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  • 特許-密封装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3244 20160101AFI20220829BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20220829BHJP
【FI】
F16J15/3244
F16J15/3204 201
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021519314
(86)(22)【出願日】2020-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2020016591
(87)【国際公開番号】W WO2020230506
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2019092714
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間中 勇登
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-312274(JP,A)
【文献】特開平10-19136(JP,A)
【文献】特開平10-19135(JP,A)
【文献】特開2006-189116(JP,A)
【文献】特開2003-240126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3244
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転する軸の表面に摺動するシールリップを備える密封装置であって、
前記シールリップのリップ先端は、密封対象領域に向かって拡径する第1傾斜面と、前記密封対象領域とは反対側に向かって拡径する第2傾斜面とにより構成されると共に、
第2傾斜面には、前記シールリップが前記軸に対して一方方向に回転する場合に密封対象流体を前記密封対象領域に向けて流動させる第1ネジ突起と、前記シールリップが前記軸に対して他方方向に回転する場合に密封対象流体を前記密封対象領域に向けて流動させる第2ネジ突起とが、それぞれ複数設けられており、
前記シールリップの摺動摩耗が進行する前の状態において、第1ネジ突起における前記密封対象領域側の側壁と、第2ネジ突起における前記密封対象領域側の側壁は、いずれも前記シールリップが前記軸の表面に接した状態で、前記軸の中心軸線に対して平行になるように設計されていることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジポンプ効果を発揮するネジ突起を備える密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オイルシール等の密封装置においては、シールリップのリップ先端から漏れた密封対象流体を密封対象領域側に戻すために、リップ先端における密封対象領域とは反対側の傾斜面にネジポンプ効果を発揮させるネジ突起を設ける技術が知られている。また、シールリップ(密封装置)に対して軸が正逆回転するように構成される場合に、正回転時にネジポンプ効果を発揮するネジ突起と、逆回転時にネジポンプ効果を発揮するネジ突起を備える技術も知られている。このような技術においては、正回転時において、逆回転時用のネジ突起が漏れの原因となり、逆回転時において、正回転時用のネジ突起が漏れの原因となることがある。この点について、図4を参照して説明する。図4は従来例に係る密封装置のシールリップ付近の一部を拡大した模式的断面図である。
【0003】
この密封装置のシールリップ700のリップ先端のうち、密封対象領域(O)とは反対側(A)の傾斜面710にネジポンプ効果を発揮させるネジ突起720が設けられている。ネジ突起720は、傾斜面710に対して垂直方向に盛り上がるように構成されている。
【0004】
以上のように構成される密封装置においては、従来、使用初期からネジポンプ効果を発揮させるために、シールリップ700の摺動摩耗が進行する前の状態において、ネジ突起720における密封対象領域(O)側の端部が、軸の表面に接するように設計されていた。なお、図4中の点線500Xは、使用初期からネジポンプ効果を発揮させる場合の軸の表面の位置を示している。この従来例においては、ネジ突起720における密封対象領域(O)側の端部(エッジ部)と傾斜面710との間に、図4中、距離T分の段差が設けられている。従って、この段差によって、軸500の表面とリップ先端との間に微小な隙間が生じてしまう。これにより、特に、高速回転時において、例えば、正回転の場合、正回転用のネジ突起についてはネジポンプ効果が発揮されるため問題はないが、逆回転用のネジ突起の付近において、上記のT分の段差によって形成される隙間から密封対象流体が飛散してしまうことがあった。そこで、本出願人は、そのような不具合を解消させるために、シールリップ700の摺動摩耗が進行する前の状態においては、ネジ突起720が軸500の表面に接しない技術について提案している(特許文献1参照)。つまり、図4に示すように、シールリップ700の摺動摩耗が進行する前の状態において、ネジ突起720における密封対象領域(O)側の端部が軸500の表面から距離Y分だけ離れるように設計している。このような構成を採用することで、上記のT分の段差によって、軸500の表面とリップ先端との間に微小な隙間が生じてしまうことを抑制することができる。
【0005】
しかしながら、この技術においては、シールリップ700の摺動摩耗が進行する前の状態においては、ネジ突起720が軸500の表面から離れているために、ネジポンプ効果という本来の機能が十分発揮されないといった新たな課題が生じている。このように、未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-189116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ネジ突起を設けたことによる密封対象流体の漏れを抑制しつつ、早期にネジポンプ効果を発揮させることのできる密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0009】
すなわち、本発明の密封装置は、
相対的に回転する軸の表面に摺動するシールリップを備える密封装置であって、
前記シールリップのリップ先端は、密封対象領域に向かって拡径する第1傾斜面と、前記密封対象領域とは反対側に向かって拡径する第2傾斜面とにより構成されると共に、
第2傾斜面には、前記シールリップが前記軸に対して一方方向に回転する場合に密封対象流体を前記密封対象領域に向けて流動させる第1ネジ突起と、前記シールリップが前記軸に対して他方方向に回転する場合に密封対象流体を前記密封対象領域に向けて流動させる第2ネジ突起とが、それぞれ複数設けられており、
前記シールリップの摺動摩耗が進行する前の状態において、第1ネジ突起における前記密封対象領域側の側壁と、第2ネジ突起における前記密封対象領域側の側壁は、いずれも前記シールリップが前記軸の表面に接した状態で、前記軸の中心軸線に対して平行になるように設計されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、シールリップの摺動摩耗が進行する前の状態において、各ネジ突起における密封対象領域側の端部(エッジ部)と第2傾斜面との間には段差が生じず、ネジ突起が軸の表面に接した状態であっても、ネジ突起を起因とする隙間が生じることはない。また、これに伴い、シールリップの摺動摩耗が進行する前の状態において、ネジ突起と軸の表面との間の隙間を可及的に狭くしても(または、隙間をなくしても)、ネジ突起を起因として、漏れが発生してしまうことはない。従って、シールリップの摺動摩耗が進行する前の状態において、当該隙間を可及的に狭くする(または、隙間をなくす)ことで、早期に(隙間をなくした場合には直ちに)、ネジポンプ効果を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、ネジ突起を設けたことによる密封対象流体の漏れを抑制しつつ、早期にネジポンプ効果を発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明の実施例に係る密封装置の一部破断断面図である。
図2図2は本発明の実施例に係る密封構造の模式的断面図である。
図3図3は本発明の実施例に係る密封装置のシールリップ付近の一部を拡大した模式的断面図である。
図4図4は従来例に係る密封装置のシールリップ付近の一部を拡大した模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、本実施例に係る密封装置は、ロボットやサーボモータなど、各種装置において、油などの密封対象流体を封止する用途に好適に用いることができる。
【0014】
(実施例)
図1図3を参照して、本発明の実施例に係る密封装置について説明する。図1は本発明の実施例に係る密封装置の一部破断断面図である。なお、図1においては、密封装置を側面から見た状態において、その一部を密封装置の中心軸線を含む面で切断した図を示している。図2は本発明の実施例に係る密封構造の模式的断面図である。なお、図2中の密封装置は、その中心軸線を含む面で切断した断面図を示している。図3は本発明の実施例に係る密封装置のシールリップ付近の一部を拡大した模式的断面図である。
【0015】
<密封構造>
本実施例に係る密封装置10を備える密封構造について、特に、図2を参照して説明する。本実施例に係る密封構造は、相対的に回転する軸500及びハウジング600と、これらの間の環状隙間を封止する密封装置10とから構成される。図中、左側が密封対象領域(O)側であり、油などの密封対象流体が封止されている。また、図中右側が密封対象領域(O)とは反対側(A)であり、例えば、大気に曝された空間である。
【0016】
<密封装置>
密封装置10について、特に、図1及び図2を参照して、より詳細に説明する。密封装置10は、金属などにより構成される補強環100と、補強環100に一体的に設けられるシール本体200とから構成される。補強環100は、ハウジング600の軸孔の内周面に嵌合により固定される円筒部110と、円筒部110の一端側(反対側(A))に設けられる内向きフランジ部120とから構成される。シール本体200は、内向きフランジ部120の先端に一体的に設けられる。このシール本体200は、ゴムなどの弾性体により構成される。
【0017】
シール本体200は、内向きフランジ部120の先端から径方向内側かつ密封対象領域(O)側に向かって伸び、軸500の表面に摺動自在に密着するシールリップ210と、シールリップ210よりも密封対象領域(O)とは反対側(A)に設けられるダストリップ220とを一体に備えている。シールリップ210のリップ先端は、密封対象領域(O)に向かって拡径する第1傾斜面211と、密封対象領域(O)とは反対側(A)に向かって拡径する第2傾斜面212とにより構成される。また、シールリップ210の外周面側には、リップ先端を軸500の表面に押し付けるためのガータスプリング300が装着されている。
【0018】
そして、第2傾斜面212には、ネジポンプ効果を発揮させるネジ突起が設けられている。
【0019】
<ネジ突起>
特に、図1及び図3を参照して、第2傾斜面212に設けられたネジ突起について説明する。本実施例に係る密封装置10は、軸500とハウジング600が相対的に両方向に回転(正逆回転)可能に構成される場合において、好適に用いられる。つまり、本実施例に係る密封装置10は、ハウジング600及び密封装置10に対して軸500が一方方向に回転(正回転)する場合と、他方方向に回転(逆回転)する場合のいずれに対しても、ネジ突起によるネジポンプ効果が発揮されるように構成されている。
【0020】
より具体的には、第2傾斜面212には、シールリップ210が軸500に対して一方方向に回転する場合に密封対象流体を密封対象領域(O)に向けて流動させる第1ネジ突起213が複数設けられている。また、第2傾斜面212には、シールリップ210が軸500に対して他方方向に回転する場合に密封対象流体を密封対象領域(O)に向けて流動させる第2ネジ突起214も複数設けられている。なお、軸500に対してシールリップ210が、図1中矢印S方向に回転する場合が、上記「一方方向」への回転に相当し、軸500に対してシールリップ210が、図1中矢印T方向に回転する場合が、上記「他方方向」への回転に相当する。また、図示の例では、3つの第1ネジ突起213を一組とし、3つの第2ネジ突起214を一組として、それぞれ交互に複数のネジ突起が配置される場合を示している。しかしながら、ネジ突起の配置については、図示の例に限定されるものではない。2つまたは4つ以上の第1ネジ突起213を一組とし、同様に2つまたは4つ以上の第2ネジ突起214を一組として、それぞれ交互に複数のネジ突起を配置してもよい。また、第1ネジ突起213と第2ネジ突起214を一つずつ交互に配置してもよい。
【0021】
そして、シールリップ210の摺動摩耗が進行する前の状態において、第1ネジ突起213における密封対象領域側(O)の側壁213aは、シールリップ210が軸500の表面に接した状態で、軸500の中心軸線に対して平行になるように設計されている。なお、シールリップ210の摺動摩耗が進行する前の状態において、第1ネジ突起213における密封対象領域側(O)の側壁213aは、シールリップ210が軸500の表面に接した状態で、軸500の表面に対して平行になるように設計されていると言うこともできる(図3参照)。なお、「側壁213aは、シールリップ210が軸500の表面に接した状態で、軸500の中心軸線(または軸500の表面)に対して平行になるように設計されている」の意味するところは、このような設計によって、実際にシールリップ210が軸500の表面に接した際に、側壁213aが軸500の中心軸線(または軸500の表面)に対して平行になるのが望ましいものの、多少ずれてしまう場合も含まれる趣旨である。次に説明する側壁214aについても同様である。
【0022】
同様に、シールリップ210の摺動摩耗が進行する前の状態において、第2ネジ突起214における密封対象領域側(O)の側壁214aは、シールリップ210が軸500の表面に接した状態で、軸500の中心軸線に対して平行になるように設計されている。なお、シールリップ210の摺動摩耗が進行する前の状態において、第2ネジ突起214における密封対象領域側(O)の側壁214aは、シールリップ210が軸500の表面に接した状態で、軸500の表面に対して平行になるように設計されていると言うこともできる(図3参照)。
【0023】
<本実施例に係る密封装置の優れた点>
本実施例に係る密封装置10によれば、シールリップ210の摺動摩耗が進行する前の状態において、各ネジ突起(第1ネジ突起213及び第2ネジ突起214)における密封対象領域側の端部(エッジ部)と第2傾斜面212との間には段差が生じない。つまり、背景技術の中で説明した図4中の距離Tをゼロにすることができる。そして、側壁213a及び側壁214aが、軸500の中心軸線に対して平行(軸500の表面に対して平行)であることも相まって、ネジ突起(第1ネジ突起213及び第2ネジ突起214)が軸500の表面に接した状態であっても、ネジ突起を起因とする隙間が生じることはない。
【0024】
また、これに伴い、シールリップ210の摺動摩耗が進行する前の状態において、ネジ突起と軸500の表面との間の隙間(図3中の隙間X)を可及的に狭くしても(または、隙間Xをなくしても)、ネジ突起を起因として、漏れが発生してしまうことはない。従って、シールリップ210の摺動摩耗が進行する前の状態において、当該隙間Xを可及的に狭くする(または、隙間Xをなくす)ことで、早期に(隙間Xをなくした場合には直ちに)、ネジポンプ効果を発揮させることができる。
【0025】
以上のように、本実施例に係る密封装置10によれば、ネジ突起(第1ネジ突起213及び第2ネジ突起214)を設けたことによる密封対象流体の漏れを抑制しつつ、早期にネジポンプ効果を発揮させることが可能となる。
【0026】
(その他)
上記実施例においては、シールリップ210の他に、ダストリップ220を備える密封装置を例にして説明したが、本発明の密封装置は、そのような構成に限定されることはない。つまり、本発明の密封装置は、少なくとも、第1ネジ突起と第2ネジ突起が設けられるシールリップを備える各種密封装置に適用可能である。したがって、本発明は、ダストリップを備えていない密封装置に適用することもできるし、ネジ突起を備えるシールリップとダストリップとの間に、更に、補助的なシールリップを備える密封装置にも適用することができる。また、本発明は、例えば、軸に固定されたフランジ状の部材の端面に対して摺動する端面リップを、更に備える密封装置にも適用可能である。また、上記実施例においては、補強環を備える密封装置を例にして説明したが、本発明の密封装置は、補強環を備えていない密封装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
10 密封装置
100 補強環
110 円筒部
120 内向きフランジ部
200 シール本体
210 シールリップ
213 第1ネジ突起
213a 側壁
214 第2ネジ突起
214a 側壁
220 ダストリップ
300 ガータスプリング
500 軸
600 ハウジング
図1
図2
図3
図4