(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】チャック
(51)【国際特許分類】
B23B 31/16 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
B23B31/16 Z
(21)【出願番号】P 2017207426
(22)【出願日】2017-10-26
【審査請求日】2020-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000241588
【氏名又は名称】豊和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】永翁 博
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-146607(JP,U)
【文献】特開2017-172631(JP,A)
【文献】特開2016-007665(JP,A)
【文献】特開2002-137105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/16
B23Q 3/06
B23Q 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャック本体の前面に、ワークを把持する把持爪が備えられると共に、前記ワークに当接して前記チャック本体の軸線方向で前記ワークを位置決めするストッパが備えられたチャックであって、
前記ストッパは、前記チャック本体の前面に取り付けられるストッパベースの前面に、前記ストッパを貫通して前記ストッパベースに固定されるボルトによって回転可能に設けられると共に、回転中心との偏心位置に前記ワークとの当接部を複数備え、回転によって、任意の前記当接部を前記ワークに当接させる複数の受け止め位置を選択可能に設けられており、
前記ストッパの前面と前記ボルトとの間には、前記ストッパを前記ストッパベースに押圧する弾性部材が設けられている一方、
前記チャック本体と前記ストッパとの間に、選択した前記受け止め位置で前記ストッパを位置決めするストッパ止め手段が設けられて、前記ストッパ止め手段は、前記ストッパベースに設けられ、前記ストッパの後面に対して進退動可能なピンと、前記ストッパの後面に設けられ、各前記受け止め位置で前記ピンが前進位置で係止可能な複数の凹部と、前記ピンを前進位置へ付勢する付勢手段と、前記ピンの後端に固定されて前記ストッパベースから突出するツマミ部と、を含むことを特徴とするチャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを把持するために工作機械に設けられるチャックに関する。
【背景技術】
【0002】
NC旋盤等の工作機械に設けられるチャックは、チャック本体の前面に、径方向へ移動する複数の把持爪を備えてワークを軸心で把持可能となっている。また、チャック本体には、ワークを軸線方向で位置決めするためのストッパが設けられる。このストッパとして、例えば特許文献1には、前後方向の厚みが異なる複数種類のストッパ(端面当接部材)が用意され、把持されるワークの大きさや形状に応じた端面当接部材を選択してチャック爪に取り付けることで、複数種類のワークに対応可能としたものが開示されている。また、特許文献2には、チャック本体の前面に設けたストッパベースに、ストッパ取付用のボルト孔を複数設けて、ボルト孔を利用して高さの異なるストッパ(ストッパピースやストッパボルト)を取り付けることで、ワークを軸線方向に位置決め可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-150649号公報
【文献】特許第4524722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のチャックにおいては、ワークの軸線方向の位置決めを1つのストッパで対応できない場合は、別のストッパに付け替える段替え作業が必要となるため、交換の手間や時間を必要とする。また、ストッパの種類が増えるとコストアップに繋がる。
【0005】
そこで、本発明は、複数種類のワークの軸線方向の位置決めを短時間で簡単に行うことができ、コスト低下も実現できるチャックを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、チャック本体の前面に、ワークを把持する把持爪が備えられると共に、ワークに当接してチャック本体の軸線方向でワークを位置決めするストッパが備えられたチャックであって、
ストッパは、チャック本体の前面に取り付けられるストッパベースの前面に、ストッパを貫通してストッパベースに固定されるボルトによって回転可能に設けられると共に、回転中心との偏心位置にワークとの当接部を複数備え、回転によって、任意の当接部をワークに当接させる複数の受け止め位置を選択可能に設けられており、
ストッパの前面とボルトとの間には、ストッパをストッパベースに押圧する弾性部材が設けられている一方、
前記チャック本体と前記ストッパとの間に、選択した受け止め位置でストッパを位置決めするストッパ止め手段が設けられて、ストッパ止め手段は、ストッパベースに設けられ、ストッパの後面に対して進退動可能なピンと、ストッパの後面に設けられ、各受け止め位置でピンが前進位置で係止可能な複数の凹部と、ピンを前進位置へ付勢する付勢手段と、ピンの後端に固定されてストッパベースから突出するツマミ部と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、ストッパに複数の当接部を設けて当該当接部をワークに当接させる複数の受け止め位置を選択可能に設けたことで、ストッパを交換する必要がなく、受け止め位置の選択により、複数のワークの軸線方向の位置決めを短時間で簡単に行うことができる。また、部品点数が削減されるため、コストの低下にも繋がる。
特に、ストッパは、回転中心との偏心位置に複数の当接部をそれぞれ備えて回転可能に設けられ、回転によって各受け止め位置を選択可能としているので、回転操作によって受け止め位置を簡単に選択可能となる。
また、ストッパを回転可能に設けるボルトとストッパ前面との間に、ストッパをチャック本体側に押圧する弾性部材を設けたことで、ストッパがチャック本体側に押し付けられてチャック本体との間のシール性が保たれる。
さらに、選択した受け止め位置でストッパを位置決めするストッパ止め手段を設けたことで、受け止め位置を確実に選択可能となる。
そして、ストッパ止め手段を、ピンとストッパ後面の凹部と付勢手段とを含む構成としたことで、ストッパの受け止め位置の選択と変更とを簡単な操作で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】形態1のチャックの正面図である(ストッパは第1の受け止め位置)。
【
図4】形態1のチャックの正面図である(ストッパは第2の受け止め位置)。
【
図6】形態1のストッパ部分の拡大断面図で、(A)は第1の受け止め位置、(B)は第2の受け止め位置をそれぞれ示す。
【
図7】形態1のストッパの変更例を示す斜視図である。
【
図8】形態2のチャックの正面図である(ストッパは第1の受け止め位置)。
【
図11】形態2のチャックの正面図である(ストッパは第2の受け止め位置)。
【
図13】形態2のストッパの変更例を示すチャックの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[形態1]
図1は、チャックの一例を示す正面図、
図2はA-A線断面図である。このチャック1は、NC旋盤等の図示しない主軸に組み付けられる正面視円形状のチャック本体2を有している。チャック本体2の軸心には、軸孔3が前後方向(
図2の右側を前方とする。)に形成されて、軸孔3内に、ドロースリーブ4が設けられている。このドロースリーブ4は、主軸に設けた駆動機構によって進退動する図示しない入力部材に固定されて、入力部材と一体に進退動する。
また、チャック本体2内には、軸孔3を中心とした同心円上に、軸孔3と連通する後端から前方へ行くに従って外周側へ傾斜する3つのガイド孔5,5・・が、周方向に等間隔で形成され、各ガイド孔5に、ドローバー6が摺動可能に挿入されている。各ドローバー6の後端は、ドロースリーブ4に係止されて、ドロースリーブ4の軸線方向の進退動に伴い、ドローバー6がガイド孔5内を進退動可能となっている。7は、チャック本体2の後面を閉塞するリアカバーである。
【0010】
さらに、チャック本体2の前面から突出する各ドローバー6の前端には、ベースジョー8が、ボルト9,9によって前方から取り付けられ、各ベースジョー8の前面でチャック本体2の中心側には、把持爪としてのインサートジョー10が、ボルト11,11によって取り付けられている。各インサートジョー10におけるチャック本体2の中心側の内面には、大径のワークに対応する前側把持面12と、小径のワークに対応する後側把持面13とが前後に形成されている。
【0011】
そして、チャック本体2の前面には、ベース台18を介してストッパベース14が設けられている。このストッパベース14は、チャック本体2の前面中心で軸孔3の前側開口に嵌合する中央部15と、中央部15からベースジョー8,8・・の間で放射状に延びる半径部16,16・・とからなる三つ叉状で、ボルト17,17・・によってベース台18の前面に固定されている。ベース台18は、ストッパベース14と略同じ三つ叉状であるが、放射状に延びる部分が半径部16よりも短くなって、半径部16をベース台18よりも径方向外側へ突出させている。ベース台18は、ボルト19,19・・によってチャック本体2の前面に固定されている。
【0012】
ストッパベース14の各半径部16の先端には、ストッパ20が設けられている。このストッパ20は、
図3に示すように、正面視が円形状のブロック体で、中心には、半径部16に後述する段付きボルト30で固定するための貫通孔21が形成されている。貫通孔21の前側の開口は、大径の拡開部22となっている。ストッパ20の後面には、
図6(A)にも示すように、貫通孔21を中心とする同心円上で点対称に位置する一対の凹部23,23が形成されている。
また、ストッパ20の前面には、貫通孔21を中心とする円周方向で略半円状に前方へ突出する第1当接部24が形成されて、第1当接部24の前面に第1ストッパ面25が形成されている。さらに、貫通孔21を中心とした第1当接部24との点対称位置には、第1当接部24よりも低い高さで且つ円周方向に短い幅で前方へ突出する第2当接部26が形成されて、第2当接部26の前面に第2ストッパ面27が形成されている。この第1ストッパ面25と第2ストッパ面27との位相は、後面の凹部23,23の位相と一致しており、正面視では、各ストッパ面25,27の周方向の中心位置に凹部23がそれぞれ位置するようになっている。
【0013】
一方、ストッパベース14の半径部16には、前側が大径で後側が小径のネジ孔29となる段付き孔28が貫通形成されて、ここに螺合される段付きボルト30によってストッパ20が取り付け可能となっている。
段付きボルト30は、ネジ孔29へ螺合されるネジ部31と、段付き孔28に挿入される中間部32と、中間部32より大径でストッパ20の貫通孔21に挿入される貫通部33と、貫通部33より大径のフランジ部34とを有している。ストッパ20の取り付けは、中間部32に貫通部33と同径のカラー35を外装させ、貫通部33に弾性部材としてのOリング36を外装させた状態で、ストッパ20の前方から段付きボルト30を貫通孔21に貫通させ、中間部32を段付き孔28に挿入してネジ部31をネジ孔29にねじ込むことで行われる。
【0014】
この状態で段付きボルト30は、カラー35が半径部16の前面に当接することでねじ込みが規制され、ストッパ20は、半径部16とフランジ部34との間で前後移動を規制された状態で回転可能に保持される。このときOリング36は、貫通孔21の拡開部22内にあって弾性変形し、ストッパ20を後方へ付勢して半径部16の前面へ押し付ける。この押し付けにより、半径部16の前面とストッパ20の後面との間のシール性が保たれる。
そして、半径部16において、段付き孔28よりも半径方向外側には、ストッパピン37が設けられている。このストッパピン37は、半径部16へ前後方向に形成されたネジ孔に後方からねじ込み固定される筒部38と、筒部38を後方から貫通するピン39と、ピン39の後端に固定されるツマミ部40と、ピン39の前側に設けられた図示しない前ストッパと、ピン39の後側で筒部38内に設けられた図示しない後ストッパとの間でピン39に外装される付勢手段としてのコイルバネ41とを有している。
【0015】
よって、常態でのピン39は、コイルバネ41の付勢により、ツマミ部40が筒部38の後端に当接する
図2,6の前進位置へ付勢され、この前進位置では、ピン39の先端が半径部16の前面から前方へ突出する。従って、ストッパ20の凹部23がピン39の前側に位置する状態では、凹部23内にピン39が挿入係止して、ストッパ20の回転を規制することになる。ツマミ部40を把持してコイルバネ41の付勢に抗してピン39を後方へ引っ張ると、ピン39が後退して凹部23から外れ、ストッパ20の回転規制を解除することができる。ストッパピン37の後方でチャック本体2の前面には、ツマミ部40との干渉を避けてピン39の後退を許容する逃げ凹部42が、半径方向に凹設されている。
【0016】
以上の如く構成されたチャック1においては、ストッパベース14の各半径部16に、ストッパ20を、前述のように段付きボルト30によってそれぞれ回転可能に取り付けることができる。この状態でストッパ20は、第1当接部24がチャック本体2の半径方向外側に位置して第2当接部26が同方向内側に位置する第1の受け止め位置と、第2当接部26がチャック本体2の半径方向外側に位置して第1当接部24が同方向内側に位置する第2の受け止め位置とに回転操作できることになる。各受け止め位置では、ストッパピン37のピン39の前方に凹部23,23がそれぞれ位置することになるため、コイルバネ41によって前進位置へ移動したピン39が凹部23に挿入係止することで、各受け止め位置が保持される。この凹部23とピン39とコイルバネ41とがストッパ止め手段となる。
【0017】
従って、ドロースリーブ4を後退させてドローバー6,6・・を中心側へ引き込み、各ベースジョー8及びインサートジョー10を中心側へ移動させてワークを把持する際、
図1,2に示すように、インサートジョー10の後側把持面13を利用して把持するような小径のワークW1の場合は、ストッパベース14上の各ストッパ20をそれぞれ第1の受け止め位置とすれば、第2当接部26がワークW1の後方に位置して第2ストッパ面27がワークW1に当接し、ワークW1を軸線方向に位置決めすることができる。
一方、
図4,5に示すように、インサートジョー10の前側把持面12を利用して把持するような大径のワークW2の場合は、各ストッパ20をそれぞれ第2の受け止め位置とすれば、第1当接部24がワークW2の後方に位置して第1ストッパ面25がワークW2に当接し、ワークW2を軸線方向に位置決めすることができる。
【0018】
このように、上記形態1のチャック1によれば、ストッパ20に、複数の第1、第2当接部24,26を設けると共に、第1、第2当接部24,26をワークに当接させる第1、第2の受け止め位置を選択可能としたことで、ストッパ20を交換する必要がなく、回転による受け止め位置の選択により、複数のワークW1,W2の軸線方向の位置決めを短時間で簡単に行うことができる。また、部品点数が削減されるため、コストの低下にも繋がる。
特にここでは、ストッパ20は、回転中心との偏心位置に第1、第2当接部24,26をそれぞれ備えて回転可能に設けられ、回転によって各受け止め位置を選択可能としているので、回転操作によって受け止め位置を簡単に選択可能となる。
【0019】
また、ストッパ20を回転可能に設ける段付きボルト30とストッパ20の前面との間に、ストッパ20をチャック本体2側の半径部16に押圧するOリング36を設けたことで、ストッパ20が半径部16に押し付けられて半径部16との間のシール性が保たれる。
さらに、選択した第1、第2の受け止め位置でストッパ20を位置決めするストッパ止め手段(ピン39と凹部23とコイルバネ41)が設けられているので、第1、第2の受け止め位置を確実に選択可能となる。
【0020】
特に、ストッパ止め手段を、半径部16に設けられ、ストッパ20の後面に対して進退動可能なピン39と、ストッパ20の後面に設けられ、第1、第2の受け止め位置でピン39が前進位置で係止可能な凹部23,23と、ピン39を前進位置へ付勢するコイルバネ41とを含む構成としているので、ストッパ20の第1、第2の受け止め位置の選択と変更とを簡単な操作で行うことができる。
【0021】
なお、上記形態1では、ストッパの第1、第2当接部の高さを異ならせているが、
図7に示すストッパ20Aのように、第1当接部24と第2当接部26との高さを同じにして、径が異なるワークW1,W2に対して異なる面積の第1当接部24と第2当接部26とを選択して位置決め可能としても差し支えない。
また、当接部の数も、周方向に3つ以上連続的(階段状等)又は断続的に設けて高さ及び/又は面積を互いに異ならせて、3つ以上の受け止め位置を選択可能とすることもできる。この場合は凹部の数も受け止め位置の数に合わせて増えることになる。
さらに、ストッパをチャック本体側へ押圧する弾性部材も、Oリング以外にコイルバネや板バネ等も採用可能である。
加えて、上記形態では、カラー35によって段付きボルト30のねじ込みを規制しているが、カラー35を省略しても差し支えない。
【0022】
一方、ストッパ止め手段も、ピンの採用に限らず、板状のレバーを前進位置へ付勢して、後端に設けた折曲部等のツマミ部を操作して後退させる構造でも差し支えない。
また、ベース台を省略することもできるし、ベース台及びストッパベースを省略してチャック本体の前面に直接ストッパを設けることもできる。
【0023】
[形態2]
次に、本発明の他の形態を説明する。但し、チャック本体等の基本的な構造は形態1と同じであるため、同じ符号を付して重複する説明は省略し、ストッパの構造について主に説明する。
図8,9に示す形態2では、ベース台が用いられておらず、ストッパベース14は、ボルト17,17・・によって直接チャック本体2の前面に固定されて、各半径部16の先端に、ストッパ20Bが設けられている。このストッパ20Bは、
図10にも示すように、正面視が四角形状のブロック体で、中心には、半径部16にボルト50で固定するための貫通孔51が形成されて、後面には、貫通孔51と同心の円形凸部52と、その円形凸部52を中心とした半円状の凹溝53とが形成されている。
【0024】
また、ストッパ20Bの前面には、隣接する一対のコーナー部側に、前方へ突出する一対の第1当接部54,54が形成されて、第1当接部54,54の前面に、前後方向で同一面上に位置する第1ストッパ面55,55が形成されている。さらに、第1当接部54,54の形成側と対向して隣接する一対のコーナー部側には、第1当接部54より低い高さで前方へ突出する一対の第2当接部56,56が形成されて、第2当接部56,56の前面に、前後方向で同一面上に位置する第2ストッパ面57,57が形成されている。
【0025】
一方、ストッパベース14の半径部16の前面には、ボルト50がねじ込まれるネジ孔58が形成されると共に、そのネジ孔58を中心として、ストッパ20Bの円形凸部52が嵌合する円形凹部59が形成されている。また、円形凹部59の外側でネジ孔58との偏心位置には、ガイドピン60が、ストッパ20Bの凹溝53に挿入可能な位置で、前端を突出させた状態で固定されている。
【0026】
以上の如く構成されたチャック1においては、ストッパベース14の各半径部16に、ストッパ20Bを、後面の円形凸部52を半径部16の前面の円形凹部59に嵌合させ、凹溝53にガイドピン60の前端を挿入させて、貫通孔51に貫通させたボルト50を半径部16のネジ孔58にねじ込んで固定することができる。
但し、ボルト50を緩めた状態でのストッパ20Bは、ガイドピン60が凹溝53内を相対移動する180度の範囲内で、半径部16の前面で回転可能となる。ここでは凹溝53の一方の端部は、正面視で第1当接部54,54の間に位置し、他方の端部は正面視で第2当接部56,56の間に位置しているため、ストッパ20Bは、第1当接部54,54がチャック本体2の半径方向外側に位置して第2当接部56,56が同方向内側に位置する第1の受け止め位置と、第2当接部56,56がチャック本体2の半径方向外側に位置して第1当接部54,54が同方向内側に位置する第2の受け止め位置とに回転操作できることになる。ここでは凹溝53とガイドピン60とがストッパ止め手段となる。
【0027】
従って、ドロースリーブ4を後退させてドローバー6,6・・を中心側へ引き込み、各ベースジョー8及びインサートジョー10を中心側へ移動させてワークを把持する際、
図8,9に示すように、インサートジョー10の後側把持面13を利用して把持するような小径のワークW1の場合は、ストッパベース14上の各ストッパ20Bをそれぞれ第1の受け止め位置とすれば、第2当接部56,56がワークW1の後方に位置して第2ストッパ面57,57がワークW1に当接し、ワークW1を軸線方向に位置決めすることができる。
一方、
図11,12に示すように、インサートジョー10の前側把持面12を利用して把持するような大径のワークW2の場合は、各ストッパ20Bをそれぞれ第2の受け止め位置とすれば、第1当接部54,54がワークW2の後方に位置して第1ストッパ面55,55がワークW2に当接し、ワークW2を軸線方向に位置決めすることができる。
【0028】
このように、上記形態2のチャック1によれば、ストッパ20Bに、複数の第1、第2当接部54,56を設けると共に、第1、第2当接部54,56をワークに当接させる第1、第2の受け止め位置を選択可能としたことで、ストッパ20Bを交換する必要がなく、回転による受け止め位置の選択により、複数のワークW1,W2の軸線方向の位置決めを短時間で簡単に行うことができる。また、部品点数が削減されるため、コストの低下にも繋がる。
特にここでも、ストッパ20Bは、回転中心との偏心位置に第1、第2当接部54,56をそれぞれ備えて回転可能に設けられ、回転によって受け止め位置を選択可能としているので、回転操作によって受け止め位置を簡単に選択可能となる。
また、選択した第1、第2の受け止め位置でストッパ20Bを位置決めするストッパ止め手段(凹溝53及びガイドピン60)が設けられているので、第1、第2の受け止め位置を確実に選択可能となる。
【0029】
なお、形態2においても、ストッパの当接部の形状や数は上記形態に限らず、例えば第1、第2当接部はそれぞれ一対でなく連続させてそれぞれ一つずつ設けてもよい。また、当接部は2つに限らず、3つ以上の当接部を各辺ごとに設けることもできる。よって、受け止め位置を変更する際の回転角度は180度に限らない。さらに、正面視形状は三角形や多角形状であっても差し支えない。
そして、上記形態2では、ストッパ止め手段として、ストッパ側に凹溝を、ストッパベース側にガイドピンをそれぞれ設けているが、これと逆にして、ストッパ側にガイドピン等の凸部を、ストッパベース側に凸部が係合する凹溝を形成しても差し支えない。但し、ストッパベースを省略してストッパを直接チャック本体の前面に設けて、ストッパとチャック本体との間にストッパ止め手段を設けることは可能である。
【0030】
一方、ストッパの受け止め位置の選択は、回転操作によるものに限らず、チャック本体の半径方向外側に向けて段階的に高くなる複数の当接部を直線状に並設したストッパを、当該半径方向へスライドさせて、任意の当接部をワークに当接させるようにしてもよい。
また、回転操作するストッパであっても、ワークを受け止める正規位置では把持爪等と干渉して回転できないような場合は、
図13,14に示すように、チャック本体2の前面に放射方向へ横断面逆T字状のガイド溝61,61・・を形成すると共に、各ガイド溝61内を摺動する同形状のスライド台62,62・・を設けて、ストッパ20Bが設けられる半径部16Aを中央部15から分離して、ストッパ20Bを貫通させたボルト50をスライド台62に連結する構造も採用できる。
【0031】
この構造によれば、ボルト50を緩めた状態では、ストッパ20Bを連結した半径部16Aが、中央部15に当接する正規位置と、ストッパ20Bが把持爪等と干渉しない二点鎖線で示す退避位置との間をスライド可能となる。よって、受け止め位置を選択する場合には、ストッパ20Bを一旦退避位置にスライドさせて受け止め位置を選択した後、正規位置に戻すことができ、把持爪等との干渉のおそれなく、受け止め位置の変更が可能となる。このスライド構造は形態1のストッパ20,20Aにおいても採用できる。
【符号の説明】
【0032】
1・・チャック、2・・チャック本体、3・・軸孔、4・・ドロースリーブ、6・・ドローバー、8・・ベースジョー、10・・インサートジョー、12・・前側把持面、13・・後側把持面、14・・ストッパベース、15・・中央部、16,16A・・半径部、20,20A,20B・・ストッパ、21,51・・貫通孔、23・・凹部、24,54・・第1当接部、25,55・・第1ストッパ面、26,56・・第2当接部、27,57・・第2ストッパ面、30・・段付きボルト、35・・カラー、36・・Oリング、37・・ストッパピン、39・・ピン、41・・コイルバネ、52・・円形凸部、53・・凹溝、59・・円形凹部、60・・ガイドピン、61・・ガイド溝、62・・スライド台。