曲率を有する第1曲面部26b(「第1の曲部」に相当する曲面)と、平面部F(「直線部」に相当する平面)と、第1の曲率と異なる第2の曲率を有する第2曲面部36b(「第2の曲部」に相当する曲面)と、を有する。
【0037】
したがって、本実施形態に係る立て起こし用治具10によれば、構造物1の一端部に第1曲面部26bを形成することができることから、構造物1の他端部(吊点P2)を1基のクレーンで吊り上げつつ、第1曲面部26bを利用して、容易に構造物1を立て起こすことができる。また、立て起こし用治具10を取り付けるための穴を構造物1に形成する必要や、立て起こし用治具00を取り付けるためのアタッチメントを用意する必要もない。さらに、平面部Fで構造物1を安定して静止させて、構造物1の確認を行うことができる。
【符号の説明】
【0038】
1 構造物
2 本体
3A、3B フランジ部
10 立て起こし用治具
20 第1の分割体
21 フランジ
21a 挿通孔
22 基板
23 当接板
24 第1リブ
25 第2リブ
26 接地板
26a 第1平面部
26b 第1曲面部
26c 第2平面部
27 嵌合溝
30 第1の分割体
31 フランジ
31a 挿通孔
32 基板
33 当接板
34 第1リブ
35 第2リブ
36 接地板
36a 第3平面部
36b 第2曲面部
36c 第4平面部
37 嵌合溝
B 地面
F 平面部
K 楔
P1 支持点
P2 吊点
G 重心