(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】電磁波ベースの距離測定装置における空間的な距離をシミュレートする信号遅延装置およびシミュレータ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20220829BHJP
【FI】
G01S7/40 152
(21)【出願番号】P 2021537903
(86)(22)【出願日】2019-12-28
(86)【国際出願番号】 EP2019087126
(87)【国際公開番号】W WO2020136279
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-08-20
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506012213
【氏名又は名称】ディスペース ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】dSPACE GmbH
【住所又は居所原語表記】Rathenaustr.26,D-33102 Paderborn, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー ポール
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン ワトキンズ
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-514717(JP,A)
【文献】国際公開第03/063396(WO,A1)
【文献】特開平11-145917(JP,A)
【文献】特開平10-020020(JP,A)
【文献】特開2018-031652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0164793(US,A1)
【文献】米国特許第5518400(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波ベースの距離測定装置(8)における空間的な距離をシミュレートする信号遅延装置(4)において、
・前記信号遅延装置(4)は、1つのデマルチプレクサ(11)と、D個の遅延デバイス(12a~12d)と、D個の付加遅延デバイス(13a~13d)と、1つのマルチプレクサ(14)と、1つの制御デバイス(15)と、を有し、
・前記デマルチプレクサ(11)は、1つのデマルチプレクサ入力部(16)およびD個のデマルチプレクサ出力部(17a~17d)を有し、
・D個の前記遅延デバイス(12a~12d)のそれぞれは、1つの遅延入力部(18a~18d)および1つの遅延出力部(19a~19d)を有し、
・D個の前記付加遅延デバイス(13a~13d)のそれぞれは、1つの付加遅延入力部(20a~20d)および1つの付加遅延出力部(21a~21d)を有し、
・前記マルチプレクサ(14)は、2×D個のマルチプレクサ入力部(22a~22h)および1つのマルチプレクサ出力部(23)を有し、
・D個の前記遅延デバイス(12a~12d)のそれぞれにおいて、一方では、1つの前記遅延入力部(18a~18d)とD個の前記デマルチプレクサ出力部(17a~17d)の1つとが、供給信号路(24a~24d)を介して互いに接続されており、他方では、1つの前記遅延出力部(19a~19d)と2×D個の前記マルチプレクサ入力部(22a~22h)の1つとが、遅延信号路(25a~25d)を介して互いに接続されており、
・D個の前記付加遅延デバイス(13a~13d)のそれぞれにおいて、一方では、1つの前記付加遅延入力部(20a~20d)と前記遅延信号路(25a~25d)の1つとが接続されており、他方では、1つの前記付加遅延出力部(21a~21d)と2×D個の前記マルチプレクサ入力部(22a~22h)の1つとが、付加遅延信号路(26a~26d)を介して互いに接続されており、
・前記デマルチプレクサ(11)は、データワードを有しかつ前記デマルチプレクサ入力部(16)においてSの外部伝送速度を有する入力データワードストリームが、それぞれP=S/Dの内部伝送速度を有する、互いにインタリーブされたD個の並列データワードストリームに分割され、D個の前記並列データワードストリームが、D個の前記デマルチプレクサ出力部(17a~17d)に出力されるように構成されており、
・D個の前記遅延デバイス(12a~12d)のそれぞれには、転送遅延係数mをあらかじめ設定可能であり、D個の前記遅延デバイス(12a~12d)のそれぞれは、前記遅延入力部(18a~18d)におけるそれぞれの前記並列データワードストリーム内のそれぞれのデータワードを転送遅延時間Δt
m=m/Pだけ遅延させて、遅延された前記データワードを前記遅延出力部(19a~19d)に出力するように構成されており、
・D個の前記付加遅延デバイス(13a~13d)のそれぞれは、前記付加遅延入力部(20a~20d)におけるそれぞれ遅延された並列データワードストリーム内のそれぞれのデータワードをΔt
z=1/Pの付加遅延時間だけ遅延させて、付加的に遅延された前記データワードを前記付加遅延出力部(21a~21d)に出力するように構成されており、
・前記制御デバイス(15)には、出力遅延係数nがあらかじめ設定可能であり、前記制御デバイス(15)は、あらかじめ設定された出力遅延係数nから転送遅延係数mを決定して、前記転送遅延係数mをD個の前記遅延デバイス(12a~12d)にあらかじめ設定し、前記マルチプレクサ(14)を駆動制御し、これにより、Δt=n/Sの時間遅延を有する入力データワードストリームに対応する出力データワードストリームが、前記マルチプレクサ出力部(23)に出力されるように構成されていることを特徴とする、
信号遅延装置(4)。
【請求項2】
少なくとも1つの前記遅延デバイス(12a~12d)および/または少なくとも1つの前記付加遅延デバイス(13a~13d)は、FPGAに実現されていることを特徴とする、請求項1記載の信号遅延装置(4)。
【請求項3】
前記制御デバイス(15)は、前記転送遅延係数がm=n/Dによって決定されるように構成されていることを特徴とする、
請求項1または2記載の信号遅延装置(4)。
【請求項4】
D個の前記付加遅延デバイス(13a~13d)の少なくとも1つは、f
P=S/Dの動作サイクルを有することを特徴とする、
請求項1から3までのいずれか1項記載の信号遅延装置(4)。
【請求項5】
少なくとも1つの前記付加遅延デバイス(13a~13d)は、遅延線路であることを特徴とする、
請求項1から4までのいずれか1項記載の信号遅延装置(4)。
【請求項6】
少なくとも1つの前記付加遅延デバイス(13a~13d)は、フリップフロップ、好適にはDフリップフロップであることを特徴とする、
請求項1から5までのいずれか1項記載の信号遅延装置(4)。
【請求項7】
電磁波ベースの距離測定装置(8)における空間的な距離をシミュレートする信号遅延装置(4)において、
・前記信号遅延装置(4)は、1つのデマルチプレクサ(11)と、D個の遅延デバイス(12a~12d)と、1つのマルチプレクサ(14)と、1つの制御デバイス(15)と、を有し、
・前記デマルチプレクサ(11)は、1つのデマルチプレクサ入力部(16)およびD個のデマルチプレクサ出力部(17a~17d)を有し、
・D個の前記遅延デバイス(12a~12d)のそれぞれは、1つの遅延入力部(18a~18d)および1つの遅延出力部(19a~19d)を有し、
・前記マルチプレクサ(14)は、D個のマルチプレクサ入力部(22a~22d)および1つのマルチプレクサ出力部(23)を有し、
・D個の前記遅延デバイス(12a~12d)のそれぞれにおいて、一方では、1つの前記遅延入力部(18a~18d)とD個の前記デマルチプレクサ出力部(17a~17d)の1つとが、供給信号路(24a~24d)を介して互いに接続されており、他方では、1つの前記遅延出力部(19a~19d)とD個の前記マルチプレクサ入力部(22a~22d)の1つとが、遅延信号路(25a~25d)を介して互いに接続されており、
・前記デマルチプレクサ(11)は、データワードを有しかつ前記デマルチプレクサ入力部(16)においてSの外部伝送速度を有する入力データワードストリームが、それぞれP=S/Dの内部伝送速度を有する、互いにインタリーブされたD個の並列データワードストリームに分割され、D個の前記並列データワードストリームが、D個の前記デマルチプレクサ出力部(17a~17d)に出力されるように構成されており、
・D個の前記遅延デバイス(12a~12d)のそれぞれには、別々の転送遅延係数m
d、ただしd≦Dをあらかじめ設定可能であり、D個の前記遅延デバイス(12a~12d)のそれぞれは、前記遅延入力部(18a~18d)におけるそれぞれの並列データワードストリーム内のそれぞれのデータワードを別々の転送遅延時間Δt
m,d=m
d/Pだけ遅延させて、遅延された前記データワードを前記遅延出力部(19a~19d)に出力するように構成されており、
・前記制御デバイス(15)には、出力遅延係数nがあらかじめ設定可能であり、前記制御デバイス(15)は、あらかじめ設定された出力遅延係数nから、転送遅延係数m
dを決定して、前記転送遅延係数m
dをD個の設定可能な前記遅延デバイス(12a~12d)にあらかじめ設定し、前記マルチプレクサ(14)を駆動制御し、これにより、Δt=n/Sの時間遅延を有する入力データワードストリームに対応する、出力データワードストリームが、前記マルチプレクサ出力部(23)に出力されるように構成されていることを特徴とする、
信号遅延装置(4)。
【請求項8】
前記遅延デバイス(12a~12d)の少なくとも1つは、FPGAに実現されていることを特徴とする、
請求項7記載の信号遅延装置(4)。
【請求項9】
前記制御デバイス(15)は、別々の前記転送遅延係数が、d≦Dに対し、m
d=(n+d-1)/Dによって決定されるように構成されていることを特徴とする、
請求項7または8記載の信号遅延装置(4)。
【請求項10】
前記外部伝送速度は、S≧2GS/s、好適にS≧2.5GS/sであることを特徴とする、
請求項1から9までのいずれか1項記載の信号遅延装置(4)。
【請求項11】
D=2、好適にD=8、特に好適にはD=4であることを特徴とする、
請求項1から10までのいずれか1項記載の信号遅延装置(4)。
【請求項12】
前記デマルチプレクサ(11)および/または前記マルチプレクサ(14)は、前記外部伝送速度Sに対応する動作サイクルf
Sを有することを特徴とする、
請求項1から11までのいずれか1項記載の信号遅延装置(4)。
【請求項13】
D個の前記遅延デバイス(12a~12d)の少なくとも1つは、f
P=S/Dの動作サイクルを有することを特徴とする、
請求項1から12までのいずれか1項記載の信号遅延装置(4)。
【請求項14】
少なくとも1つの前記遅延デバイス(12a~12d)は、遅延線路であることを特徴とする、
請求項1から13までのいずれか1項記載の信号遅延装置(4)。
【請求項15】
前記信号遅延装置(4)は、レーダまたはライダーベースの距離測定装置(8)における距離をシミュレートするために構成されていることを特徴とする、
請求項1から14までのいずれか1項記載の信号遅延装置(4)。
【請求項16】
電磁波ベースの距離測定装置(8)における空間的な距離をシミュレートするシミュレータ装置(1)であって、
・前記シミュレータ装置(1)は、受信器(2)と、アナログ・デジタル変換器(3)と、信号遅延装置(4)と、デジタル・アナログ変換器(5)と、送信器(6)と、を有し、
・前記受信器(2)は、前記距離測定装置(8)によって放射された、第1電磁波(9)の形態の測定信号を受信し、ダウンコンバートし、前記アナログ・デジタル変換器(3)に供給するように構成されており、
・前記アナログ・デジタル変換器(3)は、ダウンコンバートされた前記測定信号をデータワードストリームに変換して前記信号遅延装置(4)に供給するように構成されており、
・前記信号遅延装置(4)は、前記データワードストリームを遅延させて、遅延された前記データワードストリームを前記デジタル・アナログ変換器(5)に供給するように構成されており、
・前記デジタル・アナログ変換器(5)は、遅延された前記データワードストリームをエコー信号に変換して前記送信器(6)に供給するように構成されており、
・前記送信器(6)は、前記エコー信号をアップコンバートし、第2電磁波の形態で前記距離測定装置(8)に放射するように構成されている、シミュレータ装置(1)において、
前記信号遅延装置(4)は、請求項1から15までのいずれか1項にしたがって構成されていることを特徴とする、
シミュレータ装置(1)。
【請求項17】
前記シミュレータ装置(1)は、送信のためにかつ受信のために、ただ1つのアンテナ(7)を有することを特徴とする、
請求項16記載のシミュレータ装置(1)。
【請求項18】
前記シミュレータ装置(1)は、レーダまたはライダーベースの距離測定装置(8)における距離をシミュレートするために構成されていることを特徴とする、
請求項16または17記載のシミュレータ装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方では、電磁波ベースの距離測定装置における空間的な距離をシミュレートする信号遅延装置に関し、他方ではそのためのシミュレータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
距離測定装置が、電磁波ベースであるといわれるのは、距離測定装置により、距離測定装置と対象体との間の空間的な対象体距離を特定するために、電磁波の形態の測定信号が放射され、放射された測定信号の対象体における反射がエコー信号として受信され、放射された測定信号および受信されたエコー信号の特性から対象体距離が特定される場合である。このような特性の1つは、例えば、信号の合計走行時間であり、したがって距離測定装置から対象体への測定信号の走行時間と、対象体から距離測定装置へのエコー信号の走行時間と、の合計である。対象体距離の特定は、距離測定装置における評価装置によって行われる。多くの場合に距離測定装置は、距離測定装置と対象体との間の対象体距離を特定するように構成されているだけではなく、例えば、対象体の大きさ、および距離測定装置と対象体との間の相対速度もこれらのような信号から特定するようにも構成されている。相対速度の特定は、大抵はこれらのような信号においてドップラー効果を評価することによって行われる。
【0003】
電磁波ベースの距離測定装置は、例えば、レーダ距離測定装置およびライダー距離測定装置である。レーダ距離測定装置は、高周波領域における電磁波ベースであり、ライダー距離測定装置は、レーザ周波数における電磁波ベースである。
【0004】
距離測定装置は、自動車に使用されることが多い。対象体は、周囲環境であり、また特に周囲環境における他の道路利用者である。自動車におけるレーダ距離測定装置の電磁波の一般的な周波数範囲は、77GHzの周波数付近にある。
【0005】
距離測定装置および特にその評価装置も当然のことながら開発中にテストされる。このテストの目標は、距離測定装置によって特定した対象体距離と実際の対象体距離とが同一であることを保証することである。このテストは、リアルな周囲環境において、またはシミュレートされた周囲環境において行うことが可能である。リアルな周囲環境におけるテストは、当然のことながら現実の対象体によって行わなければならない。このテストは、時間がかかり、コストがかかり、測定の再現可能性は、周囲環境から妨害によって損なわれてしまうことが多い。シミュレートされた周囲環境におけるテストは、シミュレータにおいて行われ、当然のことながら対象体もシミュレートされなければならない。リアルな周囲環境におけるテストと比べて、シミュレートされた周囲環境におけるテストは、時間を節約し、より有利であり、かつより良好に再現可能である。
【0006】
シミュレータには、空間的な距離をシミュレートするシミュレータ装置も必要である。シミュレータ装置は、受信器と、アナログ・デジタル変換器と、信号遅延装置と、デジタル・アナログ変換器と、送信器と、を有する。受信器は、距離測定装置によって放射された、第1電磁波の形態の測定信号を受信し、ダウンコンバートし、アナログ・デジタル変換器に供給するように構成されている。アナログ・デジタル変換器は、ダウンコンバートされた測定信号をデータワードストリームに変換して信号遅延装置に供給するように構成されている。信号遅延装置は、データワードストリームを遅延させて、遅延されたデータワードストリームをデジタル・アナログ変換器に供給するように構成されている。データワードストリームを遅延させるように信号遅延装置を構成することにより、信号遅延装置は、空間的な距離をシミュレートするように構成されている。デジタル・アナログ変換器は、遅延されたデータワードストリームをエコー信号に変換して送信器に供給するように構成されている。送信器は、エコー信号をアップコンバートし、第2電磁波の形態で放射して距離測定装置に戻すように構成されている。ダウンコンバージョンおよびアップコンバージョンは、大抵は互いに相補的である。ダウンコンバージョンは、ふつうダウンコンバータにより、またアップコンバージョンは、アップコンバータによって行われる。
【0007】
したがってシミュレータ装置は、距離測定装置によって放射されて受信された測定信号から、遅延を有するエコー信号を生成し、このエコー信号を放射して距離測定装置に戻す。エコー信号は、距離測定装置によって受信され、距離測定装置の評価装置によって測定信号およびエコー信号が評価される際には、シミュレータ装置の信号遅延装置によって付け加えられた遅延により、合計走行時間が増大させられる。このようなシミュレータ装置を有するシミュレータは、OTA装置と称され、OTAは、オーバーザエアー(over the air)を表しかつ明確に示すのは、距離測定装置には、リアルな電磁波が、エコー信号として供給され、例えば、距離測定装置の評価装置には、シミュレートされたエコー信号が供給されないことである。
【0008】
信号遅延装置によって生成される、つねに時間的な遅延を意味する遅延Δtは、距離測定装置には、走行時間として見え、したがって遅延を設定することにより、距離測定装置と、シミュレートされる対象体と、の間の距離Δdを設定可能である。合計走行時間は、遅延Δtだけによって与えられるのではないため、遅延Δtによる距離Δdは、一般に対象体距離とは異なる。電磁波は、光速c≒3×108m/sで伝搬するため、距離は、光速と遅延との積の半分、したがってΔd=0.5×c×Δtである。シミュレータ装置および特に遅延装置は、リアルタイム装置であり、さまざまな要求は、電磁波の伝搬速度からなされる。
【0009】
シミュレータにおいて距離測定装置をテストする際には、距離は、遅延によって任意にあらかじめ設定可能にすべきである。このために、信号遅延装置は、任意の遅延を生成できなければならない。従来技術からはデジタル遅延線路を有するデジタル信号遅延装置が公知である。本発明は、デジタルの信号遅延装置だけに関係し、アナログの信号遅延装置に関係しない。デジタルの遅延線路は、例えば、異なるタイプのICによって実現される。1つのタイプのICは、例えばFPGAである。FPGAによれば、デジタルの遅延線路だけでなく、信号遅延装置の別の素子が実現でき、またシミュレータ装置も実現できることが多いため、FPGAは特に適している。さらに加えて、FPGAは、別のタイプのICに比べて割安でありかつ再構成可能である。しかしながらFPGAの欠点は、別のタイプのICに比べて動作サイクルfAが低いことである。例えば、データワードストリームをFPGAの1つの動作サイクルだけ遅延させる遅延線路がFPGAに実現され、かつこのFPGAがfA=625MHzの動作サイクルを有する場合、距離分解能は、Δd=0.5×c×(1/fA)=24cmになる。このことが意味するのは、距離測定装置とシミュレートされる対象体との間の、信号遅延装置によって生成される最小距離が、24cmになり、また24cmの倍数にしかなり得ないことである。この距離は、付加的な距離である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、従来技術において示した欠点が少なくとも低減される信号遅延装置およびこのような信号遅延装置を有するシミュレータ装置を提供することであり、このためには特に距離分解能を高めることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、第1選択肢において特許請求項1記載の信号遅延装置によって解決される。
【0012】
電磁波ベースの距離測定装置における空間的な距離をシミュレートする本発明によるこの信号遅延装置は、1つのデマルチプレクサと、D個の遅延デバイスと、D個の付加遅延デバイスと、1つのマルチプレクサと、1つの制御デバイスと、を有する。ゆえにDは、1以上の整数である。
【0013】
デマルチプレクサは、1つのデマルチプレクサ入力部と、D個のデマルチプレクサ出力部と、を有する。D個の遅延デバイスのそれぞれは、1つの遅延入力部および1つの遅延出力部を有する。D個の付加遅延デバイスのそれぞれは、1つの付加遅延入力部および1つの付加遅延出力部を有する。マルチプレクサは、2×D個のマルチプレクサ入力部および1つのマルチプレクサ出力部を有する。したがってマルチプレクサ入力部の個数は、マルチプレクサ出力部の個数の2倍である。
【0014】
D個の遅延デバイスのそれぞれにおいて、一方では、1つの遅延入力部とD個のデマルチプレクサ出力部の1つとが、供給信号路を介して互いに接続されており、他方では、1つの遅延出力部と2×D個のマルチプレクサ入力部の1つとが、遅延信号路を介して互いに接続されている。D個の付加遅延デバイスのそれぞれにおいて、一方では、1つの付加遅延入力部と遅延信号路の1つとが接続されており、他方では、1つの付加遅延出力部と2×D個のマルチプレクサ入力部の1つとが、付加遅延信号路を介して互いに接続されている。個々の供給信号路は、互いに別々であり、したがって互いに接続されていない。同じことは、個々の遅延信号路にも付加遅延信号路にも当てはまる。
【0015】
デマルチプレクサは、データワードを有しかつデマルチプレクサ入力部においてSの外部伝送速度を有する入力データワードストリームが、それぞれP=S/Dの内部伝送速度を有する、互いにインタリーブされたD個の並列データワードストリームに分割され、これらが、D個のデマルチプレクサ出力部に出力されるように構成されている。データワードストリームも入力データワードストリームも互いに順次に連続するデータワードを有し、またはそれぞれの並列データワードストリームは互いにシリアルに連続するデータワードを有する。したがってデータワードの時間的な順序は、シーケンシャルである。データワードは一般に、情報担体として1つまたは複数のビットを有する。例えば、1つのデータワードは10ビットを有する。したがって複数のデータワードの伝送が、時間的に連続して行われるのに対し、1つのデータワードの複数のビットの伝送は、大抵は同時に、したがって並列に行われる。供給信号路、遅延信号路および付加遅延信号路のような信号路は、対応してデータワードを伝送するように構成されている。
【0016】
D個の遅延デバイスのそれぞれには、転送遅延係数mをあらかじめ設定可能であり、D個の遅延デバイスのそれぞれは、遅延入力部におけるそれぞれの並列データワードストリーム内のそれぞれのデータワードを転送遅延時間Δtm=m/Pだけ遅延させて、遅延されたデータワードを遅延出力部に出力するように構成されている。したがって遅延デバイスは、遅延入力部に加わるデータワードストリーム内のすべてのデータワードを遅延させ、これにより、遅延デバイスの遅延出力部には、遅延入力部におけるデータワードストリームに比べて、転送遅延時間Δtmだけ遅延されているが、その他の点ではこれと同一であるデータワードストリームが加わる。転送遅延時間は、すべてのD個の遅延デバイスにおいて同一であり、mは、0以上の整数である。
【0017】
D個の付加遅延デバイスのそれぞれは、付加遅延入力部におけるそれぞれ遅延された並列データワードストリーム内のそれぞれのデータワードをΔtz=1/Pの付加遅延時間だけ遅延させて、付加的に遅延されたデータワードを付加遅延出力部に出力するように構成されている。したがって付加遅延デバイスは、付加遅延入力部に加わるデータワードストリーム内のすべてのデータワードを遅延させ、これにより、付加遅延デバイスの付加遅延出力部には、付加遅延入力部におけるデータワードストリームに比べて、付加遅延時間Δtzだけ遅延されているが、その他の点ではこれと同一であるデータワードストリームが加わる。
【0018】
制御デバイスには、出力遅延係数nがあらかじめ設定可能である。制御デバイスはさらに、あらかじめ設定された出力遅延係数nから転送遅延係数mを決定して、これをD個の遅延デバイスにあらかじめ設定するように構成されている。制御デバイスはさらに、マルチプレクサを駆動制御し、これにより、ΔtD=n/Sの時間遅延を有する入力データワードストリームに対応する出力データワードストリームが、マルチプレクサ出力部に出力されるように構成されている。ここでnは、0以上の整数である。したがって制御デバイスは、マルチプレクサを駆動制御して、2×D個のマルチプレクサ入力部に加わりかつ遅延されたデータワードストリーム内のデータワードストリームから出力データワードストリームが組み立てられるように構成されている。
【0019】
本発明による信号遅延装置は、遅延デバイスおよび付加遅延デバイスが実現されているICの動作サイクルfAを維持しながら、従来技術から公知の信号遅延装置に比べて距離分解能をD倍に増大できるという利点を有する。デマルチプレクサおよびマルチプレクサだけが、外部伝送速度用に構成されていればよい。好適には、少なくとも1つの遅延デバイスおよび/または少なくとも1つの付加遅延デバイスは、FPGAに実現される。FPGAは、他のICに比べてコスト的に有利でありかつ再構成可能であるため、特に有利にはFPGAに信号遅延装置が実現される。この実現には好適には、デマルチプレクサおよびマルチプレクサも含まれる。
【0020】
個数D=2およびS=1GS/sの外部伝送速度について、以下のようになる。すなわち、信号遅延装置は、2つの遅延デバイスおよび2つの付加遅延デバイスを有する。デマルチプレクサは、2つのデマルチプレクサ出力部を有し、マルチプレクサは、4個のマルチプレクサ入力部を有する。S=1GS/sの外部伝送速度が意味するのは、1秒あたりに10億個のデータワードを有するデータワードストリームが伝送されることである。内部伝送速度は、P=S/D=(1GS/s)/2=500MS/sである。合わせて2つの並列データワードストリームが得られる。内部伝送速度は、例えば、fA=500MHzの動作サイクルを有するFPGAによって実現され、これにより、P=500GS/sの内部伝送速度が実現される。
【0021】
本発明による信号遅延装置の第1選択肢の一実施形態では、転送遅延係数がm=n/Dにしたがって決定されるように制御デバイスが構成されているようにする。したがってmは、n/D以下の最大の整数である。
【0022】
信号遅延装置の別の一実施形態では、D個の付加遅延デバイスの少なくとも1つが、fP=S/Dの動作サイクルを有するように構成されている。好適には、動作サイクルfPは、ICの動作サイクルfAに対応する。
【0023】
第1選択肢の別の一実施形態では、少なくとも1つの付加遅延デバイスが、遅延線路であるように構成されている。
【0024】
第1選択肢の別の一実施形態では、少なくとも1つの付加遅延デバイスが、フリップフロップ、好適にはDフリップフロップであるように構成されている。
【0025】
上記の課題は、第2選択肢において特許請求項7記載の信号遅延装置によって解決される。
【0026】
電磁波ベースの距離測定装置における空間的な距離をシミュレートする本発明によるこの信号遅延装置は、1つのデマルチプレクサと、D個の遅延デバイスと、1つのマルチプレクサと、1つの制御デバイスと、を有する。
【0027】
デマルチプレクサは、1つのデマルチプレクサ入力部およびD個のデマルチプレクサ出力部を有する。D個の遅延デバイスのそれぞれは、1つの遅延入力部および1つの遅延出力部を有する。マルチプレクサは、D個のマルチプレクサ入力部および1つのマルチプレクサ出力部を有する。したがってマルチプレクサ入力部の個数は、デマルチプレクサ出力部の個数と同じである。
【0028】
D個の遅延デバイスのそれぞれにおいて、一方では、1つの遅延入力部とD個のデマルチプレクサ出力部の1つとが、供給信号路を介して互いに接続されており、他方では、1つの遅延出力部とD個のマルチプレクサ入力部の1つとが、遅延信号路を介して互いに接続されている。個々の供給信号路は、互いに別々であり、したがって互いに接続されていない。同じことは、個々の遅延信号路にも当てはまる。
【0029】
デマルチプレクサは、データワードを有しかつデマルチプレクサ入力部においてSの外部伝送速度を有する入力データワードストリームが、それぞれP=S/Dの内部伝送速度を有する、互いにインタリーブされたD個の並列データワードストリームに分割され、これらが、D個のデマルチプレクサ出力部に出力されるように構成されている。
【0030】
D個の遅延デバイスのそれぞれには、別々の転送遅延係数md、ただしd≦Dをあらかじめ設定可能であり、D個の遅延デバイスのそれぞれは、遅延入力部におけるそれぞれの並列データワードストリーム内のそれぞれのデータワードを別々の転送遅延時間Δtm,d=md/Pだけ遅延させて、遅延されたデータワードを遅延出力部に出力するように構成されている。したがって転送遅延時間は、D個の遅延デバイス間で異なっていてよい。
【0031】
制御デバイスには、出力遅延係数nがあらかじめ設定可能である。制御デバイスはさらに、あらかじめ設定された出力遅延係数nから、別々の転送遅延係数mdを決定して、これらを設定可能なD個の遅延デバイスにあらかじめ設定するように構成されている。制御デバイスはさらに、マルチプレクサを駆動制御し、これにより、ΔtD=n/Sの時間遅延を有する入力データワードストリームに対応する出力データワードストリームが、マルチプレクサ出力部に出力されるように構成されている。したがって制御デバイスは、マルチプレクサを駆動制御して、D個のマルチプレクサ入力部に加わりかつ遅延されたデータワードストリーム内のデータワードから出力データワードストリームが組み立てられるように構成されている。
【0032】
本発明によるこの信号遅延装置も、遅延デバイスが実現されているICの動作サイクルfAを維持しながら、従来技術から公知の信号遅延装置に比べて距離分解能をD倍に増大できるという利点を有する。デマルチプレクサおよびマルチプレクサだけが、外部伝送速度用に構成されていればよい。好適には、少なくとも1つの遅延デバイスがFPGAに実現される。FPGAは、他のICに比べてコスト的に有利でありかつ再構成可能であるため、特に有利にはFPGAに信号遅延装置が実現される。この実現には好適には、デマルチプレクサおよびマルチプレクサも含まれる。
【0033】
第1選択肢とは異なり、第2選択肢は、付加遅延デバイスを有さず、その代わりに遅延デバイスには、別々の転送遅延係数をあらかじめ設定可能である。第1選択肢に対する第2選択肢の利点に属するのは、付加遅延デバイスがないことと、マルチプレクサ入力部が半分になることである。第1選択肢に対する第2選択肢の欠点に属するのは、遅延デバイスおよび制御デバイスの構成であり、遅延デバイスのそれぞれについて別々の転送遅延係数を設定可能でなければならない。その他の点では、第1選択肢についての説明は、第2選択肢についても当てはまり、またその逆にも当てはまる。
【0034】
しかしながら2つの択一的な信号遅延装置は、同じ着想に基づいている。しかも、遅延デバイスが、また場合によっては付加遅延デバイスも実現されているICの動作サイクルfAを維持しながら、従来技術から公知の信号遅延装置に比べて距離分解能がD倍に増大される。デマルチプレクサおよびマルチプレクサだけが、外部伝送速度用に構成されていればよい。
【0035】
本発明による信号遅延装置の第2選択肢の一実施形態では、別々の転送遅延係数がmd=(n+d-1)/D、ただしd≦D、にしたがって特定されるように制御デバイスが構成されているようにする。
【0036】
本発明による複数の信号遅延装置のうちの1つの一実施形態では、外部伝送速度がS≧2GS/s、好適にS≧2.5GS/sであるように構成されている。別の一実施形態では、D=2、好適にD=8、特に好適にはD=4である。外部伝送速度S≧2.5GS/sかつD=4である場合、内部伝送速度はP=S/D=(2.5GS/s)/4=625MS/sである。この内部伝送速度は、625MHzの動作サイクルで動作するICによって実現可能である。例えば、このような動作サイクルを有するFPGAは入手可能である。
【0037】
別の一実施形態では、デマルチプレクサおよび/またはマルチプレクサが、外部伝送速度Sに対応する動作サイクルfSを有するように構成されている。外部伝送速度が、S=2.5GS/sである場合、デマルチプレクサおよび/またはマルチプレクサの動作サイクルは、fS=2.5GHzである。
【0038】
別の一実施形態では、D個の遅延デバイスの少なくとも1つが、fP=S/Dの動作サイクルを有するように構成されている。好適には、動作サイクルfPは、ICの動作サイクルfAに対応する。
【0039】
別の一実施形態では、少なくとも1つの遅延デバイスが、遅延線路であるように構成されている。
【0040】
別の一実施形態では、信号遅延装置が、レーダまたはライダーベースの距離測定装置における距離をシミュレートするために構成されているようにする。
【0041】
上に示した課題はさらに、特許請求項16記載のシミュレータ装置によっても解決される。
【0042】
このシミュレータ装置では、シミュレータ装置の信号遅延装置が、上で説明したように構成されている。
【0043】
本発明によるシミュレータ装置の第1実施形態では、シミュレータ装置は、送信のためにかつ受信のためにただ1つのアンテナを有するように構成される。
【0044】
シミュレータ装置の別の一実施形態では、このシミュレータ装置が、レーダまたはライダーベースの距離測定装置における距離をシミュレートするように構成されているようにする。
【0045】
詳細には、信号遅延装置およびシミュレータ装置を構成して発展させるために多くの可能性がある。これについては、特許請求項1、7および16に後続する特許請求項も、信号遅延装置を有するシミュレータ装置の好ましい実施例の、図面に関連した下記の説明も参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図3】a~jは、n=4について、第1実施例におけるデータワードストリームを示す図である。
【
図4】a~jは、n=5について、第1実施例におけるデータワードストリームを示す図である。
【
図6】a~fは、n=4について、第2実施例におけるデータワードストリームを示す図である。
【
図7】a~fは、n=5について、第2実施例におけるデータワードストリームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1には、シミュレータ装置1の一実施例がブロック図で示されている。シミュレータ装置1は、受信器2と、アナログ・デジタル変換器3と、信号遅延装置4と、デジタル・アナログ変換器5と、送信器6と、アンテナ7と、を有する。シミュレータ装置1は、距離測定装置8をテストする、図示されていないシミュレータの一部である。
【0048】
距離測定装置8は、77GHzの周波数付近の周波数領域における信号で動作するレーダ距離測定装置である。距離測定装置8は、動作時にシミュレータの外部で、信号の合計走行時間から距離測定装置8と対象体との間の距離を特定する。信号の合計走行時間は、特に、距離測定装置8から対象体までの測定信号の走行時間と、対象体において反射されて距離測定装置8に戻るエコー信号の走行時間と、から成る。
【0049】
シミュレータ装置1には、アンテナ7を介して距離測定装置8によって放射された第1電磁波9の形態の測定信号を受信し、ダウンコンバートして、アナログ・デジタル変換器3に供給する受信器2が構成されている。アナログ・デジタル変換器3は、ダウンコンバートされた測定信号をデータワードストリームに変換して信号遅延装置4に供給するように構成されている。信号遅延装置4は、データワードストリームをΔtだけ遅延させ、遅延されたデータワードストリームをデジタル・アナログ変換器5に供給するように構成されている。データワードストリームを遅延させるように信号遅延装置4を構成することにより、信号遅延装置4は、空間的な距離をシミュレートするように構成される。したがって同じことは、シミュレータ装置1にも当てはまる。デジタル・アナログ変換器5は、遅延されたデータワードストリームをエコー信号に変換して送信器6に供給するように構成されている。送信器6は、エコー信号をアップコンバートし、第2電磁波10の形態で放射して距離測定装置8に戻すように構成されている。
【0050】
したがってシミュレータ装置1により、受信された測定信号から、遅延Δtを有するエコー信号が生成され、これが距離測定装置8に放射されて戻される。エコー信号は、距離測定装置8によって受信され、測定信号およびエコー信号を評価する際には、距離測定装置8により、信号遅延装置4によって追加された遅延Δtだけ合計走行時間が増大する。信号遅延装置4によって生成される遅延Δtは、距離測定装置8には走行時間のように見え、したがって遅延Δtを設定することにより、距離測定装置8と、シミュレートされた対象体と、の間の距離Δdを設定可能である。距離情報を電磁波10に統合することにより、シミュレータは、OTA装置になる。
【0051】
信号遅延装置4は、種々異なる仕方で実現可能である。
図2には信号遅延装置4の第1実施例が示され、また
図5には第2実施例が示されている。
【0052】
図2に示された信号遅延装置4の第1実施例は、1つのデマルチプレクサ11と、4個の遅延デバイス12a~12dと、4個の付加遅延デバイス13a~13dと、1つのマルチプレクサ14と、1つの制御デバイス15と、を有する。したがってこの実施例ではD=4である。4個の遅延デバイス12a~12d、4個の付加遅延デバイス13a~13dおよび制御デバイス15は、1つのFPGAに実現されている。
【0053】
デマルチプレクサ11は、1つのデマルチプレクサ入力部16および4個のデマルチプレクサ出力部17a~17dを有する。4個の遅延デバイス12a~12dのそれぞれは、1つの遅延入力部18a~18dおよび1つの遅延出力部19a~19dを有する。4個の付加遅延デバイス13a~13dのそれぞれは、1つの付加遅延入力部20a~20dおよび1つの付加遅延出力部21a~21dを有する。マルチプレクサ14は、8個のマルチプレクサ入力部22a~22hおよび1つのマルチプレクサ出力部23を有する。したがってマルチプレクサ入力部22a~22hの個数は、デマルチプレクサ出力部17a~17dの個数の2倍である。
【0054】
4個の遅延デバイス12a~12dのそれぞれにおいて、一方では、1つの遅延入力部18a~18dと4個のデマルチプレクサ出力部17a~17dの1つとが、供給信号路24a~24dを介して互いに接続されており、他方では、1つの遅延出力部19a~19dと8個のマルチプレクサ入力部22a~22hの1つとが、遅延信号路25a~25dを介して互いに接続されている。4個の付加遅延デバイス13a~13dのそれぞれにおいて、一方では、付加遅延入力部20a~20dと遅延信号路25a~25dの1つとが接続されており、他方では、1つの付加遅延出力部21a~21dと8個のマルチプレクサ入力部22a~22hの1つとが、付加遅延信号路26a~26dを介して互いに接続されている。個々の供給信号路24a~24dは、互いに別々であり、したがって互いに接続されていない。同じことは、個々の遅延信号路25a~25dにも付加遅延信号路26a~26dにも当てはまる。
【0055】
デマルチプレクサ11は、データワードを有しかつデマルチプレクサ入力部16においてS=2.5GS/sの外部伝送速度を有する入力データワードストリーム(a0,a1,a2,a3,a4,a5,a6,a7,a8,a9,a10,a11,…)が、それぞれP=S/D=(2.5GS/s)/4=625MS/sの内部伝送速度を有する、互いにインタリーブされた4個の並列データワードストリーム(a0,a4,a8,…)と、(a1,a5,a9,…)と、(a2,a6,a10,…)と、(a3,a7,a11,…)と、に分割され、これらが4個のデマルチプレクサ出力部17a~17dに出力されるように構成されている。データワードストリームにおいて、それぞれのデータワードは、10ビットを有する。
【0056】
4個の遅延デバイス12a~12dのそれぞれには、転送遅延係数mをあらかじめ設定可能であり、4個の遅延デバイス12a~12dのそれぞれは、遅延入力部18a~18dにおけるそれぞれの並列データワードストリーム内のそれぞれのデータワードを転送遅延時間Δtm=m/P=m/(625MS/s)=m×1.6nsだけ遅延させて、遅延されたデータワードを遅延出力部19a~19dに出力するように構成されている。転送遅延時間は、すべての4個の遅延デバイス12a~12dにおいて同一である。
【0057】
4個の付加遅延デバイス13a~13dのそれぞれは、付加遅延入力部20a~20dにおけるそれぞれ遅延された並列データワードストリーム内のそれぞれのデータワードを付加遅延時間Δtz=1/P=1/(625MS/s)=1.6nsだけ遅延させて、付加的に遅延されたデータワードを付加遅延出力部21a~21dに出力するように構成されている。
【0058】
制御デバイス15には、出力遅延係数nがあらかじめ設定可能である。制御デバイスは、あらかじめ設定された出力遅延係数nから転送遅延係数mを決定して、これを4個の遅延デバイス12a~12dにあらかじめ設定するように構成されている。制御デバイスはさらに、マルチプレクサ14を駆動制御し、これにより、Δt=n/S=n/(2.5GS/s)=n×0.4nsの時間遅延を有する入力データワードストリームに対応する出力データワードストリームが、マルチプレクサ出力部23に出力されるように構成されている。このために、制御デバイス15は、m=n/4にしたがって転送遅延係数を決定するように構成されている。したがってmに対し、nに依存して以下が得られる。
【表1】
【0059】
図3a~
図3jおよび
図4a~
図4jには、第1実施例による信号遅延装置4の特定の箇所におけるデータワードストリームが示されており、また制御デバイス15によるマルチプレクサ14の駆動制御が説明されており、したがってマルチプレクサ出力部23には、デマルチプレクサ入力部16におけるデータワードストリームに対してΔtだけ遅延されたデータワードストリームが加わる。
【0060】
図3a~
図3jには、n=4について、データワードストリームが経時的に示されている。これによると、m=1、Δt
m=m/P=1/(625MS/s)=1.6nsおよびΔt=n/S=4×0.4ns=1.6nsである。
図3a~
図3jの時間軸は、互いに同期している。
【0061】
図3aには、デマルチプレクサ入力部16におけるデータワードストリームが、
図3bには、マルチプレクサ入力部22aにおけるデータワードストリームが、
図3cには、マルチプレクサ入力部22bにおけるデータワードストリームが、
図3dには、マルチプレクサ入力部22cにおけるデータワードストリームが、
図3eには、マルチプレクサ入力部22dにおけるデータワードストリームが、
図3fには、マルチプレクサ入力部22eにおけるデータワードストリームが、
図3gには、マルチプレクサ入力部22fにおけるデータワードストリームが、
図3hには、マルチプレクサ入力部22gにおけるデータワードストリームが、
図3iには、マルチプレクサ入力部22hにおけるデータワードストリームが、
図3jには、マルチプレクサ出力部23におけるデータワードストリームが示されている。
【0062】
デマルチプレクサ入力部16およびマルチプレクサ出力部23においてデータワードストリームが、外部伝送速度S=2.5GS/sを有するのに対し、デマルチプレクサ出力部17a~17dと、マルチプレクサ入力部22a~22hと、の間ではデータワードストリームは、内部伝送速度P=625MS/sを有する。
【0063】
図3b~
図3iのデータワードストリームから
図3jのデータワードストリームに延びる垂直方向の矢印は、制御デバイス15によるマルチプレクサ14の駆動制御をシンボリックに示している。
【0064】
図4a~
図4jには、n=5について、データワードストリームが示されている。これによると、Δt=n/S=5×0.4ns=2.0nsであり、さらにm=1である。
図4a~
図4iのデータワードストリームは、
図3a~
図3iのそれと同一である。
図4jに示されているデータワードストリームだけが、
図3jに示されているデータワードストリームに対して、さらに0.4nsだけ遅延されている。ここでは、付加遅延デバイス13a~13dの必要性も示されている。データワードa
3およびa
7は、これらにより、正しい時間に供給される。というのは、遅延デバイス12a~12dは、すでにつぎのデータワードa
7およびa
11を準備しているからである。
【0065】
図5に示された信号遅延装置4の第2実施例は、1つのデマルチプレクサ11と、4個の遅延デバイス12a~12dと、1つのマルチプレクサ14と、1つの制御デバイス15と、を有する。したがってこの実施例ではD=4である。4個の遅延デバイス12a~12dおよび制御デバイス15は、1つのFPGAに実現されている。
【0066】
デマルチプレクサ11は、1つのデマルチプレクサ入力部16および4個のデマルチプレクサ出力部17a~17dを有する。4個の遅延デバイス12a~12dのそれぞれは、1つの遅延入力部18a~18dおよび1つの遅延出力部19a~19dを有する。マルチプレクサ14は、4個のマルチプレクサ入力部22a~22dおよび1つのマルチプレクサ出力部23を有する。したがってマルチプレクサ入力部22a~22dの個数は、デマルチプレクサ出力部17a~17dの個数と同じである。
【0067】
4個の遅延デバイス12a~12dのそれぞれにおいて、一方では、1つの遅延入力部18a~18dと4個のデマルチプレクサ出力部17a~17dの1つとが、供給信号路24a~24dを介して互いに接続されており、他方では、1つの遅延出力部19a~19dと4個のマルチプレクサ入力部22a~22dの1つとが、遅延信号路25a~25dを介して互いに接続されている。個々の供給信号路24a~24dは、互いに別々であり、したがって互いに接続されていない。同じことは、個々の遅延信号路25a~25dにも当てはまる。
【0068】
デマルチプレクサ11は、データワードを有しかつデマルチプレクサ入力部16においてS=2.5GS/sの外部伝送速度を有する入力データワードストリーム(a0,a1,a2,a3,a4,a5,a6,a7,a8,a9,a10,a11,…)が、それぞれP=S/D=(2.5GS/s)/4=625MS/sの内部伝送速度を有する、互いにインタリーブされた4個の並列データワードストリーム(a0,a4,a8,…)と、(a1,a5,a9,…)と、(a2,a6,a10,…)と、(a3,a7,a11,…)と、に分割され、これらが4個のデマルチプレクサ出力部17a~17dに出力されるように構成されている。データワードストリームにおいて、それぞれのデータワードは、10ビットを有する。
【0069】
4個の遅延デバイス12a~12dのそれぞれには、別々の転送遅延係数md、ただしd≦4、があらかじめ設定可能であり、4個の遅延デバイス12a~12dのそれぞれは、遅延入力部18a~18dにおけるそれぞれの並列データワードストリーム内のそれぞれのデータワードを別々の転送遅延時間Δtm,d=md/P=md/(625MS/s)だけ遅延させて、遅延されたデータワードを遅延出力部19a~19dに出力するように構成されている。したがって転送遅延時間は、4個の遅延デバイス12a~12d間で異なっていてよい。
【0070】
制御デバイス15には、出力遅延係数nがあらかじめ設定可能である。制御デバイスは、あらかじめ設定された出力遅延係数nから、別々の転送遅延係数m
dを決定して、これらを4個の設定可能な遅延デバイス12a~12dにあらかじめ設定するように構成されている。制御デバイスはさらに、マルチプレクサ14を駆動制御し、これにより、Δt=n/S=n/(2.5GS/s)=n×0.4nsの時間遅延を有する入力データワードストリームに対応する出力データワードストリームが、マルチプレクサ出力部23に出力されるように構成されている。このために、制御デバイスは、m
d=(n+d-1)/4、ただしd≦4にしたがって転送遅延係数を決定するように構成されている。
したがってm
dに対し、nに依存して以下が得られる。
【表2】
【0071】
図6a~
図6fおよび
図7a~
図7fには、第2実施例による信号遅延装置4の特定の箇所におけるデータワードストリームが示されており、また制御デバイス15によるマルチプレクサ14の駆動制御が説明されており、したがってマルチプレクサ出力部23には、デマルチプレクサ入力部16におけるデータワードストリームに対してΔtだけ遅延されたデータワードストリームが加わる。
【0072】
図6a~
図6fには、n=4について、データワードストリームが経時的に示されている。これによると、m
1=m
2=m
3=m
4=1、Δt
m,1=Δt
m,2=Δt
m,3=Δt
m,4=1.6nsかつΔt=n/S=4×0.4ns=1.6nsである。
図6a~
図6fの時間軸は、互いに同期している。
【0073】
図6aには、デマルチプレクサ入力部16におけるデータワードストリームが、
図6bには、マルチプレクサ入力部22aにおけるデータワードストリームが、
図6cには、マルチプレクサ入力部22bにおけるデータワードストリームが、
図6dには、マルチプレクサ入力部22cにおけるデータワードストリームが、
図6eには、マルチプレクサ入力部22dにおけるデータワードストリームが、
図6fには、マルチプレクサ出力部23におけるデータワードストリームが示されている。
【0074】
デマルチプレクサ入力部16およびマルチプレクサ出力部23においてデータワードストリームが、外部伝送速度S=2.5GS/sを有するのに対し、デマルチプレクサ出力部17a~17dと、マルチプレクサ入力部22a~22dと、の間ではデータワードストリームは、内部伝送速度P=625MS/sを有する。
【0075】
図6b~
図6eのデータワードストリームから
図6fのデータワードストリームに延びる垂直方向の矢印は、制御デバイス15によるマルチプレクサ14の駆動制御をシンボリックに示している。
【0076】
図7a~
図7fには、n=5について、データワードストリームが示されている。これによると、m
1=m
2=m
3=1、m
4=2、Δt
m,1=Δt
m,2=Δt
m,3=1.6ns、Δt
m,4=3.2nsかつΔt=n/S=5×0.4ns=2.0nsである。
図7a~
図7dにおけるデータワードストリームは、
図6a~
図6dのそれと同一である。
図6eに示されているデータワードストリームは、さらに1.6nsだけ遅延されており、これにより、データワードa
3およびa
7が正しい時点に供給される。
図7fに示されているデータワードストリームは、
図6fに示されているデータワードストリームに対して、さらに0.4nsだけ遅延されている。
【符号の説明】
【0077】
1 シミュレータ装置
2 受信器
3 アナログ・デジタル変換器
4 信号遅延装置
5 デジタル・アナログ変換器
6 送信器
7 アンテナ
8 距離測定装置
9 第1電磁波
10 第2電磁波
11 デマルチプレクサ
12a~12d 遅延デバイス
13a~13d 付加遅延デバイス
14 マルチプレクサ
15 制御デバイス
16 デマルチプレクサ入力部
17a~17d デマルチプレクサ出力部
18a~18d 遅延入力部
19a~19d 遅延出力部
20a~20d 付加遅延入力部
21a~21d 付加遅延出力部
22a~22h マルチプレクサ入力部
23 マルチプレクサ出力部
24a~24d 供給信号路
25a~25d 遅延信号路
26a~26d 付加遅延信号路