(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】ジアミノ-p-クォーターフェニルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 209/62 20060101AFI20220830BHJP
C07C 211/50 20060101ALI20220830BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
C07C209/62
C07C211/50
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018045107
(22)【出願日】2018-03-13
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 圭司
(72)【発明者】
【氏名】弘津 健二
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-248977(JP,A)
【文献】特表2001-501963(JP,A)
【文献】国際公開第2007/104361(WO,A1)
【文献】特開平10-017531(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0096162(KR,A)
【文献】Synthesis,2007年,No.4,P.613-621
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 209/00
C07C 211/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)
アミド類溶媒中、パラジウム触媒および金属炭酸塩の存在下で、下記一般式(1)で表されるビフェニル化合物と下記一般式(2)で表されるホウ酸エステル化合物とを反応させて、
【化1】
(式中、X
1およびX
2は、それぞれ独立に、F、Cl、Br、またはIのいずれかを示す。)
【化2】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1~10の炭化水素基を示し、R
1とR
2が結合して環を形成している場合もある。Rは、保護基で保護されたアミノ基を示す。)
下記一般式(3)で表される、アミノ基が保護されたジアミノ-p-クォーターフェニル化合物を得る第一の工程、および、
【化3】
(式中、Rは、保護基で保護されたアミノ基を示す。)
(B)前記一般式(3)で表される、アミノ基が保護されたジアミノ-p-クォーターフェニル化合物の脱保護反応により、下記一般式(4)で表されるジアミノ-p-クォーターフェニルを得る第二の工程、
【化4】
を含むジアミノ-p-クォーターフェニルの製造方法。
【請求項2】
前記
アミド類溶媒がN,N-ジメチルホルムアミドである、
請求項1に記載のジアミノ-p-クォーターフェニルの製造方法。
【請求項3】
前記第一の工程における反応温度が70~150℃である、
請求項1又は2に記載のジアミノ-p-クォーターフェニルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアミノ-p-クォーターフェニルの製造方法に関する。
【0002】
ジアミノ-p-クォーターフェニルは様々な分野で利用されており、中でも4,4’’’-ジアミノ-p-クォーターフェニルはポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等の高分子製造用モノマーとして有用と考えられる。
【0003】
ジアミノ-p-クォーターフェニルの合成方法として、以下の方法が知られている。特許文献1では、p-クォーターフェニルのジニトロ化を行い、ニトロ基の還元反応を行い、ジアミノ-p-クォーターフェニルを得ている。非特許文献1および2ではビフェニルのハロゲン化、続いてニトロ化を行ない、ウルマンカップリング反応によりジニトロ化合物を得た後、ニトロ基の還元反応によりジアミノ-p-クォーターフェニルを得ている。特許文献2では、ハロゲン化されたビフェニル化合物とアミノ基をもつ芳香族ホウ素化合物とのスズキカップリング反応によりジアミノ-p-クォーターフェニルが得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】US4079082
【文献】WO2007/104361
【非特許文献】
【0005】
【文献】Color.Technol.2007,123,34.
【文献】Chem.Pharm.Bull.1981,29,344.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術においては、p-クォーターフェニルのジニトロ化反応が提案されている。このジニトロ化反応では、p-クォーターフェニルの好ましい2箇所に、高い選択的をもってニトロ基を導入しなければならない。しかしながら、ニトロ化反応は厳しい反応条件の中、非選択的に起こることが知られている。好ましい二置換体のみを高収率で得ることは困難であり、実際に特許文献1における収率も非常に低い。非特許文献1および2に記載の技術においては、ニトロクロロベンゼンのウルマンカップリング反応が提案されている。しかしながら、この反応でも反応条件は厳しく、収率も非常に低い。
【0007】
特許文献2の「Reaction No.4」について、本発明者が再現実験を行ったところ、記載の条件ではスズキカップリング反応が全く進行せず、ジアミノ-p-クォーターフェニルは得られなかった。
【0008】
以上の通り、上記いずれの方法においても、多数の課題を抱えており、工業的な製造方法として満足できるものではなかった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決し、スズキカップリング反応を用いる利点である温和な条件下、簡便な方法によって、ジアミノ-p-クォーターフェニルを高収率で製造出来る、工業的に好適なジアミノ-p-クォーターフェニルを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の事項に関する。
【0011】
(A)溶媒中、パラジウム触媒および金属炭酸塩の存在下で、下記一般式(1)で表されるビフェニル化合物と下記一般式(2)で表されるホウ酸エステル化合物とを反応させて、
【化1】
(式中、X
1およびX
2は、それぞれ独立に、F、Cl、Br、またはIのいずれかを示す。)
【化2】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1~10の炭化水素基を示し、R
1とR
2が結合して環を形成している場合もある。Rは、保護基で保護されたアミノ基を示す。)
下記一般式(3)で表される、アミノ基が保護されたジアミノ-p-クォーターフェニル化合物を得る第一の工程、および、
【化3】
(式中、Rは、保護基で保護されたアミノ基を示す。)
(B)前記一般式(3)で表される、アミノ基が保護されたジアミノ-p-クォーターフェニル化合物の脱保護反応により、下記一般式(4)で表されるジアミノ-p-クォーターフェニルを得る第二の工程、
【化4】
を含むジアミノ-p-クォーターフェニルの製造方法。
【0012】
(A)アミド類溶媒中、パラジウム触媒および塩基の存在下で、下記一般式(1)で表されるビフェニル化合物と下記一般式(2)で表されるホウ酸エステル化合物とを反応させて、
【化5】
(式中、X
1およびX
2は、それぞれ独立に、F、Cl、Br、またはIのいずれかを示す。)
【化6】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1~10の炭化水素基を示し、R
1とR
2が結合して環を形成している場合もある。Rは、保護基で保護されたアミノ基を示す。)
下記一般式(3)で表される、アミノ基が保護されたジアミノ-p-クォーターフェニル化合物を得る第一の工程、および、
【化7】
(式中、Rは、保護基で保護されたアミノ基を示す。)
(B)前記一般式(3)で表される、アミノ基が保護されたジアミノ-p-クォーターフェニル化合物の脱保護反応により、下記一般式(4)で表されるジアミノ-p-クォーターフェニルを得る第二の工程、
【化8】
を含むジアミノ-p-クォーターフェニルの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により温和な条件下、簡便な方法によって、ジアミノ-p-クォーターフェニルを高収率で製造出来る、工業的に好適なジアミノ-p-クォーターフェニルを製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明において、ジアミノ-p-クォーターフェニルは主として2つの工程で合成される。第一の工程(A)ではビフェニル化合物とホウ酸エステル化合物とのスズキカップリング反応により、アミノ基が保護されたジアミノ-p-クォーターフェニル化合物を合成する。第二の工程(B)では第一の工程で取得した、アミノ基が保護されたジアミノ-p-クォーターフェニル化合物の脱保護反応を行い、ジアミノ-p-クォーターフェニルを合成する。
以下に、ジアミノ-p-クォーターフェニルの製造方法を詳細に説明する。
【0016】
第一の工程(A)は、溶媒中、パラジウム触媒および塩基の存在下で、前記一般式(1)で表されるビフェニル化合物と前記一般式(2)で表されるホウ酸エステル化合物とのスズキカップリング反応を行い、前記一般式(3)で示される、アミノ基が保護されたジアミノ-p-クォーターフェニル化合物を得る工程である。
【0017】
本発明で使用するビフェニル化合物は前記一般式(1)で表され、式中のX1およびX2は、それぞれ独立に、F、Cl、Br、またはIのいずれかを示す。前記ビフェニル化合物の具体例としては、4,4’-ジフルオロ-1,1’-ビフェニル、4,4’-ジクロロ-1,1’-ビフェニル、4,4’-ジブロモ-1,1’-ビフェニル、4,4’-ジヨード-1,1’-ビフェニル、4-ブロモ-4’-フルオロ-1,1’-ビフェニル4-ブロモ-4’-クロロ-1,1’-ビフェニルおよび4-ブロモ-4’-ヨード-1,1’-ビフェニル等が挙げられる。これらの中でも、4,4’-ジブロモ-1,1’-ビフェニルおよび4,4’-ジヨード-1,1’-ビフェニルが好適に用いられる。
【0018】
本発明で使用するホウ酸エステル化合物は前記一般式(2)で表されるとおり、保護基によって保護されたアミノ基がベンゼン環に導入された構造を有するものである。アミノ基を保護する理由は、スズキカップリング反応にアミノ基が関与することを防ぐためである。前記保護基はアミノ基を保護できるものであれば制限されず、例えば、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(Z)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基(Troc)およびアリルオキシカルボニル基(Alloc)などが挙げられる。これらの中でも、脱保護が容易である点から、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)が好ましい。
【0019】
前記一般式(2)におけるR1およびR2は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~10の炭化水素基を示す。炭素数1~10の炭化水素としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基およびヘキシル基等のアルキル基;ベンジル基、フェネチル基およびフェニルプロピル基等のアラルキル基が挙げられる。好ましくはアルキル基、更に好ましくはメチル基およびブチル基である。なお、これらの基は、各種異性体も含む。また、前記R1およびR2は、結合して環を形成していても良い。
【0020】
一般式(2)において、保護されたアミノ基は、ホウ酸エステル基に対して、オルト、メタおよびパラ位のうちのいずれの位置に結合していても構わない。特に、本製造方法の目的物であるジアミノ-p-クォーターフェニルをポリイミドの原料として用いる場合には、保護されたアミノ基が、ホウ酸エステル基に対してパラ位に結合していることが好ましい。
【0021】
前記ホウ酸エステル化合物の具体例としては、tert-ブチル(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)カルバメート、tert-ブチル(4-(ジメトキシボラネイル)フェニル)カルバメート、(4-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)フェニル)ボロン酸、tert-ブチル(4-(5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)カルバメート、フェニル(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)カルバメート、N-ベンジル-4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)アニリン、ジメチル(4-(ベンジルアミノ)フェニル)ボロネート等が挙げられる。これらの中でも、入手が容易である点及び化合物の合成が容易である点から、tert-ブチル(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)カルバメートが好適に用いられる。
【0022】
第一の工程(A)では、パラジウム触媒を用いて反応が行なわれる。
本発明で使用するパラジウム触媒はパラジウム金属を含むものであれば特に限定されないが、例えば、塩化パラジウム、臭化パラジウム等のハロゲン化パラジウム;酢酸パラジウム、シュウ酸パラジウム等のパラジウム有機酸塩;硝酸パラジウム、硫酸パラジウム等のパラジウム無機酸塩;ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、ビス(1,1,1-5,5,5-ヘキサフルオロアセチルアセトナト)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等のパラジウム(II)錯体;テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム等のパラジウム(0)錯体;炭素やアルミナなどの担体に担持させたパラジウム炭素やパラジウムアルミナ等が挙げられるが、好ましくはパラジウム(II)錯体やパラジウム(0)錯体が使用される。本発明においては、特にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムが好ましい。
【0023】
前記パラジウム触媒の使用量は、ビフェニル化合物1モルに対して、パラジウムのモル数として、好ましくは0.0001~0.1モル、更に好ましくは0.001~0.02モルである。
【0024】
第一の工程(A)では、塩基を用いて反応が行なわれる。
使用される塩基としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどの金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムなどの金属炭酸水素塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化タリウムなどの金属水酸化物、フッ化カリウム、フッ化セシウム、塩化セシウムおよび臭化セシウムなどのアルカリ金属ハロゲン化物、リン酸カリウムおよびリン酸水素カリウムなどの金属リン酸塩、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの金属酢酸塩、ナトリウムメトキシド、t-ブトキシリチウム、t-ブトキシナトリウム、t-ブトキシカリウム、フェノキシカリウムなどの金属アルコキシド、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどの有機アミンなどが挙げられる。本発明においては金属炭酸塩が好ましい。
【0025】
前記塩基の使用量は、ビフェニル化合物1モルに対して、好ましくは2~10モル、更に好ましくは2.5~5モルである。
【0026】
第一の工程(A)では、溶媒中で反応が行なわれる。
使用される溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、水および有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては水溶性のものおよび水不溶性のものを用いることができる。有機溶媒の例としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール等)、ケトン類(例えば、アセトン、ブタノン、シクロヘキサノン)、脂肪族炭化水素類(例えば、n-ペンタン、n-へキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン等)、アミド類(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等)、尿素類(N,N’-ジメチルイミダゾリジノン等)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-メチレンジオキシベンゼン等)、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等)、ハロゲン化芳香族炭化水素類(例えば、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,3-ジクロロベンゼン、1,4-ジクロロベンゼン等)、ニトロ化芳香族炭化水素類(例えば、ニトロベンゼン等)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン等)、カルボン酸エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等)、スルホン類(例えば、スルホラン等)等が挙げられる。好ましくは水、アミド類、尿素類、スルホキシド類が使用される。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用することができる。本発明においては、アミド類溶媒、特に、N,N-ジメチルホルムアミドを使用することが、反応に用いる化合物に対する高い溶解性をもつ点から好ましい。
【0027】
前記溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性により適宜調節するが、ビフェニル化合物1gに対して、好ましくは10~200g、更に好ましくは20~100gである。
【0028】
第一の工程(A)で用いるスズキカップリング反応は、例えば、ビフェニル化合物、ホウ素化合物、パラジウム触媒、塩基および有機溶媒を混合して、攪拌させる等の方法によって反応が行われる。この反応は温和な条件で進行することが知られている。本製造方法においては、スズキカップリング反応によって、一般式(1)で表されるビフェニル化合物と、一般式(2)で表されるホウ酸エステル化合物とがカップリングする。その際の反応温度は、好ましくは50~200℃、更に好ましくは70~150℃である。反応は空気中で行うこともでき、アルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。
【0029】
第一の工程(A)の生成物である、前記一般式(3)で示される、アミノ基が保護されたジアミノ-p-クォーターフェニル化合物は、例えば、反応終了後、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー、昇華、等の一般的な方法によって、単離・精製される。
【0030】
第二の工程(B)は、前記一般式(3)で示される、アミノ基が保護されたジアミノ-p-クォーターフェニル化合物の脱保護反応により、前記一般式(4)で表されるジアミノ-p-クォーターフェニルを得る工程である。脱保護反応は公知の方法で行うことができる。例えば、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)を用いた場合については以下の通りである。
【0031】
Bocの脱保護は、強酸性条件下で反応が行われる。
具体的には、酸化合物の存在下で、保護基と酸が反応することにより脱保護することができる。
使用される酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、クロロ硫酸、硝酸等の鉱酸類;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸類;クロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等のハロゲン化カルボン酸類、イオン交換樹脂、硫酸シリカゲル、ゼオライト、酸性アルミナ等が挙げられるが、好ましくは鉱酸類、ハロゲン化カルボン酸類、更に好ましくはハロゲン化カルボン酸類が使用される。なお、これらの酸は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0032】
前記酸の使用量は前記一般式(3)で示される、アミノ基が保護されたジアミノ-p-クォーターフェニル化合物1gに対して、好ましくは1~100g、更に好ましくは2~50gである。
【0033】
Bocの脱保護は、溶媒中で反応が行なわれる。
使用される溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、水および有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては水溶性のものおよび水不溶性のものを用いることができる。有機溶媒の例としては、ケトン類(例えば、アセトン、ブタノン、シクロヘキサノン)、脂肪族炭化水素類(例えば、n-ペンタン、n-へキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン等)、アミド類(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等)、尿素類(N,N’-ジメチルイミダゾリジノン等)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-メチレンジオキシベンゼン等)、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等)、ハロゲン化芳香族炭化水素類(例えば、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,3-ジクロロベンゼン、1,4-ジクロロベンゼン等)、ニトロ化芳香族炭化水素類(例えば、ニトロベンゼン等)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン等)、カルボン酸エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等)、スルホン類(例えば、スルホラン等)等が挙げられる。好ましくはエーテル類、ハロゲン化炭化水素、カルボン酸エステルが使用される。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用することができる。本発明においては、ハロゲン化炭化水素を使用することが、簡便な後処理の点から好ましい。
【0034】
Bocの脱保護反応は、例えば、前記一般式(3)で示される、アミノ基が保護されたジアミノ-p-クォーターフェニル化合物、酸および有機溶媒を混合して、攪拌させる等の方法によって行われる。この反応は温和な条件で進行することが知られている。脱保護反応によって、一般式(3)で表されるビフェニル化合物から、一般式(4)で表されるジアミノ-p-クォーターフェニルが生成する。その際の反応温度は、好ましくは-20~80℃、更に好ましくは10~50℃である。反応は空気中で行うこともでき、アルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。
【0035】
なお、最終生成物である、前記一般式(4)で表されるジアミノ-p-クォーターフェニルは、例えば、反応終了後、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー、昇華、等の一般的な方法によって単離・精製される。
【0036】
以上の方法によれば、スズキカップリング反応を用いることにより温和な条件で反応を進行させることができる。また、以上の方法によれば簡便な方法によって、目的物であるジアミノ-p-クォーターフェニルを高収率で製造することができる。このようにして得られたジアミノ-p-クォーターフェニルはポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等の高分子化合物製造用モノマーとして好適に用いられるほか、エポキシ樹脂等の硬化剤、架橋剤等ジアミノ-p-クォーターフェニルの構造起因による物性を付与するために、様々な分野で用いることができる。
【実施例】
【0037】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0038】
〔実施例1〕
<ジ-tert-ブチル[1,1’:4’,1’’,:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4,4’’’-ジイルジカルバメートの合成(製造例1)>
20Lの四つ口フラスコにアルゴン雰囲気下で4,4’-ジブロモ-1,1’-ビフェニル175g(560mmol)、tert-ブチル(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)カルバメート393g(1.23mol)を添加し、N,N-ジメチルホルムアミド8392mLに溶かし、アルゴンで溶液をバブリングした。その溶液に炭酸ナトリウム183g(1.73mol)を含む水溶液2097mLを加えて、アルゴンでバブリングした。次にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム19.9g(17mmol)を添加し、100℃で20時間撹拌した。この反応溶液をろ過してろ物をTHFとイオン交換水で洗浄して、真空下で加熱乾燥し、灰色固体としてジ-tert-ブチル[1,1’:4’,1’’,:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4,4’’’-ジイルジカルバメート246gを得た(取得収率81.7%)。
【0039】
<ジ-tert-ブチル[1,1’:4’,1’’,:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4,4’’’-ジイルジカルバメートの合成(製造例2)>
20Lの四つ口フラスコにアルゴン雰囲気下で4,4’-ジブロモ-1,1’-ビフェニル179g(573mmol)、tert-ブチル(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)カルバメート404g(1.27mol)を添加し、N,N-ジメチルホルムアミド8450mLに溶かし、アルゴンで溶液をバブリングした。その溶液に炭酸ナトリウム188g(1.78mol)を含む水溶液2151mLを加えて、アルゴンでバブリングした。次にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム20g(17mmol)を添加し、100℃で20時間撹拌した。この反応溶液をろ過してろ物をTHFとイオン交換水で洗浄して、真空下で加熱乾燥し、灰色固体としてジ-tert-ブチル[1,1’:4’,1’’,:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4,4’’’-ジイルジカルバメート270gを得た(取得収率87.4%)。
【0040】
<4,4’’’-ジアミノ-p-クォーターフェニルの合成>
10Lの四つ口フラスコにアルゴン雰囲気下、製造例1と2で合成したジ-tert-ブチル[1,1’:4’,1’’,:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4,4’’’-ジイルジカルバメート384g(716mmol)をジクロロメタン2918mLに懸濁させて、トリフルオロ酢酸3840g(33.8mol)を添加し、室温で20時間撹拌した。反応終了後の溶液にイオン交換水5.4Lを加えて、析出固体をろ過し、析出固体をイオン交換水3.8Lで洗浄し、続いてジクロロメタン、THFで洗浄した。2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液10.4Lに、先ほど析出した固体を添加して室温で20時間撹拌した。懸濁液をろ過し、イオン交換水でろ液が中性になるまで洗浄し、続いてジクロロメタン、THFで洗浄した。得られた固体をDMF12kgに溶解させ、活性炭250gを添加し、室温で3時間撹拌して、ろ過を行った。得られたろ液にイオン交換水7.1kgを加えて析出した固体をろ過し、真空下で加熱乾燥し、薄肌色固体187gを得た。続いて昇華精製を行なうことで淡黄色固体として1H-NMR純度99%以上で4,4’’’-ジアミノ-p-クォーターフェニル157gを得た(ジ-tert-ブチル[1,1’:4’,1’’,:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4,4’’’-ジイルジカルバメート基準の取得収率64.6%)。
【0041】
4,4’’’-ジアミノ-p-クォーターフェニルの物性値は以下であった。
1H-NMR(DMSO-d6,σ(ppm)); 5.27(s,4H),6.67(d,J=8.5Hz,4H),7.42(d,J=8.5Hz,4H),7.63(d,J=8.5Hz,2H),7.69(d,J=8.5Hz,2H)
DI-MS(m/z); 337(M+1)
【0042】
〔実施例2〕
ジ-tert-ブチル[1,1’:4’,1’’,:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4,4’’’-ジイルジカルバメートの合成
200mLの四つ口フラスコにアルゴン雰囲気下で4,4’-ジブロモ-1,1’-ビフェニル1g(3.21mmol)、tert-ブチル(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)カルバメート2.15g(6.74mmol)を添加し、N,N-ジメチルホルムアミド48mLに溶かし、アルゴンで溶液をバブリングした。その溶液に炭酸ナトリウム1.03g(9.73mol)を含む水溶液12mLを加えて、アルゴンでバブリングした。次にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.11g(0.096mmol)を添加し、100℃で20時間撹拌した。この反応溶液をろ過してろ物をTHFとイオン交換水で洗浄して、真空下で加熱乾燥し、灰色固体としてジ-tert-ブチル[1,1’:4’,1’’,:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4,4’’’-ジイルジカルバメート1.30gを得た(取得収率75.5%)。
得られたジ-tert-ブチル[1,1’:4’,1’’,:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4,4’’’-ジイルジカルバメートを、実施例1と同様な方法によって脱保護することにより、4,4’’’-ジアミノ-p-クォーターフェニルを得ることができた。
【0043】
特許文献2記載の「Reaction No.4」の再現実験を行った結果を比較例1として以下に示す。
【0044】
〔比較例1〕
ジ-tert-ブチル[1,1’:4’,1’’,:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4,4’’’-ジイルジカルバメートの合成
200mLの四つ口フラスコにアルゴン雰囲気下で4,4’-ジブロモ-1,1’-ビフェニル1g(3.21mmol)、tert-ブチル(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)カルバメート2.15g(6.74mmol)を添加し、THF60mLを添加し、アルゴンで反応系内のバブリングを行なった。フッ化セシウム1.46g(9.61mol)を加えて、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.11g(0.096mmol)を添加し、65℃で48時間撹拌した。反応系には原料化合物が多く残存しており、目的物であるジ-tert-ブチル[1,1’:4’,1’’,:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4,4’’’-ジイルジカルバメートの生成を確認出来なかった。