(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】部分放電を検出するための装置、システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20220830BHJP
【FI】
G01R31/12 A
(21)【出願番号】P 2017015122
(22)【出願日】2017-01-31
【審査請求日】2019-12-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】横畠 系典
(72)【発明者】
【氏名】前川 俊浩
(72)【発明者】
【氏名】下麥 光二郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 次郎
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-45537(JP,A)
【文献】特公昭45-40384(JP,B1)
【文献】特開2004-61358(JP,A)
【文献】国際公開第2015/190260(WO,A1)
【文献】特開平7-218480(JP,A)
【文献】特開昭62-218880(JP,A)
【文献】特開平8-129047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ(20)に接続されている部分放電検出回路(10)と、前記部分放電検出回路(10)に接続されているコンピュータ(10’)と、を有し、電力設備における部分放電を検出するための部分放電検出装置(100)において、
前記部分放電検出回路(10)は、
前記センサ(20)により検出された波形から、電圧の実効値(BGN)を検出するRMS回路(RMS)と、
前記センサ(20)により検出された波形から、電圧の最大値(MAX)を検出するピークホールド回路(PEAKHOLD)と、
前記実効値(BGN)の所定倍より前記最大値(MAX)が大きい場合、前記センサ(20)により検出された波形に含まれるサージ波形の周波数(f)と設定周波数(fs)との差分を取得する手段と、
前記周波数(f)と前記設定周波数(fs)との差信号(f-fs)の電圧を、所定の閾値電圧と比較する比較器(2)と、
を備え、
前記RMS回路(RMS)と、前記ピークホールド回路(PEAKHOLD)と、前記差分を取得する手段と、は互いに電気的に並列に接続されており、
前記コンピュータ(10’)は、前記周波数(f)と前記設定周波数(fs)とが略一致する場合、前記サージ波形の発生周期(T)を検出し、前記発生周期(T)と前記電力設備の電源電圧の周期(Tp)とを比較し、前記発生周期(T)と前記周期(Tp)の半分とが略一致する場合、部分放電ありと判定する、
部分放電検出装置(100)。
【請求項2】
前記周波数(f)と前記設定周波数(fs)との差分を取得する前記手段は、
前記設定周波数(fs)を発生する電圧制御発振器(VCO)と、
前記周波数(f)および前記設定周波数(fs)の和信号(f+fs)および差信号(f-fs)を出力する混合器(1)と、
前記和信号(f+fs)を遮断し、前記差信号(f-fs)を出力するローパスフィルタ(LPF)と、
を備える、
請求項1に記載の部分放電検出装置(100)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の部分放電検出装置(100)と、前記部分放電検出装置(100)に接続されているセンサ(20)と、を備える部分放電検出システム(200)。
【請求項4】
前記部分放電検出システム(200)は、コンピュータ(400)に部分放電の有無に関する情報を送信する、
請求項3に記載の部分放電検出システム(200)。
【請求項5】
センサ(20)に接続されている部分放電検出回路(10)と、前記部分放電検出回路(10)に接続されているコンピュータ(10’)と、を有する部分放電検出装置(100)を用いて電力設備における部分放電を検出するための方法において、
前記コンピュータ(10’)が、前記センサ(20)により検出された波形から、電圧の実効値(BGN)を検出するステップ(S1)と、
前記コンピュータ(10’)が、前記センサ(20)により検出された波形から、電圧の最大値(MAX)を検出するステップ(S2)と、
前記コンピュータ(10’)が、前記実効値(BGN)と前記最大値(MAX)とを比較するステップ(S3)と、
前記実効値(BGN)の所定倍より前記最大値(MAX)が大きい場合、
前記コンピュータ(10’)が、設定周波数(fs)を発生させるステップと、
前記部分放電検出回路(10)が、前記センサ(20)により検出された波形に含まれるサージ波形の周波数(
f)と前記設定周波数(fs)と比較するステップ(S5)と、
前記部分放電検出回路(10)が、前記周波数(f)と前記設定周波数(fs)との差信号(f-fs)の電圧を、所定の閾値電圧と比較するステップと、
前記周波数(f)と前記設定周波数(fs)とが略一致する場合、
前記コンピュータ(10’)が、前記サージ波形の発生周期(T)を検出するステップ(S6)と、
前記コンピュータ(10’)が、前記発生周期(T)と前記電力設備の電源電圧の周期(Tp)とを比較するステップ(S7)と、
前記発生周期(T)と前記周期(Tp)の半分とが略一致する場合、
前記コンピュータ(10’)が、部分放電ありと判定するステップ(S8)と、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力設備における部分放電を検出するための装置、システムおよび方法に関するものである。
【0002】
変圧器等の電力設備では、絶縁劣化や絶縁異常が生じると、部分放電が発生し、この部分放電により広帯域の微弱な電磁波の信号が発生する。この広帯域の信号を計測し、電力設備内の電気機器の絶縁劣化や絶縁異常の有無を検出するため、種々の部分放電検出方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、配電機器等の通電状態の電気機器に発生する部分放電の信号をセンサにより計測し、センサの計測信号の周波数分析により、計測信号のうちの部分放電の信号が分布する所定周波数範囲の信号レベルのデータを求め、各データのレベル順の設定範囲のデータの平均値を求め、平均値に基づき、部分放電の有無を判定して検出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1では、スペクトラムアナライザが用いられており、また、他の従来技術では、高速なオシロスコープが用いられている。これらの測定器は高価であり、測定者の技術や知識によって判定結果にばらつきが生ずるおそれもある。また、単純なトリガ回路を用いると、雷サージ、開閉サージおよびLTC(負荷時タップ切換器)の動作から部分放電を区別することができない。
そこで、本発明は、上述した問題点を解消し、高価な測定器を用いることなく、判定結果にばらつきが生ずるおそれがなく、確実に部分放電を検出するための装置、システムおよび方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
本発明の部分放電検出装置(100)は、センサ(20)に接続されている部分放電検出回路(10)と、前記部分放電検出回路(10)に接続されているコンピュータ(10’)と、を有し、
前記部分放電検出回路(10)は、
前記センサ(20)により検出された波形から、電圧の実効値(BGN)を検出するRMS回路(RMS)と、
前記センサ(20)により検出された波形から、電圧の最大値(MAX)を検出するピークホールド回路(PEAKHOLD)と、
前記センサ(20)により検出されたサージ波形の周波数(f)と設定周波数(fs)との差分を取得する手段と、
を備え、
前記コンピュータ(10’)は、前記サージ波形の発生周期(T)を検出する、
ことを特徴とする。
【0006】
前記周波数(f)と前記設定周波数(fs)との差分を取得する前記手段は、
前記設定周波数(fs)を発生する電圧制御発振器(VCO)と、
前記周波数(f)および前記設定周波数(fs)の和信号(f+fs)および差信号(f-fs)を出力する混合器(1)と、
前記和信号(f+fs)を遮断し、前記差信号(f-fs)を出力するローパスフィルタ(LPF)と、
を備える、
ことが好ましい。
【0007】
前記部分放電検出回路(10)は、前記周波数(f)について、前記サージ波形の電圧を所定の閾値電圧と比較する比較器(2)をさらに備える、
ことが好ましい。
【0008】
本発明の部分放電検出システム(200)は、上述した部分放電検出装置(100)と、前記部分放電検出装置(100)に接続されているセンサ(20)と、を備える。
【0009】
本発明の部分放電検出システム(200)は、コンピュータ(400)に部分放電の有無に関する情報を送信する、
ことが好ましい。
【0010】
本発明の部分放電を検出するための方法は、
センサ(20)により検出された波形から、電圧の実効値(BGN)を検出するステップ(S1)と、
前記センサ(20)により検出された波形から、電圧の最大値(MAX)を検出するステップ(S2)と、
前記実効値(BGN)と前記最大値(MAX)とを比較するステップ(S3)と、
前記実効値(BGN)の所定倍より前記最大値(MAX)が大きい場合、前記センサ(20)により検出されたサージ波形の周波数(f)を検出するステップ(S4)と、
前記周波数(f)と設定周波数(fs)と比較するステップ(S5)と、
前記周波数(f)と前記設定周波数(fs)とが略一致する場合、前記サージ波形の発生周期(T)を検出するステップ(S6)と、
前記発生周期(T)と電源電圧の周期(Tp)とを比較するステップ(S7)と、
前記発生周期(T)と前記周期(Tp)の半分とが略一致する場合、部分放電ありと判定するステップ(S8)と、
を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】部分放電波形について説明するための図である。
【
図2】本発明の部分放電検出装置を示すブロック図である。
【
図3】本発明の部分放電検出方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照して、部分放電波形について説明する。
図1(a)には、減衰波形である部分放電波形AがバッググラウンドノイズBGNとともに現れている状態を示す。部分放電波形Aの振幅Vaは、バッググラウンドノイズBGNの振幅Vbに対して有意差を有する大きさである(例えば、振幅Vaは振幅Vbの所定倍より大きい)。
図1(b)に示すように、部分放電波形Aの発生周期(T)は、電源電圧波形の周期に同期している。図示例のように、例えば、電源電圧波形が50Hzの場合、部分放電波形Aの発生周期(T)は10msである。なお、電源電圧波形は、50Hzに限定されるものではなく、例えば60Hzにも適用可能である。
図1(c)に示すように、部分放電波形Aの周波数(f)は、高周波、例えば10MHz以上である。なお、部分放電が発生する箇所の絶縁物により、発生する部分放電波形Aの周波数が異なることが知られており、例えば、変圧器の場合、以下の通りである。
乾式変圧器(絶縁物:空気) 数10MHz
油入絶縁変圧器(絶縁物:シリコーン油、鉱油) 数10MHz~200MHz
ガス絶縁変圧器(絶縁物:六フッ化硫黄) 数100MHz
以下、変圧器における部分放電波形を検出するための装置、システムおよび方法について説明するが、本発明は、変圧器だけでなく、遮断器等のさまざまな電力設備に適用可能である。
【0013】
図2は、本発明の部分放電検出装置および部分放電検出システムを示すブロック図である。
本発明の部分放電検出装置100は、センサ20に接続されている部分放電検出回路10と、部分放電検出回路10に接続されているコンピュータ10’と、を有する。部分放電検出装置100およびセンサ20は、部分放電検出システム200を構成する。
センサ20は、
図1に示すサージ波形およびバックグラウンドノイズを検出し、このサージ波形が部分放電波形か否かは、部分放電検出装置100によって判定される。
センサ20により検出されたサージ波形の周波数(f)は、電圧制御発振器(VCO)により発生した設定周波数(fs)とともに混合器1に入力される。混合器1では、ヘテロダインの原理により、入力されたサージ波形の周波数(f)および設定周波数(fs)の和信号(f+fs)および差信号(f-fs)が求められる。次に、ローパスフィルタ(LPF)により和信号である高周波成分(f+fs)が遮断され、差信号である低周波成分(f-fs)が出力される。すなわち、電圧制御発振器(VCO)、混合器1およびローパスフィルタ(LPF)は、センサ20により検出されたサージ波形の周波数(f)と設定周波数(fs)との差分を取得する手段を構成する。
次に、比較器2では、狙った周波数成分であるサージ波形の周波数(f)について、サージ波形の電圧が所定の閾値電圧(Threshold)と比較される。サージ波形の電圧が所定の閾値電圧(Threshold)より高い場合、当該サージ波形の頻度(周期)がコンピュータ10’において監視(検出)される。図示例では、頻度(周期)が10msでなければ、当該サージ波形が部分放電波形ではないと判定される。一方、頻度(周期)が10msであれば、当該サージ波形が部分放電波形の可能性があるとしてさらなる判定が行われる(
図3において詳述する)。
【0014】
センサ20により検出された波形(バックグラウンドノイズ+サージ波形)から、RMS回路(RMS)により電圧の実効値(BGN)が検出され、実効値(BGN)はコンピュータ10’に入力される。なお、この実効値(BGN)は、バックグラウンドノイズの平均値とみなされる。
センサ20により検出された波形(バックグラウンドノイズ+サージ波形)から、ピークホールド回路(PEAKHOLD)により電圧の最大値(MAX)が検出され、最大値(MAX)はコンピュータ10’に入力される。センサ20によりサージ波形が検出されない場合、最大値(MAX)はバックグラウンドノイズの最大値となり、センサ20によりサージ波形が検出される場合、最大値(MAX)はサージ波形の最大値となる。
コンピュータ10’において、実効値(BGN)と最大値(MAX)とが比較され、当該サージ波形が部分放電波形の可能性があるか否かが判定される(
図3において詳述する)。
コンピュータ10’からはリセット信号(Reset)がピークホールド回路(PEAKHOLD)に供給される。
【0015】
図3は、本発明の部分放電検出方法を示すフローチャートである。
ステップS1において、センサ20により検出された波形から、電圧の実効値(BGN)を検出する。
ステップS2において、センサ20により検出された波形から、電圧の最大値(MAX)を検出する。
ステップS3において、実効値(BGN)と最大値(MAX)とを比較する。例えば、実効値(BGN)の2倍と最大値(MAX)とを比較する。なお、「2倍」は単なる一例であり、部分放電波形の振幅が、バッググラウンドノイズの振幅に対して有意差を有する大きさに適宜設定可能である。
ステップS3において、「はい」の場合、すなわち、実効値(BGN)の2倍より最大値(MAX)が大きい場合、ステップS4において、サージ波形の周波数(f)を検出する。
ステップS5において、サージ波形の周波数(f)と設定周波数(fs)とを比較する。設定周波数(fs)は、上述したとおり絶縁物の種類(空気、油、ガス)によって異なる。
ステップS5において、「はい」の場合、すなわち、サージ波形の周波数(f)と設定周波数(fs)とが略一致する場合、ステップS6において、サージ波形の発生周期(T)を検出する。
ステップS7において、サージ波形の発生周期(T)と電源電圧の周期(Tp)とを比較する。
ステップS7において、「はい」の場合、すなわち、サージ波形の発生周期(T)と電源電圧の周期(Tp)
の半分とが略一致する場合、ステップS8において、部分放電ありと判定する。
一方、ステップS3、S5、S7のいずれかにおいて、「いいえ」の場合、ステップS9において、部分放電なしと判定する。
なお、ステップS1~S7はこの順に限定されるものではない。例えば、サージ波形の発生周期(T)の検出をサージ波形の周波数(f)検出より前に行ってもよい。また、図示を省略するが、サージ波形が減衰波形であるか否かを判定するステップを設けることもできる。
また、「略一致する」とは、正確に一致する場合だけではなく、ある程度の範囲を持って一致する場合を含めるための表現であり、範囲は本発明が利用される場合に応じて適宜設定可能である。
【0016】
このように、本発明では、単純なアナログ回路である部分放電検出回路10を用いているため、高価な測定器が不要である。また、サージ波形の電圧値、周波数および周期により部分放電の有無を判定しているため、判定結果にばらつきが生じるおそれはなく、雷サージ、開閉サージおよびLTCの動作から部分放電を確実に区別して、検出することができる。
【0017】
図4は、本発明の適用事例を示す図である。
図4は、センサ一体型据置器の例を示す。変圧器300に部分放電検出システム200が取り付けられている。なお、上述したように、部分放電検出システム200は、部分放電検出回路10、コンピュータ10’およびセンサ20を含む。部分放電検出システム200は、コンピュータ400と通信するための通信手段も含む。変圧器300において内部不具合が発生すると、部分放電検出システム200は、
図3のフローチャートに従って、部分放電の有無を判定する。部分放電有りと判定すると、部分放電検出システム200は、コンピュータ400に部分放電有りという情報を送信する。図示例では、部分放電検出システム200は、コンピュータ400に無線で接続されるが、有線で接続されてもよい。
【0018】
図5は、本発明の適用事例を示す図である。
図5(a)は、センサ取替式の部分放電検出装置の一例を示す。変圧器300にセンサ20が取り付けられている。センサ20は、例えば面電流センサであり、部分放電検出装置100に有線で接続され、測定信号を、部分放電検出装置100に送信する。なお、上述したように、部分放電検出装置100は、部分放電検出回路10およびコンピュータ10’を含む。部分放電検出装置100には、受信した測定信号にサージ波形が含まれているか否かを表示するためのsurgeランプ101と、当該サージ波形が電源電圧に同期しているか否かを表示するためのsyncランプ102と、検出電圧を表示する画面103と、ピークホールド回路をリセットするためのRESETボタン104と、が設けられている。部分放電検出装置100を用いて、
図3のフローチャートに従って、部分放電の有無を判定する。
図5(b)は、センサ取替式の部分放電検出装置の他の例を示す。部分放電検出装置100にはアンテナが取り付けられ、当該アンテナがセンサの役割を果たす。
図5(b)の構成では、アンテナが変圧器300から信号を受信する以外、
図5(a)の構成と同様であるのでその説明を省略する。
【符号の説明】
【0019】
1 混合器
2 比較器
10 部分放電検出回路
10’ コンピュータ
20 センサ
100 部分放電検出装置
101 surgeランプ
102 syncランプ
103 画面
104 RESETボタン
200 部分放電検出システム
300 変圧器
400 コンピュータ