(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】ロック機構付ピンセット
(51)【国際特許分類】
B25B 9/02 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
B25B9/02
(21)【出願番号】P 2020170825
(22)【出願日】2020-10-08
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】520125911
【氏名又は名称】松澤 秀俊
(74)【代理人】
【識別番号】100180482
【氏名又は名称】田中 将隆
(72)【発明者】
【氏名】松澤 俊夫
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0247333(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0229667(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0145201(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0106609(US,A1)
【文献】米国特許第04524648(US,A)
【文献】国際公開第93/006307(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の対象物を挟持した状態を維持できるロック機構付ピンセットであって、
2本の棒状部材の一端を互いに接合することにより物理的に一体化された「くの字」形状を有し、接合部分と反対側にある両棒状部材の先端により任意の物体を挟持できるピンセットと、
2本のうち一方の棒状部材の内側面に、軸方向に沿って設けられる、中空構造部材からなる誘導溝と、
細芯の棒状部材からなり、摺動可能なように誘導溝に挿通された摺動軸と、
摺動軸に固着される部材であって、使用者により操作されるスライダと、
ピンセットの所定箇所と摺動軸の一端との間につながれた弾性部材であって、ピンセットの所定箇所および摺動軸の一端に係着されるスライダ位置復帰機構と、
2本の棒状部材のうち片方もしくは両方の棒状部材の内側面に、この内側面に対して起立するように設けられた細芯部材であって、誘導溝よりもピンセット先端に近い位置に配置される係留部材と、
を備え、
摺動軸と、この摺動軸に交差する係留部材とからなるロック機構は、
(1)使用者により、2本の棒状部材の外側面に力が加えられ、両棒状部材がたがいに接近し合って、ピンセット先端に対象物が挟持されている場合において、
スライダがピンセット先端に向けて押出されると、摺動軸と係留部材が係合して、対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれ、
(2)摺動軸と係留部材が係合して対象物を挟持した状態が維持されている際に、使用者により、2本の棒状部材をさらに接近させる向きに力が加えられると、
摺動軸と係留部材の係合状態が解けて、ピンセットの復元力により同ピンセットの2本の棒状部材がたがいに遠ざかり、ピンセット先端に挟持されていた対象物が解放されるとともに、
スライダ位置復帰機構が及ぼす弾性力により、摺動軸とスライダが所定のロック解除位置に復帰する
ように構成されたことを特徴とする、ロック機構付ピンセット。
【請求項2】
任意の対象物を挟持した状態を維持できるロック機構付ピンセットであって、
2本の棒状部材の一端を互いに接合することにより物理的に一体化された「くの字」形状を有し、接合部分と反対側にある両棒状部材の先端により任意の物体を挟持できるピンセットと、
2本のうち一方の棒状部材の内側面に、軸方向に沿って設けられる、中空構造部材からなる誘導溝と、
細芯の棒状部材からなり、摺動可能なように誘導溝に挿通された摺動軸と、
摺動軸の先端に固着された、尖端を有するとともに当該尖端に向かうほど細くなる楔形状の小片部材であって、使用者により操作されるスライダと、
ピンセットの所定箇所と摺動軸の一端の間につながれた弾性部材であって、ピンセットの所定箇所および摺動軸の一端に係着されるスライダ位置復帰機構と、
2本の棒状部材のうち片方もしくは両方の棒状部材の内側面に設けられた部材であって、スライダを誘導するための誘導壁を有してなる係留部材と、
を備え、
スライダと、同スライダを誘導壁沿いに誘導する係留部材とからなるロック機構は、
(1)使用者により、2本の棒状部材の外側面に力が加えられ、両棒状部材がたがいに接近し合って、ピンセット先端に対象物が挟持されている場合において、
スライダがピンセット先端に向けて押出されると、スライダが係留部材の誘導壁沿いに進んだのち、当接した状態にあるスライダと係留部材に作用する摩擦力に基づいて、対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれ、
(2)スライダと係留部材が係合して対象物を挟持した状態が維持されている際に、使用者により、2本の棒状部材をさらに接近させる向きに力が加えられると、
当接していたスライダと係留部材が離れることで同スライダに作用していた摩擦力が消滅し、ピンセットの復元力により同ピンセットの2本の棒状部材がたがいに遠ざかり、ピンセット先端に挟持されていた対象物が解放されるとともに、
スライダ位置復帰機構が及ぼす弾性力により、スライダが所定のロック解除位置に復帰する
ように構成されたことを特徴とする、ロック機構付ピンセット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のロック機構付ピンセットにおいて、
前記スライダ位置復帰機構が、ばねである
ように構成されたことを特徴とする、ロック機構付ピンセット。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のロック機構付ピンセットにおいて、
前記スライダ位置復帰機構が、ゴム紐である
ように構成されたことを特徴とする、ロック機構付ピンセット。
【請求項5】
請求項
2に記載のロック機構付ピンセットにおいて、
誘導溝に設けられたねじ挿通孔と、
ねじ挿通孔に螺合するねじ部材からなる軸位置固定機構と、
をさらに備え、
(1)たがいに当接した状態にあるスライダと係留部材に作用する摩擦力により、対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれている際に、
さらに、軸位置固定機構をなすねじ部材により誘導溝内の摺動軸が締付けられると、摺動軸の位置が固定され、
使用者により、2本の棒状部材をさらに接近させる向きに力が加えられても、スライダと係留部材の係合状態が維持され、
(2)軸位置固定機構による摺動軸への締付が緩和され、摺動軸の位置固定が解除されたのちに、使用者により2本の棒状部材をさらに接近させる向きに力が加えられると、
当接していたスライダと係留部材が離れて、同スライダに作用していた摩擦力が消滅し、ピンセットの復元力により同ピンセットの2本の棒状部材がたがいに遠ざかって、ピンセット先端に挟持されていた対象物が解放されるとともに、
スライダ位置復帰機構が及ぼす弾性力により、スライダが所定のロック解除位置に復帰する
ように構成されたことを特徴とする、ロック機構付ピンセット。
【請求項6】
請求項
2に記載のロック機構付ピンセットにおいて、
誘導溝に設けられた回動部材挿通孔と、
回動部材挿通孔を介して誘導溝に差込まれる円形もしくは楕円形状の回動部材、および、回動部材を誘導溝に取付けるために同回動部材に挿通された回動軸からなる軸位置固定機構と、
をさらに備え、
(1)たがいに当接した状態にあるスライダと係留部材に作用する摩擦力により、対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれている際に、
さらに、軸位置固定機構をなす回動部材からの押圧により誘導溝内の摺動軸が抑えつけられると、摺動軸の位置が固定され、
使用者により、2本の棒状部材をさらに接近させる向きに力が加えられても、スライダと係留部材の係合状態が維持され、
(2)回動部材から摺動軸への押圧が弱められ摺動軸の位置固定が解除されたのちに、使用者により2本の棒状部材をさらに接近させる向きに力が加えられると、
当接していたスライダと係留部材が離れて、同スライダに作用していた摩擦力が消滅し、ピンセットの復元力により同ピンセットの2本の棒状部材がたがいに遠ざかって、ピンセット先端に挟持されていた対象物が解放されるとともに、
スライダ位置復帰機構が及ぼす弾性力により、スライダが所定のロック解除位置に復帰する
ように構成されたことを特徴とする、ロック機構付ピンセット。
【請求項7】
請求項
1に記載のロック機構付ピンセットにおいて、
ピンセット棒状部材の軸方向に沿って摺動可能に設けられた、切断刃と固着された切断刃スライダ、
をさらに備え、
使用者が切断刃スライダをずらすことで、切断刃がピンセットの先端よりも外側に押出され、同切断刃による切断機能が発揮される際、
使用者により、2本の棒状部材の外側面に力が加えられており、両棒状部材がたがいに接近し合って、両棒状部材間に切断刃スライダが挟まれているときに、
スライダがピンセット先端に向けて押出されると、摺動軸と係留部材が係合して、切断刃がピンセット先端から突出た状態が保たれる
ように構成されたことを特徴とする、ロック機構付ピンセット。
【請求項8】
請求項
2に記載のロック機構付ピンセットにおいて、
ピンセット棒状部材の軸方向に沿って摺動可能に設けられた、切断刃と固着された切断刃スライダ、
をさらに備え、
使用者が切断刃スライダをずらすことで、切断刃がピンセットの先端よりも外側に押出され、同切断刃による切断機能が発揮される際、
使用者により、2本の棒状部材の外側面に力が加えられており、両棒状部材がたがいに接近し合って、両棒状部材間に切断刃スライダが挟まれているときに、
スライダがピンセット先端に向けて押出されると、スライダが係留部材の誘導壁沿いに進んだのち、当接した状態にあるスライダと係留部材に作用する摩擦力に基づいて、切断刃がピンセット先端から突出た状態が保たれる
ように構成されたことを特徴とする、ロック機構付ピンセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンセットの先端でつまんだ任意の対象物を挟み込んだままの状態を保持できるロック機構付ピンセットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車・自動二輪車などの乗物、機械、模型、工芸品など広範な物品には、美観装飾や腐食保護を目的として、塗装が施されている。
このような塗装を行う場合、塗装箇所以外を汚損から養生(保護)するため、保護用の粘着テープ(マスキングテープ)を貼付けることが一般的である。
【0003】
自動二輪車を例にとると、車体・乗員を覆う合成樹脂製の風防部品(カウル)や燃料タンクなどに、スプレー塗装により装飾用の文字・図柄を描くことがしばしば行われている。
スプレー塗装する際、文字・図柄を所望どおり美しく仕上げるために、所望の文字・図柄と同一形状・同一寸法に忠実に被塗装面を露出させておき、この被塗装面の周囲にマスキングテープを貼付する。
特に、所望の文字・図柄が入組んだ非常に複雑なデザインである場合、マスキングテープの一部をデザインナイフでくり抜くように切断し、さらに切断したマスキングテープの不要な小片をピンセットでつまんで取除いていく。
【0004】
上述したようなマスキングテープの切れ端や微小な部品のように、素手や指先で直につまむことが難しい対象物を扱う場合、一般的に、ピンセットが重宝する。
市場で容易に入手可能なピンセットは、通常、2本の棒状部材の一端を互いに接合することにより物理的に一体化された「くの字」形状に構成されている。
そして、接合部分と反対側にある両棒状部材の先端により、任意の物体を挟持できるようになっている。
【0005】
このような構造をもつ一般的なピンセットは、復元力を有している。
そのため、使用者が加えている力を緩めると、元の形状に戻ろうとする復元作用により、相互に近づけられていた2本の棒状部材の距離が遠ざかり、近接していた先端同士も離れてしまう。
これにより、ピンセット先端において拘束(挟持)されていた作業対象物が、解放されてしまう。
【0006】
そのため、従来のピンセットを使って作業対象物を扱う際、その先端に同対象物を挟んだ状態を保持しておくには、ピンセットの使用者が、2本の棒状部材をたがいに接近させる向きに力を加え続ける必要がある。
このように、ピンセットの復元力に逆らって2本の棒状部材の先端を接近させた状態を維持するのは、相当の力を要し、このような状態を維持しながら作業対象物に対する加工をおこなうのは、負担が大きく、使用者が疲労してしまうという問題があった。
【0007】
上述したような問題の改善を図るため、作業対象物を挟持した状態を維持(ロック)できるロック機構付のピンセットが、過去にも提案されている(特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-030955号公報
【文献】特許6590288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
[特許文献1の技術]
特許文献1の技術によれば、ピンセット2を構成する2本の棒状部材に、長手方向に沿った長孔3が設けてある(同文献1・第22段落、
図1)。
この長孔にはボルト4が挿してあり、ピンセット2の開放端(対象物を挟持する挟持部2a)にむけて同ボルト4をスライドさせると、接近させた一対の挟持部2a同士が拘束されて離れられなくなり、その結果、把持した対象物を固定したままにできる(特許文献1・
図2(b)、第25段落)。
さらに、同文献1では、上述のボルト4にナット5が取付けてあり、ボルト4とナット5を締付けていくことで、ピンセット2の挟持部2aにおいて挟持している対象物を挟み込む力をより強めることが可能となっている(同文献1・第26段落)。
【0010】
なお、特許文献1において、ピンセット2の挟持部2aに挟んでいる被持対象物を解放する(取外す)ためには、長孔3に差込まれているボルト4を、ピンセットの接合部分(連結部2c)側にスライドさせる操作が必要となる。
なお、ピンセットの接合部分とは、すなわち、ピンセットを構成する2本の棒状部材がくっついている「く」の字形状の屈曲部分のこと指す。
【0011】
また、特許文献1に係るロック機能付きピンセット1では、ピンセット2を構成する2本の棒状部材の外側面(内と外の側面のうちの外側の側面)にそれぞれ、ボルト4の頭部もしくはナット5が突き出た状態にある。
ピンセット棒状部材の外側面は、ピンセット先端2aを閉じたり開けたりする際に、使用者により操作がなされる箇所となる。
より具体的には、使用者は、ピンセット先端を閉じて作業対象物をつまむとき、一方の棒状部材の外側面に親指をあてるとともに、他方の棒状部材の外側面に人差し指をあてがい、これらの指が触れている箇所に力を加えることで、ピンセットを閉じる。
そのため、特許文献1では、ピンセット2のロックをかける前段階(ボルト4とナット5の対を、ピンセット先端にむけてスライドさせる前)にあたる、作業対象物をピンセットで挟み込む(つまむ)作業がやりづらくなってしまうおそれがある。
【0012】
なお、上述したように、特許文献1では、ピンセットのロックをかける場合、ボルト4とナット5の対を、ピンセット先端にむけて物理的にスライドさせることで行う。
また、ピンセットのロックを解除するときも、ロックをかける際に動かしたボルト4とナット5の対を、ロックをかけるときと反対方向(ピンセットの接合部分にむかう方向)に、ずらしてやる物理的な再操作が必要になる。
つまり、特許文献1のロック機能付きピンセット1では、ピンセット2にロックをかけるときとロックを外すときの「両方」において、逐次、ボルト4とナット5の対を「物理的に移動させる手間」が必要となる。
【0013】
[特許文献2の技術]
つぎに、特許文献2の技術について検討する。
特許文献2の技術では、ピンセット1棒状部材の一方の外側面(把持部3a)に、釦部21が設けられている(同文献2・
図1(a)、第46段落)。
そして、この釦部21を操作することにより、フック部31に対するロックないしはロック解除を行う。
特許文献2においても、物理的構成要素である釦部21が、ピンセット1棒状部材の一方の「外側面から突き出て」いる。
そのため、ロックをかける前作業である、ピンセットにより作業対象物をつかむときに、作業の快適性を損なわせるおそれがある。
【0014】
また、特許文献2の技術では、釦部21に対して、複数の凸状歯23bを有する昇降ラチェット23が係合している(同文献2・第46段落)。
昇降ラチェット23の拘束作用により、鉤状フック33は、あらかじめ定められた一方向のみにしか前進することができず、後退はできない仕組となっている。
そのため、特許文献2の技術では、ロックを解除する際にも、ロックをかけるときに使用した「釦部21を物理的にずらす再操作」をおこなう必要がある(同文献2・第46段落の第3文)。
そして、凸状歯23bが、釦部21が設置されている側の把持部3aの内面11aから外向きに移動することで、鉤状フック33との噛合が外れてロックが解除される(特許文献2・第67段落、
図4(C))。
【0015】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、ロック機構を備えるピンセットにおいて、(1)同ピンセットを構成する2本の棒状部材の外側面にロック操作を行うための部品を配置することなくロック機能を実現するとともに、(2)同ピンセットの開放端に挟持している被持対象物を同開放端から解放するときに、ロックをかけるときに使用した部品への物理的な再操作を不要とすることで従来よりも簡単な操作で実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
〔第1発明〕
そこで、上記の課題を解決するために、本願の第1発明に係るロック機構付ピンセットは、
任意の対象物を挟持した状態を維持できるロック機構付ピンセットであって、
2本の棒状部材の一端を互いに接合することにより物理的に一体化された「くの字」形状を有し、接合部分と反対側にある両棒状部材の先端により任意の物体を挟持できるピンセットと、
2本のうち一方の棒状部材の内側面に、軸方向に沿って設けられる、中空構造部材からなる誘導溝と、
細芯の棒状部材からなり、摺動可能なように誘導溝に挿通された摺動軸と、
摺動軸に固着される部材であって、使用者により操作されるスライダと、
ピンセットの所定箇所と摺動軸の一端との間につながれた弾性部材であって、ピンセットの所定箇所および摺動軸の一端に係着されるスライダ位置復帰機構と、
2本の棒状部材のうち片方もしくは両方の棒状部材の内側面に、この内側面に対して起立するように設けられた細芯部材であって、誘導溝よりもピンセット先端に近い位置に配置される係留部材と、
を備え、
摺動軸と、この摺動軸に交差する係留部材とからなるロック機構は、
(1)使用者により、2本の棒状部材の外側面に力が加えられ、両棒状部材がたがいに接近し合って、ピンセット先端に対象物が挟持されている場合において、
スライダがピンセット先端に向けて押出されると、摺動軸と係留部材が係合して、対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれ、
(2)摺動軸と係留部材が係合して対象物を挟持した状態が維持されている際に、使用者により、2本の棒状部材をさらに接近させる向きに力が加えられると、
摺動軸と係留部材の係合状態が解けて、ピンセットの復元力により同ピンセットの2本の棒状部材がたがいに遠ざかり、ピンセット先端に挟持されていた対象物が解放されるとともに、
スライダ位置復帰機構が及ぼす弾性力により、摺動軸とスライダが所定のロック解除位置に復帰する構成とした。
【0017】
上述したように、特許文献1・2のピンセットによれば、いずれも、対象物をピンセット先端に挟持した状態を保つロック機能それ自体は実現されている。
しかしながら、同文献1・2におけるロック機構の構成は、どちらも、ピンセット外側面(ピンセット棒状部材の側面のうち、外側の側面)から、ロック機構の構成要素が突き出したものとなっている。
この突き出ている構成要素としては、具体的には、特許文献1では、ボルト4の頭部4aと軸4bの先端部分、およびナット5であり(同文献1・
図1)、また特許文献2では、釦部21が該当する(同文献2・
図1(b)参照)。
ピンセットを操作して対象物を挟む場合、ピンセットの構造上、2本の棒状部材の両外側面にそれぞれ親指と人差指を添えて、2本の棒状部材の間隔をせばめるように(2本の棒状部材がたがいに近づくように)力を加えることになる。
このような使用状況に鑑みると、特許文献1・2のように、ピンセット棒状部材の外側面に部品が物理的に配置されている構造は、対象物をピンセット先端でつまむべく、使用者が指に力を込めた際に、部品が指に食い込んだりするおそれがあり、好ましいものとは言い難い。
【0018】
一方、第1発明によれば、ロック機構(摺動軸211と係留部材3の組合せ)が、すべてピンセットの内側(2本の棒状部材11・12の間)に収まっている。
さらに、ロック時に使用する操作要素(スライダ211)も、2本の棒状部材11・12の隙間から、わずかに上方に突き出ているだけである(
図1)。
このように、第1発明では、ロック機構もスライダ211もピンセット1内側の空間に収容されており、2本のピンセット棒状部材11・12の両外側面には、何ら物理的構成要素が配置されていない。
すなわち、第1発明に係るピンセット100は、外観上、とりわけピンセット外側面について、ロック機構をもたない一般的なピンセットと変わり映えのないものとなっている。
このため、第1発明のピンセット100を使って、対象物をピンセット先端でつまもうとした場合に、使用者が、棒状部材11・12の外側面に指を添えて力を込めても、いかなる部品も指に当接しないため、通常のピンセットと変わりない使用感を得ることができる。
【0019】
また、ピンセット1の先端に対象物(図示略)が挟まれている状態で(
図3)、使用者によりスライダ211がピンセット先端に向けて押出されると(
図5(a)参照)、摺動軸211と係留部材3が係合し(
図5(b)参照)、対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれる(
図4)。
これにより、対象物を挟持した状態の「ロック機能が発揮」される。
すなわち、係止要素たる係留部材3による摺動軸211への係止作用が及ぶよう、係留部材3のところまで摺動軸211を動かしてあげるだけのきわめて簡易な操作により、ロック機能を安定的に使用できる(
図4)。
なお、第1発明においては、係留部材3は、2本の棒状部材の片方もしくは両方の内側に設けることが可能である。
図1の例においては、係留部材3は、誘導溝22が設けられていない方の棒状部材11に取付けられている。
【0020】
さらに、摺動軸211と係留部材3が係合して対象物を挟持した状態が維持(ロック)されている状態から(
図4)、ロック機能を解除する場合には、以下の操作を行う。
ロックがかかっている状態において、
図6のように、使用者により、2本の棒状部材11・12同士をさらに接近させる向きに力が加えられた場合には、摺動軸211と係留部材3の係合状態が解かれる。
すると、ピンセット1の復元力により2本の棒状部材11・12がたがいに遠ざかり、ピンセット先端に挟持されていた対象物が解放される。
また、摺動軸211と係留部材3の係合状態が解けると、スライダ位置復帰機構23が及ぼす弾性力により、摺動軸211とスライダ212は、ロック状態におけるロック位置から、ピンセット接合部分JNに向けて引込まれ、所定のロック解除位置まで自動的に(人手を介さず)復帰する。
すなわち、第1発明によれば、スライダ212に対する手動操作(ロック解除位置までスライダ212を移動させる操作)を伴うことなく、ロック機能を解除できる。
なお、第1発明において、摺動軸211とスライダ212をロック解除位置まで復帰させるスライダ位置復帰機構23は、ピンセット1の所定箇所および摺動軸211の一端の間につながれている(
図1)。
スライダ位置復帰機構23を係着するピンセット側の所定箇所は、
図1の例では、ピンセット1の接合部分JN(くの字部分)となっている。
しかしながら、当該の所定箇所は、スライダ位置復帰機構23の弾性力を、摺動軸211とスライダ212をロック解除位置まで引込む方向に作用せしめる箇所であれば、任意の箇所を選択してよい。
【0021】
〔第2発明〕
また、上記の課題を解決するために、本願の第2発明に係るロック機構付ピンセットは、
任意の対象物を挟持した状態を維持できるロック機構付ピンセットであって、
2本の棒状部材の一端を互いに接合することにより物理的に一体化された「くの字」形状を有し、接合部分と反対側にある両棒状部材の先端により任意の物体を挟持できるピンセットと、
2本のうち一方の棒状部材の内側面に、軸方向に沿って設けられる、中空構造部材からなる誘導溝と、
細芯の棒状部材からなり、摺動可能なように誘導溝に挿通された摺動軸と、
摺動軸の先端に固着された、尖端を有するとともに当該尖端に向かうほど細くなる楔形状の小片部材であって、使用者により操作されるスライダと、
ピンセットの所定箇所と摺動軸の一端の間につながれた弾性部材であって、ピンセットの所定箇所および摺動軸の一端に係着されるスライダ位置復帰機構と、
2本の棒状部材のうち片方もしくは両方の棒状部材の内側面に設けられた部材であって、スライダを誘導するための誘導壁を有してなる係留部材と、
を備え、
スライダと、同スライダを誘導壁沿いに誘導する係留部材とからなるロック機構は、
(1)使用者により、2本の棒状部材の外側面に力が加えられ、両棒状部材がたがいに接近し合って、ピンセット先端に対象物が挟持されている場合において、
スライダがピンセット先端に向けて押出されると、スライダが係留部材の誘導壁沿いに進んだのち、当接した状態にあるスライダと係留部材に作用する摩擦力に基づいて、対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれ、
(2)スライダと係留部材が係合して対象物を挟持した状態が維持されている際に、使用者により、2本の棒状部材をさらに接近させる向きに力が加えられると、
当接していたスライダと係留部材が離れることで同スライダに作用していた摩擦力が消滅し、ピンセットの復元力により同ピンセットの2本の棒状部材がたがいに遠ざかり、ピンセット先端に挟持されていた対象物が解放されるとともに、
スライダ位置復帰機構が及ぼす弾性力により、スライダが所定のロック解除位置に復帰する構成とした。
【0022】
第2発明によれば、第1発明同様に、ロック機構(
図7に示す、スライダ25と係留部材3Aの組合せ)が、すべてピンセットの内側(2本の棒状部材11・12の間)に収まっている。
さらに、ロック時に使用する操作要素(スライダ25)も、2本の棒状部材11・12の縁(稜線)とほぼ同じ高さとなっている(
図7)。
このように、第2発明では、ロック機構がピンセット1内側の空間に収容されており、2本のピンセット棒状部材11・12の両外側面には、何ら物理的構成要素が配置されていない。
すなわち、第2発明に係るロック機構付ピンセット100A(
図7)も、ピンセット外側面の外観上、ロック機構をもたない一般的なピンセットと遜色ないものとなっている。
このため、第2発明のピンセット100Aを使用して対象物をピンセット先端でつまもうとしたときに、使用者が、棒状部材11・12の外側面に指を添えて力を込めても、いかなる部品も指に当接しないため、通常のピンセットと変わりない使用感が得られる。
【0023】
また、ピンセット1の先端に対象物(図示略)が挟まれている状態で(
図9)、使用者によりスライダ25がピンセット先端に向けて押出されると、スライダ25と係留部材3Aが係合し(
図10)、対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれる。
これにより「ロック機能が発揮」される。
【0024】
さらに、第2発明では、スライダ25の全体形状が尖端に向かうほど細くなる楔形状となっており、この尖端が係留部材3Aと係合することでロックがかかるようになっている。
すなわち、第2発明のスライダ25は、第1発明においてスライダ212が果たす役割と摺動軸211が果たす役割の両方が(
図5(b)参照)、集約されたものとなっている。
そのため、第1発明よりも、さらに簡素化された構成と少ない部品点数でピンセットのロック機能が実現できる。
このため、ロック機構付ピンセット100Aの製造コストが低廉化できるとともに、製造工程の簡易化も図られる。
【0025】
なお、スライダおよび係留部材は、
図17(a)に示すスライダ25C・係留部材3Cのように、細かな歯状の凹凸(突起)が相互に設けられたものでもよい。
これにより、スライダ25Cと係留部材3Cが噛合っている間に、相互に位置ずれが起きにくくなる。
【0026】
また、ピンセット1に設ける係留部材の個数は1つに限定されず、
図17(b)に示す係留部材3Dのように、両方の棒状部材11・12にそれぞれ1つずつ設けておいてもよい。
なお、両棒状部材11・12に各々、係留部材3Dを設ける場合、係留部材同士が互いに衝突してピンセットの開閉を妨げることのないよう、位置をずらして配置する。
【0027】
〔第3発明〕
また、上記の課題を解決するために、本願の第3発明は、第1~第2発明に係るロック機構付ピンセットにおいて、
前記スライダ位置復帰機構が、ばねである構成とした。
【0028】
第3発明によれば、スライダ位置復帰機構23が「ばね」で構成されている(
図2・
図8)。
ばね23は、円筒形を有するごく一般的なコイルばねでよい。
ばねは、汎用部品として広く一般的に市場流通しているため、製造コストを抑えられるというメリットが生じる。
【0029】
なお、ばね23の構成材料は、外力の大きさに応じた弾性力を発生するものでありさえすればよく、金属・合成樹脂をはじめとする任意の材料を使用できる。
さらに、スライダ位置復帰機構23を構成する「ばね」としては、ピストンに充填した気体の収縮・膨張に応じて変位する空気ばねを採用してもよい。
また、スライダ位置復帰機構は、たがいに極性の異なる磁石が及ぼす磁力を利用して構成することも可能である。
【0030】
〔第4発明〕
また、上記の課題を解決するために、本願の第3発明は、第1~第2発明に係るロック機構付ピンセットにおいて、
スライダ位置復帰機構が、ゴム紐である構成とした。
【0031】
第4発明によれば、スライダ位置復帰機構として、広く一般的に市場において入手可能かつ安価な「ゴム紐」を採用する(
図16の構成要素23B)。
これにより、ロック機構付ピンセットの構成が簡素になり、軽量化も図られる。
また、ゴム紐23Bの採用により、製造工程が簡易化され、製造コストも抑制できるため、販売価格も低廉に設定することができ、広く普及を図ることができる。
また、ゴム紐23Bが損傷してしまった場合でも、交換部品が安価なことから、修理にかかるコストや時間も大幅に削減できる。
【0032】
〔第5発明〕
また、上記の課題を解決するために、本願の第5発明は、第1~第4発明に係るロック機構付ピンセットにおいて、
誘導溝に設けられたねじ挿通孔と、
ねじ挿通孔に螺合するねじ部材からなる軸位置固定機構と、
をさらに備え、
(1)たがいに当接した状態にあるスライダと係留部材に作用する摩擦力により、対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれている際に、
さらに、軸位置固定機構をなすねじ部材により誘導溝内の摺動軸が締付けられると、摺動軸の位置が固定され、
使用者により、2本の棒状部材をさらに接近させる向きに力が加えられても、スライダと係留部材の係合状態が維持され、
(2)軸位置固定機構による摺動軸への締付が緩和され、摺動軸の位置固定が解除されたのちに、使用者により2本の棒状部材をさらに接近させる向きに力が加えられると、
当接していたスライダと係留部材が離れて、同スライダに作用していた摩擦力が消滅し、ピンセットの復元力により同ピンセットの2本の棒状部材がたがいに遠ざかって、ピンセット先端に挟持されていた対象物が解放されるとともに、
スライダ位置復帰機構が及ぼす弾性力により、スライダが所定のロック解除位置に復帰する構成とした。
【0033】
第5発明によれば、第2発明の構成(
図7)に対して、さらに軸位置固定機構(ねじ部材26)が付加されている(
図18)。
そのため、第5発明では、第2発明(
図10)において対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれたロック時に、
図20(a)のように軸位置固定機構(ねじ部材26)により摺動軸24を締付けていき、摺動軸24を拘束できる(
図20(b)参照)。
これにより、
図19のように、摺動軸24の位置が固定されたままとなる。
【0034】
同
図19の状態では、使用者により2本の棒状部材11・12をさらに接近させる向きに力が加えられたとしても、スライダ25が摺動軸24に接続されていることから、同スライダ25の移動は制限されている。
そのため、スライダ位置復帰機構23の弾性力がスライダ25に及んでも、スライダ25が所定のロック解除位置まで復帰することはままならず、スライダ25と係留部材3Aの係合状態が維持される(
図19)。
すなわち、第5発明では、対象物をピンセット先端に挟持した状態を維持(ロック)している状態を、2本の棒状部材11・12を接近させる向きに加えられた外力の影響を受けることなく保つことが可能となる。
【0035】
〔第6発明〕
また、上記の課題を解決するために、本願の第6発明は、第1~第4発明に係るロック機構付ピンセットにおいて、
誘導溝に設けられた回動部材挿通孔と、
回動部材挿通孔を介して誘導溝に差込まれる円形もしくは楕円形状の回動部材、および、回動部材を誘導溝に取付けるために同回動部材に挿通された回動軸からなる軸位置固定機構と、
をさらに備え、
(1)たがいに当接した状態にあるスライダと係留部材に作用する摩擦力により、対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれている際に、
さらに、軸位置固定機構をなす回動部材からの押圧により誘導溝内の摺動軸が抑えつけられると、摺動軸の位置が固定され、
使用者により、2本の棒状部材をさらに接近させる向きに力が加えられても、スライダと係留部材の係合状態が維持され、
(2)回動部材から摺動軸への押圧が弱められ摺動軸の位置固定が解除されたのちに、使用者により2本の棒状部材をさらに接近させる向きに力が加えられると、
当接していたスライダと係留部材が離れて、同スライダに作用していた摩擦力が消滅し、ピンセットの復元力により同ピンセットの2本の棒状部材がたがいに遠ざかって、ピンセット先端に挟持されていた対象物が解放されるとともに、
スライダ位置復帰機構が及ぼす弾性力により、スライダが所定のロック解除位置に復帰する構成とした。
【0036】
第6発明によれば、第2発明の構成(
図7)に対して、さらに回動部材26Aが付加されている(
図21)。
そのため、第6発明では、第2発明(
図10)において対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれたロック時に、
図23(a)のように回動部材26Aからの押圧により誘導溝22内にある摺動軸24を抑えつけて、同軸24を拘束できる。
これにより、摺動軸24の位置が固定されたままとなる(
図22)。
図23(a)のごとく摺動軸24の位置が固定された状態では、使用者によって2本の棒状部材11・12をさらに接近させる向きに力が加えられたとしても、スライダ25が摺動軸24に接続されていることから、同スライダ25の移動は制限されている。
そのため、スライダ位置復帰機構23の弾性力がスライダ25に及んでも、スライダ25は所定のロック解除位置まで復帰できず、スライダ25と係留部材3Aの係合状態が維持される。
すなわち、第6発明では、対象物をピンセット先端に挟持した状態を維持(ロック)している状態を、2本の棒状部材11・12を接近させる向きに加えられた外力の影響を受けることなく保つことが可能となる(
図22)。
【0037】
〔第7発明〕
また上記の課題を解決するために、本願の第7発明は、第1,3,4発明に係るロック機構付ピンセットにおいて、
ピンセット棒状部材の軸方向に沿って摺動可能に設けられた、切断刃と固着された切断刃スライダ、
をさらに備え、
使用者が切断刃スライダをずらすことで、切断刃がピンセットの先端よりも外側に押出され、同切断刃による切断機能が発揮される際、
使用者により、2本の棒状部材の外側面に力が加えられており、両棒状部材がたがいに接近し合って、両棒状部材間に切断刃スライダが挟まれているときに、
スライダがピンセット先端に向けて押出されると、摺動軸と係留部材が係合して、切断刃がピンセット先端から突出た状態が保たれる構成とした。
【0038】
第7発明によれば、ロック機構付ピンセットにおいて、さらに摺動可能な切断刃が設けられており、ピンセット機能に加えてナイフ機能も利用可能になっている(
図25)。
このような構成下では、使用者が切断刃スライダ42をずらすことで、切断刃43がピンセットの先端よりも外側に押出され、同切断刃43による切断機能が発揮できる。
ナイフ機能の発揮時には、使用者により、2本の棒状部材11・12の外側面に力が加えられ、両棒状部材11・12がたがいに接近し合って、両棒状部材間に切断刃スライダ42が挟まれる(
図26)。
この状態から、さらにスライダ212がピンセット先端に向けて押出されると、摺動軸211と係留部材3が係合して、両棒状部材11・12の間隔が狭まった状態が維持され、その結果、切断刃43がピンセット1の先端から突出た状態が保たれる(同
図26)。
このように、ピンセット1に対する切断刃スライダ42の相対位置が固定されることで、切断作業の際、切断刃43に対して圧力が加わった場合でも、切断刃43を安定的に操作できる。
【0039】
さらに第7発明では、ナイフ機能(
図29)を終了する場合、第1発明(
図6)と同じ要領で、ピンセット1の両棒状部材11・12をさらに接近させる向きに力を加える。
すると、摺動軸211と係留部材3の係合状態が解かれ、ピンセット1の復元力(板ばね作用)により、2本の棒状部材11・12が互いに遠ざかる。
これにより、棒状部材11・12の間に挟持されていた切断刃スライダ42が解放される。
さらに、切断刃復帰機構44が及ぼす弾性力により、切断刃スライダ42がピンセット接合部分JNに向けて引込まれ、ひいては、切断刃43が人手を介すことなく自動的にピンセット先端から収容される。
【0040】
〔第8発明〕
また上記の課題を解決するために、本願の第8発明は、第2~6発明に係るロック機構付ピンセットにおいて、
ピンセット棒状部材の軸方向に沿って摺動可能に設けられた、切断刃と固着された切断刃スライダ、
をさらに備え、
使用者が切断刃スライダをずらすことで、切断刃がピンセットの先端よりも外側に押出され、同切断刃による切断機能が発揮される際、
使用者により、2本の棒状部材の外側面に力が加えられており、両棒状部材がたがいに接近し合って、両棒状部材間に切断刃スライダが挟まれているときに、
スライダがピンセット先端に向けて押出されると、スライダが係留部材の誘導壁沿いに進んだのち、当接した状態にあるスライダと係留部材に作用する摩擦力に基づいて、切断刃がピンセット先端から突出た状態が保たれる構成とした。
【0041】
第8発明(
図27)によれば、第7発明(
図26)と同様の技術的特徴を備えることにより、第7発明と同等の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本実施形態のロック機構付ピンセットにおいて、スライダと摺動軸が引っ込んでいるときの外観斜視図である。
【
図2】ロック機構付ピンセットの構成要素を示す外観斜視図である。
【
図3】ロック機構付ピンセットにおいて、ピンセット先端が閉じられている(対象物が挟持されている)ときの外観斜視図である。
【
図4】ロック機構付ピンセットにおいて、対象物を挟持した状態が維持(ロック)されているときの外観斜視図である。
【
図5】ロック機構付ピンセットのロック機構を示す模式図であって、(a)はロックをかける前の図、(b)はロックをかけた後の図である。
【
図6】ロック機構付ピンセットにおいて、対象物を挟持した状態のロック解除操作をするときの外観斜視図である。
【
図7】楔形状のスライダを有するロック機構付ピンセットにおいて、スライダが引っ込んでいるときの外観斜視図である。
【
図8】楔形状のスライダを有するロック機構付ピンセットの構成要素を示す外観斜視図である。
【
図9】楔形状のスライダを有するロック機構付ピンセットにおいて、ピンセット先端が閉じられている(対象物が挟持されている)ときの外観斜視図である。
【
図10】楔形状のスライダを有するロック機構付ピンセットにおいて、対象物を挟持した状態が維持(ロック)されているときの外観斜視図である。
【
図11】楔形状のスライダを有するロック機構付ピンセットにおいて、対象物を挟持した状態が維持(ロック)されているときの、上方から見た平面図である。
【
図12】楔形状のスライダと係留部材が係合しているときに、スライドと係留部材に作用する力を示す模式図である。
【
図13】楔形状のスライダを有するロック機構付ピンセットにおいて、対象物を挟持した状態のロック解除操作をするときの外観斜視図である。
【
図14】楔形状のスライダを有するロック機構付ピンセットにおいて、ロック解除操作により、スライダと係留部材の係合が解けたときの外観斜視図である。
【
図15】楔形状のスライダと係留部材の係合が解けたあと、スライダが所定のロック解除位置に復帰したときの外観斜視図である。
【
図16】ゴム紐によりスライダ位置復帰機構を構成した変形例を示す外観斜視図である。
【
図17】ロック機構の変形例を示す模式図であって、(a)は歯状の突起を有するスライダの図、(b)は係留部材を両側の棒状部材に設置した図である。
【
図18】楔形状のスライダを有するロック機構付ピンセットに、ねじ部材を用いた軸位置固定機構を搭載した構成の外観斜視図である。
【
図19】楔形状のスライダを有し、ねじ部材を用いた軸位置固定機構を備えるロック機構付ピンセットにおいて、対象物を挟持した状態で、摺動軸を固定したときの外観斜視図である。
【
図20】ねじ部材を用いた軸位置固定機構を示す模式図であって、(a)はねじ部材による締付を緩めた状態の図、(b)はねじ部材により摺動軸を締付けた状態の図である。
【
図21】楔形状のスライダを有するロック機構付ピンセットに、回動部材を用いた軸位置固定機構を搭載した構成の外観斜視図である。
【
図22】楔形状のスライダを有し、回動部材を用いた軸位置固定機構を備えるロック機構付ピンセットにおいて、対象物を挟持した状態で、摺動軸を固定したときの外観斜視図である。
【
図23】(a)回動部材を用いた軸位置固定機構により摺動軸を締付けた状態の模式図、(b)は回動部材の模式図である。
【
図24】回動部材を用いた軸位置固定機構において、摺動軸の締付を解放した状態の模式図である。
【
図25】ナイフ機能が搭載されたロック機構付ピンセットにおいて、ピンセット先端が開いた状態で切断刃スライダを突き出したときの外観斜視図である。
【
図26】ナイフ機能が搭載されたロック機構付ピンセットにおいて、ナイフ機能を発揮した状態を維持(ロック)したときの外観斜視図である。
【
図27】ナイフ機能が搭載されたロック機構付ピンセット(楔形状のスライダを有するもの)において、ピンセット先端が開いた状態で切断刃スライダを突き出したときの外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、
図1乃至
図27を参照して、本発明のロック機構付ピンセットについて説明する。
[実施形態]
本発明の実施形態は、ピンセットを構成する2本の棒状部材の外側面にロック操作を行うための部品を配置することなく、ロック機能を発揮できるロック機構付ピンセット100を構成した例である。
以下、この内容について詳しく説明する。
【0044】
図1は、実施形態に係るロック機構付ピンセット100の構成を示す模式図である。
同
図1のように、ロック機構付ピンセット100は、ピンセット1と、誘導溝22と、摺動軸211と、スライダ212と、スライダ位置復帰機構23と、係留部材3と、から構成されている。
【0045】
ピンセット1は、
図2に示すように、2本の棒状部材11・12の一端を互いに接合することにより物理的に一体化された「くの字」形状を有している。
ピンセット1は、接合部分JNと反対側にある両棒状部材11・12の先端により任意の物体を挟持することが可能である。
なお、ピンセット1は、2本の棒状部材11・12を端部において接合したものに限定されず、1本の部材を途中で屈折させることにより、全体形状を「くの字」型に形成したピンセットでもよい。
【0046】
誘導溝22は、中空構造部材からなる。
図1に示す例では、誘導溝22は、中空管からなる誘導パイプである。
誘導溝22は、ピンセット1を構成する2本の棒状部材11・12のうち、いずれか一方の棒状部材の内側面に、軸方向に沿って設けられている。
同
図1の例において、誘導溝22は、棒状部材12の内側面に固着されている。
誘導溝22は、中空円筒断面を有するパイプに限定されず、矩形断面またはコの字型断面を有するレールなどでもよい。
また、誘導溝22の構成材料は、金属・合成樹脂・木材など任意でよい。
誘導溝22のピンセット1に対する固着手法は、接着剤・はんだ付け・ねじ止めをはじめとする任意の手法を採用できる。さらには、ピンセット1と誘導溝22を一体成型してもよい。
【0047】
摺動軸211は、細芯の棒状部材からなる。
摺動軸211は、摺動可能なように誘導溝(誘導パイプ)22に挿通されている。
当該摺動軸211の構成材料は、金属・合成樹脂・木材など任意でよい。
【0048】
スライダ212は、摺動軸211に固着される部材であって、使用者により操作(ピンセット先端方向への押出操作)される。
同スライダ212は、摺動軸211と連動するため、棒状部材12の内側面において当該部材12の軸方向に沿って摺動する。
なお、スライダ212の幅は、ピンセット1の挟持機能を妨げることのないよう(ピンセット1の先端同士を密着させることが可能なよう)、十分薄いものとなっている。
また、スライダ212の形状は、
図1に例示したような前方部が盛上がっており後方部が平坦である形状に限らず、使用者の指にフィットする形状であれば任意でよい。
なお、摺動軸211とスライダ212は、物理的に異なる個々の部品で構成するのではなく、これら構成要素を一体成形により1個の部品として構成しても構わない。
【0049】
スライダ位置復帰機構23は、
図1のように、ピンセット1の所定箇所と摺動軸211の一端との間につながれた弾性部材である。
本例では、ピンセット1の「所定箇所」として、同ピンセット1の接合部分JNが選択されている。
すなわち、本例では、スライダ位置復帰機構23の一端はピンセット1の接合部分JNに係着され、スライダ位置復帰機構23の他端は摺動軸211の一端に係着される。
【0050】
本実施形態においては、スライダ位置復帰機構23が「ばね」により構成されている(
図1)。
ばね23は、円筒形を有するごく一般的なコイルばねでよい。
ばねは、汎用部品として広く一般的に市場流通しており、ロック機構付ピンセット100の製造コスト抑制に寄与する。
なお、ばね23の構成材料は、外力に応じて弾性力を発生するものであればよく、金属・合成樹脂その他の任意の材料を採用できる。
【0051】
図5(a)のように、ピンセットのロック機構は、棒状部材12の内側面において同部材12の軸方向沿いに摺動する摺動軸211と、棒状部材11の内側面に固着された係留部材3の組合せで成立っている。
係留部材3は、2本の棒状部材11・12の「片方もしくは両方の内側」に設けることが可能である。
図1の構成例において、係留部材3は、誘導溝22が設けられていない方の棒状部材11のみに取付けられている。
係留部材3は、棒状部材11・12の少なくとも片方の内側面に(同
図1の例においては、誘導溝22が設けられていない方の棒状部材11の内側面に)、この内側面に対して起立するように設けられた細芯部材である。
また、同
図1のごとく、係留部材3は、誘導溝22よりもピンセット先端に近い位置に配置されている。
【0052】
つぎに、上記構成を有するロック機構付ピンセット100の動作について説明する。
【0053】
[ピンセット機能]
ロック機構付ピンセット100を、作業対象物をつまんで挟む「ピンセット」として機能させる場合(
図1)、使用者がスライダ212に力を加えておらず、弾性体からなるスライダ位置復帰機構23の位置復帰作用によりスライダ212が所定のロック解除位置にある(同
図1)。
すなわち、ピンセット1の挟持機能が発揮される。
なお、「ロック解除位置」とは、スライダ212に外力が加わっていないときに、スライダ位置復帰機構23の作用により同スライダ212が静止する位置(
図1)のことを指す。
【0054】
[ロック設定時]
また、ピンセット1の先端に対象物(図示略)が挟まれている状態で(
図3)、使用者によりスライダ211がピンセット先端に向けて押出されると(
図5(a)参照)、摺動軸211と係留部材3が係合し(
図5(b)参照)、対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれる(
図4)。
これにより「ロック機能が発揮」される。
すなわち、係止要素たる係留部材3による摺動軸211への係止作用が及ぶよう、係留部材3のところまで摺動軸211を動かしてあげるだけのきわめて簡易な操作により、ロック機能を安定的に使用できる(
図4)。
【0055】
[ロック解除時]
さらに、摺動軸211と係留部材3が係合して対象物を挟持した状態が維持(ロック)されている状態から(
図4)、ロック機能を解除する場合には、以下の操作を行う。
ロックがかかっている状態において、使用者により、2本の棒状部材11・12をさらに接近させる向きに力が加えられた場合には(
図6)、摺動軸211と係留部材3の係合状態が解かれることになる。
そして、ピンセット1の復元力により2本の棒状部材11・12が互いに遠ざかるとともに、ピンセットの先端が開き、ピンセット先端に挟持されていた対象物が解放される。
【0056】
また、摺動軸211と係留部材3の係合状態が解かれると、スライダ位置復帰機構23(ばね)が弾性力を及ぼし、摺動軸211とスライダ212は、ロック位置(摺動軸211と係留部材3の係合位置)から、ピンセット接合部分JNに向けて引込まれ、所定のロック解除位置まで人手を介さず自動復帰する。
すなわち、ロック機構付ピンセット100によれば、スライダ212に対する手動操作(人手によりロック解除位置までスライダ212を移動させる操作)を伴うことなく、ロック機能を解除できる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態によれば、ピンセット100は、ピンセット外側面に何ら突起物(構成部品)が存在しないように構成されている。
そのため、対象物をピンセット先端でつまもうとしたときに、ロック機構をもたない一般的なピンセットと変わりない使用感が得られる。
【0058】
[変形例:楔形状のスライダ]
本実施形態においては、細線状のスライダ212(
図1)に代えて、
図7のような楔形状のスライダ25を採用することも可能である。
【0059】
図7は、楔形状のスライダ25を有するロック機構付ピンセット100Aの構成を示す模式図である。
同
図7のように、ロック機構付ピンセット100Aは、ピンセット1と、誘導溝22と、スライダ位置復帰機構23と、摺動軸24と、スライダ25と、係留部材3Aと、から構成されている。
【0060】
上記のうち、ロック機構付ピンセット100Aの主要構成要素であるピンセット1と、誘導溝22・スライダ位置復帰機構23は、
図1に示したものと同様である。
【0061】
摺動軸24は、
図8のように、細芯の棒状部材からなり、摺動可能なように誘導溝22に挿通されてなる。
【0062】
使用者により操作されるスライダ25は、
図7のように、摺動軸24の先端に固着される。
図8のごとく、スライダ25は、尖端を有しており、この尖端に向かうほど細くなる楔形状を有する小片部材である。
【0063】
係留部材3Aは、ピンセット1を構成する2本の棒状部材11・12の片方もしくは両方の内側面に設けられた部材である。
図7の例では、係留部材3Aは、誘導溝22が設けられていない方の棒状部材11の内側面に設けられている。
係留部材3Aは、
図8に示すように、スライダ25を誘導するための誘導壁31を有している。
なお、スライダ25と、同スライダ25を誘導壁31沿いに誘導する係留部材3Aは、ロック機構を構成する。
【0064】
以下、上記構成(楔形状のスライダ25)を有するロック機構付ピンセット100Aの動作について説明する。
まず、ロック機構付ピンセット100Aが挟持状態にあるときに、ロックをかける動作を説明する。
使用者により、2本の棒状部材11・12の外側面に力が加えられ、両棒状部材11・12がたがいに接近して、ピンセット先端に対象物(図示略)が挟持されている場合を考える(
図9)。
この状態において、スライダ25がピンセット先端に向けて押出されると(
図10)、スライダ25が係留部材3Aの誘導壁31沿いに進んだのち、当接した状態にあるスライダ25と係留部材3Aに作用する摩擦力に基づいて、対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれる(
図10・
図11)。
【0065】
なお、
図12を参照し、たがいに当接するスライダ25と係留部材3Aに働く摩擦力Rにより、ピンセットの挟持状態がロック(維持)される原理を説明する。
スライダ25がピンセット先端に向けて押出されると、スライダ25が、係留部材3Aの壁面(誘導壁31)に接触して行く手を塞がれる。
【0066】
その後、使用者が棒状部材11・12それぞれの外側面に加えていた力(ピンセットの外側から内側へ向かう力)を緩めると、ピンセット1の復元力により、2本の棒状部材11・12はたがいに離れ合おうとするため、スライダ25と係留部材3Aが非常に強い力(
図12の垂直抗力N)でたがいに押付けられる。
このため、作用・反作用の法則により、垂直抗力Nは非常に大きな値となり、ひいては、スライダ25に働く摩擦力Rも大きなものとなる。
さらに、スライダ25には、スライダ位置復帰機構23にかかる復帰位置からの変位xに応じた弾性力「-kx」が作用する。
スライダ25に働く摩擦力Rのうち摺動軸24の軸方向成分が、スライダ位置復帰機構23から加わる弾性力「-kx」よりも大きい場合、スライダ25は係留部材3Aと係合した状態を維持し、ピンセット1が挟持したままとなる(
図12)。
【0067】
つぎに、ロック機構付ピンセット100Aにおける挟持状態のロックを解除する動作を説明する。
スライダ25と係留部材3Aが係合して対象物を挟持した状態が維持されている際に、使用者により、2本の棒状部材11・12をさらに接近させる向きに力が加えられることを考える(
図13)。
このとき、当接していたスライダ25と係留部材3Aが離れる(
図14)。すると、同スライダ25に作用していた摩擦力Rが消滅する。
すると、スライダ位置復帰機構23軸方向においてスライダ25に働いていた拘束力(摩擦力Rの当該復帰機構23軸方向の成分)もなくなり、スライダ位置復帰機構23が及ぼす弾性力により、スライダ25が所定のロック解除位置に復帰する(
図15)。
さらに、ピンセット1の復元力により同ピンセット1の2本の棒状部材11・12がたがいに遠ざかり、ピンセット先端に挟持されていた対象物が解放される。
【0068】
図7の構成下でも、
図1の構成と同様、ロック機構(スライダ25と係留部材3A)が、すべてピンセット1の内側(棒状部材11と12の間)に収まっており、ピンセット棒状部材11・12の両外側面には、何ら物理的構成要素が配置されていない。
このため、
図7のロック機構付ピンセット100Aを使用して対象物をピンセット先端でつまもうとしたときに、使用者が、棒状部材11・12の外側面に指を添えて力を込めても、いかなる部品も指に当接しないため、通常のピンセットと変わりない使用感が得られる。
【0069】
さらに、
図7の構成下では、スライダ25の全体形状が尖端に向かうほど細くなる楔形状となっており、この尖端が係留部材3Aと係合することでロックがかかる仕組になっている。
すなわち、ロック機構付ピンセット100Aのスライダ25は、ロック機構付ピンセット100におけるスライダ212と摺動軸211の両機能が(
図5(b)参照)、集約されたものとなっている。
そのため、
図7の構成の方が、
図1の構成よりも、さらに簡素化された構造と少ない部品点数でピンセットのロック機能が実現できる。
このため、ロック機構付ピンセット100Aの製造コストが低廉化できるとともに、製造工程の簡易化も図られる。
【0070】
[変形例:ゴム紐を用いた、スライダ位置復帰機構]
本実施形態においては、ばね23に代えて、
図16のようにスライダ位置復帰機構としてゴム紐23Bを採用することもできる。
このゴム紐23Bは、広く市場において入手可能かつ安価な、ごく一般的なゴム紐でよい。これにより、ロック機構付ピンセットの構成が簡素化されるとともに、軽量化も図られる。
また、ゴム紐23Bの採用により、製造工程が簡易化され、さらには製造コストも抑制されることで販売価格を低廉に設定できるようになり、広く普及を図ることができる。
図16の構成下では、ゴム紐23Bが損傷した場合でも、交換部品が安価なことから、修理にかかるコストや時間も大幅に削減できる。
【0071】
[変形例:ねじ部材を用いた、軸位置固定機構]
上述した楔状のスライダ25を備えるロック機構付ピンセット100Aでは、対象物をピンセット先端に挟持した状態が保たれたロック時(
図10)に、使用者により2本の棒状部材11・12をさらに接近させる向きに力が加えられると、(1)スライダ25と係留部材3Aの係合状態が解けて、ピンセット1の復元力により同ピンセットの2本の棒状部材11・12がたがいに遠ざかり(ピンセット先端に挟持されていた対象物が解放され)、さらに(2)スライダ位置復帰機構23が及ぼす弾性力により、摺動軸24とスライダ25が所定のロック解除位置に復帰する仕組になっていた。
このような仕様は、ロック機構付ピンセット100Aを用いる使用者が、単独で作業を続ける場合には非常に便利なものと考えられる。
【0072】
しかしながら、ロック機構付ピンセット100Aを用いて行われる作業は、必ずしも1人だけで行うとはいえず、複数人で同一のピンセット100Aを共有する場合も当然ありうる。
このような利用シーンにおいては、ある使用者が、当該ピンセット100Aにより対象物を挟持したままロックをかけ、対象物を挟んだままの状態で他者に同ピンセット100Aを手渡す状況も考えられる。
このように、ある者から他の者に、対象物を挟持した状態でロックがかかった同ピンセット100Aを受け渡す場合、受取る側の者が、このピンセット100Aをつかむときに力を込めてしまうと、挟持状態のロックが解除されることにもつながりかねない。
本ピンセット100Aを使用して挟持する対象物は、非常に小さな物や慎重に取り扱う必要がある物、さらには貴重品である可能性もある。
そのため、ある者から、別の者へ、対象物を挟んだ状態のロック機構付ピンセット100Aを当該ピンセットごと受け渡す際には、棒状部材11・12に外部から力が加わったときにもロックが外れない方が都合がよいものと考えられる。
【0073】
このような課題を解決するためには、
図7に示した構成に対し、さらに軸位置固定機構(ねじ部材26)を付加すればよい(
図18)。
この軸位置固定機構(ねじ部材26)は、
図10のように対象物を挟持した状態でロックがかかっているとき、
図20(a)のように軸位置固定機構(ねじ部材26)により摺動軸24を締付けていくことで、
図20(b)のように摺動軸24を拘束可能とする。
これにより、
図19のように、摺動軸24の位置が固定されたままとなる。
【0074】
なお、
図18のロック機構付ピンセット100Eにおいては、
図20(a)のごとく、誘導溝22の上部に、ねじ挿通孔221が設けられている。
軸位置固定機構として機能するねじ部材26は、
図20(a)・
図20(b)のように、ねじ挿通孔221に螺合している。
図20(a)の例において、軸位置固定機構により摺動軸24の位置を固定したままとするときは、ねじ部材26を時計方向に回転させることで、同部材26が、摺動軸24を誘導溝22内部の壁面に締付ける。
【0075】
ここで、たがいに当接した状態にあるスライダ25と係留部材3Aに作用する摩擦力により、対象物を挟持した状態が保持されている(ロックがかかっている)際に、軸位置固定機構(ねじ部材26)により誘導溝22内の摺動軸24を締付けて、摺動軸24の位置を固定した場合を考える(
図19)。
この場合、先述した
図10とは異なり、使用者によって、2本の棒状部材11・12をさらに接近させる向きに力が加えられても、スライダ25と係留部材3Aの係合状態は維持される(
図19)。
【0076】
スライダ25は摺動軸24に接続されているため、スライダ25の動きは摺動軸24の動きと連動するようになっている。
そのため、ねじ部材26により摺動軸24が締付けられて、同軸24の位置が固定されると、これに付随してスライダ25の移動も制限される。
使用者が2本の棒状部材11・12をさらに接近させる向きに力を加えた場合には、スライダ25と係留部材3Aの係合がいったん解けて、スライダ位置復帰機構23の弾性力がスライダ25に及ぶものの、ねじ部材26が摺動軸24を係止(締付)している力の方が、同復帰機構23の弾性力よりもはるかに大きく、結果、スライダ25と係留部材3Aの係合状態が保たれ続けるからである。
すなわち、
図18のように軸位置固定機構(ねじ部材26)を備えた構成下では、対象物をピンセット先端に挟持したまま維持(ロック)している状態を、2本の棒状部材11・12を接近させる向きに加えられた外力の影響を受けることなく保つことが可能となる。
【0077】
なお、
図20(b)のようにねじ部材26を締付けた状態から、
図20(a)のようにねじ部材26による摺動軸24への締付が緩和されると、摺動軸24は拘束(位置固定)から解放される。
この状態で、
図19のロック機構付ピンセット100Eに、使用者により2本の棒状部材11・12をさらに接近させる向きに力が加えられると、当接していたスライダ25と係留部材3Aが離れ、同スライダ25に作用していた摩擦力が消滅し、ピンセット1の復元力により棒状部材11・12がたがいに遠ざかって、ピンセット先端に挟持されていた対象物が解放される。
また、スライダ25に作用していた摩擦力が消滅した場合、スライダ位置復帰機構23が及ぼす弾性力により、スライダ25が所定のロック解除位置まで人手によらず自動復帰できる。この場合、ロック機構付ピンセット100Eは、
図18のようにピンセット先端が開放された状態に戻る。
【0078】
上述したような、ロック機構付ピンセット100Aにより対象物を挟みロックがかかった状態(
図10)のまま同ピンセットを他者に受渡す際、棒状部材11・12に外部から力が加わってもロックが外れないようにする構成(軸位置固定機構)は、
図18のようにねじ部材26を用いた構成に限らず、
図21のように「円形もしくは楕円形状の回動部材26A」を用いて実現することもできる。
【0079】
このような機能を実現するために、
図21のロック機構付ピンセット100Fは、回動部材挿通孔222と、軸位置固定機構と、をさらに備える。
回動部材挿通孔222は、
図23(a)のように、誘導溝22に設けられた細長い帯状の貫通孔である。
【0080】
ロック機構付ピンセット100Fが備える軸位置固定機構は、
図23(a)のように、回動部材26Aと、回動軸27と、からなる。
回動部材26Aは、回動部材挿通孔222を介して誘導溝22に差込まれる、円形もしくは楕円形状の部材である。
図23(b)においては、真円状の回動部材26Aが例示されている。
同部材26Aには、
図23(b)のように、回動軸27を差込むための回動軸挿通孔261が穿たれている。
また、回動軸27は、
図23(a)のように、回動部材26Aを誘導溝22に取付けるために同部材26Aに挿通された細芯部材である。
回動部材26Aは、回動軸27の軸まわりに回動可能に取付けられる。
【0081】
なお、ロック機構付ピンセット100Fでは、
図23(a)のように、回動部材26Aの円中心からずらした位置に回動軸27を挿通する。
このようにすることで、回動部材26Aを回動させたときに、同部材26Aの姿勢が一定にとどまり続けることがなく、回動部材26Aの姿勢(誘導溝22に対する相対位置)が変化する。
具体的には、
図23(a)における回動部材26Aの姿勢よりも、
図24における回動部材26Aの姿勢の方が、誘導溝22の外部に露出した部分が大きくなっている。
【0082】
図21の構成下では、
図22のように対象物をピンセット先端に挟持しているときに、
図23(a)のごとく軸位置固定機構(回動部材26A)から押圧を加えて誘導溝22内にある摺動軸24を抑えつけてやることで、同軸24が拘束される。
これにより、摺動軸24の位置が固定されたままとなる(
図22)。
【0083】
ここで、たがいに当接した状態にあるスライダ25と係留部材3Aに作用する摩擦力により対象物を挟持した状態が保持(ロック)されており(
図22)、さらに、
図23(a)のように摺動軸24の位置が固定されている場合を考える。
この場合、使用者によって2本の棒状部材11・12をさらに接近させる向きに力が加えられたとしても、スライダ25は位置固定された摺動軸24に接続されていることから、同スライダ25の移動は制限される。
そのため、スライダ位置復帰機構23の弾性力がスライダ25に及んでも、スライダ25は所定のロック解除位置まで復帰できず、スライダ25と係留部材3Aの係合状態が維持される。
すなわち、
図22のロック機構付ピンセット100Fは、対象物をピンセット先端に挟持した状態を維持(ロック)している状態を、2本の棒状部材11・12を接近させる向きにかかった外力の影響を受けることなしに保ち続けることが可能となる。
そのため、対象物を挟んだ状態でロックがかかっている同ピンセット100Fを他者に受渡した場合でも、挟持状態のロックが解除されることを回避でき、ひいては同ピンセット100Fによりつまんだ対象物に対する不測の事故(落下・紛失など)を防止できる。
【0084】
なお、
図18・
図21に示したロック機構付ピンセット100E・100Fは、軸位置固定機構を有するものの、この軸位置固定機構を作動させるかどうかは、適宜、利用シーンに応じて選択すればよい。
ある者から、別の者へ、対象物を挟んだ状態のロック機構付ピンセット100Eまたは100Fを当該ピンセットごと受け渡す必要がある場合には、軸位置固定機構の摺動軸24に対する位置固定機能を働かせて、対象物を挟持した状態のロックが、棒状部材11・12を接近させる向きにかかった外力に左右されないようにすればよい。
一方、ロック機構付ピンセット100Eまたは100Fにより対象物を挟持した状態のロックを、棒状部材11・12を接近させる向きに力を加えてすみやかに解除したい場合には、軸位置固定機構により摺動軸24の位置が固定されない状態(
図20(a)または
図24)で使用すればよい。
軸位置固定機構を作動させない状態で使用する場合、実質的に、
図7と同様の構成で使用することになる。
【0085】
また、摺動軸24に押圧を加えて同軸24の相対位置を固定する機構(軸位置固定機構)は、ロック機構付ピンセット100Fを構成する2本の棒状部材11・12の側面外側に、何ら部品を配置することなく実現される。
そのため、ロック機構付ピンセット100Fを使って対象物をつまもうとした際に、通常のピンセットと変わりない使用感を得ることができる。
【0086】
[変形例:ロック機能とナイフ機能との組合せ]
本願のロック機構付ピンセットは、ナイフ機能と共存する構成が可能である。
図25のロック機構付ピンセット100Gは、
図1の構成に、ナイフ機能を搭載した例である。
本ピンセット100Gを「ナイフ」として機能させる場合、使用者が切断刃スライダ42をずらして、切断刃43をピンセット2の先端よりも外側に押出す(
図25)。
このとき、切断刃スライダ42に固着された切断刃43による切断機能が発揮される(
図26)。
【0087】
なお、ロック機構付ピンセット100Gが「ナイフ」として機能する場合、同
図26のように、棒状部材11・12の間隔を狭めた状態で使用される。
図26のような、押出された切断刃43が、近接する2本の棒状部材11・12で挟まれた状態は、使用者が、棒状部材11・12を手でつまみ、両部材11・12をたがいに接近させる向きに力を加えることで達成される。
この状態で、さらに、使用者が、スライダ212をピンセット先端に向けて押出し、摺動軸211と係留部材3が係合すると(同
図26)、2本の棒状部材11・12間に切断刃スライダ42を挟持した状態が保たれる。
これにより、ナイフ機能をロックすることができ、切断作業の際、切断刃43に対し圧力(切断対象物からの反力)が加わった場合でも、切断刃43を安定的に操作することが可能となる。
【0088】
なお、ナイフ機能のロック状態(
図26)を解除するには、
図6に示した解除操作と同じように、2本の棒状部材11・12をさらに接近させる向きに力が加える。
すると、ピンセットの復元力(板ばね作用)により摺動軸211と係留部材3の係合状態が解かれ、スライダ212はスライダ位置復帰機構23の作用により、また、切断刃スライダ42は切断刃復帰機構44の作用により、両構成要素212・42ともにピンセット接合部分JNに向けて引込まれる。
【0089】
ナイフ機能をロック可能なロック機構付ピンセット100Hの構成は、上述したような
図1の構成を基礎とするものに限らず、
図27に示すように、
図7の構成を基に実現することもできる。
同
図27の構成においても、
図26に示した構成と同等の機能(ナイフ機能のロック)を発揮でき、対象物を切断するときに、切断刃43の刃先が位置ずれせず、使用者により加えられた力が効率的に切断対象に伝達されるため、ナイフ機能使用時の快適性が確保される。
【0090】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が理解し得る各種の変形が可能である。
【符号の説明】
【0091】
100 ロック機構付ピンセット
1 ピンセット
11、12 棒状部材
211 摺動軸
212、25 スライダ
22、24 誘導溝
23 スライダ位置復帰機構
26 ねじ部材
26A 回動部材
27 回動軸
41 軸棒
42 切断刃スライダ
43 切断刃
44 切断刃復帰機構