(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】果実酒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/024 20190101AFI20220829BHJP
C12G 1/02 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
C12G3/024
C12G1/02
(21)【出願番号】P 2021132855
(22)【出願日】2021-08-17
(62)【分割の表示】P 2017030137の分割
【原出願日】2017-02-21
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】中島 浩二
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-104349(JP,A)
【文献】国際公開第2005/042691(WO,A1)
【文献】特開2015-092835(JP,A)
【文献】特開2014-093957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 3/024
C12G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果汁を加熱することにより濃縮し、濃縮果汁を調製する工程と、
前記濃縮果汁を発酵させて発酵果汁を調製する工程と、
前記発酵果汁のエキス分を3%以下に調整する工程と、
前記発酵果汁のアルコール度数を5.5v/v%~10v/v%に調整する工程と、
前記発酵果汁中の2,5BHMFの含有量を、2.0ppm~30ppmになるように調整する工程と、
を含む、果実酒の製造方法。
【請求項2】
前記果汁が、リンゴ果汁又はブドウ果汁である、請求項1に記載された果実酒の製造方法。
【請求項3】
前記果実酒中の高甘味度甘味料の含有量が、ゼロ又はショ糖換算で0.5w/v%以下である、請求項1又は2に記載の果実酒の製造方法。
【請求項4】
前記果実酒において、エキス分をα%とした場合に、総酸度が、0g/L~(α+5.0)g/Lである、請求項1~3のいずれかに記載された果実酒の製造方法。
【請求項5】
前記果実酒が、炭酸を含有する、請求項1~4のいずれかに記載された果実酒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実酒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果実酒は、果汁を発酵させて得られる飲料である。代表的な果実酒として、ブドウ酒(ワイン)が挙げられる。ブドウ酒以外の果実酒として、リンゴ酒もよく知られている。リンゴ酒は、シードル(フランス)もしくはサイダー(イギリス)と呼ばれており、世界中で愛飲されている。
【0003】
図1は、複数の市販のリンゴ酒に関する、アルコール度数とエキス分の分析結果を示すグラフである。
図1から、市販の一般的なシードルには、比較的アルコール度数が高く(約4%以上)かつエキス分が低い(3超~7%)製品と、比較的アルコール度数が低く(約4%以下)かつエキス分が高い(8%以上のもの)製品とが存在することが見て取れる。なお、エキス分が3%以下の製品は、市販品としては見つからない。
【0004】
一方、特開2015-104349号公報(特許文献1)には、飲み応えとキレの付与された低エキス分のリンゴ果実酒を得ることを課題とした発明が開示されている。当該文献には、高甘味度甘味料および酸味料を含有するリンゴ果実酒であって、エキス分の総量が2.5w/v%以下であり、かつpH2.95~3.65である、リンゴ果実酒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的なシードルには、ドリンカビリティに関する課題がある。尚、ドリンカビリティとは、飲料の飲み易さ(どれだけごくごく飲み易いか)を意味する。
【0007】
本件発明者は、シードルがドリンカビリティに欠ける理由は、エキス分が高いからであると考えた。
図1に示されるように、一般的なシードルには3%を超えるエキス分が含まれており、このエキス分の高さにより、ドリンカビリティに欠けていると考えられる。そこで、本件発明者は、エキス分を3%以下にすることにより、ドリンカビリティを高めようと試みた。しかしながら、エキス分を3%以下とした場合には、ドリンカビリティは高まるものの、飲料が水っぽくなり、コクが失われた。
そこで、本発明の課題は、ドリンカビリティとコクとを両立した果実酒及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、以下の構成を採用する。
〔1〕エキス分が3%以下であり、アルコール度数が5.5v/v%以上であり、2,5BHMF(2,5-bishydroxymethylfuran)を2.0ppm以上含有する、果実酒。
〔2〕2,5BHMFの含有量が2.0ppm~30ppmである、前記〔1〕に記載の果実酒。
〔3〕リンゴ酒又はブドウ酒である、前記〔1〕又は〔2〕に記載された果実酒。
〔4〕高甘味度甘味料の含有量が、ゼロ又はショ糖換算で0.5w/v%以下である、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載された果実酒。
〔5〕エキス分をα%とした場合に、総酸度が、0g/L~(α+5.0)g/Lである、前記〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載された果実酒。
〔6〕炭酸を含有する、前記〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載された果実酒。
〔7〕果汁を調製する工程と、
前記果汁を発酵させて発酵果汁を調製する工程と、
前記発酵果汁のエキス分を3%以下に調整する工程と、
前記発酵果汁のアルコール度数を5.5%以上に調整する工程と、
を含む、果実酒の製造方法。
〔8〕前記果汁を調製する工程が、濃縮果汁を前記果汁として調製する工程を含んでいる、前記〔7〕に記載の果実酒の製造方法。
〔9〕更に、前記発酵果汁中の2,5BHMFの含有量を、2.0ppm以上になるように調整する工程を含む、前記〔7〕又は〔8〕に記載の果実酒の製造方法。
〔10〕前記果汁が、リンゴ果汁又はブドウ果汁である、前記〔7〕乃至〔9〕のいずれかに記載された果実酒の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ドリンカビリティとコクとが両立した果実酒及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】複数の市販のリンゴ酒に関する、アルコール度数とエキス分の分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の果実酒は、エキス分が3%以下であり、アルコール度数が5.5%以上である。エキス分を3%以下とし、アルコール度数を5.5%以上とすることにより、ドリンカビリティを損なうことなく、コクを付与することができる。
【0012】
(果実酒)
果実酒とは、果汁を発酵させることにより得られるアルコール飲料である。果汁酒の原料となる果実は、特に限定されるものではないが、例えば、ブドウ、リンゴ、ナシ及びモモ等が挙げられ、ブドウ及びリンゴが好ましく、リンゴが特に好ましい。
【0013】
(エキス分)
エキス分は、果実酒中に含まれる不揮発性固形分の含有量を示すパラメータである。エキス分の多くは糖分である。発酵中、酵母が糖類からアルコールを生成するため、発酵中にエキス分が減少する。
エキス分が3%以下であることにより、果実酒のドリンカビリティを高めることができる。好ましくは、エキス分は、1%以上3%以下であり、より好ましくは1.5%以上3%以下、更に好ましくは2%以上3%以下である。
エキス分とは、温度15度のときにおいて原容量100立方センチメートル中に含有する不揮発性成分のグラム数をいう。エキス分は国税庁所定分析法に従い、比重とアルコール分を測定し、間接法によって算出することができる。
【0014】
(アルコール度数)
本発明の果実酒のアルコール度数は、上述の通り、5.5%以上である。好ましくは、アルコール度数は、5.5%以上15%以下、より好ましくは5.5%以上12.5%以下、更に好ましくは5.5%以上10.0%以下である。アルコール度数を5.5%以上とすることにより、エキス分が3%以下であっても、果実酒にコクを付与することができる。尚、本発明において、アルコール度数とは、飲料中のエタノール濃度(v/v%)を指す。
【0015】
(2.5BHMF)
本発明の果実酒には、2,5BHMF(2,5bishydroxymethylfuran)が含まれていることが好ましい。本発明者は、2,5BHMFが果実酒のコクに関与することを見出した。果実酒に2,5BHMFを適量(例えば、2.0ppm以上)含有させることによって、ドリンカビリティを損なうことなく、コクを付与することができる。
果実酒中における2.5BHMFの含有量は、好ましくは2.0ppm以上、より好ましくは2.0ppm以上30.0ppm以下、更に好ましくは2.0ppm以上15.0ppm以下である。このような含有量で2.5BHMFが含まれていると、ドリンカビリティを損なうことなく、コクを付与することができる。
尚、2,5BHMFは、原料となる果実(果汁)由来のものであってもよいし、果実とは別に添加されたものであってもよい。例えば、2,5BHMFは、5HMF(5-hydroxymethylfurfural)の還元反応により、得ることができる。5HMFは、例えば、糖類を加熱することによって生成する成分であり、特定の濃縮果汁に含まれる。尚、5HMFは、濃縮果汁以外の果汁、すなわち、加熱処理をしていない果汁や、加熱処理以外の処理によって濃縮された濃縮果汁中には、多量には含まれない成分である。そこで、原料とする果汁として、加熱処理等によって5HMが所定量生成された果汁を選択し、次いで、発酵工程において5HMFを還元させることにより、2,5BHMFを所定量含有する果実酒を得ることができる。
【0016】
(糖類)
果実酒には、果汁由来の糖類以外の糖類が添加されていてもよい。糖類としては、例えば、ショ糖、乳糖、麦芽糖、果糖及びぶどう糖又はこれらの混合物等が挙げられる。糖類を添加することにより、エキス分を所定の量になるように、調整することができる。
【0017】
(高甘味度甘味料)
果実酒には、高甘味度甘味料が含まれていてもよいが、その含有量は微量であることが好ましい。具体的には、果実酒における高甘味度甘味料の含有量は、ショ糖換算で、好ましくは0.5w/v%以下、より好ましくは0w/v%(非含有)である。
尚、本発明において、ショ糖換算の含有量とは、果実酒中における高甘味度甘味料の濃度(w/v%)に、高甘味度甘味料の「甘味度」を乗じた値である。
ここで、「甘味度」とは、ショ糖と比較した時の各甘味料の甘味の強さを示すパラメータである。本発明においては、「甘味度」として、「飲料用語事典、平成11年6月25日発行、株式会社ビバリッジジャパン社、資11」の値を採用する。尚、甘味度の値に幅がある場合には、その中央値を採用する。
例えば、代表的な高甘味度甘味料の甘味度は、以下の通りである。
スクラロース(甘味度600)
アセスルファムカリウム(甘味度200)
アスパルテーム(甘味度200)
また、本発明において、高甘味度甘味料とは、甘味度が10以上である甘味料を言う。
【0018】
(酸味料)
果実酒には、果汁由来の酸以外に酸味料が含まれていてもよい。酸味料としては、例えば、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、グルコン酸、酢酸、乳酸、フマル酸、及びリン酸から選択される少なくとも一つの塩、これらの塩が挙げられる。好ましくは、ブドウを原料にした果実酒の場合は、酒石酸、リンゴを原料にした果実酒の場合は、リンゴ酸が用いられる。酸味料は、エキス分をα%とした場合に、総酸度が0g/L~(α+5.0)g/L、好ましくは0g/L~(α+4.0)g/L、さらに好ましくは0g/L~(α+3.0)g/Lとなるような量で用いられるのが好ましい。尚、本発明において、総酸度とは、国税庁所定分析法に従って求められる数値である。具体的には、検体10mlをとり、pH計(pH計を備えた自動滴定装置を含む)を用いて、N/10 水酸化ナトリウム溶液でpHが8.2になるまで滴定することにより求められる、リンゴ酸換算の値である。
【0019】
(アルコール)
果実酒には、アルコールを加えてもよい。アルコール原料として原料用アルコール、ブランデー、焼酎、ジン、ウォッカ、ラム、ワイン、ビールなど、アルコールを含有する物を加えてよい。好ましくは原料用アルコールである。
【0020】
(香料)
果実酒には、香味料として、もともとあった果実本来の香気を補うような香料が含まれていてもよい。
【0021】
(その他の成分等)
果実酒には、その他にも、必要に応じて、色素、pH調整剤、酸化防止剤、保存料、ビタミン類、旨み成分、食物繊維、安定化剤、及び乳化剤等が添加されていてもよい。
また、果実酒は、炭酸を含有しても含有しなくてもよい。炭酸飲料とする場合、炭酸ガス圧は、好ましくは2.0~3.5ガスボリューム、より好ましくは2.5~3.2ガスボリュームである。
【0022】
(製造方法)
本発明に係る果実酒は、例えば、以下の方法により調製することができる。
【0023】
1:発酵前液の調製
まず、果汁を用意する。果汁は、例えば、生果から粉砕、搾汁工程を経て得ることができる。また、このようにして得られた果汁を一度濃縮し、濃縮果汁を原料として用いてもよい。好ましくは、果汁として、濃縮果汁が用いられる。濃縮果汁として、5HMF濃度を所定の濃度含む果汁が好ましい。
既述のように、果汁を加熱することにより、5HMFを生成させることができるため、濃縮前の果汁から濃縮果汁を得る際の加熱条件などを調整することにより、所望の5HMF濃度を有する濃縮果汁を得ることができる。次いで、濃縮果汁に、必要に応じて糖類及び酸味料、発酵助成剤等を加えた後、水と混合して希釈する。例えば、濃縮果汁を、5HMF濃度が1~100ppm、好ましくは1~50ppm、より好ましくは1~30ppmになるように希釈することにより、発酵前液を得る。
【0024】
2:発酵
発酵前液に、酵母を加えて、発酵させる。例えば、5℃~30℃で、5日から30日間かけて、発酵させて、アルコールを生成させる。発酵前液として所定の濃度の5HMFを含む果汁を用いた場合には、発酵により、5HMFを還元させ、これにより、所望する濃度の2,5BHMFを得ることができる。一方で、2.5BHMFは、外部添加、すなわち果汁以外の由来としてもよい。
【0025】
3:果実酒の調製
その後、必要に応じて、ろ過を行い、エキス分、総酸度、及びアルコール度数を調整することにより、目的とする果実酒を得ることができる。エキス分、総酸度、及びアルコール度数は、例えば、水、アルコール、糖類、及び酸味料を添加することにより、調整することができる。また、香料を用いて、香味を調整することも可能である。更に、必要に応じて炭酸ガスを注入し、炭酸飲料としても良い。
【0026】
(実施例)
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。但し、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0027】
(2,5BHMF及び5HMF濃度の測定)
以下の実験例において、2,5BHMF及び5HMF濃度は、イオン排除クロマトグラフィーを用いて、ポストカラムpH緩衝化電気伝導度検出法にて検出した。具体的には、以下の条件を使用した。
本カラム:Inertsil ODS-3(商品名;ジーエルサイエンス株式会社)
移動相:A液 0.1%ギ酸/純水、B液 0.1%ギ酸/CH3CN
流量:1ml/min
プログラム:0~20分 5%B;20~30分 80%B;30~45分 5%B
カラム温度:35℃
検出器:SPD、5HMF 280nm; 2,5BHMF 220nm
【0028】
[実験例1]
ふじりんご濃縮果汁(Brix70)400gに、果糖ブドウ糖液糖(Brix 75)350gを混合した。更に、全量が4Lになるように水を加え、原料液を調製した。調製した原料液を、5分間煮沸した後、高温で静置した。次いで、冷却後に酵母を10×106cell/Lになるように添加して発酵させた。発酵後の液のアルコール度数は7.6%であり、エキス分は1.8%であり、総酸度は2.6g/Lであり、2,5BHMF濃度は5.0ppmであった。
次いで、発酵後の液に対して、デプス濾過(30S)を実施した。更に、水、果糖ブドウ糖液糖、及びリンゴ酸を加え、アルコール度数、エキス分、総酸度、及び2,5BHMF濃度を所定の値になるように調整した。また、炭酸ガスを、2.8ガスボリュームになるように添加し、試験例1乃至10に係る果実酒を得た。
尚、総酸度及びアルコール度数は、国税庁所定分析法に従って分析した。具体的には、検体10mlをとり、pH計(pH計を備えた自動滴定装置を含む)を用いて、N/10 水酸化ナトリウム溶液でpH8.2になるまで滴定し、求められるリンゴ酸換算の値を総酸度とした。
【0029】
得られた試験例1乃至10に係る飲料について、6名のパネリストにより官能検査により、コク感を評価した。コクに関する官能評価は、以下の5段階の基準を用いて行い、6名のパネリストの平均値を結果とし、3点以上を効果ありとした。
1:全く感じない
2:感じない
3:感じる
4:強く感じる
5:とても強く感じる
【0030】
試験例1乃至10の特性値及び官能検査結果を表1に示す。表1に示されように、アルコール度数が5.5%以上である試験例3~5、及び8~10の飲料においては、エキス分が3%以下であるにも関わらず、コクの評価結果が3.0を超えていた。すなわち、エキス分が3%以下であるにもかかわらず、十分なコクを有していた。
【0031】
[実験例2]
濃縮果汁に代えて、ふじりんごを搾汁したストレート果汁を使用し、実験例1と同様の方法で発酵を行い、ストレート果汁由来の発酵液を得た。発酵後の果実酒に対して、デプス濾過(30S)を実施した。得られた果実酒のアルコール度数は8.1%であり、エキス分は1.6%であり、総酸度は2.6g/Lであり、2,5BHMF濃度は1.5ppmであった。
次に、得られたストレート果汁由来の発酵液と、実験例1において得られた発酵後の液を混合し、2,5BHMF濃度を所定の濃度になるように調整した。また、果糖ブドウ糖液糖、リンゴ酸及び水を用いて、エキス分、総酸度及びアルコール度数を調整した。また、炭酸ガスを添加した(炭酸ガス圧=2.8ガスボリューム)。これにより、2,5BHMF濃度、エキス分、及び総酸度が異なる試験例11乃至18に係る果実酒を得た。得られた試験例11乃至18に係る果実酒について、実験例1と同様に官能検査を実施した。
【0032】
試験例11乃至18の特性値及び官能検査結果を表2に示す。表2に示されるように、2,5BHMF濃度が2.0ppm以上である試験例12~14及び16~18の飲料においては、エキス分が3%以下であるにもかかわらず、コクが感じられた。
【0033】
[実験例3]
りんごストレート果汁から作った果実酒(2,5BHMF濃度0ppm、アルコール度数4.7%、エキス6.0%、酸度3.6g/L)をベースとして使用した。これに、2,5BHMF、アルコール、果糖ブドウ糖液糖、及びリンゴ酸を加えて、2,5BHMF濃度、アルコール度数、エキス分、及び総酸度を所定濃度になるように調整した。さらに、炭酸ガスを添加し(炭酸ガス圧=2.8ガスボリューム)、試験例19乃至33に係る果実酒を得た。
得られた試験例19乃至33に係る果実酒について、実験例1と同様にコクに関する官能検査を実施した。また、コクに加えて、ドリンカビリティについても評価した。ドリンカビリティについては、下記の5段階の評価基準で評価し、6名のパネリストの平均値を結果とした。尚、数値が大きい程、ドリンカビリティが高い(ごくごく飲み易い)ことを意味している。
1:全く感じない
2:感じない
3:感じる
4:強く感じる
5:とても強く感じる
【0034】
試験例19乃至33の特性値及び官能検査結果を表3-1及び表3-2に示す。表3-1及び表3-2に示されるように、2.5BHMFの含有量が2.0ppm以上である試験例21乃至26及び試験例29乃至34の果実酒は、コクの評価結果が3.0以上であり、2.5BHMFの含有量がコクに関与していることが確認された。また、2.5BHMFの含有量が2.0ppm以上30.0ppm以下の範囲では、ドリンカビリティも良好であり、2.0ppm以上15.0ppm以下の範囲では、ドリンカビリティが更に良好であった。すなわち、2.5BHMFを含有させることにより、ドリンカビリティを損なうことなく、コクを付与できることが判った。
【0035】
[試験例4]
3000Lスケールのビール醸造用パイロットプラントにて、リンゴ濃縮果汁315kgと果糖ブドウ糖液糖287kgとを混合し、更に水を加えて3200Lに調整し、原料となる果汁を調製した。調製した果汁を5分間煮沸した後、高温静置した。その後、果汁を冷却し、発酵前液を得た。発酵前液の5HMF濃度は、12.3ppmであった。次いで、酵母を20×106Cell/mlになるように、発酵前液に添加して、12℃で発酵させた。発酵後、1週間-1℃で静置し、その後に、珪藻土濾過を実施した。濾過液に対して、果糖ブドウ糖液糖及びリンゴ酸を添加することにより、エキス分を2.9%に調整し、総酸度を3.2g/Lに調整した。更に、アルコール度数を5.8%になるよう水で希釈して調節し、炭酸ガスを加え(炭酸ガス圧=2.8ガスボリューム)、試験例4に係る果実酒を得た。得られた果実酒中の2.5BHMF濃度は、6.5ppmであった。
得られた果実酒について、パネリスト6名により、実施例3と同様に官能評価を実施した。結果を表4に示す。
表4に示されるように、試験例4に係る果実酒は、コクとドリンカビリティがいずれも3点以上であった。すなわち、量産スケールにおいても、コクとドリンカビリティに優れた果実酒が得られていた。
【0036】
[試験例5]
市販の白ワイン(サンタ・ヘレナ・アルパカ・シャルドネ・セミヨン)を、アルコール度数が5.5%になるように希釈した。これに2.5BHMFを添加し、2.5BHMFが異なる試験例35乃至38に係る果実酒を得た。尚、エキス分は1.5%、総酸度は3.0g/Lであった。また、炭酸ガスは添加しなかった。得られた果実酒について、実験例1の方法と同様に、パネリスト6名により、官能検査を実施した。結果を表5に示す。
【0037】
表5に示されるように、白ワインを用いた場合、即ち原料が白ぶどうである果実酒においても、2.5BHMFを添加することにより、エキス分が3%以下であってもコクがある果実酒が得られることが理解される。
【0038】
【0039】
【0040】