(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】接触性評価システム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 18/04 20060101AFI20220829BHJP
A61B 90/30 20160101ALI20220829BHJP
A61B 18/18 20060101ALI20220829BHJP
A61B 17/00 20060101ALI20220829BHJP
A61B 18/02 20060101ALI20220829BHJP
A61B 18/24 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
A61B18/04
A61B90/30
A61B18/18
A61B17/00 700
A61B18/02
A61B18/24
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020149594
(22)【出願日】2020-09-07
(62)【分割の表示】P 2017523968の分割
【原出願日】2015-11-03
【審査請求日】2020-10-06
(32)【優先日】2014-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519262397
【氏名又は名称】460メディカル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】460Medical, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】ランズベリー,テランス,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】アームストロング,ケネス,シー.
(72)【発明者】
【氏名】アミラーナ,オマール
(72)【発明者】
【氏名】ラーソン,シナモン
(72)【発明者】
【氏名】ボーエン,ジェームズ
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0079645(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/04
A61B 90/30
A61B 18/18
A61B 17/00
A61B 18/02
A61B 18/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテルと、アブレーション治療システムと、視覚化システムと、プロセッサとを備えるシステムを使用して組織アブレーションを監視する
ためのシステムの使用方法であって、
前記
視覚化システムが、
前記組織のNADHを励起するために照明光を送り、アブレーションの必要な組織に
前記カテーテルの遠位先端を前進させ、照明された前記組織からの反射光を集めること
と、
前記プロセッサが、
アブレーション損傷の形成前の処理であって、前記組織からの反射光を示す信号を受信し、前記組織内のコラーゲンの量を示すコラーゲン蛍光ピーク及び前記組織内の心筋の量を示すNADH蛍光ピー
クのグラフを生成すること
と、ここで、前記コラーゲン蛍光ピークの
グラフと前記NADH蛍光ピークのグラフとが前記組織内のコラーゲンと心筋との相対量を示しており、
前記プロセッサが、前記組織内の損傷形成のためのアブレーション方法であり、アブレーションエネルギーのタイプ、アブレーションエネルギーの出力、アブレーションエネルギーの持続時間及びアブレーションエネルギーのアブレーション温度限界を含むアブレーション方法のうちから1以上を選択するために、前記組織内のコラーゲンと心筋の相対量を表すグラフを
ディスプレイに表示すること
と、
を含む組織アブレーションを監視する
ためのシステムの使用方法。
【請求項2】
前記プロセッサは、組織組成に基づいて前記組織の損傷
形成の位置を調整することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組織が約300nm~約400nmの波長の光で照明される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
約375nm~約575nmの間の波長を有する前記組織からの反射光
を示す信号のレベルを監視して、前記NADH蛍光ピーク及び前記コラーゲン蛍光ピークを識別することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記カテーテルの遠位先端は、エレクトロポレーションエネルギーの形でアブレーションエネルギーを供給するように構成されている請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記アブレーションエネルギーの
タイプは、高周波数(RF)エネルギー、マイクロ波エネルギー、電気エネルギー、電磁エネルギー、冷凍エネルギー、レーザーエネルギー、超音波エネルギー、音響エネルギー、化学エネルギー、熱エネルギー及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記カテーテルは、カテーテル本体と、前記組織にアブレーションエネルギーを供給するために前記カテーテル本体の遠位端に配置されている遠位先端と、前記カテーテル本体を通って前記遠位先端に延びる1つ以上の光ファイバであって、光源及び光測定器と通信状態にあり、前記組織を照明して前記組織からの反射光を前記光測定器に中継する1つ以上の光ファイバと、備える請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記カテーテルは、該カテーテルの長軸方向に対して径方向及び軸方向に前記組織を照明することを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記プロセッサは、NADH蛍光のレベルを
ディスプレイに表示することによって、前記損傷の形成に関するリアルタイムの視覚的なフィードバックを提供することを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記プロセッサがNADH蛍光のレベルを監視することと組み合わせて、前記組織の超音波評価を
超音波システムにより実行することを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記プロセッサは、NADH蛍光のレベルの正規化された大きさを決定し、前記NADH蛍光のレベルの正規化された大きさに対するNADH蛍光のレベルの実際の大きさの変動を
ディスプレイに表示することを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
カテーテルと、アブレーションシステムと、視覚化システムと、プロセッサとを備える、組織アブレーションを監視するためのシステムであって、
前記カテーテルは、カテーテル本体と、該カテーテル本体の遠位端に配置される遠位先端と、を備え、
前記アブレーションシステムは、前記遠位先端にアブレーションエネルギーを供給するために前記遠位先端と通信状態にあり、
前記視覚化システムは、光源と、光測定器と、前記光源及び前記光測定器と通信状態にあり、前記カテーテル本体を通って、前記遠位先端まで延びる1つ以上の光ファイバであって、
前記組織のNADHを励起するために前記組織に光を
送ると共に前記組織からの反射光を集めるように構成された光ファイバと、を備えており、
前記プロセッサは、前記光測定器と通信状態にあり
、前記光源からの光で照明された前記組織からの前記反射光に関するデータを受け取り、前記組織内のコラーゲンの量を示すコラーゲン蛍光ピーク
及び前記組織内の心筋の量を示すNADH蛍光ピー
クのグラフを生成し、ここで、前記コラーゲン蛍光ピークの
グラフと前記NADH蛍光ピークのグラフとが前記組織内のコラーゲンと心筋との相対量を示しており、
前記プロセッサは、アブレーション損傷の形成前の処理であって、前記組織内の損傷形成のためのアブレーション方法であり、アブレーションエネルギーのタイプ、アブレーションエネルギーの出力、アブレーションエネルギーの持続時間及びアブレーションエネルギーのアブレーション温度限界を含むアブレーション方法のうちから1つ以上を選択するために、前記組織内のコラーゲンと心筋の相対量を表すグラフを
ディスプレイに表示する、
ようにプログラムされているシステム。
【請求項13】
前記アブレーションシステムによるエネルギーの供給位置は、前記組織の組織組成の決定に基づいて調整される請求項
12に記載のシステム。
【請求項14】
前記組織が約300nm~約400nmの波長の光で照明される請求項
12に記載のシステム。
【請求項15】
前記プロセッサは、波長が約375nm~約575nmの前記組織からの反射光
を示す信号のレベルを監視する請求項
12に記載のシステム。
【請求項16】
前記カテーテルは、
該カテーテルの長軸方向に対して径方向及び軸方向に前記組織を照明するように構成されている請求項
12に記載のシステム。
【請求項17】
前記カテーテルは、1つ以上の超音波トランスデューサと1つ以上の電磁位置特定センサとを更に備え、前記システムは、前記組織の超音波評価のための、前記1つ以上の超音波トランスデューサと通信状態にある超音波システムを更に備える、請求項
12に記載のシステム。
【請求項18】
前記カテーテルは、1つ以上の電磁位置特定センサを更に備え、前記システムは、前記カテーテルの位置を特定してナビゲートするための、前記1つ以上の電磁位置特定センサと通信状態にあるナビゲーションシステムを更に備える、請求項
12に記載のシステム。
【請求項19】
カテーテルと、アブレーション治療システムと、視覚化システムと、プロセッサとを備えるシステムを使用して組織アブレーションを監視する
ためのシステムの使用方法であって、
前記
視覚化システムが、
前記組織のNADHを励起するために照明光を送り、アブレーションの必要な組織に
前記カテーテルの遠位先端を前進させ、前記組織のNADHを励起するために前記組織からの反射光を集めること
と、
前記プロセッサが、前記組織からの反射光を示す信号を受信し、前記組織内のコラーゲンの量を示すコラーゲン蛍光ピーク及び前記組織内の心筋の量を示すNADH蛍光ピー
クのグラフを生成すること
と、
前記プロセッサは、
アブレーション損傷の形成前の処理であって、前記組織内の損傷形成のための前記組織内のコラーゲンの量に基づいて、アブレーションパラメータであ
る、アブレーションエネルギーのタイプ、アブレーションエネルギーの出力、アブレーションエネルギーの持続時間及びアブレーションエネルギーのアブレーション温度限界を含むアブレーションパラメータの1つ以上の特性を調整するために、前記組織内のコラーゲンの量を示すグラフを
ディスプレイに表示すること、
を含む組織アブレーションを監視する
ためのシステムの使用方法。
【請求項20】
組織組成を判定するために、前記組織内の心筋の量を示すNADH蛍光ピークを特定することを更に含む請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
前記組織内のコラーゲン及び心筋の相対量を判定することをさらに含む更に含む請求項
20に記載の方法。
【請求項22】
前記アブレーションパラメータは、判定された前記組織組成に基づく前記組織のアブレーション位置を含む請求項
19に記載の方法。
【請求項23】
前記組織が約300nm~約400nmの波長の光で照明される請求項
20に記載の方法。
【請求項24】
前記アブレーションエネルギーの
タイプは、高周波数(RF)エネルギー、マイクロ波エネルギー、電気エネルギー、電磁エネルギー、冷凍エネルギー、レーザーエネルギー、超音波エネルギー、音響エネルギー、化学エネルギー、熱エネルギー及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる請求項
20に記載の方法。
【請求項25】
カテーテルと、アブレーションシステムと、視覚化システムと、プロセッサとを備える、組織アブレーションを監視するためのシステムであって、
前記カテーテルは、カテーテル本体と、該カテーテル本体の遠位端に配置される遠位先端と、を備え、
前記アブレーションシステムは、前記遠位先端にアブレーションエネルギーを供給するために前記遠位先端と通信状態にあり、
前記視覚化システムは、光源と、光測定器と、前記光源及び前記光測定器と通信状態にあり、前記カテーテル本体を通って、前記遠位先端まで延びる1つ以上の光ファイバであって、
前記組織のNADHを励起するために前記組織に光を
送ると共に前記組織からの反射光を集めるように構成された光ファイバと、を備えており、
前記プロセッサは、前記光測定器と通信状態にあり
、前記カテーテルの前記遠位先端を通して光で照明された前記組織からの反射光に関するデータを受け取り、前記組織内のコラーゲンの量を示すコラーゲン蛍光ピークのグラフを生成し、
前記プロセッサは、アブレーション損傷の形成前の処理であって、前記組織内の損傷形成のための前記組織内のコラーゲンの量に基づいて、アブレーションパラメータであ
る、アブレーションエネルギーのタイプ、アブレーションエネルギーの出力、アブレーションエネルギーの持続時間及びアブレーションエネルギーのアブレーション温度限界を含むアブレーションパラメータの1つ以上の特性を調整するために、前記組織内のコラーゲンの量を示すグラフを
ディスプレイに表示する、
ようにプログラムされているシステム。
【請求項26】
組織組成の判定に、前記組織内の心筋の量を示すNADH蛍光ピークを特定して、前記組織内のコラーゲン及び心筋の相対量を判定することを含む請求項
25に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2014年11月3日出願の米国仮出願第62/074,615号の利益と優先権を主張するものであり、参照によって当該米国仮出願の内容全体が本願に組み込まれる。
【0002】
本開示は全般として、カテーテルと組織との間の接触性を知るためのアブレーション及び視覚化システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
心房細動(Atrial Fibrillation: AF)は、現在、数百万人が罹患している世界で最も一般的な持続性不整脈である。米国では、2050年までに1000万人がAFに冒されると予測されている。AFは、死亡率と疾病率の増加及び生活の質の悪化を伴い、脳卒中の独立危険因子である。進行するAFの実質的生涯リスクは当該疾病の健康保険負担を際立たせ、米国だけでも70億ドル超の年間治療費になっている。
【0004】
AF患者の症状の殆どが肺静脈(Pulmonary Veins: PV)に延びる筋肉鞘(muscle sleeve)内から生じる局所的な電気的活動によって誘発されることが知られている。心房細動は、上大静脈又は他の心房構造内、即ち心臓の伝導系内の他の心組織内、の局所的活動によって誘発されることもある。これらの局所的誘因は、リエントリ性電気的活動(又は渦巻き型旋回興奮波)によって引き起こされる心房性頻脈を生じさせる可能性があり、その後、心房細動の特性である多数の電気的小波に細分化する場合もある。長期のAFは心細胞膜の機能を変化させることがあり、これらの変化は心房細動をさらに持続させる。
【0005】
高周波アブレーション(Radio Frequency Ablation: RFA)、レーザーアブレーション、及びクライオアブレーションは、心房細動を治療するために医師が用いるカテーテルベースのマッピング及びアブレーションシステムの最も一般的な技術である。医師はカテーテルを用いてエネルギーを誘導して、局所的誘因を破壊するかまたは心臓の他の伝導系から誘因を隔離する電気的隔離線を形成する。後者の技術は、一般に肺静脈隔離(Pulmonary Vein Isolation: PVI)と呼ばれるものに使用される(例えば、特許文献1参照)。しかし、AFアブレーション処置の成功率は、かなり低迷したままであり、術後1年の再発予測率は30%~50%という高さである。カテーテルアブレーション後の最も一般的な再発理由は、PVI線における1つ以上のギャップである。通常、このギャップは、処置中には一時的に電気信号を遮断しているが、時間が経過すると遮断しなくなって心房細動の再発を促す効果のない又は不完全な損傷(lesion)に由来する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
無効又は不完全な損傷は、カテーテルと心筋の接触不良に起因することが少なくない。接触不良であると、カテーテルから心筋へのエネルギーの伝達の効率が悪く、適切な損傷を形成するのに不十分であることが多い。断続的な接触は危険でもあり得る。
【0008】
したがって、結果を向上させコストを削減するために、適切なカテーテルの接触と安定性を提供及び確認するシステムと方法が必要とされている。
【0009】
本開示は全般として、カテーテルと組織との間の接触性を知るためのアブレーション及び視覚化システム及び方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のいくつかの態様によれば、本開示のカテーテルと、アブレーション治療システムと、視覚化システムと、プロセッサとを備えるシステムを使用して組織アブレーションを監視する方法であって、前記システムが、アブレーションの必要な組織に照明光を送り、前記組織からの反射光を集めること、前記プロセッサが、前記組織からの反射光を示す信号を受信し、前記組織内のコラーゲンの量を示すコラーゲン蛍光ピーク及び前記組織内の心筋の量を示すNADH蛍光ピークのうちの少なくとも一方のグラフを生成すること、ここで、前記コラーゲン蛍光ピークの波長は、前記組織内のコラーゲンと心筋の相対量を示しており、前記プロセッサが、前記組織内の損傷形成のためのアブレーション方法であり、アブレーションエネルギーのタイプ、アブレーションエネルギーの出力、アブレーションエネルギーの持続時間及びアブレーションエネルギーのアブレーション温度限界を含むアブレーション方法のうちから1以上を選択するために、前記組織内のコラーゲンと心筋の相対量を表すグラフを表示することを含む方法が提供される。
【0011】
本開示のいくつかの態様によれば、カテーテルと、アブレーションシステムと、視覚化システムと、プロセッサとを備える、組織アブレーションを監視するためのシステムであって、前記カテーテルは、カテーテル本体と、該カテーテル本体の遠位端に配置される遠位先端と、を備え、前記アブレーションシステムは、前記遠位先端にアブレーションエネルギーを供給するために前記遠位先端と通信状態にあり、前記視覚化システムは、光源と、光測定器と、前記光源及び前記光測定器と通信状態にあり、前記カテーテル本体を通って、前記遠位先端まで延びる1つ以上の光ファイバであって、前記組織に光を渡すと共に前記組織からの反射光を集めるように構成された光ファイバと、を備えており、前記プロセッサは、前記光測定器と通信状態にあり、前記プロセッサは、前記光源からの光で照明された前記組織からの前記反射光に関するデータを受け取り、前記組織内のコラーゲンの量を示すコラーゲン蛍光ピークと前記組織内の心筋の量を示すNADH蛍光ピークの少なくとも1つのグラフを生成し、ここで、前記コラーゲン蛍光ピークの波長は、前記組織内のコラーゲンと心筋の相対量を示しており、前記組織内の損傷形成のためのアブレーション方法であり、アブレーションエネルギーのタイプ、アブレーションエネルギーの出力、アブレーションエネルギーの持続時間及びアブレーションエネルギーのアブレーション温度限界を含むアブレーション方法のうちから1つ以上を選択するために、前記組織内のコラーゲンと心筋の相対量を表すグラフを表示する、ようにプログラムされているが提供される。
【0012】
本開示の別の態様によれば、カテーテルと、アブレーション治療システムと、視覚化システムと、プロセッサとを備えるシステムを使用して組織アブレーションを監視する方法であって、前記システムが、アブレーションの必要な組織に照明光を送り、前記組織からの反射光を集めること、前記プロセッサが、前記組織からの反射光を示す信号を受信し、前記組織内のコラーゲンの量を示すコラーゲン蛍光ピーク及び前記組織内の心筋の量を示すNADH蛍光ピークのうちの少なくとも一方のグラフを生成すること、プロセッサは、前記組織内の損傷形成のための前記組織内のコラーゲンの量に基づいて、アブレーションパラメータであって、アブレーションエネルギータイプ、アブレーションエネルギー出力、アブレーションエネルギーの持続時間及びアブレーションエネルギーのアブレーション温度限界を含むアブレーションパラメータの1つ以上の特性を調整するために、前記組織内のコラーゲンの量を示すグラフを表示すること、含む方法が提供される。
【0013】
本開示の更に別の態様によれば、カテーテルと、アブレーションシステムと、視覚化システムと、プロセッサとを備える、組織アブレーションを監視するためのシステムであって、前記カテーテルは、カテーテル本体と、該カテーテル本体の遠位端に配置される遠位先端と、を備え、前記アブレーションシステムは、前記遠位先端にアブレーションエネルギーを供給するために前記遠位先端と通信状態にあり、前記視覚化システムは、光源と、光測定器と、前記光源及び前記光測定器と通信状態にあり、前記カテーテル本体を通って、前記遠位先端まで延びる1つ以上の光ファイバであって、前記組織に光を渡すと共に前記組織からの反射光を集めるように構成された光ファイバと、を備えており、前記プロセッサは、前記光測定器と通信状態にあり、前記プロセッサは、前記カテーテルの前記遠位先端を通して光で照明された前記組織からの反射光に関するデータを受け取り、前記組織内のコラーゲンの量を示すコラーゲン蛍光ピークのグラフを生成し、前記組織内の損傷形成のための前記組織内のコラーゲンの量に基づいて、アブレーションパラメータであって、アブレーションエネルギータイプ、アブレーションエネルギー出力、アブレーションエネルギーの持続時間及びアブレーションエネルギーのアブレーション温度限界を含むアブレーションパラメータの1つ以上の特性を調整するために、前記組織内のコラーゲンの量を示すグラフを表示する、ようにプログラムされているシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本明細書で開示される実施形態は、同様の構造がいくつかの図を通して同様の番号で参照される添付図面を参照してさらに説明される。示されている図面は必ずしも縮尺通りではなく、その代わりに、本明細書で開示される実施形態の原理を説明することに概して重点が置かれている。
【0015】
【
図1A】本開示のアブレーションを視覚化および監視するシステムの一実施形態を示す概略構成図である。
【
図1B】本開示のアブレーションを視覚化および監視するシステムに関連して使用するための視覚化システムの実施形態を示すブロック図である。
【
図1C】本開示のシステムおよび方法と関連して使用するのに適した例示コンピュータシステムを示すブロック図である。
【
図2A】本開示のカテーテルの種々の実施形態を示す。
【
図2B】本開示のカテーテルの種々の実施形態を示す図である。
【
図2C】本開示のカテーテルの種々の実施形態を示す図である。
【
図2D】本開示のカテーテルの種々の実施形態を示す図である。
【
図2E】本開示のカテーテルの種々の実施形態を示す図である。
【
図3】本開示によるカテーテルと組織との間の接触を監視するための例示的な蛍光スペクトルスポットを示すグラフである。
【
図4】種々の組織組成の例示的なスペクトルプロットを示すグラフである。
【
図5A】本開示によるカテーテルの安定性を監視するための例示的な蛍光スペクトルプロットを示すグラフである。
【
図5B】本開示によるカテーテルの安定性を監視するための例示的な蛍光スペクトルプロットを示すグラフである。
【
図6】本開示によるカテーテルの安定性を監視するための例示的な蛍光スペクトルプロットトを示すグラフである。
【
図7】アブレーションエネルギー印加中の時間のfNADHとインピーダンスを比較するグラフである。
【0016】
上記で明らかにされた図面は、本明細書に開示される実施形態を示すものであるが、説明に記されているように、他の実施形態も考えられる。本開示は、限定ではなく代表として例示的な実施形態を示す。当業者には、ここに開示されている実施形態の原理の範囲及び趣旨を逸脱しない数多くの他の変更形態及び実施形態を考案することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、損傷評価のための方法及びシステムを提供する。いくつかの実施形態では、本開示のシステムは、標的組織にアブレーション治療を行う治療機能及び損傷にアクセスするためにカテーテルと組織との接触点からシグネチャスペクトルを収集する診断機能という2つの機能を果たすように構成されたカテーテルを備える。いくつかの実施形態では、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(Nicotinamide Adenine Dinucleotide Hydrogen: NADH)蛍光(fluorescence NADH: fNADH)を使用して組織を撮像するために本開示のシステム及び方法を用いてもよい。一般に、本システムは、組織とカテーテルとの間で光を交換するための光学システムを備えたカテーテルを備えてもよい。いくつかの実施形態では、本システムは、紫外線(ultraviolet: UV)励起によって誘発される組織のNADH蛍光又はその欠如を直接視覚化するようにする。組織から戻ったNADH蛍光シグネチャは、組織とカテーテルシステムとの間の接触の質を判断するために使用することができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、カテーテルはその遠位端(先端部)にアブレーション治療システムを備え、レーザなどの光源とスペクトロメータとを備える診断ユニットに接続される。カテーテルは、光源及びスペクトロメータからカテーテルの遠位先端まで延び、カテーテルと組織の間の接触箇所へ照明光を供給し、接触箇所からシグネチャNADHスペクトルを受け取ってスペクトロメータに送る1つ以上のファイバを備えてもよい。標的組織の損傷を評価するためにシグネチャNADHスペクトルを用いてもよい。いくつかの実施形態では、本開示の方法は、損傷のある組織を照明し、組織のシグネチャスペクトルを受信し、組織からのシグネチャスペクトルに基づいた損傷の定性的評価を実施することを含む。この分析は、アブレーション損傷の形成前、形成中、及び形成後にリアルタイムで実施することができる。本開示のシステム及び方法は、心臓組織及びNADHスペクトルに関連付けて記載されているが、本開示のシステム及び方法は、他のタイプの組織及び他のタイプの蛍光に関連付けて用いてもよいことに留意されたい。
【0019】
システム:診断ユニット
図1Aに示すように、アブレーション治療を行うためのシステム100は、アブレーション治療システム110と、視覚化システム120と、カテーテル140とを備えてもよい。いくつかの実施形態では、システム100は、1つ以上のイリゲーションシステム(irrigation system)170、超音波システム190,及びナビゲーションシステム200を備えてもよい。このシステムは、以下に記載されるように、別個のディスプレイとすることもできるし、視覚化システム120の一部とすることもできるディスプレイ180を備えてもよい。いくつかの実施形態では、このシステムは、RF発生器、イリゲーションシステム170、先端イリゲーション型アブレーションカテーテル140、及び視覚化システム120を備える。
【0020】
いくつかの実施形態では、アブレーション治療システム110は、カテーテル140にアブレーションエネルギーを供給するように設計されている。アブレーション治療システム110は、高周波(Radio Frequency: RF)エネルギー、マイクロ波エネルギー、電気エネルギー、電磁エネルギー、冷凍エネルギー(cryoenergy)、レーザエネルギー、超音波エネルギー、音響エネルギー、化学エネルギー、熱エネルギー、又は組織を焼灼するのに使用可能ないずれかのタイプのエネルギーを発生できる1つ以上のエネルギー源を備えてもよい。いくつかの実施形態では、カテーテル140はアブレーションエネルギーに適したものとし、アブレーションエネルギーは、RFエネルギー、冷凍エネルギー、レーザ、電気穿孔法(エレクトロポレーション)、高密度焦点式超音波又は超音波、及びマイクロ波のうちの1以上である。
【0021】
図1Bに示すように、視覚化システム120は、光源122、光測定器124、及びコンピュータシステム126を備えてもよい。
【0022】
いくつかの実施形態では、光源122は、健康な心筋細胞に蛍光を誘導するために、標的蛍光体(fluorophore)(いくつかの実施形態では、NADH)の吸収範囲内の出力波長とすることもできる。いくつかの実施形態では、光源122は、NADH蛍光を励起するためのUV光を生成できる固体レーザである。いくつかの実施形態では、波長は約355nm又は355nm±30nmであってもよい。いくつかの実施形態では、光源122はUVレーザとすることができる。レーザ生成UV光は、照明のためにはるかに多くの出力を提供してもよく、カテーテル140のいくつかの実施形態で使用されるように、ファイバベースの照明システムに更に効率的に組み合わせてもよい。いくつかの実施形態では、本システムは、出力を150mWまで調整できるレーザを使用することができる。
【0023】
光源122の波長範囲は、対象の解剖学的構造によって限定されてもよいし、わずかに短い波長でのみ吸収ピークを示すコラーゲンの過剰蛍光を励起させることなく最大NADH蛍光を生じさせる波長をユーザが具体的に選択してもよい。いくつかの実施形態では、光源122の波長は、300nm~400nmである。いくつかの実施形態では、光源122の波長は、330nm~370nmである。いくつかの実施形態では、光源122の波長は、330nm~355nmである。いくつかの実施形態では、狭帯域355nmの光源が使用されてもよい。光源122の出力パワーは、回復可能な組織蛍光シグネチャを生成するのに十分な高さであるが、細胞損傷を誘発するほど高くないものであってもよい。以下に説明するように、カテーテル140に光を供給するために光源122が光ファイバに接続されてもよい。
【0024】
いくつかの実施形態において、本開示のシステムでは、光測定器124としてスペクトロメータが利用されてもよいが、光測定器が採用されてもよい。
【0025】
光ファイバは集められた光を、355nmの反射励起波長を遮断するが、フィルタのカットオフより上の波長で組織から放出された蛍光を通過させるロングパスフィルタに供給することができる。組織からのフィルタ処理された光は、次に、光測定器124が取り込んで分析される。コンピュータシステム126は光測定器124から情報を取得し、それを医師に表示する。
【0026】
図1Aに示すように、いくつかの実施形態では、本開示のシステム100は、超音波システム190を更に備えてもよい。この場合、カテーテル140は、超音波システム190と通信する超音波トランスデューサを備えるとよい。いくつかの実施形態では、超音波は、代謝活性又は損傷の深さと組み合わせて、損傷が実際に経壁であるか否かの判断に使用できる組織深さを示すこともできる。いくつかの実施形態では、超音波トランスデューサは、カテーテル140の先端部、場合によっては遠位の電極の先端に配置されてもよい。超音波トランスデューサは、カテーテル先端部の下又は近傍の組織の厚さを評価するように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、カテーテル140は、カテーテルの遠位端が心筋に対して比較的垂直であるか又は心筋と比較的平行である状況をカバーする深さ情報を提供するように適合された複数のトランスデューサを備えてもよい。
【0027】
図1Aに示すように、上記システム100は、イリゲーションシステム170も備えることができる。いくつかの実施形態では、イリゲーションシステム170は、アブレーション治療中にカテーテル140内に生理食塩水をポンプ輸送して遠位端の電極を冷却する。これにより、スチームポップ及び炭化(即ち、遠位端に付着し、脱落して血栓溶解事象を引き起こす可能性のある凝塊)の形成を防止するのを助けることができる。いくつかの実施形態では、イリゲーション流体は、1つ以上の開口部154を連続的に洗浄するために、カテーテル140の外側の圧力に対して正の圧力に維持される。
【0028】
図1Aに示すように、システム100は、カテーテル140の位置を特定してナビゲートするためのナビゲーションシステム200を備えてもよい。いくつかの実施形態では、カテーテル140は、ナビゲーションシステム200と通信する1つ以上の電磁位置特定センサを備えてもよい。いくつかの実施形態では、電磁位置特定センサを用いてナビゲーションシステム200内でカテーテルの先端部の位置を特定してもよい。センサは、波源位置からの電磁エネルギーを受信し、三角測量又は他の手段によって位置を計算する。いくつかの実施形態では、カテーテル140は、ナビゲーションシステムのディスプレイ上にカテーテル本体142の位置及びカテーテル本体の湾曲を表現するようになっている2つ以上のトランスデューサを含む。いくつかの実施形態では、ナビゲーションシステム200は1つ以上の磁石を備えても良く、電磁センサ上の磁石によって生成された磁場の変化によってカテーテルの遠位端を所望の方向に偏向させることができる。手動ナビゲーションを含む他のナビゲーションシステムが採用されてもよい。
【0029】
コンピュータシステム126は、例えば、光源122の制御、光測定器124の制御、特定用途向けソフトウェアの実行、超音波システム、ナビゲーションシステム、及びイリゲーションシステムの制御、並びに同様の操作を含む、システム100の種々のモジュールを制御するようにプログラムすることができる。
図1Cは、一例として、本開示の方法及びシステムに関連して使用できる典型的な処理アーキテクチャ308の図を示す。コンピュータ処理装置340は、グラフィック出力のためにディスプレイ340AAに接続することができる。プロセッサ342は、ソフトウェアを実行できるコンピュータプロセッサ342とすることができる。典型的な例は、コンピュータプロセッサ(インテル(登録商標)プロセッサ又はAMD(登録商標)プロセッサなど)、ASIC、マイクロプロセッサ等であってもよい。プロセッサ342は、プロセッサ342が動作しているときに命令及びデータを記憶するための、一般的には揮発性RAMメモリとすることが可能なメモリ346に接続することができる。プロセッサ342は、ハードドライブ、FLASH(登録商標)ドライブ、テープドライブ、DVDROM、又は同様のデバイスなどの不揮発性記憶媒体とすることができる記憶装置348に接続することもできる。図示されていないが、コンピュータ処理装置340は、一般に種々の形態の入力及び出力を含む。I/Oは、ネットワークアダプタ、USBアダプタ、ブルートゥース(登録商標)無線、マウス、キーボード、タッチパッド、ディスプレイ、タッチスクリーン、LED、振動デバイス、スピーカ、マイクロフォン、センサ、又はコンピュータ処理装置340と一緒に使用する入力又は出力装置であればどのようなものでも含むことができる。プロセッサ342は、特に限定されるものではないが、プロセッサ342などのプロセッサにコンピュータ可読命令を提供することができる、電子的、光学的、磁気的、又は他の記憶装置又は送信装置を含が、これに限定されない他のタイプのコンピュータ可読媒体に接続することもできる。有線式及び無線式の両方の、ルータ、プライベート又はパブリックネットワーク、又は他の送信デバイス又はチャネルを含む、様々な他の形態のコンピュータ可読媒体が、コンピュータに命令を送信又は搬送することができる。命令は、例えば、C、C++、C#、Visual Basic、Java、Python、Perl、及びJava Scriptを含む任意のコンピュータプログラミング言語のコードを含むことができる。
【0030】
プログラム349は、命令及びデータのうちの少なくとも一方を含むコンピュータプログラム又はコンピュータ可読コードとすることができ、記憶装置348に記憶可能である。命令は、例えば、C、C++、C#、Visual Basic、Java、Python、Perl、及びJavaScriptを含む任意のコンピュータプログラミング言語のコードを含むことができる。一般的なシナリオでは、プロセッサ342は、実行するためにプログラム349の命令及びデータのうちの少なくとも一方の一部又は全部をメモリ346にロードすることができる。プログラム349は、特に限定されるものではないが、ウェブブラウザ、ブラウザアプリケーション、アドレス登録プロセス、アプリケーション、又は他の任意のコンピュータアプリケーション又はプロセスなどを含むが、これに限定されない任意のコンピュータプログラム又はプロセスとすることができる。プログラム349は、メモリ346にロードされてプロセッサ342によって実行されるときに、プロセッサ342に様々な動作を実行させる種々の命令及びサブルーチンを含むことができ、それらの命令及びサブルーチンの一部又は全部がここに開示された医療管理方法を実施してもよい。プログラム349は、ハードドライブ、リムーバブルドライブ、CD、DVD、又は任意の他のタイプのコンピュータ可読媒体などに限定されず、任意のタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体に格納することができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、本開示の方法のステップを実行し、本システムの様々な部分を制御して、本開示の方法を達成するために必要な動作を実行するようにコンピュータシステムをプログラムすることができる。いくつかの実施形態では、プロセッサは、カテーテルの遠位先端からのUV光で径方向、軸方向、又はその両方向に照明された組織からNADH蛍光を受信し、照明された組織のNADH蛍光のレベルから、カテーテルの遠位先端が組織と接触状態にあるか否かを判断し、遠位先端が組織と接触していると判断すると、組織に損傷を形成するために組織へのアブレーションエネルギーの供給を(自動的に又はユーザに促すことによって)生じさせるようにプログラムされていてもよい。
【0032】
本発明は、遠位先端が組織と接触したままであることを確認するために、アブレーションエネルギーの供給中にNADH蛍光のレベルを監視するように更にプログラムされてもよい。いくつかの実施形態では、遠位先端と組織との間の接触の安定性を判断するために、アブレーションエネルギー供給中のNADH蛍光のレベルの監視がなされてもよい。いくつかの実施形態では、遠位先端と組織との間の接触が安定していない場合に組織のアブレーションが停止される場合がある。いくつかの実施形態では、プロセッサは、照明された組織から反射される蛍光光線のスペクトルを収集して、組織のタイプを識別するように更にプログラムされてもよい。
【0033】
いくつかの実施形態では、組織は波長が約300nm~約400nmの光で照明される。いくつかの実施形態では、波長が約450nm~470nmの反射光のレベルが監視される。いくつかの実施形態では、監視されるスペクトルを410nm~520nmとしてもよい。これに加え、又は別の選択肢として、非限定的な例として、375nm~575nmなど、より広いスペクトルを監視してもよい。いくつかの実施形態では、NADH蛍光スペクトル及びより広いスペクトルを同時にユーザに表示することができる。いくつかの実施形態では、損傷は、高周波(RF)エネルギー、マイクロ波エネルギー、電気エネルギー、電磁エネルギー、冷凍エネルギー、レーザエネルギー、超音波エネルギー、音響エネルギー、化学エネルギー、熱エネルギー、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれるアブレーションエネルギーによって形成されてもよい。いくつかの実施形態では、NADH蛍光ピークが検出されたときに(自動的に又はユーザに促すことによって)処置を開始して、処置の間ずっと監視できるようにしてもよい。上記のように、プロセッサは、超音波モニタリングなど他の診断方法と組み合わせてこれらの方法を実行してもよい。
【0034】
システム:カテーテル
上述したように、カテーテル140は、照明及び分光のための光ファイバの収容部(accommodation)を備えた標準的なアブレーションカテーテルに基づくものであってもよい。いくつかの実施形態では、カテーテル140は、標準的な経中隔処置と一般的なアクセスツールにより、シースを通して心内腔に送達できる誘導可能なイリゲーション式RFアブレーションカテーテルである。カテーテルのハンドル147上には、治療のための標準的なRF発生器及びイリゲーションシステム170の接続部があってもよい。カテーテルハンドル147には光ファイバも通され、次いで、光ファイバは、組織測定値を得るための診断ユニットに接続される。
【0035】
図1Aに示すように、カテーテル140は、近位端144及び遠位端146を有するカテーテル本体142を含む。カテーテル本体142は、生体適合性材料から作製されてもよく、アブレーション部位へカテーテル140を誘導及び前進させることができるように十分な可撓性を備えるものであってもよい。いくつかの実施形態では、カテーテル本体142は、様々な剛性のゾーンを有することもできる。例えば、近位端144から遠位端146に向かってカテーテル140の剛性が増加してもよい。いくつかの実施形態では、カテーテル本体142の剛性は、所望の心臓位置へカテーテル140を送達できるように選択される。いくつかの実施形態では、カテーテル140はシースを通し、心臓の左側の場合には、一般的なアクセスツールを用いた標準的な経中隔処置により、心内腔に送達できる誘導可能なイリゲーション式高周波(RF)アブレーションカテーテルとすることができる。カテーテル140は、近位端144にハンドル147を備えることができる。装置又は材料をカテーテル140に通せるように、ハンドル147はカテーテルの1つ以上の管腔(lumen)と連通してもよい。いくつかの実施形態では、ハンドル147は、治療用の標準的なRF発生器及びイリゲーションシステム170の接続部を備えることができる。いくつかの実施形態では、カテーテル140は、照明及び分光のための光ファイバを収容するように構成された1つ以上のアダプタも備えることができる。
【0036】
図1Aに示すカテーテル140は、
図2Aに示すように、側壁156と前壁158とを有する遠位先端148を遠位端146に備えることができる。前壁158は、例えば、平坦状、円錐状又はドーム状とすることもできる。いくつかの実施形態では、遠位先端148は、電気記録感知のような診断用、アブレーションエネルギーを放出するためなどの治療用、又はその両方のために、電極として作用するように構成することができる。アブレーションエネルギーが必要とされるいくつかの実施形態では、カテーテル140の遠位先端148は、アブレーション電極又はアブレーション要素として機能することができる。
【0037】
RFエネルギーが提供される実施形態では、遠位先端148をRFエネルギー源(カテーテルの外部)に接続するための配線をカテーテルの管腔に通すことができる。遠位先端148は、カテーテルの1つ以上の管腔と連通するポートを備えることができる。遠位先端148は任意の生体適合性材料から作製することができる。いくつかの実施形態では、遠位先端148が電極として機能するように構成される場合、遠位先端148は、特に限定されるものではないが、プラチナ、プラチナ-イリジウム、ステンレス鋼、チタン、又は類似の材料などの金属で作製することができる。
【0038】
図2Aに示すように、光ファイバ又は撮像バンドル150は、視覚化システム120から、カテーテル本体142を通って、遠位先端148によって画定される照明キャビティ152又は照明区画に通すこともできる。遠位先端148には、照明キャビティ152と組織との間で光エネルギーを交換するための1つ以上の開口部154が設けられてもよい。いくつかの実施形態では、複数の開口部154があっても、アブレーション電極としての遠位先端148の機能は損なわれない。開口部154は、前壁158、側壁156、又はその両方に配置することができる。開口部154は、イリゲーションポートとして使用することもできる。光は、光ファイバ150によって遠位先端148に供給され、遠位先端148の近傍の組織を照明する。この照明光は、反射されるか、又は組織を蛍光発光させる。組織によって反射された及び組織から蛍光発光された光は、遠位先端148内の光ファイバ150によって集められ、視覚化システム120に取り込まれてもよい。いくつかの実施形態では、遠位先端の照明チャンバに光を誘導してカテーテル140の外側の組織を照明し、且つ組織から光を収集するために同じ光ファイバ150又はファイババンドルが使用されてもよい。
【0039】
図2Aに示すように、いくつかの実施形態では、カテーテル140は、光ファイバ150がカテーテル本体142を通って前進することができる視覚化管腔161を備えてもよい。光ファイバ150は、視覚化管腔161を通って照明キャビティ152内に進められ、組織を照明し、開口部154を通して反射光を受け取ることもできる。光ファイバ150は、必要に応じて、開口部154を通って照明キャビティ152を越えて前進させてもよい。
【0040】
図2A及び
図2Bに示されているように、視覚化管腔161の他に、カテーテル140は、イリゲーション液をイリゲーションシステム170から遠位先端148の開口部154(イリゲーションポート)に通すためのイリゲーション管腔163と、例えばRFアブレーションエネルギー用のアブレーション管腔164にワイヤーを通すことなどによって、アブレーション治療システム110から遠位先端148へアブレーションエネルギーを渡すためのアブレーション管腔164とを更に備えることもできる。カテーテルの管腔は複数の目的のために使用されてもよいし、複数の管腔が同じ目的のために使用されてもよいことに留意されたい。また、
図2A及び
図2Bでは、管腔を同心に示しているが、管腔は他の構成を採用することもできる。
【0041】
図2A及び
図2Bに示されているように、いくつかの実施形態では、カテーテルの中央管腔を視覚化管腔161として利用することもできる。いくつかの実施形態では、
図2Cに示されているように、視覚化管腔161は、カテーテル140の中心アクセスからずらすこともできる。
【0042】
いくつかの実施形態では、光は、側壁156の開口部154から径方向に誘導されてもよいし、これとは別に、又はこれに追加して、前壁158の開口部を通って誘導されてもよい。このようにして、照明キャビティ152と組織との間の光エネルギーの交換は、
図2Eに示されているように、複数の経路でカテーテルの長軸方向に対して、軸方向、径方向、又はその両方向に行われる。これは、解剖学的構造によってカテーテルの先端部が標的部位と直交できない場合に有用である。照明を増加させる必要がある場合にも有用である。いくつかの実施形態では、追加の光ファイバ150を使用することもでき、カテーテルの長さに沿って照明光及び戻り光が出入りできるように、これらをカテーテル140に対して径方向に偏向させてもよい。
【0043】
図2Dに示すように、複数の経路にわたって(カテーテルの長軸方向に対して軸方向及び半径方向に)照明キャビティ152と組織との間で光エネルギーの交換を可能にするために、照明キャビティ152に光誘導部材160を設けてもよい。光誘導部材160は、照明光を組織に誘導することができ、遠位先端148内の1つ以上の開口部154を通って戻された光を光ファイバ150に誘導してもよい。光誘導部材160はまた、例えば、ステンレス鋼、プラチナ、プラチナ合金、石英、サファイア、溶融シリカ、金属化プラスチック、又は他の同様な材料など、光を反射するか又は光を反射するように改質できる表面を有する任意の生体適合性材料から作製されてもよい。光誘導部材160は、円錐状(即ち、滑らか)であってもよいし、任意の数の辺を有するファセット(面)であってもよい。光誘導部材160は、任意の所望の角度で光を曲げる形状にしてもよい。いくつかの実施形態では、光誘導部材160は、1つ以上の開口部を介してのみ光を反射する形状にしてもよい。いくつかの実施形態では、光誘導部材160は、3つ又は4つの同等のファセットを備えることができるが、それより多い又は少ないファセットが使用されてもよい。いくつかの実施形態では、ファセットの数が側壁156の開口部の数と一致してもよい。いくつかの実施形態では、存在するファセットが、側壁156の開口部154よりも少数であってもよい。いくつかの実施形態では、光誘導部材160の中心軸に対して45°(カテーテルの軸に対して135°)にファセットが配置されてもよい。いくつかの実施形態では、光をより遠位に又はより近位に誘導するために、ファセット166は45°よりも大きな角度で配置されても、小さな角度で配置されてもよい。
【0044】
いくつかの実施形態では、光誘導部材160の材料は、310nm~370nmの照明に露光されたときに蛍光発光しない材料から選ばれる。いくつかの実施形態では、
図2Dに示されているように、光誘導部材160は、ミラーの中心線を通る1つ以上の孔162を含むことができ、照明光及び反射光が、カテーテル140と一直線上に軸方向に両方向に通過する。このような軸方向経路は、遠位先端148の最先端の表面が生体構造と接触しているときに有効である。代わりとなる径方向経路は、
図2Eに示されているように、心房細動の治療で一般的な肺静脈隔離処置の間の患者の左心房に時々あるように、解剖学的構造によって遠位先端148の最先端の表面が標的部位に接触できない場合に有用であり得る。いくつかの実施形態では、多くの場合に生理食塩水である冷却流体を光が通過するので、すべての経路で、レンズ効果を必要とせず、光学システムがイリゲーションシステム170と互換性がある。イリゲーションシステム170は、孔162から血液を流す役割も果たしてもよく、したがって光学部品が清潔に維持される。
【0045】
使用方法
いくつかの実施形態では、組織アブレーションを監視するための方法が提供される。そのような方法は、以下に記載されるように、NADH蛍光のレベルを表示することによって損傷形成に影響を及ぼす可能性のある種々の因子に関するリアルタイムの視覚フィードバックを提供してもよい。
【0046】
いくつかの実施形態では、本開示の組織アブレーションを監視するための方法は、アブレーションの必要がある組織にアブレーションカテーテルの遠位先端を前進させ、組織のNADHを励起するために組織をUV光で径方向、軸方向、又はその両方向に照明し、照明されている組織のNADH蛍光のレベルから、カテーテルの遠位先端が組織と接触しているか否か判断し、そのような接触が確立されると、組織にアブレーションエネルギーを供給して組織に損傷を形成することを含む。この方法は、遠位先端が組織に接触し続けていることを確認するために、アブレーションエネルギーの供給中にNADH蛍光のレベルを監視することをさらに含んでもよい。いくつかの実施形態では、遠位先端と組織との間の接触の安定性を判断するために、アブレーションエネルギー供給中のNADH蛍光のレベルの監視がなされてもよい。いくつかの実施形態では、遠位先端と組織との間の接触が安定していない場合には、組織のアブレーションが停止されることがある。いくつかの実施形態では、この方法は、組織のタイプを識別するために、照明された組織から反射される蛍光光線のスペクトルを収集することを更に含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、組織は波長が約300nm~約400nmの光で照明される。いくつかの実施形態では、波長が約450nm~470nmの反射光のレベルが監視される。いくつかの実施形態では、監視されるスペクトルを410nm~520nmとしてもよい。これに加え、又は別の選択肢として、非限定的な例として、375nm~575nmなど、より広いスペクトルを監視してもよい。いくつかの実施形態では、損傷は、高周波(RF)エネルギー、マイクロ波エネルギー、電気エネルギー、電磁エネルギー、冷凍エネルギー、レーザエネルギー、超音波エネルギー、音響エネルギー、化学エネルギー、熱エネルギー、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれるアブレーションエネルギーによって形成されてもよい。いくつかの実施形態では、処置の間ずっと監視できるように、NADH蛍光ピークが検出されたときにこの方法が開始されてもよい。上記のように、これらの方法は、超音波モニタリングなど他の診断方法と組み合わせて使用されてもよい。
【0048】
接触評価
カテーテルの先端部が心内膜心筋又は心外膜心筋などの改造構造に接触すると、戻されたスペクトルに組織の特性及び状態が現れる。
図3に示されているように、400nm~600nmのスペクトルは、血液(小振幅)、アブレーションされたことのある組織、健康な組織で異なっている。波長が355nmで照明された場合、健康な組織のシグネチャは、大半が400nm~600nmの波長のNADH蛍光であり、中心は約460nm~約470nmである。これは、カテーテルが適切に配置されて、アブレーションの必要がある組織と接触しているか否か判断するのに役立つ。また、カテーテルを表面に対して更に押しつけると蛍光が上昇し、スペクトルシグネチャが基準ラインの上方にシフトする場合がある。このようなフィードバックの使用は、カテーテルアブレーション中及び操作中の穿孔の危険を低減するのに役立ち、最適でない組織接触部位でのアブレーションを回避するのに役立ち、ひいてはRFアブレーション時間を短縮させることができる。
【0049】
図4に示すように、いくつかの実施形態では、より広いスペクトルにわたってスペクトルシグネチャが収集されてもよい。例えば、コラーゲン組織のスペクトルパターンは、健康な心筋で見られるものとは異なっている。この事例では355nmの光源で照明したとき、コラーゲン組織の撮像時にコラーゲンの蛍光作用増加のために、スペクトルのピークは左に(470nmから445nmへ)、より短い波長へシフトする。これは、大部分が心筋であるか、又はアブレーションするのが難しいコラーゲンで覆われていると見なされる領域を特定するために、ユーザが使用することができる。
【0050】
いくつかの実施形態では、損傷形成中のカテーテルの安定性と動作を判断するためにスペクトルシグネチャが監視されてもよい。
【0051】
図5A及び5Bに示すように、カテーテルと心筋の断続的な接触の例が示されている。カテーテルが心筋に接離すると、雑音が入ったスペクトルシグネチャで示されるように、fNADHの振幅が経時的に変化する。そのようなスペクトルシグネチャは接触安定不良を示すものである。一方、fNADH強度の緩やかな低下が経時的なアブレーション損傷の形成を示すので、滑らかな応答は安定したカテーテルに対応している。
【0052】
図6に示すように、期間1のRFエネルギー印加期間中におけるfNADHの振幅は比較的滑らかである。期間1ではfNADHの減少も示されているが、これは、上述のようにアブレーションされた組織にはfNADHが少ないか、又は存在しないためで、成功した損傷形成を示すものである。しかし、直線状の損傷を形成するためにRFエネルギーを印加しながらカテーテルがドラッグされると、カテーテルのアブレーション先端部がアブレーション前の新たな心筋に遭遇するので、新たなfNADHピークが現れる。fNADHの減少は、この時点から安定する。信号振幅の減少は、心筋に対するRFエネルギーの作用を示す。
【0053】
アブレーション処置中の医師にとって、戻されたスペクトルの情報内容に関連する潜在的有効性がある。375mn~600mnの範囲に有意な振幅を示す光学シグネチャは、カテーテルと心筋のより良好な接触に相関させることが可能である。したがって、特定のアブレーション損傷の質を向上させることができ、処置の結果を改善することができる。カテーテル、即ち、具体的にはカテーテルの遠位先端のアブレーション電極から組織内に光を結合する技術は、組織とカテーテル又は電極との接触性を判断及び評価するために使用することができる。また、アブレーションエネルギーの導入に先立って、アブレーション対象組織のタイプ又はその有無、及びアブレーション対象組織内のコラーゲンの度合いについてより多くの情報を知ることは、最適なアブレーション損傷形成のために医師が用いるアブレーション方法及び技術に影響を及ぼすであろう。例えば、コラーゲンが存在する場合、医師は、別のアブレーションエネルギー源(クライオ(cryo)を越えるレーザ、又は、RFを越えるクライオ)を選ぶこともでき、アブレーション対象組織がコラーゲン性の場合、より深い損傷が達成されるように、出力又は持続時間又は温度の限界をより高く調整することができる。
【0054】
本システムにより、医師は、選択したエネルギー量が安全で効果的であるという確信を持つことができる。アブレーションエネルギーの供給中ずっと、医師が接触を直接評価して損傷を形成できるようにすることは、損傷形成中にカテーテルが組織から離れることなく、鼓動中の心臓が耐えられる連続動作の厳しい環境下で挑戦できることを医師に保証するものである。アブレーション中の組織の光学特性の変化は、組織に供給されて吸収されるエネルギー量の優れた指標である。アブレーション中及びアブレーションエネルギー供給停止直後の組織の明白でない変化は、供給された光を組織がどのように吸収するか、それをどのように散乱させ、それに反応して光を戻すか(NADH蛍光の場合は戻さない)、などである。
【0055】
インピーダンスとの比較
非限定的な例として、
図7は、損傷形成期間にわたってfNADH応答と治療インピーダンスを対比させたものである。インピーダンスは、世界中でアブレーション処置中に使用される標準的な指標である。通常、インピーダンスは、カテーテルの先端部から患者胴部に付着させたアブレーション接地パッドまで測定される。医師は、アブレーションエネルギー開始後の最初の2秒~3秒で約10Ω~15Ωの低下が見込めると予想する。インピーダンスが低下しない場合、これが心筋とのカテーテルの接触不良によるものらしいことが医師に分かり、損傷の試みが中止され、カテーテルが再配置される。上述の方法は、カテーテルと組織のより良好な接触を保証するために使用することもできる。インピーダンスが低下して新たなレベルを維持する場合、通常、医師は一定時間(30秒~60秒又はそれ以上)にわたって損傷形成エネルギーを印加し続ける。インピーダンスが経時的に上昇する場合、これはカテーテル先端部の過熱の可能性を示す指標であり、下降しない場合は、心臓壁断裂をもたらす蒸気発生や脱落して塞栓体となる可能性のあるカテーテル先端部における炭化形成といった危険な状態を招くことがある。
【0056】
図7に示すように、治療インピーダンスと比較したfNADH光学応答の信号対ノイズ比SNRは、fNADHがカテーテル接触性の優れた指標であることを示唆する。fNADHの大きさの振幅の変化は約80%であり、正規化されたインピーダンスの同じ低下は10%未満である。また、インピーダンスに対する光学シグネチャのこの比較は、インピーダンスに対する組織内の活性のより直接的な反映を示すものである。なぜなら、インピーダンスは、しばしば、電極から血液プールを通って接地パッドへ至る電気経路のはるかに大きな反射であるからである。光学的アプローチを用いる場合、あらゆる光シグネチャは組織からのものであり、良好な接触が維持されれば、血液プールに由来するものは皆無である。このように、光学的サインは、インピーダンスシグネチャよりも組織の活性をはるかに高度に反映している。
【0057】
上記の開示は、本開示の様々な非限定的な実施形態を単に例示するために記載されたものであり、限定を意図するものではない。当業者には、本開示の精神および趣旨を組み込んだ開示実施形態の改変を想起できるので、ここに開示される実施形態は、添付の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内のすべてを含むと解釈されるべきである。