(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】眼科画像処理装置、および眼科画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
A61B3/10 100
(21)【出願番号】P 2018039165
(22)【出願日】2018-03-05
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】柴 涼介
(72)【発明者】
【氏名】加納 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】竹野 直樹
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-047127(JP,A)
【文献】特表2015-511146(JP,A)
【文献】特開2015-208550(JP,A)
【文献】特開2011-167337(JP,A)
【文献】特開2001-230914(JP,A)
【文献】特開2010-279440(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0137157(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科画像を処理する眼科画像処理装置であって、
撮影手段によって撮影された被検眼の眼科画像データを取得する画像取得手段と、
前記眼科画像データを処理する画像処理手段と、を備え、
前記画像処理手段は、前記被検眼の第1深さ領域における第1正面画像を用いて、前記第1深さ領域とは異なる第2深さ領域における第2正面画像を
、分割された局所領域毎に補正することを特徴とする眼科画像処理装置。
【請求項2】
前記画像処理手段は、前記第1正面画像と前記第2正面画像との類似度が前記局所領域毎に小さくなるように前記第2正面画像を補正することを特徴とする請求項
1の眼科画像処理装置。
【請求項3】
前記第1正面画像は、前記第2正面画像よりも浅いデータ領域における前記眼科画像データに基づいて構築されることを特徴とする請求項1~
2のいずれかの眼科画像処理装置。
【請求項4】
眼科画像を処理する眼科画像処理装置であって、
撮影手段によって撮影された被検眼の眼科画像データを取得する画像取得手段と、
前記眼科画像データを処理する画像処理手段と、を備え、
前記画像処理手段は、前記被検眼の第1深さ領域における第1正面画像を用いて、前記第1深さ領域とは異なる第2深さ領域における第2正面画像を補正する
画像処理手段であって、前記第1正面画像と前記第2正面画像との類似度が局所領域毎に小さくなるように前記第2正面画像を補正すると共に、前記局所領域毎に算出した前記類似度に基づいて前記局所領域毎の重みを設定し、前記重みに応じて前記第2正面画像を補正することを特徴とする眼科画像処理装置。
【請求項5】
眼科画像を処理する眼科画像処理装置において実行される眼科画像処理プログラムであって、
撮影手段によって撮影された被検眼の眼科画像データを取得する画像取得ステップと、
前記被検眼の第1深さ領域における第1正面画像を用いて、前記第1深さ領域とは異なる第2深さ領域における第2正面画像を
、分割された局所領域毎に補正する画像処理ステップと、
を前記眼科画像処理装置に実行させることを特徴とする眼科画像処理プログラム。
【請求項6】
眼科画像を処理する眼科画像処理装置において実行される眼科画像処理プログラムであって、
撮影手段によって撮影された被検眼の眼科画像データを取得する画像取得ステップと、
前記被検眼の第1深さ領域における第1正面画像を用いて、前記第1深さ領域とは異なる第2深さ領域における第2正面画像を補正する画像処理ステップであって、前記第1正面画像と前記第2正面画像との類似度が局所領域毎に小さくなるように前記第2正面画像を補正すると共に、前記局所領域毎に算出した前記類似度に基づいて前記局所領域毎の重みを設定し、前記重みに応じて前記第2正面画像を補正する画像処理ステップと、
を前記眼科画像処理装置に実行させることを特徴とする眼科画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検眼を撮影した眼科画像を処理するための眼科画像処理装置、および眼科画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼を撮影する眼科撮影装置としては、例えば、光干渉断層計(Optical Coherence Tomography: OCT)、眼底カメラ、走査型レーザ検眼鏡(Scanning Laser Ophthalmoscope: SLO)などが知られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、眼科撮影装置によって被検眼を撮影して得られた眼科画像において、網膜浅層の血管部分の揺らぎまたはその影等の影響によって、網膜深層の位置にアーチファクトが発生する。
【0005】
本開示は、従来技術の問題点を鑑み、網膜深層の画像に発生するアーチファクトを低減できる眼科画像処理装置、および眼科画像処理プログラムを提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0007】
(1)
眼科画像を処理する眼科画像処理装置であって、
撮影手段によって撮影された被検眼の眼科画像データを取得する画像取得手段と、
前記眼科画像データを処理する画像処理手段と、を備え、
前記画像処理手段は、前記被検眼の第1深さ領域における第1正面画像を用いて、前記第1深さ領域とは異なる第2深さ領域における第2正面画像を、分割された局所領域毎に補正することを特徴とする。
(2)
眼科画像を処理する眼科画像処理装置であって、
撮影手段によって撮影された被検眼の眼科画像データを取得する画像取得手段と、
前記眼科画像データを処理する画像処理手段と、を備え、
前記画像処理手段は、前記被検眼の第1深さ領域における第1正面画像を用いて、前記第1深さ領域とは異なる第2深さ領域における第2正面画像を補正する画像処理手段であって、前記第1正面画像と前記第2正面画像との類似度が局所領域毎に小さくなるように前記第2正面画像を補正すると共に、前記局所領域毎に算出した前記類似度に基づいて前記局所領域毎の重みを設定し、前記重みに応じて前記第2正面画像を補正することを特徴とする。
(3)
眼科画像を処理する眼科画像処理装置において実行される眼科画像処理プログラムであって、
撮影手段によって撮影された被検眼の眼科画像データを取得する画像取得ステップと、
前記被検眼の第1深さ領域における第1正面画像を用いて、前記第1深さ領域とは異なる第2深さ領域における第2正面画像を、分割された局所領域毎に補正する画像処理ステップと、
を前記眼科画像処理装置に実行させることを特徴とする。
(4)
眼科画像を処理する眼科画像処理装置において実行される眼科画像処理プログラムであって、
撮影手段によって撮影された被検眼の眼科画像データを取得する画像取得ステップと、
前記被検眼の第1深さ領域における第1正面画像を用いて、前記第1深さ領域とは異なる第2深さ領域における第2正面画像を補正する画像処理ステップであって、前記第1正面画像と前記第2正面画像との類似度が局所領域毎に小さくなるように前記第2正面画像を補正すると共に、前記局所領域毎に算出した前記類似度に基づいて前記局所領域毎の重みを設定し、前記重みに応じて前記第2正面画像を補正する画像処理ステップと、
を前記眼科画像処理装置に実行させることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】眼科画像処理装置の概略を示すブロック図である。
【
図3】モーションコントラストの取得について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施形態>
本開示に係る実施形態について説明する。本実施形態の眼科画像処理装置(例えば、眼科画像処理装置1)は、被検眼を撮影した眼科画像を処理する。眼科画像処理装置は、画像取得部(例えば、画像取得部71)と、画像処理部(例えば、画像処理部72)を備える。画像取得部は、撮影部によって撮影された被検眼の眼科画像データを取得する。画像処理部は、眼科画像データを処理する。例えば、画像処理部は、被検眼の第1深さ領域における第1正面画像を用いて、前記第1深さ領域とは異なる第2深さ領域における第2正面画像を補正する。例えば、画像処理部は、浅層の正面画像に基づいて深層の正面画像を補正することで、深層の正面画像に生じるProjectionArtifactを低減させることができる。なお、正面画像は、例えば、En face画像である。En faceとは、例えば、眼底面に対して水平な面、または眼底2次元水平断層面などである。
【0010】
なお、画像処理部は、第1正面画像を用いて、第2正面画像を局所領域毎に補正してもよい。例えば、画像処理部は、第1正面画像に基づいて設定された局所領域毎に第2正面画像を補正してもよい。例えば、画像処理部は、浅層の正面画像から浅層の血管位置を検出し、検出された血管位置付近に応じて深層の正面画像を補正してもよい。これによって、深層の正面画像に生じるアーチファクトを効率的に低減させることができる。
【0011】
なお、局所領域は、例えば、画像をいつくかのブロックに分割した領域であってもよいし、同心円状に分割した領域であってもよい。局所領域は、画像を任意の形状に分割した領域であってもよい。例えば、画像処理部は、第1正面画像と第2正面画像を複数の領域に分割し、領域毎の第1正面画像を用いて、対応する領域の第2正面画像を補正してもよい。これによって、局所的にアーチファクトが残ったり、アーチファクトを消し過ぎたりすることを防止できる。
【0012】
なお、画像処理部は、第1正面画像に基づいて、領域の分割位置を変更してもよい。例えば、第1正面画像から検出された血管の位置に応じて、画像の分割位置を設定してもよい。これによって、局所的なアーチファクトを効率的に低減させることができる。また、画像処理部は、眼科画像データの撮影位置に基づいて、領域の分割位置を変更してもよい。例えば、黄斑を中心とした撮影位置か、乳頭を中心とした撮影位置かに応じて分割位置を変更するようにしてもよい。
【0013】
なお、画像処理部は、局所領域毎に第1正面画像と第2正面画像の類似度を算出してもよい。そして、画像処理部は、局所領域毎の類似度に基づいて、局所領域毎の重みを算出してもよい。重みは、例えば、第1正面画像と第2正面画像の類似度を小さくするための演算処理に用いられる。
【0014】
類似度は、例えば、第1正面画像と第2正面画像との相関、または差分等によって算出される。また、例えば、SSD (sum of squared difference)、SAD (sum of absolute difference)、NCC (normalized cross-correlation)、ZNCC (zero-mean normalized cross-correlation)などが計算されてもよい。また、位相限定相関(POC)のピーク値の大きさを類似度の指標として用いてもよい。もちろん、類似度の代わりに相違度を計算してもよい。
【0015】
なお、第2正面画像の補正に用いる第1正面画像は、第2正面画像よりも浅い(例えば、硝子体側の)データ領域における眼科画像データに基づいて構築されてもよい。例えば、第1正面画像が構築されるデータ領域は、第2正面画像が構築されるデータ領域の上端から眼科画像データの上部のデータ領域であってもよい。これによって、例えば、第1正面画像を構築するデータ領域を特定の網膜層に設定する場合に比べ、網膜層のセグメンテーション結果の影響を抑えることができる。また、第2正面画像の補正を行う際に、特定の網膜層以外に生じるノイズの影響も低減させることができる。
【0016】
なお、画像処理部は、第1正面画像を構築するデータ領域から固定ノイズ領域を除外してもよい。固定ノイズは、例えば、撮影部の光学系に起因するノイズなどである。例えば、撮影部としてOCTが用いられる場合、ゼロディレイ付近に生じる固定パターンノイズの領域を除外してもよい。この場合、実像の位置によってOCT画像上の固定パターンノイズの位置が変化するため、例えば、ゼロディレイの位置を眼底の手前(硝子体側)に合わせる撮影モードか、眼底の奥(脈絡膜側)に合わせる撮影モードかによって除外領域を切り換えてもよい。
【0017】
なお、撮影部(例えば、撮影装置10)は、例えば、OCT、眼底カメラ、またはSLOなどであってもよい。例えば、撮影部は、撮影光軸方向において深さの異なる画像データを取得できる光学系を備える。
【0018】
なお、眼科画像処理装置のプロセッサは、記憶部に記憶された眼科画像処理プログラムを実行してもよい。眼科画像処理プログラムは、例えば、画像取得ステップと、画像処理ステップを含む。画像取得ステップは、例えば、撮影部によって撮影された被検眼の眼科画像データを取得するステップである。画像処理ステップは、被検眼の第1深さ領域における第1正面画像を用いて、第1深さ領域とは異なる第2深さ領域における第2正面画像を補正するステップである。
【0019】
<実施例>
本実施例の眼科画像処理装置について図面を用いて説明する。
図1に示す眼科画像処理装置1は、撮影装置10によって取得された画像データを処理する。眼科画像処理装置1は、例えば、画像取得部71、画像処理部72、記憶部73、表示制御部74、表示部75および操作部76などを備える。画像取得部71は、被検眼の画像を取得する。画像取得部71は、撮影装置10と有線または無線等の通信手段を介して接続されている。例えば、画像取得部71は、通信手段を介して撮影装置10から眼科画像を受信し、記憶部73等に記憶させる。なお、画像取得部71は、通信手段を介して接続されたHDD、USBメモリ等の外部記憶装置などから眼科画像を取得してもよい。
【0020】
画像処理部72は、例えば、眼科画像に対して画像処理等を行う。画像処理の詳細については後述する。画像処理部72による処理結果は、表示部75または記憶部73等に送信される。
【0021】
記憶部73は、眼科画像処理装置1の制御に関わる各種プログラム、各種画像データ、および処理結果などを記憶する。表示制御部75は、表示部74の表示を制御する。表示部75は、画像取得部71によって取得された画像、および画像処理部72による処理結果などを表示する。表示部75は、タッチパネル式のディスプレイであってもよい。この場合、表示部75は、操作部76として兼用される。
【0022】
なお、画像取得部71、画像処理部72、記憶部73、表示制御部74は、例えば、眼科画像処理装置1として用いられるコンピュータの制御部(例えば、CPUなど)70が各種プログラムを実行することによって実現されてもよいし、それぞれ独立した制御基板として設けられてもよい。
【0023】
眼科画像処理装置1は、パーソナルコンピュータであってもよい。例えば、眼科画像処理装置1として、デスクトップPC、ノート型PC、またはタブレット型PCが用いられてもよい。もちろん、サーバであってもよい。また、眼科画像処理装置1は、撮影装置等の内部に格納されたコンピュータであってもよい。
【0024】
<撮影部>
以下、
図2に基づいて撮影部10の概略を説明する。撮影部10は、例えば、OCT光学系100を備える。例えば、撮影部10は、被検眼Eに測定光を照射し、その反射光と測定光とによって取得されたOCT信号を取得する。
【0025】
<OCT光学系>
OCT光学系100は、被検眼Eに測定光を照射し、その反射光と参照光との干渉信号を検出する。OCT光学系100は、例えば、測定光源102と、カップラー(光分割器)104と、測定光学系106と、参照光学系110と、検出器120等を主に備える。なお、OCT光学系の詳しい構成については、例えば、特開2015-131107号を参考にされたい。
【0026】
OCT光学系100は、いわゆる光断層干渉計(OCT:Optical coherence tomography)の光学系である。OCT光学系100は、測定光源102から出射された光をカップラー104によって測定光(試料光)と参照光に分割する。分割された測定光は測定光学系106へ、参照光は参照光学系110へそれぞれ導光される。測定光は測定光学系106を介して被検眼Eの眼底Efに導かれる。その後、被検眼Eによって反射された測定光と,参照光との合成による干渉光を検出器120に受光させる。
【0027】
測定光学系106は、例えば、走査部(例えば、光スキャナ)108を備える。走査部108は、例えば、眼底上でXY方向(横断方向)に測定光を走査させるために設けられてもよい。例えば、制御部70は、設定された走査位置情報に基づいて走査部108の動作を制御し、検出器120によって検出された受光信号に基づいてOCT信号を取得する。参照光学系110は、眼底Efでの測定光の反射によって取得される反射光と合成される参照光を生成する。参照光学系110は、マイケルソンタイプであってもよいし、マッハツェンダタイプであっても良い。
【0028】
検出器120は、測定光と参照光との干渉状態を検出する。フーリエドメインOCTの場合では、干渉光のスペクトル強度が検出器120によって検出され、スペクトル強度データに対するフーリエ変換によって所定範囲における深さプロファイル(Aスキャン信号)が取得される。
【0029】
なお、撮影装置10として、例えば、Spectral-domain OCT(SD-OCT)、Swept-source OCT(SS-OCT)、Time-domain OCT(TD-OCT)等が用いられてもよい。
【0030】
<正面撮影光学系>
正面撮影光学系20は、例えば、被検眼Eの眼底Efを正面方向(例えば、測定光の光軸方向)から撮影し、眼底Efの正面画像を得る。正面撮影光学系20は、例えば、走査型レーザ検眼鏡(SLO)の装置構成であってもよいし(例えば、特開2015-66242号公報参照)、いわゆる眼底カメラタイプの構成であってもよい(特開2011-10944参照)。なお、正面撮影光学系200としては、OCT光学系100が兼用してもよく、検出器120からの検出信号に基づいて正面画像が取得されてもよい。
【0031】
<固視標投影部>
固視標投影部30は、眼Eの視線方向を誘導するための光学系を有する。固視標投影部30は、眼Eに呈示する固視標を有し、眼Eを誘導できる。例えば、固視標投影部30は、可視光を発する可視光源を有し、固視標の呈示位置を二次元的に変更させる。これによって、視線方向が変更され、結果的にOCT信号の取得部位が変更される。
【0032】
<OCT信号の取得>
図3(a)は、眼底における走査ラインを示している。なお、
図3(a)において、z軸の方向は、測定光の光軸の方向とする。x軸の方向は、z軸に垂直であって被検者の左右方向とする。y軸の方向は、z軸に垂直であって被検者の上下方向とする。例えば、撮影装置10は、眼底Efにおいて走査ラインL
1,L
2,・・・,L
nに沿って、測定光の光軸方向に交差する方向(例えば、x方向)に測定光を走査させることによってBスキャン信号を得る。例えば、撮影装置10は、各走査ラインにおいて、時間の異なる複数回のBスキャンを行い、時間の異なる複数のOCT信号をそれぞれ取得する。
【0033】
例えば、
図3(b)は、走査ラインL
1,L
2,・・・,L
nにおいて時間の異なる複数回のBスキャンを行った場合に取得されたOCT信号を示している。例えば、
図3(b)は、走査ラインL
1を時間T
11,T
12,・・・,T
1Nで走査し、走査ラインL
2を時間T
21,T
22,・・・,T
2Nで走査し、走査ラインL
nを時間T
n1,T
n2,・・・,T
nNで走査した場合を示している。例えば、撮影装置10は、各走査ラインにおいて、時間の異なる複数のOCTデータを取得し、そのOCTデータを記憶部11に記憶させる。
【0034】
<モーションコントラストの取得>
上記のように、被検眼の同一位置に関して時間的に異なる複数のOCTデータが取得された場合、これらのOCTデータを処理することによってモーションコントラストを取得できる。モーションコントラストは、例えば、被検眼の血流、網膜組織の変化などを捉えた情報である。モーションコントラストを取得するためのOCT信号の演算方法としては、例えば、複素OCT信号の強度差を算出する方法、複素OCT信号の位相差を算出する方法、複素OCT信号のベクトル差分を算出する方法、複素OCT信号の位相差及びベクトル差分を掛け合わせる方法、信号の相関を用いる方法(コリレーションマッピング)などが挙げられる。なお、演算手法の一つとして、例えば、特開2015-131107号公報を参照されたい。
図3(c)は、異なる走査ラインでのモーションコントラストデータ(以下、MCデータと略す)を並べることによって得られた被検眼Eの3次元MCデータ40を示す。
【0035】
<アーチファクト低減処理>
図4(a)は、MCデータ40に基づいて構築された網膜浅層(表層または上層)のEn face画像41であり、
図4(b)は網膜深層(外層または下層)のEn face画像42である。これらのEn face画像は、例えば、一部の深さ領域に関して3次元MCデータを取り出すことによって取得される。例えば、MCデータ40における深さ方向での積算値、平均値、又は最大値によってEn face画像が生成される。
【0036】
図4において、理想的には、浅層と深層では描出される血管が異なるため、En face画像41とEn face画像42の二つの画像間の相関は小さいと考えられる。しかし、網膜浅層の血管部分での赤血球の配置等に由来する信号の揺らぎ(影など)が深層に写り込んでしまうプロジェクションアーチファクト(Projection Artifact)の影響により、二つの画像は似通ったものになってしまう。そこで、画像処理部72は、二つの画像間の相関を小さくすることで、Projection Artifactの影響を低減させる。
【0037】
例えば、深層のEn face画像42をE
deep、浅層のEn face画像41をE
shallowとすると、アーチファクト除去された真の深層のEn face画像E
deep’は次式(数1)で仮定される。
【数1】
ここで、wは0~1の重みである。
【0038】
画像処理部72は、浅層画像E
shallowと真の深層画像E
deep'の相関γを最小化する重みwを計算する。つまり、次式(数2)を満たす重みwを計算する。
【数2】
【0039】
数2に示すwは、共分散Covと分散Varを用いて次式(数3)で計算できる。
【数3】
【0040】
図5(a)は、画像全体に対して共通の重みを用いて浅層画像を減算した深層画像43である。
図5(a)のように、画像全体に対して共通の重みを用いた場合、局所的にはアーチファクトを消しきれなかったり(矢印Q1参照)、消しすぎたりすることがあり(矢印Q2参照)、浅層の血管の影響を除去しきれない画像が得られることがある。
【0041】
そこで、本実施例では、局所領域毎に浅層画像E
shallowと深層画像E
deep'の相関を最小化する。具体的には、
図6のように、画像をいくつかのブロックに分割する。そして、ブロックごとに相関を計算し、重みを決定する。
図6に示す例では、画像を4×4の16ブロックに分割し、各ブロックの相関に基づいて重みマップMが計算される。
【0042】
図6の場合は、局所領域毎に重みを計算しているため、アーチファクトが多いブロックでは相関が高くなるため、重みが大きくなる。一方で、アーチファクトが少ないブロックでは相関が低くなるため、重みが小さく計算される。このように、ブロックごとに計算された重みを用いることで、減算処理後の深層画像44にアーチファクトが残ったり、アーチファクトを消し過ぎたりすることを防止できる(
図5(b)参照)。
【0043】
なお、以上の例では、画像を4×4の16ブロックに分割したが、これに限らない。ブロックの分割数およびサイズは任意でよい。例えば、画像処理部72は、画像の画角、スキャン位置、スキャン密度、浅層画像と深層画像の類似度、または層の深さ等に応じてブロックの分割数、サイズ、または位置等を設定してもよい。また、例えば、画像処理部72は、浅層の情報に基づいて、画像の分割位置を設定してもよい。具体的には、画像処理部72は、浅層画像から検出された血管の位置に基づいて画像を分割する位置を設定してもよい。このように、画像の分割位置を自動で設定することによって、アーチファクトを生じさせる血管の多い領域と少ない領域とが効率的に分離され、より好適な重みを計算できる。もちろん、画像を分割する形状はブロック形状でなくてもよく、同心円状でもよいし、任意の形状でよい。なお、隣接するブロック間の重みの差が大きい場合、減算処理後の画像にエッジが生じる可能性がある。それを防止するために、重みマップ上の重みの変化を平滑化してもよい。
【0044】
なお、上記の例ではブロック単位で相関を計算したが、画素単位で相関を計算してもよい。この場合、例えば、各画素を中心とする所定範囲の画素について相関を計算し、中心画素の重みを決定してもよい。
【0045】
なお、画像処理部72は、分割した領域のうち、浅層に血管が存在する領域のみで相関を計算し、浅層に血管が存在しない領域は相関を計算しないようにしてもよい。
【0046】
<浅層(shallow slab)の範囲について>
なお、画像処理部72は、浅層と深層の相関を計算する際に、浅層の画像を構築する範囲を変更できるようにしてもよい。
図7は、3次元MCデータ40におけるEn face画像の構築範囲を示す図である。例えば、
図7(a)に示すように、浅層の範囲(深さ領域)として所定の範囲A(例えば、ILMからIPL/INL+90umの範囲)を用いる場合、ILMのセグメンテーションエラーに影響を受けたり、ILM上部の血管(新生血管など)または硝子体内の異物(増殖膜など)等は演算の対象にならなかったりする。このため、Projection Artifactを適切に除去できない可能性がある。なお、ILM(Internal Limiting Membrane)は内境界膜、IPL(Inner Plexiform Layer)は内網状層、INL(Inner Nuclear Layer)は内顆粒層である。
【0047】
本実施例では、
図7(b)に示すように、アーチファクト除去対象の深層のEn face画像の構築範囲Cの上端からMCデータ40の上部までの範囲Bを浅層として、アーチファクト除去の演算を行う。つまり、MCデータ40において構築範囲Cよりも上側のデータ領域を浅層とする。これによって、セグメンテーションの結果に影響されることなく、任意の範囲でアーチファクト除去の演算を行うことができる。
【0048】
なお、浅層はOCT画像上部のFixed pattern noise(固定パターンノイズ)、またはコヒーレンスリバイバル現象(SS-OCTの場合)によるノイズを含むことがある。このため、画像処理部72は、OCT画像上部のノイズを低減する処理を施してもよい。例えば、画像処理部72は、予めノイズの位置を記憶しておき、ノイズ位置を浅層の範囲に含まないようにしてもよい。
【0049】
<制御動作>
眼底画像処理装置1の制御動作の一例について
図8に基づいて説明する。まず、画像取得部71は、撮影装置10の記憶部11から通信手段を介して眼科画像データ(例えば、OCTデータ)を取得する(ステップS1)。そして、画像処理部72は、眼科画像データをセグメンテーションする(ステップS2)。例えば、画像処理部72は、エッジ検出等の処理によって網膜層の境界を検出し、眼科画像のセグメンテーションを行う。画像処理部72は、浅層のEn face画像の構築範囲と深層のEn face画像の構築範囲を設定し(ステップS3)、各画像を構築する(ステップS4)。浅層と深層の各En face画像を構築すると、画像処理部72は、画像を複数の領域に分割し(ステップS5)、局所領域毎に類似度を算出する(ステップS6)。次いで、画像処理部72は、局所領域毎の類似度に基づいて重みを決定し(ステップS7)、重みに基づいて深層のEn face画像のアーチファクト低減処理(例えば、減算処理)を行う(ステップS8)。
【0050】
なお、以上の実施例において、画像処理部72は、モーションコントラストデータに基づくEn face画像のアーチファクト低減処理について説明したが、通常のOCT信号に基づくEn face画像において同様の処理を行ってもよい。
【0051】
また、以上の実施例において、撮影装置10は、OCT光学系を備えるものとしたが、これに限らない。例えば、撮影装置10は、SLO光学系を備えてもよいし、眼底カメラの構成を備えてもよい。これらの眼底撮影装置において、蛍光造影画像を撮影する場合、FA撮影(フルオレセイン蛍光造影撮影)によって撮影された網膜浅層の画像と、IA撮影(インドシアニングリーン蛍光造影撮影)によって撮影された脈絡膜の画像について、前述のノイズ低減処理を行ってもよい。この場合、IA撮影画像に写る網膜表面部分の血管が除去されるため、脈絡膜の血管を観察し易い画像を得ることができる。
【0052】
また、波長により光の深達度が異なる特性を利用しても良い。眼底カメラやSLOは、赤、緑、青などのチャンネルごとに深さの異なるEn face画像を取得できるため(特開2018-000619号公報参照)、画像処理部72は、各チャンネルの画像の相関を局所領域毎に計算し、重みを決定することで、深層画像のアーチファクトを除去してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 眼科画像処理装置
10 撮影装置
70 制御部
100 OCT光学系